説明

ハロゲン化芳香族二酸の合成方法

酸素含有ガスでの酸化によるハロゲン化ジメチルベンゼンからの高純度ハロゲン化芳香族二酸の製造を、4成分触媒系および二段階温度法を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年12月21日出願の米国仮特許出願第60/876,576号明細書の利益を主張するものであり、前記仮特許出願は、その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される。
【0002】
本発明は、様々な有用な材料の合成において化合物としておよび成分として工業的に用いられるハロゲン化芳香族二酸の製造に関する。
【背景技術】
【0003】
式(I)
【化1】

(式中、X=Cl、BrまたはIであり、n=1または2である)
の構造によって一般に表されるハロゲン化芳香族二酸は、例えば、難燃剤として、および顔料、染料、除草剤およびポリマーを製造する際の中間体として、様々な工業的用途を有する。
【0004】
式(II)
【化2】

の構造によって一般に表される1種の化合物、2,5−ジブロモテレフタル酸は、特許文献1に記載されたCo/Mn II触媒を用いて酢酸中での2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼンの酸化によって製造されてきた。収率はバッチ法において約70%以下、半連続運転モードにおいて85%である。特許文献2には、2,5−ジブロモテレフタル酸の約44〜70%の収率が実証された、ヨウ素および臭素の存在下での三酸化硫黄によるクロロスルホン酸またはフルオロスルホン酸中でのテレフタル酸の臭素化が記載されている。既知の他の方法は、化学量論量で酸化剤としてKMnO、HNOまたはNaCrOを用いている。
【0005】
特許文献3に記載されるように、約150℃〜約300℃の反応温度および約100〜約1000psigの反応圧力で(溶媒の重量を基準にして約0.02〜約2重量%の量でコバルト化合物触媒、約0.02〜約2重量%の量でマンガン化合物共触媒および約0.03〜約8重量%の量で臭素化合物促進剤を含有する)触媒系の存在下で酸素含有ガスによる酢酸溶媒中の2,5−ジクロロ−1,4−ジメチルベンゼンの酸化によって2,5−ジクロロテレフタル酸は製造されてきた。
【0006】
特許文献4において記載されたように、テレフタル酸のオレウム(すなわち、SO/HSO)溶液に所望のハロゲン(臭素、塩素またはヨウ素)を徐々に導入し、その後、温度を約50〜75℃に上げ、数時間加熱することにより2,5−ジヨードテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸および2,5−ジブロモテレフタル酸は製造されてきた。
【0007】
上述したようなハロゲン化芳香族二酸の製造方法にもかかわらず、望ましくは高い選択性、収率、生成物純度および回収の容易さを有する方法が必要とされ続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】GB第1,238,224号明細書
【特許文献2】米国特許第3,894,079号明細書
【特許文献3】カナダ国特許第1,173,458号明細書
【特許文献4】米国特許第3,142,701号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書に開示される発明は、ハロゲン化芳香族二酸の調製方法、ハロゲン化芳香族二酸を転化できる生成物の調製方法およびかかる方法の用途、およびかかる方法により得られた生成物および得ることができる生成物を含む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書の方法の一実施形態は、
式(I)
【化3】

(式中、Xは、Cl、BrまたはIであり、n=1または2である)
の構造によって表されるハロゲン化芳香族二酸の調製方法であって、
(a)コバルト化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物および臭素化合物を含む触媒系の溶液を溶媒中に提供する工程
(b)式(III)
【化4】

の構造によって表されるハロゲン化ジメチルベンゼンと溶液を接触させて、反応混合物を形成する工程
(c)反応混合物を、酸素含有ガスを注入しつつ攪拌する工程
(d)反応混合物を第1の温度で加熱して、ハロゲン化ジメチルベンゼンの2個のメチル基の一方を酸化させて、
式(IV)
【化5】

の構造によって表される化合物を生成する工程
(e)反応混合物を第1の温度より高い第2の温度で加熱して、式(IV)の化合物中のメチル基を酸化させて、ハロゲン化芳香族二酸を生成する工程
による方法を提供する。
【0011】
本明細書の方法のもう1つの実施形態は、ハロゲン化芳香族二酸を、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを調製するための反応(多工程反応を含む)に供する工程を更に含むハロゲン化芳香族二酸を調製する方法を含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
酸素含有ガスでの酸化によるハロゲン化ジメチルベンゼンからの、式(I)の構造によって一般に表されるハロゲン化芳香族二酸の製造は、4成分触媒系および2段階温度法を用いて行われる。特定の幾つかの実施形態において、本明細書の方法から得られるハロゲン化芳香族二酸は、2,5−ジブロモテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−ブロモテレフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,4−ジブロモイソフタル酸、2,4−ジクロロイソフタル酸、2−ブロモイソフタル酸、2−クロロイソフタル酸、4−ブロモイソフタル酸、4−クロロイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸または5−クロロイソフタル酸であってもよい。
【0013】
本明細書において用いられる触媒系は、コバルト化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物および臭素化合物を含有してもよい。好ましくは、コバルト化合物:マンガン化合物:ジルコニウム化合物:臭素化合物の比は、約1:1〜1.5:0.05〜0.2:1〜3である。
【0014】
本明細書の触媒系において用いるために適するコバルト化合物には、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸コバルト、臭化コバルトおよびそれらの混合物などのコバルト塩が挙げられる。コバルト化合物は、好ましくは、ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.1〜約5モル%の量で用いられる。好ましいコバルト化合物は酢酸コバルトである。
【0015】
本明細書の触媒系において用いるために適するマンガン化合物には、酢酸マンガン、ナフテン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガン、臭化マンガンおよびそれらの混合物などのマンガン塩が挙げられる。マンガン化合物は、好ましくは、ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.1〜約5モル%の量で用いられる。好ましいマンガン化合物は酢酸マンガンである。
【0016】
本明細書の触媒系において用いるために適するジルコニウム化合物には、酢酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、2−エチルヘキサン酸ジルコニウム、臭化ジルコニウムおよびそれらの混合物などのジルコニウム(IV)塩が挙げられる。ジルコニウム化合物は、好ましくは、ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.01〜約0.5モル%の量で用いられる。好ましいジルコニウム化合物は酢酸ジルコニウムである。
【0017】
本明細書の触媒系において用いるために適する臭素化合物には、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化水素、臭素、臭化コバルト、臭化マンガン、臭化ジルコニウム、テトラブロモエタンおよびそれらの混合物などの臭化塩が挙げられる。臭素化合物は、好ましくは、ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.2〜約8モル%の量で用いられる。好ましい臭素化合物は臭化ナトリウムまたは臭化カリウムである。特定のいずれかの理論または作用に本発明を限定せずに、臭素化合物が触媒系内で促進剤として機能することが考えられる。
【0018】
好ましい触媒系は、約1:1〜1.5:0.05〜0.2:1〜3、より好ましくは約1:1:0.1:2の酢酸コバルト:酢酸マンガン:酢酸ジルコニウム:臭化ナトリウムのモル比で酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸ジルコニウムおよび臭化ナトリウムを含有する。
【0019】
本明細書の触媒系において用いるために適する種々のコバルト化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物および臭素化合物は、Alfa Aesar(Ward Hill,Masachusetts)、City Chemical(West Haven,Connecticut)、Fisher Scientific(Fairlawn,New Jersey)、Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri)またはStanford Materials(Aliso Viejo,Carifornia)などの供給業者から市販されている。
【0020】
触媒系の溶液は、モノカルボン酸溶媒などの溶媒中で調製される。こうした目的で溶媒として用いるために適するモノカルボン酸の例には、炭素原子数2〜8の脂肪族モノカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸および酪酸など)、安息香酸、ブロモ安息香酸およびフェニル酢酸が非限定的に挙げられる。炭素原子数2〜8の脂肪族モノカルボン酸は好ましく、酢酸はより好ましい。
【0021】
触媒系の溶液をハロゲン化ジメチルベンゼンと接触させる。用いられる溶媒の量は重要ではなく、広い範囲にわたって異なることが可能である。典型的には、溶媒とハロゲン化ジメチルベンゼンの相対的な量は、モノカルボン酸溶媒などの溶媒100グラム当たりハロゲン化ジメチルベンゼン約15〜約50グラムの範囲内である。
【0022】
本明細書の方法は、コバルト化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物および臭素化合物がハロゲン化ジメチルベンゼン上のアルキル置換基のカルボン酸置換基への酸化に触媒作用を及ぼすために用いられる二段階液相酸化反応として行ってもよい。分子酸素を含有するガスなどの酸素含有ガスは、酸化反応のために酸素を供給する。本方法は、例えば、圧力が約100psi(0.7MPa)〜約1500psi(10.3MPa)の間、好ましくは300psi(2.1MPa)〜約500psi(3.4MPa)の間で維持された密閉容器内で行ってもよい。本方法は、液相酸化を行うために当該技術分野において知られている技術を用いてバッチ法、半連続法または連続法として行ってもよい。
【0023】
バッチ法において、周囲温度から第1の反応温度の範囲の温度で反応容器内でハロゲン化ジメチルベンゼンを触媒系の溶液と組み合わせ、酸素含有ガスを密閉反応容器に注入する。酸素含有ガスの注入は、所望の混合の全部または一部を供給することが可能であるか、または効率的な混合が反応溶液に溶存酸素の十分な供給を見込むので、混合を提供する他の手段を代わりにまたは付加して用いてもよい。
【0024】
その後、約120℃〜約150℃の間であってもよい第1の反応温度で反応混合物を加熱する一方で、反応混合物を連続的に攪拌し、酸素含有ガスを連続的に注入して、より反応性の第1のメチル基をカルボン酸基−COOH[式(IV)の構造参照]に酸化させる。用いられる酸素含有ガスは、純酸素から約0.1重量%の分子酸素を含有するガスまで異なることが可能である。残りのガスは、液相酸化において不活性である窒素などのバラストガスである。経済的な理由で、分子酸素源はしばしば空気である。酸化のこの段階を行う間の特定の時間は、溶液の温度、触媒の量、圧力および混合の程度に応じて異なる。典型的には、約0.5〜約5時間をこの工程中に費やす。ガス分散スターラーまたは圧縮ガス注入のための弁付き入口などの既知の便利ないずれかの手段によって酸素含有ガスを導入してもよい。
【0025】
本方法の次の段階において、溶液を連続的に攪拌し、酸素含有ガスを連続的に溶液に注入しつつ反応混合物を第1の温度より高い第2の温度で加熱する。第2の温度は、約150℃〜約180℃の間であってもよい。これは、残りのメチル基をカルボン酸基−COOHに酸化させて、[式(I)の構造によって一般に表されるような]所望のハロゲン化芳香族二酸を生成する。酸素含有ガスは、約15重量%〜100重量%の酸素を含有するが、ここでも利便性のために、典型的には空気である。第2の反応温度は第1の反応温度より約20℃〜約30℃高い。酸化のこの段階を行う間の特定の時間は、溶液の温度、触媒の量、圧力および混合の程度に応じて異なる。典型的には、約1〜約15時間をこの工程中に費やす。
【0026】
本明細書の方法は、ハロゲン化ジメチルベンゼン原料、触媒系、分子酸素源および溶媒を含む反応成分を第1の酸化温度を含む所定の反応条件および添加速度下で第1の酸化反応域内の選択された位置に連続的に添加する連続方式で行ってもよい。連続酸化法において、部分的に酸化されたハロゲン化ジメチルベンゼン[式(IV)]を含有する反応生成物混合物を第1の酸化域から連続的に除去してもよく、そして第2の酸化反応温度で第2の反応域にフィードしてもよい。その後、所望のハロゲン化芳香族二酸[式(I)]を含有する反応生成物混合物は、典型的には連続的に第2の反応域から除去される。
【0027】
その後、反応混合物は冷却されるか、または放置して冷却し、沈殿した生成物は当該技術分野において知られている便利ないずれかの手段、典型的には単純な吸引濾過によって回収される。
【0028】
本明細書の触媒系、段階的温度アプローチおよび本方法全体を通した分子酸素の添加は合わせて、生成物のより高い選択性、収率および純度をもたらすと思われる。副生物の生成は、本方法全体を通した低い酸素濃度の回避の結果として最少化されると思われる。結果として、生成物の収率および純度は改善される。
【0029】
本明細書において用いられる時、生成物Pのための「選択性」という用語は、最終生成物ミックス中のPのモル分率またはモル%を表す。本明細書において用いられる時、「転化率」という用語は、理論量の率または%としてどれだけ多くの反応物を使い果たしたかを表す。従って、転化率×選択性は、Pの最高「収率」に等しい。「正味収率」としても呼ばれる実収率は、通常これより幾分少ないであろう。それは、分離、取扱いおよび乾燥などの活動の過程で被るサンプル損失のゆえである。本明細書において用いられる時、「純度」という用語は、手持ちの分離済みサンプルの何%が実際に指定された物質であるかを表す。
【0030】
本明細書のハロゲン化芳香族二酸生成物は、所望であれば、上述したように分離し、回収してもよい。生成物は、反応混合物から回収して、または回収しないで、更なる工程に供して、もう1つの化合物(例えば、モノマー)または最終的にオリゴマーもしくはポリマーなどのもう1つの生成物に転化してもよい。従って、本明細書の方法のもう1つの実施形態は、反応(多工程反応を含む)を通して、ハロゲン化芳香族二酸をもう1つの化合物、オリゴマーまたはポリマーに転化させる方法を提供する。ハロゲン化芳香族二酸は、上述したような方法によって製造してもよく、その後、例えば、ジヒドロキシテレフタル酸またはジアルコキシテレフタル酸などの化合物に転化させてもよい。ハロゲン化芳香族二酸は、その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される米国特許出願第SN 11/604,935号明細書で開示された方法によってジヒドロキシテレフタル酸またはジアルコキシテレフタル酸に転化させてもよい。
【0031】
多工程方法において、こうして製造されたジヒドロキシテレフタル酸またはジアルコキシテレフタル酸を次に重合反応に供して、該ジヒドロキシテレフタル酸またはジアルコキシテレフタル酸から、エステル官能基、エーテル官能基、アミド官能基、イミド官能基、イミダゾール官能基、カーボネート官能基、アクリレート官能基、エポキシド官能基、ウレタン官能基、アセタール官能基または酸無水物官能基の1つ以上を有するオリゴマーまたはポリマーなどのオリゴマーまたはポリマー、もしくはピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーを調製してもよい。
【0032】
ジヒドロキシテレフタル酸またはジアルコキシテレフタル酸(および従って、その前駆体としてのハロゲン化芳香族二酸)は、例えば、(その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される)米国特許第3,047,536号明細書で開示されたように、窒素下で1−メチルナフタレン中で0.1%のZN(BOの存在下でジエチレングリコールまたはトリエチレングリコールのいずれかとの反応によってポリエステルに転化させてもよい。同様に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸は、(その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される)米国特許第3,227,680号明細書において熱安定化ポリエステルを調製するための二塩基性酸およびグリコールとの共重合のために適するとして開示されている。ここで、代表的な条件は、200〜250℃でブタノール中でチタニウムテトライソプロポキシドの存在下でプレポリマーを形成し、その後、280℃および0.08mmHgの圧力で固相重合することを含む。
【0033】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(および従って、最後には、その前駆体としてのハロゲン化芳香族二酸)も、(その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される)米国特許第5,674,969号明細書で開示されたように、減圧下で100℃超から約180℃に至るまでの緩慢加熱下で強いポリ燐酸中でテトラアミノピリジンのトリヒドロクロリド一水和物との反応によってポリマーに転化させ、その後、水に沈殿させてもよい。または国際公開第2006/104974号パンフレットとして公表された(その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される)2005年3月28日出願の米国仮特許出願第60/665,737号明細書で開示されたように、約50℃〜約110℃、その後、145℃での温度でモノマーを混合して、オリゴマーを形成し、その後、約160℃〜約250℃の温度でオリゴマーを反応させることによる。こうして製造してもよいポリマーは、ポリ(1,4−(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン−2,6−ピリド[2,3−d:5,6−d’]ビスイミダゾール)ポリマーなどのピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーであってもよい。しかし、そのピリドビスイミダゾール部分は、ベンゾビスイミダゾール、ベンソビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾールおよびピリドビスオキサゾールのいずれか、またはより多くによって置換されていてもよい。また、その2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン部分は、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−キノリンジカルボン酸および2,6−ビス(4−カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールの1種以上の誘導体によって置換されていてもよい。
【実施例】
【0034】
本明細書の方法の有益な特性および効果は、以下に記載した一連の実施例(実施例1〜8)において見ることが可能である。実施例が基づくこれらの方法の実施形態は単に例示であり、本発明を例示するための実施形態の選択は、これらの実施例に記載されていない条件、装置、アプローチ、技術、構成または反応物がこれらの方法を実施するために適切でないということを示すものではなく、また、これらの実施例で記載されなかった主題が、添付された特許請求の範囲およびその均等物の範囲から除外されることを示すものでもない。
【0035】
実施例において以下の材料を用いた。すべての商用試薬は受理されたまま用いた。
【0036】
2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼン(純度98%)、2−ブロモ−1,4−ジメチルベンゼン(純度99%)、2−クロロ−1,4−ジメチルベンゼン(純度99%)、2,5−ジクロロ−1,4−ジメチルベンゼン(純度97%)、Co(OAc)・4HO、Mn(OAc)・4HO、Zr(OAc)およびNaBrは、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin,USA)から得た。
【0037】
略語の意味は次の通りである。「DBTA」は2,5−ジブロモテレフタル酸を意味し、「DBX」は2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼンを意味する。「OAc」は酢酸(CHCOO)を意味し、「h」は時間を意味し、「g」はグラムを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「MPa」はメガパスカルを意味する。「wt%」は重量%を意味する。「psig」はポンド/平方インチゲージを意味する。「NMR」は核磁気共鳴分光分析法を意味する。
【0038】
実施例1
この実施例は、2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼンからの2,5−ジブロモテレフタル酸の製造を例示している。
【0039】
冷却コイルおよび還流コンデンサを備えた攪拌されたオートクレーブ内で、Co(OAc)・4HO(2.5ミリモル)、Mn(OAc)・4HO(2.5ミリモル)、Zr(OAc)(0.25ミリモル)およびNaBr(5ミリモル)を500gの97%酢酸中に含有する溶液と2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼン(327ミリモル)を組み合わせた。より良いガス混合のためにガス分散スターラーを用いて混合物を一定速度で攪拌し、混合物を2時間にわたり150℃に加熱し(この段階を表1において「T−1」として示している)、その後、4時間にわたり180℃に温度を上げた(この段階を表1において「T−2」として示している)。反応を加熱する一方で、400psig(2.76MPa)の背圧でシステムを通して空気を連続的に吹き込んだ。反応が完了した後、圧力を解放し、反応器を放置して50℃に冷却した。生成物を排出し、50gの酢酸で二回反応器をリンスして、更なる生成物を集めた。吸引濾過を経由して白色固体を集め、水で洗浄し、真空下で乾燥させて、H NMRによって決定して99%の純度を有する白色固体として生成物2,5−ジブロモテレフタル酸310g(84%)を産出した。
【0040】
実施例2〜5
これらの実施例は、2,5−ジブロモテレフタル酸の正味収率および純度に及ぼす異なる段階、時間および温度の影響を例示している。表1に示したことを除き、実施例1の手順を用いて実施例2〜5を行った。各場合における生成物2,5−ジブロモテレフタル酸は少なくとも99モル%の純度を有する白色固体であった。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例6
この実施例は、2−ブロモ−1,4−ジメチルベンゼンからの2−ブロモテレフタル酸の製造を例示している。
【0043】
冷却コイルおよび還流コンデンサを備えた攪拌されたオートクレーブ内で、Co(OAc)・4HO(0.625ミリモル)、Mn(OAc)・4HO(0.625ミリモル)、Zr(OAc)(0.15ミリモル)およびNaBr(0.525ミリモル)を500gの97%酢酸中に含有する溶液と2−ブロモ−1,4−ジメチルベンゼン(541ミリモル)を組み合わせた。より良いガス混合のためにガス分散スターラーを用いて混合物を一定速度で攪拌し、混合物を2時間にわたり150℃に加熱し、その後、4時間にわたり180℃に温度を上げた。反応を加熱する一方で、400psig(2.76MPa)の背圧でシステムを通して空気を連続的に吹き込んだ。反応が完了した後、圧力を解放し、反応器を放置して50℃に冷却した。生成物を排出し、50gの酢酸で二回反応器をリンスして、更なる生成物を集めた。吸引濾過を経由して白色固体を集め、水で洗浄し、真空下で乾燥させて、H NMRによって決定して99%の純度を有する白色固体として生成物2−ブロモテレフタル酸113g(85%)を産出した。
【0044】
実施例7
この実施例は、2−クロロ−1,4−ジメチルベンゼンからの2−クロロテレフタル酸の製造を例示している。2−クロロ−1,4−ジメチルベンゼンを2−ブロモ−1,4−ジメチルベンゼンの代わりに用いたことを除き、この実施例を実施例6のように行った。濾過および真空下での乾燥は、H NMRによって決定して99%を上回る純度を有する白色固体として生成物2−クロロテレフタル酸45g(42%)を産出した。
【0045】
実施例8
この実施例は、2,5−ジクロロ−1,4−ジメチルベンゼンからの2、5−ジクロロテレフタル酸の製造を例示している。2,5−ジクロロ−1,4−ジメチルベンゼン(571ミリモル)を2−ブロモ−1,4−ジメチルベンゼンの代わりに用いたことを除き、この実施例を実施例6のように行った。濾過および真空下での乾燥は、H NMRによって決定して99%を上回る純度を有する白色固体として生成物115g(86%)を産出した。
【0046】
数値の範囲を本明細書で挙げる場合、その範囲は、その終点およびその範囲内のすべての個々の整数および端数を含み、より狭い範囲の各々が明示的に挙げられるならば、同じ程度に指定範囲内の値のより大きい群の下位群を形成するために終点、内部の整数および端数の種々の可能なすべての組み合わせによって形成されるより狭い範囲の各々も含む。指定値より大きいとして数値の範囲を本明細書で指定する場合、その範囲は、それにもかかわらず有限であり、本明細書に記載された本発明の文脈内で使用できる値によってその上限について制限される。指定値より小さいとして数値の範囲を本明細書で指定する場合、その範囲は、それにもかかわらず非零値によってその下限について制限される。
【0047】
更に、別段に明示的に指定されない限りまたは慣例の文脈によって逆に指示されない限り、本明細書において挙げられた量、サイズ、配合物、パラメータおよび他の量ならびに特徴は、特に「約」という用語によって修飾されたとき、厳密であってもよいが、厳密である必要はなく、そして近似であってもよく、および/または、指定値に対する機能的なおよび/または実行可能な等値を、本発明の文脈内で、指定値外に有する指定値内の包含のみでなく、指定された公差、換算係数、丸め(round off)および測定誤差などよりも(望みに応じて)大きいか、または小さくてもよい。
【0048】
さらに本明細書において、別段に明示的に指定されない限りまたは慣例の文脈によって逆に明示的に指示されない限り、幾つかの特徴またはエレメントを、含む(comprising)、含む(including)、含有する(containing)、有する(having)、から構成される(being composed of)、または、によって(もしくは、から)構成される(being constituted by or of)として本明細書の主題の実施形態を陳述するか、または記載する場合、明示的に陳述または記載された本明細書の主題に加えて1つ以上の特徴またはエレメントが実施形態の中に存在してもよい。しかしながら、本明細書の主題の代替的実施形態は、幾つかの特徴またはエレメントから本質的になる(consisting essentially of)として陳述または記載されてもよく、その実施形態において、動作原理を、あるいは実施形態の際立った特徴を、著しく変更するであろう特徴またはエレメントはそこに存在しない。本明細書の主題の更なる代替的実施形態は、幾つかの特徴またはエレメントからなる(consisting of)として陳述または記載されてもよく、その実施形態において、あるいはその実体のない変形において、明確に陳述または記載された特徴またはエレメントのみが存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Xは、Cl、BrまたはIであり、n=1または2である)
の構造によって表されるハロゲン化芳香族二酸の製造方法であって、
(a)コバルト化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物、および臭素化合物を含む触媒系の溶媒中の溶液を備える工程と、
(b)該溶液を、式(III)
【化2】

の構造によって表されるハロゲン化ジメチルベンゼンと接触させて、反応混合物を形成させること、
(c)該反応混合物を、酸素含有ガスを注入しつつ攪拌する工程と、
(d)該反応混合物を第1の温度で加熱して、ハロゲン化ジメチルベンゼンの2個のメチル基の一方を酸化させて、式(IV)
【化3】

の構造によって表される化合物を生成させる工程と、
(e)該反応混合物を、上記第1の温度より高い第2の温度で加熱して、式(IV)の化合物中のメチル基を酸化させて、ハロゲン化芳香族二酸を生成させる工程と
を含む方法。
【請求項2】
コバルト化合物が、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸コバルトおよび臭化コバルトからなる群の1つまたはそれ以上のメンバーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.1〜約5モル%の量でコバルト化合物を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
マンガン化合物が酢酸マンガン、ナフテン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガンおよび臭化マンガンからなる群の1つまたはそれ以上のメンバーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.1〜約5モル%の量で前記マンガン化合物を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ジルコニウム化合物が、酢酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、2−エチルヘキサン酸ジルコニウムおよび臭化ジルコニウムからなる群の1つまたはそれ以上のメンバーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.01〜約0.5モル%の量でジルコニウム化合物を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
臭素化合物が、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化水素、臭素、臭化コバルト、臭化マンガン、臭化ジルコニウムおよびテトラブロモエタンからなる群の1つまたはそれ以上のメンバーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ハロゲン化ジメチルベンゼンのモルを基準にして約0.2〜約8モル%の量で臭素化合物を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
コバルト化合物:マンガン化合物:ジルコニウム化合物:臭素化合物のモル比が約1:1〜1.5:0.05〜0.2:1〜3である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
コバルト化合物が酢酸コバルトを含み、マンガン化合物が酢酸マンガンを含み、ジルコニウム化合物が酢酸ジルコニウムを含み、臭素化合物が臭化ナトリウムまたは臭化カリウムを含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
酢酸コバルト:酢酸マンガン:酢酸ジルコニウム:臭化ナトリウムまたは臭化カリウムのモル比が約1:1:0.1:2である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
触媒系が、本質的にコバルト化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物および臭素化合物からなる請求項1に記載の方法。
【請求項14】
溶媒がモノカルボン酸を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
第1の反応温度が約120℃〜約150℃である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
第2の温度が約150℃〜約180℃である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
第2の反応温度が、第1の反応温度よりも約20℃〜約30℃高い請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ハロゲン化芳香族二酸が、2,5−ジブロモテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−ブロモテレフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,4−ジブロモイソフタル酸、2,4−ジクロロイソフタル酸、2−ブロモイソフタル酸、2−クロロイソフタル酸、4−ブロモイソフタル酸、4−クロロイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸および5−クロロイソフタル酸からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ハロゲン化芳香族二酸を、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを製造するための反応に供する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】
製造されたポリマーが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーを含む請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2010−513497(P2010−513497A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542863(P2009−542863)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/025798
【国際公開番号】WO2008/082501
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】