説明

ハンドル装置を備えている非常進入口用の窓

【課題】ロック構造を備えていながら、外ハンドルを操作するだけでロック構造をロック解除し、さらに錠構造を解錠操作して障子を迅速に開放できるハンドル装置を備えている非常進入口用の窓を提供する。
【解決手段】内外両ハンドル5・6とロック構造7とを備えている。外ハンドル6のハンドル軸33とロック構造7のロック軸67を変換機構を間に挟んで対向配置し、両軸33・67を変換機構に択一的に連結可能とする。外ハンドル6にハンドル軸33を出退操作するカム機構を設ける。ロック構造7は、鍵体68でロック状態とロック解除状態とに切り換えられるようにする。ロック状態のロック軸67は、進出操作されて変換機構と係合連結する。外ハンドル6の前半の回動動作によってハンドル軸33を進出させ、ロック軸67と変換機構との係合状態を解除し、同時に変換機構と係合連結させる。外ハンドル6の後半の回動動作によってスライド枠4をスライド操作して錠構造を解錠する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部から施錠でき、外部からは通常の窓開閉動作と同様にロック状態を解除して室内へ侵入できるハンドル装置を備えている非常進入口用の窓に関する。
【背景技術】
【0002】
非常進入口用のハンドル装置の基本構造は特許文献1に公知である。そこでは、内ハンドルで錠構造を解錠操作して非常進入口を開放でき、さらに火災などの非常時には、外ハンドルで錠構造を解錠操作して非常進入口を開放できる。外ハンドルを解錠操作するとき、内ハンドルは外ハンドルに連動して解錠方向へ回動する。因みに、市販されているこの種のハンドル装置においては、内ハンドルを着脱式にして、その使用を制限することが多いが、この種の着脱式のハンドル構造においては、操作途中に内ハンドルがハンドル軸から分離して落下するおそれがあり、安全性に問題のあることが指摘されている。
【0003】
本発明のハンドル装置においては、ロック構造のロック軸がピニオンと係合する状態において、外ハンドルを回動操作すると、そのハンドル軸が進出スライドしてロック軸を係合穴から押し出してピニオンから分離させ、ハンドル軸がピニオンの係合穴と係合する。このように、対向配置した一対の軸をピニオンの係合穴と択一的に係合させることは特許文献2に公知である。
【0004】
そこでは、内ハンドル側の軸がばねで進出付勢されて、施錠枠の係合穴と常時係合している。外ハンドル側の軸は、内ハンドル側の軸の突端に対向配置してあり、外ハンドルを回動することにより、外ハンドル側の軸が施錠枠の係合穴内に入り込んで、内ハンドル側の軸をばねの付勢力に抗して施錠枠の係合穴から押し出して分離する。このように、一対の軸を係合対象と択一的に係合させるのは、内ハンドルの回転動作を、ねじ軸とねじ軸に噛合う雌ねじ体によって往復動作に変換することに由来しており、外ハンドルで錠構造を解錠するとき内ハンドルを同行回動できないからである。
【0005】
【特許文献1】特許第3203044号公報(第3頁第5欄15〜19行、図2)
【特許文献2】実公平08−6989号公報(第3頁第6欄33〜48行、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非常進入口は、建物の3階以上の階に設けられるため、いたずらなどによってハンドル装置が室内側から開放されると転落のおそれがある。このような事故を防ぐために、非常進入口用のハンドル装置に内ハンドルの開放動作を規制するロック構造が付加される。このように、ロック構造が付加してあるハンドル装置においては、ロック構造を専用のハンドルやレバーでロック解除操作したのち、外ハンドルを開放操作しなければならず、非常進入口を開放するのに余分な手間が掛かる。また、専用のハンドルが非常進入口に常備してある場合には問題ないが、そうでない場合には板ガラスを破壊して進入しなければならず、非常進入口からの進入に手間取るおそれがある。安全上も問題がある。
【0007】
本発明の目的は、ロック構造を備えているハンドル装置でありながら、外ハンドルを操作するだけでロック構造をロック解除操作し、さらに錠構造を解錠操作して障子を開放でき、従来装置に比べて解錠操作が容易で迅速に非常進入口を開放できるハンドル装置を備えている非常進入口用の窓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハンドル装置を備えている非常進入口用の窓は、内外両ハンドル5・6でハンドル軸12・33と変換機構を介して往復スライド操作されるスライド枠4と、開口枠1とスライド枠4との間に設けられる錠構造と、スライド枠4をスライド不能にロック保持するロック構造7とを備えている。外ハンドル6には、ハンドル軸33を待機位置と連結位置との間で出退操作するカム機構が設けてある。外ハンドル6のハンドル軸33とロック構造7のロック軸67とは、変換機構を間に挟んで対向配置されて、変換機構に対して択一的に連結できる。ロック構造7は、着脱可能な鍵体68でロック状態とロック解除状態とに切り換え可能に構成されて、ロック状態においてロック軸67を変換機構と係合連結する位置へ進出操作できる。以て、外ハンドル6の前半の回動動作によって、ハンドル軸33が連結位置に進出して、ロック軸67と変換機構との係合状態を解除しながら変換機構と係合連結でき、外ハンドル6の後半の回動動作によって、変換機構を介してスライド枠4をスライド操作して錠構造を解錠できることを特徴とする。
【0009】
具体的には、帯板状のベース3でスライド枠4を往復スライド自在に案内支持し、ベース3の上下二個所に変換機構を固定する。変換機構は、ベース3に固定されるホルダー19と、ホルダー19で回動自在に支持されるピニオン20と、スライド枠4に固定されるラック21とで構成する。ピニオン20に、ハンドル軸12、およびハンドル軸33とロック軸67を係合連結するための連結穴26を形成する。
【0010】
外ハンドル6は、ハンドルレバー29と、ハンドルケース30と、ハンドルケース30の内面に装着されるガイドボス31と、ガイドボス31で回転可能に支持されるカム筒32と、カム筒32の内部に配置されるハンドル軸33と、ハンドル軸33を出退操作するカム機構を含む。カム筒32は外ハンドルレバー29と同行回転可能に連結する。カム機構は、カム筒32に形成したカム溝40と、ハンドル軸33に固定されてカム溝40で出退操作される受動ピン46と、ハンドル軸33に固定されてガイドボス31のガイド溝37でスライドのみ可能に案内される回止めピン47とで構成する。ガイド溝37に連続して、回止めピン47の回動を許す切欠38をガイドボス31に形成する。
【0011】
ロック構造7は、ロックケース60と、ロックケース60の内部に設けたボス61に収容されるばね63および切換え具64と、ロックケース60の内面に係合装着されるガイドボス65と、ガイドボス65で回転自在に支持されるカム筒66と、カム筒66の内部に回転自在に収容されるロック軸67と、切換え具64を介してカム筒66をロック状態とロック解除状態とに切り換える鍵体68と、カム機構を含む。カム機構は、カム筒66の周面に形成されるカム溝83と、ロック軸67に固定されてカム溝83と係合する受動ピン88と、ロック軸67に固定されてガイドボス65のガイド溝81でスライドのみ可能に案内される回止めピン89とで構成する。以て、ハンドル軸33がロック軸67をばね63の付勢力に抗して変換機構から分離操作する状態において、ロック軸67の分離スライド動作によってカム筒66および切換え具64をロック解除状態へ復帰させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、内ハンドル5および外ハンドル6とは別にロック構造7を設けて、錠構造が内ハンドル5でむやみに解錠操作されるのを防止できるようにした。そのうえで、火災などの非常時には、外ハンドル6を回動することで、まずロック構造7をロック解除状態に切り換え、さらに外ハンドル6を回動することで錠構造を解錠できるようにした。したがって、本発明のハンドル装置によれば、窓2を開放する手間を大幅に軽減して、例えば非常進入口からの進入を迅速に行なうことができる。また、外ハンドル6を操作するだけでロック構造7をロック解除操作し、さらに錠構造を解錠操作して窓2を開放できるので、ロック構造7をロック解除操作する専用のハンドルやレバーを用意する必要がなく、窓2の開放を迅速にしかも円滑に開放できる。
【0013】
ピニオン20とラック21を変換要素とする変換機構によれば、ピニオン20を内外両ハンドル5・6の回動量と同量ずつ回動させて、スライド枠4を内外両ハンドル5・6の回動量に合致して均等にスライド操作でき、例えば部分回動するレバーで回転運動を往復運動に変換する場合に比べて、内ハンドル5あるいは外ハンドル6による錠構造の解錠操作を円滑にしかも的確に行なえる。内ハンドル5用の変換機構と、外ハンドル6用の変換機構を共用する場合には、ハンドル装置の構成部品のうち共通部品が占める割合を高くして、ハンドル装置の製造に要するコストを節約できる。
【0014】
ハンドルレバー29を回動操作するとき、カム筒32とハンドル軸33との間に設けたカム機構でハンドル軸33を出退移動させ、ハンドル軸33が所定位置まで進出移動するまでの間、回止めピン47をガイド溝37で受け止める外ハンドル6によれば、ハンドル軸33がピニオン20の連結穴26と係合するまでの間に回動するのを規制でき、したがって、進出操作されたハンドル軸33を確実にピニオン20の連結穴26に係合連結できる。このとき、ピニオン20の連結穴26にロック軸67が係合している場合には、ロック軸67を連結穴26から強制的に押し出して、ハンドル軸33のみを連結穴26に差し込み係合できる。したがって、ハンドル軸33とロック軸67が連結穴26に同時に係合するのを一掃して、外ハンドル6によるロック構造7のロック解除を確実に行える。また、ガイド溝37に連続して回止めピン47の回動を許す切欠38をガイドボス31に設けるので、ハンドル軸33が所定位置まで進出操作された後は、ハンドル軸33をハンドルレバー29と共に回動させて、スライド枠4を介して錠構造を円滑に解錠操作できる。
【0015】
鍵体68で切換え具64を介してカム筒66を回動操作するとき、カム筒66とロック軸67との間に設けたカム機構でロック軸67を出退移動させ、ロック軸67が所定位置まで進出移動するまでの間、回止めピン89をガイド溝81で受け止めるロック構造7によれば、ロック軸67がピニオン20の連結穴26と係合するまでの間に回動するのを規制して、進出操作されたロック軸67を確実に連結穴26に係合連結できる。また、切換え具64と、カム筒66と、ロック軸67の三者をばね63で支持するので、ロック軸67がハンドル軸33で連結穴26から強制的に押し出し操作されるときの退入動作をばね63で吸収して、連結穴26に対するハンドル軸33とロック軸67の入れ替り動作を円滑に行なえる。さらに、ロック軸67が連結穴26から分離操作するときの分離スライド動作によって、カム筒66および切換え具64をロック解除状態へ復帰させるので、たとえ解錠後のハンドルレバー29が施錠方向へ戻されたとしても、ロック構造7が再びロック状態に戻ることはなく、したがってロック構造7をロック解除したのちは、窓2を自由に開閉できる状態に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施例) 図1ないし図12は本発明に係るハンドル装置を備えている非常進入口用の窓の実施例を示す。図2において符号1は非常進入口の開口枠、符号2は開口枠を開閉する窓(障子)である。四角形状に形成される窓2は、その一側に設けたヒンジ3を介して建物内へ向かって開放揺動でき、窓2と開口枠1との間に設けたハンドル装置によって閉じ状態を保持できる。
【0017】
図3においてハンドル装置は、窓2の側端面に固定される帯板状のベース3と、ベース3で上下スライド自在に案内支持される帯板状のスライド枠4と、窓2の内外に設けられる内ハンドル5および外ハンドル6と、内外両ハンドル5・6の回動動作を往復動作に変換してスライド枠4に伝える変換機構と、外ハンドル6と対向する状態で窓枠内面に配置されるロック構造7と、開口枠1とスライド枠4との間に設けられる錠構造などで構成する。スライド枠4の上下端には錠止ピン8が固定してある。内ハンドル5は、窓2の中途部下方に配置され、外ハンドル6とロック構造7とは内ハンドル5より上方において内外に対向する状態で配置してある。
【0018】
図4において内ハンドル5は、ハンドルレバー10と、プラスチック成形品からなるハンドルケース11と、ハンドル軸12と、ハンドル軸12と同行回転する節動リング13と、クリック機構などで構成する。ハンドルレバー10のレバーボス10aは、ハンドルケース11の中央に設けたボス穴11aに嵌め込み装着されて回転自在に軸支してある。ハンドル軸12の一端は節動リング13を介してハンドルレバー10に固定され、他端は変換機構のピニオン20に係合連結される。
【0019】
クリック機構は、ハンドルケース11と一体に成形されて両持ち支持される弾性変形可能な節動体(図示していない)と、先の節動リング13とで構成する。節動リング13の周面には、4個の節動溝15が凹み形成してあり、ハンドルレバー10を90度回転操作するごとに、節動体の中央内面に設けた突起が節動溝15に落ち込み係合してハンドルレバー10を位置保持する。なお節動体は、後述する別の節動体54と同じ構造である。
【0020】
図4および図5において変換機構は、ベース3にかしめ固定される一対のホルダー19と、両ホルダー19の間に配置されるピニオン20と、スライド枠4に固定されるラック21とで構成する。ホルダー20の対向壁面には軸受穴22が開口してあり、一方のホルダー20の軸受穴22でピニオン21が回動自在に支持してある。軸受穴22の両側には、ビス挿通穴とねじ穴とが形成してある。ピニオン21は扇形に形成してあり、その円弧周面に5個のギヤ歯25が形成され、軸受穴22で支持される円形壁の中央に四角形の連結穴26が形成してある。なお、内ハンドル5のハンドル軸12が連結される変換機構と、外ハンドル6のハンドル軸33が連結される変換機構は同じ構造である。
【0021】
図6において外ハンドル6は、ハンドルレバー29と、プラスチック成形品からなるハンドルケース30と、ハンドルケース30の内面に係合装着されるガイドボス31と、ガイドボス31で回転自在に支持されるカム筒32と、カム筒32の内部に回転自在に収容されるハンドル軸33と、ハンドルレバー29のレバーボス29aに係合連結される節動リング34と、カム機構およびクリック機構などで構成する。ハンドルレバー29のレバーボス29aは、ハンドルケース30の中央に設けたボス穴30aに嵌め込み装着されて回転自在に軸支してある。
【0022】
ガイドボス31は、ボスの一端に四角形のベースを一体に備えたプラスチック成形品からなり、ベースの内面4箇所にハンドルケース30に係合装着される連結脚36が突設してある。ボスの対向壁には、後述する回止めピン47をスライドのみ可能に案内するガイド溝37と、回止めピン47の回動を許す切欠38とが形成してある。切欠38はガイド溝37に連続して扇形に形成してあり、これにより、回止めピン47およびハンドル軸33は、切欠38の範囲内で90度回転変位できる。
【0023】
カム筒32は金属製の円筒体からなり、その筒壁の対向面に一対の螺旋状のカム溝40が形成してある。ハンドルレバー29のレバーボス29aと対向するカム筒32の筒端部には、等間隔おきに4個の受動爪41が形成され、他方の筒端部には回止めピン47を受け入れる逃げ凹部42が切り欠き形成してある。図7に示すようにレバーボス29aの端面には、一対の駆動突起43が突設してあり、これらの駆動突起43と先の受動爪41とが係合することにより、ハンドルレバー29の回動動作をカム筒32に伝動できる。
【0024】
ハンドル軸33は断面が四角形状の金属軸からなり、その外面にプラスチック製のブッシュ45が外嵌装着してある。ハンドル軸33とカム筒32とガイドボス31の三者は次のように組む。まず、ブッシュ45が装着されたハンドル軸33をカム筒32の内部に嵌め込み、受動ピン46をカム溝40を介してハンドル軸33に貫通状に打ち込んで、ハンドル軸33とカム筒32を一体化する。この状態のカム筒32をガイドボス31のボス穴に差し込み装填し、回止めピン47を切欠38においてブッシュ45およびハンドル軸33に貫通状に打ち込む。
【0025】
上記の組み付け状態では、回止めピン47がガイド溝37の奥端で受け止められ、あるいはブッシュ45がガイドボス31のボス穴の端部48で受け止められるので、ハンドル軸33やカム筒32がガイドボス31から分離することはなく、三者をユニット部品として扱うことができる。この状態のガイドボス31をハンドルケース30に組み付けることにより、カム筒32をレバーボス29aの駆動突起43に係合連結できる。上記のカム溝40と、受動ピン46と、回止めピン47によってカム機構が構成してある。
【0026】
節動リング34は、円形のリング部と、リング部を直径に沿って横断する一文字状の枠部51と、枠部51の片面に突設される角軸52とを一体に備えたプラスチック成形品からなる。角軸52はレバーボス29aの端面に凹み形成した係合穴29bに差し込み係合してあり、これにより節動リング34はハンドルレバー29と同行回転できる。クリック機構は、ハンドルケース30と一体に成形されて両持ち支持される弾性変形可能な節動体54と、先の節動リング34とで構成する。図7に示すように節動リング34の周面には、4個の節動溝55が凹み形成してあり、ハンドルレバー29を90度回転操作するごとに、節動体54の中央内面に設けた突起56が節動溝55に落ち込み係合して、ハンドルレバー29を位置保持する。なお、内ハンドル5のハンドルケース11と一体に設けられる節動体は、節動体54と同じ構造に形成してあり、突起56と同じ突起が一体に設けてある。
【0027】
図9においてロック構造7は、プラスチック成形品からなるロックケース60と、ロックケース60の内部に設けたボス61に収容される表示枠62、ばね63、および切換え具64と、ロックケース30の内面に係合装着されるガイドボス65と、ガイドボス65で回転自在に支持されるカム筒66と、カム筒66の内部に回転自在に収容されるロック軸67と、切換え具64を介してカム筒66をロック状態とロック解除状態とに切り換える鍵体68(図12参照)と、カム機構およびクリック機構などで構成する。ボス61の外端には、鍵体68を差し込むための鍵開口69が開口してある。
【0028】
表示枠62は円形のリングからなり、その対向周面に連動脚71が突設され、リング部の外面にロック状態およびアンロック状態であることを示す指標72が異なる色で表示してある。アンロック状態であることを示す指標72は青色のシールで形成され、ロック状態であることを示す指標72は赤色のシールで形成してある。ばね63は圧縮コイル形のばねからなり、切換え具64を鍵開口69から遠ざかる向きへ移動付勢する。ロックケース60の突端には、指標72を視認するための表示窓70が開口してある。
【0029】
切換え具64は多段ボス状に形成してあり、先のばね63で受け止められる側のボスの内部中央に断面六角形の操作軸74が突設してある。ボスの大径部分の周面には、連動脚71と係合する一対の係合溝75と、節動突起76とが形成してある。この節動突起76と、ロックケース60のボス61の内面4箇所に凹み形成した節動溝77とでクリック機構を構成している。切換え具64を鍵体68でロック状態とアンロック状態とに切り換えるごとに、節動突起76が節動溝77に落ち込み係合して、切換え具64の切り換え状態を保持できる(図8参照)。
【0030】
ガイドボス65は、ボスの一端に四角形のベースを一体に備えたプラスチック成形品からなり、ベースの内面2個所にロックケース60に係合装着される連結脚80が突設してある。ボスの対向壁には、後述する回止めピン89をスライドのみ可能に案内するガイド溝81が形成してある。
【0031】
カム筒66は先に説明したカム筒32と同じ部品であり、その筒壁の対向面に一対の螺旋状のカム溝83が形成してある。切換え具64と対向するカム筒66の筒端部には、等間隔おきに4個の受動爪84が形成され、他方の筒端部には回止めピン89を受け入れる逃げ凹部85が切り欠き形成してある。図8に示すように受動爪84は、切換え具64に設けた係合枠86と係合しており、これによりカム筒66は切換え具64と同行回転できる。
【0032】
ロック軸67は断面が四角形状の金属軸からなり、その外面にプラスチック製のブッシュ87が外嵌装着してある。ロック軸67とカム筒66とガイドボス65の三者は、次のように組む。まず、ブッシュ87が装着されたロック軸67をカム筒66の内部に嵌め込み、受動ピン88をカム溝83を介してロック軸67に貫通状に打ち込んで、ロック軸67とカム筒66を一体化する。この状態のカム筒66をガイドボス65のボス穴に差し込み装填し、回止めピン89をガイド溝81を介してブッシュ87およびロック軸67に貫通状に打ち込む。
【0033】
上記の組み付け状態では、回止めピン89がガイド溝81の奥端およびボス端で受け止められるので、ロック軸67やカム筒66がガイドボス65から分離することはなく、三者をユニット部品として扱うことができる。この状態のガイドボス65をロックケース60に組み付けることにより、カム筒66を切換え具64に連動可能に連結できる。上記のカム溝83と、受動ピン88と、回止めピン89によってカム機構が構成してある。
【0034】
図12に示すように鍵体68は、つまみ部91と軸部92とを一体に備えたプラスチック成形品からなり、軸部92の突端に切換え具64の操作軸74に差し込み係合される連結穴93が形成してある。鍵体68は、非常進入口の管理者によって保管されており、通常の状態においては、切換え具64をロック状態に切り換えたのち、ロック構造7から取り外して所定の保管場所に保管される。錠構造は、図3に示すようにスライド枠4の上下端に固定した錠止ピン8と、開口枠1に固定されて錠止ピン8と係合する逆L字状の受金具95とで構成する。
【0035】
なお、内ハンドル5は、ハンドルケース11が窓2の縦枠内面に接当する状態で組み付けられて、ハンドルケース11に挿通したビス18を縦枠内部のねじ板17(図10参照)にねじ込むことにより窓2に固定してある。また、外ハンドル6とロック構造7は、図1に示すように、ハンドルケース30およびロックケース60に挿通したビス98・99を、ホルダー19のねじ穴、およびねじボス100にねじ込むことにより、窓2および変換機構に固定される。ハンドルケース11・30、およびロックケース60の外面は金属製の化粧キャップで覆ってある。ベース3は窓2の縦枠の側端面にビス101で固定される。
【0036】
次に、内外両ハンドル5・6とロック構造7との動作を説明する。常態における内外両ハンドル5・6は、図10に示すようにそれぞれのハンドルレバー10・29がハンドルケース11・28の下方に伸びている。この状態では、図3に示すように錠止ピン8は受金具95と係止しており、したがって内ハンドル5を開放操作しない限りは窓2を開放することはできない。
【0037】
窓2を錠構造で施錠した状態において、切換え具64を鍵体68で時計回転方向へ回動操作してロック状態に切り換えると、カム筒66が切換え具64に同行回動して、そのカム溝83が受動ピン88をピニオン20へ向かって進出操作する。そのため、ロック軸67は図10に示すようにピニオン20の連結穴26と係合する。この状態のロック軸67の突端は、外ハンドル6のハンドル軸33の突端と僅かな隙間を介して対向している。また、ロック軸67は回止めピン89を介して、ガイドボス65のガイド溝81で受け止め係合されているため、ロック軸67が回転することはない。この状態で内ハンドル5を回転操作しようとすると、その力は内ハンドル5側のピニオン20とラック21、およびスライド枠4を介して、ロック構造7側のラック21およびピニオン20へと伝動される。しかし、先に説明したようにロック軸67が回止めピン89を介して、ガイドボス65のガイド溝81で受け止め係合されているため、内ハンドル5を回動操作することはできず、いたずら等などによって窓2が開放されることはない。なお、切換え具64がロック状態に切り換わるのと同時に、表示枠62が同行回転して赤色の指標72が視認窓70を介して表示される。
【0038】
窓2の清掃を行なうような場合には、図12に示すように切換え具64を鍵体68で半時計回転方向へ回動操作してロック解除状態に切り換える。すると、カム筒66が切換え具64に同行回動して、そのカム溝83が受動ピン88をピニオン20から遠ざかる向きへ退入させるので、ロック軸67は連結穴26から抜け出る。この状態で図2に想像線で示すように、内ハンドル5を反時計回転方向へ90度だけ回動操作すると、ピニオン20がハンドル軸33で回動操作されて、ラック21を介してスライド枠4が下方へ移動操作される。これにより錠止ピン8と受金具95との係合状態を解除されるので、窓2を開放できる。
【0039】
火災などの非常時には、外ハンドル6を内ハンドル5の開放方向と同じ向きに回動操作する。外ハンドル6を下向きに伸びる不使用状態から、時計回転方向へ90度回動操作すると、カム筒32がハンドルレバー29に同行回動して、そのカム溝40が受動ピン46をピニオン20へ向かって進出操作する。そのため、ハンドル軸33はばね63の付勢力に逆らいながらロック軸67およびカム筒66を押し戻して、図11(a)に示すように連結穴26から押し出され、ハンドル軸33がロック軸67に変わって連結穴26と係合する。つまり、外ハンドル6でロック構造7のロック状態を解除できる。このとき、回止めピン89はガイド溝81で受け止められているので、ロック軸67が回転することはなく、カム筒66はばね63の付勢力に逆らいながら退入する。カム筒66が退入する過程では、ばね63が圧縮変形されてばね力が増加し、このばねの反発力によってカム溝83が受動ピン88に押し付けられる。そのため、カム筒66は節動突起76と節動溝77との係合力に打ち勝って、アンロック状態側へ回転して図11(a)に示すようにリセットされる。外ハンドル6と内ハンドル5とは、スライド枠4と、ピニオン20およびラック21を介して繋がっているので、外ハンドル6が回動するとき、内ハンドル5も同時に回動する。
【0040】
ハンドルレバー29を不使用状態から90度回動操作した状態においては、回止めピン47が切欠38に臨んでいる(図11(a)参照)。したがって、引き続きハンドルレバー29を同じ方向へ90度回動操作すると、図11(b)に示すようにハンドル軸33およびカム筒32が回動してピニオン20を同行回動し、ラック21を介してスライド枠4を下向きにスライド移動させる。したがって錠止ピン8と受金具95との係合状態を解除して窓2を開放できる。
【0041】
以上のように、本発明のハンドル装置によれば、外ハンドル6の前半の回動動作によって、ロック構造7をロック解除状態に切り換え、同時にハンドル軸33を連結位置に切り換えてピニオン20と係合できる。また、外ハンドル6の後半の回動動作によって、変換機構を介してスライド枠4をスライド操作して錠構造を解錠できる。なお、ロック構造7のロック解除と錠構造の解錠とは、ハンドルレバー29の連続した回動操作の中で連続して行なわれるので、使用者は意識してハンドルレバー29を90度ずつ回動操作する必要はなく、単に待機状態のハンドルレバー29を一気に180度回動操作すれば、一連の動作でロック解除と錠構造の解錠とを行なうことができる。
【0042】
上記のように、本発明のハンドル装置は、外ハンドル6を不使用位置から180度回転操作するだけで、ロック構造7をロック解除状態に切り換え、さらに錠構造を解錠できるので、窓2を開放する手間を大幅に軽減して、非常進入口からの進入を迅速に行なうことができる。また、ロック構造をロック解除操作する専用のハンドルやレバーを用意する必要がないので、必要時には誰もが非常進入口を開放して、被災者の救助活動や脱出支援を行なうことができる。
【0043】
上記の実施例では、外ハンドル6を90度回動したときロック構造7がロック解除され、さらに外ハンドル6を90度回動したとき錠構造を解錠できるようにしたが、外ハンドル6の全回動角は180度である必要はなく、任意の角度に設定できる。ロック構造7はカム機構によってロック軸67を出し入れする必要はなく、単に押し引き操作してロック状態とロック解除状態とに切り換えて、各切り換え状態を位置保持できる構造であってもよい。変換機構は、ピニオン20とラック21で動作変換を行なう必要はなく、部分回動するレバーで回転運動を往復運動に変換することができる。ハンドル軸12・33およびロック軸67は断面四角形である必要はなく、非円形断面であればよい。ハンドル装置は、窓2の縦枠以外の上枠あるいは下枠に組み込むことができる。上記の実施例では、窓2が建物内へ向かって開放揺動できる場合について説明したが、窓2は建物の外へ向かって開放揺動できるものであってもよい。
【0044】
操作軸74を切換具64の外面側の端面から外面外方へ大きく突出させておき、外ハンドル6でロック構造7をロック解除した状態において、操作軸74を鍵開口69から突出させることができる。その場合には、操作軸74が鍵開口69から突出していることを視認することにより、外ハンドル6が開放方向へ操作されていることを知ることができる。上記の実施例では、ばね63の張力が、節動突起76と節動溝77との係合力に比較して、弱めに設定してある場合について説明したが、先の係合力に比較してばね63の張力が強く設定してある場合には、ロック軸67が鍵開口69の側へ退入する動作に連動して、カム筒66をアンロック状態側へ回動させてリセットすることができる。
【0045】
本発明のハンドル装置は、非常進入口に適用するのに好適であるが、養護施設内の建物と庭を隔てるドアのハンドル装置として適用してもよい。その場合には、施設利用者が誤って室外へ締め出された場合に、外ハンドルを操作して室外へ戻ることができる。また、メンテナンスなどによりドアを開放制限し、ドアの外部で作業を行なう際に閉じ込められてしまう危険性のある場所などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図2におけるA−A線断面図である。
【図2】窓を室内側から見た状態の正面図である。
【図3】ハンドル装置の側面図である。
【図4】図3におけるB−B線断面図である。
【図5】変換機構の詳細構造を示す縦断正面図である。
【図6】外ハンドルの一部を破断した分解正面図である。
【図7】図1におけるC−C線断面図である。
【図8】図1におけるD−D線断面図である。
【図9】ロック構造の一部を破断した分解正面図である。
【図10】ロック状態のロック構造を示す縦断側面図である。
【図11】外ハンドルの前半および後半の回動動作を示す動作説明図である。
【図12】鍵体によるロック解除動動作を示す動作説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 開口枠
3 ベース
4 スライド枠
5 内ハンドル
6 外ハンドル
7 ロック構造
12 ハンドル軸
19 ホルダー
20 ピニオン
26 連結穴
29 ハンドルレバー
30 ハンドルケース
31 ガイドボス
32 カム筒
33 ハンドル軸
38 切欠
40 カム溝
46 受動ピン
47 回止めピン
60 ロックケース
61 ボス
63 ばね
64 切換え具
65 ガイドボス
66 カム筒
67 ロック軸
68 鍵体
81 ガイド溝
83 カム溝
88 受動ピン
89 回止めピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外両ハンドル(5・6)でハンドル軸(12・33)と変換機構を介して往復スライド操作されるスライド枠(4)と、開口枠(1)とスライド枠(4)との間に設けられる錠構造と、スライド枠4をスライド不能にロック保持するロック構造(7)とを備えており、
外ハンドル(6)には、ハンドル軸(33)を待機位置と連結位置との間で出退操作するカム機構が設けられており、
外ハンドル(6)のハンドル軸(33)とロック構造(7)のロック軸(67)とは、変換機構を間に挟んで対向配置されて、変換機構に対して択一的に連結でき、
ロック構造(7)は、着脱可能な鍵体(68)でロック状態とロック解除状態とに切り換え可能に構成されて、ロック状態においてロック軸(67)を変換機構と係合連結する位置へ進出操作でき、
外ハンドル(6)の前半の回動動作によって、ハンドル軸(33)が連結位置に進出して、ロック軸(67)と変換機構との係合状態を解除しながら変換機構と係合連結でき、
外ハンドル(6)の後半の回動動作によって、変換機構を介してスライド枠(4)をスライド操作して錠構造を解錠できることを特徴とするハンドル装置を備えている非常進入口用の窓。
【請求項2】
帯板状のベース(3)でスライド枠(4)が往復スライド自在に案内支持されて、ベース(3)の上下二個所に変換機構が固定されており、
変換機構が、ベース(3)に固定されるホルダー(19)と、ホルダー(19)で回動自在に支持されるピニオン(20)と、スライド枠(4)に固定されるラック(21)とで構成されており、
ピニオン(20)に、ハンドル軸(12)、およびハンドル軸(33)とロック軸(67)を係合連結するための連結穴(26)が形成してある請求項1記載のハンドル装置を備えている非常進入口用の窓。
【請求項3】
外ハンドル(6)が、ハンドルレバー(29)と、ハンドルケース(30)と、ハンドルケース(30)の内面に装着されるガイドボス(31)と、ガイドボス(31)で回転可能に支持されるカム筒(32)と、カム筒(32)の内部に配置されるハンドル軸(33)と、ハンドル軸(33)を出退操作するカム機構を含み、
カム筒(32)は外ハンドルレバー(29)と同行回転可能に連結されており、
カム機構が、カム筒(32)に形成したカム溝(40)と、ハンドル軸(33)に固定されてカム溝(40)で出退操作される受動ピン(46)と、ハンドル軸(33)に固定されてガイドボス(31)のガイド溝(37)でスライドのみ可能に案内される回止めピン(47)とで構成されており、
ガイド溝(37)に連続して、回止めピン(47)の回動を許す切欠(38)がガイドボス(31)に形成してある請求項1または2に記載のハンドル装置を備えている非常進入口用の窓。
【請求項4】
ロック構造(7)が、ロックケース(60)と、ロックケース(60)の内部に設けたボス(61)に収容されるばね(63)および切換え具(64)と、ロックケース(30)の内面に係合装着されるガイドボス(65)と、ガイドボス(65)で回転自在に支持されるカム筒(66)と、カム筒(66)の内部に回転自在に収容されるロック軸(67)と、切換え具(64)を介してカム筒(66)をロック状態とロック解除状態とに切り換える鍵体(68)と、カム機構を含み、
カム機構が、カム筒(66)の周面に形成されるカム溝(83)と、ロック軸(67)に固定されてカム溝(83)と係合する受動ピン(88)と、ロック軸(67)に固定されてガイドボス(65)のガイド溝(81)でスライドのみ可能に案内される回止めピン(89)とで構成されており、
ハンドル軸(33)がロック軸(67)をばね(63)の付勢力に抗して変換機構から分離操作する状態において、ロック軸(67)の分離スライド動作によってカム筒(66)および切換え具(64)をロック解除状態へ復帰できる請求項1、2または3に記載のハンドル装置を備えている非常進入口用の窓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−47994(P2010−47994A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213700(P2008−213700)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(391008582)昭和フロント株式会社 (12)
【出願人】(390021153)株式会社SKB (49)
【Fターム(参考)】