説明

ハンマートーン塗装建築板

【課題】トップコート層が摩滅しても、ハンマートーン模様が現出している中塗り塗膜にその影響が及ぶことを防ぎ、耐摩耗性に優れたハンマートーン塗装建築板を提供する。
【解決手段】本願発明のハンマートーン塗装建築板Aは、建築材の表面を下塗り塗装した後、形成された下塗り塗膜1の上を、他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分と硬質無機粒子材4とを含むハンマートーン塗料で中塗り塗装しハンマートーン模様を現出させ、中塗り塗膜2を形成後、上塗り塗装を施し、上塗り塗膜3が設層されてなる。好ましくは、上記他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分がシリコーン系撥水剤であり、さらに、上記硬質無機粒子材4の粒径が0.5〜100μmとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、表面が塗装された建築板に関し、特に表面に意匠性を向上させるためのハンマートーン模様が現れたハンマートーン塗装建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック性シートや金属板、合板等の被塗装物の表面を凹凸模様に仕上げる方法のひとつとして、ハンマートーン塗装が知られている。このハンマートーン塗装は被塗装物の表面に、金属の表面をハンマーで叩いたような凹凸模様を規則的に現して意匠性を向上させて製品の付加価値を高めることから、上記した被塗装物を含む様々な分野で用いられている。
【0003】
上記ハンマートーン塗装に用いられる塗料としては、塗料中の他の成分との親和性に乏しい、例えば、シリコーン油を添加したものが知られており、上記塗料を被塗装物の表面に塗布すると、数分後にシリコーン油の非親和性によって他の塗料成分がはじかれてハンマートーン模様が現出する。このハンマートーン模様があるままで乾燥すると表面にハンマートーン調の意匠が施された被塗装物、例えば、建築板を得ることができる。
【0004】
一方、特開平06−287482号公報に示されるように、ハンマートーン模様を形成させるために、シリコーン油に替えてビニール系重合体消泡剤を用いたハンマートーン塗料が開示されている。このハンマートーン塗料は、成分(A)水酸基価25〜80mgKOH/g、重量平均分子量が2000〜15000、酸価が1〜12である水酸基を有するポリエステル樹脂50〜90重量%と、成分(B)メラミン樹脂50〜10重量%とからなる樹脂固型分に対して、成分(C)ビニル系重合体消泡剤0.1〜8.0重量%を加えた混合物をベースとするハンマートーン塗料が開示されている。そして、素地との付着性、硬度、耐傷付き性などの塗膜性向上および仕上がり風合いに優れたハンマートーン塗料を提供できると記載されている。
【0005】
また、特開平11−276986号公報に示されるように、ハジキ模様のある塗装金属帯板の製造方法が提案されている。すなわち、金属帯板の表面に下塗り塗料を塗布し乾燥させた後、グラビアロールを用いて撥水剤含有模様形成剤を下塗り塗膜の上に塗布して所定パターンの中塗り塗膜を形成し、上塗り塗料をロールコートすることを特徴としており、意匠性、識別性に優れたハジキ模様が高い再現性で付けられるとの効果が記載されている。
【特許文献1】特開平06−287482号公報
【特許文献2】特開平11−276986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、上記従来例である特開平11−276986号公報にあっては、本願図2に示すように、金属帯板7の表面に下塗り塗料をロールコータでその全面に塗布し乾燥させて下塗り塗膜1を形成させ、ついで、グラビアロールを用い、下塗り塗膜1の表面にシリコーン油等のハンマートーン模様形成剤を含んだ中塗り塗料を塗布し、所定パターンのハンマートーン模様が現出した中塗り塗膜2を形成させ、最後に仕上げ工程として、上記中塗り塗膜2の上にロールコータで上塗り塗料を塗布し、上塗り塗膜3を形成させる方法が示されている。
【0007】
上記した方法においては、上塗り塗膜3は、通常、ポリエステル系、高分子ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系等のクリアな塗膜で形成されている。しかしながら、上記上塗り塗膜3は、薄く、通常、数ミクロン程度の厚さでコーティングされているため、摩滅し易く、中塗り塗膜2にその影響が及び、ハンマートーン模様の意匠性が損なわれるという問題がある。
【0008】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的は、基材の表面を覆う薄いトップコート層が摩滅しても、ハンマートーン模様が現出している中塗り塗膜にその影響が及ぶことを防ぎ、耐摩耗性に優れたハンマートーン塗装建築板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明に係るハンマートーン塗装建築板は、建築材の表面を下塗り塗装した後、形成された下塗り塗膜の上を、他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分と硬質無機粒子材とを含むハンマートーン塗料で中塗り塗装しハンマートーン模様を現出させ、中塗り塗膜形成後、上塗り塗装を施し、上塗り塗膜が設層されてなることを特徴としている。
【0010】
上記建築材としては、金属板をはじめ、普通合板や強化合板、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)、集積材等の木質系基板およびこれらを複合させたものをあげることができる。
【0011】
上記下塗り塗装に用いられる塗料としては、建築材の材質に応じて従来、使用されていた任意のものを適宜使用することができる。具体的には、例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、スチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系等のエマルジョン樹脂や、スチレンブタジエンゴム系、アクリロニトリルブタジエンゴム系、メチルメタクリレートブタジエンゴム系等のラテックス樹脂、ウレタン系、エポキシ系、メラミン系、尿素系、フェノール系、ポリエステル系、アルキド系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂、アクリレート系、不飽和ポリエステル系等の紫外線硬化型樹脂、金属アルコキシド系等の有機無機複合高分子材料等を使用することができる。
【0012】
本願請求項2記載の発明は、上記請求項1記載のハンマートーン塗装建築板において、上記他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分がシリコーン系撥水剤であることを特徴としている。
【0013】
上記シリコーン系撥水剤としては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロポリシロキサン、シリコーンオイルまたはシリコーンワニスを溶剤に溶かしたもの、水中油型に分散させたもの、オルガノクロルシラン、シラノール反応性シリコーンモノマー等をあげることができる。
【0014】
本願請求項3記載の発明は、上記請求項1記載のハンマートーン塗装建築板において、上記硬質無機粒子材の粒径が0.5〜100μmであることを特徴としている。硬質無機粒子材としては、粒子状アルミナ、粒子状シリカ、粒子状ガラス、ステンレス粒子等耐摩耗性のある粒子を例示することができる。
【0015】
本願請求項4記載の発明は、上記請求項1記載のハンマートーン塗装建築板において、上記建築材が複合建築材であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本願請求項1記載の発明に係るハンマートーン塗装建築板においては、建築材の表面に下塗り塗膜を形成させ、他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分と硬質無機粒子材とを含むハンマートーン塗料で中塗り塗装しハンマートーン模様を現出させているため、形成された中塗り塗膜に含まれる硬質無機粒子材が減摩材として作用する。そして、たとえ、上塗り塗膜が摩滅しても、その減摩効果のゆえ、ハンマートーン模様が損なわれることなく、ハンマートーン塗装建築板を、意匠性よく保持したまま、長期に亘って使用することができる。
【0017】
本願請求項2記載の発明に係るハンマートーン塗装建築板においては、特に、上記他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分としてシリコーン系撥水剤を用いるため、シリコーン系撥水剤に含まれるシリコーン樹脂の表面張力が低いことを利用して他の塗料成分をはじくことにより、中塗り塗膜に意匠性よく、ハンマートーン模様を現出させることができる。
【0018】
本願請求項3記載の発明に係るハンマートーン塗装建築板においては、特に、上記硬質無機粒子材の粒径を0.5〜100μmとすることにより、たとえ、上塗り塗膜が摩滅しても、中塗り塗膜内で上記粒径の硬質無機粒子材自身が、あるいはブリッジを組んで減摩効果を発揮するため、中塗り塗膜に現出したハンマートーン模様に影響が及ぶことを防げる。
【0019】
本願請求項4記載の発明に係るハンマートーン塗装建築板においては、特に、建築材を複合建築材とすることにより、例えば、合板を基材とし、その上にWPB(ウッドプラスチックボード)を複合させた複合建築材の表面にハンマートーン模様を意匠性よくデザインした建築材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本願発明の実施形態であるハンマートーン塗装建築板Aの断面を示している。図1に示すように、上記ハンマートーン塗装建築板Aは、建築材として合板61を基材とし、その上にWPB(ウッドプラスチックボード)62を複合させた複合建築材6を用いる。
【0021】
まず、上記複合建築材6の表面に下塗り塗装を行う。下塗り塗料としては、前記の各種塗料が用いられ得るが、本実施形態においては、アクリレート系の紫外線硬化型樹脂を用いて下塗り塗装し、下塗り塗装後、所定時間、紫外線を照射して下塗り塗膜1を形成させる。
【0022】
ついで、他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分と硬質無機粒子材とを含むハンマートーン塗料を用いて中塗り塗装を行う。本実施形態においては、上記非親和性成分としてシリコーン樹脂を含むシリコーン系撥水剤が用られ、シリコーン樹脂の表面張力が低いことを利用して、他の塗料成分をはじくことにより、中塗り塗料表面でハンマートーン模様を現出させる。
【0023】
中塗りに用いられる中塗り塗料の主成分は、紫外線硬化型のアクリレート系のウレタン樹脂またはアクリレート系のエポキシ樹脂等であり、上記シリコーン樹脂が上記紫外線硬化型の樹脂および他の成分をはじいて0.1〜0.5mmの球形もしくは回転楕円形またはこれが数個つながった独立気泡が破れた後固化したようなクレーター状の凹部が密に接してなる凹凸模様が形成される。
【0024】
他の塗料成分としては、アルミや銅等のメタルフレーク、雲母片にチタンコーティングしてなるパール粉、顔料等が用いられる。この顔料の例としては、カーボンブラック、酸化チタン、べんがら、オーカー(黄色酸化鉄)、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系赤顔料、イソインドリノン系黄顔料、沈降性硫酸バリウム、タルク、クレー、シリカ等があげられる。
【0025】
本発明においては、上記非親和性成分としてのシリコーン系撥水剤やメタルフレーク、顔料等に加えて、粒径が0.5〜100μmの範囲である硬質無機粒子材が加えられる。この硬質無機粒子材としては、粒子状アルミナ、粒子状シリカ、粒子状ガラス、ステンレス粒子等耐摩耗性のある粒子をあげることができる。
【0026】
上記メタルフレーク、顔料、硬質無機粒子材等は、シリコーン系撥水剤の撥水作用によって、アクリレート系のウレタン樹脂またはアクリレート系のエポキシ樹脂等の中で細かく分散し、シリコーン系撥水剤のはじき作用によって美しいハンマートーン模様が現れる。この状態で、所定時間、紫外線を照射して主成分である紫外線硬化型樹脂を硬化させることにより、図1の断面図に模式的に示すように、中塗り塗膜2が形成される。上記硬質無機粒子材4は、中塗り塗膜2の中に分散して含まれ、粒径が0.5〜100μmの範囲の硬質無機粒子材4がそれ自身で、あるいはブリッジを組んで耐摩耗効果を発揮するとともに、顔料5と共同してハンマートーン模様の形成にも寄与する。
【0027】
このようにして形成された中塗り塗膜2の表面に、通常、クリアな仕上げ用の上塗り塗料を塗布し、上塗り塗膜3をトップコートとして設層する。上塗り塗料としては、ウレタン系、エポキシ系、メラミン系、尿素系、フェノール系、ポリエステル系、アルキド系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂、アクリレート系、不飽和ポリエステル系等の紫外線硬化型樹脂、金属アルコキシド系等の有機無機複合高分子材料等をあげることができる。本実施形態においては、アクリレート系、不飽和ポリエステル系等の紫外線硬化型樹脂が用いられる。
【0028】
上記上塗り塗料を塗布した後、所定時間、紫外線を照射して上塗り塗料を硬化させることにより、硬度や光沢、耐汚染性、耐傷付き性に優れたクリアな上塗り塗膜3を得ることができる。
【0029】
[実施例]
合板を基材とし、その上にWPB(ウッドプラスチックボード)を複合させた複合建築材の表面をアクリレート系の紫外線硬化型樹脂で下塗り塗装し、紫外線を5〜15秒間照射して下塗り塗膜を形成させた。その上にオーレックスNo.230PL−PTコンク100部に硬質無機粒子材を5〜15部添加し、模様形成剤として0.5〜1.0%の顔料を添加してなる中塗り塗料をスポンジロール1コートで塗布した。塗布量を3.5〜6.0g/尺2とし、塗布終了後5〜15秒間紫外線を照射して中塗り塗膜を形成させた。さらに、この中塗り塗膜の上に紫外線硬化型クリア塗料を塗布してハンマートーン塗装建築板を得た。得られたハンマートーン塗装建築板は耐傷付き性、耐摩耗性に優れ、建築材として好適に使用できた。
【0030】
以上述べたように、本発明にかかるハンマートーン塗装建築板においては、上塗り塗膜3がトップコート層として設けられ、さらに、中塗り塗膜2に耐摩耗性のある硬質無機粒子材4が含まれているため、たとえ、上塗り塗膜3が摩滅しても、中塗り塗膜2に現出されたハンマートーン模様が損なわれることを防ぎ、床材等の建築材として長期に亘って、意匠性を保って使用できる。
【0031】
なお、上記は合板とWPB(ウッドプラスチックボード)との例について述べたが、これに限定されず、普通合板や強化合板、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)、集積材等の木質系基板、石膏ボード、石膏スラグボード等の石膏系基材、パルプセメント板等の繊維セメント板、GRCおよびコンクリート、ならびにそれらの複合体にも用いることができる。このように本発明は、設計変更自在であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本願発明の実施形態であるハンマートーン塗装建築板を示す断面図。
【図2】従来例であるハジキ模様のある塗装金属帯板の製造方法を示す製造ライン図。
【符号の説明】
【0033】
A 本願発明にかかるハンマートーン塗装建築板
1 下塗り塗膜
2 中塗り塗膜
3 上塗り塗膜
4 硬質無機粒子材
5 顔料
6 複合建築材
61合板
62WPB(ウッドプラスチックボード)
7 従来例における金属帯板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築材の表面を下塗り塗装した後、形成された下塗り塗膜の上を、他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分と硬質無機粒子材とを含むハンマートーン塗料で中塗り塗装しハンマートーン模様を現出させ、中塗り塗膜形成後、上塗り塗装を施し、上塗り塗膜が設層されてなるハンマートーン塗装建築板。
【請求項2】
上記他の塗料成分との親和性に欠ける非親和性成分がシリコーン系撥水剤であることを特徴とする請求項1記載のハンマートーン塗装建築板。
【請求項3】
上記硬質無機粒子材の粒径が0.5〜100μmであることを特徴とする請求項1記載のハンマートーン塗装建築板。
【請求項4】
上記建築材が複合建築材であることを特徴とする請求項1記載のハンマートーン塗装建築板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−68250(P2009−68250A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237557(P2007−237557)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】