説明

ハードコートフィルム、ハードコートフィルムの製造方法、反射防止フィルム、偏光板および表示装置

【課題】干渉ムラがなく、密着性に優れたハードコートフィルム、反射防止フィルム、偏光板及び外観の良好な表示装置を提供すること、及び塗設回数を増やすことなく上記ハードコートフィルムを作製できる製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルム。
式(I) 0.98< (nH×nC)1/2/nS<1.02

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルム、ハードコートフィルムの製造方法、反射防止フィルム、偏光板、および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)は大画面化が進み、反射防止フィルム等の光学フィルムを配置した液晶表示装置が増加している。例えば反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)などのような様々な画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するために、ディスプレイの表面に配置される。
【0003】
光学フィルムの1種である反射防止フィルムは、透明支持体上にハードコート層を形成したり、あるいはハードコート層上に高屈折率層および低屈折率層などを積層したりして作製される。特に液晶表示装置用の反射防止フィルムは、透明支持体であるトリアセチルセルロースなどのセルロースアシレートフィルム上に前記層が形成され、反射防止フィルムとして用いられる。
【0004】
しかしながら、セルロースアシレートフィルム上にハードコート層を積層すると、セルロースアシレートフィルムとハードコート層の界面からの反射光とハードコート層表面の反射光とが干渉して反射光が色味を持ち、ハードコート層の膜厚ムラに対応して色味が変化する、干渉ムラが発生する。干渉ムラは画像表示装置の外観を損なうため、発生させないことが必要である。
【0005】
これを解決するため、セルロースアシレートフィルム上に100nm程度の膜厚で、セルロースアシレートフィルムとハードコート層の中間の屈折率になるように調整した中間層を塗設し、その上にハードコート層を形成することが知られている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−107005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許文献1に記載の技術では干渉ムラを良化させることができるものの、中間層とセルロースアシレートフィルムの密着性が低下することがある。また、中間層を塗設するため、従来よりも塗設回数が1回増えるため、生産性が低下する。
【0008】
本発明は、以上の問題を解決し、セルロースアシレートからなる透明支持体自身に干渉ムラ防止の機能を持たせることで密着性を低下させることなく、干渉ムラ抑止機能を持ったハードコートフィルム、反射防止フィルム、偏光板、並びに外観の良好な表示装置を提供することにある。また本発明は、塗設回数を増やすことなく、ハードコートフィルムを作製できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、下記手段により上記課題を達成した。
1. 少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルム。
式(I) 0.98< (nH×nC)1/2/nS<1.02
2. 前記表層に含まれる無機酸化物微粒子がAl、Ti、Zr、Sb、Zn、Sn、Inから選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、かつ該表層に含まれる無機酸化物微粒子の平均粒径が1nm以上100nm以下である上記1に記載のハードコートフィルム。
3. 少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムが共流延法により作製されたセルロースアシレートフィルムであり、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルムの製造方法。
式(I) 0.98< (nH×nC)1/2/nS<1.02
4. 前記表層に含まれる無機酸化物微粒子がAl、Ti、Zr、Sb、Zn、Sn、Inから選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、かつ該表層に含まれる無機酸化物微粒子の平均粒径が1nm以上100nm以下である上記3に記載のハードコートフィルムの製造方法。
5. 上記1または2に記載のハードコートフィルムの最表面に、前記ハードコート層よりも低い屈折率の層を有する反射防止フィルム。
6. 偏光子と該偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1つが、上記1もしくは2に記載のハードコートフィルム、または上記5に記載の反射防止フィルムである偏光板。
7. 上記1もしくは2に記載のハードコートフィルム、上記5に記載の反射防止フィルム、または上記6に記載の偏光板のいずれかを表面に設けた表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、密着性を低下させることなく、干渉ムラが抑止されたハードコートフィルム、反射防止フィルム、偏光板、及び表示装置を提供することができる。また、塗設回数を増やすことなくハードコートフィルムを作製できる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明のハードコートフィルムは、少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルムである。
式(I) 0.98<(nH×nC)1/2/nS<1.02
【0013】
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムが共流延法により作製されたセルロースアシレートフィルムであり、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルムの製造方法である。
式(I) 0.98<(nH×nC)1/2/nS<1.02
【0014】
以下に、本発明のハードコートフィルムの構成について詳述する。
【0015】
〔セルロースアシレートフィルム〕
(セルロースアシレートフィルムの構成)
本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、少なくとも基層と表層とを有する多層構造からなっており、その表層に少なくともセルロースアシレートと無機酸化物微粒子とを含有する。この表層は、基層の片側にのみ積層されていても、基層の両側に積層されていてもよい。すなわち、 図1に示すように、基層1とその両面に積層された表層2とからなる三層の態様と、 図2に示すように、基層1とその一方の面に積層された表層2とからなる二層の態様とがある。本発明においては、ハードコート層を有する側の表面のみに表層が形成されている、二層の態様が好ましい。また、表層は、セルロースアシレートフィルムの表面に積層されるもので、基層と表層との間に他の層を積層することもできる。
【0016】
本発明のセルロースアシレートフィルムの表層の平均膜厚は、50nm〜130nmであり、、80nm〜100nmが好ましい。表層の平均膜厚を上記範囲にすることで効果的に可視光領域において光の干渉が起こり、界面の反射を抑制して干渉ムラを抑制することができるようになる。表層の平均膜厚はセルロースアシレートフィルムの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、膜厚をランダムに10ヶ所測定した平均値として算出される。
【0017】
セルロースアシレートフィルムの基層の膜厚は、20〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、30〜120μmである。
【0018】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートフィルムの原料となるセルロースとしては、綿花リンター、ケナフ、木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)等があり、何れの原料セルロースを精製し、エステル化して得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。
【0019】
本発明においてセルロースアシレートとは、セルロースの総炭素数が2〜22のカルボン酸エステルのことである。
【0020】
本発明に用いられるセルロースアシレートの炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基でもよく、特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、シクロアルキルカルボニルエステル、あるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ヘプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、シクロヘキサンカルボニル、アダマンタンカルボニル、フェニルアセチル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、(メタ)アクリロイル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、より好ましいアシル基は、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、シクロヘキサンカルボニル、フェニルアセチル、ベンゾイル、ナフチルカルボニルなどである。
【0021】
セルロースアシレートの合成方法は、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行 発明協会)p.9に詳細に記載されている。
【0022】
本発明に好適に用いられるセルロースアシレートとしては、セルロースの水酸基への置換度が下記数式(1)および(2)を満足するものが好ましい。
数式(1):2.3≦SA’+SB’≦3.0
数式(2):0≦SA’≦3.0
【0023】
ここで、SA’はセルロースの水酸基の水素原子を置換しているアセチル基の置換度、またSB’はセルロースの水酸基の水素原子を置換している炭素原子数3〜22のアシル基の置換度を表す。なお、SAはセルロースの水酸基の水素原子を置換しているアセチル基を表し、SBはセルロースの水酸基の水素原子を置換している炭素原子数3〜22のアシル基を表す。
【0024】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(各位それぞれ100%のエステル化は置換度1)を意味する。本発明では、SAとSBの置換度の総和(SA’+SB’)は、より好ましくは2.6〜3.0であり、特に好ましくは2.80〜3.00である。また、SA’はより好ましくは1.4〜3.0であり、特には2.3〜2.9である。
【0025】
更に、下記数式(3)を同時に満足することが好ましい。
数式(3):0≦(SB”の置換度)≦1.2
ここで、SB”はセルロースの水酸基の水素原子を置換している炭素原子数3または4のアシル基を表す。
【0026】
さらにSB”はその28%以上が6位水酸基の置換基であるのが好ましく、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上がさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位のSA’とSB”の置換度の総和が0.8以上であり、さらには0.85以上であり、特には0.90以上であるセルロースアシレートフィルムも好ましいものとして挙げることができる。これらのセルロースアシレートフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。
【0027】
尚、置換度はセルロース中の水酸基に結合した脂肪酸の結合度を測定し、計算によって得られる。測定方法としては、ASTM−D817−91、ASTM−D817−96に準拠して測定することができる。また、水酸基へのアシル基の置換の状態は、13C NMR法によって測定される。
【0028】
上記セルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成するポリマー成分が実質的に前記の数式(1)および(2)を満足するセルロースアシレートからなることが好ましい。「実質的に」とは、全ポリマー成分の55質量%以上(好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上)を意味する。セルロースアシレートは単独若しくは2種類以上の併用であってもよい。
【0029】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度200〜700、好ましくは230〜550、更に好ましくは230〜350であり、特に好ましくは粘度平均重合度240〜320である。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
【0030】
またセルロースアシレートの数平均分子量Mnは、好ましくは7〜25×104の範囲、より好ましくは、8〜15×104の範囲にあることが望ましい。また、該セルロースアシレートの質量平均分子量Mwとの比、Mw/Mnは、好ましくは1.0〜5.0、より好ましくは1.0〜3.0である。なお、セルロースアシレートの平均分子量および分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定でき、これを用いて上記MnおよびMwを算出し、Mw/Mnを計算することができる。
【0031】
本発明において用いられる上記セルロースアシレートフィルムとしては、上述の数式(1)および(2)を満足する範囲にあるセルロースアシレートおよび少なくとも1種の可塑剤(特に好ましくは後述するオクタノール/水分配係数(logP値)が0ないし10である可塑剤)を含有してなるフィルムが好ましく用いられる。
【0032】
(無機酸化物微粒子)
本発明では、セルロースアシレートフィルムの表層は無機酸化物微粒子を含む。表層に無機酸化物微粒子を添加することで所望の屈折率を実現し、かつ密着性の良好な干渉ムラ防止層を得ることが可能となる。
無機酸化物微粒子としては、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物が挙げられる。
【0033】
無機酸化物微粒子の具体例としては、ZrO、TiO、Al、In、ZnO、SnO、Sb、ITO、ATO等が挙げられる。また、その他、BaSO、CaCO、タルクおよびカオリンなどを併用することもできる。無機酸化物微粒子としては、屈折率の観点から、特にZrO、TiO(特にルチル型)が好ましく用いられる。
【0034】
セルロースアシレートフィルムの表層への無機酸化物微粒子の添加量は、セルロースアシレートフィルムの屈折率、後述のハードコート層の屈折率及び無機酸化物微粒子の屈折率により異なるが、セルロースアシレートフィルムの表層の屈折率が1.49以上1.56以下になるよう、調整する。例えば、全固形分に対して、1質量%以上70質量%以下とすることが好ましい。ZrO粒子では1質量%以上60質量%以下とすることが好ましく、2質量%以上50質量%以下とすることがより好ましい。TiO(ルチル型)粒子では0.1質量%以上25質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上18質量%以下とすることが好ましい。上記の添加量を添加することで、表層を所望の屈折率に調整することができる。なお、表層の屈折率の測定はアッベ屈折率計(アタゴ(株)製)にて測定でき、本発明ではナトリウムD線の波長における屈折率を採用した。
【0035】
本発明に使用する無機酸化物微粒子の平均粒径は、分散媒体中でなるべく微細化されていることが好ましく、質量平均径は1〜100nmであり、好ましくは3〜50nmである。無機酸化物微粒子の平均粒径が100nm以下であればフィルムの透明性が損なわれず、1nm以上であれば、微粒子の安定性が損なわれないため好ましい。無機微粒子の粒径は、株式会社島津製作所製 ナノ粒子径分布測定装置「SALD−7100」により測定できる。
【0036】
無機酸化物微粒子の比表面積は、10〜400m/gであることが好ましく、20〜200m/gであることがさらに好ましく、30〜150m/gであることが最も好ましい。比表面積は株式会社島津製作所製流動式比表面積自動測定装置「フローソーブIII 2310」により測定した。
【0037】
(導電性粒子)
本発明のセルロースアシレートフィルムには導電性を付与するために、各種の導電性粒子を用いることができる。導電性を有するハードコートフィルム・反射防止フィルムは画像表示装置の最表面に設置した際に防塵性に優れ、好ましい。導電性を有する層は基層、表層のいずれでも良いが、表層の方が薄膜のため、少量の導電性粒子で導電性を付与することができ、好ましい。
導電性粒子は、金属の酸化物または窒化物から形成することが好ましい。金属の酸化物または窒化物の例には、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛および窒化チタンが含まれる。酸化錫および酸化インジウムが特に好ましい。導電性無機粒子は、これらの金属の酸化物または窒化物を主成分とし、さらに他の元素を含むことができる。主成分とは、粒子を構成する成分の中で最も含有量(質量%)が多い成分を意味する。他の元素の例には、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P、S、B、Nb、In、Vおよびハロゲン原子が含まれる。酸化錫および酸化インジウムの導電性を高めるために、Sb、P、B、Nb、In、Vおよびハロゲン原子を添加することが好ましい。Sbを含有する酸化錫(ATO)およびSnを含有する酸化インジウム(ITO)が特に好ましい。ATO中のSbの割合は、3〜20質量%であることが好ましい。ITO中のSnの割合は、5〜20質量%であることが好ましい。
【0038】
導電性無機粒子を表面処理してもよい。表面処理は、無機化合物または有機化合物を用いて実施する。表面処理に用いる無機化合物の例には、アルミナおよびシリカが含まれる。シリカ処理が特に好ましい。表面処理に用いる有機化合物の例には、ポリオール、アルカノールアミン、ステアリン酸、シランカップリング剤およびチタネートカップリング剤が含まれる。シランカップリング剤が最も好ましい。二種類以上の表面処理を組み合わせて実施してもよい。
導電性無機粒子の形状は、米粒状、球形状、立方体状、紡錘形状あるいは不定形状であることが好ましい。また、二種類以上の導電性粒子を特定の層内あるいはフィルムとして併用してもよい。
導電性無機粒子は、分散物の状態で帯電防止層の形成に使用することができる。
【0039】
(可塑剤)
本発明で用いられる可塑剤は、セルロースアシレートフィルムに柔軟性を与え、寸法安定性を向上させ、耐湿性を向上させるために添加される成分である。好ましい可塑剤は、沸点が200℃以上で、25℃で液体であるか、または融点が25〜250℃である固体であることが好ましい。更に好ましくは沸点が250℃以上で、25℃で液体であるか、融点が25〜200℃の固体である可塑剤が挙げられる。可塑剤が液体の場合は、その精製は通常減圧蒸留によって実施され、高真空ほど好ましく、本発明では、特に、200℃における蒸気圧が1333Pa以下の可塑剤を用いることが好ましく、より好ましくは蒸気圧667Pa以下、更に好ましくは133〜1Paの化合物が好ましい。
【0040】
これらの好ましく添加される可塑剤としては、上記の物性の範囲内にあるリン酸エステル、カルボン酸エステル、ポリオールエステル等が用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が含まれる。
【0041】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート等が挙げられる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。これらの好ましい可塑剤は、25℃においてTPP(融点約50℃)以外は液体であり、沸点も250℃以上である。
【0042】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、メチルフタリルメチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートなどがある。
【0043】
また、特開平5−194788号、特開昭60−250053号、特開平4−227941号、特開平6−16869号、特開平5−271471号、特開平7−286068号、特開平5−5047号、特開平11−80381号、特開平7−20317号、特開平8−57879号、特開平10−152568号、特開平10−120824号の各公報などに記載されている可塑剤も好ましく用いられる。これらの公報によると可塑剤の例示だけでなくその利用方法あるいはその特性についての好ましい記載が多数あり、本発明においても好ましく用いられるものである。
【0044】
その他の可塑剤としては、特開平11−124445号記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号記載の置換フェニルリン酸エステル類、特開2003−165868号等記載の芳香環とシクロヘキサン環を含有するエステル化合物などが好ましく用いられる。
【0045】
更には本発明では、オクタノール/水分配係数(logP値)が0ないし10である可塑剤が特に好ましく用いられる。化合物のlogP値が10以下であれば、セルロースアシレートとの相溶性が良好で、フィルムの白濁や粉吹きなどの不具合を生じることがなく、またlogP値が0よりも大きければ、親水性が高くなりすぎることがないのでセルロースアシレートフィルムの耐水性を低下させるなどの弊害が生じにくいので、上記範囲内のものを用いることが好ましい。logP値として、さらに好ましい範囲は1ないし8であり、特に好ましい範囲は2ないし7である。
【0046】
オクタノール/水分配係数(logP値)の測定は、JIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、オクタノール/水分配係数(logP値)は実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。計算方法としては、Crippen’s fragmentation法[J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27巻21頁(1987)]、Viswanadhan’s fragmentation法[J.Chem.Inf.Comput.Sci.,29巻163頁(1989)]、Broto’s fragmentation法[Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.,19巻71頁(1984)]などが好ましく用いられるが、中でもCrippen’s fragmentation法がより好ましい。ある化合物のlogPの値が、測定方法または計算方法により異なる場合に、該化合物が本発明の範囲内であるかどうかは、Crippen’s fragmentation法により判断することが好ましい。
【0047】
また、分子量1000〜10万の樹脂成分を有する高分子可塑剤も好ましく用いられる。例えば、特開2002−22956号公報に記載のポリエステルおよびまたはポリエーテル、特開平5−197073号公報に記載のポリエステルエーテル、ポリエステルウレタンまたはポリエステル、特開平2−292342号公報に記載のコポリエステルエーテル、特開2002−146044号公報等記載のエポキシ樹脂またはノボラック樹脂等が挙げられる。
【0048】
これらの可塑剤は単独もしくは2種類以上を混合して用いてもよい。可塑剤の添加量は各層のセルロースアシレート100質量部に対して2〜30質量部、特に5〜20質量部が好ましい。
【0049】
(紫外線吸収剤)
上記セルロースアシレートフィルムには、フィルム自身の耐光性向上、或いは偏光板、液晶表示装置の液晶化合物等の画像表示部材の劣化防止のために、更に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0050】
紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な画像表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものを用いることが好ましい。特に、波長370nmでの透過率が、20%以下であることが望ましく、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。このような紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、前記のような紫外線吸収性基を含有する高分子紫外線吸収化合物等があげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。
【0051】
紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に溶解してから添加してもよいし、また直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶媒に溶解しないものは、有機溶媒とセルロースアシレート中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0052】
本発明において紫外線吸収剤の使用量は、各層のセルロースアシレート100質量部に対し0.1〜5.0質量部、好ましくは0.5〜2.0質量部、より好ましくは0.8〜2.0質量部である。
【0053】
(他の添加剤)
更に、本発明のセルロースアシレートフィルムには、各調製工程において用途に応じた他の種々の添加剤(例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン等)、光学異方性コントロール剤、剥離剤、帯電防止剤、赤外吸収剤等)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。さらにまた、赤外吸収剤としては例えば特開平2001−194522号公報に記載のものが使用できる。
【0054】
これらの添加剤の添加する時期は、ドープ(セルロースアシレートフィルムを形成するためのセルロースアシレート溶液)作製工程において何れで添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開平2001−151902号公報などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。上記の紫外線吸収剤を含めてこれらの詳細は、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)16〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0055】
これらの添加剤の使用量は、固形分中、0.001〜20質量%の範囲で適宜用いられることが好ましい。
【0056】
(溶媒)
次に、本発明のセルロースアシレートを溶解する有機溶媒について記述する。用いる有機溶媒としては、従来公知の有機溶媒が挙げられ、例えば溶解度パラメーターで17〜22の範囲ものが好ましい。溶解度パラメーターは、例えばJ.Brandrup,E.H等の「Polymer Handbook(4th.edition)」、VII/671〜VII/714に記載の内容のものを表す。低級脂肪族炭化水素の塩化物、低級脂肪族アルコール、炭素原子数3から12までのケトン、炭素原子数3〜12のエステル、炭素原子数3〜12のエーテル、炭素原子数5〜8の脂肪族炭化水素類、炭素数6〜12の芳香族炭化水素類、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報の段落番号[0020]、同11−60807号公報の段落番号[0037]等に記載の化合物)等が挙げられる。
【0057】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートが有機溶媒に10〜30質量%溶解している溶液から製造されることが好ましいが、より好ましくは13〜27質量%であり、特には15〜25質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であることが好ましい。これらの濃度にセルロースアシレートを調製する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように調製してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として作製した後に後述する濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。さらに、予め高濃度のセルロースアシレート溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度のセルロースアシレート溶液としてもよく、いずれかの方法で本発明のセルロースアシレート溶液濃度になるように実施されれば特に問題ない。
【0058】
(ドープの調製)
本発明に係るセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製について、その溶解方法は、上記のように特に限定されるものではなく、室温溶解法、冷却溶解法または高温溶解方法により実施され、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号などの各公報にセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。これらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても、その範囲内であればこれらの技術を適宜適用できるものである。これらの詳細、特に非塩素系溶媒系については、前記の公技番号2001−1745号の22〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。さらに本発明のセルロースアシレートのドープ溶液は、溶液濃縮,ろ過が通常実施され、同様に前記の公技番号2001−1745号の25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0059】
本発明に係るセルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率が特定の範囲であることが好ましい。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径4cm/2゜のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用い、測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、40℃の静的非ニュートン粘度n*(Pa・sec)および5℃の貯蔵弾性率G’(Pa)を求める。試料溶液は、予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始する。本発明では、40℃での粘度が1〜300Pa・secであり、かつ−5℃での動的貯蔵弾性率が1万〜100万Paであることが好ましい。より好ましくは、40℃での粘度が1〜200Pa・secであり、かつ−5℃での動的貯蔵弾性率が3万〜50万Paである。
【0060】
〔セルロースアシレートフィルムの製造方法〕
本発明に係るセルロースアシレートフィルムを製造するには、共流延法(重層同時流延)、逐次流延法、塗布法等の積層流延する方法を用いることができる。共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のドープを調製する。
【0061】
共流延法は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して各層を同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムを成形する流延法である。
【0062】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延し、乾燥あるいは乾燥させることなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延し、以後、同様に第3層以降のドープを逐次流延・積層し、適当な時期に支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムを成形する流延法である。
【0063】
塗布法は、一般的には、基層のフィルムを溶液製膜法により成形し、表層を形成するために塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0064】
以上のように、本発明のセルロースアシレートフィルムを製造するには、共流延法、逐次流延法及び塗布法のどの方法を用いてもよい。しかし、一般的に、塗布法では塗布後の乾燥負荷が増大し、逐次流延法では工程が複雑になり、フィルムの平面性を維持することが困難であるが、共流延法では工程が単純で、生産性が高く、フィルムの平面性が比較的容易に得ることができるので、共流延法で製造することが好ましい。
【0065】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムを製造する装置としては、表面が鏡面処理された流延バンドを用いた溶液製膜装置であっても、流延ドラムを用いた溶液製膜装置であってもよい。流延バンドを用いた溶液製膜装置を 図3に、流延ドラムを用いた溶液製膜装置を 図4に示す。
【0066】
図3に示すバンド式の溶液製膜装置において、11は攪拌機で、綿、可塑剤及び溶剤が投入されているものであり、この攪拌機11は、移送ポンプ12、濾過器13、ストックタンク14、流延送液ポンプ15、及び微粒子、染料、紫外線吸収剤(UV剤)等を添加するための添加剤注入ポンプ16を介して流延ダイ17に連結されている。流延ダイ17の下方には、流延バンド18が設けられるとともに、減圧チャンバー19が設けられている。
【0067】
図4に示すドラム式の溶液製膜装置において、20は流延ドラムで、バンド式の溶液製膜装置における流延バンド18の代わりに設けられている。なお、攪拌機11、移送ポンプ12、濾過器13、ストックタンク14、流延送液ポンプ15、添加剤注入ポンプ16及び流延ダイ17は同一に構成されている。
【0068】
上記流延ダイとしては、 図5、 図6及び 図7に示すようなものを用いることができる。
【0069】
図5は、単層のフィルムを製膜する際に用いる流延ダイで、逐次流延法に用いるものであり、この流延ダイ30は、1つのマニホールド31が形成されている。
図6は、マルチマニホールド型の共流延ダイで、この共流延ダイ30は、3つのマニホールド32が形成され3層構成のフィルムを製膜できるものである。
図7は、フィードブロック型の共流延ダイで、この共流延ダイ30は、マニホールド33が形成されるとともに、フィードブロック34が設けられ、フィードブロック34で合流させられて複数層( 図7においては3層)になったドープを流延するものである。
【0070】
なお、以上の流延ダイにおいては、コートハンガーダイを使用しているが、これに限定されるものでなく、Tダイ等他の形状のダイであってもよい。
【0071】
〔セルロースアシレートフィルムの特性〕
偏光子の透明保護フィルムや、反射防止フィルムの支持体となる透明保護フィルムなどとして好適に使用される本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、以下のような特性を有する。
【0072】
(フィルムの機械的特性)
セルロースアシレートフィルムの幅方向のカール値は−7/m〜+7/mであることが好ましい。長尺で広幅の透明保護フィルムに対し行う際に、透明保護フィルムの幅方向のカール値が前述の範囲内にあると、フィルムのハンドリングの支障や、フィルムの切断が起きることが無く、また、フィルムのエッジや中央部などで、フィルムが搬送ロールと強く接触することからくる発塵や、フィルム上への異物付着が少なくなり、本発明の偏光板の点欠陥や塗布スジの頻度が許容値を超えることがなく、好ましい。また、偏光膜貼り合せ時に気泡が入ることを防ぐことができて好ましい。
【0073】
カール値は、アメリカ国家規格協会の規定する測定方法(ANSI/ASCPH1.29−1985)に従い測定することができる。
【0074】
セルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は、1.5質量%以下とすることでカールを抑制できるので好ましい。さらに0.01〜1.0質量%以下であることがより好ましい。これは、前述の溶液流延製膜方法による成膜時の残留溶媒量を少なくすることで自由体積が小さくなることが主要な効果要因になるためと思われる。
【0075】
セルロースアシレートフィルムの引き裂き強度は、そのJIS K−7128−2:1998の引裂き試験方法(エルメンドルフ引裂き法)に基づく引裂き強度が、2g以上であるのが、後述の膜厚(20〜200μm)においても膜の強度が充分に保持できる点で好ましい。より好ましくは、5〜25gであり、更に好ましくは6〜25gである。また60μm換算では、8g以上が好ましく、より好ましくは8〜15gである。具体的には、試料片50mm×64mmを、25℃、65%RHの条件下に2時間調湿した後に軽荷重引裂き強度試験機を用いて測定できる。
【0076】
また、引掻き強度は2g以上であることが好ましく、5g以上であることがより好ましく、10g以上であることが特に好ましい。この範囲とすることにより、フィルム表面の耐傷性、ハンドリング性が問題なく保持される。引掻き強度は、円錐頂角が90゜で先端の半径が0.25mのサファイヤ針を用いてセルロースアシレートフィルム表面を引掻き、引掻き跡が目視にて確認できる荷重(g)をもって評価することができる。
【0077】
(フィルムの吸湿膨張係数)
セルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数は30×10-5/%RH以下とすることが好ましい。吸湿膨張係数は、15×10-5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10-5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、吸湿膨張係数は小さい方が好ましいが、通常は、1.0×10-5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、セルロースアシレートフィルムの耐久性が良好となり、或いは光学補償フィルムを積層した偏光板の場合には光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0078】
吸湿膨張係数の測定方法について以下に示す。作製したセルロースアシレートフィルムから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、片方の端を固定して25℃、20%RH(R0)の雰囲気下にぶら下げる。他方の端に0.5gの重りをぶら下げて、10分間放置し長さ(H0)を測定した。次に、温度は25℃のまま、湿度を80%RH(R1)にして24時間放置した後の長さ(H1)を測定する。吸湿膨張係数は下記数式(4)により算出する。測定は同一試料につき10サンプル行い、平均値を採用する。
数式(4):吸湿膨張係数(/%RH)={(H1−H0)/H0}/(R1−R0)
【0079】
作製したセルロースアシレートフィルムの吸湿による寸度変化を小さくするには、前記可塑剤または微粒子等を添加することが有効である。分子中にバルキーで疎水性を有する多環式脂環式構造をもつ可塑剤が有効に作用すると思われる。また、セルロースアシレートフィルム中の残留溶媒量を少なくして自由体積を小さくすることも有効な手段として挙げられる。具体的には、セルロースアシレートフィルムに対する残留溶媒量が、0.001〜1.5質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。より好ましくは0.01〜1.0質量%である。
【0080】
(フィルムの平衡含水率)
セルロースアシレートフィルムの平衡含水率は、偏光板の透明保護フィルムとして用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃80%RHにおける平衡含水率が、0〜4質量%であることが好ましい。0.1〜3.5質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることが特に好ましい。平衡含水率が該上限値以下であれば、セルロースアシレートフィルムを偏光板の透明保護フィルムとして用いる際にレターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがないので好ましい。
【0081】
含水率の測定法は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを、水分測定器“CA−03”および試料乾燥装置“VA−05”[共に三菱化学(株)製]を用いてカールフィッシャー法により測定した。含水率は、水分量(g)を試料質量(g)で除して算出する。
【0082】
(フィルムの透湿度)
セルロースアシレートフィルムの透湿度は、JIS規格JIS Z−0208をもとに、温度60℃、湿度95%RHの条件において測定し、得られた値を膜厚80μmに換算したものである。該透湿度は400〜2000g/m2・24h、さらには500〜1800g/m2・24h、特には600〜1600g/m2・24hの範囲であることが好ましい。透湿度が該上限値以下であれば、フィルムのレターデーション値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えることが少ないので好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムに光学異方性層を積層して光学補償フィルムとした場合も、Re値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えることが少ないので好ましい。またこのような光学補償フィルム付き偏光板が液晶表示装置に組み込まれた場合には、色味の変化や視野角の低下などの不具合を引き起こすことがほとんどないので好ましい。一方、該透湿度が該下限値以上であれば、偏光膜の両面などに貼り付けて偏光板を作製する場合に、セルロースアシレートフィルムにより接着剤の乾燥が妨げられて接着不良を引き起こすなどの不具合が生じにくいので好ましい。
【0083】
セルロースアシレートフィルムの膜厚が厚ければ透湿度は小さくなり、膜厚が薄ければ透湿度は大きくなる。そこでどのような膜厚のサンプルでも基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、(80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚μm/80μm)として求める。
【0084】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明のセルロースアシレートフィルム試料70mmφを25℃、90%RHおよび60℃、95%RHでそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置[“KK−709007”東洋精機(株)製]にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m2)し、透湿度=調湿後質量−調湿前質量で求める。
【0085】
次に、セルロースアシレートフィルムの上に積層するハードコート層について記載する。
【0086】
〔ハードコート層〕
本発明のハードコートフィルムは、前記セルロースアシレートフィルムに物理的強度を付与するために、セルロースアシレートフィルム(透明支持体)の一方の面にハードコート層が設けられる。
好ましくは、その上に(好ましくは最表面に)ハードコート層よりも低い屈折率の低屈折率層が設けられ、更に好ましくはハードコート層と低屈折率層の間に中屈折率層、高屈折率層が設けられ、反射防止フィルム(反射防止機能付きハードコートフィルム)を構成する。
ハードコート層は、二層以上の積層から構成されてもよい。
【0087】
本発明におけるハードコート層の屈折率は、反射防止性のフィルムを得るための光学設計から、屈折率が1.48〜1.65の範囲にあることが好ましい。
また、ハードコート層の屈折率をnH、表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係が成り立つことことが好ましい。
式(I) 0.98< (nH×nC)1/2/nS<1.02
各層の屈折率が上記式(I)の範囲にあり、かつ表層の膜厚が50nm以上130nm以下の範囲にあるとき、干渉ムラが視認されず、好ましい。これは、上記関係にあるときにハードコート層/表層界面での反射光と、表層/基層界面での反射光が干渉して打ち消しあうため、これら2つの反射光と空気/ハードコート層界面での反射光との干渉が抑えられて干渉ムラが軽減されるためと推察される。
【0088】
ハードコート層の膜厚は、フィルムに充分な耐久性、耐衝撃性を付与する観点から、3μm〜15μm程度とすることが好ましく、より好ましくは4μm〜15μm、さらに好ましくは5μm〜14μm、最も好ましくは6μm〜13μmである。ハードコート層の膜厚は、電子顕微鏡“S−3400N”{(株)日立ハイテクノロジーズ製}を用い、作製されたハードコートフィルムの断面を5000倍の倍率で撮影し、該ハードコート層の膜厚をランダムに10点測定し、平均値を導出することで測定される。
また、ハードコート層の強度は、鉛筆硬度試験で、2H以上であることが好ましく、3H以上であることがさらに好ましく、4H以上であることが最も好ましい。
さらに、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0089】
ハードコート層は、電離放射線硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。例えば、電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーを含む塗布組成物を透明支持体上に塗布し、多官能モノマーや多官能オリゴマーを架橋反応、又は、重合反応させることにより形成することができる。
電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーの官能基としては、光、電子線、放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。
光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0090】
〔低屈折率層〕
本発明においては、前記のハードコート層より外側、すなわちセルロースアシレートフィルムより遠い側に低屈折率層を設けることができる。低屈折率層を有することで、ハードコートフィルムに反射防止機能を付与することができる。低屈折率層の屈折率は前記のハードコート層の屈折率より低く設定することが好ましい。低屈折率層とハードコート層との屈折率差が小さすぎる場合は反射防止性が低下し、大き過ぎると反射光の色味が強くなる傾向がある。低屈折率層とハードコート層との屈折率差は0.01以上0.30以下が好ましく、0.05以上0.20以下がより好ましい。
低屈折率層は、低屈折率素材を用いて形成することができる。低屈折率素材としては、低屈折率バインダーを用いることができる。また、バインダーに微粒子を加えて低屈折率層を形成することもできる。
【0091】
低屈折率バインダーとしては、含フッ素共重合体を好ましく用いることができる。含フッ素共重合体は、含フッ素ビニルモノマーから導かれる構成単位と架橋性付与のための構成単位を有することが好ましい。
【0092】
(含フッ素共重合体)
含フッ素共重合体を主として構成する含フッ素ビニルモノマーとしては、フルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類{例えば「ビスコート6FM」(商品名)、大阪有機化学工業(株)や“R−2020”(商品名)、ダイキン工業(株)製等}、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられるが、好ましくはペルフルオロオレフィン類であり、屈折率、溶解性、透明性、入手性等の観点から特に好ましくはヘキサフルオロプロピレンである。
【0093】
これらの含フッ素ビニルモノマーの組成比を上げれば屈折率を下げることができるが、皮膜強度は低下する傾向がある。本発明では共重合体のフッ素含率が20〜60質量%となるように含フッ素ビニルモノマーを導入することが好ましく、より好ましくは25〜55質量%の場合であり、特に好ましくは30〜50質量%の場合である。
【0094】
架橋反応性付与のための構成単位としては主として以下の(A)、(B)、(C)で示される単位が挙げられる。
(A)グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテルのように分子内に予め自己架橋性官能基を有するモノマーの重合によって得られる構成単位
(B)カルボキシル基やヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等を有するモノマー{例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、マレイン酸、クロトン酸等}の重合によって得られる構成単位
(C)分子内に上記(A)、(B)の官能基と反応する基とそれとは別に架橋性官能基を有する化合物を、上記(A)、(B)の構成単位と反応させて得られる構成単位(例えばヒドロキシル基に対してアクリル酸クロリドを作用させる等の手法で合成できる構成単位)
【0095】
上記(C)の構成単位は、その架橋性官能基が光重合性基であることが好ましい。該光重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、アルケニル基、シンナモイル基、シンナミリデンアセチル基、ベンザルアセトフェノン基、スチリルピリジン基、α−フェニルマレイミド基、フェニルアジド基、スルフォニルアジド基、カルボニルアジド基、ジアゾ基、o-キノンジアジド基、フリルアクリロイル基、クマリン基、ピロン基、アントラセン基、ベンゾフェノン基、スチルベン基、ジチオカルバメート基、キサンテート基、1,2,3−チアジアゾール基、シクロプロペン基、アザジオキサビシクロ基などを挙げることができ、これらは1種のみでなく2種以上であってもよい。これらのうち、(メタ)アクリロイル基及びシンナモイル基が好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリロイル基である。
【0096】
光重合性基含有共重合体を調製するための具体的な方法としては、下記の方法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
a.水酸基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、(メタ)アクリル酸クロリドを反応させてエステル化する方法、
b.水酸基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、イソシアネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを反応させてウレタン化する方法、
c.エポキシ基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化する方法、
d.カルボキシル基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、エポキシ基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを反応させてエステル化する方法。
【0097】
なお、上記光重合性基の導入量は任意に調節することができ、塗膜面状安定性・無機粒子共存時の面状故障低下・膜強度向上などの点からカルボキシル基やヒドロキシル基等を残していても良い。
本発明では共重合体中の架橋性付与のための構成単位の導入量が10〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは15〜45モル%の場合であり、特に好ましくは20〜40モル%の場合である。
本発明における低屈折率層に有用な共重合体では、上記含フッ素ビニルモノマーから導かれる繰返し単位及び、架橋性付与のための構成単位以外に、基材への密着性、ポリマーのTg(皮膜硬度に寄与する)、溶媒への溶解性、透明性、滑り性、防塵・防汚性等種々の観点から、適宜他のビニルモノマーを共重合することもできる。これらのビニルモノマーは、目的に応じて複数を組み合わせてもよく、合計で共重合体中の0〜65モル%の範囲で導入されていることが好ましく、0〜40モル%の範囲であることがより好ましく、0〜30モル%の範囲であることが特に好ましい。
【0098】
併用可能なビニルモノマー単位には、特に限定はなく、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2‐ヒドロキシエチル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、スチレン誘導体(スチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−メトキシスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、不飽和カルボン酸類(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等)、アクリルアミド類(N、N−ジメチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(N,N−ジメチルメタクリルアミド)、アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0099】
本発明で特に有用な含フッ素共重合体は、ペルフルオロオレフィンとビニルエーテル類又はビニルエステル類のランダム共重合体である。特に単独で架橋反応可能な基{(メタ)アクリロイル基等のラジカル反応性基、エポキシ基、オキセタニル基等の開環重合性基等}を有していることが好ましい。これらの架橋反応性基含有重合単位はポリマーの全重合単位の5〜70モル%を占めていることが好ましく、特に好ましくは30〜60モル%の場合である。好ましいポリマーについては、特開2002−243907号、特開2002−372601号、特開2003−26732号、特開2003−222702号、特開2003−294911号、特開2003−329804号、特開2004−4444、特開2004−45462号の各公報に記載のものを挙げることができる。
【0100】
また本発明で有用な含フッ素共重合体には、防汚性を付与する目的で、ポリシロキサン構造が導入されていることが好ましい。ポリシロキサン構造の導入方法に制限はないが、例えば特開平6−93100号、特開平11−189621号、同11−228631号、特開2000−313709号の各公報に記載のごとく、シリコーンマクロアゾ開始剤を用いてポリシロキサンブロック共重合成分を導入する方法;特開平2−251555号、同2−308806号の各公報に記載のごとくシリコーンマクロマーを用いてポリシロキサングラフト共重合成分を導入する方法が好ましい。特に好ましい化合物としては、特開平11−189621号公報の実施例1、2、及び3のポリマー、又は特開平2−251555号公報の共重合体A−2及びA−3を挙げることができる。これらのポリシロキサン成分は、ポリマー中の0.5〜10質量%であることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%である。
【0101】
本発明に好ましく用いることのできる共重合体の好ましい分子量は、質量平均分子量が5000以上、好ましくは10000〜500000、最も好ましくは15000〜200000である。平均分子量の異なるポリマーを併用することで塗膜面状の改良や耐傷性の改良を行うこともできる。
【0102】
上記の共重合体に対しては、特開平10−25388号公報及び特開2000−17028号公報に記載のごとく、適宜、重合性不飽和基を有する硬化剤を併用してもよい。また、特開2002−145952号公報に記載のごとく、含フッ素の多官能の重合性不飽和基を有する化合物との併用も好ましい。多官能の重合性不飽和基を有する化合物の例としては、前記ハードコート層で述べた多官能モノマーを挙げることができる。これら化合物は、特に共重合体本体に重合性不飽和基を有する化合物を用いた場合に耐擦傷性改良に対する併用効果が大きく好ましい。
【0103】
低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.46であることが好ましく、1.25〜1.42であることがより好ましく、1.30〜1.38であることが特に好ましい。また低屈折率層の厚さは、50〜150nmであることが好ましく、70〜120nmであることがさらに好ましい。
【0104】
(低屈折率層に含まれる微粒子)
次に本発明における低屈折率層に好ましく用いることのできる微粒子について説明する。
【0105】
低屈折率層に含まれる微粒子の塗設量は、1〜100mg/mが好ましく、より好ましくは5〜80mg/m、更に好ましくは1〜70mg/mである。微粒子の塗設量が該下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、該上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。該微粒子は、低屈折率層に含有させることから、低屈折率であることが好ましい。
【0106】
具体的には、低屈折率層に含まれる微粒子は、無機微粒子、中空の無機微粒子、又は中空の有機樹脂微粒子であって、低屈折率のものがあることが好ましく、中空の無機微粒子が特に好ましい。無機微粒子としては、例えば、シリカ又は中空シリカの微粒子が挙げられる。このような微粒子の平均粒径は、低屈折率層の厚みの30%以上100%以下が好ましく、より好ましくは30%以上80%以下、更に好ましくは35%以上70%以下である。すなわち、低屈折率層の厚みが100nmであれば、微粒子の粒径は30nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上80nm以下、更に好ましくは、35nm以上70nm以下である。
【0107】
上記のような(中空)シリカ微粒子は、その粒径が上記下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、上記上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。
【0108】
(中空)シリカ微粒子は、結晶質でも、アモルファスのいずれでもよく、また単分散粒子でも、凝集粒子(この場合は、2次粒子径が、低屈折率層の層厚の15%〜150%であることが好ましい)でも構わない。また、2種類以上の複数の粒子(種類又は粒径)を用いても構わない。粒子の形状は、球径が最も好ましいが、不定形であっても問題ない。
【0109】
低屈折率層の屈折率を低下させるために、中空のシリカ微粒子を用いることが特に好ましい。該中空シリカ微粒子は屈折率が1.17〜1.40、より好ましくは1.17〜1.35、さらに好ましくは1.17〜1.30である。ここでの屈折率は粒子全体としての屈折率を表し、中空シリカ粒子を形成している外殻のシリカのみの屈折率を表すものではない。この時、粒子内の空腔の半径をr、粒子外殻の半径をrとすると、空隙率xは下記数式(5)で算出される。
【0110】
数式(5): x=(4πr/3)/(4πr/3)×100
【0111】
空隙率xは、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは20〜60%、最も好ましくは30〜60%である。中空のシリカ粒子をより低屈折率に、より空隙率を大きくしようとすると、外殻の厚みが薄くなり、粒子の強度としては弱くなるため、耐擦傷性の観点から1.17未満の低屈折率の粒子は困難である。なお、これら中空シリカ粒子の屈折率はアッベ屈折率計{(株)アタゴ製}にて測定をおこなった。
【0112】
本発明においては、防汚性向上の観点から、更に、低屈折率層表面の表面自由エネルギーを下げることが好ましい。具体的には、含フッ素化合物やポリシロキサン構造を有する化合物を低屈折率層に使用することが好ましい。
【0113】
ポリシロキサン構造を有する添加剤としては、反応性基含有ポリシロキサン{例えば“KF−100T”、“X−22−169AS”、“KF−102”、“X−22−3701IE”、“X−22−164B”、“X−22−5002”、“X−22−173B”、“X−22−174D”、“X−22−167B”、“X−22−161AS” (商品名)、以上信越化学工業(株)製;“AK−5”、“AK−30”、“AK−32”(商品名)、以上東亜合成(株)製;「サイラプレーンFM0725」、「サイラプレーンFM0721」(商品名)、以上チッソ(株)製等}を添加するのも好ましい。また、特開2003−112383号公報の表2、表3に記載のシリコーン系化合物も好ましく使用できる。これらのポリシロキサンは低屈折率層全固形分の0.1〜10質量%の範囲で添加されることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%の場合である。
【0114】
〔反射防止フィルムの作製方法〕
本発明の反射防止フィルムは、以下の方法で形成することができるが、これらに制限されるものではない。
【0115】
(塗布液の調製)
まず、各層を形成するための成分を含有した塗布液が調製される。その際、溶媒の揮発量を最小限に抑制することにより、塗布液中の含水率の上昇を抑制できる。塗布液中の含水率は5%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。溶媒の揮発量の抑制は、各素材をタンクに投入後の攪拌時の密閉性を向上すること、移液作業時の塗布液の空気接触面積を最小化すること等で達成される。また、塗布中、又はその前後に塗布液中の含水率を低減する手段を設けてもよい。
【0116】
(濾過)
塗布に用いる塗布液は塗布前に濾過することが好ましい。濾過のフィルタは、塗布液中の成分が除去されない範囲でできるだけ孔径の小さいものを使うことが好ましい。濾過には、絶対濾過精度0.1〜50μm、さらには絶対濾過精度0.1〜40μmであるフィルタが好ましく用いられる。フィルタの厚さは、0.1〜10mmが好ましく、更には0.2〜2mmが好ましい。その場合、濾過圧力は1.5MPa以下、より好ましくは1.0MPa以下、更には0.2MPa以下で濾過することが好ましい。
【0117】
濾過フィルタ部材は、塗布液に影響を及ぼさなければ特に限定されない。具体的には、前記した無機化合物の湿式分散物の濾過部材と同様のものが挙げられる。また、濾過した塗布液を、塗布直前に超音波分散して、脱泡、分散物の分散保持を補助することも好ましい。
【0118】
(塗布前の処理)
本発明で使用する透明支持体は、塗布前に、ベース変形の矯正のための加熱処理、又は、塗工性改良や塗設層との接着性改良のための表面処理を施すことが好ましい。表面処理の具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましく利用される。
【0119】
さらに塗布が行われる前工程として、除塵工程を行うことが好ましく、それに用いられる除塵方法としては、特開昭59−150571号公報に記載のフィルム表面に不織布や、ブレード等を押しつける方法;特開平10−309553号公報に記載の清浄度の高い空気を高速で吹き付けて付着物をフィルム表面から剥離させ、近接した吸い込み口で吸引する方法;特開平7−333613号公報に記載される超音波振動する圧縮空気を吹き付けて付着物を剥離させ、吸引する方法{(株)伸興製、ニューウルトラクリーナー等};等の乾式除塵法が挙げられる。また、洗浄槽中にフィルムを導入し、超音波振動子により付着物を剥離させる方法;特公昭49−13020号公報に記載されているフィルムに洗浄液を供給したあと、高速空気の吹き付け、吸い込みを行う方法;特開2001−38306号公報に記載のように、ウェブを液体でぬらしたロールで連続的に擦った後、擦った面に液体を噴射して洗浄する方法;等の湿式除塵法を用いることもできる。このような除塵方法のうち、超音波除塵による方法又は湿式除塵による方法が、除塵効果の点で特に好ましい。
【0120】
また、このような除塵工程を行う前に、透明支持体上の静電気を除電しておくことは、除塵効率を上げ、ゴミの付着を抑える点で特に好ましい。このような除電方法としては、コロナ放電式のイオナイザ、UV、軟X線等の光照射式のイオナイザ等を用いることができる。除塵、塗布前後の透明支持体の帯電圧は、1000V以下が望ましく、好ましくは300V以下、特に好ましくは、100V以下である。
【0121】
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理において透明支持体、例えばセルロースアシレートフィルムなどの温度を、そのフィルムを構成するポリマーのTg以下、セルロースアシレートフィルムの場合には150℃以下とすることが好ましい。
【0122】
本発明の反射防止フィルムを、偏光板の保護フィルムとして使用する場合のように、該反射防止フィルムの好ましい透明支持体であるセルロースアシレートフィルムを偏光膜と接着させる場合には、偏光膜との接着性の観点から、酸処理又はアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対するケン化処理を実施することが特に好ましい。
【0123】
接着性などの観点から、透明支持体としてのセルロースアシレートフィルムの表面エネルギーは、55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましく、上記表面処理により調整することができる。
【0124】
(塗布)
本発明のフィルムの各層は以下の塗布方法により形成することができるが、この方法に制限されない。ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(ダイコート法)(米国特許第2681294号明細書、国際公開第05/123274号パンフレット参照)、マイクログラビアコート法等の公知の方法が用いられ、その中でもマイクログラビアコート法、ダイコート法が好ましい。
【0125】
本発明で用いられるマイクログラビアコート法とは、直径が約10〜100mm、好ましくは約20〜50mmで、全周にグラビアパターンが刻印されたグラビアロールを透明支持体の下方に設置し、該支持体の搬送方向に対してグラビアロールを逆回転させると共に、該グラビアロールの表面からドクターブレードによって余剰の塗布液を掻き落として、該支持体の上面が自由状態にある位置におけるその支持体の下面に、一定量の塗布液を転写させて塗工することを特徴とするコート法である。ロール形態の透明支持体を連続的に巻き出し、この巻き出された支持体の一方の側に、少なくとも防眩層及びフッ素含有オレフィン系重合体を含む低屈折率層のうちの少なくとも一層をマイクログラビアコート法によって塗工することができる。
【0126】
マイクログラビアコート法による塗工条件としては、グラビアロールに刻印されたグラビアパターンの線数は50〜800本/in、さらには100〜300本/inが好ましく、グラビアパターンの深度は1〜600μm、さらには5〜200μmが好ましく、グラビアロールの回転数は3〜800rpm、さらには5〜200rpmであることが好ましく、透明支持体の搬送速度は0.5〜100m/分、さらには1〜50m/分であることが好ましい。
【0127】
本発明のフィルムを高い生産性で供給するために、エクストルージョン法(ダイコート法)が好ましく用いられる。特に特開2006−122889号公報に記載のエクストルージョン法により、特に好ましく塗布が可能である。
【0128】
ダイコート法は、前計量方式であるために安定した膜厚の確保が容易である。低塗布量の塗布液に対して、この塗布方式は、高速で膜厚安定性よく塗布が可能である。他の塗布方式でも塗布は可能であるが、ディップコート法は液受け槽中の塗布液振動が不可避であり、段状のムラが発生しやすい。リバースロールコート法では、塗布に関連するロールの偏芯やたわみにより、段状のムラが発生しやすい。また、これらの塗布方式は後計量方式であるため、安定した膜厚の確保が容易ではない。該ダイコート法を用い、20m/分以上で塗布することが生産性の面から好ましい。
【0129】
(乾燥)
本発明のフィルムは、透明支持体上に直接又は他の層を介して塗布された後、溶媒を乾燥するために加熱されたゾーンにウェブで搬送されることが好ましい。
溶媒を乾燥する方法としては、各種の知見を利用することができる。具体的な知見としては、特開2001−286817号公報、同2001−314798号公報、同2003−126768号公報、同2003−315505号公報、同2004−34002号公報などの記載技術が挙げられる。
【0130】
乾燥ゾーンの温度は25℃〜140℃が好ましく、乾燥ゾーンの前半は比較的低温であり、後半は比較的高温であることが好ましい。但し、各層の塗布液の組成物に含有される、溶媒以外の成分の揮発が始まる温度以下であることが好ましい。例えば、紫外線硬化樹脂と併用される市販の光ラジカル発生剤の中には、120℃の温風中で数分以内にその数10%前後が揮発してしまうものもあり、また、単官能、2官能の(メタ)アクリル酸エステルモノマー等は100℃の温風中で揮発が進行するものもある。そのような場合には、上記のように各層の塗布液に含有される溶媒以外の成分の揮発が始まる温度以下であることが好ましい。
【0131】
また、各層の塗布液を透明支持体上に塗布した後の乾燥風は、該塗布液の固形分濃度が1〜50%の間は、塗膜表面の風速が0.01〜2m/秒の範囲にあることが、乾燥ムラを防止するために好ましい。また、各層の塗布液を透明支持体上に塗布した後、乾燥ゾーン内で、該支持体の塗布面とは反対の面に接触する搬送ロールと支持体との温度差が0℃〜20℃以内となるようにすることにより、搬送ロール上での伝熱ムラによる乾燥ムラの発生を防止することができるので好ましい。
【0132】
(硬化)
本発明の反射防止フィルムは、溶媒の乾燥の後に、ウェブとして電離放射線及び/又は熱により各塗膜を硬化させるゾーンを通過させ、塗膜を硬化することができる。本発明における電離放射線種は特に制限されるものではなく、皮膜を形成する硬化性組成物の種類に応じて、紫外線、電子線、近紫外線、可視光、近赤外線、赤外線、X線などから適宜選択することができるが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。
【0133】
紫外線硬化性化合物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ又はシンクロトロン放射光等も用いることができる。このうち、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプを好ましく利用できる。
【0134】
また、電子線も同様に使用できる。電子線としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線を挙げることができる。
【0135】
照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は10mJ/cm以上が好ましく、更に好ましくは、50〜10000mJ/cmであり、特に好ましくは、50〜2000mJ/cmである。その際、ウェブの幅方向の照射量分布は中央の最大照射量に対して両端まで含めて50〜100%の分布が好ましく、80〜100%の分布がより好ましい。
【0136】
本発明では、透明支持体上に積層された少なくとも一層を、電離放射線を照射しかつ電離放射線照射開始から0.5秒以上の間、膜面温度50℃以上に加熱した状態で、酸素濃度1000ppm、好ましくは500ppm、さらに好ましくは、100ppm、最も好ましくは50ppm以下の雰囲気で電離放射線を照射する工程によって硬化することが好ましい。
【0137】
また電離放射線照射と同時及び/又は連続して、低酸素濃度の雰囲気で加熱されることも好ましい。特に最外層であり、且つ膜厚が薄い低屈折率層がこの方法で硬化されることが好ましい。硬化反応が熱で加速され、物理強度、耐薬品性に優れた皮膜を形成することができる。
【0138】
電離放射線を照射する時間については、0.5秒以上60秒以下が好ましく、0.7秒以上10秒以下がより好ましい。照射時間が0.5秒以上であれば硬化反応を完了させることができ、十分な硬化を行うことができる。また長時間低酸素条件を維持するには、設備の大型化や、窒素等の不活性なガスを多量に必要とすることなどのため、照射時間は60秒以下とすることが好ましい。
【0139】
酸素濃度を1000ppm以下にする手法としては、大気を別の気体で置換することが好ましく、特に好ましくは窒素で置換(窒素パージ)することである。
【0140】
不活性なガスを、電離放射線による硬化反応が行われる電離放射線照射室(「反応室」ともいう)に供給し、且つ反応室のウェッブ入口側にやや吹き出す条件にすることで、ウェッブ搬送に伴う導搬エアーを排除し、反応室の酸素濃度を有効に下げられるとともに、酸素による硬化阻害の大きい電極表面の実質の酸素濃度を効率よく低減することができる。反応室のウェッブ入口側での不活性ガスの流れの方向は、反応室の給気、排気のバランスを調整することなどで制御できる。不活性ガスをウェッブ表面に直接吹き付けることも、導搬エアーを除去する方法として好ましく用いられる。
【0141】
また上記反応室の前に前室を設け、事前にウェッブ表面の酸素を排除することで、より硬化を効率よく進めることもできる。また電離放射線反応室又は前室のウェッブ入口側を構成する側面は、不活性ガスを効率的に使用するために、ウェッブ表面とのギャップは0.2〜15mmであることが好ましく、より好ましくは、0.2〜10mmとするのがよく、0.2〜5mmとするのが最も好ましい。しかし、ウェッブを連続製造するには、ウェッブを接合して繋げていく必要があり、接合には接合テープなどで貼る方法が広く用いられているが、電離放射線反応室又は前室の入口面とウェッブのギャップをあまり狭くすると、接合テープなど接合部材が引っかかる問題が生じる。このためギャップを狭くするには、電離放射線反応室又は前室の入口面の少なくとも一部を可動式とし、接合部が入るときは接合厚み分ギャップを広げるのが好ましい。この実現のためには、電離放射線反応室又は前室の入口面を進行方向前後に可動式にしておき、接合部が通過する際に前後に動いてギャップを広げるやり方や、電離放射線反応室又は前室の入口面をウェッブ面に対し、垂直方向に可動にし、接合部が通過する際に上下に動いてギャップを広げるやり方を取ることができる。
【0142】
紫外線照射は、本発明の反射防止フィルムを構成する複数の層それぞれに対して、一層設ける毎に照射してもよいし、積層後照射してもよい。またこれらを組み合わせて照射してもよい。生産性の点から、多層を積層後、紫外線を照射することが好ましい。
【0143】
本発明では、透明支持体上に積層された少なくとも一層を、複数回の電離放射線により硬化することができる。この場合、少なくとも2回の電離放射線が酸素濃度1000ppmを超えることのない連続した反応室で行われることが好ましい。複数回の電離放射線照射を同一の低酸素濃度の反応室で行うことにより、硬化に必要な反応時間を有効に確保することができる。特に高生産性のため製造速度をあげた場合には、硬化反応に必要な電離放射線のエネルギーを確保するために複数回の電離放射線照射が必要となる。
【0144】
また、硬化率(100−残存官能基含率)が100%未満のある値となった場合、その上に層を設けて電離放射線及び/又は熱による硬化を施した際に、下層の硬化率が上層を設ける前よりも高くなって、下層と上層との間の密着性が改良されるので好ましい。
【0145】
(ハンドリング)
本発明の反射防止フィルムを連続的に製造するためには、ロール状の透明支持体フィルムを連続的に送り出す工程、塗布液を塗布・乾燥する工程、塗膜を硬化する工程、硬化した層を有する該支持体フィルムを巻き取る工程が行われる。
【0146】
ロール状の透明支持体から該支持体がクリーン室に連続的に送り出され、クリーン室内で、その支持体に帯電している静電気を静電除電装置により除電し、引き続き透明支持体上に付着している異物を、除塵装置により除去する。引き続きクリーン室内に設置されている塗布部で塗布液がその支持体上に塗布され、塗布された透明支持体は乾燥室に送られて乾燥される。
乾燥した塗布層を有する透明支持体は乾燥室から硬化室へ送り出され、塗布層に含有されるモノマーが重合して硬化する。さらに、硬化した層を有する透明支持体は硬化部へ送られ硬化を完結させ、硬化が完結した層を有する透明支持体は巻き取られてロール状となる。
【0147】
上記工程は、各層の形成毎に行ってもよいし、塗布部−乾燥室−硬化部を複数設けて、各層の形成を連続的に行うことも可能である。
【0148】
本発明の反射防止フィルムを作製するためには、上記したように塗布液の精密濾過操作と同時に、塗布部における塗布工程及び乾燥室で行われる乾燥工程が高い清浄度の空気雰囲気下で行われ、且つ塗布が行われる前に、透明支持体フィルム上のゴミ、ほこりが充分に除かれていることが好ましい。塗布工程及び乾燥工程の空気清浄度は、米国連邦規格209Eにおける空気清浄度の規格に基づき、クラス10(0.5μm以上の粒子が353個/m以下)以上であることが望ましく、更に好ましくはクラス1(0.5μm以上の粒子が35.5個/m以下)以上であることが望ましい。また、空気清浄度は、塗布−乾燥工程以外の送り出し、巻き取り部等においても高いことがより好ましい。
【0149】
(鹸化処理)
本発明の反射防止フィルムを、偏光膜の2枚の表面保護フィルムのうちの一方として用いて偏光板を作製する際には、偏光膜と貼り合わせる側の表面を親水化することで、接着面における接着性を改良することが好ましい。
【0150】
(a)アルカリ液に浸漬する法
アルカリ液の中にフィルムを適切な条件で浸漬して、フィルム全表面のアルカリと反応性を有する全ての面を鹸化処理する手法であり、特別な設備を必要としないため、コストの観点で好ましい。アルカリ液は、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。好ましい濃度は0.5〜3モル/Lであり、特に好ましくは1〜2モル/Lである。好ましいアルカリ液の液温は30〜75℃、特に好ましくは40〜60℃である。
【0151】
上記の鹸化条件の組合せは、比較的穏和な条件同士の組合せであることが好ましいが、フィルムの素材や構成、目標とする接触角によって設定することができる。アルカリ液に浸漬した後は、フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
【0152】
鹸化処理することにより、塗布層を有する表面と反対の表面が親水化される。偏光板用保護フィルムは、透明支持体の親水化された表面を偏光膜と接着させて使用する。
【0153】
親水化された表面は、ポリビニルアルコールを主成分とする接着層との接着性を改良するのに有効である。
【0154】
鹸化処理は、塗布層を有する側とは反対側の透明支持体の表面の、水に対する接触角が低いほど、偏光膜との接着性の観点では好ましいが、一方、浸漬法では同時に塗布層を有する表面から内部までアルカリによるダメージを受けるため、必要最小限の反応条件とすることが重要となる。アルカリによる各層の受けるダメージの指標として、反対側の表面の透明支持体の水に対する接触角を用いた場合、特に透明支持体がトリアセチルセルロースであれば、好ましくは10°〜50°、より好ましくは30°〜50°、さらに好ましくは40°〜50°となる。50°以下であれば、偏光膜との接着性に問題が生じることがなく、好ましい。また10°以上であれば、フィルムが受けるダメージが大きくないので、物理強度を損なうことがないので好ましい。
【0155】
(b)アルカリ液を塗布する方法
上述の浸漬法における各膜へのダメージを回避する手段として、適切な条件でアルカリ液を、塗布層を有する表面と反対側の表面のみに塗布、加熱、水洗、乾燥するアルカリ液塗布法が好ましく用いられる。なお、この場合の塗布とは、鹸化を行う面に対してのみアルカリ液などを接触させることを意味し、塗布以外にも噴霧、液を含んだベルト等への接触などによって行われることも含む。
【0156】
これらの方法を採ることにより、別途、アルカリ液を塗布する設備、工程が必要となるため、コストの点では(1)の浸漬法より高くなる。一方で、鹸化処理を施す面にのみアルカリ液が接触するため、反対側の面にはアルカリ液に弱い素材を用いた層を有することができる。例えば、蒸着膜やゾル−ゲル膜では、アルカリ液によって、腐食、溶解、剥離など様々な影響が起こるため、浸漬法では設けることが望ましくないが、この塗布法では液と接触しないため問題なく使用することが可能である。
【0157】
上記(a)、(b)のどちらの鹸化方法においても、ロール状の支持体から巻き出して各層を形成後に行うことができるため、フィルム製造工程の後に加えて一連の操作で行ってもよい。さらに、同様に巻き出した支持体と偏光板との貼り合わせ工程も併せて連続で行うことにより、枚葉で同様の操作をするよりもより効率よく偏光板を作製することができる。
【0158】
(c)ラミネートフィルムで保護して鹸化する方法
上記(b)と同様に、塗布層がアルカリ液に対する耐性が不足している場合に、最終層まで形成した後に、該最終層を形成した面にラミネートフィルムを貼り合せてからアルカリ液に浸漬することで、最終層を形成した面とは反対側のトリアセチルセルロース面だけを親水化し、然る後にラミネートフィルムを剥離する方法を用いることもできる。この方法でも、塗布層へのダメージなしに、偏光板保護フィルムとして必要なだけの親水化処理を、透明支持体であるトリアセチルセルロースフィルムの、最終層を形成した面とは反対の面だけに施すことができる。上記(b)の方法と比較して、ラミネートフィルムが廃棄物として発生する半面、特別なアルカリ液を塗布する装置が不要である利点がある。
【0159】
(d)中途層まで形成後にアルカリ液に浸漬する方法
下層まではアルカリ液に対する耐性があるが、上層のアルカリ液に対する耐性不足である場合には、下層まで形成後にアルカリ液に浸漬して両面を親水化処理し、然る後に上層を形成することもできる。製造工程が煩雑になるが、例えば、防眩層とフッ素含有ゾル−ゲル膜の低屈折率層とからなるフィルムにおいて、親水基を有する場合には、防眩層と低屈折率層との層間密着性が向上する利点がある。
【0160】
(e)予め鹸化済のトリアセチルセルロースフィルムに塗布層を形成する方法
透明支持体であるトリアセチルセルロースフィルムを、予めアルカリ液に浸漬するなどして鹸化し、何れか一方の面に、直接又は他の層を介して塗布層を形成してもよい。アルカリ液に浸漬して鹸化する場合には、鹸化により親水化されたトリアセチルセルロース面と塗布層との層間密着性が悪化することがある。そのような場合には、鹸化後、塗布層を形成する面だけにコロナ放電、グロー放電等の処理をすることで親水化面を除去してから塗布層を形成することで対処できる。また、塗布層が親水性基を有する場合には層間密着が良好なこともある。
【0161】
〔偏光板〕
本発明の反射防止フィルムは、偏光子とその両側に配置された保護フィルムとからなる偏光板の、保護フィルムの一方又は両方に使用して、反射防止性を持つ偏光板とすることができる。
【0162】
一方の保護フィルムとして本発明の反射防止フィルムを用い、他方の保護フィルムには、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよいが、その他方の保護フィルムには、溶液製膜法で製造され、且つ10〜100%の延伸倍率でロールフィルム形態における幅方向に延伸したセルロースアセテートフィルムを用いることが好ましい。
【0163】
更には、本発明の偏光板において、片面が本発明の反射防止フィルムであるのに対して、他方の保護フィルムが液晶性化合物からなる光学異方性層を有する光学補償フィルムであることも好ましい態様である。
【0164】
(偏光子)
偏光子(偏光膜)には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
【0165】
また偏光膜としては、公知の偏光膜や、偏光膜の吸収軸が長手方向に平行でも垂直でもない長尺の偏光膜から切り出された偏光膜を用いてもよい。偏光膜の吸収軸が長手方向に平行でも垂直でもない長尺の偏光膜は以下の方法により作製される。
すなわち、連続的に供給されるポリビニルアルコール系フィルムなどのポリマーフィルムの両端を保持手段により保持しつつ張力を付与して延伸して、少なくともフィルム幅方向に1.1〜20.0倍に延伸し、フィルム両端の保持装置の長手方向進行速度差が3%以内で、フィルム両端を保持する工程の出口におけるフィルムの進行方向と、フィルムの実質延伸方向のなす角が、20〜70゜傾斜するように、フィルム進行方向を、フィルム両端を保持させた状態で屈曲させてなる延伸方法によって製造することができる。特に45°傾斜させたものが生産性の観点から好ましく用いられる。
【0166】
ポリマーフィルムの延伸方法については、特開2002−86554号公報の段落0020〜0030に詳しい記載がある。
【0167】
本発明においては、反射防止フィルムの透明支持体やセルロースアセテートフィルムの遅相軸と、偏光膜の透過軸とは、実質的に平行になるように配置するのがよい。
【0168】
(保護フィルム)
偏光板の生産性には保護フィルムの透湿性が重要である。偏光膜と保護フィルムは水系接着剤で貼り合わせられており、この接着剤溶媒は保護フィルム中を拡散することで乾燥される。保護フィルムの透湿性が高ければ、高いほど乾燥は早くなり、生産性は向上するが、高くなりすぎると、液晶表示装置の使用環境(高湿下)により、水分が偏光膜中に入ることで偏光能が低下する。
【0169】
保護フィルムの透湿性は、透明支持体やポリマーフィルム(及び重合性液晶化合物)の厚み、自由体積、親疎水性、等により決定される。本発明の反射防止フィルムを偏光板の保護フィルムとして用いる場合、透湿性は100〜1000g/m・24hrsであることが好ましく、300〜700g/m・24hrsであることが更に好ましい。
【0170】
透明支持体の厚みは、製膜の場合、リップ流量とラインスピード又は、延伸、圧縮により調整することができる。使用する主素材により透湿性が異なるので、厚み調整により好ましい範囲にすることが可能である。
【0171】
透明支持体の自由体積は、製膜の場合、乾燥温度と時間により調整することができる。この場合もまた、使用する主素材により透湿性が異なるので、自由体積調整により好ましい範囲にすることが可能である。
【0172】
透明支持体の親疎水性は、添加剤により調整することができる。上記自由体積中に親水的添加剤を添加することで透湿性は高くなり、逆に疎水性添加剤を添加することで透湿性を低くすることができる。
【0173】
上記透湿性を独立に制御することにより、光学補償能を有する偏光板を安価に高い生産性で製造することが可能となる。
【0174】
(光学補償フィルム)
偏光膜の2枚の保護フィルムのうち、本発明の反射防止フィルム以外のフィルムが、光学異方層を含んでなる光学補償層を有する光学補償フィルムであることも好ましい態様である。光学補償フィルム(位相差フィルム)は、液晶表示画面の視野角特性を改良することができる。
【0175】
光学補償フィルムとしては、公知のものを用いることができるが、視野角を広げるという点では、特開2001−100042号公報に記載されている光学補償フィルムが好ましい。
【0176】
<本発明の使用形態>
本発明の反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような画像表示装置に用いられる。
【0177】
〔液晶表示装置〕
本発明の反射防止フィルム及び偏光板は、液晶表示装置等の画像表示装置に有利に用いることができ、ディスプレイの最表層に用いることが好ましい。
【0178】
一般的に、液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を有し、液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を担持している。さらに、光学異方性層が、液晶セルと一方の偏光板との間に一枚配置されるか、又は液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置されることもある。
【0179】
液晶セルは、TNモード、VAモード、OCBモード、IPSモード又はECBモードであることが好ましい。
【0180】
(TNモード)
TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60〜120゜にねじれ配向している。
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【0181】
(VAモード)
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、
(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、
(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of Tech.Papers(予稿集)28(1997)845記載)、
(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)及び、
(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0182】
(OCBモード)
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルであり、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードと呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0183】
(IPSモード)
IPSモードの液晶セルは、ネマチック液晶に横電界をかけてスイッチングする方式であり、詳しくはProc.IDRC(Asia Display ’95),p.577−580及び同p.707−710に記載されている。
【0184】
(ECBモード)
ECBモードの液晶セルは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向している。ECBモードは、最も単純な構造を有する液晶表示モードの一つであって、例えば特開平5−203946号公報に詳細が記載されている。
【0185】
〔PDP〕
プラズマディスプレイパネル(PDP)は、一般に、ガス、ガラス基板、電極、電極リード材料、厚膜印刷材料、蛍光体により構成される。ガラス基板は、前面ガラス基板と後面ガラス基板の2枚である。2枚のガラス基板には電極と絶縁層を形成する。後面ガラス基板には、さらに蛍光体層を形成する。2枚のガラス基板を組み立てて、その間にガスを封入する。
【0186】
プラズマディスプレイパネル(PDP)は、既に市販されている。プラズマディスプレイパネルについては、特開平5−205643号、同9−306366号の各公報に記載がある。
【0187】
前面板をプラズマディスプレイパネルの前面に配置することがある。前面板はプラズマディスプレイパネルを保護するために充分な強度を備えていることが好ましい。前面板は、プラズマディスプレイパネルと隙間を置いて使用することもできるし、プラズマディスプレイ本体に直貼りして使用することもできる。プラズマディスプレイパネルのような画像表示装置では、本発明のハードコートフィルムや反射防止フィルムをディスプレイ表面に直接貼り付けることができる。また、ディスプレイの前に前面板が設けられている場合は、前面板の表側(外側)又は裏側(ディスプレイ側)に反射防止フィルムを貼り付けることもできる。
【0188】
〔タッチパネル〕
本発明のハードコートフィルムや反射防止フィルムは、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載されるタッチパネルなどに応用することができる。
【0189】
〔有機EL素子〕
本発明のハードコートフィルムや反射防止フィルムは、有機EL素子等の基板(基材フィルム)や保護フィルムとして用いることができる。
【0190】
本発明のハードコートフィルムや反射防止フィルムを有機EL素子等に用いる場合には、特開平11−335661号、特開平11−335368号、特開2001−192651号、特開2001−192652号、特開2001−192653号、特開2001−335776号、特開2001−247859号、特開2001−181616号、特開2001−181617号、特開2002−181816号、特開2002−181617号、特開2002−056976号等の各公報記載の内容を応用することができる。また、特開2001−148291号、特開2001−221916号、特開2001−231443号の各公報記載の内容と併せて用いることが好ましい。
【実施例】
【0191】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0192】
〔透明支持体の作製〕
表1に示したドープ処方にて、基層ドープと表層ドープを調製し、表2に示した条件で流延し、透明支持体1〜透明支持体11を作製した。100℃の熱風にて残留溶剤量が10質量%になるまで乾燥し、その後140℃の熱風にて10分間乾燥させた。
【0193】
【表1】

【0194】
【表2】

【0195】
表1における無機酸化物微粒子の詳細を以下に示す。
TiO微粒子:ルチル型酸化チタン微粒子(平均粒径20nm、石原産業株式会社製)
ZrO微粒子:酸化ジルコニウム微粒子(平均粒径40nm、住友大阪セメント株式会社製)
表1におけるセルローストリアセテートのアセチル置換度は2.9、Mnは160000、Mw/Mnは1.8であった。
【0196】
〔ハードコート層用塗布液の調製〕
下記に示す各々の成分をミキシングタンクに投入し、攪拌した後、孔径3μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して調製した。
【0197】
ハードコート層用塗布液(H−1)の組成
PET−30 24.25質量部
ビスコート360 24.25質量部
イルガキュア127 1.5質量部
メチルイソブチルケトン 40.0質量部
メチルエチルケトン 10.0質量部
ここで、PET−30、ビスコート360、イルガキュア127は以下の通りである。
PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
ビスコート360:エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学(株)製)
イルガキュア127:光重合開始剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
【0198】
ハードコート層用塗布液(H−2)の組成
DPHA 48.5質量部
イルガキュア184 1.5質量部
メチルイソブチルケトン 40.0質量部
メチルエチルケトン 10.0質量部
ここで、DPHA、イルガキュア184は以下の通りである。
DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(日本化薬(株)製)
イルガキュア184:光重合開始剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
【0199】
ハードコート層用塗布液(H−3)の組成
DPHA 30.3質量部
Z7404 30.6質量部
イルガキュア907 0.9質量部
メチルイソブチルケトン 29.3質量部
メチルエチルケトン 8.8質量部
ここで、Z7404、イルガキュア907は以下の通りである。
Z7404:ジルコニア含有UV硬化型ハードコート液(JSR社製、固形分濃度約61.2%、固形分中ZrO2含率約69.6%、重合性モノマー、重合開始剤含有)
イルガキュア907:光重合開始剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
【0200】
〔中間層用塗布液の調製〕
下記に示す各々の成分をミキシングタンクに投入し、攪拌したのち、孔径3μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して調製した。
【0201】
中間層用塗布液(M−1)の組成
DPCA−120 4.75質量部
イルガキュア907 0.25質量部
メチルイソブチルケトン 76.0質量部
メチルエチルケトン 19.0質量部
ここで、DPCA−120は以下の通りである。
DPCA−120:エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
【0202】
〔低屈折率層用塗布液の調製〕
(ゾル液aの調製)
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器に、メチルエチルケトン120質量部、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン“KBM−5103”{信越化学工業(株)製}100質量部、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート3質量部を加え混合したのち、イオン交換水30質量部を加え、60℃で4時間反応させたのち、室温まで冷却し、ゾル液aを得た。GPC法により測定された質量平均分子量は1800であり、オリゴマー成分以上の成分のうち、分子量が1000〜20000の成分は100質量%であった。ガスクロマトグラフィー分析から、原料のアクリロキシプロピルトリメトキシシランは全く残存していなかった。
【0203】
(中空シリカ微粒子分散液(A−1)の調製)
中空シリカ微粒子ゾル(粒子サイズ約40〜50nm、シエル厚6〜8nm、屈折率1.31、固形分濃度20質量%、主溶媒イソプロピルアルコール、特開2002−79616号公報の調製例4に準じて粒子サイズを変更して作製)500質量部に、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン“KBM−5103”{信越化学工業(株)製}30質量部、及びジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート「ケロープEP−12」{ホープ製薬(株)製}1.5質量部加え混合した後に、イオン交換水9質量部を加えた。60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8部を添加し、中空シリカ分散液(A−1)を得た。得られた中空シリカ分散液の固形分濃度は18質量%、溶媒乾燥後の屈折率は1.31であった。
【0204】
(低屈折率層用塗布液(L−1)の調製)
メチルエチルケトン100質量部に対して、特開平2004−45462号公報に記載の含フッ素共重合体(P−3、質量平均分子量約50000)44.0質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物“DPHA”{日本化薬(株)製}6.0質量部、末端メタクリレート基含有シリコーン“RMS−033”(Gelest社製)3.0質量部、「イルガキュア907」{チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製}を3.0質量部加えて溶解した。その後に中空シリカ微粒子分散液(A−1)を195質量部(シリカ+表面処理剤固形分として35.1質量部)、ゾル液a17.2質量部(固形分として5.0質量部)を添加した。塗布液全体の固形分濃度が6質量%になり、シクロヘキサンとメチルエチルケトンの比率が10対90になるようにシクロヘキサン、メチルエチルケトンで希釈して低屈折率層用塗布液(L−1)を調製した。
【0205】
〔中間層の塗設〕
透明支持体11をロール形態で巻きだして、中間層用塗布液(M−1)を、特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、中間層の乾燥膜厚が91nmになるようにウエット塗布し、60℃で50秒間乾燥の後、さらに窒素パージにより、酸素濃度100ppmの雰囲気下で240W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量200mJ/cmの紫外線を照射し、中間層を形成させて巻き取り、中間層付き透明支持体(透明支持体11’)を作製した。
【0206】
〔ハードコート層の塗設〕
特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、作製した透明支持体1〜透明支持体10及び透明支持体11’をロール形態で巻き出して、ハードコート層用塗布液1〜3(H−1〜H−3)を、下記表3の乾燥膜厚になるように塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、さらに窒素パージ下で160W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量130mJ/cmの紫外線を照射して塗布層を硬化させたハードコートフィルム(HC−1)〜(HC−11)を作製し、巻き取った。ハードコート層は表層が設置されている側の面に塗設した。
【0207】
〔低屈折率層の塗設〕
ハードコートフィルム(HC−2、HC−7)の上に、低屈折率層用塗布液(L−1)を、特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、低屈折率層の乾燥膜厚が90nmになるようにウエット塗布し、60℃で50秒間乾燥の後、さらに窒素パージにより、酸素濃度100ppmの雰囲気下で240W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量600mJ/cmの紫外線を照射し、低屈折率層を形成した。硬化後の低屈折率層の屈折率は1.38だった。
【0208】
【表3】

【0209】
〔ハードコートフィルムの評価〕
作製したハードコートフィルムHC−1〜HC−11(但し、HC−2、HC−7はハードコート層上に低屈折率層が設けられているので本発明の反射防止フィルムの態様であるが便宜的にハードコートフィルムとも呼ぶ)に対して、以下の評価を実施した。評価結果は表3に示した。
【0210】
(干渉ムラ)
ハードコートフィルムの裏面を黒マジックで塗りつぶした後に、ハードコートフィルムの表面を拡散板を前面につけた3波長蛍光灯下で観察する。下記評価基準で△以上のレベルを合格とした。
○:干渉ムラが視認されない
△:干渉ムラが僅かに視認されるものの、気にならない
×:干渉ムラが視認され、気になる
【0211】
(密着性)
ハードコート層を有する側の表面にカッターナイフで碁盤目状に縦11本、横11本の切り込みを1mm間隔で入れて合計100個の正方形の升目を刻み、日東電工(株)製のポリエステル粘着テープ(NO.31B)を圧着し、24時間放置後引き剥がす試験を同じ場所で繰り返し3回行い、剥がれの有無を目視で観察する。剥がれが発生しないものを合格(○)とした。剥がれが発生したものを×とした。HC−2、HC−7については低屈折率層が積層された後の形態で密着性評価を行った。
【0212】
(反射率)
反射率の測定は、分光光度計“V−550”[日本分光(株)製]にアダプター“ARV−474”を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における出射角−5゜の鏡面反射率を測定し、450〜650nmの平均反射率を算出した。
【0213】
〔偏光板の作製〕
延伸したポリビニルアルコールフイルムに、ヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。ハードコートフィルム(HC−1)〜(HC−11)のそれぞれに鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、各ハードコートフィルムのセルローストリアセテート側が偏光膜側となるように偏光膜の片側に貼り付けた。また、市販のセルローストリアセテートフイルム「フジタックTD80UF」{富士フイルム(株)製}をポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の、ハードコートフィルムを貼った側とは反対側に貼り付けた。このようにしてハードコートフィルム付き偏光板(HKH−1)〜(HKH−11)を作製した。
【0214】
〔偏光板の評価〕
32型フルハイビジョン液晶TV“LC−32GS10”{シャープ(株)製}の視認側の偏光板を剥がし、代わりに偏光板(HKH−1)〜(HKH−11)を、各ハードコートフィルムが最表面となるように粘着剤を介して、視認側に貼り付けた。
200cd/mの明室環境下で液晶TVが消灯している際の画面を確認したところ、HKH−4が貼り付けられた部分のみムラ状の模様が視認され、表示品位が低かった。また、低屈折率層が設けられているHKH−2、HKH−7は画面への映り込みが抑えられており特に表示品位が高かった。
【0215】
表3の結果から明らかな通り、本発明のハードコートフィルムは、干渉ムラが発生せず、かつ密着性に優れている。更に、本発明のハードコートフィルムは、粘着材又は接着材により偏光板等の光学フィルムに好適に用いることができ、その光学フィルムを装着した画像表示装置は、干渉ムラが発生しないため高い表示品位を得ることができ、家庭用テレビとして使用した場合でも好適に用いることができる。更に、ハードコートフィルム上に低屈折率層を積層した場合には映り込みが低減され、更に良好な表示品位を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】透明支持体の層構造の一例を示す断面図である。
【図2】透明支持体の層構造の一例を示す断面図である。
【図3】流延バンドを用いた溶液製膜装置を示す図である。
【図4】流延ドラムを用いた溶液製膜装置を示す図である。
【図5】逐次流延法に用いる単層のフィルムを製膜する流延ダイを示す図である。
【図6】マルチマニホールド型の共流延ダイを示す図である。
【図7】フィードブロック型の共流延ダイを示す図である。
【符号の説明】
【0217】
1 基層
2 表層
11 攪拌機
12 移送ポンプ
13 濾過器
14 ストックタンク
15 流延送液ポンプ
16 添加剤注入ポンプ
17 流延ダイ
18 流延バンド
19 減圧チャンバー
20 流延ドラム
30 流延ダイ
31 マニホールド
32 マニホールド
33 マニホールド
34 フィードブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルム。
式(I) 0.98< (nH×nC)1/2/nS<1.02
【請求項2】
前記表層に含まれる無機酸化物微粒子がAl、Ti、Zr、Sb、Zn、Sn、Inから選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、かつ該表層に含まれる無機酸化物微粒子の平均粒径が1nm以上100nm以下である請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムの表層側の面にハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、少なくとも基層と表層とを有するセルロースアシレートフィルムが共流延法により作製されたセルロースアシレートフィルムであり、表層に無機酸化物微粒子とセルロースアシレートとを含み、該表層の屈折率が1.49以上1.56以下であり、該表層の平均膜厚が50nm以上130nm以下であり、該ハードコート層の屈折率をnH、該表層の屈折率をnS、表層以外のセルロースアシレートフィルムの屈折率をnCとしたとき、下記式(I)の関係を満たすハードコートフィルムの製造方法。
式(I) 0.98< (nH×nC)1/2/nS<1.02
【請求項4】
前記表層に含まれる無機酸化物微粒子がAl、Ti、Zr、Sb、Zn、Sn、Inから選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、かつ該表層に含まれる無機酸化物微粒子の平均粒径が1nm以上100nm以下である請求項3に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のハードコートフィルムの最表面に、前記ハードコート層よりも低い屈折率の層を有する反射防止フィルム。
【請求項6】
偏光子と該偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1つが、請求項1もしくは2に記載のハードコートフィルム、または請求項5に記載の反射防止フィルムである偏光板。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載のハードコートフィルム、請求項5に記載の反射防止フィルム、または請求項6に記載の偏光板のいずれかを表面に設けた表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−32795(P2010−32795A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195164(P2008−195164)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】