説明

バイオフィルム生成抑制剤組成物

【課題】長期的にバイオフィルムの生成を抑制する薬剤及び組成物を提供する。
【解決手段】 (A)一般式(1)


(式中、R1は炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示す。)
で表される化合物を含有するバイオフィルム生成抑制剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム生成抑制剤組成物に関するものである。より詳細には、微生物が関与するさまざまな分野において、微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルムの生成を抑制し、これに起因する危害を防止するためのバイオフィルム生成抑制剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち、製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
【0003】
更に、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物に対する場合と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の十分な効果が出ないことも多い。例えば医療の面では近年、医療器具の狭い隙間や空孔内に微生物が残存してバイオフィルムを形成し、これを原因とする院内感染例が数多く報告されている。ヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう食や歯周病の原因となることは良く知られており、これらの問題について長い間検討されている。
【0004】
これまでバイオフィルムを抑制するためには、微生物、特に細菌に対して殺菌作用又は静菌作用を与えることによって菌を増殖させない考え方が一般的に検討されてきた。特許文献1には脂肪酸や脂肪族アルコールなどを用いて細菌数を低減させ、結果として細菌の対象物質への付着を防止できることが開示されている。特にこの特許文献1では、抗菌性油相と乳化剤でエマルジョンを調製した組成物が比較的短時間で菌数低減効果を示しており、これは単位体積あたりの細菌絶対数が低くなることに基づき、対象物質表面への細菌の付着を抑制する考え方を表している。
また、特許文献2にはポリグリコール脂肪酸エステルを使用して水中浸漬しうる表面にバクテリアが付着するのを抑制する方法が記載され、ポリグリコール脂肪酸エステルの殺生物活性を示す閾値レベルよりかなり下の濃度にてバクテリアの付着を効果的に抑制することが開示されている。また、特許文献3には、ポリグリセリンモノ脂肪酸エステル等を含有する工業用防腐防かび剤が開示されている。
【特許文献1】特表2002−524257公報
【特許文献2】特表平11−512720公報
【特許文献3】特開2003−160410公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献1は、微生物を60分以内の比較的短時間殺菌又は抗菌性組成物と接触させた場合の殺菌性(菌数を約4乗低減)の評価を記載している。しかしながらバイオフィルム問題は数日〜数ヶ月の長時間単位で起きるものであり、短時間の殺菌評価でバイオフィルムの生成抑制制御に結びつけることは事実上困難である。抗菌性油相として挙げられる脂肪酸や脂肪アルコールは全ての微生物(細菌)に対して十分な殺菌効果を有しているとは言えず、特にバイオフィルムを形成して問題をしばしば引き起こすグラム陰性菌に対して、長期間にわたる殺菌効果の指標である最少生育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration、MIC)を有してはいない(防腐・殺菌剤の科学;ジョン・J・カバラ編、フレグランスジャーナル社、1990)。更に発明者らの実験よれば、グラム陰性菌の中でも緑膿菌やセラチア菌に対して、特許文献1記載の組成物は記述の通り短期的な(3時間くらいまで)殺菌効果を示すものの、長期的(1日以上)には殺菌性はおろか菌増殖を抑制する静菌効果さえも示すことがなく、結果としてバイオフィルムを形成することが確認された。
【0006】
その他、殺菌性の高いカチオン性界面活性剤や次亜塩素酸塩など即効性の特徴を持つ殺菌性の高い殺菌薬剤もあるが、系内に有機物が存在すると殺菌性は速やかに失われるため、前述の通り長期間にわたって菌数低減効果を維持することは難しい。
これらの理由から、細菌を殺菌や静菌の観点から根本的にバイオフィルムの生成を抑制することは困難であった。
従って、本発明の目的は、長期的にバイオフィルムの生成を抑制する薬剤及び組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、長期的なバイオフィルム生成抑制作用を有する成分を探索したところ、後記一般式(1)で表されるエステルが、長期的にバイオフィルム生成を抑制することを見出した。
【0008】
本発明は、次の成分(A)
(A)一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示す。)
で表される化合物を含有するバイオフィルム生成抑制剤組成物を提供するものである。
【0011】
本発明はまた、前記バイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期的にバイオフィルムの生成を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物の成分(A)は、一般式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
で表される化合物から成り、R1は炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、R2は水素原子又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である。
【0016】
1で示されるアルキル基又はアルケニル基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが、炭素数10〜12であるものが好ましい。また、R2のアルキル基としては、炭素数1又は2のものが特に好ましい。
【0017】
本発明の成分(A)は、長期的なバイオフィルムの生成抑制効果を発揮できる重量濃度として、系内に1ppm以上存在すればよいが、経済性と効果の観点から1〜10000ppmが好ましく、5〜10000ppmがより好ましく、更に5〜2000ppmが好ましく、特に10〜1000ppmが好ましい。
【0018】
本発明の成分(A)は、さらに(B)成分の界面活性剤を用いて水系中に安定的に存在させることにより、水系において本剤をより効果的に利用することが可能になる。
【0019】
ここで「水系中に安定的に存在する」とは、成分(A)が長期的に分離することなく乳化・分散・可溶化している状態を云い、これにより、水系の単位体積当たり、より多い量の成分(A)を乳化・分散・可溶化できるようになる。
【0020】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物に使用できる界面活性剤の種類は特に限定されないが、成分(A)を水系中により安定に存在させることができる界面活性剤が望ましい。特に乳化・分散・可溶化性能の観点から、界面活性剤の中で陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0021】
陰イオン性界面活性剤としては、リグニンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン(以下、POEと記す)アルキルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、POEアルキル硫酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、POEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルリン酸塩、POEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩(石けん)、POEアルキルエーテル酢酸塩等が挙げられ、中でもアルキル硫酸エステル塩やPOEアルキル硫酸エステル塩、POEアルキルエーテル酢酸塩を用いることがより好ましい。これらの陰イオン性界面活性剤のアルキル炭素数は10〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は0〜10が好ましく、0〜5がより好ましい。
【0022】
非イオン性界面活性剤としては、POEアルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン・POE(ブロック又はランダム)アルキルエーテル、POEアリールフェニルエーテル、POEスチレン化フェニルエーテル、POEトリベンジルフェニルエーテル等の1価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤;(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド等の多価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤等が挙げられ、中でもPOEアルキルエーテル、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特に、POEアルキルエーテルが好ましい。なかでもPOEアルキルエーテルのHLBが10以上のものが特に好ましい。また、POEアルキルエーテルのアルキル炭素数は12〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は6以上が特に好ましい。
【0023】
界面活性剤は単独で、あるいはより乳化・分散・可溶化性能を高めるために2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
バイオフィルム生成抑制剤組成物中の成分(A)と成分(B)の重量比率(A)/(B)は長期的なバイオフィルム生成抑制効果の点から2/1〜1/100が好ましく、2/1〜1/50がより好ましく、2/1〜1/20が更に好ましく、特に1/1 〜1/10が好ましい。
また、バイオフィルム生成抑制剤組成物は、成分(A)を好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%含み、そして成分(B)を好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%含む。
【0025】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には殺菌剤や抗菌剤を併用することも可能である。一般にバイオフィルムが形成すると殺菌剤が効きにくい状況が起こるが、本発明のバイオフィルム生成抑制剤によってバイオフィルムの形成が抑制されると、殺菌剤の効力を十分に引き出すことが可能になる。
【0026】
上記の殺菌剤や抗菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン等の四級塩、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、トリクロロカルバニリド、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0027】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には、その粘度を上昇させて対象物への付着性を向上させるために、増粘剤を用いることも可能である。
【0028】
更に、本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物にはキレート剤を加えてもよい。該キレート剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、コハク酸、サリチル酸、シュウ酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、トリポリリン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物及びそれらの塩が挙げられる。
【0029】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は液状、ペースト、粉末、タブレットなど、用途に応じて様々な形態をとることが可能である。バイオフィルム生成抑制剤組成物は全ての成分が混在した1剤型でも良いが、使い勝手によってはそれをいくつかの分割パッケージにしてもよい。
【0030】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は水希釈系で用いるのが効果的である。該組成物の水希釈物を一定量溜めて対象物を浸漬して使用する。対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。又、該組成物の水希釈液を流したり、はけ等により塗布してもよい。その他、タオルなどに該水希釈液を含浸させて、対象物を拭いても良い。微生物と接触させる条件が満足されるならば、微生物が存在しうる表面に該組成物の水希釈液を付着させたり、塗り付けたりすることも可能である。該組成物の水希釈液は、その使用時の成分(A)の重量濃度を1〜10,000ppmとするのが好ましく、5〜10,000ppmとするのがより好ましい。
また、対象物によっては水希釈系にせず、クリーム状や軟膏にして塗り広げることも可能である。この場合、成分(A)は適切な溶媒に溶解、分散、乳化された形状で提供され、使用時の成分(A)の重量濃度を1〜10,000ppmとするのが好ましく、5〜10,000ppmとするのがより好ましい。
【0031】
本発明はまた、バイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供するものである。ここでバイオフィルム生成抑制剤組成物と微生物との接触は連続して行うのが好ましい。
【0032】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は、バイオフィルムの危害が懸念される広い分野に使用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品又は飲料製造プラント用洗浄剤に応用することができる。また、バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡や人工透析機等、の洗浄剤にも応用できる。更に、高い安全性を有することから、ヒト対象の洗浄剤、歯磨き剤、口腔ケア剤、入れ歯ケア剤などに使用することも可能である。
【実施例】
【0033】
実施例1:バイオフィルム生成抑制剤組成物の配合及びバイオフィルム生成抑制能の検定
成分(A) R1O−CO−CH3
(A−1)C8アルコール−酢酸エステル〔酢酸オクチル、和光純薬工業(株)製、R1=C8アルキル〕
(A−2)C10アルコール−酢酸エステル〔酢酸デシル、和光純薬工業(株)製、R1=C10アルキル〕
(A−3)C12アルコール−酢酸エステル〔酢酸ドデシル、和光純薬工業(株)製、R1=C12アルキル〕
【0034】
成分(A’) R’O−CO−CH3
(A’−1)C2アルコール−酢酸エステル〔酢酸エチル、和光純薬工業(株)製、 R’=C2アルキル〕
(A’−2)C4アルコール−酢酸エステル〔酢酸ブチル、和光純薬工業(株)製、 R’=C4アルキル〕
(A’−3)C6アルコール−酢酸エステル〔酢酸ヘキシル、和光純薬工業(株)製、R’=C6アルキル〕
(A’−4)C16アルコール−酢酸エステル〔酢酸ヘキサデシル、和光純薬工業(株)製、R’=C16アルキル〕
(A’−5)C18アルコール−酢酸エステル〔酢酸オクタデシル、和光純薬工業(株)製、R’=C18アルキル〕
【0035】
成分(B)界面活性剤〔( )内の数字はエチレンオキシド平均付加モル数を示す。〕
<陰イオン性界面活性剤>
(B−1)ラウリル硫酸ナトリウム〔エマール0、花王(株)製〕
(B−2)ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム〔エマール20C、花王(株)製;有効分25重量%〕
(B−3)ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム〔カオーアキポRLM45−NV、花王(株)製;有効分24重量%〕
<非イオン性界面活性剤>
(B−4)ポリオキシエチレン(6)ラウリルエーテル〔エマルゲン106、花王(株)製〕
(B−5)ポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル〔エマルゲン120、花王(株)製〕
(B−6)ラウリルグリコシド〔マイドール12、花王(株)製〕
(B−7)デシルグリセリンモノカプリレート〔SYグリスターMCA750、阪本薬品工業(株)製〕
(B−8)ソルビタンモノラウレート〔レオドールSP−L10、花王(株)製〕
(B−9)ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノラウレート〔レオドールTW−L106、花王(株)製〕
(B−10)ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート〔レオドールTW−L120、花王(株)製〕
【0036】
成分(A)又は(A’)を1重量%に固定し、成分(B)を1重量%、3重量%、6重量%及び10重量%から選ばれる濃度とし、残部をイオン交換水で有効分重量配合した。配合物はミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を用いて、成分(A)又は(A’)として100ppmに希釈したものを24穴マイクロプレート〔旭テクノグラス(株)製)に2mL量りとった。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、セラチア菌(Serratia marcescens NBRC12648)、クレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)をそれぞれ大豆−カゼイン ダイジェスト アガー(Soybean-Casein Digest Agar)〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて、37℃、24時間前培養してコロニー形成したものから極少量の菌塊を、滅菌済みの竹串を用いて前述のマイクロプレート内の試験溶液に接種した。これを37℃、48時間培養後に培養液を廃棄してマイクロプレート壁に付着したバイオフィルムの形成状態を目視によって観察した。バイオフィルムの状態は、バイオフィルムがプレート壁面の0〜20%未満を覆う状態を◎、20%以上40%未満を覆う状態を○、40%以上60%未満を覆ったものを△、60%以上を覆ったものを×とした。
結果を表1−1〜1−2に示す。
【0037】
【表1−1】

【0038】
【表1−2】

【0039】
実施例2:大容量プラスチックカップ内へのバイオフィルム産生低減試験
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)をSoybean-Casein Digest Agar〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて37℃、24時間前培養した。培地上に発育したコロニーを掻きとり、10mM滅菌リン酸バッファー(pH7.2)に懸濁した後、5,000×g、15分、10℃の条件で2回遠心洗浄し、再度10mM滅菌リン酸バッファー(pH7.2)に懸濁して、菌の濃度を600nm吸光度で1.0(OD600=1.0)に調整した菌液を作製した。その後、200mL滅菌スクリューカップ〔栄研器材(株)製)の中にミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を100mL及び実施例1から選ばれた試験薬剤15種類を投入してよく混合し、成分(A)又は(A’)としての濃度を5ppm、10ppm、50ppm、100ppm又は500ppmに調整した後、前述の調製済み菌液を0.1mL接種した。更にコントロールとして、薬剤未添加のミューラーヒントン培地に前述同様に細菌を接種した試験区を同時に設けた。
これらを37℃にて静置培養し、1日、2日、3日、及び5日後の時点で培養液中の菌数測定とカップ内に形成したバイオフィルムの目視観察を行った後、10,000×g、30分、5℃の条件で遠心分離して沈殿物を取り出し、真空デシケーターで24時間乾燥させた後、秤量して、培養液中に産生されたバイオフィルムの重量とした。尚、バイオフィルムの生成状態は、バイオフィルムがカップ内に確認されないものを○、バイオフィルムがカップ内の気液界面に生成しはじめた状態を△、バイオフィルムが気液界面から培養液中に至るまで生成している状態を×と判定した。
結果を表2−1〜2−2に示す。
【0040】
【表2−1】

【0041】
【表2−2】

【0042】
上記結果から、本発明品はバイオフィルムの生成を有効に抑制できることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示す。)
で表される化合物を含有するバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項2】
更に、(B)成分として界面活性剤を含有する請求項1記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項3】
(B)界面活性剤が陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上である、請求項2記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法。
【請求項5】
バイオフィルム生成抑制剤組成物と微生物との接触が連続して行なわれる請求項4記載のバイオフィルムの生成を抑制する方法。
【請求項6】
バイオフィルム生成抑制剤組成物の使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10,000ppmである請求項4又は5記載のバイオフィルムの生成を抑制する方法。

【公開番号】特開2008−100965(P2008−100965A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286351(P2006−286351)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】