説明

バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を分散する方法

【課題】本発明の課題は、バイオポリマーナノ粒子の凝集体の形態であるバイオポリマーナノ粒子粉体を、標準的な混合装置によって、効率良くかつ完全に水中に分散する方法を提供することであり、これは、紙塗工用バイオラテックスバインダーとして好適である。また、本発明の課題は、上記分散液を塗工することにより優れた印刷適性を備えた印刷用塗工紙を提供することにある。
【解決手段】本発明により、バイオポリマーナノ粒子の水分散液の調製方法であって、メカニカルミキサーによって60℃以下の水中でバイオポリマーナノ粒子凝集粉体を、動的光散乱法で測定した平均粒子径が400〜1000nmになるまで攪拌すること、さらに3分以上攪拌を継続して、バイオポリマーナノ粒子の動的光散乱法で測定した平均粒子径が50〜400nmである分散液を得ること、を含む上記方法、および、その方法で調製したバイオポリマーナノ粒子分散液を配合した顔料を主成分とする塗工液を塗工した印刷用塗工紙が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を、メカニカルミキサーによって、水に効率良くかつ完全に分散する方法、および、その分散液を配合した顔料を主成分とする塗工液を塗工した印刷用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりなどにより、近年、石油系の合成材料でなく、生分解性に優れたバイオ材料が注目を集めている。その中でも澱粉系材料を原料とするポリマーが接着剤として注目されている。
【0003】
特許文献1には、押出プロセスによってバイオポリマーナノ粒子を調製する方法が記載されている。この場合、バイオポリマー、例えば、デンプンまたはデンプン誘導体またはそれらの混合物が、架橋剤の存在下、高剪断力のもとで処理される。特許文献1には、デンプンナノ粒子、前記ナノ粒子の水性分散物が記載され、さらに、水性媒体で膨潤し、浸漬後に低粘度の分散物となる上記プロセスで調製された押出物が記載されている。このようにして得られたデンプン粒子は、粒径分布が狭く、粒子径が400nmナノメートル未満、特に200nmナノメートル未満と記載されており、その粘度によってさらに特定されている。特許文献1では、デンプンナノ粒子について、接着剤用途を始めとする種々の用途が言及されているが、それらの用途は実証されておらず、また、具体的な開示はない。
【0004】
また、特許文献1に記載されたようなバイオポリマーナノ粒子については、以下のような用途が提案されている。すなわち、製紙用スラリーへのウェットエンド添加剤または紙の表面サイズ剤としての用途(特許文献2)、顔料塗工紙におけるバインダーとしての用途(特許文献3)、環境に優しい接着剤としての用途(特許文献4)、段ボール製造用接着剤としての用途(特許文献5)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO00/69916
【特許文献2】米国特許第7160420号
【特許文献3】米国特許第6825252号
【特許文献4】米国特許第6921430号
【特許文献5】米国特許公開2004/0241382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、バイオポリマーナノ粒子の凝集体の形態であるバイオポリマーナノ粒子粉体を、標準的な混合装置によって、効率良くかつ完全に水中に分散する方法を提供することであり、これは、紙塗工用バイオラテックスバインダーとして好適である。また、本発明の課題は、上記分散液を塗工することにより優れた印刷適性を備えた印刷用塗工紙を提供することにある。
【0007】
特許文献1に記載されるようなバイオポリマーナノ粒子の凝集粉体は、それを完全かつ効率的に水中に分散することが難しく、技術の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、バイオナノ粒子の凝集粉体を特定の方法で分散することによって水中に良好に分散できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明により、バイオポリマーナノ粒子の水分散液の調製方法であって、メカニカルミキサーによって60℃以下の水中でバイオポリマーナノ粒子凝集粉体を、動的光散乱法で測定した平均粒子径が400〜1000nmになるまで攪拌すること、さらに3分以上攪拌を継続して、バイオポリマーナノ粒子の動的光散乱法で測定した平均粒子径が50〜400nmである分散液を得ること、を含む上記方法が提供される。
【0009】
さらに本発明者は、上記方法で調製したバイオポリマーナノ粒子分散液を、顔料塗工液にバインダーとして配合すると、表面強度、曲げこわさ、オフ輪印刷時の耐ブリスター性に優れる顔料塗工紙が得られることを見出した。すなわち、本発明によって、上記方法で調製したバイオポリマーナノ粒子分散液を含む顔料塗工液を塗工した印刷用塗工紙が提供される。
【0010】
すなわち、本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
(1) バイオポリマーナノ粒子の水分散液の調製方法であって、アルカリ性物質を添加した60℃以下の水中で、バイオポリマーナノ粒子凝集体を、メカニカルミキサーによって、動的光散乱法で測定した平均粒子径が400〜1000nmになるまで攪拌すること、さらに3分以上攪拌を継続して、バイオポリマーナノ粒子の動的光散乱法で測定した平均粒子径が50〜400nmである分散液を得ること、を含む、上記方法。
(2) 前記ミキサーが、タービンミキサーである、(1)に記載の方法。
(3) バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を水へ混合する際に前記アルカリ性物質を添加して、分散液のpHが7.5〜11になるように調整する、(1)に記載の方法。
(4) バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を水へ混合する際に、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体の乾燥重量に対して0.1〜5重量%の苛性ソーダまたは0.2〜10重量%の炭酸水素ナトリウムまたは0.1〜5重量%の炭酸ナトリウムまたは0.2〜10重量%の水酸化アンモニウムを前記アルカリ性物質として添加して、分散液のpHが7.5〜11になるように調整する、(3)に記載の方法。
(5) バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体が、架橋剤の存在下でせん断力をかけることによって、澱粉または澱粉誘導体または少なくとも50重量%の澱粉を含有するポリマー混合物を可塑化して製造された生体高分子である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) (1)〜(5)のいずれかの方法で調製されたバイオポリマーナノ粒子分散液を含有する、顔料を主成分とする塗工液を、木材繊維を主成分とする原紙上に塗工した塗工紙。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を効率良くかつ完全に水中に分散させることができる。また、本発明により、表面強度および曲げこわさ、オフ輪印刷時の耐ブリスター性が優れた塗工紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、驚くべきことに、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体(例えば、国際公開WO00/69916に記載の澱粉ナノ粒子)を特定の方法で分散することによって、効率よく水性分散液を調製できることを見出し、さらに、このバイオポリマーナノ粒子の分散液が、塗工紙の顔料塗工層に用いる接着剤(バインダー)として極めて好適であることを見出した。
【0013】
一般に塗工紙の製造においては、木材繊維から主に構成される原紙上に、顔料塗工液を塗工して顔料塗工層を設ける。この際、顔料塗工液には、顔料と接着剤が配合される。塗工紙の塗工層に用いる接着剤には、ある程度の強度としなやかさ、さらには塗工液に配合した際に塗工に適した液体特性となることが要求される。そして、このような接着剤として現在では、石油系原料が合成されたラテックスが塗工紙の顔料塗工用接着剤として広く用いられている。
【0014】
バイオポリマーナノ粒子
本発明で用いるバイオポリマーは、デンプンなどの植物性高分子を原料とするものであって、後述するように、架橋剤の存在下で剪断力(シェア)をかけて得られるものである。このようなバイオポリマーは、ナノレベルの粒径を有しており(バイオポリマーナノ粒子)、それらは、その粒径分布、分散特性、薄膜形成特性、および乾燥挙動にもよるが、塗工紙の顔料塗工用接着剤として好適なラテックス特性を有する。
【0015】
様々なバイオポリマーが、様々な理由から注目されている。これらのバイオポリマーは直ちに使用でき、長期的な安定性が高い。また、バイオポリマーは、石油系の原料ではなく、再生可能な資源を原料とするため、環境的にも有利である。さらに、バイオポリマーは、通常のデンプン接着剤と比べて、その粘度が低く、ハンドリングが容易で現場での作業性に優れる。したがって、バイオポリマーナノ粒子を塗工紙用バインダーとして用いると、エネルギー節約にも貢献し得る。そして、バイオポリマーは、多くの接着剤用途に用いられる石油系合成ラテックスの代わりに使用できるバイオ型代用物として考えることができる。
【0016】
このようなバイオポリマーは、ナノサイズの粒子であるが、製品としては、ナノ粒子が凝集した粉体の形態で流通されることがある。バイオポリマーナノ粒子は、典型的にはナノメートルのサイズ範囲にあるが、マイクロメートルのサイズ範囲にあることもまた可能である。バイオポリマーの分散液は粘度が比較的低いため、高い固形物含有量で調製することができ、分散液は安定で、乾燥が早く、そして溶媒を使用することなく、環境に優しい媒体(水)を使用して調製されるので注目されている。
【0017】
一般に、澱粉などの天然高分子は、貯蔵安定性が非常に悪いために、使用が制限されてきた。水性バイオポリマー分散物の貯蔵安定が短い理由には2つある。(1)澱粉接着剤の溶液およびペーストはゲル化または劣化する傾向が強く、数時間または数日しか安定に存在しないこと;そして、(2)水におけるデンプン接着剤は、菌類および細菌に対して良好な増殖培地となってしまうこと、である。そのため、学校の工作などで用いられるのり(学校用接着剤)としては、乾燥が早く、6ヶ月を越える貯蔵安定性を有する白色のポリ酢酸ビニルラテックスが慣用されている。
【0018】
本発明者は、バイオポリマーナノ粒子(例えば、特許文献1および国際公開WO00/40617に記載の方法で調製されるようなバイオポリマーラテックス)が、石油資源を原料とする合成接着剤よりも優れた接着剤特性を有することを発見した。しかし、上記の2つの課題が具体的に解決されていないならば、これらのバイオポリマーの安定性は依然として数日または数週間に制限され、その応用範囲が限定されてしまう。しかし、例えば、特許文献1に示されるように、高アミロペクチン型デンプン(95%を越えるアミロペクチン、5%未満のアミロース)を原料として架橋処理を行ってナノ粒子を形成させると、長期間にわたって安定なバイオポリマーを得ることができる。なお、澱粉の種類はトウモロコシ澱粉(コーンスターチ)が好ましい。また、菌類または細菌の生育を防止するためには、好適な非毒性の殺生物剤配合物を添加することも有効である。
【0019】
高アミロペクチン型デンプンと、(ヒトに対して)非毒性の好適な殺生物剤との組合せにより、6ヶ月を越える貯蔵安定性を有する100%生分解性の接着剤を実現することができた。6ヶ月超の貯蔵安定性を有し、安全かつ100%生分解性の接着剤(すなわち、ゲル化または劣化または微生物増殖がない)を提供するために、高アミロペクチンデンプンのナノ粒子と、好適な非毒性殺生物剤とを組み合わせることは、好適である。さらに、デンプンナノ粒子に基づく接着剤の紙結合性は、ポリ酢酸ビニルラテックスと比較して優れていることが見出された。すなわち、本発明のバイオポリマーナノ粒子分散液を顔料塗工の接着剤として用いると、表面強度、曲げこわさ、オフ輪印刷時の耐ブリスター性に優れる顔料塗工紙が得られる。
【0020】
本発明のバイオポリマーナノ粒子の凝集粉体は、特許文献1に記載されているように製造することができる。例えば、デンプンおよび他の多糖類(セルロース、ヘミセルロースおよびゴムなど)ならびにタンパク質(例えば、ゼラチン、ホエータンパク質)などのバイオポリマーに対し、架橋剤の存在下で剪断力(シェア)をかけてバイオポリマーを処理することによって、ナノ粒子を得ることができる。このようなバイオポリマーは、例えば、カチオン性基、カルボキシメチル基で、アシル化、リン酸化、ヒドロキシアルキル化、酸化などによって予め修飾してもよい。デンプン、デンプンと他の(バイオ)ポリマーとの混合物(少なくとも50%のデンプンを含有する)が好ましい。特に好ましいものは、高アミロペクチンデンプン(すなわち、低アミロースデンプン)、すなわち、75%以上、特に90%以上のアミロペクチン含量を有するデンプンであり、例えば、ワキシーデンプンなどである。バイオポリマーは、好ましくは、乾燥物質含有量が、処理の開始時に50重量%以上、特に60重量%以上である。
【0021】
剪断力による処理は、本明細書中では、機械的な処理を意味する。具体的には、高剪断条件のもと、高温(40℃以上、特に60℃以上で、ポリマーの分解点よりも低く、例えば、200℃以下、特に140℃以下の温度)で行われる押出処理である。剪断は、バイオポリマー1グラムあたり少なくとも100ジュールの比力学的エネルギー(SME)を加えることによって行うことができる。使用する処理装置に応じて、最少エネルギーがより大きくなることがある。また、予めゼラチン化しなかった材料を使用する場合、最少SMEはより大きくなることがあり、例えば、250J/g以上になり、特に500J/g以上になることがある。機械的処理は高温で行うのが好適である。デンプンが原料となる場合、アルカリ性媒体を使用することによって、または、予めゼラチン化したデンプンを使用することによって、処理温度を低くすることができる。機械的処理の際、バイオポリマーは、水または水/アルコール混合物などの水性溶媒に、高濃度、好ましくは50重量%以上で存在する。例えば、5〜150barの圧力を、高濃度での処理を容易にするために加えることができる。可塑剤を、水または水/アルコール混合物に加えて存在させることができ、例えば、ポリオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリグリコール類、グリセロール、糖アルコール類、尿素、クエン酸エステル類など)などの可塑剤をバイオポリマーの5〜40重量%の量で存在させることができる。しかし、水は可塑剤として既に作用し得る。可塑剤(すなわち、水、およびグリセロールなどの他の可塑剤)の総量は、好ましくは15〜50%である。レシチンまたは他のリン脂質またはモノグリセリドなどの滑剤もまた、例えば、0.5〜2.5重量%の量で存在させることができる。酸、好ましくは、固体もしくは半固体の有機酸(マレイン酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、グルコン酸など)、またはアミラーゼなどの炭水化物分解酵素をバイオポリマーの0.01〜5重量%の量で存在させることができる。これらの酸または酵素は、特定のサイズのナノ粒子を製造するプロセスにおいて好都合であると考えられる軽度の解重合を助ける。
【0022】
バイオポリマーラテックスを製造するプロセスにおける重要な工程は、機械的処理の際の架橋である。架橋は、好ましくは可逆的である。すなわち、架橋は、機械的な処理の工程の後で一部またはすべてが切断される。好適な可逆的架橋剤として、低い水分濃度で化学結合を形成し、より大きい水分濃度の存在下で解離または加水分解する架橋剤が挙げられる。この種の架橋により、処理の際に一時的に高粘度となるものの、処理後に粘度が低下する。可逆的架橋剤の例としては、ヘミアセタールを可逆的に形成するジアルデヒドおよびポリアルデヒド、そして酸無水物および混合無水物などがある。好適なジアルデヒドおよびポリアルデヒドには、グルタルアルデヒド、グリオキサール、過ヨウ素酸で酸化された炭水化物類などがある。グリオキサールが、ラテックス粒子を製造するための特に好適な架橋剤である。そのような架橋剤は、単独で、または可逆的架橋剤の混合物として、または可逆的架橋剤と非可逆的架橋剤との混合物として使用することができる。従って、エピクロロヒドリンおよび他のエポキシド類、トリホスフェート類、ジビニルスルホンなどの従来の架橋剤を、多糖バイオポリマーに対する非可逆的架橋剤として使用することができ、これに対して、ジアルデヒド類、チオール試薬類などをタンパク質性バイオポリマーに対して使用することができる。架橋反応は酸または塩基で触媒処理され得る。架橋剤の量は、好都合にはバイオポリマーに関して0.1〜10重量%である。架橋剤は、機械的な処理の開始時に既に存在してもよいが、顆粒状デンプンなどの予めゼラチン化しなかったバイオポリマーの場合、架橋剤は、後で、すなわち、機械的処理の際に加えることが好ましい。
【0023】
機械的に処理された架橋バイオポリマーは、その後、好適な溶媒において、通常、水および/または別の水性溶媒(アルコールなど)において、4〜50重量%の濃度、特に10〜40重量%の濃度にて分散することによってラテックスにされる。分散前に、極低温の粉砕工程を行うことができるが、穏和な加熱を伴う撹拌を行ってもよい。このような処理によって、自発的にラテックスとなるゲル、または、水の吸着によってラテックスとなるゲルが得られる。このような粘度挙動は、混合物の特性を改善するので、バイオポリマー粒子のさらなる用途に利用することができる。必要に応じて、分散したバイオポリマーを、上記した架橋剤または他の架橋剤によってさらに架橋してもよい。
【0024】
分散法
本発明は、バイオポリマーナノ粒子の水分散液の調製方法に関する。具体的には、本発明では、アルカリ性物質を添加した60℃以下の水中で、バイオポリマーナノ粒子凝集体を、メカニカルミキサーによって、動的光散乱法で測定した平均粒子径が400〜1000nmになるまで攪拌し、さらに3分以上攪拌を継続して、バイオポリマーナノ粒子の動的光散乱法で測定した平均粒子径が50〜400nmである分散液を得る。このようにすることによって、分散しにくいバイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を効率的に水中に分散することができる。
【0025】
本発明においてアルカリ性物質とは、水に溶解させるとアルカリ性を示す物質である。例えば、アルカリ金属の水酸化物(例、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アルカリ土類金属の水酸化物(例、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム)などを挙げることができ、さらに具体的には、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウム等のアルカリ金属アルミン酸塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、及び重炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウム等のアルカリ水酸化物、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、及びケイ酸カリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩、並びに、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類等を挙げることができる。最も好適には、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体の乾燥重量に対して0.1〜5重量%の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)または0.2〜10重量%の炭酸水素ナトリウムまたは0.1〜5重量%の炭酸ナトリウムまたは0.2〜10重量%の水酸化アンモニウムをアルカリ性物質として使用することができる。
【0026】
本発明においてアルカリ性物質の添加時期は特に制限されず、例えば、水中またはバイオポリマーに予め添加してもよいが、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を水へ混合する際にアルカリ性物質を添加することが好ましい。また、アルカリ性物質の添加量も系に応じて調整すればよいが、分散液のpHがアルカリ域になるように添加するのが好ましく、分散液のpHが7.5〜11、より好ましくはpH8.0〜11になるように添加するのがより好ましい。酸性領域ではバイオポリマーの分散性が著しく劣り、完全分散まで時間がかかるため、アルカリ性領域で分散することが好ましい。
【0027】
また、バイオポリマーナノ粒子を分散させる液体は、60℃以下の温度であることが好ましい。60℃を超えると強度発現レベルが低下する場合があるためである。
本発明においては、メカニカルミキサーを用いてバイオポリマーナノ粒子を水中に分散させる。メカニカルミキサーは、剪断力が高いものが分散を早くできるが、本発明においては、剪断力が低いミキサーでも効率的に分散できる方法を見出した。また、メカニカルミキサーとしては、特に限定されないが、容器内にプロペラ状の攪拌子を装着させ、攪拌子を回転させることで攪拌を行うタイプの他、容器自体を回転させることで攪拌を行うタイプでもよい。本発明においては、容器内にプロペラ状の攪拌子を装着させ、攪拌子を回転させることで攪拌を行うタイプであるタービンミキサーやコーレスミキサーが好ましい。攪拌子を回転させることで攪拌を行うタイプのミキサーの場合、攪拌子の形状、攪拌翼の数は特に限定されない。例えば、上下2段に三枚羽根のついたインペラー式攪拌機などを使用することができる。攪拌機の回転数は、50Hzで1分間に10〜2000回転程度のものを使用することができる。
【0028】
さらに、本発明においては、動的光散乱法で測定した平均粒子径が400〜1000nmになるまで攪拌し、さらに3分以上攪拌を継続して、分散液を抜き取り、測定しながらバイオポリマーナノ粒子の動的光散乱法で測定した平均粒子径が50〜400nmとなるように分散液を調製する。本発明においては、攪拌しながら平均粒子径をモニタリングしてもよい。
【0029】
400〜1000nmになった後の攪拌は、3分間以上であり、平均粒子径が最終的に50〜400nmとなれば特に限定されない。例えば、インペラー式の攪拌機で、回転数200rpmで10分以上がより好ましい。
【0030】
本発明においては、400〜1000nmになった後の攪拌で、平均粒子径を最終的に50〜400nmとするが、平均粒子径が200nm未満であると表面強度、耐ブリスター性、曲げこわさなどの諸性能が向上するため、より好ましい。
【0031】
塗工紙
上記のようにして得られたバイオポリマーナノ粒子の水性分散液は、塗工紙の顔料塗工液に配合する接着剤として極めて好適である。すなわち、上記のバイオポリマーナノ粒子の水性分散液は、比較的高濃度でも低粘度であるため、塗料として扱いやすい。また、上記のバイオポリマーナノ粒子の水性分散液を顔料塗工層に配合することによって、得られる顔料塗工紙の表面強度、曲げこわさ、オフ輪印刷時の耐ブリスター性が向上する。このような効果は、従来技術から当業者が予測できるものではなく、驚くべきものである。
【0032】
本発明においては、木材繊維を主体とするものであれば原紙は特に制限されず、種々の原紙を用いることができる。また、塗工液について、配合する顔料の種類や量などは特に制限されない。各種添加剤を添加することも自由であり、また、バイオポリマーナノ粒子以外の接着剤を併用することも可能である。その他、塗工方式、塗工量、乾燥方式なども特に制限されず、公知の方法を本発明に適用することができる。
【実施例】
【0033】
以下の実施例により本発明を説明するが、実施例は本発明を決して限定するものではない。特に断らない限り、部は100重量あたりの乾燥部を示し、%は重量%を示す。バイオポリマーナノ粒子分散液の平均粒子径および得られた印刷用塗工紙を、以下に示す評価法によって試験した。
【0034】
〈評価方法〉
(1)バイオポリマーナノ粒子の平均粒子径:動的光散乱法装置(Malvern社製ゼータサイザーナノゼータサイザー3000HSA)を用いて粒子の体積粒径分布を測定した。測定はナノ粒子分散液(0.5固形分%)を用いて行った。粒径は、体積累積分布が50容積%となるときに平均粒子径とした。
(2)耐ブリスター性:東芝社製オフセット輪転印刷機B2T600を使用し、印刷途中にドライヤー乾燥温度をブリスターが発生するまで上昇させ、ブリスターが発生した時の紙面温度をブリスター発生温度とした。また、得られた印刷物の表面状態を以下の基準により外観検査した。◎:極めて良好、○:良好、△:並、×:劣る
(3)ISO曲げこわさ:L&Wベンディングテスター(Lorentzen&Wettre社製)を用いて、ISO2493に基づいて15°の曲げ抵抗値から曲げこわさを算出した。
(4)表面強度:ローランドオフセット平判印刷機(2色)に平判印刷用インキ(東洋インキ製造株式会社製ハイユニティーネオM)を用いて、A3サイズの版で印刷速度8000枚/時間にて印刷用塗工紙に印刷した。以下の基準に基づいて得られた印刷物の表面のピッキング強度を外観から評価した。◎:極めて良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る
実施例1
バイオポリマー(BP)ナノ粒子凝集粉体(ECOSPHERE(登録商標)92202、ECOSYNTHETIX社製)を、0.5重量%(バイオポリマーナノ粒子の重量基準)の水酸化ナトリウムを溶解した50℃の水に、濃度30%となるように投入し、タービンミキサー(3枚羽を上下2段に有するインペラー式撹拌機、攪拌層:3m)を使用し、220rpmで30分間攪拌した。30分間攪拌後、目視でダマ等は確認できず、動的光散乱法で測定した平均粒子径は400nmであった。この状態からさらに220rpmで15分攪拌を続けた。攪拌後に動的光散乱法で測定した平均粒子径は250nmであった。得られたバイオポリマーナノ粒子の分散液のpHは、8.5であった。
【0035】
このようにして得られたバイオポリマーナノ粒子の分散液を配合した塗工液を調製した。この塗工液は、重質炭酸カルシウム70部(ファイマテック社製FMT−97)、微粒クレー30部(KaMin社製ハイドラグロス)、接着剤として全顔料に対して、バイオポリマーナノ粒子分散液11部、さらにリン酸エステル化デンプン4部(日本食品化工社製MS−4600)を含有し、固形分濃度が64%だった。
【0036】
かくして調製された塗工液を坪量45g/mの上質原紙にブレードコータで塗工量片面あたり12g/mになるように塗工速度1200m/分で両面塗工した。さらにスーパーカレンダで処理温度65℃、処理線圧200kN/m、4ニップの条件で表面処理して印刷用塗工紙を得た。
【0037】
実施例2
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、撹拌機で220rpmで30分間攪拌した後に、さらに3分攪拌した(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は340nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0038】
実施例3
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、撹拌機で220rpmで30分間攪拌した後に、さらに1時間攪拌した(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は200nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0039】
実施例4
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、バイオポリマーナノ粒子に対し0.5重量%の苛性ソーダの代わりに、バイオポリマーナノ粒子に対し1.0重量%の炭酸水素ナトリウムを添加した水を用いた(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は255nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。得られたバイオポリマーナノ粒子の分散液のpHは、7であった。
【0040】
実施例5
バイオポリマーナノ粒子分散液を11部配合する代わりに、接着剤としてバイオポリマーナノ粒子を5.5部、平均粒子径100nmのスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(JSR社製、NP−100B)を5.5部配合した塗工液を用いた以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0041】
実施例6
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、撹拌機で220rpmで30分間攪拌した後に、さらに20分攪拌した(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は190nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0042】
実施例7
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、撹拌機で220rpmで30分間攪拌した後に、さらに30分攪拌した(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は130nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0043】
実施例8
0.1重量%(バイオポリマーナノ粒子の重量基準)の水酸化ナトリウムを添加した以外は、実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。得られたバイオポリマーナノ粒子の分散液のpHは、7であり、動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は320nmであった。
【0044】
実施例9
0.1重量%(バイオポリマーナノ粒子の重量基準)の水酸化ナトリウムを添加した以外は、実施例7と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。得られたバイオポリマーナノ粒子の分散液のpHは、7であり、動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は250nmであった。
【0045】
比較例1
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、撹拌機で1500rpmで30分間攪拌するのみとした(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は400nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0046】
比較例2
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、アルカリ性物質を添加しない水を用いた(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は500nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0047】
比較例3
バイオポリマーナノ粒子凝集粉体の分散工程において、水の温度を95℃とした(動的光散乱法で測定した分散液のバイオポリマーナノ粒子の平均粒子径は410nm)以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0048】
比較例4
バイオポリマーナノ粒子分散液の代わりに、接着剤として平均粒子径100nmのスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(JSR社製、NP−100B)を11部配合した塗工液を用いた以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0049】
比較例5
バイオポリマーナノ粒子分散液の代わりに、接着剤としてヒドロキシエチルエーテル化澱粉(HES:Ethylex2005、Tate&Lyle社製)を11部配合した塗工液を用いた以外は実施例1と同様に行い、印刷用塗工紙を得た。
【0050】
以上の結果を表1に示した。
【0051】
【表1−1】

【0052】
【表1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリマーナノ粒子の水分散液の調製方法であって、
アルカリ性物質を添加した60℃以下の水中で、バイオポリマーナノ粒子凝集体を、メカニカルミキサーによって、動的光散乱法で測定した平均粒子径が400〜1000nmになるまで攪拌すること、
さらに3分以上攪拌を継続して、バイオポリマーナノ粒子の動的光散乱法で測定した平均粒子径が50〜400nmである分散液を得ること、
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記ミキサーが、タービンミキサーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を水へ混合する際に前記アルカリ性物質を添加して、分散液のpHが7.5〜11になるように調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体を水へ混合する際に、バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体の乾燥重量に対して0.1〜5重量%の苛性ソーダまたは0.2〜10重量%の炭酸水素ナトリウムまたは0.1〜5重量%の炭酸ナトリウムまたは0.2〜10重量%の水酸化アンモニウムを前記アルカリ性物質として添加して、分散液のpHが7.5〜11になるように調整する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バイオポリマーナノ粒子の凝集粉体が、架橋剤の存在下でせん断力をかけることによって、澱粉または澱粉誘導体または少なくとも50重量%の澱粉を含有するポリマー混合物を可塑化して製造された生体高分子である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法で調製されたバイオポリマーナノ粒子分散液を含有する、顔料を主成分とする塗工液を、木材繊維を主成分とする原紙上に塗工した塗工紙。

【公開番号】特開2011−224477(P2011−224477A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97187(P2010−97187)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(500091070)エコシンセテイツクス インコーポレーテッド (3)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】