説明

バイオマスのガス化触媒及びこの触媒を用いるバイオマスからの水素の製造方法

【課題】比較的安価な金属からなり、タール生成やカーボン蓄積を抑え、比較的穏和な反応条件でバイオマスを好ましくは水素ガスにガス化できる触媒及びこの触媒を用いたバイオマスから水素を工業的に有利に製造できる方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル担時ゼオライトを含有するバイオマスのガス化触媒。好ましくは補助成分としてセリウムを含有する上記触媒。これらの触媒の存在下でバイオマスを熱分解して水素を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスのガス化触媒とくにバイオマスからの水素製造触媒及びこの触媒を用いてバイオマスから水素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油などの化石資源の枯渇が懸念されており、バイオマスや風力・太陽熱などの代替エネルギーが注目されている。一方、水素は燃焼しても温室効果をもたらす二酸化炭素を排出しないことから、水素がクリーンなエネルギー源として注目されている。再生可能な資源であるバイオマスからの水素の製造方法としてガス化が挙げられるが、低温でのガス化はタールなどが副生するため、1000℃程度の高温でのバイオマスガス化が行われている。
【0003】
しかしこの場合、高いエネルギー消費量のため、コストの面での問題がある。反応温度を下げてエネルギー消費を抑えるため、触媒を用いてタールを分解する方法が研究されており、主としてドロマイトなどが触媒に用いられているが、カーボン蓄積による失活などの問題がある(非特許文献1、2参照)。
また、Rh担持触媒を用い、タール生成やカーボン蓄積を防ぐ方法は富重らによって報告されているが(非特許文献3参照)、Rhは高価なため、安価な材料でタール生成やカーボン蓄積を防ぐ触媒の開発が求められている。
【0004】
【非特許文献1】「A. V. Bridgwater, Applied Catalysis A: General, 116,5-47 (1994)」
【非特許文献2】「D. Sutton, B. Kelleher, J. R. H. Ross, Fuel Processing Technology,73, 155-173 (2001)」
【非特許文献3】「富重圭一、国森公夫、触媒 (Catalysts &Catalysis)、45(8)、624-629(2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比較的安価な金属からなり、タール生成やカーボン蓄積を抑え、比較的穏和な反応条件でバイオマスをガス化できる触媒、特に水素を効率よく製造し得る触媒及び該触媒を用いたバイオマスから水素を工業的に有利に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、第一に、ニッケル担時ゼオライト触媒を含有することを特徴とするバイオマスのガス化触媒が提供される。
第二に、補助成分としてセリウムが含有されていることを特徴とする第一に記載のガス化触媒が提供される。
第三に、バイオマスがセルロースであることを特徴とする第一又は第二に記載のガス化触媒が提供される。
第四に、上記第一〜第三何れかに記載のガス化触媒の存在下でバイオマスを熱分解することを特徴とする水素の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る触媒は,比較的安価な金属からなり、タール生成やカーボン蓄積を抑え、比較的穏和な反応条件でバイオマスから有効ガス特に水素を効率よく製造することができる。またこの触媒を用いると、副生有機物の発生を少なく,また活性低下も少なくしながら,比較的穏和な反応条件でバイオマスから貴金属系触媒と同程度の効率で水素を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で水素製造時に担体として用いるゼオライトはいかなるものも含まれ、ZSM−5型、Beta型、Mordenite型、USY型、Ferrierite型などが挙げられる。そのシリカ/アルミナ比としては5〜3000の範囲、好ましくは5〜1900の範囲のものである。
【0009】
また、かかる触媒担体は、上記ゼオライトをマッフル炉中で焼成して得る。焼成温度は、300〜800℃、好ましくは500〜600℃、焼成時間は3〜10時間、好ましくは5〜6時間行うのが望ましい。昇温速度は100〜500℃/時、好ましくは200℃〜300℃/時である。
【0010】
上記触媒担体には、タール生成量の抑制、更には触媒上への炭素析出の大幅な抑制を図るためにセリウムを補助成分として添加しておくことが好ましい。
この場合のセリウムとしては、セリウム金属単体及びセリウムを含む化合物のいずれも使用可能であるが、具体的には硝酸セリウム、炭酸セリウム、塩化セリウム、シュウ酸セリウム、セリウムアセチルアセトナート、硫酸セリウム、などが適宜用いられるが、なかでも、硝酸セリウムを用いることが望ましい。
【0011】
このセリウム担持ゼオライト担体を調製するには、上記したセリウム成分を活性物質としてゼオライト担体に担持させることにより行う。その担持方法としては、定法が用いられ、含浸法、混ねい法、沈殿法、物理混合法、インシピエントウェットネス法などが挙げられる。担体に対し、セリウム担持量は1〜100重量%、好ましくは5〜50重量%である。
【0012】
一晩担持後、120℃のオーブン中で乾燥し、セラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行う。空気の流速は調製する触媒の性質にはあまり影響しないため、特に限定しない。焼成温度は300〜800℃、好ましくは500〜600℃、焼成時間は3〜10時間、好ましくは5〜6時間行うのが望ましい。昇温速度は100〜500℃/時、好ましくは200〜300℃/時である。
【0013】
また、上記ゼオライト担体に活性成分として担持されるニッケルとしては、ニッケル金属単体及びニッケルを含む化合物のいずれも使用可能であるが、具体的には、硝酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、塩化ニッケル、シュウ酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、ニッケルカルボニル、シクロペンタジエニルニッケル、などが適宜用いられるが、なかでも、硝酸ニッケルを用いることが望ましい。
【0014】
本発明に係る触媒を調製するには、上記したニッケル成分を活性物質としてゼオライト担体に担持させることにより行う。その担持方法としては、定法が用いられ、含浸法、混ねい法、沈殿法、物理混合法、インシピエントウェットネス法などが挙げられる。担体に対し、活性物質であるニッケルの担持量は1〜100重量%、好ましくは5〜20重量%である。
【0015】
一晩担持後、120℃のオーブン中で乾燥し、セラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行う。空気の流速は調製する触媒の性質にはあまり影響しないため、特に限定しない。焼成温度は500〜900℃、好ましくは500〜600℃、焼成時間は1〜10時間、好ましくは3〜5時間とする。昇温速度は100〜500℃/時、好ましくは200〜250℃/時である。
【0016】
このようにして得た触媒1gを内径9mmの石英製反応管中央よりやや下部に充填して触媒層を形成する。この場合、触媒層の下流側に石英ウールを充填して反応中に触媒が移動しないようにするのが望ましい。触媒層の上流側には石英ウールは充填してもしなくても構わない。
【0017】
本発明において用いられるガス化(熱分解)の対象となる反応原料は、セルロース、リグニン、木粉、澱粉などのバイオマスであるが、特にセルロースが好ましく使用される。
【0018】
本発明のバイオマスのガス化反応による水素の製造は、酸素の存在が不可欠であるが、他の共存ガスと混合されていても良い。共存ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが望ましい。
【0019】
本発明において、反応温度は特に限定されないが、400〜800℃の範囲、好ましくは500〜600℃である。反応温度が高すぎるとエネルギー消費が高くなり、ひいてはコスト高へとつながり、低すぎると十分なガス化率が得られず、タール生成やカーボン析出が顕著となる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。
【0021】
実施例1
2.2021gの硝酸ニッケルをイオン交換水に溶解させ、この中にH−Beta型ゼオライト担体(商品名:HSZ−930NHA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:27)4gを入れて含浸させ、一晩放置した。ゼオライト担体は含浸前に空気存在下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。一晩放置した後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は700℃、焼成時間は3時間とした。これにより、ニッケルが10重量%含まれるニッケル担持H−Beta型ゼオライト触媒が調製された。
調製したニッケル触媒は、プレスして錠剤とした後、乳鉢などで磨り潰して顆粒状とし、篩を用いて直径0.5〜2mmのものを選別して用いた。
こうして得た触媒1gを内径9mmの石英製反応管中央に充填した。この場合、触媒層の下流側に石英ウールを充填して反応中に触媒が移動しないようにした。上流側にも少量だけ石英ウールを充填した。
原料ガスは窒素/酸素の体積比が90/10混合ガスを用いる。混合ガスの流速は30cm/分とする。活性の測定方法は、500℃で反応を行い、1回の反応につき0.3gのセルロースを反応管上部より投下する方法を用いた。セルロースは反応前にプレスして錠剤とした後、乳鉢などで磨り潰して顆粒状とし、篩を用いて直径0.5〜2mmのものを選別して用いた。
反応によって生成するガスは、ガスバッグで30分間にわたって収集し、ガスクロマトグラフでガス組成を分析した。氷水で冷却した試験管で生成したタールをトラップした。7回反応を行い、その前後のトラップ用試験管の重量の変化から、生成したタール量を比較した。
また、7回反応を行った後の触媒表面に析出している炭素の重量を測定した。測定方法は熱重量分析装置(マックサイエンス、TG DTA 2000)により空気流通下で加熱昇温を行い、炭素の燃焼に伴う重量減少を測定することによった。
本触媒を用いて、1回の反応で得られた水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、その他のガス生成物の生成量を表1の実施例1に示した。ガス生成物の生成量は1回目の反応では少なく、2回目から増加する傾向が見られたので、生成量が安定した5回目の反応の結果を示した。また、7回反応を行った後のタール生成量とタールの色、熱重量分析によって求められた析出炭素の燃焼に伴う重量減少率も同時に表1の実施例1に示した。
ニッケル担持H−Beta型ゼオライト触媒においては、1回の反応で水素1627μmol、一酸化炭素2153μmol、二酸化炭素2642μmol、メタン110μmolが得られ、ガス合計は6691μmolであった。また7回反応を行った結果、0.64gの黄色のタールが得られ、熱重量分析では13.3%の重量減少が認められた。
【0022】
実施例2〜8
実施例1に用いたH−Beta型ゼオライト担体に代えて、それぞれH−Mordenite型ゼオライト担体(商品名:HSZ−640HOA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:18.3)、Na−Mordenite型ゼオライト担体(商品名:HSZ−642NAA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:18.3)、H−ZSM−5型ゼオライト担体(商品名:HSZ−830NHA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:29)、Na−ZSM−5型ゼオライト担体(シリカ/アルミナ比:29)、H−ZSM−5型ゼオライト担体(商品名:HSZ−890HOA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:1900)、USY型ゼオライト担体(商品名:HSZ−360HUA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:14.0)、Na−Y型ゼオライト担体(商品名:HSZ−320NAA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:5.7)を用いて、実施例1と同様にしてニッケル担持ゼオライト触媒を調製した。なお、Na−ZSM−5型ゼオライト担体は、H−ZSM−5型ゼオライト担体(商品名:HSZ−830NHA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:29)を硝酸ナトリウム水溶液中でイオン交換してNa型とした。得られたNa型担体は、吸引濾過した後、120℃のオーブン中で乾燥し、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。
触媒活性の測定も、実施例1と同様にして行った。
測定の結果は、それぞれ表1の実施例2〜8のようになった。実施例7のニッケル担持USY型ゼオライト触媒では水素の生成量が1726μmolと、実施例1のニッケル担持H−Beta型ゼオライト触媒と並んで少なくなった。しかし、他のニッケル担持ゼオライト触媒では、全てが2500〜3500μmolの水素生成量を示した。タールの生成量では、やはり実施例7のニッケル担持USY型ゼオライト触媒が0.58gのタールを生成し、実施例1のニッケル担持H−Beta型ゼオライト触媒と並んで多くなった。あと実施例2のニッケル担持H−Mordenite型ゼオライト触媒ではタール生成量が0.33gと少なくなったが、それ以外のニッケル担持ゼオライト触媒ではタール生成量は0.4〜0.5gの範囲に収まった。生成したタールの色は、実施例3のニッケル担持Na−Mordenite型ゼオライト触媒や実施例8のニッケル担持Na−Y型ゼオライト触媒では茶色であった。実施例4のニッケル担持H−ZSM−5型ゼオライト触媒(シリカ/アルミナ比:29)では透明のタールが得られたが、他の多くのニッケル担持ゼオライト触媒では黄色のタールが得られた。一方、熱重量分析の結果、2〜14重量%の重量減少が見られ、ゼオライトの種類との相関はあまり認められなかった。またガス合計は、概ね7000〜10000μmolであった。
【0023】
実施例1〜8の結果より、透明なタールが得られた実施例4のニッケル担持H−ZSM−5型ゼオライト触媒(シリカ/アルミナ比:29)が特に優れた触媒であると判断した。更に、カーボンの蓄積を抑制するため、ゼオライト担体にセリウムを担持した担体を調製し、それにニッケルを担持した触媒を調製し、その触媒特性についての検討を行った。
【0024】
実施例9〜11
担持量が5重量%、10重量%、30重量%のセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体を用いたニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒をそれぞれ、実施例9、10、11とする。
実施例9のセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体(セリウム:5重量%)は以下のようにして調製した。
0.6524gの硝酸セリウムをイオン交換水に溶解させ、この中にH−ZSM−5型ゼオライト担体(商品名:HSZ−830NHA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:29)4gを入れて含浸させ、一晩放置した。ゼオライト担体は含浸前に空気存在下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。一晩放置した後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。これにより、セリウムが5重量%含まれるセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体が調製された。
実施例10のセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体(セリウム:10重量%)は以下のようにして調製した。
1.3773gの硝酸セリウムをイオン交換水に溶解させ、この中にH−ZSM−5型ゼオライト担体(商品名:HSZ−830NHA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:29)4gを入れて含浸させ、一晩放置した。ゼオライト担体は含浸前に空気存在下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。一晩放置した後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。これにより、セリウムが10重量%含まれるセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体が調製された。
実施例11のセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体(セリウム:30重量%)は以下のようにして調製した。
5.3124gの硝酸セリウムをイオン交換水に溶解させ、この中にH−ZSM−5型ゼオライト担体(商品名:HSZ−830NHA、東ソー社製、シリカ/アルミナ比:29)4gを入れて含浸させ、一晩放置した。ゼオライト担体は含浸前に空気存在下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。一晩放置した後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。これにより、セリウムが30重量%含まれるセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体が調製された。
上記の方法で調整したセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体に、10重量%のニッケルを担持した触媒を調製した。調製は以下のような方法で行った。
2.2021gの硝酸ニッケルをイオン交換水に溶解させ、この中に、ここで得られたセリウム担持H−ZSM−5型ゼオライト担体4gを入れて含浸させ、一晩放置した。その後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は700℃、焼成時間は3時間とした。これにより、ニッケルが10重量%含まれるニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒が調製された。
触媒の前処理、反応条件などは、実施例1〜8と同様にして行った。
測定の結果は、表1の実施例9〜11のようになった。
実施例9、10、11における水素生成量はそれぞれ、2774μmol、2880μmol、2780μmolとなり、H−ZSM−5型ゼオライト担体にセリウムを担持させることによって、水素生成量に大きな変化は見られなかった。しかし、合計ガス量はそれぞれ、9321μmol、9910μmol、10315μmolとなり、セリウム担持量の増加にともない、合計ガス量は増加した。また、いずれも生成するタールは透明なままで、7回反応後のタール生成量はそれぞれ、0.37g、0.41g、0.31gとなり、セリウム担持量の増加にともない、タール生成量は若干減少する傾向が見られた。一方、熱重量分析による重量減少はそれぞれ、8.44重量%、6.50重量%、1.52重量%となり、セリウム担持量の増加にともない減少する傾向が顕著に見られた。
これらの結果から、触媒担体にH−ZSM−5型ゼオライト(シリカ/アルミナ比:29)を用いることによって色の濃いタールの生成を抑制できること、ゼオライト担体にセリウムを担持した担体を用いることによってタール生成量をある程度抑制し、更に触媒上への炭素析出を大幅に抑制できることが分かり、優れた水素製造触媒を調製する指針が得られたと考えられる。
【0025】
比較例として、ゼオライト以外の金属酸化物に30重量%のセリウムを担持した担体を調製し、それに10重量%のニッケルを担持した触媒を調製し、その触媒特性についての検討を行った。
【0026】
比較例1、2
担体にシリカ(富士シリシア、CARiACT−G10)、ジルコニア(日揮)を用いた他は、実施例11と同様の触媒を調製し、同様の反応を行った。
測定の結果は、それぞれ表1の比較例1、2のようになった。
水素生成量は比較例1のニッケル/セリウム/シリカ触媒では2358μmol、比較例2のニッケル/セリウム/ジルコニア触媒では1962μmolとなり、実施例9〜11のニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒と比べて少なくなった。また合計ガス量もそれぞれ、6322μmol、6024μmolと、実施例9〜11よりかなり少なくなった。ニッケル/セリウム/シリカ触媒とニッケル/セリウム/ジルコニア触媒のいずれにおいても色の濃いタールが得られ、セリウム担持シリカやセリウム担持ジルコニアがこの反応においてはガス化効率はあまり優れていないことが分かる。
【0027】
既に報告例のあるロジウム系触媒も調製して反応を行い、ニッケル系触媒との差についての検討も行った。
【0028】
比較例3
5.3124gの硝酸セリウムをイオン交換水に溶解させ、この中にシリカ(富士シリシア、CARiACT−G10)4gを入れて含浸させ、一晩放置した。シリカ担体は含浸前に空気存在下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。一晩放置した後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は500℃、焼成時間は6時間とした。これにより、セリウムが30重量%含まれるセリウム担持シリカ担体が調製された。
0.3201gのアセチルアセトンロジウムをアセトンに溶解させ、その中に、ここで得られたセリウム担持シリカ担体4gを入れて含浸させ、一晩放置した。その後、120℃のオーブン中で乾燥し、前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製の焼成管中、空気流通下で焼成を行った。焼成温度は700℃、焼成時間は3時間とした。これにより、ロジウムが2重量%含まれるロジウム/セリウム/シリカ触媒が調製された。
触媒の前処理、反応条件などは、実施例1〜11、比較例1、2と同様にして行った。
測定の結果は、表1の比較例3のようになった。水素生成量は3997μmol、合計ガス量11798μmol、タール生成量0.30g、熱重量分析による重量減少は0.94重量%となり、実施例11のニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒(セリウム:30重量%)は、水素生成量に関してはロジウム/セリウム/シリカ触媒よりも劣るものの、タール生成やカーボン析出の抑制においては、ロジウム系と遜色ない特性を有していることが分かった。
【0029】
反応温度を600℃に上げた場合の結果についても検討した。
【0030】
実施例12〜19
活性の測定において、600℃で反応を行った他は、実施例1〜11と同様にして行った。
結果はそれぞれ、表2の実施例12〜19のようになった。
水素生成量はいずれの触媒でも4200〜4700μmolの範囲内に収まり、ゼオライト担体の種類による違いは殆ど見られなかった。また合計ガス量も、11000〜13000μmolの範囲内に収まった。タールの色は透明もしくは黄色で、生成量も0.3〜0.4gの範囲内に収まり、ゼオライト担体の種類による違いは殆ど見られなかった。熱重量分析による重量減少においては、ニッケル担持Na−Mordenite型ゼオライト触媒では0.63重量%、ニッケル担持Na−Y型ゼオライト触媒では1.78重量%と少なくなったが、他のニッケル担持ゼオライト触媒では2〜4重量%となった。
【0031】
実施例20〜22
ニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒において、600℃で反応を行った他は実施例9〜11と同様にして活性の測定を行った。
結果はそれぞれ、表2の実施例20〜22のようになった。
セリウム担持量が5重量%、10重量%、30重量%での触媒における水素生成量はそれぞれ、4423μmol、4068μmol、3861μmolとなり、600℃ではセリウム担持量の増加にともない水素生成量の低下が認められたが、合計ガス量は12843μmol、12917μmol、12885μmolと、横ばいであった。一方、生成するタールは透明なままで、タール生成量はセリウム担持量の増加にともない若干減少する傾向が見られた。一方、熱重量分析による重量減少は500℃の場合と同様、セリウム担持量の増加にともない減少する傾向が顕著に見られた。
【0032】
比較例4、5
活性の測定において、600℃で反応を行った他は、比較例1、2と同様にして行った。
結果はそれぞれ、表2の比較例4、5のようになった。
水素生成量は、比較例4のニッケル/セリウム/シリカ触媒では3783μmol、比較例5のニッケル/セリウム/ジルコニア触媒では3306μmolとなり、実施例20〜22のニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒と比べて僅かな差ながら少なくなった。また合計ガス量はそれぞれ、9860μmol、8953μmolであり、ゼオライト系よりかなり少なくなった。タール生成においては、ニッケル/セリウム/シリカ触媒では透明なタールが得られ、ニッケル/セリウム/ジルコニア触媒では黄色のタールが得られた。以上の結果より、反応温度を600℃に上げても、依然、セリウム担持ゼオライト担体の方が優れていると言える。
【0033】
比較例6
活性の測定において、600℃で反応を行った他は、比較例3と同様にして行った。
結果は表2の比較例6のようになった。
水素生成量は3817μmol、合計ガス量は13107μmol、タール生成は透明のタールが0.21g、熱重量分析による重量減少も0.13重量%であった。500℃の場合と同様、実施例22のニッケル/セリウム/H−ZSM−5型ゼオライト触媒(シリカ/アルミナ比:29)(セリウム:30重量%)はロジウム系に匹敵する性能を示すことが分かった。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル担時ゼオライト触媒を含有することを特徴とするバイオマスのガス化触媒。
【請求項2】
補助成分としてセリウムを含有することを特徴とする請求項1に記載のガス化触媒。
【請求項3】
バイオマス類がセルロースであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス化触媒。
【請求項4】
請求項1〜3何れかに記載のガス化触媒の存在下でバイオマスを熱分解することを特徴とする水素の製造方法。

【公開番号】特開2006−122841(P2006−122841A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316705(P2004−316705)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月27日 触媒学会発行の「第94回触媒討論会 討論会A予稿集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】