説明

バイオマス連続乾式ガス化プラント

【課題】従来のプロセスにおける嫌気発酵槽入り口における含水率を調整するための、好気発酵産出物の一部を環流する操作を不要化し、当該環流に伴う処理量の増大と装置ユニットの大型化、系内のエネルギー消費が大きい等の諸問題を解決する。また、好気発酵乾燥糟における脱水・乾燥・加温機能を強化することにより、装置を小型化する。
【解決手段】好気発酵乾燥糟を前段に嫌気発酵槽を後段に配置して、好気発酵乾燥槽からの産出物を原則として全量、嫌気発酵槽へ投入する。このプロセスを採用することにより、上記の環流によらなくても、嫌気発酵槽内の含水率を70wt%以下に抑える条件を無理なく実現することができる。また、好気発酵乾燥糟に内容物を掬い上げ槽内に散布するための、多数の攪拌補助羽根の列を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ゴミ・有機性廃棄物等、高含水率のバイオマスを嫌気性メタン発酵させて可燃性ガスを回収するに際し、処理残渣を出さずに原則全量を原料としてリサイクルするバイオマス連続乾式ガス化プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家畜排泄物等流動状の生物系廃棄物の処理は、メタン菌の力を借りる嫌気発酵により行われ、発生ガスは燃料に、発酵残渣は肥料として用いられてきた。メタン発酵には嫌気性環境が必要であるが、その環境は素材を大量の水に浸漬して酸素を遮断する湿式(または水封式)で実現される。この場合は発酵残渣と水の混合物が得られるから、これをそのまま液肥として消費できる条件があれば好都合である。しかし液肥の用途がない環境では固液分離操作と水処理が必要になる。
【0003】
本願発明者の一名は、原料バイオマスを嫌気性メタン発酵させて可燃性ガスを回収する嫌気発酵槽を前段に、これに直結して嫌気発酵残滓を好気発酵させて堆肥化する好気発酵槽を後段に配置する連続乾式バイオマス・ガス化プラントについて提案し、平成21年に特許を受けた(特許文献1)。本発明は、当該特許発明に対する改良案に相当する。
【0004】
上記特許発明によれば、好気性環境中に嫌気性反応持続塊を生じる危険が排除されて安全運転が確保され、原料バイオマスを水封する必要がなく、そのため嫌気発酵残滓の脱水・廃液処理、及びそのためのフィールド処理が不要となり、プラント周辺に対する大気・水・騒音の各面での悪影響を最小限に留めることができた。
【0005】
特許文献2は、好気発酵を利用して嫌気発酵槽投入前の原料バイオマスを乾燥させる方式について開示する。この方式では、好気発酵工程を利用して原料バイオマスを一旦含水率2%程度まで乾燥させた(〔0051〕)後、液状の嫌気発酵培地に浸した上でメタン発酵させる(〔0040〕)。また、好熱性微生物処理槽の発酵残渣 は、活性汚泥槽などの廃水処理施設に送って処理することが記載されている(〔0029〕)。これらの記載から、特許文献2の発明は、上記特許発明及び下記本発明とは技術思想を異にすると思われる。
【0006】
特許文献3は、原料バイオマスの水分を好気発酵の発酵熱により蒸散させ、含水率を約80%から約55%に減少させた後、トンネル式メタン発酵部においてメタンガスを回収し、メタン発酵残滓を堆肥として外部に取り出す方式について開示する。この方式では、水分蒸散後の原料バイオマスは原則全量がメタン発酵に供され、メタン発酵残滓は原則全量が堆肥として系外へ取り出される点が、上記特許発明及び下記本発明とは異なる技術思想と思われる。
【0007】
【特許文献1】特許第4346035号公報
【特許文献2】特開2004−358400号公報
【特許文献3】特許第4114169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
含水率が85wt%を超えることもある原料バイオマスを嫌気発酵により効率良くメタン化するには、嫌気発酵槽内の含水率を70wt%以下に調整する必要があるため、上記特許発明(特許文献1)では、嫌気発酵槽下流の好気発酵槽で発酵を完了し含水率が30wt%程度に低下した産出物の一部を嫌気発酵槽入り口へ還流する(残りはコンポストとして外部供給)方式を採用した。しかしこの方式では、重量ベースで原料バイオマスの60%にも相当する還流量が必要となる場合があり、処理量が増大して装置全般が大型化し、運転動力も大きいという問題点があった。
【0009】
よって本発明の主たる解決課題は、含水率調整のための上記還流を不要化することができる処理方式、及びこれに適する装置構造について提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
原料バイオマスを脱水・乾燥・加温する手段として、嫌気発酵槽の直前に好気発酵乾燥槽を配置する。
【0011】
上記特許発明の立場はコンポストと可燃性ガスの併産にあった。しかしコンポストの需要はプラントの立地条件によって左右され、必ずしも安定的ではない。
【0012】
一方、好気発酵槽には、発酵条件を整えるため、原料バイオマスに熱風を吹き込んで酸素を供給しつつ脱水・乾燥・加温を行う機能が具わっている。しかし、例えコンポストの需要がなく生産を行わない場合でも、この好気発酵槽の持つ脱水・乾燥・加温機能は決して無駄ではない。この機能を活用すれば、上記特許発明で採用した還流という手段に頼らなくても、バイオマスの含水率を直接制御することができるからである。そのためには、好気発酵槽の役割を見直して、場合によっては好気発酵も行うことができる好気発酵乾燥槽としてこれを嫌気発酵槽の直前に配置すれば良い。かくして上記の課題解決手段に想到した。
【0013】
しかし、上述のように好気発酵槽の役割を好気発酵乾燥槽として見直す場合は、好気性発酵菌に悪影響を及ぼさないよう従来やや控え目にしていた乾燥機能を思い切って強化し、装置の小型化を図ることが望ましい。これが本発明の副次的解決課題となる。
【0014】
上記副次的課題への解決手段は、回転ドラム形をなす好気発酵乾燥槽の内面から、槽の内容物を掬い上げて槽内へ散布する多数の攪拌パドルを配列立設することである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、嫌気発酵槽入り口への乾燥バイオマスの還流が不要となり、処理量が抑えられるので、プロセス機器がコンパクトになり、エネルギー効率が改善された。
【0016】
さらに、好気発酵乾燥槽に上記攪拌パドルを設置したことにより、熱風の水分蒸散効果が向上し、含水率を所定の値まで低下させる時間を短縮できるため、好気発酵乾燥槽のドラム長さを従来より短縮することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施形態1:原料バイオマスを粉砕混合して系内へ連続的に取り入れる粉砕混合送入装置と、胴部を両端のチャンバーに回転自在に支持されて機械的に外気から密封されかつ撹拌手段及び熱風発生手段に接続された強制通気手段を具える横置回転ドラム式好気発酵乾燥槽と、好気発酵乾燥槽の出口から排出物を嫌気発酵槽へ連続的に移送する移送機と、胴部を両端のチャンバーに回転自在に支持されて機械的に外気から密封されかつ撹拌手段及び中空熱交換パイプを備えた横置回転ドラム式嫌気発酵槽と、嫌気発酵槽から発酵残渣を連続的に排出する切出機とを具えてなるバイオマス連続乾式ガス化プラントにおいて、コンポストの需要がある場合は好気発酵槽を通常通り運転して、その産出物の一部又は全部を系外へ供給し、残余があれば嫌気発酵槽へ投入する。
【0018】
実施形態2:逆にコンポストの需要がない場合は好気発酵槽を専ら脱水・乾燥・加温装置として使用する。なおこの場合はバイオマスの原則全量がガス化に充てられる以上に、好気発酵減量が抑制される分(自然発酵により減量はゼロではない)、嫌気発酵でのメタンガス収量が増加する。
【0019】
実施形態3:嫌気発酵槽では含水率が次第に上昇し槽出口で最高含水率となる。そこで好気発酵槽の持つ脱水・乾燥・加温機能を利用する。すなわち、嫌気発酵槽から発酵残滓を取り出して好気発酵糟へ戻して脱水・乾燥を行う。こうすれば、嫌気発酵残滓を外気に触れさせずに処理することができ、悪臭問題を伴う脱水廃液のフィールド処理等を避けることができる。それと共に、嫌気発酵残滓を系外へ排出せず再びガス化に充てるので、原料バイオマスの原則全量をガス化することができる。
【0020】
実施形態4:好気発酵槽は槽内への酸素供給と共に余剰水分の蒸発を促す強制通気ブロワーとガス発電(コジェネ)廃熱との熱交換による熱風発生装置を具え、好気発酵槽内で暖められた空気と水蒸気は集められて嫌気発酵槽内に設けた中空固定軸内へ供給されて嫌気発酵槽内容物を間接加温後に中空固定軸末端から脱臭装置を経て大気放出される。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明の一実施例に係る処理フローを示す簡略ブロック図である。受け入れられた生ゴミはリサイクルされる嫌気発酵残滓と一緒に好気発酵乾燥槽へ投入され、水分が蒸散されて乾燥される。含水率が所定値まで低下したバイオマスは、嫌気発酵槽へ移送されて、メタン発酵されて一部がメタンガスに変換される。メタンガスは燃料としてコジェネ装置へ供給されて電力と廃熱を発生する。
【0022】
図2は、上記処理フローに物質収支を併記した図である。図中の「新規原料」、「嫌気残滓」、「好気発酵乾燥」、「移送」、「嫌気発酵」、「発熱・蒸散」の各ボックス内の数字(kg/day)は、上から順に当該ブロックにおける総処理量、wt(水分量)、ds(乾固物量)で、総処理量=水分量+乾固物量である。本図の物質収支は好気発酵槽から外部へのコンポスト排出量がゼロの前提で作られている。なおこれらの数値は定常運転状態を想定しており、運転開始当初の非定常状態を含まない。
【0023】
先ず、新規生ゴミ原料516.3kgに嫌気残滓143.7kgを加えた合計660kgのバイオマスが好気発酵乾燥槽へ投入され、同槽中で水分が561kgから97.8kgへ463.2kgだけ減少し、乾固物量が好気発酵による炭酸ガス化のため、99kgから80kgへ19kgだけ減少する(減少分の数値は「発熱・蒸散」ボックスに現れている)。好気発酵乾燥槽中のバイオマスの滞留時間は7日間、好気発酵乾燥槽の寸法はφ1.4m×L4.3m→6.6m3、消費電力は0.4kwである。槽内へ吹き込む乾燥用熱風を作るため1,959kcalの廃熱がコジェネ装置から供給される。
【0024】
その結果「移送」ボックスに示すように、処理量177.8kg=水分量97.8kg+乾固物量80.0kgが嫌気発酵槽へ移送される。この時の含水率は55wt%、移送用動力は0.1kwである。
【0025】
嫌気発酵槽では乾固物量が80.0kgから45.9kgへ34.1kgだけ減少する。この減少分がメタンガス化分であり、発生ガス量ボックスに現れている。しかし嫌気発酵槽では水分量は変化しないから乾固物量の減少に伴って含水率が上昇し、嫌気発酵槽出口では最高値68wt%になる。これらが嫌気残滓として好気発酵乾燥槽へ還流され、脱水・乾燥される。嫌気発酵乾燥槽の寸法はφ1.4m×L3.0m→4.6m3、消費電力は0.4kwである。
【0026】
好気発酵乾燥槽へ送入された乾燥用熱風は、「発熱・蒸散」ボックスに示すように、水分(水蒸気)463.2kgと乾固物量19.0kgに相当する炭酸ガスを伴って嫌気発酵槽内に設けられた中空固定軸内へ供給され、嫌気発酵槽内容物を間接加温した後、中空固定軸末端から脱臭装置を経て大気放出される。脱臭装置用動力は0.4kwである。
【0027】
上で見たように、嫌気発酵槽では34.1kgの乾固物量がメタンガス化される。このメタンガスは脱硫装置を経てコジェネ装置へ供給され、10kwの電力と14,000kcalの廃熱を発生させる。本システムが消費する電力は1.7kw、廃熱は1,959kcalだから、差し引き8.3kwの電力と約12,000kcalの廃熱を系外へ供給することができる。
【0028】
図3は、図1の処理フローに示した好気発酵乾燥槽と嫌気発酵槽を抜き出して、概略構造を示した概念的立面図である。
【0029】
好気発酵乾燥槽、嫌気発酵槽の両槽とも、胴部(3)を入り口・出口の両チャンバー(1、2)に回転自在に支持されて機械的に外気から密封され、かつ撹拌手段及び中心固定軸を具える横置回転ドラムからなる。両槽の間は外気から密封された移送機(9)で接続される。また嫌気発酵槽出口には発酵残滓を排出する切出機(10)が設置され、そこから嫌気発酵槽残滓が好気発酵乾燥槽へリサイクルされる。なお、本図では好気発酵乾燥槽における通気ブロワーや熱風発生装置、並びに嫌気発酵槽におけるガスホルダーその他の付属装置の図示を省略した。
【0030】
両槽とも内部に2種類の撹拌手段を具える。第一の撹拌手段は槽の内容物を出口方向へ推進し移動させる送り羽根(7)である。多数の送り羽根(7)は槽の内壁上で螺旋曲線を描いて配列立設され、各羽根が槽の回転に伴って内容物を槽出口へ向かって推進移送する。なお、固定軸(4)には十字形にクロスする固定攪拌羽根(5)が一定間隔で取り付けられており、送り羽根(7)による推進力に抗して槽内容物を攪拌する。
【0031】
第二の撹拌手段は、槽の回転に伴って内容物を掬い上げて槽内へ散布する攪拌補助羽根(6)である。攪拌補助羽根(6)は槽内壁の上下左右の各位置において槽の中心軸に平行な各一列をなして配列立設される。好気発酵乾燥槽内の第二の撹拌手段により、吹き込まれる熱風と槽内容物との接触が良好になり水分蒸散効率が向上する。嫌気発酵槽内の第二の撹拌手段により嫌気発酵進行中のバイオマス塊が砕かれてガスの放散性が良好になり、嫌気発酵残滓への可燃性ガスの随伴が防止され、安全性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、生ゴミ・有機性廃棄物を排出するあらゆる産業、特に農漁業・畜産・食品加工・同販売流通等多くの産業の発達に寄与すると共に、生ごみ処理に当たる自治体等の活動に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例に係るバイオマス連続乾式ガス化プラントにおける処理フローを示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例に係るバイオマス連続乾式ガス化プラントにおける処理フローに物質収支を併記したブロック図である。
【図3】本発明の一実施例に係る好気発酵乾燥槽及び嫌気発酵槽の構造を示す概念的立面図である。
【符号の説明】
【0034】
1:入り口チャンバー
2:出口チャンバー
3:回転ドラム
4:固定軸
5:固定攪拌羽根
6:攪拌補助羽根
7:送り羽根
8:投入口
9:移送機
10:切出機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料バイオマスに嫌気性発酵を行わせてメタン等可燃性ガスを回収するバイオマス連続乾式ガス化プラントにおいて、
原料バイオマスを粉砕混合して系内へ連続的に取り入れる粉砕混合送入装置と、
胴部を両端のチャンバーに回転自在に支持されて機械的に外気から密封され、かつ撹拌手段及び熱風発生手段に接続された強制通気手段を具える横置回転ドラム式好気発酵乾燥槽と、
好気発酵乾燥槽の出口から排出物を嫌気発酵槽へ連続的に移送する移送機と、
胴部を両端のチャンバーに回転自在に支持されて機械的に外気から密封され、かつ撹拌手段及び中空熱交換パイプを備えた横置回転ドラム式嫌気発酵槽と、
嫌気発酵槽から発酵残渣を連続的に排出する切出機とを具え、
前記好気発酵乾燥槽及び嫌気発酵槽が、それぞれの前記撹拌手段として二種類のパドル状羽根を備え、第一の種類の撹拌手段は、多数の羽根が槽内壁上で螺旋曲線を描いて配列立設され、各羽根が槽の回転に伴って内容物を槽出口へ向かって推進移送する形式のもの、第二の種類の撹拌手段は、多数の羽根が槽内壁の上下左右の各位置において槽の中心軸に平行な各一列をなして配列立設され、槽の回転に伴って内容物を掬い上げて槽内へ散布する形式のものであり、
バイオマスを脱水・乾燥・加温する手段として、前記好気発酵乾燥槽が嫌気発酵槽の直前に配置され、嫌気発酵槽出口から取り出した嫌気発酵残滓を好気発酵乾燥槽へリサイクルして再びメタンガス化に供することを特徴とする前記ガス化プラント。
【請求項2】
前記好気発酵乾燥槽は、所望によりその内容物に好気性発酵を行わせてコンポストを生産することが可能である請求項1記載のガス化プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−224500(P2011−224500A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98321(P2010−98321)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(598052632)協和化工株式会社 (2)
【復代理人】
【識別番号】100151471
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 孝雄
【Fターム(参考)】