説明

バイポーラ型半導体装置

【課題】表面欠陥に起因する積層欠陥が生じても、リーク電流を低減でき、最小点弧電流の増大を防止できるバイポーラ型半導体装置を提供する。
【解決手段】n型の半導体基板とその半導体基板上にエピタキシャル成長により順に形成された複数の半導体層とを備えたシリコンカーバイト(SiC)を母材とする主構造体1と、上記主構造体1の半導体層の最上層に形成され、半導体基板のオフ方向に対してストライプ方向(矢印R1)が略直交するメサストライプ部2と、上記メサストライプ部2のメサ2a上に形成されたアノード電極3と、上記半導体基板の裏面に形成されたカソード電極5と、上記メサストライプ部2のメサ2a間に露出する半導体層上に形成されたゲート電極4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バイポーラ型半導体装置に関し、特にシリコンカーバイド(SiC)などのワイドギャップ半導体を用いたバイポーラ型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SiCを用いて製作されたバイポーラ型半導体装置としては、表面に縞状またはストライプ状のメサ加工を施し、そのメサ上にアノード電極を形成したGTO(Gate Turn-off Thyristor;ゲート・ターンオフ・サイリスタ)がある。このようなGTOでは、順方向に電流を通電すると、電子と正孔が再結合するエネルギーにより面状の積層欠陥(stacking fault)がドリフト層中で拡大して、順方向電圧VFが大きくなる「VFドリフト」という現象が発生する。このような積層欠陥の種となる半導体層の欠陥には、基底面転位(BPD;basal Plane Dislocation)と表面欠陥(ハーフループ)がある。
【0003】
この基底面転位に起因する積層欠陥は、メサ端部に到達するまでしか拡大しない性質があるため、アノード電極のストライプ方向と半導体基板のオフ方向を平行にすることにより、積層欠陥の拡大を止めて、「VFドリフト」を低減するバイポーラ型半導体装置が提案されている(例えば、特開2004−335720号公報(特許文献1)参照)。
【0004】
しかしながら、近年は、結晶成長技術の向上により、結晶中の基底面転位密度は低減されてきており、素子製作プロセス中で発生する表面欠陥が問題となっている。この表面欠陥を種とする積層欠陥は、基底面転位と異なり、ドリフト層中を素子端部まで拡大するため、ストライプ方向と半導体基板のオフ方向を平行にしても、表面欠陥を種とする積層欠陥は、ストライプ方向に対して垂直方向に素子端部まで拡大して、電圧を印加したときの電極間のリークパスとなる。このため、ストライプ形状の凸部上に形成されたアノード電極とその凸部の両側に形成されたゲート電極とを有するGTOや、ストライプ形状の凸部に形成されたエミッタ電極とその凸部の両側に形成されたゲート電極とを有するIGBTでは、表面欠陥を種とする積層欠陥はリークパスとなり、最小点弧電流の増大などを引き起こし、素子の信頼性が低下するという問題がある。
【特許文献1】特開2004−335720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明の課題は、表面欠陥に起因する積層欠陥が生じても、リーク電流を低減でき、最小点弧電流の増大を防止できるバイポーラ型半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この発明のバイポーラ型半導体装置は、
半導体基板と、上記半導体基板上にエピタキシャル成長により順に形成された複数の半導体層とを備え、上記半導体基板と上記複数の半導体層がワイドギャップ半導体を母材とするバイポーラ型半導体装置であって、
上記複数の半導体層の上側の少なくとも最上層に形成され、上記半導体基板のオフ方向に対してストライプ方向が略直交するメサストライプ部と、
上記メサストライプ部上に形成された第1電極と、
上記半導体基板の裏面に形成された第2電極と、
上記複数の半導体層のうちの上記メサストライプ部のメサ間の半導体層の露出領域上に形成された制御電極と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記構成のバイポーラ型半導体装置によれば、半導体基板のオフ方向に対してメサストライプ部のストライプ方向を略直交させることにより、表面欠陥に起因する積層欠陥が基底面に沿って成長してメサストライプ部のメサとメサ間の凹部を交互に横断しないので、リークパスがほとんど無くなる。これにより、第1電極と制御電極との間(例えばGTOにおけるアノード電極とゲート電極との間)のリーク電流を低減でき、最小点弧電流の増大を防止できる。
【0008】
また、一実施形態のバイポーラ型半導体装置では、上記制御電極に流す電流により動作を制御する電流駆動型である。
【0009】
上記実施形態によれば、特に表面欠陥に起因する積層欠陥が成長しやすい電流駆動型のバイポーラ型半導体装置において、リーク電流の低減化と最小点弧電流の増大防止の効果が顕著である。
【0010】
また、一実施形態のバイポーラ型半導体装置では、上記ワイドギャップ半導体としてシリコンカーバイド(SiC)を用いた。
【0011】
上記実施形態によれば、ワイドギャップ半導体としてシリコンカーバイド(SiC)を用いることによって、絶縁破壊電界強度がシリコン(Si)に比べて高くなり、高耐圧の用途に用いることが可能となる。
【0012】
また、一実施形態のバイポーラ型半導体装置では、上記第1電極をアノード電極とし、上記第2電極をカソード電極とし、上記制御電極をゲート電極とする電流駆動型のゲートターンオフサイリスタである。
【0013】
上記実施形態によれば、表面欠陥に起因する積層欠陥が成長しやすい電流駆動型のゲートターンオフサイリスタにおいて、表面欠陥に起因する積層欠陥が成長してもメサストライプ部のメサとメサ間の凹部を交互に横断しないので、リークパスがほとんど無くなり、アノード電極とゲート電極との間のリーク電流を低減でき、最小点弧電流の増大を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
以上より明らかなように、この発明のバイポーラ型半導体装置によれば、表面欠陥に起因する積層欠陥が生じても、リーク電流を低減でき、最小点弧電流の増大を防止できるバイポーラ型半導体装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明のバイポーラ型半導体装置を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0016】
図1Aはこの発明の実施の一形態のバイポーラ型半導体装置の一例としてのGTO(Gate Turn-off Thyristor;ゲート・ターンオフ・サイリスタ)の模式図を示し、図1Bは図1Aに示すGTOのストライプ方向から見た側面図を示している。
【0017】
この実施の形態のGTOは、図1A,図1Bに示すように、半導体基板とその半導体基板上にエピタキシャル成長により順に形成された複数の半導体層とを備えた主構造体1と、上記主構造体1の半導体層の最上層に形成され、半導体基板のオフ方向に対してストライプ方向(矢印R1)が略直交するメサストライプ部2と、上記メサストライプ部2上に形成された第1電極の一例としてのアノード電極3と、上記半導体基板の裏面に形成された第2電極の一例としてのカソード電極5と、上記メサストライプ部2のメサ2a間およびメサストライプ部2の周囲の半導体層の露出領域上に形成された制御電極の一例としてのゲート電極4とを備えている。上記メサストライプ部2は、予め決められた間隔をあけて互いに平行に形成された細長い複数のメサ2aからなる。図1A,図1Bでは、主構造体1の半導体基板と複数の半導体層は省略している。
【0018】
上記主構造体1の半導体基板と複数の半導体層は、ワイドギャップ半導体の一例としてのシリコンカーバイト(SiC)を母材としている。ここで、SiC半導体基板は、4H−SiCが主に使用され、エピタキシャル成長を行う結晶面を数度(オフ角)傾けた面が使用される。
【0019】
このようなメサ構造のGTOでは、メサストライプ部2を形成するときにメサ2a表面や周辺部の表面に多くの表面欠陥が生じる。図1A,図1Bにおいて、メサストライプ部2の一部のメサ2aの端部に表面欠陥Sがあるものとすると、電流通電時にその表面欠陥Sを種として基底面に沿って成長する面状の積層欠陥6は、メサストライプ部2のストライプ方向と平行で、かつ、主構造体1の平面に対して半導体基板のオフ方向(矢印R2)に向かって半導体基板側に徐々に傾斜する台形状となる。
【0020】
図2は上記GTOの断面図を示している。図2に示すGTOは、n型の4H−SiCの半導体基板21と、p型バッファ層22と、p型ベース層23と、n型ベース層24と、ストライプ状に形成されたp型エミッタ層25と、上記p型エミッタ層25上に形成されたアノード電極26と、露出したn型ベース層24にイオン注入してp型エミッタ層25を囲むように形成されたn+型低抵抗ゲート領域27とn型ゲートコンタクト領域28と、上記n型ゲートコンタクト領域28上に形成されたゲート電極29と、半導体基板21の裏面側に形成されたカソード電極30とを備えている。上記p+型エミッタ層25が図1A,図1Bに示すメサ2aに相当する。
【0021】
図3は上記GTOの動作時間に対するIgminの変化を示し、図3において、横軸は動作時間t[時間]を表し、縦軸は動作開始時の最小点弧電流Igmin(0)に対してt時間後の最小点弧電流Igmin(t)の比(Igmin(t)/Igmin(0))を表している。
【0022】
図3に示すように、比較のためのGTOでは、動作時間が10時間を越えないうちに最小点弧電流比(Igmin(t)/Igmin(0))が100を越えているのに対して、この発明の実施の形態のGTOは、動作時間が60時間経過しても1.3以下である。
【0023】
図4Aは比較例のGTOの表面欠陥を種とする積層欠陥を示す模式図を示し、図4Bは図4Aに示すGTOのストライプ方向から見た側面図を示している。図4A,図4Bに示すGTOは、比較のために示したものであり、本発明ではない。
【0024】
この比較例のGTOは、図4A,図4Bに示すように、n型の半導体基板とその半導体基板上にエピタキシャル成長により順に形成された複数の半導体層とを備えた主構造体31と、上記主構造体1の半導体層の最上層に形成され、半導体基板のオフ方向(矢印R12)とストライプ方向(矢印R11)が平行なメサストライプ部32と、上記メサストライプ部32上に形成されたアノード電極33と、上記半導体基板の裏面に形成されたカソード電極35と、上記メサストライプ部32のメサ32a間およびメサストライプ部32の周囲に露出する半導体層上に形成されたゲート電極34とを備えている。図4A,図4Bでは、主構造体31の半導体基板と複数の半導体層は、省略している。
【0025】
上記主構造体31の半導体基板と複数の半導体層は、シリコンカーバイト(SiC)を母材としている。
【0026】
図4A,図4Bにおいて、メサストライプ部32の一部のメサ32aの端部に表面欠陥Sがあるものとすると、電流通電時にその表面欠陥Sを種として成長する面状の積層欠陥36は、主構造体31の平面に対して半導体基板のオフ方向(矢印R12)に向かって半導体基板側に徐々に傾斜する台形状となる。
【0027】
このとき、表面欠陥を種とする積層欠陥36は、メサストライプ部32のストライプ方向に対して直角方向に主構造体31の端部まで拡大して、電圧を印加したときのアノード電極33とゲート電極34との間のリークパス40となる。このため、メサストライプ部の凸部にアノード電極を有すると共に凹部にゲート電極を有する構成のGTOでは、最小点弧電流の増大などを引き起こし、素子の信頼性が低下する。
【0028】
これに対して、この発明の実施の形態の図1A,図1Bに示すGTOによれば、半導体基板のオフ方向(矢印R2)に対してメサストライプ部2のストライプ方向(矢印R1)を略直交させることにより、表面欠陥に起因する積層欠陥が成長してメサストライプ部2のメサ2aとメサ2a間の凹部を交互に横断しないので、リークパスがほとんど無くなる。これにより、アノード電極3とゲート電極4との間のリーク電流を低減でき、最小点弧電流の増大を防止することができる。
【0029】
また、半導体基板と複数の半導体層にワイドギャップ半導体としてシリコンカーバイド(SiC)を用いることによって、絶縁破壊電界強度がシリコン(Si)に比べて高くなり、高耐圧の用途に用いることが可能となる。
【0030】
上記実施の形態では、ワイドギャップ半導体としてSiCを用いたバイポーラ型半導体装置としてのGTOについて説明したが、他のワイドギャップ半導体として窒化ガリウム(GaN)やダイヤモンドなどを用いたものでも同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、この発明のバイポーラ型半導体装置は、GTOに限らず、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やBJT(バイポーラ型接合トランジスタ)に適用することができる。
【0032】
また、この発明のバイポーラ型半導体装置は、特に表面欠陥に起因する積層欠陥が成長しやすい電流駆動型のバイポーラ型半導体装置に適用することにより、リーク電流の低減化と最小点弧電流の増大防止の効果が顕著である。
【0033】
また、この発明のバイポーラ型半導体装置は、家電分野、産業分野、電気自動車などの車両分野、送電などの電力系統分野などにおいて、例えばインバータなどの電力制御装置に好適である。
【0034】
また、この発明のバイポーラ型半導体装置は、電力制御装置に適用すると、SiCバイポーラ素子の破壊を防ぐだけではなく、通電時の損失も抑制することができ、大電流が可能となると共に、装置の信頼性などの性能の向上させることができる。
【0035】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0036】
なお、上記実施の形態において、主構造体の半導体基板とその半導体基板上に形成された半導体層の夫々の導電型が逆であってもよく、この場合も同様の作用,効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】図1Aはこの発明の実施の一形態のバイポーラ型半導体装置の一例としてのGTOの模式図である。
【図1B】図1Bは図1Aに示すGTOのストライプ方向から見た側面図である。
【図2】図2は上記GTOの断面図である。
【図3】図3は上記GTOの動作時間に対する最小点弧電流Igminの変化を示す図である。
【図4A】図4Aは比較例のGTOの表面欠陥を種とする積層欠陥を示す模式図である。
【図4B】図4Bは図4Aに示すGTOのストライプ方向から見た側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1…主構造体
2…メサストライプ部
2a…メサ
3…アノード電極
4…ゲート電極
5…カソード電極
6…積層欠陥
S…表面欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、上記半導体基板上にエピタキシャル成長により順に形成された複数の半導体層とを備え、上記半導体基板と上記複数の半導体層がワイドギャップ半導体を母材とするバイポーラ型半導体装置であって、
上記複数の半導体層の上側の少なくとも最上層に形成され、上記半導体基板のオフ方向に対してストライプ方向が略直交するメサストライプ部と、
上記メサストライプ部上に形成された第1電極と、
上記半導体基板の裏面に形成された第2電極と、
上記複数の半導体層のうちの上記メサストライプ部のメサ間の半導体層の露出領域上に形成された制御電極と
を備えたことを特徴とするバイポーラ型半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバイポーラ型半導体装置において、
上記制御電極に流す電流により動作を制御する電流駆動型であることを特徴とするバイポーラ型半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバイポーラ型半導体装置において、
上記ワイドギャップ半導体としてシリコンカーバイド(SiC)を用いたことを特徴とするバイポーラ型半導体装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載のバイポーラ型半導体装置において、
上記第1電極をアノード電極とし、上記第2電極をカソード電極とし、上記制御電極をゲート電極とする電流駆動型のゲートターンオフサイリスタであることを特徴とするバイポーラ型半導体装置。

【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図1A】
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【図4A】
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【図4B】
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