説明

バキュロウイルスベクターを使用して核酸分子を胚性幹細胞に送達する方法

ヒト胚性幹細胞を含む胚性幹細胞に核酸分子を送達する方法であって、核酸分子含むバキュロウイルスベクターに胚性幹細胞を感染させることによる方法が提供される。本方法によって形質導入される胚性幹細胞は、被験体における疾患または障害を治療するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年5月27日に出願の米国仮特許出願第60/684,958号からの優先権の利益を主張し、この内容は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に幹細胞への核酸分子の送達に、および特に胚性幹細胞へのウイルスのベクターによる核酸分子の送達に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
一過性または長期発現のいずれかを媒介することができる多用途遺伝子導入ベクターは、再生医療および基礎生物学的研究の両方の目的のための胚性幹(ES)細胞の遺伝子工学に必要である。さらに、細胞ゲノムへの組み込みのために遺伝子が幹細胞に送達されるときに、定義された遺伝子座での染色体組み込みは、安定な導入遺伝子発現のためのランダムな組み込みと比較して、一般的に好ましい。
【0004】
マウス胚性幹(mES)細胞の遺伝子操作は、研究者にとって、多くの遺伝子の基礎生物学的機能および多くの疾患の遺伝学的基礎を理解することができる強力な方法であった(Downing and Battey, 2004)。マウスES細胞と異なり、ヒト胚性幹(hES)細胞は、一般的に使用される手法による遺伝子導入に対して抵抗性であることが証明された。
【0005】
hES細胞に導入遺伝子を導入するための、化学物質に基づいたプラスミド送達およびエレクトロポレーションのようなウイルスを用いない方法が、hES細胞の遺伝子操作について試験されている。低レベルのトランスフェクション効率および一過性遺伝子発現のみをもたらすものの(Eiges et al., 2001)、これらの方法により、抗生物質耐性遺伝子および薬物選択と共に使用したときに、導入遺伝子のランダムな染色体組み込みを伴ったhES細胞の安定なクローンを産生することができる。
【0006】
しかし、化学物質に基づいた遺伝子トランスフェクション法は、一般的に、hESにおいて低い遺伝子導入効率を示し、hES細胞の相同的組み換えにおいて非効率的な傾向がある(Zwaka and Thomson, 2003)。
【0007】
外来性DNAをmES細胞に導入するための選択方法であるエレクトロポレーションをhES細胞の遺伝子トランスフェクションに採用することができる(Zwaka and Thomson, 2003)。細胞核にプラスミドDNAを送達するために特定のトランスフェクション溶液および電気的パラメーターを使用するエレクトロポレーションに基づいた方法である核への導入技術(nucleofector)により、hES細胞において20%のトランスフェクション率を達成することができた(Lakshmipathy et al., 2004)。しかし、満足なトランスフェクションの結果を与えるエレクトロポレーションプロトコルは、通常細胞にとって有害であり、hES細胞は、その手順では十分に生存しない(Eiges et al., 2001)。
【0008】
ES細胞に導入遺伝子を送達するためのウイルスによる方法も、探索されている。HIV-1に基づいたレンチウイルスベクターは、hES細胞を遺伝的に操作するために使用された最初のウイルスベクターであった(Pfeifer et al., 2002)。レンチウイルスベクターは、効率的にhES細胞に感染して、インビトロにおいて少なくとも38週間という長期の未分化増殖の間に、高率の感染細胞および安定な導入遺伝子発現をもたらすことが示された(Ma et al., 2003;Gropp et al., 2003)。これらのウイルスベクターは、宿主ゲノムに組み込まれ、かつ転写サイレンシングに耐性であり、安定な導入遺伝子発現が可能となる(Pfeifer et al., 2002;Gropp et al., 2003;Ma et al., 2003)。しかし、ヒトにおけるHIV-1複製の重篤な病原性効果のため、HIV-1に基づいたベクターは、将来の臨床的状況において、それらの安全性をめぐる懸念、すなわち複製能のあるレトロウイルスの出現を喚起する。また、レンチウイルスのランダムな染色体組み込みは、挿入突然変異、癌遺伝子活性化および細胞形質転換のリスクをもたらす。SCID-X1の遺伝子療法後の2人の子供における白血病の発症(Hacein-Bey-Abina et al., 2003)は、このようなリスクに対して多大な注意をもたらした。
【0009】
hES細胞で試験されたアデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどのその他のウイルスのベクターは、挿入突然変異のリスクがずっと低いが、これらの形質導入効率は、十分なものではなかった(Smith-Arica et al., 2003)。これらのウイルスのベクターの適用可能性は、かなりのものであるが、医療における安全面、特に内在性ウイルス組み換え、ランダムな組み込みと関連する発癌性染色体挿入、非選択的細胞障害性およびウイルスに対する既存の免疫応答に対して、懸念がなお残っている。そのうえ、これらのベクターが運ぶことができる挿入遺伝子のサイズに関して、これらのウイルスのベクターの遺伝子許容量が、ある種の実験に関して制限要因になるかもしれない。
【0010】
したがって、大容量の遺伝的物質の導入を可能とし、かつ宿主ES細胞における導入遺伝子の一過的発現または安定な組み込みを提供する効率的な様式でES細胞に導入遺伝子を送達するための方法についての需要が存在する。
【発明の概要】
【0011】
一つの側面において、胚性幹細胞に核酸分子を送達する方法であって、胚性幹細胞をバキュロウイルスベクターに感染することを含み、バキュロウイルスベクターは、核酸分子含む方法が提供される。
【0012】
もう一つの側面において、特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害を治療する方法であって、被験体に組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞を投与することを含む方法が提供される。
【0013】
さらなる側面において、胚性幹細胞に特異的プロモーターを含む組み換えバキュロウイルス核酸が提供される。
【0014】
なおもさらなる側面において、本明細書に記述した組み換え胚性幹細胞を含むバキュロウイルス核酸が提供される。
【0015】
また、被験体における障害を治療するための医薬の製造における組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞の使用であって、障害は、被験体における特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる使用を含む、被験体の障害を治療するための組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞の使用であって、障害は、被験体における特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる使用が提供される。
【0016】
本発明のその他の側面および特徴は、添付の図面と合わせて以下の本発明の特定の態様の記述を概観することにより、当業者に明らかになるであろう。
【発明の詳細な説明】
【0017】
胚性幹(ES)細胞は、特に無限に増殖して、全種類の成人細胞に分化するというこれらの能力、並びに再生医薬のための、薬学的研究開発のための、および基礎発生生物学的研究のための再生可能な細胞供与源としてのこれらの潜在性を考えると、現在集中した研究の対照である。効率的な核酸導入ストラテジーを使用して、これらの細胞を遺伝的に操作する能力は、ES細胞の著しい潜在性を現実化するために必須である。このような遺伝子操作による可能性のある利益には、ES細胞の分化を制御すること、ES細胞由来細胞の特定型の純粋な集団を単離すること、移植医学における免疫拒絶反応問題を解決するために細胞の抗原性を変化させること、およびエキソビボでの療法の間に特定の疾患と戦うための新たな機能的特性をもつ細胞供与源を提供することを含む。
【0018】
胚性幹細胞、特にヒト胚性幹細胞は、外来性DNAでのトランスフェクションに不応性である。しかし、本発明者らは、驚いたことに、ヒト胚性幹細胞を含む胚性幹細胞を、該細胞を関心対象の導入遺伝子を含むように遺伝子改変されたバキュロウイルスベクターに感染することにより外来性DNAをトランスフェクトすることができることを発見した。
【0019】
したがって、本発明は、バキュロウイルスベクターを、ES細胞を効率的に導入するために使用することができるという知見に関する。ベクターの設計に応じて、導入遺伝子の一過性発現並びにES細胞における導入遺伝子の部位特異的染色体組み込みを達成することができる。
【0020】
したがって、本方法において、ES細胞特異的遺伝子のためのプロモーターをもつバキュロウイルスベクターを使用して、リポーター遺伝子の発現またはhES細胞における抗生物質耐性遺伝子を使用して、未分化細胞を自発的に分化したものから分離することができ、したがって、これらの未分化表現型をもつ多能性ES細胞の維持を容易になる(Eiges et al., 2001)。ある型の分化細胞に対する細胞特異的プロモーターをもつバキュロウイルスベクターを使用して、遺伝子操作により、ES細胞に由来する細胞の所望の型を選択すること、および体内への細胞移植により潜在的に腫瘍形成性である未分化細胞を除去することが可能となる。同様に、バキュロウイルスベクターは、特異的細胞系譜への分化の役割を担う転写因子をコードするマスター遺伝子を送達し、および発現を駆動することにより、ES細胞の分化制御するために使用することができよう。ハウスキーピング遺伝子由来の構成的プロモーターをもつバキュロウイルスベクターが使用されるときは、ES細胞およびその分化した子孫における一過性または安定な導入遺伝子発現を達成することができる。
【0021】
昆虫バキュロウイルスオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa. californica)核多角体ウイルス (AcMNPV)に基づいたベクターは、哺乳動物細胞における導入遺伝子発現のための新型の送達媒体として最近導入された(Kost, et al. 2005)。バキュロウイルスは、増殖性および非増殖性の両方の静止細胞に広い向性を有し、哺乳動物活性プロモーターの支援のもとで、関心対象の遺伝子をインビトロおよびインビボにおいて多様な哺乳動物細胞型に効率的に導入することができる。ウイルスは、哺乳動物細胞に入ることができるが、昆虫特異的プロモーターからそれ自体の遺伝子を発現することができず;したがって、バキュロウイルスは、脊椎動物細胞においてウイルスタンパク質を複製し、および発現することができず、したがって、ウイルスによりコードされた遺伝子のインビボでの発現の結果として免疫応答も引き起こさないし、既存のウイルス物質と再結合しないし、または人体におけるその他のウイルスの複製も支援しない。哺乳動物細胞におけるバキュロウイルスの感染は、高MOIにおいてさえ、目に見える細胞変性効果を生じさせない(Shoji et al., 1997)。遺伝子送達ベクターとしてのバキュロウイルスAcMNPVを使用することのもう一つの魅力的な利点は、その130kbのウイルスゲノムによって与えられる大きなクローニング能力であり、これは、単一ベクターから大きな機能的遺伝子または複数遺伝子を送達するために有利に使用されるであろう。最近の論文では、バキュロウイルスベクターでのヒト間充織幹細胞の効率的な形質導入を証明していた。
【0022】
したがって、関心対象の核酸分子を胚性幹細胞に送達する方法であって、該方法において、胚性幹細胞は、核酸分子を含むバキュロウイルスベクターに感染される方法が提供されている。
【0023】
胚性幹細胞という用語は、本明細書において、当該技術分野における通常の意味に従って使用され、早期段階胚から単離されたか、または早期段階胚の一部を形成する任意の未分化多能性細胞をいう。本用語には、前後関係から明らかに他のことを示さない限り、インビトロでのもの、並びにエキソビボで導入され、およびインビボで移植された細胞を含む単細胞および複数細胞または細胞集団を含む。細胞は、ヒト胚性幹細胞を含む哺乳動物胚性幹細胞である。特定の態様において、細胞は、ヒト胚性幹細胞である。
【0024】
バキュロウイルスベクターという用語は、ウイルスゲノム内にさらなる核酸配列を含むように遺伝的に操作されており、したがってウイルスを導入することができる細胞への関心対象の組み換え核酸分子の送達のためのツールとして有用であるバキュロウイルスをいい、ウイルスが、その遺伝形質を細胞に送達することができることを意味する。組み換えバキュロウイルス核酸という用語は、関心対象の導入遺伝子を組み込むように遺伝子改変された、ウイルスパッケージング遺伝子の残りを含まないバキュロウイルス遺伝形質をいう。
【0025】
バキュロウイルスは、周知であり、かつ特徴づけられており、オートグラファ・カリフォルニカの使用を含む哺乳動物遺伝子形質導入のためのバキュロウイルスベクターは、公知である(たとえばSarkis et al PNAS 97(26)を参照されたい)。当業者であれば、公知の分子生物学技術を使用して本発明に使用するための任意の適切なバキュロウイルスベクターを容易に構築することができる。バキュロウイルスベクターは、そのゲノムが、たとえば後述するようにプロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を発現するように操作された、関心対象の核酸分子を含むように修飾された組み換えバキュロウイルスであってもよい。バキュロウイルスは、PCRおよび分子クローン技術などの当業者に公知の標準的技術を使用してそのように修飾してもよい。たとえば、バキュロウイルスは、BAC-TO-BAC(商標)バクロウイルス発現系(Gibco BRL, Life Technologies, USA)などの市販のクローニング系および発現系を使用して容易に修飾することができる。
【0026】
核酸分子は、で胚性幹細胞に送達されることが望まれ、かつたとえばバキュロウイルスの遺伝物質に核酸分子を挿入するための組み換え技術によってバキュロウイルスベクターに組み込むことができるいずれの核酸分子であってもよい。核酸分子は、ポリペプチドをコードする核酸分子またはタンパク質でもよく、すなわち、これは、プロモーター領域に作動可能に連結されたコード領域を含む遺伝子を含んでいてもよい。したがって、核酸分子は、導入遺伝子であってもよく、または導入遺伝子を含んでいてもよい。導入遺伝子という用語は、バキュロウイルスに対して外来性である遺伝子をいい、そうすると、たとえばバキュロウイルスによる導入遺伝子の発現に対する言及は、バキュロウイルスのゲノムに対して外来性である遺伝子の発現をいう。導入遺伝子は、治療的遺伝子、選択可能なマーカーをコードする遺伝子もしくは検出可能なリポータータンパク質をコードする遺伝子であっても、または導入遺伝子が発現される細胞に対する選択的環境条件に耐性を与える、たとえば細胞に抗生物質抵抗性を与えるタンパク質をコードする遺伝子あってもよい。
【0027】
本明細書で使用される治療的遺伝子または治療的導入遺伝子という用語は、たとえば被験体における障害の治療、予防または回復を含む、治療的導入遺伝子を発現する胚性幹細胞またはこのような胚性幹細胞から分化したか、もしくは由来する細胞を被験体に投与したときに、その発現が所望の結果をもたらす広く任意の遺伝子を記述することが意図される。したがって、治療的遺伝子または治療的導入遺伝子という用語は、導入された細胞またはその子孫細胞が被験体に移植されたときに、その発現が所望の結果をもたらす任意の遺伝子、たとえば特定の子孫細胞の型の新たな集団を提供するための細胞分化に関与する遺伝子またはインスリン分泌もしくは摂取の改善のための糖尿病の治療または心臓障害の治療に関与する遺伝子を記述することが意図される。治療的タンパク質またはペプチドは、胚性幹細胞に、または胚性幹細胞の子孫細胞に発現されたときに、細胞に対して治療効果を有するか、または胚性幹細胞内で所望の結果をもたらすタンパク質またはペプチドである。
【0028】
したがって、詳細な態様において、核酸分子は、該遺伝子を発現する胚性幹細胞の検出または選択が可能な検出可能なリポーター分子または選択可能なマーカーをコードする導入遺伝子を含む。たとえば、導入遺伝子は、視覚的に、もしくは増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)などの蛍光技術によって検出可能である遺伝子産物をコードしてもよく、または免疫学的技術、たとえば特定の主要組織適合複合体(MHC)分子などの導入遺伝子の発現の非存在下で胚性幹細胞の表面上で通常見いだされない細胞表面マーカーまたはその他の細胞表面発現タンパク質を使用して、検出可能である。あるいは、導入遺伝子は、タンパク質、たとえばルシフェラーゼ遺伝子などの蛍光法または免疫学によるものを含む視覚的に検出可能な分子を産生するように基質に対して作用することができる酵素をコードしてもよい。一つの態様において、導入遺伝子は、検出可能な増強された緑色蛍光タンパク質をコードする。
【0029】
もう一つの態様において、核酸分子は、疾患予防もしくは治療に関与する遺伝子産物もしくはタンパク質をコードする遺伝子または疾患予防もしくは治療に関与する細胞調整効果を有する遺伝子などの臨床有用性を有する任意の遺伝子を含む治療的導入遺伝子を含む。遺伝子産物は、被験体において欠陥があるか、もしくは失われた遺伝子産物、タンパク質または細胞調整効果を置き換えることにより、被験体の疾患もしくは状態の予防または治療ができるようにすべきである。治療的遺伝子には、成長因子遺伝子(これは、線維芽細胞成長因子遺伝子ファミリー、神経成長因子遺伝子ファミリーおよびインスリン様増殖因子遺伝子の遺伝子を含む)および抗アポトーシス遺伝子(BCL-2遺伝子ファミリーの遺伝子を含む)を含む。
【0030】
さらなる態様において、核酸分子は、胚性幹細胞の特定の所望の細胞型への分化に関与する遺伝子である導入遺伝子を含んでいてもよい。たとえば、導入遺伝子は、特定の分化経路の制御に関与する遺伝子でもよく、あるいは分化に関与する一定の遺伝子の発現を制御する転写因子をコードしてもよく、あるいは胚性幹細胞の特定の分化した、もしくは部分的に分化した細胞型への分化に関与するか、または制御し、もしくは指揮する調節経路に関与するシグナリング・タンパク質をコードしてもよい。
【0031】
あるいは、核酸分子は、RNA分子、たとえばアンチセンスRNAまたは短鎖干渉RNA(siRNA)分子をコードしてもよい。アンチセンスRNAまたはsiRNAは、胚性幹細胞の遺伝子、たとえば疾患もしくは障害に関係し、もしくは関与する産物をコードする遺伝子もしくは胚性幹細胞の制御または分化に関与する産物をコードする遺伝子の発現をダウンレギュレートし、または阻害し、または減少させることに関与し得る。
【0032】
導入遺伝子は、該導入遺伝子がプロモーターの制御下にあり、かつ該導入遺伝子の発現が該プロモーターによって駆動されるプロモーターに作動可能に連結されたコード領域を含む。プロモーターという用語は、本明細書において、当該技術分野において一般の使用法に従って使用され、作動可能に連結されたコード領域の転写を指示するように作用する核酸配列である。また、プロモーターは、エンハンサーエレメントを含んでいても、または作動可能に連結されていてもよい。「エンハンサー」は、作動可能に連結されたプロモーターの転写活性を増加させることができるヌクレオチド配列である。
【0033】
第1の核酸配列は、配列が機能的関係に置かれたときに、第2の核酸配列と作動可能に連結される。たとえば、コード配列は、プロモーターがコード配列の転写を活性化する場合に、プロモーターに作動可能に連結されている。同様に、プロモーターおよびエンハンサーは、エンハンサーが作動可能に連結された配列の転写を増加させるときに、作動可能に連結されている。エンハンサーは、プロモーターから分離されたときに機能することもあり、したがって、エンハンサーは、プロモーターに作動可能に連結されていてもよいが、隣接していなくてもよい。しかし、一般に、作動可能に連結された配列は隣接している。
【0034】
異なる態様において、エンハンサーは、特定のプロモーターに天然に作動可能に連結されておらず、かつそのように作動可能に連結されたときに、プロモーターの転写活性を増加させるヌクレオチド配列を意味する異種エンハンサーであってもよい。転写活性の増加についての言及は、標準的転写アッセイ法において検出されるであろう特定のプロモーター単独で観察される転写のレベルと比較して、作動可能に連結された配列の転写のレベルの任意の検出可能な増大をいうことが意味される。
【0035】
したがって、プロモーターは、典型的には、oct-4遺伝子プロモーター胚性幹細胞に特異的プロモーターまたはEF1α遺伝子プロモーターなどの構成的に活性なハウスキーピング遺伝子のためのプロモーターなどを含む胚性幹細胞において見いだされ、および発現される細胞プロモーターであってもよい。プロモーターは、特定の分化した細胞型に特異的なプロモーターであってもよく、またはネスチン遺伝子プロモーターなどの、胚性幹細胞が由来する生物体の特定の発生段階に対してプロモーターが特異的であることを意味する発生特異的プロモーターであってもよい。あるいは、プロモーターは、ウイルスプロモーター、たとえばヒトサイトメガロウイルス由来の前初期プロモーター/エンハンサーであってもよく、または哺乳動物プロモーターとウイルスプロモーターとの融合プロモーター構築物および/またはニューロン特異的導入遺伝子発現のためのCMVエンハンサー/ヒトPDGF-βプロモーターなどのエンハンサーエレメントであってもよい。導入遺伝子の所望の発現レベルに応じて、プロモーターは、基礎レベルプロモーターであってもよく、または強力なプロモーターであってもよい。プロモーターは、構成的に活性であってもよく、または特定の環境条件またはシグナルに応答する誘導性プロモーターであってもよい。
【0036】
バキュロウイルスベクターは、核においてエピソームにとどまり、したがって一過性遺伝子発現を媒介する傾向がある。しかし、優性選択可能マーカーをコードする発現カセットを含むバキュロウイルスベクターを使用することにより、安定に形質導入した胚性幹細胞をウイルス種菌に関して用量依存的な様式で選択することができる。このような技術により、安定な形質転換体の形成が高度に効率的とすることができ、39個の導入細胞に1以下のコロニー形成頻度となる(Condreay et al., 1999)。
【0037】
従って、バキュロウイルスベクターは、バキュロウイルスベクターが細胞内に維持され、かつプロモーターが細胞において活性な限り、胚性幹細胞において核酸分子、例えば導入遺伝子に含まれるコード配列の一過性または安定な発現のためにデザインしてもよい。このような導入遺伝子が選択可能なマーカーをコードする場合、選択圧の維持は、バキュロウイルスベクターおよび導入遺伝子の発現の維持を助ける。このようなベクターは、培養において未分化な胚性幹細胞から分化したか、もしくは部分的に分化した胚性幹細胞の分離を含むインビトロでの適用のために、または胚性幹細胞の分化および発生生物学的研究の際の細胞培養研究のために適しているであろう。
【0038】
しかし、胚性幹細胞が分化される一定の適用のため、またはエキソビボの適用に続くインビボの移植のためには、導入遺伝子を含む核酸分子を含む核酸分子の、胚性幹細胞の染色体内への安定な組み込みが望まれる。したがって、バキュロウイルスベクターは、好ましくは部位特異的様式で、胚性幹細胞の染色体DNA内への核酸分子の組み込みを指揮する配列を含んでいてもよい。たとえば、バキュロウイルスベクターには、ウイルスの反転された末端反復配列を含んでいてもよい。Palomboおよび同僚は、ヒト細胞における部位特異的組み込みのためのハイブリッドバキュロウイルス-アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを開発した(Palombo et al., 1998)。このハイブリッドベクターは、染色体19q13.3に位置するヒトゲノムの定義された領域に遺伝子発現カセットをターゲットして挿入するためのAAV逆方向末端反復配列(ITR)およびAAV rep遺伝子を含む。本方法において、一例において、核酸分子およびAAV rep遺伝子が隣接してAAV逆方向末端反復配列を含むようにデザインされたバキュロウイルスベクターは、Rep/ITR系によって媒介される部位特異的な染色体組み込みにより、hES細胞における核酸分子に含まれる導入遺伝子の長期発現のために使用することができる。外来性DNAの幹細胞ゲノムへのターゲットされた組み込みを達成するためには、バキュロウイルスの大きなクローニング能力により、AAV Rep/ITR系を単一のバキュロウイルスベクターに組み込むことができる。ヒト染色体19の4KbのAAVS1は、転写単位の少なくとも一部を構成する(Kotin, et al. 1992)。
【0039】
したがって、本方法において、核酸分子は、上記バキュロウイルスベクターでの感染によって胚性幹細胞に送達される。本明細書に使用される感染または感染したという用語は、細胞に対するウイルスの遺伝形質による送達をいい、バキュロウイルスは、ウイルスタンパク質もしくは感染性粒子を哺乳動物細胞において複製し、または産生することができないので、本状況においては、形質導入または導入されたという用語と交換可能に使用される。
【0040】
バキュロウイルスベクターへの胚性幹細胞の感染は、標準的なバキュロウイルス技術を使用して行ってもよい。たとえば、感染は、培養中にてバキュロウイルスベクターのウイルス製剤と適切な感染効率(MOI)で細胞を接触させることによってビトロにおいて行ってもよい。たとえば、ウイルス濃度は、約0.1のMOI〜約500のMOIで、約1のMOI〜約10の、または約100の、または約500のMOIであってもよい。
【0041】
胚性幹細胞におけるバキュロウイルス遺伝子形質導入効率を改善するために、支持細胞をウイルス感染の間に除去してもよい。すなわち、胚性幹細胞が支持細胞支持体層上で培養されている場合、下記の実施例に記載したように、胚性幹細胞凝集塊を支持細胞層から除去して、懸濁液中で形質導入してもよい。
【0042】
上記胚性幹細胞を形質導入する方法は、未分化な、部分的に、または完全に分化した細胞インビトロ集団を作製するために使用してもよく、一定の細胞型における分化経路およびメカニズム、並びに胚性幹細胞の分化または増殖に対する一定の化合物、細胞因子またはタンパク質の効果を研究すること、それ自体が胚性幹細胞もしくはその他の部分的に分化した細胞型の増殖もしくは分化を調節するであろう成長因子、ホルモンまたは細胞外分子を胚性幹細胞が産生し、および/または分泌する能力を研究することを含み、かつ更に、未分化な、分化したか、または部分的に分化した細胞型一定の集団において薬物をスクリーニングする方法を含む種々のインビトロでの目的のために有用であろう。
【0043】
したがって、上記方法は、胚性幹細胞に、増殖後に子孫細胞を産生するように分化するのを誘導することをさらに含むことができる。分化の誘導は、特定の成長因子などのさらなる細胞因子に胚性幹細胞を曝露することによって、FGF、インスリン、トランスフェリン、フィブロネクチンなどの血清または成長因子の退薬によって、および/または細胞に分化を生じさせることができるセレン、デキサメサゾン、酵素阻害剤およびその他の化合物などの種々の栄養素または薬理学的試薬の添加によって達成される。
【0044】
一旦所望のレベルの増殖が達成されたら、導入遺伝子を発現する細胞集団を使用して、インビトロでの使用のための、またはインビボの治療的使用のための子孫細胞の集団を作製することができる。増殖量は、細胞計数によって、および細胞のサブセットを採取してチミジン類似体のBrdUの取り込みについて試験することによって測定することができる。
【0045】
子孫細胞は、分化または部分的な分化を受け、かつ元の胚性幹細胞よりも分化した胚性幹細胞に由来する細胞である。たとえば、胚性幹細胞は、分化して神経前駆細胞もしくはニューロンを産生するか、または膵臓前駆細胞もしくは膵島細胞を産生し得る。
【0046】
上記方法に従って関心対象の核酸分子、例えば治療的導入遺伝子を含むバキュロウイルスベクターが形質導入され、または感染した胚性幹細胞は、疾患または障害の治療のために被験体に投与するために有用である。特に、組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞集団の産生は、胚性幹細胞または胚性幹細胞に由来する子孫細胞が被験体に提供されて、死滅したか、または適切に機能しない細胞を置き換えるか、または補うことにより、疾患または障害を治療する胚性幹細胞療法のために有用である。
【0047】
したがって、バキュロウイルスベクターによる胚性幹細胞の感染は、被験体への移植の目的でエキソビボにて行ってもよい。すなわち、細胞には、たとえば治療的導入遺伝子を有するバキュロウイルスベクターを上記の通りに形質導入し、次いで被験体に移植する。したがって、組み換えバキュロウイルス核酸を含む形質導入された胚性幹細胞は、外科的手法を使用して、または特異的部位への注射によって移植されるであろう。あるいは、幹細胞を分けて、完全または部分的にインビトロにて子孫細胞に分化させて、このような子孫細胞を被験体に移植してもよい。
【0048】
胚性幹細胞は、これらが胚性幹細胞または分化細胞マーカーの有無についての試験によって分化を受けたかどうかを決定するために試験することができる。たとえば、神経前駆細胞は、NestinおよびFrizzledマーカーを発現し、メラニン、C-kit、GFAP、平滑筋アクチンまたは神経フィラメント160を発現しないはずである。もう一つの例において、心臓前駆細胞は、Lin-およびC-kit+である。
【0049】
したがって、ここで、特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害を治療する方法であって、特定の細胞型のための前駆細胞であり、かつ上記方法によって増殖された胚性幹細胞もしくは子孫細胞または特定の細胞型になるように分化させた子孫細胞を被験体に投与することを含む方法が提供される。細胞は、上記の通りにバキュロウイルスベクターを形質導入した胚性幹細胞であるか、またはこのような胚性幹細胞の子孫細胞であり、その結果、細胞は、1つまたは複数の治療的導入遺伝子または治療的タンパク質もしくはペプチドを発現するように遺伝子改変されることとなる。
【0050】
「特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害」は、もはや、または決して疾患または障害の発症を防げるのに十分なレベルで機能しない疾患もしくは障害をいい、個体の特定の細胞型が早発性死に至るか、または疾患もしくは障害の発症を防げるために必要な特定の遺伝子または遺伝子産物の発現の不十分なレベルを含む。健康な個体では、このような特定の細胞型は、生きているであろうし、これには静止または老化状態であることを含み、疾患または障害を生じさせないレベルにて機能するであろうし、これには疾患もしくは障害の発症を回避し、または防げるために必要とされる特定の遺伝子またはタンパク質を発現することを含む。障害には、白血病を含む癌、パーキンソン病、アルツハイマー病およびALS(ルー・ゲーリック病)などの神経系疾患、脊椎損傷および多発性硬化症を含むCNS損傷、心臓損傷、肝障害、腎臓損傷、膵臓の損傷、レチナール損傷、腸管損傷、筋ジストロフィーを含む骨格筋損傷、肺損傷、並びに糖尿病を含むが、これらに限定されない。
【0051】
疾患または障害を治療するとは、有益な、または所望の臨床成績を含む結果を得るためのアプローチをいう。有益な、または所望の臨床成績には、1つもしくは複数の症候もしくは状態の軽減または回復、疾患の範囲の減少、病勢の安定化、疾患の発症の予防、疾病の伝播の予防、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患発症の遅延または緩徐化、疾患状態の回復または寛解、並びに緩解(部分的または全体にかかわらず)を含むことができるが、これらに限定されない。また、「治療すること」は、治療がない場合に予想されるものを越えて被験体の生存を延長することを意味することができる。また、「治療すること」は、疾患の進行を阻害すること、疾患の進行を一時的に遅らせることを意味することができるが、より好ましくは、これは永久に疾患の進行を停止させることを含む。
【0052】
被験体は、特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害に罹患しており、このような治療を必要とするいずれの被験体でもある。被験体は、哺乳類、特にヒトを含むいずれの動物であってもよい。
【0053】
胚性幹細胞または子孫細胞は、たとえば肝臓、膵臓、心臓組織、脳もしくは脊髄などの組織もしくは器官の部位への外科的移植によるか、または注射によるものを含む当該技術分野において公知の方法を使用して、早発性死または機能不全を起こした特定の細胞型の部位に送達することによって被験体に投与される。たとえば、治療される障害が糖尿病である場合、胚性幹細胞または子孫細胞は、β島細胞になるように分化することができる細胞であってもよく、膵臓の島に移植しても、または注射してもよい。もう一つの例において、治療される障害が心臓損傷である場合、細胞が心筋細胞になるように分化することができる胚性幹細胞または子孫細胞を心筋に移植しても、または注射してもよい。同様に、その他の例において、胚性幹細胞は、肺、腎臓、肝臓、腸壁、レチナールまたは骨格筋組織に特異的な細胞に分化することができる。
【0054】
胚性幹細胞または子孫細胞の有効量が、被験体に投与される。本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の結果を達成するために、たとえば特異的障害を治療するために必要な投薬量にて、および期間で有効な量を意味する。
【0055】
投与される胚性幹細胞または子孫細胞の総数は、治療される障害または疾患、投与される細胞の型、投与様式、並びに被験体の年齢および健康に応じて変更される。
【0056】
従って、今回、組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞も提供される。組み換えバキュロウイルス核酸は、1つもしくは複数の治療的タンパク質またはペプチドをコードする1つもしくは複数の治療的導入遺伝子または核酸分子をさらに含んでいてもよい。
【0057】
投与を助けるために、組み換えバキュロウイルス核酸を含む、胚性幹細胞または胚性幹細胞から分化した子孫細胞を医薬組成物の成分として製剤化してもよい。従って、さらなる態様において、組み換えバキュロウイルス核酸を含む、胚性幹細胞または胚性幹細胞から分化した子孫細胞と、任意に薬学的に許容される希釈剤とを含む医薬組成物が提供される。従って、本発明は、一つの側面において、特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害を治療するのに使用するためのこのような医薬組成物も含む。組成物は、ルーチン的に塩、緩衝剤、防腐剤および種々の適合性担体の薬学的に許容される濃度を含んでいてもよい。すべての送達の形態について、胚性幹細胞または子孫細胞を生理食塩液中に製剤化してもよい。
【0058】
加えて、医薬組成物は、特定の障害を治療するために有用なその他の治療薬を含んでいてもよい。あるいは、医薬組成物は、障害の部位に送達されたときに、細胞生存を容易にし、胚性幹細胞もしくは子孫細胞の増殖または分化を誘導する成長因子または細胞因子を含んでいてもよい。
【0059】
薬学的に許容される希釈剤の比率および確認は、選ばれた投与経路、生細胞との適合性および標準的薬務によって決定される。一般に、医薬組成物は、生胚性幹細胞または子孫細胞の生物学的性質を殺さず、または有意に障害しない成分と共に製剤化される。
【0060】
医薬組成物は、胚性幹細胞または子孫細胞の有効量、および任意のさらなる活性物質または物質が薬学的に許容される媒体と共に混合物中で合わされるように、被験体に投与するために適した薬学的に許容される組成物の調製のための公知の方法によって調製することができる。適切な媒体は、たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記述されている。これに基づけば、組成物は、排他的にではなく、組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞または子孫細胞の溶液を、任意的には1つもしくは複数の薬学的に許容される媒体または希釈剤と共に、適切なpHで生理液と等張な緩衝液中に含む。
【0061】
医薬組成物は、当業者に公知であるように、選択された投与経路に応じて種々の形態で被験体に投与してもよい。本発明の組成物は、所望の部位に、外科的に、または注射によって投与してもよい。胚性幹細胞または子孫細胞の溶液は、生理的に適した緩衝液中に調製してもよい。通常の貯蔵条件および使用下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含み、これにより、細胞の有効な状態を維持すると考えられる。当業者であれば、どのように適切な製剤を調製するべきかを知っているであろう。適切な製剤の選択および調製のための従来の手順、並びに成分は、たとえばRemington’s Pharmaceutical Sciencesに、および1999に公開されたThe United States Pharmacopeia: The National Formulary (USP 24 NF19)に記述されている。
【0062】
異なる態様において、早発性死または機能しない細胞が被験体に位置する場合、組成物は、注射によって所望の部位(皮下に、静脈内に、筋肉内に、その他)に直接投与される。使用される医薬組成物の量は、治療される特定の状態、状態の重症度、年齢、物理条件、サイズおよび重量を含む個々の被験体のパラメーター、治療期間、同時療法の性質(もしあれば)、投与の具体的経路、並びに保険開業医の知識および専門知識内のその他の同様の要因に依存する。これらの要因は、当業者に公知であり、最小のルーチン試験で対処することができる。
【0063】
また、現在被験体における障害の治療のための胚性幹細胞の使用が想定される。被験体における障害、被験体における特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害を治療するための、組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞の使用が特に想定される。このような使用には、被験体における障害を治療するための医薬の製造における胚性幹細胞の使用であって、障害が被験体における特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられ使用を含む。
【0064】
本発明は、以下の非限定の実施例によってさらに例証される。
【0065】
実施例
実施例1
本明細書において、本発明者らは、バキュロウイルス感染したヒトおよびマウス胚性幹細胞における導入遺伝子の高レベル発現を記述する。本発明者らは、無血清培地において懸濁された幹細胞に感染させるために、ヒトサイトメガロウイルス前初期遺伝子(immediately early gene)エンハンサー/プロモーターを内包するバキュロウイルスを使用し、ヒト胚性幹細胞において高い形質導入効率を得た。感染した幹細胞は、増殖し続け、形態学的に明らかな変化を示さず、神経細胞に分化することができた。
【0066】
材料および方法:
バキュロウイルスベクターの調製:リポーター遺伝子を有するバキュロウイルスベクターを作製するために、ヒトサイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーターおよびエンハンサーの制御下にある増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)cDNAを導入プラスミドpFastBac1(Gibco BRL、Life Technologies、Gaithersburg、MD、USA)に挿入した。プロモーターは、Not1とXba1との間に挿入し、eGFP cDNAはプロモーターの下流にXho1とHindIIIの間に挿入した。
【0067】
hES細胞の染色体に組み込むことができるバキュロウイルスを作製するために、組み換えpFastBac1を、最初にAvr IIとSal Iの部位との間に、マルチクローニングサイト(MCS)、eGFPをコードするリポーター遺伝子、SV40 polyAシグナルおよび両端のITR配列を含む発現カセットを含むpAAVプラスミドの断片を挿入することによって構築した(Wang et al., 2005)。次いで、CMVプロモーターを上記の組み換えpFastBac1のKpn IとHind IIIとの間に挿入した。Rep遺伝子の完全配列を含むDNA断片は、pSub201から増幅し、それをApa Iで消化してCap遺伝子をコードする配列を除去し、再び結合した。次いで、Rep遺伝子をRsr IIで消化して、組み換えpFastBac1内に、ITRの外側に、pPolhプロモーターに対してアンチセンス配向で挿入した。
【0068】
上記の発現カセットをもつ組み換えバキュロウイルスを、BAC-TO-BACバキュロウイルス発現系(Gibco BRL)の説明書に従って産生し、Sf9昆虫細胞において増殖させた。昆虫細胞培地中で発芽したウイルスを0.2 μm孔径フィルター(Minipore、Bedford、MA、USA)で濾過してあらゆる混入物を除去し、60分間25,000gにて超遠心することによって濃縮した。ウイルス沈殿を適当量の0.1 Mのリン酸塩緩衝食塩水(PBS)に再懸濁し、これらの感染力価(プラーク形成単位、pfu)をSf9細胞でのプラーク検定によって決定した。
【0069】
mESおよびhES の培養:マウス胚性幹細胞株ES-D3およびマウス線維芽細胞STOは、American Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)より入手した。ES-D3細胞は、マイトマイシンC(Sigma、Saint Luise、MO)処理したSTO線維芽細胞上で20% ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone、Logan、UT)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(Invitrogen)、10 ng/ml ヒト組み換え白血病抑制因子(hLIF)(Chemicon、Temecula、CA)および50 U/ml ペニシリン/50 μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)を補ったダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)(Invitrogen、Carlsbad, CA USA)中にてルーチンで培養した。継代培養については、ES-D3細胞を穏やかなトリプシン処理によって回収し、その24〜48時間前に予め播種したSTOフィーダー層の上に再び播種した。
【0070】
ヒト胚性幹細胞株HES-1およびその支持細胞K4マウス胚性線維芽細胞(mEFs)は、ES Cell International、シンガポールより入手した。4回継代したmEFsを200 mM L-グルタミン(Invitrogen)、10% FBSおよび50 U/mlペニシリン/50 μg/mlストレプトマイシンを含むDMEMを使用して6回継代まで培養した。6回継代したmEFsを、10 μg/mlのマイトマイシンCを使用することによって有糸分裂的に不活性化して、0.1% ゼラチン(Sigma)で予めコートしたセンターウェル器官培養ディッシュ(BD Biosciences)に再び播種した。次いで、HES-1細胞を20% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸(NEAA)(Invitrogen)、200 mM L-グルタミン、1% インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS)(Invitrogen)、0.1 mM 2-メルカプトエタノールおよび50 U/mlペニシリン/50 μg/mlストレプトマイシンを補ったDMEM中にてmEF層上で培養した。次いで、生じたhESコロニーを機械的なスライシングおよび新鮮な支持層に再びまくことにより、7日後ごとに継代培養した。
【0071】
ES細胞の形質導入:mES細胞の感染については、ES-D3細胞を穏やかなトリプシン処理によって回収して、マイトマイシンC処理したSTO細胞と共に培養した6穴プレート上へ、感染の1日前に接種した。感染直前に、無血清のOPTI-MEM(Invitrogen)培地を交換し、次いで、濃縮された組み換えウイルスを所望の感染効率(MOI)となるように加えた。1時間のインキュベート後、細胞をPBSで洗浄して、さらに通常のES-D3培地中で1〜3日間インキュベートした後、倒立蛍光顕微鏡下で観察した。
【0072】
2つのプロトコルをバキュロウイルスによるhES細胞の形質導入のために使用した。第1のプロトコルでは、hES細胞をmEFs上で培養して感染させた。簡潔には、hES細胞を細胞凝集塊から成育させ、器官培養プレートのmEFフィーダー上で維持した。継代培養後の7日目に、250 μlのDMEMを使用して血清含有培地と交換し;250 μlの組み換えバキュロウイルスのPBS溶液を、50のMOIにて添加した。1時間のインキュベート後、PBSで細胞をすすぎ、通常の培地に戻した。24時間後に、eGFP発現を倒立蛍光顕微鏡下で調べた。
【0073】
第2のプロトコルでは、mEFsのウイルス吸収効果を排除するために、懸濁液中のhES細胞凝集塊に感染させた。HES-1細胞をmEFフィーダー上で維持した。ルーチンでの継代時に、hESコロニー由来の未分化細胞の凝集塊を機械的スライシングにより単離した。ウイルスによる形質導入については、8つのhES凝集塊を50 μlのDMEMに懸濁し、50 μlのバキュロウイルスの PBS溶液を100のMOIにて添加した。2時間のインキュベート後、凝集塊を新鮮なmEFフィーダー上へ再び播種した。遺伝子導入のためにrep遺伝子を含むバキュロウイルスを使用した場合では、hES凝集塊をウイルス感染の前に10 mg/mlのディスパーゼ(dispase)(Invitrogen)で処理した。
【0074】
図の説明:
図1。フィーダー上で培養したES-D3細胞における、バキュロウイルスを媒介した導入遺伝子の発現。mES細胞を500のMOIにて、CMVプロモーターの制御下でeGFP遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスに感染させた。感染後3日目のmES細胞の蛍光顕微鏡(上段)および位相差(下段)像を示した。
【0075】
図2。フィーダー上で培養したHES-1細胞における、バキュロウイルスを媒介した導入遺伝子の発現。フィーダー上で培養したhES細胞を200のMOIにて、CMVプロモーターの制御下でeGFP遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスに感染させた。形質導入された細胞を示すための、感染後1日目のhES細胞コロニーの位相差および蛍光像の重ね合わせ(右)および蛍光顕微鏡像(左)。下段については、コロニー中の導入されたhES細胞を示すための、hES細胞コロニーの高拡大。
【0076】
図3。HES-1細胞におけるバキュロウイルスを媒介した導入遺伝子の発現。懸濁液中のhES細胞凝集塊を100のMOIにて、CMVプロモーターの制御下でeGFP遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスに感染させて、新鮮なmEFフィーダー上へ再び播種した。感染後1〜5日目のhES細胞コロニーの位相差像(左)および蛍光像(右)を示した。
【0077】
図4。AAVrep遺伝子およびITRを含むハイブリッドバキュロウイルスに感染したHES-1細胞凝集塊における導入遺伝子の発現。懸濁液中のhES細胞凝集塊を10 pfuのMOIにて、ハイブリッドバキュロウイルスに感染させて、新鮮なmEFフィーダー上へ再び播種した。hES細胞コロニーの位相差像(左)、蛍光像(右)および重ね合わせ像(中央)を示した。
【0078】
図5。バキュロウイルスに感染したhES細胞の神経分化。100 pfuのMOIにてウイルス感染後10日目に、hES細胞を神経細胞に分化するように誘導した。長い神経突起を持った細胞凝集塊の位相差像を示した。
【0079】
結果:
ES-D3細胞をマウス胚性線維芽細胞上で培養し、200および500のMOIにて、無血清培地中で37℃にて1時間、eGFPリポーター遺伝子を含むバキュロウイルスを形質導入した。導入遺伝子の発現は、感染後24時間に、1日インキュベーション後のマウスES細胞において1〜2%の効率で観察された。ウイルス粒子の吸収のため、フィーダー層における強い導入遺伝子の発現が観察された。インキュベーション後3日目まででは、eGFP発現の増大は見られなかった(図1)。
【0080】
また、同一群のバキュロウイルス標品をヒト胚性幹細胞HES-1における遺伝子転移について試験した。最初に、mESの形質導入に使用したものと同様のプロトコルを使用して、フィーダー上で培養したhES細胞に感染させた。感染後1日目に、大量の導入遺伝子の発現が、50 pfuのMOIでのフィーダーmEF細胞において観察され(図2)、ウイルス標品の優れた品質を示唆している。しかし、この時点で、eGFPの発現は、hESコロニーの領域においてほとんど観察されなかった。2日目に、hESコロニーにおいて導入遺伝子を発現する少数の細胞が存在しており、総hES細胞のわずか1%であった(図2)。フィーダー上で培養した感染mESおよびhES細胞は、両方とも支持細胞のものと比べてかなり低い導入遺伝子の発現の割合を示した。これは、マウスフィーダーによるバキュロウイルスの大量の取り込みを示していた。
【0081】
ES細胞におけるバキュロウイルスの遺伝子形質導入効率を改善するために、支持細胞をウイルス感染の間に除去することができる。hES細胞凝集塊に感染させたプロトコルを無血清培地中で使用することにより、高い割合で強いeGFP発現をもつ感染hES細胞が、感染後1日程度の早さで観察された(図3)。導入遺伝子の発現は、2日目でより明らかになり、いくつかのコロニーでは、コロニー全体がほとんどeGFP陽性であった(図3)。3日目では、新たなhES細胞が、コロニーの中心領域の外で生育し始め、バキュロウイルスによる形質導入過程が、hES細胞の増殖に影響を及ぼさなかったことを示唆している。
【0082】
しかし、eGFPシグナルは、バキュロウイルス感染に曝露された元のhES細胞凝集塊を含むコロニーの中心部分だけに限定されていた。コロニーの末端の部分では、eGFP発現がほとんど無かった。これは、バキュロウイルスによって媒介される遺伝子発現の一過的特色と関連するかもしれないし、または導入遺伝子を新たに発生したhES細胞に持ち込むことができなかったことを示しているかもしれない。おそらく、複製しない導入遺伝子がhES細胞の増殖によって希釈されてしまったために、eGFP-陽性hES細胞の数が時間とともに減少したが、5日目でもHESコロニーの中心領域では、まだいくつかの非常に明るい伝達細胞が存在していた(図3)。eGFPシグナルは、7日でほぼ全て消失した。
【0083】
導入遺伝子の安定な発現は、遺伝学的に改変されたhES細胞の多くの適用において必要である。本発明者らは、アデノ随伴ウイルス(AAV)エレメント由来のrep78/68遺伝子および逆方向末端反復配列配列(ITR)、すなわちウイルスDNAの組み込みを担う2つのAAVエレメントを含むハイブリッドバキュロウイルスベクターを作製し、このベクターがhES細胞における長期の導入遺伝子発現を提供することができるかどうかを調べた。10 pfuのMOIにてハイブリッドウイルスによるhES細胞の感染後、eGPFの発現は、最初の2日において観察されなかった。弱いeGFP発現は、3日目から先に始まり、6日目で明らかになった(図4)。感染したhES細胞凝集塊を7日目に再び播種した。再び播種した後、eGFP-陽性hES細胞の数は、時間とともに増加した(図4)。これは、AAVエレメントのないバキュロウイルスを使用した実験において観察されたものとは著しく異なっており、hES細胞増殖の間に導入遺伝子の複製を示している。eGFP陽性細胞は、特に選別処置を行わない培養の20日後にも導入遺伝子を発現し続けた。
【0084】
バキュロウイルス感染は、200 pfuのMOIにてさえ、hES細胞において明らかな細胞毒性を生じなかった。感染したhES細胞は、形態学的変化を示さず、感染していない対照hES細胞と同様に増殖した。RT-PCRおよびウェスタンブロット解析(データ示さず)によって証明されたように、バキュロウイルス感染は、胚性幹細胞多能性のマーカーの発現に影響を及ぼさなかった。感染したhES細胞を神経細胞分化のための培地に置いたときは、長い過程をもつ細胞を観察することができ(図5)、少なくともhES細胞の神経細胞への分化能は、バキュロウイルス感染によって影響を受けなかったことを示す。
【0085】
実施例2
ここでは、本発明者らは、ヒト胚性幹(hES)細胞の遺伝子改変のための、バキュロウイルスベクターを使用した効率的な遺伝子導入方法であって、35%までのhES細胞において一過性の導入遺伝子発現をもたらす方法を記述する。ヒト19番染色体における部位特異的組み込みを媒介するために、アデノ随伴ウイルス(AAV)エレメントを使用したハイブリッドバキュロウイルスベクターを使用して、本発明者らは、長期の未分化増殖期間にて安定な導入遺伝子の発現を観察した。遺伝子発現は、それらの分化後でさえ、hES細胞によく保持された。
【0086】
材料および方法:
バキュロウイルスベクター調製:レポーター遺伝子、すなわちヒトEF-1αプロモーターの制御下における増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)遺伝子を有するバキュロウイルスベクターを作製するために、ベクターpEGFP-C1(Clontech)由来のeGFP遺伝子をPCR増幅し、pFastBac1(Invitrogen)のEcoRIとSpeIとの間に挿入した。次いで、pEF1V5-HisA(Invitrogen)由来のEF-1αプロモーターをeGFP遺伝子の上流のBamHIとEcoRIとの間で発現カセットに挿入した。
【0087】
ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーターおよびエンハンサーにより調節されるeGFP遺伝子をもつバキュロウイルスベクターを作製するために、CMVプロモーターをNot1とXba1との間に挿入し、eGFP遺伝子をプロモーター下流のXho1とHindIIIとの間に挿入した。
【0088】
染色体組み込みを容易にすることができるバキュロウイルスベクターを作製するために、組み換えpFastBac1を最初にマルチクローニングサイト(MCS)、リポーター遺伝子コードするeGFP、SV40 polyAシグナルおよび両末端の2つの逆方向末端反復配列配列(ITR)を含むpAAVプラスミドの断片をAvr IIとSal Iとの間に挿入することによって構築した(Wang, Guo et al., 2005)。次いで、CMVプロモーターを上記の組み換えpFastBac1のKpn IとHind IIIとの間に挿入した。Rep遺伝子の完全配列を含むDNA断片をpSub201から増幅し、それをApa Iで消化してCap遺伝子のコード配列を除去し、再び結合した。次いで、Rep遺伝子をRsr IIで消化して、ITRの外側に、pPolhプロモーターに対してアンチセンス配向で組み換えpFastBac1に挿入した。
【0089】
上記の発現カセットを有する組み換えバキュロウイルスをBAC-TO-BACバキュロウイルス発現系(Gibco BRL)の説明書に従って作製し、Sf9昆虫細胞において増殖させた。昆虫細胞培地中で発芽したウイルスを0.2 μm孔径フィルター(Milipore)で濾過してあらゆる混入物を除去し、60分間25,000gにて超遠心することによって濃縮した。ウイルス沈殿を適当量の0.1 Mのリン酸塩緩衝食塩水(PBS)に再懸濁し、これらの感染力価(プラーク形成単位、pfu)をSf9細胞でのプラーク検定によって決定した。
【0090】
ヒト胚性幹細胞ラインHES-1(Reubinoff, Pera et al., 2000)およびその支持細胞K4マウス胚性線維芽細胞(mEFs)は、ES Cell International、シンガポールより入手した。4回継代したmEFsを、2 mM L-グルタミン(Invitrogen)、10% ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone)および50 U/mlペニシリン、50 μg/mlストレプトマイシンを補ったDMEMを使用して、6回継代まで培養した。6回継代したmEFsを10 μg/mlのマイトマイシンCを使用することにより有糸分裂的に不活性化して、0.1% ゼラチン(Sigma)で予めコートしたセンターウェル器官培養ディッシュ(BD Biosciences)に再び播種した。次いで、HES-1細胞を20% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸(NEAA)(Invitrogen)、2 mM L-グルタミン、1% インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS)(Invitrogen)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール、50 U/mlペニシリンおよび50 μg/mlストレプトマイシンを補ったDMEM中にてmEF層上で培養した。次いで、hESコロニーを機械的スライシングおよび新鮮な支持層に再びまくことにより、7日後ごとに継代培養した。
【0091】
mEFsの効果を排除するために、懸濁液のhES細胞凝集塊を形質導入の間に使用した。ルーチンでの継代時に、hES細胞凝集塊を機械的スライシングによりhESコロニーから単離した。ウイルスによる形質導入については、8つのhES凝集塊を50 μlのDMEMに懸濁し、50 μlのバキュロウイルスのPBS溶液を100のMOIにて添加した。2時間のインキュベート後、凝集塊を新鮮なmEFフィーダー上へ再び播種した。
【0092】
FACS解析:hES細胞におけるバキュロウイルスベクターの形質導入効率を定量化するために、種々のMOIを使用した。形質導入後1日目に、hES細胞凝集塊をディスパーゼ消化によってmEFから剥離した。凝集塊をPBSで洗浄して、単一の細胞となるようにトリプシン処理した。PBSで洗浄した後に、eGFP+細胞の割合について、細胞をFACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)で解析した。
【0093】
hES細胞からの神経細胞への誘導:hES細胞からの神経細胞への誘導は、Reubinoffらによって記述された方法に基づいて行った(Reubinoff et al., 2001)。簡潔には、hES細胞分化をフィーダー上で3〜4週間の長期の培養によって誘導した。暗視野立体顕微鏡下にて一様に白灰色で不透明な外見をもつ別々の領域を切断し、小さな細胞集団に切り裂いた。次いで、これらの細胞集団をB27(1:50)(Invitrogen)、2 mM L-グルタミン、50 U/mlペニシリン、50 μg/mlストレプトマイシン、20 ng/ml hEGF(Chemicon)および20 ng/ml bFGF(Chemicon)を補ったDMEM/F12(1:1)(Invitrogen)を含む低細胞結合性6穴プレート(NUNC)へ移した。1〜3週の培養後、丸い神経球を形成した。次いで、その球をポリ-D-リジン(Sigma)およびラミニン(Sigma)コートしたディッシュに播種した。神経細胞への分化は、培地から成長因子を除去することによって誘導した。
【0094】
試験管内でのhES細胞の分化:胚様体(EB)を形成するために、hES細胞を大きなコロニーを形成するように培養させ、0.1 mg/mlのディスパーゼを使用して剥離した。hES細胞凝集塊を10 mlの分化培地[80%のノックアウトDMEM(Invitrogen)、20% FBS、2 mM L-グルタミンおよび0.1 mM NEAA]を含む15 mlの円錐チューブへ移し、底面に定着させ、その後に上清を除去した。細胞凝集塊を分化培地に再懸濁して、ペトリ皿へ移した。新鮮な分化培地で培地の半分を置換することによって細胞に毎日栄養を供給し、1週間培養した(Itskovitz-Eldor et al., 2000)。
【0095】
RT-PCR解析:全RNAは、製造業者の説明書に従いRNAeasyキット(Qiagen)を使用して、hES細胞またはEBから抽出した。一本鎖cDNAを、SuperScript III First-Strand Synthesis system for RT-PCR(Invitrogen)を使用して合成した。1 μlのcDNA反応配合物を、以下の表1に示したプライマーと共にPCR増幅に供した。反応は、94℃、4分間の変性後、以下のような30回のPCRサイクルに供した:94℃、30秒;55℃、30秒;72℃、60秒。72℃、5分間の伸長工程が含まれた。すべての産物を、2%のアガロースゲル上で電気泳動した。
【表1】

免疫組織化学的研究:hES細胞コロニーをPBSで洗浄して、4%パラホルムアルデヒドで室温にて10分間固定し、10分間1%サポニンで透過化した。次いで、細胞を5%正常ヤギ血清で30分間ブロックし、次いで、マウス坑Oct-4モノクローナル抗体(Chemicon)またはマウス坑SSEA-4モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)と共に4℃にて一晩インキュベートした。次いで、ヤギ抗マウスIgG-cy3抗体(Sigma)を60分間適用し、抗原を視覚化した。
【0096】
図の説明:
図6。バキュロウイルスベクターによって媒介されるhES細胞における一過性導入遺伝子の発現。(A〜F)時間経過観察は、EF1αプロモーターの制御下にeGFP遺伝子を有する組み換えバキュロウイルスで形質導入後1日目(A、B)、3日目(C,D)、および7日目(E、F)のhES細胞コロニーを示す。位相差(A、C、E)および蛍光像(B、D、F)を示してある。(G)形質導入後2日目のeGFP陽性hES細胞の割合のフローサイトメトリー解析。
【0097】
図7。hES細胞における、CMVプロモーターを有するバキュロウイルスベクターによる用量依存性形質導入効率。(A〜C)機械的スライシングによって単離されたhES細胞凝集塊には、ディスパーゼ消化後の懸濁液中で1〜100 pfuまでの種々のMOIにて組み換えバキュロウイルスを形質導入した。形質導入後の1日目のhES細胞コロニーの位相差像(左)および蛍光像(右)を示した。(D)hES細胞における、バキュロウイルスベクターによる用量依存性形質導入効率。FASC解析では、種々のMOIの組み換えバキュロウイルスを形質導入後の1日目のhES細胞における導入遺伝子の発現の割合を示した。
【0098】
図8。バキュロウイルスベクター形質導入後のhES細胞における分子マーカーの発現。hES細胞凝集塊には、100のMOIにて、CMVプロモーターの制御下にeGFP遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスを形質導入して、新鮮なmEFフィーダー上へ再び播種した。形質導入後の7日目に、偽形質導入した(mock-transfected)hES細胞(A)およびバキュロウイルスベクターによって形質導入したhES細胞(B)における分子マーカーの発現を検出するためにRT-PCRを使用し、偽形質導入したhES細胞(C、D)およびバキュロウイルスベクターによって形質導入したhES細胞(E、F)におけるSSEA-4およびOct-4マーカーの発現を検出するために免疫染色を使用した。また、形質導入したhES細胞を、胚様体を作製するために使用した。胚様体形成後の7日目に、RT-PCRでは、偽形質導入したhES細胞(G)およびバキュロウイルスベクターによって形質導入したhES細胞(H)に由来する胚様体において、3つの胚葉についてマーカーの発現を示した。
【0099】
図9。ハイブリッドバキュロウイルスベクターによって媒介される、hES細胞における安定な導入遺伝子発現。hES細胞凝集塊には、AAVrep遺伝子およびITRを含むハイブリッドバキュロウイルスを形質導入して、新鮮なフィーダー上へ再び播種した。EGFP陽性hES細胞を機械的に単離し、通常の継代培養時に毎週新鮮なフィーダー上へ再び播種した。導入遺伝子の組み込みを指揮するRep/ITR構築物を上段に示してある。位相差(左)および蛍光(右)像は、第1、第3および第7回の選択後のeGFP陽性hES細胞の濃縮を示す。
【0100】
図10。ハイブリッドバキュロウイルスベクターによって安定に形質導入されたhES細胞の神経細胞への分化。安定に形質導入されたhESは、神経細胞へ分化するように指揮された。(A)継代培養なしの4週間フィーダー上でのeGFP陽性hES細胞の過剰培養の蛍光像;(B)過剰培養したhES細胞から生じた神経球の蛍光像。(C)位相差像および(D)蛍光像は、播種後2週間の安定なhES細胞由来の神経球からの典型的な神経細胞への分化を示している。(EおよびF)これらの細胞体および神経突起の両方にeGFPを有する安定に形質導入されたhES細胞に由来する典型的な神経細胞の蛍光像。
【0101】
結果:
本発明者らは、機械的スライシングによりHES-1系統のhES細胞凝集塊を単離し、無血清のhES細胞培養培地にこれらを懸濁し、フィーダー上に再び播種する前に1時間、100プラーク形成単位(pfu)の感染効率(MOI)にて増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)遺伝子を含むバキュロウイルスベクターを凝集塊に感染させた。ヒトEF1αプロモーターによって駆動されて、eGFP発現は、形質導入後の6時間という早い時期に観察され、24時間で高度に強くなり、明るい緑の蛍光が凝集塊全体を覆った(図6A及びB)。形質導入されたhES細胞は、凝集塊から成長し続け、新たに生成されたeGFP陰性hES細胞によって囲まれた中心に「緑」の領域を有するコロニーを生じた(図6CおよびD)。中心領域のeGFPシグナルは、時間とともに減少して、7日目で非常に弱くなった(図6EおよびF)。フローサイトメトリー解析により、2日目の凝集塊におけるeGFP陽性のhES細胞が約35%であることが証明された(図6G)。ヒトサイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーターおよびエンハンサー(CMVプロモーター)を有するバキュロウイルスベクターを使用したときに、同様の結果が観察された(図7)。これらの知見は、バキュロウイルスベクターがhES細胞における一過性遺伝子発現を媒介する際に形質転換受容性であることを示唆する。
【0102】
1000 pfuのMOIにおいてさえ、バキュロウイルス形質導入により、hES細胞において明白な細胞毒性は生じなかった。感染したhES細胞は、形態学的変化を示さず、これらの感染していない対照hES細胞と同様に増殖した。バキュロウイルス感染は、Oct-4、SSEA-4およびnanogなどの胚性幹細胞の多能性についてのマーカー発現に対して効果を有さず、Pax6、NeuroD、グロビンおよびAFPを含む、3つの胚葉についての代表的なマーカーの発現を誘導しなかった(図8)。この観察は、バキュロウイルス感染がhES細胞の多能性および増殖に影響を及ぼさないことを示している。
【0103】
遺伝子操作後のhES細胞における安定な導入遺伝子発現は、導入遺伝子の長期発現を必要とする再生医薬にこれらのhES細胞を適用するために重要である。バキュロウイルスベクターを媒介した導入遺伝子発現の期間を延長するために、本発明者らは、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来のrep78/68遺伝子および逆方向末端反復配列(ITR)配列を含めることによってハイブリッドバキュロウイルスベクターを構築した(Palombo, Monciotti et al., 1998)。このキメラウイルス構築物は、非相同的組み換えによる、ヒト染色体19(19q13.3-qter)のAAVS1部位におけるRepを媒介した部位特異的組み込みを利用する(McCarty, et al., 2004)。未分化および分化した細胞においてeGFP発現を観察するために、構成的に活性なCMVプロモーターを使用した。このハイブリッドバキュロウイルスベクターを形質導入しても、hES細胞は、最初の2日ではeGFP発現をほとんど示さなかった。EGFP陽性hES細胞は、3日目から少数が現れ始め、7日目には明白になり、その時までにこれらのeGFP陽性細胞を機械的スライシングによって単離し、新鮮なフィーダー上に再び播種した。コロニー中のeGFP陽性hES細胞の数は、機械的選択のそれぞれのラウンドで増加し、6〜8回の選択の後、hESコロニー全体がほとんどeGFP陽性となった(図9)。選択されたeGFP陽性hES細胞は、少なくとも10継代の間、導入遺伝子の減衰を伴わずに導入遺伝子を発現し続け、ハイブリッドベクターによって媒介される導入遺伝子の染色体組み込みを示唆している。
【0104】
導入遺伝子発現の安定性をさらに調べるために、本発明者らは、外胚葉由来の代表的な細胞の一種である神経細胞への分化の後でも、eGFP発現が保存されうるかどうかを調べた。最初に、eGFP陽性hES細胞をフィーダー上で4週間培養した(図10A)。次いで、神経球をbFGFおよびEGFの存在下において懸濁液中で1〜3週間インキュベートすることによって過剰増殖した細胞から作製した(Reubinoff et al., 2001)。生じた神経球は、強いeGFPの蛍光を保持していた(図10B)。ポリ-D-リジンおよびラミニンコートしたディッシュ上に播種し、成長因子なしで培養した後、神経球は、伸長した神経突起をもつ典型的な神経細胞分化の表現型を示し、ほとんどサイレンシングすることなく明るいeGFPを発現していた(図10C〜F)。導入遺伝子発現は、少なくとも50日間(実験終了時)、神経細胞において維持された。神経細胞に加えて、中胚葉由来の代表的な細胞型である心筋細胞も、自発的な分化の間に、これらの形質導入されたhES細胞から派生した。重要なことに、これらの心筋細胞は、分化後もeGFP陽性のままであった。
【0105】
当業者には理解することができるように、本明細書に記述された例示的態様に対する多くの変更およびが可能である。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって定義されるとおりの、その範囲内の全てのこのような修飾を包含することが意図される。
【0106】
本明細書において言及したすべての文書は、参照により完全に援用される。
【0107】
本発明の種々の態様が本明細書に開示されているが、多くの改変および変更が、本技術分野の当業者の共通の一般知識に従って、本発明の範囲内でなされてもよい。このような修飾は、実質的に同一方法で同じ結果を達成するための、本発明のいずれの側面に対する公知の均等物の置換も含む。本明細書に使用されるすべての専門的および科学的用語は、他に定義されない限り、本発明の技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【参照文献】
【0108】
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【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】CMVプロモーターの制御下でeGFP遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスに500 MOIにて感染したmES細胞の感染後3日目の蛍光(上段)および位相差(下段)顕微鏡観察像である。
【図2】CMVプロモーターの制御下でeGFP遺子を含む組み換えバキュロウイルスに200 MOIにて感染後1日目のhES細胞コロニーの位相差および蛍光顕微鏡イメージの重ね合わせ(右)および蛍光顕微鏡像(左)である。
【図3】CMVプロモーターの制御下でeGFP遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスに100 MOIにて感染させて、その後に新鮮なmEF支持細胞上に再び播種後1〜5日目のhES細胞コロニーの位相差像(左)および蛍光像(右)である。
【図4】ハイブリッドバキュロウイルスを10 pfuのMOIにて感染させたhES細胞凝集塊から成長したhES細胞コロニーの位相差像(左上)、蛍光像(右上)および重ね合わせ像(上段中央)である。eGFP陽性hES細胞を選択し、6および7日間、新鮮なmEF支持細胞上に再び播種した(中段および下段の3像)。
【図5】100 pfuのMOIにてバキュロウイルスベクターによって感染させたhES細胞に由来する神経細胞の位相差像である。
【図6】EF1αプロモーターの制御下のeGFP遺伝子を有する組み換えバキュロウイルスで形質導入後のhES細胞凝集塊の増殖を示す位相差(A、C、E)および蛍光像(B、D、F)、並びに形質導入後2日目のeGFP陽性hES細胞の割合のフローサイトメトリー解析(G)である。
【図7】1〜100 pfuの種々のMOIにてCMVプロモーターの制御下のeGFP遺伝子を有する組み換えバキュロウイルスを導入したhES細胞コロニーの位相差(左)および蛍光像(右)(A〜C)、並びに形質導入後1日目のeGFP陽性hES細胞の割合のフローサイトメトリー解析(G)である。
【図8】偽形質導入したhES細胞(A)およびバキュロウイルスベクターによって形質導入したhES細胞(B)における種々の分子マーカー発現のRT-PCR検出;偽形質導入したhES細胞(C、D)およびバキュロウイルスベクターを形質導入したhES細胞(E、F)におけるSSEA-4およびOct-4発現の免疫染色検出;偽形質導入したhES細胞(G)およびバキュロウイルスベクターによって形質導入したhES細胞(H)由来の胚様体における3つの胚葉マーカーのRT-PCR検出の写真である。
【図9】第1、第3および第7回の機械的選択後のコロニーにおけるeGFP陽性hES細胞の濃縮を証明する位相差(左)および蛍光(右)像である。eGFP陽性hES細胞は、AAVrep遺伝子およびITRを含むハイブリッドバキュロウイルスを形質導入することにより産生した;導入遺伝子組み込みを指揮するRep/ITR構築物を上段に示した。
【図10】(A)継代培養なしの4週間フィーダー上でのeGFP陽性hES細胞の過剰培養の蛍光像;(B)過剰培養したhES細胞から生じた神経球の蛍光像;播種の2週間後の安定なhES細胞に由来する神経球からの典型的な神経分化の(C)位相差像および(D)蛍光像;(EおよびF)細胞体および神経突起においてeGFPを安定形質導入したhES細胞に由来する典型的な神経細胞の蛍光像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子を胚性幹細胞に送達する方法であって、前記胚性幹細胞を、前記核酸分子を含むバキュロウイルスベクターに感染させることを含む方法。
【請求項2】
前記胚性幹細胞がヒト胚性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、前記核酸分子は、コード領域および作動可能に連結されたプロモーターを含む導入遺伝子を含む方法。
【請求項4】
前記導入遺伝子は、リポーター遺伝子、選択可能なマーカー遺伝子、胚性幹細胞の分化に関与する遺伝子または治療的導入遺伝子である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロモーターが胚性幹細胞に特異的なプロモーター、分化細胞型に特異的なプロモーター、発生特異的プロモーター、ウイルスプロモーターまたは哺乳動物プロモーターとウイルスプロモーターおよび/またはエンハンサーとの融合プロモーターである、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プロモーターがヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター/エンハンサーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バキュロウイルスベクターが核酸分子に隣接する逆方向末端反復配列(ITR)配列およびrep遺伝子をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ITR配列およびrep遺伝子がアデノ随伴ウイルスITR配列およびrep遺伝子である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記バキュロウイルスベクターがオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa. californica)核多角体ウイルスベクターである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
胚性幹細胞に分化を誘導することをさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
胚性幹細胞に特異的なプロモーター含む、組み換えバキュロウイルス核酸。
【請求項12】
胚性幹細胞に特異的なプロモーターが、コード領域に、またはマルチクローニングサイトに作動可能に連結されている、請求項11の組み換えバキュロウイルス核酸。
【請求項13】
胚性幹細胞に特異的なプロモーターがoct-4プロモーターである、請求項11または請求項12に記載の組み換えバキュロウイルス核酸。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載の組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞。
【請求項15】
請求項13に記載の胚性幹細胞を含む、医薬組成物。
【請求項16】
特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる障害を治療する方法であって、被験体に対して組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞を投与すること含む方法。
【請求項17】
投与前に前記胚性幹細胞に分化を誘導することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記バキュロウイルスベクターが治療的導入遺伝子を含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前障害が、癌、白血病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、CNS損傷、脊椎損傷、多発性硬化症、心臓損傷、肝障害、腎臓損傷、膵臓の損傷、レチナール損傷、腸管の損傷、骨格筋損傷、筋ジストロフィー、肺損傷または糖尿病である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記投与には外科的移植または注射を含む、請求項16〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
投与前にさらなる成長因子で前記胚性幹細胞を処理することをさらに含む、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記さらなる成長因子が線維芽細胞成長因子またはニューロトロフィンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
被験体の障害を治療するための組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞の使用であって、前記障害は、前記被験体における前記特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる使用。
【請求項24】
被験体における障害を治療するための医薬の製造における組み換えバキュロウイルス核酸を含む胚性幹細胞の使用であって、前記障害は、前記被験体における前記特定の細胞型の早発性死または機能不全によって特徴づけられる使用。
【請求項25】
前記胚性幹細胞が分化した、請求項23または請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記バキュロウイルスベクターが治療的導入遺伝子を含む、請求項23〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記障害が、癌、白血病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、CNS損傷、脊椎損傷、多発性硬化症、心臓損傷、肝障害、腎臓損傷、膵臓の損傷、レチナール損傷、腸管の損傷、骨格筋損傷、筋ジストロフィー、肺損傷または糖尿病である請求項23〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記胚性幹細胞が外科的移植または注射のために適応される、請求項23〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記胚性幹細胞がさらなる成長因子で処理されている、請求項23〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記さらなる成長因子が線維芽細胞成長因子またはニューロトロフィンである、請求項29に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−545408(P2008−545408A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513434(P2008−513434)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【国際出願番号】PCT/SG2006/000133
【国際公開番号】WO2006/126972
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(504056510)エイジェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (12)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】