説明

バグハウスフィルター及び媒体

フィルターバッグを被せた支持構造を有するバグフィルター。このフィルターバッグの生地は、少なくとも1つの基材層と、そこに対面する関係で結合された少なくとも1つのナノウェブとの複合体である。このナノウェブは、フィルターバッグが粒子を含む高温の気体流に最初に曝される面に配置されており、目付が約2gsmを超えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば産業用ガス流のような流体流から固形物を濾過する際のフィルターおよびフィルターとして有用な複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
バグハウス(bag house)としても知られる集塵機は、一般に、産業排水または排ガスから粒子状物質を濾過する目的で使用されている。一旦濾過されて浄化された排ガスは大気中に放散することも再利用することもできる。このようなバグハウス集塵機の構造には、通常、キャビネットまたは類似の構造内に支持された1またはそれ以上の可撓性フィルターの列が含まれる。このようなフィルターのキャビネットおよび列においては、排水がバッグを効率的に通過し、それによって同伴粒子が除去されるように、フィルターバッグがキャビネット内に固定されて定位置に維持されているのが一般的である。キャビネット内に固定されたフィルターバッグは、典型的には、空気の上流側と下流側とを隔てるとともに、効率的な運転が維持されるようにフィルターバッグを支持する構造体に支持されている。
【0003】
より具体的には、いわゆる「バグハウスフィルター」においては、気体流が濾過媒体に誘導されて通過するに伴い、この流れから粒子状物質が除去される。典型的な用途においては、濾過媒体は全体的に袖に似た筒状形状を有しており、濾過された粒子がこの袖体の外側に堆積するように気体流が配向される。この種の用途において、濾過媒体は、パルス状の逆流に媒体を曝すことによって定期的に洗浄され、この作用により、濾過された粒子状物質は袖体の外側から払い落とされてバグハウスフィルター構造体の下部に回収される。参照によって本明細書に援用される米国特許第4,983,434号明細書には、バグハウスフィルターの構造および先行技術のフィルター積層体が例示されている。
【0004】
産業流体流中の粒子状不純物の分離は布フィルターを用いて達成される場合が多い。このような布系濾過媒体によって粒子が流体から除去される。フィルター上に粒子が堆積することによって布体前後の流れ抵抗または圧力損失が顕著になったら、フィルターを洗浄して粒子のケークを取り除かなければならない。
【0005】
工業濾過市場においては、フィルターバッグの種類を洗浄方法によって特徴付けるのが一般的である。最も一般的な洗浄技法の種類は、エア逆洗(reverse air)、シェーカー、およびパルスジェットである。エア逆洗およびシェーカー技法は低エネルギー洗浄技法とみなされている。
【0006】
エア逆洗技法は、フィルターバッグの内側に集積したダストを空気で穏やかに逆洗するものである。この逆洗によってバッグが潰れ、ダストケークが破壊されてバッグの底からホッパへ排出される。
【0007】
シェーカー機構も同様に、バッグの内側に集積した濾過ケークを洗浄する。バッグの上端が振動アームに取り付けられており、これがバッグ内に正弦波を生じさせることによってダストケークが払い落とされる。
【0008】
パルスジェット洗浄技法は、筒状フィルターの上端部から内側へ圧縮空気を短いパルス状に流入させるものである。パルス状の浄化空気がベンチュリ管を通過するに伴い2次的な空気が吸い込まれ、結果として得られる空気の塊によってバッグが急激に膨張し、回収されたダストケークが払い落とされる。通常、バッグは即座に支持ケージの位置にパチンと戻り、すぐに粒子回収に使用できる状態に戻るであろう。
【0009】
この3種の洗浄技法の中で最も濾過媒体にかかる負荷が大きいのがパルスジェットである。しかしながら、近年、パルスジェット式バグハウスを選択する工業プロセス技師(industrial process engineer)がますます増えてきている。
【0010】
バグハウスは、高温(200℃まで)、熱的安定性および耐薬品性を有する濾過媒体を必要とするため、濾過媒体の選択の幅が狭く、パルスジェット用途に実用可能な候補は数種類しかない。一般的な高温用布体には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス繊維、またはポリイミド(ポリイミドは260℃で連続使用しても安定である)が含まれる。高温の作用が酸化剤、酸、または塩基の作用と複合した場合、ガラス繊維およびポリイミド媒体は早期に破損する傾向がある。したがって、PTFEを使用することが好ましい。市販のPTFE布帛は支持体を有するPTFE繊維のニードルフェルトである。このようなフェルトは、通常、目付が20〜26oz/yd2であり、マルチフィラメントを織成したスクリム(4〜6oz/yd2)で補強されている。フェルトは、長さが2〜6インチのステープル繊維(通常、6.7デニール/フィラメントまたは7.4dtex/フィラメント)から作製されている。この製品は、初期にダストケークがバッグを「最適化(season)」するという点で他の多くのフェルト化された媒体と同様に機能する。この最適化は、深層濾過(in−depth filtration)と称される場合もあり、媒体がより効率的な濾過を行うようになるが、使用中に媒体前後の圧力損失を増大させるという欠点を有している。最終的にバッグは目詰まりすなわち閉塞することとなり、バッグを洗浄するか交換しなければならなくなるであろう。一般に、この媒体の難点は、濾過効率の低さ、目詰まり、および高温下における寸法不安定性(収縮)にある。
【0011】
高温用に設計された他の種類の構造が米国特許第5,171,339号明細書に記載されている。フィルターバッグを被せたバッグリテーナーを備えるバグフィルターが開示されている。上記フィルターバッグの生地は、ポリ(m−フェニレンイソフタラミド)、ポリエステル、またはポリフェニレンスルフィド繊維のフェルトにポリ(p−フェニレンテレフタラミド)繊維の薄い不織布がニードリングされた積層体を含み、フィルターバッグが粒子を含んだ高温の気体流に最初に曝される面にポリ(p−フェニレンテレフタラミド)布帛が配置されている。ポリ(p−フェニレンテレフタラミド)布帛は、目付が1〜2oz/yd2であってもよい。
【0012】
多孔質延伸PTFE繊維の織布に多孔質延伸PTFE膜(ePTFE)を積層した2層製品も使用されている。この製品は商業的な成功を収めておらず、その理由は幾つかあるが、主として、繊維織布の裏張りがパルスジェット支持ケージ上で長持ちしないことによる。織成された糸が互いに滑り合うことによって膜に過度の応力が生じ、その結果として膜に亀裂が生じる。
【0013】
不織布は、濾過媒体の製造に有利に用いられてきた。通常、この種の用途に用いられる不織布は、機械的ニードルパンチ(「ニードルフェルト化(needle−felting)」と称される場合もある)により交絡一体化されており、これは、繊維ウェブ構造体にバーブのついた針の挿抜を繰り返すことを伴うものである。この種の加工は繊維構造体を一体化して一体性をもたせるように作用するが、バーブのついた針が多くの構成繊維を剪断することは避けられず、繊維構造体に望ましくない穿孔が生じてしまい、これがフィルターの一体性を損なうように作用し、効率的な濾過を阻害する可能性がある。ニードルパンチはまた、結果として得られる布帛の強度を損なう可能性もあり、濾過用途に十分な強度を持たせるためにより目付の高い好適な不織布が必要となる。
【0014】
Kirayogluに付与された米国特許第4,556,601号明細書には、高耐久性ガスフィルターとして使用してもよい水流交絡された不織布が開示されている。しかし、この濾材は、収縮工程に付すことができない。ここに記載された布帛を収縮工程に付すと、濾材の物理的性能に悪影響が及ぼされると考えられている。
【0015】
米国特許第6,740,142号明細書には、バグハウスフィルターに使用するためのナノ繊維が開示されている。可撓性のバッグは、目付が0.005〜2.0グラム毎平方メートル(gsm)であり、厚みが0.1〜3μmの層で少なくとも一部が覆われている。この層は、直径が約0.01〜約0.5ミクロンの高分子微細繊維を含むが、この製造に用いられる方法が限られているため目付に限界がある。’142号特許の層は目付に限界があるため、濾過媒体の寿命が大幅に低下し、フィルターが洗浄サイクルに耐える能力が極度に低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、水流交絡、ニードルパンチ、または他の結合手段によってナノウェブ層を基布に結合させることにより形成される濾過媒体を対象とする。この構成により、’142号特許の製品に見られる性能の限界を示すことなく必要な強度特性を有する濾過媒体が提供される。本発明の濾過媒体はまた、費用対効果の高い使用に非常に望ましい均一性も示す。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の実施形態は、フィルターバッグを被せた支持構造を備えるバグフィルターであり、上記フィルターバッグの生地は、少なくとも1つの基材層と、それと対面する関係で結合された目付が約2gsmを超える第1ナノウェブ層との複合体を含む。
【0018】
本発明の他の実施形態は、フィルターバッグを被せた支持構造を備えるバグフィルターであり、上記フィルターバッグの生地は、少なくとも1つの基材層にウェブが対面する関係で結合された複合体を含み、このウェブは、目付が約0.1gsmを超えるナノウェブ層と、そのナノウェブ層に結合されたスクリムとを含み、このウェブはフィルターバッグの上流側に配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用される「ナノ繊維」という用語は、約1000nm未満、さらには約800nm未満、さらには約50nm〜500nmの間、そしてさらには約100〜400nmの間の数平均直径または断面を有する繊維を指す。本明細書で使用される直径という用語は、非円形形状の最大断面を含む。
【0020】
「不織布」という用語は、ランダムに分布した多数の繊維を含むウェブを意味する。通常、繊維は互いに結合させてもよく、あるいは結合させなくてもよい。繊維は、ステープル繊維または連続繊維であり得る。繊維は、単一の材料または多数の材料(異なる繊維の組み合わせとして、あるいはそれぞれが異なる材料で構成された類似の繊維の組み合わせとして)を含むことができる。「ナノウェブ」とは、ナノ繊維を含む不織ウェブである。
【0021】
「スクリム」は支持層であり、ナノウェブ層を結合、接着、または積層することができる任意の平面構造を有していてもよい。有利には、本発明に有用なスクリム層はスパンボンド不織層であるが、不織繊維のカードウェブ等から作製されていてもよい。
【0022】
本発明の目的は、排ガスのダスト回収用バグフィルター装置に用いるための、効率の高いダスト回収用濾布を提供することと、この濾布を備えるバグフィルターを提供することとにある。このフィルターは、機械的に安定なフィルター構造において基材層と結合されたナノウェブ層を少なくとも含む。これらの層を一緒にすることで、濾過媒体を通過する際の流量制御を最小限に抑えながら極めて優れた濾過効率および高い粒子捕捉効率が得られる。基材は、流体流の上流側、下流側、または内層に配してもよい。
【0023】
一実施形態においては、フィルターは、目付が約2gsmを超えるかまたは約3gsmを超えるかまたは約6gsmを超えるかまたは約10gsmさえも超えるナノウェブ層を含む濾過媒体を含む。濾過媒体は、ナノウェブが対面する関係で結合された基材をさらに含む。有利には、ナノウェブ層は、フィルターバッグの上流表面すなわち上流側、すなわち粒子を含む高温の気体流に最初に曝される表面に配置される。
【0024】
さらなる実施形態においては、フィルターは、少なくとも1つの基材層にウェブが対面する関係で結合された複合体を備え、このウェブは、フィルターバッグの上流側、すなわちフィルターバッグが粒子を含む高温の気体流に最初に曝される表面に配置されており、このウェブは、目付が約0.1gsmを超えるナノウェブ層とこのナノウェブ層に結合されたスクリムとを備える。場合によっては、スクリムをナノウェブと基材との間に配置すると有利であるが、ナノウェブ層をスクリムと基材との間に配置させることが望ましい場合もある。
【0025】
本発明のフィルターは、ダスト回収用パルス洗浄型および非パルス洗浄型フィルター、ガスタービンおよびエンジン吸気(air intake)または吸気(air induction)系、ガスタービン吸気(intake)または吸気(induction)系、高負荷エンジン吸気(intake)または吸気(induction)系、小型乗用車用エンジン吸気(intake)または吸気(induction)系、Zeeフィルター、自動車用キャビンエア、オフロード車用キャビンエア、ディスクドライブ用エア、写真複写機用トナー除去、HVAC用フィルター(商業用および住宅用濾過用途のいずれも)、ならびに掃除機用途を含む様々な濾過用途に使用することができる。
【0026】
本発明の基材層は、綿、麻、他の天然繊維等のセルロース繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、もしくはポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン等の有機繊維、または他の従来の繊維もしくは高分子材料およびこれらの混合物等の様々な従来の繊維から形成してもよい。
【0027】
本発明のフィルターバッグの基材層は、織物であっても不織物であってもよい。織物バッグの場合は、典型的には、典型的な織物の構成になるように繊維を絡み合わせて繊維の網目を形成する。不織布は、典型的には、繊維を特定の向きに配向させずに緩く成形した後、この繊維を結合させて濾布にすることによって作製される。本発明の構成要素を構成する好ましい1つの形態には、基材としてフェルト媒体を用いることが含まれる。フェルトは圧縮された多孔質の不織布であり、不連続な天然または合成繊維を敷き詰め、当業者に知られているであろう一般的に利用可能なフェルト結合技法を用いて繊維を圧縮してフェルト層にすることにより作製される。
【0028】
使用される繊維は、典型的には、極めて優れた復元力および空気が通過する作用に対する抵抗力および粒子捕捉を示すものである。この布帛は、化学物質粒子に対する安定性を有していてもよく、かつバグハウスを通過する空気およびフィルター表面に運ばれる粒子の温度の両方の様々な温度に対する安定性を有していてもよい。
【0029】
本発明のフィルター構造は、典型的には、基材とナノウェブ層とを合わせた複合体を好適な支持構造(バッグくびれ部分のリテーナー等)で支持することによって、有用な自由端形状(open shape)に維持されているが、支持構造をバッグの内側に配置してもよい。このような支持体は、線状部材を巻線形態またはケージ様構造に形成したものであってもよい。別法として、支持体は、バッグの形状に似た穿孔を有するセラミックまたは金属構造体を備えていてもよい。支持構造の表面積のかなりの割合がフィルター基材と接触している場合、支持構造は、この構造を通過する空気に対し透過性であるべきであり、フィルターバッグ前後で圧力損失を漸増させるべきではない。この種の支持構造は、フィルターバッグが効率的な濾過形状または構造を維持するように、フィルターバッグの内側全体と接触するように形成してもよい。
【0030】
ナノウェブ層を基材と結合させることにより本複合体構造を製造する方法は特に限定されるものではない。ナノウェブ層のナノ繊維を基材層に物理的に絡ませてもよいし、あるいは、ナノウェブ層の繊維と基材の繊維とを、例えば、加熱、接着剤、または超音波積層または結合によって互いに融合させることによりこれらを結合させてもよい。
【0031】
基材層をナノウェブ層またはナノウェブをスクリムと合わせた層に結合させる熱的方法としては、カレンダー加工が挙げられる。「カレンダー加工」は、2つのロール間のニップ内にウェブを通過させる方法である。ロールは互いに接触していてもよいし、ロール表面の間に固定または可変の間隙が存在してもよい。カレンダー加工工程において、ニップは、ソフトロールとハードロールの間に形成されるのが有利である。「ソフトロール」は、カレンダー内で2つのロールを一緒に保持するために印加される圧力下で変形するロールである。「ハードロール」は、この方法の圧力下で本方法または製品に対して著しい影響を有する変形が生じない表面を有するロールである。「無地(unpatterned)」ロールは、これらを製造するために使用される方法の能力内で滑らかな表面を有するロールである。ポイントボンディングロールとは違って、ウェブがニップを通過する際にウェブ上に意図的にパターンを生じるようなポイントまたはパターンは存在しない。本発明に用いられるカレンダー加工工程におけるハードロールは、パターン形成されていても無地であってもよい。
【0032】
接着剤積層は、低温、例えば室温下で、溶剤系接着剤の存在下に、カレンダー加工を併用するかまたは他の手段により積層体を加圧することによって実施してもよい。別法として、高温でホットメルト接着剤を使用してもよい。当業者であれば、本発明の方法に使用することができる好適な接着剤を容易に認識するであろう。
【0033】
上のような物理的結合によって繊維を絡合させる方法には、例えば、ニードルパンチ加工およびウォータージェット加工(他に、水流交絡またはスパンレースとしても知られる)がある。
【0034】
布帛製品の製造業において布帛シートの接合に一般的に用いられている方法の1つがニードルパンチングまたはニードリングとしても知られる機械的絡合と呼ばれるものであり、これは、米国特許第3,431,611号明細書および米国特許第4,955,116号明細書に開示されているように、独立した繊維の小さな束を、カーディングされた繊維のバットに対し、凝集性のある布体構造が形成されるような多数の穿孔数で押し込むことから基本的になる。
【0035】
本発明のフィルターの製造方法においては、不織布の高密度層(基材)側からニードルパンチ加工(またはウォータージェット加工)を行うことが望ましい。ニードルパンチ加工を低密度層(ナノウェブ)側から行った場合と比較すると、高密度層側からのニードルパンチ加工は、絡合に付随する細孔の破壊または変形だけでなく、望ましくない細孔サイズの拡大を抑制することができる。この配置を用いることにより、上述した平均細孔サイズおよび総細孔面積を確保することができ、それによって、より細かい粒子に対する初期の浄化効率の低下が抑えられる。ニードルパンチ加工の実施に対する要件は特に限定されない。しかしながら、ニードルの深度を過度に深くすると濾過媒体複合体の細孔サイズ(直径)の望ましくない拡大が起こる可能性がある。これとは逆に、ニードルの深度を浅くし過ぎると、ウェブと繊維とが十分に絡合しない可能性がある。一般に、ニードルの深度を8〜15mmの範囲に設定することが好ましい。本発明のニードルパンチには、ニードルパンチ加工において周知の任意の種類のニードルを使用することができる。しかしながら、ニードルの直径は高密度層の細孔の直径よりも大きいため、ニードルパンチ加工によって高密度層の細孔の直径が拡大する可能性がある。したがって、細孔の直径に望ましくない拡大が起こるのを抑えながら十分な絡合操作を実施するために、単位面積当たりのニードルの数(穿孔数)を約40〜約100穿孔/cm2の範囲に設定することが好ましい。さらに、穿孔は、低密度層の表面積の約25%を超えるべきではない。
【0036】
紡糸されたままの状態のナノウェブは、主としてまたは排他的にナノ繊維を含み、これは、有利には、電界紡糸(標準的な電界紡糸やエレクトロブローイング等)によって製造されるか、あるいは、特定の状況下においては、メルトブローイングまたは他のこの種の好適な方法によって製造される。標準的な電界紡糸は、本明細書にその全体が援用される米国特許第4,127,706号明細書において説明される技術であり、ナノ繊維および不織マットを作るために、溶液中のポリマーに高電圧が印加される。しかしながら、電界紡糸法は総処理量が低すぎるため、より目付の高いウェブの形成を商業的に実現することはできない。
【0037】
「エレクトロブローイング」法は、参照によってその全体が本明細書に援用される国際公開第03/080905号パンフレットに開示されている。ポリマーおよび溶媒を含む高分子溶液の流れは貯蔵タンクから紡糸口金内の一連の紡糸ノズルに供給され、紡糸ノズルには高電圧が印加されて、紡糸ノズルから高分子溶液が排出される。その間、任意で加熱された圧縮空気が、紡糸ノズルの側面または周囲に配設された空気ノズルから放出される。空気は、新たに放出される高分子溶液を包囲し送り出して繊維ウェブの形成を促進する噴出ガス流としてほぼ下方に向けられ、繊維ウェブは真空チャンバの上側の接地した多孔質捕集ベルト上に捕集される。エレクトロブローイング法によって、比較的短い時間の間に、約1gsmを超える、さらには約40gsmまたはそれ以上もの目付で商業的なサイズおよび量のナノウェブを形成することが可能になる。
【0038】
紡糸されたナノ繊維のウェブがスクリム上で捕集されて結合されるように、スクリムをコレクタ上に配置してもよい。基材の例としては、様々な不織布(メルトブローン不織布、ニードルパンチまたはスパンレース不織布等)、織布、編布、紙等を挙げることができ、基材上にナノ繊維層を追加することが可能な限り、制限なく使用することができる。不織布は、スパンボンド繊維、乾式繊維、湿式繊維、セルロース繊維、メルトブローン繊維、ガラス繊維、またはこれらのブレンド物を含んでいてもよい。別法として、ナノウェブ層をフェルト基材上に直接堆積させてもよい。
【0039】
本発明のナノウェブの形成において使用することができるポリマー材料は特に限定されず、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロースエーテルおよびエステル、ポリアルキレンスルフィド、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、変性ポリスルホンポリマー、ポリアミドイミド、ポリイミド、ならびにこれらの混合物などの付加重合体および縮合重合体材料の両方が含まれる。これらの一般分類の範囲内である好ましい材料には、ポリ(塩化ビニル)、ポリメタクリル酸メチル(および他のアクリル樹脂)、ポリスチレン、およびそのコポリマー(ABA型ブロックコポリマーを含む)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリビニルアルコール(種々の加水分解度(87%〜99.5%)、架橋および非架橋形態)、ポリアミドイミド、およびポリイミドが含まれる。好ましい付加重合体はガラス状である傾向がある(室温よりも高いTg)。これは、ポリ塩化ビニルおよびポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンポリマー組成物またはアロイの場合、あるいはポリフッ化ビニリデンおよびポリビニルアルコール材料の結晶化度が低い場合である。ポリアミド縮合重合体の1つの好ましい種類は、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン6,6−6,10などのナイロン材料である。本発明のポリマーナノウェブをメルトブローイングによって形成する場合は、メルトブローイングによってナノ繊維にすることができる、上に記載したポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等)、ポリエステル(ポリ(エチレンテレフタレート)等)、ポリアミド(ナイロンポリマー等)等の任意の熱可塑性ポリマーを使用してもよい。
【0040】
有利には、繊維ポリマーのTgを低下させることを目的として、当該技術分野において周知の可塑剤を上述した様々なポリマーに添加してもよい。好適な可塑剤は、電界紡糸またはエレクトロブローイングされるポリマーだけでなく、ナノウェブを導入することとなる具体的な最終用途にも依存するであろう。例えば、ナイロンポリマーの可塑化には、水を用いてもよいし、電界紡糸またはエレクトロブローイング工程から残留した溶媒さえも用いてもよい。ポリマーのTgを低下させるのに有用な可能性がある当該技術分野において周知の他の可塑剤としては、これらに限定されるものではないが、脂肪族グリコール、芳香族スルホンアミド(sulphanomides)、フタル酸エステル(これらに限定されるものではないが、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジドデカニル、およびフタル酸ジフェニルからなる群から選択されるもの等)等が挙げられる。本発明に使用することができる他のポリマー/可塑剤の組合せが、参照によって本明細書に援用される、The Handbook of Plasticizers、George Wypych編、2004年、Chemtec Publishingに開示されている。
【実施例】
【0041】
国際公開第03/080905号パンフレットの方法を用いて、ポリアミドPA6/6ナノ繊維から紡糸された目付が2〜10グラム毎平方メートル(gsm)のナノウェブを製造した。繊維の平均径は約400nmであった。幾つかの技法を用いて公称目付が500gsmのポリエステルフェルトにナノウェブを結合させた。
【0042】
ニードルパンチ
30gsmのポリエステルスパンレーススクリム(Kolon,韓国)上にナノウェブを紡糸し、これをポリエステルフェルト上にニードルパンチした。
【0043】
ニードルパンチにおいては、ナノウェブをフェルトに対し内側になるようにしてフェルト側からニードルパンチを行い、その結果、フェルトとスクリム+ナノウェブ構造とが接合された。線速度を1.5メートル/分とした。1インチ当たりの穿孔数(PPI)を383とした。
【0044】
接着剤結合
接着剤によってナノウェブをポリエステルフェルトに結合させた。ポリウレタン接着剤を130℃でフェルトに適用した。次いで、ナノウェブを軽く押さえながら接着剤に接着させた。
【0045】
溶剤接着剤結合
接着剤によってナノウェブをポリエステルフェルトに結合させた。この積層工程は、トリクロロエチレン中のポリウレタン接着剤を室温でフェルトに適用することを含むものとした。次いで、ナノウェブを軽く押さえながら接着剤に接着させた。
【0046】
カレンダー加工
ナノウェブ+フェルト+接着剤を2本のロール間のニップを通過させることにより、ナノウェブとポリエステルフェルトとを接着剤によって結合させた。線速度を0.8ヤード毎分とした。ロールの温度を180℃とした。
【0047】
比較例
このナノウェブを含むフィルターを、市販の濾過媒体から作製されたフィルターと比較した。比較例である、2.5dtexのステープル繊維から作製されたポリエステルフェルト(TTL Germany、製品PES3455−3/01)、ポリエステルフェルトに積層されたePTFE膜(TTL Germany、製品PES3054−1/01 T101T)、およびPTFEポリマーでコーティングされたポリエステルフェルト(TTL Germany、製品PES3455−3/01 T95)を試験した。これらのフィルターはいずれも同程度の目付(約500gsm)および厚みを有するものとした。
【0048】
濾過効率、圧力損失、およびサイクル時間をVDI 3926に従い測定した。この本文を参照によって本明細書に援用する。
【0049】
VDI 3926においては、濾過効率(ダスト漏れとも称される)がマイクログラム毎立方メートル(μg/m3)で測定され、圧力損失がパスカル(Pa)で測定され、サイクル時間が秒(s)で測定される。濾過効率は、フィルターを通過するダストの量を表す。圧力損失は、フィルターの2つの面間の差圧である。サイクル時間は、ダストケークを放出する2回のパルス間の間隔である。特定の圧力損失が得られると(VDI 3926においては、最大圧力損失は1000Paに設定されている)、パルス(逆圧)が自動的に生成される。VDI 3926は、最初に30サイクル、次いでフィルターのエージングを模擬した10,000サイクル、最後にさらなる30サイクルを行うことに基づいている。濾過効率、圧力損失、およびサイクル時間は最後の30サイクルの終了時に測定される。
【0050】
優れたフィルターは、濾過効率の数値が低く(漏れが少ない)、圧力損失が低く、かつサイクル時間が長いものである。圧力損失が低いことは、最終使用者のエネルギー節減(フィルターに気体を押し込む圧力がより低い)につながることに対応し、サイクル時間が長いことは、フィルターの寿命がより長いことを示唆している。実際、サイクル時間が30秒未満であることは、フィルターバッグの交換が必要であることを示唆している。
【0051】
以下の表1に、VDI 3926による濾過効率、圧力損失、およびサイクル時間を示す。
【0052】
表1

【0053】
表1から、ポリエステルフェルトおよびPTFEコーティングされたポリエステルフェルトのどちらと比較しても、ナノウェブを含むフィルターは濾過効率が大幅に改善されており、実質上、ePTFE/ポリエステルフェルト積層体から作製された濾過媒体に匹敵することがわかる。しかしながら、この後者の濾過媒体と比較すると、フェルトに結合させたナノウェブによって、圧力損失がより低くサイクル時間がより長いという利点が得られる。
【0054】
表2は、フェルトに10gsmのナノウェブを積層した試料およびフェルトにPTFE膜を積層した試料の、温度の関数としての濾過効率を示すものである。
【0055】
表2

【0056】
試験の最高温度においては、ナノウェブがePTFE/フェルト積層体よりも優れている。
【0057】
米国特許第6,740,142号明細書の記述に従い比較例を作製した。国際公開第03/080905号パンフレットの方法を用いて、ポリアミドPA6/6ナノ繊維から目付が2グラム毎平方メートル(gsm)のナノウェブをポリエステルフェルト上に直接紡糸することにより前駆体の積層体を製造した。繊維の平均径は約400nmであった。’142号特許で推奨される積層条件を再現するために、前駆体のウェブを温度227℃のプレス内に低圧で60秒間保持することにより、結合されたウェブ試料を製造した。
【0058】
結合されたウェブも前駆体ウェブもナノウェブのフェルトに対する接着力が劣っており、ナノウェブ表面を親指で軽く擦ることによりナノウェブをフェルトから容易に分離することができた。結合された試料をVDI 3926に付したところ、剥離するまでに耐えたサイクルは30回未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルターバッグを被せた支持構造を備えるバグフィルターであって、前記フィルターバッグの生地が、少なくとも1つの基材層と、それと対面する関係でそこに結合された目付が約2gsmを超える第1ナノウェブ層との複合体を含むバグフィルター。
【請求項2】
前記ナノウェブが、前記フィルターバッグの上流側に配置されている請求項1に記載のバグフィルター。
【請求項3】
前記フィルターをVDI 3926に付して30サイクルを経た後も、前記基材層およびナノウェブ層が結合したままである請求項1に記載のバグフィルター。
【請求項4】
前記基材層の前記第1ナノウェブ層が結合された面と反対側の面に結合された第2ナノウェブ層をさらに含む請求項1に記載のバグフィルター。
【請求項5】
前記第2ナノウェブ層に結合された第2基材層をさらに含む請求項4に記載のバグフィルター。
【請求項6】
少なくとも1つのナノウェブ層および少なくとも1つの基材層が、加熱結合、接着剤結合、ニードルパンチ、および水流交絡からなる群から選択される方法によって結合されている請求項1に記載のバグフィルター。
【請求項7】
前記基材層および前記ナノウェブ層が約40〜100穿孔/cm2でニードルパンチされており、前記ナノウェブ層の25%以下が穿孔される請求項6に記載のバグフィルター。
【請求項8】
各基材層が、ポリエステル繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、ガラス繊維、およびこれらの混合物から選択される繊維を独立して含む請求項1に記載のバグフィルター。
【請求項9】
フィルターバッグを被せた支持構造を備えるバグフィルターであって、前記フィルターバッグの生地が、少なくとも1つの基材層にウェブが対面する関係で結合された複合体を含み、前記ウェブが、目付が約0.1gsmを超えるナノウェブ層と前記ナノウェブ層に結合されたスクリムとを含み、前記ウェブが、前記フィルターバッグの上流側に配置されているバグフィルター。
【請求項10】
前記スクリムが、前記ナノウェブと前記基材との間に配置されている請求項9に記載のバグフィルター。
【請求項11】
前記ナノウェブ層が、前記スクリムと前記基材との間に配置されている請求項9に記載のバグフィルター。
【請求項12】
前記フィルターをVDI 3926に付して30サイクルを経た後も、前記基材層およびナノウェブ層が結合したままである請求項9に記載のバグフィルター。

【公表番号】特表2010−525938(P2010−525938A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506295(P2010−506295)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/005483
【国際公開番号】WO2008/136964
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】