説明

バグフィルタ用濾材の製造方法、この方法に用いるポリテトラフルオロエチレン多孔質膜およびバグフィルタ用濾材

【課題】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜とガラス織布とを接合してなる濾材の耐屈曲性などを向上させ、ガラス織布の優れた耐熱性を活かしたバグフィルタ用濾材とする。
【解決手段】流れ方向(MD方向;長手方向)およびこれに直交する方向(TD方向;幅方向)についての引っ張り強度および伸び率がそれぞれ0.25N以上および60%以上であるPTFE多孔質膜を用いる。このPTFE多孔質膜をガラス織布と熱ラミネートなどにより接合してバグフィルタ用濾材を得る。この濾材は、これまでの同種の濾材が耐えられなかった逆洗試験にも合格する程度に耐屈曲性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バグフィルタ用濾材の製造方法と、この方法への使用に適したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜、さらにこの方法により製造することが可能になったバグフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
バグフィルタ式集塵機は、例えば、ごみ焼却炉や産業廃棄物焼却炉から排出される排ガスから煤塵を除去するために使用されており、排ガスに含まれるダイオキシンなどの有害物質を煤塵とともに除去する手段としても重視されている。
【0003】
バグフィルタ式集塵機では、ガス流中の煤塵をバグフィルタ上にダストケーキ層として堆積させてガス流から取り除く。ダストケーキ層は定期的に実施される逆洗によりバグフィルタから払い落とされる。逆洗はガス流の透過方向と逆向きに加えられるパルス圧力をバグフィルタに加えることにより行われる。
【0004】
耐熱性、耐薬品性などに優れたPTFE多孔質膜は、各種フィルタに用いられており、バグフィルタにも適した特性を有する。濾材として使用する場合、PTFE多孔質膜は、フェルト、不織布などの通気性支持材と接合されて補強されることが多い。
【0005】
PTFE多孔質膜は、一般に、PTFEペーストを押出または延伸して得たPTFEシートを、さらに延伸して多孔化することにより製造される。特許文献1および2には、バグフィルタに用いるためにPTFEシートを延伸してPTFE多孔質膜とする方法が開示されている。PTFEシートは、通常、まず押出または延伸した方向であるシートの流れ方向(MD方向;長尺シートについては長手方向)に延伸され、引き続き、シートの流れ方向と直交する方向(TD方向;長尺シートについては幅方向)に延伸される。特許文献1によると、MD方向の延伸倍率は5〜30倍、特に10〜20倍が好適であり、TD方向の延伸倍率は10〜50倍が好適である。
【特許文献1】特開2004−223334号公報
【特許文献2】特開2006−81984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダストケーキ層を十分に払い落としてバグフィルタの圧力損失の上昇を防ぐためには、逆洗の際に大きなパルス圧力を加える必要がある。このため、PTFE多孔質膜と通気性支持材とが接合されてなる濾材をバグフィルタとして用いると、繰り返し加えられるパルス圧力により、PTFE多孔質膜が破壊したり通気性支持材から剥離したりすることがある。PTFE多孔質膜の破壊や剥離は、バグフィルタの集塵効率を低下させる。
【0007】
PTFE多孔質膜の破壊や剥離の程度は、PTFE多孔質膜が接合される通気性支持材の種類によって相違する。ガラス織布は、耐熱性に優れているため、それ自体はバグフィルタへの使用に適している。しかし、PTFE多孔質膜とガラス織布とを接合して得たバグフィルタでは、PTFE多孔質膜の破壊または破損による集塵効率の低下が生じやすい。これは、ガラス織布の表面に比較的大きな凹凸が存在するため、PTFE多孔質膜とガラス織布との接合が不十分となりやすいためである。PTFE多孔質膜の破壊や剥離を防止するために逆洗の際のパルス圧力を小さくすると、ダストケーキ層が十分に脱離せず、バグフィルタの圧力損失が増加することになる。
【0008】
このため、その優れた耐熱性にもかかわらず、ガラス織布はバグフィルタ用濾材の通気性支持材としては不適であると考えられてきた。特許文献1には、通気性支持材として用いる織布の材料として、木綿、アクリル、ポリプロピレンなどが挙げられているが、ガラス繊維は挙げられていない(段落0026)。特許文献2では、PTFE多孔質膜と接合する通気性支持材として熱可塑性樹脂繊維製フェルトが用いられている(請求項1)。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、バグフィルタ用濾材にガラス織布の優れた耐熱性を活かすため、PTFE多孔質膜とガラス織布とが接合されてなるバグフィルタ用濾材の新たな製造方法を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、上記製造方法への使用に適したPTFE多孔質膜を提供すること、さらには上記製造方法による新たなバグフィルタ用濾材を提供すること、にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、PTFE多孔質膜とガラス織布とを接合してバグフィルタ用濾材を得るバグフィルタ用濾材の製造方法であって、PTFE多孔質膜として、PTFEシートを一方向または互いに直交する二方向に延伸することにより製造され、一方向に延伸した場合には当該一方向と当該一方向に直交する方向とのそれぞれについて、互いに直交する二方向に延伸した場合には当該二方向のそれぞれについて、引っ張り強度が0.25N以上で伸び率が60%以上である、PTFE多孔質膜を用いる、バグフィルタ用濾材の製造方法を提供する。
【0011】
ここで、引っ張り強度は、測定方向と直交する方向についての長さが25mmとなるように切断した多孔質膜サンプルを互いの間隔が50mmとなるように配置した一対のつかみ具により上記間隔を規定する方向が測定方向と一致するように保持し、一対のつかみ具によりサンプルを測定方向に沿って100mm/分の速度でサンプルが破断するまで引っ張る試験を行い、サンプルが破断したときに一対のつかみ具に印加されていた応力により定める。
【0012】
また、伸び率は、上記試験においてサンプルが破断したときの一対のつかみ具の間隔をL1(mm)としたときに、{(L1−50)/50}×100(%)により算出される値により定める。
【0013】
また、本発明は、PTFEシートを一方向または互いに直交する二方向に延伸することにより製造されたPTFE多孔質膜であって、一方向に延伸した場合には当該一方向と当該一方向に直交する方向とのそれぞれについて、互いに直交する二方向に延伸した場合には当該二方向のそれぞれについて、引っ張り強度が0.25N以上で伸び率が60%以上である、PTFE多孔質膜を提供する。引っ張り強度および伸び率の測定方法は上記のとおりである。
【0014】
さらに、本発明は、PTFE多孔質膜とガラス織布とが接合されてなるバグフィルタ用濾材であって、通気面が面積98.5cm2の円形となるように濾材を保持した状態でガラス織布側から通気面に対して0.1MPaのパルスエアを0.1秒間印加する疑似逆洗操作を20000回繰り返す試験を実施しても通気面にクラックが観察されない、バグフィルタ用濾材を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、バグフィルタ用濾材への使用に要求される程度の通気度を有しながらも、伸び率および面内方向の引っ張り強度が高いPTFE多孔質膜を用いることとした。このPTFE多孔質膜は、伸び率が高いためにガラス織布の形状変化に良く追随して剥離にくく、引っ張り強度が高いために引き延ばされても破断しにくい。
【0016】
しかも、本発明によるPTFE多孔質は、MD方向およびTD方向の双方について伸び率および引っ張り強度が高く設定されている。このため、本発明によるPTFE多孔質膜からは、伸び率や引っ張り強度が極端に小さい方向が解消されており、バグフィルタにおけるPTFE多孔質膜の破損または剥離が発生しにくい。本発明によれば、PTFE多孔質膜とガラス織布とが接合してなり、逆洗の際のPTFE多孔質膜の剥離や破損が抑制されたバグフィルタ用濾材を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、まず、本発明によるPTFE多孔質膜の製造方法について説明する。
【0018】
PTFE多孔質膜は、PTFEシートを延伸して多孔化することによって製造される。PTFEシートは、PTFE粉末および液状潤滑剤を混合することにより調製したPTFEペーストから製造することができる。
【0019】
PTFEペーストの調製に際し、液状潤滑剤の配合量は、PTFE粉末100質量部に対して5〜50質量部とすることが好ましい。PTFE粉末としては、未焼成のPTFEファインパウダー(例えばダイキン工業株式会社製ポリフロンF104)を使用すればよい。液状潤滑剤としては、流動パラフィン、ナフサなどの炭化水素油を使用すればよい。
【0020】
PTFEペーストは圧延または押出によりPTFEシートへと成形される。PTFEシートの厚さは0.1〜0.7mmの範囲が好適である。
【0021】
PTFEシートは延伸されてPTFE多孔質膜となる。PTFE多孔質膜の延伸は、MD方向(長手方向)およびTD方向(幅方向)についての二軸延伸により行うとよいが、TD方向のみへの一軸延伸としても構わない。PTFEシートの延伸は、従来から行われてきたとおり、ロール法、テンター法などにより行えばよい。
【0022】
本発明では、MD方向およびTD方向のそれぞれについて伸び率および引っ張り強度を所定値以上とするため、延伸に際しては、延伸倍率、温度、(二軸延伸する場合の)延伸順序、潤滑剤除去と延伸との前後関係などの延伸条件を適切に制御する必要がある。
【0023】
従来、濾材とするPTFE多孔質膜への要求特性は、圧力損失や捕集効率を規定する通気度や平均孔径であった。これらの特性を示す値が適切な範囲にあれば、クリーンルーム用エアフィルタのように大きな応力が加わらない濾材としては問題なく使用できる。しかし、本発明によるPTFE多孔質膜を得るためには、伸び率および引っ張り強度に着目してPTFEシートの延伸条件を制御する必要がある。また、ガラス織布と接合して使用する場合の強度を保持するためには、伸び率または引っ張り強度が極度に小さい方向が解消されていることも求められる。しかし、従来の延伸では、伸び率と引っ張り強度との両立を目指すことも、これら特性の方向によるバラツキも十分に配慮されてはいなかった。
【0024】
本発明の方法に用いるPTFE多孔質膜は、フラジール法により測定した通気量が1〜10cm3/cm2/秒、特に2〜5cm3/cm2/秒、の範囲にあることが好ましい。この程度の通気度を有するPTFE多孔質膜は、従来、一般には、PTFEシートから潤滑剤を除去してからMD方向およびTD方向に順次二軸延伸することにより製造されていた。この二軸延伸において通常適用される程度の延伸倍率(例えば特許文献1において好ましいとされているMD方向10〜20倍の倍率)を適用すると、得られるPTFE多孔質膜は、MD方向についての伸び率が低いものとなる(シートF〜Hについての表1,2の結果を参照)。これは、MD方向への延伸倍率が高いためにフィブリルが長くなりすぎるためであると考えられる。上記のような二軸延伸を適用する場合、MD方向についての伸び率を確保するためには、MD方向への延伸倍率を従来よりも低くし、TD方向への延伸倍率は、通気度を好ましい範囲とするべくMD方向への延伸倍率の低さを補うように設定するとよい。
【0025】
本発明の方法に用いるPTFE多孔質膜は、上記のような二軸延伸に限らず、TD方向のみに延伸する方法などによっても得ることもできる。実施例で確認されたところでは、下記の条件に従って液状潤滑剤を含む未焼成PTFEシートを延伸することにより、望ましい特性を有するPTFE多孔質膜を得ることができる。
【0026】
a)液状潤滑剤を除去し、MD方向に2〜8倍の倍率で延伸し、その後、TD方向に15〜50倍の倍率で延伸する。MD方向およびTD方向の延伸はともにPTFEの融点未満の温度で行う。MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との積は100〜125とする。
【0027】
b)MD方向に2〜5倍で延伸し、液状潤滑剤を除去し、その後、TD方向に15〜25倍の倍率で延伸する。MD方向およびTD方向の延伸はともにPTFEの融点未満の温度で行う。MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との積は50〜75とする。
【0028】
上記b)のようにMD方向に延伸してから液状潤滑剤を除去すると、潤滑剤を除去してからMD方向に延伸した場合(a))と比較してフィブリルの少ない原反となる。
【0029】
c)液状潤滑剤を除去し、TD方向に20〜70倍で延伸し、その後、MD方向に5倍以下の倍率で延伸するかMD方向についての延伸は行わない。MD方向およびTD方向の延伸はともにPTFEの融点未満の温度で行う。MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との積は50〜100とする(延伸を行わなかった場合の延伸倍率は1として計算する)。
【0030】
上記c)のようにTD方向に延伸してからMD方向に延伸すると、MD方向に延伸してからTD方向に延伸した場合(a))と比較してTD方向について幅収縮が生じやすい。
【0031】
d)TD方向に5〜20倍で延伸し、潤滑剤を除去し、その後、MD方向に2〜15倍の倍率で延伸する。MD方向およびTD方向の延伸はともにPTFEの融点未満の温度で行う。MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との積は40〜75とする。
【0032】
上記d)のようにTD方向に延伸してから液状潤滑剤を除去すると、潤滑剤を除去してからMD方向に延伸した場合(c))と比較して、MD方向へのフィブリルが多く発生し、MD方向についての伸びが小さくなる。
【0033】
上記a)〜d)では、延伸温度はPTFEの融点未満の温度に設定するが、延伸温度は、低くし過ぎると膜が破断する可能性が生じる。延伸温度は延伸倍率などとの兼ね合いを考慮して適切に設定すべきである。
【0034】
上記a)〜d)とも、延伸処理後、PTFEの融点以上の温度、例えば327〜470℃で焼成することが好ましい。焼成温度が高すぎるとPTFE多孔質膜が変質することがある。焼成の時間は、例えば0.2秒〜1分間が適用である。この焼成により、PTFE多孔質膜の引っ張り強度が向上し、寸法が安定し、圧力損失が下がり、ハンドリングが容易となる。
【0035】
PTFE多孔質膜の厚みは5〜60μm、特に10〜50μmが好ましい。
【0036】
上記により得たPTFE多孔質膜はガラス織布に接合され、バグフィルタ用濾材となる。PTFE多孔質膜とガラス織布との接合は、ホットメルト接着剤などを用いて行ってもよいが、熱ラミネートにより行うことが好ましい。熱ラミネートは、製造コスト面で有利なだけでなく、濾材の圧力損失を低く保ち、耐熱性を損なわないからである。
【0037】
熱ラミネートは、PTFE多孔質膜とガラス織布とを積層し、加熱した一対のロールの間を通すことなどにより押圧して行うことができる。熱ラミネートの温度は、PTFEの融点以上の温度とするとよい。
【0038】
PTFE多孔質膜との接合に用いるガラス織布には、織り方として、二重織、綾織、朱子織、三重織などがあるが、耐熱性の観点から二重織または綾織の織布が好ましい。目付は500〜800g/m2が好適である。PTFEを含浸させたガラス織布を用いてもよく、この場合はガラス織布に対して5〜30質量%のPTFEを含浸させるとよい。
【実施例】
【0039】
以下、具体例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
次のようにしてPTFE多孔質膜を形成した。未焼成のPTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製ポリフロンF104)100質量部に対し、液状潤滑剤としてナフサ19質量部を均一に混合し、PTFEペーストを調製した。次いで、このPTFEペーストを、20kg/cm2の圧力で予備成形した後に丸棒状に押出成形し、さらに一対の金属ロールにより圧延して、厚さ0.2mmのPTFEシートを得た。
【0041】
引き続き、表1に示す条件でシートを延伸した。MD方向(押出方向)への延伸はロール法により、TD方向(押出方向に直交する方向)への延伸はテンター法により行った。潤滑剤の除去は150℃に設定した炉内で1分間保持することにより行った。延伸したPTFE多孔質膜は、400℃に設定した炉内に5秒間保持することにより焼成した。
【0042】
【表1】

【0043】
得られたPTFE多孔質膜の引っ張り強度(膜強度)、伸び率、膜厚および通気度を測定した。
【0044】
強度および伸び率は、引張試験機(島津製作所製テンシロン)を用いて測定した。MD方向(長手方向)およびTD方向(幅方向)についての引っ張り強度および伸び率は、それぞれ別のサンプルを用意して個別に測定した。
【0045】
測定方法を図1を参照しながら以下説明する。サンプル1は、測定方向と直交する方向についての長さWが25mmとなるように予め切断した。サンプル1を、互いの間隔Dが50mmとなるように配置した一対のチャック2,2により、測定方向(MD方向またはTD方向)が間隔Dを規定する方向と一致するように把持した。図1に示したように、チャック2,2はサンプル1をその全幅(25mm)において把持している。図1に示した状態から、一対のチャック2,2によりサンプル1を測定方向に沿って100mm/分の速度でサンプル1が破断するまで引っ張った。サンプルが破断したときに一対のチャック2,2に印加されていた応力を測定し、この応力を引っ張り強度とした。
【0046】
また、伸び率は、上記の試験においてサンプル1が破断したときのチャック2,2の間隔をL1(mm)としたときに、{(L1―50)/50}×100(%)により算出される値により定めた。
【0047】
膜厚は、ミツトヨ製シックネスゲージを用いて測定した。PTFE多孔質膜および後述するバグフィルタ用濾材の通気度は、フラジール試験機(東洋精機製)を用い、JIS L 1096に従って測定した。
【0048】
測定結果を表2にまとめて示す。
【0049】
【表2】

【0050】
上記から得た各PTFE多孔質膜をガラス織布(ユニチカグラスファイバー社製「T790QB」、目付量800g/m2)と重ね合わせ、370℃に加熱した一対の熱ロールの間を通過させてPTFE多孔質膜とガラス織布とを接合することにより、バグフィルタ用濾材を作製した。
【0051】
製造したバグフィルタ用濾材における通気度、洗濯試験後の捕集効率および当該試験後のクラックの有無を調べた。
【0052】
洗濯試験は、測定対象とするバグフィルタ用濾材からB5サイズ(182mm×257mm)に切り出した6枚のサンプルを水とともに洗濯機(三洋電機製)に投入し、洗濯モードを20分間の洗いの後に9分間の脱水を行うサイクルに設定し、このサイクルを4回繰り返すことにより実施した。これは、洗濯機の内壁との衝突や濾材同士の衝突による濾材のダメージを評価するための試験である。
【0053】
洗濯試験後に各濾材についてダメージの有無と捕集効率とを測定した。クラックの有無は、目視により、各サンプルにおけるPTFE多孔質膜の状態を観察することにより判断した。6枚のサンプルのうち1枚でもクラックが確認された場合には、「クラックあり」とした。
【0054】
捕集効率は、以下のようにして測定した。まず、サンプルをその周縁をホルダーで有効通気面積が100cm2となるように支持し、サンプルを通過する空気の流速が5.3cm/秒となるようにサンプルの上流側と下流側との間に圧力差を与えた。この状態で、上流側にJIS11種(関東ローム)のダストをダスト濃度が2g/m3となるように供給し、体積平均粒子径が2〜5μmの範囲にあるダストを対象に、パーティクルカウンター(リオン株式会社製KC−03)を用いてサンプルの上流側および下流側の空間におけるダスト濃度を測定した。
【0055】
各サンプルにおける捕集効率を下記式により求め、6枚のサンプルの平均値をその濾材についての捕集効率とした。
捕集効率(%)={1−(下流側ダスト濃度/上流側ダスト濃度)}×100
【0056】
【表3】

【0057】
表3に示すように、MD方向およびTD方向についての引っ張り強度および伸び率がそれぞれ0.25N(0.25N/25mm)以上および60%以上の範囲にあるPTFE多孔質膜を用いて作製したバグフィルタ用濾材(シートA〜Eおよびシート1〜5)は、いずれも洗濯試験によってクラックが発生せず、試験後の捕集効率も良好であった。また、これら濾材は、フラジール法により測定した通気量が1〜6.2cm3/cm2/秒、より具体的には1.2〜6.2cm3/cm2/秒の範囲にあった。
【0058】
さらに、図2に示した装置を用いて、逆洗を模したパルスエアの印加試験を行った。この試験は、PTFE多孔質膜11とガラス織布12とが接合されてなる濾材を横断面が円形であるアクリル樹脂製の一対の筒状体21,21の間に挟み込んで行った。筒状体21,21は、その内部の空間が底部において面積98.5cm2の円形、頂部で面積26cm2の円形、高さが40cmである。濾材と筒状体との間には気密のためにリング状のゴムパッキング22,22を介在させた。筒状体21,21に挟み込まれる濾材は面積98.5cm2の円形部分が筒状体の内部空間に露出して通気面を構成することとなる。この円形の濾材に対し、ガラス織布12が露出している面に0.3MPaの圧力がかかるようにパルスエア23を0.1秒間印加する操作を2万回行う。濾材を通過するエアの速度は、0.18L/分であった。その後、目視により、クラック発生の有無を確認した。結果を表3に併せて示す。
【0059】
洗濯試験により良好な結果を示したバグフィルタ用濾材(シートA〜Eおよびシート1〜5)は、上記の擬似的な逆洗試験によってもクラックが発生することがなかった。このように、本発明による濾材は、ガラス織布を用いた従来の濾材が耐えられなかった試験に合格する優れた耐屈曲性を有している。
【0060】
なお、上記試験において、クラックは、典型的にはPTFE多孔質膜表面の長さ0.5〜5cm程度の傷として観察された。
【0061】
洗濯試験の結果より、クラックが発生すると、濾材の捕集効率が90%未満となることが確認されている。クラックが発生しないという結果は、換言すれば、逆洗試験後においても濾材の捕集効率が90%以上、好ましくは95%以上、に保たれているということである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、耐熱性が高いガラス織布を用いながらも逆洗の際に加わる応力に対して剥離などが生じにくく寿命が長いバグフィルタ用濾材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は引っ張り強度および伸び率の測定方法を説明するための図である。
【図2】図2は逆洗試験の方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
1 サンプル
2 チャック
11 PTFE多孔質膜
12 ガラス織布
21 逆洗試験用筒状体
22 パッキング
23 パルスエア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜とガラス織布とを接合してバグフィルタ用濾材を得るバグフィルタ用濾材の製造方法であって、
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜として、
ポリテトラフルオロエチレンシートを一方向または互いに直交する二方向に延伸することにより製造され、
一方向に延伸した場合には当該一方向と当該一方向に直交する方向とのそれぞれについて、互いに直交する二方向に延伸した場合には当該二方向のそれぞれについて、引っ張り強度が0.25N以上で伸び率が60%以上である、
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いる、バグフィルタ用濾材の製造方法。
ここで、前記引っ張り強度は、測定方向と直交する方向についての長さが25mmとなるように切断した多孔質膜サンプルを互いの間隔が50mmとなるように配置した一対のつかみ具により前記間隔を規定する方向が前記測定方向と一致するように保持し、前記一対のつかみ具により前記サンプルを前記測定方向に沿って100mm/分の速度で前記サンプルが破断するまで引っ張る試験を行い、前記サンプルが破断したときに前記一対のつかみ具に印加されていた応力により定め、
前記伸び率は、前記試験において前記サンプルが破断したときの前記一対のつかみ具の間隔をL1(mm)としたときに、{(L1―50)/50}×100(%)により算出される値により定める。
【請求項2】
フラジール法により測定したポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の通気量が1〜10cm3/cm2/秒の範囲にある請求項1に記載のバグフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の厚みが5〜60μmの範囲にある請求項1に記載のバグフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレンシートを一方向または互いに直交する二方向に延伸することにより製造されたポリテトラフルオロエチレン多孔質膜であって、
一方向に延伸した場合には当該一方向と当該一方向に直交する方向とのそれぞれについて、互いに直交する二方向に延伸した場合には当該二方向のそれぞれについて、引っ張り強度が0.25N以上で伸び率が60%以上である、
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
ここで、前記引っ張り強度は、測定方向と直交する方向についての長さが25mmとなるように切断した多孔質膜サンプルを互いの間隔が50mmとなるように配置した一対のつかみ具により前記間隔を規定する方向が前記測定方向と一致するように保持し、前記一対のつかみ具により前記サンプルを前記測定方向に沿って100mm/分の速度で前記サンプルが破断するまで引っ張る試験を行い、前記サンプルが破断したときに前記一対のつかみ具に印加されていた応力により定め、
前記伸び率は、前記試験において前記サンプルが破断したときの前記一対のつかみ具の間隔をL1(mm)としたときに、{(L1―50)/50}×100(%)により算出される値により定める。
【請求項5】
フラジール法により測定した通気量が1〜10cm3/cm2/秒の範囲にある請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項6】
厚みが5〜60μmの範囲にある請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項7】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜とガラス織布とが接合されてなるバグフィルタ用濾材であって、
通気面が面積98.5cm2の円形となるように濾材を保持した状態で前記ガラス織布側から前記通気面に対して0.3MPaのパルスエアを0.1秒間印加する疑似逆洗操作を20000回繰り返す試験を実施しても前記通気面にクラックが観察されない、バグフィルタ用濾材。
【請求項8】
フラジール法により測定した通気量が1〜6.2cm3/cm2/秒の範囲にある請求項7に記載のバグフィルタ用濾材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−22858(P2009−22858A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187421(P2007−187421)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】