説明

バッファ層とその製造方法、バッファ層を備えた光電変換素子

【課題】生産性の良い製造が可能であり、安定したpn接合を有するバッファ層を備えた化合物半導体系光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子1は、基板10上に、下部電極層20と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層30と、バッファ層40と、透光性導電層50が順次積層されてなり、バッファ層40が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えた微粒子層41と、微粒子層41の直上に備えられた、カドミウム不含金属元素の酸化物を少なくとも含む薄膜層42及び/又はカドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体系光電変換素子をなすバッファ層とその製造方法、バッファ層を備えた光電変換素子とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換半導体層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1-zIn1-xGaxSe2-ySy(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。以下、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記する。
【0003】
CI(G)S系等の従来の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換半導体層とその上に形成される透光性導電層(透明電極)との間にCdSバッファ層や、環境負荷を考慮してCdを含まないZnS系バッファ層が設けられている。バッファ層は、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、および(4)光電変換半導体層の表面凹凸のカバレッジ等の役割を担っており、CI(G)S系等では光電変換半導体層の表面凹凸が比較的大きく、特に上記(4)の条件を良好に充たす必要性から、液相法であるCBD(Chemical Bath Deposition)法による成膜が好ましい。
【0004】
一方、バッファ層において上記(1)〜(3)の条件を良好に満たすためには、何よりも光電変換半導体層との安定したpn接合を形成し、透光性導電層との良好な界面を形成することが必要である。そのためには、バッファ層はその上下に位置する光電変換半導体層及び透光性導電層との接合性が良好であり、各層とのバンド障壁が低いものであることが重要である。
【0005】
特許文献1には、化合物薄膜太陽電池において、バッファ層の組成を膜厚方向に傾斜させて、光電変換半導体層及び透光性導電層双方とのバンド障壁を小さくすることにより、pn結合の欠陥を低減させることができることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、CBD法によるバッファ層の成膜において、反応液の組成及び反応温度を膜厚方向に3段階変化させて成膜することにより、光電変換半導体層の界面へのn型ドーパントの拡散とバッファ層の形成の最適化を図って接合性の良い特性の安定したpn接合を得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4264801号公報
【特許文献2】特開2004−15039号公報
【特許文献3】特開2010−283322号公報
【特許文献4】特開2007−242646号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B. C. Bunker, P. C. Rieke, B. J. Tarasevich, A. A. Campbell, G. E. Fryxell, G. L. Graff, L. Song, J. Liu, J. W. Vriden, G. L. McVay, Science, 264 (1994) 48.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の方法ではバッファ層の成膜時間が長く、バッファ層の成膜工程が工程全体の律速工程となってしまう。特許文献1及び特許文献2の方法において、反応速度を上げるためには反応温度を高くすればよいが、反応温度の高い条件での成膜では、同一表面内が均一に覆われていないうちに膜厚方向にも成長が進んでしまうので、露出した光電変換層を作らないようにするため、安定な接合に必要なカバレッジ能を得られる膜厚が厚くなってしまう。従って、特許文献1及び特許文献2の方法において、反応温度を上げることで反応速度を効果的に上げることは難しい。
【0010】
更に、比較的高温条件の成膜工程では、例えば特許文献2段落[0043]−[0044]に記載されているように、光電変換層上への目的化合物(バッファ層)の析出(不均一核生成を伴う反応)と、反応溶液中への粒子(コロイド)の析出(均一核生成を伴う反応)とが同時に進行する。バッファ層において、溶液中に生成した粒子が析出膜表面へ付着すると、粒子が付着したバッファ層ができることとなり、この粒子が付着したバッファ層を用いて光電変換素子を形成した場合にはリークパスの原因となるため、CI(G)S系薄膜系光電変換素子の性能劣化に繋がりうる。特に、一次粒子サイズが数十〜数百nmオーダーの粒子が凝集して形成される粒子状固形物(二次凝集体や二次粒子とも呼ぶ)はμm単位と大きいことから二次凝集体の付着はリークパスの要因となりやすい。そのため、バッファ層表面への粒子や粒子凝集体を含めた粒子状固形物の付着固形物の付着を抑制しつつバッファ層の析出速度を上昇させる必要がある。なお、均一核生成や不均一核生成については、例えば非特許文献1に詳細が記載されている。
【0011】
特許文献2には、成膜されたバッファ層表面を流水によるオーバーフロー洗浄を行うことが記載されている。CBD後にバッファ層の洗浄工程を導入することによりバッファ層表面の粒子状固形物をある程度除去することができるが、単純に成膜温度を高温にして実現した成膜速度の速い成膜では粒子(コロイド)の付着量が非常に多くなるため、洗浄工程に時間がかかる。従って、CBD法によるバッファ層の成膜においては、粒子状固形物をできるだけ付着させずに成膜することが好ましい。
【0012】
反応液を頻繁に交換することにより粒子状固形物の付着を抑制することも可能であるが、生産性の向上の観点から、反応溶液はできるだけ繰り返し利用できることが好ましい。
【0013】
粒子(コロイド)の生成自体を抑制してCBDによる成膜速度を向上させる方法としては、結晶成長の核あるいは触媒等として機能する微粒子の分散液の塗布膜を、下地層として設ける方法がある。本発明者らも、かかる方法を用いて、穏やかな反応条件で下地を隙間無く被覆する、バッファ層として好適な、酸化物積層膜の製造方法を出願している(特許文献3)。しかしながら、かかる下地層では、光電変換層との相互作用もない状態で塗設されているに過ぎないので、光電変換層との密着性が弱くバッファ層が剥離しやすくなる恐れがある。
【0014】
一方、特許文献4には、バッファ層と同種または異種の粒子である核をCBD法により付与し、これを起点として/又は触媒としてバッファ層を形成する方法が開示されている(請求項1)。しかしながら、核となる粒子の付与にはCBD法を用いていることから、バッファ層の密着性の向上の効果は得られるものの、成膜速度の向上効果については一切記載がなく、また得られる可能性も低い。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生産性の良い製造が可能であり、安定したpn接合を有するバッファ層を備えた化合物半導体系光電変換素子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光電変換素子は、
基板上に、下部電極層と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子であって、前記バッファ層が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子を備えた微粒子層と、
該微粒子層の直上に備えられた、前記酸化物を主成分とする薄膜層、及び/又は、前記硫化物、前記酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層とを備えてなることを特徴とするものである。
ここで、「連結微粒子」とは、接触する複数の微粒子間に結合を生じてなる粒子を意味する。一次粒子2個が境界線(界面)がわからないような状態で連結している場合(例えばひょうたんのような形状等)は、この「連結微粒子」に含まれる。連結には、同じ結晶面で格子整合している場合や異なる結晶面で双晶になっている場合が含まれる。微粒子層中の微粒子の総量に対し、連結微粒子は10質量%以上含んでいるものとする。特に明記しない限り、「主成分」とは、含量60質量%以上の成分を意味する。
【0017】
「カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む」とは、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物及びこれらの固溶体とで連結微粒子、微粒子層、及び薄膜層の主成分を形成していることを意味する。
【0018】
前記微粒子層及び/又は前記薄膜層には、前記カドミウム不含金属の水酸化物を更に含んでいてもよく、前記硫化物及び/又は前記酸化物と、前記水酸化物との固溶体を更に含んでいてもよい。
【0019】
本発明の光電変換素子において、前記微粒子層のカドミウム不含金属原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比が、前記薄膜層の前記比より大きいことが好ましい。
【0020】
また、本発明の光電変換素子において、前記微粒子層の前記薄膜層側の表面に、カルボニルイオンを備えてなることが好ましい。カルボニルイオンとしては、複数のカルボニル基を有するものであることがより好ましく、クエン酸イオンであることが更に好ましい。また、カルボニルイオンは、前記表面に吸着されてなることが好ましい。
【0021】
本発明の光電変換素子において、前記カドミウム不含金属は、Zn,In,又はSnのうち少なくとも1種の金属(不可避不純物を含んでもよい。)であることが好ましく、Znであることがより好ましい。
【0022】
前記光電変換半導体層の主成分は、Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0023】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板上に、下部電極層と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子におけるバッファ層の製造方法において、前記光電変換半導体層上にカドミウム不含金属塩水和物を含む前駆体層を形成する工程(A)と、該前駆体層を不溶化処理する工程(B)と、該不溶化処理された前記基板の少なくとも前記前駆体層側の表面を、硫黄源を含むアルカリ性の反応液に浸漬させて、前記カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子を備えた微粒子層を形成する工程(C)と
該微粒子層が形成された基板の少なくとも前記微粒子層側の表面を、前記金属元素を含むアルカリ性の反応液に浸漬させて、前記酸化物を主成分とする薄膜層、及び/又は、前記硫化物、前記酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層を形成する工程(D)とを備えたことを特徴とするものである。
【0024】
ここで、不溶化処理とは、工程(C)における反応液に対する、工程(A)において成膜したカドミウム不含金属塩水和物を含む層の溶解性を低下させて、工程(C)における反応の開始時に該層の金属塩水和物又はその無水物の少なくとも一部が残っているようにする処理である。かかる処理としては、金属塩水和物の水和水の少なくとも一部を除去する処理が挙げられる。
【0025】
金属塩水和物の水和水の少なくとも一部を除去する処理としては、加熱処理が好ましく、加熱温度は30℃〜300℃であり、加熱時間が30秒〜30時間である処理であることがより好ましい。
【0026】
ここで、加熱温度とは、加熱手段としてオーブン等の気体雰囲気による加熱手段を用いる場合であれば雰囲気温度、ホットプレート等のように基板裏面を加熱面上に接触させて加熱する加熱手段を用いる場合は加熱面の温度とする。該温度の測定箇所は、加熱面における、基板設置箇所の中心付近とする。
【0027】
工程(A)において、前記金属塩水和物は、酢酸亜鉛二水和物及び/又は硫酸亜鉛七水和物であることが好ましい。
【0028】
また、前記工程(D)の反応液として、前記工程(C)で用いる反応液よりも硫黄源濃度が低い反応液を用いることが好ましい。
【0029】
工程(C)及び/又は(D)において、反応液に含まれる硫黄源としては、チオ尿素又はその誘導体が好ましい。また、前記基板温度及び/又は前記反応液の温度を55℃〜95℃とすることが好ましい。
【0030】
上記本発明のバッファ層の製造方法において、工程(D)の後に、前記酸化物を主成分とする薄膜層、及び/又は、前記硫化物、前記酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層を150℃〜250℃の温度で加熱する工程(E)を更に備えることが好ましい。
【0031】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板上に、下部電極層と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、
前記バッファ層を、上記本発明のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とするものである。
【0032】
本発明者は、棒状結晶が基板上に高配向且つ高密度で形成された金属酸化物構造体の製造方法として、サファイア基板上に、金属酢酸塩水和物を含む層を形成した後、該層を不溶化処理した後、反応溶液中に浸漬させて棒状結晶を成長させる方法を出願している(特開2010−195628号公報)。この出願においても、本願発明と同様に、金属塩水和物を含む層を塗布成膜した後不溶化処理を実施して、結晶成長の基点を下地層として付与している。しかしながら、特開2010−195628によって得られる効果は、棒状結晶を高配向且つ高密度に形成することであり、上記本願発明の課題を解決するものではない。従って、特開2010−195628は本願発明の動機付けとなるものではない。
【発明の効果】
【0033】
本発明の光電変換素子は、バッファ層が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子を備えた微粒子層と、該微粒子層の直上に備えられた、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とする薄膜層、及び/又は、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層とを備えてなるものである。このバッファ層は、カドミウム不含金属塩水和物を含む前駆体層を不溶化処理したものをCBD法の下地層として用いて成膜される。かかる成膜方法によれば、下地層に含まれる金属イオンがCBD工程における良好な反応起点として機能するため、CBD法において、反応液中での粒子(コロイド)あるいは粒子状固形物の生成に比して膜析出が支配的となる。同時にバッファ層組成の制御性も増す。また、金属塩前駆体層を下地層と用いることにより、CBD法の初期反応において前駆体層内の金属イオンが硫化されて連結微粒子を含む微粒子層を形成するため、下地層の緻密性が高くなる形でバッファ層が析出し、光電変換半導体層との密着性が良好となる。従って、本発明によれば、生産性の良い製造が可能であり、安定したpn接合を有するバッファ層を備えた化合物半導体系光電変換素子を提供することができる。
【0034】
また、本発明の光電変換素子において、バッファ層を構成する微粒子層のカドミウム不含金属原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比が、薄膜層の該比より大きい態様とすることにより、バッファ層と光電変換半導体層、及びバッファ層と光電変換半導体層、及び透光性導電層とのバンド障壁を低減させることができるため、より安定性の高いpn接合を得ることができる。
【0035】
更に、前記微粒子層の前記薄膜層側の表面に、カルボニルイオン等のアニオンがカドミウム不含金属イオンに配位しやすい条件で微粒子層及び/又は薄膜層を成膜することにより、微粒子層及び/又は薄膜層の表面にアニオンが吸着された態様となる。かかる態様では、アニオンの吸着により、膜厚方向への結晶成長が抑制され、面内方向への結晶成長が促進されるため、薄い膜厚でも高いカバレッジ能を実現することができる。従って、生産性の良い製造が可能であり、安定したpn接合を有する、膜厚の薄い低抵抗なバッファ層を備えた化合物半導体系光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る一実施形態の光電変換素子の構成を示す概略断面図
【図2】本発明のバッファ層及び光電変換素子の製造工程を示す概略断面図。
【図3】酢酸亜鉛2水和物の熱重量示差熱分析(TG/DTA)におけるTG曲線。
【図4】硫酸亜鉛7水和物の熱重量示差熱分析(TG/DTA)におけるTG曲線。
【図5A】従来のCBD法によるバッファ層の成膜反応の進行を模式的に表した断面図。
【図5B】本発明のバッファ層の成膜反応の進行を模式的に表した断面図。
【図5C】工程(C)において反応液に金属元素を含んだ場合の成膜反応の進行を模式的に表した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
「光電変換素子」
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の光電変換素子の構造について説明する。図1は光電変換素子の構成を示す概略断面図である。視認しやすくするため、図中、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0038】
光電変換素子1は、基板10上に、下部電極(裏面電極)20と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層30と、バッファ層40(41,42)と、透光性導電層(透明電極)50と、上部電極(グリッド電極)60とが順次積層された素子であり、バッファ層40が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えた微粒子層41と、微粒子層41の直上に備えられた、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とする薄膜層42、及び/又は、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層42とを備えてなることを特徴とするものである。図中、微粒子層41の構成がわかりやすいように、光電変換半導体層30及びバッファ層40の部分を拡大して示してある。以下に、各構成要素について順に説明する。
【0039】
基板10としては、特に制限されず、ガラス基板、表面に絶縁膜が成膜されたステンレス等の金属基板、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及びポリイミド等の樹脂基板等が挙げられる。
【0040】
連続的に成膜を行う方法として、長尺な可撓性基板をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基板をロール状に巻回する巻取りロールとを用いるいわゆるロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)の成膜工程が知られているが、この方法による生産が可能であることから、表面に絶縁膜が成膜された金属基板、陽極酸化基板、及び樹脂基板等の可撓性基板が好ましい。
【0041】
熱膨張係数、耐熱性、及び基板の絶縁性等を考慮すれば、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、および、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板のうちいずれか1つの陽極酸化基板であることが好ましい。
【0042】
下部電極層20としては、特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合わせであることが好ましく、Moが特に好ましい。下部電極層20の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。
【0043】
光電変換半導体層30の主成分としては特に制限されず、高い変換効率が得られることから、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましく、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
【0044】
光電変換半導体層30の主成分としては、
CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0045】
上記化合物半導体としては、
CuAlS2,CuGaS2,CuInS2
CuAlSe2,CuGaSe2
AgAlS2,AgGaS2,AgInS2
AgAlSe2,AgGaSe2,AgInSe2
AgAlTe2,AgGaTe2,AgInTe2
Cu(In,Al)Se2,Cu(In,Ga)(S,Se)2
Cu1-zIn1-xGaxSe2-yy(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se2,およびAg(In,Ga)(S,Se)2等が挙げられる。
【0046】
また、Cu2ZnSnS4,CuZnSnSe4,Cu2ZnSn(S,Se)4であってもよい。
【0047】
光電変換半導体層30の膜厚は特に制限されず、1.0μm〜4.0μmが好ましく、1.5μm〜3.5μmが特に好ましい。
【0048】
バッファ層40は、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換半導体層の表面凹凸のカバレッジ等を目的として、設けられる層である。
【0049】
本実施形態において、バッファ層40が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えた微粒子層41と、微粒子層41の直上に備えられた、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とする薄膜層42、及び/又は、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層42とを備えてなるものである。
【0050】
微粒子層41は、上記したバッファ層としての機能を有しており、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えたものであれば、その組成は制限されない。
【0051】
薄膜層42は、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とする薄膜層又は、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層又は、これらの2種の薄膜層の積層膜で構成されたものであってもよく、その組成は、微粒子層41と同様にバッファ層の機能を有している範囲で制限されない。積層膜である場合は、その層境界が明確でなくてもよく、徐々に硫黄の組成が変化する態様であってもよい。
【0052】
微粒子層41又は薄膜層42には、カドミウム不含金属の水酸化物を更に含んでいてもよく、カドミウム不含金属の硫化物及び/又はカドミウム不含金属の酸化物と、カドミウム不含金属の水酸化物との固溶体を更に含んでいてもよい。
【0053】
カドミウム不含金属としては特に制限されないが、酸化物及び硫化物とした場合のバッファ層としての機能を考慮すると、Zn,In,又はSnのうち少なくとも1種の金属であることが好ましく、Znであることがより好ましい。
【0054】
連結微粒子410(微粒子層41)及び薄膜層42が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む場合の好適な態様の具体例としては、Zn(S,O)又はZn(S,O,OH)が挙げられる。
【0055】
Zn(S,O)は、ZnSとZnOの混合物及びZnSとZnOの固溶体を少なくとも含む組成物及び化合物である。全てが結晶性である必要はなく、一部アモルファスであるものが存在していてもよい。
【0056】
Zn(S,O,OH)は、ZnS、ZnO、Zn(OH)及び、ZnSとZnOとの固溶体を少なくとも含む組成物及び化合物である。Zn(OH)は、その他の成分と物理的に混合された混合物、及び/又は、ZnSとZn(OH)との固溶体、ZnOとZn(OH)との固溶体、ZnSとZnOとZn(OH)との固溶体を形成していてもよい。また、この場合も、全てが結晶性である必要はなく、一部アモルファスであるものが存在していてもよい。
【0057】
薄膜層42が、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とするものである場合の好適な態様の具体例としては、ZnO、又はZn(O,OH)を主成分とするものが挙げられる。Zn(O,OH)は、ZnOとZn(OH)を含む組成物及び/又は化合物である。ZnOとZn(OH)とは混晶及び/又は固溶体を形成している。また、この場合も、ZnO、Zn(OH)の一部がアモルファスである等で混晶又は固溶体を形成せずに存在していてもよく、単独成分で残るものが存在していてもよい。
【0058】
微粒子層41の連結微粒子410の組成と薄膜層42との組成は同一の組成であってもよいが、それぞれが接触する層との格子整合性が良く、バンド障壁が少なくなる組成であることが好ましい。かかる構成とするには、例えば、微粒子層41の前記微粒子層のカドミウム不含金属原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比S/Mが、薄膜層42のS/Mより大きくすればよい。更に、微粒子層41と薄膜層42の内部においても、膜厚方向に硫黄濃度が少なくなるように変化していてもよい。
【0059】
微粒子層41は、既に述べたように、複数の連結微粒子410を備えている。連結微粒子については「課題を解決するための手段」の項目において記載したとおりであるが、連結微粒子410及び微粒子層41は、後記するバッファ層の製造方法によって製造されることに得られる態様である。
【0060】
製造方法の詳細については後記するが、微粒子層41は、特許文献3のように、種結晶なる微粒子が溶媒中に分散された分散液を塗布して得られた微粒子分散膜と異なり、金属塩水和物を不溶化して得られた層を下地層としてCBD法により下地層中の金属元素を硫化して得られたものである。
【0061】
塗布膜である微粒子分散膜は、その後のCBD法を施す前の状態で微粒子が存在するものである。微粒子分散膜中には、微粒子以外の分散剤等の割合が比較的多いため、微粒子1つ1つが空隙を有する形で独立しているものがほとんどである。
【0062】
一方、微粒子層41は、連結微粒子410及びそれ以外の微粒子が、ほとんど隙間なくパッキングされたような層である。従って、微粒子分散膜と本実施形態の微粒子層41とは構成が全く異なるものである。
【0063】
微粒子層41は、光電変換層上に物理的にのせられただけではなくて、光電変換層の上に隙間なく、緻密性が高くなる形で析出した無機物90質量%以上の層である。
微粒子分散膜は、微粒子分散液を光電変換層上に塗布したものであり、物理的にのせられただけの層である。さらに、元々分散液中には微粒子の分散安定化のために含まれる有機分散剤(低分子界面活性剤や高分子分散剤など)を含んでいることが多い層である。
【0064】
また、薄膜層42は、単層構造でもよいし、その他の任意の層との積層構造でもよい。
バッファ層40の導電型は特に制限されず、n型等が好ましい。
【0065】
バッファ層40の膜厚は、安定な接合に必要なカバレッジ能を得られる膜厚であれば特に制限されない。「背景技術」の項において述べたように、安定な接合に必要なカバレッジ能が得られる膜厚は、同一表面内が均一に覆われていないうちに膜厚方向にも成長が進んでしまうような条件で形成されるバッファ層であれば厚くなるし、緻密な膜であれば薄くなる。バッファ層40の膜厚が厚いほど高抵抗になることから、バッファ層40の膜厚は、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがより一層好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0066】
本実施形態の光電変換素子1において、後記する微粒子層41の成膜及び/又は薄膜層42の成膜工程において、反応液あるいは金属塩中のアニオンがカドミウム不含金属に配位して錯体を形成可能な条件で成膜を行うことにより、微粒子層41及び/又は薄膜層42の表面にアニオンが吸着(配位)した態様とすることができる。
【0067】
かかる態様の微粒子層41及び/又は薄膜層42は、反応液あるいは金属塩中のアニオンがカドミウム不含金属カチオンへの配位によって、結晶成長速度を低下させ、更に、結晶成長表面に吸着しているアニオンにより、膜厚方向の結晶成長が抑制されて、膜面内方向への成長が起こりやすい条件で結晶が成長して形成される。従って、微粒子層41及び/又は薄膜層42はいずれもカバレッジ能の高い緻密膜となる。このようにして得られたバッファ層40は、膜厚20nm以下の極薄い薄膜層であっても、安定なpn接合を形成することができる。
【0068】
アニオンの配位のしやすさは反応液のpHに依存し、そのpHはアニオンの種類によって異なる。アニオンの配位のpH依存性、及び、配位したアニオンによる結晶成長速度及び結晶成長方向への影響については、Satoshi Yamabi et. al, "Formation of cellular films consisting of wurtzite-type zinc oxide nanosheets by mediation of phosphate anions. " Thin Solid Films 489(2005), pp.23-30.に詳細が報告されている。該文献のFig.9には、アニオンのZn2+へ配位可能なpH値の範囲が示されており、Fig.10には、配位子の存在の有無によるZnO結晶成長の異方性が示されている。
【0069】
吸着させるアニオンとしては特に制限されないが、反応液の好ましいpH範囲において良好にカドミウム不含金属に配位可能なアニオンが好ましく、中でも、カルボニルイオンが好ましい。カルボニルイオンとしては、特に制限されないが、複数のカルボニル基を有するカルボニルイオンであることが好ましい。これは、配位部位が複数あるアニオンを用いることにより、面内方向の成長が、より進みやすくなるためである。かかるカルボニルイオンとしては、クエン酸イオン,酒石酸イオン,及びマレイン酸イオン等が挙げられる。クエン酸はトリアニオンであることから、配位可能な部位が3箇所存在することになるため、微粒子層41及び/又は薄膜層42への吸着はより密で、同時に強固となる。この結果、より緻密な膜が得られる可能性があり好ましい。
【0070】
また、薄膜層42は、その形成条件等によるが、結晶質部、非晶質部、あるいは結晶質部と非晶質部の両方を有する場合がある。光電変換素子の性能の観点からは、結晶質部を含むことが好ましい。
(透光性導電層)
【0071】
透光性導電層50は、光を取り込むと共に、下部電極20と対になって、光電変換半導体層30で生成された電荷が流れる電極として機能する層である。透光性導電層50の組成としては特に制限されず、ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B等のn−ZnO等が好ましい。透光性導電層50の膜厚は特に制限されず、50nm〜2μmが好ましい。
(上部電極)
【0072】
上部電極60の主成分としては特に制限されず、Al等が挙げられる。上部電極60の膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
【0073】
また、必要に応じて窓層(保護層)(図示略)を設けてもよい。窓層は、光を取り込む中間層である。窓層としては、光を取り込む透光性を有していれば特に制限されないが、その組成としてはバンドギャップを考慮すれば、i−ZnO等が好ましい。窓層の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
【0074】
以下に、バッファ層40及び光電変換素子1の製造方法について説明する。
【0075】
「バッファ層及び光電変換素子の製造方法」
図面を参照して本発明のバッファ層及び光電変換素子の製造方法について説明する。図2は本発明に係るバッファ層及び光電変換素子の製造プロセスを示す概略断面図である。
【0076】
図2に示されるように、本発明の光電変換素子の製造方法は、基板10上に、下部電極層20と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層30と、微粒子層41と薄膜層42を備えたバッファ層40と、透光性導電層50が順次積層された光電変換素子1(図2(e))の製造方法において、
光電変換半導体層30上にカドミウム不含金属塩水和物を含む前駆体層40Rを塗布成膜する工程(A)と、
前駆体層40Rを不溶化処理する工程(B)と、
不溶化処理された基板10の少なくとも前駆体層40P側の表面を、硫黄源を含むアルカリ性の反応液L1に浸漬させて、化学浴析出法(CBD法)によりカドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えた微粒子層41を形成する工程(C)と
微粒子層41が形成された基板10の少なくとも微粒子層41側の表面を、前駆体層40P中の金属元素Mを含むアルカリ性の反応液L2に浸漬させて、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とする薄膜層42、及び/又は、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層42を形成する工程(D)とを備える。
以下、各工程について説明する。
【0077】
<工程(A)>
まず、基板10上に、下部電極層20と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層30を形成する(図2(a))。
【0078】
光電変換半導体層30の成膜後の表面には、不純物、例えばCI(G)S系の光電変換半導体層の場合にはセレン化銅や硫化銅等の不純物が残存している可能性が高いため、不純物除去等の目的で表面処理を行うことが好ましい。かかる表面処理に用いる表面処理液としては、例えば、アンモニア含有水溶液、シアノ基あるいはアミノ基を有する化合物含有水溶液を用いることができる。
【0079】
表面処理液に含まれるシアノ基を有する化合物としてはシアン化カリウム(KCN)が好ましい。一方、KCNは致死性の化合物であり安全上問題があるため、アミノ基を有する化合物を用いることがより好ましい。
【0080】
表面処理液に含まれるアミノ基を有する化合物は、一分子中に少なくとも二つのアミノ基を有する化合物(以下、単にアミノ基含有化合物ともいう)であることが好ましく、具体的には、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の中から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、これらは単独で用いても、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0081】
これらのアミノ基含有化合物は表面処理液中に1質量%〜30質量%、好ましくは5質量%〜25質量%、さらには10質量%〜20質量%含まれることが好ましい。
【0082】
過酸化水素は表面処理液中に0.01質量%〜10質量%、好ましくは0.05質量%〜8質量%、さらには0.1質量%〜5質量%含まれることが好ましい。
【0083】
表面処理液は上記アミノ基含有化合物と過酸化水素を水に溶解することにより調製することができる。
【0084】
光電変換半導体層と表面処理液を接触させる時間は表面処理液の濃度にもよるが、概ね数秒〜十数分程度とすることが好ましい。
【0085】
上記のような表面処理(不純物除去)を行うことによって、光電変換素子の光電変換効率の面内のばらつきを小さくして変換効率を高めることができる。
【0086】
表面処理工程を行った場合は、基板を水により水洗することが好ましい。水の温度は20℃以上が好ましい。ここでは、水洗方法は、水槽中に浸漬させて水洗するものであっても、シャワー洗浄であってもよい。水洗水としては、純水、イオン交換水、工業用水などを使用することができる。
【0087】
水洗後は、基板に水が付着したままCBD工程の反応液に基板を浸漬させると、反応液の濃度が薄まるため、CBD工程前に反応液の濃度を薄めない程度に水を除去することが好ましい。具体的には、基板に付着している水を、ドライエアーあるいは窒素を基板表裏面に吹き付けることにより除去する。なお、このとき、温風を吹き付けるようにしてもよい。
【0088】
なお、この表面処理後、60分以内に、好ましくは10分以内にバッファ層40(41,42)の成膜を行うことが好ましいことを本発明者は見いだしている。従って、次工程の前駆体層40Rの塗布成膜は、この表面処理後、60分以内に、好ましくは10分以内にバッファ層40(41,42)の成膜を行うことが好ましい。ここで「表面処理後、60分以内」とは、表面処理終了直後からの時間を意味し、表面処理後の水洗工程や乾燥工程を含んで60分以内を意味する。
【0089】
次に、前駆体層(プリカーサー層)40Rを、光電変換半導体層30上に塗布成膜する(図2(b))。プリカーサー層40Rは、カドミウム不含金属塩水和物を含む層である。
【0090】
プリカーサー層40Rに含まれるカドミウム不含金属塩水和物としては特に制限されないが、バッファ層40の金属成分として好適なZn塩水和物であることがより好ましい。Zn塩水和物としては、酢酸亜鉛2水和物及び硫酸亜鉛7水和物が好ましい。
【0091】
プリカーサー層40Rの塗布液の調製は、上記カドミウム不含金属塩水和物を好適に溶解可能な溶媒に、該金属塩水和物を溶解させることにより行う。溶媒としては、無水エタノール等が挙げられる。
【0092】
塗布液の金属塩水和物の濃度は、用いる溶媒に対して溶解する濃度であれば制約はないが、例えば0.01Mでよい。但し、この塗布液の濃度によって、塗設される膜の厚みが変わってくるので注意が必要な場合がある。
【0093】
得られたカドミウム不含金属塩水和物の塗布液を、光電変換半導体層30上に塗布成膜する。塗布成膜の方法としては特に制限されず、スピンコート法等の一般的な塗布方法を採用することができる。プリカーサー層40Rは自然乾燥しておくことが好ましい。
【0094】
<工程(B)>
次に、プリカーサー層40Rの不溶化処理して、不溶化処理されたプリカーサー層40Pを形成する(図2(c))。既に述べたように、不溶化処理としては、プリカーサー層40Rを次工程(C)において用いるCBD反応液に対して溶解性を低下させて、工程(C)における反応の開始時に該層のカドミウム不含金属塩水和物又はその無水物の少なくとも一部が残っているようにする処理であれば特に制限されない。かかる処理としては、金属塩水和物の水和水の少なくとも一部を除去する処理(脱水処理)が挙げられる。
【0095】
金属塩水和物の水和水の少なくとも一部を除去する処理としては特に制限されず、加熱処理又はUV照射処理等が挙げられ、加熱処理が簡易であり好ましい。加熱処理の温度は、プリカーサー層40R以外の層及び基板に対してダメージをできるだけ与えない温度であることが好ましいため、基板及びその他の層の耐熱性等を考慮して適宜設定すればよい。
【0096】
図3は酢酸亜鉛2水和物のTG曲線、図4は硫酸亜鉛7水和物のTG曲線の一例を示したものである。図3には、その重量変化分から、2モルの水和水のうち、nモルの水和水(n=1.91)の脱水が、60℃及び65℃の加熱処理を約8時間程度で実施できることが示されている。また、図4には、7モルの水和水のうち、nモルの水和水(n=5.75)の脱水が、60℃の加熱処理を約90分程度で実施できることが示されている。
【0097】
従って、金属塩水和物として酢酸亜鉛2水和物を用いた場合は、加熱温度60℃又は65℃にて約8時間の処理を行うことにより、好適な不溶化処理を行うことができる。また、金属塩水和物として硫酸亜鉛7水和物を用いた場合は、加熱温度60℃にて約90分の処理を行うことにより、好適な不溶化処理を行うことができる。
【0098】
なお、当然ながら、加熱温度や加熱時間を変化させて、適宜不溶化の程度は選択することができる。脱水量を変化させて不溶化の程度を変化させたい場合には、加熱温度や加熱時間によって調節可能である。あるいは、上に記載した不溶化の程度と同じ状態(同じ脱水量)にしたい場合には、加熱温度を高くして加熱時間を短くしたりすればよい。
【0099】
上記不溶化処理は、基板の耐熱性及び生産性を考慮し、加熱温度は30℃〜300℃の範囲で、加熱時間は30秒〜30時間の範囲で適宜設定して行われることが好ましい。
【0100】
なお、次工程(C)にて実施するCBD工程では、バッファ層の成分に応じて好適な成膜温度(析出温度)を有する。例えば、Znの硫化物を主成分とするバッファ層の成膜温度は、55℃〜95℃であることが好ましいとされている。このため、CBD工程において、予め成膜温度に温調されたCBD反応液中に基板を浸漬させる場合には、不溶化処理を加熱処理とすることにより、CBD反応液に浸漬された際に、バッファ層の成膜温度に温調されている反応液の温度低下を抑制することができ、製造工程におけるタイムロスを低減することができる。
【0101】
<工程(C)>
次に、不溶化処理されたプリカーサー層40Pを下地層として、硫黄源を含むアルカリ性の反応液L1に浸漬させて、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えた微粒子層41をCBD法により形成する。
【0102】
CBD法は、一般式 [M(L)i] m+ ⇔Mn++iL(式中、MはZn、In、Sn等の金属元素、Lは配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適度な速度で基板上に金属化合物薄膜を析出させる方法である。
【0103】
図5Aは反応槽Pにおいて、プリカーサー層40Pを下地層として設けずに、CBD法により光電変換半導体層30上にバッファ層40’及び粒子状固形物40Cが析出される様子を模式的に示したものである。図5Aにおいて、支持体70はCBD法において、被成膜基板(10,20,30)の保持手段であり、反応液Lは金属源及び硫黄源が含まれるアルカリ性の反応液である。
【0104】
ここで、粒子状固形物40Cとは、一次粒子サイズが数十〜数百nmオーダーの粒子や、それらの一次粒子が凝集して形成される粒子状固形物(二次凝集体や二次粒子とも呼ぶ)のことを示すものとする。
【0105】
「背景技術」の項において述べたが、図5Aに示されるように、従来のCBD法によるバッファ層40’の成膜においては、光電変換半導体層30上へのバッファ層40’の析出(不均一核生成を伴う反応)と、反応液L中への粒子状固形物40Cの生成(均一核生成を伴う反応)とが同時に進行する。そのため、反応液L中に粒子状固形物40Cが多数生成すると、バッファ層表面への付着を生じて(図示略)素子性能の低下を引き起こす。
【0106】
一方、本発明においては、上記のとおりCBD法の下地層としてプリカーサー層40Pを備えている。かかる下地層を有する場合、下地層中に含まれる金属元素を、バッファ層を構成する金属元素とすることにより、アルカリ性の反応液L1中に硫黄源さえあれば、下地層中の金属元素がCBD工程において硫化されて所望の微粒子層41が得られる(図2(d))。
【0107】
その反応の模式図を図5Bに示す。図5Bに示されるように、左側の反応前については金属源を含んでいないアルカリ性の反応液L1を用いる以外図5Aと同様である。CBD法による微粒子層41の析出反応において、反応液L1に金属源を含まないので、反応液L1中では均一核生成を伴う反応が起こらないか、起こってもほとんど進行せず、プリカーサ−層40Pの硫化が支配的になるため、粒子状固形物40Cが析出しないか、析出しても殆ど析出されずに微粒子層41が析出する。この硫化反応は、プリカーサ−層40Pの金属源が起点(シード)となって進行する反応であるため、析出速度が通常のCBD法による析出速度に比して速くなる。更に、粒子状固形物40Cの析出が抑制されるため、反応液L1の交換頻度を少なくする効果も得られる。かかる効果もバッファ層の生産性へ大きく寄与する。
【0108】
また、CBD法の初期反応において前駆体層40P内の金属イオンMが硫化されて連結微粒子410を含む微粒子層41となるため、微粒子層41は緻密性が高く、光電変換半導体層30との密着性が良好となる。従って、プリカーサー層40Pを下地層として用いることにより、密着性の良好な微粒子層41を、粒子状固形物40Cの生成を抑制し、生産性良く製造することができる。
以下に、工程(C)において用いる反応液L1について説明する。
硫黄源(成分(S)とする)としては硫黄を含有する化合物、例えばチオ尿素(CS(NH22)、チオアセトアミド(C25NS)の他、チオセミカルバジド、チオウレタン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン等を用いることができ、中でもチオ尿素又はその誘導体が好ましい。成分(S)の濃度は特に制限されないが、反応液L1中において0.01〜1.0Mであることが好ましい。
【0109】
金属源を含んでいないアルカリ性反応液L1は、上記成分(S)とアンモニア水あるいはアンモニウム塩(例えばCH3COONH4、NH4Cl、NH4Iおよび(NH42SO4等)(成分(N)とする)と水との混合溶液、又は、かかる混合溶液に対して少なくとも1種のクエン酸化合物(成分(C)とする)を更に含む混合溶液であることが好ましい。成分(N)は、成分(S)の分解反応が進行するように反応液のpHを調整するpH調整剤としての機能と、金属イオンの溶解度や過飽和度を調整する錯形成剤としての機能を担う。
【0110】
例えば、反応液の反応開始前のpHが9.0未満では、チオ尿素等の成分(S)の分解反応が進行しないか、進行しても極めてゆっくりであるため、析出反応が進行しない。チオ尿素の分解反応は下記の通りである。チオ尿素の分解反応については、Journal of the Electrochemical Society, 141(1994), 205-210, 及びJournal of Crystal Growth 299 (2007) 136-141等に記載されている。
SC(NH+ OH⇔ SH+ CH+ HO、
SH+ OH ⇔S2− + HO。
【0111】
一方、反応液の反応開始前のpHが12.0超では、錯形成剤等としても機能する成分(N)が安定な溶液を作る効果が大きくなり、析出反応が進行しないか、あるいは進行しても極めて遅い進行となってしまう。反応液の反応開始前のpHは好ましくは9.5〜11.5である。
【0112】
反応液L1中の成分(N)の濃度が0.001〜0.40Mであれば、成分(N)以外のpH調整剤を用いるなどの特段のpH調整をしなくても、通常反応開始前の反応液のpHは9.0〜12.0の範囲内となる。
【0113】
成分(C)は錯形成剤等として機能する成分であり、成分(C)の種類と濃度を好適化することで、錯体が形成されやすくなる。
【0114】
少なくとも1種のクエン酸化合物である成分(C)を用いることで、クエン酸化合物を用いない反応液よりも錯体が形成されやすく、CBD反応による結晶成長が良好に制御され、下地を良好に被覆する膜を安定的に成膜することができる。
【0115】
成分(C)としては特に制限されず、クエン酸ナトリウム及び/又はその水和物を含むことが好ましい。成分(N)の濃度範囲が0.001〜0.40Mである場合は、成分(C)の濃度が0.001〜0.25Mであることが好ましい。かかる濃度範囲とすることにより、錯体が良好に形成され、下地を良好に被覆する膜を安定的に成膜することができる。成分(C)の濃度が0.25M超では、錯体が良好に形成された安定な水溶液となるが、その反面、基板上への析出反応の進行が遅くなったり、反応が全く進行しなくなる場合がある。成分(C)の濃度は好ましくは0.001〜0.1Mである。
【0116】
反応温度は、上記成分(S)の分解反応が進行する温度であれば特に制限されないが、基板温度及び/又は反応液L1の温度が55℃〜95℃であることが好ましい。反応温度が55℃未満では反応速度が遅くなり、薄膜が成長しない、あるいは薄膜成長しても実用的な反応速度で所望の厚み(例えば50nm以上)を得るのが難しくなる。反応温度が95℃超では、反応液中で気泡等の発生が多くなり、それが膜表面に付着したりして平坦で均一な膜が成長しにくくなる。さらに、反応が開放系で実施される場合には、溶媒の蒸発等による濃度変化などが生じ、安定した薄膜析出条件を維持することが難しくなる。
【0117】
反応時間は特に制限されないが、生産性の点から、反応時間は短い方が好ましい。反応温度にもよるが、反応時間は、例えば1〜20分間で、下地を良好に被覆し、バッファ層として充分な厚みの層を成膜することができる。
【0118】
上記プリカーサー層40R,40P(下地層)に含まれる金属源として、Znを用いれば、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)等を主成分とする微粒子層41を形成することができる。
【0119】
また、上記工程(C)において、反応液L1に金属源を含む態様としてもよい。かかる金属源としては、前駆体層40P中の金属元素Mと同じ金属元素であることが好ましい。反応液L1に金属源を含む場合は、図5Cに示されるように、反応の初期にプリカーサー層40Pの硫化により微粒子層41が成膜され、それに続いて反応液L2中における不均一核生成に伴う反応によって微粒子層41’が析出されるため、図5Aに比べたら金属源を含む分粒子状固形物40Cの生成は抑制されるがその効果は、金属源を含まない反応液L1を用いた態様に比して少なくなる。
【0120】
<工程(D)>
次に、微粒子層41が形成された基板10の少なくとも微粒子層41側の表面を、前駆体層40Pに含まれる金属元素Mを含むアルカリ性の反応液L2に浸漬させて、金属元素Mの酸化物を主成分とする薄膜層42、及び/又は、金属元素Mの硫化物、金属元素Mの酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層42を形成する。
【0121】
反応液L2には、金属元素Mが含まれていれば特に制限されないが、硫黄源を含んでいるかどうかによって薄膜層42の主成分となる物質が変化する。金属元素MがZnである場合を例に説明すると、反応液L2中に硫黄源が含まれない場合は、ZnO、又はZn(O,OH)が主成分となり、反応液L2中に硫黄源が含まれる場合は、Zn(S,O)、又はZn(S,O,OH)が主成分となる。
【0122】
反応液L2には、前駆体層40Pに含まれる金属元素Mが含まれている。図5Bの最右図に工程(D)の反応の模式図を示す。図示されるように、図5B中央図の態様に比して、反応液L2中に金属源を含む分粒子状固形物40Cの生成は進行するが、微粒子層41が下地となって反応が進行するため、膜析出(不均一核生成を伴う反応)が進行しやすく、均一核生成を伴う反応(粒子状固形物40Cの生成)に比して支配的となる。
【0123】
反応液L2中において薄膜が析出する反応は、反応条件によっては、微粒子層41をシード層として反応が進行する場合と、微粒子層41がシード層として機能はしないがそのシード層の上に核が生成して膜析出反応が進行する場合がある。微粒子層41がシード層として機能する場合は、シード層の存在により反応が促進されるため、図2Aの通常のCBD成膜に比して成膜速度も速くなり、粒子状固形物40Cの析出も抑制される。
【0124】
一方、微粒子層41がシード層として機能しない場合にも、既に微粒子層41がバッファ層40の一部として得られているため、工程(D)により成膜しなければならない膜厚は薄くなる。従って、かかる態様においても、シード層として機能する場合に比してその効果は少なくなるものの、成膜速度の向上及びコロイド状固形物40Cの析出の抑制の効果を得ることができる。
【0125】
工程(D)において、反応液L2の硫黄濃度が工程(C)の反応液L1の硫黄濃度に比して低いものとすることにより、バッファ層40の上に成膜する透光性導電層50とのバンド障壁を小さくすることができる。カバレッジ能が充分であれば、薄膜層42の厚みはバンド障壁を小さくする効果さえ得られる膜厚があればよい。
【0126】
微粒子層41の好ましい膜厚は1nm〜60nm、より好ましくは1nm〜10nmである。また、薄膜層42の好ましい膜厚は1nm〜70nm、より好ましくは1nm〜10nmである。
【0127】
なお、図2(e)及び(f)に示されるように、かかる態様で得られるバッファ層40は、微粒子層41と薄膜層42との積層膜となっている。上記したように、CBD法の初期反応において前駆体層40P内の金属イオンが硫化されて連結微粒子410を含む微粒子層41となるため、微粒子層41は緻密性が高く、光電変換半導体層30との密着性が良好となる。
【0128】
金属源を含む反応液L2としては、上記硫黄源を含む混合溶液に、金属源を加えたものを用いればよい。金属源としては、例えば、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、及びこれらの水和物等のZn源が挙げられる。
【0129】
反応液L2に含まれる金属源には、前工程(A)においてカドミウム不含金属塩水和物に含有される金属元素Mを少なくとも1種含むことが好ましい。金属源の濃度は特に制限されず、0.001〜0.1Mが好ましい。なお、反応液L2中の金属源以外の物質の好ましい態様及び濃度については反応液L1と同様である。
【0130】
上記本発明のバッファ層40(41,42)の製造方法では、粒子状固形物40Cのバッファ層表面への付着を良好に抑制することができるが、微量の粒子状固形物40Cが付着する可能性もある。この粒子状固形物40Cの付着は、既に述べたように素子特性の低下を引き起こす。従って、微量の粒子状固形物40Cが付着している場合にはその除去を行うことが好ましい。しかしながら、粒子状固形物40Cの付着は、従来の方法に比して大幅に抑制されることから、本工程は省略してもよい。
【0131】
洗浄を行う場合は、洗浄液として、純水の他、イオン交換水、工業用水、あるいは水に粒子(コロイド)除去効果のある添加剤を添加した溶液などを用いるのが好ましい。洗浄液の温度は20℃〜40℃が好ましい。洗浄方法は、水槽中に浸漬させて行ってもよいし、シャワー洗浄であってもよい。洗浄後は、洗浄液をドライエアーあるいは窒素を基板表裏面に吹き付けることにより除去することが好ましい。
【0132】
なお、バッファ層(微粒子層41と薄膜層42)がZn(S,O)、Zn(S,O,OH)である場合には、上記CBD後洗浄液除去工程の後、150℃〜250℃の温度、好ましくは170℃〜230℃の温度で、5分〜60分加熱を行う加熱処理(アニール処理)工程(工程(E))を設けることが好ましい。加熱雰囲気は大気中、真空中など特に限定しない。加熱手段は特に限定されないが、市販のオーブン、電気炉、真空オーブン等を利用した加熱が好ましい。
【0133】
<光電変換素子の形成>
バッファ層40を形成後、透光性導電層50を設ける。透光性導電層50の成膜方法としては特に制限されないが、窓層と同様、スパッタ法やMOCVD法が適している。一方で、製造プロセスを簡易にするためには液相法を用いることも好ましい。
【0134】
透光性導電層50を形成後、透光性導電層50上に上部電極60を設ける。
【0135】
窓層の成膜方法は、特に制限されないが、スパッタ法やMOCVD法が適している。一方で、バッファ層40を液相法により製造するため、製造プロセスを簡易にするためには液相法を用いることも好ましい。
【0136】
なお、多数の光電変換素子(セル)が集積化されてなる集積化太陽電池においては、上部電極は直列接続されたセルのうち、電力取出し端となるセルに設けられている。
【0137】
また、上述の光電変換素子の製造工程には、勿論、上記説明した工程以外の他の工程を含むことができる。例えば、下部電極のスクライブ処理、光電変換半導体層形成後のスクライブ処理、バッファ層および透明導電層形成後のスクライブ処理等の集積化のためのパターニング工程、長尺な基板を用いた場合には1モジュールに切断する切断処理工程などを加えることにより、集積化光電変換装置(集積化太陽電池)を製造することができる。また必要に応じてカバーガラス、保護フィルム等を取りつけてもよい。
【0138】
以上、バンドの不連続性を良好に解消する態様である、微粒子層41と薄膜層42とで硫黄濃度の異なる態様を例にバッファ層及び光電変換素子の製造方法について説明したが、反応液L2と反応液L1の硫黄源の濃度を同一とすることにより、微粒子層41と薄膜層42の硫黄濃度を略同一とする態様とすることも可能である。
【0139】
以上のように、光電変換素子1は、バッファ層40が、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子410を備えた微粒子層41と、微粒子層41の直上に備えられた、カドミウム不含金属の酸化物を主成分とする薄膜層42、及び/又は、カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層42とを備えてなるものである。このバッファ層40は、カドミウム不含金属塩水和物を含む前駆体層40Rを不溶化処理したものをCBD法の下地層として用いて成膜する。かかる成膜方法によれば、下地層40Pに含まれる金属イオンがCBD工程における良好な反応起点として機能するため、CBD法において、反応液中での粒子状固形物40Cの生成に比して膜析出が支配的となる。同時にバッファ層組成の制御性も増す。また、金属塩前駆体層40Pを下地層と用いることにより、CBD法の初期反応において前駆体層40P内の金属元素Mが硫化されて連結微粒子410を含む微粒子層41を形成するため、下地層の緻密性が高くなる形でバッファ層が析出し、光電変換半導体層30との密着性が良好となる。従って、本発明によれば、生産性の良い製造が可能であり、安定したpn接合を有するバッファ層40を備えた化合物半導体系光電変換素子1を提供することができる。
【0140】
また、本発明の光電変換素子1において、バッファ層40を構成する微粒子層41のカドミウム不含金属原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比が、薄膜層42の該比より大きい態様とすることにより、バッファ層40と光電変換半導体層30、及びバッファ層40と透光性導電層50とのバンド障壁を低減させることができるため、より安定性の高いpn接合を得ることができる。
【0141】
更に、微粒子層41の薄膜層42側の表面に、カルボニルイオン等のアニオンがカドミウム不含金属イオンに配位しやすい条件で微粒子層41及び/又は薄膜層42を成膜することにより、微粒子層41及び/又は薄膜層42の表面にアニオンが吸着された態様となる。かかる態様では、アニオンの吸着により、膜厚方向への結晶成長が抑制され、面内方向への結晶成長が促進されるため、薄い膜厚でも高いカバレッジ能を実現することができる。従って、生産性の良い製造が可能であり、安定したpn接合を有する、膜厚の薄い低抵抗なバッファ層40を備えた化合物半導体系光電変換素子1を提供することができる。
【0142】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例1】
【0143】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
以下に示す基板及び各工程を組み合わせて、6例のバッファ層を成膜した(実施例1〜3及び比較例1〜3)。基板の種類及びプリカーサー層の有無、不溶化処理の条件及び有無、CBD条件については表1にそれぞれ記載した。比較例1,2は、それぞれ実施例1,2においてプリカーサ−層を設けなかった以外は同様の条件とした。比較例3は、バッファ層として微粒子層のみ形成した場合とした。また、実施例1〜3及び比較例1〜3の条件で光電変換素子を作製し、それぞれ評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0144】
(基板)
基板として、下記2種類の基板を用意した。
基板1(Cu(In0.7Ga0.3)Se2/Mo/SLG基板):
基板1は、Mo電極層付きソーダライムガラス(SLG)基板上にCIGS層を成膜した基板である。30mm×30mm角のソーダライムガラス(SLG)基板上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜した。この基板上に3段階法を用いて膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se層を成膜した。
【0145】
基板2(Cu(In0.7Ga0.3)Se2/Mo/SLG/AAO/Al/SUS基板):
基板2はステンレス(SUS)−Al複合基材上のAl表面にアルミニウム陽極酸化膜(AAO)が形成された陽極酸化基板(30mm×30mm角)を用い、さらにAAO表面にソーダライムガラス(SLG)層及びMo電極層、CIGS層が形成された基板である。SLG層およびMo下部電極はスパッタ法により形成し、Cu(In0.7Ga0.3)Se2層は3段階法により成膜した。各層の膜厚は、SUS(100μm超),Al(30μm),AAO(20μm),SLG(0.2μm),Mo(0.8μm),CIGS(1.8μm)であった。
【0146】
(表面処理工程)
CIGS層の表面処理にはシアン化カリウム(KCN)10%水溶液を表面処理液として用いた。表面処理液の入った反応槽を用意し、CIGS層の表面を室温にて3分間、KCN水溶液に浸漬させてCIGS層表面の不純物除去を行った。表面処理工程後、純水による十分な水洗を行った。
【0147】
(CIGS層上へのプリカーサー層の形成)
酢酸亜鉛2水和物を無水エタノールに溶解して0.01Mの塗布液を調製した。これをKCN処理後の基板1及び基板2上にスピンコーターを用いて1000rpmで塗布を行い自然乾燥した。
【0148】
(プリカーサー層の不溶化処理)
上記のようにしてプリカーサ-層まで形成された基板に対し、プリカーサ-層の不溶化処理を行った。不溶化処理は、オーブン中で60℃・8hの加熱処理とした。
【0149】
(CBD工程)
<CBD反応液の調製>
反応液1:
成分(Z)の水溶液(I)として硫酸亜鉛水溶液(0.18[M])、成分(S)の水溶液(II)としてチオ尿素水溶液(チオ尿素0.30[M])、成分(C)の水溶液(III)としてクエン酸三ナトリウム水溶液(0.18[M])、及び成分(N)の水溶液(IV)としてアンモニア水(0.30[M])をそれぞれ調製した。次に、これらの水溶液のうち、I,II,IIIを同体積ずつ混合して、硫酸亜鉛0.06[M],チオ尿素0.10[M],クエン酸三ナトリウム0.06[M]となる混合溶液を完成させ、この混合溶液と、0.30[M]のアンモニア水を同体積ずつ混合してCBD溶液を得た。水溶液(I)〜(IV)を混合する際には、水溶液(IV)を最後に添加するようにした。透明な反応液とするには、水溶液(IV)を最後に添加することが重要である。CBD溶液は、孔サイズ0.22μmのろ過フィルターを用いてろ過した。得られたCBD溶液のpHは10.3であった。
【0150】
反応液2:
反応液1からZn成分を除き、硫黄成分濃度が最終的に反応液1の5倍となるように溶液(反応液2)を調製した。反応液1の調製では水溶液Iを用いているが、反応液2では,水溶液Iのかわりに水を用い、硫黄成分濃度が最終的に反応液1の5倍となるようにチオ尿素の添加量を変化させた以外は反応液1の調製と同様な手順で調製した。
【0151】
<バッファの析出>
光電変換半導体層(CIGS層)が形成された基板を、90℃に調温した反応液1または2の入った反応槽に表1に記載の時間浸漬させてZn系バッファ層を析出させた。浸漬時間は、下地層を完全に被覆した薄膜が得られる範囲内の時間とした。取り出した後に、表面を、純水を用いて十分洗浄したのちドライエアー吹き付けによる洗浄液の除去を行った。
【0152】
<アニール処理>
引き続き、空気中において、200℃、60分間のアニール処理を行った。
【0153】
(バッファ層評価)
バッファ層についての評価は、膜厚及び亜鉛濃度に対する硫黄濃度、及び粒子の付着の程度の評価を行った。
粒子の付着の程度については、100μm×100μmの視野において、一次粒子サイズが数十〜数百nmオーダーの粒子が凝集した付着物(膜表面を真上から観察した時に発見される凝集体)の存在状態を以下の基準で評価した(最終的に得られた薄膜の最表層を観察し、評価した)。
【0154】
円相当径が3μm以上のものが無い場合を良好(○)、円相当径が3μm以上のものが1個以上、5個以下の場合を可(△)、円相当径が3μm以上のものが6個以上の場合を不良(×)とした。
【0155】
膜厚の評価は、バッファ層表面に保護膜を形成した後に収束イオンビーム(FIB)加工を行ってバッファ層の断面出しを行い、その断面についてSEM観察を実施した。この断面SEM像から合計35箇所について膜厚計測を行い、その平均値を膜厚として表1に示した。バッファ層の被覆性については下地を完全に被覆した薄膜が得られたことを○を付して示してある。
【0156】
表1に示されるように、実施例1〜3では、被覆性の良好なバッファ層を、比較例1,2に比して生産性良く成膜できている。これにより、不溶化処理されたプリカーサー層による生産性への高い効果と、プリカーサー層の不溶化処理の重要性が確認された。
【0157】
(光電変換素子の作製)
実施例1〜4及び比較例1〜4のバッファ層上に、スパッタ法により、膜厚500nmのAlドープ導電性酸化亜鉛薄膜を成膜した後、上部電極(取り出し電極)としてAl電極を蒸着法により形成し、単セルの光電変換素子(太陽電池)を作製した。
【0158】
(エネルギー変換効率の評価)
ソーラーシミュレーターを用いて、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いた条件下で、エネルギー変換効率を測定した。なお、本測定は光照射を30分行った後に、実施した。表1において、エネルギー変換効率については、比較例1及び比較例2のエネルギー変換効率の値を基準1及び基準2とし、その他の実施例及び比較例については、基板の種類が同じである方の基準値に対する差を示してある(基板1を用いた例は基準1、基板2を用いた例は基準2を採用した。)。
【0159】
実施例1及び2では、それぞれの基準値を上回るエネルギー変換効率を示した。これにより、光電変換半導体層側のバッファ層(微粒子層)の硫黄濃度を高くすることによるバンドの連続性の改善効果が確認された。
【0160】
実施例3では、トータル膜厚が70nmを超えたことで、性能が低下した。
【表1】


【符号の説明】
【0161】
1 光電変換素子
10 基板
20 下部電極
30 光電変換半導体層
40 バッファ層
41 微粒子層
42 薄膜層
40R プリカーサ−層
40P 不溶化処理したプリカーサ−層
40C 粒子(コロイド)状固形物
50 透光性導電層
60 上部電極
L,L1,L1’,L2 反応液
P 反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下部電極層と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子であって、
前記バッファ層が、
カドミウム不含金属の硫化物、カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子を備えた微粒子層と、
該微粒子層の直上に備えられた、前記酸化物を主成分とする薄膜層、及び/又は、前記硫化物、前記酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層とを備えてなることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記微粒子層及び/又は前記薄膜層に、前記カドミウム不含金属の水酸化物を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記微粒子層及び/又は前記薄膜層に、前記硫化物及び/又は前記酸化物と、前記水酸化物との固溶体を更に含むことを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記微粒子層のカドミウム不含金属原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比が、前記薄膜層の前記比より大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記微粒子層の前記薄膜層側の表面に、カルボニルイオンを備えてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに光電変換素子。
【請求項6】
前記カルボニルイオンが、複数のカルボニル基を有するカルボニルイオンであることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記カルボニルイオンが、クエン酸イオンであることを特徴とする請求項5又は6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記カルボニルイオンが、前記表面に吸着されてなることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記カドミウム不含金属が、Zn,In,及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属(不可避不純物を含んでもよい。)であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記カドミウム不含金属が、Znであることを特徴とする請求項9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
前記光電変換半導体層の主成分が、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項12】
基板上に、下部電極層と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子におけるバッファ層の製造方法において、
前記光電変換半導体層上にカドミウム不含金属塩水和物を含む前駆体層を形成する工程(A)と、
該前駆体層を不溶化処理する工程(B)と、
該不溶化処理された前記基板の少なくとも前記前駆体層側の表面を、硫黄源を含むアルカリ性の反応液に浸漬させて、前記カドミウム不含金属の硫化物、前記カドミウム不含金属の酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む複数の連結微粒子を備えた含む微粒子層を形成する工程(C)と
該微粒子層が形成された基板の少なくとも前記微粒子層側の表面を、前記金属元素を含むアルカリ性の反応液に浸漬させて、前記酸化物を主成分とする薄膜層、及び/又は、前記硫化物、前記酸化物、及び、該硫化物と該酸化物との固溶体を少なくとも含む薄膜層を形成する工程(D)とを備えたことを特徴とするバッファ層の製造方法。
【請求項13】
前記工程(D)の反応液として、前記工程(C)で用いる反応液よりも硫黄源濃度が低い反応液を用いることを請求項12に記載のバッファ層の製造方法。
【請求項14】
前記不溶化処理が、加熱処理であることを特徴とする請求項12または13に記載のバッファ層の製造方法。
【請求項15】
前記金属塩水和物が、酢酸亜鉛二水和物及び/又は硫酸亜鉛七水和物であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載のバッファ層の製造方法。
【請求項16】
前記硫黄源が、チオ尿素又はその誘導体であることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のバッファ層の製造方法。
【請求項17】
前記工程(C)及び前記工程(D)において、前記基板温度及び/又は前記反応液の温度を55℃〜95℃とすることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載のバッファ層の製造方法。
【請求項18】
前記工程(D)の後に、前記微粒子層及び前記薄膜層を150℃〜250℃の温度で加熱する工程(E)を更に備えたことを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載のバッファ層の製造方法。
【請求項19】
基板上に、下部電極層と、化合物半導体を主成分とする光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、
前記バッファ層を、請求項12〜18のいずれかに記載のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とする光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−21257(P2013−21257A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155539(P2011−155539)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】