バッファ層を含む有機発光素子およびその製作方法
【課題】有機発光素子の製作工程中、有機物層上に電極形成時の有機物層の損傷を防止するための層を含む有機発光素子およびその製作方法を提供する。
【解決手段】基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極を順次積層された形態で含む有機発光素子において、有機物層は発光層を含み、有機物層のうち第2電極に接する有機物層は下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする。
【解決手段】基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極を順次積層された形態で含む有機発光素子において、有機物層は発光層を含み、有機物層のうち第2電極に接する有機物層は下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子およびその製作方法に関するものである。具体的に、本発明は、有機発光素子の製作工程中、有機物層上に電極形成時の有機物層の損傷を防止するための層を含む有機発光素子およびその製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(OLED)は、通常2つの電極(陽極および陰極)およびこれら電極の間に位置する1層以上の有機物層で構成される。このような構造の有機発光素子において、2つの電極の間に電圧を印加すれば、陽極からは正孔が、陰極からは電子が、各々有機物層に流入し、これが再結合して励起子(exiton)を形成し、この励起子が再び基底状態に落ちながら、エネルギの差に該当する光子を放出するようになる。このような原理によって、有機発光素子は可視光線を発生し、これを用いて情報表示素子または照明素子を製造することができる。
【0003】
有機発光素子において、有機物層から生成された光が基板方向に出射するようにすることを後面発光(bottom emission)方式といい、その逆に光が基板の反対方向に出射するようにすることを前面発光(top emission)方式という。基板方向と基板の反対方向のいずれからも光が出射するようにすることを両面発光(both−side emission)方式という。
【0004】
パッシブマトリクス型有機発光素子(passive matrix OLED;PMOLED)ディスプレイでは、陰極と陽極が垂直に交差し、この交差した地点の面積が1つのピクセルとして作用する。したがって、後面発光方式と前面発光方式は、有効ディスプレイ面積比(aperture ratio)という側面ではあまり差がない。
【0005】
しかし、アクティブマトリクス型有機発光素子(active matrix OLED;AMOLED)ディスプレイでは、各々のピクセル(画素)を駆動するためのスイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を用いる。これらTFTの製作には一般的に高温工程(最小数百℃以上)が必要であるため、有機発光素子の駆動に必要なTFT配列は電極および有機物層の蒸着前に予めガラス基板上に形成するようになる。ここで、このようにTFT配列が形成されたガラス基板をバックプレーン(backplane)という。このようなバックプレーンを用いるアクティブマトリクス型有機発光素子ディスプレイを後面発光方式で製作する場合、基板側に放出される光の一部がTFT配列によって遮るようになって有効ディスプレイの面積比が減少する。このような問題点は、より精巧なディスプレイを製作するために1つのピクセルに複数のTFTを付与する場合に一層深刻になる。したがって、アクティブマトリクス型有機発光素子の場合、前面発光方式で製造する必要がある。
【0006】
前面発光または両面発光の有機発光素子では、基板に接せずに基板と反対の側に位置する電極が可視光線領域で透明でなければならない。有機発光素子では、透明電極としてIZO(indium zinc−oxide)またはITO(indiumtin−oxide)のような伝導性酸化膜が用いられる。ところで、上記のような伝導性酸化膜は仕事関数が非常に高いため(通常、4.5eV以上)、これを用いて陰極を形成する場合は陰極から有機物層への電子注入が難しくなって、有機発光素子の作動電圧が大きく増加して発光効率などの重要な素子特性が低下する。したがって、前面発光または両面発光の有機発光素子を基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造、いわゆる逆構造(inverted)で製造する必要がある。
【0007】
また、アクティブマトリクス型有機発光素子において、TFTとしてa−Si TFT(a−Si thin−film transistor)を用いる場合、a−Si TFTは主電荷キャリアが電子の物性を有するため、ソース接合(source junction)およびドレーン接合(drain junction)がn−タイプでドーピングされている構造を有する。したがって、a−Si TFTを用いるアクティブマトリクス素子を製造する場合、基板上に形成されたa−Si TFTのソース接合またはドレーン接合の上、先ず有機発光素子の陰極を形成し、続いて有機物層を形成した後、ITOまたはIZOのような伝導性酸化膜陽極を順に形成する、いわゆる逆構造(inverted structure)の有機発光素子を製造することが電荷注入および工程単純化の側面で好ましい。
【0008】
ところで、上記のような逆構造の有機発光素子の製造工程において、有機物層上に位置する電極が透明性を有するIZOまたはITOのような伝導性酸化膜で形成される場合、抵抗体加熱蒸着(resistive heating evaporation)方法を用いれば、熱による蒸発過程中の熱的分解などによって酸化物の固有の化学組成比が崩れて、前記伝導性および可視光線の透過性などの特性を失う。したがって、前記伝導性酸化膜の蒸着時には、抵抗体加熱蒸着方法を利用できず、大体プラズマを用いたスパッタリングのような方法を用いている。
【0009】
しかし、有機物層上にスパッタリングのような方法で電極を形成する場合、スパッタリング工程で用いるプラズマに存在する電気的電荷粒子などによって有機物層が損傷されることがある。さらに、スパッタリング工程中には有機物層上に到達する電極を形成する原子の運動エネルギが数十〜数千eVであって、これは抵抗体加熱による蒸着での原子の運動エネルギの場合(通常、1eV以下)に比較して非常に高い。したがって、有機物層での粒子衝突(bombardment)によって有機物層の物性が損傷し、電子または正孔の注入および輸送特性および発光特性が低下する。特に、主にCとHの共有結合で構成された有機物質およびこれらからなる薄膜は一般的に無機物質半導体(例えば、Si、Ge、GaAsなど)に比較してスパッタリング工程中のプラズマに非常に弱く、一度損傷した有機物質を元の状態に戻すのが不可能である。
【0010】
したがって、良好な有機発光素子を製作するためには、有機物層上にスパッタリングのような方法による電極形成時に発生できる有機物層の損傷を除去したり最小化したりしなければならない。
【0011】
有機物層上にスパッタリングなどによる電極形成時に発生できる有機物層の損傷を回避するために、スパッタリング時の薄膜形成速度を制御する方法がある。例えば、RFまたはDCスパッタリング方式においてRF電力(power)またはDC電圧を減少させ、スパッタリングターゲットから有機発光素子基板へ入射される原子の数および平均運動エネルギを減らすことによって有機物層に及ぼすスパッタリング損傷を減少させられる。
【0012】
スパッタリングによる有機物層の損傷防止のためのまた1つの方法としては、スパッタリングターゲットと有機発光素子基板との距離を増加させ、スパッタリングターゲットから基板へ入射される原子とスパッタリングガス(例えば、Ar)との衝突機会を高めることによって、前記原子の運動エネルギを意図的に減少させる方法がある。
【0013】
しかし、上記のような方法は大部分非常に低い蒸着速度をもたらすため、スパッタリングステップでの工程時間が非常に長くなって、有機発光素子製造のための一括工程処理量が顕著に低下するようになる。さらに、上記のように低い蒸着速度を有するスパッタリング工程中にも依然として高い運動エネルギを有する粒子が有機物層の表面に到達する可能性が存在するため、スパッタリングによる有機物層の損傷を効果的に除去し難い。
【0014】
文献[「Transparent organic light emitting devices」Applied Physics Letters Volume 68、May 1996、p.2606]には、基板上に陽極および有機物層を形成した後、電子注入性能に優れたMg:Ag混合金属膜を薄く形成し、その上にITOをスパッタリング蒸着して陰極を形成する方法が記載されている。前記文献の有機発光素子の構造を図1に例示した。しかし、Mg:Ag金属膜は可視光線透過度がITOまたはIZOなどに比較して低く、工程管理も比較的難しいという短所がある。
【0015】
文献[「A metal−free cathode for organic semiconductor devices」Applied Physics Letters Volume 72、April 1998、p.2138]には、基板、陽極、有機物層および陰極が順次積層された構造の有機発光素子において、陰極の蒸着による有機物層のスパッタリング損傷を防止するために有機物層と陰極との間にスパッタリングに比較的よく耐えるCuPc層を蒸着した例が記載されている。図2は、前記文献に記載された有機発光素子の構造を例示した図である。
【0016】
しかし、CuPcは一般的に正孔注入層として用いられるものであって、前記文献ではCuPcが基板、陽極、有機物層および陰極が順次積層された有機発光素子中に有機物層と陰極との間でスパッタリングが損傷された状態において電子注入層の役割をするようになる。したがって、有機発光素子の電荷注入特性およびこれと関連した電流効率などの素子特性の低下をもたらすようになる。さらに、CuPcは可視光線領域での光の吸収が大きいため、膜の厚さを増加させることによって素子の性能が急激に低下するようになる。
【0017】
文献[「Interface engineering in preparation of organic surface emitting diodes」Applied Physics Letters、Volume 74、May 1999、p.3209]には、前記CuPc層の低い電子注入特性を改善するために、電子輸送層とCuPc層との間にまた1つの電子注入層、例えばLi薄膜を蒸着することにより電子注入特性を改善する試みが記載されている。図3は、前記文献に記載された有機発光素子の構造を例示した図である。しかし、このようなスパッタリング損傷防止方法はさらなる金属薄膜を必要として工程制御も難しいという問題点がある。
【0018】
したがって、上述したような逆構造の有機発光素子で陽極を形成する時、有機物層を損傷しないようにするための技術開発が要求されている。
【0019】
一方、一般的な有機発光素子で電子輸送層と陰極(cathode)層との間に電子注入を助けるLiF層を薄く蒸着して陰極(cathode)から電子輸送層(ETL)への電子注入特性を改善する。しかし、前記のような方法を用いる場合、陰極電極を上部接触(top contact)電極として用いる場合には電子注入特性に優れているが、逆構造として陰極電極を下部接触(bottom contact)電極として用いる場合には電子注入特性が顕著に低下すると知られている。
【0020】
文献[「An effective cathode structure for inverted top−emitting organic light−emitting device」Applied Physics Letters、Volume 85、September 2004、p2469]には、陰極電極と電子輸送層との間に非常に薄いAlq3−LiF−Al層を用いる構造で電子注入特性を改善する試みが記載されているが、工程が非常に複雑になる短所がある。また、文献[「Efficient bottom cathodes for organic light−emitting device」Applied Physics Letters、Volume 85、August 2004、p837]には、メタル−ハロゲン化物層(NaF、CsF、KF)と電子輸送層との間に薄いAl層を蒸着して電子注入特性を改善する試みが記載されている。しかし、このような方法もまた新しい層を用いなければならないという工程上の問題がある。
【0021】
したがって、逆構造の有機発光素子の場合、素子製作の工程を簡単にし、かつ電子注入特性を向上させられる方法が要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明者らは基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極が順次積層された構造の有機発光素子において、前記有機物層のうち、第2電極に接する有機物層を本発明者が明らかにした有機物を用いて形成する場合、第2電極の形成時に発生できる有機物層の損傷を最小化することができるという事実を明らかにした。これによって、素子特性に悪影響を及ぼすことがなく、基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された逆構造(inverted structure)の前面発光または両面発光の有機発光素子を製造することができる。さらに、本発明者らは上記のような逆構造の素子に適する電子輸送層物質を明らかにし、この物質を用いる場合、素子の製作工程を単純化し、かつ電子注入特性に優れることが分かる。
【0023】
このため、本発明は、有機発光素子の電極形成時の有機物層の損傷を防止できるバッファ層を含み、電子注入特性に優れた有機発光素子およびその製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の1つの実施状態は、基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極を順次積層した形態で含む有機発光素子において、前記有機物層は発光層を含み、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層は下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする有機発光素子を提供する:
【化1】
前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択され、前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択される。
【0025】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子が前面発光または両面発光の素子であることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0026】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子の第2電極が電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下では、有機物層に損傷を与えられる薄膜形成技術によって形成されることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0027】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子の第2電極が、仕事関数が2〜6eVの間の金属または伝導性酸化膜からなるものである有機発光素子を提供する。
【0028】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子において、第1電極は陰極で、第2電極は陽極であることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0029】
本発明のまた1つの実施状態は、前記有機発光素子において、前記有機物層が電子輸送層を含み、この電子輸送層はイミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基からなる群から選択される基を有する物質を含むことを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0030】
また、本発明のまた1つの実施状態は、基板上に第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極を順次積層するステップを含む有機発光素子の製作方法において、前記有機物層のうち1層を発光層物質で形成し、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層を前記化学式1の化合物を用いて形成することを特徴とする有機発光素子の製作方法を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層によって、有機物層上の電極形成時に発生できる有機物層の損傷を防止することができる。これによって、有機物層上に電極形成時に発生できる有機物層の損傷なしで基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の有機発光素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下で本発明について詳細に説明する。
【0033】
本発明の有機発光素子は、基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極が順次積層された構造であって、前記有機物層は発光層を含み、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層が下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする:
【化2】
前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択され、前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択される。
【0034】
本発明の有機発光素子において、前記化学式1の化合物を含むバッファ層は第2電極に接する有機物層であって、有機発光素子の製造工程中、有機物層上に第2電極の形成時に有機物層が損傷することを防止できる。例えば、有機物層上に第2電極、特に透明な第2電極を形成する時、スパッタリングのような方法を用いる場合には、スパッタリング工程時のプラズマから発生した帯電された粒子または運動エネルギが高い原子によって有機物層が電気的または物理的に損傷することがある。このような有機物層の損傷はスパッタリングだけでなく、電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、有機物層に損傷を与えられる他の薄膜形成技術を用いて有機物層上に電極を形成する時も同様に生じ得る。しかし、前記化学式1の化合物を含むバッファ層上に上記のような方法で第2電極を形成する場合には有機物層の電気的または物理的な損傷を最小化または防止することができる。これは前記化学式1の化合物が従来有機発光素子で用いられてきた有機物に比較して、結晶性が高くて、前記化合物を含む層の密度が高いことによる。図11は、前記化学式1の一例である化学式1−1の化合物をc−軸から見た時の結晶構造を示す図である。また、図12は、化学式1−1の化合物で、フィルムの形成時にフィルム表面のSEM写真である。図11および12によって、前記化学式1の化合物の結晶性が高いということを確認できる。
【0035】
本発明では、上記のように有機物層の電気的または物理的損傷を最小化または防止することによって有機物層損傷による発光特性の低下を防止することができる。また、第2電極形成工程での有機物層の損傷を防止することができるため、第2電極形成時の工程変数の調節および工程装置の最適化が容易になり、これによって工程上処理量も改善される。そして、前記第2電極の材料および蒸着方法の選択の幅が多様になり得る。例えば、透明電極以外にもAl、Ag、Mo、Niなどのような金属薄膜をスパッタリング、レーザを用いた物理的蒸着方法(physical vapor deposition、 PVD)、イオンビームを用いた蒸着(ion beam assisted deposition)、またはこれらと類似する方法として電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下で有機物層に損傷を与えられる薄膜形成技術を用いることができる。
【0036】
本発明の有機発光素子では、前記化学式1を含むバッファ層の役割によって第2電極材料および蒸着方法を多様に選択することができるため、前面または両面の発光素子やa−Si TFTを用いるアクティブマトリクス型有機発光素子の製造時に、有機物層の損傷という問題なしで基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の素子を製造することができる。まだ有機物層の損傷の問題なしで上述したような逆構造の有機発光素子を製造した例が開示されたことがない。
【0037】
そして、本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層を用いることによって有機発光素子の電気的特性を向上させられる。例えば、本発明の有機発光素子では、逆バイアス(reverse bias)状態での漏れ電流が低くなって電流−電圧特性を顕著に改善させ、非常に明確な整流特性を示す。ここで、整流特性とは、ダイオードの一般的な特性で、逆方向電圧を印加した領域での電流大きさが正方向電圧を印加した領域での電流大きさに比較して非常に小さいという特性を意味する。前記化学式1の化合物は、上述したように従来有機発光素子で用いられてきた有機物質に比較して結晶性に優れて、これからなる層は密度が高いため、スパッタリングなどによる工程で発生する高い運動エネルギを有する粒子が有機物層の内部および層間界面に注入されて(implantation)発生する分子の構造的欠陥または界面特性の欠陥などを効果的に防止するため、素子の整流特性のような電気的特性が維持されると見られる。
【0038】
また、前記化学式1の化合物を含むバッファ層は、従来バッファ層として用いられてきた金属やCuPcなどからなる無機物層に比較して可視光線の透過度が高くて、既に用いられてきたバッファ層に比較して厚さ調節が自由にできる。図10は、前記化学式1の化合物の薄膜厚さによる可視光線領域での透過度を示した図である。前記従来技術におけるバッファ層として用いられてきた無機物層は通常200nmでの厚さで形成する場合は可視光線の透過度が非常に低いが、前記化学式1の化合物層は厚さを200nmにしても可視光線の透過度が低下しない。
【0039】
また、本発明の有機発光素子のうち前記第2電極が陽極の場合、前記化学式1の化合物を含むバッファ層はスパッタリング損傷を防止する役割をするだけでなく、陽極から受けた正孔を正孔輸送層または発光層に注入する正孔注入層や正孔−電子対を形成する電荷発生層(charge−generation layer)の役割をすることもできる。したがって、本発明の有機発光素子では、正孔注入層または正孔輸送層を別途に形成しなくても素子の効率を向上させられる。
【0040】
前記化学式1の化合物の具体的な例としては、下記化学式の化合物がある。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0041】
前記化学式1の他の例や合成方法および多様な特徴は、米国特許出願第2002−0158242号、米国特許第6,436,559号および米国特許第4,780,536号に記載されており、これら文献の内容は全て本明細書に含まれる。
【0042】
本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さを増加させることによって、前述したバッファ層としての効果を増加させられる。これは前記バッファ層の厚さの増加による漏れ電流の改善効果によってわかる。図6は、基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の有機発光素子において、陽極に接する前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さによる漏れ電流を示した図である。前記化学式1の化合物層の厚さが5nm〜10nmから50nmに増加するにつれて漏れ電流が急激に減少して、電圧−電流特性が顕著に改善されたことが分かる。本発明において、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の最適の厚さは、第2電極形成時に用いるスパッタリング工程の因子、例えば蒸着の速度、RF電力(power)、DC電圧などによって変われる。例えば、一般的に速く蒸着するために高い電圧および電力を用いるスパッタリング工程であるほど最適のバッファ層の厚さは増加する。本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さが20nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。前記バッファ層の厚さが20nm未満の場合には前記層が正孔注入または輸送層の役割をすることはできるが、バッファ層としての役割は十分にすることができない。一方、前記バッファ層の厚さは250nm以下であることが好ましい。前記層の厚さが250nmを越える場合には素子の製造工程時間が非常に長くなるようになり、化学式1の化合物層の表面形状が粗くなって、素子の他の特性に影響を及ぼせる。
【0043】
本発明において、前記化学式1の化合物を含むバッファ層は真空蒸着法や溶液塗布法によって、陽極と陰極との間に形成することによって製造することができる。前記溶液塗布法の例としては、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、インクジェット印刷または熱転写法などがあり、これらにだけ限定されない。前記化学式1の化合物を含むバッファ層は必要によって他の物質をさらに含むこともでき、前記バッファ層は前記化学式1の有機物と共に無機物を含む有無機混合物質薄膜で形成される。
【0044】
本発明において、前記第2電極とバッファ層との間に絶縁性質を有する酸化物薄膜がさらに備われる。
【0045】
一方、本発明の有機発光素子において、有機物層は電子輸送層を含むことができ、この電子輸送層はLi、Cs、Na、Mg、Sc、Ca、K、Ce、Euなどのように仕事関数が小さい金属またはこれら金属のうち1種以上の金属薄膜と有機物質を同時蒸着(co−deposition)する方法で形成することができる。ただし、本発明の有機発光素子の電子輸送層は、イミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基からなる群から選択される基、より好ましくはイミダゾール基を有する物質を含む方が良い。前記物質の例としては、イミダゾール基を有した韓国特許公開第2003−0067773号に記載された下記化学式2の化合物または米国特許第5,645,948号に記載された下記化学式3の化合物などがあり、これはLi、Cs、Na、Mg、Sc、Ca、K、Ce、Euなどのように仕事関数が小さい金属と共に蒸着し得る。前記韓国特許公開第2003−0067773号および米国特許第5,645,948号は全体が本発明の内容に含まれる。
【化9】
前記化学式2において、
R7およびR8は各々独立したに水素、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択されるものであるが、ただしR7およびR8がともに水素ではなく、
Arはベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択され、
R9は水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素、置換されたベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環または芳香族複素環からなる群から選択され、
XはO、SおよびNR10(ここで、R10は水素、炭素数1〜7の脂肪族炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環および芳香族複素環から選択される)からなる群から選択される。
【化10】
前記化学式3において、
nは3〜8の整数であり、
ZはO、SまたはN−Rであり、
RとR’は各々水素、炭素数1〜24のアルキル、例えばプロピル、t−ブチル、ヘプチルなど、炭素数5〜20のアリールまたはヘテロ原子を含む置換されたアリール、例えばフェニル、ナフチル、フリル、チエニル、ピリジル、キノリニルなど、およびその他複素環系、またはクロロ、フルオロなどのハロゲン、または縮合芳香族環を完成させるのに必要な原子であり、
Bは連結ユニットであって、複数のベンザゾ−ル(benzazole)を共役または非共役連結するアルキル、アリール、置換されたアルキル、または置換されたアリールである。
【0046】
本発明において、素子の電子輸送層を上記のような物質を含むように構成する場合、この素子は電子注入層を含むことが好ましく、この電子注入層はLiF層であることが好ましい。
【0047】
本発明の有機発光素子は基板、第1電極、2層以上の有機物層および第2電極が積層された構造において、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層を前記化学式1の化合物を含むバッファ層として形成することを除いては、当技術分野に知られている材料および方法を用いて製造される。
【0048】
ただし、上述したように本発明ではバッファ層上に積層する第2電極の形成方法に大きく制限されないため、従来技術と比較して、第2電極の材料および形成工程に対する選択の幅がより広い。
【0049】
例えば、本発明で第2電極は、スパッタリング、レーザを用いた物理的蒸着方法(physical vapor deposition; PVD)、イオンビームを用いた蒸着方法(ion beam assisted deposition)またはこれらと類似する方法のように電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、有機物層に損傷を与えられる薄膜形成技術を使用でき、したがって、前記方法によってのみ形成可能な電極材料も使用できる。例えば、第2電極はIZOまたはITOなどのように可視光線領域で透明な伝導性酸化物質や、Al、Ag、Au、Ni、Pd、Ti、Mo、Mg、Ca、Zn、Te、Pt、Irまたはこれらのうち1つ以上を含む合金物質で形成することができる。
【0050】
本発明に係わる有機発光素子の例を図4および図5に示した。図4は、前面発光素子を例示した図であり、図5は、両面発光素子を例示した図である。しかし、本発明の有機発光素子の構造がこれらだけに限定されることはない。
【0051】
本発明の有機発光素子中の有機物層は、1層構造からなることもできるが、2層以上の有機物層が積層された多層構造からなることもできる。例えば、本発明の有機発光素子は、有機物層として正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層および陽極と正孔注入層との間の緩衝層などを含む構造を有することができる。しかし、有機発光素子の構造は、これに限定されることはなく、さらに少ない数の有機物層を含むことができる。
【0052】
以下では、実施例を介して本発明をより詳しく説明する。しかし、下記実施例は本発明を例示するだけで、本発明の範囲が下記実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0053】
実施例1〜5
ガラス基板上に熱的蒸着(thermal evaporation)工程を用いて、150nm厚さの陰極(Al)と1.5nm厚さの電子注入層(LiF)を順に形成した。続いて、前記電子注入層上に電子輸送層としては下記化学式2−1で表示されるイミダゾール基を含む物質の薄膜を20nm厚さで形成して用いた。
【化11】
【0054】
次に、前記電子輸送層上にAlq3発光ホストにC545T(10−(2−benzothiazolyl)−1,1,7,7−tetramethyl−2,3,6,7−tetrahyro−1H,5H,11H−1)benzo pyrano[6,7,8−ij]quinolizin−11−one)を1重量%で同時蒸着(co−deposition)して、30nm厚さの発光層を形成した。発光層上に正孔輸送層として40nm厚さのNPB(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)薄膜を蒸着した。正孔輸送層上に正孔注入層およびバッファ層として下記化学式1−1の化合物を用いて5nm(実施例1)、10nm(実施例2)、20nm(実施例3)、50nm(実施例4)および70nm(実施例5)厚さの層を形成した。
【化12】
【0055】
前記バッファ層上にスパッタリング法を用いて、秒当たり1.3Åの速度で150nm厚さのIZO陽極を形成して、前面発光有機発光素子を製造した。
【0056】
実施例6
陰極として150nm厚さのAl薄膜の代わりに150nm厚さのITO上に5nm厚さの非常に薄いAl薄膜を形成した陰極を用いたことを除いては、実施例1〜5と同一の方法で実施して、両面発光有機発光素子を製造した。
【0057】
[素子の電流−電圧特性および発光特性測定]
実施例1で製造された有機発光素子に逆方向および正方向の電界を0.2Volt間隔で順次印加しながら各電圧値での電流を測定し、その結果を各々図6および図7に示した。また、実施例1で製造された有機発光素子に電流密度を10mA/cm2から100mA/cm2まで順次印加しながら発光量を光度法(photometry)で測定し、その結果を図8および図9に示した。
【0058】
有機発光素子において、電極形成時に有機物層が損傷すれば電流−電圧特性および発光特性が低下するため、図6〜9に示した電流−電圧特性および発光特性は化学式1の化合物による有機物層の損傷防止効果を示すのである。
【0059】
図6および図7は、本発明に係わるバッファ層の厚さによる有機発光素子の電流−電圧特性を示した図である。基板と反対側に位置する第2電極に接する有機物層が、通常従来の有機発光素子で用いられてきた有機物からなる場合には、前記有機物層上にスパッタリング法で第2電極を形成すれば、有機物層の損傷によって発光素子が正常な整流特性および発光特性を表わさないと知られている。しかし、図6および図7に示したように、前記化学式1の化合物からなるバッファ層の厚さが増加するにつれて有機発光素子の固有の素子特性、すなわち整流特性を明確に示した。
【0060】
まず、図6の逆方向電流−電圧特性を見てみると、化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さを5nm〜10nm程度の厚さで形成した場合素子の漏れ電流が少しずつ改善され、50nm以上の厚さで形成した場合素子の漏れ電流が顕著に改善され、非常に明確な整流特性を示した。図7の正方向電流−電圧特性を見れば、前記化学式1の化合物層の厚さが10nmから50nmに増加しながら電流が急激に増加している。
【0061】
また、上記のような電流増加に比例して、図8に示すように発光特性も改善された。図9の発光効率を見れば、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さ増加により発光効率が顕著に増加しており、これは前記バッファ層のスパッタリング損傷防止効果によるものである。
【0062】
実施例7
ガラス基板上に熱的蒸着工程を用いて、150nm厚さの陰極(Al)と1.5nm厚さの電子注入層(LiF)を順に形成した。続いて、前記電子注入層上に電子輸送層として前記化学式2−1で表示されるイミダゾール基を含む物質の薄膜を150nm厚さで形成した。電子輸送層上に1.5nm電子注入層(LiF)層と150nmのAl層を順に形成し、電子によってのみ電流が流れることができる図13のような対称形素子を製造した。
【0063】
比較例1
電子輸送層の形成時に化学式2−1の化合物の代わりにAlq3を用いたことを除いては、実施例7と同一の方法を用いて、電子によってのみ電流が流れることができる図13のような対称形素子を製造した。
【0064】
[素子の電流−電圧特性]
実施例7および比較例1の素子の場合、Al−LiF−電子輸送物質−LiF−Al構造で対称的な素子を製作し、この時電子輸送物質を通して流れる電流は電子によってのみ発生する。
【0065】
図14は実施例7および比較例1の電流電圧特性を比較して示した図である。図14において、陽の電圧は上部のAl電極から電子輸送層への電子注入の場合であり、陰の電圧は下部のAl電極から電子輸送層への電子注入の場合を示す。電子輸送層物質として有機発光素子で多く用いられているAlq3を用いた比較例1の場合、対称形素子であるにもかかわらず、上部Al電極からの電子注入はよくできる反面、下部Al電極からの電子注入はよくできないことが分かる。一方、電子輸送層物質として化学式2−1の物質を用いた実施例7の場合、電流電圧特性が対称的に表れており、これは上部Al電極および下部Al電極の各々から電子輸送層への電子注入が全てよくできることを示す。
【0066】
Alq3より化学式2−1の化合物によって下部電極から電子輸送層への電子注入がよくできることは、化学式2−1の化合物の構造中、イミダゾール基がフッ化リチウム(LiF)のLiイオンとの反応性がAlq3よりさらに大きいためであると見なされる。したがって、イミダゾール基などLiイオンとの反応性が大きい基を有する電子輸送物質として用いる場合、下部電極から電子輸送層への電子注入特性を改善できるということが分かる。
【0067】
逆構造の有機発光素子の場合、下部電極から電子輸送層への電子注入を必要とするため、上記で述べたように、化学式2または化学式3のようなイミダゾール基、またはこれと類似する特性を有するオキサゾール基、チアゾール基群を含んでいる電子輸送物質を用いるようになれば電子注入特性が良い有機発光素子を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層によって、有機物層上の電極形成時に発生できる有機物層の損傷を防止することができる。これによって、有機物層上に電極形成時に発生できる有機物層の損傷なしで基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の有機発光素子を製造することができる。また、このような逆構造の有機発光素子において、化学式2または化学式3のようにイミダゾール基、オキサゾール基またはチアゾール基を含んでいる電子輸送物質を用いるようになれば下部陰極電極から電子輸送層への電子注入特性を向上させ、低電圧で作動する逆構造の有機発光素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】基板、陽極、有機物層および陰極(ITO)が順次積層された有機発光素子において、前記有機物層とITO陰極との間にMg:Ag層を適用した従来の有機発光素子の構造を例示した図である。
【図2】基板、陽極、有機物層および陰極(ITO)が順次積層された有機発光素子において、前記有機物層とITO陰極との間にCuPc層を適用した従来の有機発光素子の構造を例示した図である。
【図3】図2に示した有機発光素子において、CuPc層に接する有機物層としてLi薄膜(電子注入層)を積層した従来の有機発光素子の構造を例示した図である。
【図4】本発明に係わる前面有機発光素子の構造を例示した図である。
【図5】本発明に係わる両面有機発光素子の構造を例示した図である。
【図6】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の逆方向電圧−電流(漏れ電流)特性の変化を示したグラフである。
【図7】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の正方向電圧−電流特性の変化を示したグラフである。
【図8】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の発光特性中、光度−電流密度特性を示したグラフである。
【図9】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の発光特性中、発光効率−電流密度特性を示したグラフである。
【図10】本発明に係わる化学式1の化合物からなるバッファ層の蒸着厚さによる可視光線透過度を示した図である。
【図11】化学式1−1の化合物のc−軸での結晶構造を示す図である。
【図12】化学式1−1の化合物からなるフィルム表面を示すSEMイメージである。
【図13】実施例7で製造したAl−LiF−電子輸送層−LiF−Alの対称構造を有する素子の構造を例示した図である。
【図14】実施例7で製造した対称構造の素子において、電子による正方向電圧−電流特性および逆方向電圧−電流特性を示したグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子およびその製作方法に関するものである。具体的に、本発明は、有機発光素子の製作工程中、有機物層上に電極形成時の有機物層の損傷を防止するための層を含む有機発光素子およびその製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(OLED)は、通常2つの電極(陽極および陰極)およびこれら電極の間に位置する1層以上の有機物層で構成される。このような構造の有機発光素子において、2つの電極の間に電圧を印加すれば、陽極からは正孔が、陰極からは電子が、各々有機物層に流入し、これが再結合して励起子(exiton)を形成し、この励起子が再び基底状態に落ちながら、エネルギの差に該当する光子を放出するようになる。このような原理によって、有機発光素子は可視光線を発生し、これを用いて情報表示素子または照明素子を製造することができる。
【0003】
有機発光素子において、有機物層から生成された光が基板方向に出射するようにすることを後面発光(bottom emission)方式といい、その逆に光が基板の反対方向に出射するようにすることを前面発光(top emission)方式という。基板方向と基板の反対方向のいずれからも光が出射するようにすることを両面発光(both−side emission)方式という。
【0004】
パッシブマトリクス型有機発光素子(passive matrix OLED;PMOLED)ディスプレイでは、陰極と陽極が垂直に交差し、この交差した地点の面積が1つのピクセルとして作用する。したがって、後面発光方式と前面発光方式は、有効ディスプレイ面積比(aperture ratio)という側面ではあまり差がない。
【0005】
しかし、アクティブマトリクス型有機発光素子(active matrix OLED;AMOLED)ディスプレイでは、各々のピクセル(画素)を駆動するためのスイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を用いる。これらTFTの製作には一般的に高温工程(最小数百℃以上)が必要であるため、有機発光素子の駆動に必要なTFT配列は電極および有機物層の蒸着前に予めガラス基板上に形成するようになる。ここで、このようにTFT配列が形成されたガラス基板をバックプレーン(backplane)という。このようなバックプレーンを用いるアクティブマトリクス型有機発光素子ディスプレイを後面発光方式で製作する場合、基板側に放出される光の一部がTFT配列によって遮るようになって有効ディスプレイの面積比が減少する。このような問題点は、より精巧なディスプレイを製作するために1つのピクセルに複数のTFTを付与する場合に一層深刻になる。したがって、アクティブマトリクス型有機発光素子の場合、前面発光方式で製造する必要がある。
【0006】
前面発光または両面発光の有機発光素子では、基板に接せずに基板と反対の側に位置する電極が可視光線領域で透明でなければならない。有機発光素子では、透明電極としてIZO(indium zinc−oxide)またはITO(indiumtin−oxide)のような伝導性酸化膜が用いられる。ところで、上記のような伝導性酸化膜は仕事関数が非常に高いため(通常、4.5eV以上)、これを用いて陰極を形成する場合は陰極から有機物層への電子注入が難しくなって、有機発光素子の作動電圧が大きく増加して発光効率などの重要な素子特性が低下する。したがって、前面発光または両面発光の有機発光素子を基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造、いわゆる逆構造(inverted)で製造する必要がある。
【0007】
また、アクティブマトリクス型有機発光素子において、TFTとしてa−Si TFT(a−Si thin−film transistor)を用いる場合、a−Si TFTは主電荷キャリアが電子の物性を有するため、ソース接合(source junction)およびドレーン接合(drain junction)がn−タイプでドーピングされている構造を有する。したがって、a−Si TFTを用いるアクティブマトリクス素子を製造する場合、基板上に形成されたa−Si TFTのソース接合またはドレーン接合の上、先ず有機発光素子の陰極を形成し、続いて有機物層を形成した後、ITOまたはIZOのような伝導性酸化膜陽極を順に形成する、いわゆる逆構造(inverted structure)の有機発光素子を製造することが電荷注入および工程単純化の側面で好ましい。
【0008】
ところで、上記のような逆構造の有機発光素子の製造工程において、有機物層上に位置する電極が透明性を有するIZOまたはITOのような伝導性酸化膜で形成される場合、抵抗体加熱蒸着(resistive heating evaporation)方法を用いれば、熱による蒸発過程中の熱的分解などによって酸化物の固有の化学組成比が崩れて、前記伝導性および可視光線の透過性などの特性を失う。したがって、前記伝導性酸化膜の蒸着時には、抵抗体加熱蒸着方法を利用できず、大体プラズマを用いたスパッタリングのような方法を用いている。
【0009】
しかし、有機物層上にスパッタリングのような方法で電極を形成する場合、スパッタリング工程で用いるプラズマに存在する電気的電荷粒子などによって有機物層が損傷されることがある。さらに、スパッタリング工程中には有機物層上に到達する電極を形成する原子の運動エネルギが数十〜数千eVであって、これは抵抗体加熱による蒸着での原子の運動エネルギの場合(通常、1eV以下)に比較して非常に高い。したがって、有機物層での粒子衝突(bombardment)によって有機物層の物性が損傷し、電子または正孔の注入および輸送特性および発光特性が低下する。特に、主にCとHの共有結合で構成された有機物質およびこれらからなる薄膜は一般的に無機物質半導体(例えば、Si、Ge、GaAsなど)に比較してスパッタリング工程中のプラズマに非常に弱く、一度損傷した有機物質を元の状態に戻すのが不可能である。
【0010】
したがって、良好な有機発光素子を製作するためには、有機物層上にスパッタリングのような方法による電極形成時に発生できる有機物層の損傷を除去したり最小化したりしなければならない。
【0011】
有機物層上にスパッタリングなどによる電極形成時に発生できる有機物層の損傷を回避するために、スパッタリング時の薄膜形成速度を制御する方法がある。例えば、RFまたはDCスパッタリング方式においてRF電力(power)またはDC電圧を減少させ、スパッタリングターゲットから有機発光素子基板へ入射される原子の数および平均運動エネルギを減らすことによって有機物層に及ぼすスパッタリング損傷を減少させられる。
【0012】
スパッタリングによる有機物層の損傷防止のためのまた1つの方法としては、スパッタリングターゲットと有機発光素子基板との距離を増加させ、スパッタリングターゲットから基板へ入射される原子とスパッタリングガス(例えば、Ar)との衝突機会を高めることによって、前記原子の運動エネルギを意図的に減少させる方法がある。
【0013】
しかし、上記のような方法は大部分非常に低い蒸着速度をもたらすため、スパッタリングステップでの工程時間が非常に長くなって、有機発光素子製造のための一括工程処理量が顕著に低下するようになる。さらに、上記のように低い蒸着速度を有するスパッタリング工程中にも依然として高い運動エネルギを有する粒子が有機物層の表面に到達する可能性が存在するため、スパッタリングによる有機物層の損傷を効果的に除去し難い。
【0014】
文献[「Transparent organic light emitting devices」Applied Physics Letters Volume 68、May 1996、p.2606]には、基板上に陽極および有機物層を形成した後、電子注入性能に優れたMg:Ag混合金属膜を薄く形成し、その上にITOをスパッタリング蒸着して陰極を形成する方法が記載されている。前記文献の有機発光素子の構造を図1に例示した。しかし、Mg:Ag金属膜は可視光線透過度がITOまたはIZOなどに比較して低く、工程管理も比較的難しいという短所がある。
【0015】
文献[「A metal−free cathode for organic semiconductor devices」Applied Physics Letters Volume 72、April 1998、p.2138]には、基板、陽極、有機物層および陰極が順次積層された構造の有機発光素子において、陰極の蒸着による有機物層のスパッタリング損傷を防止するために有機物層と陰極との間にスパッタリングに比較的よく耐えるCuPc層を蒸着した例が記載されている。図2は、前記文献に記載された有機発光素子の構造を例示した図である。
【0016】
しかし、CuPcは一般的に正孔注入層として用いられるものであって、前記文献ではCuPcが基板、陽極、有機物層および陰極が順次積層された有機発光素子中に有機物層と陰極との間でスパッタリングが損傷された状態において電子注入層の役割をするようになる。したがって、有機発光素子の電荷注入特性およびこれと関連した電流効率などの素子特性の低下をもたらすようになる。さらに、CuPcは可視光線領域での光の吸収が大きいため、膜の厚さを増加させることによって素子の性能が急激に低下するようになる。
【0017】
文献[「Interface engineering in preparation of organic surface emitting diodes」Applied Physics Letters、Volume 74、May 1999、p.3209]には、前記CuPc層の低い電子注入特性を改善するために、電子輸送層とCuPc層との間にまた1つの電子注入層、例えばLi薄膜を蒸着することにより電子注入特性を改善する試みが記載されている。図3は、前記文献に記載された有機発光素子の構造を例示した図である。しかし、このようなスパッタリング損傷防止方法はさらなる金属薄膜を必要として工程制御も難しいという問題点がある。
【0018】
したがって、上述したような逆構造の有機発光素子で陽極を形成する時、有機物層を損傷しないようにするための技術開発が要求されている。
【0019】
一方、一般的な有機発光素子で電子輸送層と陰極(cathode)層との間に電子注入を助けるLiF層を薄く蒸着して陰極(cathode)から電子輸送層(ETL)への電子注入特性を改善する。しかし、前記のような方法を用いる場合、陰極電極を上部接触(top contact)電極として用いる場合には電子注入特性に優れているが、逆構造として陰極電極を下部接触(bottom contact)電極として用いる場合には電子注入特性が顕著に低下すると知られている。
【0020】
文献[「An effective cathode structure for inverted top−emitting organic light−emitting device」Applied Physics Letters、Volume 85、September 2004、p2469]には、陰極電極と電子輸送層との間に非常に薄いAlq3−LiF−Al層を用いる構造で電子注入特性を改善する試みが記載されているが、工程が非常に複雑になる短所がある。また、文献[「Efficient bottom cathodes for organic light−emitting device」Applied Physics Letters、Volume 85、August 2004、p837]には、メタル−ハロゲン化物層(NaF、CsF、KF)と電子輸送層との間に薄いAl層を蒸着して電子注入特性を改善する試みが記載されている。しかし、このような方法もまた新しい層を用いなければならないという工程上の問題がある。
【0021】
したがって、逆構造の有機発光素子の場合、素子製作の工程を簡単にし、かつ電子注入特性を向上させられる方法が要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明者らは基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極が順次積層された構造の有機発光素子において、前記有機物層のうち、第2電極に接する有機物層を本発明者が明らかにした有機物を用いて形成する場合、第2電極の形成時に発生できる有機物層の損傷を最小化することができるという事実を明らかにした。これによって、素子特性に悪影響を及ぼすことがなく、基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された逆構造(inverted structure)の前面発光または両面発光の有機発光素子を製造することができる。さらに、本発明者らは上記のような逆構造の素子に適する電子輸送層物質を明らかにし、この物質を用いる場合、素子の製作工程を単純化し、かつ電子注入特性に優れることが分かる。
【0023】
このため、本発明は、有機発光素子の電極形成時の有機物層の損傷を防止できるバッファ層を含み、電子注入特性に優れた有機発光素子およびその製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の1つの実施状態は、基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極を順次積層した形態で含む有機発光素子において、前記有機物層は発光層を含み、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層は下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする有機発光素子を提供する:
【化1】
前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択され、前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択される。
【0025】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子が前面発光または両面発光の素子であることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0026】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子の第2電極が電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下では、有機物層に損傷を与えられる薄膜形成技術によって形成されることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0027】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子の第2電極が、仕事関数が2〜6eVの間の金属または伝導性酸化膜からなるものである有機発光素子を提供する。
【0028】
本発明のまた1つの実施状態は、前記本発明の有機発光素子において、第1電極は陰極で、第2電極は陽極であることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0029】
本発明のまた1つの実施状態は、前記有機発光素子において、前記有機物層が電子輸送層を含み、この電子輸送層はイミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基からなる群から選択される基を有する物質を含むことを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0030】
また、本発明のまた1つの実施状態は、基板上に第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極を順次積層するステップを含む有機発光素子の製作方法において、前記有機物層のうち1層を発光層物質で形成し、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層を前記化学式1の化合物を用いて形成することを特徴とする有機発光素子の製作方法を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層によって、有機物層上の電極形成時に発生できる有機物層の損傷を防止することができる。これによって、有機物層上に電極形成時に発生できる有機物層の損傷なしで基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の有機発光素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下で本発明について詳細に説明する。
【0033】
本発明の有機発光素子は、基板、第1電極、2層以上からなる有機物層および第2電極が順次積層された構造であって、前記有機物層は発光層を含み、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層が下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする:
【化2】
前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択され、前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択される。
【0034】
本発明の有機発光素子において、前記化学式1の化合物を含むバッファ層は第2電極に接する有機物層であって、有機発光素子の製造工程中、有機物層上に第2電極の形成時に有機物層が損傷することを防止できる。例えば、有機物層上に第2電極、特に透明な第2電極を形成する時、スパッタリングのような方法を用いる場合には、スパッタリング工程時のプラズマから発生した帯電された粒子または運動エネルギが高い原子によって有機物層が電気的または物理的に損傷することがある。このような有機物層の損傷はスパッタリングだけでなく、電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、有機物層に損傷を与えられる他の薄膜形成技術を用いて有機物層上に電極を形成する時も同様に生じ得る。しかし、前記化学式1の化合物を含むバッファ層上に上記のような方法で第2電極を形成する場合には有機物層の電気的または物理的な損傷を最小化または防止することができる。これは前記化学式1の化合物が従来有機発光素子で用いられてきた有機物に比較して、結晶性が高くて、前記化合物を含む層の密度が高いことによる。図11は、前記化学式1の一例である化学式1−1の化合物をc−軸から見た時の結晶構造を示す図である。また、図12は、化学式1−1の化合物で、フィルムの形成時にフィルム表面のSEM写真である。図11および12によって、前記化学式1の化合物の結晶性が高いということを確認できる。
【0035】
本発明では、上記のように有機物層の電気的または物理的損傷を最小化または防止することによって有機物層損傷による発光特性の低下を防止することができる。また、第2電極形成工程での有機物層の損傷を防止することができるため、第2電極形成時の工程変数の調節および工程装置の最適化が容易になり、これによって工程上処理量も改善される。そして、前記第2電極の材料および蒸着方法の選択の幅が多様になり得る。例えば、透明電極以外にもAl、Ag、Mo、Niなどのような金属薄膜をスパッタリング、レーザを用いた物理的蒸着方法(physical vapor deposition、 PVD)、イオンビームを用いた蒸着(ion beam assisted deposition)、またはこれらと類似する方法として電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下で有機物層に損傷を与えられる薄膜形成技術を用いることができる。
【0036】
本発明の有機発光素子では、前記化学式1を含むバッファ層の役割によって第2電極材料および蒸着方法を多様に選択することができるため、前面または両面の発光素子やa−Si TFTを用いるアクティブマトリクス型有機発光素子の製造時に、有機物層の損傷という問題なしで基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の素子を製造することができる。まだ有機物層の損傷の問題なしで上述したような逆構造の有機発光素子を製造した例が開示されたことがない。
【0037】
そして、本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層を用いることによって有機発光素子の電気的特性を向上させられる。例えば、本発明の有機発光素子では、逆バイアス(reverse bias)状態での漏れ電流が低くなって電流−電圧特性を顕著に改善させ、非常に明確な整流特性を示す。ここで、整流特性とは、ダイオードの一般的な特性で、逆方向電圧を印加した領域での電流大きさが正方向電圧を印加した領域での電流大きさに比較して非常に小さいという特性を意味する。前記化学式1の化合物は、上述したように従来有機発光素子で用いられてきた有機物質に比較して結晶性に優れて、これからなる層は密度が高いため、スパッタリングなどによる工程で発生する高い運動エネルギを有する粒子が有機物層の内部および層間界面に注入されて(implantation)発生する分子の構造的欠陥または界面特性の欠陥などを効果的に防止するため、素子の整流特性のような電気的特性が維持されると見られる。
【0038】
また、前記化学式1の化合物を含むバッファ層は、従来バッファ層として用いられてきた金属やCuPcなどからなる無機物層に比較して可視光線の透過度が高くて、既に用いられてきたバッファ層に比較して厚さ調節が自由にできる。図10は、前記化学式1の化合物の薄膜厚さによる可視光線領域での透過度を示した図である。前記従来技術におけるバッファ層として用いられてきた無機物層は通常200nmでの厚さで形成する場合は可視光線の透過度が非常に低いが、前記化学式1の化合物層は厚さを200nmにしても可視光線の透過度が低下しない。
【0039】
また、本発明の有機発光素子のうち前記第2電極が陽極の場合、前記化学式1の化合物を含むバッファ層はスパッタリング損傷を防止する役割をするだけでなく、陽極から受けた正孔を正孔輸送層または発光層に注入する正孔注入層や正孔−電子対を形成する電荷発生層(charge−generation layer)の役割をすることもできる。したがって、本発明の有機発光素子では、正孔注入層または正孔輸送層を別途に形成しなくても素子の効率を向上させられる。
【0040】
前記化学式1の化合物の具体的な例としては、下記化学式の化合物がある。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0041】
前記化学式1の他の例や合成方法および多様な特徴は、米国特許出願第2002−0158242号、米国特許第6,436,559号および米国特許第4,780,536号に記載されており、これら文献の内容は全て本明細書に含まれる。
【0042】
本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さを増加させることによって、前述したバッファ層としての効果を増加させられる。これは前記バッファ層の厚さの増加による漏れ電流の改善効果によってわかる。図6は、基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の有機発光素子において、陽極に接する前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さによる漏れ電流を示した図である。前記化学式1の化合物層の厚さが5nm〜10nmから50nmに増加するにつれて漏れ電流が急激に減少して、電圧−電流特性が顕著に改善されたことが分かる。本発明において、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の最適の厚さは、第2電極形成時に用いるスパッタリング工程の因子、例えば蒸着の速度、RF電力(power)、DC電圧などによって変われる。例えば、一般的に速く蒸着するために高い電圧および電力を用いるスパッタリング工程であるほど最適のバッファ層の厚さは増加する。本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さが20nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。前記バッファ層の厚さが20nm未満の場合には前記層が正孔注入または輸送層の役割をすることはできるが、バッファ層としての役割は十分にすることができない。一方、前記バッファ層の厚さは250nm以下であることが好ましい。前記層の厚さが250nmを越える場合には素子の製造工程時間が非常に長くなるようになり、化学式1の化合物層の表面形状が粗くなって、素子の他の特性に影響を及ぼせる。
【0043】
本発明において、前記化学式1の化合物を含むバッファ層は真空蒸着法や溶液塗布法によって、陽極と陰極との間に形成することによって製造することができる。前記溶液塗布法の例としては、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、インクジェット印刷または熱転写法などがあり、これらにだけ限定されない。前記化学式1の化合物を含むバッファ層は必要によって他の物質をさらに含むこともでき、前記バッファ層は前記化学式1の有機物と共に無機物を含む有無機混合物質薄膜で形成される。
【0044】
本発明において、前記第2電極とバッファ層との間に絶縁性質を有する酸化物薄膜がさらに備われる。
【0045】
一方、本発明の有機発光素子において、有機物層は電子輸送層を含むことができ、この電子輸送層はLi、Cs、Na、Mg、Sc、Ca、K、Ce、Euなどのように仕事関数が小さい金属またはこれら金属のうち1種以上の金属薄膜と有機物質を同時蒸着(co−deposition)する方法で形成することができる。ただし、本発明の有機発光素子の電子輸送層は、イミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基からなる群から選択される基、より好ましくはイミダゾール基を有する物質を含む方が良い。前記物質の例としては、イミダゾール基を有した韓国特許公開第2003−0067773号に記載された下記化学式2の化合物または米国特許第5,645,948号に記載された下記化学式3の化合物などがあり、これはLi、Cs、Na、Mg、Sc、Ca、K、Ce、Euなどのように仕事関数が小さい金属と共に蒸着し得る。前記韓国特許公開第2003−0067773号および米国特許第5,645,948号は全体が本発明の内容に含まれる。
【化9】
前記化学式2において、
R7およびR8は各々独立したに水素、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択されるものであるが、ただしR7およびR8がともに水素ではなく、
Arはベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択され、
R9は水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素、置換されたベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環または芳香族複素環からなる群から選択され、
XはO、SおよびNR10(ここで、R10は水素、炭素数1〜7の脂肪族炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセンのような芳香族環および芳香族複素環から選択される)からなる群から選択される。
【化10】
前記化学式3において、
nは3〜8の整数であり、
ZはO、SまたはN−Rであり、
RとR’は各々水素、炭素数1〜24のアルキル、例えばプロピル、t−ブチル、ヘプチルなど、炭素数5〜20のアリールまたはヘテロ原子を含む置換されたアリール、例えばフェニル、ナフチル、フリル、チエニル、ピリジル、キノリニルなど、およびその他複素環系、またはクロロ、フルオロなどのハロゲン、または縮合芳香族環を完成させるのに必要な原子であり、
Bは連結ユニットであって、複数のベンザゾ−ル(benzazole)を共役または非共役連結するアルキル、アリール、置換されたアルキル、または置換されたアリールである。
【0046】
本発明において、素子の電子輸送層を上記のような物質を含むように構成する場合、この素子は電子注入層を含むことが好ましく、この電子注入層はLiF層であることが好ましい。
【0047】
本発明の有機発光素子は基板、第1電極、2層以上の有機物層および第2電極が積層された構造において、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層を前記化学式1の化合物を含むバッファ層として形成することを除いては、当技術分野に知られている材料および方法を用いて製造される。
【0048】
ただし、上述したように本発明ではバッファ層上に積層する第2電極の形成方法に大きく制限されないため、従来技術と比較して、第2電極の材料および形成工程に対する選択の幅がより広い。
【0049】
例えば、本発明で第2電極は、スパッタリング、レーザを用いた物理的蒸着方法(physical vapor deposition; PVD)、イオンビームを用いた蒸着方法(ion beam assisted deposition)またはこれらと類似する方法のように電荷や高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、有機物層に損傷を与えられる薄膜形成技術を使用でき、したがって、前記方法によってのみ形成可能な電極材料も使用できる。例えば、第2電極はIZOまたはITOなどのように可視光線領域で透明な伝導性酸化物質や、Al、Ag、Au、Ni、Pd、Ti、Mo、Mg、Ca、Zn、Te、Pt、Irまたはこれらのうち1つ以上を含む合金物質で形成することができる。
【0050】
本発明に係わる有機発光素子の例を図4および図5に示した。図4は、前面発光素子を例示した図であり、図5は、両面発光素子を例示した図である。しかし、本発明の有機発光素子の構造がこれらだけに限定されることはない。
【0051】
本発明の有機発光素子中の有機物層は、1層構造からなることもできるが、2層以上の有機物層が積層された多層構造からなることもできる。例えば、本発明の有機発光素子は、有機物層として正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層および陽極と正孔注入層との間の緩衝層などを含む構造を有することができる。しかし、有機発光素子の構造は、これに限定されることはなく、さらに少ない数の有機物層を含むことができる。
【0052】
以下では、実施例を介して本発明をより詳しく説明する。しかし、下記実施例は本発明を例示するだけで、本発明の範囲が下記実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0053】
実施例1〜5
ガラス基板上に熱的蒸着(thermal evaporation)工程を用いて、150nm厚さの陰極(Al)と1.5nm厚さの電子注入層(LiF)を順に形成した。続いて、前記電子注入層上に電子輸送層としては下記化学式2−1で表示されるイミダゾール基を含む物質の薄膜を20nm厚さで形成して用いた。
【化11】
【0054】
次に、前記電子輸送層上にAlq3発光ホストにC545T(10−(2−benzothiazolyl)−1,1,7,7−tetramethyl−2,3,6,7−tetrahyro−1H,5H,11H−1)benzo pyrano[6,7,8−ij]quinolizin−11−one)を1重量%で同時蒸着(co−deposition)して、30nm厚さの発光層を形成した。発光層上に正孔輸送層として40nm厚さのNPB(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)薄膜を蒸着した。正孔輸送層上に正孔注入層およびバッファ層として下記化学式1−1の化合物を用いて5nm(実施例1)、10nm(実施例2)、20nm(実施例3)、50nm(実施例4)および70nm(実施例5)厚さの層を形成した。
【化12】
【0055】
前記バッファ層上にスパッタリング法を用いて、秒当たり1.3Åの速度で150nm厚さのIZO陽極を形成して、前面発光有機発光素子を製造した。
【0056】
実施例6
陰極として150nm厚さのAl薄膜の代わりに150nm厚さのITO上に5nm厚さの非常に薄いAl薄膜を形成した陰極を用いたことを除いては、実施例1〜5と同一の方法で実施して、両面発光有機発光素子を製造した。
【0057】
[素子の電流−電圧特性および発光特性測定]
実施例1で製造された有機発光素子に逆方向および正方向の電界を0.2Volt間隔で順次印加しながら各電圧値での電流を測定し、その結果を各々図6および図7に示した。また、実施例1で製造された有機発光素子に電流密度を10mA/cm2から100mA/cm2まで順次印加しながら発光量を光度法(photometry)で測定し、その結果を図8および図9に示した。
【0058】
有機発光素子において、電極形成時に有機物層が損傷すれば電流−電圧特性および発光特性が低下するため、図6〜9に示した電流−電圧特性および発光特性は化学式1の化合物による有機物層の損傷防止効果を示すのである。
【0059】
図6および図7は、本発明に係わるバッファ層の厚さによる有機発光素子の電流−電圧特性を示した図である。基板と反対側に位置する第2電極に接する有機物層が、通常従来の有機発光素子で用いられてきた有機物からなる場合には、前記有機物層上にスパッタリング法で第2電極を形成すれば、有機物層の損傷によって発光素子が正常な整流特性および発光特性を表わさないと知られている。しかし、図6および図7に示したように、前記化学式1の化合物からなるバッファ層の厚さが増加するにつれて有機発光素子の固有の素子特性、すなわち整流特性を明確に示した。
【0060】
まず、図6の逆方向電流−電圧特性を見てみると、化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さを5nm〜10nm程度の厚さで形成した場合素子の漏れ電流が少しずつ改善され、50nm以上の厚さで形成した場合素子の漏れ電流が顕著に改善され、非常に明確な整流特性を示した。図7の正方向電流−電圧特性を見れば、前記化学式1の化合物層の厚さが10nmから50nmに増加しながら電流が急激に増加している。
【0061】
また、上記のような電流増加に比例して、図8に示すように発光特性も改善された。図9の発光効率を見れば、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さ増加により発光効率が顕著に増加しており、これは前記バッファ層のスパッタリング損傷防止効果によるものである。
【0062】
実施例7
ガラス基板上に熱的蒸着工程を用いて、150nm厚さの陰極(Al)と1.5nm厚さの電子注入層(LiF)を順に形成した。続いて、前記電子注入層上に電子輸送層として前記化学式2−1で表示されるイミダゾール基を含む物質の薄膜を150nm厚さで形成した。電子輸送層上に1.5nm電子注入層(LiF)層と150nmのAl層を順に形成し、電子によってのみ電流が流れることができる図13のような対称形素子を製造した。
【0063】
比較例1
電子輸送層の形成時に化学式2−1の化合物の代わりにAlq3を用いたことを除いては、実施例7と同一の方法を用いて、電子によってのみ電流が流れることができる図13のような対称形素子を製造した。
【0064】
[素子の電流−電圧特性]
実施例7および比較例1の素子の場合、Al−LiF−電子輸送物質−LiF−Al構造で対称的な素子を製作し、この時電子輸送物質を通して流れる電流は電子によってのみ発生する。
【0065】
図14は実施例7および比較例1の電流電圧特性を比較して示した図である。図14において、陽の電圧は上部のAl電極から電子輸送層への電子注入の場合であり、陰の電圧は下部のAl電極から電子輸送層への電子注入の場合を示す。電子輸送層物質として有機発光素子で多く用いられているAlq3を用いた比較例1の場合、対称形素子であるにもかかわらず、上部Al電極からの電子注入はよくできる反面、下部Al電極からの電子注入はよくできないことが分かる。一方、電子輸送層物質として化学式2−1の物質を用いた実施例7の場合、電流電圧特性が対称的に表れており、これは上部Al電極および下部Al電極の各々から電子輸送層への電子注入が全てよくできることを示す。
【0066】
Alq3より化学式2−1の化合物によって下部電極から電子輸送層への電子注入がよくできることは、化学式2−1の化合物の構造中、イミダゾール基がフッ化リチウム(LiF)のLiイオンとの反応性がAlq3よりさらに大きいためであると見なされる。したがって、イミダゾール基などLiイオンとの反応性が大きい基を有する電子輸送物質として用いる場合、下部電極から電子輸送層への電子注入特性を改善できるということが分かる。
【0067】
逆構造の有機発光素子の場合、下部電極から電子輸送層への電子注入を必要とするため、上記で述べたように、化学式2または化学式3のようなイミダゾール基、またはこれと類似する特性を有するオキサゾール基、チアゾール基群を含んでいる電子輸送物質を用いるようになれば電子注入特性が良い有機発光素子を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明では前記化学式1の化合物を含むバッファ層によって、有機物層上の電極形成時に発生できる有機物層の損傷を防止することができる。これによって、有機物層上に電極形成時に発生できる有機物層の損傷なしで基板、陰極、有機物層および陽極が順次積層された構造の有機発光素子を製造することができる。また、このような逆構造の有機発光素子において、化学式2または化学式3のようにイミダゾール基、オキサゾール基またはチアゾール基を含んでいる電子輸送物質を用いるようになれば下部陰極電極から電子輸送層への電子注入特性を向上させ、低電圧で作動する逆構造の有機発光素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】基板、陽極、有機物層および陰極(ITO)が順次積層された有機発光素子において、前記有機物層とITO陰極との間にMg:Ag層を適用した従来の有機発光素子の構造を例示した図である。
【図2】基板、陽極、有機物層および陰極(ITO)が順次積層された有機発光素子において、前記有機物層とITO陰極との間にCuPc層を適用した従来の有機発光素子の構造を例示した図である。
【図3】図2に示した有機発光素子において、CuPc層に接する有機物層としてLi薄膜(電子注入層)を積層した従来の有機発光素子の構造を例示した図である。
【図4】本発明に係わる前面有機発光素子の構造を例示した図である。
【図5】本発明に係わる両面有機発光素子の構造を例示した図である。
【図6】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の逆方向電圧−電流(漏れ電流)特性の変化を示したグラフである。
【図7】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の正方向電圧−電流特性の変化を示したグラフである。
【図8】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の発光特性中、光度−電流密度特性を示したグラフである。
【図9】本発明のバッファ層の厚さによる有機発光素子の発光特性中、発光効率−電流密度特性を示したグラフである。
【図10】本発明に係わる化学式1の化合物からなるバッファ層の蒸着厚さによる可視光線透過度を示した図である。
【図11】化学式1−1の化合物のc−軸での結晶構造を示す図である。
【図12】化学式1−1の化合物からなるフィルム表面を示すSEMイメージである。
【図13】実施例7で製造したAl−LiF−電子輸送層−LiF−Alの対称構造を有する素子の構造を例示した図である。
【図14】実施例7で製造した対称構造の素子において、電子による正方向電圧−電流特性および逆方向電圧−電流特性を示したグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1電極と、2層以上からなる有機物層と、および第2電極とを順次積層して形成したものを含んでなる有機発光素子であって、
前記有機物層が発光層を含み、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層が下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする、有機発光素子。
【化1】
[前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択されてなり、
前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択されてなるものである。]
【請求項2】
前記化学式1の化合物が、下記化学式1−1〜1−6で示される化合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項3】
前記有機発光素子が、前面発光素子または両面発光素子であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記第2電極が、電荷または高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下では有機物層に損傷を与えることがある薄膜形成技術によって形成されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記薄膜形成技術が、スパッタリング、レーザを用いた物理的蒸着方法(PVD)、イオンビームを用いた蒸着方法からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記第1電極が陰極であり、前記第2電極が陽極であり、前記素子が基板上に陰極を先ず形成した後、この陰極上に2層以上の有機物層および陽極を順次形成して製造されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記第2電極が、仕事関数が2〜6eVの間の金属または伝導性酸化膜からなることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記第2電極が、ITOからなることを特徴とする、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記第2電極が、IZOからなることを特徴とする、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第2電極とバッファ層との間に絶縁性質を有する酸化物薄膜がさらに備えられていることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記バッファ層が正孔注入層を兼ねることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項12】
下記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さが20nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記有機物層が電子輸送層を含み、該電子輸送層がイミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基からなる群から選択される基を有する物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項14】
前記電子輸送層が、下記化学式2の化合物および化学式3の化合物からなる群から選択される化合物を含むことを特徴とする、請求項13に記載の有機発光素子。
【化8】
[前記化学式2において、
R7およびR8は各々独立したに水素、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素、芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択されるものであるが、ただしR7およびR8がともに水素ではなく、
Arは芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択され、
R9は水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素、芳香族環または芳香族複素環からなる群から選択され、
XはO、SおよびNR10(ここで、R10は水素、炭素数1〜7の脂肪族炭化水素、芳香族環および芳香族複素環から選択される)からなる群から選択されてなるものである。]
【化9】
[前記化学式3において、
nは3〜8の整数であり、
ZはO、SまたはN−Rであり、
RとR’は各々水素、炭素数1〜24のアルキル、炭素数5〜20のアリールまたはヘテロ原子を含む置換されたアリール、またはハロゲン、または縮合芳香族環を完成させるのに必要な原子であり、
Bは連結ユニットとして、複数のベンザゾ−ルを共役または非共役連結するアルキル、アリール、置換されたアルキル、または置換されたアリールである。]
【請求項15】
前記第1電極と前記電子輸送層との間に電子注入層をさらに備えることを特徴とする、請求項13に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記電子注入層がLiF薄膜層であることを特徴とする、請求項15に記載の有機発光素子。
【請求項17】
基板上に、第1電極と、2層以上からなる有機物層と、および第2電極を順次積層して形成する工程を含んでなる有機発光素子の製造方法であって、
前記有機物層のうち1層を発光層で形成し、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層を下記化学式1の化合物を用いて形成することを特徴とする、製造方法。
【化10】
[前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択されてなり、
前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択されてなるものである。]
【請求項18】
前記第2電極を電荷または高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下では有機物層に損傷を与えることがある薄膜形成技術によって形成することを特徴とする、請求項17に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項1】
基板と、第1電極と、2層以上からなる有機物層と、および第2電極とを順次積層して形成したものを含んでなる有機発光素子であって、
前記有機物層が発光層を含み、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層が下記化学式1の化合物を含むバッファ層であることを特徴とする、有機発光素子。
【化1】
[前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択されてなり、
前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択されてなるものである。]
【請求項2】
前記化学式1の化合物が、下記化学式1−1〜1−6で示される化合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項3】
前記有機発光素子が、前面発光素子または両面発光素子であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記第2電極が、電荷または高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下では有機物層に損傷を与えることがある薄膜形成技術によって形成されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記薄膜形成技術が、スパッタリング、レーザを用いた物理的蒸着方法(PVD)、イオンビームを用いた蒸着方法からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記第1電極が陰極であり、前記第2電極が陽極であり、前記素子が基板上に陰極を先ず形成した後、この陰極上に2層以上の有機物層および陽極を順次形成して製造されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記第2電極が、仕事関数が2〜6eVの間の金属または伝導性酸化膜からなることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記第2電極が、ITOからなることを特徴とする、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記第2電極が、IZOからなることを特徴とする、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第2電極とバッファ層との間に絶縁性質を有する酸化物薄膜がさらに備えられていることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記バッファ層が正孔注入層を兼ねることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項12】
下記化学式1の化合物を含むバッファ層の厚さが20nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記有機物層が電子輸送層を含み、該電子輸送層がイミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基からなる群から選択される基を有する物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項14】
前記電子輸送層が、下記化学式2の化合物および化学式3の化合物からなる群から選択される化合物を含むことを特徴とする、請求項13に記載の有機発光素子。
【化8】
[前記化学式2において、
R7およびR8は各々独立したに水素、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素、芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択されるものであるが、ただしR7およびR8がともに水素ではなく、
Arは芳香族環および芳香族複素環からなる群から選択され、
R9は水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素、芳香族環または芳香族複素環からなる群から選択され、
XはO、SおよびNR10(ここで、R10は水素、炭素数1〜7の脂肪族炭化水素、芳香族環および芳香族複素環から選択される)からなる群から選択されてなるものである。]
【化9】
[前記化学式3において、
nは3〜8の整数であり、
ZはO、SまたはN−Rであり、
RとR’は各々水素、炭素数1〜24のアルキル、炭素数5〜20のアリールまたはヘテロ原子を含む置換されたアリール、またはハロゲン、または縮合芳香族環を完成させるのに必要な原子であり、
Bは連結ユニットとして、複数のベンザゾ−ルを共役または非共役連結するアルキル、アリール、置換されたアルキル、または置換されたアリールである。]
【請求項15】
前記第1電極と前記電子輸送層との間に電子注入層をさらに備えることを特徴とする、請求項13に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記電子注入層がLiF薄膜層であることを特徴とする、請求項15に記載の有機発光素子。
【請求項17】
基板上に、第1電極と、2層以上からなる有機物層と、および第2電極を順次積層して形成する工程を含んでなる有機発光素子の製造方法であって、
前記有機物層のうち1層を発光層で形成し、前記有機物層のうち第2電極に接する有機物層を下記化学式1の化合物を用いて形成することを特徴とする、製造方法。
【化10】
[前記化学式1において、
R1〜R6は各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO2)、スルホニル(−SO2R)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SO2NR)、スルホネート(−SO3R)、トリフルオロメチル(−CF3)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換または非置換された直鎖または分枝鎖のC1−C12アルコキシ、置換または非置換された直鎖または分枝鎖C1−C12のアルキル、置換または非置換された芳香族または非芳香族の複素環、置換または非置換されたアリール、置換または非置換されたモノ−またはジ−アリールアミン、および置換または非置換されたアラルキルアミンで構成された群から選択されてなり、
前記RおよびR’は各々置換または非置換されたC1−C60のアルキル、置換または非置換されたアリールおよび置換または非置換の5−7元の複素環からなる群から選択されてなるものである。]
【請求項18】
前記第2電極を電荷または高い運動エネルギを有する粒子を伴うことによって、前記化学式1の化合物を含むバッファ層の不在下では有機物層に損傷を与えることがある薄膜形成技術によって形成することを特徴とする、請求項17に記載の有機発光素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−16815(P2013−16815A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172291(P2012−172291)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2007−527054(P2007−527054)の分割
【原出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2007−527054(P2007−527054)の分割
【原出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】
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