説明

バリア層の非固体化を利用した減圧ドレッシング、システムおよび方法

減圧医療ドレッシング、システムおよび方法は、第1バリア層を有するドレッシングを含み、第1バリア層は、流体、典型的には液体に曝されたときに、非固体化して、組織部位に減圧を伝えるのに使用される治療開口部を形成する。第1バリア層は、非固体化する材料から形成される。システムは、マニホールドの第2の面および患者の表皮の一部を覆って、マニホールドおよび第1バリア層を収容する実質的に密閉された空間を提供するドレープを含む。その他のシステム、ドレッシングおよび方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に治療システムに関し、より詳細には、それに限定される訳ではないが、バリア層の非固体化を利用した減圧ドレッシング、システムおよび方法に関するものである。
【0002】
[関連出願]
本発明は、35USC§119(e)に基づき、2009年7月15日に出願された発明の名称を“Reduced−Pressure Dressings,Systems,and Methods Employing Desolidifying Barrier Layers”とする米国仮特許出願第61/225,604号の出願の利益を主張するものである。この仮出願は事実上、引用により本明細書に援用されるものである。
【背景技術】
【0003】
臨床研究および実践は、組織部位の近傍に減圧を付与することが組織部位における新たな組織の成長を拡大および促進することを示している。この現象の応用は多数あるが、減圧の適用は、創傷の治療において特に成果を上げている。この治療(医学界では、“負圧創傷療法”、“減圧療法”あるいは“吸引療法”としばしば呼ばれる。)は、多くの恩恵を与え、それには、より速い治癒および肉芽組織形成の増加を含むことができる。他に記載がない限り、本明細書に使用される“or(または)”は相互排他性を必要とするものではない。
【発明の概要】
【0004】
既存の減圧治療器具、システムおよび方法に対する改善は、本明細書中の例示的で非限定的な実施形態の器具、システムおよび方法によって実現することができる。例示的で非限定的な実施形態によれば、患者の組織部位に減圧治療を提供するシステムは、減圧を供給する減圧源と、第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドとを含む。マニホールドは、減圧を伝えるように機能する。このシステムは、マニホールドの第1の内向きの面の少なくとも一部を覆う第1バリア層を含む。第1バリア層は、組織部位に隣接して配置するためのものであり、非固体化する材料(desolidifying material:以下、非固体化材料と称する)から形成される。このシステムは、マニホールドの第2の面および患者の表皮の一部を覆って、マニホールドおよび第1バリア層を収容する実質的に密閉された空間を提供するドレープも含む。
【0005】
別の例示的で非限定的な実施形態によれば、器具は、第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドを含む。マニホールドは、減圧を伝えるように機能する。この器具は、マニホールドの第1の内向きの面の少なくとも一部を覆う第1バリア層も含む。第1バリア層は、非固体化材料から形成される。
【0006】
別の例示的で非限定的な実施形態によれば、患者の組織部位に減圧治療を提供する方法は、ドレッシングを組織部位に適用するステップを含む。ドレッシングは、第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドを含み、マニホールドは、減圧を伝えるように機能する。ドレッシングは、マニホールドの第1の内向きの面の少なくとも一部を覆う第1バリア層も含む。第1バリア層は、非固体化材料から形成される。この方法は、組織部位における流体が第1バリア層の少なくとも一部を非固体化して治療開口部を形成することを許容するステップと、治療開口部を介して組織部位に減圧を加えるステップとをさらに含む。
【0007】
別の例示的で非限定的な実施形態によれば、患者の組織部位に減圧治療を提供するための器具を製造する方法は、第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドを提供するステップと、非固体化材料から形成される第1バリア層を提供するステップとを含む。この方法は、第1バリア層をマニホールドの第1の内向きの面に結合させるステップも含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1Aは、例示的で非限定的な一実施形態に係る減圧治療システムの、一部をブロック図で示した概略断面図である。図1Bは、図1Aに示すドレッシングの概略断面図であり、第1バリア層の一部が非固体化されている。図1Cは、組織部位の視点から見た図1Bに示すドレッシングの概略平面図である。
【図2】図2は、例示的で非限定的な実施形態に従って示されるマニホールドおよび第1および第2バリア層の概略断面図である。
【図3】図3は、第1および第2バリア層を有する、例示的で非限定的な実施形態に係るマニホールの概略断面図で、バリア層の一方が複数の穿孔を有している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の例示的で非限定的な実施形態の詳細な説明においては、その一部を構成する添付図面を参照する。それらの実施形態は、当業者が本発明を実施できる程度に十分詳細に記載されており、また、その他の実施形態が利用可能であるとともに、本発明の趣旨または範囲を逸脱せずに、論理構造的、機械的、電気的および化学的な変更が可能であることを理解されたい。本明細書に記載の実施形態を当業者が実施可能とするのに必要のない細部説明を避けるために、当業者に既知の一部の情報を説明から省略することがある。したがって、以下の詳細な説明は、限定の意味で捉えるべきではなく、例示的な実施形態の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0010】
ここで図面、主に図1A乃至図1Cを参照すると、例示的で非限定的な実施形態に係る、減圧源102およびドレッシング104を含む減圧治療システム100が示されている。ドレッシング104は、マニホールド110および第1バリア層112を含み、第1バリア層が、傷の無い皮膚の浸軟を回避するのを助けて上皮形成を促進するように構成されている。ドレッシング104は、患者108の創傷107を含む組織部位106に適用され、その結果、減圧源102からの減圧を、ドレッシング104を介して組織部位106に伝達することができる。
【0011】
本明細書で使用される“reduced pressure(減圧)”は、一般に、治療を受ける組織部位の周囲圧力未満の圧力のことをいう。多くの場合、この減圧は、患者がいる位置の大気圧未満となるであろう。若しくは、減圧は、組織部位における静水圧未満であってもよい。特に記載がなければ、本明細書で述べる圧力の値は、ゲージ圧である。送達される減圧は、一定であっても、あるいは(パターン化されたまたはランダムな)変化を生じ得るものであってもよく、また、連続的または間欠的に送達されるものであってもよい。“真空”および“負圧”といった用語が組織部位に加えられる圧力を説明するのに使用されるかもしれないが、組織部位に加えられる実際の圧力は、完全真空に通常付随する圧力よりも大きくなる可能性がある。本明細書における使用と一致するように、減圧または真空圧の増加は、典型的には絶対圧の相対的な低下のことをいう。
【0012】
組織部位106は、あらゆる人間、動物またはその他生物の体組織であってもよく、それには、骨組織、脂肪組織、筋組織、皮膚組織、血管組織、結合組織、軟骨、腱、靭帯またはその他の任意の組織が含まれる。組織部位106の治療には、流体、例えば、腹水または滲出液の除去、腹腔の保護、または減圧の送達が含まれる。組織部位106における創傷107は、外傷または外科手術を含む様々な要因によるものであってもよい。
【0013】
ドレッシング104は、マニホールド110および第1バリア層112を含む。マニホールド110は、第1の内向き(組織向き)の面114および第2の面116を含む。本明細書で使用される“manifold(マニホールド)”という用語は、一般に、組織部位106に減圧を加え、組織部位に流体を運び、或いは組織部位から流体を除去するのを補助するために設けられる物質または構造のことをいう。マニホールド110は、典型的には、マニホールド110の近傍の組織部位106に与えられる流体、およびそこから除去される流体の流通を改善する複数の流路または経路を含む。複数の流路は相互に連結することができる。マニホールド110は、組織部位106に接触させて配置することができ、かつ減圧を組織部位106に分配することができる生体適合性材料から形成することができる。マニホールド110の例としては、流路を形成するように配列された構造要素を有するデバイス、例えば、多孔性発泡体、連続気泡発泡体、多孔質組織収集体、流路を含むまたは流路を含むように保持する液体、ゲルおよび発泡体が含まれるが、それらに限定されるものではない。マニホールド110は、多孔性とすることができ、特定の生物学的応用に適した、発泡体、ガーゼ、フェルト状マットまたは任意のその他の材料から作ることができる。一実施形態においては、マニホールド110が、多孔質発泡体であり、流路として働く複数の連続気泡または孔を含む。多孔質発泡体は、例えば、テキサス州サンアントニオ所在のKinetic Concepts社により製造されるGranuFoam(登録商標)材料のような、ポリウレタンの連続気泡構造の網状発泡体とすることができる。その他の実施形態では、“独立気泡”を含むものであってもよい。ある状況では、マニホールド110は、薬物、抗菌物質、成長因子および様々な溶液のような流体を、組織部位106に流通させるために使用されるものであってもよい。吸収性素材、ウィッキング材料、疎水性材料および親水性材料のようなその他の層を、マニホールド110内またはその上に含むものであってもよい。
【0014】
また、ドレッシング104は、マニホールド110の第1の内向きの面114の少なくとも一部を覆う第1バリア層112も含む。第1バリア層112は、組織部位106に隣接して配置され、その結果、当該第1バリア層112がマニホールド110と組織部位106との間に配置されている。第1バリア層112は、マニホールド110に固定的または非固定的に取り付けることができる。例えば、第1バリア層112は、接着剤または別の取付デバイスに頼らないで、マニホールド110に単に隣接させるようにしてもよい。また、第1バリア層112は、マニホールド110に結合させるようにしてもよい。本明細書で使用される“結合される”という用語には、別個の物体を介して結合することと、直接結合することが含まれる。また、“結合される”という用語は、各々の構成要素が同じ材料片から形成されることにより互いに連続することとなる2またはそれ以上の構成要素を包含する。また、“結合される”という用語には、化学結合によるような化学的、機械的、熱的または電気的結合が含まれる。第1バリア層112をマニホールド110に結合させる手法の非限定的な具体例には、溶接(例えば、超音波またはRF溶接)、ボンディング、接着剤、セメントまたはその他の結合手法またはデバイスが含まれる。
【0015】
マニホールド110および第1バリア層112は、密閉空間118内に配置され、この密閉空間は、マニホールド110および第1バリア層112を覆うドレープ120によって形成されている。ドレープ120により形成される密閉空間118は、組織部位106において治療減圧を維持するのを助けるとともに、マニホールド110および第1バリア層112のような様々な構成要素を含むことができる。
【0016】
ドレープ120は、流体シールを提供する任意の材料とすることができる。ドレープ120は、例えば、半透過性または不透過性のエラストマー材料とすることができる。“Elastomeric(エラストマーの)”は、エラストマーの性質を有することを意味する。エラストマーは、一般に、ゴムのような性質を有する高分子材料のことをいう。より具体的には、ほとんどのエラストマーは、100%より高い極限伸び率および非常に高い弾性を有する。材料の弾性とは、弾性変形から回復する材料の能力のことをいう。エラストマーの例には、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエン、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム、ポリウレタン、EVAフィルム、コポリエステルおよびシリコーンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。ドレープ120の具体的な例には、シリコーンドレープ、3M社のTegaderm(登録商標)ドレープ、またはカリフォルニア州パサディナのAvery Dennison社から入手可能なポリウレタンドレープのようなポリウレタンドレープが含まれる。
【0017】
接着剤121は、患者の表皮138またはガスケットまたは追加ドレープのような別の層に対してドレープ120を保持するために使用することができる。接着剤121は数多くの形式を取ることができる。例えば、接着剤121は、ドレープ120の周縁部129に沿って延在する医学的に許容できる粘着剤であってもよい。
【0018】
減圧は、減圧インターフェースまたはコネクタ122を介して密閉空間118に伝達される。コネクタ122は、ドレープ120の開口部124内に少なくとも部分的に配置されている。コネクタ122は、接着剤128を使用してドレープ120に対して保持される第2ドレープ126を使用して、ドレープ120に対して保持されるものであってもよい。接着剤128は、患者の表皮138に対してドレープ120を保持するために使用される接着剤121と同じもの、または類似のものであってもよい。また、第2ドレープ126も、接着剤(図示省略)を使用して、コネクタ122に対して保持されるものとすることができる。例示的な一実施形態では、コネクタ122が、テキサス州サンアントニオ所在のKCI社により入手可能なT.R.A.C.(登録商標)パッドまたはSensa T.R.A.C.(登録商標)パッドである。
【0019】
減圧管路130は、減圧源102からコネクタ122に減圧を伝えるために使用される。減圧管路130は、1または複数のルーメンを含むことができ、その各々が、減圧または流体を伝達することができる。減圧管路130の中間部分131には、代表デバイス132のような1またはそれ以上のデバイスを設けることができる。例えば、デバイス132は、組織部位106から除去される滲出液またはその他の流体を保持する流体貯留容器または収集部材とすることができる。減圧管路130の中間部分131に含まれるか、あるいは減圧管路130に流体結合されるデバイス132のその他の例には、非限定的な例として、圧力フィードバックデバイス、容量検出システム、血液検出システム、感染検出システム、フロー監視システムまたは温度監視システムが含まれる。これらデバイスの幾つかは、減圧源102に一体的に形成されるものであってもよい。例えば、減圧源102の減圧ポートは、1またはそれ以上のフィルタ、例えば、臭気フィルタを含むフィルタ部材を含むものであってもよい。複数のデバイス132を設けることも可能である。
【0020】
減圧源102は、真空ポンプ、壁面吸い込みまたはその他の源のような減圧を供給する任意のデバイスとすることができる。組織部位106に加えられる減圧の量と性質は、一般に用途に応じて変わるものとなるが、一般的には、減圧は、−5mmHgと−500mmHgとの間、より一般的には、−100mmHgと−300mmHgとの間になるであろう。
【0021】
第1バリア層112は、非固体化材料(desolidifying material)から形成される。この“非固体化材料”は、液体のような流体の存在下で非固体化することができる材料を意味する。非固体化(Desolidification)は、非固体化材料が非固体化した場合に、流体流通が生じるのを可能にする。この明細書において、非固体化には、溶解、分解、分離、流体透過性の増加、固体から液体、またはゲルあるいは気体を含むその他の状態への転移が含まれる。ある実施形態では、液体の存在下で、非固体化材料が除去または溶解され、その他の実施形態では、非固体化材料が部分的に残留するが、流体流通を可能にする。
【0022】
第1バリア層112は、組織部位106の輪郭に合わせることができるとともに、流体、典型的には液体の存在下で、非固体化することができるフレキシブル層とすることができる。第1バリア層112を形成することができる材料の非限定的な例には、直鎖状ポリマおよび様々な水溶性フィルム、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、セルロース誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、ポリビニルピロリドン、またはアクリル樹脂、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ヒドロキシルおよびカルボキシル置換ポリマ、およびアクリルおよびポリウレタンの共重合体およびそれらの塩が含まれる。また、第1バリア層112は、当該第1バリア層112を非固体化するために、生物学的吸収に依存する生体吸収性材料を使用して、形成することもできる。そのような生体吸収性材料は、創傷107の治癒を促進する特定の生物学的グループを含む、組織部位106に存在する生物学的物質の存在下で非固体化する。
【0023】
別の例示的で非限定的な実施形態によれば、実施中、図1Aに示すように、第1バリア層112が組織部位106に隣接または当接して患者の傷の無い表皮138の一部に隣接するように、ドレッシング104が患者108の組織部位106に付けられる。ドレッシング104が患者108の組織部位106に付けられたとき、第1バリア層112が、液体を含む流体の存在下に置かれるか、または流体と接触する。この流体の供給源は、後でより詳細に説明する。流体は、図1Bおよび図1Cに示すように、第1バリア層112の第1部分133を非固体化して、第1バリア層112に治療開口部134を形成する。第1バリア層112は、流体に曝されたときに、溶解によって少なくとも部分的に非固体化することができる。治療開口部134は、マニホールド110と組織部位106との間に流体流通が提供されるように、マニホールド110を組織部位106に露出させる。このように、治療開口部134を介して減圧源102からの減圧を組織部位106に加えることができる。
【0024】
第1バリア層112の第2部分136または無傷の部分は、組織部位106に減圧が加えられるときに、失われることはなく、非固体化することはない。第2部分136は、患者108の表皮138からマニホールド110を分離して、マニホールド110により引き起こされる患者の表皮138の炎症を防止または低減することができる。第1バリア層112は、矢印140の方向の創傷107に向かう健康な皮膚の内側への移動を促進する平滑な内向きの面135を有することができる。このため、第1バリア層112は、創傷107の上皮形成を促進する。また、第1バリア層112は、当該第1バリア層112の第2部分136に接触する患者の表皮138の一部の浸軟の防止を補助する水蒸気透過率(MVTR)を有するものであってもよい。例示的な実施形態によれば、ドレッシング104、特にマニホールド110および第1バリア層112は、それら構成要素が望ましくない浸軟または炎症を生じることなく患者の表皮138のような創傷107の周囲の組織を覆うことから、創傷107に合うように切断する必要がなくなる。
【0025】
第1バリア層112の少なくとも一部の非固体化を引き起こす流体は、様々な供給源のうちの何れかからもたらされるものであってもよい。例えば、減圧が創傷107に加えられるときに、創傷107からの滲出液は、矢印142で示すように、第1バリア層112に引き込まれるようにしてもよい。その後、滲出液は、第1バリア層112の第1部分133を非固体化することができ、第1部分と接触して治療開口部134を形成する。別の例示的で非限定的な実施形態では、組織部位106にドレッシング104を付ける前に、ゲル(図示省略)を組織部位106または創傷107に塗布するようにしてもよい。その後、ゲル(水性ゲルであってもよい)は、当該ゲルが接触する第1バリア層112の第1部分133を非固体化する機能を果たすことができる。さらに別の例示的で非限定的な実施形態では、減圧管路130を介して流体を供給する流体源(図示省略)により、ドレッシング104、特に第1バリア層112に流体が提供されるものであってもよい。一実施形態では、デバイス132が流体源として機能する。
【0026】
ドレッシング104は、乾燥した組織部位と濡れた組織部位の両方に使用することができる。第1バリア層112が比較的乾燥した組織部位上で使用される実施例では、より少量の流体の存在下で非固体化する材料から第1バリア層112を形成することができる。代替的には、水性ゲルを含むゲルまたはコロイドを、ドレッシング104を付ける前に、比較的乾燥した組織部位に塗布するようにしてもよい。この予め塗布したゲルが、第1バリア層112を非固体化させることとなる。これとは対照的に、組織部位106が比較的湿っている場合には、より大量の流体に反応して非固体化する材料から第1バリア層112を形成することができる。
【0027】
別の例示的で非限定的な実施形態では、第1バリア層112が、流体の存在下に置かれたときに、先ずゲルに変換した後に、液体に非固体化する。固体の第1バリア層112と液化された第1バリア層との間の転移期間中に形成されるゲルは、創傷107に放出される治療薬を含むものであってもよい。このゲルから放出される治療薬の例には、イオン基、抗菌剤、抗炎症因子および成長因子が含まれる。創傷107または表皮138の健康状態に有益で、上皮形成を促進するその他の治癒因子も、ゲルに含ませるようにしてもよい。第1バリア層112が液体に非固体化したときに、減圧源102により供給される減圧を使用して、その液体を、マニホールド110を介してドレッシング104の外部に引き出すようにしてもよい。
【0028】
その他の例示的で非限定的な実施形態では、密閉空間118に追加的な層を加えるようにしてもよい。例えば、減圧治療を促進する、吸収剤層、別のマニホールド層、別のバリア層またはその他の層または構成要素をドレッシング104に組み入れて、密閉空間118内に配置するようにしてもよい。
【0029】
ここで主に図2、別の例示的で非限定的な実施形態を参照すると、マニホールド110が、2つの面144および146を含み、それら面が、第1バリア層112および第2バリア層148にそれぞれ覆われている。第1バリア層112および第2バリア層148は、同じ材料または異なる材料から形成することができる。同じ材料または類似材料から第1および第2バリア層112,148が形成される実施例では、第1バリア層112または第2バリア層148が組織部位、例えば図1の組織部位106に隣接して設置されているかどうかについて、介護士が注意を払う必要が殆どまたは全く無くなる可能性がある。しかしながら、第1および第2バリア層112,148が異なる実施例では、各バリア層112,148の特性に基づいて、第1バリア層112または第2バリア層148のどちらを組織部位106に接触させて配置するのかを介護士が選択することができる。第1および第2バリア層112,148は、異なるタイプの創傷または疾患を治療するのに適した異なる特性を各々が有することができる。例えば、第1バリア層112を、第2バリア層148よりも非固体化に必要とされる流体が少ない材料から形成するようにしてもよい。この実施例では、第2バリア層148が使用される創傷よりも比較的乾燥した創傷に、第1バリア層112を使用することができる。
【0030】
第1および第2バリア層112,148は、その他の点で異なるようにしてもよい。例えば、第1および第2バリア層112,148は、異なる組織または創傷タイプに適した異なる治療薬を各々が含むようにしてもよい。第1および第2バリア層112,148は、異なる水蒸気透過率、硬さ、平滑さ、厚さまたはその他の特性を各々が有するようにしてもよい。別の例示的で非限定的な実施形態では、第1および第2バリア層112,148の一方または両方が、自己分解作用により組織部位においてデブリドマン(debridement)を促進するデブリドマン材料から部分的または全体的に形成されるものであってもよい。また、第1および第2バリア層112,148の一方または両方が、痂皮および壊死組織のような組織を分解するデブリドマン物質(例えば、酵素)を放出できるものであってもよい。別の例示的で非限定的な実施形態では、マニホールド110の各側部150,152もバリア層によって覆われるようにしてもよい。
【0031】
ここで主に図3を参照すると、穿孔156を有する第1バリア層154がマニホールド110の第1の面144を覆っている。第1バリア層154の穿孔156は、それに付随するドレッシングが組織部位に付けられたときに、マニホールド110と組織部位との間の即時の流体流通を提供する。このため、第1バリア層154が非固体化する前に、穿孔156を介して組織部位に減圧を加えることができる。穿孔156は、サイズが均一でも不均一でもよく、また、如何なる形状であってもよい。穿孔156は、第1バリア層154が非固体化するときに、それに巻き込まれるか、または単に消滅する。
【0032】
別の例示的で非限定的な実施形態では、第2バリア層148も複数の穿孔(図示省略)を含むようにしてもよい。この実施形態では、第1および第2バリア層154,148の各々の穿孔によって占められる、それらバリア層154,148の各々の全表面積の割合が異なるものであってもよい。例えば、第1バリア層154は、第2バリア層148よりも穿孔156の密度が高くなるようにしてもよい。第1バリア層154の穿孔156は、第2バリア層148の穿孔よりも大きくても、小さくてもよい。
【0033】
また、第1および第2バリア層154,148の各々の穿孔は、それらバリア層が非固体化する前または非固体化する間に、それらバリア層の各々に異なる流体流量を与えるものであってもよい。この実施例では、第1バリア層154の穿孔156が、所与の流体および減圧について、第1バリア層154を横断する流量Xを与える一方で、第2バリア層148の穿孔が、同じ流体および減圧について、第2バリア層148を横断する流量Yを与える。流量Yは、Xと同じか、またはそれよりも大きくすることができる。第1および第2バリア層154,148の間で流量が異なることにより、それらバリア層の各々を特定タイプの創傷に使用することができる。第2バリア層148の流量Yが第1バリア層154の流量Xよりも大きい実施例では、第2バリア層148が、より乾燥した創傷に隣接して配置させるのに適している場合がある。マニホールド110の異なる側に異なるバリア層を含む上述したそれら実施形態により、介護士は、単一のドレッシングで二つの治療シナリオを提供することが可能になる。
【0034】
特定の例示的で非限定的な実施形態との関連で本発明とその利点を開示してきたが、添付の請求項によって定義されるように、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更、置き換え、置換および修正をなし得ることに留意されたい。当然のことながら、何れかの実施形態との関係で示した任意の特徴は、任意のその他の実施形態にも適用可能である。

【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の組織部位に減圧治療を提供するシステムであって、
減圧を供給する減圧源と、
第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドであって、減圧を伝えるように機能するマニホールドと、
前記マニホールドの第1の内向きの面の少なくとも一部を覆う第1バリア層であって、前記組織部位に隣接して配置されるとともに、非固体化する材料(desolidifying material)から形成される第1バリア層と、
前記マニホールドの第2の面および患者の表皮の一部を覆って、前記マニホールドおよび前記第1バリア層を収容する実質的に密閉された空間を提供するドレープとを備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記ドレープが開口部を含み、当該システムがさらに、
減圧を伝達する減圧管路と、
前記開口部に配置されて、前記減圧管路と前記マニホールドとの間に流体流通を提供する減圧コネクタとを備えることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記マニホールドの第2の面を覆う第2バリア層をさらに備え、この第2バリア層が、流体の存在下で非固体化して前記マニホールドを露出させるように機能することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記マニホールドの第2の面を覆う第2バリア層であって、流体の存在下で非固体化して前記マニホールドを前記組織部位に曝すように機能し得る第2バリア層をさらに備え、この第2バリア層が、流体の存在下にあるときに、前記第1バリア層よりも速い速度で非固体化することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が、前記マニホールドの各面を覆うことを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層を横断する流体流通を提供する複数の穿孔が、前記第1バリア層に形成されていることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第1の穿孔を備え、
当該システムがさらに、
前記マニホールドの第2の面上に第2バリア層を備え、この第2バリア層が、当該第2バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第2の穿孔を備えることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第1の穿孔を備え、
当該システムがさらに、
前記マニホールドの第2の面上に第2バリア層を備え、この第2バリア層が、当該第2バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第2の穿孔を備え、前記第2バリア層が、前記第1バリア層よりも高い穿孔の密度を有することを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流量(X)を提供する複数の第1の穿孔を備え、
当該システムがさらに、
前記マニホールドの第2の面上に第2バリア層を備え、この第2バリア層が、当該第2バリア層を横断する流量(Y)を提供する複数の第2の穿孔を備え、YがXよりも大きいことを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が、流体と接触したときに、液体へと非固体化するように機能することを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が治療薬を含み、前記第1バリア層が非固体化するときに、前記治療薬が前記組織部位で放出されることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1バリア層が、非固体化して治療開口部を形成するように機能し、前記治療開口部が、前記マニホールドと前記組織部位との間の流体流通を提供することを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記非固体化する材料が、液体の存在下で溶解することを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記非固体化する材料が、水溶性であることを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記非固体化する材料が、液体の存在下で分解することを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記非固体化する材料が、液体の存在下で実質的に流体透過性になることを特徴とするシステム。
【請求項17】
患者の組織部位に減圧治療を提供する器具において、
第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドであって、減圧を伝えるように機能するマニホールドと、
前記マニホールドの第1の内向きの面の少なくとも一部を覆う第1バリア層であって、非固体化する材料から形成される第1バリア層とを備えることを特徴とする器具。
【請求項18】
請求項17に記載の器具において、
前記マニホールドの第2の面を覆う第2バリア層をさらに備え、この第2バリア層が、流体の存在下で非固体化して前記マニホールドを組織部位に曝すように機能し得ることを特徴とする器具。
【請求項19】
請求項17に記載の器具において、
前記マニホールドの第2の面を覆う第2バリア層であって、流体の存在下で非固体化して前記マニホールドを前記組織部位に曝すように機能し得る第2バリア層をさらに備え、この第2バリア層が、流体の存在下にあるときに、前記第1バリア層よりも速い速度で非固体化することを特徴とする器具。
【請求項20】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、前記マニホールドの各面を覆うことを特徴とする器具。
【請求項21】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流体流通を提供する複数の穿孔を備えることを特徴とする器具。
【請求項22】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第1の穿孔を備え、
当該器具がさらに、
前記マニホールドの第2の面上に第2バリア層を備え、この第2バリア層が、当該第2バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第2の穿孔を備えることを特徴とする器具。
【請求項23】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第1の穿孔を備え、
当該器具がさらに、
前記マニホールドの第2の面上に第2バリア層を備え、この第2バリア層が、当該第2バリア層を横断する流体流通を提供する複数の第2の穿孔を備え、前記第2バリア層が、前記第1バリア層よりも高い穿孔の密度を有することを特徴とする器具。
【請求項24】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、当該第1バリア層を横断する流量(X)を提供する複数の第1の穿孔を備え、
当該器具がさらに、
前記マニホールドの第2の面上に第2バリア層を備え、この第2バリア層が、当該第2バリア層を横断する流量(Y)を提供する複数の第2の穿孔を備え、YがXよりも大きいことを特徴とする器具。
【請求項25】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、流体と接触したときに、液体へと非固体化するように機能することを特徴とする器具。
【請求項26】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が治療薬を含み、前記第1バリア層が非固体化するときに、前記治療薬が放出されることを特徴とする器具。
【請求項27】
請求項17に記載の器具において、
前記第1バリア層が、非固体化して治療開口部を形成するように機能し、前記治療開口部が、前記マニホールドと前記組織部位との間の流体流通を提供することを特徴とする器具。
【請求項28】
患者の組織部位に減圧治療を提供する方法において、
第1の内向きの面および第2の面を有し、減圧を伝えるように機能するマニホールドと、前記マニホールドの第1の内向きの面の少なくとも一部を覆う第1バリア層であって、非固体化する材料から形成される第1バリア層とを備えるドレッシングを、前記組織部位に付けるステップと、
前記組織部位における流体が前記第1バリア層の少なくとも一部を非固体化して治療開口部を形成することを許容するステップと、
前記治療開口部を介して前記組織部位に減圧を加えるステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、
前記ドレッシングを前記組織部位に付けるステップが、前記第1バリア層で創傷およびその周囲の表皮を覆うステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項28に記載の方法において、
前記ドレッシングを前記組織部位に付ける前に、前記組織部位にゲルを塗布するステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項28に記載の方法において、
前記組織部位に減圧を加えるステップが、前記マニホールドを介して、前記第1バリア層材料の非固体化された部分を前記ドレッシングの外部に引き出すステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法において、
前記組織部位が創傷を含み、前記組織部位における流体が、前記創傷からの滲出液であることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項28に記載の方法において、
前記第1バリア層が治療薬を含み、当該方法が、前記第1バリア層から前記治療薬を放出するステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項28に記載の方法において、
流体源から前記ドレッシングに流体を加えて、前記第1バリア層の非固体化を促進させるステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項28に記載の方法において、
前記ドレッシングを前記組織部位に付けるステップが、前記マニホールドおよび前記第1バリア層をドレープで覆って、前記マニホールドおよび前記第1バリア層を包含する実質的に密閉された空間を提供するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項28に記載の方法において、
前記ドレッシングが組織部位に設置されるときに、前記マニホールドと前記組織部位との間に前記第1バリア層が配置されることを特徴とする方法。
【請求項37】
患者の組織部位に減圧治療を提供するための器具を製造する方法であって、
第1の内向きの面および第2の面を有するマニホールドを提供するステップと、
非固体化する材料から形成される第1バリア層を提供するステップと、
前記第1バリア層を前記マニホールドの第1の内向きの面に結合させるステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項37に記載の方法において、
流体の存在化で非固体化するように機能する第2バリア層を提供するステップと、
前記マニホールドの第2の面に前記第2バリア層を結合させるステップとをさらに備えることを特徴とする方法。


【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533340(P2012−533340A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520653(P2012−520653)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/040218
【国際公開番号】WO2011/008497
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(508268713)ケーシーアイ ライセンシング インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】