説明

バルデナフィル塩酸塩三水和物を含む薬剤

【課題】バルデナフィル塩酸塩の欠点である少量の水を取り込み、多形体や水和物の混合物として存在するため、純粋形で製造したり単離することができず、バイオアベイラビリティー(AUC)、最大血漿濃度(Cmax)および最大血漿濃度の出現時間(AUCmax)において吸収が減少する可能性があり、効果が不適当であったり、全く効果がないという問題点を解決するバルデナフィル塩酸塩を用いた固体薬剤およびその製造方法の提供。
【解決手段】任意の水含量のバルデナフィル塩酸塩を、中間の処理過程で、または最終生成物において、またはコーティング錠を三水和物が十分に形成されるまで湿ったガスと接触させる固体形のバルデナフィル塩酸塩を含む薬剤の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルデナフィル(vardenafil)塩酸塩を、実質的に固体形の三水和物として含む薬剤、およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性薬剤成分バルデナフィル(IUPAC名:2−エトキシ−5−[(4−エチル−1−ピペラジニル)スルホニル]フェニル}−5−メチル−7−プロピルイミダゾ[5,1−f][1,2,4]トリアジン−4(3H)−オン)、バルデナフィル塩酸塩およびバルデナフィル塩酸塩三水和物ならびに勃起不全の処置のためのそれらの使用は、WO99/24433の実施例19、20および336に記載されている。
【0003】
バルデナフィル塩酸塩が4つの異なる多形体(融点217℃の無水形態(modification)I、融点190℃の形態II、融点183−186℃の形態III、転移点166℃の形態IV)で存在し、これらの多形体のいずれも室温で優先的に形成されるものではないことが判明している。加えて、個々の多形体は周囲の湿度と温度に依存して、異なる量の水を取り込むことが可能であり、水と共に、偽多形(pseudopolymorphic)体と呼ばれる、さらなる多形体を形成する。
【0004】
1つの物質の異なる多形体は、その溶解挙動がしばしば異なるため、これらの差は、例えば、バイオアベイラビリティー(AUC)、最大血漿濃度(Cmax)および最大血漿濃度の出現時間(AUCmax)において現れ得る。吸収が減少する可能性もあり、効果が不適当であったり、全く効果がなくなることがある。
【0005】
したがって、一方で、固体薬剤が活性成分バルデナフィル塩酸塩を、明確で、再現性のある形で含まなければならないという問題がある。しかし、他方で、バルデナフィルHClの多形体は、それらが各々少量の水を取り込み、したがって多形体や水和物の混合物として存在するため、純粋形で製造したり単離することができない。
【0006】
これらの理由のため、バルデナフィル塩酸塩は活性成分が固体形で存在すべきである薬剤の成分としては不適当である。
【0007】
バルデナフィル塩酸塩の三水和物の形で使用する際、製造中または製造後に加湿すると、均一で再現性のある形で固体薬剤を得ることが可能であることが判明した。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、したがって、
a)任意の結晶水含量のバルデナフィル塩酸塩を薬剤の製造に用いる、
b)バルデナフィル塩酸塩を、中間の処理過程で、または最終生成物において三水和物の形に変換する、および
c)適当な場合、次に続く処理段階の処理条件を制御して、バルデナフィル塩酸塩三水和物の結晶水含量の変化を無視できるものとする
ことを特徴とする、固体形のバルデナフィル塩酸塩三水和物を含む薬剤の製造法に関する。
【0009】
バルデナフィル塩酸塩は、この製法において任意の水含量で、すなわち、三水和物として、または、結晶水の含量が実質的に9.3重量%とは異なる形で用いることができる。
【0010】
バルデナフィル塩酸塩を、次の処理段階の一つで、または最終生成物で三水和物形に変換し、適当な場合、次に続く処理段階の処理条件を、バルデナフィル塩酸塩三水和物の結晶水の含量が変わらないように制御する。
【0011】
三水和物形への変換は、本発明に従い、中間の処理過程または最終生成物を、適当なシステム中で、バルデナフィル塩酸塩の三水和物が実質的に形成されるまで湿ったガスと接触させることにより行う。
【0012】
湿ったガスは、特に、相対湿度35%から100%、特に好ましくは50%から99%の空気である。適当なシステムは、湿ったガスを導入または提供して医薬形とできるだけ均質に接触させることができるか、その中で医薬形を記載の条件下でインキュベートできるすべてのシステムまたはチャンバーである。湿ったガスが上をまたは中を通過する時間またはシステム中に医薬形が滞在する時間およびガスの相対湿度は、医薬形の初期水分含量と湿ったガス対医薬形の量の比率に依存する。数分から数日まで変化し得、0.5−12時間でほとんどの場合十分である。包装された医薬形の場合、一般に1日から6ヶ月の時間が十分である。
【0013】
固体薬剤は、粉末、顆粒、錠剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、急速溶解フレークまたは硬ゼラチンカプセルのような、固体形のバルデナフィル塩酸塩三水和物を含む、すべての医薬形である。
【0014】
本発明の目的のための固体薬剤は、好ましくは錠剤、特にコーティング錠である。なぜなら、慣用法により、バルデナフィル塩酸塩三水和物を、錠剤とする過程において、特に錠剤のコーティングの間に、三水和物が顕著な程度に一部または完全に再び脱水し、活性成分が再び不均質な、複数の多形体および偽多形体で存在することとなるからである。
【0015】
室温でただ一つの結晶形態として存在するバルデナフィル塩酸塩三水和物(バルデナフィル塩酸塩三水和物の水含量は9.3重量%である)の他に、本発明の薬剤製品は当業者が既知のさらなる薬学的賦形剤を含む。
【0016】
本発明の錠剤は、バルデナフィル塩酸塩三水和物に加えて、好ましくは増量剤、崩壊剤および滑剤を、そして適当な場合、さらなる賦形剤を含む。本発明の錠剤は、好ましくは0.1−70重量%のバルデナフィル塩酸塩三水和物、0.1−10重量%の崩壊剤、0.1−2重量%の滑剤、そして適当な場合さらなる添加物、および増量剤を残りの成分として含む。
【0017】
錠剤は、好ましくは増量剤として微結晶性セルロースを、好ましくは崩壊剤としてクロスポビドンを、好ましくは滑剤としてステアリン酸マグネシウムを含む。
【0018】
適当な場合、錠剤に添加し得るさらなる添加剤は、例として、好ましくは、コロイド状二酸化ケイ素のようなフロー・レギュレーターである。
【0019】
バルデナフィル塩酸塩を再現可能に三水和物形態で含む、直ぐに投与できる形のコーティング錠もまた特に好ましい。
【0020】
コーティング錠は、欧州薬局方、1997年、第3版、1852頁において、明白に次のように定義されている:“コーティング錠は、天然または合成樹脂、ガム、ゼラチン、不活性かつ不溶性増量剤、糖、可塑剤、ポリオール、ワックス、関係当局により認可された着色物質、および、ある場合、香味物質や活性物質のような種々の物質の混合物の1個またはそれ以上の層で覆われた錠剤である。コーティングに使用する物質は通常、溶媒または分散剤の蒸発が起こる条件下で溶液または懸濁液として適用する。コーティングが非常に薄いポリマーコーティングである場合、錠剤はフィルムコーティング錠として知られている。”
【0021】
欧州薬局方、第3版、1997年に錠剤の定義についてさらに参照のこと。
【0022】
処理中の目的が、溶媒または分散媒の乾燥とコーティング物質からフィルムを形成することであるため、慣用法でのバルデナフィル塩酸塩三水和物を含むコーティング錠の製造において、活性成分から結晶水が特に高い程度で損失する。
【0023】
本発明の好ましい態様は、したがって、バルデナフィル塩酸塩を再現性のある三水和物の形で含み、また直ぐに投与できる形である、コーティングバルデナフィル塩酸塩三水和物錠を製造する方法である。
【0024】
この好ましい方法において、コーティングバルデナフィルHCl錠は、再水和法に付される。これにより、驚くべきことに、バルデナフィル塩酸塩がどのような多形体または混合物として最初にコーティング錠中に存在していても、すべての例で唯一のそして同じバルデナフィルHClの三水和物が形成される。
【0025】
本発明の別の態様は、したがって、任意の一種類のまたは複数の((水和物)形態のバルデナフィル塩酸塩を含む、慣用法で製造されたコーティング錠を、再水和処理に付すことを特徴とする、バルデナフィル塩酸塩三水和物を含むコーティング錠の製造法である。
【0026】
再水和法は、好ましくは、コーティング錠を、医薬形中でバルデナフィルHClの三水和物が形成されるまで、適当なシステム中で湿ったガスに接触させるような方法で行う。
【0027】
再水和処理を行う適当なシステムは、例えば、好ましくは、制御環境キャビネット、制御環境室、流動床造粒機、コーティング装置またはドラムである。
【0028】
湿ったガスは、例えば、好ましくは、相対湿度35%から100%、特に好ましくは50%から99%の空気である。
【0029】
再水和段階中、コーティング錠をシステム中で、例えば、制御環境キャビネットのトレイ上または流動床造粒機の床上に静止し得、または、そうでなければ、例えば、ドラムまたはコーティングシステム中で、良く混合するために、連続して、または、時々、撹拌し得る。コーティング錠が水蒸気を透過するパックに包装された後に、再水和処理を行うことも可能である。この目的のために、包装されたコーティング錠を制御環境室中でインキュベートする。
【0030】
再水和が終わる時間はコーティング錠の初期水含量、湿ったガスの相対湿度、湿潤ガス対コーティング錠の量の比率に依存する。数分から数日まで変化し得、ほとんどの場合0.5−12時間の再水和時間が十分である。水蒸気を透過するパック中の再水和の場合、再水和時間は、包装材料の水蒸気の透過性にさらに依存する。薬学的に慣用のブリスターパックの場合、1日から6ヶ月の期間が一般に十分である。
【0031】
再水和を中間の処理過程で行う場合、その後の処理条件を、バルデナフィル塩酸塩三水和物の結晶水の含量が変化しないように制御する。この目的のために、その後の処理段階を、30−100%、好ましくは35−99%の相対湿度の空気と接触させて行う。
【0032】
本発明の方法により、驚くべきことに、不明確なバルデナフィル塩酸塩形態混合物を、最終コーティング錠のち密な構造中でさえ、三水和物形に完全に変換することが可能である。さらに、例えば、粉砕、コーティング層の亀裂または活性成分の放出速度の低下のような、コーティング錠の品質に対する望ましくない副次的影響もない。
【0033】
本発明の方法により製造した錠剤は、慣用法でバルデナフィル塩酸塩三水和物を用いて製造したコーティング錠よりも多くの利点を有することが判明した。
【0034】
本発明は、したがって、また、本発明の方法で製造した錠剤に関する。
【0035】
本発明の錠剤または本発明の方法で製造した錠剤の利点は、薬剤中の活性成分の結晶構造が明確に定義され、再現性があり、広範囲にわたる相対湿度で安定であり、対応するコーティング錠がより速い崩壊を示し、今日までの先行文献(David J.W. Grant, T. Higuchi, Techniques of Chemistry, Volume XXI, pages 38, 42 and 43)からの予測と逆に、本発明の錠剤または本発明の方法で製造した錠剤からの活性成分の溶解速度が定常的に速いことである。
【0036】
本発明の錠剤または本発明の方法で製造した錠剤は、ラマンスペクトル(バルデナフィル塩酸塩三水和物のFTラマンスペクトルは、1701cm−1に著しいピークを示す。低い水分含量の多形体や偽多形体およびそれらの混合物は、対照的に1692cm−1にバンドを示す)、IRスペクトル、NIRスペクトル、FIRスペクトル、13C固体NMRスペクトルおよびX線ディフラクトグラムによる結晶構造に基づいて、明確に定義できる(添付の図2、4−8および表3−8参照)。
【0037】
バルデナフィル塩酸塩およびバルデナフィル塩酸塩三水和物の製造に関して、WO99/24433、特に実施例20および336の記載を明確な引用として本明細書に記載する。
【0038】
薬剤中のバルデナフィル塩酸塩は、好ましくは少なくとも90mol%、特に好ましくは少なくとも95mol%が三水和物形である。
【0039】
本発明の薬剤および本発明の方法で製造した薬剤、特に、本発明の錠剤または本発明の方法で製造した錠剤は、ヒトおよび/または動物における疾患の処置および/または予防、特に性的機能不全の処置、さらに特には勃起不全の処置に適している。
【0040】
本発明の薬剤はいくつかの予測されない利点を示す:
1. 薬剤は、バルデナフィル塩酸塩を一つのみの結晶形態で含む。医薬はしたがって再現性を有して製造でき、バルデナフィルを再現性があり、均一な速度で放出する。
2. 本発明の薬剤からの活性成分の放出速度が、無溶媒活性成分を含む薬剤からのものに匹敵する。溶媒含有(この場合水含有)結晶から同じ溶媒(この場合水)への放出速度は、通常無溶媒結晶よりも遅い。
3. 薬剤、特にコーティング錠の崩壊速度はより短い。薬剤は従って作用の急速な発生が望まれる疾患の処置、例えば、勃起不全の処置に特に適している。
4. 無溶媒バルデナフィル塩酸塩を含む非常に吸湿性の薬剤と対照的に、本発明の薬剤は長期間の貯蔵に安定であり、組成、特に水含量がほとんど変化しない。
【0041】
本発明の薬剤は種々の方法で投与できる。例えば、経口、舌下、バッカル、経鼻、吸入、皮下または局所である。経口投与が好ましい。
【0042】
一般的に、有効な結果を達成するために約0.001から10mg/体重kg、経口投与では好ましくは約0.005から3mg/体重kgの量を投与することが有利であることが証明されている。
【0043】
それにも関わらず、適当な場合、特に、体重、投与経路の性質、薬剤に対する個々の応答、製剤の性質、投与を行う時間または間隔の関数として、上記の量から逸脱することが必要である可能性がある。したがって、ある場合には上記の最少濃度より少ない量で十分であり、他の場合には上記記載の上限を超える可能性もある。多い量を投与する場合、この量を一日複数回の単一量に分割することが望ましいであろう。
【0044】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例
比較実施例1および実施例2:ドラム造粒およびコーティングの慣用の製造法由来の錠剤と、本発明の錠剤の改善された崩壊
216gの微細(microfine)バルデナフィルHClを、605gの微結晶性セルロースおよび43.2gのクロスポビドンと混合する。2101gの微結晶性セルロースおよび132gのクロスポビドンを添加して混合し、続いて350gの微結晶性セルロース、17.5gのコロイド状二酸化ケイ素、35gのステアリン酸マグネシウムと混合する。混合物を、ロータリープレスで直径6mmかつ質量87mgの錠剤に圧縮する(5mgのバルデナフィル塩基に相当)。コーティング装置において、錠剤あたり、4.5%ヒプロメロース(hypromellose)、1.5%マクロゴール400、1.23%二酸化チタン、0.25%黄色酸化鉄および0.02%赤色酸化鉄を含む43.5mgのコーティング懸濁液を噴霧する。
【0046】
比較実施例1
バルデナフィル塩酸塩は、錠剤中、部分的に三水和物としておよび無水和物として存在する(1〜4の形態)。錠剤の崩壊時間は2分である。
【0047】
実施例2
錠剤を、流動床造粒機中、30℃、19g/kg水含量(70%相対湿度に相当)の150m3/hの流入空気で4時間再水和する。その結果、錠剤中のバルデナフィルHClの形態は、本発明に従い三水和物に対応する。錠剤は、わずか1/2分の崩壊時間を有するものとなる。
【0048】
実施例3:本発明に従い製造した錠剤の安定性
28.4kgの微粉化バルデナフィルHCl三水和物を、69.6kgの微結晶性セルロースおよび5.16kgの篩分けクロスポビドンと、メカニカルミキサー中で混合する。混合物を182kgの微結晶性セルロースおよび9.84kgのクロスポビドンとコンテナミキサー中で混合し、乾式ドラム造粒により造粒する。1.50kgのコロイド状二酸化ケイ素および3.00kgのステアリン酸マグネシウムの添加後、質量125mgかつ直径7mmの錠剤を、ロータリー錠剤プレスで製造する。非コーティング錠を、5.74kgのヒプロメロース、1.91kgのマクロゴール400、1.57kgの二酸化チタン、319gの黄色酸化鉄、25.5gの赤色酸化鉄および118kgの精製水の懸濁液で、市販のコーティングシステム中でコーティングする。コーティング錠中のバルデナフィルHClの形態は三水和物に対応せず、その結果バルデナフィルHClの無水形および水和形の不明確な混合物に相当する。コーティング錠を16gの水/kgの水を含む(80%相対湿度に対応)空気で、コーティングシステム中、25℃で5時間処理する。再水和錠剤中のバルデナフィルHClの形態は、三水和物に対応する。
【0049】
安定性試験:バルデナフィルHCl三水和物の錠剤を、25℃で30%相対湿度の開放空間に1週間貯蔵する。低い湿度にもかかわらず、この間に結晶水の損失は起こらず、バルデナフィルHCl活性成分は三水和物形に対応する。
【0050】
実施例4:本発明に従い製造した錠剤からの活性成分の放出
336gのバルデナフィルHClを2216gの微結晶性セルロースおよび134gのクロスポビドンと混合し、乾式造粒する。顆粒を移し、283gの微結晶性セルロース、16gのクロスポビドンおよび15gのステアリン酸マグネシウムと混合し、直径5mmかつ質量48mgの錠剤に圧縮する(錠剤あたり5mgのバルデナフィル塩基に対応)。錠剤に57.4gのヒプロメロース、19.1gのマクロゴール4000および19.1gの二酸化チタンの白色コーティングを施し、25℃で80%相対湿度の開放空間に4日間貯蔵する。錠剤中のバルデナフィルHClの形態は、三水和物形に対応する。
【0051】
表1の放出データに示すように、この方法で製造した本発明の錠剤は、最終錠剤中のバルデナフィルHClの三水和物形の完全な回復にもかかわらず、活性成分の非常に急速な放出を示す。
【表1】

放出条件:n=6、USPパドル、900ml 0.1−M−HCl、75rpm、10μmフィルター
【0052】
実施例5:本発明の錠剤の相対的バイオアベイラビリティーの小さい変動
0.645kgのバルデナフィルHClを2.42kgの微結晶性セルロースおよび161gのクロスポビドンと混合し、ふるいにかけ、ドラムで乾式造粒する。顆粒を次いで0.339kgの微結晶性セルロース、18.8gのクロスポビドンおよび18gのステアリン酸マグネシウムと混合し、直径7mmかつ質量120mgの円形錠剤に圧縮する(20mgのバルデナフィル塩基に相当)。錠剤を0.765mgのマクロゴール4000、2.295mgのヒプロメロースおよび0.765mgの二酸化チタンでコーティングする(いずれの場合も錠剤あたりの量)。16−24℃で60−75%相対湿度の制御環境室に72時間プレートにのせてさらすことにより、得られた錠剤中に三水和物形のバルデナフィルHClが生成する。
【0053】
比較目的で、21.49mgのバルデナフィルHCl(20mgのバルデナフィル塩基に相当)、38.69mgのパラヒドロキシ安息香酸メチル、4.298mgのパラヒドロキシ安息香酸プロピル、6448mgのスクロース、17419mgの水および乳酸(pH3.9に調節)からなる溶液を調製する。錠剤および溶液投与後の薬物動態を、12名男性対象における無作為、開放クロスオーバー試験で比較した(表2)。
【表2】

【0054】
結果は、本発明の錠剤が、水溶液と比較して、93%の相対的バイオアベイラビリティーを有することを示す。バイオアベイラビリティーと最大血漿濃度の幾何学的標準偏差が水溶液の投与後よりも小さいので、錠剤中の固体形バルデナフィルHClの可変性の多形体または偽多形体がもたらす変動を除外することが可能である。
【0055】
実施例6
0.871kgのバルデナフィルHCl三水和物、2.13kgの微結晶性セルロースおよび0.158kgの篩分けクロスポビドンを、鍬刃ミキサー(plowshare mixer)中で激しく混合する。この混合物を3.08kgの微結晶性セルロースおよび0.167kgのクロスポビドンと混合し、ドラム造粒し、次いで0.0325kgのコロイド状二酸化ケイ素および0.0650kgのステアリン酸マグネシウムと混合する。
【0056】
混合物をロータリープレスで錠剤にして直径8mmかつ質量177mgの錠剤(20mgのバルデナフィル塩基に相当)を得、4.5%ヒプロメロース、1.5%マクロゴール400、1.23%二酸化チタン、0.25%黄色酸化鉄および0.02%赤色酸化鉄を含む2.76kgの水性コーティング懸濁液で、コーティングパン中でコーティングする。錠剤中のバルデナフィルHClの形態は、三水和物形に対応しない(図1a)。
【0057】
上記コーティング錠をGlatt GPCG 1/3タイプ流動床造粒機に入れ、25℃、16g/kg湿度(相対湿度80%に対応)の150m3/h流入空気で4時間処理することにより再水和を行う。この方法で処理したバルデナフィルHClの形態は三水和物形に対応する(図1b)。
【0058】
【表3】


【表4】

【0059】
実施例7
実施例6のように製造した37kgのコーティング錠を、錠剤ドラムでコーティング後、ガス導入パイプを通した21℃、84%相対湿度の40m3/h流入空気で、3日間処理する。
【0060】
実施例8
12.3kgのバルデナフィルHCl三水和物、30.2kgの微結晶性セルロースおよび2.24kgの篩分けクロスポビドンを混合する。この混合物をさらに238kgの微結晶性セルロースおよび12.8kgの篩分けクロスポビドンと混合し、ドラム造粒し、次いで1.5kgのコロイド状二酸化ケイ素および3.0kgの篩分けステアリン酸マグネシウムと混合する。この混合物を、ロータリー錠剤プレスで圧縮して直径5.5mmかつ質量72mgの円形錠剤を調製する。錠剤に5.74kgのヒプロメロース、1.91kgのマクロゴール400、1.57kgの二酸化チタン、319gの黄色酸化鉄および25.5gの赤色酸化鉄の赤色コーティングを施す。コーティング錠を、Glatt 1250タイプコーティングシステムにおいて、25℃、16g湿度/kg(80%相対湿度に相当)の2000m3/h流入空気で5時間処理することにより、約140kgの二つのバッチで再水和する。
【0061】
実施例9
5.926mgのバルデナフィルHCl三水和物、4.35mgのクロスポビドン、0.87mgのステアリン酸マグネシウム、75.419mgの微結晶性セルロースおよび0.435mgのコロイド状二酸化ケイ素からなる600gの錠剤を、Kugelcoater中、6.65%酢酸セルロース、0.35%PEG3350、92.535%アセトンおよび0.465%水を含む有機コーティング溶液で、82.76gのコーティングが適用されるまでコーティングする。コーティング錠をトレイにのせて、25℃/80%相対湿度で24時間処理する。
【0062】
実施例10
錠剤を実施例6に記載のように製造する。コーティング後、錠剤を3.5g/m2 PPシートと組み合わせた20μmアルミニウムシートと、300μm無色透明PPシートからなるブリスターパックに封入する。ブリスターパックを25℃、60%相対湿度の制御条件下で6ヶ月インキュベートする。この方法で処理した錠剤のバルデナフィルHClの形態は、三水和物形に対応する。
【0063】
実施例11
2.96kgのバルデナフィル塩酸塩三水和物、7.25kgの微結晶性セルロースおよび538gのクロスポビドンを鍬刃ミキサーで混合する。混合物を26.1kgの微結晶性セルロースおよび1.64kgのクロスポビドンと、フリーフォール(free-fall)ミキサー中で混合する。混合物をドラム造粒機で乾式造粒し、次いで4.35kgの微結晶性セルロース、218gのコロイド状二酸化ケイ素および435gのステアリン酸マグネシウムと混合する。この混合物を錠剤プレスで直径6mmの円形錠剤に圧縮する。錠剤を、コーティングパン中、以下の成分を含むコーティング用分散液でコーティングする:832gのヒプロメロース、277gのマクロゴール400、227gの二酸化チタン、17.1kgの水、46.2gの黄色酸化鉄および3.70gの赤色酸化鉄。
【0064】
完成した錠剤を、300μm無色透明PPシートおよびシーリング層を伴う20μmアルミニウムシートで作成したブリスターパックに封入する。この状態で、バルデナフィルHClの形態は三水和物形に対応しない。次いで、ブリスターパックを25℃、80%湿度で3日間インキュベートする。錠剤中の活性成分は、バルデナフィル塩酸塩三水和物に対応する。
【0065】
実施例12
完成した錠剤中にバルデナフィルHClの三水和物形が存在することを、FTラマン分光で調べる。バルデナフィルHCl三水和物錠剤のFTラマンスペクトルは、対応するプラセボ錠剤と対比して、1701cm−1、1624cm−1、1594cm−1、1580cm−1、1561cm−1および1518cm−1のバンドにより区別される(図2)。活性成分バルデナフィルHCl三水和物に対するこれらのバンドの明白な帰属は、次のように証明される。すなわち、バルデナフィルHCl三水和物の単結晶X線構造分析が存在し、理論上の二次元X線粉末ディフラクトグラムをそれの助けにより計算する。与えられた活性成分のサンプルに関して実験的に得られたX線粉末ディフラクトグラムが理論上のディフラクトグラムと一致する場合、与えられたサンプルは明白にバルデナフィルHCl三水和物である。同じサンプルのFTラマンスペクトルは、したがって、明白にバルデナフィルHCl三水和物に割り当てられるべきである(表3)。この物質を乾燥した場合、1〜4の無水和物形態のバンドが、FTラマンスペクトルに、例えば、約1692cm−1および1599cm−1に出現する。FTラマンスペクトルにおけるバルデナフィルHCl三水和物に属するバンドの強度は、サンプルに残っている量により減少する(図3)。したがって、FTラマンスペクトルにおける約1692cm−1および1599cm−1のスペクトルの欠如が、バルデナフィルHCl三水和物の完全な再水和の試験に使用できる。この実際の方法は下記の通りである:バルデナフィルHCl三水和物のFTラマンスペクトルと、対応する処方の無活性成分錠剤のFTラマンスペクトルを、与えられた錠剤のFTラマンスペクトルから差し引く。スペクトルノイズより大きく、>0である残ったラマン強度が、活性成分無錠剤に存在するものおよびバルデナフィルHCl三水和物以外の成分のバンドである。バルデナフィルHCl錠剤の場合、それらは例えば、バルデナフィルHClの1〜4の無水和物形態のバンドである。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
【表12】

【0074】
【表13】

【0075】
【表14】

【0076】
【表15】

【0077】
【表16】

【0078】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)任意の水含量のバルデナフィル塩酸塩を薬剤の製造に用いる、
b)バルデナフィル塩酸塩を、中間の処理過程で、または最終生成物において実質的に三水和物の形に変換する
ことを特徴とする、固体形のバルデナフィル塩酸塩を含む薬剤の製造法。
【請求項2】
コーティング錠を薬剤として製造することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中間の処理過程または最終生成物、またはコーティング錠を三水和物が十分に形成されるまで湿ったガスと接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
空気をガスとして用いることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
用いるガスが35%から100%の相対湿度を有することを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法により得ることができる薬剤。
【請求項7】
請求項2から5のいずれかに記載の方法により得ることができるコーティング錠。
【請求項8】
性的機能不全の処置および/または予防のための、請求項6または7に記載の薬剤。
【請求項9】
勃起不全の処置および/または予防のための、請求項6または7に記載の薬剤。
【請求項10】
勃起不全の処置および/または予防のための、請求項6または7に記載の薬剤の使用。

【公開番号】特開2013−63982(P2013−63982A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−239424(P2012−239424)
【出願日】平成24年10月30日(2012.10.30)
【分割の表示】特願2004−520469(P2004−520469)の分割
【原出願日】平成15年7月3日(2003.7.3)
【出願人】(507113188)バイエル・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】