説明

バルブ金属粉末の製造法およびバルブ金属粉末

【課題】高価な後処理工程を必要とすることなく、所望の形態を維持することが可能である、相応する酸化物を還元することにより特別に調整された形態を有するバルブ金属粉末の製造法を提供する。
【解決手段】a)所望の形態の前駆物質の製造、b)バルブ金属の酸化物への前駆物質の変換、c)熱処理による酸化物の構造の安定化およびd)形態を維持しながら行う、安定化された酸化物の還元の工程を含む、バルブ金属粉末の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ金属酸化物を還元することによるバルブ金属粉末の製造法、この方法で得られるバルブ金属粉末および固体電解質コンデンサを製造するための該バルブ金属粉末の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブ金属、殊に周期律表の第4〜6遷移族からのバルブ金属、殊にタンタルおよびニオブおよびその合金は、数多く適用されている。上記金属粉末のための現在最も重要な適用の1つは固体電解質コンデンサである。この適用のための金属粉末は、一般にカリウムタンタルフルオリドKTaFのNa還元により製造される。近年、酸化物の還元も大いに使用されている。これに関して、気体還元剤を使用することによりH、アルカリ金属またはアルカリ土類金属へと還元することは好ましい。殊に、マグネシウム蒸気は適当な還元剤であることが証明された(WO 00/67936 A1、WO 00/15555 A1)。この方法により、高品質のバルブ金属粉末、殊にタンタル粉末およびニオブ粉末、その合金およびその亜酸化物を製造することが可能となった。上記のすべての方法において粉末の形の酸化物を使用することは好ましいが、しかしながら、還元されるべきバルブ金属酸化物またはその混合物の他の出発形態も記載されている。還元により得られるバルブ金属粉末の所望の物理的性質および形態は、還元条件を変化させることにより、または好ましくは還元により生じる一次粉末を後処理することにより調節される(WO 00/67936 A1、第9頁、第9〜11行目参照)。
【0003】
WO 00/67936 A1には、五酸化ニオブおよび五酸化タンタルを還元するための2段階の方法も記載されている。第1の段階では五酸化物は水素を用いて還元され、このようにして相応する亜酸化物が製造される。その後、亜酸化物は好ましくは1000℃を上回る温度で60〜360分間焼結され、これにより結晶構造体、即ち亜酸化物の一次構造体は安定化される。第2の段階では、亜酸化物はマグネシウム蒸気を用いて金属へと還元される。酸化物の形態、即ち二次構造体および三次構造体を含めた形態は安定化されない。これは例えば実施例11で示されており、この実施例11では1.7μmの平均粒径を有する五酸化ニオブが上記の2段階の還元処理で処理される。製造された金属粉末は、マスタサイザ(MasterSizer)を使用して測定された160.9μmのD50値を有しており、即ち平均粒径は著しく変化し、従って形態も著しく変化した。
【0004】
酸化物の形態を意図的に調整することは十分に公知である(Heiko Thomas, Matthias Epple, Michael Froeba, Joe Wong, Armin Reller, J. Mater. Chem., 1988, 8(6), 第1447頁〜第1451頁およびLingna Wang, Mamoun Muhammed, J. Mater. Chem., 1999, 9, 第2871頁〜第2878頁)。例えば、ドイツ連邦共和国特許出願公開第3918691号明細書には、ニオブの酸化物のための定義された一次粒径を調節するための方法が既に記載されている。定義された凝集体の形状および寸法を調節することも公知である。例えば、酸化物の繊維体の製造法およびこの繊維体から製造される織物、特別な性質、例えば細孔分布(A.D.S. Costa, L.S.M. Traqueia, J.A. Labrincha, J.R. Frade, F.M.B. Marques, Third EURO-CERAMICS 第1巻, 1993, 第573頁〜第578頁)、流動性または圧縮性(T.Moritz, T.Reetz, Third EURO-CERAMICS 第1巻, 1993, 第633頁〜第638頁)を有する、定義された凝集体の製造、および小板の製造(Debojit Chakrabarty, Samiran Mahapatra, J. Mater. Chem. 1999, 9, 第2953頁〜第2957頁)または球面状の粒子(Hong Yang, Gregory Vovk, Neil Coombs, Igor Sokolov, Geoffrey A. Ozin, J. Mater. Chem., 1998, 8(3), 第743頁〜第750頁)が記載されている。その上、相応する酸化物形態を有する金属酸化物粉末の多くは市販されている。この型の定義された酸化物形態を有する金属酸化物の適用は、ペーストにより被覆するための噴霧粉末から、ナノテクノロジーにおける適用までと非常に多岐にわたっている。このように定義された酸化物形態を製造するために使用される方法も非常に数多く存在する。例えば、ここではゾルゲル化学による酸化物の繊維体の製造および後続のゲルの紡糸が挙げられる。
【0005】
使用された酸化物の形態と、バルブ金属粉末またはその合金または還元により生じる亜酸化物との間の直接的な関連は従来記載されなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 00/67936 A1
【特許文献2】WO 00/15555 A1
【特許文献3】ドイツ連邦共和国特許出願公開第3918691号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Heiko Thomas, Matthias Epple, Michael Froeba, Joe Wong, Armin Reller, J. Mater. Chem., 1988
【非特許文献2】Lingna Wang, Mamoun Muhammed, J. Mater. Chem., 1999
【非特許文献3】A.D.S. Costa, L.S.M. Traqueia, J.A. Labrincha, J.R. Frade, F.M.B. Marques, Third EURO-CERAMICS 第1巻, 1993
【非特許文献4】Debojit Chakrabarty, Samiran Mahapatra, J. Mater. Chem. 1999
【非特許文献5】Hong Yang, Gregory Vovk, Neil Coombs, Igor Sokolov, Geoffrey A. Ozin, J. Mater. Chem., 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題の1つは、相応する酸化物を還元することにより特別に調整された形態を有するバルブ金属粉末の製造法を提供することであり、この方法により高価な後処理工程を必要とすることなく、所望の形態を維持することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、所望の形態を前駆物質において意図的に前形成し、この前駆物質を構造安定化された酸化物へ変換し、その後、形態を維持しながら還元処理により金属へ変換する方法により解決された。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、相応する酸化物を還元することにより特別に調整された形態を有するバルブ金属粉末の製造法を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】例2で安定化された、球状の酸化タンタルのSEM画像を示す図。
【図2】例2で製造された、球状のタンタル粉末のSEM画像を示す図。
【図3】例4で安定化された、繊維状の酸化タンタルのSEM画像を示す図。
【図4】例4で製造された、繊維状のタンタル粉末のSEM画像を示す図。
【図5】例5で安定化された、小板状の酸化タンタルのSEM画像を示す図。
【図6】例5で製造された、12%硫酸で処理する前の小板状のタンタル粉末のSEM画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従って、本発明の対象は、
a)所望の形態の前駆物質の製造、
b)バルブ金属の酸化物への前駆物質の変換、
c)熱処理による酸化物の構造の安定化および
d)形態を維持しながら行う、安定化された酸化物の還元
の工程を含む、バルブ金属粉末の製造法である。
【0013】
場合により、酸化物の形態は、前駆体を酸化物へ変換する際に同時に安定化されてよい。これは、変換の際の意図的な温度制御により達成され得る。
【0014】
さらに、前駆物質はすでに酸化物であってよい。この場合、工程b)は省略される。
【0015】
このようにして得られるバルブ金属粉末の形態は、一次構造体、二次構造体および三次構造体を有する多段階の調整された構造が顕著である。一次構造体は、還元および相応する後処理工程の際に形成される一次粒子の寸法により決定される。二次構造体および三次構造体は、前駆物質の形態により決定される。特別な場合には、バルブ金属粉末の一次構造体を引き続き焼結することにより、前駆物質の一次構造体および二次構造体に相応する形態を有するバルブ金属粉末を取得することも可能である。
【0016】
本発明によれば、所望の形態は、初めに前駆物質において前形成が行われ、その後、例えばか焼により前駆物質が酸化物へ変換されることにより確立される。酸化物への変換は、酸化物の形態が安定化されるような方法ですでに実施されてよい。しかしながら好ましくは、酸化物の構造は後続の熱処理により安定化される。このようにして安定化されたこの酸化物は、形態を維持しながら還元により金属へ変換される。
【0017】
タンタル酸化物が使用される場合、酸化物の安定化のための熱処理は、好ましくは1000〜1800℃、殊に好ましくは1500〜1800℃、とりわけ好ましくは1600〜1750℃の温度で実施される。ニオブ酸化物が使用される場合、酸化物の安定化のための熱処理は好ましくは1000〜1600℃、殊に好ましくは1350〜1550℃、とりわけ好ましくは1400〜1500℃の温度で実施される。
【0018】
安定化のための熱処理は、好ましくは空気の存在でかまたは不活性ガス下、例えば窒素下またはアルゴン下で実施される。ニオブ酸化物を安定化する場合には、水素の存在で処理することも可能である。ニオブ酸化物がNbである場合には、この安定化によりNbが還元されてNbが形成されるため、この場合安定化と還元とは互いに関連している。
【0019】
適当な前駆物質は酸化物へ変換され得る化合物であり、または酸化物自体でもある。酸化物前駆物質は、例えば粉砕法、造粒法、共凝集法または凝集法といった方法により所望の形態へ変換される。バルブ金属化合物も適当な前駆物質であり、殊に適当な前駆物質は水酸化物、有機金属化合物および硝酸塩である。これらの前駆物質は、沈殿法および結晶化法または意図的な成形法、例えば紡糸法、ゾルゲル法、製織法、噴霧法、沈積法を用いて、所望の形態を有する表面上で製造されることができる。この前駆物質は、形態を維持しながら、例えばか焼より所望の酸化物へ変換される。本発明によれば、金属において形態を維持するために、酸化物はこの酸化物が製造される際に意図的に安定化されるか、または好ましくは後熱処理により安定化される。安定化された構造を有する酸化物が製造された後に、この酸化物は還元されて金属が形成される。これに関して、使用される還元処理は好ましくはマグネシウム蒸気還元である。
【0020】
本発明により、バルブ金属粉末において必要とされる性質を、前駆物質を経て直接酸化物において調節することが可能となり、このようにして種々の適用、例えば噴霧粉末、焼結粉末または好ましくは固体電解質コンデンサを製造するための粉末のためのバルブ金属粉末を製造することが可能となる。
【0021】
固体電解質コンデンサを製造するために必要とされるバルブ金属粉末、殊にタンタル粉末およびニオブ粉末およびその合金または亜酸化物に対しては、多岐にわたる要求が存在する。例えば、このような粉末は所望のコンデンサを達成するために0.4m/g〜10m/gの表面積を有するべきである。さらに、良好な成形挙動および良好な含浸挙動が必要とされ、これは定義された粒径および定義された孔径分布を前提としている。さらに、固体電解質コンデンサ中での損失(残余電流)は最少化されるべきであり、この最少化には高純度と不純物およびドープ剤の精密な制御とが必要とされる。それに加え、自動化処理も可能でなければならない。この自動化処理には、良好な流動性および圧縮性を有する粉末が必要とされる。
【0022】
現在進行している電子部品の小型化の過程において、このために必要とされる受動素子もより一層小型化してきている。しかしながらその性能は維持されるかまたは向上されることが必要である。バルブ金属粉末またはその亜酸化物から製造された固体電解質コンデンサの場合、必要とされる静電容量を達成するために、一次構造体の寸法を小さくすることにより、従って付随効果として粉末の表面積を増加させることにより、この性能の維持または向上が達成される。この粉末の表面積が大きいという性質は、一般に流動性および圧縮された陽極の均一性に対する著しい悪化を招く。複雑な後処理では、流動性が改善されるような方法で二次構造体および三次構造体を変える試みがなされる。これにより、100μmのオーダーであり、平均寸法が著しく変動する凝集体が形成される。このような粉末の欠点は、陽極体を圧縮する際に不均一な充填密度が得られることである。
【0023】
本発明による方法により、例えば(ASTM B 822に準拠してマスタサイザを用いて測定された)極めて狭い粒径分布を有し、即ち極めて均一な三次構造体を有し、明らかにより小さな球面状である凝集体を酸化物において前形成すること、および形態を維持しながらこの球面状の凝集体を金属へ変換することが可能となる。これは先行技術に対する著しい進歩を表す。例えば、ASTM B 822に準拠してマスタサイザを用いて測定された、10〜80μm、好ましくは20〜40μmの範囲内のD50値を有する球面状の凝集体の極めて狭い分布を得ることが可能である。この型のバルブ金属粉末またはバルブ金属亜酸化物は、従来開示されてきた高静電容量粉末と同様の表面積および静電容量を有する。この従来開示されてきた高静電容量粉末とは異なり、流動性は維持された。均一な粒径分布および比較的小さな凝集体寸法により、陽極において均一な充填密度が生じ、従って使用者にとって品質および収量は改善される。さらに、極めて微細な一次構造体を有していてもなお凝集体の良好な含浸性が維持されるような方法で二次構造体を調節することも可能である。このために必要とされる多孔質構造は双峰分布を有しており、より狭い分布は一次構造体に相応し、その一方でより広い範囲の最大値は二次構造体に相応しており、これにより対電極、例えば二酸化マンガンまたは導電性ポリマーに対する陽極体の良好な含浸性が保証される。二次構造体の細孔の最大値は、例えば0.5〜5μm、好ましくは0.7〜2μmである。
【0024】
上記の種々の要求は単一の粉末では満たされることができず、粉末形態の多様性が必要とされる。所望の形態をすでに酸化物において還元の前に前形成し、この形態を安定化させることは、公知の方法と比較して単純化されており、著しい利点を提供する。例えば、バルブ金属の酸化物を含有する繊維体は、相応する金属繊維体と比較して、費用を極めて大幅に削減して製造されることができ、多くの酸化物またはその混合物は市販されることさえできる。また、酸化物繊維体からの織物の製造は、金属織物の製造よりも容易である。酸化物の混合物は殊に容易に製造されることができる。この酸化物の混合物は原子レベルで共沈法またはゾルゲル法により、または関連する金属よりも延性に乏しい酸化物の混合物を巨視的に単純に混練および混合することにより得ることができる。ウェットケミカル法により製造された酸化物の純度および原子レベルでの意図的なドーピングも、金属よりも酸化物においてより容易に制御されることができる。
【0025】
本発明の方法によれば、殊に周期律表の第4〜6遷移族のうちの1種、殊にタンタルおよびニオブおよびその合金またはその亜酸化物のバルブ金属粉末が得られ、所望の形態はすでに酸化物において形成され、酸化物は還元により、好ましくは気体還元剤を用いて、殊に好ましくはマグネシウム蒸気を用いて還元することにより金属へ変換される。この還元は酸化物において前形成された形態を維持しながら行われる。
【0026】
種々のバルブ金属の酸化物か、または2種以上の酸化物の任意の所望の割合での混合物は、ドープ剤の存在または不存在で所望の酸化物形態を得るために使用されてよい。好ましくは、NbかまたはTaかまたはそのお互いまたは別の金属との混合物が使用される。酸化物は公知の方法で製造される。例えば、五酸化タンタルおよび五酸化ニオブ(TaおよびNb)またはその混合物は、加水分解かまたはタンタル化合物もしくはニオブ化合物もしくはその混合物の燃焼により、しかしながら好ましくはヘプタフルオロタンタル酸(HTaF)およびヘプタフルオロニオブ酸(HNbF)またはその混合物をフッ化水素酸溶液から塩基、殊にアンモニア(NH)を用いて、タンタル酸Ta(OH)またはニオブ酸Nb(OH)またはその混合物として沈殿させ、引き続き熱処理することにより製造される。所望の形態は沈殿条件を意図的に選択することによって調節されることもできるし、処理の後半で水酸化物かまたは酸化物において調節されることもできる。ヘプタフルオロ酸とアンモニアとを同時に計量供給する場合、例えば連続的な方法で、10〜80μmの範囲内の粒径分布と定義された孔径分布とを有する球面状の凝集体が得られる。この場合、凝集体の性質は出発溶液の濃度、反応容器中での滞留時間およびpHに依存する。例えば球面状の凝集体を連続的に製造するために、沈殿処理は10〜300g/l、しかしながら好ましくは50〜200g/lの、タンタルのヘプタフルオロ酸またはニオブのヘプタフルオロ酸またはその混合物の濃度で、1〜20質量%、しかしながら好ましくは3〜9質量%のNH濃度で、0.25〜24時間、しかしながら好ましくは30分〜3時間の沈殿凝集体の平均滞留時間で、沈殿処理温度における7〜12、しかしながら好ましくは7.3〜8.3のpHで行われる。異なる沈殿条件が選択される場合にも、意図的な球面状の形態を例えば噴霧乾燥により得ることは可能である。
【0027】
所望の純度は精製により、必要な場合には、タンタルのヘプタフルオロ酸またはニオブのヘプタフルオロ酸またはその混合物の精製を繰り返すことにより達成される。必要な場合には、不純物はppbの範囲に低下されてよい。
【0028】
このようにして得られた水酸化物は乾燥され、か焼される。必要な場合には、その後機械的処理、例えば篩い分け、粗砕、混練または凝集化が行われる。凝集体構造は高温処理により、好ましくは1000℃を上回る範囲の温度で、殊に好ましくは酸化物の融点に近い温度で安定化される。このようにして、一次粒子間の焼結橋(sintered bridge)を強固なものとし、多孔構造を意図的に変化させることは可能である。これに関して、酸化物の調節された微結晶寸法は製造されたバルブ金属粉末の二次構造体を決定し、かつ酸化物粒子/凝集体の外形は三次構造体を決定する。
【0029】
高温処理の後、再度機械的処理、例えば篩い分け、粗砕、混練が行われてもより。導入される全ての不純物、例えば炭素は空気中での好ましくは800〜1200℃の温度での後灼熱により除去されることができる。
【0030】
このように製造された、定義された形態を有する酸化物は、その後還元により金属へ変換される。
【0031】
還元は好ましくはWO 00/67936 A1または欧州特許出願公開第997542号明細書の記載に従って行われる。これに関して、酸化物は液体マグネシウムおよび気体マグネシウムを用いた2段階の還元か、または気体マグネシウムを用いた1段階の還元により反応される。金属粉末の一次構造体は、還元条件および当業者に公知である後接続された工程、例えば真空高温凝集または脱酸素により調節されることができる。
【0032】
本発明による方法を用いて製造されたバルブ金属粉末は、製造された後に、公知の方法で後処理されてよい。例えばバルブ金属粉末がコンデンサを製造するために使用される場合、バルブ金属粉末を高真空下で、例えば1350℃の温度で凝集させることは有利であり得る。この後、好ましくはHPOを用いて処理することによりリンでドーピングし、マグネシウムを用いて脱酸素し、その際、凝集された一次粉末中の酸素含量に対して好ましくは1.5倍の化学量論的量のマグネシウムを使用し、鉱酸、例えば希釈HSOで洗浄し、最終的に乾燥して300μm未満で篩い分けする。
【0033】
また、本発明の対象は、本発明による方法を用いて得られたバルブ金属粉末、前駆物質の形態により決定された二次構造体および三次構造体である。
【0034】
また、本発明の対象は、ASTM B 822に準拠し、マスタサイザを使用して測定された、10〜80μm、好ましくは20〜40μmのD50値を有し、球面状の凝集体を含有するバルブ金属粉末であり、その際、このバルブ金属粉末は約2.54×2/10cm、好ましくは約2.54×1/10cmの漏斗開口部の直径を有するホールフロー(Hall−Flow)漏斗(ASTM B 212 または B 417)を自由に貫流する。
【0035】
本発明によるバルブ金属粉末は、好ましくは狭い粒径分布を有する。ASTM B 822に準拠し、マスタサイザを使用して測定されたD90値は、ASTM B 822に準拠し、マスタサイザを使用して測定されたD50値の、好ましくは最大1.5倍、殊に好ましくはD50値の最大1.3倍に相応する。
【0036】
ASTM B 822に準拠し、マスタサイザを使用して測定されたD10値は、好ましくは5μmを上回り、殊に好ましくは10μmを上回る。
【0037】
バルブ金属は好ましくはタンタル、ニオブまたはその合金である。
【0038】
本発明によるバルブ金属粉末は、殊にこのバルブ金属から製造された陽極体が双峰細孔分布を有し、細孔分布の小さい方の最大値はバルブ金属粉末の一次構造体に相応し、かつ細孔分布の大きい方の最大値は二次構造体に相応していることが顕著である。これにより、対電極に対する陽極体の含浸性は良好なものとなる。
【0039】
双峰細孔分布を有する陽極体の製造を可能にし、水銀多孔度測定法を用いて測定された細孔分布の大きい方の最大値が0.5〜5μm、好ましくは0.7〜2μmであるバルブ金属粉末は好ましい。
【0040】
本発明によるバルブ金属粉末は多方面で使用される。このバルブ金属粉末は、好ましくは固体電解質コンデンサ、殊に好ましくは50000CV/gを上回る静電容量を有する固体電解質コンデンサを製造するために使用される。このためにバルブ金属粉末は圧縮されて陽極体が形成され、この陽極体は特殊な均一性、即ち均一な圧縮密度分布が顕著である。
【0041】
本発明は、以下で例を参考として詳説され、この例は本発明による原理を容易に理解するために意図されたものであり、この例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下の例中で製造された金属酸化物粉末または金属粉末を、例中に示されたように種々の化学的性質および物理的性質に関して分析した。別に記載がない限り、方法は以下の通りである:
常用の自動分析装置を用いて化学組成を決定した。
【0043】
灼熱損失を示差秤量による重量測定によって測定した。灼熱損失測定時の温度を個々の例のために記載した。所定のタップ密度をASTM B 527に準拠して測定し、粒径分布(D10値、D50値およびD90値)を、レーザー回折によりMALVERN社製のマスタサイザSμを使用して測定し(ASTM B 822)、篩い分析をASTM B 214に準拠して行い、比表面積を公知のブルナウアー エメット テラー(Brunauer,Emmett and Teller)法(BET法)を使用して測定した。かさ密度をスコット(Scott)体積計(ASTM B 329)上で測定し、平均粒径をフィッシャーサブシーブサイザ(Fisher Sub Sieve Sizer)(FSSS、ASTM B 330)を使用して測定し、流動性をホールフロー測定により、約2.54×1/10cm漏斗(ASTM B 213)を使用して測定した。圧縮強度を、圧縮された粉末成形体(長さ5.1mm、直径5.1mm、圧縮密度5.0g/cm)上で、チャティロン(Chatillon)動力計を用いて測定した。別に記載がない限り、割合は質量百分率である。
【0044】
例1:同様の形態の球状のTa粉末を形成するための、高純度品質(LT−品質)の球状のTaの還元
a)球面状の水酸化物前駆物質の製造
脱イオンHO 300 lを予め装置中に装入し、Taとして算出した場合Ta濃度80〜120g/lであるHTaF溶液6360 l(1要素当たり5mg/l未満の金属不純物)を、(6%)高純度NH水溶液5655 lを用いて、pH7.6±0.4で連続的に沈殿させた。温度は35〜40℃であった。こうして得られた懸濁液を圧力式濾過器に通し、まず(3%)NH水溶液で洗浄し、その後脱イオン水で洗浄した。その後、湿潤水酸化物を乾燥戸棚中で100℃で24時間乾燥させた。
分析:F=0.22%
【0045】
b)酸化物の製造
a)で製造された球面状の水酸化タンタルをシャーレ中に導入し、空気中で1270℃で約6時間灼熱した。その後生成物を<600μmで篩い分けした。
【0046】

【0047】
c)酸化物の安定化
酸化物10kgをアルゴン下で1700℃で4時間灼熱した。白色酸化物を微粉砕し、1000μm未満で篩い分けした。
【0048】
d)Ta粉末を形成するための、球面状の安定化された酸化物の還元
1c)で製造された、安定化された酸化タンタル1000gをTaシャーレ中に位置する織物篩い(fabric sieve)上に配置した。マグネシウムチップ300gを下方に配置した。シャーレを密封し、還元を蒸留装置中においてアルゴン下で950℃で6時間行った。冷却後、空気を蒸留装置中に徐々に導入し、金属表面を不動態化させた。加圧により材料を1000μmの篩いに通し、微粉砕した。
【0049】
このようにして得られた反応材料を12%硫酸中に抽出し、脱イオン水で中性で洗浄した。湿潤粉末を50℃で24時間乾燥させた。Ta粉末750gが得られた。
【0050】
このようにして得られた一次粉末の性質:
【0051】

【0052】
e)コンデンサ粉末を形成するための仕上げ処理
このようにして得られた粗粉末を、公知の方法で常用のコンデンサ粉末に相応して仕上げ処理した:
− 高真空下での1350℃での凝集化
− HPOを用いたP 100ppmでのP−ドーピング
− 凝集された一次粉末中の酸素含量に対して1.5倍量の化学量論的量のマグネシウムを使用した、920℃での脱酸素
− 希釈HSOでの洗浄
− 乾燥および<300μmでの篩い分け
このようにして得られたTaコンデンサ粉末は以下の性質を有していた:
【0053】

【0054】
電気試験:
粉末を圧縮密度が5.75g/cmとなるまで圧縮し、高真空下で1400℃で焼結した。このようにして得られたペレットを30Vで4300μSの導電率でHPO中で陽極酸化(形成)した。陽極の残余電流を同じ電解質中で測定し、静電容量を18%HSO中で測定した。
【0055】

【0056】
例2:同様の形態の球状のTa粉末を形成するための、純粋な品質(HPO品質)の球状のTaの還元
a)球面状の水酸化物前駆物質の製造
脱イオンHO 10 lを予め装置中に装入し、Taとして算出した場合タンタル濃度が約170g/lであるHTaF溶液90 l(Sb 約20mg/lおよびNb 2mg/l)を、(6%)高純度NH水溶液70 lを用いて、pH7.6±0.4で連続的に沈殿させた。温度は35〜40℃であった。こうして得られた懸濁液を圧力式濾過器に通し、まず(3%)NH水溶液330 lで洗浄し、その後脱イオン水で洗浄した。その後、湿潤水酸化物を乾燥戸棚中で100℃で24時間乾燥させた。
【0057】
b)酸化物の製造
a)で製造された球面状の水酸化タンタルをシャーレ中に導入し、空気中で1270℃で約2時間灼熱した。その後生成物を<600μmで篩い分けした。
【0058】

【0059】
c)酸化物の安定化
酸化物2kgを空気下で1600℃で10時間灼熱した。得られた白色酸化物を微粉砕し、1000μm未満で篩い分けした。
【0060】
図1は製造された酸化物の操作型電子顕微鏡を用いた画像を示す(SEM画像)。
【0061】
d)Ta粉末を形成するための、球面状の安定化された酸化物の還元
2c)で製造された、安定化された酸化タンタル400gをTaシャーレ中に位置する織物篩い上に配置した。マグネシウムチップ120gを下方に配置した。シャーレを密封し、還元を蒸留装置中においてアルゴン下で920℃で6時間行った。冷却後、空気を蒸留装置中に徐々に導入し、金属表面を不動態化させた。加圧により材料を1000μmの篩いに通し、微粉砕した。
【0062】
このようにして得られた反応材料を12%硫酸中に抽出し、脱イオン水で中性で洗浄した。湿潤粉末を50℃で24時間乾燥させた。Ta粉末290gが得られた。
【0063】
このようにして得られた一次粉末の性質:
【0064】

【0065】
図2はタンタル粉末のSEM画像を示す。図1との比較により、安定化された酸化物を還元する際に形態は維持されることが示された。
【0066】
e)コンデンサ粉末を形成するための仕上げ処理
このようにして得られた未処理粉末を、常用のコンデンサ粉末と同様の方法で仕上げ処理した:
− 高真空下での1120℃での凝集化
− HPOを用いたP 150ppmでのP−ドーピング
− 凝集された一次粉末中の酸素含量に対して1.5倍の化学量論的量のマグネシウムを使用した、850℃での脱酸素
− 希釈HSOでの洗浄
− 乾燥および<300μmでの篩い分け
このようにして得られたTaコンデンサ粉末は以下の性質を有していた:
【0067】

【0068】
電気試験:
粉末を5.0g/cmの圧縮密度で圧縮し、高真空下で1260℃で焼結した。このようにして得られたペレットを30Vで4300μSの導電率でHPO中で陽極酸化(形成)した。陽極の残余電流を同じ電解質中で測定し、静電容量を18%HSO中で測定した。
【0069】

【0070】
例3:同様の形態の球状のNb粉末を形成するための、球状のNbの還元
a)球面状の水酸化物前駆物質の製造
Nbとして算出した場合Nb濃度が約125g/lであるHNbF溶液約4000 lを、(6%)高純度NH水溶液10980 lを用いて、pH7.6±0.4で連続的に沈殿させた。温度は35〜40℃であった。こうして得られた懸濁液を圧力式濾過器に通し、まず(3%)NH水溶液4400 lで洗浄し、その後脱イオン水で洗浄した。その後、湿潤水酸化物を乾燥戸棚中で100℃で24時間乾燥させた。
分析:F<0.1%
【0071】
b)酸化物の製造
a)で製造された球面状の水酸化ニオブをシャーレ中に導入し、空気中で1270℃で約4時間灼熱した。
【0072】

【0073】
c)酸化物の安定化
3b)で製造された酸化ニオブ21kgを水素下で1400℃で4時間灼熱した。黒色生成物を微粉砕し、300μm未満で篩い分けした。
【0074】
このようにして得られた部分的に還元された酸化物の性質:
【0075】

【0076】
d)Nb粉末を形成するための、球面状の安定化された酸化物の還元
3c)で製造された、安定化され、部分的に還元された酸化ニオブ500gをそれぞれNbシャーレ中に位置する織物篩い上に配置した。マグネシウムチップ267gをそれぞれ下方に配置した。シャーレを密封し、還元を蒸留装置中においてアルゴン下で975℃で6時間行った。冷却後、空気を蒸留装置中に徐々に導入し、金属表面を不動態化させた。加圧により材料を300μmの篩いに通し、微粉砕した。
【0077】
このようにして得られた反応材料を8%硫酸中に抽出し、脱イオン水で中性で洗浄した。その後、湿潤粉末を50℃で24時間乾燥させた。Nb粉末579gが得られた。
【0078】
このようにして得られたニオブ粉末の性質:
【0079】

【0080】
電気試験:
このようにして製造された粉末からコンデンサの陽極を製造し、その比静電容量および残余電流を測定した。これに関して、粉末を3.14g/cmの圧縮密度で圧縮し、高真空下で1170℃で20分間焼結した。このようにして得られたペレットを0.1%HPO中で、40Vで3100μS/cmの導電率で、200mA/gの形成電流で80℃の温度で2時間にわたり陽極酸化(形成)した。陽極の残余電流を18%HSO中で23℃の温度で、2分間の充電時間で28Vの電圧(形成電圧の70%)で測定し、静電容量を18%HSO中で23℃の温度で120Hzの周波数で測定した。
【0081】

【0082】
例4:同様の形態の繊維状のTa粉末を形成するための、繊維状のTaの還元
a)酸化物前駆体
Zircar社製の市販の繊維状の酸化物前駆物質を使用した。
【0083】
b)酸化物の安定化
酸化物500gを窒素下で1650℃で3時間灼熱した。その後、酸化物を空気中で1000℃で後灼熱し、炭素不純物を除去した。このようにして安定化された白色酸化物を微粉砕し、1000μm未満で篩い分けした。
【0084】
図3は、安定化された酸化物のSEM画像を示す。繊維状の形態が明確に現れている。
【0085】
c)Ta粉末を形成するための、繊維状の安定化された酸化物の還元
4b)で製造された、安定化された酸化タンタル200gをTaシャーレ中に位置する織物篩い上に配置した。マグネシウムチップ60gを下方に配置した。シャーレを密封し、還元を蒸留装置中においてアルゴン下で950℃で8時間行った。冷却後、空気を蒸留装置中に徐々に導入し、金属表面を不動態化させた。加圧により材料を1000μmの篩いに通し、微粉砕した。
【0086】
このようにして得られた反応材料を12%硫酸中に抽出し、脱イオン水で中性で洗浄した。湿潤粉末を50℃で24時間乾燥させた。Ta粉末140gが得られた。
【0087】
このようにして得られた一次粉末の性質:
【0088】

【0089】
図4は、得られたタンタル粉末のSEM画像を示す。図3との比較により、安定化された酸化物を還元する際に繊維状の形態は維持されることが示された。
【0090】
例5:同様の形態の小板状のTa粉末を形成するための、小板状のTaの還元
a)小板状の水酸化物前駆物質の製造
タンタルエトキシド(Ta(OC)とエタノール(COH)との同体積比の混合物250mlを、ポリプロピレン製の平滑な表面上に少量ずつ均一に塗布し、空気を供給しながら室温で乾燥させた。
【0091】
b)酸化物の製造
a)で製造された小板状の水酸化タンタルをシャーレ中に配置し、空気中で700℃で約3時間灼熱した。
【0092】

【0093】
c)酸化物の安定化
酸化物500gを窒素下で1650℃で3時間灼熱した。その後、酸化物を空気中で1000℃で後灼熱し、炭素不純物を除去した。このようにして安定化された白色酸化物を微粉砕し、1000μm未満で篩い分けした。
【0094】
図5は安定化された酸化物のSEM画像を示す。小板状の形態が明確に現れている。
【0095】
d)Ta粉末を形成するための、小板状の安定化された酸化物の還元
5c)で製造された、安定化された酸化タンタル200gをTaシャーレ中に位置する織物篩い上に配置した。マグネシウムチップ60gを下方に配置した。シャーレを密封し、還元を蒸留装置中においてアルゴン下で980℃で6時間行った。冷却後、空気を蒸留装置中に徐々に導入し、金属表面を不動態化させた。加圧により材料を1000μmの篩いに通し、微粉砕した。
【0096】
このようにして得られた反応材料を12%硫酸中に抽出し、脱イオン水で中性で洗浄した。湿潤粉末を50℃で24時間乾燥させた。Ta粉末140gが得られた。
【0097】
このようにして得られた一次粉末の性質:
【0098】

【0099】
図6は、12%硫酸で処理する前のタンタル粉末のSEM画像を示す。図5との比較により、安定化された酸化物を還元する際に小板状の形態は維持されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、相応する酸化物を還元することにより特別に調整された形態を有するバルブ金属粉末の製造法を提供できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)所望の形態の前駆物質の製造、
b)バルブ金属の酸化物への前駆物質の変換、
c)熱処理による酸化物の構造の安定化および
d)形態を維持しながら行う、安定化された酸化物の還元
の工程を含む、バルブ金属粉末の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により得られるバルブ金属粉末において、バルブ金属粉末の二次構造体および三次構造体が前駆物質の形態により決定されていることを特徴とする、請求項1記載の方法により得られるバルブ金属粉末。
【請求項3】
球面状の凝集体を含有しているバルブ金属粉末において、ASTM B 822に準拠し、マスタサイザを使用して測定されたD50値が10〜80μm、好ましくは20〜40μmであり、かつこのバルブ金属粉末が、約2.54×2/10cm、好ましくは約2.54×1/10cmの漏斗開口部の直径を有するホールフロー漏斗を自由に貫流していることを特徴とする、球面状の凝集体を含有しているバルブ金属粉末。
【請求項4】
固体電解質コンデンサを製造するための、請求項2または3記載のバルブ金属粉末の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−137236(P2011−137236A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20048(P2011−20048)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【分割の表示】特願2003−66574(P2003−66574)の分割
【原出願日】平成15年3月12日(2003.3.12)
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】