説明

パイルアップ組織アレイ

【課題】生体組織の検査や分析に用いられる新たな組織アレイブロック作製方法および組織アレイシートを提供する。
【解決手段】組織アレイブロック作製方法は、組織ブロックよりスライス(薄切り)した組織片t1から中空針を用いて必要とする一部分をくり抜き採取する採取工程P2と、中空針内で採取された組織を積層する積層工程P3と、該積層物を融合させる融合工程P4と、融合物を基本ブロックに配列する空孔に軸方向で挿入する挿入工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の検査や分析に用いられる組織アレイチップを作製するための組織アレイブロック作製方法および組織アレイシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体組織の検査や解析には、基板上に組織片を配列した組織アレイチップが用いられている。組織アレイチップは、被検物質を特異的に染色する染色液を塗布等することにより、病変組織の有無の検査、遺伝子や蛋白質の解析、スクリーニングなどに用いられる。
【0003】
この組織アレイチップは、次のように作製される。図6は、 従来の組織アレイチップ作製方法を説明する説明図である。(a)生体組織をブロック化した組織ブロックをパンチングしてコアを採取する。(b)採取したコアを、基体ブロックにアレイ状に設けられた空孔に挿入する。(c)各空孔にコアが挿入された基体ブロックの表面を数μmの厚みでスライスし、組織片が配列する組織アレイシートを作製する。(d)組織アレイシートを基板にマウントして組織アレイチップを作製する。さらに(c)および(d)は繰り返し行われて複数枚の組織アレイチップが作製される。
【0004】
組織アレイチップの作製に用いられる組織アレイブロックは、パンチング機構を備える装置により作製される。特許文献1および2には、基体ブロック用のパンチと組織ブロック用のパンチを備え、基体ブロック用のパンチで基体ブロックに空孔を形成し、組織ブロック用のパンチで組織ブロックをパンチングしてコアを採取し、採取したコアを基体ブロックの空孔に挿入する装置が開示されている。
【0005】
特許文献1および2は、いずれも組織ブロックに穴を開けてコアを抜き取り、レシピエントブロックに移植する組織アレイの作製方法である。これらのコアリングの方法では作製することが出来ない以下のような場合が多く想定される。(1)コアリングした部位は、再度、組織を観察することが出来ない。これを理由に倫理委員会などで承認されない場合がある。(2)組織ブロックの外部への持ち出しを禁じている施設があり、こういった施設では、多施設共同研究などでアレイを作製することが出来ない。(3)興味深い症例や、貴重な症例の組織ブロックは病理医の宝物であり、穴を開けることが極めて困難である。(4)コアの抜き取りは、ある程度の厚みのある組織ブロックに限定される。(5)腫瘍など、ターゲットにする病変が飛びとびに有る場合、通常のコアでは病変部を全切片に網羅することは困難である。(6)厚みの違う組織ブロックを使うので、コア欠けが生じる。上記の問題を解決する手段として、本発明者は、ロール状に形成した薄切組織片から組織アレイブロックおよび組織アレイシートを作製する技術(スパイラル組織アレイ)を開発した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−215667
【特許文献2】特開2006−158394
【特許文献3】再表2008/108410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スパイラル組織アレイはパンチングによる作製される従来の組織アレイの欠点をほぼクリアーした優れた技術である。しかし、スパイラル組織アレイでは、薄切組織片をロール状に形成するため、巻きつきによりコアの径が大きくなる。一方、組織アレイシートはスライドガラス(2.5cm×7.5cm)に載せ観察するため、通常2cm×3cmの大きさである。そのため、スパイラル組織アレイでは、1枚のシート載る組織数は、数十個程度と制限されている。そこで本発明はこのような実情に鑑みて、新たな組織アレイブロック作製方法および組織アレイシートを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の組織アレイブロック作製方法は、組織ブロックよりスライス(薄切り)した組織片から中空針を用いて必要とする一部分をくり抜き採取する採取工程と、中空針内で採取された組織を積層する積層工程と、該積層物を融合させる融合工程と、融合物を基本ブロックに配列する空孔に軸方向で挿入する挿入工程を備えることを特徴とする。また、本発明は、上記工程により作製される組織アレイブロックを薄切して作製される組織アレイシートである。ここで、組織ブロックは、パラフィン包埋組織ブロックおよび凍結組織ブロックである。また、パラフィンとは、パラフィンおよびポリエチレンなどの合成ポリマーの添加剤を含有するパラフィンを意味する。
【0009】
この発明によれば、従来のパンチングによる作製される組織アレイシートに載る組織数と同等の組織数で1枚のシートを作製することができる。
【0010】
本発明の方法で作製される組織アレイブロックは、基体ブロックに複数の組織片を保持する組織アレイブロックにおいて、前記組織片が、薄切組織片からくり抜かれた組織が積層・融合されたものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の組織アレイシートは、前記基体ブロックに複数の積層・融合組織片を保持する組織アレイブロックからスライスされたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組織アレイブロック作製方法および組織アレイシートは以下の利点を有する。(1)ブロックに穴を開けずに組織アレイを作製可能である。(2)小径のコアを作製可能で、コア数を増やすことができる(3)病変部のみを抜くので、ターゲットの病変部位(関心部位)を網羅的にコア内入れることができる。(4)組織のヘテロジェナイティーを観察しながらコアリングできるので、ヘテロジェナイティーの網羅性が高い。(5)薄切組織片にてアレイ作製可能なため、多施設間の共同研究が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本実施の形態の組織アレイブロックB3の作製方法、組織アレイシートS1および組織アレイチップC1について詳細に説明する。組織ブロックB1は、パラフィン包埋組織ブロックまたは凍結組織ブロックである。本実施の形態では、パラフィンの中央付近に包埋された組織ブロックB1を例に説明するが、凍結組織を用いた場合も同様である。
【0014】
本発明の組織アレイブロック作製方法において、スライス(薄切り)された組織片は、公知の方法で組織ブロックからの切り出しにより調製されたもの使用すればよい。また、本発明の組織アレイブロック作製方法において、前処理工程として、スライス工程P1が付加されていてもよい。
【0015】
スライス工程P1(図1)は、ミクロトームなどにより組織片t1を作製する工程であり、具体的には、組織ブロックB1を滑走式ミクロトームあるいは回転式ミクロトームの刃(Cut)で薄切する。
【0016】
採取工程P2(図2)において、組織片t1の関心部分aから、中空針N1を用いて、必要とする一部分をくり抜き採取する。
【0017】
積層工程P3(図2)において、採取工程P2を繰り返すことにより、中空針内で採取された組織が積層される。繰り返す回数は、特に限定されないが、100μm厚の組織片を使用した場合、5〜50回である。また、中空針は、適宜選択されるが、内径は、0.5mm〜3mm、長さ、1cm〜5cmである。また、中空針は、金属製であることが好ましい。
【0018】
融合工程P4(図2)において、中空針内の積層物が融合される。融合は、中空針を外部から過熱することにより行う。過熱は、パラフィン包埋組織ブロックのスライスからくり抜かれた積層物の場合、中空針内のパラフィンが溶解する温度・時間であれば特に限定されないが、該中空針に50℃〜100℃の温風を1分〜2時間程度当てればよい。さらに、融合物mc1を中空針内で冷却し、次の挿入工程P5に進む。
【0019】
挿入工程P5(図3)において、中空針内の融合物mc1を、基本ブロックB2に配列された空孔hに軸方向で挿入する。 基体ブロックB2は、アレイ状に複数の円筒形状の空孔hが配列するブロックである。この空孔hは、別工程にてパンチングなどにより形成されている。基体ブロックB2は、表面をシート状にスライス可能な材料で構成されていれば良く、例えばパラフィンブロックである。中空針内の融合物mc1の取り出しには、中空針の内径より少し小さい直径の金属棒またはワイヤーを用いればよい。
【0020】
上記の工程(P1→P2→P3→P4→P5)を繰り返し、基本ブロックB2の空孔を埋めていき、組織ブロックB3を作製する。なお、融合物mc1を基体ブロックB2に挿入した後に、融合物mc1を基体ブロックB2に固定することが好ましい。具体的に、例えば、mc1・・・mcn(nは整数)を空穴h1・・・hn(nは整数)挿入した状態で、基体ブロックB2を加温してパラフィンを溶解させる、あるいは、空孔hに溶解状態のパラフィンを充填し、その後にパラフィンを固化させる。
【0021】
組織アレイシートS1は、上記工程により作製される組織アレイブロックB3を、数μm(通常、4μm〜6μm)に薄切することで作製できる(図4、P6)。
【0022】
上記の後工程P7(図4)として、組織アレイシートS1をスライドガラスやナイロン膜などの基板上にマウントすることにより、積層・融合組織片が配列した組織アレイチップC1を作製することができる。
【0023】
(実施例)
上記実施の形態による上記実施の形態の作製方法を実施し、組織アレイチップを作製した。使用した組織はヒト卵巣腫瘍組織であり、これをパラフィンに包埋してパラフィン包埋組織ブロックを作製し、これより滑走式ミクロトームで薄切した組織片t1(厚さ:約100μm)を使用した。また、パラフィンブロックにアレイ状に空孔hを設け、これを基体ブロックとした。ついで、ステンレス製の中空針(内径1.0mm、長さ10mm)を用いて、組織片t1の関心部分aから、一部分をくり抜き採取した。採取は20回繰り返した。ついで、この中空針を55℃で1時間加熱した。中空針を冷却後、金属棒で中空針内の融合物mc1を押し出し、基本ブロックの空孔hに挿入した。前記の採取〜挿入の工程を繰り返し、基本ブロックの空孔hを全部埋めた後、基本ブロックを50℃で1時間加温した。冷却後、滑走式ミクロトームで薄切し、組織アレイシートS1を作製した。そして、この組織アレイシートをスライドガラスにマウントして組織アレイチップとし、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を施した。(図5)
【0024】
なお、本実施の形態では、パラフィン包埋組織ブロックを例に説明したが、用いる組織ブロックはこれに限定されない。例えば、組織を凍結させた凍結組織ブロックを用いても良い。この場合、パラフィンに代えてコンパウンドと称される包埋剤を用いる。組織をコンパウンドに埋め込んだ状態にて凍結し、凍結状態を維持可能な冷却環境にて上記各方法を実施することが好ましい。用いられる組織も生体組織であれば限定されない。また、上記各方法や機構は、本発明の目的の範囲内で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態のスライス工程を説明する説明図である。
【図2】本実施の形態の採取工程、積層工程および融合工程を説明する説明図である。
【図3】本実施の形態の挿入工程を説明する説明図である。
【図4】本実施の形態の組織アレイシートの作製方法を説明する説明図である。
【図5】本実施例の組織アレイチップのHE染色の顕微鏡写真である。
【図6】従来の組織ブロック、組織アレイブロック、組織アレイシート、組織アレイチップを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0026】
t1 シート状の組織片、B1 組織ブロック、B2 基体ブロック、B3 組織アレイブロック、S1 組織アレイシート、C1 組織アレイチップ、a 関心部位、h
空孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織ブロックよりスライスした組織片から中空針で一部分をくり抜き採取する採取工程と、中空針内で採取された組織を積層する積層工程と、積層物を融合させる融合工程と、積層・融合物を基本ブロックに配列する空孔に軸方向で挿入する挿入工程を備えることを特徴とする組織アレイブロックの作製方法。
【請求項2】
組織ブロックよりスライスしてシート状の組織片を得るスライス工程と、シート状の組織片から中空針で一部分をくり抜き採取する採取工程と、中空針内で採取された組織を積層する積層工程と、積層物を融合させる融合工程と、積層・融合物を基本ブロックに配列する空孔に軸方向で挿入する挿入工程を備えることを特徴とする組織アレイブロックの作製方法。
【請求項3】
組織ブロックよりスライスした組織片から中空針で一部分をくり抜き採取するくり抜き工程と、中空針内で採取された組織を積層する積層工程と、積層物を融合させる融合工程と、積層・融合物を基本ブロックに配列する空孔に軸方向で挿入する挿入工程で作製された組織アレイブロックをスライスして作製される組織アレイシート。
【請求項4】
組織ブロックよりスライスしてシート状の組織片を得るスライス工程と、シート状の組織片から中空針で一部分をくり抜き採取する採取工程と、中空針内で採取された組織を積層する積層工程と、積層物を融合させる融合工程と、積層・融合物を基本ブロックに配列する空孔に軸方向で挿入する挿入工程で作製された組織アレイブロックをスライスして作製される組織アレイシート。
【請求項5】
後工程として、積層・融合物を基体ブロックに固定する固定化工程を経て作製される請求項3または4記載の組織アレイシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−58099(P2012−58099A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202080(P2010−202080)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】