説明

パイル保持体

【課題】 自立性を有し、その自立性に基づき弾力性や種々の物質の吸収や取り込みの性能の向上及び維持が実現されるパイルが基体上に配設された、パイルマット、清掃用払拭布又はその他の態様のパイル保持体の提供。
【解決手段】 足拭用パイルマットAは、上半部が略半球形状をなし下半部が略円柱形状をなすパイルP(高さ/基部直径の比はほぼ1/1)が、基布S上に多数密設されてなり、各パイルPの基部は、基布Sに結合されている。各パイルPは、0.3デニールの非吸水性のポリエステルフィラメントFを飾り糸とするモール糸Mにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に自立性を有するパイルが配設された、パイルマット、清掃用払拭布、履物又はその他の態様のパイル保持体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第3177833号公報(特許文献1)には、接着性樹脂を有しないパイルと接着性樹脂によって繊維がセットされたパイルが混在するパイル層によって表面が覆われていることを特徴とする足拭きマットの発明が記載されている。
【0003】
この足拭きマットは、セットパイルが剛直な麻糸のように足裏を刺激してサラットした爽快感を与え、使用中に足拭きマットがベトツキ感を帯び難く、頻繁に取り替えずに済むようになるものとされている。
【0004】
特開2003−111708号公報(特許文献2)には、シート状基部の底部の少なくとも主要部に、カットパイルを満遍なく有する拭掃除用のカットパイル部を備えると共に、前記シート状基部の縁部からその外方にわたり、前記カットパイル部により少なくとも主たる拭方向に拭かれる清掃対象面を拭くように多数のループパイルが配設され、前記カットパイル及びループパイルが実質上0.001デニール以上0.5デニール以下の極細繊維からなり、前記カットパイル及びループパイルにおける極細繊維は、少なくともそれらのカットパイル及びループパイルの基部を除く部分が互いに分離状態をなす乾拭き用清掃布の発明が記載されている。
【0005】
また特開2003−111707号公報(特許文献3)には、シート状基部の底部の少なくとも主要部に、カットパイルを満遍なく有する拭掃除用の底部カットパイル部を備えると共に、前記シート状基部の縁部のうち、少なくとも前記底部カットパイル部の主な拭方向に交差する縁部の一つが、底部カットパイル部から側部に連続してカットパイルを備える縁部カットパイル部に形成され、シート状基部の上面部のうち縁部カットパイル部を除く部分に、モップの柄の基部に連結された清掃布保持体の底面側に清掃布を保持するための着脱可能な結合手段を有し、前記カットパイルが実質上0.001デニール以上0.5デニール以下の極細繊維からなり、前記カットパイルにおける極細繊維は、少なくともそのカットパイルの基部を除く部分が互いに分離状態をなすものであり、実質上1デニール以上の太繊維からなるカットパイルにより構成された太繊維カットパイル部を前記シート状基部の底部に部分的に有する水拭き用清掃布の発明が記載されている。
【0006】
これらの乾拭き用清掃布と水拭き用清掃布は、何れも、清掃対象を拭くためのシート状基部の底部の少なくとも主要部に0.001デニール以上0.5デニール以下の極細繊維からなるカットパイルを満遍なく有し、これらのカットパイルにおける極細繊維は、少なくともそのカットパイルの基部を除く部分が互いに分離状態をなすものである。
【0007】
しかしながら、上記足拭きマット並びに乾拭き用清掃布及び水拭き用清掃布におけるパイルは、何れも、自立性や、その自立性に基づく弾力性や種々の物質の吸収や取り込みの性能の向上及び維持について十分に考慮されているとは言い難いものであった。
【特許文献1】特許第3177833号公報
【特許文献2】特開2003−111708号公報
【特許文献3】特開2003−111707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、自立性を有し、その自立性に基づき弾力性や種々の物質の吸収や取り込みの性能の向上及び維持が実現されるパイルが基体上に配設された、パイルマット、清掃用払拭布、履物又はその他の態様のパイル保持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 上記目的を達成する本発明のパイル保持体は、
基体とパイルを備えてなり、前記パイルは、その基部が基体に結合された状態で基体上に配設されているパイル保持体であって、
前記パイルの外形は、基体の表面に対し起立した軸心線を中心とする、少なくとも端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、
前記パイルは、その軸心線の少なくとも基部からほぼ放射状をなすように密に配された繊維製の線条体を多数有し、
前記パイルの基部の基体側を除くパイルの外形の表面部は、前記各線条体の先端部により形成されており、
前記パイルは、その高さ/基部直径の比が1/2乃至3/1であり、基体の表面に対し自立性を有するものであることを特徴とする。
【0010】
パイルの外形は、基体の表面に対し起立した軸心線を中心とする、少なくとも端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、パイルは、その軸心線の少なくとも基部からほぼ放射状をなすように密に配された線条体(例えば各種合成繊維フィラメント、合成繊維若しくは天然繊維ステープル糸等)からなり、パイルの基部の基体側を除くパイルの外形の表面部は、前記各線条体の先端部により形成されていて、パイルの高さ/基部直径の比が1/2乃至3/1と基部直径に比し高さが比較的低い。
【0011】
そのため、パイルは自立性を有すると共に押圧に対し柔軟な弾力性を有し、種々の物質をパイルに吸収したり取り込んだりする性能に優れる。すなわち、パイルにおける線条体の密度は、パイルの表面部から内方部(軸心線の少なくとも基部)に向かうほど高くなり、毛管現象により、パイルの内方部に向かって強い吸液力が作用するので、パイルは、線条体の先端部が位置する表面部から内方部に向かって迅速に比較的多量の液体(汚れ若しくは他の物質を含有しない又は汚れ若しくは他の物質を含有する水又はその他の液体を単に「水」若しくは「水分」又は「液」若しくは「液体」とも言う。)を吸収し得る。而も、そのパイルの自立性、柔軟な弾力性、並びに吸収や取り込み等の性能が長期にわたり維持される。
【0012】
基体の表面に対し起立した軸心線としては、基体の表面に対し垂直状をなす軸心線が最も望ましいが、その他、例えば、基体の表面に対し60度乃至90度程度、又は70度若しくは80度乃至90度程度をなす軸心線を挙げることができる。
【0013】
パイルの外形の例としては、端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、基部側は略円柱形状の回転曲面状をなすもの、基部から端部にわたり端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなすものを挙げることができる。
【0014】
線条体は、パイルの軸心線の少なくとも基部からほぼ放射状をなすように密に配される。すなわち、放射状をなす線条体の中心となるのはパイルの軸心線の少なくとも基部である。軸心線の基部のみが中心となる場合、前述のパイルの外形は、例えば、基部から端部にわたる全体がほぼ端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなすものとなるか、或いは、端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、基部側は略円柱形状の回転曲面状をなし、その基部側の略円柱形状部分は軸線方向寸法が短くなる。軸心線の基部を含む長い部分が中心となる場合、前述のパイルの外形は、例えば、端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、基部側は略円柱形状の回転曲面状をなし、その基部側の略円柱形状部分は軸線方向寸法が長めになる。
【0015】
なお、必ずしも放射状となっていない線条体をパイルに一部含んでいても、直ちに本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0016】
(2) 上記本発明のパイル保持体は、上記パイルの基部における線条体が、基体の表面に対し平行状をなすものであることが望ましい。
【0017】
この場合、パイルの基部における線条体が、基体の表面に対し平行状をなすためパイルの自立を支持する作用を発揮する、パイルは、自立性においてより高く、押圧に対する柔軟な弾力性により富んだものとなる。基体の表面に対し平行状というのは、先端に向かってやや下向きの線条体や先端に向かってやや上向きの線条体を含む。
【0018】
上記各本発明のパイル保持体は、上記パイルの高さ/基部直径の比が1/2乃至1/0.5であることが好ましい。
【0019】
パイルの高さ/基部直径の比が1/2乃至1/0.5である場合、パイルの自立性がより高くなる。なお、パイルの高さ/基部直径の比は、例えば1/0.9乃至1/0.5とすることができる。
【0020】
(3) また、上記各本発明のパイル保持体は、上記パイルが、上記線条体を飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、上記軸心線の少なくとも基部に芯糸を主とする芯部を形成すると共に、少なくとも端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状の表面部を線条体の先端部が形成するものとすることができる。
【0021】
この場合のパイルは、モール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、すなわち、ループ部を構成するモール糸のうち、ループ部の一方の基部から端部までを構成する部分と他方の基部から端部までを構成する部分とが、両部分の芯糸を中心として撚り合わさることにより、パイルの軸心線の少なくとも基部に芯糸を主とする芯部を形成し、その芯部から多数の線条体がほぼ放射状に密に配された状態となり、それらの線条体の先端部が、端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状の表面部を形成する。
【0022】
(4) また上記各本発明のパイル保持体は、上記パイルにおける上記線条体が、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントであるものとすることが望ましい。
【0023】
この場合、パイルの外形は、基体の表面に対し起立した軸心線を中心とする、少なくとも端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、パイルは軸心線の少なくとも基部からほぼ放射状をなすように密に配された0.05乃至0.8デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントからなり、パイルの基部の基体側を除く外形の表面部は、各フィラメントの先端部により形成される。
【0024】
パイルにおけるフィラメントの密度は、パイルの表面部から内方部(軸心線の少なくとも基部)に向かうほど高くなる。そのため、毛管現象により、パイルの内方部に向かって強い吸水力が作用するので、パイルは、フィラメントの先端部が位置する表面部から軸心線の少なくとも基部に向かって迅速に吸水し得る。逆に、吸水したパイルの先端部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、パイルの基部の基体側を除く外形の表面部は非吸水性のフィラメントの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルの表面部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。
【0025】
従って、このパイルは、水分を迅速に吸水し得、且つべとつき感が生じにくい高吸水高乾燥性を実現し得る。而も、パイルを構成するフィラメントが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントがパイルの軸心線の少なくとも基部からほぼ放射状をなすように密に配され、パイルの基部の基体側を除く外形の表面部が各フィラメントの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0026】
(5) 上記非吸水性のフィラメントは、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントであるものとすることができる。
【0027】
また、上記パイル保持体のパイルにおける上記非吸水性のフィラメントは、上記のような効果を奏し得る程度の非吸水性であればよく、例えば、吸水率が20℃相対湿度65%において5%以下であるものとすることができる。
【0028】
(6) 上記各パイル保持体は、上記パイルにより吸水するためのものとすることができる。
【0029】
(7) また上記各パイル保持体は、基体上に上記パイルが多数配設されてなるものとすることができる。
【0030】
更に、基体上に多数配設されたパイルの少なくとも一部のパイル群において、各パイルと、それに隣接する他の2以上のパイルにおける、軸心線の基部同士の間隔/パイルの基部直径の比が1/2乃至3/2であるものとすることができる。
この場合、前記パイル群においてパイルが密設された状態となり、パイルの起立性がより維持されるものとなる。特に、各パイルと、それに隣接する他の2以上のパイルにおける、軸心線の基部同士の間隔/パイルの基部直径の比が1/2以上1/1未満である場合、パイル同士が重なり合ってパイルの密設度が一層高くなり、パイルの起立性がより一層維持されるものとなる。
【0031】
(8) また上記各パイル保持体は、上記基体が基布であるものとすることができる。
【0032】
(9) 本発明のパイル保持体は、例えばマット状をなすもの又はモップ用払拭布等の清掃用の払拭布を構成するものとすることができる。基布が、使用者の手を挿入し得る袋状部に形成され、その袋状部の外側の全体又は部分にパイルを有する払拭具とすることもできる。
更に例えば、本発明のパイル保持体は、各種家具、スリッパ等の履物その他の物に用いることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のパイル保持体は、自立性を有し、その自立性に基づき弾力性や種々の物質の吸収や取り込みの性能の向上及び維持が実現されるパイルが基体上に配設されたものであり、パイルマット、清掃用払拭布、履物又はその他の態様のパイル保持体を構成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
(1) 図1乃至図3は何れも本発明の実施の形態の一例としての足拭用パイルマットについてのものであって、図1は模式的正面図、図2はパイルの模式的拡大横断面図、図3は、モール糸によりパイルを形成する工程の一部を示す模式図である。
【0036】
この足拭用パイルマットAは、上半部が略半球形状(略半球形状部Pa)をなし下半部が略円柱形状をなすパイルP(高さ/基部直径の比はほぼ1/1)が、基布S(基体)上に多数密設されてなり、各パイルPの基部は、基布Sに結合されている。
【0037】
各パイルPは、0.3デニールの非吸水性のポリエステルフィラメントF(線条体)を飾り糸とするモール糸Mにより形成されている。すなわち、図3に示すように、基布Sに対し、モール糸Mによる縫い目によってループ部Rを形成した後、ループ部Rを構成するモール糸Mのうち、ループ部Rの一方の基部から端部までを構成する部分と他方の基部から端部までを構成する部分が、両部分の芯糸Cを中心として撚り合わさる。これにより、図1に示すように、パイルPの軸心線のうち少なくとも下部(基部)に芯糸Cを主とする起立状の芯部Wを形成し、その芯部Wから多数のフィラメントFがほぼ放射状に密に配された状態となり、それらのフィラメントFの先端部が、パイルPの上半部が上端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状の表面部を形成するパイルPを形成したものである。
例えば、強撚モール糸Mを用い、基布Sに対しモール糸Mによるループ部Rを形成した後、熱処理(染色工程における熱処理が好ましい)を行うことにより各ループ部Rがそのモール糸Mの芯糸Cを中心として撚り合わさるものとすることができる。
【0038】
このようなモール糸Mによる縫い目の列を多数並列状に設けることにより、基布S上の所要の面に多数のパイルPが配設された状態とすることができる。そのようにして基布S上の所要の面に多数のパイルPが配設された状態とした場合、モール糸Mによる各縫い目列におけるステッチ(縫い目の間隔)は、何れも、各パイルと、それに隣接する他のパイルにおける、軸心線の基部同士の間隔に対応する。また、ゲージ(隣接する縫い目列同士の間隔)は、隣接する縫い目列の一方におけるパイルと他方におけるパイルの軸心線の基部同士の間隔のうち最小のものに対応する。図1の例では、軸心線の基部同士の間隔(ステッチ)/パイルの基部直径の比は、5/4である。ステッチの位置を含めて縫い目列を多数並列させ、そのゲージを5/4とすることにより、各パイルと、それに隣接する他の2以上のパイルにおける、軸心線の基部同士の間隔/パイルの基部直径の比が5/4で、縦横に整列したパイル保持体が形成される。
【0039】
フィラメントFの長さを、パイルPの基部直径と同等であるか、それよりもやや長い長さとし、芯部Wの高さがパイルPの高さの1/2程度となるようにすることによって、高さ/基部直径の比がほぼ1/1で上半部の外形が略半球形状(略半球形状部Pa)をなし下半部の外形が略円柱形状をなすパイルPを形成し得る。
【0040】
なお、図1の右端のパイルPは、高さ/基部直径の比がほぼ1/2で全体の外形が略半球形状(略半球形状部Pa)をなす。このパイルPは、フィラメントFの長さを、パイルPの基部直径と同等であるか、それよりもやや長い長さとし、パイルPの軸心線の基部が芯部Wとなるようにすることによって形成し得る。
【0041】
基布S上に多数配設されているパイルPは、軸心線の下部の芯部Wから0.3デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントFがほぼ放射状をなすように密に配され、パイルPの基部の基布S側を除く外形の表面部は、各フィラメントFの先端部により形成されていている。
【0042】
パイルPの略円柱形状の下半部においては、基布Sに対しほぼ直立状をなす芯部Wを中心として、はほぼ径方向に放射状をなすようにフィラメントFが密設され且つ軸線方向に密設された状態をなし、パイルPの略半球形状の上半部においては、芯部Wの上端部を中心としてほぼ径方向に放射状をなすようにフィラメントFが密設された状態をなすので、パイルPの基部の基体側を除く何れの部分においても、芯部Wに向かうほどフィラメントFの密度が高くなる。
【0043】
そのため、毛管現象により、パイルPの軸心線の下部の芯部Wに向かって強い吸水力が作用するので、各パイルPは、フィラメントFの先端部が位置する表面部から芯部Wが位置する軸心線の下部に向かって比較的多量の水を迅速に吸水し得る。
【0044】
逆に、吸水したパイルPにおける略半球形状をなす上半部(略半球形状部Pa)の表面部及び略円柱形状をなす下半部の外周面部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略半球形状をなす上半部の表面部及び略円柱形状をなす下半部の外周面部は、非吸水性のフィラメントFの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルPの表面部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。
【0045】
また、パイルPの高さ/基部直径の比がほぼ1/1であって基部直径に比し高さが比較的低く、パイルPの基部におけるフィラメントFが基布Sの表面に対し平行状をなすためパイルPの自立を支持する作用を発揮する。そのため、パイルPは基布Sの表面に対する自立性が高く、押圧に対し柔軟な弾力性に富むと共に、そのパイルPの自立性及び柔軟な弾力性、並びに水分吸収性や表面部の乾燥性等の性能が長期にわたり維持される。
【0046】
従って、このパイルマットAは、パイルPを踏んだ足に対し、パイルPの自立性及び押圧に対する柔軟な弾力性により、適度な刺激を与える。またこのパイルマットAは、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に吸水し得、而もべとつき感が生じにくい高吸水高乾燥性を実現し得ると共に、各パイルPを構成するフィラメントFが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントFがパイルPの軸心線の下部の芯部Wからほぼ放射状をなすように密に配され、略半球形状をなす上半部(略半球形状部Pa)の表面部及び略円柱形状をなす下半部の外周面部が各フィラメントFの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。その上、これらの各機能が、パイルPの自立性により、長期にわたり維持される。
【0047】
フィラメントFは、例えば0.05乃至0.8デニールとすることができ、好ましくは0.1乃至0.5デニール、より好ましくは0.2乃至0.4デニールである。フィラメントFの材質は、ポリエステル系の他、例えば、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントFを用いることができる。
【0048】
芯糸Cは、吸水性糸および/または非吸水性糸とすることができる。芯糸Cの一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントFを融着したモール糸Mの場合、フィラメントFの脱落を確実性高く防ぐことができる。
【0049】
基布Sは、吸水性繊維からなるものとすることができる。各パイルPの基部は基布Sに結合されているので、パイルPが吸収した水分を基布Sが更に吸収することにより、基布S上に配設された多数のパイルPが吸水し得る水分の総量を増大させてパイルPにべとつき感が生じることをより効果的に防ぐことができる。なお、基布Sは必ずしも吸水性繊維からなるものであることを要しない。
【0050】
パイルの形状は、その基部の基体側を除く表面の形状が、例えば、全部が、半球面状、1/2以下、又は1/2以上の球面状又は楕円球面状、放物面状であるものとすることができる。これらは何れも略球面状である。また、パイルの形状は、その基部の基体側を除く表面の形状が、例えば、端部側が半球面状、1/2以下、又は1/2以上の球面状又は楕円球面状、放物面状(すなわち、略球面状)であり、基部側が略円柱形状又は略円錐台形状であるものとすることができる。
【0051】
パイルの高さは、例えば3乃至80mmとすることができる。好ましくは5乃至50mm、より好ましくは8乃至40mmである。
【0052】
パイルマットA又はその他のパイル保持体における複数のパイルは、同一形状及び同一サイズであるものとすることができるが、形状及びサイズが異なる複数種のパイルを備えたものとすることもできる。パイルは基布又はその他の基体に対し密に設けることにより、例えばパイル間に基布又は基体が見えない程度の状態にすることもでき、パイルを基布又は基体に対し等間隔に設けることができるが、必ずしもこれらに限らない。
【0053】
基体としては、基布(例えばフェルト、織布、不織布、編物等)以外に、例えばパイルを設けることが可能なシート状材料(例えば皮革、合成樹脂材料、合成ゴム材料等)を用いることができる。
【0054】
線条体としては、例えば、各種合成繊維フィラメント、合成繊維若しくは天然繊維ステープル糸等を用いることができ、必ずしも非吸水性のフィラメントに限らない。
【0055】
パイルを構成する線条体として非吸水性フィラメント以外の線条体を用いた場合、パイルは自立性を有すると共に押圧に対し柔軟な弾力性を有し、種々の物質をパイルに吸収したり取り込んだりする性能に優れ、線条体の先端部が位置する表面部から内方部に向かって迅速に比較的多量の液体を吸収し得る。而も、そのパイルの自立性、柔軟な弾力性、並びに吸収や取り込み等の性能が長期にわたり維持される。
【0056】
(2) 図4は本発明の実施の形態の一例としての払拭具についての模式的正面図である。
【0057】
この払拭具Bは、上記と同様のパイルP、すなわち端部側(下半部)が略半球形状(略半球形状部Pa)をなし基部側(上半部)が略円柱形状をなすパイルP(高さ/基部直径の比はほぼ1/1)が、基布S(基体)の一方の面(図4における下面)に多数密設されてなるものであり、各パイルPの基部は基布Sに結合されている。
【0058】
基布Sの他方の面(図4における上面)には、モップヘッド(図示せず)の下面に設けられる一方の面ファスナー部材に着脱するための他方の面ファスナー部材Dが設けられている。これにより、払拭具Bをモップヘッドに着脱可能とするものである。なお、モップ用の払拭具の態様はこれに限るものではない。例えば、上面側にモップヘッドの両端部を挿入してモップヘッドに取り付けるための挿入部を備えるものや、払拭部の両側に払拭部を有しないシート状部(基布の一部でもよい)を備え、そのシート状部をモップヘッドの上側に設けた保持部により保持してモップヘッドに取り付けるもの等であってもよい。
【0059】
各パイルPにおいて、毛管現象により軸心線の基部に位置する芯部Wに向かって強い吸水力が作用するので、各パイルPは、フィラメントFの先端部が位置する表面部から芯部Wが位置する軸心線の基部に向かって比較的多量の水(汚れを含有しない又は汚れを含有する水分)を、汚れを含有する場合には汚れと共に、迅速に吸水し得る。水分を吸収した状態のパイルの略円柱形状外周部は比較的乾燥した状態を維持し易い。従って、この払拭具は、ウエット状態若しくはドライ状態での払拭清掃用、或いは、水洗いやウエット払拭清掃後の清掃対象物についての水分拭き取り用等として効果的に使用することができる
【0060】
而も、パイルPは基布Sの表面に対する自立性が高く、押圧に対し柔軟な弾力性に富むと共に、そのパイルPの自立性及び柔軟な弾力性、並びに水分吸収性や表面部の乾燥性等の性能及び払拭清掃性能が長期にわたり維持される。
【0061】
また、各パイルPを構成する線条体が非吸水性のフィラメントである場合、フィラメントが非吸水性であることと、そのフィラメントFがパイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、また、パイルPの略半球形状部PaはフィラメントFが放射状に配されて略凸曲面状をなし、パイルPの略円柱形状外周面及び先端部の略凸曲面状部は各フィラメントFの先端部により形成されているという構造との両者よりして、払拭部の各パイルの洗浄後等における遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0062】
(3) 図5及び図6は、本発明の実施の形態の一例としてのスリッパ(履物の一例)についてのものであって、そのうち図5は模式的縦断面図、図6は模式的拡大横断面図である。
【0063】
このスリッパGは、履いた状態の足が位置する部分(すなわち、スリッパGを履いた状態において足の裏側、甲側の前部、爪先部及び前側部が位置する部分)に臨む箇所の全てが、一方の面に上記と同様のパイルPが多数配設されてなる基布Sにより構成されている。すなわち、スリッパGの底上部G1(爪先内下部G2を含む)及び甲内部G3(爪先内部G4、爪先内上部G5及び前内側部G6を含む)に、基布Sが設けられている。而も、基布SにおけるパイルPは、履いた状態の足が位置する部分に臨むように設けられている。なお本発明の履物は、履いた状態の足が位置する部分に臨む箇所の全てにパイルを有することを必ずしも要しないことは言うまでもない。なお、基布としては、例えばフェルト、織布、不織布、編物等を用いることができ、基布以外に、パイルを設けることが可能なシート状材料(例えば皮革、合成樹脂材料、合成ゴム材料等)を用いてパイルを備えた履物を構成することができる。
【0064】
各パイルPにおいて、毛管現象により軸心線の基部に位置する芯部Wに向かって強い吸水力が作用するので、各パイルPは、フィラメントFの先端部が位置する表面部から芯部Wが位置する軸心線の基部に向かって比較的多量の水を迅速に吸水し得る。水分を吸収した状態のパイルの略円柱形状外周部又は略凸曲面状先端部の外周面部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。
【0065】
また、各パイルPを構成する線条体が非吸水性のフィラメントである場合、フィラメントが非吸水性であることと、そのフィラメントFがパイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、また、パイルPの略半球形状部PaはフィラメントFが放射状に配されて略凸曲面状をなし、パイルPの略円柱形状外周面及び先端部の略凸曲面状部は各フィラメントFの先端部により形成されているという構造との両者よりして、スリッパGの履いた状態の足が位置する部分に設けられている各パイルの外周面部は、更に乾燥した状態を維持し易く、べとつき感がより生じにくい。而も洗浄後等における遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0066】
従って、このスリッパGを履いた場合、底上部G1(爪先内下部G2を含む)及び甲内部G3(爪先内部G4、爪先内上部G5及び前内側部G6を含む)にそれぞれ設けられた多数のパイルP、すなわち、足の裏側、甲側の前部、爪先部及び前側部が位置する部分に臨む多数のパイルPが、湯上り、シャワー、水泳、水遊び、海水浴の後等における濡れた足の水分を迅速に吸水して、スリッパGを履いた状態の足に対し素早く乾燥感を与えることができる。
【0067】
また、このスリッパは、パイルPを踏んだ足に対し、パイルPの自立性及び押圧に対する柔軟な弾力性により、適度な刺激を与える。またこのパイルマットAは、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に吸水し得、而もべとつき感が生じにくいという特性を実現し得、これらの各機能が、パイルPの自立性により、長期にわたり維持される。
【0068】
なお、以上の実施の形態についての記述における構成部品の寸法、個数、材質、形状、その相対配置などは、特にそれらに限定される旨の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】模式的正面図である。
【図2】パイルの模式的拡大横断面図である。
【図3】モール糸によりパイルを形成する工程の一部を示す模式図である。
【図4】払拭具についての模式的正面図である。
【図5】スリッパの模式的縦断面図である。
【図6】スリッパの模式的拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0070】
A パイルマット
C 芯糸
F フィラメント
M モール糸
P パイル
Pa 略半球形状部
R ループ部
S 基布
W 芯部
B 払拭具
D 面ファスナー部材
G スリッパ
G1 底上部
G2 爪先内下部
G3 甲内部
G4 爪先内部
G5 爪先内上部
G6 前内側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体とパイルを備えてなり、前記パイルは、その基部が基体に結合された状態で基体上に配設されているパイル保持体であって、
前記パイルの外形は、基体の表面に対し起立した軸心線を中心とする、少なくとも端部側が端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状をなし、
前記パイルは、その軸心線の少なくとも基部から、ほぼ放射状をなすように密に配された繊維製の線条体を多数有し、
前記パイルの基部の基体側を除くパイルの外形の表面部は、前記各線条体の先端部により形成されており、
前記パイルは、その高さ/基部直径の比が1/2乃至3/1であり、基体の表面に対し自立性を有するものであることを特徴とするパイル保持体。
【請求項2】
上記パイルの基部における線条体が、基体の表面に対し平行状をなす請求項1記載のパイル保持体。
【請求項3】
上記パイルが、繊維製の線条体を飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、上記軸心線の少なくとも基部に芯糸を主とする芯部を形成すると共に、端部に向かって略球面状に縮径する回転曲面状の表面部を前記線条体の先端部が形成するものである請求項1又は2記載のパイル保持体。
【請求項4】
上記パイルにおける上記線条体が、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントである請求項1乃至3の何れか1項に記載のパイル保持体。
【請求項5】
上記非吸水性のフィラメントが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントである請求項4記載のパイル保持体。
【請求項6】
上記非吸水性のフィラメントの吸水率が、20℃相対湿度65%において5%以下である請求項4記載のパイル保持体。
【請求項7】
上記パイルにより吸水するためのものである請求項1乃至6の何れか1項に記載のパイル保持体。
【請求項8】
基体上に上記パイルが多数配設されてなる請求項1乃至7の何れか1項に記載のパイル保持体。
【請求項9】
基体上に多数配設されたパイルの少なくとも一部のパイル群において、各パイルと、それに隣接する他の2以上のパイルにおける、軸心線の基部同士の間隔/パイルの基部直径の比が1/2乃至3/2である請求項8記載のパイル保持体。
【請求項10】
上記基体が基布である請求項1乃至9の何れか1項に記載のパイル保持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−185407(P2009−185407A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25694(P2008−25694)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000178583)山崎産業株式会社 (77)
【Fターム(参考)】