説明

パッシブ型放散フラックスサンプラ及びフラックス測定装置

【課題】 床面、天井、壁面、家具など、測定しようとする部位から放散された化学物質の流量(放散フラックス)を外気(室内空気)の影響を受けることなく、簡単且つ正確に測定できるようにする。【解決手段】 検査対象物(13)に貼り付けられる中空ケース(12)の底面(12a)に、検査対象物(13)から放散される化学物質をケース(12)内に取り込む開口部(14)が形成され、ケース(12)の内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片(15)が開口部(14)に対向して設けられ、ケース(12)には検査対象物(13)に貼り付けたまま試験片(15)の色変化を外部から観察する透明の観察部(12a)を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具、建材などの検査対象物から空気中に放散するホルムアルデヒド等の有害化学物質の放散フラックス(単位面積、単位時間当たりの放散量)を測定するに際し一切の動力、電源を必要とせずに、簡易に測定できるパッシブ型放散フラックスサンプラと、このサンプラを使用して放散フラックスをより正確に測定するフラックス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新築住宅に住む居住者に、頭痛、喉の痛み、眼の痛み、鼻炎、嘔吐、呼吸器障害、めまい、皮膚炎など様々な体調不良が生じている症例が数多く報告され、「シックハウス症候群」と呼ばれて社会的問題となっている。
このシックハウス症候群の発症メカニズムは未解明なところもあるが、主として、住宅内で使用される建材、家具、調度品、カーペット、カーテンなどに含まれるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)やなどの有害化学物質が放散されることによる室内空気汚染であると考えられている。
【0003】
ところで、新築の家などの居住者がこのようなシックハウス症候群に罹ったとき、あるいは新築に限らず高濃度の室内汚染が発見されたとき、どの建材或いは家具から原因物質が放散されているかがわかれば、その建材や家具を交換することによってシックハウス症候群の原因を取り去ることができる。
【0004】
しかしながら、現在、JISに規定される揮発性有機化学物質の放散量の測定方法は、建材の試験片を小型デシケータに入れて測定するデシケータ法であり、また将来的に、建材を入れて測定可能な20〜1000リットルの小型チャンバを使用する小型チャンバ法や、家具・建具を入れて測定可能な大型チャンバを用いる大型チャンバ法の原案作成が急がれているが、何れも、家屋に建て付けられた建材からの放散フラックスを測定することはできない。
【0005】
また、室内空気に含まれる有害化学物質の濃度測定装置は存在するが、この測定装置では有害化学物質の放散フラックスを測定できないため発生源を特定することができない。
このため、最近では、このような濃度測定装置にアタッチメントを取り付けて、壁、天井、床など任意の場所から放散される化学物質放散量測定装置が提案されている。
[特許文献1]特開2002−162322号
【0006】
図5はこのような従来の測定装置41を示し、ボックス状に形成されたアタッチメント42の底面が開口部43に形成され、側面44にフィルタなどを設けた清浄空気導入口45が形成されると共に、上面に空気導出口46が形成され、空気を自動吸引してその空気中に含まれる化学物質の濃度を測定する濃度測定装置47が空気導出口46に接続されている。
そして、アタッチメント42の開口部43を壁面、天井面、床面等の検査対象部位に当接させた状態で、濃度測定装置47により空気を吸引させれば、壁面などから放散された有害化学物質が前記濃度測定装置47により計測される。
【0007】
しかしながら、濃度測定装置47の空気吸引量との関係で、ボックス41の縦×横×高さ=20cm×20cm×30cmと大型であるため、持ち運びに不便で、且つ、高価であることから、通常は一台の測定装置41で測定することとしている。
したがって、屋内において多数点での測定が必須となる発生源の特定には長時間の調査を要する。
例えば、一つの部屋の中で化学物質の発生源を特定しようとすると、少なくとも、壁、天井、床、室内ドア、クローゼット内など複数箇所について測定しなければならない。この場合に、一台の測定装置41で測定するには、順次測定していかなければならず、1箇所の測定に最低30分程度を要するため、一軒の新築家屋についてその全部屋を隈なく測定しようとすると、時間と手間がかかるという問題があった。
【0008】
また、アタッチメント42の開口部43が20cm×20cmと大きいため、少なくともその大きさの平面がある場所でなければ測定できず、高さが30cmもあるため、建物の構造上、狭くなっている部分は測定することができないという問題があった。
【0009】
しかも、アタッチメント42は内側がステンレス貼りで重いので、天井や壁面に固定することが極めて困難で、実際には、床面しか測定することができないだけでなく、側面44に形成された清浄空気導入口45から外気(室内空気)を取り入れる構造となっているため、室内空気が化学物質で既に汚染されている場合に、その化学物質がフィルタで除去できずにアタッチメント内に侵入する可能性があるため、測定結果の信頼性が低いという問題もある。
【0010】
さらにこの方法では導出口46から空気を自動吸引して濃度を測定するいわゆるアクティブ法によるものであるから、開口部43が当接されている壁面、天井面、床面等の検査対象部位表面の空気流動状態が通常の状態とは異なる。
すなわち通常の使用状態に比べて、検査対象部位表面の空気の流速が早くなるので、有害化学物質の拡散機構は検査対象物表面近傍のガス拡散支配から検査対象部位内部の拡散支配に変化する。
したがって、このようなアクティブ法で測定した場合、その測定結果は、通常使用状態での放散フラックスと異なることがあるので、最近では、検査対象部位表面の空気流動状態を通常の状態に維持したまま測定できるパッシブ法が推奨されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、床面はもちろん天井でも、壁面でも、狭い場所でも、測定しようとする部位から放散された化学物質の放散流量(放散フラックス)を外気(室内空気)の影響を受けたり、測定部位表面の流動状態を乱すことなく、簡単且つ正確に測定できるパッシブ型放散フラックスサンプラを提供することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するために、本発明に係るパッシブ型放散フラックスサンプラは、検査対象物から空気中に放散する特定の化学物質の放散フラックスを測定するために、中空ケースの底面に、該底面を検査対象物に貼り付けた状態でその検査対象物から放散される化学物質を該ケース内に取り込む開口部が形成され、ケース内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片が前記開口部に対向して設けられ、前記中空ケースがガスバリア性を有することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る放散フラックス測定装置は、特定の化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片を用いたパッシブ型放散フラックスサンプラを用いて放散フラックスを測定するもので、フラックスサンプラは、中空ケースの底面に、該底面を検査対象物に貼り付けた状態でその検査対象物から放散される化学物質を該ケース内に取り込む開口部が形成され、ケース内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片が前記開口部に対向して設けられてなり、所定時間反応させたフラックスサンプラを位置決めするセッティングステージが形成された遮光室に、そのフラックスサンプラの試験片に測定光を照射する光源と、前記フラックスサンプラの試験片からの反射光強度を検出する光センサが配され、前記光センサで検出された反射光強度に基づき放散フラックスを算出する演算処理装置を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るパッシブ型放散フラックスサンプラによれば、ケース内に水を滴下して試験片を湿らせた後、ケースの底面を、壁面、天井面、床面など任意の検査対象物の検査部位に貼付固定しておけば、検査対象物にホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)などの有害物質が含まれている場合、その有害物質が開口部から測定チャンバ内に侵入して試験片に達するので、有害物質の放散フラックス(放散流量)に応じて試験片が変色する。
したがって、所定時間経過したときの試験片の色を、予め放散フラックスに応じて作成したカラーチャートと比較することにより、その検査部位からの有害物質の放散フラックスを測定することができ、開口部の開口面積と建材全体の面積の比に基づいて、その建材全体から排出される総放散量を算出することもできる。
この場合において、試験片の変色反応を利用して、その色変化を観察することにより放散フラックスを測定しているので、測定に際し一切の動力、電源を必要としない。
【0015】
このとき、中空ケースはガスバリア性を有し、開口部が形成された底面は検査対象物に貼り付けられてケース内は外気から遮断されているので、室内空気が有害物質により汚染されていても、その影響を受けることなく検査対象物から放散された有害物質の放散フラックスのみを正確に検出することができる。
【0016】
さらに、動力を用いた空気の吸引によって対象有害物質を試験片に輸送するアクティブ法ではなく、自然状態で生じる対象有害物質の分子拡散によって試験片まで有害物質を輸送するパッシブ法を利用しているので、表面の流動状態を測定によって乱すことがなく、通常の使用状態での放散フラックスを正確に測定することができる。
【0017】
なお、中空ケースをガスバリア性の低いプラスチック等で形成する場合は、ケースの内面又は外面のいずれか一方にDLC膜などのガスバリア膜を形成しておくことにより、有害物質の透過率をより低く抑えることができる。
また、サンプラの大きさは任意であるが、縦横5mm〜1cm程度の方形試験片を使用する場合、中空ケース外形の大きさは、せいぜい縦×横×厚さ=2cm×2cm×3mm程度で足り、どんな狭いところでも両面粘着テープなどを使用して簡単に貼付固定することができる。
さらに、個々のサンプラの構造は極めて簡単で、その製造コストも安価であるので、複数のサンプラを夫々の測定箇所に貼付固定することにより、同時に放散フラックスを測定することができる。
【0018】
なお、放散フラックスは、所定時間経過したときの試験片の色をカラーチャートと比較して測定する場合に限らず、試験片の色を光学的に測定し、これに基づいて算出すれば、より正確に測定することができる。
この場合、所定時間反応させたフラックスサンプラを測定装置の遮光室に形成されたセッティングステージにセットすれば、光源から照射された測定光が観察部に照射され、その反射光強度が光センサで検出される。
反射光強度は試験片の色に対応し、試験片の色は放散フラックスに対応する。
したがって、予め放散フラックスと反射光強度の関係を求めておけば、検出された反射光強度から放散フラックスを正確に算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、測定しようとする部位から放散された化学物質の流量を外気(室内空気)の影響を受けることなく、簡単且つ正確に測定できるようにするという課題を、電気的な測定装置を使用することなく、極めて簡単な構成のサンプラを用いることにより実現した。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本発明に係るパッシブ型放散フラックスサンプラの一例を示す断面図である。
【0021】
本例のパッシブ型放散フラックスサンプラ1は、建材等の検査対象物3に含まれるホルムアルデヒド(化学物質)が空気中に放散されるときの放散フラックス(放散流量)を測定するものであって、ガスバリア性を有する偏平中空ケース2の底面2aに、検査対象物3から放散されるホルムアルデヒドをケース2内に取り込む開口部4が形成され、ケース2の内面には、ホルムアルデヒドと湿潤環境下で変色反応を呈する試験片5が前記開口部4に対向して設けられている。
また、底面2aに対して反対側の面が試験片5の色変化を外部から観察する観察部2bとなっている。
【0022】
試験片5は、例えば1cm×1cm程度の大きさの紙製基材シートに発色剤となるINT(p−ヨードニトロテトラゾリュウムバイオレット)と、反応触媒となるデヒドロゲナーゼ及びジアフォラーゼの二種類の酵素が担持されている。
これにより、水に濡らした試験片5にホルムアルデヒドが接すると、デヒドロゲナーゼによりホルムアルデヒドの水素が脱離されて、蟻酸とNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に分解され、そのNADHとINTがジアフォラーゼにより反応してINTが減ることにより発色する。
【0023】
開口部4と試験片5の間には、検査対象物3の表面と試験片5との間に一定の距離(例えば1mm)を確保する所定厚さの通気性スペーサ6が設けられており、検査対象物3から放散されたホルムアルデヒドを試験片5に到達させることができる多孔質材料で形成されたり、多数の通気孔を穿設した金属及びプラスチックなどで形成されている。
【0024】
また、ケース底面2aには両面テープ等の粘着層7が形成されており、検査対象物3の表面に貼付固定したときに、試験片5が通気性スペーサ6に押し当てられ、且つ、通気性スペーサ6が検査対象物3の表面に押し当てられて、ケース2と検査対象物3の間に隙間を生じないように通気性スペーサ6の厚さが選定されている。
【0025】
そして、例えば、ケース2全体の大きさが、縦×横×厚さ=2cm×2cm×3mm程度に形成され、凹部5の大きさが、縦×横×深さ=1cm×1cm×1.5〜2mm程度に形成されている。
この程度の厚さのプラスチック製ケース2を用いた場合、ホルムアルデヒドはそのプラスチックを透過してしまうので、対ホルムアルデヒドのガスバリア性を高めるために、ケース2の外面又は内面の少なくとも一方に透明のDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)、シリカ蒸着膜などのガスバリア膜8が形成され、本例ではDLC膜が形成されている。
DLC膜はホルムアルデヒドに対するガスバリア性が極めて高いので、安価でガス等バリア性の低いプラスチックで中空ケース2を形成しても、室内空気に含まれるホルムアルデヒドがケース2を透過して試験片5を変色させることがなく、検査対象物3から放散されたホルムアルデヒドの放散フラックスのみを正確に測定できる。
なお、中空ケース2はプラスチック製に限らずガラスその他任意の材料を使用することができ、ガラスのようなガスバリア性の高い材料を使用した場合は、ガスバリア膜を形成する必要はない。
【0026】
以上が本発明の、一構成例であって、次にその作用について説明する。
まず、気密保存していたパッシブ型放散フラックスサンプラ1の通気性スペーサ6側から水を滴下して試験片5を濡らしておく。
次いで、壁面、床面、天井面、家具の表面など検査対象物3に対し、通気性スペーサ6側を向けてケース2を粘着テープなどにより貼付固定する。
そして、このまま所定時間放置すれば、検査対象物3から放散されたホルムアルデヒドが通気性スペーサ6を透過して、一定距離隔てられた試験片5に分子拡散によって到達する。
したがって、放散フラックスが多いときは発色反応が促進されて試験片5は濃赤紫色を呈し、放散フラックスが少ないときは発色反応により試験片5は淡赤紫色を呈する。
【0027】
このように試験片5の色が変化するので、所定時間経過したときの色を予め放散フラックスに応じて作成しておいたカラーチャートと比較することにより、その検査対象物3の検査部位からの有害物質の放散フラックスを測定することができる。
また、同一材料であれば、その他の部位の放散フラックスも同量と予想できるので、通気性スペーサ6の面積と検査対象物3の表面積との比に基づいて総放散量を算出することもできる。
この場合において、試験片5の変色反応を利用して、その色変化を観察することにより放散フラックスを測定しているので、測定に際し空気を吸い込んだりする必要もなく、一切の動力、電源を必要としない。
【0028】
このとき、試験片5と通気性スペーサ6が積層状態でケース2により覆われており、外気から遮断された状態で検査対象物に当接されるので、室内空気が有害物質により汚染されていても、その影響を受けることなく検査対象物から放散された有害物質のみを正確に検出することができる。
また、通気性スペーサ6により、試験片5と検査対象物3との間に一定距離のスペースが確保されるので、常に同一条件で測定することができる。
さらに、対象有害物質を分子拡散によって試験片まで輸送しているので、測定部位の表面の流動状態を測定によって乱すことがなく、通常の使用状態での放散フラックスを正確に測定することができる。
ケース2は、その外面又は内面の片方又は双方にDLC膜8が形成されてホルムアルデヒドに対するガスバリア性が高いので、室内空気に含まれるホルムアルデヒドがケース2を透過して試験片5を変色させることがなく、検査対象物3から放散されたホルムアルデヒドの放散フラックスを正確に測定できる。
【0029】
さらに、サンプラ1は上述したように極めて小型に形成できるので、どんな狭いところでも粘着テープなどを使用して簡単に貼付固定することができる。
また、個々のサンプラ1の構造は極めて簡単で、その製造コストも安価であるので、複数のサンプラ1を夫々の測定箇所に貼付固定することにより、多数の測定点における放散フラックスを同時に測定することもできる。
【実施例2】
【0030】
図2は本発明に係るパッシブ型放散フラックスサンプラの他の実施形態を示す説明図である。
本例のパッシブ型放散フラックスサンプラ11は、ガスバリア性を有する中空ケース12が中空円板型に形成され、その底面12aに、該底面12aを検査対象物13に貼り付けた状態でその検査対象物13から放散される化学物質をケース12内に取り込む開口部14が形成され、ケース12の内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片15が前記開口部14に対向して貼り付けられている。
【0031】
これによって、フラックスサンプラ11を検査対象物13に貼り付けた状態で、検査対象物13の表面から試験片15までの距離を一定に維持できる。
また、中空ケース12は、検査対象物13に貼り付けたままの状態で試験片15の色変化を外部から観察できるように全体が透明に形成されており、底面12aの反対面側が試験片15を裏面から観察する観察部12bとなっており、その外周縁には貼付け・取外しを容易に行い得るようにフランジ12cが形成されている。
【0032】
ケース12内には、環状の保水紙(保水材)16が、開口部14から試験片15に至る流路を囲むように配されており、測定時に開口部14からケース12内に水滴を滴下することによりその水滴を吸引し、試験片15を湿潤環境に維持する。
また、開口部14には、その端縁からケース12の内側に延びる環状リブ17が形成されており、開口部14から滴下された水滴が表面張力で滞ることなく保水紙16に案内されると共に、検査対象物13から放散される化学物質を開口部14に対向して設けられた試験片15に真っ直ぐに導いてその放散量に応じた変色反応をより正確に生じさせるようになっている。
【0033】
本例では、中空ケース12が、厚さ0.5mm程度のプラスチックで、直径×厚さ=2cm×3mm程度、開口部14の直径が5mm程度に形成されている。
この程度の厚さのプラスチック製ケース12を用いた場合、ホルムアルデヒドはそのプラスチックを透過してしまうので、対ホルムアルデヒドのガスバリア性を高めるために、ケース12の外面又は内面の少なくとも一方に透明のDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)、シリカ蒸着膜などのガスバリア膜18が蒸着され、本例ではDLC膜が形成されている。
DLC膜はホルムアルデヒドに対するガスバリア性が極めて高いので、室内空気に含まれるホルムアルデヒドがケース12を透過して試験片15を変色させることがなく、検査対象物13から放散されたホルムアルデヒドの放散フラックスのみを正確に測定できる。
なお、中空ケース12はプラスチック製に限らずガラスその他任意の材料を使用することができ、ガラスを使用した場合はもともとガスバリア性が高いので、ガスバリア膜を形成する必要はない。
【0034】
そして、中空ケース12の底面12aには、開口部14の周囲に環状の接着層19が形成され、保存状態でケース12内に湿気が入らないように、その接着層19に円形アルミシート20が貼り付けられて開口部14が気密に封止されている。
【0035】
このフラックスサンプラ11を用いて測定する場合、アルミシート20を剥がして、開口部14からケース12内に水滴を滴下し、試験片15を湿潤させると共に、測定中に試験片15を湿潤環境に維持するように保水紙16を湿らしておく。
このとき、開口部14には環状リブ17が形成されているので、水滴がその表面張力により開口部14の端縁に滞ることがなく、スムースにケース12内に流入する。
【0036】
次いで、ケース底面12aを壁面、床面、天井面、家具など任意の検査対象物13に貼り付ける。
この場合において、開口部14が下向きになるように貼り付けても、ケース12内の水滴が開口部14に形成された環状リブ17に堰き止められるので、開口部14から流れ出すことがない。
【0037】
この状態で、検査対象物13から放散される化学物質が開口部14を通り、ケース12内に取り込まれ、環状リブ17で形成された流路に案内されて、その正面に配された試験片15に達する。
そして、予め設定された所定時間(30分〜2時間)経過すると、放散フラックスが多いところは試験片15が濃赤色に変化し、少ないところは淡赤色に変化し、0に近いところはほとんど変化しない。
したがって、前述同様、試験片15の色に応じて放散フラックスを測定することができる。
【0038】
図4は、本発明に係る放散フラックスを算出する放散フラックス測定装置を示す。
本例の測定装置21は、上述したフラックスサンプラ11を用いて放散フラックスを測定するもので、遮光蓋22の内側に試験片15の色変化を光学的に測定する遮光室23が形成されると共に、検出された色変化に基づき放散フラックスを算出する演算処理装置24と、その値を表示する液晶ディスプレ25を備えている。
【0039】
遮光室23内には、フラックスサンプラ11を位置決めするセッティングステージ26と、そのフラックスサンプラ11の観察部12bに測定光を照射する光源27と、前記フラックスサンプラ11の観察部12bからの反射光強度を検出する光センサ28が配されている。
【0040】
セッティングステージ26にフラックスサンプラ11をその観察部12bを下向きにしてセットすると、セッティングステージ26下方に配された光源27から試験片15の位置に測定光が照射される。
試験片15はホルムアルデヒドと反応して赤〜赤紫系に変色するので、光源27はその補色関係にある緑系の光を測定光として出力するLEDが用いられ、本例では測定光の中心波長が555nmに選定されている。
【0041】
また、光センサ28としては、波長500〜600nmにピーク感度を有するホトダイオードが使用されており、ホルムアルデヒドの放散フラックスが多いときは試験片15が濃色に変化して測定光が吸収されるので、光センサ28で検出される反射光強度が低下し、放散フラックスが少ないときは試験片15の変色が少なく測定光の吸収が少ないので反射光強度が相対的に高くなる。
【0042】
演算処理装置24では、反射光強度に基づき変色に伴う吸光度を算出し、吸光度に基づき放散量を算出する。
まず、吸光度Pは次式により算出する。
P=[1−V/V]×100(%)
:反応前の試験片15若しくは基準白色の反射光強度
:反応後の試験片15についての反射光強度
【0043】
そして、吸光度−放散量変換テーブル29に、既知の基準放散量Fnで測定されたサンプラ11の吸光度Pnに基づき放散量Fnと吸光度Pnの関係を記憶させておき、反応後のフラックスサンプラ11ついて算出された吸光度Pに基づいて、吸光度−放散量変換テーブル29を参照し放散量Fが求められる。
ここで、吸光度−放散量変換テーブル29は、Fn=f(Pn)の関数で表わされる場合であっても、その変換値を数表化して記憶している場合であっても良い。
【0044】
このようにすれば、放散量Pは数値として出力することができるので、試験片15の微妙な色変化について、カラーチャートとの比較が困難な場合であっても、正確に放散量を算出することができる。
【0045】
なお、ケース12に透明の観察部12bが形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限らず、不透明であってもよく、この場合に測定装置21を用いて光学的に測定する場合は、開口部14側から試験片15に測定光を照射すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上述べたように、本発明は、ホルムアルデヒドの放散フラックスを測定することはもちろんのこと、本発明はこれに限らず、試験片に含浸させる試薬を任意に選択することにより、その他の揮発性有機化合物(VOC)などの化学物質の放散フラックスを測定する用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
[図1]本発明に係るパッシブ型放散フラックスサンプラの説明図。
[図2]他の実施形態を示す説明図。
[図3]その分解構成図。
[図4]本発明に係る放散フラックス測定装置を示す説明図。
[図5]従来装置を示す説明図。
【符号の説明】
【0048】
1、11 パッシブ型放散フラックスサンプラ
2、12 ケース
2a、12a 底面
2b、12b 観察部
3、13 検査対象物
4、14 開口部
5、15 試験片
6 通気性スペーサ
7、19 粘着層
8、18 DLC膜
16 保水材
17 環状リブ
21 放散フラックス測定装置
22 遮光蓋
23 遮光室
24 演算処理装置
25 液晶ディスプレイ
26 セッティングステージ
27 光源
28 光センサ
29 吸光度−放散量変換テーブル
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物から空気中に放散する特定の化学物質の放散フラックスを測定するパッシブ型放散フラックスサンプラであって、
中空ケースの底面に、該底面を検査対象物に貼り付けた状態でその検査対象物から放散される化学物質を該ケース内に取り込む開口部が形成され、ケース内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片が前記開口部に対向して設けられ、前記中空ケースがガスバリア性を有することを特徴とするパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項2】
検査対象物から空気中に放散する特定の化学物質の放散フラックスを測定するパッシブ型放散フラックスサンプラであって、
中空ケースの底面に、該底面を検査対象物に貼り付けた状態でその検査対象物から放散される化学物質を該ケース内に取り込む開口部が形成され、ケース内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片が前記開口部に対向して設けられ、前記ケースには、前記試験片の色変化を外部から観察する透明の観察部が形成されていることを特徴とするパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項3】
前記中空ケースがガスバリア性を有する請求項2記載のパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項4】
前記中空ケースの外面又は内面の少なくとも一方にガスバリア膜が形成されて、中空ケースにガスバリア性を持たせた請求項1又は3記載のパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項5】
前記中空ケース内に、前記試験片を湿潤環境に維持する保水材が配されて成る請求項1乃至3記載のパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項6】
前記開口部の端縁からケース内側に延びる環状リブが形成された請求項1乃至3記載のパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項7】
前記開口部と試験片の間に一定の距離を確保する所定厚さの通気性スペーサが設けられた請求項1乃至3記載のパッシブ型放散フラックスサンプラ。
【請求項8】
特定の化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片を用いたパッシブ型放散フラックスサンプラの放散フラックス測定装置であって、
前記フラックスサンプラは、ガスバリア性を有する中空ケースの底面に、該底面を検査対象物に貼り付けた状態でその検査対象物から放散される化学物質を該ケース内に取り込む開口部が形成され、ケース内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片が前記開口部に対向して設けられ、
所定時間反応させたフラックスサンプラを位置決めするセッティングステージが形成された遮光室に、そのフラックスサンプラの試験片に測定光を照射する光源と、前記フラックスサンプラの試験片からの反射光強度を検出する光センサが配され、
前記光センサで検出された反射光強度に基づき放散フラックスを算出する演算処理装置を備えたことを特徴とする放散フラックス測定装置。
【請求項9】
特定の化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片を用いたパッシブ型放散フラックスサンプラの放散フラックス測定装置であって、
前記フラックスサンプラは、中空ケースの底面に、該底面を検査対象物に貼り付けた状態でその検査対象物から放散される化学物質を該ケース内に取り込む開口部が形成され、ケース内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片が前記開口部に対向して設けられ、前記ケースには、前記試験片の色変化を外部から観察する透明の観察部が形成され、
所定時間反応させたフラックスサンプラを位置決めするセッティングステージが形成された遮光室に、そのフラックスサンプラの観察部を介して前記試験片に測定光を照射する光源と、前記フラックスサンプラの試験片からの反射光強度を検出する光センサが配され、
前記光センサで検出された反射光強度に基づき放散フラックスを算出する演算処理装置を備えたことを特徴とする放散フラックス測定装置。

【国際公開番号】WO2005/066625
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516795(P2005−516795)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014930
【国際出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【特許番号】特許第3839039号(P3839039)
【特許公報発行日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(504014060)
【出願人】(502435834)ふくはうちテクノロジー株式会社 (5)
【出願人】(506050123)有限会社ヴェリタスシステム開発 (2)
【Fターム(参考)】