説明

パネル部品の把持装置

【課題】 パネル部品を把持する際、パネル部品の機種等が変更になっても対応でき、簡素な構成でありながら常に確実な姿勢で把持できるようにすると同時に、処理に時間がかからないようにする。
【解決手段】 パネル部品に形成される所定ピッチ間隔の共通の3ヶ所のピン孔pを把持するため、把持装置1の3ヶ所に、それぞれロック付きシリンダ5によって位置調整可能なチャック部材6を設け、ピン孔pに対する挿入方向に対して独自に位置調整可能にする。そして、取扱うパネル部品の機種等が変わった場合は、チャック部材6をピン孔pに対する挿入方向に対してフリーにしておき、機種切換え用部材10の機種に応じた3ヵ所の基準ブロック10kに、チャック部材6近傍の台座リング8の基準面8aを当接させ、この状態でチャック部材6をロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両組立工程においてドアパネルのようなパネル部品を把持する把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両のドアパネル等のパネル部品は、機種によって形状が異なり、しかも複雑な凹凸を有するため、これを把持する把持機構は機種によって交換する必要があり、生産性の低下を招いていることから、1台の把持装置で複数機種のパネルを把持できるようにして汎用性を持たせるような技術が知られている。
例えば、特許文献1の技術では、多種類のドアパネル部品に予め共通ピッチの3ヶ所のピン孔を設けておき、このピン孔の位置に対応させて設けた3ヶ所の爪チャックのうち、一ヶ所の爪チャックを位置決め基準用とし、他の2ヶ所の爪チャックを拡径自在な分割構造にするとともに、この2ヶ所の爪チャックの外周部に凹凸の山切り形状のチャック部を軸方向に沿って形成しておき、ピン孔の位置が軸方向に異なっていても、それを吸収できるような装置を提案している。
また、ドアパネルを溶接するような際にワークを3点支持しておくようなクランプ装置において、3ヶ所の位置決めピンをピン挿通孔に挿入し、各位置決めピンがピン挿入孔に正しく挿入されたことをエア噴出検知で検知した状態でワークを掴持するような技術(例えば、特許文献2参照。)なども知られている。
【特許文献1】特開2005−125456号公報
【特許文献2】特開2003−230964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前記特許文献1の技術の場合、1ヶ所の爪チャックを位置決め基準用とし、他の2ヶ所の爪チャックで軸方向の誤差を吸収するようにしているため、ピン孔の相対高さが異なるワークの場合でも把持できるという利点はあるものの、ドアパネルの姿勢が傾いて所定箇所のピン孔に軸方向のズレが生じている場合にも把持してしまい、搬送する際にワークを損傷させるような不具合が生じ得た。
また、特許文献2の場合、各位置決めピンが確実にピン挿入孔に挿入されたことが、エア噴出検知センサで検知されないとワークが把持されないため、スピードを上げることができず、ある程度の処理速度が必要とされる工程には適用しにくく、また装置構成が複雑で設備費がかかるという問題があった。
【0004】
そこで本発明は、ドアパネル等のパネル部品を搬送したり、所定位置に位置決めしておくような把持装置において、パネル部品の機種が変更になっても対応でき、簡素な構成でありながら常に確実な姿勢で把持できるようにするとともに、ある程度の速度を持って処理できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明は、パネル部品の複数箇所に所定ピッチで共通して形成されるピン孔にそれぞれチャック部材を挿入して把持するパネル部品の把持装置において、前記チャック部材を、前記パネル部品のピン孔に対する挿入方向に対して独自に位置調整可能にした。
【0006】
ここで、パネル部品の複数箇所に所定ピッチでピン孔を形成し、この所定ピッチの間隔を機種等によって共通にしておくことにより、ピン孔の位置に合わせて配置したチャック部材をパネル面と平行方向に移動させる必要はなくなるが、パネル面と垂直方向(ピン孔に対する挿入方向)についてはパネル面の凹凸形状により違いが生じるため、チャック部材の位置を同方向に調整する必要がある。このため、機種等に応じて各チャック部材を独自にピン孔に対する挿入方向に移動調整できるようにしておく。
そして、取扱う機種等が変更になったとき、その機種等に合わせてチャック部材の位置を変更すれば、簡易に対応でき、しかもチャック部材によってピン孔を正確に把持できる。
【0007】
また本発明では、前記チャック部材の位置調整を、取扱うパネル部品の機種等に応じて予め準備される機種切換え用部材の基準ブロックにチャック部材近傍の基準面を当接させて行うようにした。
すなわち、この機種切換え用部材としては、パネル部品の面形状のうち、少なくともピン孔の位置に対応する箇所の凹凸状態については忠実に再現されているような基準ブロックを機種等ごとに準備しておく。そして、このような機種切換え用部材に対して、各チャック部材をピン孔の挿入方向に対して自由に移動できるようフリーの状態にしておき、この状態でチャック部材近傍の基準面を機種切換え用部材の基準ブロックに押し当てることで、チャック部材の位置が自動的に決定されるようにし、その状態でチャック部材の位置を固定すれば、その機種等に対してはチャック部材の位置は適切なものとなる。また、装置構成が簡素で安価となる。
【発明の効果】
【0008】
パネル部品の複数箇所に所定ピッチでピン孔を形成し、この所定ピッチの間隔を機種等によって共通にするとともに、このピン孔の位置に合わせて配設したチャック部材を独自にピン孔に対する挿入方向に位置調整できるようにすることで、取扱うパネル部材の機種が変更になっても容易に対応することができ、汎用性が増すとともに、ピン孔を正確に把持することができる。この際、機種切換え用部材の基準ブロックを使用してチャック部材の位置調整を行えば構成が簡素となり、安価に構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで、図1は本発明に係る把持装置の斜視図、図2はチャック部材のチャック構造の一例の説明図、図3は前後のドアパネルの説明図、図4はチャック部材の位置調整の一例の説明図、図5は機種切換え用部材の一例を示す平面図、図6は本把持装置でドアパネルを把持した状態の説明図である。
【0010】
本発明に係るパネル部品の把持装置1は、例えば車両のドアパネルを把持して搬送あるいは位置決めしておくような場合、取扱う機種や種類が変わった場合でも対応することができるような汎用性を持たされており、簡素な構成でありながら、確実に把持できるとともに、迅速に処理できるようにされており、図1に示すように、ロボットハンド2先端の支持プレート3に取り付けられる3個のチャックユニット4を備えている。
【0011】
そして各チャックユニット4には、エア圧で駆動されるロック付きシリンダ5と、このロック付きシリンダ5により進退動自在なチャック部材6が設けられ、このチャック部材6は、ロック付きシリンダ5により進退ストローク中の任意の位置でロックすることができるようにされている。
【0012】
また、このチャック部材6は、後述するドアパネルのインナパネルに形成されるピン孔pの平面的な位置に合わせたピッチ間隔で配置されるとともに、チャック部材6の内部には、図2の破線に示すように、カム機構あるいはその他の任意の手段で出没自在なチャック爪7が内蔵されている。
そしてこのチャック爪7は、ピン孔p内にチャック部材6を挿入した後、チャックユニット4の台座リング8がインナーパネルに当接すると、鎖線に示すように、カム機構あるいはその他の任意の手段によって揺動しながら後退し、インナパネルのピン孔p周辺の内側縁部を挟み込んでクランプできるようにされている。
また、台座リング8はチャック部材6と一体的に進退動するようにされ、また、台座リング8の先端面は基準面8aとされている。
【0013】
ここで、ドアパネルについて説明すると、図3に示すように、フロントドアWf(図3(a))、リアドアWr(図3(b))ともに、インナパネルの所定箇所に一定のピッチ間隔のピン孔pが3ヶ所設けられている。そしてこの3個所のピン孔pの平面的な位置は、フロントドアWfとリアドアWrとでは位相が異なるだけで共通化が図られている。また、車両の機種が異なる場合でも、ある機種の範囲内では3ヵ所のピン孔pの位置の共通化が図られている。ただし、表面の凹凸形状については両者の形状は異なっており、図3の紙面垂直方向についてはフロントドアWfの3ヶ所のピン孔pの位置の突出量と、リアドアWrの3ヶ所のピン孔pの位置の突出量とは異なっている。
【0014】
そこで、チャック部材6をピン孔pに対する挿入方向について移動調整し、機種等に応じて適切に把持できるようにするため、本発明では図4、図5に示すような機種切換え用部材10により位置調整するようにしている。
【0015】
この機種切換え用部材10は、本実施例では、図5に示すように、4機種のフロント、リアドアに対応して合計8通りの設定ができるよう、ピン孔pの位置のパネルの突出量に対応した高さの基準ブロック10kが所定の位相で円周上に並べられて、ブロックプレート10pに対してボルト等で着脱自在にされており、一つの機種切換え用部材10で、4機種の車両のフロントドアとリアドアに対する調整ができるようにされている。また、各基準ブロック10kの中央部には、チャック部材6と干渉を避けるための穴hが形成されている。
【0016】
そして、この調整方法については、図4に示すように、ロック付きシリンダ5のロックを外してチャック部材6を進退方向にフリーにしておき、当該機種等に応じた基準ブロック10kに位相合わせした後、把持装置1を降下させる。すると、チャック部材6が基準ブロック10kの穴hに入り込んだ後、台座リング8の基準面8aが基準ブロック10kの上面に当接して、パネルの突出量に応じて自動的に適切な位置に調整されるようになり、その状態でチャック部材6の位置をロック付きシリンダ5でロックすれば、簡単に調整が完了する。
なお、この際、基準ブロック10kの高さを可変にするようにしてもよい。こうすることにより、最低1個の基準ブロック10kを設置するだけでも位置調整可能になり、また3個の基準ブロック10kを設置するようにすれば、簡単に各機種に対応させることができる。この際、基準ブロック10kを昇降させるための機構は任意であり、例えば、ラックアンドピニオン形式でもよく、ネジ方式により基準面を回動させながら上下動させるようなものでもよい。
【0017】
以上のような把持装置1において、車両の機種や左右のドア等の取扱うワークのタイプに合わせてチャック部材6の位置を調整し固定する。そして、ドアパネルWを把持する際は、図6に示すように、各チャック部材6をピン孔pに挿入し、各チャック部材6に内蔵されるチャック爪7を揺動させてピン孔p周縁をロックして把持する。この際、台座リング8などに近接センサ或いは接触センサを設けておけば、ワークがズレているような場合には検知され、常に確実な姿勢で把持することができる。
【0018】
そして、取扱う機種等が変更された場合は、機種切換え用部材10を使用して、次に取扱うドアパネルに適切なようにチャック部材6の位置調整を行う。この要領は前述の通りである。
以上のような要領により、機種等が変わっても簡単に対応することができ、確実に把持できるとともに、迅速に処理できる。
【0019】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。例えば、ワークの種類等は例示である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
凹凸形状が異なるようなパネル部品でも一つの把持装置で確実に把持することができ、しかも迅速に処理できるため、例えば車両のドアパネルの組付け等の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る把持装置の斜視図
【図2】チャック部材のチャック構造の一例の説明図
【図3】前後のドアパネルの説明図
【図4】チャック部材の位置調整の一例の説明図
【図5】機種切換え用部材の一例を示す平面図
【図6】本把持装置でドアパネルを把持した状態の説明図
【符号の説明】
【0022】
1…把持装置、5…ロック付きシリンダ、6…チャック部材、10…機種切換え用部材、10t…基準ブロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル部品の複数箇所に所定ピッチで共通して形成されるピン孔にそれぞれチャック部材を挿入して把持するパネル部品の把持装置であって、前記チャック部材は、前記パネル部品のピン孔に対する挿入方向に対して独自に位置調整可能にされることを特徴とするパネル部品の把持装置。
【請求項2】
前記チャック部材の位置調整は、取扱うパネル部品の機種等に応じて予め準備される機種切換え用部材の基準ブロックにチャック部材近傍の基準面を当接させて行うようにされることを特徴とする請求項1に記載のパネル部品の把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−111776(P2007−111776A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302442(P2005−302442)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】