説明

パフ状スナック菓子の製造方法

【課題】白くボケたり、色調が沈むことのない品質の優れた食品を効率良く製造できるコーティング用油脂組成物を提供する。
【解決手段】エクストルーダーで膨化してなるパフ生地に、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、紅花油、米油、落花生油、くるみ油、ごま油、オリーブ油から選ばれた少なくとも1種の10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、高エルシン酸菜種油の極度硬化油を0.1〜20重量部配合してなるコーティング用油脂組成物を塗布することを特徴とするパフ状スナック菓子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米菓等の表面に塗布することにより、食品の外観・風味・食感を飛躍的に向上し得る、速乾性のコーティング用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米菓やスナック菓子類の製造においては、表面の艶出し、色調のテリや風味改良のためにサラダ掛けが一般的に行なわれている。サラダ掛けは、通常、焼き上げた米菓生地に、サラダ油や酸化防止剤を添加した専用油、パーム油脂、食用油脂を水素添加した油脂などを掛け、その後に調味料を掛けるか、サラダ掛けと同時に調味料を掛ける方法が採られている。しかし、従来の食用油脂を掛け油した米菓、スナック菓子等では、油脂の乾燥が遅いため、掛け油した後に液だれが生じる。そのため、食用油脂の包装材料への付着を防止して商品価値を下げないようにするためには、調味した後、食用油脂が充分に米菓生地の内部まで浸透し乾燥するまでに、製品を数時間から一晩放置しなければならず、生産効率が著しく悪いという問題があった。こうした実情から、例えば、米菓やスナック類の製造においては、酸化安定性の改良やべたつき防止のため、これまでに以下の改良策が提案されている。
【0003】
すなわち、(1)食用油脂にL−アスコルビン酸とレシチンを添加する油脂製造法(特許文献1、特許文献2)、(2)窒素原子を含有しないりん脂質の重量が窒素原子を含有するりん脂質の重量に対して重量比1.0以上であるりん脂質混合物を含むジグリセリドを主体とする米菓類コーティング用油脂組成物(特許文献3)、(3)40ないし80重量%の植物性液体油と20ないし60重量%のパーム油及び0.1ないし2重量%のレシチンよりなり、上昇融点が5ないし23℃の米菓類コーティング用油脂組成物(特許文献4)、(4)パーム系油脂99〜85重量%とハイエルシン菜種極度硬化油1〜15重量%とをエステル交換反応してなるエステル交換油脂を含有することを特徴とするスプレー用油脂組成物(特許文献5)などである。
【0004】
しかし、これらの方法も一長一短があり十分ではなく、例えば、上記(1)のように、大豆油、菜種油、綿実油などの液状油では、サラダ掛けした後に液状油の浸透に数時間から一晩放置する必要がある。その上、パーム油、ヤシ油、水素添加油やエステル交換油などの固形脂は、白くボケたり、色調が沈むように見える、さらには口溶けが悪いなどの欠点がある。(2)では、ジグリセリドは、常温では液状油の物性を示しているので、液状油と同様にカワキ性が悪く、数時間から一晩放置する必要があるなどの欠点がある。(3)では、パーム油などの常温で固形の食用油脂が配合されているので、白くボケたり、色調が沈むように見える、口溶けが悪いなどの欠点がある。(4)では、エステル交換することにより、白色化の低減を狙ったものであるが、実用的には、改良効果は未だ不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−083910号
【特許文献2】特開昭55−056193号
【特許文献3】特許第2951439号
【特許文献4】特公昭56−037770号
【特許文献5】特開平11−262358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、米菓、スナック菓子類などの製造に際し、コーティングした後に、長時間放置することなく迅速に乾燥し、製品に良好な外観及び優れた風味・食感を持続して付与し得るコーティング用油脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、米菓・スナック菓子類などの製造に際し、コーティング用油脂として、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、極度硬化油を所定量配合した油脂組成物を用いることにより、白くボケたり、色調が沈んだりすることなく良好な外観を呈し、優れた風味・食感を有する製品を効率良く製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、コーンを原料とする生地をエクストルーダーで膨化してなるパフ状スナック菓子の製造方法であって、エクストルーダーで膨化してなるパフ生地に、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、紅花油、米油、落花生油、くるみ油、ごま油、オリーブ油から選ばれた少なくとも1種の10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、高エルシン酸菜種油の極度硬化油を0.1〜20重量部配合してなるコーティング用油脂組成物を塗布することを特徴とするパフ状スナック菓子の製造方法であり、及び、それを用いた菓子類である。
また、本発明は、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、紅花油、米油、落花生油、くるみ油、ごま油、オリーブ油から選ばれた少なくとも1種の10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、極度硬化油を0.1〜20重量部配合し、レシチンやレシチン以外の乳化剤0.01〜10重量部、酸化防止剤0.01〜10重量部を配合してなるコーティング用油脂組成物を塗布することを特徴とするパフ状スナック菓子の製造方法であり、及びそれを用いたパフ状スナック菓子類である。
【0008】
本発明の油脂組成物が優れた性能を示すのは、以下の理由であると推定される。すなわち、極度硬化油は通常の水素添加油(硬化油)とは異なり、融点が極端に高いため、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂中において、乾燥促進作用を有し、その結果、米菓等の食品にコーティングされた液状油が迅速に乾燥されるものと思われる。また、乳化剤を使用することにより、液状油の表面張力が低下し浸透性が増すと共に、乳化剤の持つ官能基の極性とその構造が油脂の結晶性に影響を与え、両者相俟って、当該油脂組成物のべた付きを防止し乾燥を促進するものと推測される。
【0009】
また、本発明における酸化防止剤は、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、極度硬化油を0.1〜20重量部配合してなる油脂の酸化安定性を向上させると共に、当該油脂と乳化剤の効果を相互に高める機能を有するものである。このように、本発明においては、液状油、レシチンを含めた乳化剤及び酸化防止剤の構成物質が各々独自の機能を発揮すると共に、各構成物質が共存、渾然一体となって相乗的に効果を発揮するものである。
【0010】
本発明で使用する食用油脂としては、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂であれば特に限定されることはなく、例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、紅花油、米油、落花生油、くるみ油、ごま油、オリーブ油などの液状油脂が使用できる。これらは、エステル交換等の変性をすることなく液状の油脂である。これらのうち、ナタネ油、大豆油、コーン油、綿実油、紅花油、米油、ゴマ油などが特に好ましい。これらは単独あるいは2種以上を混合して使用できる。また、これらの食用油脂は、香味成分を含んだものでもよい。本発明においては、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、極度硬化油を0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜5.0重量部配合するのであるが、極度硬化油とは、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油等を原料とし、沃素価が10以下、融点が50℃以上になるまで水素添加したものをいう。その中でも高エルシン酸菜種油の極度硬化油が特に好ましく、高エルシン酸菜種油とは
、構成脂肪酸中にエルシン酸を20〜60%含む菜種油をいう。そして、該極度硬化油の配合量が0.1重量部より少ないと、コーティング用油脂組成物の乾燥速度が遅く、生産効率の改善が望めず、20重量部より多いと、油脂組成物自体の作業性が悪くなる上に、米菓などの当該油脂組成物をコーティングした食品の外観、風味が低下し好ましくない。
【0011】
本発明における乳化剤としては、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステル等があり、これらは1種単独または2種以上併用してもよい。乳化剤の配合量は、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。0.01重量部より少ないと、液状油の表面張力低下が充分ではなく、逆に10重量部より多いと、コーティングした食品の風味が低下する。本発明において使用する酸化防止剤は、トコフェロール、γ−オリザノール、セザモールを含めたゴマリグナン類、ポリフェノールを含んだ茶抽出物、ローズマリーなどの香辛料からの抽出物、アスコルビン酸パルミテートなどの一般に知られている酸化防止剤であり、これらは1種単独または2種以上を併用してもよい。酸化防止剤の配合量には特に制限はないが、性能とコストを考慮すると、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して0.01〜10重量部配合するのが好ましい。0.01重量部より少ないと、酸化防止効果が乏しく、10重量部を越えると、経済的でない上に、コーティングした食品の風味を損ねてしまう。
【0012】
本発明のコーティング用油脂組成物を調製する方法には、添加の順序など、特に制限はない。すなわち、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂に対して、極度硬化油、さらには、乳化剤、酸化防止剤を所定量配合して、最終的に均一な状態になればよい。一般的には、各構成成分を混合後、必要に応じて加熱攪拌した後、オンレーターやボテーターなどの熱交換器を通すことで調製する方法が採られる。本発明のコーティング用油脂組成物を使用する食品には特に制限はないが、米菓、スナック菓子類など、主として、ベイクアップないしは油ちょうした後に掛け油をする食品が好適である。ここで、米菓とは、煎餅、かき餅、あられ等の米を原料とする菓子類であり、スナック菓子類とは、ポテトチップスやトルティーヤのようなポテトやコーン、小麦粉などの穀物を原料として、焼成、油ちょうなどの方法で製造される菓子類である。
【0013】
本発明のコーティング用油脂組成物を上記の食品の製造工程に適用するには、ベイクアップあるいは油ちょうした生地に、本発明の油脂組成物を、スプレー法や浸漬法やドラ掛け法などにより生地に塗布する方法がある。その際には、1)素焼き生地に油脂組成物のみ塗布する方法、2)油脂組成物を塗布した後、調味料を塗布する方法、3)油脂組成物と調味料を予め混合したものを塗布する方法、4)調味料を塗布した後、油脂組成物を塗布する方法があり、いずれを用いてもよい。調味料として醤油、砂糖、食塩、アミノ酸類、みりん等があり、これらは必要に応じて、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。塗布量は、生地に対し油分として1〜35%の範囲である。液体の調味料を使用する際には、塗布後、乾燥装置に入れ、温度風で約70〜80℃で水分含量として0.5〜5%に乾燥させて製品とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の油脂組成物を用いることにより、白くボケたり、色調が沈むことのない品質の優れた食品を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
[実施例]
表1及び表2に示す配合で油脂組成物を70℃で均一に混合し、オンレーターにて急冷混練して、本発明のコーティング用油脂組成物を調製した(実施例1〜12)。これらについて、常温(20℃)で2日放置時の性状を確認した。
【0017】
[比較例]
表1及び表2に示す配合で油脂組成物を70℃で均一に混合し、オンレーターにて急冷混練して、比較例の油脂組成物を調製した(比較例1〜5)。なお、比較例3は菜種油単独である。これらについて、常温(20℃)で2日放置時の性状を確認した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
焼き上げた米菓焼成生地を60℃に加熱し、予め60℃に保温した実施例1〜12及び比較例1〜5の油脂組成物をスプレーし、サラダ掛け煎餅を調製した。調製したサラダ掛け煎餅を直ちに透明の袋へ充填し、その状態を確認した。また、3日保存したサラダ掛け煎餅を10名のパネラーにて官能検査を実施した。また、酸化安定性を見るために、6ヶ月後も同様の官能検査を実施した。その結果は、表3及び表4に示すとおりである。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
エクストルーダーで膨化させたパフ生地に、予め60℃に保温した実施例7〜12及び比較例3〜5の油脂組成物をスプレーし、パフ状スナック菓子を調製した。調製したパフ状スナック菓子を直ちに透明の袋へ充填し、その状態を確認した。また、3日保存したパフ状スナックを10名のパネラーにて官能検査を実施した。また、酸化安定性を見るために6ヶ月後も同様の官能検査を実施した。その結果は、表5に示すとおりである。
【0024】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンを原料とする生地をエクストルーダーで膨化してなるパフ状スナック菓子の製造方法であって、エクストルーダーで膨化してなるパフ生地に、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、紅花油、米油、落花生油、くるみ油、ごま油、オリーブ油から選ばれた少なくとも1種の10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、高エルシン酸菜種油の極度硬化油を0.1〜20重量部配合してなるコーティング用油脂組成物を塗布することを特徴とするパフ状スナック菓子の製造方法。
【請求項2】
コーティング用油脂組成物が、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、乳化剤0.01〜10重量部を配合してなる請求項1に記載のパフ状スナック菓子の製造方法。
【請求項3】
乳化剤がレシチンである請求項2に記載のパフ状スナック菓子の製造方法。
【請求項4】
コーティング用油脂組成物が、酸化防止剤を含有してなる請求項1ないし3のいずれか一項に記載のパフ状スナック菓子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のパフ状スナック菓子の製造方法により得られた菓子類。

【公開番号】特開2012−105656(P2012−105656A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−1873(P2012−1873)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【分割の表示】特願2001−92332(P2001−92332)の分割
【原出願日】平成13年3月28日(2001.3.28)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】