説明

パラジウム−ロジウム単一層触媒

優れた活性及び温度安定性を有する、内燃機関の排気ガスの浄化のための単一層三元触媒に関する。前記触媒は、活性酸化アルミニウム、第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はロジウム及び第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を含有する。前記第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、第2の混合酸化物よりも高い酸化ジルコニウム含有量を有する。前記第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はロジウムで活性化されていて、第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はパラジウムで触媒活性化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスを浄化するための、優れた触媒活性及び劣化安定性を有する三元触媒に関する。
【0002】
三元触媒は、主に理論空燃比で運転される内燃機関の排ガスの浄化のために大量に使用される。この三元触媒は、エンジンの3種の主要な有害物質、つまり炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物を同時に無害成分に変換することができる。この場合、異なる触媒事象を分離し、それにより2つの層中の触媒作用の最適な調整が可能となる二重層三元触媒を使用することが多い。この種の触媒は、例えば、EP 0 885 650及びEP 1 046 423に記載されている。
【0003】
二重層触媒は、単一層触媒よりもその製造が高価であるという欠点を有する。さらに、二重層触媒は、単一層触媒と比べて排気ガスの背圧を高める傾向があり、これは内燃機関の性能及びその燃料消費にとって不利となる。従って、二重層触媒の良好な触媒特性をできる限り削減することなしに単一層触媒により実現するという努力が常になされている。単一層の三元触媒は、例えばWO 98/09726、EP 1 138 382及びEP 1 541 220から公知である。
【0004】
内燃機関の排出量の低減に関して絶え間なく高まる要求は、触媒活性、劣化安定性及び製造コストに関して触媒を絶え間なく発展させることを必要とする。従って、本発明の課題は、製造コストを低下させると共に、先行技術の触媒に対してさらに低下された始動温度及び改善された温度安定性を有する触媒を提供することであった。
【0005】
前記課題は、請求項に記載の触媒により解決される。前記触媒は、セラミック又は金属からなる不活性触媒担体上に唯一の触媒活性被覆を有する。前記触媒は、活性酸化アルミニウム及び第1及び第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を含有し、その際、第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はロジウムで活性化されていて、パラジウムで触媒活性化されている第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物よりも高い酸化ジルコニウム含有量を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の範囲内で、担体材料が触媒活性元素で活性化された調製物は、触媒活性元素が担体材料の含浸により到達される表面に高度に分散された形で析出されていることを意味する。
【0007】
前記の特性の組合せにより、前記触媒は極めて良好な始動挙動を示しかつ高い温度安定性を有する。さらに、前記触媒は低い排気ガスの背圧を示し、かつその製造コストは、相応する二重層触媒よりも低い。
【0008】
前記活性酸化アルミニウム及びセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、粉末状の固体として前記被覆中に導入される。両方の混合酸化物は、その温度安定性の改善のために、鉄、マンガン、スズ、チタン、ケイ素、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム及びこれらの混合物からなるグループから選択される元素の少なくとも1種の酸化物で安定化されていてもよい。ドーピング元素の量は、酸化物として計算して、安定化される混合酸化物の全体の質量に対して有利に1〜15質量%、特に有利に5〜10質量%である。
【0009】
第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、有利に0.5〜0.1の酸化セリウム対酸化ジルコニウムの質量比を示し、第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、0.8〜1.2の酸化セリウム対酸化ジルコニウムの質量比を示す。前記材料の比表面積は、有利に50〜100m2/gの範囲にある。
【0010】
前記の活性酸化アルミニウムは、酸化アルミニウム+酸化ランタンの全質量に対して、酸化ランタン1〜10質量%で安定化されていてもよい。前記触媒の温度安定性のさらなる改善は、活性酸化アルミニウム及びセリウム/ジルコニウム混合酸化物がさらに酸化ストロンチウム及び/又は酸化バリウムで含浸されている場合に達成される。
【0011】
通常では触媒担体は、内燃機関の排気ガスのために平行の流動通路を有する体積Vを有するハニカム体であり、その際、前記流動通路の壁面は前記触媒で被覆されていて、前記ハニカム体の体積に対するパラジウムの濃度は0.1〜10gであり、ロジウムの濃度は0.01〜1gである。前記触媒の特別な実施態様の場合には、第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はロジウムに対してさらに、パラジウムで触媒活性化されていてもよい。更なる実施態様の場合に、両方のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はさらに白金で活性化されていてもよい。
【0012】
実際に適用すべき貴金属濃度は、所望の有害物質の変換に依存する。ここに記載された最も高い濃度値は、SULEV車両のための厳格は排気ガス基準を遵守するために必要である(SULEV=Super Ultra-Low Emission Vehicles)。
【0013】
前記触媒を触媒活性層で被覆するためには被覆懸濁液を製造しなければならず、前記被覆懸濁液は所望の触媒層の全ての構成成分を直接含有するか又はその前駆体を含有し、前記前駆体は前記被覆の引き続くか焼により最終的な形に変換される。
【0014】
両方のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、別個にロジウム又はパラジウムの前駆化合物で公知の含浸法により被覆することができる。有利に水溶性化合物の硝酸ロジウム及び硝酸パラジウムが使用される。このようにプレコーティングされた材料を、次いで酸化アルミニウムと一緒に水中に懸濁させることができる。前記懸濁液は、懸濁液の固形物が約3〜5μmの平均粒度を有するまで湿式粉砕される。その後で、前記ハニカム体を前記懸濁液で公知の方法により被覆し、乾燥し、か焼する。この製造方法は、パラジウム及びロジウムが互いに別個に異なる担体材料上に析出されていることを保証する。
【0015】
本発明の有利な実施態様の場合に、まず第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を水中に懸濁させる。この懸濁液に、ロジウムの前駆化合物、有利に硝酸ロジウムの前記溶剤を添加する。その後で、懸濁液のpH値を、塩基、例えば水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)で、約6の値に上昇させ、硝酸ロジウムを析出させる。引き続き、第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を前記懸濁液中に懸濁させ、パラジウムの前駆化合物の溶液を添加する。それにより、前記懸濁液のpH値を強酸性の領域に低下させる。塩基を新たに添加することにより、前記pH値を再び約6に上昇させ、それによりパラジウムを両方の混合酸化物に析出させる。その後で、酸化アルミニウムを懸濁液に添加し、前記懸濁液を最終的に、既に記載されたように粉砕し、触媒担体に塗布する。こうして製造された触媒はアルカリ土類金属を含有しない。
【0016】
これとは別に、まず、水酸化バリウム及び/又は水酸化ストロンチウムの塩基性溶液を準備することもできる。この溶液中に、第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を添加し、前記溶液中に懸濁させる。その後で前記懸濁液に例えば硝酸ロジウムの溶液を添加し、その際、前記ロジウムは懸濁液の塩基性によって第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物に析出する。その後で、前記懸濁液に第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を供給し、引き続き硝酸パラジウム溶液を供給する。最終的に、酸化アルミニウムを懸濁液に添加し、前記懸濁液を最終的に、既に記載されたように粉砕し、触媒担体に塗布する。硝酸ロジウムの沈殿のための塩基として水酸化バリウム又は水酸化ストロンチウムを使用することにより、前記被覆中に、最終的なか焼の後に酸化バリウム又は酸化ストロンチウムが残留する。
【0017】
最後の2つの製造バリエーションにより製造された触媒中では、第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物の粒子上にロジウムもパラジウムも存在する。
【0018】
次に、本発明を、実施例及び図面を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】先行技術からなる触媒の始動温度と、多様な実施態様による触媒の始動温度との比較を示す図。
【図2】図1の触媒の最大転化率を示す図。
【0020】
比較例:
触媒をEP 1 541 220により調製した。このために、まず水中の硫酸バリウムからなる懸濁液を製造した。前記懸濁液に、硝酸1質量%を添加し、それによりpH値を約5に低下させた。その後で、酸化ランタン3質量%で安定化されたγ−酸化アルミニウムを、引き続き50質量%の酸化ジルコニウム含有量を有するセリウム/ジルコニウム混合酸化物を添加し、このpH値を添加の間に硝酸によりほぼ一定に維持した。10質量%のサッカロースの添加の後に前記懸濁液を粉砕し、次いで硝酸パラジウム及び硝酸ロジウムを添加した。1時間の熟成時間の後に、コーディエライト−ハニカム体を前記懸濁液で被覆し、乾燥し、か焼した。前記ハニカム体は、セル密度93cm-2、直径14.4cm及び長さ10.2cmを有していた。完成した触媒は次の被覆量を有していた:
80g/l ランタンにより安定化された酸化アルミニウム
75g/l セリウム/ジルコニウム混合酸化物(70質量%酸化ジルコニウム)
0.18g/l ロジウム(全ての固体成分に対して)
0.88g/l パラジウム(全ての固体成分に対して)
【0021】
実施例1
本発明による触媒を次のように製造した:
ジルコニウム富有のセリウム/ジルコニウム混合酸化物(70質量%酸化ジルコニウム)を水中に懸濁させ、引き続き硝酸ロジウムを前記懸濁液に混入した。TEAHで、前記懸濁液のpH値を再び約6の値に上昇させた。その後で、酸化ジルコニウム50質量%を有するセリウム/ジルコニウム酸化物を前記懸濁液に添加し、硝酸パラジウムを前記懸濁液に混入した。前記pH値を新たにTEAHで6に上昇させ、その後で前記懸濁液に酸化ランタン3質量%で安定化されたγ−酸化アルミニウムを添加した。引き続き前記懸濁液を粉砕し、ハニカム体を比較例と同様に被覆し、乾燥し、か焼した。完成した触媒は次の被覆量を有していた:
80g/l ランタンにより安定化された酸化アルミニウム
35g/l 第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物(70質量%酸化ジルコニウム)
40g/l 第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物(50質量%酸化ジルコニウム)
0.18g/l ロジウム(第1のセリウム/ジルコニウム酸化物に対して)
0.88g/l パラジウム(第1及び第2のセリウム/ジルコニウム酸化物に対して)
【0022】
実施例2
本発明による他の触媒を次のように製造した:
水酸化バリウムを水中に溶かした。前記溶液中に酸化ジルコニウム70質量%を含有するセリウム/ジルコニウム混合酸化物を懸濁させ、硝酸ロジウムを前記懸濁液中に添加した。その後で、酸化ジルコニウム50質量%を有するセリウム/ジルコニウム酸化物を前記懸濁液に分散させ、硝酸パラジウムを前記懸濁液に混入した。酸化アルミニウムを添加した後に、このpH値を酢酸で6の値に調節した。引き続き前記懸濁液を粉砕し、ハニカム体を比較例と同様に被覆し、乾燥し、か焼した。完成した触媒は次の被覆量を有していた:
80g/l ランタンにより安定化された酸化アルミニウム
2g/l 酸化バリウム
35g/l 第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物(70質量%酸化ジルコニウム)
40g/l 第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物(50質量%酸化ジルコニウム)
0.18g/l ロジウム(第1のセリウム/ジルコニウム酸化物に対して)
0.88g/l パラジウム(第1及び第2のセリウム/ジルコニウム酸化物に対して)
【0023】
触媒の試験
この試験の前に、全ての触媒を炉中で985℃の温度で16時間で熱水劣化にさらした。
【0024】
前記劣化の後に、前記触媒をエンジンテストベンチで始動温度及び最大転化率に関して調査した。
【0025】
図1は、始動温度の比較を示す。2つの本発明による触媒は、老化後に、有害物質のHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)及びNOx(窒素酸化物)の転化率について、比較触媒より明らかに低い始動温度を示す。図2のグラフは、触媒を用いて達成される最大転化率を示す。
【0026】
前記触媒は、30℃のガス温度でかつ345kg/hの空気質量流で18.3mbarの背圧を有する。この背圧は、比較可能な二重層触媒の背圧より約15%低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスを浄化するための、セラミック又は金属からなる不活性触媒担体上の唯一の触媒活性層からなる三元触媒において、前記触媒は活性酸化アルミニウム及び第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物及び第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物を含有し、その際、第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はロジウムで活性化されていて、かつパラジウムで触媒活性化されている第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物よりも高い酸化ジルコニウム含有量を有することを特徴とする、三元触媒。
【請求項2】
酸化アルミニウム及びセリウム/ジルコニウム混合酸化物の表面がさらに酸化ストロンチウム又は酸化バリウムで被覆されていることを特徴とする、請求項1記載の三元触媒。
【請求項3】
前記セリウム/ジルコニウム混合酸化物は、それぞれ前記混合酸化物の全質量に対して希土類金属酸化物1〜15質量%で安定化されていて、その際、前記希土類金属酸化物は、鉄、マンガン、スズ、チタン、ケイ素、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム及びそれらの混合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項1記載の三元触媒。
【請求項4】
第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、0.5〜0.1の酸化セリウム対酸化ジルコニウムの質量比を示し、第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、0.8〜1.2の酸化セリウム対酸化ジルコニウムの質量比を示すことを特徴とする、請求項3記載の三元触媒。
【請求項5】
前記活性酸化アルミニウムは、それぞれ前記酸化アルミニウムの全質量に対して酸化ランタン1〜10質量%で安定化されていることを特徴とする、請求項4記載の三元触媒。
【請求項6】
触媒担体は、内燃機関の排気ガスのために平行の流動通路を有する体積Vを有するハニカム体であり、その際、前記流動通路の壁面は前記三元触媒で被覆されていて、前記ハニカム体の体積に対するパラジウムの濃度は0.1〜10gであり、ロジウムの濃度は0.01〜1gであることを特徴とする、請求項1記載の三元触媒。
【請求項7】
前記第1のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はロジウムの他にさらにパラジウムで触媒活性化されていることを特徴とする、請求項6記載の三元触媒。
【請求項8】
前記第1の及び第2のセリウム/ジルコニウム混合酸化物はパラジウムの他にさらに白金で触媒活性化されていることを特徴とする、請求項7記載の三元触媒。
【請求項9】
エンジンの排気ガスを浄化するための、ガソリンエンジンを搭載した車両のエンジンに近いスタート触媒として又はアンダーボディ領域でのメイン触媒としての、請求項1から8までのいずれか1項記載の三元触媒の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−521302(P2010−521302A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500094(P2010−500094)
【出願日】平成20年2月23日(2008.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001450
【国際公開番号】WO2008/113457
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】