説明

パラジウム含有触媒

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高
生産性で製造するためのパラジウム含有触媒およびその製造方法、ならびにα,β−不飽
和カルボン酸を高生産性で製造する方法を提供する。
【解決手段】酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下のチタニアまたはジ
ルコニア担持型のパラジウム含有触媒を用いる。この触媒は、所定の酸量のチタニアまた
はジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩
を溶解した溶液とを混合し;得られた触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対
して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度
未満の温度で前段加熱処理し;その後、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段
加熱処理し;そして、還元剤で還元することで、好適に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択率および高生産性で製造するための触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための貴金属含有担持触媒として、例えば、特許文献1ではパラジウムを含有した触媒が提案されている。また、触媒に使用する担体の酸量については、特許文献2で0.12mmol/g以下の担体を使用する貴金属含有担持触媒が提案されている。
【特許文献1】特開2004−141863号公報
【特許文献2】特開2006−175353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1などの従来技術では工業的に満足できるα,β−不飽和カルボン酸の生産性を得ることはできず、それは特許文献2の担体を使用した場合も同様であった。
【0004】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で得るためのパラジウム含有触媒およびその触媒の製造方法、ならびにα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鋭意検討した結果、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で得るためには、チタニアまたはジルコニア担体に担持されているパラジウム含有触媒が好ましいことがわかった。また、触媒製造過程において担体表面の酸点とパラジウムとの相互作用が異なるためか、詳しいことは不明であるが、チタニアまたはジルコニア担体の酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であることが好ましい場合があることを見出した。
【0006】
さらに、本発明において、前記パラジウム含有触媒は、
(a)酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であるチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する工程と、
(b)前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する工程と、
(c1)前記前段加熱処理された触媒前駆体を、40℃未満の温度に冷却することなく、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段加熱処理する工程と、
(d)前記後段加熱処理された触媒前駆体を、還元剤で還元する工程と、
を有することを特徴とする製造方法で調製することが好ましいことがわかった。
【0007】
あるいは、前記パラジウム含有触媒は、
(a)酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であるチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する工程と、
(b)前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する工程と、
(c2)前記前段加熱処理された触媒前駆体を、実質的に水分および前記溶媒の蒸気を含まない気体中で40℃未満の温度に冷却し保存した後、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段加熱処理する工程と、
(d)前記後段加熱処理された触媒前駆体を、還元剤で還元する工程と、
を有することを特徴とする製造方法で調製することが好ましいことがわかった。
【0008】
ここで、酸量は、次に定める方法で測定した値とする。まず、100℃で減圧乾燥した担体を100mgサンプリングし、所定のセルに詰め、TPD装置(日本ベル製、商品名:マルチタスクTPD)に装着する。He流通下で400℃・1時間前処理し、100℃に降温した後に10容量%アンモニア濃度混合のHeガスを10分流通し、He流通下で100℃・2時間余剰のアンモニアを脱ガスする。そして、30ml/minのHe流通下で10℃/minで500℃まで昇温させて、その間に脱離したアンモニアの時間経緯を質量分析計にて計測する。質量分析計で検出された、既知量のアンモニアガス検出強度を基準にして、試料である担体の酸量を定量する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するにあたり、α,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造することができる。
【0010】
さらに、本発明のα,β−不飽和カルボン酸の製造方法によれば、α,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒としては、パラジウム金属微粒子がチタニアまたはジルコニア担体に担持されている触媒であることが好ましい。
【0012】
チタニアまたはジルコニア担体の酸量は、1mmol/g以下であることが好ましく、0.8mmol/g以下であることがより好ましく、また0.12mmol/gより多いことが好ましく、0.15mmol/g以上であることがより好ましい。
【0013】
さらに本発明において、前記α,β−不飽和カルボン酸合成用触媒は、
(a)酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であるチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する工程と、
(b)前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する工程と、
(c1)前記前段加熱処理された触媒前駆体を、40℃未満の温度に冷却することなく、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段加熱処理する工程と、
(d)前記後段加熱処理された触媒前駆体を、還元剤で還元する工程と、
を有することを特徴とする製造方法で調製したものである。
【0014】
あるいは、
(a)酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であるチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する工程と、
(b)前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する工程と、
(c2)前記前段加熱処理された触媒前駆体を、実質的に水分および前記溶媒の蒸気を含まない気体中で40℃未満の温度に冷却し保存した後、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で加後段熱処理する工程と、
(d)前記後段加熱処理された触媒前駆体を、還元剤で還元する工程と、
を有することを特徴とする製造方法で調製したものである。
【0015】
なお、担体は、細孔表面がチタニアまたはジルコニアで好ましくは80原子%以上、より好ましくは90原子%以上覆われていれば、内部は無機酸化物の混合物であってもよい。無機酸化物としては、チタニアまたはジルコニアの他に、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア等を挙げることができる。
【0016】
細孔表面の元素組成比(細孔表面を構成するチタンまたはジルコニウムの割合:(Ti+Zr)/(担体を構成する構成金属元素);単位:「原子%」)は、次に定める方法で測定した値とする。まず、担体をメノウ乳鉢で粉砕する。これを導電性カーボンテープに塗布し、X線光電子分光装置(VG製,商品名:ESCA LAB220iXL)のX線が照射される場所に設置する。この試料にAlKα線をモノクロ線源で10kV出力で250μm×1000μmのエリアに照射し、試料から放出される光電子を集光してXPSスペクトルを得る。解析ソフト(商品名:Eclips)を用いて、各元素に対するXPSピークエリア比からTiおよびZrの原子数%を見積もり、その和を算出する。
【0017】
また、担体は複数種類を混合して使用することができる。その場合、全体として測定した酸量が、本発明で規定する酸量の担体であればよく、本発明で規定する酸量の担体の割合が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0018】
さらに、前処理をして、酸量を所定範囲に調整した担体を用いても構わない。前処理の方法は特に限定されないが、例えば酸量の多い担体について、塩基性物質を加えて酸点を中和する方法、加熱処理して表面積を減らすことで酸点を減らす方法等が挙げられる。
【0019】
好ましい担体の比表面積は、担体の種類等により異なるので一概に言えないが、ジルコニアの場合、その比表面積は30m2/g以上が好ましく、より好ましくは50m2/g以上であり、また300m2/g以下が好ましく、より好ましくは200m2/g以下である。チタニアの場合、その比表面積は30m2/g以上が好ましく、より好ましくは50m2/g以上であり、また1000m2/g以下が好ましく、より好ましくは500m2/g以下である。担体の比表面積は、小さいほど有用成分(パラジウム)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0020】
担体の細孔容積は特に限定されないが、窒素ガス吸着法により測定した細孔容積は、0.10cc/g以上が好ましく、0.15cc/g以上がより好ましく、また2.0cc/g以下が好ましく、1.5cc/g以下がより好ましい。
【0021】
担体の形状には特に制限はなく、粉末状、球状、ペレット状など種々のものが使用できる。担体の好ましい大きさは、使用する反応装置の形状、サイズによって異なるが、担体の体積平均粒径は0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、また200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。担体の体積平均粒径は、大きいほど触媒と反応液の分離が容易になり、小さいほど反応液と触媒の分散性が良くなる。
【0022】
パラジウム含有触媒のパラジウム担持率は、担持前の担体に対して0.1質量%以上の金属量であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、また40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
パラジウム含有触媒は、パラジウムを含有するものであるが、パラジウム以外に、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、鉛、銀、テルル、鉛、ビスマス、アンチモン、モリブデン、タングステン、コバルト、タリウム、水銀、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよび炭素の中から1種以上の元素を含有することもできる。なお、高い触媒活性を発現させる観点から、パラジウム含有触媒に含まれる担体以外の成分のうち、50質量%以上がパラジウムであることが好ましい。また、触媒に含まれるパラジウムは、高い触媒活性を発現させる観点から、全部または一部が金属状態であることが好ましい。
【0024】
以下、上記のパラジウム含有触媒を製造する方法について説明する。
【0025】
まず、上記のチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する(工程(a))。使用する溶媒の質量は、担体に対して質量比で0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、また15以下が好ましく、12以下がより好ましい。
【0026】
パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム(熱分解温度:650℃)、酢酸パラジウム(熱分解温度:230℃)、硝酸パラジウム(熱分解温度:120℃)、テトラアンミンパラジウム塩化物(熱分解温度:300℃)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(熱分解温度:220℃)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(熱分解温度:210℃)等を挙げることができるが、中でも塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましい。パラジウム塩は、1種を用いることもでき、2種以上を併用することもできる。
【0027】
本発明では、パラジウム塩として、熱分解温度が400℃以下のパラジウム塩を使用することが好ましい。パラジウム塩の熱分解温度は300℃以下がより好ましく、200℃以下が特に好ましい。また、パラジウム塩の熱分解温度は、一般には40℃より高い。パラジウム塩の分解温度が低いほど発熱量が少ない。特に熱分解温度が200℃以下のパラジウム塩を使用することで、熱処理時の触媒前駆体の層高が厚い場合でも発熱量を少なくしてパラジウム粒子の凝集および成長を抑制することができる。そのため、α,β−不飽和カルボン酸をより高生産性で製造することが可能となる。工業スケールでの触媒調製では、触媒量と焼成装置のスケール等の関係から、熱処理時の触媒前駆体の層高が厚くなることは通常は避けられないので、層高を厚くしても高生産性での製造が可能というのはスケールアップをする場合大きなメリットがある。
【0028】
なお、パラジウム塩の熱分解温度は、熱重量測定により測定できる。本発明では、熱重量測定装置(島津製作所社製、商品名:TGA−50)を用いてパラジウム塩を空気気流中で室温から5.0℃/分で昇温したとき10%重量が減少した温度をパラジウム塩の熱分解温度とした。
【0029】
パラジウム塩を溶解させる溶媒としては、パラジウム塩を溶解するものであれば特に限定されない。例えば、水;塩酸、硝酸水溶液、硫酸水溶液、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、塩化アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液等の無機物含有水溶液;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;等が挙げられる。溶媒は1種を用いることもでき、2種以上の混合物を使用することもできる。
【0030】
続いて、前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する(工程(b))。前段加熱処理により、パラジウム塩が担体に担持される。前段加熱処理後の触媒前駆体に含まれる残留溶媒の質量は、触媒の性能の面から少ないほど好ましく、使用した担体に対して質量比で0.15以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。しかしながら、そのためには前段加熱処理において、例えば、真空引きしたり、処理時間を極端に長くしたりする等の方法があるが、経済的ではないことが多い。したがって、経済性とのバランスを考慮すると、前段加熱処理後の触媒前駆体に含まれる残留溶媒の質量は、使用した担体に対して質量比で0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。
【0031】
前段加熱処理後の触媒前駆体に含まれる残留溶媒の質量は、残留溶媒を含有する触媒前駆体全体の質量から使用した担体の質量、使用したパラジウム塩の質量(ただし結晶水を有するパラジウム塩においては結晶水を除いた質量)、および必要に応じて使用したパラジウム以外の金属成分の化合物の質量を減ずることにより求められる。
【0032】
前段加熱処理の方式に関しては特に限定されないが、例えば、箱型炉を用いた静置加熱処理、ロータリーエバポレーターを用いた減圧流動加熱処理、スプレードライヤーを用いた噴霧加熱処理等を用いることができる。
【0033】
前段加熱処理の温度は、40℃以上かつ用いるパラジウム塩の熱分解温度未満の温度であれば特に限定されず、溶媒の沸点およびパラジウム塩の熱分解温度に応じて適宜選択される。前段加熱処理の温度は、45℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、またパラジウム塩の熱分解温度−5℃未満が好ましく、パラジウム塩の熱分解温度−10℃未満がより好ましい。溶媒の沸点が高い場合および/またはパラジウム塩の熱分解温度が低い場合には、ロータリーエバポレーター等を用いた減圧状態での熱処理が好ましい。
【0034】
所定の前段加熱処理の温度までの昇温方法は特に限定されないが、パラジウム含有触媒におけるパラジウムの良好な分散状態を得るため、昇温速度は1〜10℃/分が好ましい。ただし、あらかじめ所定の前段加熱処理の温度に、触媒前駆体を投入する方法でもよい。所定の前段加熱処理の温度に達した後の保持時間は、担体に対して質量比で0.001以上0.25以下の溶媒が残留した触媒前駆体が得られる時間であれば特に限定されない。
【0035】
前段加熱処理の次の工程として、前段加熱処理された触媒前駆体を、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段加熱処理する。この際、前段加熱処理された触媒前駆体を40℃未満の温度に冷却することなく後段加熱処理する(工程(c1))、あるいは、前段加熱処理された触媒前駆体を実質的に水分および前記溶媒の蒸気を含まない気体中で40℃未満の温度に冷却し保存した後、後段加熱処理する(工程(c2))。この後段加熱処理により、パラジウム塩の少なくとも一部が分解して酸化パラジウムになる。
【0036】
後段加熱処理の温度は、パラジウム塩の熱分解温度以上の温度から適宜選択されるが、パラジウム塩の熱分解温度+10℃以上が好ましく、パラジウム塩の熱分解温度+20℃以上がより好ましく、また800℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。
【0037】
所定の後段加熱処理の温度までの昇温方法は特に限定されないが、パラジウム含有触媒におけるパラジウムの良好な分散状態を得るため、昇温速度は1〜10℃/分が好ましい。所定の後段加熱処理の温度に達した後の保持時間は、パラジウム塩が分解される時間であれば特に限定されないが、1〜12時間が好ましい。
【0038】
前段加熱処理された触媒前駆体を40℃未満の温度に冷却することなく後段加熱処理する方法に関しては特に限定されないが、工程が簡略化できることから前段加熱処理と同一の装置を用いて連続的に後段加熱処理を実施する手法、または、保温した配管等を用いて前段加熱処理装置から後段加熱処理装置へ連続的に供給する手法が好ましい。すなわち、前段加熱処理された触媒前駆体を冷却することなく後段加熱処理することが好ましい。
【0039】
また、前段加熱処理された触媒前駆体を実質的に水分および前記溶媒の蒸気を含まない気体中で40℃未満の温度に冷却し保存した後、後段加熱処理する方法としては、例えば、前段加熱処理された触媒前駆体を乾燥空気、乾燥窒素等の乾燥ガスで置換した容器中で冷却し保存した後、後段加熱処理する手法が挙げられる。乾燥ガスには、0.1g/m3を超えない水分または溶媒の蒸気を含んでいてもよい。
【0040】
前段加熱処理された触媒前駆体の保存は、40℃以上でパラジウム塩の分解温度未満で行うことが好ましい。
【0041】
前段加熱処理と後段加熱処理の間に、前段加熱処理された触媒前駆体を水分または前記溶媒の蒸気を含む気体中で40℃未満の温度に冷却し保存した後、後段加熱処理した場合には、前段加熱処理された触媒前駆体が水分または溶媒の蒸気を吸収することにより、担体とパラジウム塩との相互作用が弱まり、後段加熱処理によって生成する酸化パラジウム等の凝集および粒子成長を促進するため、酸化パラジウム等が高分散に担持された触媒前駆体が製造できにくく、最終的にパラジウム原子が高分散に担持された触媒が製造できなにくくなり触媒の活性が低下する傾向がみられるものと考えられる。チタニアまたはジルコニア担体上の酸点の効果は、水分を含むと発揮されにくいのではないかと考えられる。
【0042】
上記の前段および後段加熱処理により、担体上に担持されたパラジウム塩の少なくとも一部が分解して酸化パラジウムになった触媒前駆体が得られる。そして本発明では、上記の前段および後段加熱処理により得られた触媒前駆体を還元剤で還元する(工程(d))。この還元により、酸化パラジウムの少なくとも一部がパラジウム金属になる。触媒前駆体の担体上にパラジウム塩が存在する場合は、そのパラジウム塩も同時に還元されてパラジウム金属となる。
【0043】
用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は1種を用いることもでき、2種以上を併用することもできる。
【0044】
上記還元は、気相中で行ってもよく、液相中で行ってもよい。気相中で還元を行う場合は、還元剤として水素を用いることが好ましい。また、液相中で還元を行う場合は、還元剤として、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、または蟻酸の塩を用いることが好ましい。
【0045】
液相中で還元を行う場合に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、iso−吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0046】
液相中で還元を行う場合で還元剤が気体の場合、溶媒中への溶解度を挙げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。その圧力は0.1〜1.0MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)とすることが好ましい。
【0047】
また、液相中で還元を行う場合で還元剤が液体の場合、触媒前駆体の還元を行う装置に制限はなく、溶媒中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、触媒前駆体中のパラジウム原子1モルに対して1〜100モルとすることが好ましい。
【0048】
還元温度および還元時間は還元剤等により異なるが、還元温度は−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0049】
還元後、パラジウム金属が担体に担持されたパラジウム含有触媒を分離する。この触媒を分離する方法は特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離等の方法を用いることができる。分離されたパラジウム含有触媒は適宜乾燥される。乾燥方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができる。
【0050】
パラジウム以外の金属成分を含むパラジウム含有触媒は、対応する金属の塩や酸化物等の金属化合物を担体に担持し、必要に応じて前記の還元を行うことで得ることができる。その際の金属化合物の担持方法としては特に限定されないが、パラジウム塩を担持する方法と同様に行うことができる。また、金属化合物は、パラジウム塩を担持する前に担持することもでき、パラジウム塩を担持した担持後に担持することもでき、パラジウム塩と同時に担持することもできる。また、金属化合物の担持は、パラジウム塩の前段加熱処理前でもよく、前段加熱処理と後段加熱処理の間でもよく、後段加熱処理の後でもよい。
【0051】
次に、本発明のパラジウム含有触媒を用いて、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
【0052】
原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられるが、中でもプロピレンおよびイソブチレンが好適である。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。
【0053】
原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でもアクロレインおよびメタクロレインが好適である。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がアクロレインの場合アクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合メタクリル酸が得られる。
【0054】
液相酸化反応は連続式、バッチ式の何れの形式で行ってもよい。
【0055】
液相酸化反応に用いる分子状酸素の源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。この空気等のガスは、通常オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給される。
【0056】
液相酸化反応に用いる溶媒としては、例えば、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒がより好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、これら有機溶媒に水を共存させることが好ましい。共存させる水の量は特に限定されないが、有機溶媒と水の合計質量に対して2質量%以上が好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、また70質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下である。有機溶媒と水の混合物は均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0057】
液相酸化反応の原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、また30質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以下である。
【0058】
分子状酸素の使用量は、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して0.1モル以上が好ましく、より好ましくは0.2モル以上、さらに好ましくは0.3モル以上であり、また20モル以下が好ましく、より好ましくは15モル以下、さらに好ましくは10モル以下である。
【0059】
触媒は、液相酸化反応を行う反応液に懸濁させた状態で使用されることが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、また30質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0060】
反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は30℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上であり、また200℃以下が好ましく、より好ましくは150℃以下である。また、反応圧力は0MPa以上が好ましく、より好ましくは0.5MPa以上であり、また10MPa以下が好ましく、より好ましくは5MPa以下である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0062】
(原料および生成物の分析)
原料および生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの反応率、生成するα,β−不飽和カルボン酸の生産性は以下のように定義される。
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの反応率(%)=(B/A)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/gPd/h) =(C/D/E)
ここで、Aは供給したオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Bは反応したオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Cは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(g)、Dは触媒中のパラジウム金属の質量(g)、Eは反応時間(h)である。
【0063】
なお、以下の実施例および比較例では、イソブチレンからメタクリル酸を製造する反応を行っており、この場合、Aは供給したイソブチレンのモル数、Bは反応したイソブチレンのモル数、Cは生成したメタクリル酸の質量(g)である。
【0064】
[実施例1]
(触媒調製)
硝酸パラジウム(II)4.33部を含有する硝酸パラジウム(II)水溶液(パラジウム金属として換算してパラジウム原子を2.0部含有する水溶液)7.81部に純水2.0部を加えた。次いで、ジルコニア担体(酸量:0.17mmol/g、体積平均粒径:11.0μm、比表面積:99m2/g、細孔容積:0.26cc/g)40.0部と上記溶液を混合し、72.8部の触媒前駆体を得た。このとき、パラジウム塩の溶解に使用した溶媒の担体に対する質量比は0.71である。
【0065】
その後、触媒前駆体を、炉内の温度を100℃に制御した箱型電気炉を使用して1時間前段加熱処理をした。その後、100℃から200℃まで2.0℃/分で昇温し、200℃で2時間保持(後段加熱処理)した。その後、室温まで降温した。
【0066】
得られた後段加熱処理後の触媒前駆体を、還元剤であるホルムアルデヒドの37質量%水溶液100部に加えた。70℃に加熱し、2時間攪拌保持し、吸引ろ過後、純水2000部でろ過洗浄した。さらに75質量%t−ブタノール水溶液2000部でろ過洗浄することで、ジルコニア担持型パラジウム含有触媒(パラジウム金属の担持率:5.0質量%)を得た。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、金属パラジウムが生成していることが確認された。
【0067】
(残留溶媒量の測定)
上記触媒調製方法と同様にして触媒前駆体を前段加熱処理した後、乾燥窒素中で室温まで降温した。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ45.1部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.019である。
【0068】
(反応評価)
上記の方法で得た触媒の1/4(パラジウム金属0.5部に相当)と、反応溶媒として75質量%t−ブタノール水溶液100部をオートクレーブに入れ、オートクレーブを密閉した。次いで、イソブチレンを2.0部導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、90℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入して反応を開始させた。反応中に内圧が0.1MPa低下した時点(内圧4.7MPa)で、酸素を0.1MPa導入する操作を繰り返した。導入直後の圧力は4.8MPaである。反応開始後30分で反応を終了した。
【0069】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を氷冷した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析し、反応率および生産性を算出した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
(触媒調製)
ジルコニア担体(酸量:0.48mmol/g、体積平均粒径:2.7μm、比表面積:144m2/g、細孔容積:0.16cc/g)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0071】
(残留溶媒量の測定)
実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ46.8部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.062である。
【0072】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
(触媒調製)
ジルコニア担体(酸量:0.10mmol/g、体積平均粒径:9.6μm、比表面積:85m2/g、細孔容積:0.18cc/g)を使用し、触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0074】
(残留溶媒量の測定)
触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ58.6部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.36である。
【0075】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例2]
(触媒調製)
ジルコニア担体(酸量:1.1mmol/g、体積平均粒径:13.1μm、比表面積:102m2/g、細孔容積:0.23cc/g)を使用し、触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0077】
(残留溶媒量の測定)
触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ62.9部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.46である。
【0078】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
(触媒調製)
触媒前駆体を前段加熱処理した後に冷却および保存を行い、その後に後段加熱処理を行ったこと以外は、実施例2と同様の方法で行った。具体的には、触媒前駆体を1時間前段加熱処理した後、箱型電気炉から取り出し、残存水分量0.03g/m3の乾燥窒素中で25℃以下まで降温して24時間保存した。その後、再び炉内の温度を100℃に制御した箱型電気炉に保存後の触媒前駆体を投入した直後に200℃までの昇温を開始した。
【0080】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例4]
(触媒調製)
触媒前駆体を前段加熱処理した後の冷却および保存を、調湿していない空気(残存水分量16g/m3)中で行った以外は実施例3と同様の方法で行った。
【0082】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例5]
(触媒調製)
硝酸パラジウム(II)4.33部を含有する硝酸パラジウム(II)水溶液(パラジウム金属として換算してパラジウム原子を2.0部含有する水溶液)7.81部に純水50.0部を加えた。次いで、チタニア担体(酸量:0.19mmol/g、体積平均粒径:1.8μm、比表面積:87m2/g、細孔容積:0.40cc/g)40.0部と上記溶液を混合し、97.5部の触媒前駆体を得た。このとき、パラジウム塩の溶解に使用した溶媒の担体に対する質量比は1.3である。その後は、実施例1と同様の方法で行った。
【0084】
(残留溶媒量の測定)
実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ45.5部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.029である。
【0085】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例6]
(触媒調製)
チタニア担体(酸量:0.51mmol/g、体積平均粒径:1.6μm、比表面積:330m2/g、細孔容積:0.30cc/g)を使用した以外は、実施例5と同様の方法で行った。
【0087】
(残留溶媒量の測定)
実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ47.1部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.069である。
【0088】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例3]
(触媒調製)
チタニア担体(酸量:0.07mmol/g、体積平均粒径:1.3μm、比表面積:122m2/g、細孔容積:0.41cc/g)を使用して、触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例5と同様の方法で行った。
【0090】
(残留溶媒量の測定)
触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ86.3部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は1.1である。
【0091】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例4]
(触媒調製)
チタニア担体(酸量:1.3mmol/g、体積平均粒径:1.1μm、比表面積:356m2/g、細孔容積:0.62cc/g)を使用して、触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例5と同様の方法で行った。
【0093】
(残留溶媒量の測定)
触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ89.8部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は1.1である。
【0094】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例7]
(触媒調製)
ジルコニア担体(酸量:0.15mmol/g、体積平均粒径:10.7μm、比表面積:85m2/g、細孔容積:0.24cc/g)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0096】
(残留溶媒量の測定)
実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ48.8部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.11である。
【0097】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例8]
(触媒調製)
ジルコニア担体(酸量:0.78mmol/g、体積平均粒径:12.8μm、比表面積:78m2/g、細孔容積:0.24cc/g)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0099】
(残留溶媒量の測定)
実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ48.2部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.097である。
【0100】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0101】
[比較例5]
(触媒調製)
ジルコニア担体(酸量:0.05mmol/g、体積平均粒径:9.8μm、比表面積:51m2/g、細孔容積:0.19cc/g)を使用し、触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0102】
(残留溶媒量の測定)
触媒前駆体の前段加熱処理の時間を5分とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。得られた前段加熱処理後の触媒前駆体の質量を測定したところ57.9部であった。以上より、残留している溶媒の担体に対する質量比は0.34である。
【0103】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
以上の結果を表1にまとめて示したように、本発明の方法によれば、より高い生産性で
α,β−不飽和カルボン酸を製造できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための、チタニアまたはジルコニア担持型のパラジウム含有触媒であって、チタニアまたはジルコニア担体の酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下である触媒。
【請求項2】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための、チタニアまたはジルコニア担持型のパラジウム含有触媒の製造方法であって、
(a)酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であるチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する工程と、
(b)前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する工程と、
(c1)前記前段加熱処理された触媒前駆体を、40℃未満の温度に冷却することなく、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段加熱処理する工程と、
(d)前記後段加熱処理された触媒前駆体を、還元剤で還元する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための、チタニアまたはジルコニア担持型のパラジウム含有触媒の製造方法であって、
(a)酸量が0.12mmol/gを超え1mmol/g以下であるチタニアまたはジルコニア担体と、該担体に対して質量比で0.3以上20以下の溶媒にパラジウム塩を溶解した溶液とを混合して、触媒前駆体を調製する工程と、
(b)前記触媒前駆体を、その残留溶媒の質量が前記担体に対して質量比で0.25以下となるように、40℃以上かつ前記パラジウム塩の熱分解温度未満の温度で前段加熱処理する工程と、
(c2)前記前段加熱処理された触媒前駆体を、実質的に水分および前記溶媒の蒸気を含まない気体中で40℃未満の温度に冷却し保存した後、前記パラジウム塩の熱分解温度以上の温度で後段加熱処理する工程と、
(d)前記後段加熱処理された触媒前駆体を、還元剤で還元する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2または3記載の方法により製造されたパラジウム含有触媒。
【請求項5】
請求項1または4記載のパラジウム含有触媒を用いて、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−279575(P2009−279575A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270754(P2008−270754)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】