説明

パラメータ設定方法およびパラメータ設定装置

【課題】工作機械の送り軸の制御パラメータの設定を簡易かつ短時間で行う。
【解決手段】工作機械10の送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定装置56は、工作機械に載せるべき積載物のイナーシャが、工作機械に接続された加工管理システムの記憶部82に記憶されているか否かを判定する判定部84と、イナーシャが記憶部に記憶されていない場合には積載物のイナーシャを計測して記憶すると共に、イナーシャが記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読込んで、計測または読込まれた積載物のイナーシャに基づいて工作機械の送り軸の制御パラメータを演算する演算部76と、該演算部により演算された制御パラメータを工作機械の送り軸に対して設定する設定部86とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定方法およびその方法を実施するパラメータ設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は一つ以上の直動送り軸および/または回転送り軸(以下、これら直動送り軸および回転送り軸を単に「送り軸」と呼ぶ)を含んでおり、これら送り軸を駆動するためのモータは数値制御装置により制御されている。工作機械においては、ワークの加工内容に応じて異なる工具が取り付けられ、また、ワークを工作機械に取り付けるためのジグもワークに応じて異なるものが使用される。
【0003】
このような工作機械を含むシステムにおいて、送り軸には、加減速時定数、反転補正値、各種ゲイン、フィルタなどの制御パラメータを設定する必要がある。そして、これら制御パラメータを設定するためには、工作機械の各送り軸に作用するイナーシャや粘性摩擦係数、クーロン摩擦力を取得する必要があり、特許文献1においては、そのようなイナーシャや粘性摩擦係数、クーロン摩擦力の取得方法を開示している。また、特許文献2は、条件に応じてパラメータを変更するようにした数値制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−290706
【特許文献2】特開2006−346760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、或る工作機械に載置されるワークを他の工作機械で加工する場合には、再度、イナーシャや粘性摩擦係数、クーロン摩擦力を取得して制御パラメータを設定する必要があり、時間がかかる上に、その処理も煩雑である。また、複数の送り軸を備えた工作機械においても、或る送り軸に対してイナーシャや粘性摩擦係数、クーロン摩擦力を取得して制御パラメータを設定した後で、他の送り軸についても同様にイナーシャや粘性摩擦係数、クーロン摩擦力を取得する必要があり、単一の工作機械においても同様な問題が発生する。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、或る工作機械に載置されるジグやワークを他の工作機械に載置して加工する場合または工作機械の或る送り軸に対して制御パラメータを設定した後で他の送り軸に対して制御パラメータを設定する場合であっても、制御パラメータの設定を簡易かつ短時間で行うことのできるパラメータ設定方法およびその方法を実施するパラメータ設定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、工作機械の送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが、記憶部に記憶されているか否かを判定し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読み込み、計測または読み込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記送り軸の制御パラメータを演算し、演算された制御パラメータを前記工作機械の前記送り軸に対して設定することを特徴とするパラメータ設定方法が提供される。
【0008】
2番目の発明によれば、工作機械の複数の送り軸のうちの一つの送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、前記一つの送り軸について前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが記憶部に記憶されているか否かを判定し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読み込み、計測または読み込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記一つの送り軸の制御パラメータを演算し、演算された制御パラメータを前記工作機械の前記一つの送り軸に対して設定することを特徴とするパラメータ設定方法が提供される。
【0009】
3番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、前記記憶部は、送り軸のクーロン摩擦および粘性摩擦の摩擦係数を記憶しており、前記制御パラメータは前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される。
【0010】
4番目の発明によれば、3番目の発明において、前記摩擦係数および前記イナーシャに応じて変化する制御パラメータと、前記摩擦係数および前記イナーシャの値の範囲毎に一定の値に設定される制御パラメータとが演算される。
【0011】
5番目の発明によれば、3番目の発明において、前記記憶部には、前記工作機械の送り軸を動作させるモータのモータ温度と該モータのトルク定数との関係が記憶されており、前記制御パラメータは前記関係と前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される。
【0012】
6番目の発明によれば、工作機械の送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定装置において、前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが、前記工作機械に接続された加工管理システムの記憶部に記憶されているか否かを判定する判定部と、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読込んで、計測または読込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記送り軸の制御パラメータを演算する演算部と、該演算部により演算された制御パラメータを前記工作機械の前記送り軸に対して設定する設定部と、を具備すること特徴とするパラメータ設定装置が提供される。
【0013】
7番目の発明によれば、工作機械の複数の送り軸のうちの一つの送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定装置において、前記一つの送り軸について前記工作機械に載せるべき積載物のイナーシャが記憶部に記憶されているか否かを判定する判定部と、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読込んで、計測または読込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記一つの送り軸の制御パラメータを演算する演算部と、該演算部により演算された制御パラメータを前記工作機械の前記一つの送り軸に対して設定する設定部と、を具備することを特徴とするパラメータ設定装置が提供される。
【0014】
8番目の発明によれば、6番目または7番目の発明において、前記記憶部は、送り軸のクーロン摩擦および粘性摩擦の摩擦係数を記憶しており、前記制御パラメータは前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される。
【0015】
9番目の発明によれば、8番目の発明において、前記摩擦係数および前記イナーシャに応じて変化する制御パラメータと、前記摩擦係数および前記イナーシャの値の範囲毎に一定の値に設定される制御パラメータとが演算される。
【0016】
10番目の発明によれば、6番目または7番目の発明において、前記記憶部には、前記工作機械の送り軸を動作させるモータのモータ温度と該モータのトルク定数との関係が記憶されており、前記制御パラメータは前記関係と前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算されるようにした。
【発明の効果】
【0017】
1番目または6番目の発明においては、或る工作機械に載置されるワークを他の工作機械で加工する場合であっても、或る工作機械で測定したイナーシャを他の工作機械で使用できる。従って、イナーシャの計測、演算回数を減らすことができ、その結果、制御パラメータの設定を簡易かつ短時間で行うことができる。
【0018】
2番目または7番目の発明においては、工作機械の或る送り軸に対してパラメータを設定した後で他の送り軸に対して制御パラメータを設定する必要がある場合であっても、或る送り軸で測定したイナーシャを他の送り軸で使用できる。従って、イナーシャの計測、演算回数を減らすことができ、その結果、制御パラメータの設定を簡易かつ短時間で行うことができる。
【0019】
3番目または8番目の発明においては、クーロン摩擦と粘性摩擦の両方を考慮しているので、制御パラメータをより精密に設定できる。
【0020】
4番目または9番目の発明においては、制御パラメータの特性に応じて制御パラメータの設定手法を変えているので、制御パラメータをより適切に設定できる。なお、摩擦係数とイナーシャとに応じて変化する制御パラメータは、加減速時定数および反転補正値などである。摩擦係数とイナーシャとの値の範囲毎に一定の値に設定される制御パラメータは、各種ゲインおよびフィルタ等である。
【0021】
5番目または10番目の発明においては、モータ温度を考慮して制御パラメータを設定しているので、制御パラメータをより精密に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の数値制御工作機械の概略図である。
【図2】本発明の数値制御工作機械を制御する演算制御部の構成ブロック図である。
【図3】図2に示される演算制御部の追加の構成ブロック図である。
【図4】送り軸が直動軸である場合に制御パラメータを演算する演算手法のフローチャートである。
【図5】(a)粘性摩擦の場合におけるイナーシャと摩擦係数の関係を示す図である。(b)クーロン摩擦の場合におけるイナーシャと摩擦係数の関係を示す図である。
【図6】送り軸が回転送り軸である場合に制御パラメータを演算する演算手法のフローチャートである。
【図7】イナーシャおよび摩擦係数を演算する演算手法を示すフローチャートである。
【図8】トルク定数とモータ温度との間の関係を示す図である。
【図9】制御パラメータを演算する演算手法を示すフローチャートである。
【図10】(a)イナーシャまたは摩擦係数に対して直線状に変化する制御パラメータを示す図である。(b)イナーシャまたは摩擦係数に対して曲線状に変化する制御パラメータを示す図である。(c)イナーシャまたは摩擦係数に対してステップ状に変化する制御パラメータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明の数値制御工作機械の概略図である。図1において、数値制御工作機械10は所謂横形マシニングセンタであり、工場等の床面に設置されるベッド12を具備している。ベッド12の上面には、Z軸ガイドレール28が水平なZ軸方向(図1において左右方向)に延設されており、Z軸ガイドレール28には、ワーク用ジグGを介してワークWを固定するためのテーブル14が摺動自在に取り付けられている。図1は、テーブル14上にB軸方向に回転送り可能なNCロータリテーブルを固定し、その上にワークWを積載している例を示しているが、NCロータリテーブルを介在させることなくテーブル14上に直接ワークWを積載しても良い。
【0024】
ベッド12の上面には、更に、X軸ガイドレール36がZ軸に直交し、かつ水平なX軸方向(図1の紙面に垂直方向)に延設されており、X軸ガイドレール36にはコラム16が摺動自在に取り付けられている。コラム16においてワークWに対面する前面には、X軸およびZ軸に直交するY軸方向(図1において上下方向)にY軸ガイドレール34が延設されており、Y軸ガイドレール34には、主軸20を回転自在に支持する主軸頭18が摺動自在に取り付けられている。
【0025】
ベッド12内においてテーブル14の下側にはZ軸送りねじ24がZ軸方向に延設されており、テーブル14の下面にはZ軸送りねじ24に螺合するナット26が固定されている。Z軸送りねじ24の一端にはZ軸送りサーボモータMzが連結されており、Z軸送りサーボモータMzを駆動しZ軸送りねじ24を回転させることにより、テーブル14はZ軸ガイドレール28に沿って移動する。同様にベッド12内においてコラム16の下側にはX軸送りねじ(図示せず)がX軸方向に延設されており、コラム16の下面には前記X軸送りねじに螺合するナット(図示せず)が固定されている。
【0026】
前記X軸送りねじの一端にはX軸送りサーボモータMxが連結されており、X軸送りサーボモータMxを駆動し前記X軸送りねじを回転させることにより、コラム16はX軸ガイドレール36に沿って移動する。更に、コラム16内にはY軸送りねじ32がY軸方向に延設されており、主軸頭18の背面にはY軸送りねじ32に螺合するナット30が固定されている。Y軸送りねじ32の上端にはY軸送りサーボモータMyが連結されており、Y軸送りサーボモータMyを駆動しY軸送りねじ32を回転させることにより、主軸頭18はY軸ガイドレール34に沿って移動する。
【0027】
主軸20の先端には工具22、例えばエンドミルが装着されている。工具22を回転させながら、コラム16、主軸頭18、テーブル14を各々X軸、Y軸、Z軸方向に動作させることにより、テーブル14に固定されたワークWを所望形状に切削加工する。NCロータリテーブルが固定されている場合、数値制御工作機械10は、更にB軸を有する4軸の数値制御工作機械と言える。
【0028】
数値制御工作機械10は、コラム16、主軸頭18、テーブル14のX軸、Y軸、Z軸方向に移動させるX軸、Y軸、Z軸送りサーボモータMx、My、Mzを制御する数値制御部40を具備している。NCロータリテーブルを有する場合には、B軸送りサーボモータ(図示せず)を具備している。
【0029】
数値制御部40は、NCプログラム42を読み取りこれを解釈するプログラム読取解釈部44、解釈されたプログラムを一時的に記憶する解釈済みプログラム記憶部46、解釈済みプログラム記憶部46からプログラムを適宜引き出して実行プログラムデータを発するプログラム実行指令部48、プログラム実行指令部48からの実行プログラムデータに基づいてX軸、Y軸、Z軸の各々への位置指令値、速度指令値、加速度指令値を発する分配制御部50、分配制御部50からの位置指令値、速度指令値、加速度指令値および後述するフィードバック信号に基づいて送り軸モータ駆動部54へトルク指令値または電流指令値を発するサーボ制御部52を含んでいる。なお、B軸についても同様に、分配制御部50がB軸への位置指令値、角速度指令値、角加速度指令値を発する。
【0030】
送り軸モータ駆動部54は、サーボ制御部52からのトルク指令値または電流指令値に基づき電流を出力してX軸、Y軸、Z軸の各々の送り軸モータMx、My、Mzを駆動する。更に、本実施形態では、サーボ制御部52から送り軸モータ駆動部54へのトルク指令値または電流指令値を補正する演算制御部56が設けられている。
【0031】
図2は本発明の数値制御工作機械を制御する演算制御部の構成ブロック図である。図2の実施形態では、演算制御部56は、トルク演算部96およびパラメータ演算部98を備えた演算部76を具備している。図2において図1に対応する構成要素は同じ参照符号にて指示されている。演算部76は後述する各種の演算処理を行う。
【0032】
サーボ制御部52は、分配制御部50からの位置指令値から、テーブル14に取り付けたデジタル直線スケール等の位置検出器SPの位置フィードバック信号を減算する減算器58、減算器58からの出力に基づき位置を制御する位置制御部60、位置制御部60から出力された速度指令から送り軸モータMに設けたパルスコーダPCからの速度フィードバック信号を減算する減算器62、減算器62の出力に基づき速度を制御する速度制御部64を含んでいる。
【0033】
一方、分配制御部50からの位置指令値、速度指令値、加速度指令値は、速度フィードフォワード制御部90および加速度フィードフォワード制御部92へも刻々と送出されている。速度フィードフォワード制御部90および加速度フィードフォワード制御部92は、分配制御部50からの位置指令値等に基づいて、速度フィードフォワード値および加速度フィードフォワード値を生成する。加速度フィードフォワード値と、速度制御部64からの出力とは、加算器94において加算され、送り軸モータ駆動部54に供給される。
【0034】
さらに、送り軸モータMには、送り軸モータMに流れる電流を検出する電流検出器72および送り軸モータMの温度を検出する温度センサ74が設けられている。電流検出器72により検出された電流値および温度センサ74により検出された温度はトルク演算部96に出力され、トルク演算部96は送り軸モータMに作用するトルクを演算する。さらに、パラメータ演算部98は、トルク演算部96により演算されたトルクと、パルスコーダPCからの速度フィードバック信号等とに基づいて制御パラメータを演算する。なお、演算部76はイナーシャや摩擦係数の演算等、他の演算処理を行う。
【0035】
図3は図2に示される演算制御部の追加の構成ブロック図である。演算制御部56の演算部76におけるパラメータ演算部98で設定された制御パラメータは設定部86に出力される。次いで設定部86は、対応する送り軸に対して制御パラメータを設定する。従って、演算制御部56はパラメータ設定装置としての役目を果たす。また、演算部76は、数値制御工作機械10とは別個の上位制御装置、例えば加工管理システム80に含まれていて各種データを含む記憶部82に接続されている。あるいは、記憶部82は、数値制御工作機械10の演算制御部56に内蔵されていてもよい。
【0036】
記憶部82には、数値制御工作機械10に積載される積載物のイナーシャが記憶されている。イナーシャは、送り軸が直動送り軸である場合には積載物の慣性質量を意味し、送り軸が回転送り軸である場合(図1の矢印Bを参照されたい)には積載物の慣性モーメントを意味する。
【0037】
積載物とは、ワークW、工具22、およびワーク用ジグG等の総称であり、ワーク用ジグGが含まれない場合もある。また、記憶部82には、ワークW、工具22、およびワーク用ジグGのそれぞれについてイナーシャが記憶されていてもよく、積載物全体として一つのイナーシャが記憶されていてもよい。また、積載物のイナーシャは数値制御工作機械10のX軸、Y軸、Z軸および回転B軸のそれぞれについて記憶されるものとする。さらに、図1に示される数値制御工作機械10以外の複数の工作機械についても、積載物のイナーシャが記憶部82に同様に記憶されている。なお、記憶部82には、積載物についての質量と摩擦係数との関係、およびイナーシャまたは摩擦係数と制御パラメータとの関係も工作機械毎、およびこれら工作機械の送り軸毎に記憶されている。
【0038】
判定部84は、数値制御工作機械10に載せる積載物のイナーシャが記憶部82に記憶されているか否かを判定する。さらに、判定部84は、数値制御工作機械10の一つの送り軸について数値制御工作機械10に載せる積載物のイナーシャが記憶部82に記憶されているか否かを判定することもできる。
【0039】
図4は送り軸が直動送り軸、例えばZ軸である場合に制御パラメータを演算する演算手法のフローチャートである。以下、図4を参照しつつ、本発明における制御パラメータの演算手法について説明する。
【0040】
はじめに、積載物を数値制御工作機械10に搭載する。そして、ステップ110において記憶部82にアクセスし、判定部84は、その積載物をその数値制御工作機械10に載せたときのイナーシャが記憶部82に記憶されているかを判定する。なお、記憶部82が加工管理システム80にのみ内蔵されている場合には、ステップ110の前に、数値制御工作機械10を加工管理システム80に接続する動作を含む。
【0041】
そして、そのようなイナーシャが存在する場合には、ステップ120においてイナーシャを読み込む。一方、イナーシャが存在しない場合には、ステップ190においてその積載物についてのイナーシャと摩擦係数を計測、演算して、記憶部82に記憶する。このとき、求めたイナーシャから、構造体の質量と積載物の質量を分けて記憶部82に記憶しておく。イナーシャおよび摩擦係数の演算については、後述する。
【0042】
次いで、ステップ130において、判定部84は、その積載物が搭載されているときの摩擦係数が記憶部82に記憶されているかを判定する。そして、そのような摩擦係数が記憶されている場合には、ステップ140でその摩擦係数を読み込み、記憶されていない場合には、演算部76は、イナーシャおよび摩擦係数の関係を用いてイナーシャから摩擦係数を演算する(ステップ150)。
【0043】
ここで、図5(a)は、粘性摩擦の場合におけるイナーシャと摩擦係数の関係を示す図であり、図5(b)はクーロン摩擦の場合におけるイナーシャと摩擦係数の関係を示す図である。ステップ140、150では、粘性摩擦およびクーロン摩擦の両方における摩擦係数をこれらグラフから取得する。なお、図5(a)および図5(b)に示されるグラフの代わりに、イナーシャと摩擦係数の間の関係式を用いて摩擦係数を直接的に演算してもよい。
【0044】
その後、ステップ160において、イナーシャおよび/または摩擦係数とに基づいてパラメータ演算部98が各種の制御パラメータを演算する。最終的に、演算された制御パラメータは設定部86によって対応する送り軸に対して設定され、処理を終了する。
【0045】
このように、本発明においては、必要とされるイナーシャおよび/または摩擦係数が記憶部82に記憶されているか否かを判定し、記憶されている場合には、それらイナーシャおよび/または摩擦係数を使用するようにしている。従って、例えば同型の他の数値制御工作機械に載置された積載物を数値制御工作機械10で加工する場合においても、他の数値制御工作機械について既に記憶されたイナーシャなどを数値制御工作機械10において流用できる。このため、イナーシャ等の計測、演算回数を最小限に減らすことができ、その結果、制御パラメータの設定を簡易かつ短時間で行うことが可能となる。なお、或る工作機械のイナーシャ等のデータがどの工作機械で使用できるかについては予め定められている。
【0046】
さらに、イナーシャ等の流用は、数値制御工作機械10の一つの送り軸、例えばZ軸と、同一の数値制御工作機械10の他の送り軸、例えばX軸および/またはY軸との間においても適用できる。従って、このような場合にも、イナーシャ等の計測、演算回数を減らすことができ、同様な効果が得られる。なお、この場合には、イナーシャなどを記憶する記憶部82が数値制御工作機械10に内蔵されていてもよい。また、或る送り軸のイナーシャ等のデータが同一の工作機械におけるどの送り軸で使用できるかについては予め定められている。
【0047】
図6は送り軸が回転送り軸、例えばB軸である場合に制御パラメータを演算する演算手法のフローチャートである。なお、送り軸が回転送り軸である場合には、或る工作機械10における回転送り軸の中心位置とワークの取付位置との間の相対位置が他の工作機械における同様な相対位置と相違するときと、相違しないときとがある。しかしながら、これらいずれの場合であっても、図6のフローチャートを採用できるものとする。
【0048】
図6に示されるステップ110〜ステップ160、ステップ190は前述したのと同様であるので説明を省略し、ステップ180について主に説明する。図6に示されるように、ステップ130において摩擦係数が記憶部82に記憶されていない場合には、ステップ180に進む。そして、ステップ180においては、その積載物についての質量が記憶部82に記憶されているか否かが判定部84により判定される。そして、そのような質量が記憶されている場合にはステップ150に進み、記憶されていない場合にはステップ190に進む。最終的には、ステップ160で制御パラメータを同様に算出しているので、送り軸が回転送り軸である場合であっても、前述したのと同様な効果が得られるのが分かる。
【0049】
ここで、図4および図6のステップ190に示したイナーシャと摩擦係数の計測、演算手法について説明する。図7はイナーシャおよび摩擦係数を演算する演算手法を示すフローチャートである。
【0050】
図7のステップ210においては、電流検出器72により送り軸モータMの電流値を計測し、温度センサ74により送り軸モータMの温度を計測すると共に、パルスコーダPCにより送り軸モータMの速度を計測する。さらに、送り軸モータMの速度から送り軸モータMの加速度を演算する。
【0051】
次いで、ステップ220においては、図8に示されるトルク定数とモータ温度との間の関係から、トルク定数を求め、求めたトルク定数と送り軸モータMの電流値からトルクを求める。このように本発明では、モータ温度に応じて定まるトルク定数を利用しているので、トルクをより正確に演算することができる。
【0052】
そして、ステップ230において、トルク(力)、速度、加速度からイナーシャおよび摩擦係数を演算する。送り軸が直動送り軸の場合には、以下の式(1)が用いられる。
【数1】

【0053】
式(1)において力F、速度V、加速度aおよび速度方向を示す単位ベクトルUは既知である。式(1)に加速度a、速度Vおよび速度方向の単位ベクトルUを代入して得られる力Fとの差の二乗和を最小化すると、式(2)に示される行列式が得られる。従って、上記の計測をn回(nは自然数)にわたって行うことにより、式(2)から慣性質量J、粘性摩擦係数Dおよびクーロン摩擦Cを演算することができる。
【数2】

【0054】
また、送り軸が回転送り軸である場合には、以下の式(3)が用いられる。
【数3】

【0055】
式(3)においても、トルクτ、角速度ω、角加速度αおよび速度方向を示す係数Uが既知である。このため、同様な手法により、式(4)に示される行列式から慣性モーメントJ、粘性摩擦係数Dおよびクーロン摩擦Cを演算することができる。
【数4】

【0056】
ここで、図4および図6に示されるステップ160におけるイナーシャおよび/または摩擦係数から各制御パラメータを演算する演算手法について具体的に説明する。図9は制御パラメータを演算する演算手法を示すフローチャートである。
【0057】
図9のステップ310においては、求められるべき制御パラメータが、補間によって適切な値を決定できる制御パラメータであるか否かが判定される。具体的には、制御パラメータが加減速時定数、反転補正値などである場合には、これら制御パラメータはイナーシャまたは摩擦係数に応じて連続的に変化しうる。従って、加減速時定数、反転補正値などは、直線補間または曲線補間によって適切な値を決定できる制御パラメータである。
【0058】
これに対し、制御パラメータが各種ゲイン、フィルタなどである場合には、これら制御パラメータは動作が安定であることを確認した複数のパラメータ値から作成したステップ関数の式またはグラフから決定される。従って、各種ゲイン、フィルタなどは摩擦係数とイナーシャとの値の範囲毎に一定の値に設定される制御パラメータである。言い換えれば、各種ゲイン、フィルタなどは摩擦係数および/またはイナーシャに対してステップ状に変化する制御パラメータである。
【0059】
なお、ゲインは位置ループゲインおよび速度ループゲインを含んでおり、速度制御部64、速度フィードフォワード制御部90、加速度フィードフォワード制御部92などで利用される。また、トルクフィルタ等の所定の遮断帯域を有するフィルタは各種信号を送信する際に適宜使用される。しかしながら、このようなゲインおよびフィルタは公知であるので、詳細な説明を省略する。
【0060】
ステップ310において制御パラメータを分類した後で、ステップ320においては、補間によって適切な値を決定できる制御パラメータのみを演算する。それぞれの制御パラメータ、例えば加減速時定数、反転補正値のそれぞれについて直線補間のグラフおよび/または曲線補間のグラフが予め実験等により求められ記憶部82に記憶されている。図10(a)および図10(b)はそれぞれイナーシャおよび/または摩擦係数と制御パラメータの関係を示す直線補間および曲線補間のグラフである。ステップ320においては、このような直線補間または曲線補間のグラフに基づいて制御パラメータを決定する。
【0061】
一方、ステップ330においては、摩擦係数および/またはイナーシャに対してステップ状に変化する制御パラメータを決定する。それぞれの制御パラメータ、例えば各種ゲイン、フィルタなどのそれぞれについてステップ関数のグラフが実験等により求められ記憶部82に記憶されている。図10(c)はイナーシャおよび/または摩擦係数と制御パラメータとの関係を示すステップ関数のグラフである。ステップ330においては、このようなステップ関数のグラフに基づいて制御パラメータを決定する。なお、制御パラメータによっては、摩擦係数およびイナーシャのうちの一方についての関係のみしか必要でない場合がある。
【0062】
このように本発明においては、制御パラメータの種類に応じて、その演算手法を変更している。このため、制御パラメータをより精密に演算でき、その結果、数値制御工作機械10をより高速、高精度で制御できるようになる。さらに、制御パラメータを切り替えた場合であっても、数値制御工作機械10を安定かつ効果的に制御できる。
【符号の説明】
【0063】
10 数値制御工作機械
12 ベッド
16 コラム
20 主軸
22 工具
26 ナット
28 Z軸ガイドレール
36 X軸ガイドレール
40 数値制御部
44 プログラム読取解釈部
48 プログラム実行指令部
50 分配制御部
54 送り軸モータ駆動部
56 演算制御部(パラメータ設定装置)
60 位置制御部
64 速度制御部
72 電流検出器
74 温度センサ
76 演算部
80 加工管理システム
82 記憶部
84 判定部
86 設定部
92 加速度フィードフォワード制御部
96 トルク演算部
98 パラメータ演算部
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、
前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが、記憶部に記憶されているか否かを判定し、
前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読み込み、
計測または読み込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記送り軸の制御パラメータを演算し、
演算された制御パラメータを前記工作機械の前記送り軸に対して設定することを特徴とするパラメータ設定方法。
【請求項2】
工作機械の複数の送り軸のうちの一つの送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、
前記一つの送り軸について前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが記憶部に記憶されているか否かを判定し、
前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読み込み、
計測または読み込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記一つの送り軸の制御パラメータを演算し、
演算された制御パラメータを前記工作機械の前記一つの送り軸に対して設定することを特徴とするパラメータ設定方法。
【請求項3】
前記記憶部は、送り軸のクーロン摩擦および粘性摩擦の摩擦係数を記憶しており、前記制御パラメータは前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される請求項1または2に記載のパラメータ設定方法。
【請求項4】
前記摩擦係数および前記イナーシャに応じて変化する制御パラメータと、前記摩擦係数および前記イナーシャの値の範囲毎に一定の値に設定される制御パラメータとが演算される請求項3に記載のパラメータ設定方法。
【請求項5】
前記記憶部には、前記工作機械の送り軸を動作させるモータのモータ温度と該モータのトルク定数との関係が記憶されており、前記制御パラメータは前記関係と前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される請求項3に記載のパラメータ設定方法。
【請求項6】
工作機械の送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定装置において、
前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが、前記工作機械に接続された加工管理システムの記憶部に記憶されているか否かを判定する判定部と、
前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読込んで、計測または読込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記送り軸の制御パラメータを演算する演算部と、
該演算部により演算された制御パラメータを前記工作機械の前記送り軸に対して設定する設定部と、
を具備すること特徴とするパラメータ設定装置。
【請求項7】
工作機械の複数の送り軸のうちの一つの送り軸の制御パラメータを設定するパラメータ設定装置において、
前記一つの送り軸について前記工作機械に載せる積載物のイナーシャが記憶部に記憶されているか否かを判定する判定部と、
前記イナーシャが前記記憶部に記憶されていない場合には前記積載物のイナーシャを計測して記憶し、前記イナーシャが前記記憶部に記憶されている場合には、記憶されたイナーシャを読込んで、計測または読込まれた積載物のイナーシャに基づいて前記工作機械の前記一つの送り軸の制御パラメータを演算する演算部と、
該演算部により演算された制御パラメータを前記工作機械の前記一つの送り軸に対して設定する設定部と、
を具備することを特徴とするパラメータ設定装置。
【請求項8】
前記記憶部は、送り軸のクーロン摩擦および粘性摩擦の摩擦係数を記憶しており、前記制御パラメータは前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される請求項6または7に記載のパラメータ設定装置。
【請求項9】
前記摩擦係数および前記イナーシャに応じて変化する制御パラメータと、前記摩擦係数および前記イナーシャの値の範囲毎に一定の値に設定される制御パラメータとが演算される請求項8に記載のパラメータ設定装置。
【請求項10】
前記記憶部には、前記工作機械の送り軸を動作させるモータのモータ温度と該モータのトルク定数との関係が記憶されており、前記制御パラメータは前記関係と前記摩擦係数と前記イナーシャとに基づいて演算される請求項6または7に記載のパラメータ設定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−56005(P2012−56005A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200794(P2010−200794)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000154990)株式会社牧野フライス製作所 (116)
【Fターム(参考)】