説明

パルスモニタシステム及びパルスモニタ装置

【課題】距離測定装置のパルスの検出不良、異常発生、異常原因の特定を容易にし、距離測定装置を監視する。
【解決手段】航空機から受信する所定の形式の質問パルスに応答して前記航空機で地上の基準位置からの距離を測定するために利用される応答パルスを送信する際に、前記質問パルスを含む信号を複素数データに変換して利用する距離測定装置2と、複素数データを入力し、距離測定装置2の動作を監視するパルスモニタ装置1とを有するパルスモニタシステムであって、距離測定装置2は、航空機から受信したパルスを含む信号に関する複素数データを出力するインタフェース29を備え、パルスモニタ装置1は、距離測定装置から入力した複素数データから、パルスのエンベロープ、周波数または位相変化量の少なくともいずれか一を解析し、この解析結果を出力する解析手段11を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機が位置を把握するために航空機との間でパルスを送受信する距離測定装置から入力するデータを用いて、パルスの検出不良、異常発生、異常原因を容易に特定し、距離測定装置を監視するパルスモニタシステム及びパルスモニタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機と地上局間の距離の測定にDME(距離測定装置:Distance Measuring Equipment)を利用することがある(例えば、非特許文献1参照)。図5に示すように、DME2は地上局に設置される装置であり、トランスポンダ20を備えている。トランスポンダ20は、航空機5に設置されるインタロゲータ51から送信されるパルスを受信すると、受信したパルスに応答するパルスをインタロゲータ51に送信する。航空機5では、このパルスの送受信を利用して、DME2(地上局)との距離を測定し、飛行している位置を把握することができる。
【0003】
具体的には、図6に示すように、インタロゲータ51は、トランスポンダ20に質問パルスP1を送信する。この質問パルスP1はパルス幅が3.5μsのツインパルスであり、国際的に運用モード毎のパルス間隔や遅延間隔等が規定されている。また、パルスに利用する周波数は、DME毎に異なる値が設定されている。図6に一例を示すパルスは、パルス間隔が12μsであるDME/Nの運用モードである。
【0004】
インタロゲータ51から送信された質問パルスP1を受信パルスP2として受信したトランスポンダ20は、インタロゲータ51に対して受信パルスP2に応答する送信パルスP3を送信する。DME/Nモードの場合、この送信パルスP3もパルス幅が3.5μsで、パルス間隔が12μsである。
【0005】
インタロゲータ51は、トランスポンダ20から送信された送信パルスP3を受信パルスP4として受信する。受信パルスP4を受信したインタロゲータ51は、質問パルスP1の送信時刻t1および受信パルスP4の受信時刻t2とから求められる応答時間Tと、電波(信号)の伝送速度とに基づいて、DME2から航空機5までの距離を測定している。
【0006】
従来のDME2と航空機5では、受信するパルスP1〜P4の検出に、パルス幅を利用している(例えば、特許文献1参照)。すなわち、所定のパルス幅及びパルス間隔で特定できるパルスを受信したとき、距離測定の為に送受信されるパルスであると判定し、処理を実行している。
【0007】
実際にDME2や航空機5で扱われる各パルスは、図7(a)に示すような波形であり、DME2や航空機5は、DME/Nの運用モードの場合、所定の振幅部分でパルス幅が3.5μsであるときにパルスを検出することができる。しかしながら、図7(b)に示すようにパルスの送受信時にマルチパス妨害が発生した場合には、3.5μsのパルス幅が得られず、パルスを検出することができない。また、図7(c)に示すように、パルスにノイズが重畳した場合にも、3.5μsであるパルス幅が得られず、パルスを検出することができない。
【0008】
このように、受信したパルスにノイズが重畳していてもパルスの検出を可能にする技術が様々工夫されているが、仮にパルスを検出することができたとしても、パルスの送受信において発生した異常を検出することは困難であるとともに、パルスの検出不良の原因やパルスに発生した異常の原因を特定することは困難である。
【0009】
従来、二次監視レーダでは、応答信号の内容を表示して、この表示内容からユーザに対して異常の発生や原因特定を可能にする技術がある(例えば、特許文献2参照)。しかし、DMEの場合に、特許文献2の技術を容易に適用して受信したパルスを含む信号を表示するだけでは、パルスの検出不良、発生した異常、及びこれらの異常原因を特定することが困難であった。
【特許文献1】特開平9−329664号公報
【特許文献2】特開2007−10582号公報
【非特許文献1】ICAO、「Aeronautical Telecommunications Annex 10 VolumeIV Surveillance Rader and Collision Avoidance System」、1998年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来のDMEでは、パルスの検出不良、パルスに発生した異常、検出不良や異常発生の原因があっても、これらを特定することが困難であるという問題があった。
【0011】
従って本発明は、距離測定装置から距離測定装置が受信するパルスに関するデータを入力し、距離測定装置のパルスの検出不良、異常発生、異常原因等の特定を容易にし、距離測定装置を監視することのできるパルスモニタ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の特徴に係るパルスモニタシステムは、航空機から受信する所定の形式の質問パルスに応答して前記航空機で地上の基準位置からの距離を測定するために利用される応答パルスを送信する際に、前記質問パルスを含む信号を複素数データに変換して利用する距離測定装置と、前記複素数データを入力し、前記距離測定装置の動作を監視するパルスモニタ装置とを有するパルスモニタシステムであって、前記距離測定装置は、航空機から受信したパルスを含む信号に関する複素数データを出力するインタフェースを備え、前記パルスモニタ装置は、前記距離測定装置から入力した複素数データから、前記パルスのエンベロープ、周波数または位相変化量の少なくともいずれか一を解析し、この解析結果を出力する解析手段を備える。
【0013】
また、パルスモニタ装置は、航空機から受信する所定の形式の質問パルスに応答して前記航空機に地上の基準位置からの距離を測定するために利用される応答パルスを送信する際に、前記質問パルスを含む信号を複素数データに変換する機能を有する距離測定装置から前記複素数データを入力し、前記距離測定装置の動作を監視するパルスモニタ装置であって、前記距離測定装置から入力した複素数データから、前記パルスのエンベロープ、周波数または位相変化量の少なくともいずれか一を解析し、この解析結果を出力する解析手段を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、距離測定装置のパルスの検出不良、異常発生、異常原因の特定を容易にし、距離測定装置を監視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1乃至図4を用いて本発明の最良の実施形態に係るパルスモニタ装置について説明する。以下の説明において、上述した従来と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】
図1に示すように、パルスモニタ装置1は、距離測定装置(DME)2、表示装置3及び入力装置4と接続されている。このパルスモニタ装置1は、DME2から入力する複素数データ(IQデータ)を解析し、解析結果を表示装置3に表示する。
【0017】
DME2は、図5を用いて上述したDME2と同様に、航空機5との間で質問応答を実行する装置であるが、パルスモニタ装置1に複素数データを出力する必要がある。すなわち、従来の一般的なDMEは、内部の処理で利用された複素数データは、外部に出力されない。しかし、本発明に係るパルスモニタ装置1は複素数データを使用してDMEを監視するため、このパルスモニタ装置1に接続されるDME2は、図2を用いて以下に説明するように、内部の処理で得られる複素数データをパルスモニタ装置1に出力している。
【0018】
DME2では、トランスポンダ20で受信した質問パルスを含む信号をローノイズアンプ21に入力する。また、ローノイズアンプ21で増幅した信号を、ローカル周波数22とミキサ23によってIF信号としてバンドパスフィルタ24に入力する。バンドパスフィルタ24で抽出された必要な周波数帯域のIF信号は、アナログデジタル変換器(A/D変換器)25に入力されてディジタ信号に変換される。その後、ディジタル信号に変換されたIF信号は、直交変換器26によって複素平面に展開され、実数部のIデータと虚数部のQデータとして出力される。DME2の処理では、パルス幅が必要であるため、振幅変換器27によってIデータ及びQデータで構成される複素数データ(IQデータ)から求められた振幅がパルス検出器28に出力される。パルス検出器28は、入力する振幅を利用してパルスを求め、その後に続く処理(例えば、復調処理等)に供給している。ここまでの処理は、一般的にDMEにおいて実行されている処理である。
【0019】
本発明のパルスモニタ装置1に、複素数データを供給するため、このパルスモニタ装置1に接続されているDME2では、外部インタフェース(外部I/F)29を備えている。直交変換器26で変換された複素数データは、振幅変換器27とともに外部インタフェース29にも出力され、外部インタフェース29によってパルスモニタ装置1に出力される。
【0020】
このとき、外部インタフェース29がパルス検出器28から検出されるパルスの検出結果を入力することができれば、パルスモニタ装置1に対して必要な複素数データのみを出力し、不要なデータの送信を防止することができる。すなわち、外部インタフェース29がパルス検出器28からの出力に応じて、パルスとして認められるレベルの振幅の複素数データのみを送信することで、パルスモニタ装置1では、不要なデータの解析処理及び記憶処理を実行しなくてよい。
【0021】
図1に示すように、パルスモニタ装置1は、DME2から入力する複素数データを解析する解析手段11を備え、この解析手段11における解析結果を表示装置3に表示する。また、パルスモニタ装置1は、DME2から入力する複素数データを記憶装置12に記憶し、入力する新たな複素数データと記憶装置12に記憶されている過去の複素数データを照合する照合手段13を備え、照合結果を表示装置3に表示する。このパルスモニタ装置1には入力装置4が接続されており、この入力装置4を介して入力される操作にしたがってパルスモニタ装置1が動作する。
【0022】
具体的には、パルスモニタ装置1に入力された複素数データは、解析手段11に入力され、また、記憶装置12に記憶される。記憶装置12では、例えば、図3に示すように、DME2がこの複素数データに対応する信号を受信した時刻と、複素数データの実数部であるIデータと、虚数部であるQデータとを関連付けて蓄積している。
【0023】
解析手段11は、入力する複素数データを解析し、解析結果や解析の対象となった複素数データに関する情報(時刻、Iデータの値、Qデータの値等)を表示装置3に表示する。例えば、解析手段11は、入力した複素数データを図4(a)に示すようなパルスのエンベロープを解析し、表示装置3に表示する。または、解析手段11は、入力した複素数データから、図4(b)に示すような周波数変化や、図4(c)に示すような位相変化を解析し、表示装置3に表示する。
【0024】
解析手段11によって表示装置3に表示される解析結果や複素数データに関する情報から、DME2が受信したパルスの特性を把握することができるため、オペレータはパルスの検出不良、異常発生、異常原因等を容易に特定することができる。
【0025】
例えば、パルスの特性から異常の発生や異常の原因を特定することができる。したがって、解析結果として一定の特性のパルスが得られたときには、異常発生や異常原因を容易に特定することができる。
【0026】
このとき、解析手段11が解析対象とする複素数データは、DME2から入力する複素数データと、記憶装置12に記憶されている複素数データとのいずれの複素数データも解析することができる。
【0027】
また、解析手段11は、解析結果を表示装置3に表示するほか、照合手段13に出力することもできる。
【0028】
照合手段13は、入力する複数の解析結果を照合し、照合結果や照合の対象となった複素数データに関する情報を表示装置3に表示する。例えば、DME2から入力した新たな複素数データの解析結果と、記憶装置12から読み出した過去の複素数データの解析結果とを解析手段11から入力した照合手段13は、新たな複素数データの解析結果と過去の複素数データとの関係を表わす照合結果を表示装置3に表示する。または、記憶装置12から読み出した過去の異なる複素数データの解析結果を解析手段11から入力した照合手段13は、複数の過去の複素数データの照合結果を表示装置3に表示する。
【0029】
照合手段13によって表示装置3に表示される照合結果や複素数データに関する情報から、DME2が受信した複数のパルス間の関係を把握することできるため、オペレータはパルスの検出不良、異常発生、異常原因を特定することが容易になる。
【0030】
例えば、同一の航空機から受信するパルスの特性は決まっているため、解析結果が類似するパルスから同一の航空機から受信したパルスを特定することができる。したがって、同一の航空機から受信するパルスの解析結果にのみ異常の特性が表れている場合、このパルスを送信した航空機(インタロゲータ)における異常発生や異常原因を容易に特定することができる。
【0031】
このとき、照合手段13は、基準の複素数データと一定の関係にある複素数データを検出するまで、照合結果を表示せずに照合を続けてもよい。例えば、入力装置4から、「DME2から入力する新たな複素数データと類似する過去の複素数データを検索する」という操作信号を入力したとき、照合手段13は、解析手段11から入力した新たな複素数データと類似する過去の複素数データを入力するまで、解析手段11に対して他の過去の複素数データの解析結果の出力を要求する信号を出力する。その後、解析手段11から基準の新たな複素数データに類似する過去の複素数データの解析結果を入力すると、この解析結果や、解析対象となった新たな複素数データ及び過去の複素数データに関する情報を表示装置3に表示する。
【0032】
このようにすれば、同一の異常の候補とされるパルスを複数繰り返して受信しているか否かや、同一の航空機から異常の候補とされるパルスを繰り返して受信しているか否かを判定し、異常発生や異常原因を容易に特定することができる。
【0033】
このように、本発明に係るパルスモニタ装置1では、DME2が受信したパルスを含む複素数データを解析し、解析結果を表示装置3に表示する。また、入力装置4からの操作にしたがって、複数の複素数データの照合結果を表示装置3に表示する。さらに、パルスモニタ装置1は、解析結果や照合結果とともに、複素数データに関する情報を表示する。したがって、本発明に係るパルスモニタ装置1は、DME2を操作するオペレータに対し、表示装置3に表示される情報を利用して、パルスの検出不良、異常発生、異常原因等を容易に特定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るパルスモニタシステムの構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の最良の実施形態に係るパルスモニタ装置に接続される距離測定装置の構成について説明する。
【図3】本発明の最良の実施形態に係るパルスモニタ装置の記憶装置に記憶される複素数データの構成の一例について説明する図である。
【図4】本発明の最良の実施形態に係るパルスモニタ装置の解析結果の一例を説明する図である。
【図5】DMEと航空機について説明する図である。
【図6】DME/Nモードのパルスの送受信について説明する図である。
【図7】DME/Nモードのパルスの検出について説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
1…パルスモニタ装置
11…解析手段
12…記憶装置
13…照合手段
2…距離測定装置
20…トランスポンダ
21…ローノイズアンプ
22…ローカル周波数
23…ミキサ
24…バンドパスフィルタ
26…直交変換器
27…振幅変換器
28…パルス検出器
29…外部インタフェース
3…表示装置
4…入力装置
5…航空機
51…インタロゲータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機から受信する所定の形式の質問パルスに応答して前記航空機で地上の基準位置からの距離を測定するために利用される応答パルスを送信する際に、前記質問パルスを含む信号を複素数データに変換して利用する距離測定装置と、前記複素数データを入力し、前記距離測定装置の動作を監視するパルスモニタ装置とを有するパルスモニタシステムであって、
前記距離測定装置は、
航空機から受信した質問パルスを含む信号の複素数データを出力するインタフェースを備え、
前記パルスモニタ装置は、
前記距離測定装置から入力した複素数データから、前記質問パルスのエンベロープ、周波数または位相変化量の少なくともいずれか一を解析し、この解析結果を出力する解析手段を備える
ことを特徴とするパルスモニタシステム。
【請求項2】
前記距離測定装置は、
前記複素数データを振幅変換して得られた振幅データから所定幅のパルスを検出し、検出結果を前記インタフェースに出力するパルス検出器を備え、
前記インタフェースは、前記所定幅のパルスに対応する複素数データのみを前記パルスモニタ装置に出力することを特徴とする請求項1に記載のパルスモニタシステム。
【請求項3】
航空機から受信する所定の形式の質問パルスに応答して前記航空機に地上の基準位置からの距離を測定するために利用される応答パルスを送信する際に、前記質問パルスを含む信号を複素数データに変換する機能を有する距離測定装置から前記複素数データを入力し、前記距離測定装置の動作を監視するパルスモニタ装置であって、
前記距離測定装置から入力した複素数データから、前記質問パルスのエンベロープ、周波数または位相変化量の少なくともいずれか一を解析し、この解析結果を出力する解析手段を備えることを特徴とするパルスモニタ装置。
【請求項4】
入力する前記複素数データを蓄積して記憶する記憶装置を備え、
前記解析手段は、前記記憶装置に記憶される過去の複素数データを読み出して解析することを特徴とする請求項3に記載のパルスモニタ装置。
【請求項5】
前記解析手段は、前記記憶装置に記憶から読み出した過去の複素数データと、入力する新たな複素数データとを解析し、
前記過去の複素数データの解析結果と、新たな複素数データの解析結果とを照合し、前記過去の複素数データと前記新たな複素数データとの関係を照合結果として求めて出力する照合手段を備えることを特徴とする請求項4に記載のパルスモニタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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