説明

パルスレーダ装置

【課題】パルスレーダ装置において、スキャン時間を増大させることなく、距離分解能や検知精度を向上させる。
【解決手段】前回の更新時に物標が検出されていなければ、測定範囲の全領域について、第1の距離分解能(低分解能:パルス幅τが大)で物標の検出を行い、物標が検出されると、その物標が検出された付近の領域についてのみ、分解能を向上させ、第2の距離分解能(高分解能:パルス幅τが小)にて物標の検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状のレーダ波を送受信することにより、レーダ波の反射を行う物標までの距離を検出するパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルス状のレーダ波を送受信し、レーダ波の送信からその反射波の受信までに要した時間、即ち、レーダ波の反射を行う物標までの距離をレーダ波が往復するのに要した時間(以下、往復時間という)を測定することにより、物標までの距離を検出するパルスレーダ装置が知られている。
【0003】
また、レーダ波の往復時間を測定する手法の一つとして、マッチドフィルタを用いるものが知られている。
このマッチドフィルタを適用したパルスレーダ装置は、レーダ波の送信信号を予め設定された遅延時間だけ遅延させたゲート信号を生成し、このゲート信号と反射波の受信信号との相関を相関器を用いて求めるように構成される。
【0004】
そして、図8に示すように、測定対象となる時間範囲(以下、測定時間範囲という)の時間幅をTsとして、この時間幅Tsを送信周期としてレーダ波の送信を繰り返すと共に、ゲート信号の遅延時間Dを、予め設定された変化量τずつ順次変化(D=0,τ,2τ,3τ…)させながら測定を繰り返すことにより時間軸上のスキャンを実行し、相関器の出力が最大となった時のゲート信号の遅延時間Dをレーダ波の往復時間として検出する。
【0005】
なお、測定時間範囲(=レーダ波の送信周期)Tsは、通常、当該装置の最大検出距離Rをレーダ波が往復するのに要する時間に設定され、光速をCとして(1)式で表される。
【0006】
Ts=2R/C (1)
また、距離分解能をΔRとすると、この距離分解能ΔRと遅延時間Dの変化量τとは、(2)式に示す関係を有する。
【0007】
τ=2ΔR/C (2)
但し、測定時間範囲Tsの全体を、変化量τでスキャンする場合、1回のスキャンに要するゲート信号の数、即ち、測定の繰返回数Nは(3)式で表され、また、1回のスキャンに要する時間(スキャン周期)Tscanは、(4)式で表されることになる。
【0008】
N=Ts/τ=R/ΔR (3)
Tscan=N×Ts (4)
つまり、距離分解能ΔRを向上させる(即ち、ΔRを小さくする)には、遅延時間Dの変化量τを小さくして、1回のスキャンで行う測定の繰返回数Nを増加させる必要があり、それに伴って、スキャン時間Tscanも増大してしまうという問題があった。
【0009】
具体的には、R=68mで、ΔR=0.1mに設定すると、N=680回,Tscan=0.31msとなり、また、ΔR=0.05m(距離分解能を倍)に設定すると、N=1360回,Tscan=0.62ms(即ち、N,Tscanも倍)になる。
【0010】
更に、この種のパルスレーダ装置では、複数回のスキャン結果を加算することにより、いわゆる同期加算利得によって検知精度を向上させることも行われている。なお、この場合、レーダにより検出された物標に関する情報の更新は、スキャンを複数回実行する毎に行われることになる。
【0011】
そして、上述したように距離分解能を向上させることでスキャン時間Tscanが増大しているにも関わらず、1回の更新当たりのスキャン回数(ひいては同期加算利得)を確保しようとすると、物標に関する情報の更新周期が長くなり、検出のリアルタイム性を損なってしまう。逆に、リアルタイム性を確保するために更新周期を一定に保持しようとすると、1回の更新当たりのスキャン回数(ひいては同期加算利得)が減少し、検知精度を低下させてしまう。
【0012】
つまり、距離分解能の向上と、同期加算利得による検知精度の向上とを両立させることが困難であるという問題があった。
これに対して、最大検出距離R内の全体に渡って距離分解能を一律に向上させるのではなく、近距離領域では距離分解能を高く(τが小)、遠距離領域では距離分解能を低く(τが大)して物標を検出するパルスレーダ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−90800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この特許文献1に記載の装置(従来装置)では、近距離領域のみ距離分解能を高めているため、検知領域の全体を高分解能化した場合と比較して、1回のスキャンで行う測定の繰返回数Nやスキャン時間Tscanの増大を抑制することはできるものの、これら繰返回数Nやスキャン時間Tscanが増大することに変わりがなく、上述した問題を軽減できるだけで、本質的に解決することができないという問題があった。
【0014】
しかも、例えば、パルスレーダ装置を車両に搭載した場合、必ずしも近距離領域のみ高分解能であればよいとは限らず、車両の状況によっては、遠距離領域でも高分解能な測定が必要となる可能性があり、従来装置は、そのような場合に適用することができないという問題もあった。
【0015】
本発明は、上記問題点を解決するために、パルスレーダ装置において、スキャン時間を増大させることなく、距離分解能や検知精度をいずれも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するためになされた本発明のパルスレーダ装置では、送信信号生成手段が、予め設定された送信周期でパルス状の送信信号を繰り返し生成し、送受信手段が、その送信信号に基づいてレーダ波を送信すると共に、その反射波を受信する。
【0017】
また、ゲート信号生成手段が、送信信号生成手段が生成した送信信号を遅延させたゲート信号を生成し、相関検出手段が、送受信手段が受信した送受信手段から送信されたレーダ波の反射波である受信信号と、ゲート信号生成手段が生成したゲート信号との相関を求める。
【0018】
この時、走査手段は、送信周期毎に、ゲート信号生成手段で生成されるゲート信号の遅延時間を順次変化させ、物標検出手段は、相関検出手段での検出結果に基づき、送受信手段から送信されたレーダ波の反射を行う物標を算出する。
【0019】
なお、走査手段では、物標検出手段にて物標が未検出である場合、第1設定手段が、物標検出手段にて検出される物標の距離分解能が、予め設定された第1の距離分解能となる割合でゲート信号の遅延時間を変化させる。また、物標検出手段にて物標が検出されている場合、第2設定手段が、その検出された物標までの距離を含む指定区間を設定し、物標検出手段にて検出される物標の距離分解能が、指定区間外では第1の距離分解能になり、指定区間内では第1の距離分解能より高く設定された第2の距離分解能となる割合で、ゲート信号の遅延時間を変化させる。
【0020】
そして、第1設定手段での検出や、第2設定手段による指定区間以外での検出は、指定区間を設定できる程度の荒い分解能があればよいため、第1の距離分解能を、従来装置の遠距離領域で用いる距離分解能より更に低く抑えることが可能である。
【0021】
また、第2設定手段では、指定区間だけ高い距離分解能(第2の距離分解能)が得られるようにしているため、指定区間が設定されることによる1回のスキャン中での測定の繰返回数、及びスキャン時間の増大は必要最小限に抑えられる。
【0022】
つまり、本発明のパルスレーダ装置によれば、第2の距離分解能で検出を行う指定区間が設定されることによるスキャン時間の増大分を、指定区間以外で使用される第1の距離分解能を従来より低く抑えることで相殺することができ、その結果、従来装置と比較して、スキャン時間を増大させることなく、高い距離分解能での物標検出を実現することができる。
【0023】
しかも、本発明のパルスレーダ装置において、第2の距離分解能で検出を行う指定区間は、特定の領域に固定されるのではなく、任意に設定可能であるため、遠距離領域にて高分解能が必要な用途であっても問題なく適用することができる。
【0024】
なお、距離算出手段は、請求項2に記載のように、相関検出手段での検出結果を、同じ遅延時間を有したゲート信号に基づいて検出されたもの同士で、複数個ずつ加算した結果に基づいて、物標までの距離を算出するように構成されていることが望ましい。
【0025】
この場合、検出結果の加算値を用いることで、同期加算利得が得られるため、相関検出手段の検出結果のS/N、ひいては距離の検知精度(信頼性)を向上させることができる。しかも、上述したように、本発明のパルスレーダ装置によれば、スキャン時間を増大させることがないため、物標検出手段による検出結果を更新する周期が一定であれば、その更新周期の間に、走査手段が実行するスキャン回数を最大限に確保することができる。
【0026】
また、送信信号生成手段は、請求項3に記載のように、走査手段によって実現される距離分解能に応じて、送信周期毎の遅延時間の変化量と同じ大きさのパルス幅を有する送信信号を生成するように構成されていることが望ましい。
【0027】
即ち、パルス幅を変化量以上に設定すれば、送信周期で規定される測定範囲内をゲート信号によって漏れなくスキャンすることができるが、パルス幅を変化量と同じ大きさに設定すれば、測定範囲内でゲート信号が互いに重なり合うことがないため、効率良くスキャンを行うことができる。
【0028】
次に、請求項4に記載のパルスレーダ装置では、速度取得手段が、当該装置を搭載した移動体の移動速度を取得し、走査手段は、第1の距離分解能及び第2の距離分解能の少なくとも一方が、速度取得手段にて取得された移動速度に応じた大きさとなるように、遅延時間を変化させる。具体的には、例えば、移動速度が小さいほど、第1及び第2の距離分解能が高くなるように設定する。
【0029】
このように構成された本発明のパルスレーダ装置によれば、物標との距離を、移動速度に適した分解能で検出することができる。
また、請求項5に記載のパルスレーダ装置では、速度取得手段が、当該装置を搭載した移動体の移動速度を取得し、その移動速度が、予め設定された速度閾値以下である場合、走査手段を構成する第3設定手段が、物標検出手段にて検出される物標の距離分解能が、その物標までの距離が短いほど高くなるように、遅延時間を変化させる。
【0030】
このように構成された本発明のパルスレーダ装置によれば、当該装置を搭載した移動体の移動速度が小さい場合、即ち、遠距離の物標が接近するまでに時間的な余裕があるためこれを急いで検出する必要がない場合に、近距離の領域を優先的に高分解能で検出することができる。
【0031】
また、請求項6に記載のように、第3設定手段により遅延時間の可変設定を行う場合、即ち、当該装置を搭載した移動体の移動速度が速度閾値以下である場合、走査手段は、送信周期より短く設定された低速時最大遅延時間以下となる範囲内で遅延時間を変化させることが望ましい。ここで低速時最大遅延時間とは移動体の速度が速度閾値以下である場合に設定されるゲート信号の遅延時間の最大値であり、閾値以上であるときより短く設定される。
【0032】
このように構成された本発明のパルスレーダ装置によれば、移動体が低速で移動している時には、物標を検出する範囲が制限されるため、1回のスキャン内での測定の繰返回数を大幅に削減することができ、また、その限られた範囲内全体では物標までの距離を高分解能で検出することができる。
【0033】
請求項7に記載のパルスレーダ装置では、物標検出手段は、物標までの距離の算出結果に基づいて、物標の相対速度を算出する。
このように構成された本発明のパルスレーダ装置によれば、高分解能(第2の距離分解能)で測定された距離に基づいて、相対速度を精度よく算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
<構成>
図1は、車両に取り付けられ、車両前方に存在する物標(先行車両や障害物等)を検出するパルスレーダ装置1の構成を示すブロック図である。
【0035】
図1に示すように、パルスレーダ装置1は、ミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、レーダ波を送信するタイミングを指定するタイミング信号ST、そのタイミング信号STを遅延させた遅延タイミング信号DST、レーダ波のパルス幅を指定するパルス幅信号PWを生成するパルス制御部12と、パルス制御部12で生成されたタイミング信号ST及びパルス幅信号PWに基づき、発振器11で生成された高周波信号を、タイミング信号STで特定されるタイミングで、パルス幅信号PWで特定される期間だけ出力することでパルス状の送信信号を生成する送信信号生成回路13と、送信信号生成回路13にて生成された送信信号を送信アンテナ15に供給することで、送信アンテナ15からレーダ波を放射させる送信器14とを備えている。
【0036】
また、パルスレーダ装置1は、送信アンテナ15から送信され、物標に反射して戻ってきたレーダ波(反射波)を、受信アンテナ16を介して受信する受信器17と、パルス制御部12で生成された遅延タイミング信号DST及びパルス幅信号PWに基づき、発振器11で生成された高周波信号を、遅延タイミング信号DSTで特定されるタイミングで、パルス幅信号PWで特定される期間だけ出力することでパルス状のゲート信号を生成するゲート信号生成回路18と、受信器17にて受信した反射波の受信信号に、ゲート信号生成回路18にて生成されたゲート信号を混合してゲート信号と同じ周波数を有する信号成分を抽出する相関器19と、相関器19の出力を検波する検波器20と、検波器20の出力(検波信号)に基づいて、レーダ波の反射を行う物標との距離や相対速度を求めると共に、その検出結果に基づいてパルス制御部12に対する指令を生成する物標検出処理を実行する信号処理部21とを備えている。
【0037】
<パルス制御部の構成>
パルス制御部12は、信号処理部21からの起動停止指令CAに従って起動,停止され、起動時には、一定の測定周期Tsでタイミング信号STを生成するタイミング生成部22と、信号処理部21からの区間設定指令RGに従って、その区間設定指令RGに示された区間毎に、遅延タイミング信号DSTのタイミング信号STに対する遅延時間Dを規定する遅延時間信号DLT及び送信信号やゲート信号のパルス幅を規定するパルス幅信号PWを出力するスキャン制御部23と、タイミング生成部22にて生成されたタイミング信号STを、スキャン制御部23から出力される遅延時間信号DLTで規定される遅延時間Dだけ遅延させて遅延タイミング信号DSTを生成する遅延回路24とを備えている。
【0038】
なお、タイミング生成部22がタイミング信号STを生成する周期、即ち測定周期Tsは、当該パルスレーダ装置1の最大検出距離Rをレーダ波が往復するのに要する時間に設定され、光速をCとして(5)式で表される。
【0039】
Ts=2R/C (5)
また、区間設定指令RGは、測定周期Tsで規定される時間範囲(以下、測定範囲という)を、低分解能区間及び高分解能区間のいずれかに設定するものである。そして、この区間設定指令RGを受けたスキャン制御部23は、各区間毎に予め設定された遅延時間信号DLT,パルス幅信号PWを出力するように構成されている。
【0040】
この時、パルス幅信号PWで指定されるパルス幅は、各区間毎に一定の大きさを有しており、一方、遅延時間信号DLTで指定される遅延時間は、測定周期Ts毎に、パルス幅と等しい大きさに設定された変化量ずつ増加するように設定されている。
【0041】
ここで、距離分解能をΔR、パルス幅(遅延時間の変化量)をτとすると、両者は、(6)式に示す関係を有する。つまり、パルス幅(遅延時間の変化量)τによって距離分解能ΔRは規定される。
【0042】
τ=2ΔR/C (6)
そして、パルスレーダ装置1では、低分解能区間のパルス幅τ1(ひいては第1の距離分解能ΔR1)は、高分解能区間のパルス幅τ2(ひいては第2の距離分解能ΔR2)より大きな値に設定されている。
【0043】
なお、測定周期Ts内での低分解能区間の長さをT1、高分解能区間の長さをT2とすると(Ts=T1+T2)、1回のスキャンに要する測定の繰返回数(パルスの発生回数)Nは(7)式で、1回のスキャンに要する時間Tscanは(8)式で表される。
【0044】
N=T1/τ1+T2/τ2 (7)
Tscan=N×Ts=(T1/τ1+T2/τ2)×Ts (8)
<物標検出処理>
次に、信号処理部21が実行する物標検出処理を、図2に示すフローチャートに沿って説明する。
【0045】
本処理が起動すると、まず、S110では、スキャン制御部23に対して区間設定指令RGを出力することでスキャン動作の内容を設定するスキャン動作設定処理を実行する。
続くS120では、タイミング生成部22に対して起動停止指令CAを出力することで、S110で出力した区間設定指令RGの内容から決定される更新期間Trnの間、タイミング生成部22を動作させると共に、その更新期間Trnの間、測定周期Ts毎に検波器20の出力(以下、相関値という)を取得するスキャン処理を実行する。
【0046】
なお、更新期間Trnは、M(Mは2以上の整数)回のスキャンにより得られた測定結果に基づいて検出した物標に関する情報を更新するものとし、区間設定指令RGの内容から(8)式により求められるTscanを用いて、(9)式により算出される。
【0047】
Trn=M×Tscan (9)
続くS130では、S120で取得した相関値に基づいて、物標を検出する処理を実行する。
【0048】
具体的には、M回のスキャンで得られたM×N個の相関値から、同じ遅延時間を有するゲート信号のタイミングで得られたM個の相関値をそれぞれ加算し、そのN個の加算結果(以下、加算相関値という)が、予め設定された検出閾値より大きくなる時間領域を、物標が存在する領域として抽出する。
【0049】
続くS140では、S130での処理の結果、物標が検出されたか否かを判断し、否定判断した場合(物標検出なしの場合)は、S110に戻る。
一方、S140にて肯定判断した場合(物標検出ありの場合)は、S150に進み、物標が検出された領域毎に、その領域の中で、出力が最大となるゲート信号のタイミング(レーダ波の送信タイミングに対する遅延時間)から、レーダ波がその物標を往復するのに要した時間を求める。なお、ゲート信号の遅延時間をそのまま往復時間としてもよいし、加算相関値の分布から細かく遅延時間を求めてもよい。
【0050】
続くS160では、S150にて距離が算出された物標と同一物標について、前回の更新時に距離が算出されていれば、その前回値と今回値とから当該パルスレーダ装置1を搭載した車両との相対速度を算出して、S110に戻る。
【0051】
<スキャン動作設定処理>
次に、先のS110にて実行するスキャン動作設定処理を、図3に示すフローチャートに沿って説明する。
【0052】
本処理が起動すると、まずS210では、前回の更新時に物標が検出されているか否かを判断し、否定判断した場合(前回更新時に物標検出なしの場合)は、S220に進み、全区間を低分解能区間に設定して、S240に進む。
【0053】
一方、S210にて肯定判断した場合(前回更新時に物標検出ありの場合)は、S230に進み、検出された物標の中で、最も距離が近いものを抽出し、その距離を中心として、予め設定された時間領域(例えば、検出された距離を中心にして±2mに相当する範囲)を高分解能区間に、それ以外の時間領域を低分解能区間に設定して、S240に進む。
【0054】
S240では、S220又はS230にて設定された区間を示した区間設定指令RGをスキャン制御部23に出力して、本処理を終了する。
なお、高分解能区間の大きさは、常に一定の大きさであってもよいし、物標の速度等に応じて大きさを変化させてもよい。また、物標が検出された距離に対する前後の領域幅が、物標の相対速度に応じて変化するように構成してもよい。
【0055】
<効果>
以上説明したように、パルスレーダ装置1では、図4に示すように、物標が検出されるまでの間は、測定範囲の全領域を低分解能区間に設定し、第1の距離分解能(低分解能:パルス幅が大)で物標の検出を行い、物標が検出されると、その物標が検出された付近の領域を高分解能区間に設定して、その高分解能区間についてのみ、第2の距離分解能(高分解能:パルス幅が小)にて詳細に物標の検出を行うようにされている。
【0056】
なお、図4は、ゲート信号のパルス幅,遅延タイミング、及びゲート信号と検出される距離との関係を模式的に示した図である。
つまり、第1の距離分解能は、高分解能区間(本発明における指定区間に相当する)を設定できる程度の分解能であればよいため、低分解能に抑えることが可能であり、また、第2の距離分解能で検出を行う高分解能区間は、これを設定することによるスキャン時間Tscanの増大が必要最小限に抑えられるように、物標が検出された付近だけに設定されている。
【0057】
従って、パルスレーダ装置1によれば、高分解能区間を設定することによるスキャン時間Tscanが増大する分を、低分解能区間の分解能(第1の距離分解能)を従来装置より低く抑えることで相殺することができ、その結果、従来装置と比較して、スキャン時間Tscanを増大させることなく、高い距離分解能(第2の距離分解能)で物標を検出することができる。
【0058】
しかも、パルスレーダ装置1において、第2の距離分解能で物標を検出する高分解能区間は、測定範囲内の特定の領域に固定されるのではなく、全ての領域で可能であるため、遠距離領域にて高分解能が必要な用途であっても問題なく適用することができる。
【0059】
また、パルスレーダ装置1によれば、M回のスキャンで得られた相関値を、ゲート信号の遅延時間が同じもの同士で加算した加算相関値を用いて、物標までの距離を求めているため、同期加算利得により、距離の検出精度(信頼性)を向上させることができる。
【0060】
しかも、上述したように、パルスレーダ装置1によれば、高い距離分解能での物標の検知をスキャン時間Tscanを増大させることなく実現しているため、検出した物標に関する情報の更新周期が一定であれば、その更新周期の間に実行するスキャン回数M、ひいては同期加算利得による効果を最大限に確保することができる。
【0061】
なお、本実施形態において、発振器11,タイミング生成部22,送信信号生成回路13が送信信号生成手段に相当し、送信器14,送信アンテナ15,受信アンテナ16,受信器17が送受信手段に相当し、発振器11,タイミング生成部22,遅延回路24,ゲート信号生成回路18がゲート信号生成手段に相当し、相関器19,検波器20が相関検出手段に相当し、スキャン制御部23a及びS110が走査手段に相当し、S120〜S160が物標検出手段に相当し、S220及びこれに対応した区間設定指令RGに従って動作するスキャン制御部23が第1設定手段に相当し、S230及びこれに対応した区間設定指令RGに従って動作するスキャン制御部23が第2設定手段に相当する。
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。
【0062】
図5は、本実施形態のパルスレーダ装置3の構成を示すブロック図である。
パルスレーダ装置3では、パルス制御部12a(特に、スキャン制御部23a)、及び信号処理部21aの構成のみが、第1実施形態のものとは異なるため、同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略し、この相違する部分を中心に説明する。
【0063】
<信号処理部>
信号処理部21aは、当該装置3を搭載した車両の速度(以下、車速という)Vを、車速センサ(図示せず)から取得すると共に、スキャン制御部23aに対して、区間設定指令RGだけでなく、モード設定指令MD、分解能設定指令PSを出力するように構成されている。
【0064】
なお、モード設定指令MDにより設定される動作モードとしては、車速Vが予め設定された速度閾値Vth(本実施形態では、20km/h)より大きい場合に設定される通常モードと、車速Vが速度閾値Vth以下である場合に設定される低速モードとが存在する。
【0065】
<スキャン制御部>
スキャン制御部23aは、図7に示すように、モード設定指令MDにより通常モードが指定されている場合、第1実施形態のスキャン制御部23と同様に動作する。但し、パルス幅信号PWが指定するパルス幅、及びゲート信号の遅延時間の変化量は、分解能設定指令PSによって指定される距離分解能に応じた値を用いるようにされている。
【0066】
一方、モード設定指令MDにより低速モードが指定されている場合、スキャン制御部23aは、最大検出距離Rより短く設定された低速時最大検出距離RLをレーダ波が往復するのに要する時間の範囲を測定区間、それ以外を非測定区間として、測定区間でのみスキャンを実行するための遅延時間信号DLT,パルス幅信号PWを出力する。
【0067】
但し、パルス幅信号PWで指定されるパルス幅は、測定周期Ts毎に、予め設定された変化量ずつ増加し、一方、遅延時間信号DLTで指定される遅延時間は、前回の測定周期で指定されたパルス幅を変化量として、測定周期Ts毎にその変化量ずつ増加するように設定されている。つまり、距離が近いほど高い距離分解能で物標が検出されるようなスキャンを実現するように動作する。
【0068】
なお、ここでは、パルス幅及び遅延時間の変化量を、測定周期Ts毎に連続的に増加させているが、測定区間を分割し、その分割した区間毎に段階的に増加させるように構成してもよい。
【0069】
<スキャン動作設定処理>
次に、信号処理部21aが実行するスキャン動作設定処理を、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
【0070】
本処理が起動すると、まず、S310では、自車両の車速Vを取得し、続くS320では、取得した車速Vが速度閾値Vthより大きいか否かを判断する。
車速Vが速度閾値Vthより大きいと判断した場合は、S330に進み、動作モードを通常モードに設定する。
【0071】
続くS330では、前回の更新時に物標が検出されているか否かを判断する。
このS330にて否定判断された場合、即ち物標が検出されていない場合は、S350に進み、全区間を低分解能区間に設定して、S380に進む。
【0072】
一方、S340にて、肯定判断された場合、即ち物標が検出されている場合は、S350に進み、検出された物標の中で、最も距離が近いものを抽出し、その距離を中心として、ある時間領域を高分解能区間に、それ以外の時間領域を低分解能区間に設定する。
【0073】
続くS370では、S310にて検出された車速V及びS150で検出された物標までの距離に基づき、高分解能区間の分解能(即ち、第2の距離分解能)を設定してS380に進む。なお、第2の距離分解能は、車速Vが低いほど、前回検出された物標までの距離が近いほど高分解能となるように、予め記憶されたテーブル等を用いて設定する。
【0074】
S380では、S310にて検出された車速Vに基づき、車速Vが低いほど低分解能区間の分解能(即ち、第1の距離分解能)を設定して、S410に進む。なお、第1の距離分解能は、車速Vが低いほど高分解能となるように、予め記憶されたテーブル等を用いて設定する。
【0075】
先の320にて否定判定された場合、即ち、車速Vが速度閾値Vth以下である場合は、S390に進み、動作モードを低速モードに設定する。
続くS400では、S310にて取得した車速Vに基づき、測定区間の大きさ、及び分解能を設定してS410に進む。なお、測定区間は、車速Vが低いほど短くなり、また、分解能は車速Vが低いほど高くなるように、予め記憶されたテーブル等を用いて設定する。但し、低速モードの場合、分解能は連続的に変化するため、その初期値を設定する。
【0076】
S410では、S330又はS390にて設定された動作モードを指定するモード設定指令MD、S350又はS360又はS400にて設定された区間を指定する区間設定指令RG、S370及びS380,又はS400で設定された分解能を指定する分解能設定指令PSを、スキャン制御部23aに対して出力して本処理を終了する。
【0077】
<効果>
以上説明したように、パルスレーダ装置3によれば、通常モード(V≦Vth)の時は、第1実施形態のパルスレーダ装置1と同様に動作するため、これと同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、パルスレーダ装置3では、低速モード(V>Vth)の時は、スキャンを実行する範囲である測定区間を限定し、その測定区間内で近距離ほど高い距離分解能で物標を検出するようにされている。
【0079】
従って、パルスレーダ装置3によれば、遠距離の物標を急いで検出する必要がない状況の時に、近距離の領域を優先的に高分解能で検出することができる。しかも、測定区間を限定したことにより、1回のスキャン内での測定の繰返回数Nを大幅に削減されるため、物標の情報を更新する周期を一定にするのであれば、その更新周期内でのスキャン回数を増加させることで同期加算利得を増大させることができ、ひいては距離や相対速度の検出精度を向上させることができる。
【0080】
なお、本実施形態において、S310が速度取得手段に相当し、S390〜S400及びこれに対応するモード設定指令MDに従って動作するスキャン制御部23aが第3設定手段に相当する。
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0081】
例えば、上記実施形態では、検出した物標のうち、最も近距離に位置する物標に対してのみ高分解能区間を設定しているが、複数の物標に対して高分解能区間を設定するように構成してもよい。
【0082】
第1実施形態では、低分解能区間及び高分解能区間の距離分解能をそれぞれ固定しているが、第2実施形態と同様に、車速や距離に応じて距離分解能を可変設定するように構成してもよい。
【0083】
逆に、第2実施形態では、通常モードで設定される低分解能区間及び高分解能区間のいずれにおいても、車速や距離に応じて距離分解能を可変設定しているが、いずれか一方の区間でのみ可変設定をしたり、いずれの区間でも距離分解能を固定するように構成してもよい。
【0084】
上記実施形態では、スキャン制御部23,23aを、信号処理部21,21aとは別体に設けたが、信号処理部21の処理により遅延時間信号DLTやパルス幅信号PWが生成されるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1実施形態のパルスレーダ装置1の構成を示すブロック図。
【図2】物標検出処理の内容を示すフローチャート。
【図3】スキャン動作設定処理の内容を示すフローチャート。
【図4】スキャン制御部23の動作を示す説明図。
【図5】第2実施形態のパルスレーダ装置3の構成を示すブロック図。
【図6】スキャン動作設定処理の内容を示すフローチャート。
【図7】スキャン制御部23aの動作を示す説明図。
【図8】マッチドフィルタにより検出を行うパルスレーダ装置の動作を示す説明図。
【符号の説明】
【0086】
1,3…パルスレーダ装置 11…発振器 12,12a…パルス制御部 13…送信信号生成回路 14…送信器 15…送信アンテナ 16…受信アンテナ 17…受信器 18…ゲート信号生成回路 19…相関器 20…検波器 21,21a…信号処理部 22…タイミング生成部 23,23a…スキャン制御部 24…遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された送信周期でパルス状の送信信号を繰り返し生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号に基づくレーダ波を送信し、その反射波を受信する送受信手段と、
前記送信信号生成手段が生成した送信信号を遅延させたゲート信号を生成するゲート信号生成手段と、
前記送受信手段が受信した前記送受信手段から送信されたレーダ波の反射波である受信信号と、前記ゲート信号生成手段が生成したゲート信号との相関を求める相関検出手段と、
前記送信周期毎に、前記ゲート信号生成手段で生成される前記ゲート信号の遅延時間を順次変化させる走査手段と、
前記相関検出手段での検出結果に基づき、前記送受信手段から送信されたレーダ波の反射を行う物標を検出する物標検出手段と、
を備えたパルスレーダ装置において、
前記走査手段は、
前記物標検出手段にて検出される物標の距離分解能が、予め設定された第1の距離分解能となる割合で前記遅延時間を変化させる第1設定手段と、
前記物標検出手段にて物標が検出された場合、該物標までの距離を含んだ指定区間を設定し、前記物標検出手段にて検出される物標の距離分解能が、前記指定区間外では前記第1の距離分解能になり、前記指定区間内では前記第1の距離分解能より高く設定された第2の距離分解能となる割合で前記遅延時間を変化させる第2設定手段と、
を有することを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記物標検出手段は、前記相関検出手段での検出結果を、同じ遅延時間を有したゲート信号に基づいて検出されたもの同士で、複数個ずつ加算した結果に基づいて、前記物標の検出を行うことを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記送信信号生成手段は、前記走査手段によって実現される距離分解能に応じて、前記送信周期毎の前記遅延時間の変化量と同じ大きさのパルス幅を有する送信信号を生成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパルスレーダ装置。
【請求項4】
当該装置を搭載した移動体の移動速度を取得する速度取得手段を備え、
前記走査手段は、前記第1の距離分解能及び前記第2の距離分解能の少なくとも一方が前記速度取得手段にて取得された移動速度に応じた大きさとなるように、前記遅延時間を変化させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
当該装置を搭載した移動体の移動速度を取得する速度取得手段を備え、
前記走査手段は、
前記速度取得手段にて取得される移動速度が、予め設定された速度閾値以下である場合、前記物標検出手段にて検出される物標の距離分解能が、該物標までの距離が短いほど高くなるように前記遅延時間を変化させる第3設定手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のパルスレーダ装置。
【請求項6】
前記走査手段は、前記第3設定手段により前記遅延時間の可変設定を行う場合、前記送信周期より短く設定された低速時最大遅延時間以下となる範囲内で前記遅延時間を変化させることを特徴とする請求項5に記載のパルスレーダ装置。
【請求項7】
前記物標検出手段は、前記物標までの距離の算出結果に基づいて、前記物標の相対速度を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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