説明

パルスレーダ装置

【課題】従来の等価時間サンプリング方式のレーダ装置における回路構成を大きく変更することなく、距離に応じて受信利得を可変する。
【解決手段】制御部30において、フレームタイミング信号毎に周波数掃引信号を発生し、この周波数掃引信号により、送信部10で送信パルスを発生させる。これにより、近距離の検出範囲では送信パルスのパルス間隔が短く、遠距離になるに従って送信パルスのパルス間隔が長くなる。また、制御部30は、周波数掃引信号を所定量ずつ遅延させたサンプリング制御信号を生成して受信部20に出力する。その結果、受信回路22における受信波のサンプリング間隔が周波数掃引信号によって発生する送信パルスのパルス間隔と同期しながら可変される。これにより、検出範囲が遠距離のときには、サンプリング間隔が短くなって振幅レベルが大きくなり、検出範囲が近距離のときには、サンプリング間隔が長くなって振幅レベルが小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等価時間サンプリング方式によりターゲットまでの距離を測定するパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーダによる距離測定では、例えば特許文献1に開示されているように、等価時間サンプリング方式で受信波をサンプリングする技術が一般的に用いられている。等価時間サンプリング方式は、高周波の送信パルスに対して受信パルスを少しずつ遅延させながらサンプリングすることで時間軸を伸張し、等価的に高速のサンプリングを可能とするものである。
【0003】
しかしながら、実際のレーダ測定環境では、図12に示すように、1台のレーダ装置100の測距範囲に、近距離から遠距離までの複数の物体TA,TB,TCが存在する。このため、図13に示すように、物体TA,TB,TCで反射されてレーダ装置100で受信される受信信号は、早い時期に受信される近距離の物体TAでは強度(振幅)が大きく、遅い時期に受信される遠距離の物体TCでは強度(振幅)が小さい。このように物体の距離によって受信信号の強度が異なることは、各物体毎の正確な測距を阻害する要因となる。
【0004】
これに対処するに、特許文献2には、等価時間サンプリングした信号にSTC回路(Sensitivity Time Control Circuit)を適用する技術が開示されている。この技術では、近距離では信号利得を下げて感度を抑制し、遠距離になるにしたがって感度を上げていくことで、図14に示すように、物体TA,TB,TCからの受信信号が等価的に同じ振幅となるようにしている。
【0005】
一方、特許文献3には、送信パルスを出力後、時間経過と共に受信回路の増幅度が増加するように制御することで、近距離にある対象物からの受信パルスと、遠距離にある対象物からの受信パルスとを一定の信号レベルにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−235863号公報
【特許文献2】米国特許第5805110号明細書
【特許文献3】特開2006−64644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、等価時間サンプリング方式による時間軸の伸張という利点を生かしたパルスレーダ装置を用いる場合、特許文献2の技術では、高価な可変利得増幅器が必要なため、コスト上昇を招いてしまう。また、特許文献3の技術では、従来の等価サンプリング方式の回路構成を大幅に変更する必要がある。このため、新たな回路設計による追加的な開発費用を要し、同様に、コスト上昇を招いてしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、従来の等価時間サンプリング方式のレーダ装置における回路構成を大きく変更することなく、距離に応じて受信利得を可変することのできるパルスレーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によるパルスレーダ装置は、ターゲットに送信する送信波のパルス間隔とターゲットで反射された反射波のサンプリング間隔とを設定し、少なくとも上記反射波のサンプリング間隔をターゲットまでの距離に応じて可変する制御部と、上記制御部で設定されたパルス間隔で上記送信波をターゲットに送信する送信部と、上記制御部で設定されたサンプリング間隔で上記反射波を等価時間サンプリングする受信部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の等価時間サンプリング方式のレーダ装置における回路構成を大きく変更することなく距離に応じて受信利得を可変することができ、コスト上昇を抑えつつ広範囲の正確な測距を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、パルスレーダ装置の構成を示すブロック図
【図2】同上、図1の各点における信号波形を示す波形図
【図3】同上、周波数掃引信号発生器の構成例を示すブロック図
【図4】同上、周波数掃引信号の生成を示す波形図
【図5】同上、サンプル・ホールド回路の例を示すブロック図
【図6】同上、サンプリング間隔と信号振幅との関係を示す説明図
【図7】同上、サンプリング間隔による受信信号の振幅の大小を示す波形図
【図8】同上、妨害信号とサンプリング間隔との関係を示す説明図
【図9】同上、遠距離及び近距離のサンプリング結果を示す波形図
【図10】本発明の実施の第2形態に係り、パルスレーダ装置の構成を示すブロック図
【図11】同上、図10の各点における信号波形を示す波形図
【図12】一般的なパルスレーダの測定環境を示す説明図
【図13】図9の測定環境下での受信信号の振幅と物体の距離との関係を示す説明図
【図14】従来のSTC回路による受信信号の等価を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1はパルスレーダ装置であり、従来の等価時間サンプリング方式を改良した信号処理方式により、ターゲット50までの距離を測定する。本実施の形態においては、パルスレーダ装置1は、送信波を送信する送信部10と、ターゲット50からの反射波を受信して信号処理する受信部20と、送信波の送信タイミングと受信波のサンプリングタイミングとを互いに同期させながら可変制御する制御部30とを備えて構成されている。受信部20で処理された信号は、図示しない演算処理部へ送られ、ターゲット50との距離が演算される。
【0013】
送信部10は、制御部30から出力される周波数掃引信号に基づいたタイミングにより、送信パルスを発生する送信パルス発生器11と、この送信パルスによって駆動され、外部に送信波を出力する送信アンテナ12とを備えて構成されている。制御部30から出力される周波数掃引信号は、送信タイミング及び受信タイミングに対して同量の周期変動を発生させるための掃引信号である。この周波数掃引信号に基づいたタイミングによって発生する送信パルスは、1フレーム毎にパルス間隔が掃引された信号となる。
【0014】
受信部20は、ターゲット50からの反射波を受信する受信アンテナ21と、制御部30から出力されるサンプリング制御信号に従って、受信アンテナ21からの受信波をサンプリングして信号処理する受信回路22と、受信回路22からの出力に含まれるノイズを除去するフィルタ回路28とを備えて構成されている。制御部30から出力されるサンプリング制御信号は、周波数掃引信号を所定量ずつ遅延させて生成される信号である。このため、受信回路22における受信波のサンプリング間隔は、周波数掃引信号によって発生する送信パルスのパルス間隔の変化と同期しながら可変される。
【0015】
受信回路22は、従来の等価時間サンプリング方式による受信回路と同様の構成とすることができる。すなわち、受信回路22は、受信アンテナ21で受信した受信波を所定の周波数帯域に制限するバンドパスフィルタ(BPF)23、制御部30からのサンプリング制御信号に基づいてサンプリングパルスを発生するサンプリングパルス発生器24、サンプリングパルスをトリガとして受信パルスを一時的にホールドしてサンプリングを行うサンプル/ホールド(S/H)回路25、受信パルスに重畳した高周波ノイズをカットするローパスフィルタ(LPF)26、LPF26を通過した信号を所定の出力レベルに増幅し、フィルタ回路28を介して出力するアンプ27を備えて構成されている。
【0016】
尚、フィルタ回路28は、本実施の形態においては、高周波のインパルスノイズを遮断し、低周波域の信号を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)で構成されている。
【0017】
一方、制御部30は、フレームタイミング信号を発生するフレームタイミング信号発生器31、このフレームタイミング信号を受けて周波数掃引信号を発生する周波数掃引信号発生器32、周波数掃引信号を受けて台形波(三角波)を発生する台形波発生器33、フレームタイミング信号を受けてランプ波を発生する掃引ランプ波発生器34、及び台形波発生器33からの台形波と掃引ランプ波発生器34からのランプ波とを比較し、サンプリング制御信号を発生・出力するコンパレータ35を備えて構成されている。
【0018】
以上のパルスレーダ装置1は、従来の等価時間サンプリング方式の特徴である受信信号を時間軸上で伸張する機能を備え、更に、近距離から遠距離までの全検出範囲に渡って受信信号の振幅が同じになるように自動的にゲインを調整する機能を備えている。受信信号の振幅は、高価な可変利得増幅器を用いることなく調整することができる。
【0019】
更に、本パルスレーダ装置1は、従来の等価時間サンプリング方式では排除困難な周期的な妨害信号に対処することができる。すなわち、従来の等価時間サンプリング方式では、サンプリング周波数の倍数となる不要信号が入力された場合、本来の信号と不要信号とを共にサンプリングしてしまい、本来の信号に周期的な妨害信号が重畳して測距に悪影響を及ぼす虞がある。これに対して、本実施の形態におけるパルスレーダ装置1は、等価時間サンプリング方式を採用しながら、サンプリング周波数の倍数の周波数となる不要信号を排除することができる。
【0020】
次に、本パルスレーダ装置1の動作について、図2に示す各点の信号波形(図1のA〜Hの各点における信号波形)を参照しながら説明する。以下では、図2は、ワンショットパルスからなるフレームタイミング信号(図2に示すA点の波形)毎に、受信信号からサンプリングされる1フレーム分のデータを示すものとする。
【0021】
先ず、所定のクロック信号に同期してフレームタイミング信号が出力されると、このフレームタイミング信号が周波数掃引信号発生器32及び掃引ランプ波発生器34に入力される。周波数掃引信号発生器32は、フレームタイミング信号の入力により、1フレーム毎に時間経過に従ってパルス間隔が連続的に変化する周波数掃引信号(図2に示すB点の波形)を生成する。この周波数掃引信号は、本実施の形態においては、時間経過と共にパルス間隔が短くなる矩形状のパルス信号列として生成される。
【0022】
尚、周波数掃引信号は、フレームタイミング信号よりも周波数が非常に高くなるように設定されている。例えば、フレームタイミング信号を10Hzとすると、周波数掃引信号は1MHz程度となる。図2においては、各信号間の関係が容易に把握可能となるよう、1フレーム分の各信号を、実際の周波数よりも大幅に低い周波数で概念的に図示している。
【0023】
図3(a)及び図3(b)は、周波数掃引信号を発生する周波数掃引信号発生器32の構成例を示している。図3(a)に示す構成例では、周波数掃引信号発生器32は、一定周波数の矩形状のパルス信号を発生する発振器40、発振器40からのパルス信号により、一定周波数の台形波を発生する台形波発生回路41、フレームタイミング信号により非線形のランプ波を発生する非線形ランプ波発生回路42、及び、台形波発生回路41からの台形波と非線形ランプ波発生回路42からの非線形ランプ波とを比較入力として、周波数掃引信号を発生・出力するコンパレータ43を備えて構成されている。
【0024】
図4は、図3(a)の構成例におけるA,A1,B0,B1,B点の信号波形を示している。図4において、B0点の波形は、発振器40から出力される一定周波数のパルス信号を示している。B1点の波形は、発振器40からのパルス信号によって発生する一定周波数の台形波を示している。また、A1点の波形は、フレームタイミング信号のワンショットパルスの立ち下がりをトリガとして、時間経過と共に電圧レベルが0から非線形的に上昇し、次のワンショットパルスの立ち下がりで0にリセットされる非線形ランプ波を示している。コンパレータ43は、非線形ランプ波と台形波とを比較し、その電圧レベルの大小関係に基づいて、図4(及び図2)のB点に示すように時間経過と共にパルス間隔が短くなる周波数掃引信号を出力する。
【0025】
尚、図3(a)に示す周波数掃引信号発生器32の構成及びその出力は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、図3(b)に示すように、所定のタイミング信号生成回路(図示せず)で生成されたタイミング信号を用いて、マイクロプロセッサ(CPU;或いはデジタルシグナルプロセッサでも良い)100により、フレームタイミング信号及び周波数掃引信号を生成するようにしても良い。
【0026】
更に、周波数掃引信号は、近距離から遠距離の全検出範囲を対象として連続的にパルス間隔が変化するような信号とせず、検出距離範囲毎にパルス間隔が異なる信号を切り換えるようにしても良い。
【0027】
以上の周波数掃引信号は、送信パルス発生器11と台形波発生器33とに入力される。送信パルス発生器11は、周波数掃引信号に同期した送信パルスを発生する(例えば、周波数掃引信号のパルスの立ち下がりタイミングで送信パルスを発生する)。これにより、送信パルス発生器11から出力される送信パルスのパルス間隔が連続的に変化する。すなわち、時間経過と共にパルス間隔が短くなる周波数掃引信号により、受信タイミングが早い近距離の検出範囲では送信パルスのパルス間隔が長く、受信タイミングが遅い遠距離になるに従って送信パルスのパルス間隔が短くなる。
【0028】
また、この周波数掃引信号により、台形波発生器33は、図2のC点に示す波形の台形波を発生する。この台形波は、送信パルスを発生させる周波数掃引信号によって発生するため、送信パルスに同期して時間経過と共にパルス間隔が連続的に変化し、パルス間隔が短くなるに従って三角波に近づいてゆく。
【0029】
一方、フレームタイミング信号が入力される掃引ランプ波発生器34は、図2のD点に示すようなランプ波を発生する。このランプ波は、フレームタイミング信号のワンショットパルスの立ち下がりで規定の電圧レベルにセットされる。そして、時間経過と共に電圧レベルが線形的に低下してゆき、次のワンショットパルスの立ち下がりで電圧レベルが規定値に再セットされる。
【0030】
台形波発生器33からの台形波と掃引ランプ波発生器34からのランプ波は、コンパレータ35に入力される。コンパレータ35は、台形波とランプ波の大小関係を比較し、図2のE点に示すような波形のサンプリング制御信号を出力する。このサンプリング制御信号は、受信波のサンプリングレートを送信パルスと同期して可変制御するための信号である。
【0031】
本実施の形態においては、サンプリング制御信号は、時間経過と共にパルス間隔が短くなる矩形状のパルス列として出力される。詳細には、サンプリング制御信号は、送信パルスと同期して時間経過と共にパルス間隔が短くなり、且つ周波数掃引信号に対してパルスの立ち下がりタイミングが遅延され、その遅延量が時間経過と共に大きくなる信号である。
【0032】
このサンプリング制御信号は、受信部20のサンプリングパルス発生器24に入力される。サンプリングパルス発生器24は、サンプリング制御信号の立ち下がりをトリガとして、図2のF点に示すような波形のサンプリングパルスを発生する。このサンプリングパルスを受けて、サンプル/ホールド回路25が受信アンテナ21からの受信パルス(図2のG点で示す波形;BPF23を通過した波形)をサンプル/ホールドする。
【0033】
サンプル/ホールド回路25は、例えば、図5に示すような周知の回路で構成される。図5に示すサンプル/ホールド回路25は、アナログスイッチ等のスイッチ素子45と、このスイッチ素子45に接続されるコンデンサ46とを基本回路として、この基本回路を、電圧フォロワを構成する2つのアンプ47,48の間に接続して構成されている。この回路構成では、スイッチ素子45がサンプリングパルスによってオンされたとき、入力信号をコンデンサ46に充電し、スイッチ素子45がオフされた後もコンデンサ46に充電された電圧を保持することで、サンプル・ホールドを行う。
【0034】
このとき、サンプリングされる受信信号の振幅レベルは、サンプリングパルスの周波数変化に応じて変化する。すなわち、図6に模式的に示すように、サンプリング間隔が短いとき(サンプリングパルスの周波数が高いとき;検出範囲が遠距離のとき)には、図6(a)に示すように、入力信号の振幅レベルSが大きくなる。一方、サンプリング間隔が長いとき(サンプリングパルスの周波数が低いとき;検出範囲が近距離のとき)には、図6(b)に示すように、入力信号の振幅レベルSが小さくなる。
【0035】
この場合、サンプル/ホールド回路25が満たすべき条件としては、規定の信号入力時にサンプル/ホールド信号の時定数(ピーク電圧から90%減衰するまでの時間)よりもサンプリング間隔が短いことが必要である。この必要条件内でサンプリング間隔を変えることにより、受信信号の振幅レベルを同じにする。
【0036】
尚、近距離と遠距離の検出範囲で受信信号の振幅レベルを同じにする場合、送信アンテナ12から受信アンテナ21へ直接回り込む信号等のような不要信号を考慮し、不要信号のレベル以上の閾値を設定する。そして、この閾値以上且つ所定の振幅差以内の範囲を許容範囲として受信信号の振幅レベルを同じにすることで、不要信号の影響を排除しつつ、近距離から遠距離の検出範囲の正確な測距が可能となる。
【0037】
図7は、サンプリング周波数と受信信号の振幅との関係を実測したものである。サンプリング周波数が低く(例えば、1MHz)、サンプリング間隔が長いときには、図7(a)に示すような振幅の波形が得られる。サンプリング周波数が高くなり(例えば、2MHz)、サンプリング間隔が長くなると、図7(b)に示すように振幅が拡大されていることがわかる。
【0038】
従って、周波数掃引信号に対して順次遅延されたサンプリングパルスで受信パルスをサンプリングすることにより、受信パルスを時間軸上で伸張し、且つ全ての検出距離に渡って振幅が同じになるように等価されたフレーム信号を取得することができる。図2においては、異なる距離範囲の2つの受信波を異なるサンプリング間隔で等価時間サンプリング処理した波形をH点に模式的に図示している。H点に示す波形からは、近距離のターゲットからの反射波を表す信号は相対的に振幅が低く、遠距離のターゲットからの反射波を表す信号は相対的に振幅が高くなり、両者の振幅がほぼ同じになっていることがわかる。
【0039】
尚、サンプル/ホールド回路25を、サンプリング間隔が長い場合には振幅レベルを高く、サンプリング間隔が短い場合には振幅レベルを低くする構成にすることにより、上述とは逆に、受信タイミングが早い時期(=近距離に対応)にはサンプリング間隔を短く、受信タイミングが遅い時期(=遠距離に対応)にはサンプリング間隔を長くすることで、同様に対応することができる。一般的には、受信タイミングが遅い時期(=遠距離に対応)の反射波は弱く、不正確になる傾向があるため、受信タイミングが遅い時期(=遠距離に対応)のサンプリング周期を短く(細かく)するほうが有利である。
【0040】
更に、本実施の形態においては、送信パルス間隔及びサンプリング間隔を同期させながら可変するため、サンプリング周波数の倍数の周波数となる不要信号を排除することができる。すなわち、従来の等価時間サンプリング方式では、図8(a)に示すように、一定周波数でパルス送信を行い、この一定周波数の送信パルスに対して少しずつ遅延させて受信波をサンプリングしている。従って、受信回路におけるサンプリング周波数はほぼ一定であり、周期的な不要信号、特にサンプリング周波数の倍数の周波数となる不要信号が入力されると、この不要信号をそのままサンプリングしてしまう。このため、サンプリングしたフレーム信号に妨害ノイズが重畳して測距に悪影響を及ぼす虞がある。
【0041】
これに対して、本装置では、送信パルス間隔とサンプリング間隔とを同期させながら変化させている。このため、図8(b)に示すように、従来の等価時間サンプリング方式の受信回路と同様の受信回路22であっても、周期的な不要信号は一部のみがサンプリングされてインパルス状の高周波ノイズとなって残留する。このインパルス状の高周波ノイズは、受信回路22の後段に設けたフィルタ回路28で容易に除去することができ、妨害ノイズのないフレーム信号を得ることができる。
【0042】
このように、本実施の形態におけるパルスレーダ装置1は、送信パルスの送信間隔と受信パルスのサンプリング間隔とを同期をとりながら可変制御している。これにより、高価な可変利得増幅器を用いることなく、近距離領域の受信利得を落として遠距離になるに従って受信利得を上げることができ、測距精度の向上を図ることができる。
【0043】
しかも、従来の等価時間サンプリング方式の受信回路を変更することなく用いることができ、コスト低減に寄与することができる。更には、従来の等価時間サンプリング方式のようにサンプリング周波数の倍数の周波数となる不要信号の妨害を受けることがなく、利得を変化させてもS/N比の変化量も抑えることができる。
【0044】
尚、本実施の形態においては、周波数掃引信号を用いて送信パルスの送信間隔と受信パルスのサンプリング間隔とを同期をとりながら可変する例について説明したが、周波数掃引信号に代えて、一定周波数のパルス列信号から近距離の検出範囲に対応する区間でパルス間隔を変化させるようにしても良い。
【0045】
例えば、図3(b)に示すようなマイクロプロセッサ100を用いてフレームタイミング信号を発生させると共に、周波数掃引信号に代えて、1フレーム内でパルス間隔が変化する信号を発生させる。例えば、1フレームを近距離の検出範囲に対応する前半区間と、遠距離の検出範囲に対応する後半区間とに分け、前半区間で一定間隔毎に送信パルスを間引くことでパルス間隔が変化する信号を発生させ、前半区間における受信波のサンプリング間隔を長くする。
【0046】
その結果、図9に示すように、近距離のターゲットからの反射波を相対的に疎となる間隔でサンプリングした波形W1と、遠距離のターゲットからの反射波を相対的に密となる間隔でサンプリングした波形W2とをほぼ同じ振幅とすることができる。この場合、従来の等価時間サンプリング方式に比較して1フレーム当たりの送信パルス数を少なくすることができ、省電力を期待することができる。
【0047】
尚、図9に破線で示すサンプリングパルスは、実際には一定の幅を持ったウィンドウとなる。後段の処理においては、この一定の幅の間に受信した信号を積分して物体検出や測距処理等を行っている。
【0048】
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。
前述の第1形態は、従来の等価時間サンプリング方式の受信回路を変更せずに用いる例であるのに対し、第2形態は、従来の等価時間サンプリング方式の送信回路を変更せず、受信回路の一部を変更するものである。
【0049】
すなわち、図10に示すように、第2形態のパルスレーダ装置1Aは、第1形態のパルスレーダ装置1に対して、受信回路22及び制御部30の一部が異なる構成となっている。具体的には、第2形態の受信回路22Aは、従来のサンプリングパルス発生器24の機能の一部を変更したサンプリングパルス発生器24Aを用いている。このサンプリングパルス発生器24Aは、例えば、マイクロプロセッサやデジタルシグナルプロセッサ等を用いて構成することができる。また、第2形態の制御部30Aは、第1形態の周波数掃引信号発生器32に代えて、従来の等価サンプリング方式と同様、一定周波数の信号を発生する発振器32Aを用いている。
【0050】
先ず、制御部30Aについて説明する。制御部30Aは、フレームタイミング信号発生器31、発振器32A、台形波発生器33、掃引ランプ波発生器34、コンパレータ35を備えて構成されている。この制御部30Aの回路構成では、フレームタイミング信号発生器31からのフレームタイミング信号は、掃引ランプ波発生器34と受信回路22Aのサンプリングパルス発生器24Aに入力される。また、発振器32Aからの信号は、台形波発生器33と送信部10の送信パルス発生器11とに入力される。
【0051】
発振器32Aで発生する信号は、図11のB’点に示すように、A点に示すフレームタイミング信号をトリガとする一定周波数のパルス信号である。この一定周波数のパルス信号により、送信パルス発生器11で一定周波数の送信パルスが発生され、送信アンテナ12を介して外部に送信波が出力される。また、発振器32Aからのパルス信号により、図11のC’点に示す一定周波数の台形波が台形波発生器33で発生する。
【0052】
同時に、フレームタイミング信号により、第1形態と同様の図11のD点に示すランプ波が掃引ランプ波発生器34で発生する。台形波発生器33からの台形波と掃引ランプ波発生器34からのランプ波は、コンパレータ35に入力され、図11のE’点に示すように、等価時間サンプリングを実現するサンプリング制御信号、すなわち、発振器32Aからの信号に対してパルスの立ち下がりタイミングが遅延され、且つその遅延量が時間経過と共に大きくなるサンプリング制御信号が出力される。
【0053】
コンパレータ35からのサンプリング制御信号は、受信回路22Aのサンプリングパルス発生器24Aに入力され、サンプリングパルス発生器24Aから図11のF’点に示すようなサンプリングパルスが出力される。このサンプリングパルスは、サンプリング制御信号の立ち下がりをトリガとして生成される通常のサンプリングパルスのパルス列に対して、そのパルス列から所定数のパルスを間引いた信号である。
【0054】
パルス列から間引くパルスの数は、ターゲットの検出範囲に応じて適宜可変される。例えば、1フレームを、近距離の検出範囲に対応する前半区間と、遠距離の検出範囲に対応する後半区間とに分け、前半区間で一定間隔毎にパルスを間引くことで、後半区間に比較して前半区間のサンプル間隔を相対的に長くする。
【0055】
これにより、第1形態と同様、受信パルスを時間軸上で伸張し、且つ近距離の検出範囲と遠距離の検出範囲とで振幅が同じになるように等価されたフレーム信号を、サンプル/ホールド回路25を介して取得することができる。
【0056】
尚、本実施の形態では、1フレームの前半と後半で2種類のサンプリング間隔としているが、特に2種類に限定することなく、それ以上の区間に分けても良い。もちろん無段階に変化させても良い。
【0057】
更に、第1形態と同様、サンプル/ホールド回路25を、サンプリング間隔が長い場合には振幅レベルを高く、サンプリング間隔が短い場合には振幅レベルを低くする構成とすることにより、受信タイミングが早い時期(=近距離に対応)でのサンプリングパルス数を受信タイミングが遅い時期(=遠距離に対応)より多くすることも可能である。
【0058】
第2形態では、サンプリングパルスを適宜「間引く」ことでサンプリング間隔を変化させ、近距離から遠距離までの検出範囲に対応するサンプリング波形の振幅が同じになるようにしている。このため、従来の等価時間サンプリング方式の受信回路の一部を変更するのみで送信パルス側の処理を簡単にすることができ、よりコスト低減を図ることができる。
【0059】
尚、以上の各形態では、近距離領域の受信利得を落とし、遠距離になるに従って受信利得を上げる例について説明したが、サンプリング間隔を任意に制御することにより、任意の距離領域の利得を調整することも可能である。例えば、特定距離領域の利得を下げることで、その特定距離領域からの反射波を測定対象から外すことが可能である。逆に、特定距離領域の利得を上げることで、その特定距離領域からの反射波のみを測定対象とすることが可能である。
【0060】
また、以上の説明は、第1形態で送信波のパルス間隔と受信波のサンプリング間隔を変化させる例、第2形態では送信波は一定で受信波のサンプリング間隔のみを変化させる例について説明した。本発明は、これに限定されるものではなく、送信波のパルス間隔を変化させ、受信波のサンプリング間隔は一定としても良く、これによっても所望の距離領域の利得を調整することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,1A パルスレーダ装置
10 送信部
11 送信パルス発生器
20 受信部
22,22A 受信回路
24,24A サンプリングパルス発生器
25 サンプル/ホールド回路
28 フィルタ回路
30,30A 制御部
32 周波数掃引信号発生器
50 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに送信する送信波のパルス間隔とターゲットで反射された反射波のサンプリング間隔とを設定し、少なくとも何れか一方の間隔を変化させる制御部と、
上記制御部で設定されたパルス間隔で上記送信波をターゲットに送信する送信部と、
上記制御部で設定されたサンプリング間隔で上記反射波を等価時間サンプリングによってサンプリングする受信部と
を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
上記制御部は、上記送信波のパルス間隔と上記反射波のサンプリング間隔とを互いに同期させて設定することを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
上記制御部は、1フレーム毎に、上記送信波のパルス間隔と上記反射波のサンプリング間隔の少なくとも何れか一方が時間経過と共に短くなるように設定することを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項4】
上記制御部は、1フレームを複数の区間に分け、上記複数の区間毎に、上記送信波のパルス間隔と上記反射波のサンプリング間隔の少なくとも何れか一方を変化させることを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
上記制御部は、上記複数の区間毎に、上記送信波のパルス間隔と上記反射波のサンプリング間隔の少なくとも何れか一方が時間経過と共に短くなるように変化させることを特徴とする請求項4記載のパルスレーダ装置。
【請求項6】
上記受信部に、上記等価時間サンプリングされた信号に残留する不要信号を除去するフィルタ回路を備えることを特徴とする請求項2〜5の何れか一に記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−281643(P2010−281643A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134347(P2009−134347)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】