パルスレーダ装置
【課題】受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図る。
【解決手段】送信アンテナ2から送信波を放射し、受信アンテナ3を介して受信回路23で取得した受信信号を信号変換部24で等価時間サンプリングしてアナログ信号からデジタル信号に変換し、受信波の波形データにノイズが含まれているか否かを信号判定処理部25で判定する。信号判定処理部25は、等価時間サンプリングした受信波の波形データの変化率の変動を算出し、変化率の変動が急峻な場合、妨害波による異常データが混入していると判断する。これにより、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。
【解決手段】送信アンテナ2から送信波を放射し、受信アンテナ3を介して受信回路23で取得した受信信号を信号変換部24で等価時間サンプリングしてアナログ信号からデジタル信号に変換し、受信波の波形データにノイズが含まれているか否かを信号判定処理部25で判定する。信号判定処理部25は、等価時間サンプリングした受信波の波形データの変化率の変動を算出し、変化率の変動が急峻な場合、妨害波による異常データが混入していると判断する。これにより、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状の送信波を放射して物体からの反射波を受信するパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダは電磁波を使用しており、送信した電波の反射波を捉えることで物体の有無や位置の検出が可能になる。このレーダ装置は、同一周波数帯の電波を送信する他のレーダ装置やノイズ源等からの連続的な干渉を受けると、本来認識すべきでない物体を誤検出する虞がある。
【0003】
このため、特許文献1には、干渉波となる直接波と物体からの反射波の電力差を利用して受信波を高閾値と低閾値のレベルで評価し、高閾値以上の信号が現れた場合は他装置からの妨害波とみなして、距離計測の支障とならないように距離情報の処理停止等の処置を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1959534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、閾値による受信波の評価のみでは、閾値以下の妨害波を取り除くことは困難である。特に、微弱無線を利用したパルスレーダ装置のように、送信パルスの電力に対して検出対象からの反射パルスの電力が極めて微弱(例えば10万分の1程度)となるレーダ装置では、一義的に閾値を設定するのみでは本来の検出対象からの受信信号と妨害信号とを識別することはできない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることのできるパルスレーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によるパルスレーダ装置は、パルス状の送信波を放射して物体からの反射波を受信し、等価時間サンプリング方式で時間軸を伸張して受信波の波形データをサンプリングするパルスレーダ装置であって、上記波形データの変化率をサンプリング点毎に算出し、該変化率の変動に基づいて上記波形データの異常を判定する信号判定処理部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、パルスレーダ装置の構成図
【図2】同上、パルスレーダ装置の車両への搭載例を示す説明図
【図3】同上、他のレーダ装置からの妨害波を示す説明図
【図4】同上、妨害波による受信波への干渉を示す説明図
【図5】同上、妨害波が重畳されたサンプリングデータを示す説明図
【図6】同上、異常データ判定処理のフローチャート
【図7】同上、波形データ集合と変化率との関係を示す説明図
【図8】同上、受信波の変化率を示す説明図
【図9】同上、受信波の変化率変動幅を示す説明図
【図10】本発明の実施の第2形態に係り、異常データ判定処理のフローチャート
【図11】同上、受信波の異常データに対する補正を示す説明図
【図12】本発明の実施の第3形態に係り、妨害波の干渉を受ける間隔が短い場合のサンプリングデータを示す説明図
【図13】同上、異常データ判定処理のフローチャート
【図14】同上、受信波の変化率を示す説明図
【図15】同上、受信波の変化率変動幅を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明の実施の第1形態について説明する。
図1において、符号1はパルスレーダ装置であり、空間に放射したパルス状の送信波が測距対象となるターゲット(物体)で反射されて受信されるまでの時間差に基づいて、距離を算出する。図1においては、パルスレーダ装置1は、送信アンテナ2と受信アンテナ3とが分離している送信・受信アンテナ分離型の装置を示している。
【0011】
これらの送信アンテナ2及び受信アンテナ3は、本体ユニット4に接続されている。本体ユニット4は、送信アンテナ2を介してパルス状の送信波(レーダ波)を外界に放射するための送信部10と、外部のターゲット50で反射された応答波を受信アンテナ3を介して受信し、測距処理を行う受信部20とを備えて構成されている。
【0012】
詳細には、送信部10は、所定の基準クロックに基づくパルス信号を発生するパルス発生回路11、パルス発生回路11で発生したパルス信号を所定の周波数帯域に制限するバンドパスフィルタ(BPF)12、帯域制限されたパルス信号を増幅して送信アンテナ2を駆動し、送信アンテナ2から所定の電力レベルの送信波を放射させるアンプ13を備えて構成されている。
【0013】
一方、受信部20は、受信アンテナ3で受信した応答波を所定のレベルに増幅するアンプ21、アンプ21で増幅した信号を送信の周波数帯域に制限するBPF22、BPF22を通過した信号を受信信号として取得する受信回路23、受信信号を時間軸上で伸張してサンプリング(等価時間サンプリング)し、アナログ信号からデジタル信号に変換する信号変換部24、取得した信号に含まれる異常信号(ノイズ)を判定処理する信号判定処理部25、信号判定処理部25で正常と判定されたデータを用いて距離演算を行い、距離データを出力する距離測定演算部26、距離測定演算部26で処理した情報を記憶・蓄積する記録部27を備えて構成されている。
【0014】
図2は、パルスレーダ装置1を車両に搭載した例を示し、車両100の後部に送信アンテナ2及び受信アンテナ3を配置して後方監視を行い、駐車支援等に利用する。図2の例では、放射する電波が微弱な微弱無線を利用したレーダ装置として構成されており、送信アンテナ2から送信された送信波が車両100後方の壁等の障害物(ターゲット)50’で跳ね返り、その反射波が受信アンテナ3に受信波として受信される。本体ユニット4は受信波を信号処理して障害物50’の検出及び距離演算を行い、警報装置5を介して運転者に障害物への接近情報を伝達する。
【0015】
このとき、図3に示すように、車両100から距離Lだけ離れた位置に、車両100のパルスレーダ装置1と比較して送信電力の大きい他のレーダ装置Kが存在すると、距離Lが十分に大きい場合であっても、レーダ装置Kからの送信波や反射波によってパルスレーダ装置1が妨害を受け、ターゲットを誤検出する場合がある。
【0016】
例えば、レーダ装置Kが空港監視レーダー(airport surveillance radar:ASR)等のような回転式パルスレーダであり、所定の周期で電波の放射方向が変化する場合、レーダの送信方向が車両100の方向に向いたとき、車両100のパルスレーダ装置1が妨害を受ける。すなわち、図4に示すように、レーダ装置Kからの直接の送信波又は反射波(妨害波)と、パルスレーダ装置1の送信波が障害物50’で跳ね返った真の反射波とが合成され、車両100のパルスレーダ装置1で合成波を受信波として受信してしまう。
【0017】
その結果、パルスレーダ装置1では、図5に示すように、妨害波が重畳された受信波をサンプリングして波形データを取得することになる。取得した波形データには、一部、妨害波の干渉を受けた異常データが含まれ、閾値等を用いてもターゲットの反応との明確な分離が難しくなる。
【0018】
このため、本パルスレーダ装置1は、受信波の波形データにノイズが含まれているか否かを信号判定処理部25で判定し、妨害波の影響を除去する。信号判定処理部25におけるノイズ判定ロジックは、受信波の等価時間サンプリングにおいては、同期していない他の信号(ノイズ)は受信波形中にスパイク状に入るという特徴を利用している。具体的には、等価時間サンプリングした受信波の中のスパイク状の成分を識別するため、受信波の波形データを微分(差分)して波形データの変化率を算出し、さらに受信波の波形データの2回微分(変化率の差分)によって変化率の変動を算出する。そして、変化率の変動が急峻な場合、妨害波による異常データが混入していると判断する。
【0019】
図6は、信号判定処理部25における異常データ判定のソフトウエア処理を示すフローチャートである。以下、この異常データ判定処理について説明する。
【0020】
先ず、最初のステップS1において、信号変換部24で等価時間サンプリングされてデジタルデータに変換された受信波の波形データDを入力する。波形データDは、等価サンプリングにより取得順に並べられたn点のデータの集合(例えば1フレーム分のデータの集合)である。ここでは、サンプリング点(データ点)をi(i=0,1,2,3,…,n-1)として、波形データのデータ集合をD[i]で定義する。
【0021】
次に、ステップS2へ進み、受信波の変化率Rfを算出する。図7に示すように、受信波のデータ集合Dの中のデータ点iの波形データD[i]と1つ前のデータ点i-1の波形データD[i-1]との差分を、以下の(1)式により求め、この差分をデータ点iにおける変化率Rf[i]とする。
Rf[i]=D[i]−D[i-1] …(1)
【0022】
(1)式による差分をデータ点i=1〜n-1に対して算出することにより、図8に示すように、n点の受信波のデータ集合D[0],D[1],D[2],D[3],…,D[n-1]からn−1点の変化率のデータ集合Rf[1],Rf[2],Rf[3],…,Rf[n-1]を得ることができる。図8においては、(a)に妨害波による異常データが無い場合の変化率Rfを示し、(b)に妨害波による異常データが混入している場合の変化率Rfを示しており、妨害波の影響がある場合、破線で囲む個所に示すように、変化率Rfが大きく変動していることがわかる。
【0023】
その後、ステップS3へ進み、変化率Rfの変動幅Rwを算出する。この変動幅Rwは、以下の(2)式に示すように、データ点iの変化率Rf[i]とデータ点i-1の変化率Rf[i-1]との差分として算出される。これにより、n−1点の変化率のデータ集合Rf[1],Rf[2],Rf[3],…,Rf[n-1]からn−2点の変動幅のデータ集合Rw[2],Rw[3],…,Rw[n-1]が得られる。
Rw[i]=Rf[i]−Rf[i-1] …(2)
【0024】
続くステップS4では、変動幅Rwを評価し、異常データを判定する。この異常データの判定は、等価時間サンプリングで取得した波形データには、同期していない他の信号(ノイズ)が含まれる場合にスパイク状の急峻な変化が生じることを根拠としている。すなわち、図9(a)に示すように、妨害波の影響がない場合には、変化率の変動幅Rwはあまり変化せず、妨害波による異常データが混入している場合、図9(b)の破線で囲む個所に示すように、変化率の変動幅RwがV字状に大きく変化する。
【0025】
従って、データ点iにおける変動幅Rw[i]の絶対値が閾値Taを越え、且つ前のデータ点i-1における変動幅Rw[i-1]或いは後のデータ点i+1における変動Rw[i+1]に対して正負の符号が反転している場合、波形データDは異常であると判定する。一方、変動幅Rw[i]の絶対値が閾値Ta以下、或いは変動幅Rw[i]が前後の変動幅の値Rw[i-1],Rw[i+1]に対して正負の符号が反転していない場合には、波形データDは正常であると判定する。
【0026】
そして、今回の波形データDが正常であると判定された場合には、ステップS4からステップS5へ進んで今回の正常データで波形データの更新を行うと共に正常データを距離測定演算部26へ出力する。一方、今回の波形データDが異常であると判定された場合には、ステップS4からステップS6へ進み、異常データを棄却して波形データの更新は行わない。
【0027】
このように本実施の形態においては、妨害波による干渉があった場合には、受信波を等価時間サンプリングする際に非同期のスパイク状の信号となって出現することに基づいて他レーダ装置等からの干渉による影響を単純な閾値によることなく識別する。これにより、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。
【0028】
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。
第1形態においては、受信波の波形データDのデータ集合中に異常データが含まれているか否かを判定し、異常データが含まれている場合には、その波形データDを棄却する。これに対して、第2形態は、受信波の波形データDの中の異常データの位置を特定し、その異常データに対して補正処理を行うものである。
【0029】
このため、第2形態では、信号判定処理部25の処理ロジックにおける異常データに係る処理を変更する。すなわち、図10のフローチャートに示す異常データ判定処理において、第1形態と同様のステップS1〜S3を経てステップS4で異常と判定された場合、ステップS4からステップS6_1へ進み、異常データの位置Paを算出する。
【0030】
異常データの位置Paは、データ点i=2,3,…,n-1に対して変動幅Rwの異常検出点をxとすると、Pa=x−1で求めることができる。図9(b)に示す例では、x=4であるため、Pa=3となる。次に、ステップS6_2へ進み、図11に示すように、異常データD[Pa]を補正し、この補正データに基づく波形データD’を距離測定演算部26へ出力する。異常データD[Pa]の補正は、線形補間やスプライン補間等の各種の手法を用いて行うことができる。
【0031】
第2形態においても、第1形態と同様、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。更に、第2形態では、サンプリングした波形データ中にノイズが混入している場合であっても、ノイズと識別したデータを補正して波形データを補正するため、測距精度を確保することができる。
【0032】
次に、本発明の実施の第3形態について説明する。
本パルスレーダ装置1を搭載した自車両と妨害波の出力源となる他のレーダ装置との距離が近い場合、図12に示すように、妨害波の干渉を受ける間隔が短くなってターゲットとの分離が困難なデータ点が増加し、受信波形の正確な再現が次第に難しくなる。
【0033】
このため、第3形態では、第2形態に対して、異常データの個数をカウントし、異常データの個数が設定値を越える場合には、サンプリングした波形データを異常データとして棄却し、異常データの個数が設定値を下回る場合、第2形態と同様、異常データを補正して測距処理を行う。
【0034】
第3形態における信号判定処理部25の異常データ判定処理は、図13のフローチャートに示される。この異常データ判定処理では、第1,第2形態と同様のステップS1〜S3を経て波形データの変化率Rf及び変動幅Rwを算出し、ステップS4で異常と判定された場合、ステップS4からステップS6_0へ進んで、波形データDの集合中に異常データの個数が設定値Y以上あるか否かを調べる。
【0035】
図14(a)に示すような妨害波の影響がない場合の変化率Rfに対して、異常データが複数個ある場合には、図14(b)に破線で囲む個所に示すように、複数点で変化率Rfが大きく変化する。その結果、図15(a)に示すような妨害波の影響がない場合の変化率の変動幅Rwに対して、異常データが複数個ある場合には、図15(b)に破線で囲む個所に示すように、複数点で変動幅Rwが大きくV字状に大きく変化する。
【0036】
従って、ステップS6_0で異常データの数が設定値Yを超える場合には、ステップS6_0からステップS6へ進んで今回の波形データ集合Dを異常データとする。一方、異常データの数が設定値Y以下の場合には、第2形態と同様の処理を行う。すなわち、ステップS6_1で複数の異常データの位置Paを算出し、ステップS6_2で各異常データの位置Paに基づいて波形データDを補正し、ステップS6_3で補正後の波形データD’を距離測定演算部26へ出力する。
【0037】
第3形態は、第2形態に対して、サンプリングした波形データ中にノイズが混入している場合、一義的に補正を行うことなく、異常と判定されたデータが設定個数以下の場合にのみ補正を行う。このため、第3形態では、測距精度を確保するのみならず、信頼性を向上することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 パルスレーダ装置
2 送信アンテナ
3 受信アンテナ
4 本体ユニット
25 信号判定処理部
D 波形データ
K レーダ装置
Rf 変化率
Rw 変動幅
Ta 閾値
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状の送信波を放射して物体からの反射波を受信するパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダは電磁波を使用しており、送信した電波の反射波を捉えることで物体の有無や位置の検出が可能になる。このレーダ装置は、同一周波数帯の電波を送信する他のレーダ装置やノイズ源等からの連続的な干渉を受けると、本来認識すべきでない物体を誤検出する虞がある。
【0003】
このため、特許文献1には、干渉波となる直接波と物体からの反射波の電力差を利用して受信波を高閾値と低閾値のレベルで評価し、高閾値以上の信号が現れた場合は他装置からの妨害波とみなして、距離計測の支障とならないように距離情報の処理停止等の処置を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1959534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、閾値による受信波の評価のみでは、閾値以下の妨害波を取り除くことは困難である。特に、微弱無線を利用したパルスレーダ装置のように、送信パルスの電力に対して検出対象からの反射パルスの電力が極めて微弱(例えば10万分の1程度)となるレーダ装置では、一義的に閾値を設定するのみでは本来の検出対象からの受信信号と妨害信号とを識別することはできない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることのできるパルスレーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によるパルスレーダ装置は、パルス状の送信波を放射して物体からの反射波を受信し、等価時間サンプリング方式で時間軸を伸張して受信波の波形データをサンプリングするパルスレーダ装置であって、上記波形データの変化率をサンプリング点毎に算出し、該変化率の変動に基づいて上記波形データの異常を判定する信号判定処理部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、パルスレーダ装置の構成図
【図2】同上、パルスレーダ装置の車両への搭載例を示す説明図
【図3】同上、他のレーダ装置からの妨害波を示す説明図
【図4】同上、妨害波による受信波への干渉を示す説明図
【図5】同上、妨害波が重畳されたサンプリングデータを示す説明図
【図6】同上、異常データ判定処理のフローチャート
【図7】同上、波形データ集合と変化率との関係を示す説明図
【図8】同上、受信波の変化率を示す説明図
【図9】同上、受信波の変化率変動幅を示す説明図
【図10】本発明の実施の第2形態に係り、異常データ判定処理のフローチャート
【図11】同上、受信波の異常データに対する補正を示す説明図
【図12】本発明の実施の第3形態に係り、妨害波の干渉を受ける間隔が短い場合のサンプリングデータを示す説明図
【図13】同上、異常データ判定処理のフローチャート
【図14】同上、受信波の変化率を示す説明図
【図15】同上、受信波の変化率変動幅を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明の実施の第1形態について説明する。
図1において、符号1はパルスレーダ装置であり、空間に放射したパルス状の送信波が測距対象となるターゲット(物体)で反射されて受信されるまでの時間差に基づいて、距離を算出する。図1においては、パルスレーダ装置1は、送信アンテナ2と受信アンテナ3とが分離している送信・受信アンテナ分離型の装置を示している。
【0011】
これらの送信アンテナ2及び受信アンテナ3は、本体ユニット4に接続されている。本体ユニット4は、送信アンテナ2を介してパルス状の送信波(レーダ波)を外界に放射するための送信部10と、外部のターゲット50で反射された応答波を受信アンテナ3を介して受信し、測距処理を行う受信部20とを備えて構成されている。
【0012】
詳細には、送信部10は、所定の基準クロックに基づくパルス信号を発生するパルス発生回路11、パルス発生回路11で発生したパルス信号を所定の周波数帯域に制限するバンドパスフィルタ(BPF)12、帯域制限されたパルス信号を増幅して送信アンテナ2を駆動し、送信アンテナ2から所定の電力レベルの送信波を放射させるアンプ13を備えて構成されている。
【0013】
一方、受信部20は、受信アンテナ3で受信した応答波を所定のレベルに増幅するアンプ21、アンプ21で増幅した信号を送信の周波数帯域に制限するBPF22、BPF22を通過した信号を受信信号として取得する受信回路23、受信信号を時間軸上で伸張してサンプリング(等価時間サンプリング)し、アナログ信号からデジタル信号に変換する信号変換部24、取得した信号に含まれる異常信号(ノイズ)を判定処理する信号判定処理部25、信号判定処理部25で正常と判定されたデータを用いて距離演算を行い、距離データを出力する距離測定演算部26、距離測定演算部26で処理した情報を記憶・蓄積する記録部27を備えて構成されている。
【0014】
図2は、パルスレーダ装置1を車両に搭載した例を示し、車両100の後部に送信アンテナ2及び受信アンテナ3を配置して後方監視を行い、駐車支援等に利用する。図2の例では、放射する電波が微弱な微弱無線を利用したレーダ装置として構成されており、送信アンテナ2から送信された送信波が車両100後方の壁等の障害物(ターゲット)50’で跳ね返り、その反射波が受信アンテナ3に受信波として受信される。本体ユニット4は受信波を信号処理して障害物50’の検出及び距離演算を行い、警報装置5を介して運転者に障害物への接近情報を伝達する。
【0015】
このとき、図3に示すように、車両100から距離Lだけ離れた位置に、車両100のパルスレーダ装置1と比較して送信電力の大きい他のレーダ装置Kが存在すると、距離Lが十分に大きい場合であっても、レーダ装置Kからの送信波や反射波によってパルスレーダ装置1が妨害を受け、ターゲットを誤検出する場合がある。
【0016】
例えば、レーダ装置Kが空港監視レーダー(airport surveillance radar:ASR)等のような回転式パルスレーダであり、所定の周期で電波の放射方向が変化する場合、レーダの送信方向が車両100の方向に向いたとき、車両100のパルスレーダ装置1が妨害を受ける。すなわち、図4に示すように、レーダ装置Kからの直接の送信波又は反射波(妨害波)と、パルスレーダ装置1の送信波が障害物50’で跳ね返った真の反射波とが合成され、車両100のパルスレーダ装置1で合成波を受信波として受信してしまう。
【0017】
その結果、パルスレーダ装置1では、図5に示すように、妨害波が重畳された受信波をサンプリングして波形データを取得することになる。取得した波形データには、一部、妨害波の干渉を受けた異常データが含まれ、閾値等を用いてもターゲットの反応との明確な分離が難しくなる。
【0018】
このため、本パルスレーダ装置1は、受信波の波形データにノイズが含まれているか否かを信号判定処理部25で判定し、妨害波の影響を除去する。信号判定処理部25におけるノイズ判定ロジックは、受信波の等価時間サンプリングにおいては、同期していない他の信号(ノイズ)は受信波形中にスパイク状に入るという特徴を利用している。具体的には、等価時間サンプリングした受信波の中のスパイク状の成分を識別するため、受信波の波形データを微分(差分)して波形データの変化率を算出し、さらに受信波の波形データの2回微分(変化率の差分)によって変化率の変動を算出する。そして、変化率の変動が急峻な場合、妨害波による異常データが混入していると判断する。
【0019】
図6は、信号判定処理部25における異常データ判定のソフトウエア処理を示すフローチャートである。以下、この異常データ判定処理について説明する。
【0020】
先ず、最初のステップS1において、信号変換部24で等価時間サンプリングされてデジタルデータに変換された受信波の波形データDを入力する。波形データDは、等価サンプリングにより取得順に並べられたn点のデータの集合(例えば1フレーム分のデータの集合)である。ここでは、サンプリング点(データ点)をi(i=0,1,2,3,…,n-1)として、波形データのデータ集合をD[i]で定義する。
【0021】
次に、ステップS2へ進み、受信波の変化率Rfを算出する。図7に示すように、受信波のデータ集合Dの中のデータ点iの波形データD[i]と1つ前のデータ点i-1の波形データD[i-1]との差分を、以下の(1)式により求め、この差分をデータ点iにおける変化率Rf[i]とする。
Rf[i]=D[i]−D[i-1] …(1)
【0022】
(1)式による差分をデータ点i=1〜n-1に対して算出することにより、図8に示すように、n点の受信波のデータ集合D[0],D[1],D[2],D[3],…,D[n-1]からn−1点の変化率のデータ集合Rf[1],Rf[2],Rf[3],…,Rf[n-1]を得ることができる。図8においては、(a)に妨害波による異常データが無い場合の変化率Rfを示し、(b)に妨害波による異常データが混入している場合の変化率Rfを示しており、妨害波の影響がある場合、破線で囲む個所に示すように、変化率Rfが大きく変動していることがわかる。
【0023】
その後、ステップS3へ進み、変化率Rfの変動幅Rwを算出する。この変動幅Rwは、以下の(2)式に示すように、データ点iの変化率Rf[i]とデータ点i-1の変化率Rf[i-1]との差分として算出される。これにより、n−1点の変化率のデータ集合Rf[1],Rf[2],Rf[3],…,Rf[n-1]からn−2点の変動幅のデータ集合Rw[2],Rw[3],…,Rw[n-1]が得られる。
Rw[i]=Rf[i]−Rf[i-1] …(2)
【0024】
続くステップS4では、変動幅Rwを評価し、異常データを判定する。この異常データの判定は、等価時間サンプリングで取得した波形データには、同期していない他の信号(ノイズ)が含まれる場合にスパイク状の急峻な変化が生じることを根拠としている。すなわち、図9(a)に示すように、妨害波の影響がない場合には、変化率の変動幅Rwはあまり変化せず、妨害波による異常データが混入している場合、図9(b)の破線で囲む個所に示すように、変化率の変動幅RwがV字状に大きく変化する。
【0025】
従って、データ点iにおける変動幅Rw[i]の絶対値が閾値Taを越え、且つ前のデータ点i-1における変動幅Rw[i-1]或いは後のデータ点i+1における変動Rw[i+1]に対して正負の符号が反転している場合、波形データDは異常であると判定する。一方、変動幅Rw[i]の絶対値が閾値Ta以下、或いは変動幅Rw[i]が前後の変動幅の値Rw[i-1],Rw[i+1]に対して正負の符号が反転していない場合には、波形データDは正常であると判定する。
【0026】
そして、今回の波形データDが正常であると判定された場合には、ステップS4からステップS5へ進んで今回の正常データで波形データの更新を行うと共に正常データを距離測定演算部26へ出力する。一方、今回の波形データDが異常であると判定された場合には、ステップS4からステップS6へ進み、異常データを棄却して波形データの更新は行わない。
【0027】
このように本実施の形態においては、妨害波による干渉があった場合には、受信波を等価時間サンプリングする際に非同期のスパイク状の信号となって出現することに基づいて他レーダ装置等からの干渉による影響を単純な閾値によることなく識別する。これにより、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。
【0028】
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。
第1形態においては、受信波の波形データDのデータ集合中に異常データが含まれているか否かを判定し、異常データが含まれている場合には、その波形データDを棄却する。これに対して、第2形態は、受信波の波形データDの中の異常データの位置を特定し、その異常データに対して補正処理を行うものである。
【0029】
このため、第2形態では、信号判定処理部25の処理ロジックにおける異常データに係る処理を変更する。すなわち、図10のフローチャートに示す異常データ判定処理において、第1形態と同様のステップS1〜S3を経てステップS4で異常と判定された場合、ステップS4からステップS6_1へ進み、異常データの位置Paを算出する。
【0030】
異常データの位置Paは、データ点i=2,3,…,n-1に対して変動幅Rwの異常検出点をxとすると、Pa=x−1で求めることができる。図9(b)に示す例では、x=4であるため、Pa=3となる。次に、ステップS6_2へ進み、図11に示すように、異常データD[Pa]を補正し、この補正データに基づく波形データD’を距離測定演算部26へ出力する。異常データD[Pa]の補正は、線形補間やスプライン補間等の各種の手法を用いて行うことができる。
【0031】
第2形態においても、第1形態と同様、受信パルスの電力が微弱であっても妨害信号と本来の検出対象からの受信信号とを確実に識別し、レーダ計測精度の向上を図ることができる。更に、第2形態では、サンプリングした波形データ中にノイズが混入している場合であっても、ノイズと識別したデータを補正して波形データを補正するため、測距精度を確保することができる。
【0032】
次に、本発明の実施の第3形態について説明する。
本パルスレーダ装置1を搭載した自車両と妨害波の出力源となる他のレーダ装置との距離が近い場合、図12に示すように、妨害波の干渉を受ける間隔が短くなってターゲットとの分離が困難なデータ点が増加し、受信波形の正確な再現が次第に難しくなる。
【0033】
このため、第3形態では、第2形態に対して、異常データの個数をカウントし、異常データの個数が設定値を越える場合には、サンプリングした波形データを異常データとして棄却し、異常データの個数が設定値を下回る場合、第2形態と同様、異常データを補正して測距処理を行う。
【0034】
第3形態における信号判定処理部25の異常データ判定処理は、図13のフローチャートに示される。この異常データ判定処理では、第1,第2形態と同様のステップS1〜S3を経て波形データの変化率Rf及び変動幅Rwを算出し、ステップS4で異常と判定された場合、ステップS4からステップS6_0へ進んで、波形データDの集合中に異常データの個数が設定値Y以上あるか否かを調べる。
【0035】
図14(a)に示すような妨害波の影響がない場合の変化率Rfに対して、異常データが複数個ある場合には、図14(b)に破線で囲む個所に示すように、複数点で変化率Rfが大きく変化する。その結果、図15(a)に示すような妨害波の影響がない場合の変化率の変動幅Rwに対して、異常データが複数個ある場合には、図15(b)に破線で囲む個所に示すように、複数点で変動幅Rwが大きくV字状に大きく変化する。
【0036】
従って、ステップS6_0で異常データの数が設定値Yを超える場合には、ステップS6_0からステップS6へ進んで今回の波形データ集合Dを異常データとする。一方、異常データの数が設定値Y以下の場合には、第2形態と同様の処理を行う。すなわち、ステップS6_1で複数の異常データの位置Paを算出し、ステップS6_2で各異常データの位置Paに基づいて波形データDを補正し、ステップS6_3で補正後の波形データD’を距離測定演算部26へ出力する。
【0037】
第3形態は、第2形態に対して、サンプリングした波形データ中にノイズが混入している場合、一義的に補正を行うことなく、異常と判定されたデータが設定個数以下の場合にのみ補正を行う。このため、第3形態では、測距精度を確保するのみならず、信頼性を向上することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 パルスレーダ装置
2 送信アンテナ
3 受信アンテナ
4 本体ユニット
25 信号判定処理部
D 波形データ
K レーダ装置
Rf 変化率
Rw 変動幅
Ta 閾値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の送信波を放射して物体からの反射波を受信し、等価時間サンプリング方式で時間軸を伸張して受信波の波形データをサンプリングするパルスレーダ装置であって、
上記波形データの変化率をサンプリング点毎に算出し、該変化率の変動に基づいて上記波形データの異常を判定する信号判定処理部を備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
所定のサンプリング点での上記変化率の変動幅の絶対値が閾値を越え、且つ前のサンプリング点或いは後のサンプリング点での変動幅と正負の符号が反転している場合、異常と判定することを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
上記信号判定処理部で異常と判定された波形データの数が設定値以下のとき、上記波形データを補正して距離測定用のデータとして出力することを特徴とする請求項1又は2記載のパルスレーダ装置。
【請求項1】
パルス状の送信波を放射して物体からの反射波を受信し、等価時間サンプリング方式で時間軸を伸張して受信波の波形データをサンプリングするパルスレーダ装置であって、
上記波形データの変化率をサンプリング点毎に算出し、該変化率の変動に基づいて上記波形データの異常を判定する信号判定処理部を備えたことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
所定のサンプリング点での上記変化率の変動幅の絶対値が閾値を越え、且つ前のサンプリング点或いは後のサンプリング点での変動幅と正負の符号が反転している場合、異常と判定することを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
上記信号判定処理部で異常と判定された波形データの数が設定値以下のとき、上記波形データを補正して距離測定用のデータとして出力することを特徴とする請求項1又は2記載のパルスレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【公開番号】特開2011−242171(P2011−242171A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112493(P2010−112493)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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