説明

パルス光発生装置

【課題】50フェムト秒以下のパルス幅を発生することが可能なパルス光発生装置を提供する。
【解決手段】連続(CW)光を出射する光源11と、光源11から出射されたCW光が入射され、CW光の入射方向に対して非対称な形状からなるナノメータサイズの偏光子22をガラス板21内に配列させた偏光変換部12と、偏光変換部12を通過した光のうち所定の偏光成分を透過させることにより、所定時間毎にパルス光を発生させる偏光板13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数フェムト秒程度の超短パルスを発生させる際に好適なパルス光発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光パルスは、光情報伝送や各種光計測において必要不可欠であり、一般的には光の1パルスが1ビットに相当する情報を担う。また、この光パルスは、例えば時間分解分光測定等を始めとした各種光計測においても用いられ、被測定対象としての物質の光学応答や電子のダイナミクスを調査する各種基礎研究、応用研究に加え、作製した電子デバイスの性能評価等に対しても適用される。
【0003】
この光パルスのうち、特にピコ秒からフェムト秒に至る時間領域のパルス幅をもつ超短パルス光は、非常に高い時間分解能を以って超高速現象を観測するための光源として、分子分光学、固体物理学、プラズマ物理学、化学等の広汎な学術領域において用いられ、光通信や光情報処理等の各種工学分野における超高速光技術としても応用されてきている。
【0004】
このような超短パルス光は、従来において、過飽和吸収体や電気光変調素子、音響光学変調素子等のいわゆるモードロッカーと呼ばれる素子を光共振器内に挿入し、その光共振器の共振周波数とモードロッカーの周波数とを組み合わせて発生させるのが一般的である(例えば、特許文献1、2参照。)。しかしながら、この発生方法では、発光のパルス幅が過飽和吸収体や電気光変調素子、音響光学変調素子、あるいは利得媒質のバンド幅に制限され、50フェムト秒領域までの超短パルスまでしか発生させることができない。50フェムト秒以下の光パルスは自己位相変調法など非線形現象を利用して作ることが可能ではあるが、このような非線形現象を誘発するためには強く安定な光源が必要であり、大型で高額な装置が必要である。このため、簡便に高速な50フェムト秒以下のパルス幅を発生することができる装置が従来より望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−115811号公報
【特許文献2】特開平11−330597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、50フェムト秒以下のパルス幅を発生することが可能なパルス光発生装置を簡易で安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1記載の発明は、連続(CW)光を出射する光出射手段と、上記光出射手段から出射されたCW光が入射され、上記CW光の入射方向に対して非対称な形状からなるナノメータサイズの偏光子をガラス板内に配列させた偏光変換手段と、上記偏光変換手段を通過した光のうち所定の偏光成分を透過させることにより、所定時間毎にパルス光を発生させる偏光板とを備えることを特徴とする。
【0008】
本願請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記偏光子は、上記CW光の入射方向に対して略直交する方向に凸設された凸部を有することを特徴とする。
【0009】
本願請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、上記偏光変換手段は、上記入射されたCW光に基づいて上記凸部近傍に近接場光を発生させ、連続して入射される上記CW光の磁場振動方向を上記発生させた近接場光に基づいて変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述した構成からなる本発明を適用したパルス光発生装置によれば、入射方向に対して非対称な形状からなるナノメータサイズの偏光子をガラス板内に配列させる。そして、入射されたCW光に基づいてその非対称とされた形状の近傍に近接場光を発生させ、連続して入射されるCW光の磁場振動方向を発生させた近接場光に基づいて変化させる。その結果、偏光成分の長軸と短軸が直交していない形とすることが可能となり、ひいては発生した位相の飛びによって生じる周期的なピークをパルスとして取り出すことが可能となる。このパルス光は、フェムト秒オーダのパルス幅とすることで極めて高速なパルスを生成できる。また、パルス間隔もフェムト秒オーダで構成することが可能となり、超高速変調を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用したパルス光発生装置の構成を示す図である。
【図2】本発明を適用したパルス光発生装置における偏光変換部の偏光子の構成を示す図である。
【図3】(a)は、偏光変換部へ入射したCW光の偏光成分を示す図であり、(b)は、偏光変換部から出射した光の偏光成分を示す図である。
【図4】偏光子に照射したCW光に基づいて発生させた近接場光を示す図である。
【図5】偏光成分について、横軸を光の位相(×π)、縦軸をその振幅として表した図である。
【図6】本発明を適用したパルス光発生装置における偏光変換部から出射させた光の光強度を時系列的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態として、数フェムト秒程度の超短パルスを発生させるパルス光発生装置について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0013】
本発明を適用したパルス光発生装置1は、例えば図1に示すように、連続(CW)光を出射する光源11と、この光源11から出射されたCW光を通過させ、後述する偏光変換処理を行う偏光変換部12と、偏光変換部12を通過した光のうち所定の偏光成分を透過させる偏光板13とを備えている。
【0014】
光源11は、図示しない電源装置を介して受給した駆動電源に基づき、所定波長からなるCW光を発振する。この光源11は、例えば、Nd:YAG等の固体レーザ、GaAs等の半導体レーザ、ArF等のガスレーザ等の各種レーザ、さらには、LEDもしくはキセノンランプ等で構成されていてもよい。
【0015】
偏光変換部12は、光源11から出射されるCW光が入射される。偏光変換部12は、ガラス板21と、このガラス板21中に配列させた偏光子22とを備えている。なお、この偏光子22は、ガラス板21の内部に埋設する場合に限定されるものではなく、ガラス板21の表面において形成されるものであってもよい。また、ガラス板21の代替として、例えば樹脂製の基板等を用いるようにしてもよい。
【0016】
図2(a)は、一の偏光子22の拡大斜視図を、また図2(b)は、偏光子22の拡大平面図を示している。偏光子22は、本体部31と、この本体部31から外側に凸設された凸部32とを備えている。この偏光子22は、Al, Cr、Au、Pt等の材料から構成されている。この偏光子22の形状は如何なるものであってもよいが、この図2の例では、本体部31を直方体状に構成した場合を示している。また、偏光子22は、ナノメータサイズで構成されており、例えば本体部31の一辺が250nm以下からなるようにしてもよい。また、この偏光子22をガラス板21内に配列させる方法としては、EBリソグラフィ、フォトリソグラフィ、近接場リソグラフィ、によるパターン転写とエッチングによる加工を行う。
【0017】
凸部32は、上記光源11から入射されるCW光の入射方向Aに対して略直交する方向に凸設されてなる。この凸部32は、図2(b)に示すように、平面的に見たときに、本体部31の一辺から凸設された形状で構成されている。かかる凸部32が形成されていることにより、偏光子22は、この図2(b)の平面図に示すように、CW光の入射方向にから見たときに非対称な形状からなる。凸部32の上面は、本体部31の上面と同一平面を形成するように構成されている。これに対して、凸部32の底面は、本体部31の底面よりも高くなるように構成されている。
【0018】
なお、この凸部32は、CW光の入射方向にから見たときに非対称な形状からなるものであれば、いかなる箇所に設けられていてもよく、また複数個に亘って形成されていてもよい。なお、この偏光子22の微細加工方法としては、例えばレーザ加工等により凸部32と本体部31の形状を作り出すようにしてもよい。
【0019】
次に、本発明を適用したパルス光発生装置の動作について説明をする。
【0020】
先ず光源11からCW光を出射する。出射されたCW光は、偏光変換部12へ入射される。
【0021】
偏光変換部12へ入射されたCW光は、偏光子22に到達する。
【0022】
図3(a)は、この偏光変換部12へ入射したCW光の偏光成分を示している。この図3では、CW光の磁場の方向を示しており、横軸がTE(Transverse Electric)、縦軸がTM(Transverse Magnetic)に相当する。仮に入射してきたCW光が円偏光である場合には、図3(a)に示すようにTE偏光電場、TM偏光電場ともにほぼ同程度の振動磁場の変化量となり、この偏光成分の長軸と短軸は互いに直交している状態となる。
【0023】
この偏光子22にCW光が照射された場合、図4に示すように凸部32の近傍において近接場光が発生することになる。このような近接場光が発生した状態でCW光を連続的に照射し続けると、近接場光の周波数とほぼ同期して電流の向きが変化する。この電流の向きは、発生した近接場光によってさらに変化することになり、図3(b)に示すように数周期分の光の電場振動が繰り返されると、光の電場振動と、偏光子22構造固有の分極振動との差が大きくなり、分極振動の振動方向の変化量が大きくなる。その結果、ある周期以降において、入射されるCW光と、この偏光子22に基づいて生じる、一致する分極振動の偏光が変化することになり、図3(b)に示すような、いわゆる位相の飛びが生じることになる。
【0024】
このような図3(b)に示すような偏光成分からなる光が偏光変換部12から出射することになる。この出射する偏光成分は、偏光成分の長軸と短軸が直交していない形となる。図5(a)は、この図3(b)に示す偏光成分について、横軸を光の位相(×π)、縦軸をその振幅としている。上述した偏光成分の変化によって、周期的にピークが発生しているのが分かる。
【0025】
本発明では、この発生した位相の飛びによって生じる周期的なピークをパルスとして取り出すために、この偏光変換部12から出射された光を偏光板13へ入射させる。この偏光板13は、ちょうどパルスとして取り出すべきピークの位相に相当する偏光成分のみ透過できるように設定されている。その結果、この偏光板13を透過した光は、図5(b)に示すように所定時間毎に発生するパルスとなる。
【0026】
図6は、実際に本発明を適用したパルス光発生装置1における偏光変換部12から出射させた光の光強度を時系列的に表したものである。この図6では、横軸に時間(フェムト(f)秒)、縦軸を光強度(W)としている。一般的に、偏光の周期は、フェムト秒オーダであることから、周期的に発生する位相の飛びに基づくピークは、フェムト秒オーダ間隔で発生する。図6では、10フェムト秒以下の時間間隔でピークが発生しているのが分かる。また、ピークの幅は、更に小さく、1フェムト秒以下まで狭小化させることが可能となる。このため、偏光板13を用いてこのピークを取り出すことにより、1フェムト秒以下のパルス光を10フェムト秒以下の時間間隔で発生させることが可能となる。
【0027】
このように、本発明を適用したパルス光発生装置1によれば、入射方向に対して非対称な形状からなるナノメータサイズの偏光子をガラス板内に配列させる。そして、入射されたCW光に基づいてその非対称とされた形状の近傍に近接場光を発生させ、連続して入射されるCW光の磁場振動方向を発生させた近接場光に基づいて変化させる。その結果、偏光成分の長軸と短軸が直交していない形とすることが可能となり、ひいては発生した位相の飛びによって生じる周期的なピークをパルスとして取り出すことが可能となる。このパルス光は、フェムト秒オーダのパルス幅とすることで極めて高速なパルスを生成できる。また、パルス間隔もフェムト秒オーダで構成することが可能となり、超高速変調を実現することができる。
【0028】
これに加えて、本発明によれば、非常に簡単な構造で、CW光からフェムト秒オーダの光パルスを発生させることができ、製造コストを低減することが可能となる。またパルス発生装置としての用途以外に、モードロッカーとしても機能させることができ、その多岐の用途への応用も期待できる。
【符号の説明】
【0029】
1 パルス光発生装置
11 光源
12 偏光変換部
13 偏光板
21 ガラス板
22 偏光子
31 本体部
32 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続(CW)光を出射する光出射手段と、
上記光出射手段から出射されたCW光が入射され、上記CW光の入射方向に対して非対称な形状からなるナノメータサイズの偏光子を基板内又は基板上に配列させた偏光変換手段と、
上記偏光変換手段を通過した光のうち所定の偏光成分を透過させることにより、所定時間毎にパルス光を発生させる偏光板とを備えること
を特徴とするパルス光発生装置。
【請求項2】
上記偏光子は、上記CW光の入射方向に対して略直交する方向に凸設された凸部を有すること
を特徴とする請求項1記載のパルス光発生装置。
【請求項3】
上記偏光変換手段は、上記入射されたCW光に基づいて上記凸部近傍に近接場光を発生させ、連続して入射される上記CW光の磁場振動方向を上記発生させた近接場光に基づいて変化させること
を特徴とする請求項2記載のパルス光発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−59447(P2011−59447A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209772(P2009−209772)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月30日 社団法人応用物理学会発行の「第56回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 No.0」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 低損失オプティカル新機能部材技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173636)財団法人光産業技術振興協会 (19)
【Fターム(参考)】