説明

パルス変調信号特定方法及びパルス変調信号識別方法並びにパルス変調信号識別装置

【課題】 レーダ信号識別装置においてパルス変調信号特定やパルス変調信号識別で行っていた多ビット高レートのA/D変換及びFFT等の大量の計算処理をすることなくビデオパルス信号の特徴を検出し、その特徴を用いてパルス変調信号の識別処理を高性能でより高速に処理することが可能である新規なパルス変調信号特定方法及びパルス変調信号識別方法並びにパルス変調信号識別装置を提供すること。
【解決手段】 パルス変調信号から成る到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記ビデオパルス信号のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内において検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点をビデオパルス信号の特徴として前記到来電波のパルス列を特定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の到来電波をレーダ信号ごとに分離してレーダ信号を識別するレーダ信号識別装置に用いられるレーダ信号のパルス列(パルス変調信号)を特定、或いは、識別するパルス変調信号特定方法及びパルス変調信号識別方法並びにパルス変調信号識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ信号識別装置は、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1の図10は、従来のレーダ信号識別装置を示す回路図である。図10において、10はアンテナ、11は検波回路、12はパルス分析部、13は周波数測定部、14は方位検出回路、15はパルス分離部、16はパルス分析部である。すなわち、この従来装置はアンテナ10で受信した無線周波数信号(RF信号)を検波回路11で包絡線検波し、ビデオ信号に変換する。パルス分析部12は、このビデオ信号に含まれる各パルスの特徴を検出する。つまりパルス振幅PA(Pulse Amplitude)、パルス幅PW(Pulse Width)及びパルス入力信号TOA(Time Of Arrival)を検出する。また、RF信号は、IFM(Instantaneous Frequency Measurement)回路からなる周波数測定部13にも入力され、パルス内の信号周波数(パルス周波数)が各パルスの特徴データとして検出される。さらに、方位検出回路14が、パルス変調信号の到来する方位を検出し、方位信号(BRG)を受信パルスの特徴データとして出力する。
【0003】
パルス分離部15は、これらの特徴データに基づき、受信信号に含まれる各パルスを識別目標ごとに分離する。ここで、識別目標とは受信信号に含まれるレーダ信号を意味する。すなわち、受信信号が2種類以上のレーダ信号からなる場合には、ビデオ信号中の2種類のパルス列が混在することになる。このため、パルス分離部15が、各パルスがいずれのレーダ信号に属するかを判別し、レーダ信号ごとのパルス列に分離する。この結果、各識別目標に、その識別目標を構成する各パルスの特徴データが得られる。このように検出した各パルスの特徴データを、統計処理等によりレーダ信号の特徴データに変換して、受信したレーダ信号を識別する。また、レーダ信号の特徴データとレーダ送信機との関係を規定するデータベースを装置が有している場合には、このデータベース内で検出した特徴データをキーとしてマッチング検索を行なうことにより、レーダ信号の送信元であるレーダ送信機を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−304849号公報(第10図等)
【特許文献2】特開昭58−164008号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Digital Techniques for Wideband Receivers Second Edition,James Tsui,Artech House,2001,p340〜347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来、レーダ信号識別装置に用いられるパルス変調信号特定方法やパルス変調信号識別方法では、受信したRF信号をIF(中間周波)信号またはベースバンドのビデオ信号に変換し、検出したIF信号またはビデオパルス信号によってレーダ信号を識別する場合に、多ビット高レートのA/D変換を行ない、FFT(Fast Fourier Transform)等の演算処理を用いてビデオパルス信号の特徴データを検出していた。そのため、特徴データを検出するために大量の計算処理を高速に行なう必要があるという課題がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解消するためになされたもので、ビデオパルス信号のゼロ交差を特徴データとして用いることによりパルス変調信号の識別処理を高性能でより高速に処理することが可能である新規なパルス変調信号特定方法及びパルス変調信号識別方法並びにパルス変調信号識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るパルス変調信号特定方法は、パルス変調信号から成る到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数から前記到来電波のパルス列を特定することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明に係るパルス変調信号特定方法は、パルス変調信号から成る到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化し、この符号化されたゼロ交差点値から前記到来電波のパルス列を特定することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の発明に係るパルス変調信号識別方法は、パルス変調信号から成る複数の到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記複数のビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数と前記複数の到来電波の周波数及び到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離して、前記複数の到来電波ごとのパルス列を識別することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の発明に係るパルス変調信号識別方法は、パルス変調信号から成る複数の到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記複数のビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化し、この符号化されたゼロ交差点値と前記複数の到来電波の周波数及び到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離して、前記複数の到来電波ごとのパルス列を識別することを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の発明に係るパルス変調信号識別装置は、パルス変調信号から成る複数の到来電波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部が受信した到来電波の周波数を測定する周波数測定部と、前記到来電波の到来方位を検出する方位検出部と、前記アンテナ部が受信した到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離するバンドパスフィルタ群と、このバンドパスフィルタ群が分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出するゼロ交差検出部群とを備え、前記ゼロ交差検出部群が検出した前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数と前記周波数測定部が測定した前記複数の到来電波の周波数及び前記方位検出部が検出した前記複数の到来電波の到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離して、前記複数の到来電波ごとのパルス列を識別することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の発明に係るパルス変調信号識別装置は、パルス変調信号から成る複数の到来電波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部が受信した到来電波の周波数を測定する周波数測定部と、前記到来電波の到来方位を検出する方位検出部と、前記アンテナ部が受信した到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離するバンドパスフィルタ群と、このバンドパスフィルタ群が分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出するゼロ交差検出部群と、このゼロ交差検出部群が検出した所定の範囲内のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化する符号化処理部群と、この符号化処理部群が符号化した前記所定の帯域ごとに符号化された所定の範囲内のゼロ交差点を統合する符号統合処理部と、この符号統合処理部により統合された所定の範囲内のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化された前記到来電波と、前記周波数測定部が測定した前記複数の到来電波の周波数及び前記方位検出部が検出した前記複数の到来電波の到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離するパルス分離部と、このパルス分離部が分離した前記複数の到来電波のパルス列を分析するパルス列分析部とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、この発明によれば、パルス変調信号から成る到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号をバンドパスフィルタによって各周波数帯の信号に分解し、その各周波数帯の信号のゼロ交差点をその受信パルスの特徴データとして用いることで、パルス識別をより高性能化させるとともに処理をより高速化させ得るパルス変調信号特定方法及びパルス変調信号識別方法並びにパルス変調信号識別装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置におけるバンドパスフィルタ群の通過帯域についての説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置におけるバンドパスフィルタ群の動作説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置におけるゼロ交差検出部と符号化処理部の動作説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係るパルス変調信号識別装置におけるゼロ交差検出部と符号化処理部の動作説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るパルス変調信号識別装置における符号化された情報を統合する動作説明図である。
【図7】この発明に係る重心についてである。
【図8】この発明に係るハードリミッタの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について図1〜4を用いて説明する。図1において1は複数のレーダから発せられたレーダ信号であってパルス変調信号から成る複数の到来電波を受信するアンテナ部、2はアンテナ部1が受信した到来電波の周波数を測定する周波数測定部、3は到来電波の到来方位を検出する方位検出部、4はアンテナ部1が受信した到来電波を包絡線検波する検波回路、5は検波回路4により検波された到来電波(ビデオパルス信号)を所定の帯域ごとに分離するバンドパスフィルタ群、6はバンドパスフィルタ群5が分離した到来電波のビデオパルス信号を所定の帯域ごとに、所定の範囲内のゼロ交差点を検出するゼロ交差検出部群、7はゼロ交差検出部群6が検出した所定の範囲内のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化する符号化処理部群、8は符号化処理部群7が符号化した所定の範囲内のゼロ交差点を統合する符号統合処理部、9は符号統合処理部8により統合された所定の範囲内のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化された到来電波と周波数測定部2が測定した複数の到来電波の周波数及び方位検出部3が検出した複数の到来電波の到来方位とから複数の到来電波のパルス列(パルス変調信号)を分離するパルス分離部、10はパルス分離部9が分離した複数の到来電波のパルス列を分析するパルス列分析部である。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示す。
【0017】
図1において、パルス変調信号識別装置は、特許文献1の図10において、第1のパルス分析部12に該当する部分に替わって、バンドパスフィルタ群5と、ゼロ交差検出部群6と、符号化処理部群7と、符号化統合処理部群8から構成されている。なお、バンドパスフィルタ群5は、バンドパスフィルタ1〜n(nは整数)のn個のバンドパスフィルタから構成され、ゼロ交差検出部群6及び符号化処理部群7は、図1に示すように、n個のバンドパスフィルタに一対一で対応するように、バンドパスフィルタ1〜n後段に接続されたゼロ交差検出部1〜n及び符号化処理部1〜nで構成されている。
【0018】
図1において、検波回路4の出力であるビデオパルス信号は、包絡線検波における整流作用のために直流成分が生じ、正または負の片極性の信号になっている。このため、一般に、ビデオパルス信号は極性が正から負または負から正に反転する際に信号レベルがゼロレベルを跨ぐというゼロ交差を有しないが、バンドパスフィルタ群5は、ビデオパルス信号の直流成分を除去してそれぞれ所定の帯域の交流成分を出力するので、ゼロ交差検出部群6に入力される段階において、ビデオパルス信号は信号レベルがゼロレベルを跨ぐゼロ交差を有している。
【0019】
特許文献1に示される従来装置においてパルス分離及びパルス列分析に用いられるビデオ信号(パルス波形)の特徴は、特徴文献1の図9に示されるように、PW(パルス幅)及びPA(パルス振幅)の2種類の大まかなパルスの特徴であるが、この発明にかかるパルス変調信号識別装置においては、ビデオパルス信号波形の細かな特徴が反映されたゼロ交差特性(バンド毎のゼロ交差数及びゼロ交差位置)をパルスの特徴として用いる。パルス分離部9及びパルス列分析部10が、このゼロ交差特性をパルスの特徴としてパルスを分離し、パルス列を分析する。パルス分離やパルス列分析の性能は、用いるパルスの特徴が多種多様である方がより高くなることが期待できるので、この発明にかかるパルス変調信号識別装置において、ゼロ交差特性に加えて、従来装置において用いられるPW及びPAを併用することもできる。
【0020】
次に、図1〜4を用いて、実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置の動作を説明する。図1において、アンテナ部1は、複数のレーダから発せられたレーダ信号であってパルス変調信号から成る複数の到来電波を受信してRF信号を検波回路4に出力する。検波回路4は入力されたRF信号を包絡線検波してビデオパルス信号を生成する。そのビデオパルス信号をそれぞれ通過帯域の異なるバンドパスフィルタ1、2、3・・・n(バンドパスフィルタ群5)に出力し、入力されたビデオパルス信号を各周波数帯の信号に分離する。図2は図1に示す実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置のバンドパスフィルタ群5の通過帯域についての説明図である。それぞれのバンドパスフィルタの通過帯域は受信信号の周波数帯域の中からバンドパスフィルタ数に応じて周波数を割り当てる。図2(a)のようにバンドパスフィルタ数がn個の場合は、受信信号の周波数帯域をn個の範囲で割り当てる。図2(b)のようにバンドパスフィルタ数が3個の場合は、受信信号の周波数帯域を3個の範囲で割り当てる。
【0021】
図2において、バンドパスフィルタ群5全体の通過帯域幅は、受信信号の帯域幅に合わせている。受信信号の帯域幅への合わせ方には二通りがあり、到来電波の状況やパルス分離及びパルス列分析の目的に応じて、いずれかで合わせる。
【0022】
第一の合わせ方は、到来電波のパルス幅が、例えば、0.1マイクロ秒の短パルスから数十マイクロ秒の長パルスまで広範囲にわたり、パルス幅も主要な特徴の一つとしてパルス分離及びパルス列分析を行なう場合の合わせ方であり、バンドパスフィルタ群5全体の通過帯域幅を、パルス変調信号識別装置が受信対象とする信号の中で最も広帯域(短パルス幅)の信号の実効帯域幅(電力半値幅)の2〜3倍の帯域幅に合わせる。
【0023】
第二の合わせ方は、パルス変調信号識別装置が受信対象とする信号のパルス幅が同程度のものに限られていて、パルス幅よりもむしろビデオパルス信号波形の細かい変動を主要な特徴としてパルス分離及びパルス列分析を行なう場合の合わせ方であり、バンドパスフィルタフィルタ群5全体の通過帯域幅を、このパルス幅を持った信号の帯域幅、すなわちこのパルス幅の逆数相当の実効帯域幅(電力半値幅)の2〜3倍の帯域幅に合わせる。
【0024】
また、図2に示すバンドパスフィルタの数nは大きいほどパルス分離及びパルス列分析を高精度で行なえるが、到来電波に重畳されるマルチパス波が強いとこれに起因するビデオパルス信号波形の歪の影響を受けやすくなり、到来電波が微弱になると受信機雑音の影響を受けやすくなる。また、回路規模が増大するので、実用的にはn=3〜4とする。
【0025】
バンドパスフィルタ1、2、3・・・nそれぞれの通過帯域は、バンドパスフィルタ群5全体の通過帯域とバンドパスフィルタ数nに応じて割り当てるが、割り当て方には自由度がある。実用的には、例えば各バンドの帯域幅を均等にするか、低域側から高域側に向かって順に各バンドの帯域幅を等比で広げる。等比の値は最も低域のバンドパスフィルタ1の帯域幅の値、バンドパスフィルタフィルタ群5全体の通過帯域幅及びバンドパスフィルタ数nとの兼ね合いで決まる。例えば、実用的には、前記バンドパスフィルタ群5全体の通過帯域幅の受信信号の帯域幅への第二の合わせ方を用い、n=3の場合は、バンドパスフィルタ1の帯域幅を、信号のパルス幅の逆数相当の実効帯域幅(電力半値幅)の1/
√2とし、等比の値を√2とする。各バンドの帯域幅を均等にするか、等比で広げるかはそれぞれの得失を考慮して決める。前記第一の合わせ方を用いている場合は、一般にバンドパスフィルタ群5全体の通過帯域幅が広帯域となるので等比にするのが実用的である。
【0026】
さらに図2に示すバンドパスフィルタ群5において、それぞれ隣り合う各バンドパスフィルタのクロスオーバー周波数は、例えば、各バンドパスフィルタの利得(通過損失)が−3dB(電力が半値)となる周波数とする。最も低域のバンドパスフィルタ1においてはゼロ周波数(直流)における利得(通過損失)を例えば−3dB(電力が半値)とし、直流阻止特性を持たせる。
【0027】
図3は、図1に示す実施の形態1に係るパルス変調信号識別装置のバンドパスフィルタ群5の数が3つの場合における動作の説明図である。つまり、図2(b)に記載されたバンドパスフィルタ群5の状態である。検波回路4で包絡線検波して得られたビデオパルス信号をそれぞれのバンドパスフィルタ1、2、3に入力する。すると入力されたビデオパルス信号は、それぞれの通過帯域成分で形成されたビデオパルス信号に変換され、それぞれに対応したゼロ交差検出部1、2、3に出力される。ゼロ交差検出部群6の動作は、例えば特許文献2に示されているように、信号の振幅が0となる時に信号を検出する回路である。ゼロ交差点を検出する範囲は、通過帯域が最も低いバンドパスフィルタで変換されたビデオ信号のゼロ交差点を検出するために、バンドパスフィルタ群5に入力されたビデオパルス信号のPWより広い範囲をゼロ交差点の検出範囲とする。実施の形態1では図3で示すようにPWの2倍の範囲をゼロ交差点の検出範囲としている。
【0028】
また、ゼロ交差点の検出範囲の時間軸位置すなわち検出開始時刻及び検出終了時刻は、それぞれビデオパルス信号のパルス立上り前及びパルス立下り後とし、ゼロ交差点検出範囲の中央をビデオパルス信号の中央に合わせる。ゼロ交差検出部群6の各バンドのゼロ交差検出範囲は同一とし、検出範囲の中央とビデオパルス信号の中央は概ね合わせ、差異は例えば実用上はPWの10%程度以内にする。ビデオパルス信号の中央は、パルス波形の概ね中央とし、例えばパルス立下りとパルス立下りの中央とするか、あるいは図7に示されるようなパルス波形の横軸の重心としてもよい。ゼロ交差検出部6で検出されたゼロ交差点数を符号化処理部1、2、3が図4のように符号化(数値化)し、符号統合処理部8が各バンドの符号を統合して受信パルス信号の特徴データとし、この特徴データを用いてパルス分離部9が複数の到来電波(レーダ信号)の中から同じ特徴データを持つパルスを識別し、分離する。
【0029】
なお、重心とは時間軸と波形あるいは函数形で囲まれた面積の一次モーメントであり、図7のように重心には横軸の重心と縦横両軸の重心がある。横軸の重心とは、その重心の左右の面積が等しくなる、横軸に垂直な線のことである。一方縦横両軸の重心とは、その重心を通るように横軸に垂直に線を引いたときに、その線の左右の面積が等しくなると共に、その重心を通るように縦軸に垂直に線を引いたときに、その線の上下の面積が等しくなる点のことである。横軸の重心を面積重心(一次元のモーメント)、縦横両軸の重心を面積重心(二次元のモーメント)とする。また、単に面積重心とした場合は、面積重心(一次元のモーメント)と面積重心(二次元のモーメント)の両方を含むものとする。さらに、モーメントは特に次数を記さない場合は一次モーメントを表わすものとする。
【0030】
詳しくは、図3では、バンドパスフィルタ群5は3個のバンドパスフィルタ1、2、3で構成され、それぞれの出力が、ゼロ交差検出部群6を構成するゼロ交差検出部1、2、3により、ゼロ交差点が検出される。バンドパスフィルタ1からの波形は、ゼロ交差点は2点ある。バンドパスフィルタ2からの波形は、ゼロ交差点は8点ある。バンドパスフィルタ3からの波形は、ゼロ交差点は14点ある。符号化処理部1、2、3はゼロ交差点数2、8、14をそれぞれ02、08、14に符号化(数値化)し、符号統合処理部8がこれらの符号を統合する。したがって、受信パルスの特徴データは、(02,08,14)となる。
【0031】
パルス分離部9は、複数の受信パルスの各特徴データの中から、同じ特徴データを持ったパルスを分離し、同じ特徴データを持ったパルス列をパルス列分析部に出力する。パルス分離部9は特徴データが同じと判定する判定基準は各バンド毎にゼロ交差点数をあらわす符号(数値)が同じであるか、または差異が所定のしきい値以下とする。所定のしきい値は最小を1とする。例えば、図4の場合、各バンド毎に、符号(数値)が02±1、08±1、14±1であれば特徴が同じと判定する。所定のしきい値の最大は判定のゆるやかさに応じた値にするが、例えば、符号(数値)が02±1、08±2、14±4であれば特徴が同じとゆるやかに判定する。
【0032】
このような処理を行なうことで、パルス変調信号から成る到来電波を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記到来電波を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数から前記到来電波のパルス列を特定することが可能となる。また、複数の到来電波ごとのパルス列を事前に特定しておくと、それぞれを識別することも可能である。
【0033】
実施の形態2.
実施の形態1では、受信パルス信号の特徴データをゼロ交差点数としたが、本実施の形態は、パルス識別、分離の精度を高めるために特徴データとして、ゼロ交差点数に加えてゼロ交差位置を加えたもので、符号化処理部郡7及び符号統合処理部8がゼロ交差位置情報を処理するようにしたものである。
【0034】
実施の形態2に係るパルス変調信号識別装置のブロック図は、図1の実施の形態1に係るブロック図と同じであるが、本実施の形態2においては、符号化処理部郡7及び符号統合処理部8の動作が実施の形態1とは異なる。図5は実施の形態2に係るパルス変調信号識別装置の符号化処理部群7の動作を説明した図、図6は本実施の形態に係る符号統合処理部8の動作を説明した図であり、図5、6を用いて実施の形態2における符号化処理部群7及び符号統合処理部8の動作を説明する。
【0035】
図5は、図3に示したバンドパスフィルタ1、2、3で出力されたビデオ信号から、それぞれのゼロ交差検出部1、2、3でゼロ交差点を検出し、ゼロ交差検出状況を符号化処理する符号化処理部群7の動作を説明した図である。例として入力信号は図3に示されているバンドパスフィルタ群5のバンドパスフィルタ2の出力としている。ゼロ交差検出部群6から出力された信号を符号化処理する動作は、ゼロ交差検出範囲を任意の数の時間セルで区分けし、その時間セル内にゼロ交差点がある場合は信号を「1」、ゼロ交差点がない場合は信号を「0」として2進数で符号化する。図5では例として時間セル数を16としている。なお、受信パルスのPWに応じて時間幅としてのゼロ交差検出範囲は変化するが、時間セルの幅をPWで正規化することによりゼロ交差検出時間範囲内の時間セル数を既定の固定値にすることができ、PWの異なるパルスでも既定の時間セル数で符号化できる。
【0036】
上記のそれぞれ符号化処理された2進数の情報を、図6に示すように既定の符号情報順に統合し、受信したパルス信号の特徴データとする。図6では符号化情報1、2、3が、それぞれバンドパスフィルタ1、2、3で出力されたビデオ信号に対応している。このように、受信したレーダのビデオバルス信号の波形の細かい特徴であるゼロ交差位置情報を符号化し、その符号化された情報を統合した情報を受信したパルス信号の特徴データとして用いて、受信したパルス信号を高精度で識別し、分離する。
【0037】
パルス分離部9は、複数の受信パルスの各特徴データの中から、同じ特徴データを持ったパルスを分離し、同じ特徴データを持ったパルス列をパルス列分析部に出力する。パルス分離部9において複数の受信パルスが同じ特徴データを持っているかは、実施の形態2においては、図6に示す符号化情報1、2、3を、それぞれ、各パルスについてビット毎に値の一致を調べ、値の一致数を所定のしきい値と比較して判定する。例えば、図6において、符号化情報2は16ビットのうちビット値1は8個あり、その位置は上位から順に第1、2、3、5、7、11、13、16番目のビット位置であり、ビット値0は8個あり、その位置は上位から順に第4、6、8、9、10、12、14、15番目のビット位置である。複数の受信パルス間で、符号化情報2のビット値1のビット位置及びビット値0のビット位置がすべて同じビット位置であれは、ビット毎のビット値の一致数は16個となる。もしビット値が一致しないビットが16ビット中に例えば4箇所あれば、ビット毎の値の一致数は12個となる。ビット値の一致数の所定のしきい値が例えば14個で、ビット毎のビット値の一致数が16個であれば、符号化情報2について、二つの受信パルスは同じ特徴データをもっていると判定する。一致数が12個であれば、同じ特徴データをもっていないと判定する。
【0038】
所定のしきい値は、例えば判定を厳密に行なう場合は16個とするか、あるいは時間セル幅に起因するゼロ交差位置の量子化誤差±1個を考慮して14個とする。ゼロ交差位置が受信機雑音やマルチパス波の影響を受けて変ることを考慮して判定をゆるやかに行なう場合は、所定のしきい値をさらに小さい値、例えば12個とする。符号化情報1、3においても同様に判定する。
【0039】
以上のように、実施の形態1及び2に係るパルス変調信号識別装置において、パルス分離部9はビデオパルス信号のゼロ交差検出情報(交差点数、交差位置)を特徴データとして、複数の受信パルスの各特徴データの中から同じ特徴データを持つパルスを識別、分離する。パルス分離部9において、従来のレーダ信号識別装置が特徴データとしてパルス識別、分離に用いるパルス内の信号周波数(パルス周波数)、方位(BRG)、パルス振幅PA及びパルス幅PWを特徴データとして用いることも可能である。この発明にかかるパルス変調信号識別装置において、従来の特徴データに加えてゼロ交差特性(バンド毎のゼロ交差数及びゼロ交差位置)をパルスの特徴として用いることにより、パルスの識別、分離性能がより向上する。
【0040】
また、実施の形態1及び2に係るパルス変調信号識別装置は、検波回路4により検波された到来電波(ビデオパルス信号)を所定の帯域ごとに分離するバンドパスフィルタ1〜nにアナログフィルタを用いた。これに続くゼロ交差検出部1〜nは、バンドパスフィルタ1〜nの出力信号であるアナログ交流信号を、例えば、図8に示されるようなハードリミッタにより方形パルスに変換し、ビデオパルス信号のゼロ交差を方形パルスの立上りと立下りで検出するアナログ信号処理回路構成にした。従ってバンドパスフィルタ群5及びゼロ交差検出部群6の信号処理すべてがアナログ処理になっており高速かつリアルタイム処理が可能である。
【0041】
しかし、バンドパスフィルタ1〜nをアナログフィルタにすると、受信信号毎に適応的に通過帯域幅を変更できるバンドパスフィルタ群を構成することが回路規模やコスト上困難である。このような場合には、バンドパスフィルタ群5及びゼロ交差検出部群6をデジタル信号処理回路で構成にすることもできる。デジタル回路構成にするには、検波回路4の後段にビデオパルス信号をデジタルデータに変換するA/D変換器を設け、バンドパスフィルタ群6をデジタルフィルタで構成する。または、処理速度の低下を招くがデジタルフィルタに代えて、CPUによりFFT(高速フーリエ変換)を行ない、その結果の中から所要の通過帯域成分だけを抜き出して逆FFTして時間波形データに戻してもよい。ゼロ交差検出部群は、この時間波形データを用いて、波形データの正負の符号が反転する時刻を検出すればよい。
【0042】
なお、図8のハードリミッタの特性は理想的な特性を示したもので、実際に使用するアナログ回路で構成されるハードリミッタの特性は僅かではあるが、理想的な特性からはずれており、逆正接函数形に類似のスムースリミッタの特性を有する。ハードリミティング手段としてアナログ回路で構成されるハードリミッタの代わりに、デジタル演算で振幅制限処理(ハードリミティング処理)を行ってもよい。デジタル演算で振幅制限処理を行なう場合は、A/D変換装置でA/D変換された受信信号波形のデジタルデータに対して振幅制限処理を行なう。デジタル演算で振幅制限処理を行なう場合は、例えば、受信信号波形のデジタルデータの正負の符号に応じて、符号が正なら+1のデジタル値を、符号が負なら−1のデジタル値を出力する処理を行えば良い。ハードリミティング手段を備えることで、S/N比が小さい場合でも信号電力がノイズの電力を上回っていればハードリミティングにおける微小信号抑圧効果によりノイズが抑圧されるために相互相関函数形の左右対称性が改善され、また複数のピークの発生も抑制されるので、算出される重心の位置ずれが小さくなり、精度が向上した方位探知装置又は方位探知方法を得ることができる。
【0043】
本発明に係るパルス変調信号識別装置を前記デジタル回路構成にし、CPUを用いて例えばFFTを行なうと、信号処理が非リアルタイム処理となり処理速度が低下するが、しかしデジタル信号処理で取扱うデータは、ベースバンドのビデオパルス信号のA/D変換データであり、特許文献1の図12に示されるような、従来装置においてベースバンドよりも一般に遥かに高周波のIF信号をA/Dしてデジタル信号処理するよりも少ないデータ量を扱えばよく、従来装置と比較して信号処理の高速性を確保し易い。
【0044】
また、デジタル回路構成にすると、ゼロ交差の検出精度を確保するには、多ビット高レートのA/Dが必要となり、例えばFFT、逆FFTの処理時間が更にかかり、高速処理性能が低下する。このような場合に高速処理性能の低下を少しでも防ぐため、高レートにする代わりに簡易な演算方法でゼロ交差位置を高速に推定して高検出精度を得てもよい。簡易な演算方法は、例えば、非特許文献1のFigure 10.5及び10.6に示されている。
【符号の説明】
【0045】
1・・アンテナ部、2・・周波数測定部、3・・方位検出部、4・・検波回路、5・・バンドパスフィルタ群、6・・ゼロ交差検出部群、7・・符号化処理部群、8・・符号統合処理部、9・・パルス分離部、10・・パルス列分析部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス変調信号から成る到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数から前記到来電波のパルス列を特定することを特徴とするパルス変調信号特定方法。
【請求項2】
パルス変調信号から成る到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化し、この符号化されたゼロ交差点値から前記到来電波のパルス列を特定することを特徴とするパルス変調信号特定方法。
【請求項3】
パルス変調信号から成る複数の到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記複数のビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数と前記複数の到来電波の周波数及び到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離して、前記複数の到来電波ごとのパルス列を識別することを特徴とするパルス変調信号識別方法。
【請求項4】
パルス変調信号から成る複数の到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離し、その分離した前記複数のビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出し、前記所定の帯域ごとのゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化し、この符号化されたゼロ交差点値と前記複数の到来電波の周波数及び到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離して、前記複数の到来電波ごとのパルス列を識別することを特徴とするパルス変調信号識別方法。
【請求項5】
パルス変調信号から成る複数の到来電波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部が受信した到来電波の周波数を測定する周波数測定部と、前記到来電波の到来方位を検出する方位検出部と、前記アンテナ部が受信した到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離するバンドパスフィルタ群と、このバンドパスフィルタ群が分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出するゼロ交差検出部群とを備え、前記ゼロ交差検出部群が検出した前記所定の帯域ごとのゼロ交差点数と前記周波数測定部が測定した前記複数の到来電波の周波数及び前記方位検出部が検出した前記複数の到来電波の到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離して、前記複数の到来電波ごとのパルス列を識別することを特徴とするパルス変調信号識別装置。
【請求項6】
パルス変調信号から成る複数の到来電波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部が受信した到来電波の周波数を測定する周波数測定部と、前記到来電波の到来方位を検出する方位検出部と、前記アンテナ部が受信した到来電波を包絡線検波して得られるビデオパルス信号を所定の帯域ごとに分離するバンドパスフィルタ群と、このバンドパスフィルタ群が分離した前記ビデオパルス信号を前記所定の帯域ごとに所定の範囲内のゼロ交差点を検出するゼロ交差検出部群と、このゼロ交差検出部群が検出した所定の範囲内のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化する符号化処理部群と、この符号化処理部群が符号化した前記所定の帯域ごとに符号化された所定の範囲内のゼロ交差点を統合する符号統合処理部と、この符号統合処理部により統合された所定の範囲内のゼロ交差点を前記所定の帯域ごとに符号化された前記到来電波と、前記周波数測定部が測定した前記複数の到来電波の周波数及び前記方位検出部が検出した前記複数の到来電波の到来方位とから前記複数の到来電波のパルス列を分離するパルス分離部と、このパルス分離部が分離した前記複数の到来電波のパルス列を分析するパルス列分析部とを備えたことを特徴とするパルス変調信号識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−276517(P2010−276517A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130501(P2009−130501)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】