説明

パルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置

【課題】キャリアリークによる周波数スペクトラムのピーク値の増大を大幅に低減したパルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置を提供する。
【解決手段】パルス発生装置100は、インパルス信号101を出力するパルス信号生成部110と、所定の周波数のローカル信号102を出力する高周波源120と、インパルス信号101とローカル信号102とを乗算するミキサ130と、高周波源120からミキサ130に出力されるローカル信号102を遮断するためのスイッチ140およびこれを制御するスイッチ制御部150とを備えている。パルス信号生成部110では、双極性パルスを発生させ、これをベースバンドインパルス信号101として出力している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線周波数信号(RF信号)の発生装置に係り、特にパルスレーダ等の信号源に用いるインパルス状のパルスの発生方法とパルス発生装置およびそれを利用したレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーダ等で用いるインパルス状のRF信号を生成する方法として、図13に示すものが知られている。同図では、従来のパルス発生方法として、(a)バースト発振器を用いた方法、(b)連続波発振器とスイッチを用いた方法、及び(c)ベースバンドインパルスをミキサでアップコンバートする方法、を示している。
【0003】
図13(a)に示すバースト発振器を用いた方法では、バースト発振器901に所定のトリガ信号902を入力してパルスを発振させ、これを送信アンテナ903から送信している。このパルス発生方法では、パルスの形状がバースト発振器901の設計によって決まってしまい、例えばバースト発振器901の回路を構成するコンポーネントの性能によってパルスの立ち上がり時間等が決まってしまう。そのため、パルス形状の調整をバースト発振器901で行うのは困難であり、設計変更やハードウェアの変更等が必要になってしまう。
【0004】
また、図13(b)に示す連続波発振器とスイッチとを用いた方法では、連続波発振器911から出力される連続波を、スイッチ912を高速に開閉することでパルス信号を発生させ、これを送信アンテナ913から送信している。この方法では、高速に開閉するスイッチ素子912aとこれを制御する外部回路912bからなるスイッチ912が必要となり、このスイッチ912の特性によってパルス形状が決定されてしまう。そのため、この方法でもパルス形状を変更するのは容易ではない。
【0005】
さらに、図13(c)に示すベースバンドインパルスをアップコンバートする方法では、ミキサ922において、ベースバンドインパルス921を連続波発振器923から出力される搬送波に乗算することで、インパルス状のRF信号を発振させ、これを送信アンテナ924から送信している。この方法では、ベースバンドインパルスの生成を、ディジタル処理で行うことが可能であり、パルス発生の制御をソフトウェアで容易に変更することが可能となっている。
【0006】
上記のような事情から、高い周波数でインパルス状の信号を発生させる場合には、図13(c)に示したベースバンドインパルス信号をミキサ922により搬送波に乗算する方式がとられることが多い。この方式では、搬送波に乗算されたベースバンドインパルス信号のみがミキサ922から出力されるのが理想的であるが、実際にはベースバンドインパルスが供給されない期間にも搬送波がミキサから漏出(キャリアリーク)してしまい、無変調の搬送波が出力されるといった問題がある。
【0007】
図13(c)に示したベースバンドインパルスをアップコンバートする方法として、ヘテロダイン方式・スーパーヘテロダイン方式を用いることが可能な場合には、変調信号(ベースバンドインパルス)と搬送波とのそれぞれの周波数が隔離されているため、帯域通過・除去フィルタなどにより不要な搬送波を除去することができる。
【0008】
しかしながら、ヘテロダイン方式・スーパーヘテロダイン方式では、部品点数増加等により高コストとなる。また、使用する周波数帯域が超広帯域となるUWBのパルス信号を生成する場合には、ベースバンドインパルスと搬送波とを周波数上分離することが難しい。そのため、UWBパルス信号を用いる場合には、ダイレクトコンバージョン方式によるパルス信号の生成が必要となる。
【0009】
レーダ装置においては、パルス信号を放射源として使用する場合、無変調の搬送波が漏出することは、受信感度の劣化といった性能面で大きな不利益となる。また、無線周波数の利用効率上も好ましくない。そこで、このような問題を解決するために、非特許文献1では、パルス信号を発生させないときはスイッチなどを用いて搬送波を停止させる方法が提案されている。
【0010】
スイッチなどを用いて搬送波を停止させる方法では、少なくともベースバンドインパルス信号がミキサに供給されている期間は、搬送波もミキサに供給されていなければならない。そのためには、スイッチの開閉制御をおこなう回路における信号伝送遅延等を考慮した上で、スイッチの開閉タイミングを制御する必要がある。非特許文献1では、ベースバンドインパルス信号の出力期間に対応する高速パルスと、搬送波供給期間に対応する低速パルスとを重ね合わせてスイッチング制御に用いることで、ベースバンドインパルス信号が出力されていないときのキャリアリーク量を抑制するようにしている。
【非特許文献1】「重畳パルス方式を用いたハーモニックミキサ形高速パルス変調回路」、川上憲司他、電子情報通信学会技術研究報告、電子デバイス、Vol.104、No.549、pp.7-11,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のようなスイッチング制御では、製造上のバラツキに加えて、温度・湿度等の環境条件による性能の変化も考慮する必要がある。そのため、ベースバンドインパルス信号が供給される期間に対し、その前後に時間的なマージンをとって搬送波の供給時間をさらに長くする必要がある。また、ベースバンドインパルス信号が供給される時間が極端に短くなった場合(たとえば数ナノ秒以下)、搬送波の供給を制御するスイッチの動作速度の限界から、搬送波のみが供給される比率はさらに高くなる。その結果、受信側の受信感度が劣化するといった問題が生じる。
【0012】
パルス信号をレーダの放射源として利用する場合、最大探知距離といった性能は、パルス信号の尖頭値によって支配的に決定される。一方、各国の電波利用条件に適合させるために、周波数スペクトラムの上限値を許容範囲以下に収める必要がある。搬送波の供給を断続的に行わせる場合でも、キャリアリークの影響を受けてスペクトラムピークが増加する。そのため、キャリアリークが存在しない場合と比較してスペクトラムピークが増加した分だけ、ベースバンドインパルス信号の尖頭値自体を低減する必要があり、レーダ性能の劣化につながるといった問題があった。
【0013】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、キャリアリークによる周波数スペクトラムのピーク値の増大を大幅に低減したパルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のパルス発生装置の第1の態様は、インパルスを出力するパルス信号生成部と、高周波の搬送波を出力する高周波源と、前記インパルスと前記搬送波とを入力し、前記搬送波を前記インパルスで変調した無線周波数信号を出力するミキサと、前記パルス信号生成部から前記インパルスが出力される期間(以下ではパルス出力期間という)を含む所定の期間(以下ではスイッチ閉期間という)だけ前記高周波源から前記ミキサに前記搬送波を入力させそれ以外の期間は前記搬送波を遮断するスイッチと、を備え、前記インパルスは、双極性パルスであることを特徴とする。
【0015】
本発明のパルス発生装置の他の態様は、前記搬送波の周波数スペクトラムが極大となる周波数と、前記無線周波数信号の周波数スペクトラムが極大となる周波数とが一致しないように前記スイッチ閉期間が制御されていることを特徴とする。
【0016】
本発明のパルス発生装置の他の態様は、前記スイッチ閉期間は、前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算した長さであることを特徴とする。
【0017】
本発明のパルス発生装置の他の態様は、前記スイッチ閉期間は、前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算し、さらに自然数を乗算した長さであることを特徴とする。
【0018】
本発明のパルス発生方法の第1の態様は、インパルスを生成するステップと、前記インパルスによって変調される搬送波を生成するステップと、前記インパルスが出力されるパルス出力期間を含む所定のスイッチ閉期間だけ搬送波を出力するステップと、前記搬送波を前記インパルスで変調した無線周波数信号を出力するステップと、を有するパルス発生方法であって、前記インパルスは、双極性パルスであることを特徴とする。
【0019】
本発明のパルス発生方法の他の態様は、前記無線周波数信号の周波数スペクトラムが極大となる周波数とが一致しないように前記スイッチ閉期間を制御することを特徴とする。
【0020】
本発明のパルス発生方法の他の態様は、前記スイッチ閉期間が前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算した長さとなるように前記スイッチを制御することを特徴とする。
【0021】
本発明のパルス発生方法の他の態様は、前記スイッチ閉期間が前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算し、さらに自然数を乗算した長さとなるように前記スイッチを制御することを特徴とする。
【0022】
本発明のレーダ装置の第1の態様は、上記態様のいずれかに記載のパルス発生装置を含む送信部と、前記パルス発生装置で生成された無線周波数信号を送信する送信用アンテナと、前記無線周波数信号の反射波を受信して受信波を出力する受信用アンテナと、前記受信波に所定の処理を行い受信信号を出力する受信部と、を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記受信部は、前記受信波を所定の復調用高周波で復調させて復調信号を出力する受信用ミキサと、前記復調信号を検波して受信信号を出力する検波部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記受信波の周波数を2倍に逓倍する第1の逓倍器と、前記パルス発生装置から搬送波を入力して周波数を2倍に逓倍して前記復調用高周波として出力する第2の逓倍器とをさらに備えることを特徴とする。
【0025】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記復調用高周波として前記パルス発生装置から無線周波数信号を入力し、前記復調信号に対しスライディング相関の処理を行って単極性の検出信号を前記検波部に出力するスライディング相関器をさらに備えることを特徴とする。
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ベースバンドインパルス信号として双極性インパルスを用いることで、キャリアリークによる周波数スペクトラムのピーク値の増大を大幅に抑制したパルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の好ましい実施の形態におけるパルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0028】
はじめに、単極性のベースバンドインパルスをアップコンバートしてインパルス状のRF信号を生成する方法において、キャリアリークが周波数スペクトラムに与える影響を図3および図4を用いて説明する。ミキサの性能上、RF信号に対してキャリアリークを抑制できるレベルは、10〜20dB程度である。図3、図4では、キャリアリークが20dBまで抑制されているものとしている。キャリアリークをさらに抑制する手段が設けられていない場合には、図3(a)に例示するように、ミキサから出力されるRF信号の周波数スペクトラムにおいて、搬送波の周波数位置に高いピーク(符号11)が出現する。同図では、キャリアリークがない理想的な状態の周波数スペクトラムも、図3(b)に符号12で併せて示している。
【0029】
このように、キャリアリークをさらに抑制する手段が用いられない場合には、周波数スペクトラムにキャリアリークによる高いピークが出現するため、これを所定の許容範囲以下に抑えるにはベースバンドインパルス信号の尖頭値自体を低減しなければならなくなる。
【0030】
これに対し、搬送波がミキサに供給される期間を、スイッチ等を用いてベースバンドインパルス信号が供給されている期間を含む断続的な期間に限定した場合には、図4に例示するように、周波数スペクトラムの搬送波の周波数位置に見られた高いピークが抑制される(符号13)。ここでは、搬送波がミキサに供給される期間を、ベースバンドインパルス信号が供給される期間の2倍としている。しかし、この場合でも、図4の符号14で示すキャリアリークがない理想的な状態と比較すると、周波数スペクトラムのピーク値は1.6dB程度増大している。
【0031】
本発明の実施の形態に係るパルス発生方法およびパルス発生装置を、図1を用いて以下に説明する。本実施形態のパルス発生装置100は、インパルス信号101を出力するパルス信号生成部110と、所定の周波数のローカル信号102を出力する高周波源120と、インパルス信号101とローカル信号102とを乗算するミキサ130と、高周波源120からミキサ130に出力されるローカル信号102を遮断するためのスイッチ140およびこれを制御するスイッチ制御部150とを備えている。
【0032】
ミキサ130は、パルス信号生成部110からのインパルス信号101を入力するためのパルス信号入力端131(以下ではIF端とする)と、高周波源120から出力されるローカル信号の搬送波102を入力するためのローカル信号入力端132(以下ではLO端とする)と、ミキサ130で乗算された出力信号103を出力するための無線周波数出力端133(以下ではRF端とする)とを有している。
【0033】
スイッチ140は、インパルス信号生成部110からインパルス信号101が出力されていない期間、ミキサ130のRF端133から搬送波102のみが漏出する(キャリアリーク)のを防止するために、高周波源120からミキサ130に出力されている搬送波102を遮断するために設けられている。すなわち、スイッチ140は、少なくともパルス信号生成部110からインパルス信号101が出力されている期間は閉状態に制御され、インパルス信号101が出力されていない期間はできるだけ開状態となるように制御されている。スイッチ制御部150は、インパルス信号101が出力される前後のタイミング情報をパルス信号生成部110から入力し、これをもとにスイッチ140の開閉制御を行っている。
【0034】
本実施形態のパルス発生装置100およびパルス発生方法では、パルス信号生成部110において図2(a)に示すような双極性パルスを発生させ、これをベースバンドインパルス信号101として出力している。また、スイッチ制御部150では、パルス信号生成部110から双極性パルス101が出力される期間を含む所定の期間だけスイッチ140を閉状態に制御するために、図2(b)に示すような制御信号104をスイッチ140に出力している。本実施形態では、スイッチ140を閉状態にする時間幅(以下ではスイッチ閉時間幅という)を、双極性パルス101が出力される時間幅(以下ではパルス出力時間幅という)の所定倍数(以下では、搬送波供給時間倍数という)としている。搬送波供給時間倍数には、1より大きい値を設定する。パルス信号生成部110から出力される双極性パルス101の波数が増えると、それに比例してパルス出力時間幅が長くなり、さらにスイッチ閉時間幅も長くなる。
【0035】
本実施形態のパルス発生方法で用いる双極性パルスは、直流付近の周波数成分がヌルになっているのが特徴である。そして、双極性インパルス101の中心周波数で搬送波102を変調することで、出力信号103の周波数スペクトラムにおいて、搬送波102の周波数位置にスペクトラムピークが出現しないようにしている。
【0036】
また、上記の搬送波供給時間倍数を、出力信号103である高周波インパルスに対し、その周波数スペクトラム劣化量ができるだけ小さくなるように決定している。ここで、周波数スペクトラム劣化量は、キャリアリークがないとしたときの出力信号103である高周波インパルスの周波数スペクトラムピーク値に対する、キャリアリークを有するときの出力信号103の周波数スペクトラムピーク値の割合(dB)で示すものとする。
【0037】
本実施形態では、スイッチ140を間欠的に閉状態にすることで搬送波102を間欠的にミキサ130に出力させるようにしたことから、搬送波102の周波数スペクトラムが拡がって周期的なスペクトラムピークが発生している。上記の搬送波供給時間倍数は、双極性インパルス101のスペクトラムピークが存在する周波数と、搬送波102の周波数スペクトラムピークが存在する周波数とが一致しないように決定するのがよい。
【0038】
一例として、搬送波供給時間倍数を2、すなわち、スイッチ閉時間幅をパルス出力時間幅の2倍としたときの出力信号103の周波数スペクトラムを図5に示す。但し、以下では、ミキサ130からのキャリアリークが、出力信号103に対し20dBまで抑制されているものとする。同図において、キャリアリークを含む出力信号103の周波数スペクトラムを符号21で示し、キャリアリークがないとしたとき(理想的状態)の出力信号103(高周波インパルス)の周波数スペクトラムを符号22で示している。本実施例では、出力信号103の周波数スペクトラムのピーク(図5に示されるスペクトラムの26GHz付近と27GHz付近)において、キャリアリークによるスペクトラム増加は0.5dB程度である。
【0039】
ミキサのキャリアリーク、およびスイッチの開閉制御を上記図5の条件と同じにし、ベースバンドインパルスに単極性インパルスを用いたときの周波数スペクトラムを図4に示したが、キャリアリークによるスペクトラム増加が、単極性インパルスを用いたときには略1.6dBであったのに対し、本実施形態の双極性インパルスを用いた場合には略0.5dBまで低減されている。これにより、双極性インパルスを用いることで、キャリアリークによるスペクトラムピークへの影響を大幅に低減できることが確認できる。
【0040】
本実施形態のパルス発生方法において、出力信号103である高周波インパルスの周波数スペクトラム劣化量ができるだけ低減されるように、上記の搬送波供給時間倍数を決定する方法を以下に説明する。搬送波供給時間倍数を変化させたときの、周波数スペクトラム劣化量の変化を図6に示す。同図に示すように、周波数スペクトラム劣化量は、搬送波供給時間倍数に対しほぼ一定の周期で変化している。そして、搬送波供給時間倍数を1.35程度にしたときに、周波数スペクトラム劣化量が最も小さくなることが分かる。
【0041】
また、搬送波供給時間倍数を略1.35の自然数倍にしたときに、周波数スペクトラム劣化量が極小となっている。したがって、搬送波供給時間倍数を略1.35にするのが望ましく、パルス出力時間幅が特に短いために搬送波102の供給時間を短くできない場合には、搬送波供給時間倍数を略1.35の自然数倍にするのがよい。これにより、周波数スペクトラム劣化量をできるだけ抑制することができる。
【0042】
図6に示した周波数スペクトラム劣化量は、搬送波供給時間倍数に対してほぼ一定の周期で極小になるとともに、ほぼ同じ周期で極大になっている。例えば、搬送波供給時間倍数を2.1倍としたときには、周波数スペクトラム劣化量がほぼ極大となっている。搬送波供給時間倍数を2.1としたときの出力信号103の周波数スペクトラムを図7に示す。同図では、キャリアリークを有するときの出力信号103の周波数スペクトラムを符号31で示し、キャリアリークがないとしたときの高周波インパルス103の周波数スペクトラムを符号32で示している。同図では、さらにミキサ130のLO端132に入力される搬送波102の周波数スペクトラムを併せて示している(符号33)。
【0043】
同図に示す搬送波102の周波数スペクトラム33は、搬送波供給時間倍数に相当する時間幅だけスイッチ140を周期的に閉状態にすることにより、搬送波102の周波数スペクトラムが拡がって周期的なスペクトラムピークが発生することを示している。その結果、26.2GHz付近で、出力信号103のスペクトラムピークと搬送波102のスペクトラムピークとがほぼ一致するため、周波数スペクトラム劣化量が増大していることが確認できる。
【0044】
上記では、ミキサ130からのキャリアリークが、RF端133からの出力信号103に対し20dBまで低減されているものとして説明したが、キャリアリークの低減割合が異なるときの影響について、図8を用いて説明する。図8は、図6と同様に、搬送波供給時間倍数を変化させたときの周波数スペクトラム劣化量の変化を示しており、キャリアリークの低減割合を10dB、14dB、16dB、19dB、20dB、24dB、24dB、30dBとしたときの周波数スペクトラム劣化量の変化を、それぞれ符号41〜47で示している。
【0045】
図8において、キャリアリークが最も小さい30dBのとき(符号37)に周波数スペクトラム劣化量が最も小さく、キャリアリークが大きくなるにつれて周波数スペクトラム劣化量も大きくなっている。また、それぞれのキャリアリークにおいて周波数スペクトラム劣化量が極小となるときの搬送波供給時間倍数は、キャリアリークが大きくなるにつれて若干大きくなる傾向がみられるものの、ほぼ1.3〜1.5の範囲、およびその自然数倍となっている。これより、ミキサ130のキャリアリークの大きさによらず、搬送波供給時間倍数を略1.3〜1.5の範囲、あるいはその自然数倍に設定するのが好適である。
【0046】
次に、本発明のパルス発生装置を用いた本発明のレーダ装置の第1の実施形態について、図9を用いて説明する。本実施形態のレーダ装置200は、送信部210と受信部220とから構成されている。送信部210は、パルス発生装置100と、これから出力される出力信号103を増幅する増幅器211と、増幅器211で増幅された信号を送信波として送信する送信用アンテナ212とを備えている。
【0047】
また、受信部220は、受信用アンテナ221と、受信用アンテナ221で受信された信号を所定のレベルまで増幅する低雑音増幅器(LNA)222と、低雑音増幅器222で増幅された信号からベースバンドインパルスを復調させるためのミキサ223と、ミキサ223から出力される信号を処理する受信回路224とを備えている。ミキサ223は、低雑音増幅器222からRF端223cに入力された受信信号を、高周波源120からLO端223bに入力されたローカル信号102で復調し、これをIF端子223aから受信回路224に出力する。受信回路224は、A/Dコンバータを含んで構成されており、受信信号をディジタル信号に変換して次の処理工程に出力する。
【0048】
送信用アンテナ212から送信された送信波は、対象物で反射されて受信用アンテナ221で受信されると、低雑音増幅器222で所望のS/Nを確保するレベルまで増幅され、これをミキサ223で復調された後、所定の方法で検波される。一般に、パルスを用いたレーダ装置では、信号源となるパルスを送信してから受信されるまでの時間差を計測し、この時間差をもとに対象物までの距離を算出する方法が採られている。従来のレーダ装置では、信号源として単極性パルスを用いていることから、受信信号が極大(ピーク)となる時刻を検出し、この時刻と送信波を送信した時刻との差を算出すればよい。
【0049】
これに対し、信号源として双極性パルス101を用いた本実施形態のレーダ装置200では、受信信号も双極性パルスとなり、受信回路224にて適切な処理をおこなう必要がある。その一例を以下に説明する。
【0050】
本発明のレーダ装置の第2の実施形態について、図10を用いて説明する。本実施形態のレーダ装置では、受信回路224の内部に包絡線検出部231を備える構成としている。包絡線検出部231は、図10に示すように、受信信号の搬送波位相によらずその大きさ(包絡線)を検出することから、包絡線検出部231からの出力信号は単極性の信号となる。これにより、受信回路224は、従来の単極性パルスレーダと同様に、包絡線検出部231から入力した信号のピークをピーク検出部232で検出すればよい。なお、包絡線検出部231に代えて自乗検波の手段を用いることもでき、この場合も同様の単極性の信号を得ることができる。
【0051】
本発明のレーダ装置の第3の実施形態について、図11を用いて説明する。本実施形態のレーダ装置300は、低雑音増幅器222とミキサ223との間に逓倍器310を追加している。本実施形態では、低雑音増幅器222で増幅された受信信号の周波数を逓倍器310で2倍に逓倍することで、送信信号の双極性パルスを単極性パルスに変換している。
【0052】
受信信号を逓倍するのに伴って、ミキサ223で受信信号を復調させるためのローカル信号102に対しても、ミキサ223に入力する前に逓倍器320で周波数を2倍に逓倍している。ともに2倍に逓倍された受信信号およびローカル信号をミキサ223に入力することで、ミキサ223のIF端223aからは単極化されたパルス信号が出力される。したがって、本実施形態においても、受信回路224でミキサ223のIF端223aから入力した信号のピークを検出すればよい。
【0053】
本発明のレーダ装置の第4の実施形態について、図12を用いて説明する。本実施形態のレーダ装置400では、送信部210において、パルス発生装置100からの出力信号103の出力先を、増幅器211とミキサ223のLO端223bに切り替える、スイッチ410を追加している。スイッチ410により、パルス発生装置100と増幅器211を接続し、出力信号103を増幅器211に入力する時刻から、スイッチ410を切り替えて、パルス発生装置100とミキサ223のLO端223bを接続し、出力信号103をミキサ223のLO端223bに入力する時刻までの間隔を順次変更する。
【0054】
本実施形態では、低雑音増幅器222で増幅された受信信号をタイミングが順次変更される出力信号103で復調することで、スライディング相関処理を行う。ミキサ223のIF端223aから出力される相関値は、同期検出された時点にのみ単極性の信号が得られる。したがって、本実施形態においても、受信回路225でミキサのIF端223aから入力した信号のピークを検出すればよい。本実施形態では、スライディング相関の処理回数、処理時間が、レーダ装置400の処理時間に影響する。
【0055】
上記説明のとおり、本発明のパルス発生方法およびパルス発生装置によれば、キャリアリークによる周波数スペクトラムのピーク値の増大を大幅に抑制することができる。また、本発明のレーダ装置では、レーダの放射源として本発明のパルス発生装置を備えることで、パルス信号の尖頭値を低下させる必要がなくなり、最大探知距離を向上させてレーダ装置の性能を高めることができる。
【0056】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るパルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるパルス発生方法、パルス発生装置およびレーダ装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るパルス発生装置のブロック図である。
【図2】双極性パルスおよびスイッチ制御信号の一例を示す図である。
【図3】キャリアリークが単極性パルスの周波数スペクトラムに与える影響を示す図であり、(a)はキャリアリークの影響を受けている状態の周波数スペクトラム、(b)はキャリアリークがない理想的な状態の周波数スペクトラムである。
【図4】断続的に供給される搬送波のキャリアリークが単極性パルスの周波数スペクトラムに与える影響を示す図である。
【図5】搬送波供給時間倍数を2としたときの出力信号の周波数スペクトラムを示す図である。
【図6】搬送波供給時間倍数を変化させたときの周波数スペクトラム劣化量の変化を示す図である。
【図7】搬送波供給時間倍数を2.1としたときの出力信号の周波数スペクトラムを示す図である。
【図8】搬送波供給時間倍数を変化させたときの周波数スペクトラム劣化量の変化を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置のブロック図である。
【図10】包絡線検出部における信号処理を説明する図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置のブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置のブロック図である。
【図13】従来のパルス発生方法を説明するブロック図である。
【符号の説明】
【0058】
100 パルス発生装置
101 双極性パルス
102 ローカル信号
103 出力信号
110 パルス信号生成部
120 高周波源
130 ミキサ
131 IF端
132 LO端
133 RF端
140 スイッチ
150 スイッチ制御部
200、300、400 レーダ装置
210 送信部
220 受信部
211 増幅器
212 送信用アンテナ
221 受信用アンテナ
222 低雑音増幅器
223 ミキサ
224 受信回路
231 包絡線検出部
232 ピーク検出部
310、320 逓倍器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インパルスを出力するパルス信号生成部と、
高周波の搬送波を出力する高周波源と、
前記インパルスと前記搬送波とを入力し、前記搬送波を前記インパルスで変調した無線周波数信号を出力するミキサと、
前記パルス信号生成部から前記インパルスが出力される期間(以下ではパルス出力期間という)を含む所定の期間(以下ではスイッチ閉期間という)だけ前記高周波源から前記ミキサに前記搬送波を入力させそれ以外の期間は前記搬送波を遮断するスイッチと、を備え、
前記インパルスは、双極性パルスである
ことを特徴とするパルス発生装置。
【請求項2】
前記搬送波の周波数スペクトラムが極大となる周波数と、前記無線周波数信号の周波数スペクトラムが極大となる周波数とが一致しないように前記スイッチ閉期間が制御されている
ことを特徴とする請求項1に記載のパルス発生装置。
【請求項3】
前記スイッチ閉期間は、前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算した長さである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパルス発生装置。
【請求項4】
前記スイッチ閉期間は、前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算し、さらに自然数を乗算した長さである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパルス発生装置。
【請求項5】
インパルスを生成するステップと、前記インパルスによって変調される搬送波を生成するステップと、前記インパルスが出力されるパルス出力期間を含む所定のスイッチ閉期間だけ搬送波を出力するステップと、前記搬送波を前記インパルスで変調した無線周波数信号を出力するステップと、を有するパルス発生方法であって、
前記インパルスは、双極性パルスである
ことを特徴とするパルス発生方法。
【請求項6】
前記搬送波の周波数スペクトラムが極大となる周波数と、前記無線周波数信号の周波数スペクトラムが極大となる周波数とが一致しないように前記スイッチ閉期間を制御する
ことを特徴とする請求項5に記載のパルス発生方法。
【請求項7】
前記スイッチ閉期間が前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算した長さとなるように前記スイッチを制御する
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のパルス発生方法。
【請求項8】
前記スイッチ閉期間が前記パルス出力期間に1.3から1.5の範囲の倍数を乗算し、さらに自然数を乗算した長さとなるように前記スイッチを制御する
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のパルス発生方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のパルス発生装置を含む送信部と、
前記パルス発生装置で生成された無線周波数信号を送信する送信用アンテナと、
前記無線周波数信号の反射波を受信して受信波を出力する受信用アンテナと、
前記受信波に所定の処理を行い受信信号を出力する受信部と、を備える
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
前記受信部は、前記受信波を所定の復調用高周波で復調させて復調信号を出力する受信用ミキサと、
前記復調信号を検波して受信信号を出力する検波部と、を備える
ことを特徴とする請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記受信波の周波数を2倍に逓倍する第1の逓倍器と、
前記パルス発生装置から搬送波を入力して周波数を2倍に逓倍して前記復調用高周波として出力する第2の逓倍器とをさらに備える
ことを特徴とする請求項9または請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記復調用高周波として前記パルス発生装置から無線周波数信号を入力し、
前記復調信号に対しスライディング相関の処理を行って単極性の検出信号を前記検波部に出力するスライディング相関器をさらに備える
ことを特徴とする請求項9または請求項10に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−222457(P2009−222457A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65095(P2008−65095)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】