説明

パルス電子ビーム発生装置

【課題】低コストのパルス電子ビーム発生装置を提供する。
【解決手段】パルス電圧が印加される一次コイル、及び、この一次コイルとコアを共有する二次コイルを備え、樹脂モールドされ、大気側に設置された高圧パルス電圧発生部と、前記高圧パルス電圧発生部の前記二次コイルに電気的に接続されたエミッターと、前記エミッターから電子ビームを引き出すアノードと、前記エミッターと前記アノードとの間に位置し、前記エミッターに電気的に接続されるとともに前記エミッターから引き出した電子ビームを収束するウエネルトと、前記エミッター、前記ウエネルト、及び、前記アノードを真空状態の内部に収容する真空容器と、を備えたことを特徴とするパルス電子ビーム発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中あるいは大気中にパルス電子ビームを放出可能な電界放射型のパルス電子ビーム発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷陰極の表面に発生させた電界により、冷陰極から電子を放出される技術においては、冷陰極に対して大きな電圧を印加する必要がある。このため、高圧フローティング絶縁トランスや高圧ケーブルなど高価な部品が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−210162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、低コストのパルス電子ビーム発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
パルス電圧が印加される一次コイル、及び、この一次コイルとコアを共有する二次コイルを備え、樹脂モールドされ、大気側に設置された高圧パルス電圧発生部と、前記高圧パルス電圧発生部の前記二次コイルに電気的に接続されたエミッターと、前記エミッターから電子ビームを引き出すアノードと、前記エミッターと前記アノードとの間に位置し、前記エミッターに電気的に接続されるとともに前記エミッターから引き出した電子ビームを収束するウエネルトと、前記エミッター、前記ウエネルト、及び、前記アノードを真空状態の内部に収容する真空容器と、を備えたことを特徴とするパルス電子ビーム発生装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低コストのパルス電子ビーム発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置の主要部を概略的に示す図である。
【図2】図2は、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置に適用可能なオプション例を説明するための概略断面図である。
【図3】図3は、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置におけるエミッターに印加される電圧の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置1の主要部を概略的に示す図である。
【0010】
すなわち、パルス電子ビーム発生装置1は、高圧パルス電圧発生部10と、電子銃構成部20と、を備えている。
【0011】
高圧パルス電圧発生部10は、パルス電圧が印加される一次コイル11と、高電圧を発生する二次コイル12とを備え、樹脂モールドされている。このような一次コイル11及び二次コイル12は、コア(磁心)13を共有している。つまり、一次コイル11及び二次コイル12は、ドーナツ状に形成されたコア13にそれぞれ巻き付けられている。一次コイル11を含む回路と二次コイル12を含む回路とは、相互インダクタンスで結合されている。つまり、相互誘導により、一次コイル11に印加されたパルス電圧が二次コイル12によって昇圧される。
【0012】
このような高圧パルス電圧発生部10は、大気側に設置され、ケース14に収容されている。一次コイル11の両端は、ケース14の端子Tにそれぞれ接続されている。なお、一方の端子Tは、接地されている。これらの端子Tには、パルス電圧コントローラ30が接続されている。パルス電圧コントローラ30は、比較的低電圧のパルス電圧を発生する。
【0013】
一例として、一次コイル11と二次コイル12との巻数比が1:2000〜1:3000である場合、パルス電圧コントローラ30から一次コイル11に+15V程度のパルス電圧を印加すると、二次コイル12には、接地電位に対して−30kV乃至−60kVもの高圧パルス電圧が発生する。
【0014】
電子銃構成部20は、エミッター21、ウエネルト22、アノード23、真空容器24などを備えている。
【0015】
エミッター21は、高圧パルス電圧発生部10の二次コイル12に電気的に接続されている。このエミッター21は、例えば、カーボンやタングステンなどの電子放出材料によって形成可能であるが、本実施形態においては、特に、カーボンによって形成されることが望ましい。カーボン製のエミッター21は、例えば、カーボン粉末とバインダーとを混合し、円柱形状に固め、高真空中にて2000℃以上の高温で焼成することによって製造可能である。
【0016】
このようなエミッター21は、エミッターホルダ25によって保持されている。エミッターホルダ25は、例えば、ステンレスなどの金属材料によって形成されている。このようなエミッターホルダ25は、絶縁碍子26の一端部に取り付けられている。この絶縁碍子26は、例えば、セラミックやガラスによって形成されている。
【0017】
ウエネルト22は、エミッター21とアノード23との間に位置している。このウエネルト22は、例えば、ステンレスなどの金属材料によって形成されている。また、このウエネルト22は、カップ状に形成され、その底部におけるエミッター21と同軸上の位置に電子ビーム通過孔22Hを有している。このようなウエネルト22は、エミッター21に電気的に接続されている。図示した例では、ウエネルト22は、ネジ止めなどの手法によりエミッターホルダ25に固定されている。つまり、ウエネルト22は、エミッター21と同電位となる。
【0018】
アノード23は、ウエネルト22に対向している。このアノード23は、板状に形成され、エミッター21と同軸上の位置に電子ビーム通過孔23Hを有している。このようなアノード23は、真空容器24に電気的に接続されている。図示した例では、アノード23は、溶接、ロウ付けなどの手法により真空容器24の内壁に固定されている。つまり、アノード23は、真空容器24と同電位となる。図示した例では、アノード23の先方にオリフィス27が固定されている。
【0019】
真空容器24は、例えば、ステンレスなどの金属材料によって形成されている。この真空容器24は、円筒状に形成されている。この真空容器24は、真空状態の内部に、エミッター21、ウエネルト22、アノード23、オリフィス27などを収容している。このような真空容器24は、接地されている。このため、アノード23も接地電位となる。
【0020】
絶縁碍子26は、真空容器24を貫通しており、真空容器24の内部から外部に亘って設置されている。エミッターホルダ25が取り付けられた絶縁碍子26の一端部は、真空容器24の内部(真空中)に位置している。真空容器24の外部(大気側)に位置する絶縁碍子26の他端部には、高圧パルス電圧発生部10を接続するためのジョイント部材28が取り付けられている。二次コイル12は、絶縁碍子26及びジョイント部材28の内部を貫通するリード線を介して、エミッター21と電気的に接続されている。
【0021】
なお、本実施形態での真空状態とは、10−1Pa以下の真空度、より望ましくは10−5Pa以下の真空度にある状態を言い、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)などの不活性ガスがわずかに含まれている状態も本実施形態の真空状態に相当するものとする。
【0022】
このような構成のパルス電子ビーム発生装置1において、パルス電圧コントローラ30から高圧パルス電圧発生部10の一次コイル11に対してパルス電圧が印加されると、二次コイル12に接続されたエミッター21には、昇圧された高圧パルス電圧が印加される。これにより、エミッター21内の自由電子に高エネルギーが印加され、エミッター表面の電子エネルギー障壁を透過した電子がパルス状の電子ビームとなってエミッター表面から真空中に放射される。このとき、アノード23はエミッター21から電子を引き出し、ウエネルト22は電子ビーム通過孔22Hの形状に応じて生じる収束電界(あるいは収束レンズ)により電子ビームを加速・収束する。
【0023】
このような本実施形態のパルス電子ビーム発生装置1によれば、エミッター21に高電圧を印加するための高圧パルス電圧発生部10を、パルス電圧が印加される一次コイル11、及び、この一次コイル11とコア13を共有し高圧パルス電圧を発生する二次コイル12を備えた構成としたことにより、高圧フローティング絶縁トランスが不要であり、しかも、一次コイル11に印加すべき電圧は比較的低電圧であるため、高圧ケーブルが不要となる。したがって、低コストのパルス電子ビーム発生装置1を提供することが可能となる。
【0024】
また、本実施形態によれば、高圧パルス電圧発生部10は、ジョイント部材28を介して電子銃構成部20にセットされるため、高圧ケーブルの引き回しが不要となり、コンパクトであり、しかも、安全性を向上することが可能となる。
【0025】
また、本実施形態によれば、高圧パルス電圧発生部10及び電子銃構成部20の双方ともに、構成がシンプルナイズされるため、部品点数を削減することができ、コスト面のみならず信頼性の面でも極めて有利である。
【0026】
また、本実施形態によれば、樹脂モールドされた高圧パルス電圧発生部10を絶縁碍子26の大気側に設置したため、真空中に設置した場合よりもモールド樹脂の揮発を抑制することが可能となる。したがって、真空中へのガスの発生や真空度の低下を抑制することが可能となる。
【0027】
図2は、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置1に適用可能なオプション例を説明するための概略断面図である。
【0028】
本実施形態のオプションとして、真空容器24の外側に、収束コイル40を設置しても良い。このような収束コイル40は、アノード23を通過した電子ビームを収束する収束レンズを形成する。このような収束コイル40を設けることにより、ビーム径が数十ミクロン以下であり且つ高輝度なパルス電子ビームを発生することが可能となる。
【0029】
また、真空容器24の外側に、偏向コイル50を設置しても良い。このような偏向コイル50は、アノード23を通過した電子ビームを偏向するための偏向磁界を形成する。このような偏向コイル50を設けることにより、パルス電子ビームを所望の照射エリアに向けて偏向することが可能となる。
【0030】
また、真空容器24の端面、つまり、アノード23に対向する出射側の端面に、チタン(Ti)薄膜60を設置しても良い。真空容器24内で発生したパルス電子ビームは、チタン薄膜60を透過し、大気中に放射される。例えば、チタン薄膜60の厚さが5μm程度である場合、75keVの加速電圧にて75%のパルス電子ビームが大気中に放射可能である。また、上記の収束コイル40や偏向コイル50を組み合わせることにより、大気中に放射されたパルス電子ビームを収束したり、所望の照射エリアに向けてパルス電子ビームを偏向したりすることも可能である。
【0031】
図3は、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置1におけるエミッターに印加される電圧の一例を示す図である。
【0032】
図示したように、高圧パルス電圧発生部10からエミッター21に印加される電圧は、接地電位(GND)に対して負極性(−)となるオン期間(ON)と、接地電位に対して正極性(+)となる期間を含むオフ期間(OFF)とを有していることが望ましい。図示した例では、オフ期間は、オン期間よりも長く設定されている。なお、オフ期間の間、常に接地電位に対して正極性となっていなくても良い。
【0033】
このようなパルス電圧がエミッター21に印加されることにより、電子銃構成部20からパルス電子ビームが出力される。
【0034】
本実施形態で説明したように、エミッター21がカーボンによって形成されている場合、このエミッター21に対して高圧パルス電圧発生部10から上記のようなパルス電圧を印加することにより、真空容器24内の残留ガス(陽イオンなど)がオン期間にエミッター21に付着したとしても、オフ期間に印加される正極性の電圧により付着した残留ガスがエミッター21から離脱する。つまり、外部にヒーターなどのフラッシング機構を必要とせず、自己脱ガス作用を実現することが可能となる。このため、エミッター21がカーボンによって形成されている場合には、エミッター21に対して直流電圧を印加するよりも、上記のようなパルス電圧を印加した方がより安定的な出力を得ることが可能となる。
【0035】
なお、エミッター21をタングステンで形成した場合には、脱ガスのためにヒーターなどで2000℃乃至2500℃程度の高温でフラッシングする必要があり、部品点数が増えてしまうし、メンテナンスに手間がかかる。これに対して、本実施形態で説明したように、エミッター21をカーボンで形成した場合には、上記のような自己脱ガス作用により、部品点数を増やしたりメンテナンスに時間を要したりすることなく、エミッター21への残留ガスの付着を抑制し、安定した出力を得ることが可能となる。
【0036】
また、エミッター21をタングステンで形成した場合には、真空容器24内を10−8Pa程度の真空度とする必要がある。これに対して、本実施形態で説明したように、エミッター21をカーボンで形成した場合には、真空容器24内の真空度が10−4Pa程度であっても安定した十分な出力を得ることが可能である。
【0037】
本実施形態のパルス電子ビーム発生装置1は、安定したパルス電子ビームを放射することが可能であるため、RHEED(反射高エネルギー電子回折)などの表面構造分析の電子ビーム源として適用した際に、分析対象物へのダメージを小さく抑えることが可能である。また、本実施形態のパルス電子ビーム発生装置1は、オプションとして説明したチタン薄膜60を適用することにより、大気中に電子ビームを放射することが可能となり、滅菌装置として利用することも可能である。
【0038】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1…パルス電子ビーム発生装置
10…高圧パルス電圧発生部
11…一次コイル 12…二次コイル 13…コア
20…電子銃構成部
21…エミッター 22…ウエネルト 23…アノード 24…真空容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電圧が印加される一次コイル、及び、この一次コイルとコアを共有する二次コイルを備え、樹脂モールドされ、大気側に設置された高圧パルス電圧発生部と、
前記高圧パルス電圧発生部の前記二次コイルに電気的に接続されたエミッターと、
前記エミッターから電子ビームを引き出すアノードと、
前記エミッターと前記アノードとの間に位置し、前記エミッターに電気的に接続されるとともに前記エミッターから引き出した電子ビームを収束するウエネルトと、
前記エミッター、前記ウエネルト、及び、前記アノードを真空状態の内部に収容する真空容器と、
を備えたことを特徴とするパルス電子ビーム発生装置。
【請求項2】
前記エミッターは、カーボンによって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のパルス電子ビーム発生装置。
【請求項3】
前記高圧パルス電圧発生部から前記エミッターに印加される電圧は、接地電位に対して負極性となるオン期間と、接地電位に対して正極性となる期間を含むオフ期間とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のパルス電子ビーム発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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