説明

パルプの製造方法

【課題】クラフト法との比較で、硫化ソーダ及び高温・高圧条件を用いずに高収率でパルプを製造し、リグニンを回収する。
【解決手段】木質チップを希苛性ソーダ水溶液を用いて常温で親水化処理し、希硝酸中でリグニンを選択的に部分酸化して変性し、希苛性ソーダ水溶液を用いて大気圧下で蒸解してパルプを製造する。分離される黒液からリグニンを凝集・分取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフト法との比較で、硫化ソーダ及び高温・高圧条件を用いずに高収率でパルプを製造し、リグニンを回収するようにしたパルプの製造方法に関する。
【0002】
更には、建築発生木材(木質建築の解体木屑・建築廃材、家具類)をパルプ原料として利用しようとするものである。
【背景技術】
【0003】
建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成12年5月31日法律第104号))の施行により、建設(解体)工事に伴って廃棄されるコンクリート塊、アスファルト・コンクリート塊、建設発生木材の分別リサイクルが求められている。
【0004】
また、気候変動枠組条約に基づき、1997年に京都議定書が議決されたが、地球温暖化の原因となる、温室効果ガスの一種である二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、HFCs、六フッ化硫黄について、先進国における削減率を1990年基準として各国別に定め、共同で約束期間内に目標を達成することになった。日本では、2002年5月31日に国会承認され、2004年6月4日に国際連合に受諾書を寄託している。
目標として、2008〜2012年の間に、日本マイナス6%、アメリカマイナス7%、EUマイナス8%といった削減率を設定している。
【0005】
本発明は、このような社会の要請に応えようとするものである。
【0006】
建設発生木材については、縮減(焼却)されるものも含めてリサイクル率の目標が95%に設定されており、木材チップに粉砕して、パーティクル用ボード、製紙原料、堆肥、マルチング、サーマルリサイクル(燃料)、ケミカルリサイクル等にリサイクルされているが、不適正堆積(不法投棄)もあり、それが自然発火して火災が発生したこともある。
家屋に使用されている材料は木材が最も多いが、修製材をはじめ板材は直行に張り合わせたもの、塗料、接着剤を使用したもの等、資材としてリサイクルが困難なものが多く、リサイクルの過半はサーマルリサイクル(燃料)である。
建設発生木材は、関東圏だけでも900万トン/年排出されているが、廃木材を縮減(焼却)、サーマルリサイクルではなく、製紙原料として用いれば、紙は2〜3回リサイクルされるので、木材を産出するのに必要な森林の2〜3倍の森林を温存することになり、酸素の供給、炭酸ガスの発生の抑制効果も2〜3倍となるのである。
【0007】
このように、建設発生木材は、製紙原料としてリサイクルすることが有利であるが、パルプの生産量の95%を占めるクラフト法においては、良質の木材チップを製紙原料としており、建築発生木材のごく一部しか用いられていないのが現状である。
【0008】
現在、世界でのパルプの95%は、木質チップを主原料として、クラフト法にて生産されている。この生産方法は、天然素材、主として森林から伐採された木材を砕いた木質チップに、水、苛性ソーダ、硫化ソーダを一定割合にて加え、6〜7気圧の容器内で平均160℃の温度で3時間以上蒸解(煮沸)させ、連続的に木質に含まれるセルロースの結合機能を持つリグニンをこの溶液中に溶解させ、セルロースとヘミセルロースを単離させることによりセルロースの塊であるパルプを生成させている。得られたパルプは通称フレッシュパルプと呼称されている。この方法は現在最もコストパフォーマンスの良いパルプの製造方法である。
【0009】
クラフト法の概要を図1に基づいて説明する。
チップは、ムラ炊きにならないように、また、均一な蒸解を行うため、チップの厚みと長さを一定範囲に揃えると共にチップのダストを除去される。
クラフト蒸解工程では、水、薬品(苛性ソーダ、硫化ソーダ)を一定割合にて加え、160℃、6気圧前後で3時間以上蒸解(煮沸)させ、リグニンを溶解させる。
続く洗浄工程では、薬品(苛性ソーダ、硫化ソーダ)で溶かし出されたリグニンや薬品(黒液)をパルプから分離した後、パルプを水で洗浄する。
脱リグニン工程では、パルプに残っているリグニンを酸素とアルカリで更に溶かし出す。
精選工程では、パルプに含まれるゴミなどの異物を分離して除去する。
漂白工程では、塩素、二酸化塩素、酸素、苛性ソーダ、次亜塩素酸ソーダ等の薬品を使ってパルプを漂白する。
そして、黒液は、濃縮されて、プロセス内で燃料として使用され、炭酸ソーダとして回収される。
【0010】
更に、クラフト法関連の特許文献を挙げる。
【特許文献1】特開2006−274500号公報特許文献1には、緑液を苛性化することが記載されている。
【特許文献2】特開2001−172888号公報特許文献2には、パルプの漂白について記載されている。
【特許文献3】特開平11−286884号公報特許文献3には、PA法(過酸化水素−アルカリ法)が記載され、パルプの蒸解に過酸化水素と苛性アルカリと少量の蒸解助剤を用いており、過酸化水素が脱リグニン作用を示すとされている。
【特許文献4】特開平8−188976号公報 特許文献4には、化学パルプをオゾン漂白する際に界面活性剤とキレート剤を添加することが記載されている。
【特許文献5】特表平8−502556号公報 特許文献5には、過マンガン価に対して高粘度を有するパルプをオゾン漂白することが記載されている。
【0011】
クラフト法は、上質の紙が製造できる利点があるが、次のような問題点がある。
(1)天然素材である森林を伐採することにより得られる木質チップを利用しており、旺盛な需要をまかなうには、多くの森林破壊を惹起しており、環境問題に課題がある。
(2)木質からリグニンを短時間に溶出せしめるため、160℃、6気圧前後の蒸解に使用可能な圧力容器を必要とし、装置が大型化し高価であり、ランニングコストとエネルギー消費が大きい。
(3)高温高圧下でリグニンの溶解を行うので、ヘミセルロース、セルロースの一部が溶出し、収率が50%程度と悪い。
(4)蒸解液に硫化ソーダが含まれるため、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化ジメチル、二硫化ジメチルが発生し、悪臭公害に注意が必要である。
(5)良質な水を大量に使用するため、水源の確保と排水処理にコストがかかる。
(6)パルプの収率が50%前後であるから、木材の50%前後がリグニンとして黒液中に分離され、濃縮・焼却により多量の炭酸ガスが発生する。
(説明)リグニンもセルロースと同様に炭水化物であるから、リグニン中の炭素は、C(12)/CH2O(30)=0.4の割合で含まれる。1トンのパルプの製造には1トンのリグニンが生ずるから、リグニンの焼却により0.4トンの炭素が二酸化炭素になる。
C:CO2=12:44であるから1トンのリグニン(0.4トンの炭素)では、0.4×44/12=1.47トンの二酸化炭素が発生する。
(7)以上のように、この方式は、専ら良質の木質チップを用いて良質のパルプを製造するものであり、建設発生木材をパルプ化するものではないし、炭酸ガスが多量発生するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、建設発生木材をも用いず、圧力容器を必要とせず、収率が高く、硫化物のような公害源を用いず、水の使用量が少なく、リグニンを燃料に用いないパルプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決する新規な発明であり、下記構成のパルプの製造方法である。
(1)木質チップを希苛性ソーダ水溶液に浸漬して親水化する親水化処理工程と、
次いで前記工程で得られた親水化処理済み木質チップに水又は温水を加えてアルカリ分を除去する第1洗浄処理工程と、
前記第一洗浄処理工程を施して得られた第1洗浄処理済み木質チップに希硝酸を加えて常温又は加温下において酸化処理して木質チップに含まれるリグニンを選択的に部分酸化する酸化処理工程と、
前記酸化処理工程で得られた酸化処理済み木質チップに水又は温水を加えて希硝酸分を除去する第2洗浄工程と、
前記第2洗浄工程で得られた第2洗浄処理済み木質チップに希苛性ソーダ水溶液を加え加温して前記木質チップを蒸解する蒸解処理工程と、
前記蒸解処理工程で得られた蒸解処理済み物を濾別して蒸解パルプとリグニンを含有する黒液とに分離する蒸解パルプ・黒液分離処理工程とからなることを特徴とするパルプの製造方法。
(2)木質チップ1重量部を、1〜10重量%濃度の苛性ソーダ水溶液5〜20重量部に15〜40℃で10〜60時間浸漬して親水化する親水化処理工程と、
次いで前記工程で得られた親水化処理済み木質チップに水又は温水を加えてアルカリ分を除去する第1洗浄処理工程と、
前記第1洗浄処理工程を施して得られた第1洗浄処理済み木質チップ1重量部に、1〜10重量%濃度の硝酸水溶液3〜15重量部を加えて、80〜98℃で40〜120分間酸化処理して木質チップに含まれるリグニンを選択的に部分酸化する酸化処理工程と、
前記酸化処理工程で得られた酸化処理済み木質チップに水又は温水を加えて希硝酸分を除去する第2洗浄工程と、
前記第2洗浄工程で得られた第2洗浄処理済み木質チップ1重量部に、1〜20重量%濃度の苛性ソーダ水溶液5〜20重量部を加え常圧下又は加圧下において95〜100℃で30〜120分間加熱して前記木質チップを蒸解する蒸解処理工程と、
前記蒸解処理工程で得られた蒸解処理済み物を濾別して蒸解パルプとリグニンを含有する黒液とに分離する蒸解パルプ・黒液分離処理工程とからなることを特徴とするパルプの製造方法。
【0014】
(3)親水化処理工程、酸化処理工程、又は蒸解処理工程のいずれか1又は2以上が低加圧下(例えば1〜2気圧)で実施されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のパルプの製造方法。
(4)蒸解処理工程を、第1段階の蒸解処理工程と第2段階の蒸解処理工程に分割して実施し、第1段階の蒸解処理工程では第2段階の蒸解処理工程におけるよりも濃度の低い苛性ソーダ水溶液を使用することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のパルプの製造方法。
(5)酸化処理工程を施した後、更に熱水を追加導入して硝酸の酸化反応速度を速めて、硝酸が全て費消されるようにすることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のパルプの製造方法。
(6)木質チップが、森林を伐採することにより得られる木材、間伐材又は建設発生木材から選択される1種又は2種以上の木材であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のパルプの製造方法。
(7)リグニンを含有する黒液からリグニンを凝集させて分取することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項にパルプの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したとおり、本発明では、建設発生木材をも用い得、圧力容器を必要とせず、収率が高く、硫化物のような公害源を用いず、水の使用量が少なく、リグニンを燃料に用いないパルプの製造方法を提供することが可能となる効果は格別なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
クラフト法の蒸解工程では、高濃度の苛性ソーダ水溶液を用い硫化ソーダを添加しているが、高温・高圧のアルカリでリグニンを低分子化し、硫化ソーダでリグニンが再結合により高分子化するのを防止している。苛性ソーダ水溶液は、リグニンを溶解すると共に、有機酸の中和、樹脂分の鹸化に消費されるものである。
そこで、本発明では、蒸解工程以前に強い酸化剤である希硝酸水溶液を用いてリグニンを選択的に低分子化し、蒸解工程においては、希苛性ソーダ水溶液を採用して大気圧で沸騰点以下の穏かな条件下で蒸解を行い、リグニンのそれ以上の低分子化を避けつつリグニンを溶出し、黒液からのリグニンの凝縮・分離を容易にするものである。
【0017】
以下、図2の本発明のフローチャートの概略図に基づいて説明する。
チップとして、森林から伐採された木材を砕いた木質チップ類、建設発生木材(木質建築の解体木屑、建築廃材、廃合板類、CCA材等)等を破砕して、夾雑物(金具、釘、セメント、張り合わせた物等)を分離したものを用いる。
チップの大きさは、原料により異なるが、薬液処理に適合する範囲(数mm〜十数mm)である。
親水化処理工程では、破砕されたチップを希苛性ソーダ水溶液(好ましくは1〜10重量%濃度、より好ましくは1〜5重量%濃度)に常温(好ましくは15〜45℃)、大気圧下、数十時間(好ましくは10〜50時間)液浸する。
木質の繊維中にある内腔に低濃度の苛性ソーダ水溶液が浸透するので、木質繊維が水酸イオンの作用を受け、親水性になる。
希苛性ソーダ水溶液は、1〜10重量%濃度がよく、1重量%未満では、所望の効果が得られないし、10重量%を超えると後工程で希硝酸を適用するので、洗浄を充分にしなければならず洗浄工程に負荷がかかる。
また、親水化処理工程では、希苛性ソーダ水溶液で処理する前にチップを水に浸漬しておくと、なお一層親水化処理が容易になる。
【0018】
洗浄工程では、次工程の酸化処理のためにアルカリ分を充分除去するようにすれば良い。
【0019】
酸化処理工程では、親水化されたチップを希硝酸水溶液(好ましくは1〜10重量%濃度)に浸漬し、リグニンを選択的に部分酸化して、酸化分解と低分子化を促す。
希硝酸は、主に次式のように反応し強い酸化作用を示す。
2HNO3→2NO+5[O]+H2
[O]は、酸素ラジカル(活性酸素)であり、反応性が高く、存在時間は極めて短い。
リグニンにあるC−O−C結合、C=C結合、C=O結合を分解し、酸化分解と低分子化を達成するものである。
希硝酸は、汚れが触媒的に作用し、加熱により、急速に反応が進行することがあるし、80℃程度で急速に反応するから、酸化処理工程では、パルプ及び希硝酸を常温で導入し、その後98℃前後まで加熱すると、酸化処理の全期間に渡り制御された酸化状態を維持することができる。
加熱あるいは撹拌のために、容器の底部から蒸気を吹き込むことが有効である。
この処理時間は、数十分であることが適切である。
[O]の副反応として、O2、NO2の生成があり、容器頂部から、NO、NO2を含有するガスが回収される。
NO及びNO2は、窒素酸化物(NOx)であるから、回収して硝酸の原料とすることが適切である。
硝酸の工業的製法として、オストワルト法が知られている。
2NO+O2 → 2NO2
3NO2+H2O→2HNO3+NO(NOは戻す)
オストワルト法を採用して、この工程で発生するNO、NO2を、硝酸として回収することができる。
【0020】
酸化処理工程では、硝酸の分解反応を完全に終結させるために、酸化処理の終了時に更に熱水を投入し、加熱することが好ましい。この操作により、残存する硝酸分は、殆どが反応し、除去される。
酸化処理工程でのリグニンの溶出は少ない。
発生するNO及びNO2は、前工程のそれと共に回収される。
【0021】
次の洗浄工程では、溶出した少量のリグニンと薬液をチップから分離し、水で洗浄する。
【0022】
蒸解工程では、チップと希苛性ソーダ水溶液(好ましくは1〜20重量%濃度)とを共に加熱(好ましくは95〜100℃で、30〜120分間)することにより、リグニンを溶解させる。
苛性ソーダ水溶液はリグニンを溶解させると共に、有機酸の中和、樹脂分の鹸化に消費されるものである。
蒸解時間は、より好ましくは30〜60分である。
この工程で、含まれるリグニンはほとんど(95%以上)溶解する。
希苛性ソーダ水溶液の濃度は、より好ましくは1〜10重量%であり、1重量%未満では、リグニンの溶解が進まないし、10重量%を超えると、リグニンの溶解には支障はないが、反応に寄与しないカセイソーダとして無駄に排出されるか、あるいは黒液中のリグニンの濃度が高くなりすぎて、黒液からのリグニンの凝集・分取に支障が生じる恐れがある。
【0023】
続く洗浄工程では、蒸解したパルプと黒液とを分離し、パルプを水で洗浄して次工程に送る。
黒液は、数%以下の濃度のリグニンを含むが、低濃度であるため、凝集によりリグニンを容易に分取できる。
【0024】
以下、蒸解したパルプの公知の処理法が適用できる。
脱リグニン工程では、パルプに残っているリグニンを酸素とアルカリで更に溶かし出す。
精選工程では、パルプに含まれるゴミなどの異物を分離して除去する。
漂白工程では、塩素、二酸化塩素、酸素、苛性ソーダ、次亜塩素酸ソーダ等の薬品を使ってパルプを漂白する。
【0025】
また、本発明では、リグニンを分取して資源化しているし、また、排水の処理、薬品の回収にあたり、電解処理技術、水処理技術を適用し、有機物は凝集・分取して、資源化を図り、水、ナトリウム、塩素については、電解処理技術を適用して、リサイクルし得るものである。
【実施例】
【0026】
次に実施例について説明するが、一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
図3の本発明のフローチャートに沿って説明する。
建設発生木材(合板)を回転爪を内臓する破砕機(図示せず)により粗破砕し、更に二次的に破砕して、50mm以下の木質チップを分級した。更に3〜15mmになるように破砕・分級を繰り返して、木質チップを調製した。
親水化処理工程では、5重量%の希カセイソーダ水溶液に浸漬した。液温は常温で50時間処理した。
以降に述べるプロセスでは、適切な工程間洗浄が必要であるが、以下は洗浄については省略した。
酸化処理槽は密閉可能な容器であるが、親水化処理したチップを5重量%濃度の希硝酸水溶液と共に常温で酸化処理槽に投入し、下方から蒸気を吹き込んで、徐々に加熱・撹拌し酸化処理を施した。処理槽内は40分後に80℃に達した。高温になるにつれて、発泡が激しくなるが、激しい時は、一時加熱を中止する。酸化処理層の上部から、NOを含むガスを回収した。リグニンは選択的に部分酸化されるが、溶出量は少なかった。
更に、熱湯を加え、加熱して、酸化処理を続行したが、処理は98℃に達したところで発泡が治まり、反応の終点に達した。
酸化処理して洗浄したチップを5重量%濃度の苛性ソーダ水溶液と共に蒸解槽に投入し、下方から蒸気を吹き込んで煮沸・撹拌した。処理時間は、98℃に達してから1時間とした。

なお、被処理物の木質チップ1重量部に対して、親水化処理工程では苛性ソーダ水溶液10重量部を、酸化処理工程では硝酸水溶液10重量部を、蒸解処理工程では苛性ソーダ水溶液10重量部
を各々加えて処理した。
【0027】
処理後、蒸解したパルプと黒液を分離した。黒液からリグニンを凝集・分取したが、チップに含まれるリグニンの95%以上が溶出されていた。
蒸解したパルプは洗浄後、パルプに残っているリグニンを酸素とアルカリで更に溶かし出し、漂白工程では、次亜塩素酸ソーダを使ってパルプを漂白したところ、クラフト法パルプと同等のものが得られた。精選工程では、パルプに含まれるゴミなどの異物を分離して除去した。
本実施例で得られたパルプを用いて製紙となし、その製紙の試験を行った。
その結果を表1及び表2に示す。
なお、本実施例における製紙は手漉きによって行ったものであるため坪量は低いが、表1及び表2の各数値から見て、その物性値、成分組成は、カナダL材のパルプによって得られた製紙と同等のものであることが解った。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来のクラフト法のフローチャートの概略図である。
【図2】本発明のフローチャートの概略図である。
【図3】本発明のフローチャートの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質チップを希苛性ソーダ水溶液に浸漬して親水化する親水化処理工程と、
次いで前記工程で得られた親水化処理済み木質チップに水又は温水を加えてアルカリ分を除去する第1洗浄処理工程と、
前記第一洗浄処理工程を施して得られた第1洗浄処理済み木質チップに希硝酸を加えて常温又は加温下において酸化処理して木質チップに含まれるリグニンを選択的に部分酸化する酸化処理工程と、
前記酸化処理工程で得られた酸化処理済み木質チップに水又は温水を加えて希硝酸分を除去する第2洗浄工程と、
前記第2洗浄工程で得られた第2洗浄処理済み木質チップに希苛性ソーダ水溶液を加え加温して前記木質チップを蒸解する蒸解処理工程と、
前記蒸解処理工程で得られた蒸解処理済み物を濾別して蒸解パルプとリグニンを含有する黒液とに分離する蒸解パルプ・黒液分離処理工程とからなることを特徴とするパルプの製造方法。
【請求項2】
木質チップ1重量部を、1〜10重量%濃度の苛性ソーダ水溶液5〜20重量部に15〜40℃で10〜60時間浸漬して親水化する親水化処理工程と、
次いで前記工程で得られた親水化処理済み木質チップに水又は温水を加えてアルカリ分を除去する第1洗浄処理工程と、
前記第1洗浄処理工程を施して得られた第1洗浄処理済み木質チップ1重量部に、1〜10重量%濃度の硝酸水溶液3〜15重量部を加えて、80〜98℃で40〜120分間酸化処理して木質チップに含まれるリグニンを選択的に部分酸化する酸化処理工程と、
前記酸化処理工程で得られた酸化処理済み木質チップに水又は温水を加えて希硝酸分を除去する第2洗浄工程と、
前記第2洗浄工程で得られた第2洗浄処理済み木質チップ1重量部に、1〜20重量%濃度の苛性ソーダ水溶液5〜20重量部を加え常圧下又は加圧下において95〜100℃で30〜120分間加熱して前記木質チップを蒸解する蒸解処理工程と、
前記蒸解処理工程で得られた蒸解処理済み物を濾別して蒸解パルプとリグニンを含有する黒液とに分離する蒸解パルプ・黒液分離処理工程とからなることを特徴とするパルプの製造方法。
【請求項3】
親水化処理工程、酸化処理工程、又は蒸解処理工程のいずれか1又は2以上が低加圧下で実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載のパルプの製造方法。
【請求項4】
蒸解処理工程を、第1段階の蒸解処理工程と第2段階の蒸解処理工程に分割して実施し、第1段階の蒸解処理工程では第2段階の蒸解処理工程におけるよりも濃度の低い苛性ソーダ水溶液を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパルプの製造方法。
【請求項5】
酸化処理工程を施した後、更に熱水を追加導入して硝酸の酸化反応速度を速めて、硝酸が全て費消されるようにすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のパルプの製造方法。
【請求項6】
木質チップが、森林を伐採することにより得られる木材、間伐材又は建設発生木材から選択される1種又は2種以上の木材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のパルプの製造方法。
【請求項7】
リグニンを含有する黒液からリグニンを凝集させて分取することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項にパルプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167554(P2009−167554A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6334(P2008−6334)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(507014715)日本セルロース株式会社 (3)
【Fターム(参考)】