説明

パルボウイルスの形質導入を増強するための組成物および方法

本発明は、目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、当該AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムに比して過大であるベクターの形質導入を、プロテアソーム阻害剤を利用することによって増強するための方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<優先権の主張>
本出願は、2010年2月5日出願の米国仮特許出願第61/301,998号の米国特許法第119条(e)による利益を請求し、その内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
<政府の支援についての記述>
本発明の一部は、アメリカ国立衛生研究所から授与された、National Heart,Lung,and Blood Institute(NHLBI)Program Project Grant No.P01 HL66973から資金の供給を受けた。米国政府は、本発明の特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
パルボウイルス、例として、アデノ随伴ウイルス(adeno−associated virus)(AAV)は、野生型ゲノムとはサイズが実質的に異なる(例えば、野生型のサイズの約80〜85%未満および約105〜107%超の)ゲノムを好まないことは公知である。また、この観察結果は、組換えパルボウイルスベクターについても当てはまり、パッケージし、標的細胞にベクターにより、効率的に送達することができる導入遺伝子および/または調節配列(例として、プロモーター)のサイズが制限される場合がある。
【0004】
本発明は、当技術分野のこれまでの短所を、異種のヌクレオチド配列を含む過大なAAVゲノムを含有するアデノウイルスベクター、およびそれらを使用する方法を提供することによって克服する。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本発明は、(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、当該AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムに比して過大であるベクターと、(b)プロテアソーム阻害剤とを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、AAVベクターのゲノムのサイズは、約5.2kb超であり得、さらなる実施形態では、AAVベクターは、一本鎖AAVベクターのゲノム、二本鎖AAVベクターのゲノム、または自己相補的AAVベクターのゲノムを含むことができる。
【0006】
本発明の種々の実施形態では、プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブ(ベルケイド(Velcade)(登録商標))であり得る。
【0007】
本発明の種々の実施形態では、目的の異種の核酸は、凝固因子をコードすることができ、凝固因子は、第VIII因子(FVIII)であり得る。いくつかの実施形態では、目的の異種の核酸は、ジストロフィンをコードすることができる。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態では、異種の核酸は、野生型ヌクレオチド配列に比して最適化されているコード配列を含むことができる。その他の実施形態では、異種の核酸は、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含むことができる。その上さらなる実施形態では、AAVベクターのゲノムを、野生型AAVゲノムに比して最適化することができる。
【0009】
本発明のさらなる態様は、薬学的に許容される担体中に本発明の組成物を含む医薬製剤を包含する。
【0010】
本発明は、目的の核酸を細胞に送達する方法を含めて、種々の方法をさらに提供し、これらの方法は、本発明の組成物または医薬製剤を細胞内に導入するステップを含む。
【0011】
また、目的の核酸を対象(例えば、それを必要とする対象)に送達する方法も本明細書において提供し、この方法は、本発明の組成物または医薬製剤を対象に投与するステップを含む。
【0012】
本発明のさらなる態様は、目的の核酸を細胞に送達する方法を包含し、この方法は、細胞に、(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、当該AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムと比較した場合、過大であるベクターと、(b)プロテアソーム阻害剤とを接触させるステップを含む。
【0013】
また、目的の核酸を対象(例えば、それを必要とする対象)に送達する方法も本明細書において提供し、この方法は、(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、当該AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムと比較した場合、過大であるベクターと、(b)プロテアソーム阻害剤とを対象に投与するステップを含む。
【0014】
細胞が関与する方法では、細胞は、筋肉細胞、および/または肝臓細胞、および/または関節もしくは骨軟骨の部位の細胞であり得る。
【0015】
さらに、本発明の方法では、AAVベクターを、プロテアソーム阻害剤の投与の前に、その後に、および/またはそれと同時に、いずれかの組合せで投与することもできる。
【0016】
本発明の方法では、プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))であり得る。また、本発明の方法では、目的の異種の核酸は、FVIIIをコードすることもできる。その他の実施形態では、目的の異種の核酸は、ジストロフィンをコードすることができる。
【0017】
さらに、本発明の方法では、異種の核酸またはヌクレオチド配列は、野生型ヌクレオチド配列に比して最適化されているコード配列を含むこともできる。その他の実施形態では、異種の核酸またはヌクレオチド配列は、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含むことができる。その上さらなる実施形態では、AAVベクターのゲノムを、野生型AAVゲノムに比して最適化することができる。
【0018】
本発明のその上さらなる態様は、(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、当該AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムと比較した場合、過大であるベクターと、(b)プロテアソーム阻害剤とを含むキットを包含する。本発明のキットは、FVIIIをコードする目的の異種の核酸を含むことができる。また、本発明のキットは、ジストロフィンをコードする目的の異種の核酸を含むこともできる。
【0019】
本発明のキットでは、プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))であり得る。
【0020】
本発明は、血友病Aを、対象(例えば、ヒト対象)内において治療する方法をさらに提供し、この方法は、(a)FVIIIをコードする異種のヌクレオチド配列を含むAAVベクターと、(b)ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))とを対象に投与するステップを含む。
【0021】
上に示したように、上記のような治療方法では、FVIIIをコードする異種の核酸またはヌクレオチド配列は、野生型ヌクレオチド配列に比して最適化されているコード配列を含むことができる。その他の実施形態では、FVIIIをコードする異種の核酸またはヌクレオチド配列は、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含むことができる。その上さらなる実施形態では、AAVベクターのゲノムを、野生型AAVゲノムに比して最適化することができる。
【0022】
血友病Aを治療する方法では、AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に、その後に、および/またはそれと同時に、いずれかの組合せで投与することができる。特定の実施形態では、AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に投与する。
【0023】
本明細書では、筋ジストロフィーを、対象(例えば、ヒト対象)内において治療する方法をさらに提供し、この方法は、(a)ジストロフィンをコードする異種のヌクレオチド配列を含むAAVベクターと、(b)ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))とを対象に投与するステップを含む。
【0024】
さらに、本発明の治療方法では、ジストロフィンをコードする異種の核酸またはヌクレオチド配列は、野生型ヌクレオチド配列に比して最適化されているコード配列を含むことができる。その他の実施形態では、ジストロフィンをコードする異種の核酸またはヌクレオチド配列は、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含むことができる。その上さらなる実施形態では、AAVベクターのゲノムを、野生型AAVゲノムに比して最適化することができる。
【0025】
筋ジストロフィーを治療する方法では、AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に、その後に、および/またはそれと同時に、いずれかの組合せで投与することができる。特定の実施形態では、AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に投与する。
【0026】
本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV8型である。本発明のいくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV2型である。本発明のいくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV5型である。
【0027】
本発明の特定の実施形態は、in vitroおよびin vivoの両方において、ベルケイド(登録商標)または類似の作用機構を有する代替の化合物の投与と組み合わせてかまたは時間的に一緒に合わせて、核酸を細胞に送達するためのパルボウイルスベクターを対象とする。さらなる実施形態は、ベルケイド(登録商標)と組み合わせたかまたは時間的に一緒に合わせた、新規の改変された血液凝固因子の送達、例えば、コドン最適化凝固第VIII因子をコードするAAVの送達(例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2007/071553に記載されているもの)を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】プロテアソーム阻害剤が、in vitroにおいて、AAV−2ベクターの発現を増加させることを示す図である。プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブが存在する場合または不在の場合に、従来の一本鎖AAV2ベクター(左のパネル)および自己相補的なAAV2ベクター(右のパネル)を形質導入した293T細胞中の緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現の蛍光活性化細胞選別解析。平均蛍光強度(MFI)およびGFP陽性細胞のパーセントを示す。未形質導入293T細胞を、陰性対照とした。
【図2A−D】第IX因子欠損マウスおよび第VIII因子欠損マウスの矯正についての、AAV2ベクターおよびAAV8ベクターとプロテアソーム阻害剤との同時投与の効果を示す図である。同時投与するプロテアソーム阻害剤(0.5mg/kg体重)が存在する場合または不在の場合に、3×1010ベクターゲノム/マウスの、単一のAAV2ベクターまたはAAV8ベクターを門脈に与えた血友病マウス。(A)および(B):ボルテゾミブが存在する場合または不在の場合のAAV2(a)またはAAV8(b)に続く、FIX−/−マウス中の正常なヒト第IX因子の活性のパーセント。(C)および(D):プロテアソーム阻害剤であるMG−132およびボルテゾミブが存在する場合または不在の場合のAAV2(c)またはAAV8(d)に続く、FVIII−/−マウス中の正常なイヌ第VIII因子の活性のパーセント(Coatestアッセイ)。データを、平均±SDとして提示する。ボルテゾミブ対AAV−cFVIII対照、P<0.05;**ボルテゾミブ対MG−132、およびボルテゾミブ対AAV−cFVIII対照、P<0.05。
【図3】デキサメタゾンとの同時投与による、AAV.ルシフェラーゼの発現の肝脾における局在化を示す図である。C57B6マウスに、0.2mgのI.V.デキサメタゾンの同時投与が存在する場合または不在の場合に、1011ゲノム/マウスのAAV8.ルシフェラーゼを、尾静脈を介して注射した。1週間後に、生きている全身のバイオルミネセンスの撮像を行い、シグナルの強度を、総光子束として表す(光子/秒/cm)。
【図4】血友病Aマウスにおける、単回用量のボルテゾミブの、AAV2媒介性およびAAV8媒介性のcFVIIIの発現に対する持続性の効果を示す図である。FVIII−/−マウスに、PIが不在の場合、またはボルテゾミブ(0.5mg/kg体重)、もしくはボルテゾミブおよびデキサメタゾン(0.2mg/動物、8mg/kg体重と同等)が存在する場合に、cFVIIIを発現するAAV2またはAAV8を、3×1010gc/マウスの用量で、門脈注射により注射した。クエン酸を加えた血漿を規定の時点で収集して、FVIII活性をCoatestアッセイにより検出した。データを、正常なイヌの活性の%活性の平均±SDとして提示する。AAV8.cFVIII+ボルテゾミブ(デキサメタゾンが存在する場合または不在の場合)対AAV8.cFVIIIベクター単独、P<0.05。#AAV2.cFVIII+ボルテゾミブ対AAV2.cFVIIIベクター単独、P<0.05。
【図5】血友病Aイヌにおいて、プロテアソーム阻害剤による療法が、肝臓に特異的なAAV8媒介性のcFVIII遺伝子による療法による凝固の矯正に対して持続性の効果をもたらすことを示す図である。上部:ボルテゾミブなしでベクターのみを用いて治療した2匹の雄および1匹の雌の血友病Aイヌにおける全血凝固時間(WBCT)。下部:AAVベクターの投与時に、単回用量の静脈内(I.V.)ボルテゾミブの同時投与を用いて治療した2匹の雄および2匹の雌の血友病AイヌにおけるWBCT。止血が正常なイヌについての6〜10分の正常範囲を、網掛け領域により示す。血友病イヌは、20分超に延長されたベースラインのWBCTを示した。
【図6】コドンが最適化されたFVIIIのcDNAを有するAAV.第VIII因子ベクターからの発現が、ベクター送達時のプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(PI)の同時投与によりさらに増大することを示す図である。
【図7】プロテアソーム阻害剤とAAVとを関節腔内空間中に同時投与した結果、発現した第VIII因子のより大きな治療作用が生じて、関節に対する出血誘発型の損傷を予防することを示す図である。NSIA:生理食塩水の関節内への注射。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここに、本発明を、添付する図面を参照して、より詳細に記載し、本発明の好ましい実施形態を示す。しかし、本発明は、異なる形態で具体化することができ、本発明が本明細書に記載する実施形態に限定されると解釈してはならない。むしろ、本開示を徹底的かつ完全となし、本開示により本発明の範囲が当業者に十分に伝わるように、これらの実施形態を提供する。
【0030】
別段に定義しない限り、本明細書において使用する全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書の本発明の記載において使用する用語法は、特定の実施形態を記載する目的に限られ、本発明を制限するものではない。本明細書に引用する刊行物、特許出願、特許、特許公開およびその他の参考文献は全て、参照される文および/または段落と関連性がある教示のために、それらの全体が参照により組み込まれている。
【0031】
そうでないことを具体的に示さない限り、ヌクレオチド配列を、本明細書においては、左から右へ5’から3’の方向の一本鎖のみによって提示する。ヌクレオチドおよびアミノ酸を、本明細書においては、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨されている様式、または(アミノ酸については)1文字コードもしくは3文字コードのいずれかにより示す。1文字コードまたは3文字コードの両方は、米国特許法施行規則1.822条(37C.F.R.§1.822)に従う、確立された使用法である。
【0032】
別段の記載がある場合を除き、遺伝子のクローニング、核酸の増幅および検出等のための、当業者に公知の標準的な方法を使用することができる。そのような技法は、当業者に公知である。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2版(Cold Spring Harbor、NY、1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates,Inc.およびJohn Wiley & Sons,Inc.、New York)を参照されたい。
【0033】
<定義>
本明細書で使用する場合、「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、使用されている文脈に応じて、1つまたは2つ以上を意味することができる。例えば、「ある(a)」細胞は、1つの細胞または複数の細胞を意味することができる。
【0034】
また、本明細書で使用する場合、「および/または」は、1つまたは複数の関連の列挙された項目のあらゆる可能な組合せを、ならびに選択肢(「または」)として解釈する場合には、組合せの欠如を指し、これらを網羅する。
【0035】
さらに、用語「約」は、本明細書で使用する場合、測定可能な値、例として、本発明の化合物または薬剤の量、用量、時間、温度等を指す場合には、特定の量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらに±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0036】
用語「から本質的になる(consist essentially of)」(および文法上の変型)は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列に適用する場合、言及する配列(例えば、配列番号)と、言及する配列の5’および/もしくは3’の終点またはN末端および/もしくはC末端の終点上の総数10個以下(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個)の追加のヌクレオチドまたはアミノ酸との両方からなるポリヌクレオチドまたはポリペプチドであって、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの機能が実質的に変化していないようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する。総数10個以下の追加のヌクレオチドまたはアミノ酸は、両方の末端上の追加のヌクレオチドまたはアミノ酸を一緒にして足した総数を包含する。用語「実質的に変化している(materially altered)」は、本発明のポリヌクレオチドに適用する場合、言及する配列からなるポリヌクレオチドの発現レベルと比較した場合の、少なくとも約50%以上の、コードするポリペプチドを発現する能力の増加または減少を指す。用語「実質的に変化している」は、本発明のポリペプチドに適用する場合、言及する配列からなるポリペプチドの活性と比較した場合の、少なくとも約50%以上の活性の増加または減少を指す。
【0037】
用語「パルボウイルス」は、本明細書で使用する場合、自律複製性パルボウイルスおよびディペンドウイルスを含めて、パルボウイルス科を網羅する。自律的なパルボウイルスは、パルボウイルス属、エリスロウイルス属、デンソウイルス属、イテラウイルス属およびコントラウイルス属のメンバーを包含する。例示的な自律的なパルボウイルスとして、これらに限定されないが、マウスの微小ウイルス、ウシのパルボウイルス、イヌのパルボウイルス、ニワトリのパルボウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコのパルボウイルス、ガチョウのパルボウイルス、H1パルボウイルス、ノバリケン(muscovy duck)のパルボウイルス、B19ウイルス、および現在公知のまたは後に発見される、任意のその他の自律的なパルボウイルスが挙げられる。その他の自律的なパルボウイルスが、当業者に公知である。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、volume 2、chapter 69(4版、Lippincott−Raven Publishers)を参照されたい。
【0038】
本明細書で使用する場合、用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)として、これらに限定されないが、AAV1型、AAV2型、(3A型および3B型を含めた)AAV3型、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、および現在公知のまたは後に発見される、任意のその他のAAVが挙げられる。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、volume 2、chapter 69(4版、Lippincott−Raven Publishers)を参照されたい。最近になって、推定上の新しいAAVの血清型およびクレードがいくつか同定されている(例えば、Gaoら、(2004)J.Virology 78:6381〜6388;Morisら、(2004)Virology 33−:375〜383;および表5を参照されたい)。
【0039】
AAVおよび自律的なパルボウイルスの種々の血清型のゲノム配列、ならびに末端反復(TR)、Repタンパク質およびキャプシドサブユニットの配列が、当技術分野で公知である。そのような配列を、文献または公共のデータベース、例として、GenBank中に見出すことができる。例えば、GenBank受託番号:NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579を参照されたい。これらの開示が、パルボウイルスおよびAAVの核酸およびアミノ酸の配列を教示するために、参照により本明細書に組み込まれる。また、例えば、Srivistavaら(1983)J.Virology 45:555;Chioriniら(1998)J.Virology 71:6823;Chioriniら、(1999)J.Virology 73:1309;Bantel−Schaalら、(1999)J.Virology 73:939;Xiaoら、(1999)J.Virology 73:3994;Muramatsuら、(1996)Virology 221:208;Shadeら、(1986)J.Virol.58:921;Gaoら、(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;Morisら、(2004)Virology 33−:375〜383;国際特許公開第WO00/28061号、第WO99/61601号、第WO98/11244号;および米国特許第6,156,303号も参照されたい;これらの開示が、パルボウイルスおよびAAVの核酸およびアミノ酸の配列を教示するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
用語「指向性(tropism)」は、本明細書で使用する場合、ウイルスの、特定の細胞または組織への優先的な進入、および場合により、それに続く、細胞中での、ウイルスゲノムが運ぶ(1つまたは複数の)配列の発現(例えば、転写、および場合により、翻訳)、例えば、組換えウイルスについては、(1つまたは複数の)異種のヌクレオチド配列の発現を指す。当業者であれば、ウイルスゲノムからの異種の核酸配列の転写は、トランス作用因子、例えば、誘導性プロモーターのためまたはそれ以外により制御される核酸配列のためのトランス作用因子の非存在下では開始することができないことを理解するであろう。rAAVゲノムの場合、ウイルスゲノムからの遺伝子の発現は、安定に組み込まれたプロウイルスからの発現、非組込み型(non−integrated)エピソームからの発現、およびウイルスが細胞内部でとることができる任意のその他の形態であり得る。
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、別段の記載がない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を網羅する。
【0042】
「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、(天然に存在するヌクレオチドおよび非天然のヌクレオチドの両方を含めた)RNA配列、DNA配列、またはDNA−RNAのハイブリッド配列であり得るが、代表的な実施形態では、一本鎖または二本鎖のいずれかのDNA配列である。
【0043】
本明細書で使用する場合、「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物もしくはウイルスのその他の構成成分、例えば、細胞もしくはウイルスの構造上の構成成分のうちの少なくともいくつかからか、または当該ポリヌクレオチドに付随して一般に見出される、その他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。
【0044】
同様に、「単離された」ポリペプチドは、天然に存在する生物もしくはウイルスのその他の構成成分、例えば、細胞もしくはウイルスの構造上の構成成分のうちの少なくともいくつかからか、または当該ポリペプチドに付随して一般に見出される、その他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されているポリペプチドを意味する。
【0045】
本明細書で使用する場合、ウイルスベクターを「単離する」または「精製する」(または文法上の相当語句)により、ウイルスベクターが、出発材料中のその他の構成成分のうちの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されることを意味する。
【0046】
「治療用ポリペプチド」は、細胞または対象におけるタンパク質の不在または欠損の結果生じる症状を軽減するまたは低下させることができるポリペプチドである。あるいは、「治療用ポリペプチド」は、別の場合には、利益、例えば、抗がん作用または移植生存率の改善を対象に付与するポリペプチドである。
【0047】
用語「治療する(treat)」、「治療(する)(treating)」または「の治療(treatment of)」(または文法上の同等の用語)により、対象の状態の重症度を、低下させるか、または少なくとも部分的に改善するか、または寛解させること、ならびに/あるいは少なくとも1つの臨床症状の何らかの軽減、緩和または減少を達成すること、ならびに/あるいは疾患または障害について、状態の進行の遅延および/または発症の予防もしくは遅延があることを意味する。したがって、用語「治療する」、「治療(する)」または「の治療」(または文法上の同等の用語)は、予防的投与計画および治療的投与計画の両方を指す。
【0048】
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原と遭遇した後の、宿主の組織および細胞の関与により特徴付けられる。能動免疫には、リンパ細網組織中の免疫担当細胞の分化および増殖が関与し、それにより、抗体の合成もしくは細胞媒介型反応性の発生または両方が生じる.」Herbert B.Herscowitz、Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation、IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti編、1985)。それに代わって、感染またはワクチン接種による免疫原に対する暴露の後に、能動免疫応答が、宿主により開始されるとも記述される。能動免疫は、「能動的に免疫化した宿主から、あらかじめ形成された物質(抗体、トランスファー因子、胸腺移植片、インターロイキン−2)を非免疫宿主へ導入すること」を通して獲得される受動免疫と対比することができる(同文献)。
【0049】
「防御」免疫応答または「防御」免疫は、本明細書で使用する場合、免疫応答が、疾患の発生を予防または低下させるという点で、何らかの利益を対象に付与することを示す。あるいは、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特に、がんまたは腫瘍を(例えば、がんもしくは腫瘍の退縮を引き起こすこと、および/または転移を予防すること、および/または転移性の小結節の増殖を予防することによって)治療するのに有用で有り得る。防御効果は、治療の利益がそのいずれの欠点にも勝る限り、完全であってもまたは部分的であってもよい。
【0050】
対象において免疫応答を誘発する前述の方法によれば、下記の記載に従って、異種のヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを、免疫原性有効量で投与することができる。
【0051】
「異種のヌクレオチド配列」または「異種の核酸」は、ウイルスにおいて、天然には存在しない配列である。一般に、異種の核酸は、目的のポリペプチドまたは非翻訳RNAをコードするオープンリーディングフレームを(例えば、細胞または対象に送達するために)含む。また、異種のヌクレオチド配列または異種の核酸は、ヌクレオチド配列または核酸であって、その中に、当該ヌクレオチド配列または核酸が導入される細胞中で、天然には存在しないヌクレオチド配列または核酸であってもよい。あるいは、異種のヌクレオチド配列または異種の核酸は、天然に存在するヌクレオチド配列または核酸分子と同じであるが、当該異種のヌクレオチド配列または核酸分子が、その天然に存在する対応物が典型的に見出される場所もしくは位置には存在せず、かつ/または天然に存在する対応物の発現を制御する調節エレメントとは異なる調節エレメントの制御下にあるヌクレオチド配列または核酸分子であってもよい。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「ウイルスベクター」、「ベクター」または「遺伝子送達ベクター」は、核酸送達ビヒクルとして機能し、AAVのキャプシド内部にパッケージした、ベクターのゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含むウイルス(例えば、AAV)粒子を指す。あるいは、一部の文脈では、用語「ベクター」を使用して、ベクターのゲノム/vDNA単独を指すこともできる。
【0053】
「rAAVベクターのゲノム」または「rAAVゲノム」は、1つまたは複数の異種のヌクレオチド配列を含むAAVゲノム(すなわち、vDNA)である。rAAVベクターは一般に、ウイルスを生成するのに、シスの145塩基の末端反復(複数可)(TR(複数可))のみを必要とする。その他のウイルスの配列は全て、欠失可能であり、トランスに供給することができる(Muzyczka(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97)。典型的には、rAAVベクターのゲノムは、最低限のTR配列(複数可)のみを保持し、その結果、ベクターにより、効率的にパッケージされ得る導入遺伝子のサイズが最大化される。構造タンパク質および非構造タンパク質のコード配列を、(例えば、ベクター、例として、プラスミドからか、または配列をパッケージング細胞中に安定に組み込むことによって)トランスに供給することができる。rAAVベクターのゲノムは、少なくとも1つのTR配列(例えば、AAVのTR配列)、場合により、2つのTR(例えば、2つのAAVのTR)を含み、これらのTRは典型的には、異種のヌクレオチド配列の5’末端および3’末端にあるが、それらに隣接している必要はない。TRは、同じであってもまたは相互に異なっていてもよい。
【0054】
「AAVの末端反復」または「AAVのTR」は、任意のAAVに由来してよく、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくは11、または現在公知のもしくは今後に発見される、任意のその他のAAVが挙げられるが、これらに限定されない。AAVの末端反復は、末端反復が、所望の機能、例えば、複製、ウイルスのパッケージング、組込みおよび/またはプロウイルスのレスキュー等を媒介する限り、野生型末端反復配列を有する必要はない(例えば、野生型配列を、挿入、欠失、切断またはミスセンス突然変異により変化させることができる)。
【0055】
用語「末端反復」または「TR」は、任意のウイルスの末端反復、およびヘアピン構造を形成し、逆位末端配列として機能する合成配列、例として、Samulskiらに対する米国特許第5,478,745号に記載されている「二重D配列(double−D sequence)」を包含する。
【0056】
自律的なパルボウイルスおよびAAVのキャプシド構造が、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、volume 2、chapters 69および70(4版、Lippincott−Raven Publishers)により詳細に記載されている。また、AAV2(Xieら、(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405〜10)、AAV4(Padronら、(2005)J.Virol.79:5047〜58)、AAV5(Waltersら、(2004)J.Virol.78:3361〜71)、ならびにCPV(Xieら、(1996)J.Mol.Biol.6:497〜520、およびTsaoら、(1991)Science 251:1456〜64)の結晶構造の記載も参照されたい。
【0057】
本発明のウイルスベクターはさらに、「標的化」ウイルスベクター(例えば、方向付けられた指向性を有するベクター)、および/または国際特許公開第WO00/28004号およびChaoら、(2000)Molecular Therapy 2:619に記載されている「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、rAAVゲノムおよびウイルスのキャプシドが、異なるパルボウイルスに由来する)であってもよい(これらの開示全体が、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0058】
本発明のウイルスベクターはさらに、国際特許公開第WO01/92551号(その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている二重鎖のパルボウイルス粒子であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、二本鎖(二重鎖)のゲノムを、本発明のウイルスのキャプシド内にパッケージすることができる。
【0059】
さらに、ウイルスのキャプシドまたはゲノムは、挿入、欠失および/または置換を含めた、その他の改変形態も含有することができる。
【0060】
したがって、本明細書で使用する場合、用語「ウイルスベクター」は、パルボウイルスおよびAAVのハイブリッドウイルス粒子、標的化ウイルス粒子および二重鎖ウイルス粒子、ならびにその他の改変した形態を網羅する。
【0061】
用語「制御する(regulate)」、「制御する(regulates)」または「制御(regulation)」は、特定のレベルまたは活性の増強(例えば、増加)または阻害(例えば、減少)を指す。
【0062】
用語「増強する(enhance)」または「増加させる(increase)」は、少なくとも約1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、8倍、10倍、12倍、またはさらに15倍の特定のパラメータの増加を指す。
【0063】
用語「阻害する(inhibit)」もしくは「低下させる(reduce)」またはそれらの文法上の変形したものは、本明細書で使用する場合、少なくとも約15%、25%、35%、40%、50%、60%、75%、80%、90%または95%以上の特定のレベルまたは活性の減少または縮小を指す。特定の実施形態では、阻害または低下の結果、検出可能な活性がほとんどまたは本質的になくなる(せいぜい、とるに足らない量、例えば、約10%未満またはさらに5%未満)。
【0064】
本明細書で使用する場合、「形質導入」は、ウイルスの細胞内への進入、ならびにゲノムが送達する配列の発現(例えば、転写および/または翻訳)を指す。組換えベクターの場合、「形質導入」は一般に、組換えウイルスの細胞内への進入、およびベクターのゲノムが送達する目的の核酸の発現を指す。
【0065】
また、本明細書で使用する場合、「導入遺伝子」は、細胞のトランスフェクションまたは形質導入(すなわち、形質転換)において使用する任意の核酸配列を指し、この細胞は、in vitroにおける細胞であっても、または生物中の細胞であってもよい。したがって、導入遺伝子は、コード配列、非コード配列、cDNA、遺伝子またはその断片もしくは部分、ゲノム配列、調節エレメント等であり得る。「トランスジェニック」生物、例として、トランスジェニック植物またはトランスジェニック動物は、導入遺伝子が、送達または導入されている生物であり、導入遺伝子を、トランスジェニック生物中で発現させて、産物を産生することができ、産物の存在は、生物中で、作用(例えば、治療的もしくは有益な作用)および/または表現型(例えば、所望のもしくは変化した表現型)をもたらすことができる。
【0066】
さらに、本明細書で使用する場合、野生型AAVゲノムに比して「過大」である、AAVベクターのゲノムは、4680ヌクレオチド(4.68kb)よりも大きいAAVゲノムであり、4.68kbは、野生型AAVゲノムのサイズである。そのような過大なAAVベクターのゲノムは、例えば、4.7kb、4.8kb、4.9kb、5.0kb、5.1kb、5.2kb、5.3kb、5.4kb、5.5kb、5.6kb、5.7kb、5.8kb、5.9kb、6.0kb、6.1kb、6.2kbまたは6.3kb等であり得る。
【0067】
「増強された」または「増加した」形質導入(および同類の用語)は、例えば、研究室および/または臨床の目的に有用である、任意の、形質導入の増加を指す。特定の実施形態では、本発明の組成物および方法は、パルボウイルスベクターの形質導入を、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、75%、90%、100%、150%、200%、250%、300%等、および少なくとも約2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、25倍、50倍、75倍、100倍、500倍、1000倍、2000倍または5000倍以上増強するまたは増加させる。本発明のパルボウイルスの形質導入の増強または増加は、当技術分野で周知であり、本明細書に記載する対照または標準と比べることができる。
【0068】
「増強された」または「増加した」発現(および同類の用語)は、例えば、研究室および/または臨床の目的に有用である、本発明の異種の核酸分子の任意の、発現の増加を指す。特定の実施形態では、本発明の組成物および方法は、本発明のパルボウイルスベクター中に存在する異種の核酸の発現を、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、75%、90%、100%、150%、200%、250%、300%等、および少なくとも約2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、25倍、50倍、75倍、100倍、500倍、1000倍、2000倍または5000倍以上増強するまたは増加させる。本発明の異種の核酸分子の発現の増強または増加は、当技術分野で周知であり、本明細書に記載する対照または標準と比べることができる。
【0069】
「治療有効」量は、本明細書で使用する場合、何らかの改善または利益を対象にもたらすのに十分である量である。それに代わって、「治療有効」量は、対象において、少なくとも1つの臨床症状の何らかの軽減、緩和または減少をもたらす量であるとも記述される。当業者であれば、治療効果は、何らかの利益が対象にもたらされる限り、完全である必要も根治的である必要もないことを理解するであろう。
【0070】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが形質導入されている細胞を投与して、送達した(例えば、導入遺伝子として発現させるか、またはキャプシド中の)ポリペプチドに対して免疫原性応答を惹起することができる。典型的には、免疫原性有効量のポリペプチドを発現する細胞の分量を、薬学的に許容される担体と組み合わせて投与する。「免疫原性有効量」は、医薬製剤を投与した対象において、能動免疫応答を誘起するのに十分である発現したポリペプチドの量である。特定の実施形態では、投与量は、(本明細書に定義する)防御免疫応答を発生させるのに十分である。付与される防御の程度は、免疫原性ポリペプチドを投与する利益がそのいずれの欠点にも勝る限り、完全である必要も、永久的である必要もない。
【0071】
本発明は、サイズが野生型とは実質的に異なる、組換えパルボウイルスベクターのゲノムを、ウイルス粒子中にパッケージし、標的細胞に感染させることができるが、これらのウイルス粒子による形質導入が、標的細胞内への進入後の点において低下するという発見に一部基づいている。本発明は、任意の特定の理論により拘束されないが、そのようなベクターによる形質導入は、細胞内移動の機構および/または第二鎖の合成により、少なくとも部分的に阻害されることが考えられる。
【0072】
本発明者らは、プロテアソーム阻害剤が、サイズが野生型ゲノムとは実質的に異なる、ベクターのゲノムを送達する場合を含めて、パルボウイルスベクターによる形質導入を増強することができることを見出すに至った。例えば、Hirschら、「Little vector,big gene transduction:fragmented genome reassembly of adeno−associated virus」、Molecular Therapy 18(1):6〜8(2010);JohnsonおよびSamulski、「Enhancement of adeno−associated virus infection by mobilizing capsids into and out of the nucleolus」、J.Virol.83(6):2632〜2644(2009);ならびにGriegerおよびSamulski、「Packaging capacity of adeno−associated virus serotypes:impact of larger genomes on infectivity and postentry steps」、J.Virol.79(15):9933〜9944(2005)を参照されたい。それらのそれぞれの全内容の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0073】
したがって、一態様として、本発明は、(a)目的の異種の核酸を含むパルボウイルスベクターと、(b)プロテアソーム阻害剤とを含む組成物を提供する。特定の実施形態では、パルボウイルスベクターは、ハイブリッドのAAV/自律的なパルボウイルスのベクター、例えば、AAVベクターのゲノムと、自律的なパルボウイルスのキャプシドとを、または逆を含むベクターである。パルボウイルスベクターはさらに、キメラのパルボウイルスベクターであってもまたは標的化パルボウイルスベクターであってもよい(例えば、WO00/28004、およびChaoら、(2000)Molecular Therapy 2:619を参照されたい)。
【0074】
特定の実施形態では、パルボウイルスは、野生型ゲノムのサイズとはサイズが実質的に異ならないゲノムを含む。その他の実施形態では、ゲノムのサイズは、野生型のサイズとは実質的に異なる(例えば、野生型のサイズの約80〜85%未満および約105〜107%超)。
【0075】
その他の代表的な実施形態では、パルボウイルス(例えば、AAV)は、サイズが、約5.0、5.2、5.3、5.4もしくは5.5kb超、および/または約6、6.1、6.2、6.3、6.4または6.5kb未満であるAAVベクターのゲノムを含む。特定の実施形態では、AAVベクターのゲノムは、約5.2kb超および約6.1kb未満である。その上さらなる実施形態では、パルボウイルス(例えば、AAV)は、サイズが、約4.0、3.9、3.8、3.7または3.6kb未満であるAAVベクターのゲノムを含む。
【0076】
本発明によれば、パルボウイルスベクターは、単鎖のベクターのゲノムを含むことができる。あるいは、パルボウイルスベクターは、二本鎖のベクターのゲノムを含むこともできる。二本鎖のAAVベクターが記載されている。例えば、国際特許公開第WO01/92551号を参照されたい。
【0077】
また、本発明は、当技術分野で公知である、分断された導入遺伝子のAAVベクターも網羅する。(例えば、Chaoら、「Expression of human factor VIII by splicing between dimerized AAV vectors」、Mol Ther 5(6):716〜722(2002);Sarkarら、「Total correction of hemophilia A mice with canine FVIII using an AAV8 serotype」、Blood 103(4):1253〜60(2003);Chenら、「The enhancing effects of the light chain on heavy chain secretion in split delivery of factor VIII gene」、Mol Ther 15(10):1856〜62(2007);Lostalら、「Efficient recovery of dysferlin deficiency by dual adeno−associated vector−mediated gene transfer」、Hum Mol Genet 19(10):1897〜1907(2010);Halbertら、「Efficient mouse airway transduction following recombination between AAV vectors carrying parts of a larger gene」、Nat Biotechnol 20(7):697〜701(2002)を参照されたい)。
【0078】
プロテアソーム阻害剤は、ペプチド類似体および小型分子の阻害剤を含めた、現在公知のまたは後に発見される、任意のプロテアソーム阻害剤であってよい。多数のプロテアソーム阻害剤が、当技術分野で公知であり、いくつかは、がん療法において使用されている。特定の実施形態では、プロテアソーム阻害剤は、(1)疎水性側鎖の後を切断する(キモトリプシン様)、(2)酸性側鎖の後を切断する(ポストグルタミルペプチダーゼ(postglutamyl peptidase))、(3)塩基性側鎖の後を切断する(トリプシン様)、(4)分枝鎖アミノ酸の後を切断する(BrAAP活性)、または(5)小型の中性アミノ酸の後を切断する(SNAAP活性)プロテアソームを阻害する。
【0079】
代表的な実施形態では、プロテアソーム阻害剤は、(1)C末端ペプチドアルデヒド、(2)ペプチドビニルスルホン(例えば、C末端において、ビニルスルホン部分により改変されているペプチド)、(3)ラクタシスチン、(4)ジ−またはトリ−ペプチドアルデヒド、(5)ペプチドホウ素エステル(peptide boron ester)、(6)α−ケト−カルボニルペプチド(peptide α−keto−carbonyl)、(7)α,β−エポキシケトン、または(8)アントラサイクリン誘導体である。
【0080】
その他の特定の実施形態では、プロテアソーム阻害剤は、以下のうちの1つまたは複数、すなわち、N−アセチル−L−ロイシル−L−ロイシル−L−ノルロイシン(LLnL)、MG−132、PS−341(ボルテゾミブまたはベルケイド(商標))、ドキソルビシン、アクラルビシン、アクラシノマイシンA、AdaAhxVS、AdaLys(Bio)AhxVS、ALLM、ALLN、エポキソミシン、α−メチルオムラリド、MG−115、NLVS、NP−LLL−VS、プロテアソーム阻害剤I、プロテアソーム阻害剤II、プロテアソーム阻害剤III、プロテアソーム阻害剤IV、プロテアソーム阻害剤VII、チロペプチン(tyropeptin)AまたはYU101を包含する。多数のプロテアソーム阻害剤が、商業的供給元、例として、CalbiochemおよびMillenium Pharmaceuticals,Incから入手可能である。
【0081】
いくつかの実施形態では、本発明のプロテアソーム阻害剤を、デキサメタゾンと共に投与することができ、いくつかの実施形態では、プロテアソーム阻害剤を、デキサメタゾンの投与の不在下で投与することができる。
【0082】
プロテアソーム阻害剤は、当技術分野で公知であり、例えば、Bogyoら、(1997)Biopoly 43:269〜280)に記載されている。
【0083】
パルボウイルスベクターは、いずれの、目的の異種の核酸配列(複数可)も含むことができる。目的の核酸配列は、治療用ポリペプチド(例えば、医学的もしくは獣医学的に使用するため)、または免疫原性ポリペプチド(例えば、ワクチンのため)を含めた、ポリペプチドをコードする核酸配列を包含する。
【0084】
本明細書で使用する場合、野生型コード配列(例えば、FVIIIまたはジストロフィンについてのコード配列)に比して最適化されているコード配列を含む異種の核酸またはヌクレオチド配列により、例えば、稀なコドン(例えば、ヒトコドン)の使用を最小限に留めるため、代替のリーディングフレームを除去するため等の当技術分野で周知のプロトコールに従って最適化されているコード配列を記載する。それらのプロトコールは、当技術分野で公知であろう(例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2007/071553に記載されている)。
【0085】
また、本明細書で使用する場合、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含む異種の核酸またはヌクレオチド配列により、例えば、プロモーター、ポリAシグナル、末端反復および/またはその他の非コードエレメントの活性を増強するため、ならびに遺伝子の発現、制御および/または産生に関与するシスエレメントおよびトランスエレメントの活性および/または機能を調節するため等の当技術分野で周知のプロトコールに従って最適化されている非コード配列を含む異種の核酸またはヌクレオチド配列も記載する。それらのプロトコールは、当技術分野で周知であろう。
【0086】
さらに、本明細書で使用する場合、野生型AAVベクターのゲノムに比して最適化されているAAVベクターのゲノムにより、ゲノムが、複製、パッケージングおよび/または送達に必要なウイルスのシスエレメントの活性を増強するため等に最適化されているAAVベクターも記載する。それらの最適化は、当技術分野で周知であろう。そのような最適化AAVベクターは、最適化された転写カセット、最適化された末端反復等を含むことができ、これらは、当技術分野で周知であろう。
【0087】
治療用ポリペプチドとして、これらに限定されないが、嚢胞性線維症の膜貫通制御因子タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ジストロフィンのミニ遺伝子のタンパク質産物を包含する。例えば、Vincentら(1993)Nature Genetics 5:130;米国特許公開第2003/017131号、ユートロフィン(Tinsleyら、(1996)Nature 384:349を参照されたい)、凝固因子および凝固因子の制御タンパク質(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子、フォン−ヴィルブランド因子、ADAMTS13等)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β−グロビン、α−グロビン、スペクトリン、α−アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β−グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームのヘキソサミニダーゼA、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、インターフェロン−γ、インターロイキン−2、インターロイキン−4、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシン等)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子、ならびにホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様増殖因子1および2、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経成長因子、神経栄養因子−3および−4、脳由来神経栄養因子、骨形態形成タンパク質[RANKLおよびVEGFを包含する]、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子−αおよび−β等)、リソソームの酸性α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死増殖因子可溶性受容体)、抗炎症因子、例として、IRAP、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体を包含する。例示的なMabが、ハーセプチンMabである)が挙げられる。その他の例示的な異種の核酸配列は、自殺遺伝子の産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素および腫瘍壊死因子)、がん療法において使用する薬物に対する耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制因子遺伝子の産物(例えば、p53、Rb、Wt−1)、TRAIL、FAS−リガンド、ならびに治療効果を、それを必要とする対象において示す任意のその他のポリペプチドをコードする。
【0088】
一般に、遺伝子の発現に関連する任意の障害に伴う症状を治療するまたは寛解させるために、パルボウイルスベクターを利用して、生物学的作用を示す任意の異種の核酸を送達することができる。あるいは、本発明を使用して、治療用ポリペプチドを送達するのが有益である任意の疾患状況を治療することもできる。例示的な疾患状況として、これらに限定されないが、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症の膜貫通制御因子タンパク質)およびその他の肺疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β−グロビン)、貧血(エリスロポエチン)およびその他の血液障害、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β−インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するためのRNAi)、筋萎縮性側索硬化症、てんかん(ガラニン、神経栄養因子)およびその他の神経学的障害、がん(エンドスタチン、アンジオスタチン、TRAIL、FAS−リガンド、インターフェロンを含めたサイトカイン;VEGFまたは多剤耐性遺伝子の産物に対するRNAiを含めた、RNAi)、糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型(ジストロフィン、ミニ−ジストロフィン、インスリン様増殖因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンに対するRNAi)およびベッカー型を含めた、筋ジストロフィー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α−L−イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠損症(アデノシンデアミナーゼ)、糖原病(例えば、ファブリー病[α−ガラクトシダーゼ]やポンペ病[リソソームの酸性α−グルコシダーゼ])およびその他の代謝の欠陥、先天性肺気腫(α1−アンチトリプシン)、レッシュ−ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン−ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ−サックス病(リソソームのヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ)、網膜変性疾患(および眼や網膜のその他の疾患;例えば、黄斑変性についてのPDGF)、実質臓器、例として、脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]、神経膠芽腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]を包含する)、肝臓、腎臓、うっ血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含めて、心臓(例えば、タンパク質ホスファターゼ阻害剤I(I−1)、ホスホランバン、serca2a、ホスホランバン遺伝子を制御するジンクフィンガータンパク質、Barkct、β2−アドレナリン作動性受容体、β2−アドレナリン作動性受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド−3キナーゼ(PI3キナーゼ)、カルサルシン(calsarcin)等を送達することによる)の疾患、関節炎(インスリン様増殖因子)、関節障害(インスリン様増殖因子)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することによる)、心臓移植の生存期間の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様増殖因子I)、腎臓欠損(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(抗炎症因子、例として、IRAPおよびTNFα可溶性受容体)、肝炎(α−インターフェロン)、LDL受容体の欠損(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2およびSCA3を含めた、脊髄脳運動失調、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患等が挙げられる。本発明はさらに、臓器移植の後に使用して、移植の成功を増加させること、および/あるいは臓器移植または(例えば、免疫抑制剤もしくはサイトカイン産生を遮断するための阻害性の核酸を投与することによる)補助療法の負の副作用を低下させることもできる。別の例として、例えば、骨折またはがん患者における外科的除去の後に、(RANKLおよび/またはVEGFを含めた)骨形態形成タンパク質を、骨の同種移植片と共に投与することができる。
【0089】
ポリペプチドをコードする異種のヌクレオチド配列は、レポーターポリペプチド(例えば、酵素)をコードする配列を包含する。レポーターポリペプチドは、当技術分野で公知であり、それらとして、これらに限定されないが、緑色蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼおよびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼの遺伝子が挙げられる。
【0090】
あるいは、核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載されているもの)、スプライソゾーム媒介性のトランス−スプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら、(1999)Nature Biotech.17:246;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照されたい)、遺伝子の発現抑制を媒介するsiRNAを含めた、干渉RNA(RNAi)(Sharpら、(2000)Science 287:2431を参照されたい)、またはその他の非翻訳RNA、例として、「ガイド」RNA(Gormanら、(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929;Yuanらに対する米国特許第5,869,248号)等をコードすることもできる。例示的な非翻訳RNAとして、多剤耐性(MDR)遺伝子の産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療するため、および/もしくは心臓に投与して、化学療法による損傷を予防するため)、ミオスタチンに対するRNAi(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)、またはVEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療するため)が挙げられる。
【0091】
また、ウイルスベクターは、宿主の染色体上の遺伝子座と相同性を共有し、それと組み換わる核酸も含むことができる。このアプローチを活用して、宿主細胞中の遺伝的欠損を修正することができる。
【0092】
異種の核酸はさらに、例えば、ワクチン接種のための免疫原性ポリペプチドをコードすることもできる。核酸は、当技術分野で公知の、目的の免疫原のいずれかをコードすることができ、それらとして、これらに限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIVのgagタンパク質由来の免疫原、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原等が挙げられる。
【0093】
パルボウイルスのワクチンとしての使用は、当技術分野で公知である(例えば、Miyamuraら(1994)Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507;Youngらに対する米国特許第5,916,563号、Mazzaraらに対する米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらに対する米国特許第5,863,541号を参照されたい。これらの開示全体が、参照により本明細書に組み込まれる)。抗原を、パルボウイルスのキャプシド中に提示することができる。あるいは、抗原を、組換えベクターのゲノム中に導入した異種の核酸から発現させることもできる。
【0094】
免疫原性ポリペプチドまたは免疫原は、これらに限定されないが、微生物、細菌、原虫、寄生虫、真菌および/またはウイルスによる疾患を含めた疾患から、対象を防御するのに適した任意のポリペプチドであってよい。例えば、免疫原は、オルソミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルス免疫原、例として、インフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質、またはウマインフルエンザウイルス免疫原)、あるいはレンチウイルス免疫原(例えば、ウマ伝染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原、例として、HIVまたはSIVのエンベロープGP160タンパク質、HIVまたはSIVのマトリックス/キャプシドのタンパク質、ならびにHIVまたはSIVのgag、polおよびenvの遺伝子産物)であり得る。また、免疫原は、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルス免疫原、例として、ラッサ熱ウイルスのヌクレオカプシドタンパク質およびラッサ熱エンベロープ糖タンパク質)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニア、例として、ワクシニアのL1遺伝子もしくはL8遺伝子の産物)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原もしくは日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、エボラウイルス免疫原もしくはマールブルグウイルス免疫原、例として、NP遺伝子およびGP遺伝子の産物)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFVウイルス、CCHFウイルスおよびSFSウイルス)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、感染性ヒトコロナウイルス免疫原、例として、ヒトコロナウイルスのエンベロープ糖タンパク質、もしくはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原、もしくはトリ伝染性気管支炎ウイルス免疫原)であってもよい。免疫原はさらに、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えば、CMV免疫原、EBV免疫原、HSV免疫原)、流行性耳下腺炎免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素もしくはその他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎もしくはC型肝炎)の免疫原、または当技術分野で公知の任意のその他のワクチン免疫原であってもよい。
【0095】
あるいは、免疫原は、任意の腫瘍細胞抗原またはがん細胞抗原であってもよい。好ましくは、腫瘍抗原またはがん抗原は、がん細胞の表面上に発現する。例示的ながん細胞抗原および腫瘍細胞抗原が、S.A.Rosenberg、(1999)Immunity 10:281)に記載されている。その他の例示的ながん抗原および腫瘍抗原として、これらに限定されないが、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE−1/2、BAGE、RAGE、NY−ESO−1、CDK−4、β−カテニン、MUM−1、カスパーゼ−8、KIAA0205、HPVE、SART−1、PRAME、p15、MART−1(Coulieら、(1991)J.Exp.Med.180:35)を含めた、メラノーマ腫瘍抗原(Kawakamiら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515;Kawakamiら、(1994)J.Exp.Med.、180:347;Kawakamiら、(1994)Cancer Res.54:3124)、gp100(Wickら、(1988)J.Cutan.Pathol.4:201)、ならびにMAGE抗原、すなわち、MAGE−1、MAGE−2およびMAGE−3(Van der Bruggenら、(1991)Science、254:1643);CEA、TRP−1、TRP−2、P−15およびチロシナーゼ(Brichardら、(1993)J.Exp.Med.178:489);HER−2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン(endosialin))、TAG72、AFP、CA19−9、NSE、DU−PAN−2、CA50、SPan−1、CA72−4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c−erbB−2タンパク質、PSA、L−CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制因子タンパク質(Levine、(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623);ムチン抗原(国際特許公開第WO90/05142号);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺の酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;ならびに以下のがん、すなわち、メラノーマ、腺がん、胸腺腫、リンパ腫、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚部がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がんおよびその他に関連する抗原(例えば、Rosenberg、(1996)Ann.Rev.Med.47:481〜91を参照されたい)が挙げられる。
【0096】
あるいは、異種のヌクレオチド配列は、望ましくは、in vitro、ex vivoまたはin vivoにおいて細胞中で産生される任意のポリペプチドをコードすることもできる。例えば、パルボウイルスベクターを、培養細胞中に導入し、発現した遺伝子産物を、そこから単離することができる。
【0097】
当業者であれば、目的の異種の核酸(複数可)を、適切な制御配列と作動可能に結合させることができることを理解するであろう。例えば、異種の核酸を、発現調節エレメント、例として、転写/翻訳の制御シグナル、複製開始点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、エンハンサー等と作動可能に結合させることができる。
【0098】
当業者であれば、多様なプロモーター/エンハンサーエレメントを、所望のレベルおよび組織特異的発現に応じて使用することができることを理解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに応じて、構成的であってもまたは制御可能であってもよい。プロモーター/エンハンサーは、未変性または外来性であってよく、天然または合成の配列であってよい。外来性により、転写開始領域が、当該転写開始領域を導入する野生型宿主中では見出されないことを意図する。
【0099】
プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞もしくは治療しようとする対象にとって未変性であってもよく、かつ/または異種の核酸にとって未変性であってもよい。プロモーター/エンハンサーエレメントは一般に、目的の標的細胞中で機能するように選ばれる。プロモーター/エンハンサーエレメントは、場合により、哺乳動物のプロモーター/エンハンサーエレメントであってもよい。さらに、プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的であってもまたは制御可能であってもよい。
【0100】
本発明は、これまではサイズの限界のために制限されていたパルボウイルスベクター中に、制御可能な発現調節エレメントを含むことを促進する。核酸の送達のための制御可能なプロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的なプロモーター/エンハンサーエレメントであり得、それらとして、(心筋、骨格筋および/または平滑筋を含めた)筋肉に特異的な、(脳に特異的なものを含めて)神経組織に特異的な、(網膜に特異的なものおよび角膜に特異的なものを含めて)眼の、肝臓に特異的な、骨髄に特異的な、膵臓に特異的な、脾臓に特異的な、ならびに肺に特異的なプロモーター/エンハンサーエレメントが挙げられる。その他の誘導性のプロモーター/エンハンサーエレメントは、ホルモン誘導性エレメントおよび金属誘導性エレメントを包含する。例示的な誘導性のプロモーター/エンハンサーエレメントとして、これらに限定されないが、Tet on/offエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクダイソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、およびメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0101】
異種の核酸配列(複数可)が、標的細胞内で、転写され、次いで、翻訳される実施形態では、特異的な開始シグナルが、挿入したタンパク質コード配列の効率的な翻訳に必要となり得る。これらの外来の翻訳制御配列は、ATG開始コドンおよび隣接配列を包含することができ、天然および合成の両方の多様な起源の配列であり得る。
【0102】
異種の核酸のサイズに対する特定の限定はない。特定の実施形態では、異種の核酸は、少なくとも約15、18、24、50、100、250、500または1000ヌクレオチド長以上である。
【0103】
また、本発明は、薬学的に許容される担体中に、本発明の組成物を含む医薬製剤も提供する。「薬学的に許容される」により、生物学的にも別の点でも望ましい材料を意味する。すなわち、材料を、実質的に有害な生物学的作用を引き起こすことも、当該材料を含有する組成物のその他の構成成分のうちのいずれとも有害な様式で相互作用することもなく、選択された粒子および/またはそれらの集団と併せて対象に投与することができる。薬学的に許容される担体は、ヒトおよび本発明のその他の対象への投与または送達に適している。当業者には周知であろうが、担体は当然ながら、活性成分のいかなる分解も最小限に留め、対象におけるいかなる有害な副作用も最小限に留めるように選択されるであろう(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science;最新版を参照されたい)。医薬製剤、例として、本発明のワクチンまたはその他の免疫原性組成物は、免疫原性量の本発明のPIV粒子を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含むことができる。例示的な薬学的に許容される担体として、これらに限定されないが、無菌の発熱性物質を含有しない水および無菌の発熱性物質を含有しない生理学的食塩水が挙げられる。
【0104】
また、本発明は、目的の核酸を細胞に送達する方法も提供し、これらの方法は、細胞を、目的の核酸およびプロテアソーム阻害剤を含むパルボウイルスベクターと接触させるステップを含む。
【0105】
さらなる態様として、本発明は、目的の核酸を対象に送達する方法を提供し、これらの方法は、目的の核酸およびプロテアソーム阻害剤を含むパルボウイルスベクターを、対象に投与するステップを含む。
【0106】
パルボウイルスベクターとプロテアソーム阻害剤は、別個に、または同じ組成物として、場合により、医薬製剤として投与され得る。別個に投与する場合、パルボウイルスベクターとプロテアソーム阻害剤は、場合により、同時に(例えば、相互に数分または数時間以内に)投与されてもよい。
【0107】
本発明の方法は、獣医学的および医学的の両方の適用例において有用である。適切な対象は、トリおよび哺乳動物の両方を包含する。用語「トリ」として、本明細書で使用する場合、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコが挙げられるが、これらに限定されない。用語「哺乳動物」として、本明細書で使用する場合、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ等が挙げられる。ヒト対象は、新生児、乳児、青少年および成人を包含するが、これらに限定されない。
【0108】
対象に投与すべきパルボウイルスベクターの投与量は、投与様式、標的の組織または臓器、治療しようとする疾患または状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクター、および送達しようとする核酸によって異なり、日常的に決定することができる。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、10、1014または1015形質導入単位(transcuding unit)以上の、好ましくは、約10、10、または10〜1012もしくは1013形質導入単位のウイルス力価である。
【0109】
同様に、プロテアソーム阻害剤の投与量も、日常的に決定することができ、投与経路、標的の組織または臓器、特定のプロテアソーム阻害剤、対象、および通常の技能をもつ作業者の範囲に属するその他のパラメータと共に変化させる。一般に、プロテアソーム阻害剤は、パルボウイルスベクターによる形質導入を増強するのに有効な量で投与する。
【0110】
特定の実施形態では、ベクターもしくはプロテアソーム阻害剤のいずれか、または両方の2回以上の投与(例えば、2、3または4回以上の投与)を利用して、所望のレベルの核酸の発現を、種々の間隔、例えば、1日1回、週1回、月1回、年1回等の一定期間にわたり達成することができる。
【0111】
例示的な投与様式として、経口、直腸、経粘膜、外用、鼻腔内、くも膜下腔内、眼内、経皮、吸入、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、[心筋、骨格筋および/または横隔膜筋への投与を含めた]筋肉内ならびに関節腔内)投与等、さらに、直接的な組織または臓器への注入が挙げられる。
【0112】
特定の実施形態では、本発明を実行して、これらに限定されないが、筋ジストロフィー[デュシェンヌ型筋ジストロフィーもしくはベッカー型筋ジストロフィーを包含する]、血友病A、血友病B、多発性硬化症、糖尿病、ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、がん、関節炎、筋消耗、心臓疾患[先天性心不全もしくは末梢動脈疾患を包含する]、内膜過形成、神経学的障害[てんかんを包含する]、ハンチントン病、パーキンソン病、またはアルツハイマー病、自己免疫疾患、嚢胞性線維症、サラセミア、ハーラー病、クラッベ病、フェニルケトン尿症、バッテン病、脊髄脳運動失調、LDL受容体の欠損、高アンモニア血症、貧血、関節炎、黄斑変性を含めた、網膜変性障害、アデノシンデアミナーゼ欠損症、またはがん[腫瘍形成がんを包含する]を包含する状態を有するかまたはそれらについてのリスクがある対象を治療する。
【0113】
本発明を、記載してきたが、以下の実施例で、より詳細に説明する。これらの実施例は、例証する目的に限って本明細書に包含するに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0114】
<AAV2ベクターおよびAAV8ベクターを用いた研究>
AAVベクターを使用する、野生型アデノ随伴ウイルス(AAV)の4680ヌクレオチド長のゲノムよりも大きい遺伝子の送達は、効率が悪い。この研究では、AAV中にパッケージした5.6kbの第VIII因子の発現カセットを使用して、FDAの承認を得ているプロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブ)をベクター送達と併用した場合の治療の効果を、in vivoにおいて試験した。血友病マウスにおいて、肝臓内へのベクター送達の結果、1年超の経過観察にわたり持続した第VIII因子の発現が生じた。AAV2の第VIII因子ベクターまたはAAV8の第VIII因子ベクターと共に与えた、単回用量のボルテゾミブはそれぞれ、発現を、平均して約600%および約300%増強した。さらに、血友病Aイヌ(n=4)における、AAV8.イヌFVIII(1×1013vg/kg)とボルテゾミブとの同時投与の結果、未治療の血友病Aイヌ(n=3)またはベクター単独を投与したイヌ(n=3)と比較して、全血凝固時間(WBCT)の完全な正常化および出血頻度の90%の低下も、最長32カ月にわたり生じた。FDAの承認を得ている薬物(ボルテゾミブ)と、過大な導入遺伝子を運ぶAAVベクターとの組合せ療法による、血友病Aイヌの表現型の2年超にわたる矯正の妥当性が確認されたことによって、ヒト遺伝子療法における治療対象の顕著な拡大が促進される。
【0115】
<in vivoにおける、プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブの用量>
これらの研究の主要な目標は、小型および大型の動物において、FDAの承認を得ている薬物ボルテゾミブと、AAV導入遺伝子用ベクターとを使用する「組合せ療法」の妥当性を確認することであった。提示する研究は、プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標)としてもまた公知である)の使用を記載する。これは、この薬物が、臨床における使用について現時点でFDAの承認を得ている唯一のプロテアソーム阻害剤であるからである。ボルテゾミブは、ほとんどの化学療法と同様、体表面積に基づいて投与される。大型動物の研究については全て、FDAの承認を得ている用量(1.3mg/m)を使用した。しかし、マウスについては、前臨床毒性データから、0.5mg/キログラム体重のボルテゾミブの安全な用量が確立されている23。AAVベクターがない状態で、0.5mg/kgの用量を与えたマウスは、プロテアソーム阻害剤を忍容し、副作用も血液学的パラメータの変化も明らかに生じないことが確立された。追加のマウスを、より高い用量(1.0mg/kgのボルテゾミブ)を用いて試験したが、時折、この用量を与えたマウスは、活動および摂食の減少を示した。したがって、以前の前臨床における毒性の研究および解析に基づいて、プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブを、マウスの研究全てにおいて、0.5mg/kgで、単回の門脈注射により、AAVベクターと同時投与して与えた。マウスにおける投与量は、臨床的に推奨されている体表面積ではなく、キログラム体重当たりに基づいて計算したにもかかわらず、マウスにおいて使用した総用量は、本明細書に記載するイヌの研究において使用した総用量とおおよそ同等である。
【0116】
<AAVベクターおよび追加の薬物>
これらの研究で使用した第VIII因子発現ベクターは、これまでに記載されている。このベクターは、合成的に誘導した短い肝臓特異的プロモーター/エンハンサーにより推進される、イヌのBドメイン欠失(BDD)FVIII(cFVIII)cDNA、およびそれに続く、キメラのイントロン(IGBP/enh/イントロン)を含有する。第IX因子ベクターは、これまでに記載されており、CMVエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーターの転写制御下にあるhFIX cDNA(1.4kb)を包含する4.2kbの発現カセットを含有する(rAAV−CBA−hFIX)22。全てのベクターを、以前の記載に従って39、UNC Virus Vector Core Facilityにおいて生成し、力価を測定した。これらのベクターは、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードし、CMVプロモーターにより推進される、一本鎖のかつ自己相補的なAAV2(総サイズ:約1.5kb);CBAプロモーターにより推進される、AAV8のキャプシドを用いてキャプシド形成したホタルルシフェラーゼ;ならびにヒト第IX因子(hFIX)を発現するAAV2およびAAV8を包含した。ボルテゾミブ(Millennium Pharmaceutical Co、Cambridge、MA)を、注射のために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で希釈した。MG132(Calbiochem、La Jolla、CA)を、70%エタノールを用いて溶解させて、保存液としての20mMとした。デキサメタゾンを、Sicor Pharmaceuticals Inc、Irvine、CAから、注射用液剤として購入した。
【0117】
<細胞培養およびFACScan解析>
293T細胞を、9%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシン溶液を補充したダルベッコ変法イーグル培地(Mediatech、Herndon、VA)中で増殖し、1の感染効率で形質導入を行った。形質導入後の第3〜5日に、細胞を、収集し、2%ホルムアルデヒド/0.2%グルタルアルデヒドを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に固定し、以前の記載に従って40FACScanにより解析した。
【0118】
<動物の飼育および研究:マウス>
FVIII欠損マウス(FVIII−/−)は、FVIIII遺伝子のエクソン16の標的欠失を有する。C57Bl/6 FIX−/−マウスは、FIX遺伝子の第3エクソンからのプロモーターの標的欠失を有する。FVIII−/−マウスおよびFIX−/−マウスは、組織内で繁殖させた。野生型C57B6マウスは、7〜8週齢におけるルシフェラーゼベクターの送達のために、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から購入した。血友病マウスに、麻酔を、全ての手順について2.5%アベルチン(Avertin)を使用して施した。全ての血漿試料を、後眼窩神経叢から、3.2%クエン酸ナトリウム中に収集し、−80℃で保存した。後眼窩からの血液の収集およびバイオルミネセンスの撮像は、イソフルラン麻酔下で実施した。
【0119】
FIX−/−マウスに、200μlの総体積中の3×1010gc/動物のAAV2.hFIXベクターまたはAAV8.hFIXベクターの門脈注射を、AAV送達時に単回用量のボルテゾミブ(0.5mg/kg)を加えてまたは加えずに与えた。FVIII−/−KOマウスに、3×1010gc/マウスのAAV2.cFVIIIまたはAAV8.cFVIIIの門脈注射を、ボルテゾミブまたはMG132(0.5mg/kg体重)と併せて与え、週術期の止血を支持するために、1mg/kgの組換えヒト第VIIa因子(NovoSeven、Novo Nordisk、デンマーク)の単回用量も与えた。予期されたイヌFVIII導入遺伝子に対する抗体媒介型免疫応答を回避するために、以前の記載に従って、全てのFVIII−/−マウスに、第−3、0および+3日に、シクロホスファミド(Sigma Aldrich、St Louis、MO)各100μgを3回腹腔内注射して与えた。
【0120】
C57B6マウスに、1011ベクターゲノム/マウスの、ホタルルシフェラーゼをCMVエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーターの転写制御下で発現するAAV8を、尾静脈を介して与えた。デキサメタゾン療法を与える群は、AAV送達の1〜2時間前に、腹腔内からの0.2mg/動物を用いて処理した。
【0121】
<動物の飼育および研究:血友病Aイヌ>
血友病Aイヌは、最初はScott−Ritchey Research Center、Auburn Universityで飼育されていたが、現在はUAB Medical Schoolで飼育されている血友病Aコロニーに由来する雑種のイヌであった。全ての動物を、AAALAC公認の施設において飼育した。治療したイヌは、重度血友病Aを有する雄(n=4)または雌(n=3)であった。7匹のイヌ全てに、出生の3〜4週間後に、AAV8.cFVIIIを腸間膜静脈投与により投与した41。また、4匹のイヌ(2匹の雌/2匹の雄)には、ベクターの投与時に、ボルテゾミブ(1.3mg/m)も投与した。1匹の雄イヌおよび1匹の雌イヌには、ベクターおよびボルテゾミブの投与の時に、IVデキサメタゾン(1.0mg/kg)を投与した。
【0122】
<マウスにおける、凝固第VIII因子および凝固第IX因子の活性アッセイ、ならびにイヌ第VIII因子のベセスダ(Bethesda)インヒビター抗体アッセイ>
マウス血漿中のイヌFVIII活性を、Coatest SP4キット(Chromogenix、DiPharma、West Chester、OH)により、製造元の指示に改変を加えて従って測定した。正常イヌ血漿(100パーセント活性=1IU/mlとみなす)を、プールしたFVIII−/−マウス血漿中に段階希釈して、検量線を生成した。マウス中のイヌFVIIIに対する中和抗体を、記載に従って42、ベセスダアッセイにより、START4 Coagulation Analyzer(Diagnostica Stago、Asnieres、フランス)を使用して測定した。ヒト第IX因子を、以前の記載に従って、一段階第IX因子活性アッセイ(FIX特異的aPTT)に基づいて、START4 Coagulation Analyzer(Diagnostica Stago、Asnieres、フランス)を使用して測定した43
【0123】
<イヌにおける、FVIII活性、凝固アッセイおよびベセスダアッセイ>
血液試料を、記載に従って44、正常対照、未治療のFVIII対照、および治療した血友病Aイヌから得た。全血凝固時間(WBCT)およびベセスダ力価を、以前の記載に従って測定した。WBCTアッセイを、凝血塊を形成するに至らない場合には、第20分時に止めた。
【0124】
<肝臓の細胞核および細胞質の抽出物の調製>
核および細胞質の画分を、記載45に、軽微な改変を加えて従って単離した。マウス肝臓を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて灌流し、氷上で刻み、加圧型細胞破砕装置を使用してホモジナイズした(緩衝液:250mMスクロース、50mM Tris−HCl(pH7.5)、25mM KCl、5mM MgCl、0.5%NP−40、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))。核およびその他のオルガネラを、Sorvall臨床用遠心分離機中、3,000rpmで10分間遠心分離することにより収集した。上清を、40μmのポアサイズのフィルターを使用してろ過し、細胞質として使用した。多層化ペレットをさらに処理して、蒸留水中に溶解させた核の抽出物を得た。
【0125】
<in vivoにおけるバイオルミネセンスの撮像>
AAV8.ルシフェラーゼベクターの注射の1週後、マウスに、150μg/gのD−ルシフェリン(Biotium、Hayward、CA)/PBSを腹腔内注射した。バイオルミネセンスの撮像を、CCDカメラ(IVIS、Xenogen)を用いて、注射のぴったり15分後に開始した。生きている全身の撮像から得られたシグナル強度を、総光子束(光子/秒/cm)として表す。
【0126】
<イヌ第VIII因子導入遺伝子およびホタルルシフェラーゼ導入遺伝子の定量的PCR(Q−PCR)>
cFVIIIのDNAのQ−PCRを、第VIII因子ベクター送達の2週間後に、マウス肝臓から単離したゲノムDNAに対して、Bio−Rad(Hercules、CA)製のiQ SYBR Greenキットを使用して実施した11。cFVIIIのDNAのコピー数を、イヌBDD−FVIIIのDNAをコードする直線化されたプラスミドを用いて生成し、プールしたナイーブC57マウス由来のゲノムDNA中に1×10〜1個のコピー/反応物に段階希釈した標準に対して定量化し、マウスβ−アクチンについて正規化した。イヌFVIIIについて使用したプライマー配列は、以前に記載された配列と同一であった11,17。ルシフェラーゼDNAについてのQ−PCRを、ルシフェラーゼベクターの送達の1週間後に実施した。バイオルミネセンスの撮像に続いて、マウスを屠殺し、ゲノムDNAを、肝臓、脳、心臓、肺、脾臓、胃、腎臓、回腸、筋肉および精巣から抽出した。ルシフェラーゼおよびベータアクチンのQ−PCRを、Bio−Rad(Hercules、CA)製のiQ SYBR Greenキットを使用して、単離したゲノムDNAに対して実施した。ルシフェラーゼ遺伝子産物およびイヌFVIII遺伝子産物のコピー数を、定量化し、マウスβ−アクチンについて正規化し、細胞当たりのベクターのコピー数として表した。全てのQ−PCR反応を、iCycler(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)上で実施した。
【0127】
<血友病Bマウスにおける、プロテアソーム阻害剤の、野生型のサイズの第IX因子発現カセットを運ぶAAV血清型に対する効果>
ボルテゾミブを使用する組合せ療法の、血友病動物のin vivoにおける矯正に対する効果を試験するための研究を実施した。最初に、野生型AAVとおよそ同じサイズのゲノムを運ぶベクターを、マウスモデルにおける血友病Bの矯正のために使用した。以前に記載された22CMVエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーターにより推進されるヒト第IX因子発現カセットを運ぶAAVベクターを、ベクターの送達時に単回用量のボルテゾミブを加えてまたは加えずに、門脈を介して血友病Bマウスに注入した。図2Aに示すように、ssAAV2.FIX治療マウスは、20週間の観察にわたり、平均して2.4%の第IX因子の活性を示した。ボルテゾミブによる治療の結果、同じ期間にわたり、平均して4.3%の第IX因子の発現が生じた。このことは、第IX因子の発現の83%の増加に相当する。AAV8を使用する、肝臓に方向付けた第IX因子の発現は、AAV2よりも効率的であり、ベクター単独を与えたマウスは、20週間にわたり、平均して40%の第IX因子の活性を発現した。20週間にわたる第IX因子の発現は、単回用量のボルテゾミブを、AAV8ベクターと同時投与して与えたマウスにおいては中程度に増大し、平均して約24%高い第IX因子の活性を示した(図2B)。
【0128】
<血友病Aマウスにおける、プロテアソーム阻害剤の、野生型よりも大きなサイズのcFVIII発現カセットを運ぶAAV血清型に対する効果>
大型の導入遺伝子カセットFVIIIを使用する組合せ療法の、同じ遺伝的背景(C57B1/6)を使用する血友病Aマウスにおける効果を解析するための研究を実施した。第VIII因子のcDNA(〜7.1kb)は、血液凝固に寄与しない大型のBドメイン(約2.7kb)を含有する。Bドメインをコードする大半の配列を除去したら、4.5kbのcFVIIIのcDNA配列を、AAVベクター中に組み込むことができる。にもかかわらず、プロモーターおよびその他の必要な転写調節エレメントを付加すると、これらのベクターは、5.6kbの過大なAAV発現カセットとなる。AAV2ベクターおよびAAV8ベクターは、5.6kbのFVIII発現プラスミドを使用して生成した。ウイルスを、qPCRによる総粒子数、電子顕微鏡法によるウイルス粒子の完全性、銀染色によるキャプシドの比、およびアルカリゲル電気泳動によるDNAゲノムのサイズについて特徴付けた。ベクターのパラメータは全て、マウスおよびイヌの両方の研究のための複数生成工程間において、以前の研究を用いて一貫性をもたせた。FVIII研究のために、プロテアソーム阻害剤であるMG−132(Z−LLLともまた呼ばれる)およびボルテゾミブを選び、したがって、MG−132を、臨床的に承認を得ているが未試験の薬剤であるボルテゾミブと比較することができた。
【0129】
MG−132およびボルテゾミブの両方から、ベクター単独を与えたマウスと比較して、FVIII導入遺伝子の発現の増加が生じた(図2Cおよび2D)。図2Cで示すように、FVIII活性は、AAV2ベクター単独の投与後の第8週まで検出不能であり、一方、第VIII因子は、MG132の同時投与を与えたマウスにおいては第2週に検出可能となり、ボルテゾミブを与えたマウスにおいては第1週に検出可能となった。発現は、平均して、MG132により、150%超、およびボルテゾミブにより、550%超、増加した。
【0130】
プロテアソーム阻害剤なしでAAV2ベクターを与えたマウスにおいて観察された発現開始の遅延とは対照的に、AAV8ベクター単独を与えたマウス(図2D)は、形質導入後の第1週における最も早い検査において、検出可能なイヌFVIIIを有した。これらのマウスにおいては、イヌ第VIII因子は、第8週にピークに達し、次いで、減少し始めた。第VIII因子の発現の若干の増加が、AAV8のMG−132との同時投与後の最初の1カ月間は観察されたが、第VIII因子の発現の改善は、ボルテゾミブを使用して観察された改善ほどには顕著でも持続性でもなかった。ボルテゾミブの同時投与により、最初のイヌ第VIII因子の発現が改善され、その持続性も改善された。平均して、第VIII因子の発現は、単回用量のボルテゾミブを与えたマウスにおいては、AAV8.cFVIIIベクター単独を与えたマウスと比較した場合、259%高かった。肝臓のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)ならびに全血球数の解析は、ベクター単独を与えたマウスまたはボルテゾミブと組み合わせて与えたマウスのいずれにおいても、肝臓のまたは血液学的な毒性のいかなる証拠も示さなかった。プロテアソーム阻害剤の、wtAAVサイズの第IX因子導入遺伝子および過大な第VIII因子導入遺伝子から生成したベクターに対する効果の比較を容易にするために、同じ時点を、図2Aおよび2B(第IX因子)ならびに図2Cおよび2D(第VIII因子)のグラフに描く。ボルテゾミブによる治療は、過大な導入遺伝子の発現の、より小さな導入遺伝子の増大と比して、大きさに比例したより大きな増大を伴った。この結果は、同一の(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子−CAT)導入遺伝子カセットまたは異種の(CFTR)導入遺伝子カセットを使用したin vitroにおける研究を裏付けた。
【0131】
<プロテアソーム阻害剤は、in vivoにおいて、ゲノムの核の蓄積を増加させる>
次に、血友病Aマウスを、第VIII因子ベクターとプロテアソーム阻害剤との組合せ療法を用いて治療し、ベクター配列の存在量を、細胞質中と核コンパートメント中とで比較した。ベクターの投与の2週間後に、ボルテゾミブを加えた場合または加えなかった場合の、AAV8.FVIII治療マウスに由来する肝臓細胞の細胞質総画分および核総画分を、ベクターのゲノムが細胞内で蓄積する場所を決定するために、精製し、調べた。細胞質ではなく核中に持続するゲノムの比が、単回用量のボルテゾミブにより増加し、このことは、ウイルスの感染に影響する役割を支持している。これらの結果は、過大なベクターのゲノムを、細胞質から核構造へ差し向け、それに続く、ベクターの脱コートおよび/またはゲノムの補完のステップが生じ得る経路を示唆しており、こうした経路は、最近の報告によっても示唆されている(表1)。
【0132】
<デキサメタゾンは、異所性のAAVベクターの散乱を低下させて、肝臓に方向付けた遺伝子療法の間の肝臓への形質導入を比例的に増加させる>
ボルテゾミブおよびデキサメタゾンは一般に、臨床における腫瘍学的療法において一緒に使用されている。ボルテゾミブ療法単独と比較して、デキサメタゾンとボルテゾミブとの組合せが、ボルテゾミブ単独療法に対する不完全な臨床応答の状況におけるデキサメタゾンの追加と同様に、有効性を増加させている24、25、26。また、この臨床パラメータは、過大な導入遺伝子カセットのベクターの形質導入を増強するのにも重要であるかどうかを決定するために、多剤組合せ療法におけるベクターの形質導入の成果を評価した。以前の研究は、肝臓に方向付けた遺伝子療法の間に、レポーター遺伝子を発現するAAVベクターの異所部位における取込みを減少させることを目指して、いくつかの追加の、薬理作用を示す物質を調べるために実施された。これらの早期の研究の間に、デキサメタゾンをベクターと同時投与した場合に、異所性のベクターの散乱を減少させる傾向が観察された。このことは、心臓、脾臓および膵臓を含めた、いくつかの臓器におけるより低い遺伝子の発現およびゲノムの持続に反映され、肝臓への送達は、中程度の増加を示した(図3および表2)。デキサメタゾンのボルテゾミブとの臨床における使用、およびこれらの結果に基づいて、研究を実施し、この場合、AAV8.cFVIII/ボルテゾミブマウスの追加の群を、単回用量の副腎皮質ステロイドのデキサメタゾンを同時に用いて治療し、持続性の導入遺伝子の発現に対する効果を調べた。
【0133】
<FVIIIノックアウトマウスにおける、AAV.cFVIIIの発現の薬理学的増強の長期観察>
ボルテゾミブが第VIII因子の発現を増強する可能性を確立するに至り、追加のマウスを、AAV2ベクターおよびAAV8ベクターを用いて治療して、ボルテゾミブの増強の持続期間を決定した。AAV2単独を与えたマウス中の、循環している第VIII因子の活性は、最初に、第8週に検出可能となり、1年の観察全体を通して、このアッセイの検出の下限値(約1%の活性=0.01IU/ml)付近で変動した(図4)。しかし、ボルテゾミブの同時投与の結果、ほとんどのマウスにおいて、第1週に、検出可能な第VIII因子の活性が生じ、活性は、第8週にピーク(0.11±0.06IU/ml)に達し、3%超で1年間維持された。AAV8ベクターからのcFVIIIの発現は、第8週にピーク(0.51±0.38IU/ml)に達してから、徐々に減少して、正常なヒトの第VIII因子の活性の約10%のプラトーに達し、この状態は、第52週まで維持された(最後の観察、0.10±0.019IU/ml)。対照的に、AAV8.cFVIIIと単回用量のボルテゾミブとを用いて治療したマウスは、図4に示すように、最初の時点(第1週)でさえ、ベクターのみの群のピーク値を超え、1年の観察全体を通して、正常の>50%のcFVIII活性を維持した(第52週におけるcFVIII活性、0.67±0.58IU/ml)。これらの研究では、ボルテゾミブ治療マウスにおける全体的な発現パターンは、デキサメタゾンの追加の有無にかかわらず類似した。
【0134】
<FVIIIノックアウトマウスにおける、イヌFVIII中和抗体の発生>
表3に示すように、各治療群中の数匹のマウスが、Sarkarらが概要を述べているスケジュールに従って、シクロホスファミドの投与を実施したにもかかわらず、ベクターへの暴露後の第2〜20週の種々の時間において、FVIII中和抗体を発生させた。インヒビター力価は、抗体を発生させたそれら数匹のAAV2.cFVIII治療マウスにおいては、検出の下限値付近であり、これらのボーダーラインの力価の意義は、不明確である。Jiangらが以前に報告したように16、インヒビターは、AAV2.cFVIIIに関してよりも、AAV8.cFVIIIに関して頻繁に発生し、インヒビターが、プロテアソーム阻害剤なしで、AAV8.cFVIIIを与えた6匹/10匹のマウスにおいて見られた。ボルテゾミブの同時投与は、AAV8血清型を用いて治療した動物におけるインヒビターの形成の発生率を減少させるように見えた(5匹/15匹のマウス、33.3%)。副腎皮質ステロイドとボルテゾミブとの組合せには、インヒビターの形成の最も低い率を伴い(AAV8.cFVIII/ボルテゾミブ/デキサメタゾンマウスの20%対ベクターのみのマウスの60%)、このことは、この組合せ療法から利益が得られる可能性があることを示唆している。
【0135】
<ボルテゾミブを、AAVベクターと同時に与えた血友病Aイヌの表現型の改善>
同一のAAV−cFVIIIベクターカセットを使用して、研究を実施して、プロテアソーム阻害剤による大型の導入遺伝子の発現の増大が、イヌ血友病Aモデルを変えるかどうかを決定した。表4に示すように、総数7匹の血友病Aイヌを、AAV8.cFVIIIを用いて治療し、経過観察を少なくとも10カ月間行った(最も長い経過観察=32カ月間)。3匹の血友病Aの仔イヌに、1×1013vg/kgの限界用量のAAV8.cFVIII(AAV8)を、門脈を介して与えた。4匹の血友病Aの仔イヌに、同じAAV療法を与え、FDAの承認を得ている用量(1.3mg/m)のプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブの単回I.V.投与も与えた。ベクターおよびプロテアソーム阻害剤は、忍容性良好であった。具体的には、肝臓トランスアミナーゼの上昇、神経学的症状、または血液学的パラメータの変化は観察されなかった。
【0136】
血漿凝固の矯正の可能性を、全血凝固時間(WBCT)を使用して定量化した。止血が正常なイヌにおいて凝固が生じるまでの時間は、6〜10分のWBCTであり、未治療の血友病AイヌにおけるWBCTは、20分超である。最も早い時点における組合せ療法の潜在的な効果を検査すると、AAV8単独の送達後の第1週における平均WBCTは、16分超であり、それに比較して、ボルテゾミブ+AAV8を与えたイヌでは、8.8分であった(図5および表4)。目覚しいことに、単回用量のボルテゾミブの効果は、数カ月にわたり明らかであった。ベクター送達に続く最初の10カ月(7匹のイヌ全てについて入手可能である経過観察の最低限の量)の間の矯正を検査すると、AAV8単独を与えた2匹の雄イヌについては、総数40回の個々のWBCT測定のうち4回のみ(10%)が正常範囲にあった。ボルテゾミブ+AAV8を与えた雄については、同じ観察期間の間に、44回の個々のWBCTアッセイのうち33回(75%)が完全に正常に戻った。AAV2およびAAV8の遺伝子療法のベクターを使用する肝臓への形質導入は、雌においては、雄においてよりも効率が低いことが以前に報告されたことがある11、29。ボルテゾミブ+AAV8を与えた雌イヌについては、10カ月の経過観察にわたり、40回の個々のWBCT測定のうち12回(30%)が正常範囲に矯正された。PIなしで、ベクターを与えた雌については、20個のWBCT値のうち1つ(5%)のみが正常範囲にあった。
【0137】
重要なことには、組合せ療法の血漿凝固を増大させる可能性が、出血の表現型の矯正に直接移行した(表4)。この系統の血友病Aイヌは典型的には、出血を約6回/年経験する。同じコロニーに由来する、年齢が一致する未治療の血友病イヌ3匹はそれぞれ、この研究と同時に観察した22カ月の間に、10、10および13回出血し、結果として、0.50±0.08回の出血/月の1カ月当たりの出血率を得た。AAV8.FVIIIベクター単独を与えたイヌは、0.80±0.26回の出血/月の平均出血頻度を示し、未治療の血友病イヌと有意には異ならなかった(P=0.23)。ボルテゾミブをベクターと共に与えたイヌは、0.07±0.08回の出血/月の平均を示し、このことは、一致、未治療の血友病イヌ(P<0.0001)、およびベクターのみにより治療したイヌ(P<0.003)と比較して特筆すべき改善であった。元々の治療群(n=4)を、現在、32カ月超にわたり追跡してきている。ボルテゾミブ+ベクターのイヌは、1および2回の自然出血をそれぞれ示したことがある。同じ期間の間に、ベクターのみイヌは、12および16回の出血をそれぞれ示してから、ベクターによる治療後の第16および25月に致命的な出血をそれぞれ経験した。
【0138】
血友病Aを、遺伝子療法を通して矯正することは、依然として現代医学の目標である。AAVベクターを使用する戦略には興味をそそられるが、第VIII因子のcDNAの送達は、wtAAVのパッケージング能力を上回ることから、これまでは制限されていた。過大な導入遺伝子カセットを運ぶAAVベクターの、細胞への形質導入は、効率が低いことが示されてきた。この効率の悪さは、薬理作用を示す物質、例として、プロテアソーム阻害剤の使用により顕著に克服することができる。これらの研究は、FDAの承認を得ているプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブとAAVベクターとを同時に投与することによって、大型の導入遺伝子の発現を必要とする疾患の持続性の矯正を改善することができることを示している。
【0139】
また、これらの研究は、血友病のマウスおよびイヌにおいて、AAVにより送達される過大な第VIII因子のcDNAの発現が、数倍増強され得ることも示している。発現の増強を、2つの異なる血清型のAAVベクターを使用して実証した。in vivoにおいて、効果は、さらなるプロテアソームによる治療がなくても、(血友病マウスにおいては、1年間超、および血友病イヌにおいては、2.5年間超)持続した。最も重要なことには、血友病Aイヌにおいては、単回用量のプロテアソーム阻害剤による療法が、限定的なAAVベクターの投与を安全に増大させた。AAVベクターは、薬物の不在下では、疾患の表現型を矯正することができなかった。結果として、ボルテゾミブの「組合せ療法」を与えたイヌのみが、重度の第VIII因子欠損の慢性、再発性かつ致死性の出血の合併症からの持続性の防御を示した。
【0140】
従来の単鎖(ssAAV)または自己相補性のゲノム構造(scAAV)のいずれかを有するAAVベクターを特徴付けることを目的とする研究では、AAV2.GFPの形質導入およびボルテゾミブの同時投与の後に、導入遺伝子を発現する細胞のパーセントの増加が観察された(図1)。in vitroにおいて、首尾よく形質導入された細胞の集団からの蛍光の量が、(75〜890の平均蛍光指数から)さらにより大きな程度で増大した。ボルテゾミブによる、自己相補性のベクターからの発現の増大は、ssAAVを用いて見られた増大とほとんど同一であり、このことは、ベクター鋳型の立体構造にかかわらず、共通の経路があることを示唆している。
【実施例2】
【0141】
<AAVベクターを用いたさらなる研究>
第VIII因子−/−マウスに、3×1010vg/動物の、過大な第VIII因子導入遺伝子をコードする一本鎖AAV血清型8ベクターを与えた(n=5マウス/治療群)。ベクター中に組み込まれているイヌ第VIII因子のcDNA配列を工学的に作製して、最適な哺乳動物のコドンの使用およびGCヌクレオチド含有量を得た。マウスに、門脈へのベクターの注入を、単独で、または0.5mgのプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(PI)/kgと組み合わせて与えた。コドン最適化が、凝固第VIII因子ベクターおよび凝固第IX因子ベクターからの発現を増加させることが確立されているが、PIが、より効率的なコドン最適化ベクターをさらに増大させることができるかどうかは確立されていなかった。ボルテゾミブの単回投与に続く、コドン最適化第VIII因子の発現の増大が、研究の長さ(12週間)全体を通して持続した(図6、上部の直線)。
【0142】
プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(PI)の0.5mg/kg I.V.を加えてまたは加えずに生理食塩水(NS)を用いる後肢膝関節の治療を与えた血友病のFVIII−/−マウスは、それに続く膝の傷害を加えた場合、破壊性滑膜炎の発症から防御されなかった(滑膜炎スコア、>5)。過大な導入遺伝子第VIII因子をコードするAAV血清型5ベクターを用いる治療を与え、それに続いて、傷害を与えたマウスは、病的な変化から部分的に防御された(滑膜炎スコア、3.89±0.86)が、PIとAAV5.FVIIIとを同時投与した結果、それに続く傷害からの最も大きな防御が生じた(滑膜炎スコア、2.77±0.45)(図7)。さらに、滑液を、AAV5.FVIIIを与えたマウスの関節から灌流しても、第VIII因子の活性を、一段階第VIII因子活性アッセイの感受性のレベルの範囲内では検出することができない(1%未満の第VIII因子)。しかし、AAV5.FVIIIの送達時にPIを用いて治療したマウスからの滑液は、測定可能な第VIII因子の活性を示す(1.1〜2.3%の活性)。
【0143】
これまでの実施例の記載は、本発明を例示するものであり、本発明を制限すると解釈してはならない。本発明は、以下の特許請求の範囲により定義され、それら請求項の均等物もそこに包含されるものとする。
【0144】
刊行物、特許出願、特許、ヌクレオチド配列、アミノ酸配列(例えば、GenBank(登録商標)データベース受託番号により同定されるもの)、および本明細書に引用するその他の参考文献は全て、参照される文および/または段落および/または表と関連性がある教示のために、それらの全体が参照により組み込まれている。
【0145】
[参考文献]
【表0A】

【表0B】

【表0C】

【表0D】

【表0E】

【0146】
【表1】

【0147】
【表2】

【0148】
【表3】

【0149】
【表4】

【0150】
【表5A】

【表5B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムに比して過大であるベクターと、
(b)プロテアソーム阻害剤と
を含む組成物。
【請求項2】
前記AAVベクターのゲノムのサイズが、約5.0kb超である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記AAVベクターが、二本鎖AAVベクターのゲノムを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記AAVベクターが、分断された導入遺伝子のAAVベクター含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記プロテアソーム阻害剤が、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))である、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記目的の異種の核酸が、凝固因子をコードする、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記凝固因子が、第VIII因子(FVIII)である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記目的の異種の核酸が、ジストロフィンをコードする、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記異種の核酸が、野生型ヌクレオチド配列に比して最適化されたコード配列を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記異種の核酸が、野生型非コード配列に比して最適化された非コード配列を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムに比して最適化された、請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
薬学的に許容される担体中に、請求項1から11のいずれかに記載の組成物を含む医薬製剤。
【請求項13】
目的の核酸を細胞に送達する方法であって、請求項1から11のいずれか1項に記載の組成物または請求項12に記載の医薬製剤を細胞内に導入するステップを含む方法。
【請求項14】
目的の核酸を対象に送達する方法であって、請求項1から11のいずれか1項に記載の組成物または請求項12に記載の医薬製剤を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項15】
目的の核酸を細胞に送達する方法であって、細胞に、
(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムと比較した場合、過大であるベクターと、
(b)プロテアソーム阻害剤と
を接触させるステップを含む方法。
【請求項16】
目的の核酸を対象に送達する方法であって、
(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムと比較した場合、過大であるベクターと、
(b)プロテアソーム阻害剤と
を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項17】
前記細胞が、筋肉細胞、または肝臓細胞、または関節もしくは骨軟骨の部位の細胞である、請求項13または15に記載の方法。
【請求項18】
前記AAVベクターを、プロテアソーム阻害剤の投与の前に、その後に、および/またはそれと同時に、いずれかの組合せで投与する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項19】
前記プロテアソーム阻害剤が、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))である、請求項13から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記目的の異種の核酸が、FVIIIをコードする、請求項13から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記目的の異種の核酸が、ジストロフィンをコードする、請求項13から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記異種の核酸が、野生型ヌクレオチド配列に比して最適化されたコード配列を含む、請求項13から21のいずれか1項に記載の方法
【請求項23】
前記異種の核酸が、野生型非コード配列に比して最適化された非コード配列を含む、請求項13から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムに比して最適化された、請求項13から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
(a)目的の異種の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、AAVベクターのゲノムが、野生型AAVゲノムと比較した場合、過大であるベクターと、
(b)プロテアソーム阻害剤と
を含むキット。
【請求項26】
前記目的の異種の核酸が、FVIIIをコードする、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記目的の異種の核酸が、ジストロフィンをコードする、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
前記プロテアソーム阻害剤が、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))である、請求項25から27のいずれか1項に記載のキット。
【請求項29】
対象において血友病Aを治療する方法であって、
(a)FVIIIをコードする異種のヌクレオチド配列を含むAAVベクターと、
(b)ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))と
を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項30】
前記対象がヒトである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記FVIIIをコードする異種のヌクレオチド配列が、FVIIIをコードする野生型配列に比して最適化されている、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記FVIIIをコードする異種のヌクレオチド配列が、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含む、請求項29から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記AAVベクターのゲノムが、野生型AAVベクターのゲノムに比して最適化されている、請求項29から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に、その後に、および/またはそれと同時に、いずれかの組合せで投与する、請求項29から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に投与する、請求項29から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記AAVベクターがAAV8型である、請求項29から35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記AAVベクターがAAV2型である、請求項29から35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記AAVベクターがAAV5型である、請求項29から35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
対象において筋ジストロフィーを治療する方法であって、
(a)ジストロフィンをコードする異種のヌクレオチド配列を含むAAVベクターと、
(b)ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))と
を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項40】
前記対象がヒトである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記ジストロフィンをコードする異種のヌクレオチド配列が、ジストロフィンをコードする野生型配列に比して最適化されている、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記ジストロフィンをコードする異種のヌクレオチド配列が、野生型非コード配列に比して最適化されている非コード配列を含む、請求項39から41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記AAVベクターのゲノムが、野生型AAVベクターのゲノムに比して最適化されている、請求項39から42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に、その後に、および/またはそれと同時に、いずれかの組合せで投与する、請求項39から43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記AAVベクターを、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))の投与の前に投与する、請求項39から43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記AAVベクターがAAV8型である、請求項39から45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記AAVベクターがAAV2型である、請求項39から45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記AAVベクターがAAV2型である、請求項39から45のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A−2B】
image rotate

【図2C−2D】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2013−518899(P2013−518899A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552100(P2012−552100)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/023715
【国際公開番号】WO2011/097456
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(500093834)ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル (14)
【Fターム(参考)】