説明

パワーステアリング装置

【課題】軸受とギヤケースとのメタルタッチ音の発生を低減すること。
【解決手段】ウォームシャフト2の基端側及び先端側をそれぞれ回転自在に支持する第1軸受4及び第2軸受11と、第2軸受11の外周面に付勢力を付与する付勢部材12と、ギヤケース3の内周面3bと第2軸受11の外周面との間に配置される弾性部材10bとを備える。ギヤケース3における第2軸受11の外周面を囲う内周面3bは、第2軸受11が付勢部材12の付勢力によってウォームホイール1に向けて移動できるように形成され、ギヤケース3の内周面3bには弾性部材10bが収容される環状溝32が形成され、環状溝32の中心Yは第1軸受4と第2軸受11とが同心状態である場合のウォームシャフト2の中心軸Xからウォームホイール1側へオフセットして設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーステアリング装置として、操舵軸に設けられたウォームホイールと噛み合うウォームシャフトの軸受をスプリングにて付勢することによって、ウォームホイールとウォームシャフトとの歯の隙間を調整するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−112784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のパワーステアリング装置では、車輪側からスプリングの付勢力を超える荷重が入力された場合には、スプリングが圧縮されてベアリングがハウジングの内周に当たり、メタルタッチ音が発生する。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、軸受とギヤケースとのメタルタッチ音の発生を低減できるパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ドライバーが操舵ハンドルに加える操舵力を補助するパワーステアリング装置であって、操舵ハンドルに連係する操舵軸に設けられるウォームホイールと、前記ウォームホイールに噛み合い、電動モータの駆動に伴って回転するウォームシャフトと、前記ウォームシャフトの基端側を回転自在に支持する第1軸受と、前記ウォームシャフトの先端側を回転自在に支持する第2軸受と、前記ウォームシャフトを収容するギヤケースと、前記第2軸受の外周面に付勢力を付与することによって前記ウォームシャフトを前記ウォームホイールに向けて付勢する付勢部材と、前記ギヤケースの内周面と前記第2軸受の外周面との間に配置される弾性部材と、を備え、前記ギヤケースにおける前記第2軸受の外周面を囲う内周面は、前記第2軸受が前記付勢部材の付勢力によって前記ウォームホイールに向けて移動できるように形成され、前記ギヤケースの内周面には前記弾性部材が収容される環状溝が形成され、当該環状溝の中心は前記第1軸受と前記第2軸受とが同心状態である場合の前記ウォームシャフトの中心軸から前記ウォームホイール側へオフセットして設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、弾性部材が収容される環状溝の中心がウォームシャフトの中心軸からウォームホイール側へオフセットして設けられるため、車輪側から弾性部材の付勢力を超える荷重が入力された場合には、第2軸受は弾性部材を圧縮しながらギヤケース内を移動するため、第2軸受がギヤケースの内周面に勢いよく当たることが防止される。したがって、メタルタッチ音の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)本発明の実施の形態に係るパワーステアリング装置を示す断面図である。(b)ギヤケースにおける第2軸受が収容される部分の断面図である。
【図2】図1(a)の部分拡大図である。
【図3】環状溝とギヤケースの長穴との位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、本発明の実施の形態に係るパワーステアリング装置100について説明する。
【0010】
パワーステアリング装置100は、車両に搭載され、ドライバーが操舵ハンドルに加える操舵力を補助する装置である。
【0011】
図1に示すように、パワーステアリング装置100は、操舵ハンドルに連係する操舵軸に設けられるウォームホイール1と、一端部に電動モータ7の出力軸7aが連結されウォームホイール1に噛み合うウォームシャフト2とを備える。電動モータ7の駆動に伴ってウォームシャフト2が回転し、ウォームシャフト2の回転が減速してウォームホイール1に伝達される。ウォームホイール1とウォームシャフト2にてウォーム減速機が構成される。
【0012】
電動モータ7から出力されたトルクは、ウォームシャフト2からウォームホイール1に伝達されて操舵軸にアシストトルクとして付与される。電動モータ7が出力するトルクは、操舵軸を構成する入力軸と出力軸との相対回転によって捩れるトーションバーの捩れ量に基づいて演算される操舵トルクに対応する。
【0013】
ウォームシャフト2は金属製のギヤケース3に収容される。ウォームシャフト2の一部には、ウォームホイール1の歯部1aと噛み合う歯部2aが形成される。ギヤケース3の内周面には歯部2aに対応する位置に開口部3cが形成され、その開口部3cを通じてウォームシャフト2の歯部2aとウォームホイール1の歯部1aとが噛み合う。
【0014】
ウォームシャフト2の電動モータ7側である基端側は、第1軸受4によって回転自在に支持される。第1軸受4は、環状の内輪と外輪の間にボールが介在されたものである。第1軸受4の外輪は、ギヤケース3に形成された段部3aとロックナット5との間で挟持される。第1軸受4の内輪は、ウォームシャフト2の段部2bとウォームシャフト2の外周に圧入されたジョイント6との間で挟持される。これにより、ウォームシャフト2の軸方向への移動が規制される。
【0015】
ウォームシャフト2の先端側は、断面がL字状の環状の弾性部材としてのL字リング10を介してギヤケース3の底部に収装された第2軸受11によって回転自在に支持される。第2軸受11は、環状の内輪と外輪の間にボールが介在されたものである。第2軸受11の内輪にはウォームシャフト2の先端部付近に形成された段部2cが係止される。
【0016】
第2軸受11はL字リング10の付勢力によってウォームシャフト2の段部2cに押し付けられるため、第2軸受11の軸方向のガタつきが低減される。つまり、L字リング10は、ギヤケース3の底部と第2軸受11の底部との間にて圧縮され、第2軸受11を軸方向に与圧している。
【0017】
ギヤケース3の外周面端部には、端面17aが平面状のフランジ部17が突出して形成される。フランジ部17には貫通孔13が形成され、ギヤケース3の内周面に開口する貫通孔13の開口部は、第2軸受11の外周面に臨んで形成される。貫通孔13内には付勢部材としてのコイルスプリング12が収装され、フランジ部17の端面17aに開口する貫通孔13の開口部は頭部14aを有するプラグ14によって閉塞される。
【0018】
フランジ部17の端面17aとプラグ14の頭部14aとの間にはOリング16が介装され、プラグ14は、頭部14aにてOリング16がフランジ部17の端面17aに対して押し付けられるまで圧入される。なお、プラグ14を貫通孔13内に圧入する代わりに、六角ボルトを貫通孔13内に螺合させて締結するようにしてもよい。
【0019】
コイルスプリング12は、プラグ14の先端面と第2軸受11の外周面との間にて圧縮された状態で貫通孔13内に収装され、ウォームシャフト2の歯部2aとウォームホイール1の歯部1aとの隙間が小さくなる方向に第2軸受11を付勢する。つまり、コイルスプリング12は、第2軸受11を介してウォームシャフト2をウォームホイール1に向けて付勢する。
【0020】
ギヤケース3における第2軸受11の外周面を囲う内周面3bは、第2軸受11がコイルスプリング12の付勢力によってウォームホイール1に向けて移動できるように形成される。具体的には、長穴形状に形成される。以下に、内周面3bの長穴について、図3を参照して詳しく説明する。
【0021】
内周面3bは、第1軸受4と第2軸受11とが同心状態である場合のウォームシャフト2の中心軸Xを中心とする第1半円弧面20と、第1半円弧面20の両端に連接しコイルスプリング12の付勢方向と平行な一対の平面21と、平面21に連接し平面21を介して第1半円弧面20と対称な第2半円弧面22とからなる長穴形状に形成される。このように、内周面3bは、第2軸受11が第1軸受4との同心状態からコイルスプリング12の付勢力によってウォームホイール1に向けて移動できるように形成される。なお、内周面3bの第1半円弧面20の中心を中心軸Xからコイルスプリング12側にオフセットして形成するようにしてもよい。
【0022】
次に、L字リング10について詳しく説明する。
【0023】
図2に示すように、L字リング10は、ギヤケース3の底部と第2軸受11の底部との間に配置される環状の第1弾性部10aと、ギヤケース3の内周面3bと第2軸受11の外周面との間に配置される環状の第2弾性部10bとを備える。ギヤケース3の底部には第1弾性部10aが収容される第1環状溝31が形成され、ギヤケース3の内周面3bには第2弾性部10bが収容される第2環状溝32が形成される。L字リング10が第1環状溝31及び第2環状溝32に収容されることによって、ギヤケース3内でのL字リング10の位置ずれが防止される。
【0024】
第1環状溝31及び第2環状溝32の深さの寸法は、第1弾性部10a及び第2弾性部10bの厚さと比較して小さい。したがって、第1弾性部10a及び第2弾性部10bは、第1環状溝31及び第2環状溝32に収容された状態で、それぞれギヤケース3の底部及び内周面3bから所定高さ突出する。この突出した部分が第2軸受11に当接し、第2軸受11がギヤケース3の底部及び内周面3bに当接することが防止される。
【0025】
第1弾性部10aと第2弾性部10bの境目には、第2軸受11の外輪の角部を逃がすための溝部10cが形成される。溝部10cは、L字リング10の変形を吸収する効果も有する。
【0026】
図3に示すように、第2環状溝32は、その中心Yがウォームシャフト2の中心軸Xからウォームホイール1側へ所定長さDだけオフセットして設けられる。具体的には、オフセットの長さDは、内周面3bの長穴の平面21の長さと同一に設定される。つまり、第2環状溝32の中心Yは、長穴の第2半円弧面22の中心と同一に設定される。
【0027】
これにより、第2軸受11がコイルスプリング12の付勢力によって押圧されて第2環状溝32の中心Yと同心状態に位置する場合には、図3に示すように、第2弾性部10bは、第2軸受11がコイルスプリング12の付勢力に抗して移動する方向に、長さT分の圧縮可能代を有することになる。
【0028】
次に、ギヤケース3内へのウォームシャフト2の組み付け、及びL字リング10の作用について説明する。
【0029】
まず、ギヤケース3の第1環状溝31及び第2環状溝32にL字リング10を収容する。
【0030】
次に、第2軸受11をギヤケース3内に挿入して、L字リング10の第2弾性部10bの内周に挿入する。
【0031】
次に、貫通孔13内にコイルスプリング12を収装し、貫通孔13にプラグ14を圧入し、コイルスプリング12を第2軸受11の外周面とプラグ14との間で圧縮する。
【0032】
最後に、ウォームシャフト2をギヤケース3内に挿入して、ウォームシャフト2の先端部を第2軸受11の内輪の内周に挿入する。これにより、ギヤケース3内へのウォームシャフト2の組み付けが完了する。
【0033】
ギヤケース3内へのウォームシャフト2の組み付けが完了した時点では、第2軸受11は、コイルスプリング12の付勢力によってウォームホイール1側に付勢され、バックラッシュがない状態となる。この状態では、第2軸受11の中心は中心軸Xからウォームホイール1側に僅かにずれた状態となる。具体的には、第2軸受11の中心は中心軸Xと中心Yとの間に位置する(図3参照)。したがって、ウォームシャフト2は、コイルスプリング12の付勢力によって僅かに傾いた状態となる。
【0034】
パワーステアリング装置100の駆動に伴ってウォームシャフト2とウォームホイール1の歯部1a,2aの摩耗が進む。しかし、その場合には、コイルスプリング12の付勢力によって第2軸受11がギヤケース3の長穴内を移動することによって、ウォームシャフト2とウォームホイール1との歯部1a,2aのバックラッシュが低減される。したがって、パワーステアリング装置100の駆動に伴ってウォームシャフト2とウォームホイール1の歯部1a,2aの摩耗が進めば、第2弾性部10bの圧縮可能代が次第に大きくなることになる。
【0035】
このような状況で、車輪側からコイルスプリング12の付勢力を超える荷重が入力された場合には、第2軸受11はコイルスプリング12の付勢力に抗して勢いよく移動することになる。しかし、第2軸受11は第2弾性部10bの圧縮可能代を圧縮しながら長穴内を移動するため、第2軸受11がギヤケース3の内周面3bに勢いよく当たることが防止される。したがって、第2軸受11とギヤケース3の内周面3bとの当たりによるメタルタッチ音の発生を低減することができる。
【0036】
また、L字リング10の第1弾性部10aは、ギヤケース3の底部と第2軸受11の底部との間にて圧縮され、第2軸受11をウォームシャフト2の段部2cに押し付けている。これにより、第2軸受11の軸方向のガタつきが低減される。
【0037】
以下に、上記実施の形態の変形例について説明する。
【0038】
上記実施の形態では、ギヤケース3の底部と第2軸受11の底部との間に配置される第1弾性部10aと、ギヤケース3の内周面3bと第2軸受11の外周面との間に配置される第2弾性部10bとが一体であるL字リング10を用いる場合について説明した。しかし、この構成に代わり、第1弾性部10aと第2弾性部10bとを別々の弾性部材、例えばOリングにて構成するようにしても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0039】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ドライバーがハンドルに加える操舵力を補助するパワーステアリング装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
100 パワーステアリング装置
1 ウォームホイール
2 ウォームシャフト
3 ギヤケース
3b ギヤケースの内周面(長穴)
4 第1軸受
7 電動モータ
10 L字リング
10a 第1弾性部
10b 第2弾性部
11 第2軸受
12 コイルスプリング
13 貫通孔
14 プラグ
20 第1半円弧面
21 平面
22 第2半円弧面
31 第1環状溝
32 第2環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバーが操舵ハンドルに加える操舵力を補助するパワーステアリング装置であって、
操舵ハンドルに連係する操舵軸に設けられるウォームホイールと、
前記ウォームホイールに噛み合い、電動モータの駆動に伴って回転するウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトの基端側を回転自在に支持する第1軸受と、
前記ウォームシャフトの先端側を回転自在に支持する第2軸受と、
前記ウォームシャフトを収容するギヤケースと、
前記第2軸受の外周面に付勢力を付与することによって前記ウォームシャフトを前記ウォームホイールに向けて付勢する付勢部材と、
前記ギヤケースの内周面と前記第2軸受の外周面との間に配置される弾性部材と、を備え、
前記ギヤケースにおける前記第2軸受の外周面を囲う内周面は、前記第2軸受が前記付勢部材の付勢力によって前記ウォームホイールに向けて移動できるように形成され、
前記ギヤケースの内周面には前記弾性部材が収容される環状溝が形成され、当該環状溝の中心は前記第1軸受と前記第2軸受とが同心状態である場合の前記ウォームシャフトの中心軸から前記ウォームホイール側へオフセットして設けられることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記ギヤケースの底部と前記第2軸受の底部との間に配置される環状の第1弾性部と、前記ギヤケースの内周面と前記第2軸受の外周面との間に配置される環状の第2弾性部と、を備える断面L字状のL字リングであることを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記ギヤケースの内周面は、前記ウォームシャフトの前記中心軸を中心とする第1半円弧面と、前記付勢部材の付勢方向と平行な一対の平面と、前記平面を介して前記第1半円弧面と対称な第2半円弧面と、からなり、
前記環状溝の中心は、前記第2半円弧面の中心と略同一であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーステアリング装置。
【請求項4】
前記第2軸受は、外周面に作用する前記付勢部材及び前記第2弾性部の付勢力によって前記ウォームホイールに向けて付勢されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−197029(P2012−197029A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62369(P2011−62369)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】