説明

パンクシーリング剤

【課題】 保存性に優れ、パンク穴シール性等が良好なパンクシーリング剤を提供する。
【解決手段】 少なくとも、合成ゴムラテックスを含有するパンクシーリング剤であって、JIS−K6378に準拠するマローン式機械的安定度試験におけるゲル化率が0.001〜10%であることを特徴とするパンクシーリング剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンクしたタイヤをシールする際に使用されるパンクシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々のパンクシーリング剤を市場で入手することができる。これらは主にラテックスとして知られている水性媒質中のコロイド分散系ポリマーを含む。即ち、例えばポリエチレン−ブタジエンラテックス、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリリック共重合体ラテックス、ニトリルラテックス、アクリルニトリル−ブタジエンラテックス、ポリクロロプレンラテックスが用いられる。又パンクシーリング剤には、キャリヤ媒質として水ではなくテトラクロロエチレンが含まれていることも知られている。
【0003】
このようなパンクシーリング剤をタイヤの内部に導きかつ走行できるように内圧を充填するために、従来、圧力源として液化ガスを含むパンクシーリング剤を収納する耐圧容器を具えた装置、例えばスプレー缶が用いられる。又液化ガスとして、主にプロパン・ブタン混合ガスが使用されるが、まれには、フッ化クロロ炭化水素も用いられる。前記スプレー缶には、出口バルブでホースの一端が接続されるとともに、ホースの他端には、タイヤバルブ用のねじアダプタが取付けられている。
【0004】
タイヤにパンクが発生したとき、パンクシーリング剤は、スプレー缶からタイヤバルブを経てタイヤの内部に吹出されるとともに、ガス漏れ量に依存した異なるレベルの特定の圧力で、燃料ガスによってタイヤ内圧が再充填される。このときタイヤは、損傷の程度にもよるが、その内部にパンクシーリング剤を散布して損傷をシールしながら数kmの距離を走行する。
【0005】
また他の装置では、パンクシーリング剤を、予めバルブ挿入物が抜き取られたタイヤバルブにアダプタを介して接続される圧縮フラスコに収納している。パンクシーリング剤は、フラスコの圧縮作用によって、タイヤの内部に吹込まれる。バルブ挿入物の挿入の後、タイヤは、二酸化炭素カートリッジの助けをかりて特定の内圧まで再膨張される。
【0006】
ところで、これまで使用されているパンクシーリング剤は、完全に満足のいくものではない。それらは比較的早く機械的に除去され、またパンク穴を塞ぐスピードが遅いため、シールを完了して走行可能にするための予備走行にかなりの時間を要する。
【0007】
パンクシーリング剤をタイヤの内部に導きタイヤをポンプアップさせる従来の装置にも、問題点がある。燃料ガスとしてプロパン・ブタン混合ガスを含むスプレー缶は、混合比にも依存するが、約0℃まで温度を下げないと満足に使用できない。さらにプロパン・ブタン混合ガスは可燃性の爆発物である。フッ化クロロ炭化水素は環境に悪影響を与える。また周知の全ての燃料ガスは、パンクが発生したときに制限された量しか利用できない。
【0008】
上記のような問題を解決可能なパンクシーリング剤及びタイヤのポンプアップ装置としては、例えば、特許文献1には、天然ゴムラテックスのみからなるゴムラテックスを含むとともに、この天然ゴムラテックスに適合する樹脂系接着剤を有するパンクシーリング剤、及びこのパンクシーリング剤を用いたシーリング・ポンプアップ装置が開示されている。
【0009】
しかしながら、以上の従来のパンクシーリング剤においては、パンクシール速度などのパンクシール性や、長期間保存しても凝固しないという保存性が十分とは言えず、改善の余地が残されていた。
【0010】
【特許文献1】特開平9−118779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上から、本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、
本発明の目的は、保存性に優れ、パンク穴シール性等が良好なパンクシーリング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく鋭意検討の結果、本発明者らは、下記本発明により前記課題を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、
<1> 少なくとも、合成ゴムラテックスを含有するパンクシーリング剤であって、
JIS−K6387に準拠するマローン式機械的安定度試験におけるゲル化率が0.001〜10%であることを特徴とするパンクシーリング剤である。
【0013】
<2> 前記合成ゴムラテックスが、SBRラテックス、NBRラテックス、MBRラテックス、カルボキシル変性NBRラテックス、及びカルボキシル変性SBRラテックスからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記<1>に記載のパンクシーリング剤である。
【0014】
<3> 凍結防止剤の少なくとも1種以上を、10〜50質量%含むことを特徴とする前記<1>または<2>に記載のパンクシーリング剤である。
【0015】
<4> さらに、樹脂系エマルジョンを含有することを特徴とする前記<1>から<3>のいずれかに記載のパンクシーリング剤である。
【0016】
<5> さらに、未変性SBRを5〜40質量%含むことを特徴とする前記<1>から<4>のいずれかに記載のパンクシーリング剤である。
【0017】
<6> さらに、ノニオン系界面活性剤を用いたロジン系樹脂エマルジョンを固形分で1〜15質量%含有することを特徴とする前記<4>または<5>に記載のパンクシーリング剤である。
【0018】
<7> 前記凍結防止剤としてグリコールを用いたことを特徴とする前記<3>から<6>のいずれかに記載のパンクシーリング剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、保存性に優れ、パンク穴シール性等が良好なパンクシーリング剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のパンクシーリング剤は、少なくとも、合成ゴムラテックスを含有するパンクシーリング剤であって、JIS−K6387に準拠するマローン式機械的安定度試験におけるゲル化率が0.001〜10%であることを特徴としている。
【0021】
本発明のパンクシーリング剤は、前記ゲル化率が0.001〜10%であることにより、パンクシーリング性を向上させている。この原理について以下に説明する。
パンクシーリング剤を用いたタイヤのパンク補修メカニズムは、以下の通り進行することが明らかになった。
(1)タイヤのパンク穴はタイヤの回転により開閉を繰り返し、閉じたときにパンク穴壁面に大きなシェアがかかる。
(2)このシェアにより、パンク穴内にある補修液が凝固して、凝固したゴムラテックスがパンク穴につまり、補修が完了する。
この(2)の現象は、ゴムラテックスに機械的安定性を与えるという現象である。すなわち、通常のゴムラテックスは、ゴムラテックス粒子の周りを取り囲んでいる乳化剤の負の電荷同士の反発力により安定している。この反発力よりも大きな力を与えると粒子同士が着接することにより、ゴムラテックスが凝固する。タイヤ補修においては、上記現象による凝固物が出やすいほど、すなわち、機械的安定性の低いパンクシーリング剤ほどシール性能が高い。この機械的安定性の尺度であるマローン機械的安定性試験によるラテックスのゲル化率と、タイヤ補修に必要な走行距離は高い相関関係をもつ。つまり、マロン式機械的安定性試験による機械安定性が低いパンクシーリング剤ほど、パンク穴のシール速度が速い。即ち、本発明においては、ゲル化率が0.001〜10%であることにより、パンクシーリング性を高めている。
【0022】
本発明において、ゲル化率は、JIS−K6387に準拠するマローン式機械的安定度試験において、以下の条件により測定される値である。
[条件]
パンクシーリング剤量:100(g)
荷重:30kgf
ローター回転数:1000rpm
時間:5分
【0023】
本発明において、ゲル化率を0.01〜10%の範囲内とするには、界面活性剤の種類(例えば、化学の構造、分子鎖長、極性基の数など)と量を調整すること、ラテックスポリマー末端修飾の置換基の種類(化学構造、分岐鎖長、酸変性モノマー種)と量とをコントロールすることが挙げられる。
【0024】
前述の通り、本発明のパンクシーリング剤においては、ゲル化率が0.001〜10%としているが、前記ゲル化率が0.001%未満では、補修時におけるパンク穴の変形によって起こるラテックスの凝固物が少なすぎてパンク穴をシールすることができない。また、ゲル化率が10%を超えると、粒子の安定性が低くなり過ぎて、長期保存時に凝固してしまい使用できなくなってしまう。
ゲル化率は、好ましくは、0.01〜8%であり、より好ましくは、0.1〜7%である。
【0025】
また、パンクシーリング剤の粘度は、実際の使用条件として想定される条件(60℃〜−30℃において、3〜6000mPa・sであること好ましい。
3mPa・s未満では、粘度が低すぎてバルブへの注入時に液漏れが発生することがある。6000mPa・sを超えると、注入時の抵抗が強くなって注入容易性が低下する場合があり、また、タイヤ内面への広がりも十分でなく、高いシール性が得られない場合がある。なお、当該粘度は、B型粘度計等により測定することができる。
【0026】
本発明において、合成ゴムラテックスとしては、種々のラテックスを使用することができるが、より良好なシール性を確保する観点から、SBRラテックス、NBRラテックス、MBRラテックス、BRラテックス、カルボキシル変性NBRラテックス、及びカルボキシル変性SBRラテックスからなる群より選択される少なくとも1種とすることが好ましい。
【0027】
本発明のパンクシーリング剤は、凍結防止剤を含有することが好ましい。凍結防止剤としては、特に限定されず、エチレングリコール、プロピレングリコール等を使用することができる。このような凍結防止剤の含有量は、10〜50質量%であることが好ましい。10質量%未満では、低温での凍結防止性が十分に得られないことがあり、50質量%を超えると、ゴムラテックス量に対して、グリコール量が多くなるため、パンク補修時に、凝集したゴムラテックスの粒がグリコール中に分散した状態で存在するため、十分なシール特性が得られないことがある。
【0028】
本発明のパンクシーリング剤では、希薄化のために、水を含有させることができる。さらにパンクシーリング剤に、通常の分散剤、乳化剤、発泡安定剤、又はアンモニア、苛性ソーダ等のpH調整剤を添加してもよい。
【0029】
また、本発明のパンクシーリング剤は、シール性を向上させるために、樹脂系エマルジョンを含有することが好ましい。樹脂系エマルジョンとしては、植物由来の樹脂を用いたもの(例えば、ロジン酸エステル樹脂、トール油エステル樹脂、テルペンフェノール等のテルペン樹脂など)や、変性フェノール樹脂、石油樹脂などの合成樹脂を用いたものなどを使用することができる。この中でも、特に、ロジン系樹脂又はフェノール系樹脂を用いたエマルジョンが強度向上効果が大きいため好適に用いることができる。これらの樹脂系エマルジョンは安定性の面からノニオン系の界面活性剤を乳化剤として用いたものが好ましい。アニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤を主乳化剤として用いた場合、凍結防止剤の混合により不安定化しエマルジョンが壊れてしまう。
【0030】
前記樹脂エマルジョン又はフェノール樹脂エマルジョンは固形分で、1〜15質量%含むことが好ましく、2〜12質量%含むことがより好ましく、3〜9質量%含むことがさらに好ましい。1質量%未満では上記効果が十分に得られない。15質量%を超えると、樹脂分が多くなりすぎゴムが硬くなってしまうためパンクシール部がタイヤに追従できなくなりシール性が低下してしまう。
【0031】
本発明のパンクシーリング剤は、さらに、未変性SBRを5〜40質量%含むことが好ましく、8〜35質量%含むことらより好ましく、10〜30質量%含むことがさらに好ましい。未変性SBRの含有量が5質量%以下ではシール性が低く、十分なシール効果が得られない。また、40質量%を超えると安定性が悪化し、すぐにゲル化してしまう。
【0032】
以上のようなパンクシーリング剤によるパンクの修理方法としては、公知の方法を適用することができる。すなわち、まず、パンクシーリング剤が充填された容器をタイヤのバルブ口に差し込み、適量を注入する。その後、パンクシーリング剤がタイヤ内面に広がりパンク穴をシールできるようにタイヤを回転させればよい。
【0033】
また、本発明のパンクシーリング剤は、種々の空気入りタイヤのパンク修理に適用することができる。例えば、自動車用タイヤ、二輪車用タイヤ、一輪車用タイヤ、車いす用タイヤ、農地作業や庭園作業に使用する車両用タイヤ等が挙げられる。
【0034】
以上の本発明のパンクシーリング剤そのものは、種々のポンプアップ装置、例えば燃料ガスとしてプロパン・ブタン混合ガスを含むスプレー缶を用いてタイヤの内部に導入されてタイヤを再膨張させうる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0036】
〔実施例1〜9および比較例1〜4〕
下記表1、表2に示す材料をそれぞれに示す比率になるように混合して、実施例1〜9および比較例1〜4に係るパンクシーリング剤を作製した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
[評価]
作製したパンクシーリング剤について、下記の評価項目の評価を行った。
・パンクシール性:
195/65R15のタイヤにφ2.6mmのドリル穴をあけ、作製したパンクシーリング剤を450ml注入して、タイヤ内圧0.2MPaまで昇圧して車に装着した。その後、60km/h以下で車を走行させた。3km以内で内圧低下が0になり完全硬化したものを◎、5km走行後に内圧低下が0になり完全硬化したものを○、10km以上走行後に内圧低下が0になり完全硬化したものを△、内圧が低下し、修理部分から空気漏れがあると判断されるものを×として評価した。結果を表1に示した。
・保存性:
作製したパンクシーリング剤を、雰囲気温度80℃にて60日保存した。保存後、ゲル化物が存在するか目視し、ゲル化物が存在しない場合を○とし、ゲル化物が存在した場合を×として評価した。結果を表1に示した。
【0040】
表1の結果より、実施例1〜9のパンクシーリング剤は、パンクシール性及び保存性のいずれも良好な結果が得られたのに対し、比較例1〜4のパンクシーリング材は、パンクシーリング性及び保存性のいずれか一方が不良であった。
また、樹脂エマルジョンの好適な含有量を超える実施例7、及び樹脂エマルジョンを含有しない実施例9はパンクシール性において他の実施例よりも若干劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、合成ゴムラテックスを含有するパンクシーリング剤であって、
JIS−K6387に準拠するマローン式機械的安定度試験におけるゲル化率が0.001〜10%であることを特徴とするパンクシーリング剤。
【請求項2】
前記合成ゴムラテックスが、SBRラテックス、NBRラテックス、MBRラテックス、BRラテックス、カルボキシル変性NBRラテックス、及びカルボキシル変性SBRラテックスからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のパンクシーリング剤。
【請求項3】
凍結防止剤の少なくとも1種以上を、10〜50質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のパンクシーリング剤。
【請求項4】
さらに、樹脂系エマルジョンを含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項5】
さらに、未変性SBRを5〜40質量%含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項6】
さらに、ノニオン系界面活性剤を用いたロジン系樹脂エマルジョン又はフェノール樹脂エマルジョンを固形分で1〜15質量%含有することを特徴とする請求項4または5に記載のパンクシーリング剤。
【請求項7】
前記凍結防止剤としてグリコールを用いたことを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。

【公開番号】特開2006−152239(P2006−152239A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184541(P2005−184541)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】