説明

パンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法及び装置

【課題】 段付摩耗によって挙動が変化するトロリ線の加速度を計測することによって、摺り板の段付摩耗を検知する方法及び装置を提供する。
【解決手段】 パンタグラフの摺り板の段付摩耗検知装置は、トロリ線1の上下及び/又は左右方向の加速度を測定するセンサ10と、センサ10で計測された加速度信号を伝達する信号線13と、伝達された加速度信号を処理・判定する手段14、16と、を備える。トロリ線1の上下及び/又は左右方向の加速度を測定した加速度信号を処理して加速度評価値を得、評価値が所定の閾値を超えた場合に、トロリ線1の下の軌道を通過した電車20のパンタグラフの摺り板21に段付摩耗が生じていると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフの摺り板に発生する段付摩耗を検知する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道のパンタグラフの摺り板は、トロリ線と摺動しながら集電している。そして、トロリ線は左右方向にあるピッチでジグザグに架設されており、摺り板とトロリ線との摺動位置を左右方向に分散させている。このようにして、摺り板に局部摩耗が起こらないようにしている。
【0003】
しかしながら、この摺動時に異常なアークの発生などの何らかの原因により、摺り板に局所的な摩耗が発生する場合がある。このような摩耗が進むと、摺り板の表面に局所的な凹部が形成される。摺り板の表面にこのような凹部が存在すると、トロリ線が嵌り込んで、トロリ線のスムーズな左右移動を阻害する。さらにこの状態が継続すると、この凹部が、摺り板の他の部分よりも一段低くなった溝(段付摩耗)に発達するおそれがある。このような段付摩耗は、摺り板の破損やトロリ線の切断など、事故につながる危険がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、段付摩耗によって挙動が変化するトロリ線の加速度を計測することによって、摺り板の段付摩耗を検知する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法は、 トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定して加速度信号を得、 前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって前記トロリ線の下の軌道を通過した電車のパンタグラフの摺り板に段付摩耗が生じている(段付摩耗発生)と判定することを特徴とする。
【0006】
摺り板に段付摩耗が発生した場合、この摺り板と摺動接触するトロリ線が影響を受け、トロリ線に上下方向あるいは左右方向の特徴的な加速度が発生する。そこで、この加速度を計測して処理した加速度評価値を求めることにより、段付摩耗を検知することができる。
【0007】
具体的には、上下加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって段付摩耗と判定することができる。摺り板に段付き摩耗が発生した状況下でトロリ線が摺り板の平坦部から凹部へ移行すると、トロリ線には上下方向にインパルス状の加速度が発生する。そこで、上下加速度信号にインパルス状の波形が出現したことを検知することにより、段付摩耗と判定できる。
【0008】
本発明においては、 前記トロリ線の左右方向の加速度信号に、前記トロリ線に左右方向の自由振動が励起されたことが出現したことをもって段付摩耗発生と判定することもできる。
【0009】
摺り板の段付摩耗が発生した状況下でトロリ線が摺り板の凹部から平坦部に移行すると、トロリ線は凹部の側壁に押圧されていた状態から解放されるので、弦が弾かれたような状態となり、左右方向の自由振動が発生する。そこで、左右加速度信号に、トロリ線に左右方向の自由振動が励起されたことが出現したことが検知されると、段付摩耗と判定できる。
具体的には、左右方向の加速度信号の標準偏差を評価値とし、この値が所定の閾値を超えた場合に、段付摩耗が発生したことを検知する。
【0010】
本発明のより具体的な方法としては、 前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度信号からクルトシス(尖鋭度)指標を求め、 求めたクルトシス指標が所定の閾値を超えた場合に段付摩耗発生と判定することとできる。
なお、インパルス状の波形出現を検知する方法には、クルトシス(波形の4次モーメント)以外に、より高次のモーメント量を利用することも可能である。
【0011】
さらに、本発明のより具体的な方法としては、 前記トロリ線の左右方向の加速度信号のうちから、前記トロリ線の隣接する曲線引き金具間を半波長とし、かつ、前記トロリ線の左右方向の振動が卓越する振動モードの左右固有振動数を含む周波数帯域にある振動数の信号を抽出し、 抽出された信号の標準偏差を求め、 求めた標準偏差が所定の閾値を超えた場合に段付摩耗発生を検知することとできる。
なお、着目する左右方向のトロリ線自由振動として、上記振動モードよりも高次のモードに着目してもよい。
【0012】
以上の発明においては、 前記トロリ線の複数個所において該トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定することが好ましい。
複数個所の加速度信号を測定すると、より確実に段付摩耗を検知できる。この場合、全ての計測点で検知結果が異常であった場合に異常と判定してもよく、1か所でも検知結果が異常であった場合に異常と判定してもよい。または、複数個の計測点のうちの特定の数のセンサが検知した場合に異常とすることもできる。これらの点については、架線設備状況やパンタグラフの使用状況を考慮して選択する。
【0013】
本発明のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知装置は、 トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定するセンサと、 該センサで計測された加速度信号を伝達する手段と、 該伝達手段により伝達された加速度信号を処理・判定する手段と、を備え、 前記加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって段付摩耗発生と判定することを特徴とする。
【0014】
本発明の他のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知装置は、 トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定するセンサと、 該センサで計測された加速度信号から、前記トロリ線の左右振動の固有振動数の周波数帯域の加速度信号のみを透過するバンドパスフィルタと、 該バンドパスフィルタを透過した加速度信号を伝達する手段と、 該伝達手段により伝達された加速度信号を処理・判定する手段と、を備え、 前記加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって段付摩耗発生と判定することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、着目するトロリ線左右振動の固有振動数の周波数のみを透過するバンドパスフィルタを用いることにより、左右振動の加速度を効率よく検出できる。
なお、着目するトロリ線左右振動の固有振動数の周波数が、トロリ線上下振動の最も低次の固有振動数よりも低い場合には、前記バンドパスフィルタの替わりにローパスフィルタを適用することもできる。
【0016】
以上の発明においては、前記加速度を測定するセンサが複数個であることとすれば、より確実に段付摩耗を検知できる。
【発明の効果】
【0017】
摺り板に段付摩耗が発生した場合、トロリ線はこの段付摩耗部を左右によぎる際に固有の挙動を示し、上下方向及び左右方向の加速度が変動する。本発明によれば、トロリ線の加速度を計測して得られた評価値を判定するので、摺り板に段付摩耗が発生したことを検知できる。これにより、段付摩耗の発生を速やかに検知でき、事故や故障を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(A)は、本発明の実施の形態に係る段付摩耗検知装置を模式的に示す図であり、図1(B)は加速度計をトロリ線に取り付けた状態の一例を示す図である。
【図2】段付摩耗が発生した摺り板におけるトロリ線の挙動を説明する図であり、図2(A)はトロリ線が平坦部から凹部へ移行した状態、図2(B)はトロリ線が凹部から平坦部へ移行した状態を示す。
【図3】計測結果の一例を示すグラフであり、図3(A)は上下方向加速度の測定結果を示し、図3(B)は上下方向加速度を短時間フーリエ変換したものを示す。
【図4】センサの配置例を示す平面図である。
【図5】実施例に使用した架線設備を模式的に示す図であり、図5(A)は側面図、図5(B)は平面図である。
【図6】実施例の測定結果を示すグラフである。
【図7】パンタグラフの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図1、図4を参照しつつトロリ線の設備の概要を説明する。
図1(A)に示すように、トロリ線1は、支柱に取り付けられた支持滑車で吊り下げられた吊架線2に、ハンガ3によって支持されている。また、トロリ線1は、図4に示すように、平面内において、所定の位置で屈曲するように曲線引き金具(図示されず)によって支持されており、全体としてレール方向において左右にジグザグに蛇行するように配線されている。一般に、左右方向の偏位幅Wは400〜500mm程度であり、ジグザグの周期は80〜300m程度である。
【0020】
図7を参照しつつパンタグラフや摺り板の構造の概要を説明する。
パンタグラフは、電車車両20の屋根に碍子23を介して設置された台枠24に搭載されている。パンタグラフは、舟体25と、この舟体25を台枠23に昇降可能に支持する枠組26を有する。摺り板21は舟体25に支持されており、舟体25は枠組26の上端に取り付けられた舟支え28に復元バネ27により支持されている。摺り板21はこの復元バネ27の弾性力でトロリ線1に押し付けられている。
【0021】
次に、図2を参照して、摺り板に段付摩耗が発生した場合のトロリ線の挙動を説明する。
図2(A)に示すように、トロリ線1が摺り板21の平坦部21aから凹部21bへ移行する場合には、トロリ線1には上下方向の衝撃がかかり、トロリ線1の上下加速度と左右加速度にインパルス状の信号が発生する。
一方、図2(B)に示すように、トロリ線1が摺り板21の凹部21bから平坦部21aへ移行した直後には、トロリ線1が凹部21bの側壁に押圧されていた状態から解放されるので、弦が弾かれたような状態となり、トロリ線1に左右方向の自由振動が発生する。
【0022】
このように段付摩耗によってトロリ線の挙動が変化し、段付摩耗に固有の加速度の変動が発生する。つまり、トロリ線の加速度の変動を測定することにより、段付摩耗の発生が検知できる。
【0023】
図1を参照して、段付摩耗検知装置の一例を説明する。
本発明では、トロリ線1の加速度を計測するために、車両20の摺り板21が摺動するトロリ線1にセンサ10を取り付ける。センサ10は、図1(B)に示すように、トロリ線1の上下方向加速度を計測する加速度計10Aと左右方向加速度を計測する加速度計10Bからなる。一般的には、加速度計は感度方向が決まっているので、同じ加速度計を各々感度方向が上下方向及び左右方向となるように配置すればよい。図1(B)に示すように、加速度計10A、10Bは、トロリ線1に取り付けられた支持部材11に絶縁部材12を介して固定することができる。
【0024】
各センサ10は、信号線13を介して、例えば支柱に設置された測定器14(テレメータなど)に接続しており、各センサ10で計測された信号は測定器14に入力される。測定器14は、電波や光ファイバなどの信号線15を介して駅などに設置された処理装置16に接続している。測定器14に入力された信号は電波や光信号に変換されて、信号線15で処理装置16に伝送される。
【0025】
図2(A)に示した、トロリ線1が摺り板21の平坦部21aから凹部21bへ移行した場合には、前述の様にトロリ線1には上下方向及び左右方向のインパルス状の加速度が発生する。この加速度信号を処理装置16で処理して、以下に示す評価値を求める。
【0026】
(1)クルトシス(尖鋭度)
クルトシスとは、データXiが平均値の回りに集中している度合いを示す尺度であり、平均値の回りの4次モーメントを標準偏差δで正規化したものである。クルトシスKは数1で表わされる。
【数1】

ここで、δ=標準偏差、N=データ数、u=平均値である。
【0027】
トロリ線の上下方向加速度信号からクルトシスを求め、クルトシスが既定の閾値を超えた場合に異常が発生したと判断する。検討例としては、サンプリング周波数を2kHzとし、データ数(N)=100の場合、クルトシスの閾値を18とする。この場合、得られた値が>18の場合、異常と判断する。実験例は後述する。
なお、トロリ線の左右加速度についても同様に評価することができるが、必ずしも行う必要はない。この場合、Nや閾値が変わる場合もある。
【0028】
(2)上下・左右加速度
トロリ線の上下方向又は左右方向の加速度が閾値を超えた場合に、異常と判定する。
図3(A)に測定例のグラフを示す。グラフの縦軸はトロリ線の加速度を示し、横軸は時間を示す。グラフに示すように、ある時点で急激に加速度が発生している。この加速度が所定の閾値を超えた場合に異常と判定する。
【0029】
(3)上下・左右加速度の短時間フーリエ変換
トロリ線の上下方向又は左右方向の加速度信号の短時間フーリエ変換結果の時間毎に特定の周波数帯のパワーが一定の閾値を超えた場合に、異常と判断する。
図3(B)に測定例のグラフを示す。グラフの縦軸は周波数を示し、横軸は時間を示す。色が青いほどパワーが小さく、赤いほどパワーが大きい。図の四角で囲んだ周波数帯域(200Hz〜950Hz)のパワーが一定の閾値を超えた場合に、異常と判定する。この例では、図に示すように、四角で囲まれた領域内に赤く表示される部分が多く含まれている。
【0030】
次に、図2(B)に示した、トロリ線1が摺り板21の凹部21bから平坦部21aへ移行した場合について説明する。この場合は、前述の様にトロリ線は左右方向に自由振動する。この際の加速度信号を処理して、以下に示す評価値を求める。
【0031】
(1)左右方向の加速度信号の標準偏差
トロリ線の左右方向と上下方向の固有振動数は、トロリ線の各種定数(線密度、張力、引留構造、ハンガ間隔、支持点間隔など)によって決まる。左右方向の加速度信号から、トロリ線の隣接する曲線引き金具間を半波長とし、かつ、トロリ線の左右方向の振動が卓越する振動モードの固有振動数の周波数のみを透過するバンドパスフィルタを用いて、左右振動の固有振動数の周波数帯域の加速度を検出する。この加速度信号Xiの標準偏差δを以下の式で求め、得られた値が閾値を超えた場合に異常と判断する。
【数2】

ここで、N=データ数、u=平均値である。
なお、上記の例では、隣接する曲線引き金具間を半波長とする振動モードに注目したが、隣接する支持点間やハンガ間を半波長とするような振動モードに注目してもよい。検討例としては、サンプリング周波数を2kHzとし、データ数(N)=800の場合、左右加速度の標準偏差の閾値を0.5とする。この場合、得られた値が>18の場合、異常と判断する。実験例は後述する。
【0032】
バンドパスフィルタの例を示す。
トロリ線の上下方向及び左右方向の固有振動数は条件により異なるが、今回の検討例では、上下加速度の固有振動数は、3.9Hz,9.8Hz,11.7Hz、・・・であり、左右加速度の固有振動数は、5.4Hz,7.3Hz,10.3Hx,・・・であった。この結果から、通過帯域が5.0Hz〜8.0Hzのバンドパスフィルタを適用できる。このようなバンドパスフィルタを使用することにより、左右方向の自由振動を効率よく検知できる。
なお、着目するトロリ線左右振動の周波数が、トロリ線上下振動も最も低次の振動モードの固有振動数よりも低い場合には、バンドパスフィルタの替わりにローパスフィルタを適用することもできる。
また、ハンガ本数を増やす、曲線引き金具の設置間隔を広げるなどにより、トロリ線の上下と左右の固有振動数をずらしておく方法もある。
【0033】
以上説明した評価値を求めるための加速度を計測する計測点は、所定の計測区域内に1ヶ所、あるいは、複数ヵ所に設けることができる。複数の計測点を設ける場合は、全ての計測点で検知結果が異常であった場合に異常と判定してもよく、1か所でも検知結果が異常であった場合に異常と判定してもよい。全ての検知結果から評価する場合には、段付き摩耗を検出できず見逃してしまう確率が高くなり、1個の検知結果から評価する場合は、正常な摺り板を段付き摩耗と誤検知する確率が高くなる。または、複数個の計測点のうちの特定の数のセンサが検知した場合に異常とすることもできる。これらの点については、架線設備状況やパンタグラフの使用状況を考慮して選択する。
【0034】
なお、複数の計測点のうちの全ての計測結果から判定する場合は、全ての計測点に同時に振動が発生するのではなく、計測点の位置によってトロリ線の波動が加速度計に入射するタイミングが異なる。このため、計測点の間隔をトロリ線の波動の伝播速度で割った時間の範囲で時間軸上の検知タイミングのずれを許容する必要がある。
【0035】
複数の計測点を設ける場合の例を図4に示す。図4は、トロリ線の架設状態を模式的に示す平面図である。前述のように、トロリ線1は、支柱5に取り付けられた支持滑車で吊り下げられた吊架線(図4には図示されず)に、ハンガ3によって支持されており、平面において、所定の位置で屈曲するように支持されている。
複数の計測点を設ける場合は、図4(A)に示すように、隣接する支柱5間の区間に複数の加速度計10を設置してもよく、図4(B)に示すように、支柱を挟んだ複数の区間に複数の加速度計10をまたがって設置してもよい。ただし、いずれの場合も、前述のようにトロリ線1は所定の位置で屈曲してジグザグに配置されているため、レール方向において、摺り板の有効偏位幅W内に分布して配置する。
【0036】
加速度計の計測結果の処理例を説明する。
図4(A)は、図1(A)と同様に、支柱5に測定器14を設置した例を示す。
あるいは、図4(B)に示すように、センサ10に信号処理機能を備えさせ、センサネットワーク17などにより信号を処理装置16に伝送することもできる。
【実施例】
【0037】
図5に示す架線設備を用いて実験を行った。
所定の間隔を開けて支柱5を立設し、支柱5間に吊架線2を架け渡した。この吊架線2には、複数のドロッパ8により、補助吊架線9が架け渡されている。そして、補助吊架線9に、ハンガ3によってトロリ線1が支持されている。図5(B)に示すように、平面視において、トロリ線1はある位置で屈折するように支持されている。
【0038】
この例では、図5のハンガの間の区間内に5か所の計測点P1〜P5を設け、各計測点に図1(B)に示すように、各々2個ずつ加速度計10を取り付けた。各計測点の加速度計は、各々トロリ線の上下方向加速度及び左右方向加速度を計測するように取り付けられている。
【0039】
このような架線設備に、意図的に段付摩耗を形成した摺り板21を搭載した車両20を走行させて、各計測点P1〜P5における上下方向及び左右方向の加速度を計測した。
【0040】
図6は、測定結果を示すグラフである。
グラフの上部に示す部分は、各計測点における上下方向加速度と左右方向加速度の測定結果を示す。グラフの縦軸は加速度、横軸は時間を示す。赤いラインが左右方向、黒いラインが上下方向を示す。各計測点でほぼ同様の測定結果が得られた。
【0041】
グラフの中央に示す部分は、得られた上下方向加速度信号から、各計測点におけるクルトシスを求めた結果を示す。グラフの縦軸はクルトシス、横軸は時間を示す。
グラフから、加速度信号がインパルス状となっている部分で、クルトシスが突出しており、その他の部分ではほぼ変動していない。これにより、突出した部分でトロリ線が平坦部から凹部へ移行したと判定できる。
【0042】
グラフの下部に示す部分は、各測定点における左右方向加速度信号から、標準偏差を求めた結果を示す。グラフの縦軸は標準偏差、横軸は時間を示す。
グラフから、時間が9.418秒からやや以前のあたりで、標準偏差が増加している。その結果、この部分でトロリ線が凹部から平坦部へ移行したと判定できる。
【0043】
これらの結果から、トロリ線の上下加速度信号のクルトシスから、トロリ線が平坦部から凹部へ移行したことが判定でき、トロリ線の左右加速度信号の標準偏差から、トロリ線が凹部から平坦部へ移行したことが判定できることがわかった。つまり、このクルトシスや標準偏差により、摺り板に段付摩耗が発生していることを検知できる。段付摩耗が存在した場合、トロリ線は、平坦部から凹部へ移行する、及び、凹部から平坦部へ移行する、という挙動をとる。つまり、
(1)平坦部から凹部へ移行し、かつ、凹部から平坦部へ移行する場合、
(2)平坦部から凹部へ移行した場合、
(3)凹部から平坦部へ移行した場合、
のいずれの場合でも段付摩耗が発生していることを示す。いずれの場合を適用するかは、架線設備の条件や計測条件を考慮して決定する。
【符号の説明】
【0044】
1 トロリ線 2 吊架線
3 ハンガ 8 ドロッパ
9 補助吊架線
10 センサ 11 支持部材
12 絶縁部材 13 信号線
14 測定器 15 信号線(無線、光ファイバなど)
16 処理装置 17 センサネットワーク
20 車両 21 摺り板
23 碍子 24 台枠
25 舟体 26 枠組
27 復元バネ 28 舟支え

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定して加速度信号を得、
前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって前記トロリ線の下の軌道を通過した電車のパンタグラフの摺り板に段付摩耗が生じている(段付摩耗発生)と判定することを特徴とするパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法。
【請求項2】
前記トロリ線の左右方向の加速度信号に、前記トロリ線に左右方向の自由振動が励起されたことが出現したことをもって段付摩耗発生と判定することを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法。
【請求項3】
前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度信号からクルトシス(尖鋭度)指標を求め、
求めたクルトシス指標が所定の閾値を超えた場合に段付摩耗発生と判定することを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法。
【請求項4】
前記トロリ線の左右方向の加速度信号のうちから、前記トロリ線の隣接する曲線引き金具間を半波長とし、かつ、前記トロリ線の左右方向の振動が卓越する振動モードの左右固有振動数を含む周波数帯域にある振動数の信号を抽出し、
抽出された信号の標準偏差を求め、
求めた標準偏差が所定の閾値を超えた場合に段付摩耗発生を検知することを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法。
【請求項5】
前記トロリ線の複数個所において該トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法。
【請求項6】
トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定するセンサと、
該センサで計測された加速度信号を伝達する手段と、
該伝達手段により伝達された加速度信号を処理・判定する手段と、
を備え、
前記加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって段付き摩耗発生と判定することを特徴とするパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知装置。
【請求項7】
トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定するセンサと、
該センサで計測された加速度信号から、前記トロリ線の左右振動の固有振動数の周波数帯域の加速度信号のみを透過するバンドパスフィルタと、
該バンドパスフィルタを透過した加速度信号を伝達する手段と、
該伝達手段により伝達された加速度信号を処理・判定する手段と、
前記加速度信号に、インパルス状の波形が出現したことをもって段付き摩耗発生と判定することを特徴とするパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知装置。
【請求項8】
前記加速度を測定するセンサが複数個であることを特徴とする請求項6又は7に記載のパンタグラフの摺り板の段付摩耗検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−109743(P2011−109743A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259532(P2009−259532)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】