説明

パンタグラフ及びパンタグラフの追随特性向上方法

【課題】パンタグラフの複雑化を引き起こすことなく広範な車両走行速度域において集電摺動部のトロリ線への追随特性を向上したパンタグラフ等を提供する。
【解決手段】パンタグラフ1を、トロリ線Tに接触する集電摺動部10と、集電摺動部10を車体に対し変位可能に支持する支持機構30と、両端部を集電摺動部10側及び支持機構30側にそれぞれ接続された梁部130、及び、梁部130の支持条件を変更する支持条件変更手段140とを有する可変バネ要素100と、車両の走行時にトロリ線が集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて梁部の支持条件を変更して可変バネ要素のバネ定数を変更する制御手段と、を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道においてトロリ線からの集電を行うパンタグラフ、及び、このようなパンタグラフの追随特性向上方法に関する。特には、車両の速度変化等に起因してトロリ線からの加振周波数が変化する場合であっても、広い周波数帯域において良好な追随特性が得られるパンタグラフ及びパンタグラフの追随特性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の営業用の電気鉄道においては、トロリ線からパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。車体に対するトロリ線の高さは一定ではなく、例えばトロリ線を支持するハンガの配置間隔等に応じた高さ変化(凹凸)があることから、車両の走行時にパンタグラフの舟体はトロリ線から周期的に変動する加振を受けることになる。ここで、舟体に設けられたすり板体がトロリ線の高さ変化に追随しきれずにトロリ線から離れる離線が生ずると、すり板体とトロリ線との間にスパークが生じてすり板体の損耗が進み問題となる。そのため、パンタグラフには、すり板体のトロリ線に対する追随特性を向上することにより、離線が極力起こらないことが求められる。
【0003】
従来、パンタグラフのトロリ線に対する追随特性を向上する技術として、以下のものが知られている。
(1)複数個の舟体が互いに独立に振動可能となるように、各々の舟体を共通の支持体で弾性支持し、各舟体の弾性支持系の共振点を相互に重ならないようにずらす(例えば、特許文献1を参照)。
(2)前後1対の舟体を設けて、各舟体の質量を異ならせるとともに、各舟体の車幅方向両端部にそれぞれ設けられた復元バネのバネ定数を前後左右で異ならせる(例えば、特許文献2を参照)。
(3)複数個の舟体をそれぞれ個別に上下動させる駆動機構を備え、各舟体を一定周期で相互に所定時間ずらして上下動させることによって、各舟体のいずれかが常にトロリ線に接するように制御する(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特公昭56−27042号公報
【特許文献2】特開2006−174667号公報
【特許文献3】特開昭54―20506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した各特許文献の従来技術は、複数の舟体を必要とすることからパンタグラフの構造が複雑化し、重量も大きくなる。さらに、既存のパンタグラフを改修して適用することも困難である。
また、電気鉄道の高速化に伴い、パンタグラフには広範な速度域で良好な追随特性を発揮することが要求されている。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、パンタグラフの複雑化を引き起こすことなく広範な車両走行速度域において集電摺動部のトロリ線への追随特性を向上したパンタグラフ、及び、パンタグラフの追随特性向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明のパンタグラフは、トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を車体に対し変位可能に支持する支持機構と、を備えるパンタグラフであって、さらに両端部を前記集電摺動部側及び前記支持機構側にそれぞれ接続された梁部、及び、前記梁部の支持条件を変更する支持条件変更手段とを有する可変バネ要素と、前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記梁部の支持条件を変更して前記可変バネ要素のバネ定数を変更する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
パンタグラフの集電摺動部のトロリ線に対する追随振幅特性は、周波数に応じていくつかのピークと谷とが現れるのが一般的である。このようなピークや谷のみられる周波数は集電摺動部を支持するバネ要素のバネ定数に応じて変化する。
本発明によれば、車両の走行時にトロリ線が集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて、上記可変バネ要素のバネ定数を変更することによって、良好な追随振幅が得られる周波数帯をシフトさせてパンタグラフの追随特性を向上することができる。これによって、例えば複数の舟体を設ける等のパンタグラフの構造を複雑化することなく、広範な車両走行速度域にわたってパンタグラフの追随特性を向上することができる。
【0008】
この場合において、前記支持条件変更手段は、前記支持機構又は前記集電摺動部に設けられて前記梁部の中間部を支持するとともに前記梁部の長手方向に沿って移動可能な中間支持部を有する構成とすることができる。これによれば、中間支持部の位置を変更することによって、入力に対する梁部の曲げモードが変化することから、可変バネ要素のバネ定数を変更することができる。
また、支持条件変更手段は、例えば、梁部の各端部の固定支持と回転支持とを切り換えることによって梁部の曲げモード及び可変バネ要素のバネ定数を変更するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明のパンタグラフは、トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を車体に対し変位可能に支持する支持機構と、を備えるパンタグラフであって、さらに一方の端部をバネ要素を介して前記集電摺動部又は前記支持機構の一方に接続され、他方の端部を前記集電摺動部又は前記支持機構の他方に接続されたレバー部、及び、前記支持機構又は前記集電摺動部に設けられて前記レバー部の中間部を支持するとともに前記レバー部の長手方向に沿って移動可能な中間支持部を有する可変バネ要素と、前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記可変バネ要素の前記中間支持部を移動させてバネ定数を変更する制御手段と、を備えることを特徴とする。
これによれば、集電摺動部が加振される卓越周波数に応じて中間支持部を移動させてレバー部のレバー比を変更することによって、可変バネ要素のバネ定数を変更し、追随振幅特性を向上することができる。
【0010】
本発明のパンタグラフにおいて、前記制御手段が前記車両の走行速度増加に応じて前記可変バネ要素のバネ定数を変更することができる。
すなわち、トロリ線が集電摺動部を加振する卓越周波数は、トロリ線を支持するハンガ等の配置間隔がほぼ一定である場合には、車両の走行速度にほぼ比例する。一方、バネ要素のバネ定数を上げる(大きくする)ことによって追随振幅特性のピークを周波数が高い側へシフトさせることができるため、車両の走行速度に応じてバネ定数を上げることによって、良好な追随振幅特性を得ることができる。
この場合、バネ要素のバネ定数は、連続的に変えてもよく、また、段階的に変えてもよい。
【0011】
本発明のパンタグラフの追随特性向上方法は、トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を車体に対して変位可能に支持する支持機構とを有するパンタグラフに、両端部を前記集電摺動部側及び前記支持機構側にそれぞれ接続された梁部、及び、前記梁部の支持条件を変更する支持条件変更手段とを有する可変バネ要素を設け、前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記梁部の支持条件を変更して前記可変バネ要素のバネ定数を変更することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のパンタグラフの追随特性向上方法は、トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を車体に対して変位可能に支持する支持機構とを備えるパンタグラフに、一方の端部をバネ要素を介して前記集電摺動部又は前記支持機構の一方に接続され、他方の端部を前記集電摺動部又は前記支持機構の他方に接続されたレバー部、及び、前記支持機構又は前記集電摺動部に設けられて前記レバー部の中間部を支持するとともに前記レバー部の長手方向に沿って移動可能な中間支持部を有する可変バネ要素を設け、前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記中間支持部を移動させて前記可変バネ要素のバネ定数を変更することを特徴とする。
この場合、前記車両の走行速度増加に応じて、前記可変バネ要素のバネ定数を増加させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、集電摺動部がトロリ線によって加振される周波数に応じて、集電摺動部をトロリ線方向に付勢する可変バネ要素のバネ定数を変更することによって、良好な追随振幅が得られる周波数帯をシフトさせてパンタグラフの追随特性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しつつ本発明を適用したパンタグラフの第1の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、通常の鉄道車両の技術におけるのと同様に、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角をなす方向を左右方向(車幅方向)、軌道面に垂直な方向を上下方向と呼ぶ。
【0015】
図1は、第1の実施形態のパンタグラフを車両の進行方向から見た模式的正面図である。ここで、図1(a)はパンタグラフの全体を示し、図1(b)は図1(a)のb部拡大図である。
パンタグラフ1は、舟体10、台枠20、枠体30等を備え、舟体10と枠体30との間には可変バネユニット100が設けられている。
【0016】
舟体10は、ほぼ車幅方向に沿って伸びた梁状の部材であって、すり板体11を備える。舟体10は、本発明にいう集電摺動部である。
すり板体11は、トロリ線(給電線・架線)Tに接触し、車両の走行時にはトロリ線Tと摺動して導通を確保するプレート状の部材である。すり板体11は、例えば鉄系や銅系の焼結合金製、あるいは、カーボン系材料からなる。トロリ線Tは、ほぼ車両の進行方向に沿って伸びているが、すり板体11の局所的な摩耗を防止するため、すり板体11の有効幅内において蛇行して配置されている。
【0017】
台枠20は、車体の屋根に固定され、パンタグラフ1の基部として機能する部分である。また、台枠20と車体屋根との間には、絶縁用の碍子21が設けられている。
【0018】
枠体(支持機構)30は、舟体10を車体に対して上下方向に変位可能に支持するリンク機構を備えている。枠体30は、すり板体11がトロリ線Tに当接した上昇状態と、パンタグラフ1の不使用時にすり板体11がトロリ線Tから離間した下降状態とをとることができる。
枠体30は、上枠31、下枠32、ヒンジ33、天井管34等を備えている。
【0019】
上枠31、下枠32は、枠体30の上部、下部をそれぞれ構成するレバー状の部材である。
ヒンジ33は、上枠31の下端部と下枠32の上端部とを相互に揺動可能に接続するものである。
天井管34は、上枠31の上端部に接続され、車幅方向にほぼ沿って梁状に伸びた部材であって、舟体10を可変バネユニット100を介して支持するものである。
また、枠体30は、天井管34がトロリ線T方向に押し上げられる方向に付勢する図示しない枠体付勢バネ要素を備えている。
【0020】
可変バネユニット100は、舟体10と枠体30の天井管34との間に設けられ、そのバネ定数を変更可能な可変バネ要素(可変剛性機構)である。可変バネユニット100は、1つのパンタグラフ(1つの舟体10)あたり、車幅方向に離間して例えば1対が設けられる。
可変バネユニット100は、舟体側ステー110、枠体側ステー120、梁130、可動支持機構140を備えている。
舟体側ステー110は、舟体10の下面部から下側に突き出した支柱状の部材である。
枠体側ステー120は、枠体30の天井管34の上面部から上側に突き出した支柱状の部材である。枠体側ステー120は、舟体側ステー110に対して車幅方向における位置が車両内側に配置されている。
【0021】
梁130は、例えばバネ鋼等の弾性を有する材料によって形成され、曲げ変形を受けたときに発生する反力によって可変バネユニット100の付勢力を発生するものである。梁130は、その両端部を舟体側ステー110の下端部及び枠体側ステー120の上端部にそれぞれ固定され、両端部でのたわみ角はほぼゼロとなるように拘束(固定端支持)されている。また、梁130は、その長手方向が車幅方向にほぼ沿ってほぼ水平となるように配置されている。
【0022】
可動支持機構140は、枠体30の天井管34に対して、梁130の中間部を支持するものである。可動支持機構140は、天井管34に設けられる図示しないレール等の直進案内手段により、天井管34に対して車幅方向に沿って変位可能となっており、図示しないアクチュエータ等の駆動手段によって、図示しない制御装置による制御に応じて駆動される。このとき、アクチュエータをトロリ線からの電圧が印加されない非加圧部分(例えば車両の屋根や車内等)に配置し、例えばケーブル等の伝達手段によって遠隔より駆動するようにすれば、アクチュエータの絶縁処理等が簡素化されるので好ましい。可動支持機構140は、梁130の中間部の一箇所における上下方向変位を拘束するが、たわみ角については拘束しないように梁130を車両の前後方向に延在する軸回りに回転可能に支持している。
【0023】
次に、第1の実施形態におけるパンタグラフの制御方法(追随特性向上方法)について説明する。
この制御方法は、車両の広い速度帯域においてパンタグラフの追随振幅特性を向上させることを主眼においたものである。ここで、追随振幅とは、車両の走行時にパンタグラフの集電摺動部がトロリ線の上下方向変位等によって加振された際に、離線することなくトロリ線に追随可能な最大振幅をいう。この追随振幅特性は、パンタグラフの集電性能を評価する代表的指針である。これを数値的に評価する一つの方法として、単純なバネ−質点モデルを用いることができる。
【0024】
図2は、追随振幅特性の評価に用いられるバネ−質点モデルを示す図である。
追随振幅は周波数応答であって、例えば、ハンガの配置間隔等に起因する所定の周期の正弦波状に高さ変化を有する剛体トロリ線をパンタグラフが摺動しながら走行する場合に、離線を起こすことなく走行可能なトロリ線凹凸の最大振幅を意味する。
【0025】
図3は、パンタグラフの追随振幅特性の一例を示すグラフである。グラフの横軸は振動周波数を示し、縦軸は追随振幅を示している。追随振幅は、低い周波数では大きく、周波数が高くなるにつれて低下する傾向を有する。ただし、追随振幅は周波数に対して単純減少するのではなく、いくつかのピークと谷が現れることが一般的である。
これらのピークが現れる周波数(卓越周波数)と谷が現れる周波数は、図2に示す質量m,mと剛性kによって決定される。また、トロリ線凹凸の周波数は、ハンガ等の出現周期と列車の走行速度とで決まると考えることができる。ハンガの出現周期をL、列車の走行速度をVとすると、トロリ線凹凸の周波数fは、f=V/Lで与えられる。
【0026】
したがって、追随性能の良いピークが現れる周波数(二番目の卓越周波数)を、ハンガ等に起因するトロリ線の凹凸波長と列車の走行速度で決まる周波数にほぼ一致させることができれば、追随振幅特性が良好な状態で走行することができる。しかし、列車の速度は変化するため、図3のような追随振幅特性の良い周波数帯域が狭いパンタグラフを用いている場合は、広範な速度範囲にわたって良好な特性を維持することは困難である。そこで、本発明においては、トロリ線による舟体への加振周波数に相関するパラメータである車両の走行速度に応じて、追随振幅特性を変化させ、その時の速度で良好な追随振幅特性となるようにする着想の下、可変バネユニット100のバネ定数を変更している。
【0027】
図2において、mは舟体10、すり板体11、可変バネユニット100の付勢力伝達レバー110および舟体側マグネット120の質量の和であり、mは可変バネユニット100の残部(バネ下部分)及び枠体30等の質量である。また、可変剛性機構である可変バネユニット100のバネ定数(剛性)をkで表す。さらに、枠体30は、静押上力Fで可変バネユニット100を押し上げている。c,cは減衰定数である。質点m,mの変位をx,x(上向きを正)と表し、質点mに作用するトロリ線Tの接触力をFcとおくと、図2の振動系の運動方程式は、以下の式1のように与えられる。
【数1】

【0028】
上記した式1は、以下の式2のように行列表記することができる。
【数2】

【0029】
パンタグラフがトロリ線凹凸により角周波数ωで周期的に振動していると仮定する。この振動は接触力変動によって引き起こされるものであるから、外力ベクトルは直流成分であるFsからの変動のみを考えればよい。しがたって、外力の変動Fを用いて、以下の式3のように表わすことができる。
【数3】

また、各質点の変位は、式4のように表わすことができる。
【数4】

式2に式3と式4を代入すると、以下の式5が得られる。
【数5】

【0030】
式5は接触力変動とパンタグラフの各質点変位との関係を表わしており、パンタグラフが離線しない条件は、接触力変動の大きさが静押上力Fsを超えないことである。そこで、離線を生じない最大の振幅、つまり追随振幅は、式3にF=Fsを代入し、式6で表わされるXの絶対値を求めることによって得ることができる。
【数6】

【0031】
ここで、接触力変動の角周波数ωは、ハンガ等の凹凸波長Lと列車走行速度Vによって、式7のように表わされる。
【数7】

【0032】
図4は、可変バネユニット100のバネ定数(剛性)を変化させた場合の追随振幅特性の変化の一例を示すグラフである。
計算に際し、各パラメータは以下の通り設定した。
=10.3(kg)
=11.2(kg)
=50(Ns/m)
=80(Ns/m)
=14700(N/m)
Fs=50(N)
L=5(m)
【0033】
図4中の破線は、可変バネユニット100のバネ定数を連続的に変化させたときのピークの点の軌跡をプロットしたものである。図4からバネ定数を変化させることによって、追随振幅特性のピークが現れる列車走行速度が大きくなることがわかる。そこで、本実施形態のパンタグラフにおいては、列車走行速度の増加に応じて、可変バネユニット100のバネ定数を増加させる制御を行う。
【0034】
次に、上述した可変バネユニット100のような梁を用いた可変剛性機構について説明する。
図5は、梁を用いた可変剛性機構のモデル図である。
ほぼ水平に配置された全長Lの梁は、一方の端部が固定端となっており、他方の端部は、鉛直方向への変位は許容されるが、たわみ角がゼロとなるように拘束されている。また、固定端からの距離L1の箇所に支持点が設けられている。そして、可動端側に鉛直方向の荷重Fを負荷した際のこの梁の剛性(バネ定数)kは、以下の式8によって与えられる。
【数8】

ただし、
:荷重作用点における梁のたわみ
E:梁の材料のヤング率
I:梁の断面二次モーメント

上述した式8から明らかなように、この可変剛性機構においては、中間支持点を移動させてL1を変化させることによって、剛性(バネ定数)kを変化させることができる。
【0035】
以上のことから、第1の実施形態においては、制御装置は、車両の走行速度が低い状態では可動支持機構140を枠体側ステー120寄りに配置して可変バネユニット100のバネ定数kを小さくし、車両の走行速度の増加に応じて可動支持機構140を舟体側ステー110側へ移動させ、可変バネユニット100のバネ定数kを大きくする制御を行う。
また、車両の減速時には、車両の走行速度の低下に応じて可動支持機構140を枠体側ステー120側へ移動させ、可変バネユニット100のバネ定数kを小さくする制御を行う。
このような間隔を変更する制御は、例えば、車速の変化に応じて連続的に行うようにしてもよく、また、段階的に行うようにしてもよい。
【0036】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)列車の走行速度増加に応じて、可変バネユニット100の可動支持機構140を枠体側ステー120側から舟体側ステー110側へ移動させて、バネ定数を増加させることによって、舟体10のトロリ線Tへの追随振幅特性のピークを周波数が高い方向へシフトさせることができる。これによって、列車の走行速度が広範な範囲で変化した場合であっても、各速度に対応した良好な追随振幅特性を得て離線の発生を防止することができる。
(2)例えば複数の舟体を備える等、パンタグラフの構造を大きく変更する必要がないことから、パンタグラフの構造を簡素化するとともに、既存のパンタグラフにも比較的小規模の改修によって容易に適用することができる。
(3)舟体10の付勢に上述した可変バネユニット100を用いることによって、可変支持機構140の移動によって簡単かつ無段階にバネ定数の変更を行うことができる。
【0037】
<第2の実施形態>
次に本発明を適用したパンタグラフの第2の実施形態について、図6、図7を参照しつつ説明する。以下、上述した第1の実施形態と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図6は、第2の実施形態のパンタグラフを車両の進行方向から見た模式的正面図である。ここで、図6(a)はパンタグラフの全体を示し、図6(b)は図6(a)のb部拡大図である。
第2の実施形態のパンタグラフ2は、第1の実施形態の可変バネユニット100に代えて、以下説明する可変バネユニット200を備えている。可変バネユニット200は、可変バネユニット100と同様に、1つのパンタグラフ(1つの舟体)あたり、車幅方向に離間して例えば1対が設けられる。
【0038】
可変バネユニット200は、舟体側ステー210、コイルスプリング220、レバー230、可動支持機構240を備えている。
舟体側ステー210は、舟体10の下面部から下側に突き出した支柱状の部材である。
コイルスプリング220は、枠体30の天井管34の上部に設けられ、ほぼ上下方向に沿って配置された引っ張りバネである。コイルスプリング220は、下端部が天井管34に接続されるとともに、上端部がレバー230に接続されている。
【0039】
レバー230は、舟体側ステー210とコイルスプリング220との間で力の伝達を行うものであり、天井管34の上部にほぼ車幅方向に伸びて配置されている。レバー230の車幅方向外側の端部には、舟体側ステー210が回転可能に接続されている。また、レバー230の車幅方向内側の端部には、コイルスプリング220の上端部が回転可能に接続されている。レバー230は、舟体側ステー210から上下方向の荷重が入力された際の曲げ変形が、コイルスプリング220の伸縮量に対して無視し得る程度に小さくなるよう、その曲げ剛性が設定されている。
【0040】
可動支持機構240は、枠体30の天井管34に対して、レバー230の中間部を揺動可能に支持する支点である。可動支持機構240は、天井管34に設けられる図示しないレール等の直進案内手段により、天井管34に対して車幅方向に変位可能となっており、図示しないアクチュエータ等の駆動手段によって、図示しない制御装置による制御に応じて駆動される。可動支持機構240は、その移動によって、舟体側ステー210とコイルスプリング220との力伝達における力点と支点との距離、作用点と支点との距離の比(レバー比)を変更し、これによって可変バネユニット200全体としての剛性(バネ定数)を変更する。
【0041】
次に、上述した可変バネユニット200のようなレバー比を変更可能なレバーを用いた可変剛性機構について説明する。
図7は、レバー比を変更可能なレバーを用いた可変剛性機構のモデル図である。
ほぼ水平に配置された全長Lのレバーは、一方の端部にバネ定数kのスプリングが接続されており、他方の端部には鉛直方向下向きの荷重Fが負荷される。また、レバーはその中間部を可動式の支点によって揺動可能に支持されている。スプリングとの接続部から支点までの距離はL、荷重入力点から支点までの距離はL(L−L)となっている。
そして、荷重Fに対するこの可変剛性機構の剛性(バネ定数)kは、以下の式9によって与えられる。
【数9】

ここで、xは、荷重Fが作用した際のコイルスプリングのたわみ量である。
上述した式9から明らかなように、この可変剛性機構においては、中間支持点を移動させてLとLとの比(レバー比)を変化させることによって、剛性(バネ定数)kを変化させることができる。
【0042】
以上のことから、第2の実施形態においては、制御装置は、車両の走行速度が低い状態では可動支持機構240をコイルスプリング220寄りに配置して可変バネユニット200のバネ定数kを小さくし、車両の走行速度の増加に応じて可動支持機構240を舟体側ステー210側へ移動させ、可変バネユニット200のバネ定数kを大きくする制御を行う。
また、車両の減速時には、車両の走行速度の低下に応じて可動支持機構240をコイルスプリング220側へ移動させ、可変バネユニット200のバネ定数kを小さくする制御を行う。
以上説明した第2の実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
(1)パンタグラフ、可変バネユニットの形状や構成は上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。例えば、パンタグラフは、舟体に対して相対移動可能な可動式すり板を備えたものであってもよい。この場合、舟体とすり板との間に可変バネ要素を設けるとよい。
(2)上述した各実施形態は、車両の走行速度に応じて可変バネ要素のバネ定数を変更しているが、例えば車両の走行速度が一定であっても、ハンガ間隔等の違いによって集電摺動部が加振される周波数が変わる場合には、加振周波数に応じてバネ定数を変更してもよい。
(3)第1の実施形態は梁の中間部の支持箇所を移動させることによって可変バネ要素のバネ定数を変更しているが、これに限らず、他の支持条件を変更してもよい。例えば、集電摺動部側、支持機構側の少なくとも一方の端部における固定支持と回転支持とを切り換えて曲げモードを変更するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明を適用したパンタグラフの第1の実施形態を車両進行方向から見た模式的正面図である。
【図2】パンタグラフの追随振幅特性の評価に用いられるバネ−質点モデルを示す図である。
【図3】パンタグラフの追随振幅特性の一例を示すグラフである。
【図4】パンタグラフの可変バネユニットのバネ定数を変化させた場合の追随振幅特性の変化の一例を示すグラフである。
【図5】梁を用いた可変剛性機構のモデル図である。
【図6】本発明を適用したパンタグラフの第2の実施形態を車両進行方向から見た模式的正面図である。
【図7】レバー比を変更可能なレバーを用いた可変剛性機構のモデル図である。
【符号の説明】
【0045】
1 パンタグラフ
10 舟体
11 すり板体
20 台枠
21 碍子
30 枠体
31 上枠
32 下枠
33 ヒンジ
34 天井管
100 可変バネユニット
110 舟体側ステー
120 枠体側ステー
130 梁
140 可動支持機構
200 可変バネユニット
210 舟体側ステー
220 コイルスプリング
230 レバー
240 可変支持機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線に接触する集電摺動部と、
前記集電摺動部を車体に対し変位可能に支持する支持機構と、を備えるパンタグラフであって、
さらに両端部を前記集電摺動部側及び前記支持機構側にそれぞれ接続された梁部、及び、前記梁部の支持条件を変更する支持条件変更手段とを有する可変バネ要素と、
前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記梁部の支持条件を変更して前記可変バネ要素のバネ定数を変更する制御手段と、を備えることを特徴とするパンタグラフ。
【請求項2】
前記支持条件変更手段は、前記支持機構又は前記集電摺動部に設けられて前記梁部の中間部を支持するとともに前記梁部の長手方向に沿って移動可能な中間支持部を有することを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフ。
【請求項3】
トロリ線に接触する集電摺動部と、
前記集電摺動部を車体に対し変位可能に支持する支持機構と、を備えるパンタグラフであって、
さらに一方の端部をバネ要素を介して前記集電摺動部又は前記支持機構の一方に接続され、他方の端部を前記集電摺動部又は前記支持機構の他方に接続されたレバー部、及び、前記支持機構又は前記集電摺動部に設けられて前記レバー部の中間部を支持するとともに前記レバー部の長手方向に沿って移動可能な中間支持部を有する可変バネ要素と、
前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記可変バネ要素の前記中間支持部を移動させてバネ定数を変更する制御手段と、を備えることを特徴とするパンタグラフ。
【請求項4】
前記制御手段が前記車両の走行速度増加に応じて前記可変バネ要素のバネ定数を変更することを特徴とする請求項1から3に記載のパンタグラフ。
【請求項5】
トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を車体に対して変位可能に支持する支持機構と、を有するパンタグラフの追随特性向上方法であって、
両端部を前記集電摺動部側及び前記支持機構側にそれぞれ接続された梁部、及び、前記梁部の支持条件を変更する支持条件変更手段とを有する可変バネ要素を設け、
前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記梁部の支持条件を変更して前記可変バネ要素のバネ定数を変更することを特徴とするパンタグラフの追随特性向上方法。
【請求項6】
トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を車体に対して変位可能に支持する支持機構と、を備えるパンタグラフの追随特性向上方法であって、
一方の端部をバネ要素を介して前記集電摺動部又は前記支持機構の一方に接続され、他方の端部を前記集電摺動部又は前記支持機構の他方に接続されたレバー部、及び、前記支持機構又は前記集電摺動部に設けられて前記レバー部の中間部を支持するとともに前記レバー部の長手方向に沿って移動可能な中間支持部を有する可変バネ要素を設け、
前記車両の走行時に前記トロリ線が前記集電摺動部を加振する卓越周波数に応じて前記中間支持部を移動させて前記可変バネ要素のバネ定数を変更することを特徴とするパンタグラフの追随特性向上方法。
【請求項7】
前記車両の走行速度増加に応じて、前記可変バネ要素のバネ定数を変更することを特徴とする請求項5又は6に記載のパンタグラフの追随特性向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−245418(P2008−245418A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81604(P2007−81604)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】