説明

パンタグラフ用舟体及びそれを有するパンタグラフ

【課題】 パンタグラフからすり板体が外れた後も、安全に走行できるように改良された舟体を提供する。
【解決手段】 舟体20は、底板21、前後の長側板22、左右の短側板23、及び、左右の補助すり板24を有する。舟体20の上面には、左右補助すり板24の内端面24aと、前後長側板22の上端面とで囲まれる、左右方向に長い凹部S(はめ込み部)が形成される。すり板体10はこの凹部Sに保持されている。左右補助すり板24の内端面24aは、外側上向きのテーパ状となっている。これにより、万一すり板体10が舟体20から外れてトロリ線が舟体20のはめ込み部S内を摺動せざるを得なくなった場合に、トロリ線ははめ込み部Sのテーパ状端部24aに沿ってはめ込み部の外方向へ案内される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道車両のパンタグラフ用舟体に関する。特には、パンタグラフからすり板体が外れた場合に架線設備へ損害を与えないように改良された舟体に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の電気鉄道においては、トロリ線(架線)から車体屋根に搭載されたパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。パンタグラフの枠組上には、車両に電力供給するトロリ線と摺動するすり板体が固定された舟体が支持されている。一般に、すり板体と舟体とには取付金具が設けられており、両者はこの取付金具でボルトなどによって固定されている。
【0003】
このようなパンタグラフにおいては、取付金具やボルトが破損すると、すり板体が舟体から外れてしまうことがある。舟体の上面にはすり板体が嵌め込まれる凹部が形成されているので、この状態のまま放置されると、トロリ線は凹部内を摺動することになる。一般に、トロリ線は、長さが1〜1.5kmの複数の線をレールの長さ方向に継いで形成されている。この継ぎ目においては、前のトロリ線の後端部と次のトロリ線の前端部とが一部重なって配設され、前のトロリ線の端部がレールから横方向へ逃げ、次のトロリ線の端部が横方向からレールの上方に入り込む(この部分をオーバーラップ部という)。トロリ線がはめ込み部内を摺動せざるを得なくなった場合、車両がオーバーラップ部や分岐器を通過する際に、トロリ線は車両の進行につれてはめ込み部の底を摺動しながら横方向に移動する。そして、トロリ線がはめ込み部の端部に達すると、トロリ線が凹部の端面に引っ掛かるなどしてトロリ線に過大な力がかかってしまう恐れがある。さらに、トロリ線を支持するハンガイヤーや曲引き金具などの架線設備を破壊する可能性もある。
【0004】
この対策の一つとして、すり板の摩耗や損傷を検知する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1の方法は、すり板に無線ICタグを設けておき、すり板の摩耗が進んで無線ICタグがすり板から外れると、無線ICタグからの情報を受信できなくなり、これによりすり板の摩耗を検知するものである。特許文献2の方法は、すり板又は舟体の内部に光ファイバを配設しておき、すり板の摩耗又は舟体の損傷によって光ファイバが切断されると、光の伝搬が断たれ、これによりすり板の摩耗又は舟体の損傷を検知する。これらの方法によってすり板の摩耗や損傷が検知されると、速やかにすり板体の修復や交換を行い、トロリ線の移行の妨げや架線設備の破壊を未然に防ぐ。
【0005】
ただし、すり板に甚大な磨耗が生じていたり、すり板体が舟体から外れたような場合でも、車両は停止可能な位置までその状態のままで走行する必要がある。つまり、トロリ線は、舟体上面の凹部内を摺動せざるを得なくなり、前述のような問題が生じる。現在まで、このような事態下で車両を安全に走行できるための対策は取られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−300745号公報
【特許文献2】特開2000−152406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであって、パンタグラフからすり板体が外れた後も、安全に走行できるように改良された舟体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパンタグラフ用舟体は、 電気鉄道車両のパンタグラフの枠組上に昇降可能に支持され、トロリ線と摺動するすり板体を保持するパンタグラフ用舟体であって、 該舟体の上面には、前記すり板体がはめ込まれるはめ込み部が、前記車両の左右方向に延びるように形成されており、 該はめ込み部の左右端部が、外側上向きのテーパ状となっていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、万一すり板体が舟体から外れて、トロリ線が舟体のはめ込み部内を摺動せざるを得なくなった場合に、トロリ線をはめ込み部のテーパ状端部に沿ってはめ込み部の外方向へ案内できる。つまり、トロリ線がはめ込み部内を摺動せざるを得なくなった場合、トロリ線のオーバーラップ部や分岐器の上方を通過する際に、トロリ線は車両の進行につれてはめ込み部の底を摺動しながら横方向に移動する。そして、トロリ線がはめ込み部の端部に達するとテーパ状端部に沿って横方向に案内される。このように、舟体の上面にトロリ線の横方向の移動を妨げるような部位が存在しないので、トロリ線に過大な力がかかるような事態を防ぐことができる。
【0010】
なお、すり板体は、分割すり板とそれを搭載する基材からなるものであっても、複数の短尺のすり板が鍵盤状に配置された多分割すり板とそれを搭載する基材からなるものであってもよい。
【0011】
本発明の他の態様のパンタグラフ用舟体は、 前記舟体の左右端部に、外側に弧状下向きに張り出すホーンが取り付けられており、 該ホーンの内側端部の上面が、内側下向きのテーパ状となっていて、前記はめ込み部の左右端部を構成していることを特徴とする。
【0012】
このタイプのパンタグラフにおいても、万一すり板体が舟体から外れて、トロリ線が舟体のはめ込み部内を摺動せざるを得なくなった場合に、トロリ線をホーンの内端面のテーパ状端部に沿ってホーンの上面へ案内できる。これにより、トロリ線に過大な力がかかるような事態を防ぐことができる。
【0013】
本発明においては、 前記舟体はめ込み部の上面に、低摩擦係数の耐摺動性層が形成されていることが好ましい。
【0014】
はめ込み部の上面に、低摩擦係数の耐摺動性層があれば、すり板体が舟体から外れて、トロリ線が舟体のはめ込み部内を摺動せざるを得なくなった場合に、トロリ線をはめ込み部の上面に対してある程度滑らかに摺動させることができる。
【0015】
さらに、本発明においては、 前記はめ込み部の上面又はその直下に、前記トロリ線の接触を検知するセンサが設けられていることが好ましい。
【0016】
この場合、トロリ線の接触を検知することにより、すり板体が舟体から脱落したことを検知できるので、速やかに対応することができる。
【0017】
本発明のさらに別の態様のパンタグラフ用舟体は、 電気鉄道車両のパンタグラフの枠組上に昇降可能に支持され、トロリ線と摺動するすり板体を保持するパンタグラフ用舟体であって、 前記すり板体が、弾性を有する基材と、該基材上に鍵盤状に配置された複数の短尺のすり板と、該すり板体の各々を上方に付勢するバネと、を有する多分割すり板であり、 該舟体の上面には、前記すり板体の基材がはめ込まれるはめ込み部が、前記車両の左右方向に延びるように形成されており、 該はめ込み部の左右端部が、外側上向きのテーパ状となっていることを特徴とする。
【0018】
本発明のパンタグラフは、 電気鉄道の車両上に搭載され、前記車両に電力供給するトロリ線に押し当てられるすり板を有する、前記のいずれかに記載の舟体と、 前記車両の屋根上に前記舟体を昇降可能に支持する枠組みと、 該枠組みに、前記舟体を略一定の力で押し上げる押上力を与える手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、舟体上面の、すり板体がはめ込まれる凹部の端部を、斜め上向きに傾斜したテーパ面としたので、舟体の上面にトロリ線の外方向の移動を妨げるような箇所が存在しない。したがって、万一すり板体が舟体から外れた場合にも、トロリ線はテーパ面に案内されて外方向へ移動し、トロリ線に過大な力がかかるような事態を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る舟体及びすり板体の構造を示す図であり、図1(A)は舟体及びすり板体の正面図、図1(B)は舟体からすり板体が外れた状態を示す正面図、図1(C)は舟体の平面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る舟体及びすり板体の構造を示す図であり、図2(A)は舟体及びすり板体の正面図、図2(B)は舟体からすり板体が外れた状態を示す正面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る舟体の構造を示す図であり、図3(A)は正面図、図3(B)は平面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る舟体及びすり板体の構造を示す図であり、図4(A)は正面図、図4(B)は舟体からすり板体が外れた状態を示す正面図である。
【図5】パンタグラフの構造の一例を示す側面図である。
【図6】従来の舟体及びすり板体の構造の一例を示す図であり、図6(A)は舟体及びすり板体の平面図、図6(B)は舟体及びすり板体の正面図、図6(C)は舟体からすり板体が外れた状態を示す正面図である。
【図7】従来の舟体及びすり板体の構造の他の例を示す図であり、図7(A)は舟体及びすり板体の平面図、図7(B)は舟体及びすり板体の正面図、図7(C)は舟体からすり板体が外れた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図5を参照してパンタグラフの全体の構造の一例を説明する。
図5に示すように、パンタグラフ1は、電気鉄道の車両に電力供給する架線(トロリ線)に押し当てられるすり板体10が固定された舟体20と、車両の屋根上に舟体20を昇降可能に支持する枠組み30と、枠組み30に、舟体20を略一定の力で押し上げる押上力を与えるバネ40と、を備える。以降の説明において、車両の幅方向(レール方向と直交する方向)を左右方向という。
【0022】
舟体20には、詳しくは後述するようにすり板体10が保持されている。この舟体20は、枠組み30によって車両の屋根上に昇降可能に支持されている。舟体20は、枠組み30の上端に舟支え31を介して取り付けられている。そして、枠組み30が上昇した後でバネ29(詳細後述)の弾性力で押し上げられて、すり板体10がトロリ線に押し付けられる。
また、枠組み30の下端は、主軸に回動可能に取り付けられているとともに、主バネ40に連結されている。この主バネ40により、枠組み30に上昇力が与えられる。
【0023】
図6を参照して、一般的な舟体20及びすり板体10の構造を説明する。図6(A)は平面図、図6(B)は正面図、図6(C)はすり板体が舟体から外れた状態を示す正面図である。各図の左右方向は、車両の左右方向を示す。
舟体20は、図6(B)、(C)に示すように、左右方向に長い、中空部を有する箱状体であり、底板21、前後の長側板22、及び、左右の短側板23を有する。さらに、上面の両端には、左右の補助すり板24が中空部に被さるように取り付けられている。各板はある程度の厚さを有するので、舟体20の上面には、図6(C)に示すように、左右方向において、左右補助すり板24の内端面24aと、前後長側板22の上端面とで囲まれる凹部S(はめ込み部)が形成される。後述するように、すり板体10はこの凹部Sに保持される。
舟体20は、一例でアルミニウム合金(ジュラルミン)等で作製される。一例で、舟体20の長さ(左右方向長さ)は1m、幅(レール方向長さ)は70mmである。
【0024】
舟体20の左右端には、外方向かつ斜め下方向に突き出すホーン27が取り付けられている。ホーン27は、車両がトロリ線のオーバーラップ部や分岐器を通過するときに、交差する2本のトロリ線のうち車両の進行方向とは異なる方向のトロリ線への割込みを防止するための部材である。ホーン27は金属で作製される。ホーン27を含めた舟体20の左右方向の長さは、一例で1.9m程度である。
【0025】
すり板体10は、図6(B)、(C)に示すように、左右方向に長い基材11と、同基材上に固定されるすり板15とを有する。すり板15は、基材11の長手方向に複数に分割された複数(一例で6枚)のすり板片からなる。すり板片のうち、中央の4枚のすり板片は主すり板片16で、両側の2枚のすり板片は補助すり板片17である。各すり板片16、17は、基材11の下面からボルトで基材11に固定されている。
各すり板片16、17は、一例で鉄系や銅系の焼結合金製、あるいは、カーボン系材料等で作製される。すり板体10の長さは、舟体20の左右方向長さよりも短く、前述の舟体20の上面の凹部Sの左右方向長さに等しい。また、主すり板片16の全体の左右方向長さは一例で55cmである。
なお、図6(A)に示すように、補助すり板24とすり板体10との継ぎ目、及び各すり板片16、17の継ぎ目はレール方向において斜めになっており、レール方向に概ね平行なトロリ線が各継ぎ目に引っ掛かったり嵌り込んだりすることを防止している。
【0026】
すり板体10は、図6(C)に示した舟体20の凹部S内に配置されている。この際、図6(B)に示すように、すり板体10の上面(すり板15の上面)と舟体20の左右の補助すり板24の上面及びホーン27の上面とは同一面であり、段差のない滑らかな面となっている。このような形状とすることにより、オーバーラップ部や分岐器を通過する際に、トロリ線はホーン27の上面に沿ってガイドされ、舟体20の補助すり板24の上面を通った後、すり板体10のすり板15の上面に滑らかに移行することができる。
【0027】
すり板体10は、舟体20にボルトによって固定されている。図6(B)に示すように、すり板体10の基材11の下面には取付金具12が設けられている。一方、舟体20の底板21上には、この取付金具12に対向する取付台28が設けられている。舟体20の取付台28の下面からボルトを通してすり板体10の取付金具12に固定することにより、舟体20とすり板体10とが固定される。取付金具12及び取付台28は、すり板体10及び舟体20の左右端付近の二ヶ所に配置されている。
【0028】
さらに、すり板体10の下面と舟体20の底板21との間には、バネ29が介されている。バネ29は、舟体20の中央に配置されている。このバネ29により、すり板体10は、舟体20に対して上方に付勢されている。
【0029】
このようなパンタグラフ1において、万一、すり板体10と舟体20とを固定するボルトが破損したり、取付金具12や取付台28が破損すると、図6(C)に示すように、すり板体10はバネ29によって付勢されて舟体20から外れて脱落する。このような場合、車両は停止可能な位置まで走行せざるを得ない。この状態下では、トロリ線は舟体20の上面、すなわち、舟体20からすり板体10が外れた凹部S(はめ込み部)内を摺動する。すると、前述のオーバーラップ部や分岐器を通過する際に、凹部Sに嵌り込んだトロリ線は電車の進行につれて凹部の底(舟体20の前後長側板22の上端面)を摺動しながら横方向(外方向)に移動する。そして、凹部Sの端に達すると、図6(C)に示すように、トロリ線Tは補助すり板24の内端面24aに引掛かってしまう。この内端面24aは一般に垂直な面であるので、さらにトロリ線Tが横方向(図の右方向)に移動しようとした場合にトロリ線Tの移動を妨げ、トロリ線Tに大きな力がかかる。そして、最悪の場合トロリ線の切断などの事故を引き起こす恐れがある。
【0030】
次に、図1を参照して本発明の舟体及びすり板体の構造を説明する。図1(A)は正面図、図1(B)はすり板体が舟体から外れた状態を示す正面図、図1(C)は舟体の平面図である。
本発明の舟体20の構造は、図5で示した従来の舟体の構造とほぼ同じである。図5で示した部材・部位と同じ作用・構成を有する部材・部位は図5と同じ符号を付し説明を省略する。
【0031】
本発明の舟体20においては、各図に示すように、補助すり板24の内端面24aが、下から上へ外方向へ向かうテーパ面となっている。つまり、舟体20の、すり板体10がはめ込まれる凹部S(はめ込み部)の左右両端が外側上向きのテーパ面となっている。テーパ面の水平面に対する角度はできるだけ小さいことが好ましく、一例で20〜60°である。これに対応して、図1(B)に示すように、すり板体10の左右両端面10aも、下から上へ外方向へ向かうテーパ面となっている。
【0032】
この舟体20においても、図1(B)に示すように、すり板体10が舟体20から外れた場合に、トロリ線が舟体20の凹部S内を摺動する。そして、オーバーラップ部や分岐器を通過する際にトロリ線Tが凹部Sの端部に達すると、トロリ線Tは図に示すように内端面24aに沿って横方向に案内されて補助すり板24へ乗り上げる。つまり、図6(C)に示したように、トロリ線Tが凹部Sの端部に引っ掛からずに滑らかに横方向に移動できるので、異常事態下においても、車両をできるだけ安全に走行させることができる。
【0033】
さらに、舟体20に、すり板体10が舟体20から脱落したことを検知するセンサ19を設けることもできる。このようなセンサ19としては、例えば、従来のすり板の摩耗や損傷を検知する際に使用されている無線ICタグや光ファイバを使用できる。このセンサ19の出力は制御室等に伝えられ、速やかに車両を停止させるための措置をとることができる。この場合でも、トロリ線に過大な張力をかけずに車両を停止可能な位置まで走行させることができる。
【0034】
次に、図7を参照して舟体とすり板体の従来構造の他の例を説明する。図7(A)は平面図、図7(B)は正面図、図7(C)はすり板体が舟体から外れた状態を示す正面図である。
この例の舟体20も、左右方向に長い、中空部を有する箱状体であるが、底板21、前後の長側板22、及び、左右の短側板23からなり、左右の補助すり板のない構造である。舟体20の左右端には、外方向かつ斜め下方向に突き出すホーン27が取り付けられている。一方、すり板体10の左右方向長さは、舟体20の左右方向長さと等しくなっている。この例のすり板体10も、図7(B)、(C)に示すように、左右方向に長い基材11と、同基材上に固定されるすり板15とを有する。
【0035】
すり板体10は、舟体20の中空部を覆うように舟体20に固定される。この場合も、図7(B)に示すように、すり板体10の上面とホーン27の上面とは同一面となっている。
【0036】
このタイプのパンタグラフにおいて、すり板体10が舟体20から外れると、図7(C)に示すように、トロリ線Tは、舟体20の上面の、両ホーン27の内端面27aと、前後長側板22の上端面とで形成される凹部S(はめ込み部)内を摺動することになる。ホーン27の内端面27aは一般に垂直である。このため、前述と同様に、オーバーラップ部や分岐器を通過する際に、凹部に嵌り込んだトロリ線Tが凹部の底(舟体の前後長側板22の上端面)を摺動しながら横方向に移動して凹部の端部に達すると、ホーン27の内端面27aに引掛かってしまう。
【0037】
次に、図2を参照して本発明の舟体の他の例を説明する。図2(A)は正面図、図2(B)はすり板体が舟体から外れた状態を示す正面図である。
本発明の舟体の構造は、図7で示した舟体の構造とほぼ同じである。図7で示した部材・部位と同じ作用・構成を有する部材・部位は図7と同じ符号を付し説明を省略する。
【0038】
本発明の舟体20においては、ホーン27の内端面27aが、下から上へ外方向へ向かうテーパ面となっている。内端面27aの水平面に対する角度はできるだけ小さいことが好ましく、一例で20〜60°である。
【0039】
この舟体20においても、図2(B)に示すように、すり板体10が舟体20から外れた場合に、トロリ線Tは舟体20の前後長側板22の上端面を摺動する。しかし、トロリ線Tが同上面の端部に達すると、トロリ線Tはホーン27の内端面27aに沿って横方向へ案内されてホーン27へ乗り上げる。つまり、図7(C)で示したようなトロリ線Tがホーン27の内端面27aに引っ掛からずに滑らかに横方向に移動できるので、異常事態下においても、車両をできるだけ安全に走行させることができる。
【0040】
次に、図3を参照して、図3の舟体の他の例を説明する。図3(A)は正面図、図3(B)は平面図である。
この例では、舟体20の前後長側板22の上端面に、トロリ線との摺動性を有する材料からなる耐摺動性層50を取り付ける。トロリ線との摺動性とは、トロリ線との摺動に対する耐久性、導電性及び潤滑性を含む。このような材料として、例えば、鉄系焼結合金やC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材)を使用できる。この場合、すり板体が外れた際に、トロリ線は舟体10の凹部の耐摺動性層50上を摺動するので、トロリ線に及ぼすダメージを低減でき、走行可能な時間を長くすることができる。
【0041】
次に、図4を参照して、本発明の舟体及びすり板体のさらに他の例を説明する。図4(A)は正面図、図4(B)はすり板体が舟体から外れた状態を示す正面図である。
この例は、すり板体が多分割すり板体の例を示す。舟体20は、図1の舟体と同様に、左右方向に長い、中空部を有する箱状体であり、底板21、前後の長側板22、及び、左右の短側板23を有する。さらに、両端には、左右の補助すり板24が中空部に被さるように取り付けられている。多分割すり板体60は、前述の例と同様に、舟体20の上面の凹部S(はめ込み部)に支持されている。
【0042】
多分割すり板体60は、車両の左右方向に長い銅板61、同銅板61上に貼り付けられたゴム板62、及び、複数枚(例えば12枚)の短尺状のすり板63を有する。銅板61は通電経路を構成するためのものである。すり板63は、ゴム板62上に左右方向に鍵盤状に配置されている。すり板63は、中央の10枚の主すり板と左右端の2枚の補助摺り板とからなる。すり板63は、例えばFe系焼結合金で作製され、幅が30〜40mm、長さが40〜60mm程度である。隣接するすり板63間の距離は例えば2〜3mmである。
銅板61の下面には、すり板13の各々に対して1個のガイド65が固定されている。ガイド65は、側面形状が上に開口したコの字型であり、底板と前後の側板を有する。
【0043】
多分割すり板体60は、舟体20に対して複数の微動バネ67よって上下方向に弾性支持されている。微動バネ67は、隣接するすり板63の間に配置されて、上端がすり板体60の銅板61に固定されており、下端は舟体20の底板21に固定されている。
舟体20の内部のほぼ中央高さ位置には、左右方向に延びるストッパ68が架け渡されている。このストッパ68はすり板体60の上方向の移動を規制するものである。ストッパ68には、微動バネ67が通される孔が開けられている。
【0044】
このような多分割すり板体60は、トロリ線と直接摺動する部材の質量をできるだけ軽くできるので、パンタグラフの追随性が向上する。このようなパンタグラフは将来的には実用化されると考えられている。
【0045】
舟体20は、図1の例と同様に、補助すり板24の内端面24aが、下から上へ外方向へ向かうテーパ面となっている。テーパ面の水平面に対する角度はできるだけ小さいことが好ましく、一例で20〜60°である。これに対応して、すり板体60の左右両端面も、下から上へ外方向へ向かうテーパ面となっている。
【0046】
このタイプの舟体においても、図4(B)に示すように、すり板体60(銅板61、ゴム板62、すり板63、ガイド65及びストッパ68を含む)が舟体20から外れた場合に、トロリ線が舟体20のはめ込み部S内を摺動する。しかし、トロリ線がはめ込み部Sの両端に達すると、トロリ線は内端面24aに沿って案内されて補助すり板24へ乗り上げる。
【符号の説明】
【0047】
1 パンタグラフ 10 すり板体
11 基材 12 取付金具
15 すり板 16 主すり板片
17 補助すり板片 19 センサ
20 舟体 21 底板
22 長側板 23 短側板
24 補助すり板 24a 内端面
27 ホーン 27a 内端面
28 取付台 29 バネ
30 枠組み 31 舟支え
40 主バネ
50 耐摺動性層
60 多分割すり板体 61 銅板
62 ゴム板 63 すり板
65 ガイド 67 微動バネ
68 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気鉄道車両のパンタグラフの枠組上に昇降可能に支持され、トロリ線と摺動するすり板体を保持するパンタグラフ用舟体であって、
該舟体の上面には、前記すり板体がはめ込まれるはめ込み部が、前記車両の左右方向に延びるように形成されており、
該はめ込み部の左右端部が、外側上向きのテーパ状となっていることを特徴とするパンタグラフ用舟体。
【請求項2】
前記舟体の左右端部に、外側に弧状下向きに張り出すホーンが取り付けられており、
該ホーンの内側端部の上面が、内側下向きのテーパ状となっていて、前記はめ込み部の左右端部を構成していることを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフ用舟体。
【請求項3】
前記舟体はめ込み部の上面に、低摩擦係数の耐摺動性層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のパンタグラフ用舟体。
【請求項4】
前記はめ込み部の上面又はその直下に、前記トロリ線の接触を検知するセンサが設けられていることを特徴とする請求項1〜3記載のパンタグラフ用舟体。
【請求項5】
電気鉄道車両のパンタグラフの枠組上に昇降可能に支持され、トロリ線と摺動するすり板体を保持するパンタグラフ用舟体であって、
前記すり板体が、弾性を有する基材と、該基材上に鍵盤状に配置された複数の短尺のすり板と、該すり板体の各々を上方に付勢するバネと、
を有する多分割すり板であり、
該舟体の上面には、前記すり板体の基材がはめ込まれるはめ込み部が、前記車両の左右方向に延びるように形成されており、
該はめ込み部の左右端部が、外側上向きのテーパ状となっていることを特徴とするパンタグラフ用舟体。
【請求項6】
電気鉄道の車両上に搭載され、前記車両に電力供給するトロリ線に押し当てられるすり板を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の舟体と、
前記車両の屋根上に前記舟体を昇降可能に支持する枠組みと、
該枠組みに、前記舟体を略一定の力で押し上げる押上力を与える手段と、
を備えることを特徴とするパンタグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−65492(P2012−65492A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209357(P2010−209357)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】