説明

パーフルオロポリマーの改良

イオン性化学種なしで、開始剤を用い、ハロゲン化炭素溶媒重合媒体も分散剤もなしで製造されたパーフルオロポリマーは、液体接触用途または食品接触用途において、高速溶融押出ワイヤ被覆のために、そして高い信号周波数で低い損失係数を示す絶縁ワイヤを製造するために有益で有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリマー、特に液体の処理においておよびワイヤ絶縁材中で用いられるパーフルオロポリマーの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリマーは、耐薬品性および化学的不活性が知られている。しかしながら、集積回路の製造において用いられるPFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシコポリマー)のプロセスシリコンウェハキャリアおよびプロセスパイピングシステムなどの特定の用途は、安定な末端基を形成させて不安定な末端基の分解によるフッ化水素(HF)の形成を避けるためにPFAをフッ素化させることを必要としてきた。この製造において用いられるプロセス液体中の1ppm未満の量のHFはシリコンウェハを損傷する場合がある。この問題は、J.グッドマン(J.Goodman)ら、「半導体製造におけるフルオロポリマーからのフッ化物汚染(Fluoride Contamination from Fluoropolymers in Semiconductor Manufacture)」、Solid State Technology、1990年7月、65−68頁に記載されている。この問題を解決するためのフッ素化処理は米国特許第4,743,658号明細書で開示されている。
【0003】
米国特許第5,976,686号明細書には、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)の改良された押出性を提供するための、低い金属含有率によるポリマーの高い純度に加えて、フッ素化についても開示されている。フルオロポリマーは、フルオロポリマーが蛋白質分離プロセスを行う容器の内面であるときに蛋白質溶液を金属で汚染しないことが米国特許出願公開第2004/0242855A1号明細書で開示されている。これは、ステンレススチールを分離容器として用いるときに比べて改善されている。この特許公報において、フルオロポリマーは、好ましくはフッ素化されている。
【0004】
フッ素化は、ワイヤ絶縁材としてのPFAとFEPの両方の電気特性に影響を及ぼす、すなわち、パーフルオロポリマーの成形プラーク上で測定したときに損失係数(信号損失)を減らすことが欧州特許第0423995B1号明細書でも開示されている。
【0005】
前述した技術のすべてにおいて、パーフルオロポリマーのフッ素化は、パーフルオロポリマーの特定の有用性に応じて、有益な効果を提供するために用いられてきた。欧州特許第1,162,212号明細書には、異なる手法、すなわち、フルオロポリマーで内張りされた反応器中で重合し、非イオン重合開始剤および連鎖移動剤に加えて重合媒体として超純水およびハロゲン化炭素溶媒を用いることにより重合プロセスから超純粋フルオロポリマーを得ることが開示されている。この手法は、残念ながら実施するのに非常に費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の用途においてパーフルオロポリマーの有用性を高めるとともに既存の用途を更なる用途に応用することを可能にするパーフルオロポリマーの純度の更なる改良が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
二酸化炭素(CO)を含む媒体中での重合によって製造された溶融加工性パーフルオ
ロポリマーが既存の用途において高まった有用性を有するとともに特定の用途において意外な結果を更に示すパーフルオロポリマーを提供することが見出された。この重合は米国特許第6,051,682号明細書において開示されている。この重合は、水性媒体またはハロゲン化炭素溶媒重合媒体中での従来の重合とは区別できる。どちらの重合媒体も本発明において用いられる重合プロセスにおいて存在しないからである。CO媒体中での重合において用いられる重合開始剤は非イオン性有機化合物、好ましくは、安定な末端基、すなわち、水性分散重合プロセスにおいて典型的に用いられるタイプの無機塩(イオン性化学種)でなくパーフルオロカーボンまたはパーフルオロ(エーテル)である末端基を形成させる非イオン性有機化合物である。溶融加工性パーフルオロポリマーを形成させるために典型的な水性分散重合プロセスにおいて存在する分散剤は本発明において用いられる重合プロセスにおいて存在しない。分散剤を水性分散重合プロセスにおいて用いるときでさえ、分散剤は最終パーフルオロポリマー中に存在しない。分散剤は、パーフルオロポリマーの溶融加工に必要とされるようなパーフルオロポリマーの融点に少なくとも加熱することを含むパーフルオロポリマーの仕上げにおいて除去されている。分散剤を含まないパーフルオロポリマーという表現は、パーフルオロポリマーを製造するために分散剤を用いたことがないことを意味する。従って、上述した重合プロセスは、イオン化学種を含まず分散剤も含まない重合したままのパーフルオロポリマーを提供する。
【0008】
重合したままの溶融加工性パーフルオロポリマーはハロゲン化炭素溶媒重合媒体も含まない。すなわち、重合はハロゲン化炭素溶媒重合媒体中で行われない。米国特許第6,395,937号明細書において開示されているようにCOが開始剤希釈剤であることがより好ましいが、少量のハロゲン化炭素希釈剤を非イオン性開始剤のための希釈剤として重合に導入してもよい。ハロゲン化炭素希釈剤は、フルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボンおよびヒドロフルオロクロロカーボンなどの、ラジカル重合によって重合可能ではない流体を意味する。こうした希釈剤が存在するとき、その量は、ハロゲン化炭素希釈剤を含むCO重合媒体の全重量を基準にして好ましくは2重量%未満、より好ましくは1重量%未満であり、最も好ましくは全くハロゲン化炭素希釈剤がない。CO重合媒体中に存在してもよい少量のハロゲン化炭素希釈剤は重合が中で起き得る連続相を形成させない。
【0009】
本発明の一実施形態は、パーフルオロポリマーに接触することになる以後集合的に「食品」と呼ばれる飲料、製品を含む食品および非食品液体などの材料をパーフルオロポリマーが汚染しない超高純度を必要とする用途における溶融加工性パーフルオロポリマーの使用である。食品の状態は、炭酸飲料に加えて、分散液、乳化液および懸濁液を含む液体から固体に及んでもよい。非食品液体には、化学薬品、薬剤および薬剤製造において一般に用いられるときにはWFI(注射用の水)と呼ばれる超純水のような材料が挙げられる。この実施形態によると、物品は被覆(内張り)または加工などによって提供され、ここで、非食品液体または食品に関する物品の少なくとも接触表面は、重合したままでイオン性化学種、分散剤およびハロゲン化炭素溶媒重合媒体を含まないパーフルオロポリマーである。こうした物品の例には、チューブ、パイプ、ライナー(タンクまたはパイプ)、硬質容器または軟質フィルム製の容器、ポンプ、バルブおよびシールなどの収納物品ならびに加工装備品および攪拌器などの非収納物品が挙げられる。
【0010】
本発明の別の実施形態によると、上述したプロセスによって製造された溶融加工性パーフルオロポリマーは、意外な溶融押出性、すなわち、欠陥なしでかなりの時間にわたる高いライン速度での押出性を示す。これはワイヤの溶融押出被覆において最も顕著である。この実施形態によると、本発明は、溶融加工性パーフルオロポリマーによりワイヤを溶融押出被覆する工程を含む方法を含み、重合したままの前記パーフルオロポリマーは、分散剤、イオン性化学種およびハロゲン化炭素重合媒体を含まず、よって少なくとも1000ft/分(305m/分)の速度で少なくとも8時間、好ましくは少なくとも10時間にわたり前記被覆を行うときに前記被覆は塊を含まない。この性能レベルは、パーフルオロポリマー絶縁ワイヤのツイストペアから製造された通信ケーブル、すなわちカテゴリー6ケーブルを実現する最高レベルに関して上回っている。カテゴリー5eケーブルおよびカテゴリー6ケーブルの電気的性能は、ANSI/TIA/EIA−568−B.2、補遺1(ANSI=米国規格協会(American National Standards Institute)、TIA=米国電気通信工業会(Telecommunications Industrial Association、EIA=米国電子機械工業会(Electronics Industrial Association)によって規定されている。カテゴリー5eケーブルに比べてカテゴリー6ケーブルの通信信号性能のより高いレベルを満たすためには、カテゴリー5eケーブルよりもパーフルオロポリマー絶縁材内のワイヤの絶縁厚さおよび同心性の高い均一性を必要とする。ケーブル製造業者は、カテゴリー5eケーブルに関してよりも厳しいカテゴリー6ケーブルに関する性能要件を満たすために、独自の厚さおよび同心性の仕様を設定している。このより厳しい寸法均一性の影響は、押出被覆プロセスのライン速度をカテゴリー5eケーブルの絶縁ワイヤを製造するために用いられるライン速度より減速しなければならないことである。カテゴリー5eケーブルの使用から離れ、カテゴリー6ケーブルの使用に向かう傾向にあるので、本発明の高速押出プロセスはカテゴリー6ケーブルのために実証されてきた(実施例2)。実施例2における1200ft/分(366m/分)のライン速度は、経験から、カテゴリー5eケーブルを製造するための1800ft/分(549m/分)のライン速度に等しい。
【0011】
前述したプロセスは、高速電気信号伝達、例えば、少なくとも10GHzの周波数での信号伝達に関する絶縁ワイヤのためにも有用である。意外にも、上述した重合によって製造され、よってイオン化学種、分散剤およびハロゲン化炭素溶媒重合媒体を含まないパーフルオロポリマー上で測定された絶縁材の損失係数は非常に低く、すなわち、絶縁ワイヤは信号伝達のこうした高い周波数で非常に低い信号損失を有する。これは、最も一般に用いられる重合技術である水性分散重合によって製造された同じパーフルオロポリマーに対する改良であり、ここで、重合開始剤からのイオン性化学種はパーフルオロポリマー中に必然的に存在する。イオン化学種を用いずに製造されたパーフルオロポリマーは、水性分散重合によって製造された対応するパーフルオロポリマーより10GHzで低い損失係数を示す。この改良は、上述した重合によって製造されて例えば同軸ケーブルになるパーフルオロポリマーから製造された絶縁ワイヤから製造されたケーブルに引き継がれ、ここで、パーフルオロポリマーは、コアワイヤと同心シールドとツイストペアケーブルの間の絶縁材であり、ここで、各ワイヤは上述した絶縁ワイヤである。こうしたケーブルは、通常、絶縁ワイヤの多数の対から形成される。本発明のこの実施形態によると、絶縁ワイヤが提供され、ここで、ワイヤ上の絶縁材は、重合したままでイオン性化学種、分散剤およびハロゲン化炭素溶媒重合媒体を含まない溶融加工性パーフルオロポリマーであり、同軸ケーブルであるときの前記絶縁ワイヤは、10GHzで0.00050以下のケーブル上で測定した損失係数を示す。
【0012】
上述した実施形態の各々において、こうした実施形態で用いられるパーフルオロポリマーは、非食品液体または食品接触のために用いられる物品として溶融押出であろうとワイヤ絶縁剤としてであろうと二酸化炭素媒体中で製造され、重合したままでイオン性化学種を含まず、すなわち、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウムなどの無機塩を含まない。従って、パーフルオロポリマーの意外な溶融押出性およびパーフルオロポリマーから製造されたワイヤ絶縁材の意外なほどに低い損失係数は、重合したままで、例えば、パーフルオロポリマーのフッ素化処理なしで得ることができる。しかし、不安定末端基がパーフルオロポリマー中に存在する場合、フッ素化処理を用いることが可能である。こうした場合、損失係数の更なる改良(減少)さえ得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組成物中で用いられるパーフルオロポリマーは、溶融加工性、すなわち、有用であるために十分な強度を有する製品を製造するためにパーフルオロポリマーを押出などの溶融加工によって加工することができるほどに十分に溶融状態で易流動性であるポリマーである。本発明において用いられるパーフルオロポリマーのメルトフローインデックス(MFR)は、樹脂に関して標準である温度(例えば、ASTM D2116−91aおよびASTM D−3307−93参照)でASTM D−1238に準拠して測定したとき、好ましくは少なくとも約5g/10分、より好ましくは少なくとも約10g/10分、なおより好ましくは少なくとも約15g/10分、更により好ましくは少なくとも約20g/10分、最も好ましくは少なくとも26g/10分である。接頭辞「パー」によって表されるとき、ポリマー鎖を構成する炭素原子に結合された1価原子はすべてフッ素原子である。他の原子はポリマー末端基、すなわち、ポリマー鎖を終端させる基中に存在してもよい。本発明において用いられ得るパーフルオロポリマーの例には、テトラフルオロエチレン(TFE)と、線状または分岐のアルキル基が1〜5個の炭素原子を含むヘキサフルオロプロピレン(HFP)および/またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などの炭素原子数3〜8のパーフルオロオレフィンなどの1つまたは複数の過フッ素化重合性コモノマーとのコポリマーが挙げられる。好ましいPAVEモノマーは、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)としてそれぞれ知られている1個、2個、3個または4個の炭素原子をアルキル基が含むモノマーである。製造業者によってときにはMFAと呼ばれるTFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)コポリマーなどの幾つかのPAVEモノマーを用いてコポリマーを製造することが可能である。TFE/PAVEコポリマーは最も一般にPFAと呼ばれる。TFE/PAVEコポリマーは、PAVEがPPVEまたはPEVEであるときを含め、少なくとも約1重量%のPAVEを有し、典型的には約1〜15重量%のPAVEを含有する。PAVEがPMVEを含むとき、組成は、約0.5〜13重量%のパーフルオロ(メチルビニルエーテル)および約0.5〜3重量%のPPVEであり、合計100重量%に対する残りはTFEである。パーフルオロポリマーの別の群は、一般にFEPと呼ばれるTFE/HFPコポリマーである。これらのコポリマーにおいて、HFP含有率は、典型的には約6〜17重量%、好ましくは9〜17重量%(HFPI×3.2から計算)である。好ましくは、TFE/HFPコポリマーは、特性を改良するために少量の追加のコモノマーを含む。好ましいTFE/HFPコポリマーは、TFE/HFP/PEVEまたはPPVEなどのPAVEであり、ここで、HFP含有率は約6〜17重量%、好ましくは9〜17重量%であり、PAVE含有率、好ましくはPEVEは、約0.2〜3重量%であり、コポリマーの合計100重量%に対する残りはTFEである。
【0014】
フルオロポリマーが部分的に結晶質である、すなわち、エラストマーでないことが好ましい。部分的に結晶質は、ポリマーが多少の結晶度を有し、ASTM D3418に準拠して測定された検出可能な融点および少なくとも約3J/gの溶融吸熱によって特徴付けられることを意味する。
【0015】
CO重合媒体中でFEPおよびPFAなどのパーフルオロポリマーを形成させるために攪拌された反応器内で重合を行うための装置およびプロセス条件は米国特許第6,051,682号明細書において開示されている。COが唯一の重合媒体であることが好ましい。重合反応器内の温度条件および圧力条件は、反応速度を制御するとともに製品特性および収率を調節するために、所望の形態、すなわち、液体または超臨界の形態を取って媒体中でCOを維持するように選択される。反応器内のCOの加圧がCOに液相を形成させないほどに反応器内の温度が十分に高い(31度より高い、臨界温度)とき、COは臨界状態にある。典型的には、温度は約10℃〜約80℃の間で保たれる。圧力は、典型的には6.2MPa〜10.3MPaの間である。滞留時間は、反応器内で行われている特定のプロセスに応じて非常に異なるが、典型的には約10〜約120分の範囲である。
【0016】
好ましい開始剤は、安定な末端基−CF(CF)−OCFCFCFを形成させる米国特許第6,051,682号明細書で開示されたヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー過酸化物(HFPOダイマー過酸化物)である。米国特許第6,395,937号明細書で開示されたように調製された二酸化炭素媒体中のこの開始剤は、より好ましく、そして‘937号特許の実施例7で開示されたような試薬を含有する、金属イオンの使用なしで調製された二酸化炭素中のこの開始剤は最も好ましい。他の非イオン性有機開始剤を用いることが可能である。開始剤を過フッ素化する、すなわち、炭素原子に結合されたフッ素以外の1価原子を有さないことが好ましい。この類の好ましい開始剤には、上述したHFPOダイマー過酸化物ならびにパーフルオロプロピオニルペルオキシドおよびパーフルオロブチリルペルオキシドなどのパーフルオロアシルペルオキシドが挙げられる。パーフルオロポリマーを製造するために、アルカンなどの連鎖移動剤を重合において用いてもよく、または用いなくてもよい。典型的には、重合反応器はCOでフラッシュし、その後、重合が定常状態で行われているときにCO、HFP、PPVEおよび連鎖移動剤により反応器の内部をそれらの濃度で加圧する。TFEは定常状態濃度の90%である。反応器は所望の重合温度に加熱する。その後、開始剤およびCO重合媒体を反応器に添加し、その後、反応器への所望の速度で、重合されるべきCO中のモノマー、開始剤および存在する場合連鎖移動剤をフィードする。
【0017】
開始剤がHFPOダイマー過酸化物などの過フッ素化非イオン性化合物であるとき、パーフルオロポリマー末端基は、−CONH、COOHおよび/または−COFなどの水性分散重合から典型的に生じる不安定な末端基を有するパーフルオロポリマーのフッ素化処理によって製造される同じ末端基−CFで終端する安定な末端基である。不安定な末端基−COFは、重合温度が十分に高い場合に重合反応において存在する場合、PAVEモノマーから生じるCO媒体中の重合において存在してもよい。フッ素化処理は、欧州特許第0226668B1号明細書および欧州特許第0222945B1号明細書ならびに米国特許第4,743,658号明細書で開示されている。こうしたフッ素化処理は、本発明により製造されたパーフルオロポリマー上で実施することが可能である。アルカンまたは他の連鎖移動剤を重合反応において用いるとき、連鎖移動剤としてエタンの場合に−CFより低い安定性の末端基、例えば、−CFHおよび−CHCHを生成する。−CFより低い安定性のこれらの末端基および他の任意の不安定末端基はフッ素化処理すると最も安定な末端基−CFに転化する。本発明においてフッ素化処理を用いるならば、得られたパーフルオロポリマーは、10個の炭素原子当たり約20個未満の不安定な末端基、好ましくは約10個未満の不安定な末端基(水素含有、−COFおよび−CF=CF)を有する。「不安定な末端基」に関しては、末端基−CFHがパーフルオロポリマーを分解なしで溶融加工することを可能にしてポリマー中に泡を形成させるために十分に化学的且つ熱的な安定性を有するにもかかわらず化学的または熱的に不安定であることを意味する。電気的性能、最も著しく低い損失係数の文脈において、パーフルオロポリマー上の最も安定な末端基−CFが最低の損失係数を与えることが見出された。しかし、−CF末端基の存在は測定できない。その存在は、(a)化学、すなわち、重合中に存在する薬剤、例えば開始剤のフッ素処理または化学作用の結果および(b)水素含有、−COF、−COOHおよび−CF=CF末端基のないことを示す末端基分析から推測する。
【0018】
非食品液体または食品加工における食品に接触するために意図された溶融加工性パーフルオロポリマーの物品は、ハンガーおよびバスケットなどの加工装備品の射出成形のような加工プロセス、それぞれパイピングまたはライニングおよび可撓性容器のためのチューブまたはフィルムを製造するための溶融押出、および押出チューブラーパリソンからの硬質容器のブロー成形によって製造することが可能である。
【0019】
ライニングは、E.M.ペトリエ(E.M.Petrie)、10章、「接着剤としてのプラスチックおよびエラストマー(Plastics and Elastomers as Adhesives)」、プラスチック・エラストマーハンドブック(Handbook of Plastics and Elastomers)、C.A.ハーパー(C.A.Harper)編、マグローヒル(McGraw−Hill)、NY(1975年)において開示されたようにポリウレタンおよびエポキシ樹脂などの接着剤を用いて内張りされるべき表面に押出フィルムを接着させることにより得ることが可能である。追加の接着剤は、A.H.ランドロック(A.H.Landrock)、「接着剤技術ハンドブック(Adhesives Technology Handbook)」、ノイエス・パブリケーションス(Noyes Publications)(1985年)においてニトリルフェノール樹脂(163頁)、高温硬化フェノール樹脂(165頁)、ポリベンズイミダゾール(166頁)、ポリイミド(168頁)およびポリスルホン(170頁)などが開示されている。パイプのライニングは、溶融加工性パーフルオロポリマーのチューブを内張りされるべきパイプに挿入することにより得ることが可能である。
【0020】
本発明の物品に接触して用いられ得る液体には、半導体製造において用いられる処理液、および少量の不純物が治療成分を弱め得るか、または変性させ得る薬剤、特に生物薬剤、典型的には蛋白質の製造において用いられる液媒体などの水性および非水性の溶液および分散液が挙げられる。食品処理中に食品と接触する場合、その食品は液体、半固体または固体の形態を取った食品であってもよい。
【0021】
絶縁材は、ツイストペアを製造するためにまたは同軸ケーブルのコアワイヤとシールドとの間の電気絶縁材としてワイヤ上にあることが可能である。溶融押出加工は、好ましくは、被覆されるワイヤの直径より大きい内径を有するチューブとしてパーフルオロポリマーを押し出す溶融ドローダウン押出である。ワイヤのライン速度は、パーフルオロポリマーの押出速度より速い。その後、パーフルオロポリマーはドローダウンしてワイヤに接触している溶融コーンを形成させて、ワイヤのライン速度に合わせる。ドローダウンは、押し出されたチューブの内部で真空を引くことにより実行される。溶融ドローダウン押出の使用は、ライン速度(絶縁ワイヤの巻取の速度)をダイチップからのパーフルオロポリマーの押出の速度より遙かに大きくすることを可能にする。しかし、ワイヤ上へのドローダウンによって形成されるパーフルオロポリマーの溶融コーンは、絶縁材の厚さの均一性および絶縁材被膜内のワイヤの同心性の均一性に影響を及ぼす寸法不安定の原因である。ライン速度と押出速度との間の差が大きいほど、ワイヤ上の絶縁材被膜における不均一性の傾向は大きい。この理由のために、カテゴリー5eケーブルに比べて改良された信号通信性能を要求するカテゴリー6ケーブルは、カテゴリー5eケーブルより遅いライン速度で製造されなければならない。しかし、カテゴリー6ケーブルに関して、本発明により製造され、よってイオン性化学種、分散剤およびハロゲン化炭素溶媒重合媒体を含まないパーフルオロポリマーにとって、少なくとも1000ft/分(305m/分)のライン速度での溶融押出は高速である。
【0022】
本発明において用いられる溶融加工性パーフルオロポリマーから、非常に高い信号周波数で厳しい損失係数要件を満足させるケーブルを含むワイヤなどの新規物品を製造することが可能である。
【実施例】
【0023】
実施例1
この実施例において、次の通り製造された溶融加工性パーフルオロポリマーから種々の物品を製造する。3ガロンの反応器を用いる。反応器をCOでフラッシュして、酸素を除去し、その後、反応器に21.2%のCO、68.4%のHFP、1.1%のPPVE、9.3%のTFEおよび45ppmのエタンを投入する。反応器温度を約60℃に加熱し、反応器圧力は1800psig(12.5MPa)である。反応器へのフィードは11.7kg/hrである。フィード組成は、67.7重量%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)、10.2重量%のテトラフルオロエチレン(TFE)、1.1重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、21.0重量%の二酸化炭素(CO)である。フィードは連鎖移動剤として45ppmのエタンも含有する。開始剤はHFPOダイマー過酸化物(CFCFCF−O−CF(CF)C(O)O−OCOCF(CF)−O−CFCFCF)であり、開始剤は希釈剤(2,3−ジヒドロデカフルオロペンタンである「ベルトレル(Vertrel)」(登録商標)XF)中で20重量%である。開始剤フィード速度は3gのHFPOダイマー過酸化物/hrである。これらの条件下で、ポリマーの生成速度は436g/hrである。ポリマー組成は、10.1重量%のHFP(HFPI×3.2から計算)および1.48重量%のPEVE(分析方法は米国特許第5,677,404号明細書において開示されている)であり、合計100重量%に対する残りはTFEである。メルトフローインデックス(MFR)は、5kgの分銅により372℃で33.8g/10分である。ポリマーの融点は260℃である。ポリマー上の酸フッ化物末端基は、百万個の炭素原子当たり36個である。−CONH基および−COOH基は検出されなかった。オレフィン(−CF=CF)末端基に関する分析も行ったが、全く検出されなかった。モノマー、COおよびHFPOダイマー過酸化物ならびに少量のその希釈剤(モノマーおよびCOフィードの千部当たり約1部)のみが重合系内に存在する成分である。よってハロゲン化炭素溶媒重合媒体も分散剤も無機塩(イオン性化学種)も存在しない。
【0024】
反応器の減圧後、溶融加工において直接使用され得る易流動性粉末の形態でパーフルオロポリマーを得る。
【0025】
このポリマーから製造された容器を370〜380℃(700〜715°F)の押出温度でチューブラーパリソンのブロー成形によって製造する。ブロー成形の説明は、シナ・エブネサジャド(Sina Ebnesajjad)、「フルオロプラスチックス、第2巻;溶融加工性フルオロポリマー(Fluoroplastics,Vol.2;Melt Processible Fluoropolymers)」、プラスチック・デザイン・ライブラリー(Plastic Design Library)、ニューヨーク州ノーウィッチ(Norwich,NY))、[2003年]、10章、299頁以下において見ることが可能である。
【0026】
厚さ3ミル(0.76mm)のフィルムを溶融押出し、その後、スチール容器の内面にこのフィルムを接着させることにより、タンクライニングをこのポリマーから製造する。得られた被膜は純FEPである。390℃(734°F)の溶融温度での溶融押出によって、このポリマーを用いて50mmの外径および6mmの壁厚さを有するチューブを製造する。
【0027】
半導体のウェハ製造において液体処理を通して輸送するためのシリコンウェハを入れるバスケットを370℃(700°F)の温度でのこのポリマーの射出成形によって製造する。
【0028】
380〜395℃(715〜745°F)の溶融押出温度で米国特許第6,051,682号明細書の実施例1に実質的に準拠して製造されたPFAからも前述した物品を製造する。
【0029】
実施例2
スクリューの回転が24RPMであり、以下の温度分布(℃)を有する穴径60mmの押出機を用いて溶融温度での溶融ドローダウン押出によってワイヤを被覆するためにも、実施例1で用いられたFEPを用いる。
【0030】
【表1】

【0031】
製造されるカテゴリー6ワイヤのための優れたライン速度である1200ft/分(366m/分)のライン速度で押出被覆を行う。ここで、銅ワイヤは直径0.0226インチ(0.574mm)であり、FEP絶縁材の厚さは7〜8ミル(0.18〜0.20mm)である。この押出を約11時間行って、約800,000ft(244,000m)のカテゴリー6ワイヤをワイヤ絶縁材中に全く塊の形成なしで製造する。成功の実証が完了したとみなし、この絶縁ワイヤ244,000mの製造後にこの押出運転を停止する。塊は、絶縁ワイヤの元の直径の少なくとも2倍に至る絶縁材厚さの急な増加であり、押出オリフィスの外部での溶融樹脂の蓄積によって形成され、この蓄積は押し出された溶融コーンによって周期的に持ち去られる。塊は、カテゴリー6ケーブルを形成するための絶縁ワイヤの後続の密接な結合(twinning)を妨害し、結合プロセス中に絶縁ワイヤを切断(破断)さえさせる場合がある。カテゴリー6要件を満たすために、破断した絶縁ワイヤを溶接することはできない。よってワイヤ破断は巻き取られるケーブルの先端を形成させる。ライン速度が1500ft/分(457m/分)に増加するときにも優れた押出結果を得る。性能要件に照らして試験することにより、ケーブルがカテゴリー6であることが満たされる。
【0032】
この押出性能は、無機塩開始剤および分散剤を用いる水性分散重合によって製造された類似のMFRのフッ素化FEPに関する性能と同様であった。この押出比較において用いられた実施例1のFEPを重合後にフッ素化しなかった。
【0033】
実施例3
実施例において、損失係数Dを2つの方法で決定した。
(A)ポリマーで絶縁された同軸ケーブルの全ケーブル損失からDを計算する。コア導電体直径0.521mm、コアワイヤ外径上のFEP絶縁材1.67mm、絶縁材外径上の金属シールド2.38mmというこれらの特徴を有する同軸ケーブルの1メートル長さ上で全ケーブル損失を測定する。Dは全ケーブル損失Lの成分であり、以下の式から計算することが可能である。
【0034】
【数1】

【0035】
(B)あるいは、ASTM D−2520に記載された手順に類似した円形中空導波管における定在波方法を用いて厚さ約2.5mm(0.1インチ)のプラーク上でDを直接測定してもよい。
【0036】
全ケーブル損失からのDの計算は、パーフルオロポリマーの圧縮成形プラーク上で測定を行うときよりも高い数値を示す。1.5によって除したケーブル損失測定から得られたDはプラーク上で測定されたDに近似する。
【0037】
実施例のポリマーに関する全ケーブル損失から計算されたDを表1の欄2および3で報告している。プラーク上で直接測定されたDを表の欄4で報告している。
【0038】
【表2】

【0039】
ASTM2520の方法Bを用いて、固体プラークに関する損失係数を厚さ約2.5mmの圧縮成形プラーク上で決定する。ここで、共振空洞内部の電場は、プラークの長さ(15.24cm)に平行である。
【0040】
水性分散液FEPを、無機塩開始剤を用いる水性分散重合によって製造し、末端基を湿り熱処理によって安定化させて、米国特許第3,085,083号明細書に記載されたような安定な−CFH末端基を得る。これは、上の表1に記載された水性分散液FEPおよび損失係数を欧州特許第0423995号明細書において測定しているFEPに当てはまる。FEPの発見以来(米国特許第2,946,763号明細書)、水は商業的に製造されたFEPのための重合媒体であった。上の表1の水性分散液FEPの組成は、本明細書の実施例1で製造されたFEPの組成と殆ど同じである。水性分散液FEPのために用いられた押出フッ素化は、米国特許出願公開第2004/0092669号明細書、実施例2に記載されたものである。実施例1のFEPのフッ素化は、米国特許第4,743,658号明細書および欧州特許第0423995号明細書に記載されているものである。不安定末端基は、水性分散重合によって製造されたフッ素化FEPまたは実施例1のフッ素化FEPのいずれかにおいても検出不可能である。すなわち、異なるフッ素化技術は、10個の炭素原子当たり20個未満の水素含有末端基、−COFおよび−CF=CF末端基である同じ末端基安定化の結果をもたらす。
【0041】
前述した表の結果は、意外にも、実施例1の非フッ素化FEPの損失係数(0.00048)が水性分散重合によって製造された非フッ素化FEPの損失係数(0.00105)より遙かに小さく、水性分散重合によって製造されたフッ素化FEPの損失係数(0.00045)に非常に近いことを示している。実施例1のFEPのフッ素化処理は、更にいっそう損失係数(0.00034)を減少させており、よって実施例1のFEPをフッ素化水性分散液FEPより優れたものにしている。
【0042】
発泡FEP絶縁材は約50体積%の空隙を含んでいる。表の結果は、発泡も損失係数を減らすが、実施例1の非発泡フッ素化FEPの損失係数(0.00034)は、水性分散重合FEPのフッ素化によって製造された発泡FEPとおよそ同様(0.00032)であることを示している。実施例1の発泡FEPは非常に低い損失係数(0.00015)をもたらしている。
【0043】
同軸ケーブル上での損失係数測定によってこれらの結果を示している。こうしたケーブルに関して、損失係数は、好ましくは10GHzで約0.00040以下であり、それはフッ素化によって得ることが可能である。絶縁材が発泡されているとき、同軸ケーブルは、好ましくは、パーフルオロポリマーのフッ素化なしで約0.00040以下およびパーフルオロポリマーのフッ素化後に約0.00025以下、より好ましくは約0.00020以下の10GHzでの損失係数を示す。
【0044】
パーフルオロポリマー自体、すなわち、ケーブル上で行われた測定の代わりに圧縮成形プラークの上で行われた損失係数の測定に関して同様の改良を示している。欧州特許第0423955号明細書の表1で開示された水性分散重合によって製造されたフッ素化FEPに関する損失係数は0.00035である。上の表1の水性分散重合によって製造されたフッ素化FEPは0.00027である。本明細書における実施例1のフッ素化FEPは、これらの結果の両方より低い、すなわち、0.00022である。上の表1に示したような本明細書における実施例1のFEPのわずか0.00035と比較すると、非フッ素化FEP、水性分散液FEPの0.00070に関する改良は遙かにより顕著である。好ましくは、本発明による重合によって製造されたパーフルオロポリマー自体(プラーク上で測定)の損失係数は約0.00040以下であり、フッ素化後に、約0.00025以下であり、すべては10GHzで決定されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品以外の液体および食品との非汚染性の接触用物品であって、この中で上記の食品以外の液体または食品に接触している上記物品の少なくとも表面が、重合したままでイオン性化学種、分散剤およびハロカーボン溶媒重合媒体を含まない溶融加工性パーフルオロポリマーである物品。
【請求項2】
溶融加工性パーフルオロポリマーが二酸化炭素を含む媒体中での重合により形成される請求項1に記載の物品。
【請求項3】
チューブ、パイプ、ライナー(タンクまたはパイプ)、剛性容器もしくは柔軟性フィルム製の容器などの収納物品としての、または加工用取付具としての請求項1に記載の物品。
【請求項4】
溶融加工性パーフルオロポリマーでワイヤを押出コーティングする工程を含む方法であって、上記パーフルオロポリマーが重合したままで分散剤、イオン性化学種およびハロカーボン溶媒重合媒体を含まず、それにより少なくとも1000ft/分(305m/分)の速度で少なくとも8時間にわたり上記コーティングを行うとき、該コーティングが塊を含まない方法。
【請求項5】
押出が溶融ドローダウン押出である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
絶縁材が重合したままでイオン性化学種、分散剤およびハロカーボン溶媒重合媒体を含まない溶融加工性パーフルオロポリマーである絶縁ワイヤであって、該絶縁ワイヤが水性分散重合によって製造された同じパーフルオロポリマーと比べて10GHzで改善された損失係数を有する絶縁ワイヤ。
【請求項7】
パーフルオロポリマーが約0.00040以下の損失係数を示す請求項6に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項8】
パーフルオロポリマーがフッ素処理され、そして約0.00025以下の損失係数を示す請求項6に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項9】
同軸ケーブルまたはツイストペアケーブルとしての請求項6に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項10】
同軸ケーブルとしての絶縁ワイヤであって、該同軸ケーブル上で測定して10GHzで0.00050以下の損失係数を示す請求項9に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項11】
パーフルオロポリマーがフッ素処理されている請求項6に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項12】
10GHzで0.00040以下の損失係数を示す同軸ケーブルとしての請求項11に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項13】
同軸ケーブルとしての絶縁ワイヤであって、絶縁材が発泡され、得られたケーブルが10GHzで0.00025以下の損失係数を示す請求項11に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項14】
パーフルオロポリマーがテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーである請求項6に記載の絶縁ワイヤ。

【公表番号】特表2009−540105(P2009−540105A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515497(P2009−515497)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/013972
【国際公開番号】WO2007/146387
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】