ヒアルロン酸、その誘導体、および半合成ポリマーで物体を被覆する方法
【課題】外科、健康管理および診断の分野における用途に関して、ヒアルロン酸、その誘導体または他の天然の、若しくは半合成ポリマーで、物体の表面を被服する方法を提供する。
【解決手段】その方法により、広範囲の材料で作られる物体の表面に、そのようなポリマーを安定に結合させることが可能となる。その方法により処理された表面は、高度の潤滑性によって特徴づけられ、生物学的な液体中に存在する細胞または細菌の付着を防止することができる。
【解決手段】その方法により、広範囲の材料で作られる物体の表面に、そのようなポリマーを安定に結合させることが可能となる。その方法により処理された表面は、高度の潤滑性によって特徴づけられ、生物学的な液体中に存在する細胞または細菌の付着を防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科、健康管理、および診断の分野における用途に関して、ヒアルロン酸、その誘導体、あるいは他の天然または半合成ポリマーで、物体の外表面を被覆する方法に関する。この方法によれば、様々な物質から作られた物体の表面に、ポリマーを安定な状態で結合させることが可能である。本発明の方法で処理された表面は、水性環境における高度な湿潤性およびスリップ性、ならびに生体相との相互作用において、向上した特性を有すること特徴とする。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、事実上、全ての組織中に様々な濃度で存在する天然のムコ多糖である。当業者に既知であるように、ヒアルロン酸、その塩、またはその誘導体、もしくは一般に多糖類の水溶液は、ヒトまたは他の動物の体内のヒアルロン酸と同種の多糖類の存在および作用に基づく性質である、顕著な粘性、スリップ性、および摩擦減少性を特徴とする(Michels R.G.ら、「Sodium hyaluronate in anterior and posterior segment surgery」。Physicochemical and Pharmacological Characteristics of Hyaluronic Acid,1-15,1989)。
【0003】
これらの性質により、ヒアルロン酸と同種の多糖類(天然多糖類、および天然化合物の化学合成によって得られる多糖類)の広範囲な研究がなされている。特に、ヒアルロン酸(欧州特許第0138572号に開示されているHyalectinフラクション)またはその誘導体(米国特許第4851521号)の薄層を、他の物質の表面に永久的に固定させる方法を同定することに多大な努力が払われている。この研究の目的は、物体を作っている物質(以降、この物質を基材(substrate)と称する)の総体的特性を維持しつつ、向上した表面特性を有する物体を形成することであった。ヒアルロン酸およびその誘導体は、それらの高い親水性によって、使用の際に物体の表面が組織または生体液中に存在する細胞種に対して付着抵抗性であることが必要とされる物体を製造するのに、特に適している。そのような表面は、物質と細胞との付着が生体組織に損傷を与える場合がある用途において、特に重要である(Kaufman,H.E. ら、Science,189,525,1977)。
【0004】
ヒアルロン酸またはその誘導体を用いて、物質の表面を改質することは、多くの研究者らにとって困難であることが明らかにされている。第一に気付くことは、ヒアルロン酸溶液が、水の表面張力と同じかそれより僅かに低い、かなり高い表面張力を有することである(F.H.Silverら、Journal of Applied Biomaterials,5,89,1994)。溶液の適用によって均質な被膜を得るためには、完全かつ均一な被膜を得るために、適用される物質が基材の表面張力よりも低い表面張力を有していなければならないことが知られている。さらに、基材として使用できるほとんど全てのポリマー物質は水よりも低い表面張力を示し、これは、基材を均一に被覆するヒアルロン酸の薄層の形成を妨げる性質である(Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces, from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,304,1994)。
【0005】
ヒアルロン酸は水溶性であり、従って、ヒアルロン酸溶液の層を単に被覆することによって得られる物体は、生体液を含む水溶液との接触によって即座に被膜を喪失してしまうことに注目すべきである。ヒアルロン酸誘導体は、水溶性でないものでさえも、いずれにせよ高度に親水性であり、水または水溶液の存在下に膨張する強い傾向を有する(H.N.JoshiおよびE.M.Topp,International Journ. of Pharm. 80 (1992) 213-225)。水性環境において、この性質は、溶液を用いる単純な被覆方法によって基材に適用された親水性表面層を急速に剥離させる。これらの理由から、基材表面とヒアルロン酸またはその誘導体との間の化学結合を含む方法が、研究されている。
【0006】
安定な化学結合の存在は、表面層の溶解を防止し、物体により強く、より長く持続する表面特性を与える。基材と表面層との間の化学結合の形成には、両者に適切な化学基が存在することが必要である。ヒアルロン酸の化学構造は、種々の適切な官能基の存在を確実なものとするが、一方、ほとんどの合成物質の表面がこの種の操作に特に適しているわけではない。このような理由から、ヒアルロン酸またはその誘導体の表面層と、合成基材との間の化学結合を形成する方法は、通常、2つの工程から成る。第一工程において、適切な化学基が、表面に導入され、次に、第二工程において、基材表面およびヒアルロン酸またはその誘導体上に導入される化学基の間に反応が誘発される。例えば、米国特許第4657820号、第4663233号、第4722867号、第4801475号、第4810586号、第4959074号、第5023114号、および第5037677号は、基材とヒアルロン酸被膜との間の中間層の使用を開示している。この中間層は、基材に物理的に付着し、ヒアルロン酸の化学基との結合を形成するのに適した化学基を含有する。分散を促進し、ヒアルロン酸による基材の均一な被覆を得るために、前記特許は、ヒアルロン酸に添加された場合に、中間層を均一に湿らせる性能を向上させるアルブミンの使用をも開示している。
【0007】
他の文献は、反応性基を基材上に導入するプラズマ法の使用を開示している。この方法(Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces, from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,6,1994)は、迅速かつ有効な方法で、ポリマー物質の表面を改質することを可能にする。例えば、国際特許出願第WO94/06485号は、メタノールプラズマでの処理によってポリマー物質の表面上に官能基を導入することを開示している。処理された物質を次に、多糖との反応に適した基を確実に存在させるエピヒドロクロリン溶液と接触させる。
【0008】
他の文献(Acta Physiologica Scandinava, 116,201,1982;Journal of Biomedical Materials Research,18,953,1984,Elanら)は、酸素プラズマでの処理、それに続く3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの適用を開示している。そのように処理された表面が、多糖との共有結合の形成に使用される。
【0009】
前記方法は一般に満足のいくものであるが、それでもなお、それぞれの方法はいくつかの問題点を有している。特に、中間層を使用する場合、できる限り付着を強化するように、その組成を基材の性質に適合させることが必要である。新規な材料、または稀にしか使用されない材料で構成される物体を製造する場合、中間層に最も適した配合を同定するのに多くの時間と労力を必要とする。被覆される物体が種々の材料から構成される場合、不適切な位置での中間層の重なりまたは隆起を避けつつ、各成分に適した中間層を適用することは困難である。さらに、基材の湿潤性を高めるためにアルブミンを使用することは望ましいことではなく、生物医学用途を意図した製品の場合は特に望ましくない。
【0010】
引用されている他の例に関しては、エピヒドロクロリンおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが重大な健康有害物であることが既知であるので、これらの使用を避けるのが望ましい。実際に、European Unionによって発行されている危険物質分類によれば、これらの化合物はそれぞれ「R45」および「R40」の符号が付けられており、化学製品および試薬の目録のほとんどに記載されているように、健康に対してリスクがあることを意味する。この指定は、第一に、製品が発ガン性であること、第二に、不可逆的影響のリスクがあることを示すものである。
【0011】
より一般的には、表面上に固定される官能基、および多糖のような大きい分子を伴う反応の総数が、立体障害として一般に既知の影響を受けることによって、大きく制限される。多糖分子が大きいことによって、反応性基間の接触が防止され、または妨げられ、それによって、有効な反応性の出会い(ractive encounter)の可能性が明らかに減少する。
【0012】
文献に開示されている他の方法は、多糖とアミノ基との反応を含む。日本特許第JP04126074号(1992年4月27日)は、ポリマー基材の表面にアミノ基を導入するために、アンモニアプラズマで処理することを開示している。次に、縮合剤を使用することによって、アミノ基をヒアルロン酸または他の多糖と反応させる。米国特許第4810784号においては、ポリマー物質でできている物体の表面を、反応性溶液で処理して、表面自体に負の静電荷が導入される。このように処理された表面を、アミノ基および正の静電荷の存在を特徴とするポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)の水溶液と接触させる。異なる電荷間の相互作用によって、PEIが改質表面に結合されて、アミノ基を多く含む表面を作る。ヘパリンおよび他の多糖が、亜硝酸塩溶液での処理後に、アミノ化された表面に結合される。亜硝酸塩の作用によってアルデヒド基が形成されることは、有機化学において既知の事実である。これらがアミノ化された表面と反応して、多糖を表面自体に不可逆的に結合させる。アルデヒド基が、過沃素酸塩を用いる緩慢な酸化(bland oxidation)によって導入される場合に、同じ反応が使用される(C.Brinkら、「Colloids and Surfaces」,149,66,1992)。
【0013】
PEIと、多糖上に存在または導入されたアルデヒド基との反応は、さらに、種々の形態の多糖を、物体の表面に結合させるのに使用されることがある(E.Ostenbergら、Journal of Biomedical Materials Research,29,741,1995)。米国特許第5409696号は、水蒸気含有プラズマでの処理、それに続く、処理表面とPEIとの反応によって、物質表面を改質することを開示している。このようにして得られる表面はアミノ基を多く含み、縮合剤の作用によって、ヘパリンおよび他の多糖を不可逆的に結合させることができる。一般に、多糖のカルボキシ基と、表面のアミノ基との反応は、エチルジメチルアミノプロピル−カルボジイミド(EDC)によって促進される。血液との接触が意図される管の内側を被覆するためにこの方法を使用することが、P.V.Narayanan(Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition, 6,181,1994)によって開示されている。
【0014】
ヒアルロン酸またはその誘導体によって改質された表面を有する物体の製造に関する限り、引用特許および文献に記載されている方法が、充分に満足できるものではないことが研究によって明らかにされている。事実、日本特許第JP04126074号(1992年4月27日)に開示されているような、アンモニアプラズマによるアミノ型官能基の導入は、製造工程においてあまり実用的ではない。 この方法によって基材の表面に導入される官能基の密度が、かなり低いこと、および、プラズマ処理に使用される反応器の厳密な形状、基材の性質、基材の表面および内側の添加剤および/または汚染物の存在、および処理の前後の基材の保管条件にあまりにも依存し過ぎることが、当業者に既知である。このような理由から、この方法は工業生産に適用するのが困難である。この否定的側面は、当業者によって、および前記米国特許第4810874号および第5409696号において、認識されており、得られるアミノ基の高密度を可能にするPEIの使用によって防止される。これら最後の方法は、物質の表面に反応性基を導入する工程の第一工程に伴う問題を有効に解決するが、ヒアルロン酸またはその誘導体を表面に結合させることに関わる第二工程においてはそれほど有効ではない。実際に、前記のように、米国特許第4810874号は、化学処理によるヘパリンまたは他の多糖の活性化を薦めている。従って、そのような多糖を用いることは可能ではないが、化学操作によってそれを初めに改質することが必要であり、時間、試薬、労力、およびごみ処理の観点において過剰のコストを発生させる。さらに、他の多糖と異なり、ヒアルロン酸は、多糖上に反応性アルデヒド型基を導入する部分酸化反応に僅かに感応性であるだけである(J.E.ScottおよびM.J.Tigwell,Biochem.J.,173,103,1978;B.J.Kvamら、Carbohydrate Research,230,1,1992)。米国特許第5409696号に関する限り、そこに開示されている方法を実施した場合、その方法は、ヒアルロン酸に固有の性質を充分に活かすことができる表面構造を形成しない。一方、米国特許第5409696号に開示の方法を用いた場合、本明細書に記載の比較例に示されるように、細胞付着を阻止することができる表面構造を得ることができない。ヒアルロン酸そのもののかわりに、その水溶性半合成エステルを使用した場合にも、同様の結果が観察される(EPA0216453)。明らかに、この方法を用いた場合、アミノ化表面と多糖と間に結合を形成する方法は、ヒアルロン酸またはその誘導体の親水性を充分に活かすことができない。
【0015】
米国特許第5409696号の主題である方法は、その発明の名称「Radio frequency plasma treated polymeric surfaces having immobilized antithrombogenic agents」によって、およびその作業説明によって示されるように、ポリマー物質の表面改質にのみ適用できることを見過ごすべきではない。一般的な生物医学的および外科的慣例においては、セラミックまたは金属材料が使用されることが多く、従って、改質方法がそのような基材にも適用できることが期待される。ヒアルロン酸に固有の性質を最大限に活かすことができるような方法で、種々の性質の基材とヒアルロン酸またはその誘導体との間に、容易かつ信頼性のある、化学結合が形成される方法を考案しなければならないことを、前記の記述は示している。
【0016】
【特許文献1】欧州特許第0138572号
【特許文献2】米国特許第4851521号
【特許文献3】米国特許第4657820号
【特許文献4】第4663233号
【特許文献5】第4722867号
【特許文献6】第4801475号
【特許文献7】第4810586号
【特許文献8】第4959074号
【特許文献9】第5037677号
【特許文献10】国際特許出願第WO94/06485号
【特許文献11】日本特許第JP04126074号(1992年4月27日)
【特許文献12】米国特許第4810784号
【特許文献13】米国特許第5409696号
【特許文献14】EPA0216453
【0017】
【非特許文献1】Michels R.G.ら、「Sodium hyaluronate in anterior and posterior segment surgery」。Physicochemical and Pharmacological Characteristics of Hyaluronic Acid,1-15,1989
【非特許文献2】Kaufman,H.E. ら、Science,189,525,1977
【非特許文献3】F.H.Silverら、Journal of Applied Biomaterials,5,89,1994
【非特許文献4】Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces, from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,6,1994
【非特許文献5】Acta Physiologica Scandinava, 116,201,1982;Journal of Biomedical Materials Research,18,953,1984
【非特許文献6】C.Brinkら、「Colloids and Surfaces」,149,66,1992
【非特許文献7】E.Ostenbergら、Journal of Biomedical Materials Research,29,741,1995
【非特許文献8】P.V.Narayanan(Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition, 6,181,1994
【非特許文献9】J.E.ScottおよびM.J.Tigwell,Biochem.J.,173,103,1978;B.J.Kvamら、Carbohydrate Research,230,1,1992
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は特に、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーの薄層で、生物医学的物体を被覆する方法に関し、この方法においては、薄層が基材に安定的に結合される。この方法においては、複合構造が形成され、その本体は、物体を製造するのに使用されている物質の特性によって特徴付けられ、一方、その表面特性は、ヒアルロン酸、その誘導体、またはその半合成ポリマーの薄層の特性である。前記特徴は、本発明の方法によって処理された物質の表面に、高度の親水性を与えることができる。例えば、本発明の方法によって処理された物体の表面は、生体液に存在する細胞の付着を防止することができ、細菌の付着を減少させることができる。さらに、本発明によって、天然の物質で物体を被覆することによって、生体相との相互作用においてより良い特性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の他の目的および他の適用範囲が、以下に記載の詳細な説明から明らかにされる。しかし、本発明の意図および範囲に含まれる種々の変更および改質が、詳細な説明から当業者に明らかであるので、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい具体例を示すものではあるが、単なる例として記載されているに過ぎないと解すべきである。
【0020】
一般に、本発明は、ヒアルロン酸またはその誘導体(例えば、カルボキシル基を含有する多糖)、または下記のような半合成ポリマーの層で、物体を被覆する方法を提供する。発明者らは、有益であり、本発明の一部である2つの別個の新規方法を開示している。これらは以下に、それぞれ「方法A」および「方法B」と称される。
【0021】
本発明の方法Aおよび方法Bの両方において、ヒアルロン酸またはその誘導体(例えば、その部分誘導体(EPA 0216453)またはカルボキシ基を含有する多糖)に代わる物として、種々の半合成性ポリマーに前記方法を適用することができ、例えば、ヒアルロン酸の多価アルコールのエステル(EP 0265116)、酸性多糖の分子内エステル(EPA 0341745)、カルボキシメチルセルロースのエステル、カルボキシメチルキチンおよびカルボキシメチルアミドのエステル(EP 0342557)、カルボキシ多糖の活性エステル(イタリア特許出願第PD94A000043号)、ヒアルロン酸の硫酸化エステル(イタリア特許出願第PD94000054号)、アルギン酸のエステル(EP 0251905)、ゲランエステル(gellan esters)(EPA 0518710)、ゲランの分子内エステル(WO 94/03499)、キチンおよびキトサンのエステル(EPA 0603264)、ペクチン酸およびペクチニン酸のエステル(EPA 0621877)に適用することができる。
【0022】
方法A
本発明の方法Aは、基材表面との化学結合を形成することによって、ヒアルロン酸またはその誘導体、もしくは半合成ポリマーの層で、物体を被覆する新規方法を提供する。前記の低収量の問題を有する、多糖高分子上の官能基と表面に存在する官能器との反応を含む既知の前記方法と対照的に、本発明は、2工程で行うことができ、既知の前記方法に伴う問題を回避する新規方法を提供する。
【0023】
新規方法Aの第一工程において、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーが、アルコキシシランカップリング剤である適切な化合物と、溶液中でのみ反応する。この第一工程において、基材表面上に固定された官能器と反応する必要性を取り除くことによって(従って、事実上の固定)、反応工程の第一工程において多糖分子の立体障害のマイナス効果を減少させることができる。
【0024】
新規方法Aの第二工程においては、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーと、アルコキシシランカップリング剤との反応の反応生成物が、通常の物理的被覆方法によって、溶液の形態で基材表面に適用される。被覆溶液が基材と接触し、反応が生じる可能性が非常に高くなる被覆溶液からの溶媒除去の間に、前記反応生成物のアルコキシシラン成分と基材との間に結合が形成される。従来の方法、即ち、表面に固定された官能基と多糖高分子に存在する官能基との反応を含む方法、を用いる場合と比較して、前記の2つの工程で行った場合、方法Aの効果が驚異的に高いことが実験で示されている。
【0025】
従って、本発明の方法Aにおいては、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマ
ーが、水溶液中、または一般に適切な溶媒中で、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーと一方で結合し、他方で基材と結合することができるアルコキシシランカップリング剤分子と反応する。
【0026】
本発明の方法Aにおいては、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーがアルコキシシランの種類に属する化合物と反応する。これらの化合物は、有機物質と無機物質との間の付着性を強化するために使用されるカップリング剤として、化学分野において既知である(「シランカップリング剤」、E.P.Plueddemann,Plenum Press,New York,1982)。そのようなアルコキシシランカップリング剤の例は、クロロプロピルトリメトキシシランのようなハロゲン含有分子、ビニルトリエトキシシランおよびメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランのような不飽和有機基を含有する分子、メルカプトプロピルトリメトキシシランのようなヒドロスルフィド基を含有する分子、アミノプロピルトリメトキシシランおよびアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基を含有する分子である。しかし、新規方法は、そのような特定の種類のアルコキシシランカップリング剤に限定されない。
【0027】
本発明の方法Aにおいて、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーと、アルコキシシランとの反応が、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーの官能基とアルコキシシランの官能基との反応を可能にする1種またはそれ以上の分子を使用することが必要な場合がある。この種の分子は、特に、一般定義の縮合剤に含まれるジイミド類に属する化合物を包含し、例えば、シクロヘキシルカルボジイミドおよびエチルジアミノプロピルカルボジイミド、ならびに、タンパク質化合物の合成分野において既知の、二官能剤として定義される、カルボニルジイミダゾールおよびジカルボニルジイミダゾールのような化合物が全て包含される。ヒアルロン酸またはその誘導体の官能基と、アルコキシシランの官能基との反応を触媒する、または促進する分子を、新規方法に使用することもできる。そのいくつかの例は、N−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物、および同様の機能を果たす類似化合物である。そのような化合物は、下記に示すように、本発明の方法Bにおいても使用することができる。
【0028】
方法Aにおいて、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーを含有する、前記のようにして形成される反応生成物とよりよく反応するために、被覆される基材が、プラズマ処理によって適合化される。特定の理論にしばられるものではないが、基材のプラズマ処理は、基材の表面張力を増加させる効果を有し、それによって、ヒアルロン酸およびアルコキシシランならびに他の分子を含有する溶液による湿潤性が均一に高められると考えられる。さらに、その処理によって、官能基と、基材表面に導入されるアルコキシシランとの反応が高められる。特に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、および一般に認められている化学用語において酸として定義される官能基を導入する処理が行われる。基材表面とシランカップリング剤との反応を高めることができる多くの化学官能基が存在するので、プラズマによる処理条件は、この分野において現在開示されている処理におけるよりも、制限がはるかに少ない。適切な処理の例の中には、酸素、空気、窒素、アルゴンおよび他の稀ガス、水、アルコール、および前記ガスまたは蒸気の混合物のプラズマを使用する処理が含まれる。基材の性質は限定されず、プラズマ処理後の、シランとの反応を高めることができる表面官能基の発生の可能性によってのみ決定される。
【0029】
本発明の新規方法Aの特に好ましい1つの形態においては、ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との反応が、ヒアルロン酸またはその誘導体の濃度が0.01〜2%、好ましくは0.1〜1.2%の水溶液中において、発生する。アルコキシシランは、反応プランに従って計算される理論量で、またはそれよりも僅かに過剰な量で存在するアミノシランであるのが好ましい。そのような好ましい例においては、ヒアルロン酸またはその誘導体上に得られるカルボキシ基と、アミノシランのアミノ基との反応によって計算される理論量の、またはそれより僅かに過剰な量のエチルジアミノプロピルカルボジイミドをも、反応溶液が含有しているのが好ましい。この反応は、カルボジイミドのモル濃度に対して10〜100%の量のN−ヒドロキシスクシンイミドの存在によって補助される。室温で数時間反応後、溶液の薄い表面層を適用するのに通常使用される方法によって、プラズマで処理されたばかりの物体の表面に、溶液が適用される。プラズマ処理は、酸素または空気プラズマを用いて、1〜400W、好ましくは10〜150Wの電力、10mtorr〜10torrの圧力で、1秒〜1時間、好ましくは10秒〜30分間の処理時間で行うのが好ましい。真空下または非真空下、加熱または非加熱下で、溶媒を留去する。この工程の作業は、アルコキシシランカップリング剤の反応性末端と、プラズマ処理後の基材表面に存在する官能基とを反応させるのに必要な条件を作る必要性に依存する。作業終了時に、さらに洗浄することによって、またはそれに類似した方法を用いて、反応残留物および安定的に結合していない分子が除去される。
方法B
本発明の別の実施態様によれば、酸素添加機能を表面に導入することができ、および/または、洗浄および有機汚染物除去を行うことができる空気、酸素、アルゴン、窒素、あるいは他のガスまたは蒸気のプラズマを用いて、なんらかの種類の基材物質が処理される。しかし、米国特許第5409696号に開示されているような水蒸気含有プラズマの使用は、本発明の方法においては必要ではない。
【0030】
前記のように処理された物質の表面を、PEI(またはポリリジンなどのような他のポリカチオン性物質)の水溶液に暴露し、それによって、アミノ基の高表面濃度が作られる。そのようにして得られた物質を、EDCのような縮合剤の存在下に、水溶液またはジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)中、有機溶媒中で、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマー(例えば、カルボキシル基を含有する他の多糖)と反応させる。EDCによって促進される反応を高めることができる分子も存在する。この種の分子は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物および類似の分子を包含するが、それらに限定されない。
【0031】
本発明の方法Bは、EDCによって促進される縮合反応に、および「スペーサーアーム」として当業者に既知の分子構造の不存在下に基が表面に結合する場合に、NHSのような分子が有用であるという意外な観察に基づいている。
【0032】
特にヒアルロン酸に関する限り、溶液中、およびNHSの不存在下において、N−アシル尿素として一般に定義される、反応の終了を妨げる中間反応生成物が形成される(X.Xuら、Trans IV World Biom.Cong.,170,1992)。アミノ基が表面に結合されるとき、それらを充分に反応性にするために、「スペーサーアーム」を使用しなければならない。「スペーサーアーム」は、表面から反応性基を分離し、それによって反応性基をより自由にし、その反応性を増加させる炭素原子配列である。例えば、製品COVALINK(Nunc)は、9個の炭素原子を有するスペーサーアームによって表面から分離された第二級アミノ基を含有するポリスチレンから作られており(K.Gregoriusら、J.Immunol.Meth.,181,65,1995)、EDCによって促進される反応の収量を増加させるのにNHSが有効であることが明らかにされている。明らかに、スペーサーアームによって支持される官能基のような、表面に複合分子構造を形成するコストは非常に高く、製造工程を制限する。本発明の方法Bにおいては、スペーサーアームの使用を必要とせず、または他の構造的観点に注意を払う必要もなく、アミノ基が表面およびPEI構造内に結合される。スペーサーアームの不存在下においてさえも、および表面の他の分子的側面に特別な注意を払うこともなく、EDCによって引き起こされる表面アミノ基の縮合反応にNHSが有効であるということを見い出したことは、意外なことであり、本発明の方法Bにおける重要な要素である。
【0033】
これまでの知識に基づけば、さらに意外であり、予期されなかったことは、反応混合物中のNHSの存在が、ヒアルロン酸またはその誘導体で被覆された表面の細胞付着防止特性に決定的な影響を及ぼすというということを見い出したことである。事実、NHSの不存在下では、米国特許第5409696号に記載のように、ヒアルロン酸で被覆された表面に、細胞の付着を防止する付着防止特性を与えることができない。一方、本発明の方法によれば、細胞集合に対して充分に抵抗性の表面が得られる。発明者らは、得られた結果に対する理由を説明する義務はなく、1つの理論に縛られるわけでもないが、挙動における差異は、下記の理由の1つに帰することができると考えられる:NHSの不存在下では、反応の収量があまりにも低く、そのためにヒアルロン酸が表面に結合しているとしても、基材を充分に被覆するのに充分な量で結合していない;または、NHSの不存在下に形成される結合は、表面に結合したヒアルロン酸の特性を変化させる。通常の化学的知識に基づけば、この種のポリマーに通常予期される特性を、結果として生じる構造は維持することができない。
【0034】
本発明の1つの特に好ましい形態においては、空気または酸素のプラズマを用いて、1〜400W、好ましくは10〜150Wの電力、10mtorr〜10torrの圧力で、1秒〜1時間、好ましくは10秒〜30分の処理時間で、ポリマー、金属、またはセラミック物質が処理される。しかし、処理の条件は限定されず、製品の形に依存する。管の内側または他の接近できない部分を改質する場合には、より長い時間を要し、平板または露出表面を改質する場合にはより短い時間を要する。
【0035】
0.01%〜10%、好ましくは0.5%〜2%の濃度のPEIの水性溶液に、処理された物質を入れる。反応時間は限定されず、10分〜10時間である。この工程の終了時に、物質を洗浄し、ヒアルロン酸またはその誘導体もしくはカルボキシ基を有する他の多糖の溶液に入れる。多糖の濃度は、0.005〜5%、好ましくは0.05〜1%である。NHSおよびEDCを0.001%〜1%の濃度で、溶液に追加する。反応を、室温または僅かに加熱して行い、10分〜48時間継続させる。多糖の種類および基材が適切であれば、DCCおよびNHSを前記の濃度で用いて、有機溶媒中で行うことができる。
【0036】
本発明(方法Aおよび方法B)の重要性は、当業者に明らかである。事実、本発明の方法によって、ヒアルロン酸またはその誘導体の被膜による好ましい表面特性を有し、被膜と基材との間の化学結合の存在によって経時においても安定を保つ物体を得ることができる。これらの物体の表面はさらに、生体液に存在する細胞および細菌の付着に対して顕著な抵抗性を示す。
【0037】
以下に純粋に例示的な例を引用するが、当業者に明らかなどのような変更も本発明の範囲内に含まれるものとする。
【実施例】
【0038】
製造例
実施例1
ポリスチレンのサンプルを細菌学標準ペトリ皿(Corning)から取り、平行板反応器(Gambetti Kenologia)中、プラズマで処理する。この処理を、酸素100mtorrの圧力、50Wの電力、20cm3(Std)/分の流速、および30秒の処理時間で行う。処理したサンプルを、PEI(Aldrich)の0.5%水溶液に2時間浸漬する。次にそれらを引き上げ、水洗し、下記溶液5mLを含有する試験管に浸漬する:
1) ヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers,Brindisi)1%(重量%)。
2) ヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.02g。
3) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)。
4) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g。
5) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)。
6) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.02g。
【0039】
サンプルを室温で12時間、試験管中に置き、その後、一晩水洗する。処理の有効性を、ESCA分析(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)によって評価する。既知であるように(Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces,from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,3,1994)、この方法を用いることによって、物質表面の化学組成を評価することができる。Perkin Elmer PHI 5500 ESCAシステムを用いて分析を行う。前記サンプル以外に、プラズマで処理されたもう1つのサンプルを、PEIのみと接触させることによって、比較として用いる。
【表1】
【0040】
これらのデータは、ヒアルロン酸またはそのエステルの導入後に予期されるような、改質工程後の表面に存在する酸素量の顕著な増加を示している。一方、EDCおよびNHSの不存在下においては、表面組成が参考サンプルの表面と類似した状態のままである。さらに、Clsピークの詳細な分析によれば、予期される分子構造と一致して、多数のC−O結合が示される。サンプル1および2のESCAスペクトルが、図1aおよび1bに示されている。
【0041】
実施例2
実施例1に記載の方法に従って準備した他のサンプルを、水中に2ヶ月間浸漬する。ESCA分析を繰り返す。酸素の表面濃度の減少または変化は観察されず、これにより、多糖と表面との結合の安定性が確認される。
【0042】
実施例3
包装に使用されるポリエチレンフィルムを、実施例1に記載のように、プラズマで処理し、PEIに浸漬する。2つのサンプルを準備し、ジメチルスルホキシド(Fluka)の下記溶液に浸漬する。
1) ベンジルアルコールで75%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%。
2) ベンジルアルコールで75%エステル化されたヒアルロン酸1%、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド0.02g。
ジメチルスルホキシド中で24時間洗浄後、サンプルをESCAによって分析する。下記の結果を得る。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例4
生物医学用途に通常使用される種類の316スチールのサンプルを空気プラズマで15分間処理し、次に、0.5%PEI溶液と2時間接触させる。ヒアルロン酸を、実施例1に記載の溶液2を用いて物質の表面に結合させる。この物質を次にESCA分析によって分析する。得られるClsピークが図2に示されている。図2aは、PEI溶液に暴露後のサンプルを示し、図2bは、充分な改質を受けたサンプルのClsピークを示す。後者の場合には、多糖のClsピークの特徴である典型的な広い多成分型が観察され(例えば、前記引用文献の、E.OstenbergらによるJournal of Biomedical Materials Research, 29,741,1995を参照。)、ヒアルロン酸の表面における存在を裏付けている。
【0045】
実施例5
細胞培養ペトリ皿(Corning)を実施例1に記載のように改質する(1つの処理に対して3つのペトリ皿)。このようにして準備したペトリ皿に、5mLの細胞懸濁液(10%胎児ウシ血清、抗生物質ペニシリン、ストレプトマイシンおよびアムホテリシンB、ならびにL−グルタミン−SPA, Milanを添加した最少必須イーグル培地中の、マウス結合組織の繊維芽細胞L−929)を満たし、5%CO2および98%湿度の雰囲気下、37℃のインキュベーター(Forma)に入れる。細胞間の相互作用、および実施例1に記載のように処理したポリスチレン基材を、光学位相差顕微鏡(Leica)を用いて、一定の間隔で評価する。プラズマのみで処理し、それによって最大付着特性を有するペトリ皿を対照標準として用いて、種々の処理を行った基材に細胞が付着したかどうか、およびどの程度付着したかを、特に評価した。この実施例において、評点5は最大付着を意味し、評点0は付着が存在しないことを意味する(24時間行った観察の平均から導き出す)。
【表3】
【0046】
この実験は、堅く結合し、細胞付着を防止することができる親水性の層が存在することを確認するものである。
【0047】
実施例6
4つのポリスチレンペトリ皿を、ヒアルロン酸の溶液2を用いて、実施例1に記載の改質方法に従って処理する(これらのサンプルをAと称する)。同数のペトリ皿を、米国特許第5409696号の実施例11に記載のヒアルロン酸被覆方法に従って処理する(これらのサンプルをBと称する)。改質したペトリ皿を、前記実施例に記載のように、L−929細胞の懸濁液と接触させる。前記実施例と同様に、細胞付着を評価し、結果を下記に示す:
【表4】
図3aおよび3bは、光学顕微鏡を用いて得られる映像であり、試験終了時の表面の状態を示している。図3aは、サンプルA、3b〜サンプルBを示す。2つの方法によって得られる細胞付着に対する抵抗度の差異は明白である。
【0048】
実施例7
実施例1に記載の改質方法に従い、ヒアルロン酸エステルの溶液4および6を用いて、4つのポリスチレンペトリ皿を処理する(これらのサンプルをそれぞれCおよびDと称する)。同数のペトリ皿を、同じヒアルロン酸エステルを用いて、米国特許第5409696号に記載のヒアルロン酸被覆方法に従って処理する(これらのサンプルをEおよびFと称する)。改質したペトリ皿を、前記実施例に記載のように、L−929細胞の懸濁液と接触させる。前記実施例と同様に、細胞付着を評価し、結果を下記に示す:
【表5】
【0049】
図4aおよび4bは、光学顕微鏡を用いて得られる映像であり、試験終了時の表面の状態を示している。図4aは、サンプルD、4b〜サンプルFを示す。2つの方法によって得られる細胞付着に対する抵抗度の差異は明白である。
【0050】
実施例8
チタンの小シート(Aldrich)をプラズマで改質し、実施例4に記載のようにPEIを用いて処理する。このように処理した表面を実施例1のように、溶液6と反応させる。未改質チタンの4つのサンプル、および改質工程を受けた4つのチタンサンプルを、前記実施例と同様に、L−929細胞の懸濁液と接触させる。細胞をトルイジンプルーで着色し、金属組織顕微鏡を用いて培養サンプルを観察することによって、24時間後に細胞付着を評価する。これらの観察の結果を、図5aおよび5bに示す。図5aは、未改質チタンに関し、図5bは本発明の方法によってヒアルロン酸エステルで改質したチタンに関する。2つの表面上において、細胞が異なる挙動を示すことが明らかである。改質物質の場合には、細胞は、丸い形態を維持し、基材に堅く付着した細胞に典型的な、未改質物質上に観察されるような(図5a)、平板な、広がった外観を呈さない。
【0051】
実施例9
実施例8に記載の改質方法を、ガラススライドに関して行う。改質ガラス、未開質ガラスサンプル、およびプラズマ改質ポリスチレンペトリ皿(最大付着を有する対照標準として使用)を、L−929細胞と接触させる。細胞付着を24時間後に評価する。下記の結果を得る。
【表6】
【0052】
実施例10
0.5%眼用標準ヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)、0.4%EDC、および0.4%NHSの溶液を用いて、実施例1に記載の改質方法を、2つの眼内レンズ(Sanitaria Scaligera)に関して行う。改質レンズ、およびそれと同数の未開質レンズを、ペトリ皿に入れ、前記実施例のように、L−929細胞の懸濁液と接触させる。細胞付着に対するサンプルの抵抗性を、図6および図7に示す。これらの図は、本発明方法によって改質したレンズ(6aおよび7a)、および未改質レンズ(6bおよび7b)の表面の写真である。これらの図は、2種の表面の細胞付着防止性能の差異を、明白に示している。
【0053】
実施例11
ポリスチレンのサンプルを、細菌学標準のペトリ皿(Corning)から取り、平行板反応器(Gambetti Kenologia)中、プラズマで処理する。この処理を、酸素100mtorrの圧力、100Wの電力、20cm3(Std)/分の流速、および1分の処理時間で行う。処理したサンプルを、6時間前に調製した下記水溶液中で、浸漬および引き上げを5回行い、室温で反応させる:
1) ヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)。
2) ヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.4g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)1%(容量%)。
3) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Adva
nced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.35g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)1%(容量%)。
4) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.35g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)1%(容量%)。
サンプルを炉中、60℃で一夜乾燥し、次に水洗し、圧縮空気の噴射によって乾燥する。被膜の保全性を検査するために、サンプルをトルイジンブルーの1%水溶液に漬ける。これによって、直ぐに、ヒアルロン酸および他の多糖が明るい青紫(bright violet-blue)に染色される。この方法の有効性が、0〜5工程の評点をつけることによって評価される。5は充分に均一な着色を意味し(ヒアルロン酸またはその誘導体の被膜の完全な状態を示す)、0は染色の不存在を意味する。この実施例によって準備したサンプル(それらが浸漬される溶液の番号で示される)は、下記のような評点である。
【表7】
【0054】
実施例12
いくつかのサンプルを、実施例11に記載の方法によって準備する。サンプルを室温で20日間、水に浸け、その後、染色試験を行う。下記の結果を得る。
【表8】
【0055】
実施例13
下記実施例によって、前記方法の有効性を評価することができ、即ち、表面に固定された基と、多糖に存在する基との反応を含む従来法に対するものとしての、多糖と溶液中の官能基との反応の有効性を評価することができる。シリコーンカテーテルを切って、長さ3cmのサンプルを得る。一連のサンプルを、実施例11に記載の方法によって、溶液2、3および4を用いて処理する。第二の一連のサンプルは、プラズマ処理を受け、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)の1%(容量%)水溶液を適用される。乾燥したら、サンプルを下記溶液と接触させる:
2a) ヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.4g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g。
3a) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.351g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、1%。
4a) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.35g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g。
サンプルを、炉中、60℃で一夜乾燥し、次に水洗し、圧縮空気の噴射によって乾燥する。染色試験によって、下記の結果を得る:
【表9】
【0056】
実施例14
細菌学標準ポリスチレンペトリ皿(Corning)を実施例11に記載のように、溶液1、2および3を用いて処理する(1つの処理に対して3ペトリ皿)。そのようにして準備したペトリ皿に、5mLの細胞懸濁液(10%胎児ウシ血清、抗生物質ペニシリン、ストレプトマイシンおよびアムホテリシンB、ならびにL−グルタミン−SPAを添加した最少必須イーグル培地中の、マウス結合組織の繊維芽細胞L−929)を満たし、5%CO2および98%湿度の雰囲気下、37℃においてインキュベーター(Forma)に入れる。細胞間の相互作用、および実施例11に記載のように処理したポリスチレン基材を、光学位相差顕微鏡(Leica)を用いて、一定の間隔で評価する。プラズマのみで処理し、それによって最大付着特性を有するペトリ皿を対照標準として用いて、種々の処理を行った基材に細胞が付着したかどうか、およびどの程度付着したかを、特に評価した。この実施例において、評点5は最大付着を意味し、評点0は付着の不存在を意味する(24時間行った観察の平均から導き出す)。
【表10】
【0057】
この実験は、堅く結合し、細胞付着を防止することができる親水性の層が存在することを確認するものである。この親水性の層は、化学結合を形成させない溶液1で処理したサンプルから除去される。
【0058】
実施例15
シリコーンカテーテル(Silkomed)をそれぞれ7cmの長さの部分に分割する。4つのサンプルを、実施例11に記載の条件下で、溶液1、2、3、および4を用いて処理する。水性環境下でのカテーテルのスリップ性を、下記の方法によって評価する:試験管を、0.7%の濃度の寒天(Sigma)で満たす。試験管を水平位置に固定し、その中に、7cm片のカテーテルを、一端が寒天から僅かに突き出るようにして入れる。この末端に、糸を用いて重りを取り付け、次にホイールに巻き付けて、重りの作用で、浸漬している寒天からカテーテルが引き出されるようにする。寒天の特殊な性質により、水性環境下でのカテーテルのスリップ性を評価することができる。カテーテルが寒天から引き出されるのに要する時間は、カテーテルのスリップ性に反比例する。
【表11】
【0059】
実施例16
下記実施例は、表面の組成にプラズマの作用を用いる方法を示しており、この方法は、種々の化学組成を有する物質においても有効であることが明らかである。さらに、この実施例は、被覆される物体がいくつかの異なる物質から構成されている場合にも、この方法が有効であることを示す。
長さ3cmのカテーテルをサンプルとして準備する。それらは、a)シリコ−ン、b)ポリウレタン、c)ポリ塩化ビニル、d)ゴムラテックスから成る。顕微鏡観察用のガラスカバーも使用する。実施例1に記載のように、サンプルをプラズマで処理し、次に同実施例の溶液3を用いて前記のように処理する。染色試験の結果は以下の通りである。
【表12】
【0060】
実施例17
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、ベンジルアルコールで75%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに1.1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つを、実施例14に記載のようにプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をアミノシラン含有エステル溶液に浸漬し、ゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表13】
【0061】
実施例18
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、エチルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)の1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表14】
【0062】
実施例19
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、ベンジルアルコールで100%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)の1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのカルボニルジイミダゾール(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表15】
【0063】
実施例20
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、エチルアルコールで100%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)の1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのカルボニルジイミダゾール(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表16】
【0064】
実施例21
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、架橋ヒアルロン酸(分子内エステル化に関わるカルボキシ基10%−ナトリウムで塩化されたカルボキシ基90%)の1%溶液を調製する。アリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例4に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表17】
【0065】
実施例22
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、アルギン酸(ベンジルアルコールでエステル化されたカルボキシ基50%−塩化されたカルボキシ基50%)の1%溶液を調製する。アリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表18】
【0066】
従って、本発明の目的は、基材に化学的に結合したヒアルロン酸またはその誘導体もしくは他の半合成ポリマーの薄層で被覆された物体の新規製造方法を提供することである。この方法は、向上した表面特性を有する物質またはデバイス、特に、親水性表面を特徴とする物質およびデバイスの製造に、適用することができる。より詳しくは、この方法は、泌尿器科、整形外科、耳鼻咽喉科、胃腸科、眼科、心臓血管分野および診断における、生物医学的用途および外科的用途の物質を製造するのに、使用することができる。生物医学的用途に関しては、カテーテル、血液バッグ(blood bags)、ガイドチャネル、探針、注射器、外科器具、容器、濾過システムのような、準または臨時身体的使用のデバイスに使用され;補綴目的または外科目的あるいはインプラントに関しては、人工腱、関節、ピン、心臓弁、骨、および心臓血管代替物、移植組織、静脈カテーテル、眼内レンズ、軟組織代替物などを被覆するのに使用することができる。被覆することができる半永久的デバイスの例は、コンタクトレンズ、ならびに、人工腎臓、血液酸素供給器、人工心臓、膵臓および肝臓のような生理学的プロセスをシミュレートする複合デバイスである。最後に、診断においては、実験器具、細胞または組織培養および/または再生皿、および、ペプチド、タンパク質および抗体のような活性成分の支持物を、被覆することができる。
【0067】
本明細書において、引用および/または参照されている出版物および特許文献は、本発明の開示の一部を構成するものとする。
本発明を以上のように説明したが、これらの方法に種々の変更を加え得ることは明白である。そのような変更は本発明の意図および目的を逸脱するものであると見なすべきでなく、当業者に明らかなどのような変更も下記請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本発明は、下記の詳細な説明、および例として示されているだけであって、本発明を制限するものではない添付の図面から、より良く理解することができる。
【図1a】実施例1のサンプル1のESCAスペクトル。
【図1b】実施例1のサンプル2のESCAスペクトル。
【図2a】PEI溶液に入れたスチールサンプルの、ESCA分析によって得たClsピーク。
【図2b】実施例4に記載の、ヒアルロン酸で改質したスチールサンプルの、ESCA分析によって得たClsピーク。
【図3a】実施例6のサンプルAの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図3b】実施例6のサンプルBの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図4a】実施例6のサンプルDの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図4b】実施例6のサンプルFの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図5a】チタンの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図5b】実施例8に記載の、ヒアルロン酸エステルで改質したチタンの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図6a】実施例10に記載の、ヒアルロン酸で改質した眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率50)。
【図6b】未改質眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率50)。
【図7a】実施例10に記載の、ヒアルロン酸で改質した眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図7b】未改質眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科、健康管理、および診断の分野における用途に関して、ヒアルロン酸、その誘導体、あるいは他の天然または半合成ポリマーで、物体の外表面を被覆する方法に関する。この方法によれば、様々な物質から作られた物体の表面に、ポリマーを安定な状態で結合させることが可能である。本発明の方法で処理された表面は、水性環境における高度な湿潤性およびスリップ性、ならびに生体相との相互作用において、向上した特性を有すること特徴とする。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、事実上、全ての組織中に様々な濃度で存在する天然のムコ多糖である。当業者に既知であるように、ヒアルロン酸、その塩、またはその誘導体、もしくは一般に多糖類の水溶液は、ヒトまたは他の動物の体内のヒアルロン酸と同種の多糖類の存在および作用に基づく性質である、顕著な粘性、スリップ性、および摩擦減少性を特徴とする(Michels R.G.ら、「Sodium hyaluronate in anterior and posterior segment surgery」。Physicochemical and Pharmacological Characteristics of Hyaluronic Acid,1-15,1989)。
【0003】
これらの性質により、ヒアルロン酸と同種の多糖類(天然多糖類、および天然化合物の化学合成によって得られる多糖類)の広範囲な研究がなされている。特に、ヒアルロン酸(欧州特許第0138572号に開示されているHyalectinフラクション)またはその誘導体(米国特許第4851521号)の薄層を、他の物質の表面に永久的に固定させる方法を同定することに多大な努力が払われている。この研究の目的は、物体を作っている物質(以降、この物質を基材(substrate)と称する)の総体的特性を維持しつつ、向上した表面特性を有する物体を形成することであった。ヒアルロン酸およびその誘導体は、それらの高い親水性によって、使用の際に物体の表面が組織または生体液中に存在する細胞種に対して付着抵抗性であることが必要とされる物体を製造するのに、特に適している。そのような表面は、物質と細胞との付着が生体組織に損傷を与える場合がある用途において、特に重要である(Kaufman,H.E. ら、Science,189,525,1977)。
【0004】
ヒアルロン酸またはその誘導体を用いて、物質の表面を改質することは、多くの研究者らにとって困難であることが明らかにされている。第一に気付くことは、ヒアルロン酸溶液が、水の表面張力と同じかそれより僅かに低い、かなり高い表面張力を有することである(F.H.Silverら、Journal of Applied Biomaterials,5,89,1994)。溶液の適用によって均質な被膜を得るためには、完全かつ均一な被膜を得るために、適用される物質が基材の表面張力よりも低い表面張力を有していなければならないことが知られている。さらに、基材として使用できるほとんど全てのポリマー物質は水よりも低い表面張力を示し、これは、基材を均一に被覆するヒアルロン酸の薄層の形成を妨げる性質である(Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces, from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,304,1994)。
【0005】
ヒアルロン酸は水溶性であり、従って、ヒアルロン酸溶液の層を単に被覆することによって得られる物体は、生体液を含む水溶液との接触によって即座に被膜を喪失してしまうことに注目すべきである。ヒアルロン酸誘導体は、水溶性でないものでさえも、いずれにせよ高度に親水性であり、水または水溶液の存在下に膨張する強い傾向を有する(H.N.JoshiおよびE.M.Topp,International Journ. of Pharm. 80 (1992) 213-225)。水性環境において、この性質は、溶液を用いる単純な被覆方法によって基材に適用された親水性表面層を急速に剥離させる。これらの理由から、基材表面とヒアルロン酸またはその誘導体との間の化学結合を含む方法が、研究されている。
【0006】
安定な化学結合の存在は、表面層の溶解を防止し、物体により強く、より長く持続する表面特性を与える。基材と表面層との間の化学結合の形成には、両者に適切な化学基が存在することが必要である。ヒアルロン酸の化学構造は、種々の適切な官能基の存在を確実なものとするが、一方、ほとんどの合成物質の表面がこの種の操作に特に適しているわけではない。このような理由から、ヒアルロン酸またはその誘導体の表面層と、合成基材との間の化学結合を形成する方法は、通常、2つの工程から成る。第一工程において、適切な化学基が、表面に導入され、次に、第二工程において、基材表面およびヒアルロン酸またはその誘導体上に導入される化学基の間に反応が誘発される。例えば、米国特許第4657820号、第4663233号、第4722867号、第4801475号、第4810586号、第4959074号、第5023114号、および第5037677号は、基材とヒアルロン酸被膜との間の中間層の使用を開示している。この中間層は、基材に物理的に付着し、ヒアルロン酸の化学基との結合を形成するのに適した化学基を含有する。分散を促進し、ヒアルロン酸による基材の均一な被覆を得るために、前記特許は、ヒアルロン酸に添加された場合に、中間層を均一に湿らせる性能を向上させるアルブミンの使用をも開示している。
【0007】
他の文献は、反応性基を基材上に導入するプラズマ法の使用を開示している。この方法(Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces, from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,6,1994)は、迅速かつ有効な方法で、ポリマー物質の表面を改質することを可能にする。例えば、国際特許出願第WO94/06485号は、メタノールプラズマでの処理によってポリマー物質の表面上に官能基を導入することを開示している。処理された物質を次に、多糖との反応に適した基を確実に存在させるエピヒドロクロリン溶液と接触させる。
【0008】
他の文献(Acta Physiologica Scandinava, 116,201,1982;Journal of Biomedical Materials Research,18,953,1984,Elanら)は、酸素プラズマでの処理、それに続く3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの適用を開示している。そのように処理された表面が、多糖との共有結合の形成に使用される。
【0009】
前記方法は一般に満足のいくものであるが、それでもなお、それぞれの方法はいくつかの問題点を有している。特に、中間層を使用する場合、できる限り付着を強化するように、その組成を基材の性質に適合させることが必要である。新規な材料、または稀にしか使用されない材料で構成される物体を製造する場合、中間層に最も適した配合を同定するのに多くの時間と労力を必要とする。被覆される物体が種々の材料から構成される場合、不適切な位置での中間層の重なりまたは隆起を避けつつ、各成分に適した中間層を適用することは困難である。さらに、基材の湿潤性を高めるためにアルブミンを使用することは望ましいことではなく、生物医学用途を意図した製品の場合は特に望ましくない。
【0010】
引用されている他の例に関しては、エピヒドロクロリンおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが重大な健康有害物であることが既知であるので、これらの使用を避けるのが望ましい。実際に、European Unionによって発行されている危険物質分類によれば、これらの化合物はそれぞれ「R45」および「R40」の符号が付けられており、化学製品および試薬の目録のほとんどに記載されているように、健康に対してリスクがあることを意味する。この指定は、第一に、製品が発ガン性であること、第二に、不可逆的影響のリスクがあることを示すものである。
【0011】
より一般的には、表面上に固定される官能基、および多糖のような大きい分子を伴う反応の総数が、立体障害として一般に既知の影響を受けることによって、大きく制限される。多糖分子が大きいことによって、反応性基間の接触が防止され、または妨げられ、それによって、有効な反応性の出会い(ractive encounter)の可能性が明らかに減少する。
【0012】
文献に開示されている他の方法は、多糖とアミノ基との反応を含む。日本特許第JP04126074号(1992年4月27日)は、ポリマー基材の表面にアミノ基を導入するために、アンモニアプラズマで処理することを開示している。次に、縮合剤を使用することによって、アミノ基をヒアルロン酸または他の多糖と反応させる。米国特許第4810784号においては、ポリマー物質でできている物体の表面を、反応性溶液で処理して、表面自体に負の静電荷が導入される。このように処理された表面を、アミノ基および正の静電荷の存在を特徴とするポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)の水溶液と接触させる。異なる電荷間の相互作用によって、PEIが改質表面に結合されて、アミノ基を多く含む表面を作る。ヘパリンおよび他の多糖が、亜硝酸塩溶液での処理後に、アミノ化された表面に結合される。亜硝酸塩の作用によってアルデヒド基が形成されることは、有機化学において既知の事実である。これらがアミノ化された表面と反応して、多糖を表面自体に不可逆的に結合させる。アルデヒド基が、過沃素酸塩を用いる緩慢な酸化(bland oxidation)によって導入される場合に、同じ反応が使用される(C.Brinkら、「Colloids and Surfaces」,149,66,1992)。
【0013】
PEIと、多糖上に存在または導入されたアルデヒド基との反応は、さらに、種々の形態の多糖を、物体の表面に結合させるのに使用されることがある(E.Ostenbergら、Journal of Biomedical Materials Research,29,741,1995)。米国特許第5409696号は、水蒸気含有プラズマでの処理、それに続く、処理表面とPEIとの反応によって、物質表面を改質することを開示している。このようにして得られる表面はアミノ基を多く含み、縮合剤の作用によって、ヘパリンおよび他の多糖を不可逆的に結合させることができる。一般に、多糖のカルボキシ基と、表面のアミノ基との反応は、エチルジメチルアミノプロピル−カルボジイミド(EDC)によって促進される。血液との接触が意図される管の内側を被覆するためにこの方法を使用することが、P.V.Narayanan(Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition, 6,181,1994)によって開示されている。
【0014】
ヒアルロン酸またはその誘導体によって改質された表面を有する物体の製造に関する限り、引用特許および文献に記載されている方法が、充分に満足できるものではないことが研究によって明らかにされている。事実、日本特許第JP04126074号(1992年4月27日)に開示されているような、アンモニアプラズマによるアミノ型官能基の導入は、製造工程においてあまり実用的ではない。 この方法によって基材の表面に導入される官能基の密度が、かなり低いこと、および、プラズマ処理に使用される反応器の厳密な形状、基材の性質、基材の表面および内側の添加剤および/または汚染物の存在、および処理の前後の基材の保管条件にあまりにも依存し過ぎることが、当業者に既知である。このような理由から、この方法は工業生産に適用するのが困難である。この否定的側面は、当業者によって、および前記米国特許第4810874号および第5409696号において、認識されており、得られるアミノ基の高密度を可能にするPEIの使用によって防止される。これら最後の方法は、物質の表面に反応性基を導入する工程の第一工程に伴う問題を有効に解決するが、ヒアルロン酸またはその誘導体を表面に結合させることに関わる第二工程においてはそれほど有効ではない。実際に、前記のように、米国特許第4810874号は、化学処理によるヘパリンまたは他の多糖の活性化を薦めている。従って、そのような多糖を用いることは可能ではないが、化学操作によってそれを初めに改質することが必要であり、時間、試薬、労力、およびごみ処理の観点において過剰のコストを発生させる。さらに、他の多糖と異なり、ヒアルロン酸は、多糖上に反応性アルデヒド型基を導入する部分酸化反応に僅かに感応性であるだけである(J.E.ScottおよびM.J.Tigwell,Biochem.J.,173,103,1978;B.J.Kvamら、Carbohydrate Research,230,1,1992)。米国特許第5409696号に関する限り、そこに開示されている方法を実施した場合、その方法は、ヒアルロン酸に固有の性質を充分に活かすことができる表面構造を形成しない。一方、米国特許第5409696号に開示の方法を用いた場合、本明細書に記載の比較例に示されるように、細胞付着を阻止することができる表面構造を得ることができない。ヒアルロン酸そのもののかわりに、その水溶性半合成エステルを使用した場合にも、同様の結果が観察される(EPA0216453)。明らかに、この方法を用いた場合、アミノ化表面と多糖と間に結合を形成する方法は、ヒアルロン酸またはその誘導体の親水性を充分に活かすことができない。
【0015】
米国特許第5409696号の主題である方法は、その発明の名称「Radio frequency plasma treated polymeric surfaces having immobilized antithrombogenic agents」によって、およびその作業説明によって示されるように、ポリマー物質の表面改質にのみ適用できることを見過ごすべきではない。一般的な生物医学的および外科的慣例においては、セラミックまたは金属材料が使用されることが多く、従って、改質方法がそのような基材にも適用できることが期待される。ヒアルロン酸に固有の性質を最大限に活かすことができるような方法で、種々の性質の基材とヒアルロン酸またはその誘導体との間に、容易かつ信頼性のある、化学結合が形成される方法を考案しなければならないことを、前記の記述は示している。
【0016】
【特許文献1】欧州特許第0138572号
【特許文献2】米国特許第4851521号
【特許文献3】米国特許第4657820号
【特許文献4】第4663233号
【特許文献5】第4722867号
【特許文献6】第4801475号
【特許文献7】第4810586号
【特許文献8】第4959074号
【特許文献9】第5037677号
【特許文献10】国際特許出願第WO94/06485号
【特許文献11】日本特許第JP04126074号(1992年4月27日)
【特許文献12】米国特許第4810784号
【特許文献13】米国特許第5409696号
【特許文献14】EPA0216453
【0017】
【非特許文献1】Michels R.G.ら、「Sodium hyaluronate in anterior and posterior segment surgery」。Physicochemical and Pharmacological Characteristics of Hyaluronic Acid,1-15,1989
【非特許文献2】Kaufman,H.E. ら、Science,189,525,1977
【非特許文献3】F.H.Silverら、Journal of Applied Biomaterials,5,89,1994
【非特許文献4】Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces, from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,6,1994
【非特許文献5】Acta Physiologica Scandinava, 116,201,1982;Journal of Biomedical Materials Research,18,953,1984
【非特許文献6】C.Brinkら、「Colloids and Surfaces」,149,66,1992
【非特許文献7】E.Ostenbergら、Journal of Biomedical Materials Research,29,741,1995
【非特許文献8】P.V.Narayanan(Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition, 6,181,1994
【非特許文献9】J.E.ScottおよびM.J.Tigwell,Biochem.J.,173,103,1978;B.J.Kvamら、Carbohydrate Research,230,1,1992
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は特に、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーの薄層で、生物医学的物体を被覆する方法に関し、この方法においては、薄層が基材に安定的に結合される。この方法においては、複合構造が形成され、その本体は、物体を製造するのに使用されている物質の特性によって特徴付けられ、一方、その表面特性は、ヒアルロン酸、その誘導体、またはその半合成ポリマーの薄層の特性である。前記特徴は、本発明の方法によって処理された物質の表面に、高度の親水性を与えることができる。例えば、本発明の方法によって処理された物体の表面は、生体液に存在する細胞の付着を防止することができ、細菌の付着を減少させることができる。さらに、本発明によって、天然の物質で物体を被覆することによって、生体相との相互作用においてより良い特性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の他の目的および他の適用範囲が、以下に記載の詳細な説明から明らかにされる。しかし、本発明の意図および範囲に含まれる種々の変更および改質が、詳細な説明から当業者に明らかであるので、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい具体例を示すものではあるが、単なる例として記載されているに過ぎないと解すべきである。
【0020】
一般に、本発明は、ヒアルロン酸またはその誘導体(例えば、カルボキシル基を含有する多糖)、または下記のような半合成ポリマーの層で、物体を被覆する方法を提供する。発明者らは、有益であり、本発明の一部である2つの別個の新規方法を開示している。これらは以下に、それぞれ「方法A」および「方法B」と称される。
【0021】
本発明の方法Aおよび方法Bの両方において、ヒアルロン酸またはその誘導体(例えば、その部分誘導体(EPA 0216453)またはカルボキシ基を含有する多糖)に代わる物として、種々の半合成性ポリマーに前記方法を適用することができ、例えば、ヒアルロン酸の多価アルコールのエステル(EP 0265116)、酸性多糖の分子内エステル(EPA 0341745)、カルボキシメチルセルロースのエステル、カルボキシメチルキチンおよびカルボキシメチルアミドのエステル(EP 0342557)、カルボキシ多糖の活性エステル(イタリア特許出願第PD94A000043号)、ヒアルロン酸の硫酸化エステル(イタリア特許出願第PD94000054号)、アルギン酸のエステル(EP 0251905)、ゲランエステル(gellan esters)(EPA 0518710)、ゲランの分子内エステル(WO 94/03499)、キチンおよびキトサンのエステル(EPA 0603264)、ペクチン酸およびペクチニン酸のエステル(EPA 0621877)に適用することができる。
【0022】
方法A
本発明の方法Aは、基材表面との化学結合を形成することによって、ヒアルロン酸またはその誘導体、もしくは半合成ポリマーの層で、物体を被覆する新規方法を提供する。前記の低収量の問題を有する、多糖高分子上の官能基と表面に存在する官能器との反応を含む既知の前記方法と対照的に、本発明は、2工程で行うことができ、既知の前記方法に伴う問題を回避する新規方法を提供する。
【0023】
新規方法Aの第一工程において、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーが、アルコキシシランカップリング剤である適切な化合物と、溶液中でのみ反応する。この第一工程において、基材表面上に固定された官能器と反応する必要性を取り除くことによって(従って、事実上の固定)、反応工程の第一工程において多糖分子の立体障害のマイナス効果を減少させることができる。
【0024】
新規方法Aの第二工程においては、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーと、アルコキシシランカップリング剤との反応の反応生成物が、通常の物理的被覆方法によって、溶液の形態で基材表面に適用される。被覆溶液が基材と接触し、反応が生じる可能性が非常に高くなる被覆溶液からの溶媒除去の間に、前記反応生成物のアルコキシシラン成分と基材との間に結合が形成される。従来の方法、即ち、表面に固定された官能基と多糖高分子に存在する官能基との反応を含む方法、を用いる場合と比較して、前記の2つの工程で行った場合、方法Aの効果が驚異的に高いことが実験で示されている。
【0025】
従って、本発明の方法Aにおいては、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマ
ーが、水溶液中、または一般に適切な溶媒中で、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーと一方で結合し、他方で基材と結合することができるアルコキシシランカップリング剤分子と反応する。
【0026】
本発明の方法Aにおいては、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーがアルコキシシランの種類に属する化合物と反応する。これらの化合物は、有機物質と無機物質との間の付着性を強化するために使用されるカップリング剤として、化学分野において既知である(「シランカップリング剤」、E.P.Plueddemann,Plenum Press,New York,1982)。そのようなアルコキシシランカップリング剤の例は、クロロプロピルトリメトキシシランのようなハロゲン含有分子、ビニルトリエトキシシランおよびメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランのような不飽和有機基を含有する分子、メルカプトプロピルトリメトキシシランのようなヒドロスルフィド基を含有する分子、アミノプロピルトリメトキシシランおよびアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基を含有する分子である。しかし、新規方法は、そのような特定の種類のアルコキシシランカップリング剤に限定されない。
【0027】
本発明の方法Aにおいて、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーと、アルコキシシランとの反応が、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーの官能基とアルコキシシランの官能基との反応を可能にする1種またはそれ以上の分子を使用することが必要な場合がある。この種の分子は、特に、一般定義の縮合剤に含まれるジイミド類に属する化合物を包含し、例えば、シクロヘキシルカルボジイミドおよびエチルジアミノプロピルカルボジイミド、ならびに、タンパク質化合物の合成分野において既知の、二官能剤として定義される、カルボニルジイミダゾールおよびジカルボニルジイミダゾールのような化合物が全て包含される。ヒアルロン酸またはその誘導体の官能基と、アルコキシシランの官能基との反応を触媒する、または促進する分子を、新規方法に使用することもできる。そのいくつかの例は、N−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物、および同様の機能を果たす類似化合物である。そのような化合物は、下記に示すように、本発明の方法Bにおいても使用することができる。
【0028】
方法Aにおいて、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマーを含有する、前記のようにして形成される反応生成物とよりよく反応するために、被覆される基材が、プラズマ処理によって適合化される。特定の理論にしばられるものではないが、基材のプラズマ処理は、基材の表面張力を増加させる効果を有し、それによって、ヒアルロン酸およびアルコキシシランならびに他の分子を含有する溶液による湿潤性が均一に高められると考えられる。さらに、その処理によって、官能基と、基材表面に導入されるアルコキシシランとの反応が高められる。特に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、および一般に認められている化学用語において酸として定義される官能基を導入する処理が行われる。基材表面とシランカップリング剤との反応を高めることができる多くの化学官能基が存在するので、プラズマによる処理条件は、この分野において現在開示されている処理におけるよりも、制限がはるかに少ない。適切な処理の例の中には、酸素、空気、窒素、アルゴンおよび他の稀ガス、水、アルコール、および前記ガスまたは蒸気の混合物のプラズマを使用する処理が含まれる。基材の性質は限定されず、プラズマ処理後の、シランとの反応を高めることができる表面官能基の発生の可能性によってのみ決定される。
【0029】
本発明の新規方法Aの特に好ましい1つの形態においては、ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との反応が、ヒアルロン酸またはその誘導体の濃度が0.01〜2%、好ましくは0.1〜1.2%の水溶液中において、発生する。アルコキシシランは、反応プランに従って計算される理論量で、またはそれよりも僅かに過剰な量で存在するアミノシランであるのが好ましい。そのような好ましい例においては、ヒアルロン酸またはその誘導体上に得られるカルボキシ基と、アミノシランのアミノ基との反応によって計算される理論量の、またはそれより僅かに過剰な量のエチルジアミノプロピルカルボジイミドをも、反応溶液が含有しているのが好ましい。この反応は、カルボジイミドのモル濃度に対して10〜100%の量のN−ヒドロキシスクシンイミドの存在によって補助される。室温で数時間反応後、溶液の薄い表面層を適用するのに通常使用される方法によって、プラズマで処理されたばかりの物体の表面に、溶液が適用される。プラズマ処理は、酸素または空気プラズマを用いて、1〜400W、好ましくは10〜150Wの電力、10mtorr〜10torrの圧力で、1秒〜1時間、好ましくは10秒〜30分間の処理時間で行うのが好ましい。真空下または非真空下、加熱または非加熱下で、溶媒を留去する。この工程の作業は、アルコキシシランカップリング剤の反応性末端と、プラズマ処理後の基材表面に存在する官能基とを反応させるのに必要な条件を作る必要性に依存する。作業終了時に、さらに洗浄することによって、またはそれに類似した方法を用いて、反応残留物および安定的に結合していない分子が除去される。
方法B
本発明の別の実施態様によれば、酸素添加機能を表面に導入することができ、および/または、洗浄および有機汚染物除去を行うことができる空気、酸素、アルゴン、窒素、あるいは他のガスまたは蒸気のプラズマを用いて、なんらかの種類の基材物質が処理される。しかし、米国特許第5409696号に開示されているような水蒸気含有プラズマの使用は、本発明の方法においては必要ではない。
【0030】
前記のように処理された物質の表面を、PEI(またはポリリジンなどのような他のポリカチオン性物質)の水溶液に暴露し、それによって、アミノ基の高表面濃度が作られる。そのようにして得られた物質を、EDCのような縮合剤の存在下に、水溶液またはジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)中、有機溶媒中で、ヒアルロン酸、その誘導体、または半合成ポリマー(例えば、カルボキシル基を含有する他の多糖)と反応させる。EDCによって促進される反応を高めることができる分子も存在する。この種の分子は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物および類似の分子を包含するが、それらに限定されない。
【0031】
本発明の方法Bは、EDCによって促進される縮合反応に、および「スペーサーアーム」として当業者に既知の分子構造の不存在下に基が表面に結合する場合に、NHSのような分子が有用であるという意外な観察に基づいている。
【0032】
特にヒアルロン酸に関する限り、溶液中、およびNHSの不存在下において、N−アシル尿素として一般に定義される、反応の終了を妨げる中間反応生成物が形成される(X.Xuら、Trans IV World Biom.Cong.,170,1992)。アミノ基が表面に結合されるとき、それらを充分に反応性にするために、「スペーサーアーム」を使用しなければならない。「スペーサーアーム」は、表面から反応性基を分離し、それによって反応性基をより自由にし、その反応性を増加させる炭素原子配列である。例えば、製品COVALINK(Nunc)は、9個の炭素原子を有するスペーサーアームによって表面から分離された第二級アミノ基を含有するポリスチレンから作られており(K.Gregoriusら、J.Immunol.Meth.,181,65,1995)、EDCによって促進される反応の収量を増加させるのにNHSが有効であることが明らかにされている。明らかに、スペーサーアームによって支持される官能基のような、表面に複合分子構造を形成するコストは非常に高く、製造工程を制限する。本発明の方法Bにおいては、スペーサーアームの使用を必要とせず、または他の構造的観点に注意を払う必要もなく、アミノ基が表面およびPEI構造内に結合される。スペーサーアームの不存在下においてさえも、および表面の他の分子的側面に特別な注意を払うこともなく、EDCによって引き起こされる表面アミノ基の縮合反応にNHSが有効であるということを見い出したことは、意外なことであり、本発明の方法Bにおける重要な要素である。
【0033】
これまでの知識に基づけば、さらに意外であり、予期されなかったことは、反応混合物中のNHSの存在が、ヒアルロン酸またはその誘導体で被覆された表面の細胞付着防止特性に決定的な影響を及ぼすというということを見い出したことである。事実、NHSの不存在下では、米国特許第5409696号に記載のように、ヒアルロン酸で被覆された表面に、細胞の付着を防止する付着防止特性を与えることができない。一方、本発明の方法によれば、細胞集合に対して充分に抵抗性の表面が得られる。発明者らは、得られた結果に対する理由を説明する義務はなく、1つの理論に縛られるわけでもないが、挙動における差異は、下記の理由の1つに帰することができると考えられる:NHSの不存在下では、反応の収量があまりにも低く、そのためにヒアルロン酸が表面に結合しているとしても、基材を充分に被覆するのに充分な量で結合していない;または、NHSの不存在下に形成される結合は、表面に結合したヒアルロン酸の特性を変化させる。通常の化学的知識に基づけば、この種のポリマーに通常予期される特性を、結果として生じる構造は維持することができない。
【0034】
本発明の1つの特に好ましい形態においては、空気または酸素のプラズマを用いて、1〜400W、好ましくは10〜150Wの電力、10mtorr〜10torrの圧力で、1秒〜1時間、好ましくは10秒〜30分の処理時間で、ポリマー、金属、またはセラミック物質が処理される。しかし、処理の条件は限定されず、製品の形に依存する。管の内側または他の接近できない部分を改質する場合には、より長い時間を要し、平板または露出表面を改質する場合にはより短い時間を要する。
【0035】
0.01%〜10%、好ましくは0.5%〜2%の濃度のPEIの水性溶液に、処理された物質を入れる。反応時間は限定されず、10分〜10時間である。この工程の終了時に、物質を洗浄し、ヒアルロン酸またはその誘導体もしくはカルボキシ基を有する他の多糖の溶液に入れる。多糖の濃度は、0.005〜5%、好ましくは0.05〜1%である。NHSおよびEDCを0.001%〜1%の濃度で、溶液に追加する。反応を、室温または僅かに加熱して行い、10分〜48時間継続させる。多糖の種類および基材が適切であれば、DCCおよびNHSを前記の濃度で用いて、有機溶媒中で行うことができる。
【0036】
本発明(方法Aおよび方法B)の重要性は、当業者に明らかである。事実、本発明の方法によって、ヒアルロン酸またはその誘導体の被膜による好ましい表面特性を有し、被膜と基材との間の化学結合の存在によって経時においても安定を保つ物体を得ることができる。これらの物体の表面はさらに、生体液に存在する細胞および細菌の付着に対して顕著な抵抗性を示す。
【0037】
以下に純粋に例示的な例を引用するが、当業者に明らかなどのような変更も本発明の範囲内に含まれるものとする。
【実施例】
【0038】
製造例
実施例1
ポリスチレンのサンプルを細菌学標準ペトリ皿(Corning)から取り、平行板反応器(Gambetti Kenologia)中、プラズマで処理する。この処理を、酸素100mtorrの圧力、50Wの電力、20cm3(Std)/分の流速、および30秒の処理時間で行う。処理したサンプルを、PEI(Aldrich)の0.5%水溶液に2時間浸漬する。次にそれらを引き上げ、水洗し、下記溶液5mLを含有する試験管に浸漬する:
1) ヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers,Brindisi)1%(重量%)。
2) ヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.02g。
3) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)。
4) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g。
5) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)。
6) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.02g。
【0039】
サンプルを室温で12時間、試験管中に置き、その後、一晩水洗する。処理の有効性を、ESCA分析(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)によって評価する。既知であるように(Garbassi F.ら、「Polymer Surfaces,from Physics to Technology」,Wiley,Chichester,3,1994)、この方法を用いることによって、物質表面の化学組成を評価することができる。Perkin Elmer PHI 5500 ESCAシステムを用いて分析を行う。前記サンプル以外に、プラズマで処理されたもう1つのサンプルを、PEIのみと接触させることによって、比較として用いる。
【表1】
【0040】
これらのデータは、ヒアルロン酸またはそのエステルの導入後に予期されるような、改質工程後の表面に存在する酸素量の顕著な増加を示している。一方、EDCおよびNHSの不存在下においては、表面組成が参考サンプルの表面と類似した状態のままである。さらに、Clsピークの詳細な分析によれば、予期される分子構造と一致して、多数のC−O結合が示される。サンプル1および2のESCAスペクトルが、図1aおよび1bに示されている。
【0041】
実施例2
実施例1に記載の方法に従って準備した他のサンプルを、水中に2ヶ月間浸漬する。ESCA分析を繰り返す。酸素の表面濃度の減少または変化は観察されず、これにより、多糖と表面との結合の安定性が確認される。
【0042】
実施例3
包装に使用されるポリエチレンフィルムを、実施例1に記載のように、プラズマで処理し、PEIに浸漬する。2つのサンプルを準備し、ジメチルスルホキシド(Fluka)の下記溶液に浸漬する。
1) ベンジルアルコールで75%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%。
2) ベンジルアルコールで75%エステル化されたヒアルロン酸1%、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド0.02g、N−ヒドロキシスクシンイミド0.02g。
ジメチルスルホキシド中で24時間洗浄後、サンプルをESCAによって分析する。下記の結果を得る。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例4
生物医学用途に通常使用される種類の316スチールのサンプルを空気プラズマで15分間処理し、次に、0.5%PEI溶液と2時間接触させる。ヒアルロン酸を、実施例1に記載の溶液2を用いて物質の表面に結合させる。この物質を次にESCA分析によって分析する。得られるClsピークが図2に示されている。図2aは、PEI溶液に暴露後のサンプルを示し、図2bは、充分な改質を受けたサンプルのClsピークを示す。後者の場合には、多糖のClsピークの特徴である典型的な広い多成分型が観察され(例えば、前記引用文献の、E.OstenbergらによるJournal of Biomedical Materials Research, 29,741,1995を参照。)、ヒアルロン酸の表面における存在を裏付けている。
【0045】
実施例5
細胞培養ペトリ皿(Corning)を実施例1に記載のように改質する(1つの処理に対して3つのペトリ皿)。このようにして準備したペトリ皿に、5mLの細胞懸濁液(10%胎児ウシ血清、抗生物質ペニシリン、ストレプトマイシンおよびアムホテリシンB、ならびにL−グルタミン−SPA, Milanを添加した最少必須イーグル培地中の、マウス結合組織の繊維芽細胞L−929)を満たし、5%CO2および98%湿度の雰囲気下、37℃のインキュベーター(Forma)に入れる。細胞間の相互作用、および実施例1に記載のように処理したポリスチレン基材を、光学位相差顕微鏡(Leica)を用いて、一定の間隔で評価する。プラズマのみで処理し、それによって最大付着特性を有するペトリ皿を対照標準として用いて、種々の処理を行った基材に細胞が付着したかどうか、およびどの程度付着したかを、特に評価した。この実施例において、評点5は最大付着を意味し、評点0は付着が存在しないことを意味する(24時間行った観察の平均から導き出す)。
【表3】
【0046】
この実験は、堅く結合し、細胞付着を防止することができる親水性の層が存在することを確認するものである。
【0047】
実施例6
4つのポリスチレンペトリ皿を、ヒアルロン酸の溶液2を用いて、実施例1に記載の改質方法に従って処理する(これらのサンプルをAと称する)。同数のペトリ皿を、米国特許第5409696号の実施例11に記載のヒアルロン酸被覆方法に従って処理する(これらのサンプルをBと称する)。改質したペトリ皿を、前記実施例に記載のように、L−929細胞の懸濁液と接触させる。前記実施例と同様に、細胞付着を評価し、結果を下記に示す:
【表4】
図3aおよび3bは、光学顕微鏡を用いて得られる映像であり、試験終了時の表面の状態を示している。図3aは、サンプルA、3b〜サンプルBを示す。2つの方法によって得られる細胞付着に対する抵抗度の差異は明白である。
【0048】
実施例7
実施例1に記載の改質方法に従い、ヒアルロン酸エステルの溶液4および6を用いて、4つのポリスチレンペトリ皿を処理する(これらのサンプルをそれぞれCおよびDと称する)。同数のペトリ皿を、同じヒアルロン酸エステルを用いて、米国特許第5409696号に記載のヒアルロン酸被覆方法に従って処理する(これらのサンプルをEおよびFと称する)。改質したペトリ皿を、前記実施例に記載のように、L−929細胞の懸濁液と接触させる。前記実施例と同様に、細胞付着を評価し、結果を下記に示す:
【表5】
【0049】
図4aおよび4bは、光学顕微鏡を用いて得られる映像であり、試験終了時の表面の状態を示している。図4aは、サンプルD、4b〜サンプルFを示す。2つの方法によって得られる細胞付着に対する抵抗度の差異は明白である。
【0050】
実施例8
チタンの小シート(Aldrich)をプラズマで改質し、実施例4に記載のようにPEIを用いて処理する。このように処理した表面を実施例1のように、溶液6と反応させる。未改質チタンの4つのサンプル、および改質工程を受けた4つのチタンサンプルを、前記実施例と同様に、L−929細胞の懸濁液と接触させる。細胞をトルイジンプルーで着色し、金属組織顕微鏡を用いて培養サンプルを観察することによって、24時間後に細胞付着を評価する。これらの観察の結果を、図5aおよび5bに示す。図5aは、未改質チタンに関し、図5bは本発明の方法によってヒアルロン酸エステルで改質したチタンに関する。2つの表面上において、細胞が異なる挙動を示すことが明らかである。改質物質の場合には、細胞は、丸い形態を維持し、基材に堅く付着した細胞に典型的な、未改質物質上に観察されるような(図5a)、平板な、広がった外観を呈さない。
【0051】
実施例9
実施例8に記載の改質方法を、ガラススライドに関して行う。改質ガラス、未開質ガラスサンプル、およびプラズマ改質ポリスチレンペトリ皿(最大付着を有する対照標準として使用)を、L−929細胞と接触させる。細胞付着を24時間後に評価する。下記の結果を得る。
【表6】
【0052】
実施例10
0.5%眼用標準ヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)、0.4%EDC、および0.4%NHSの溶液を用いて、実施例1に記載の改質方法を、2つの眼内レンズ(Sanitaria Scaligera)に関して行う。改質レンズ、およびそれと同数の未開質レンズを、ペトリ皿に入れ、前記実施例のように、L−929細胞の懸濁液と接触させる。細胞付着に対するサンプルの抵抗性を、図6および図7に示す。これらの図は、本発明方法によって改質したレンズ(6aおよび7a)、および未改質レンズ(6bおよび7b)の表面の写真である。これらの図は、2種の表面の細胞付着防止性能の差異を、明白に示している。
【0053】
実施例11
ポリスチレンのサンプルを、細菌学標準のペトリ皿(Corning)から取り、平行板反応器(Gambetti Kenologia)中、プラズマで処理する。この処理を、酸素100mtorrの圧力、100Wの電力、20cm3(Std)/分の流速、および1分の処理時間で行う。処理したサンプルを、6時間前に調製した下記水溶液中で、浸漬および引き上げを5回行い、室温で反応させる:
1) ヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)。
2) ヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.4g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)1%(容量%)。
3) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Adva
nced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.35g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)1%(容量%)。
4) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.35g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)1%(容量%)。
サンプルを炉中、60℃で一夜乾燥し、次に水洗し、圧縮空気の噴射によって乾燥する。被膜の保全性を検査するために、サンプルをトルイジンブルーの1%水溶液に漬ける。これによって、直ぐに、ヒアルロン酸および他の多糖が明るい青紫(bright violet-blue)に染色される。この方法の有効性が、0〜5工程の評点をつけることによって評価される。5は充分に均一な着色を意味し(ヒアルロン酸またはその誘導体の被膜の完全な状態を示す)、0は染色の不存在を意味する。この実施例によって準備したサンプル(それらが浸漬される溶液の番号で示される)は、下記のような評点である。
【表7】
【0054】
実施例12
いくつかのサンプルを、実施例11に記載の方法によって準備する。サンプルを室温で20日間、水に浸け、その後、染色試験を行う。下記の結果を得る。
【表8】
【0055】
実施例13
下記実施例によって、前記方法の有効性を評価することができ、即ち、表面に固定された基と、多糖に存在する基との反応を含む従来法に対するものとしての、多糖と溶液中の官能基との反応の有効性を評価することができる。シリコーンカテーテルを切って、長さ3cmのサンプルを得る。一連のサンプルを、実施例11に記載の方法によって、溶液2、3および4を用いて処理する。第二の一連のサンプルは、プラズマ処理を受け、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Sigma)の1%(容量%)水溶液を適用される。乾燥したら、サンプルを下記溶液と接触させる:
2a) ヒアルロン酸1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.4g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g。
3a) ベンジルアルコールで25%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.351g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g、1%。
4a) ベンジルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%(重量%)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)0.35g、N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)0.3g。
サンプルを、炉中、60℃で一夜乾燥し、次に水洗し、圧縮空気の噴射によって乾燥する。染色試験によって、下記の結果を得る:
【表9】
【0056】
実施例14
細菌学標準ポリスチレンペトリ皿(Corning)を実施例11に記載のように、溶液1、2および3を用いて処理する(1つの処理に対して3ペトリ皿)。そのようにして準備したペトリ皿に、5mLの細胞懸濁液(10%胎児ウシ血清、抗生物質ペニシリン、ストレプトマイシンおよびアムホテリシンB、ならびにL−グルタミン−SPAを添加した最少必須イーグル培地中の、マウス結合組織の繊維芽細胞L−929)を満たし、5%CO2および98%湿度の雰囲気下、37℃においてインキュベーター(Forma)に入れる。細胞間の相互作用、および実施例11に記載のように処理したポリスチレン基材を、光学位相差顕微鏡(Leica)を用いて、一定の間隔で評価する。プラズマのみで処理し、それによって最大付着特性を有するペトリ皿を対照標準として用いて、種々の処理を行った基材に細胞が付着したかどうか、およびどの程度付着したかを、特に評価した。この実施例において、評点5は最大付着を意味し、評点0は付着の不存在を意味する(24時間行った観察の平均から導き出す)。
【表10】
【0057】
この実験は、堅く結合し、細胞付着を防止することができる親水性の層が存在することを確認するものである。この親水性の層は、化学結合を形成させない溶液1で処理したサンプルから除去される。
【0058】
実施例15
シリコーンカテーテル(Silkomed)をそれぞれ7cmの長さの部分に分割する。4つのサンプルを、実施例11に記載の条件下で、溶液1、2、3、および4を用いて処理する。水性環境下でのカテーテルのスリップ性を、下記の方法によって評価する:試験管を、0.7%の濃度の寒天(Sigma)で満たす。試験管を水平位置に固定し、その中に、7cm片のカテーテルを、一端が寒天から僅かに突き出るようにして入れる。この末端に、糸を用いて重りを取り付け、次にホイールに巻き付けて、重りの作用で、浸漬している寒天からカテーテルが引き出されるようにする。寒天の特殊な性質により、水性環境下でのカテーテルのスリップ性を評価することができる。カテーテルが寒天から引き出されるのに要する時間は、カテーテルのスリップ性に反比例する。
【表11】
【0059】
実施例16
下記実施例は、表面の組成にプラズマの作用を用いる方法を示しており、この方法は、種々の化学組成を有する物質においても有効であることが明らかである。さらに、この実施例は、被覆される物体がいくつかの異なる物質から構成されている場合にも、この方法が有効であることを示す。
長さ3cmのカテーテルをサンプルとして準備する。それらは、a)シリコ−ン、b)ポリウレタン、c)ポリ塩化ビニル、d)ゴムラテックスから成る。顕微鏡観察用のガラスカバーも使用する。実施例1に記載のように、サンプルをプラズマで処理し、次に同実施例の溶液3を用いて前記のように処理する。染色試験の結果は以下の通りである。
【表12】
【0060】
実施例17
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、ベンジルアルコールで75%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに1.1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つを、実施例14に記載のようにプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をアミノシラン含有エステル溶液に浸漬し、ゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表13】
【0061】
実施例18
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、エチルアルコールで50%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)の1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表14】
【0062】
実施例19
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、ベンジルアルコールで100%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)の1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのカルボニルジイミダゾール(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表15】
【0063】
実施例20
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、エチルアルコールで100%エステル化されたヒアルロン酸(Fidia Advanced Biopolymers)の1%溶液を調製する。溶液のアリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのカルボニルジイミダゾール(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表16】
【0064】
実施例21
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、架橋ヒアルロン酸(分子内エステル化に関わるカルボキシ基10%−ナトリウムで塩化されたカルボキシ基90%)の1%溶液を調製する。アリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例4に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表17】
【0065】
実施例22
ジメチルスルホキシド(Aldrich)中、アルギン酸(ベンジルアルコールでエステル化されたカルボキシ基50%−塩化されたカルボキシ基50%)の1%溶液を調製する。アリコートを取り、これに、1容量%のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、および0.5gのジシクロヘキシルカルボジイミド(Aldrich)を加える。6時間反応後、前記カテーテルの2つのサンプルを、実施例14に記載の条件に従ってプラズマで処理する。一方のサンプルをエステル溶液に浸漬し、他方をエステルおよびアミノシランの溶液に浸漬し、それらをゆっくりと引き出す。60℃、100torrに設定した真空炉にサンプルを入れ、そこに48時間置く。染色試験の結果は以下の通りである。
【表18】
【0066】
従って、本発明の目的は、基材に化学的に結合したヒアルロン酸またはその誘導体もしくは他の半合成ポリマーの薄層で被覆された物体の新規製造方法を提供することである。この方法は、向上した表面特性を有する物質またはデバイス、特に、親水性表面を特徴とする物質およびデバイスの製造に、適用することができる。より詳しくは、この方法は、泌尿器科、整形外科、耳鼻咽喉科、胃腸科、眼科、心臓血管分野および診断における、生物医学的用途および外科的用途の物質を製造するのに、使用することができる。生物医学的用途に関しては、カテーテル、血液バッグ(blood bags)、ガイドチャネル、探針、注射器、外科器具、容器、濾過システムのような、準または臨時身体的使用のデバイスに使用され;補綴目的または外科目的あるいはインプラントに関しては、人工腱、関節、ピン、心臓弁、骨、および心臓血管代替物、移植組織、静脈カテーテル、眼内レンズ、軟組織代替物などを被覆するのに使用することができる。被覆することができる半永久的デバイスの例は、コンタクトレンズ、ならびに、人工腎臓、血液酸素供給器、人工心臓、膵臓および肝臓のような生理学的プロセスをシミュレートする複合デバイスである。最後に、診断においては、実験器具、細胞または組織培養および/または再生皿、および、ペプチド、タンパク質および抗体のような活性成分の支持物を、被覆することができる。
【0067】
本明細書において、引用および/または参照されている出版物および特許文献は、本発明の開示の一部を構成するものとする。
本発明を以上のように説明したが、これらの方法に種々の変更を加え得ることは明白である。そのような変更は本発明の意図および目的を逸脱するものであると見なすべきでなく、当業者に明らかなどのような変更も下記請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本発明は、下記の詳細な説明、および例として示されているだけであって、本発明を制限するものではない添付の図面から、より良く理解することができる。
【図1a】実施例1のサンプル1のESCAスペクトル。
【図1b】実施例1のサンプル2のESCAスペクトル。
【図2a】PEI溶液に入れたスチールサンプルの、ESCA分析によって得たClsピーク。
【図2b】実施例4に記載の、ヒアルロン酸で改質したスチールサンプルの、ESCA分析によって得たClsピーク。
【図3a】実施例6のサンプルAの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図3b】実施例6のサンプルBの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図4a】実施例6のサンプルDの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図4b】実施例6のサンプルFの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図5a】チタンの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図5b】実施例8に記載の、ヒアルロン酸エステルで改質したチタンの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図6a】実施例10に記載の、ヒアルロン酸で改質した眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率50)。
【図6b】未改質眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率50)。
【図7a】実施例10に記載の、ヒアルロン酸で改質した眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の非付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【図7b】未改質眼内レンズの表面における、L-929繊維芽細胞の付着を示す光学顕微鏡映像(倍率200)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体で被覆する方法であって、下記の工程:
ヒアルロン酸またはその誘導体を、水溶液または有機溶媒中で、縮合剤または二官能剤の存在下に、アルコキシシランカップリング剤と反応させて、ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液を得る;
物体の表面をプラズマで処理する;
前記物体の処理表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液で被覆する;
ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との前記反応生成物を前記物体表面と反応させつつ、前記物体表面から溶液を除去する;
を含んで成る方法。
【請求項2】
アルコキシシランカップリング剤が、スルフヒドリル基またはアミノ基を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコキシシランカップリング剤が、γ−アミノプロピルトリエトキシシランまたはN−β−(アミノ−エチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルコキシシランカップリング剤とヒアルロン酸またはその誘導体との反応が、
(i)前記縮合剤としての1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの存在下水溶液中で;または
(ii)前記縮合剤としてのジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下有機溶媒中で;
起こる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アルコキシシランカップリング剤とヒアルロン酸またはその誘導体との反応がさらに、N−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物、または同様の作用を持つそれらに類似する化合物の存在下において起こる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
物体の表面を、半合成ポリマーで被覆する方法であって、下記工程:
半合成ポリマーを、水溶液または有機溶媒中で、縮合剤または二官能剤の存在下に、アルコキシシランカップリング剤と反応させて、半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液を得る;
物体の表面をプラズマで処理する;
前記物体の処理表面を、半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液で被覆する;
半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との前記反応生成物を前記物体表面と反応させつつ、前記物体表面から溶液を除去する;
を含んで成る方法。
【請求項7】
前記プラズマが、酸素プラズマ、空気プラズマ、水プラズマ、アルコールプラズマ、アセトンプラズマ、酸素添加化合物プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマ、または前記プラズマの2種またはそれ以上の混合プラズマである請求項1または6に記載の方法。
【請求項8】
半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応が、
(i)前記縮合剤としての1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの存在下水溶液中で;または
(ii)前記縮合剤としてのジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下有機溶媒中で;
起こる請求項6に記載の方法。
【請求項9】
半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応が、N−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物、または同様の作用を持つそれらに類似する化合物の存在下において起こる請求項6に記載の方法。
【請求項10】
物体の表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体で被覆する方法であって、下記工程:
物体の表面をプラズマで処理する;
物体の処理表面を、ポリエチレンイミンを含有する溶液に浸漬する;
カルボジイミド、ならびにN−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物などから成る群から選択される物質の存在下に、浸漬された物体の処理表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体と反応させる;
を含んで成る方法。
【請求項11】
ヒアルロン酸誘導体が、
(i)ヒアルロン酸の全または部分ベンジルエステル;または
(ii)ヒアルロン酸の全または部分エチルエステル;
である請求項1または10に記載の方法。
【請求項12】
処理表面とヒアルロン酸またはその誘導体との反応が、
(i)1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)の存在下の水溶液中で;または
(ii)ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下の有機溶媒中;
行われる請求項10に記載の方法。
【請求項13】
物体の表面を、半合成ポリマーで被覆する方法であって、下記工程:
物体の表面をプラズマで処理する;
物体の処理表面を、ポリエチレンイミンを含有する溶液に浸漬する;
カルボジイミド、ならびにN−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物などから成る群から選択される物質の存在下に、浸漬された物体の処理表面を、半合成ポリマーと反応させる;
を含んで成る方法。
【請求項14】
半合成ポリマーが、ヒアルロン酸の多価アルコールのエステル、酸性多糖の分子内エステル、カルボキシメチルセルロースのエステル、カルボキシメチルキチンのエステル、カルボキシメチルアミドのエステル、カルボキシル多糖の活性エステル、ヒアルロン酸の硫酸化エステル、アルギン酸のエステル、キチンのエステル、キトサンのエステル、ペクチン酸のエステル、およびペクチニン酸のエステルから成る群から選択される請求項6または13に記載の方法。
【請求項15】
処理表面と半合成ポリマーとの反応が、
(i)ヒドロキシスクシンイミドおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)の存在下水溶液中で;または
(ii)ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下水溶液中で;
行われる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
被覆される物体が、生体液と適合性の物質から成る請求項1、6、10または13に記載の方法。
【請求項17】
被覆される物体が、ポリマー物質、セラミック物質または金属性物質から成る請求項10または13に記載の方法。
【請求項18】
被覆される物体が、チタン、チタン合金、スチール、およびクロム−コバルト合金から成る群から選択される金属性物質から成る請求項10または13に記載の方法。
【請求項19】
被覆される物体が、カテーテル、血液バッグ、ガイドチャネル、探針、注射器、外科器具、容器、濾過システム、人工の腱、関節、ピン、心臓弁、骨、心臓血管代替物、移植組織、静脈カテーテル、眼内レンズ、コンタクトレンズ、軟組織代替物、人工腎臓、血液酸素供給器、人工の心臓、膵臓および肝臓から成る群から選択される請求項1、6、10または13に記載の方法。
【請求項20】
被覆される物体が、実験器具の部品、細胞および組織培養用の皿、細胞およ組織再生用の皿、ならびにペプチド、タンパク質および抗体のような活性成分の支持物から成る群から選択される請求項1、6、10または13に記載の方法。
【請求項1】
物体の表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体で被覆する方法であって、下記の工程:
ヒアルロン酸またはその誘導体を、水溶液または有機溶媒中で、縮合剤または二官能剤の存在下に、アルコキシシランカップリング剤と反応させて、ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液を得る;
物体の表面をプラズマで処理する;
前記物体の処理表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液で被覆する;
ヒアルロン酸またはその誘導体とアルコキシシランカップリング剤との前記反応生成物を前記物体表面と反応させつつ、前記物体表面から溶液を除去する;
を含んで成る方法。
【請求項2】
アルコキシシランカップリング剤が、スルフヒドリル基またはアミノ基を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコキシシランカップリング剤が、γ−アミノプロピルトリエトキシシランまたはN−β−(アミノ−エチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルコキシシランカップリング剤とヒアルロン酸またはその誘導体との反応が、
(i)前記縮合剤としての1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの存在下水溶液中で;または
(ii)前記縮合剤としてのジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下有機溶媒中で;
起こる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アルコキシシランカップリング剤とヒアルロン酸またはその誘導体との反応がさらに、N−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物、または同様の作用を持つそれらに類似する化合物の存在下において起こる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
物体の表面を、半合成ポリマーで被覆する方法であって、下記工程:
半合成ポリマーを、水溶液または有機溶媒中で、縮合剤または二官能剤の存在下に、アルコキシシランカップリング剤と反応させて、半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液を得る;
物体の表面をプラズマで処理する;
前記物体の処理表面を、半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応生成物を含有する溶液で被覆する;
半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との前記反応生成物を前記物体表面と反応させつつ、前記物体表面から溶液を除去する;
を含んで成る方法。
【請求項7】
前記プラズマが、酸素プラズマ、空気プラズマ、水プラズマ、アルコールプラズマ、アセトンプラズマ、酸素添加化合物プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマ、または前記プラズマの2種またはそれ以上の混合プラズマである請求項1または6に記載の方法。
【請求項8】
半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応が、
(i)前記縮合剤としての1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの存在下水溶液中で;または
(ii)前記縮合剤としてのジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下有機溶媒中で;
起こる請求項6に記載の方法。
【請求項9】
半合成ポリマーとアルコキシシランカップリング剤との反応が、N−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物、または同様の作用を持つそれらに類似する化合物の存在下において起こる請求項6に記載の方法。
【請求項10】
物体の表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体で被覆する方法であって、下記工程:
物体の表面をプラズマで処理する;
物体の処理表面を、ポリエチレンイミンを含有する溶液に浸漬する;
カルボジイミド、ならびにN−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物などから成る群から選択される物質の存在下に、浸漬された物体の処理表面を、ヒアルロン酸またはその誘導体と反応させる;
を含んで成る方法。
【請求項11】
ヒアルロン酸誘導体が、
(i)ヒアルロン酸の全または部分ベンジルエステル;または
(ii)ヒアルロン酸の全または部分エチルエステル;
である請求項1または10に記載の方法。
【請求項12】
処理表面とヒアルロン酸またはその誘導体との反応が、
(i)1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)の存在下の水溶液中で;または
(ii)ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下の有機溶媒中;
行われる請求項10に記載の方法。
【請求項13】
物体の表面を、半合成ポリマーで被覆する方法であって、下記工程:
物体の表面をプラズマで処理する;
物体の処理表面を、ポリエチレンイミンを含有する溶液に浸漬する;
カルボジイミド、ならびにN−ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスルホスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾロ水和物などから成る群から選択される物質の存在下に、浸漬された物体の処理表面を、半合成ポリマーと反応させる;
を含んで成る方法。
【請求項14】
半合成ポリマーが、ヒアルロン酸の多価アルコールのエステル、酸性多糖の分子内エステル、カルボキシメチルセルロースのエステル、カルボキシメチルキチンのエステル、カルボキシメチルアミドのエステル、カルボキシル多糖の活性エステル、ヒアルロン酸の硫酸化エステル、アルギン酸のエステル、キチンのエステル、キトサンのエステル、ペクチン酸のエステル、およびペクチニン酸のエステルから成る群から選択される請求項6または13に記載の方法。
【請求項15】
処理表面と半合成ポリマーとの反応が、
(i)ヒドロキシスクシンイミドおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)の存在下水溶液中で;または
(ii)ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下水溶液中で;
行われる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
被覆される物体が、生体液と適合性の物質から成る請求項1、6、10または13に記載の方法。
【請求項17】
被覆される物体が、ポリマー物質、セラミック物質または金属性物質から成る請求項10または13に記載の方法。
【請求項18】
被覆される物体が、チタン、チタン合金、スチール、およびクロム−コバルト合金から成る群から選択される金属性物質から成る請求項10または13に記載の方法。
【請求項19】
被覆される物体が、カテーテル、血液バッグ、ガイドチャネル、探針、注射器、外科器具、容器、濾過システム、人工の腱、関節、ピン、心臓弁、骨、心臓血管代替物、移植組織、静脈カテーテル、眼内レンズ、コンタクトレンズ、軟組織代替物、人工腎臓、血液酸素供給器、人工の心臓、膵臓および肝臓から成る群から選択される請求項1、6、10または13に記載の方法。
【請求項20】
被覆される物体が、実験器具の部品、細胞および組織培養用の皿、細胞およ組織再生用の皿、ならびにペプチド、タンパク質および抗体のような活性成分の支持物から成る群から選択される請求項1、6、10または13に記載の方法。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【公開番号】特開2008−80153(P2008−80153A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313385(P2007−313385)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【分割の表示】特願平8−523988の分割
【原出願日】平成8年2月7日(1996.2.7)
【出願人】(500047170)フィディア・アドバンスト・バイオポリマーズ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (5)
【氏名又は名称原語表記】FIDIA ADVANCED BIOPOLYMERS,S.r.L.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【分割の表示】特願平8−523988の分割
【原出願日】平成8年2月7日(1996.2.7)
【出願人】(500047170)フィディア・アドバンスト・バイオポリマーズ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (5)
【氏名又は名称原語表記】FIDIA ADVANCED BIOPOLYMERS,S.r.L.
【Fターム(参考)】
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