説明

ヒアルロン酸およびヒアルロン酸オリゴを含有する組成物

【課題】適度な粘弾性を保持し、触感に優れ、かつ表皮における角質間隙からの浸透が容易でヒアルロン酸産生促進および分解抑制作用をも有する、優れた性質を有する組成物を提供する。
【解決手段】このような組成物は、重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容できる塩およびヒアルロン酸オリゴ糖またはその薬学的に許容できる塩を有効成分として含む組成物を調製することで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類であるヒアルロン酸および低分子のヒアルロン酸オリゴを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖単位が連結した多糖類であり、哺乳類の生体内で、関節、硝子体、皮膚、脳などの細胞外マトリックスを構成する天然高分子としても知られている。特に関節軟骨では、アグリカン、リンクタンパク質と非共有結合し超高分子複合体を作って、軟骨の機能維持に極めて重要な役割を果たしている。他方、粘弾性物質として眼球における空間の保持、関節における運動衝撃の緩和の能力もある。
【0003】
ヒアルロン酸の分子量としては、数十万程度から100万以上であるが、1000〜20,000程度の低分子量のものなどもある。さらには、例えばヒアルロニダーゼの作用により調製される、二糖単位2〜25個のヒアルロネートフラグメントの存在(非特許文献1)、ヒアルロン酸分解抑制剤としての二糖単位2個の4糖からなるHA4(特許文献1)なども知られている。
【0004】
ヒアルロン酸は、その生理活性により、サプリメント、注射剤、などを含む医薬品や化粧品の成分として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126453号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Science, 第228巻第1324〜1326頁(1985年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚に適用した場合に、触感がよく皮膚にも馴染み易く、かつ皮膚の内部までの浸透性に優れた新規な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容できる塩およびヒアルロン酸オリゴ糖またはその薬学的に許容できる塩を含有する組成物に関する。
【0010】
上記組成物において、上記重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容できる塩の固形分含量が、0.1重量%以上10重量%以下であり、前記ヒアルロン酸オリゴ糖またはその薬学的に許容できる塩の固形分含量が、0.1重量%以上10重量%以下であり得る。
【0011】
上記組成物において、上記ヒアルロン酸オリゴ糖が、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を2個含む4糖であり得る。
【0012】
上記組成物において、上記ヒアルロン酸オリゴ糖が、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を1個含む2糖、該1単位を2個含む4糖、該1単位を3個含む6糖、該1単位を4個含む8糖、および該1単位を5個含む10糖からなる群より選択される少なくとも1または2以上の組合せであり得る。
【0013】
上記組成物は、B型粘度計により、ローター回転数60rpm、25℃で測定した粘度が1,000 〜 10,000 mPa・sであり得る。
【0014】
上記組成物は、皮膚外用剤であり得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物は、皮膚に適用した場合に、優れた浸透性を示し、細胞内でのヒアルロン酸産生能に優れ、保湿性が高い。また、有効成分としての重合平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸とヒアルロン酸オリゴ糖とに毒性や抗原性がほとんどないことから、組成物を皮膚に適用した場合のトラブルの可能性が極めて低く、特に皮膚外用剤を始めとする化粧品として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例にかかる組成物のヒアルロン酸産生促進作用のヒト皮膚組織による検証を行うためのウェルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の組成物には、重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸が含まれる。以下、本明細書においては、「高分子量のヒアルロン酸」ともいう。
【0018】
ここで、多糖構造を有するヒアルロン酸は、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を多数含む多糖である。さらに、ヒアルロン酸の代わりにその薬学的に許容される塩を用いることもできる。薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、又はジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩などがあるが、特にヒアルロン酸ナトリウムであることが好ましい。
【0019】
ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の重量平均分子量は、70万以上150万以下である。好ましくは、75万以上、より好ましくは80万以上であり、上限は特にはないが、120万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。
【0020】
ここで、本明細書でいう重量平均分子量の測定は、第15改正日本薬局方一般試験法(10)の粘度測定法に従って極限粘度を測定し、Laurentらの式により算出される値である。
【0021】
重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩は、その固形分含量が、組成物全体の0.1重量%以上、好ましくは、0.5重量%以上である。上限は特にはないが、10重量%以下、好ましくは、1重量%以下である。
【0022】
このようなヒアルロン酸は、天然に存在する生物資源である、鶏冠、哺乳類動物の関節や皮膚、鯨の軟骨等からの抽出による工業的な製法で得ることができる。
【0023】
さらに、ヒアルロン酸を産生する微生物から回収することで得ることもできる。このようなヒアルロン酸を産生する微生物としては、ストレプトコッカス属細菌に属するストレプトコッカス・ピオゲネス、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、パスツレラ・マルトシダなどの微生物の培養液から回収することができる。
【0024】
本発明の組成物はまた、ヒアルロン酸オリゴ糖またはその薬学的に許容できる塩を含有する。
【0025】
ここで、本発明でいう「ヒアルロン酸オリゴ糖」とは、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を任意の数で含む10糖までのオリゴ糖、またはそれらの混合体をいう。その薬学的に許容できる塩とは、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、トリ(nーブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩などであり得る。
【0026】
すなわち、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を1個含む2糖(以下、HA2ともいう)、該1単位を2個含む4糖(以下、HA4ともいう)、該1単位を3個含む6糖、該1単位を4個含む8糖、および該1単位を5個含む10糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖を含み、場合により、これらの2以上の組合せを含む。
【0027】
品質上好ましいのは、全ヒアルロン酸オリゴ糖の15重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上がこのような4糖であることである。
【0028】
しかしながら、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を1個含む2糖、該1単位を3個含む6糖、該1単位を4個含む8糖、および該1単位を5個含む10糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖のいずれかを単独で含んでもよい。
【0029】
その他に、限定はされないが、例えば、HA4を少なくとも13重量%以上含むヒアルロン酸オリゴ糖、またはHA2:HA4:その他の10個までのとして、たとえば重量比で、3:2:2で含むヒアルロン酸オリゴ糖などを用いることもできる。
【0030】
このようなヒアルロン酸オリゴ糖は、本発明の組成物のうち、0.1重量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは、0.2重量%以上、さらに好ましくは、0.5重量%以上である。上限は特にはないが、好ましくは、10重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは、0.8重量%以下である。
【0031】
このようなヒアルロン酸オリゴ糖は、限定はされないが、分子量10万から150万程度のヒアルロン酸を酵素分解法、アルカリ分解法、加熱分解法、超音波処理法等の公知の方法によって処理することによって、製造することができる。
【0032】
このうち、例えば酵素分解法とは、具体的には、ヒアルロン酸分解酵素を、分子量10万から150万程度のヒアルロン酸に反応させ、その反応時間等の条件を調整することなどにより、10個までの単糖から構成される好適なオリゴ糖を調製することができる。ここで用いられるヒアルロン酸分解酵素には、睾丸由来ヒアルロニダーゼ、ストレプトマイセス由来ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼAC、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼACIII 、コンドロイチナーゼABCなどが含まれる。(新生化学実験講座「糖質II−プロテオグリカンとグルコサミノグリカンー」p244-248、1991年発行、東京化学同人参照)
【0033】
アルカリ分解法としては、例えばヒアルロン酸の溶液に1N程度の水酸化ナトリウム等の塩基を加え、数時間110℃程度にまで加温して、低分子化させた後、塩酸等の酸を加えて中和して、低分子量のヒアルロン酸を得る方法などが挙げられる。また、酸分解法としては、例えばヒアルロン酸の溶液に1N-0.5N程度の塩酸、メタスルフォン酸等の酸を加え、15−24時間 70−80℃程度にまで加温して、低分子化させた後、塩基を加えて中和して、低分子量のヒアルロン酸を得る方法などが挙げられる。
【0034】
本発明の組成物は、特に限定はされないが、B型粘度計により、ローター回転数60rpm、25℃で測定した粘度が1,000 〜 10,000 mPa・sであることが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、限定はされないが、そのまままたは必要に応じて担体、賦形剤、その他の添加物と共に、皮膚に適用する為の皮膚外用剤とすることが好ましく、特に、皮膚適用の為の、化粧水、乳液、クリーム、シート状含水ゲル等の剤形として、調製される。
【0036】
このような本発明に係る皮膚外用剤は、ヒアルロン酸オリゴおよび高分子量のヒアルロン酸の有効成分の他、一般的に肌用化粧料として含有されるその他の成分を含めることができる。その他の成分としては、多価アルコール、基剤、可溶化剤、保湿剤、乳化剤、溶解安定剤、防腐剤、抗酸化剤、pH調整剤、けん化剤及び溶剤を挙げることができる。
【0037】
そのような任意の成分としては、限定はされないが、具体的には、組成物が化粧水である場合には、好ましくは多価アルコールが挙げられる。このような多価アルコールとしては、ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソペンチルジオール、エチルヘキサンジオール、グリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ジチアオクタンジオール、DPG、チオグリセリン、デシレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチルヒドロキシメチルシクロヘキサノール、フィタントリオール、フェノキシプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、BG、PG、1,2−ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、メチルプロパンジオール、メンタンジオール、ラウリルグリコール等が挙げられる。その他に、イノシトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトール等の糖アルコールなども挙げられる。
【0038】
可溶化剤としては、としては、モノラウリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどを挙げることができる。
【0039】
保湿剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、キシリット、ソルビット、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(200、400、600、1000、2000等)、高重合ポリエチレングリコール、メチルグルセス、D−マンニット、ヒドロキシプロリンなどを挙げることができる。
【0040】
溶解安定剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、クエン酸、亜硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。防腐剤としては、特に限定されないが、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、塩酸クロルヘキシジン、オルトフェニルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、トリクロカルバン、フェノキシエタノールを挙げることができる。抗酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(dl−α−トコフェロール)、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエンを挙げることができる。
【0041】
pH調節剤としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、アルギニン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウムを挙げることができる。
【0042】
基剤としては、特に限定されないが、例えば、ラノリン、セレシン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、ホホバ油、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、イソステアリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、高級アルコール(イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、コレステロール、セタノール、ステアリルアルコール、デシルテトラデカノール、フィトステロール、ヘキシルデカノールなど)、パルミチン酸セチル、パルミチン酸オクチル、ラノリン酸イソプロピルを挙げることができる。
【0043】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、水素添加大豆リン脂質、ジステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、親油型モノステアリン酸グリセリン、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタンなどのソルビタン脂肪酸エステル類;モノ綿実油脂肪酸グリセリン、モノエルカ酸グリセリン、セキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、α,α’−オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸などのグリセリンポリグリセリン脂肪酸類;モノステアリン酸プロピレングリコールなどのプロピレングリコール脂肪酸エステル類;硬化ヒマシ油誘導体;グリセリンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン・ポリアルキル(C1〜4)シロキサン;ジイソステアリン酸ジグリセリルなどが挙げられる。
【0044】
けん化剤としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミンを挙げることができる。
【0045】
また、他の成分としては、通常の化粧品に用いられる成分、たとえばコンディショニング成分、色素、顔料などの着色剤、粘度調整剤、pH調節剤、塩類、ビタミン剤、香料、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、金属封鎖剤、粘度調整剤、乳化安定剤などを挙げることができる。
【0046】
本発明の組成物では、粘弾性が肌への適用に適した値である。すなわち、B型粘度計により、ローター回転数60rpm、25℃で測定した粘度が1,000 〜 10,000 mPa・sであることが好ましい。
【0047】
本発明の組成物は、例えば、豚表皮に適用した場合の接触角は、限定はされないが、60度以上80度以下であることが好ましい。この範囲であれば、組成物を皮膚に適用した場合に、肌への浸透が円滑であり、肌本来のしっとり感・すべすべ感が増強され、肌の潤いが維持される。接触角が50〜70度であればさらに好ましい。
【0048】
本発明の組成物は、高分子量のヒアルロン酸またはその薬学的に許容し得る塩と、ヒアルロン酸オリゴ糖とを含有し、任意に通常化粧用として用いられる成分を付加することもできる。ヒアルロン酸を含む化粧品を実際に皮膚に適用した場合には、通常必ずしも皮膚内部にまで浸透するとは限らず、高い保湿性が発揮されない場合があるが、本発明の組成物は、適度な粘弾性を保持し、触感に優れ、かつ表皮における角質間隙からの浸透が容易である。ヒアルロン酸高分子同士の絡まりによる結合において、その絡まり部分にオリゴ糖が入り込み、いわば“ころ”のように滑らせることで結合を弱めるためと考えられる。さらに、ヒアルロン酸オリゴ糖は低分子量物質であるので皮膚に浸透しやすく、それ自体による効果も発揮される上に、ヒアルロン酸オリゴ糖によるヒアルロン酸産生促進および分解抑制作用も顕現される。本願発明の組成物は、皮膚内部までの保湿性に優れ、かつその作用が長時間続く。しかも本発明の組成物は、抗原性および毒性が低く、皮膚への負担が非常に少ない。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0050】
実施例1
(組成物の調製)重量平均分子量80万のヒアルロン酸(商品名FCH、紀文製)100mg/ 9 mL水溶液を70℃に加熱し、50%塩酸を1mL添加し、撹拌し、16時間処理した。その後、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整した。分解した溶液は、高速クロマトグラフィー(HPLC)で測定し、ヒアルロン酸オリゴ糖の含有量をHPLCのチャートの面積ピークの比率を各ピークで求め、ヒアルロン酸4糖(HA4)が該当するピーク面積のが14%重量比以上であることを確認して使用した。ヒアルロン酸オリゴ糖の含有量は、ヒアルロン酸の基本単位であるD−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1を1:1で結合したヒアルロン酸2糖(HA2)と2糖が2つ結合したヒアルロン酸4糖(HA4)を含む分画の配合比を求め、全体のヒアルロン酸量との配合比で計算する。たとえば、HPLCでHA2が15%、HA4が15%の面積ピークが求められた場合は、HA2とHA4の和の30%が収率と計算する。
【0051】
オリゴ糖の測定に用いるHPLCの条件は、以下の通りである。
カラム:ポリアミンカラム(ナカライテスク社製COSMOSIL Sugar−D)
溶離液:リン酸二水素ナトリウム(0 → 0.8M)
流速:1.0mL/min
検出:UV210nm
試料濃度:1mg/mL
分析量100μL
このようにして得られたヒアルロン酸オリゴ糖と、平均重合分子量 80万のヒアルロン酸ナトリウム(商品名 FCH 紀文製)とを、それぞれ、1重量%ずつ含有するように蒸留水で調節した。
【0052】
比較例1
実施例1で得られたヒアルロン酸オリゴ糖を、1重量%となるように生理食塩水で調節した。
【0053】
比較例2
分子量 80万のヒアルロン酸ナトリウム(商品名 FCH 紀文製)を、1重量%となるように生理食塩水で調節した。
【0054】
上記実施例および比較例で得られた組成物を用いて、濃度は適宜に変化させるなどして、以下の評価を行う。
【0055】
(ヒアルロン酸産生能の検討)
賦活対象細胞
測定対象の細胞としてHT1080(ヒト繊維肉腫細胞)を使用する。HT1080は理化学研究所より入手可能である。
【0056】
実験方法
取得したHT1080細胞をトリプシン処理することで剥離した後、以下の条件でMEM培地に播種し、培養する(1×105個/ml、96穴)。
1群 無添加
2群 実施例または比較例で得られた組成物を培地に添加し(ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸オリゴ糖の合計量として1μg/ml)、24時間インキュベート。
【0057】
培養の後、冷メタノールで固定する。続いて、0.5%BSA(仔牛血清)添加PBS(BSA-PBS)にて洗浄後、ビオチン標識HABPでインキュベートした。インキュベートの条件は4℃にて24時間とする。その後、BSA-PBSにて洗浄後、FITC標識ストレプトアビジンでインキュベートした(室温(24℃)にて30分)。インキュベート後、BSA-PBSにて洗浄する。
【0058】
蛍光顕微鏡(ニコン社製)にて観察後、撮影する。また、顕微鏡下にて、ランダムに選択した3視野(200倍)において、細胞表面に拡散性(diffuse)HA染色像を持つ細胞を数える。
【0059】
(組成物の粘弾性測定)
レオメータにより、20℃で測定される動的粘弾性を求める。周波数0.1Hzにおける貯蔵弾性率Gは0.01Pa以上であり、損失弾性率が極大を示す周波数が1.0 Hz以上100 Hz以下である。
【0060】
(組成物の接触角測定)
【0061】
クロムなめし剤により一般的な方法でなめされた豚皮(厚さ0.75〜1.25mm、液中熱収縮温度105〜120℃、脂肪分3.0〜4.5%、クロム含有量(Cr23)3.5〜5.0%、pH3.0〜4.5(日本工業規格K6550試験法により測定);例えば「豚すあげNo.1030」((株)高橋商店製))を5.0cm×2.5cmの大きさに切断した豚皮表面に、接触角計(例えば、FACE接触角計CA−D型:協和界面科学(株)製)を用いて、実施例1、比較例1または2で得られた組成物1.0ml(半径1mmの水滴)を滴下し、10秒後に接触角を測定する(23℃,60%RH)。これを違う位置で5回測定し、その平均値を得る。さらに新たな豚皮についても同様に処理・測定を行って(合計5回)、5つの平均値を得る。それら5つの平均値をさらに平均することで得られた平均値を、本発明における接触角とする。
【0062】
(組成物塗布後の皮膚モデルによるヒアルロン酸浸透量測定)
シャーレ(直径10 cm ガラス製)内にセロハン紙(6cm×6cm、MS(平判) 300、フタムラ化学株式会社製)をおき、その上から実施例1、比較例1、または比較例2で得られた組成物を、5ml用いて、刷毛でなすりつけ、蓋をして乾燥しないように37℃で一定時間おいた後、セロハンを取り除く。シャーレ内に5mlの精製水を入れて60分間震盪し、その洗浄水に含まれるヒアルロン酸量をカルバゾール硫酸法によって定量した。
【0063】
(組成物のヒアルロン酸産生促進作用のヒト皮膚組織による検証)
皮膚組織
東洋紡株式会社製のTESTSKINTMLSEを使用する。TESTSKINTM LSEは、付属のアッセイ培地を用いて、付属の6ウェルプレートを用いて培養することで、ヒト皮膚組織モデルを構築することができる。なお、6ウェルプレートにおける1つのウェルの模式図を図1に示す。図1に示すように、6ウェルプレートにおける個々のウェルは、底面に透過膜1を備えたトランスウェル2から構成されている。TESTSKINTM LSEは、トランスウェル2内及びトランスウェル2の底面の下方空間3にアッセイ培地を充填することによって、トランスウェルの底面上に培養され、ヒト皮膚組織モデル4を形成することとなる。
【0064】
先ず、以下のように群分けして、TESTSKINTM LSEを6ウェルプレートにて、37℃、5% CO2で24時間培養する。コントロール群[ヒアルロン酸もHA4も含まない]:アッセイ培地1.2mlを添加した6wellプレートに、TESTSKINTM LSEの入ったトランスウェルを設置し、トランスウェル内に1mlのアッセイ培地を添加した。
試験群[実施例および比較例に対応するヒアルロン酸またはヒアルロン酸オリゴ糖を含む]:1μg/mlの濃度でヒアルロン酸オリゴ糖および/またはヒアルロン酸を含むアッセイ培地1.2mlを添加した6wellプレートに、TESTSKINTM LSEの入ったトランスウェルを設置し、トランスウェル内に1μg/mlの濃度で、実施例1に対応する高分子ヒアルロン酸とヒアルロン酸オリゴ糖の混合、比較例1と2にそれぞれ対応する単独の有効成分を含むアッセイ培地1mlを添加する。
【0065】
次に、トランスウェルを切り取り、OCTコンパウンドに包埋し、凍結切片を作製する(厚さ10μm)。次に、ヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)によるヒアルロン酸染色を実施する。
【0066】
具体的には、凍結切片を4%パラホルムアルデヒド/PBSを用い、室温にて30分固定した、PBSで三回洗浄する。さらに、0.3% H2O2/メタノールを用い、4℃にて30分間処理し、内因性のペルオキシダーゼのブロッキングを行い、PBSで三回洗浄する。次に、内因性のビオチンを内因性アビジンビオチンブロッキングキット(ニチレイ)を用い、プロトコールどおりにブロッキングし、100 mM Sodium acetate bufferを加え、37℃で15分インキュベートした後、各群から選ばれた陰性コントロール群には、20TRUの放線菌由来ヒアルロニダーゼ(生化学工業)を添加し、60℃で2時間インキュベートした。PBSで三回洗浄した後、1% BSA/PBSを加え、室温で1時間ブロッキングする。ブロッキング剤を除き、1% BSA/PBSで2 ug/mlに希釈したビオチン標識HABP(生化学工業)を加え、室温で1時間インキュベートし、PBSで三回洗浄する。1% BSA/PBSで200ng/mlに希釈したストレプトアビジン-HRP(カルビオケム)を添加し、室温で1時間インキュベートし、PBSで三回洗浄した後、DAB(Zymed)で発色させ、顕微鏡下で観察する。
【0067】
(組成物皮膚塗布による効果)
実験動物
生後七ヶ月齢の雌の肉用ブタ(LWD種)を使用する。実験動物は、温湿度自然環境下、及び照明時間12時間(午前8時から午後8時)に設定された飼育室内で飼育する。飼育に際して、飲料水は自由摂取とし、飼料(ハイブリード70)は一日二回の制限給餌とし、朝・夕刻時に豚房内を水洗する。
【0068】
実施例1、比較例1および2と同様の有効成分の組成物で、ジメチルポリシロキサン(350mm/s)2重量%、スクワラン4重量%、パルミチン酸イソプロピル2重量%、パルミチン酸ヘキサデシル1.5重量%、ベヘニルアルコール0.5重量%、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル0.5重量%、フェノキシエタノール0.5重量%、ステアリルアルコール0.5重量%、モノステアリン酸グリセロール0.5重量%、ニコリピッド81S 3重量%、アミソフト0.5重量%、グリセリン3重量%、1,3−ブチレングリコール3重量%、および精製水78.4重量%の組成からなる基材に、ヒアルロン酸とヒアルロン酸オリゴ糖の総量でそれぞれ2重量%となるように混合した塗布クリームとして準備する。
【0069】
実験方法
飼育している実験動物の背部皮膚を2cmの間隔で一区画3cm四方に区分けし、上記塗布クリームを一日一回0.1gずつ塗布した。塗布クリームの塗布は7日間行う。最終塗布の翌日に麻酔科にて放血致死させ、背部皮膚を脂肪層ごと摘出し、一部をOCTコンパウンドに包埋し、一部を凍結する。
【0070】
(ヒアルロン酸結合タンパク質によるヒアルロン酸染色実験)
OTCコンパウンドに包埋したブタ背部皮膚を用い、凍結切片を作製する(厚さ18μm)。切片を4%パラホルムアルデヒド/PBSを用い、室温にて30分固定した、PBSで三回洗浄する。さらに、0.3% H2O2/メタノールを用い、4℃にて30分間処理し、内因性のペルオキシダーゼのブロッキングを行い、PBSで三回洗浄する。次に、内因性のビオチンを内因性アビジンビオチンブロッキングキット(ニチレイ)を用い、プロトコールどおりにブロッキングする。次に、100 mM Sodium acetate bufferを加え、37℃で15分インキュベートした後、陰性コントロール群には、20TRUの放線菌由来ヒアルロニダーゼ(生化学工業)を添加し、60℃で2時間インキュベートする。PBSで三回洗浄した後、1%BSA/PBSを加え、室温で1時間ブロッキングする。ブロッキング剤を除き、1% BSA/PBSで2 ug/mlに希釈したビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパク質(生化学工業)を加え、室温で1時間インキュベートし、PBSで三回洗浄する。1% BSA/PBSで200ng/mlに希釈したストレプトアビジン-HRP(カルビオケム)を添加し、室温で1時間インキュベートし、PBSで三回洗浄した後、DAB(Zymed)で発色させ、顕微鏡下で観察する。
【0071】
(皮膚内ヒアルロン酸含量の測定実験)
ブタ皮膚を60℃にて一晩乾燥させ、1mgあたり100ulの1%プロナーゼ(Merck)を添加し、40℃で17時間酵素消化する。100℃で10分しプロナーゼを不活化した後、15000rpmで10分遠心し、上清をヒアルロン酸画分とした。
【0072】
分子量75万のHAを50 mM クエン酸-リン酸バッファー(pH 5)で0.1 μg/mlになるよう調製し、アミノプレート(住友ベークライト)に50μlずつ添加し、室温で15分放置する。蒸留水で10 mg/mlに調製した水素化シアノホウ素ナトリウム 10μlをプレートに添加し、室温で1時間放置する。TBSで三回洗浄後、200μlのブロックエース(大日本住友製薬)で4℃にて3日ブロッキングする。PBS/0.05 % Tweenで三回洗浄し、10倍に希釈したブロックエースで75倍に希釈したブタ皮膚ヒアルロン酸画分を50ul添加し、さらに100ng/mlになるよう10倍に希釈したブロックエースで調製したビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパク質(生化学工業)を50μl添加し、37℃で1時間インキュベートする。PBS/0.05 % Tweenで三回洗浄し、100μlの10倍希釈したブロックエースで4000倍希釈したストレプトアビジン-HRP(Calbiochem)を添加し、37℃で1時間インキュベートする。PBS/0.05 % Tweenで三回洗浄し、100μlのTMB(MOSS)を加え、発色させた後、1Nの塩酸で反応を停止させる。A450/630nmを測定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容できる塩およびヒアルロン酸オリゴ糖またはその薬学的に許容できる塩を含有する組成物。
【請求項2】
前記重量平均分子量70万以上150万以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容できる塩の固形分含量が、0.1重量%以上10重量%以下であり、前記ヒアルロン酸オリゴ糖またはその薬学的に許容できる塩の固形分含量が、0.1重量%以上10重量%以下である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸オリゴ糖が、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を2個含む4糖である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸オリゴ糖が、−D−グルクロン酸−β−1,3−D−N−アセチルグルコサミン−β−1,4−を1単位とし、該1単位を1個含む2糖、該1単位を2個含む4糖、該1単位を3個含む6糖、該1単位を4個含む8糖、および該1単位を5個含む10糖からなる群より選択される少なくとも1または2以上の組合せである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
B型粘度計により、ローター回転数60rpm、25℃で測定した粘度が1,000 〜 10,000 mPa・sである、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
皮膚外用剤である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57607(P2011−57607A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208428(P2009−208428)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(505192084)株式会社 糖質科学研究所 (21)
【Fターム(参考)】