説明

ヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子、カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング方法、及びカルシウム吸収を促進する因子

本発明は、ヒトCaT1遺伝子の発現ベクターへの挿入や形質転換等遺伝的応用を可能にし、更に、ヒトCaT1のカルシウム吸収活性の調節に影響する因子の存在等、カルシウム吸収活性のメカニズムを解明し、カルシウム吸収を調節する因子の確認及び新たな発見に役立つ手段の提供を目的とするものである。本発明によって、ヒトCaT1遺伝子、そのプラスミドベクター、該プラスミドベクターで形質転換された形質転換体、カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング方法及びスクリーニング用キット、並びにカルシウム吸収を促進する因子が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子、カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング方法、及び、該方法により得られるカルシウム吸収を促進する因子に関する。
【背景技術】
体内において食品から摂取されたカルシウムは、腸管により吸収されるが、主に小腸により吸収される。
カルシウム吸収は、カルシウムの供給状況に応じて次の2種類の形式のいずれかにより行われる。即ち、カルシウムの供給が充分なときは小腸上皮の細胞間経路を通る単純拡散輸送が行われ、一方供給が足りないときは細胞内を通過する能動輸送が積極的に行われる。
このうち、細胞内を通過する能動輸送には、第1図に示すように、小腸刷子縁膜上に存在するカルシウムチャネル(ECaC)とカルシウムトランスポーター(CaT)が関わっている。遺伝子学的解析及び電気生理学的解析により、両者は同じチャネルファミリーに属するとされ、カルシウムチャネルは、カルシウムチャネル1(ECaC1)とカルシウムチャネル2(ECaC2)とに分類され、また、カルシウムトランスポーターは、カルシウムトランスポーター1(CaT1)とカルシウムトランスポーター2(CaT2)とに分類されているが、最近ではCaT1とECaC2とは同一とされている。
ウサギのECaCは、胃に近い小腸上部の十二指腸で主に発現しており、弱酸性条件下でカルシウム吸収を行うことが明らかにされている(The Journal of Biological Chemistry 1999,Vol.274,No.13,p8375−8378参照)。また、ヒトのECaC1は、腎臓、小腸及び膵臓で主に発現しており、遺伝子も特定されている(Genomics 2000,67,48−53参照)
ラットのCaT1は、十二指腸、空腸、盲腸等で発現しているが、そのカルシウム吸収活性は酸性条件下で低下することから、主に小腸上部の中性環境下におけるカルシウム吸収に関与している可能性が高いことが報告されている(The Journal of Biological Chemistry 1999,Vol.274,No.32,p22739−22746参照)。ヒトのCaT1についても遺伝子が特定され、腸管の上皮細胞に見られること、中性付近でカルシウム吸収活性が上昇すること、また、種々の金属イオンにより活性に影響することが知られている(Biochmical and Biophysical Research Communications 2000,Vol.278,p326−332参照)。しかしながら、ヒトCaT1遺伝子の発現ベクターへの挿入や形質転換等遺伝的応用についての報告はなく、また、ヒトCaT1のカルシウム吸収活性の調節に影響する因子の存在等、カルシウム吸収活性のメカニズムについても未解明であった。
ところで、成人が生体内のカルシウムホメオタシスを保つ為には、一日当たり500mgのカルシウムが必要とされている。そのためには腸管から300mg吸収する必要があり、それを食物から摂取するには、吸収されない分を含めて700mgのカルシウムが必要である。そこで、食品メーカーは食品、特に乳や乳飲料、乳製品等でカルシウム強化したものを開発し販売している。その場合、添加するカルシウムの形態としては、リン酸カルシウムや炭酸カルシウム、乳酸カルシウム等であるが、これらカルシウム塩は小腸上部の酸性環境下では可溶化され吸収されるが、小腸下部の中性〜塩基性環境下において多くは不溶化し、吸収されずに排出されてしまう。
しかし、不溶化を防がれたカルシウムは小腸下部のCaT1等により積極的に吸収される。
一方、高齢者では、胃酸の分泌が弱まり、腸内の酸性環境が中性側にシフトしカルシウムの吸収性が低下する。
このことからも、ヒトCaT1のカルシウム吸収活性の調節に影響する因子の存在、特に食品由来物の存在を検討することは重要であると考えられる。
腸管からのカルシウム吸収の促進因子としては、ラクトース等の糖類、CPP(カゼインホスホペプチド)、グアーガム加水分解物等があげられる。
ラクトースによるカルシウム吸収促進機構については、刷子縁膜との相互作用とされる(Armbrecht et al.,1976)が詳細は明らかでない。また、ラクトースは他の糖類と比較するとその消化吸収が遅いため腸管下部に到達することで、カルシウムの腸管下部での吸収に影響を及ぼしているとする説もある(Allen,1982)。CPPについては「カルシウムが小腸下部の中性環境下で不溶化(リン酸カルシウム等を形成)する前にカルシウムをトラップし、その不溶化を防ぐことで細胞間経路による吸収を高める」とされているが(内藤ら,1986)、いずれにせよ、腸管におけるカルシウムチャネルはクローニングされたばかりで、カルシウム吸収を調節する因子は、上記ヒトCaT1のカルシウム吸収活性を何らかの形で制御する可能性があるが、これを裏付ける報告は未だ発表されていない。
このような、カルシウム吸収を調節する因子とヒトCaT1のカルシウム吸収活性との関係を解明できれば、上記因子の有用性を高めることができると共に、カルシウム吸収を調節する新たな因子を発見し、医薬、栄養補助剤、食品などの成分としての利用の道を開くことができることになる。
本発明の目的は、ヒトCaT1遺伝子の発現ベクターへの挿入や形質転換等遺伝的応用を可能にし、更に、ヒトCaT1のカルシウム吸収活性の調節に影響する因子の存在等、カルシウム吸収活性のメカニズムを解明し、カルシウム吸収を調節する因子の確認及び新たな発見に役立つ手段、並びに該手段により得られるカルシウム吸収を調節する因子を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ヒトの消化管細胞から抽出したRNAについてReverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction及び5´RACE PCRを行い、ヒトCaT1遺伝子のほぼ全長の塩基配列を得ることができた。このヒトCaT1遺伝子をpMEHisベクターに導入し、プラスミドベクターpMEHis−CaT1を作製し、これをリポフェクション法によりCHO細胞に形質転換してヒトCaT1定常発現細胞を作製した。このヒトCaT1定常発現細胞に対し、実際にカルシウム吸収に影響する種々の食品因子を作用させた結果、種々の食品因子はヒトCaT1定常発現細胞に影響していること、即ち、ヒトCaT1のカルシウム吸収活性を調節していることを見出し、本発明に到達した。
請求項1に係る本発明は、配列表の配列番号1記載の塩基配列を含有するヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子である。
請求項2に係る本発明は、請求項1記載のヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子を含有するプラスミドベクターである。
請求項3に係る本発明は、請求項2記載のプラスミドベクターで形質転換された形質転換体である。
請求項4に係る本発明は、請求項3記載の形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認することを特徴とする、カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング方法である。
請求項5に係る本発明は、請求項3記載の形質転換体を含有してなることを特徴とするカルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング用キットである。
請求項6に係る本発明は、請求項4記載のスクリーニング方法により得られるカルシウム吸収を促進する因子である。
請求項7に係る本発明は、請求項5記載のスクリーニング用キットにより得られるカルシウム吸収を促進する因子である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、カルシウムの腸管吸収(細胞内を通過する能動輸送)の模式図である。
第2図は、ヒトCaT1遺伝子のクローニングの概略を示す図である。
第3図は、ヒトCaT1遺伝子のDNA配列及びヒトECaCとの相同性を示す図である。
第4図は、ヒトCaT1の膜貫通領域を示すデータである。
第5図は、ヒトCaT1のアミノ酸配列、並びに、ヒトCaT1及びラットCaT1との相同性を示す図である。
第6図は、請求項2に係る本発明のプラスミドベクターの一例を示す図である。
第7図は、請求項3に係る本発明の形質転換体の培養条件及び細胞内へのカルシウム取り込み増加を確認する手段の一例を示す図である。
第8図は、請求項4に係る本発明のスクリーニング方法における、形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認する手段の一例を示す図である。
第9図は、各消化管組織部位におけるCaT1mRNAの発現レベルを示す図である。
第10図は、ウェスタンブロットの結果を示す。
第10図において、右側はpMEHis−CaT1をトランスフェクションしたCHO細胞の結果を、左側はpMEHisベクターをトランスフェクションしたCHO細胞の結果を示す。
第11図は、細胞内に取り込まれた45Ca2+の量の経時的変化を示すグラフである。
第11図において、●はpMEHis−CaT1をトランスフェクションしたCHO細胞の結果を、○はpMEHisベクターをトランスフェクションしたCHO細胞の結果を示す。
第12図は、細胞内に取り込まれたカルシウム量のうち、ヒトCaT1遺伝子が細胞内取り込みに関与したカルシウム量の経時的変化を示すグラフである。
第13図は、45Ca2+取り込みに対するpHの影響を示すグラフである。
第14図は、45Ca2+取り込みに対する金属イオンの影響を示すグラフである。
第15図は、食品由来因子による45Ca2+取り込みに対する影響を示すグラフである。
第16図は、CWP−Dによる45Ca2+取り込みに対する影響を示すグラフである。
第17図は、45Ca2+取り込みに対するCWP−Dによる前処理時間の影響を示すグラフである。
第18図は、45Ca2+取り込みに対するCWP−Dの濃度の影響を示すグラフである。
第19図は、Caco−2細胞の45Ca2+取り込みに対するCWP−Dの影響を示すグラフである。
第20図は、CWP−D存在下或いは不存在下におけるカルシウム飽和曲線を示すグラフである。
第21図は、Lineweaver−Barkのプロットである。
第22図は、45Ca2+取り込みに対するCWP−D(ODS吸着画分)の影響を示すグラフである。
第23図は、FPLCの結果及び45Ca2+取り込みに対するCWP−D(FPLC画分)の影響を示すグラフである。
第24図は、HPLCの結果を示すグラフである。
第25図は、45Ca2+取り込みに対するCWP−D成分(peak.1、2及び3)の影響を示すグラフである。
第26図は、peak.1の純度を示すグラフである。
第27図は、45Ca2+取り込みに対する合成ペプチドIPAの影響を示すグラフである。
第28図は、45Ca2+取り込みに対する合成ペプチドIPA、IPAアナログ及びアミノ酸類の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の請求項1に係るヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子は、配列表の配列番号1記載の塩基配列を含有するヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子である。
本発明の請求項1に係るヒトCaT1遺伝子は、ヒトの消化管各組織及び細胞のtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、RT−PCR法と略称する)によって増幅してその大部分を得ることができる。ただし、RT−PCRだけでは開始コドンを含む5´末端部分について解明できない場合があり、この部分についてはさらに5´RACE(rapid amplification of cDNA end)PCRを行うことにより得ることができる。
一連の操作は、例えば、第2図に示す概略に従って行うことができる。
ヒトの消化管各組織及び細胞としては、食道、胃、十二指腸、回腸、空腸、上行結腸、下行結腸、横行結腸、盲腸、直腸及び肝臓等の各組織及び細胞を利用することができ、特に限定されない。例えば、ヒト小腸上皮細胞の一つCaco−2細胞は、American Type Culture Collection等より入手することができる。ヒトの消化管各組織及び細胞からのRNAの調製は、例えばCaco−2細胞の場合、後述する実施例の方法により行うことができる。
RT−PCR法は、逆転写酵素によりRNAからDNAを得た後、DNAをPCRにより増幅する方法である。First strand cDNA synthesis kit(Pharmacia Biotech社製)等のキットを使用して該キットの条件に従って行うと、簡便に進めることができるので好ましい。
逆転写反応により得られたcDNAについてのPCRに用いるプライマーのデザインは、例えば、ラットCaT1のシークエンスの情報と、ESTのデータ(BLAST等)からラットCaT1とホモロジーの高いヒト遺伝子の情報を基にして行うことができる。
PCRの反応液、サイクルについては、通常採用される条件で行うことができる。尚、アニーリング温度は設計したプライマーにより定め、伸長時間は目的のフラグメントサイズにより定めることが好ましい。
5´RACE PCRは、ヒト小腸Marathon−ReadyTM cDNA(Clonetech社製)等のキットを使用して、使用したキットのマニュアルに沿って行うと、簡便に進めることができるので好ましい。
プライマーのデザインは、例えば、先のRT−PCRで得られたヒトCaT1遺伝子のcDNAのC末端側の情報及びラットCaT1遺伝子のcDNAの開始コドン付近の情報(The Journal of Biological Chemistry 1999,Vol.274,No.13,p8375−8378参照)から設計したものと、ヒト小腸Marathon−ReadyTM cDNA(clonetech社製)に付属していたアダプタープライマーとを用いることができる。
請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子は、配列表の配列番号1記載の塩基配列を含有する。請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子は、塩基レベルでは、ラットCaT1遺伝子と約85%の相同性を有しており、また、第3図に示すように、最近報告されたヒトECaC遺伝子(第3図の下段参照。Genomics 2000,67,48−53参照)とは約85%の相同性を有するが、C末端約300bpの領域における相同性は約50%と低い。
また、請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子は、配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を含有するものである。
アミノ酸レベルでの高次構造は、第4図に示すように6回膜貫通型であること、5及び6番目の膜貫通部位の間にポア領域が存在するものと推定される。尚、高次構造の推定は、http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/cgi−bin/sosui.cgi?/sosui_submit.htmlサイト等を利用して行うことができる。
配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列は、第5図に示すように、ヘディガーら(Biochmical and Biophysical Research Communications 2000,Vol.278,p326−332参照)の報告するヒトCaT1遺伝子のアミノ酸配列(第5図の中段参照)と比較してわずかに3アミノ酸が異なるものである。また、N末端側の細胞内領域での2箇所については、ラットCaT1遺伝子のcDNA(第5図の下段参照。The Journal of Biological Chemistry 1999,Vol.274,No.13,p8375−8378参照。)と共通である。
請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子としては、配列番号1記載の塩基配列を含有するものであれば、上述の方法で得られるものに限定されず、請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子をコードする塩基配列の一部分を有する合成プライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んたDNAを請求項1に係る本発明のヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子の一部あるいは全領域を用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによっても得ることができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。
請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子は、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして、適当な発現ベクターに連結することができる。このようなプラスミドベクターを提供するのが、請求項2に係る本発明である。
即ち、請求項2に係る本発明は、請求項1記載のヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子を含有するプラスミドベクターである。
請求項2に係る本発明のプラスミドベクターは、例えば、請求項1に係る本発明のヒトCaT1遺伝子からDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌、枯草菌、酵母由来の発現ベクターなどが用いられ、具体的には例えばpMEHisベクターを用いることができる。
pMEHisベクターを用いる場合には、ヒトCaT1遺伝子にXho I及びNot Iサイトを導入すべくプライマーを設計し、RT−PCRを行った後に、pMEHisベクターのマルチクローニングサイト内のXho I及びNot Iサイトに挿入すると、第6図のようなプラスミドベクターpMEHis−CaT1を得ることができる。
このようにして構築された請求項2に係る本発明のプラスミドベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。このような形質転換体を提供するのが請求項3に係る本発明である。
即ち、請求項3に係る本発明は、請求項2記載のプラスミドベクターで形質転換された形質転換体である。
請求項3に係る本発明において、形質転換(トランスフェクション)の対象となる宿主としては、例えば、エシェリヒア属細菌、バチルス属細菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いることができるが、中でもCHO(Chinese hamster ovary)細胞が好ましい。CHO細胞を形質転換(トランスフェクション)するには、例えば、リポフェクション法にて行うことができる。リポフェクション法によるトランスフェクションは、LIPOFECTAMIN Reagent kit(GIBCO BRL社製)等のキットを使用して行うと簡便なので好ましい。
請求項3に係る本発明の形質転換体は、請求項2記載のプラスミドベクターで形質転換された形質転換体であり、言い換えれば、ヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子を含有するプラスミドベクターで形質転換された形質転換体である。
請求項3に係る本発明の形質転換体にヒトCaT1遺伝子が含まれ、これが発現していること(即ち、細胞内で遺伝子が発現した結果、ヒトカルシウムトランスポーター1が含まれていること)を確認するには、例えば、ウサギで作製した抗hCaT1抗体を用いて、ウェスタンブロットにて確認することができる。具体的にCHO細胞を宿主とする場合を例にとって説明すると、トランスフェクションしたCHO細胞をブラストサイジンにてコロニーを選択し、適当な非イオン性界面活性剤(例えば、1%NP−40(Nonidet P−40 界面活性剤、ナカライ社)、にて可溶化し、精製後、SDS−PAGE等により細胞を除去して培養上清を集め、細胞内に含まれるタンパク質を抽出する。一方、適当な発現ベクターにヒトCaT1遺伝子の一部の塩基配列を挿入したコンストラクトを作製し、これを大腸菌に形質転換して得られた融合タンパクを抗原として、ウサギで作製した抗ヒトCaT1抗体を用いて、ウェスタンブロットする。その結果特異的なバンドが見られた場合には、ヒトCaT1遺伝子が含まれ、これが発現していることが明らかである。
尚、細胞の可溶化に用いる非イオン性界面活性剤としては、上述のNP−40を用いることが好ましいが、一般的なtriton X100等の界面活性剤を用いることもできる。
請求項3に係る本発明の形質転換体を、適当な培養条件で培養することにより、いわゆるヒトCaT1定常発現細胞として、ヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子を発現し、細胞内へのカルシウム取り込みが増加する。形質転換体の培養の一例を示すと、例えば第7図のように、宿主がCHO細胞の場合、DMEM/F12培地(例えば、DMEM/F12(1:1)Medium、Base Catalog No.11320、GIBCOTM Invitrogen Corporation製)培地などの培地で、35〜40℃、好ましくはCO環境下に培養した形質転換体について、培地を除き、PBS(Phosphate−Bufffered Saline)バッファー(Amer.J.of Cancer(1936)27:55)、HBSS(Hanks’ Balanced Salt Solutions)バッファー(Hanks,J.H.and Wallace,R.E.,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.(1949)71,196.Modification−National Institutes of Health)等のバッファーにて洗浄した後、放射性同位元素で標識したカルシウム(例えば45Ca2+)を含むバッファーを添加して一定時間後に取り除き、界面活性剤にて細胞を可溶化する。形質転換体を回収して、細胞内に取り込まれた45Ca2+の量を液体シンチレーションカウンター等にて測定することにより、細胞内へのカルシウム取り込みの増加を確認することができる。
このような請求項3に係る本発明の形質転換体に対し、pHを変化させたり、種々の金属イオンを作用させて、形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認することにより、pHや金属イオンのカルシウム吸収に対する影響を調べることができる。
また、請求項3に係る本発明の形質転換体に対し、微生物、動植物、食品由来のペプチド、タンパク質、糖などの検体を作用させて、形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認することにより、カルシウム吸収を調節する因子をスクリーニングすることができ、このようなスクリーニング方法を提供するのが請求項4に係る本発明である。
即ち、請求項4に係る本発明は、請求項3記載の形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認することを特徴とする、カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング方法である。
請求項4に係る本発明のスクリーニング方法は、具体的に例えば、検体のカルシウム吸収調節活性を放射性同位元素で標識したカルシウム(例えば45Ca2+)の取り込みにより測定し、これをカルシウム吸収調節活性の指標として比較することにより、形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認するものである。
カルシウム吸収を調節する因子とは、ヒトの消化管各組織、細胞におけるカルシウム吸収を促進または阻害する化合物またはその塩である。
検体としては、例えば、微生物、動植物、食品由来のペプチド、タンパク質、糖などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。特に、食品由来のペプチド、タンパク質、糖等を検体とすることにより、医薬、栄養補助剤、食品などの成分としての有用性を高めることができるので好ましい。
請求項4に係る本発明のスクリーニング方法は、請求項3記載の形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認するものであるが、まず、請求項3記載の形質転換体を必要に応じて適当なバッファーで洗浄した後、界面活性剤で可溶化もしくは懸濁して用いることが好ましい。バッファーとしては、望ましくはpH約7〜8のリン酸バッファー、HBSSバッファー等の、本発明のヒトCaT1のカルシウム吸収活性を阻害しないバッファーであればいずれでもよい。また、界面活性剤としては、前記のものが用いられる。
請求項3記載の形質転換体に取り込まれたカルシウム量の確認は、例えば第8図に示すようにして行うことができる。即ち、上述の如くスクリーニングに適した状態とした形質転換体に、上述の検体を含む培地を加え4時間前処理を行う。その後培地を取り除き、形質転換体をPBS、HBSSバッファー等にて洗浄し、45Ca2+を含むバッファーを添加して一定時間後に取り除く。界面活性剤にて細胞を可溶化後、形質転換体を回収し、細胞内に取り込まれた45Ca2+の量を液体シンチレーションカウンター等にて測定する。また、対照として、検体を添加しないほかは同様にして測定する。カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニングの基準としては、例えば、検体及び対照の両結果についてANOVA等の統計処理を行い、有意水準が0.05未満(n=3)の場合にはカルシウム吸収を促進する因子として、それ以外の場合にはカルシウム吸収を阻害する因子としてスクリーニングすることができる。
このような請求項4に係る本発明のスクリーニング方法を簡便に行うためのキットを提供するのが請求項5に係る本発明である。
即ち、請求項5に係る本発明は、請求項3記載の形質転換体を含有してなることを特徴とするカルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング用キットである。
このような請求項4に係る本発明のスクリーニング方法や請求項5に係る本発明のスクリーニング用キットによれば、カルシウム吸収を調節する因子、特にカルシウム吸収を促進する因子を容易に得ることができ、このようなカルシウム吸収調節因子を提供するのが、請求項6に係る本発明、及び請求項7に係る本発明である。
請求項6に係る本発明は、請求項4記載のスクリーニング方法により得られるカルシウム吸収を促進する因子である。
請求項7に係る本発明は、請求項5記載のスクリーニング用キットにより得られるカルシウム吸収を促進する因子である。
請求項6及び7に係る本発明のカルシウム吸収を促進する因子としては、例えば、3つのアミノ酸からなるペプチドIle−Pro−Ala(IPA)を挙げることができる。このようなペプチドIPAは、チーズホエーをプロテアーゼA等のタンパク質分解酵素で消化して得られるチーズホエー酵素分解物(CWP−D)をODSカラム、FPLC、HPLC等の各種精製手段を行いながら、各精製段階において請求項4に係る本発明のスクリーニング方法を実施するか、或いは請求項5に係る本発明のスクリーニング用キットを用いてカルシウム吸収を阻害する因子を適宜スクリーニングして得ることができる。また、ペプチド自動合成機などにより、上記Ile−Pro−Alaの配列からなるペプチドを合成することによっても得ることができる。
また、請求項6及び7に係る本発明のカルシウム吸収を促進する因子は、食品や動植物中の成分等に由来する天然物質であっても良いし、合成物質であっても良い。分子量や立体構造についても特に限定はなく、例えば、CWP−Dやその精製物もその具体例に含まれる。
このような請求項6及び7に係る本発明のカルシウム吸収を促進する因子は、医薬、栄養補助剤、食品などの成分としての有用性を高めることができると共に、カルシウム吸収を調節する新たな因子として、医薬、栄養補助剤、食品などの成分としての利用の道を開くことができるものとして有用である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
(1)ヒトCaT1遺伝子のクローニング
まず、ヒトCaT1遺伝子のクローニングを行った。即ち、第2図に示す概略に従い、まずRT−PCR(第2図の1参照)によりヒトCaT1遺伝子のDNAの大部分をクローニングした後、5´末端部分について5´RACE PCRを行った(第2図の2参照)。
1.RT−PCR(第2図の1参照)
ヒト小腸上皮細胞の一つCaco−2細胞(American Type Culture Collectionより入手)からRNAを調製し、これを基に逆転写反応を行ってfirst strand cDNAを合成した。
Caco−2細胞からのRNAの調製は、以下のようにして行った。
Caco−2細胞を、10%FCS、4mM L−グルタミン、50IU/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM培地(GIBCOTM Invitrogen Corporation製、Base Catalog No.11965:CaCl(anhyd.)200.00mg/l、KCl 400.00mg/l、NaCl 6400.00mg/l、NaHCO 3700.00mg/l、NaHPO・HO 125.00mg/l、D−グルコース 4500.00mg/l、L−グルタミン 584.00mg/l、L−イソロイシン 105.00mg/l、L−ロイシン 105.00mg/l、L−リシン・HCl 146.00mg/l)を用い、37℃、5%CO、湿潤条件下において培養を行い、100mm径ディッシュにて3〜4日後にコンフルエント細胞を得た。
培地を取り除き、100mm径ディッシュあたり1mlのISOGENを添加し、ラバーポリスマンにて細胞を掻き取りながら溶解させ、1ml容チューブに回収した。25G針を用いた1ml容シリンジにて数回ホモジネート後、クロロホルム200μl添加、vortexし、15,000rpm、15min、4℃にて遠心した。上清を別のチューブに移し、イソプロパノール500μlを添加、よく混釈した。室温で5〜10分放置し、15,000rpm、10min、4℃にて遠心した。上清を取り除き、沈澱を75%エタノールで洗浄後風乾させ、適量のRNase free水で溶解した。サンプルは−80℃にて保存した。
逆転写反応は、First strand cDNA synthesis kit(Pharmacia Biotech社製)を使用して行った。すなわち、Caco−2細胞から調製したtotal RNAを1〜5μg、1ml容チューブに取った。真空遠心機にて乾燥させた後、8μlのRNase−free水にて溶解し、65℃で10分間加温処理後、直ちに氷冷した。それに、1μlのPd(N)プライマー、1μlのDTT solution、5μlのBulk First−Strand cDNA Reaction Mixを各々添加し、15μlにメスアップした後、37℃で1時間インキュベーションした。次に65℃で15分間加温し、その後直ちに氷冷した。サンプルは−20℃にて保存した。
このcDNAをテンプレートとして、PCRを行った。センスプライマー及びアンチセンスプライマーとして、ラットCaT1のシークエンスの情報と、ESTのデータベース(http://www.Evolution.bio.titech.ac.jp/keyword/est.html)からラットCaT1とホモロジーの高いヒト遺伝子の情報(AA078617 human brain及びAA579526 human prostate)を基にデザインしたものを用いて行った。尚、ホモロジー解析は、データベースサイト(BLAST)http://www.Genome.ad.jp/japanese/(http://www.Hulinks.co.jp/software/turboblast/を参照)で行った。
PCRは、Accu Taq−LA polymelase PCRbuffer(10x)、Accu Taq−Labuffer(10x)、Deoxynucleotide mix、Dimethyl Sulfoxide(全てSIGMA社製)を用いて、94℃−2〜3分の後、94℃−30秒、Tm℃−30秒、72℃−XX(分、秒)を何れの場合も30サイクル行った。尚、アニーリング温度(Tm)は設計したプライマーにより定め、伸長時間(XX(分、秒))は目的のフラグメントサイズにより定めた。
2.未知の開始コドンを含む5´末端領域のクローニング(第2図の2参照)
クローンテック社(Clonetech lab.)製のヒト小腸cDNAライブラリー(human small intestinal cDNA library)について、5´RACE PCRを行い未知の開始コドンを含む5´末端領域のクローニングを行った。
5´RACE PCRは、ヒト小腸Marathon−ReadyTM cDNA(Clonetech社製)を用いて行った。プライマーは、先のRT−PCRで得られたヒトCaT1遺伝子のcDNAのC末端側の情報及びラットCaT1遺伝子のcDNAの開始コドン付近の情報(The Journal of Biological Chemistry 1999,Vol.274,No.13,p8375−8378参照)から設計したものと、ヒト小腸Marathon−ReadyTM cDNA(clonetech社製)に付属していたアダプタープライマーとを用いて行った。
その結果、開始コドンを含む4塩基分を除いた、ヒトCaT1遺伝子のほぼ全長のクローニングに成功した。ヒトCaT1遺伝子のほぼ全長の塩基配列は、配列表の配列番号1に示す通りである。塩基レベルでは、ラットCaT1遺伝子と約85%の相同性を有していた。また、第3図「ヒトCaT1のDNA配列およびヒトECaCとの相同性」に示すように、最近報告されたヒトECaC遺伝子(第3図の下段参照。Genomics 2000,67,48−53参照)とは約85%の相同性を有することが確認されたが、C末端約300bpの領域における相同性は、約50%と低いものであった。
また、ヒトCaT1遺伝子の(ほぼ)全長のアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示すとおりである。
http://sosuiproteome.bio.tuat.ac.jp/cgi−bin/sosui.cgi?/sosui submit.htmlサイトを参照して、ヒトCaT1遺伝子のアミノ酸配列から、アミノ酸レベルでの高次構造の推定を行ったところ、第4図に示すように6回膜貫通型であること、5及び6番目の膜貫通部位の間にポア領域の存在が示唆された。ヒトCaT1遺伝子のアミノ酸配列をヘディガーら(Biochmical and Biophysical Research Communications 2000,Vol.278,p326−332参照。)の報告するヒトCaT1遺伝子のアミノ酸配列(第5図の中段参照。)と比較すると、第5図に示すように、わずかに3アミノ酸が異なり、N末端側の細胞内領域での2箇所については、ラットCaT1遺伝子のcDNA(第5図の下段参照。The Journal of Biological Chemistry 1999,Vol.274,No.13,p8375−8378参照。)と同じであった。
(2)ヒトCaT1遺伝子の発現量の確認
次に、ヒト消化管各組織部位(食道、胃、十二指腸、回腸、空腸、上行結腸、下行結腸、横行結腸、盲腸、直腸及び肝臓)におけるヒトCaT1遺伝子の発現量を、以下の手順でノーザンブロッティングを行って確認した。
1.プレハイブリダイゼーション
メンブレンとして、各消化器官のRNAが予めトランスファー、固定されているhuman digestive system MTN Blot(Clontech)のメンブレンを使用した。
乾熱処理したメンブレンを2x SSCに浸し、ハイブリパック内に入れ、プレハイブリダイゼーション液(10μlのsalmon testes DNAを95℃、10分間処理した後氷中で急冷し、0.5mlのhybridyzation solutionを加えて混ぜたもの。)を加えて、気泡がメンブレン上に生じないように、シーラーでシールした。それを、42℃のwater bath内にて3時間以上放置した。
尚、hybridyzation solutionの組成は以下の通りである。
〔hybridyzation solutionの組成〕
(final) (stock solution)
・5xDenhardt’s 50x
・5x SSPE(下記20xSSPEを4倍希釈) 20x
・50% ホルムアミド
・0.1% SDS 10%
20xSSPE
・NaCl 175.3g
・NaHPO・2HO 7.6g
・EDTA・2Na 7.4g
・milliQ水 up to 1L
(NaOHでpH7.4に合わせ、オートクレーブした)
2.プローブの作製および精製
megaprime labelling system(Amersham pharmacia社製)を使用してプローブの作製および精製を行った。すなわち、約25ngの鋳型DNAをmiliQ水で14μlにし、95℃で5分間加熱処理した後、氷中で急冷した。そこに、5μlのprimer solution,2.5μlのlabeling buffer,2.5μlのα−32P−dCTP,1μlのenzymeを加え、37℃のwater bath内で1〜2時間放置した。その後、24μlの0.2% SDS/TE及び1μlの0.5M EDTAを添加しプローブ精製前液とした。プローブ精製用のカラムは、ブルーチップの先端に、シリコン処理したグラスウールを詰め、1.5ml容マイクロチューブに立て、1mlセファデックスG−50(TEにて洗浄した後、平衡化し、オートクレーブ処理したもの。)をチップ内に入れて作製した。
プローブ精製前液をプローブ精製用のカラムに添加し、樹脂内に移動したらカラムにTEを適量加え、1fraction当たり150〜200μlになるように順次1.5ml容マイクロチューブに溶出液を回収した。回収したfractionについて、液体シンチレーションカウンターにて、32Pの放射量を測定し、1ピーク目のfractionをプローブ液とした。
3.ハイブリダイゼーション
プローブ液を約250万cpmになるように1.5ml容チューブ内に入れ、salmon testes DNAを5μlさらに加え、95℃,10分間加熱処理し、氷中で急冷した後、hybridyzation solutionを0.5ml加え、ハイブリダイゼーション溶液とした。上述の1.でプレハイダイブリダイゼーションを行ったメンブレンを新しいハイブリパック内に入れ、ハイブリダイゼーション溶液を全量入れ、気泡がメンブレン上に生じないように、シーラーにてシールし、42℃のwater bath内にて一晩放置した。
4.メンブレンの洗浄および感光
メンブレンをタッパー内で水で軽く濯ぎ、次に、2x SSC及び0.1% SDSで、1回目は2〜3分間、2回目は20〜30分間、37℃下でタッパー内で洗浄した。次に、0.1x SSC及び0.1% SDSにて2回、各20分間洗浄した。メンブレンをサーベイメーターにて、バックグラウンドの放射性が低下したのを確認した後、水気をペーパータオルで取り、ろ紙に固定しラップで包み、感光用のホルダーに入れIP(Imaging plate)に適当な時間、感光させた。感光させたIPは専用のマガジンに移し、FUJI FILM社製のBAS2000にてscan及び解析した。
第9図に消化管各組織部位におけるヒトCaT1遺伝子のmRNAの発現レベルを示す。なお、第9図の下段には、controlとしてヒトCaT1遺伝子の代わりにヒトcDNA(36B4)を用いた他は上記と同様の手順で行った結果を示す。
その結果、第9図から明らかな通り、消化管各組織部位においてヒトCaT1遺伝子が発現していることが分かり、特に胃や小腸上部から下部にかけて広く発現が確認された。このことから、ヒトにおいても中性環境の小腸下部におけるカルシウムの取り込みがヒトCaT1を介して行われていることを示唆するものと考えられた。
(3)ヒトCaT1定常発現細胞の作製
ヒトCaT1によるカルシウムの取り込みの制御機構に関する報告はこれまで不十分であったことから、本発明者らは、第6図に示すヒトCaT1遺伝子を導入したベクターを作製し、これをCHO細胞に形質転換してヒトCaT1定常発現細胞を作製し、前記制御機構の解明を試みた。
まず、pMEHisベクターのXho I及びNot IサイトにヒトCaT1遺伝子を挿入した。すなわち、ヒトCaT1遺伝子にXho I及びNot Iサイトを導入すべくプライマーを設計、RT−PCRを行った後に、pMEHisベクターのマルチクローニングサイト内のXho I及びNot Iサイトに挿入し、pMEHis−CaT1を作製した。これを、本来ヒトCaT1遺伝子を発現していないCHO(Chinese hamster ovary)細胞にリポフェクション法にてトランスフェクションした。
リポフェクション法によるトランスフェクションは、LIPOFECTAMIN Reagent kit(GIBCO BRL社製)を使用して行った。すなわち、まず2〜10μgのプラスミドDNA、8μlのplus reagentを250μlのDMEM/F12培地中に入れ、軽く撹拌し、37℃下で15分間放置した。その後、別に用意した、12μlのリポフェクタミンを添加した250μlのDMEM/F12培地を加え、軽く撹拌したのち、更に15分間37℃下で放置し、DNA溶液とした。1×10cellsの細胞を60mm dishにまき、一晩、37℃、CO環境下で培養した細胞を2mlの無血清培地にて2回程洗浄し、改めて2mlの無血清培地を加えた後、DNA溶液を全量添加し、37℃、CO環境下で3時間放置した。その後、通常の血清培地と交換した後、2〜3日間引き続き培養した。
また、対照としてヒトCaT1遺伝子を挿入しないままのpMEHisベクターをトランスフェクションした。
トランスフェクションしたCHO細胞がヒトCaT1遺伝子を発現しているかどうかは、ウサギで作製した抗hCaT1抗体を用いて、ウェスタンブロットにて確認した。即ち、トランスフェクションしたCHO細胞をブラストサイジンにてコロニーを選択し、1%NP−40(Nonidet P−40 界面活性剤、ナカライ社)にて可溶化し、Ni resinにて精製し、SDS−PAGEにて泳動後、pET28aベクターにヒトCaT1のC末端(配列表の配列番号1記載の塩基配列の757〜1923番目の部分)1.2Kbpを挿入したコンストラクトを作製し、これを大腸菌BL21に形質転換して得られた融合タンパクを抗原として、ウサギで作製した抗ヒトCaT1抗体を用いて、ウェスタンブロットした。結果を第10図に示す。なお、第10図において、右側はpMEHis−CaT1をトランスフェクションしたCHO細胞の結果を、左側はpMEHisベクターをトランスフェクションしたCHO細胞の結果を示す。
第10図から明らかなように、pMEHis−CaT1をトランスフェクションしたCHO細胞、即ちヒトCaT1遺伝子を導入した細胞において、約75kDaの特異的なバンド(第10図中の矢印参照)が確認され、ヒトCaT1のタンパク質レベルでの発現を確認することができた。このことから、上述の如くしてヒトCaT1遺伝子を導入して得られた細胞は、ヒトCaT1定常発現細胞であることが明らかとなった。
(4)ヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みの確認
次に、上述の(3)で作製されたヒトCaT1定常発現細胞が実際にカルシウムを取り込むかどうかを、第7図に示す概略に従って確認した。
即ち、24well plateにて、ヒトCaT1定常発現細胞を前記DMEM/F12培地に10% FCS(胎児牛血清)を添加した培地を用いて、1×10cells/wellを37℃,5日間、CO環境下培養した。培地を除き、細胞をPBS,HBSSバッファーにて洗浄後、各wellに5.28μMの45Ca2+を含むHBSSバッファーを添加して一定時間(通常は10分間、ただし、時間をふっている場合(time course)を除く。)後に取り除き1%triton(triton X−100)にて細胞を可溶化後、細胞を回収した。細胞内に取り込まれた45Ca2+の量を液体シンチレーションカウンターにて測定した。また、対照として、ヒトCaT1遺伝子をトランスフェクションしていないCHO細胞についても、同様の操作を行い、細胞内に取り込まれた45Ca2+の量を測定した。
細胞内に取り込まれた45Ca2+の量の経時的変化を第11図に示す。第11図から明らかなように、ヒトCaT1定常発現細胞の細胞内に取り込まれた45Ca2+の量は、ヒトCaT1遺伝子をトランスフェクションしていないCHO細胞に比べて増加している。
更に、ヒトCaT1定常発現細胞の細胞内に取り込まれた45Ca2+の量から、ヒトCaT1遺伝子をトランスフェクションしていないCHO細胞の細胞内に取り込まれた45Ca2+の量を差し引いたものは、ヒトCaT1遺伝子が細胞内取り込みに関与したカルシウム量と考えられる。そこで、細胞内に取り込まれたカルシウム量のうち、ヒトCaT1遺伝子が細胞内取り込みに関与したカルシウム量の経時的変化を第12図に示した。第12図によれば、細胞内に取り込まれた45Ca2+量は30分経過時点でほぼ一定となることから、ヒトCaT1遺伝子が関与するカルシウムの取り込みは比較的短時間にて行われ、また、飽和することが明らかである。
尚、以降の細胞内に取り込まれた45Ca2+の量に関するデータは、第12図のように細胞内に取り込まれた45Ca2+のうち、hCaT1が関与した分の量を示すものとする。
(5)hCaT1を介したカルシウム取り込みに対するpH及び金属イオンの影響
hCaT1を介したカルシウム取り込みに対するpH及び金属イオンの影響を調べて、hCaT1(定常発現細胞)のキャラクタライズを行った。
pHによる影響は、5.28μMの45Ca2+を含むHBSSバッファーのpHを5.5、6.5、7.5及び8.5のそれぞれに調整したものを用いた他は、(4)と同様の培養条件及び手順で調べた。結果を第13図に示す。第13図から、中性側にて細胞内への45Ca2+取り込み量が増大するが、酸性側では抑制されることが分かる。
一方、金属イオンの影響は、La3+、Gd3+、Cd2+、CO2+、Fe2+、Mn2+及びMg2+の各塩化物塩100μM(ただし、Mg2+のみ10mM)、及び、塩化コリン(Cho−Cl)100μMを5.28μMの45Ca2+を含むHBSSバッファーにそれぞれ添加したほかは、(4)と同様の培養条件及び手順で調べた。結果を第14図に示す。
第14図からも明らかな通り、La3+、Gd3+、Cd2+及びCo2+イオンでは45Ca2+取り込み量が抑制されるが、Fe2+、Mn2+及びMg2+ではcontrolと比較して差がなく、取り込みには影響がないことが分かる。
(6)カルシウム吸収を調節する食品因子のカルシウム吸収調節作用メカニズムの解明
カルシウム吸収を調節する食品因子のカルシウム吸収調節作用のメカニズムに関する情報を得るべく、本発明者らは、第8図の概略に従ってヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対する影響を検討することにより、これら食品因子のカルシウム吸収調節作用のメカニズムの解明を試みた。
即ち、(4)と同様の培養条件及び手順で培養したヒトCaT1定常発現細胞について、培地を、食品因子として7%ラクトース(試薬特級)、1%カゼイン酵素分解物、1%グアーガム加水分解物、及び大豆酵素分解物(不二精油製)をそれぞれ含んだDMEM(−Ca)培地(Dulbecco’s’ Modified Eagle Medium(cont.)Base Catalog No.21068、GIBCOTM Invitrogen Corporation製:KCl 400.00mg/l、NaCl 6400.00mg/l、NaHCO 3700.00mg/l、NaHPO・HO 125.00mg/l、D−グルコース 4500.00mg/l、L−イソロイシン 105.00mg/l、L−ロイシン 105.00mg/l、L−リシン・HCl 146.00mg/l、L−チロシン・2Na・2HO 104.00mg/l))に移し変え、更に4時間プレインキュベートした後の細胞内に取り込まれた45Ca2+の量を測定した。結果を第15図に示す。
第15図から明らかな通り、細胞内に取り込まれた45Ca2+の量は、ラクトース、1%カゼイン酵素分解物及び1%グアーガム加水分解物にて増加した。一方、大豆酵素分解物では、逆に細胞内に取り込まれた45Ca2+の量は抑制された。
このことから、ラクトース、カゼイン及びグアーガム加水分解物はヒトCaT1の働きを促進してカルシウム吸収を促進させることが明らかとなり、一方、大豆酵素分解物は、ヒトCaT1の働きを抑制してカルシウム吸収を阻害することが明らかとなった。
【実施例2】
食品因子としてのチーズホエーの酵素消化物(CWP−D)について、実施例1で得られたヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対する影響を検討することにより、カルシウム吸収調節作用の有無及びそのメカニズムの解明を試みた。
(1)酵素処理によるCWP−Dの調製
35% チーズホエーを調製し、0.12% プロテアーゼA(天野製薬)を加えて溶解した後、37℃にて6時間インキュベーションした。処理後、90℃、10分間加温し、酵素を失活させた。冷却した後、凍結乾燥を行った。
得られた粉末を、酵素処理サンプルとして、以下の手順で精製を行った。
(2)ヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対するCWP−Dの影響
(1)で得られる酵素処理サンプルを、DMEM(−Ca)(実施例1(6)で使用したものと同じ)に濃度1.0(w/v)%となるように溶解し、これに実施例1(4)と同様の培養条件及び手順で培養したヒトCaT1定常発現細胞、及びヒトCaT1遺伝子をトランスフェクションしていないCHO細胞に加え、4時間前処理(プレインキュベート)した。尚、培地には、透析(Spectra/POR MWCO:100)したFCSを2.5%、L−グルタミン溶液を2%加えた。
前処理終了後直ちに、実施例1(4)と同様の手法で、細胞内に取りこまれた45Ca2+の量の測定を行った。一方、対照として酵素処理サンプルを加えずに同様に処理を行った。結果を第16図に示す。
第16図から明らかな通り、細胞内への45Ca2+の取り込み量は、CWP−Dを添加した場合に、対照と比較して8倍と高く、ANOVAによる解析の結果、p<0.01において両者の間には有意差が見られた。
このことから、CWP−Dは、ヒトCaT1の働きを促進してカルシウム吸収を顕著に促進させることが明らかとなった。
(3)ヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対する前処理時間の影響
(2)において、前処理時間を0時間、1時間、2時間、4時間及び6時間とした他は、(2)と同様にして、ヒトCaT1定常発現細胞の45Ca2+取り込みに対するCWP−Dの前処理時間の影響について調べた。結果を第17図に示す。
第17図から明らかなように、細胞内への45Ca2+取り込み量は、前処理時間の長さに依存して増加し、2時間で飽和することが明らかとなった。
(4)ヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対するCWP−Dの濃度の影響
(2)において、酵素処理サンプルの濃度を、0(w/v)%、0.01(w/v)%、0.02(w/v)%、0.05(w/v)%、0.1(w/v)%、0.2(w/v)%、0.5(w/v)%、1.0(w/v)%の各濃度の細胞添加用サンプル含有培地に換えて、それぞれの培地について処理を行ったほかは、(2)と同様にして、ヒトCaT1定常発現細胞の45Ca2+取り込みに対するCWP−Dの濃度の影響について調べた。結果を第18図に示す。
第18図から明らかなように、細胞内への45Ca2+取り込み量は、CWP−D濃度に依存して増加することが明らかとなった。
(5)Caco−2細胞のカルシウム取り込みに対するCWP−Dの影響
ヒト小腸上皮細胞の一つであるCaco−2細胞では、内因性のCaT1が発現している。そこで、(4)において、ヒトCaT1定常発現細胞の代わりにCaco−2細胞を用いた他は同様にして、Caco−2細胞の45Ca2+取り込みに対する酵素処理サンプルの濃度の影響について調べた。結果を第19図に示す。
第19図から明らかなように、Caco−2細胞内への45Ca2+取り込み量は、CWP−Dの濃度に依存して増加し、0.1(w/v)%以上で有意に増加し、0.2(w/v)%でその増加は飽和することが明らかとなった。
(6)カルシウム取り込みのカイネティクスに対するCWP−Dの影響
(2)の前処理終了後、培地中のCaCl濃度を0.01mM〜1.0mMまで変化させて、その間の細胞内に取りこまれた45Ca2+の量の測定を行った(+CWP−D)。一方、対照として酵素処理サンプルを添加せずに同様に処理した(−CWP−D)。その結果、第20図に示すようなカルシウム飽和曲線が得られた。
第20図を基に、Lineweaver−Barkのプロットを行い(第21図)、Vmax値、Km値を算出した。得られたVmax値及びKm値を第1表に示す。

第1表から明らかなように、細胞内へのCa2+の取り込みのVmaxは、+CWP−Dと−CWP−Dとの間でほとんど変わらなかったが、その一方で、Kmは低下することが認められた。
このことから、CWP−Dは、CaT1のコンフォメーションを変化させ、細胞内への45Ca2+取り込みのカイネティクスを変化させることが示唆された。
(7)CWP−D由来のカルシウム吸収促進因子の単離
1.ODSカラムによる粗精製
(1)で得られた酵素処理サンプル(CWP−D)100gを、300mlの蒸留水に溶解し,5℃で遠心分離(11,000rpm,20min)した後、ろ過を行い(ADVANTEC ろ紙No.1)、脂肪層を除去した。この徐脂肪画分を透析(分画分子量10,000、4Lの蒸留水に対し、3回)し、得られた透析外液を55.5倍に減圧濃縮(final 200ml)した。濃縮液をODSカラム(Wako gel 50C18,10x100cm)にて通過させた後、吸着画分を80% エタノールにて溶出させ、溶出物を減圧濃縮、凍結乾燥し、粗精製されたODS吸着画分を得た。
(2)において、酵素処理サンプルの代わりに、(7)1.で得られたODS吸着画分を用いた他は、(2)と同様に行った。結果を第22図に示す。
第22図から明らかな通り、ヒトCaT1定常発現細胞内への45Ca2+の取り込み量は、CWP−Dを添加した場合に、対照と比較して高く、ANOVAによる解析の結果、p<0.01において両者の間には有意差が見られた。
このことから、ODS吸着画分中に、カルシウム吸収促進因子が含まれることが明らかとなったので、さらに精製するため以下のFPLCを行った。
2.逆相クロマトグラフィー(FPLC)
1.で得られたODS吸着画分を、濃度92.5g/5mlになるように蒸留水に溶解し、No.1ろ紙にてろ過後、5mlに再調整したものについて、FPLCを行った。FPLCの条件は以下の通りとした。
〔FPLCの条件〕
・カラム:Wakogel 50C18 0.8×50cm,Vt=100ml
・サンプルループ:5ml スーパーループ
・検出:280nm
・溶媒:A.HO(蒸留水)
B.EtOH
・フラクション:10ml/2min(5ml/min)
・濃度勾配:下記の第2表に示す通りである。

1.のODS吸着画分をサンプルループに予め注入し、十分に平衡化しておいたカラムにチャージした。尚、サンプルチャージ、送液、溶媒濃度勾配、フラクションコレクター等は全てプログラム上、自動で行われた。FPLCの結果を第23図に示す。得られた各フラクションは凍結乾燥した後、各々1mlの蒸留水に溶解し、FPLC画分として以下の試験に供した。
(2)において、酵素処理サンプルの代わりに、各FPLC画分を、ヒトCaT1定常発現細胞に対して濃度0.5mg/mlとなるような濃度で用いた他は、(2)と同様に行って細胞内への45Ca2+の取り込み量を測定した。各画分の結果を、FPLCの結果と併せて第23図に示す。
第23図から明らかなように、細胞内への45Ca2+の取り込み量は、retention timeが34〜36分のFPLC画分について特に高かった。
このことから、retention timeが34〜36分のFPLC画分に、カルシウム吸収促進因子が含まれることが明らかとなったので、この画分をさらに精製するため以下のFPLCを行った。
3.逆相クロマトグラフィー(HPLC)
2.にてカルシウム吸収上昇活性が確認されたFPLC画分について、HPLCを行った。HPLCの条件は以下の通りとした。
〔HPLCの条件〕
・カラム:Docosil 4.6x250mm
・サンプルループ:200μl
・溶媒:A.HO+0.1% TFA
B.Acetonitorile+0.1% TFA
・検出:214nm
・フラクション:1ml/min
・濃度勾配:下記の第3表に示す通りである。

HPLCの結果を第24図に示す。
第24図から明らかなように、retention timeが8.450,16.108,25.696分の各位置に主要なピーク(peak.1,2,3)が検出された。そこで、各々のピークを回収した後凍結乾燥を行い、(2)において、酵素処理サンプルの代わりに、3つの回収ピークpeak.1,2,3を、ヒトCaT1定常発現細胞に対してそれぞれ濃度0.5mg/mlとなるような濃度で用いた他は、(2)と同様に行って細胞内への45Ca2+の取り込み量を測定した。一方、対照として、回収ピークを加えずに同様の処理を行った。結果を第25図に示す。
第25図から明らかなように、peak.1を添加した場合の細胞内への45Ca2+の取り込み量は、ANOVAによる解析の結果、他のpeak及び対照と比較して有意(p<0.05)に増加していた。
このことから、peak.1に、カルシウム吸収促進因子が含まれることが明らかとなった。
4.peak.1の純度の測定
3.で得られたpeak.1をNガスにて処理した後乾固させ、リン酸バッファー(pH2.5)に溶解し、0.45μmのフィルターを通したものを、Otsuka Elecronics社のCAPI−3000 Integratorを使用してキャピラリー電気泳動を行って、ペプチド純度を検定した。キャピラリー電気泳動は、電圧15kv及び温度25℃の条件で、200nmの吸光度により検出した。結果を第26図に示す。
第26図から明らかなように、シングルピークのみ検出されたことから、peak.1は、単一物質からなることが確認された。
5.CWP−Dの配列決定
4.にて単一物質からなることを確認したpeak.1について、Applied Biosystem社のProtein Sequence Systemを使用して配列決定を行なった。その結果、peak.1に含まれる物質のアミノ酸一次配列は、Ile−Pro−Alaであることが明らかとなった。
(8)CWP−D由来のカルシウム吸収促進因子のカルシウム取り込みに対する影響
(7)で得られた物質のアミノ酸一次配列からなるペプチドを合成し、この合成ペプチドIPAについて、以下の手順によりカルシウム取り込みに対する影響を調べた。
1.ヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対する合成ペプチドIPAの濃度の影響
(2)において、酵素処理サンプルの代わりに、合成ペプチドIPAを、細胞に対して濃度0mg/ml、0.25mg/ml、0.5mg/ml、1.0mg/mlとなるような濃度で用いた他は、(2)と同様に行って細胞内への45Ca2+の取り込み量を測定した。結果を第27図に示す。
第27図から明らかなように、細胞内への45Ca2+の取り込み量は、合成ペプチドIPAの濃度に依存して有意に増加していた。
2.ヒトCaT1定常発現細胞のカルシウム取り込みに対する合成ペプチドIPA、IPAアナログ及びアミノ酸類の影響
(2)において、酵素処理サンプルの代わりに、合成ペプチドIPA、IPAアナログ(合成ペプチドの類似体)としてのIPI(Ile−Pro−Ile:ペプチド研究所)及び合成ペプチドIPAを構成するアミノ酸類(Ile(I)、Pro(P)及びAla(A))を、それぞれ3.0mM用いた他は、(2)と同様に行って細胞内への45Ca2+の取り込み量を測定した。一方、対照として、ペプチドやアミノ酸類を加えずに同様の処理を行った。結果を第28図に示す。
第28図から明らかなように、IPAアナログとしてのIPIの他、Ile、Pro及びAlaのいずれも、細胞内への45Ca2+の取り込み量は、ANOVAによる解析の結果、有意な増加は見られなかった。
以上の結果から、チーズホエー酵素分解物(CWP−D)及び合成ペプチドIPAは、カルシウム吸収を促進する因子として有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
本発明は、ヒトCaT1遺伝子の発現ベクターへの挿入や形質転換等遺伝的応用を可能にし、更に、ヒトCaT1のカルシウム吸収活性の調節に影響する因子の存在等、カルシウム吸収活性のメカニズムを解明し、カルシウム吸収を調節する因子、特にカルシウム吸収を促進する因子の確認及び新たな発見に役立つ手段を提供することができるので、有用である。
【配列表】






【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1記載の塩基配列を含有するヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子。
【請求項2】
請求項1記載のヒトカルシウムトランスポーター1遺伝子を含有するプラスミドベクター。
【請求項3】
請求項2記載のプラスミドベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項4】
請求項3記載の形質転換体に取り込まれたカルシウム量を確認することを特徴とする、カルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項3記載の形質転換体を含有してなることを特徴とするカルシウム吸収を調節する因子のスクリーニング用キット。
【請求項6】
請求項4記載のスクリーニング方法により得られるカルシウム吸収を促進する因子。
【請求項7】
請求項5記載のスクリーニング用キットにより得られるカルシウム吸収を促進する因子。

【国際公開番号】WO2004/063361
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566277(P2004−566277)
【国際出願番号】PCT/JP2003/010691
【国際出願日】平成15年8月25日(2003.8.25)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【出願人】(000201652)全国酪農業協同組合連合会 (4)
【出願人】(503058751)日本ミルクコミュニティ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】