説明

ヒト癌細胞選択的な細胞障害能を有する新規タンパク質

【課題】活性形態においてヒト癌細胞等の特定の細胞に対して特異的に障害を与えるタンパク質およびそれをコードするDNA等の提供。
【解決手段】特定な配列のアミノ酸配列からなるタンパク質、あるいは、これらのアミノ酸配列のいずれかと70%以上の相同性を有する範囲で、アミノ酸の欠失、置換、挿入もしくは付加のいずれか1種類以上により修飾されたアミノ酸配列からなり、かつ活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質。特定な配列のヌクレオチド配列からなるDNA、あるいは、これらのDNAに対して相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物由来の有用なタンパク質に関し、より詳細には、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis:以下「BT」と略称することがある)M019株等に由来する、細胞認識及び細胞破壊能を持った新規タンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子ならびにそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・チューリンジエンシスは、1901年に日本人研究者の石渡繁胤氏によって蚕の病原細菌として発見された。以来、この細菌が生産する毒素タンパク質は、微生物殺虫剤として幅広く農業害虫、衛生害虫の防除に利用されてきた。
【0003】
これまでの研究によって、殺虫活性を持つBTの結晶性タンパク質は、アルカリによる可溶化後、必要に応じてプロテアーゼ処理によって活性化され、昆虫に対する毒性を発揮することが知られている。殺虫活性を持つ結晶性タンパク質は、(1)プロテアーゼによって活性化された状態において昆虫細胞に選択的な破壊活性を示すCryタンパク質(通常、活性化形態では分子量60〜75kDa)、及び(2)昆虫の細胞に対して非選択的な破壊活性を有し、かつ赤血球の溶血活性を有するCytタンパク質(通常、活性化形態では分子量22〜30kDa)に分類されることが明らかになっている。このような殺虫活性を持つ結晶性タンパク質は、昆虫細胞を標的とした殺虫剤としても利用されている。
【0004】
細胞認識タンパク質としてのBTの結晶性タンパク質は、Cryタンパク質に代表される選択性の高さ、数十の遺伝子型に基づく多様性の豊富さ、及び原核生物由来のタンパク質であるが故の遺伝子改変のし易さという、抗体等他の細胞認識タンパク質にない優れた特徴を持っている。
【0005】
一方、殺虫活性を有する結晶性タンパク質を発現している菌株は、BTのうちわずか30〜40%にすぎない。BT菌株が生産する殺虫活性を有しない結晶性タンパク質の持つ性質については、長い間不明であったが、近年、そのようなタンパク質の一部に、アルカリによる可溶化後にプロテアーゼによって活性化されると、細胞認識活性ないし細胞障害活性を有するタンパク質を生成するものが見出された(特許文献1〜3)。たとえば、特許文献3には、プロテイナーゼKを用いた処理により癌細胞等に対する細胞障害活性を有するようになる、BT1470株由来のタンパク質(活性化前:34kDa、活性化後:26kDa)が開示されている。
【特許文献1】特開平11−222498号公報
【特許文献2】特開2003−284568号公報
【特許文献3】特開2005−333865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒト癌細胞等の特定の細胞に対して特異的に障害を与えるタンパク質、およびこのようなタンパク質をコードするDNA、ならびにこれらのタンパク質およびDNAの用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、土壌、耕地土壌、森林土壌,貯穀塵埃から分離された、3種の燐翅目昆虫と2種の双肢目昆虫に対して病原性を示さないバチルス・チューリンジエンシス菌株を用いて、これらの菌株に由来する活性が不明であった毒素タンパク質の中に、アルカリによ
る可溶化後にプロテアーゼ(トリプシン)によって処理すると、脊椎動物細胞(癌細胞を含む)に選択的に障害を与えるようになる、新規なタンパク質が存在することを明らかにした。
【0008】
さらに、本発明者は、そのような新規タンパク質のうち、バチルス・チューリンジエンシスM019株の生産するものについて、そのアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列を明らかにし、本発明を完成させるに至った。特に、以下に述べる配列番号6で示されるアミノ酸からなるタンパク質は、BT菌株が生産する殺虫活性を有しない公知の結晶性タンパク質とは非類似の、全く新規なタンパク質である。
【0009】
すなわち、本発明は、配列番号2、配列番号4、または配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、およびこれらのタンパク質をトリプシンで処理することにより得られる、53kDaないし57kDaの、細胞障害活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列のいずれかと70%以上の相同性を有する範囲で、アミノ酸の欠失、置換、挿入もしくは付加のいずれか1種類以上により修飾されたアミノ酸配列からなり、かつ活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質、ならびにこれらのタンパク質をトリプシンで処理することにより得られる、細胞障害活性を有するタンパク質をも提供する。
【0010】
また、本発明は、配列番号1、配列番号3、又は配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるDNAのような、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、ならびに、配列番号1、配列番号3、又は配列番号5のヌクレオチド配列からなるDNAに対して相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質をコードするDNAを提供する。
【0011】
本発明の一態様において、上記細胞障害活性は、白血病細胞、子宮癌細胞及び肝癌細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞に対して特異的なものである。また、上記の本発明のタンパク質およびDNAは、バチルス属、特にバチルス・チューリンジエンシスM019株(受託番号FERM P−21398)に由来するものとして得ることができ
る。
【0012】
さらに本発明は、上述のようなタンパク質およびDNAの用途に関する発明、すなわち、本発明のタンパク質を含有する医薬組成物、特に抗癌剤、ならびに、本発明のDNAを含有するベクターおよび当該ベクターを含有する形質転換体を提供する。あわせて、本発明は、(a)本発明のタンパク質を発現する細胞を培養する工程;及び(b)本発明のタンパク質を回収する工程;を包含する、本発明のタンパク質を生産する方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、細胞種選択的障害活性を有するタンパク質について遺伝子レベル、分子レベルでの研究開発を可能にする。本発明はまた、それらのタンパク質の大量生産技術も確立することができる。従って、本発明は、薬学分野におけるDDS技術の開発、診断薬の開発、農林水産分野における特定の細胞の開発、組織の選択的破壊による動植物の育種、さらに化学工業分野における新規有害生物制御剤の開発等、幅広い分野の技術に関して大いに貢献するものと考えられる。本発明のタンパク質はまた、選択性が非常に高いため、特定の細胞を特異的に認識及び/又は破壊するために有用である。また、本発明のタンパク質は、特定の癌細胞に対する特異性が高いことから、医薬組成物(具体的には、抗癌剤及び細胞標識剤)として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、バチルス・チューリンジエンシスM019株から得られた、「活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質」である。
【0015】
また、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列のいずれかと相同性の高いアミノ酸配列、通常70%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有する範囲で、アミノ酸の欠失、置換、挿入もしくは付加のいずれか1種以上により修飾されたアミノ酸配列からなるタンパク質も、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同様、活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質となりうるものである。
【0016】
後述するように、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいはこれらと相同性の高いアミノ酸配列を有するタンパク質は、トリプシン(アルギニンまたはリジンのC末端側のペプチド結合を特異的に切断する機能を有する。)で処理することにより活性化することができる。したがって、上述のようなアミノ酸配列の相同性については、トリプシンによる処理で切断される部位が影響をうけない範囲のもの、たとえば、配列番号2および4のN末端側から262番目付近のアミノ酸配列の相同性が特に高く保たれているようなものであることが望ましい。
【0017】
ここで、「細胞障害活性」とは、特定の細胞を特異的に破壊する能力をいう。例えば、MTTアッセイ等の方法によって測定する場合に、特定の細胞に対する細胞障害活性が、ネガティブコントロールに対する細胞障害活性よりも有意に高い場合に、その細胞に対して細胞障害活性を有するものとみなされる。すなわち、本発明のタンパク質が細胞障害活性を示す細胞は、(a)培養培地中で、任意の細胞と当該タンパク質とをインキュベートする工程;及び(b)当該タンパク質が当該細胞に対する細胞障害活性を有するか否かを決定する工程;を包含する方法によって同定される。
【0018】
上記ネガティブコントロールとしては、本発明のタンパク質が細胞障害活性を示さない任意の細胞が挙げられるが、例えば、HC細胞、NIH3T3細胞を使用することができる。一方、ポジティブコントロールとしては、本発明のタンパク質が細胞障害活性を示す任意の細胞が挙げられるが、好ましくは、HepG2細胞及びHeLa細胞から任意に選択される細胞が使用される。ポジティブコントロールと同程度又はそれよりも破壊される細胞が、本発明のタンパク質が細胞障害活性を示す細胞としてより好ましい。
【0019】
本発明のタンパク質が特異的に障害を与える細胞としては、例えば、ヒト由来の子宮癌細胞、肝癌細胞、及び白血病T細胞が挙げられるが(実施例参照)、本発明のタンパク質がこれら以外の細胞に対する障害活性を有していてもよい。また、本発明のタンパク質は、一種の細胞に対する障害活性を単独で有していても、複数の細胞に対する障害活性を組み合わせて有していてもよい。
【0020】
また、「活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質」とは、例えば、結晶性タンパク質を可溶化するためのアルカリ緩衝液による処理、あるいはさらに、タンパク質を所定の部位で切断するためのプロテアーゼによる処理といった、特定の条件下で処理された場合に細胞障害活性を有する形態(活性形態)に変換される不活性形態(前駆体)のタンパク質をいうとともに、特定の条件下で処理されなくとも上記の活性を有するタンパク質(即ち、最初から活性形態で存在するタンパク質)をもいう。
【0021】
配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質は、特定の処理に付されない限り通常は不活性形態で存在するが(78kDa。実施例中「CP78A」)、アルカリ条件下、又はア
ルカリ条件下及びプロテアーゼ(トリプシン)によって処理されると活性形態のタンパク質に変換され(53kDa。実施例中「T53A/B」)、細胞障害活性を有するようになる。
【0022】
配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質は、特定の処理に付されない限り通常は不活性形態で存在するが(78kDa。実施例中「CP78B」)、アルカリ条件下、又はア
ルカリ条件下及びプロテアーゼ(トリプシン)によって処理されると活性形態のタンパク質に変換され(57kDa。実施例中「T57B」)、細胞障害活性を有するようになると推測される。
【0023】
配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質は、特定の処理に付されない限り通常は不活性形態で存在するが(84kDa。実施例中「CP84」)、アルカリ条件下、又はアルカリ条件下及びプロテアーゼ(トリプシン)によって処理されると活性形態のタンパク質に変換され(57kDa。実施例中「T57A」)、細胞障害活性を有するようになる。
【0024】
なお、細胞障害活性を有する上記53kDaないし57kDaのタンパク質は、そのようなサイズの単一の分子ではなく、活性化のための処理により生成したペプチドの小断片がそのようなサイズに近い分子に非共有結合した態様のタンパク質である可能性がある。いずれの場合であっても、本発明における上記所定のサイズを有する活性形態のタンパク質は、たとえば後述の実施例に示すようなSDS−PAGEおよびDAEAセルロースクロマトグラフィーによって、53kDaないし57kDaのサイズであることが確認できるものであればよい。
【0025】
本発明における、タンパク質の活性化のためのアルカリ処理及びプロテアーゼ処理の条件及び手順は、活性形態のタンパク質と同等の所定のサイズ(kDa)を有し、かつ細胞障害活性を有するタンパク質が得られるものであればよい。本発明では、上記プロテアーゼとしてトリプシンを用いることが特に望ましい。このような処理の具体的な態様の一例は実施例に示すとおりであり、また、Nagamatsu, Y., Itai, Y. Hatanaka, C., Funatsu,
G., Hayashi, K. (1984) Agric. Biol. Chem. 48, 611-619等の文献も参照することができる。
【0026】
本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質を発現する細胞から得られる。本発明のタンパク質を発現する細胞としては、例えば、本発明のタンパク質を天然で発現する細胞(好ましくは、バチルス・チューリンジエンシスA1462株)、及び本発明のタンパク質を発現するDNAをコードする発現ベクターを含有する形質転換体が挙げられる。
【0027】
本発明のタンパク質は、このような細胞を培地中で培養し、得られる培養物中に含まれているものを回収することによって製造することができる。この際、本発明のタンパク質は、結晶タンパク質封入体として得られる傾向にあるため、公知の手法にしたがってアルカリ処理をすることにより可溶化し、必要に応じてさらにプロテアーゼ処理に供し、活性化させて用いることが好ましい。
【0028】
使用される培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース,デキストラン,可溶性デンプン,ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素〔例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム),ビタミン類,抗生物質(例えばテトラサイクリン,ネオマイシン,アンピシリン,カナマイシン等)など〕を含んでいてもよい。
【0029】
培養は当分野において知られている方法により行われる。下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されるものではない。
【0030】
宿主が細菌,放線菌,酵母,糸状菌等である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地(Miller. J., Exp. Mol. Genet, p.431, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1972))等が例示される。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常14〜43℃で約3〜24時間行うことができる。宿主が枯草菌の場合、必要により通気・攪拌をしながら、通常30〜40℃で約16〜96時間行うことができる。宿主がバチルス・チューリンジエンシス又はその変異株(好ましくはバチルス・チューリンジエンシスBFR1)の場合、好ましい培地としては、CYS培地(Yamamoto, T.,ACS Symp. Ser. 432, 46-60(1990))が挙げられる(この場合、培養は、例えば、寒天平板上で20℃で96時間行なわれる)。宿主が酵母の場合、培地として、例えばBurkholder最少培地(Bostian. K.L. et al, Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 77, 4505 (1980))が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約1
4〜144時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
【0031】
宿主が動物細胞の場合、培地として、例えば約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)(Science, 122, 501 (1952))、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)(Virology, 8, 396 (1959) )、RPMI1640培地(J. Am. Med. Assoc., 199,
519 (1967) )、199培地(proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950))等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
【0032】
本タンパク質の精製は、通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。例えば、塩析、溶媒沈澱、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性PAGE、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことにより、本発明のタンパク質を高純度で得ることができる。
【0033】
本発明はまた、本発明のタンパク質に対して特異的親和性を有する抗体を提供する。この抗体は、完全な抗体分子だけでなく、本発明のタンパク質に対する抗原結合部位(CDR)を有する限りいかなるフラグメントであってもよく、例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、minibody等が挙げられる。本発明の抗体は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ等で標識されて、本発明のタンパク質が特定の細胞に結合しているか否かを検出するために使用される。
【0034】
例えば、ポリクローナル抗体は、本発明の蛋白質あるいはそのフラグメントを抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0035】
本発明はまた、本発明のタンパク質に対して親和性を有する物質を同定する方法を提供する。この方法は、(a)上記タンパク質と被験物質とを接触させる工程、及び(b)上記被験物質が、上記タンパク質に対して親和性を有するか否かを決定する工程を包含する
。本発明のタンパク質と接触される被験物質の例としては、糖類、脂質、タンパク質、核酸、合成化合物などが挙げられるがこれらに限定されない。また、好ましい親和性としては、10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、10-11M未満又は10-12M未満の解離定数(Kd)を有する親和性が挙げられる。かかる親和性は、例えば、本発明のタンパク質を放射性同位体で標識し、次いで被験物質との結合アッセイ(binding assay)に供することにより測定される。本発明のタンパク質と親和性
を有する物質は、例えば、本発明のタンパク質を精製する場合に利用される。
【0036】
本発明は、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸からなるタンパク質をコードするDNA、好ましくは、配列番号1、配列番号3、又は配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるDNAを提供する。
【0037】
また、配列番号1,配列番号3,又は配列番号5のヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも、本発明の前駆体タンパク質をコードしうるDNAである。ここで「ストリンジェントな条件」とは、配列番号1,配列番号3,又は配列番号5のヌクレオチド配列からなるDNAと、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され非特異的なものは形成されない条件であり、本発明では、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mM、かつ、温度が60〜68℃、好ましくは65℃の条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション反応や洗浄の際の塩濃度および温度等を適宜変化させることにより調節することができる。配列番号1,配列番号3,又は配列番号5のヌクレオチド配列からなるDNAとの相同性の高いDNA、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有するDNAを対象とする場合は、たとえば、上記範囲内で、ナトリウム濃度を低く、温度を高く設定するなどすればよい。
【0038】
さらに、本発明のDNAのうち、少なくとも約20個、好ましくは約18個、より好ましくは少なくとも約16個、最も好ましくは少なくとも約15個の連続するヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドや、そのアンチセンスオリゴヌクレオチドもまた、本発明により提供される。これらのオリゴヌクレオチドは、本発明のDNAを増幅するためのプライマー対として、あるいはDNAプローブとして利用することができる。このDNAプローブを用いることにより、バチルス・チューリンジエンシスやその他の生物のcDNAライブラリまたはゲノムライブラリのスクリーニングを行い、本発明のDNAの相同物を得ることが可能である。
【0039】
本発明はまた、本発明のタンパク質をコードするDNAを含む組換えベクター及び発現ベクターを提供する。本発明の組換えベクターは原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるものであれば特に限定されず、プラスミドベクターやウイルスベクター等が包含される。当該組換えベクターは、簡便には当該技術分野において入手可能な公知のクローニングベクターまたは発現ベクターに、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより調製することができる。このようなベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpBR322, pBR325, pUC18, pUC19など、酵母由来プラスミドとして、例えばpSH19, pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして、例えばpUB110, pTP5, pC194 などが挙げられる。バチルス・チューリンジエンシス由来プラスミドとして、pHT3101、pHT315などが挙げられる。また、ウイルスとして、λファージなどのバクテリオファージや、SV40、ウシパピローマウイルス(BPV)等のパポバウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)等のレトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物および昆虫のウイルスが例示される。
【0040】
特に、本発明は、目的の宿主細胞内で機能的なプロモーターの制御下に本発明のタンパク質をコードするDNAが配置された発現ベクターを提供する。使用されるベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で機能して、その下流に配置された遺伝子の転写を制御し得るプロモーター領域(例えば宿主が大腸菌の場合、trpプロモーター、lacプロモーター、lecAプロモーター等、宿主が枯草菌の場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等、宿主が酵母の場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、宿主が哺乳動物細胞の場合、SV40由来初期プロモーター、MoMuLV由来ロングターミナルリピート、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター)と、該遺伝子の転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有し、該プロモーター領域と該ターミネーター領域とが、少なくとも1つの制限酵素認識部位、好ましくは該ベクターをその箇所のみで切断するユニークな制限部位を含む配列を介して連結されたものであれば特に制限はないが、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有していることが好ましい。さらに、本発明のタンパク質をコードするDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。
【0041】
宿主細胞として細菌を用いる場合、一般に発現ベクターは上記のプロモーター領域およびターミネーター領域に加えて、宿主細胞内で自律複製し得る複製可能単位を含む必要がある。また、プロモーター領域は、プロモーターの近傍にオペレーターおよびShine-Dalgarno(SD)配列を包含する。
【0042】
また、形質転換体の培地中に本発明のタンパク質を分泌させる場合において、本発明のタンパク質をコードするDNAがシグナルペプチドのコード配列を含まない場合は、ベクターとして、開始コドンに続いて適当なシグナルコドンをさらに含む分泌発現用ベクターが好ましく使用される。
【0043】
本発明のタンパク質をコードするDNAがゲノミックDNAから単離され、本来のプロモーターおよびターミネーター領域を含む形態で得られる場合には、本発明の発現ベクターは、目的の宿主細胞内で複製保持または自律増殖できる公知のクローニングベクターの適当な部位に該DNAを挿入することにより調製することができる。
【0044】
本発明はまた、上記の発現ベクターで宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を提供する。本発明で用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換され得るものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然の細胞あるいは人工的に樹立された変異細胞または組換え細胞など種々の細胞(例えば、細菌(大腸菌、枯草菌、乳酸菌、バチルス・チューリンジエンシスまたはその変異株等(好ましくは、毒素タンパク質を生産しないバチルス・チューリンジエンシス株))、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属、クリベロマイセス属等)、動物細胞または昆虫細胞など)が例示されるが、原核生物細胞がより好ましい。
【0045】
また、本発明のタンパク質を発現するのに適したバチルス・チューリンジエンシス変異株を、当業者は自ら作製することができる。例えば、毒素タンパク質を生産するバチルス・チューリンジエンシス株からキュアリングを行い、プラスミドDNAを除くことによって、毒素タンパク質を生産しないバチルス・チューリンジエンシス株が得られる。当業者は、上記手法を用いて、毒素タンパク質を生産せずに本発明のタンパク質を生産する任意のバチルス・チューリンジエンシス株を取得することができる。詳細については、Gonzalez, J. M. et al. PLASMID 5, 351-365(1981)を参照のこと。
【0046】
発現ベクターの宿主細胞への導入は従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、細菌の場合は、Cohen らの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 69,2110 (1972))、
プロトプラスト法、コンピテント法等によって、酵母の場合は、Hinnenらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 75, 1927 (1978))、リチウム法等によって、動物細胞の場合は、Grahamの方法(Virology, 52, 456 (1973))等によって、また昆虫細胞の場合は、Summers らの方法(Mol. Cell. Biol.3,2156-2165 (1983) )等によって、それぞれ形質転換することができる。
【0047】
本発明は、本発明のタンパク質、発現ベクターまたは形質転換体を有効成分とする医薬組成物、すなわち、前述の同定方法により決定された、本発明のタンパク質が細胞障害活性を示す細胞に関連する疾患に対して適用しうる医薬組成物、例えば抗癌剤を提供する。より具体的には、本発明のタンパク質は、白血病治療剤、好ましくは子宮がんの治療剤、さらに好ましくは肝臓がんの治療剤の有効成分として使用できる。
【0048】
本発明のタンパク質を抗癌剤としての使用する場合、本発明のタンパク質は単独でも有効であるが、効果を増強するために、他の抗癌剤との複合体(共有結合性でも非共有結合性でもよい)又は併用剤として使用してもよい。例えば、免疫グロブリンと抗癌剤との複合体が報告されているが、本発明のタンパク質も同様に、他の抗癌剤との複合体として使用され得る。また、本発明のタンパク質は、放射性同位体(例えば、131I)で標識され
得る。例えば、131Iで標識された抗CD20モノクローナル抗体での治療によって、B
細胞リンパ腫患者において非常に良好な結果が得られたことが報告されている。本発明のタンパク質も同様に、131Iで標識されると癌細胞に対する破壊効果が増強され得る。ま
た、本発明のタンパク質は、毒素(例えば、リシン)との複合体として使用され得る。例えば、抗CD5抗体とリシンA鎖との複合体によって、T細胞リンパ腫の患者において顕著な効果が確認されたとの報告がある。本発明のタンパク質も同様に、リシンA鎖との複合体として使用され得る。
【0049】
本明細書中で用いられる用語「組成物」又は「剤」とは、特定の物質を有効成分として含有することを特徴とするものをいう。例えば、本発明の医薬組成物は、有効成分として本発明のタンパク質を含有し、特定の疾患の治療効果を奏する。このような医薬組成物又は剤は、有効成分としての本発明のタンパク質を、経口又は非経口適用に適した有機または無機の担体又は賦形剤との混合物として含有する固体、半固体又は液体形態の医薬製剤の形で使用できる。該有効成分は、例えば、散剤、錠剤、ペレット剤、カプセル剤、坐剤、液剤、乳濁液、懸濁液、エアロゾル剤、スプレー剤、その他の使用に適した形態用の、通常の、無毒性で、医薬として許容しうる担体と混ぜ合わせることができる。更に、必要ならば、助剤、安定剤、増粘剤等を使用してもよい。これらの担体、賦形剤は、必要に応じて無菌化処理を施したものを使用してもよく、また製剤化した後に無菌化処理を行なうこともできる。有効成分である本発明のタンパク質の治療上有効な用量は、その精製度、活性及び投与法、並びに処置すべき個々の患者の年齢、健康状態、体重、性別及び疾患の種類によっても相違するが、当業者は、それらの因子を考慮して、用量を適宜決定することができる。
【0050】
本発明はまた、本発明のDNA配列情報及びアミノ酸配列情報を使用して、コンピュータ上で処理する方法をも包含する。例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST及びFASTAプログラムを使用して、本発明のDNA配列情報及びアミノ酸配列情報と所定の相同性を有するDNA配列及びアミノ酸配列を検索することが可能となる。また、分子モデリング及び遺伝子シャッフリング等において、本発明のDNA配列情報及びアミノ酸配列情報を利用して、より最適な配列情報を入手することも可能となる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
[材料]
実験に用いた細胞を以下から購入した。HeLa細胞(ヒト子宮頸部癌細胞)、HepG2細胞
(肝臓癌細胞)、MOLT-4細胞(ヒト白血病T細胞)、Jurkat細胞(ヒト白血病T細胞)、A549細胞(ヒト肺癌細胞)、CACO-2細胞(ヒト結腸癌細胞)、COS-7細胞(アフリカミド
リザル腎由来細胞)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎由来細胞)及びNIH3T3細胞(マウス胎児由来繊維芽細胞)を理化学研究所から購入した。UtSMC細胞(ヒト正常子宮平滑筋
細胞)を宝酒造株式会社から購入した。HC細胞(ヒト正常肝細胞)をセルシステムズ社から購入した。ヒツジ血液を、日本バイオテスト研究所から購入した。
【0052】
[実施例1:菌株の形態観察]
バチルス・チューリンジエンシスM019株(受託番号FERM P−21398)をBT培
地1(1%ポリペプトン+1%肉エキス+0.4%食塩+4.5μM硫酸マンガン,pH 8)を含む1.7%寒天平板上で30℃で96時間培養して胞子形成させたのち、常法に従って脱
水、樹脂包埋、切片作成して電子顕微鏡観察した。図1に示す。胞子嚢中に、約2.7ミク
ロン長の胞子と平行して、M019株結晶タンパク質から成る1個の不定形パラスポラル封入体の形成が観察された。
【0053】
[実施例2:結晶タンパク質の組成、構造と活性化法]
バチルス・チューリンジエンシスM019株(受託番号FERM P−21398)の培養
物を回収し、超音波によって胞子嚢を破壊してパラスポラル封入体を放出させたのち、十分に洗浄して凍結乾燥した。結晶タンパク質はアルカリ緩衝液(50mM NaHCO3-Na2CO3 + 1
mM EDTA + 10 mM dithiothreitol, pH 10.2)中で0℃20分間選択的に可溶化した。SDS-PAGE電気泳動で、見かけの分子量84kDa(CP84, 約30%)と78kDa(CP78,約70%)の少なくとも2種の結晶タンパク質の存在が明らかになった。DEAEセルロースクロマトグラフィーにおいて、CP84は約290mM Tris(pH8.3)、CP78は約370mM Tris(pH8.3)で溶出した。両画分は、200mM Tris(pH8.3)に透析したのち、2%重量の牛膵臓トリプシンを加えて25℃で20時間限定分解した。CP84画分からは見かけの分子量57kDa(T57A)、CP78画分からは57kDa(T57B,約10%)と53kDa(T53,約90%)の活性断片が出現した。このことは元来3種類の結晶タンパク質(約30%のCP84、約63%のCP78Aと約7%のCP78B)の存在を示唆した。
【0054】
別法として、M019株の全結晶タンパク質のトリプシンによる活性化をDEAEセルロースカラムへ固定化した状態で行った(M019株内在性のプロテアーゼの作用を最小限に抑制するため。トリプシンはDEAEセルロースへ結合しない)。一旦溶出した活性断片を再びDEAEセルロースクロマトグラフィーで分離したところ、約80mM Tris(pH8.3)でT57Aが、約90mM Tris(pH8.3)でT57Bが、約100mMと約120mM Tris(pH8.3)でそれぞれT53AとT53Bが溶出した。T53Bの出現量の再現性は低かった。
【0055】
SDS-PAGE分析とクロマトグラフィーによる活性プロテインの分離の結果は、図2に示した。各画分のSDS-PAGE電気泳動したタンパク質をPVDF膜(Immobilin-P, Millipore)へ転写し、プロテインシーケンサーModel G1000A(Hewlett-Packard)を用いてN末端アミノ酸配列を分析したところ、T57Aの配列は未同定であったが、T57BからはIAEPPSTGVITQFRILNDN(T57B N-terminal、配列番号4に含まれる。図8参照)の配列が、T53AとT53Bからは同じMAEPPSTGVITQFRILNDN(T53A/B N-terminal、配列番号2に含まれる。図8参照)の配列が得られた。このことからCP78には互いに相同性が高いAとBの2種が存在し、トリプシンによる活性化の際にそれぞれ、T53とT57Bを与えることが明確になった。T53AとT53Bの構造の差違は不明である。再クロマトグラフィーによって、T57A成分を主とするP1画分、T53Aを主とするP2画分、及びT53Bを主とするP3画分を得たが、T57B成分の単離は断念した。
【0056】
さらに、これらのタンパク質の内部アミノ酸配列を決定した。上記P1、P2、又はP3画分中のタンパク質を、10%トリクロロ酢酸中で変性させ、その沈殿を1 N NaOHで溶解し、pH 9に調製してlysyl endopeptidase (EC 3.4.21.50)で分解し、生じた内部ペプチドをC18逆相系HPLCによって分離した。ほぼ精製された内部ペプチドのアミノ酸配列を上記の方法で決定したところ、P1画分からはTVIPGGVIFSVTGNK(P1#65)、IEDFNSQLNFALNSK(P1#61)、LMNFGYSK(P1#44B)、LDPTQINGDWK(P1#44A)、DANAMDSFDTHPIISQK(P1#47A)、FAIPDHK
(57k-A)およびDIPNYEQVNNK(57k-B)の配列(いずれも配列番号6に含まれる)が、P2
画分からはVRATYVNDYIGK(53k#2)、ALGAAGYAPNVVGVRYS(53k#3)およびYPGYK(53k#1)
の配列(いずれも配列番号2および4に共通して含まれる。図8参照)が、P3画分からはLHSVSAYGLSK(P3#32A)の配列(配列番号2および4に共通して含まれる。図8参照)が
得られた。P2とP3画分からの内部ペプチドのHPLCによる分離パターンの相違は見出せなかった。
【0057】
[実施例3:種々の細胞株に対する本発明のタンパク質の細胞障害効果]
種々の細胞株を表1に示される条件で培養し、次いで2.2×105細胞/mlの濃度でそれぞ
れ96ウェルマルチウェルプレートに90μlずつ分注した。このプレートをさらに24時間培
養し、次いで試験に用いた。それら培養された各細胞について、本発明のトリプシン処理によって活性化されたT57A(P1画分)、T53A(P2画分)、又はT53B(P3画分)タンパク質および全ての活性化されたM019株タンパク質混合物(All:T57A、T57B、T53A及びT53Bを
元来の結晶タンパク質の組成で含んでいる)の細胞障害活性を、細胞形態変化の観察及びMTT法による細胞生存率で測定した。すなわち、上記各ウェル90μlの培養細胞に、種
々の濃度のタンパク質溶液を10μlずつ添加し、20時間後の細胞生存率を市販のCellTiter96TM試薬(Promega Corp., WI, USA)を用いて測定した。細胞障害活性の強さは、対照と比較して50%の細胞が障害を受けるのに必要な最終のタンパク質濃度(EC50)で算定した。
【0058】
結果を表2に示す。この表2に示される結果から、本発明のタンパク質は、HeLa細胞(子宮頸部癌細胞)、MOLT-4細胞(白血病T細胞)、HepG2細胞(肝臓肝癌細胞)等の特定の細胞を特異的に識別して細胞障害性を示すことが明らかになった。なお、トリプシン処理をしていないM019株結晶タンパク質は、実験可能な最大濃度においても細胞障害能を示さなかった。T53A(P2画分)によって障害を受けたHepG2細胞(肝臓癌細胞)の顕微鏡観察結果を図3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

[実施例4:遺伝子のクローニング]
バチルス・チューリンジエンシスM019株(受託番号FERM P−21398)の全プ
ラスミドDNA(長さの異なる少なくとも4種が観察される)を抽出して、制限酵素XbaI又
SalIで消化し、生じた断片のそれぞれにBamHI-XbaIアダプターDNA又はBamHI-SalIアダ
プターDNAを連結して、さらにλEMBL3ファージDNA(Stratagene,USA)のBamHIクローニングサイトへ挿入したライブラリーを作成した。目的遺伝子(CP84遺伝子、CP78A遺伝子とCP78B遺伝子)のクローニングのためのプローブDNAは、上記の内部ペプチドのアミノ酸配
列を逆翻訳して作成した混合DNAプライマーを組み合わせたPCRで増幅されるDNAをdigoxigenin標識して用いた。上記ライブラリーとのプラークハイブリダイゼーションによって、CP78B遺伝子の上流部を含むXbλN53#13(7.3kb)断片、CP78B遺伝子下流部とCP78A遺伝子の上流部を含むXbλ#9(7.5kb)断片及びCP78A遺伝子の下流部を含むXbλ#7(17kb)断片が、一方、CP84遺伝子を含むXbλG3#7(9.4kb)断片とSalλG3#1(9.3kb)断片がクローニングされた。
【0061】
これらのM019株プラスミドDNA断片の制限酵素地図と各遺伝子の位置を図4に示す。CP78A遺伝子のORFのヌクレオチド配列(配列番号1)及びその推定アミノ酸配列(配列番号2)を図5に示す。CP78B遺伝子のORFのヌクレオチド配列(配列番号3)及びその推定アミノ酸配列(配列番号4)を図6に示す。CP84遺伝子のORFのヌクレオチド配列(配列番号5)及びその推定アミノ酸配列(配列番号6)を図7に示す。CP78Aタンパク質(配列番号2)とCP78Bタンパク質(配列番号4)の間には83.5%の相同性があることを図8に示す。CP84タンパク質(配列番号6)は、CP78A及びCP78Bタンパク質との間で最初の50アミノ酸だけは相同であるが、全体としてCP78A及びCP78Bとは異なる型のタンパク質である。
【0062】
[実施例5:CP78Aタンパク質の単独発現]
CP78Aタンパク質に対するORF(2,265ヌクレオチド)を含む3,416ヌクレオチドの配列(図4参照)を、大腸菌と枯草菌Bacillus subtilis のシャトルベクターであるpHY300PLK(宝酒造)のHindIIIとSalIサイト間に挿入したプラスミドDNAを作成した。このDNAによって、胞子は形成するものの結晶タンパク質を生産しないバチルス・チューリンジエンシス変異体BFR1株をエレクトロポーレーションを用いて形質転換した。この形質転換体を、テトラサイクリンを含むBHI brain heart infusion培地(DIFCO)寒天平板上で培養したところ、直方体の結晶タンパク質封入体を形成した。前記実施例2に従い分析したところ、78kDaのタンパク質が生産されていた。このタンパク質は、トリプシンによる活性化で53kDa断片を生じ、HeLa細胞に対する細胞障害活性のEC50値は10mg/mlであった。構造的にも活性の上でもCP78Aタンパク質の性質を示した。また、上記3,416ヌクレオチド領域は、ORFに加えてプロモーター、リボゾーム結合領域、および転写終結領域を含んでいることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】胞子及びパラスポラル結晶タンパク質封入体を形成しているM019株の電子顕微鏡写真の図である。
【図2】M019株の結晶タンパク質とそのトリプシン消化物のSDS-PAGE、トリプシン消化物のDEAEセルロースクロマトグラフィーによる分離、およびトリプシン消化物中の主要タンパク質断片のN末端アミノ酸配列を示す図である。
【図3】M019株の結晶タンパク質CP78Aのトリプシンによる活性化産物T53A(P2画分)によって障害を受けたHepG2肝臓癌細胞を示す図である。
【図4】M019株のプラスミドDNA断片の制限酵素地図と結晶タンパク質遺伝子の配置を示す図である。
【図5】M019株のCP78Aタンパク質の遺伝子ヌクレオチド配列とアミノ酸配列を示す図である。
【図6】M019株のCP78Bタンパク質の遺伝子ヌクレオチド配列とアミノ酸配列を示す図である。
【図7】M019株のCP84タンパク質の遺伝子ヌクレオチド配列とアミノ酸配列を示す図である。
【図8】M019株のCP78AとCP78Bタンパク質は、互いに相同タンパク質であることをを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号3、又は配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるDNA。
【請求項2】
配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項3】
配列番号1、配列番号3、又は配列番号5のヌクレオチド配列からなるDNAに対して相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
細胞障害活性が、白血病細胞、子宮癌細胞及び肝癌細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞に対して特異的である、請求項3記載のDNA。
【請求項5】
DNAがバチルス属由来である、請求項3または4記載のDNA。
【請求項6】
DNAがバチルス・チューリンジエンシスM019株(受託番号FERM P−21398
)由来である、請求項5記載のDNA。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のDNAを含有するベクター。
【請求項8】
請求項7記載のベクターを含有する形質転換体。
【請求項9】
配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項10】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をトリプシンで処理することにより得られる、53kDaの、細胞障害活性を有するタンパク質。
【請求項11】
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をトリプシンで処理することにより得られる、57kDaの、細胞障害活性を有するタンパク質。
【請求項12】
配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をトリプシンで処理することにより得られる、57kDaの、細胞障害活性を有するタンパク質。
【請求項13】
配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列のいずれかと70%以上の相同性を有する範囲で、アミノ酸の欠失、置換、挿入もしくは付加のいずれか1種
類以上により修飾されたアミノ酸配列からなり、かつ活性形態において細胞障害活性を有するタンパク質。
【請求項14】
請求項13に記載のタンパク質をトリプシンで処理することにより得られる、細胞障害活性を有するタンパク質。
【請求項15】
細胞障害活性が、白血病細胞、子宮癌細胞及び肝癌細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞に対して特異的である、請求項13または14記載のタンパク質。
【請求項16】
タンパク質がバチルス属由来である、請求項9〜15のいずれか1項記載のタンパク質。
【請求項17】
タンパク質がバチルス・チューリンジエンシスM019株(受託番号FERM P−213
98)由来である、請求項16記載のタンパク質。
【請求項18】
請求項9〜17のいずれか1項記載のタンパク質を含有する医薬組成物。
【請求項19】
請求項9〜17のいずれか1項記載のタンパク質を含有する抗癌剤。
【請求項20】
請求項9〜17のいずれか1項記載のタンパク質を生産する方法であって、以下の工程:(a)当該タンパク質を発現する細胞を培養する工程;及び(b)当該タンパク質を回収する工程;を包含する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−118759(P2009−118759A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294601(P2007−294601)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】