説明

ヒト肺がんの4病態を分類するためのDNAプローブ・セット

【課題】本発明は、ヒト肺がんの4病態について共通して用いることができ、当該4病態を識別してこれを特定することができるDNAプローブ・セットおよび当該DNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイを提供することを目的とする。
【解決手段】配列番号1〜80で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドを含む、DNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイを用いることによって、ヒト肺がんを特定することはもちろんのこと、その4病態を識別してこれを特定することができる。本発明のDNAプローブ・セットは、従来以上に小型化されたDNAマイクロアレイの作製を可能にすることによって、安価で高性能なヒト肺がんの分子診断システムの構築を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイに搭載するDNAプローブ・セットに関し、より詳細には、ヒト肺がんの4病態を分類するためのDNAプローブ・セットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、肺がんは、その腫瘍細胞の大きさという病理形態学的診断基準から、小細胞がんまたは非小細胞がんの主な2つの型に分類され、非小細胞がんは、さらに、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類される。従来、肺がんの型を特定する診断においては、手術で摘出した臓器や組織を固定液などで固定して包埋し、適宜の大きさに切り出して作製した顕微鏡標本を病理医が細胞病理組織診断することによって行われていた。
【0003】
しかしながら、このような細胞病理組織診断には一般に時間がかかり、またそれを正確に行うには経験を要することに加え、その判断に診断を行う病理医の主観が入るという問題があった。そこで、診断者を選ばず、且つ、精度の高い客観的な診断を実現すべく、ヒト肺がんの型の特定診断においてゲノム研究の成果を取り入れた分子診断法の適用が求められていた。ここで、がんの分子診断法とは、がん細胞で特異的に変化する遺伝子発現をマーカーとして、その分子マーカーの変化を定量的に計測することでがん細胞の存在を特定する方法をいう。がんの分子診断法を実現するシステムとして、たとえば、Affymetrix社から1600遺伝子を搭載したがん関連のカスタム・DNAマイクロアレイと自動測定システムが提供されているが、この製品は、大集積のDNAマイクロアレイであって非常に高価であり、また、肺がんに特化されたものではなかった。なお、非特許文献1〜7は、ヒト肺がん培養細胞における遺伝子発現解析に関する知見を開示する。
【非特許文献1】Bhattacharjee A et al ,Proc Natl Acad Sci [2001] 98(24):13790-13795
【非特許文献2】Garber ME et al ,Proc Natl Acad Sci [2001] 98(24):13784-13789
【非特許文献3】Beer DG et al ,Nat Med. [2002] 8(8):816-824、Giordano TJ et al ,Am J Pathol. [2001] 159(4):1231-1238
【非特許文献4】Giordano TJ et al ,Am J Pathol. [2001] 159(4):1231-1238
【非特許文献5】Nacht M et al ,Proc Natl Acad Sci [2001] 98(26):15203-15208
【非特許文献6】McDoniels-Silvers AL etal ,Clin Cancer Res. [2002] 8(4):1127-1138
【非特許文献7】Virtanen C et al ,Proc Natl Acad Sci [2002] 99(19):12357-12362
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、ヒト肺がんの4病態について共通して用いることができ、当該4病態を識別してこれを特定することができるDNAプローブ・セットおよび当該DNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ヒト肺がんの型の特定診断に対し分子診断法の適用を試みるうえで、DNAマイクロアレイに搭載するDNAプローブ・セットであって、ヒト肺がんを特定することができるDNAプローブ・セットにつき鋭意検討した。その結果、精選された80のマーカー遺伝子由来のDNAプローブからなるセットであって、特定の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド群を用いることによって、ヒト肺がんを特定することはもちろんのこと、その4病態を識別してこれを特定することができることを発見し、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、添付する表2〜5に示した配列番号1〜80で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドを含む、DNAプローブ・セットが提供される。また、発明によれば、上記DNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイが提供される。本発明においては、前記DNAプローブ・セットを2×2mm〜4×4mmのエリアに搭載することができる。さらに、本発明によれば、上記DNAマイクロアレイを含み、蛍光強度の直線的測定レンジが3桁であることを特徴とする、ヒト肺がん用分子診断システムが提供される。
【0007】
本発明に別の構成によれば、上記DNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、配列番号3、配列番号7、配列番号9、配列番号29、配列番号13、配列番号50、配列番号56、および配列番号74で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が腺がんであるか否かを判断する方法が提供される。また、本発明によれば、上記DNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、配列番号36、配列番号53、配列番号56、配列番号69、および配列番号74で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が扁平上皮がんであるか否かを判断する方法が提供される。さらに、本発明によれば、上記DNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、配列番号19、配列番号30、配列番号41、配列番号42、配列番号46、配列番号53、および配列番号56で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が大細胞がんであるか否かを判断する方法が提供される。さらに加えて、本発明によれば、上記DNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、配列番号17、配列番号64、配列番号66、配列番号67、配列番号71、および配列番号80で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が小細胞がんであるか否かを判断する方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、ヒト肺がんの4病態について共通して用いることができ、当該4病態を識別してこれを特定することができるDNAプローブ・セットおよび当該DNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施の形態をもって説明するが、本発明は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。本発明者らは、本発明のヒト肺がんの4病態を分類するためのDNAプローブ・セットの設計に際し、ヒト肺がん培養細胞における遺伝子発現解析に関する先に挙げた論文7報(非特許文献1〜7)に掲載されたマーカー遺伝子について、ヒト肺がんの4病態に対する発現の特異性とその発現量などに鑑みて精査した結果、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、および小細胞がんのそれぞれについて20ずつ、合計80のマーカー遺伝子を抽出した。
【0010】
次に、National Center for Biotechnology Information(NCBI)とEnsembl に登録されているDNAデータベースを参照して、上述した80のマーカー遺伝子のそれぞれについて、45 ±2 merのオリゴヌクレオチド・シーケンスを抽出した。オリゴヌクレオチド・シーケンスの抽出は、(1)5′末端および3′末端が、GまたはCであること、(2)GC含有率が45〜60%であること、(3)融解温度(Tm)が63〜74°であること、(4)A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の各塩基が偏在しないこと、(5)NCBIの検索ソフトウェアであるBLASTを用いた検索で、他の遺伝子において部分配列として含まれていないこと、の5つの条件を満たすものについてこれを選択して行った。
【0011】
添付する表2〜5に、上述した手順で抽出した、本発明のDNAプローブ・セットとして用いられる、80のオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。表2には、腺がんのマーカー遺伝子由来の一群を、表3には、扁平上皮がんのマーカー遺伝子由来の一群を、表4には、大細胞がんのマーカー遺伝子由来の一群を、表5には、小細胞がんのマーカー遺伝子由来の一群をそれぞれ示す。なお、表2〜5には、DNAプローブの塩基配列とともに、由来マーカー遺伝子のAccession No.(GenBank)およびSymbol、ならびに、その塩基数、GC含有率(%)、および融解温度(Tm)を併せて示す。
【0012】
本発明のDNAプローブ・セットによれば、表2〜5に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが搭載されたわずか80のスポットによって、ヒト肺がんを特定することはもちろんのこと、その4病態を識別してこれを正確に特定することができるDNAマイクロアレイが実現される。すなわち、本発明のDNAプローブ・セットは、わずか80のプローブから構成されているにもかかわらず、ヒト肺がんの4病態を絞り込むための解析に必要十分な情報を提供することができることを特徴とするものであり、このような機能を奏する特定の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド群の構成は、本発明者らによって初めて開示されるものである。さらに、本発明のDNAプローブ・セットは、そのプローブ数が80に精選されているため、その他コントロールを含めても、たとえば、2×2mm〜4×4mmのスポットエリアに搭載可能であり、さらに、その解析時間も大幅に短縮される。
【0013】
さらに好都合なことに、本発明のDNAプローブ・セットを用いたDNAマイクロアレイ解析において、有意な測定値として採用するスポットの蛍光強度が100〜100,000(3桁)の範囲に収まることを本発明者らは発見した。これはすなわち、本発明のDNAプローブ・セットを用いたヒト肺がんの分子診断においては、DNAマイクロアレイ解析装置におけるスキャナーの直線的測定レンジが3桁あれば必要十分であることを意味する。従来の市販のDNAマイクロアレイは、すくなくとも1000オーダーのプローブを搭載しており、これに伴ってそれらを測定する装置には、低蛍光強度から高蛍光強度に至る広範囲について定量性をもって測定すべく6桁以上の直線的測定レンジが要求されており、その結果、システム全体が高額なものとなっていた。この点、本発明のDNAプローブ・セットによれば、上述したように測定装置に要求される直線的測定レンジが3桁の範囲で必要十分である。したがって、本発明によれば、蛍光強度100〜100,00の範囲が直線的測定レンジであるヒト肺がん用分子診断システムが提供され、これに対応してシステムに関するコストの低減が期待される。
【実施例】
【0014】
以下、本発明のDNAプローブ・セットについて、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0015】
(DNAマイクロアレイの作製)
上述した手順に従って決定した塩基配列を有する45 ±2 mer のオリゴヌクレオチドを、Invitrogen社(Invitrogen Japan KK.,Tokyo,Japan)から入手した。添付する表2〜5に示す末端未修飾の80のオリゴヌクレオチドを、3×3mm基板に対してスポッティングすることによって独自のDNAマイクロアレイを作製した。なお、本実施例におけるDNAマイクロアレイには、表2〜5に示す80のオリゴヌクレオチドの他に、正常細胞のマーカーとしてhouse-keeping遺伝子由来のDNAプローブである20種のオリゴヌクレオチドと、陰性対照として植物遺伝子由来のDNAプローブである3種のオリゴヌクレオチドを加え、合計103のスポットを搭載した。添付する表6に、house-keeping遺伝子由来の20種のオリゴヌクレオチドの塩基配列を、表7に、植物遺伝子由来の3種のオリゴヌクレオチドの塩基配列をそれぞれ示す。
【0016】
(ヒト肺がん培養細胞系への適用)
上述した手順で作製したDNAマイクロアレイをヒト肺がん培養細胞系へ適用し遺伝子発現量の測定を行った。本実施例においては、ヒト肺がんの4種の病態のそれぞれに対し2種類のヒト肺がん由来培養細胞を用い、対照群として正常肺由来培養細胞を用いた。下記表1に、各病態と用いた培養細胞株の対応関係をまとめて示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示した細胞株を培養してtotal RNAを抽出し、当該total RNAから逆転写酵素によってcDNAを調製した。肺がん細胞群はAlexa555で、対照群はAlexa647でそれぞれ蛍光標識した。ほぼ等量の蛍光標識DNAを本実施例のDNAマイクロアレイへ競合ハイブリダイズさせて、スキャナーで測定して蛍光強度を解析した。なお、測定した蛍光強度は、SLC16A4(配列番号8)の蛍光強度で補正して蛍光値データを得た。本実施例においては、上述した測定を各々の培養細胞について最低3回以上行い、その平均値を蛍光値データとした。得られた蛍光値データについて、(1)Ratio(肺がん細胞/正常細胞)が3以上、(2)Ratio(肺がん細胞/正常細胞)が1/3以下、(3)両細胞において差異がない、(4)蛍光値が低い(蛍光強度が100以下)、という4段階で評価し、各病態の培養細胞2株に対して共通した評価を得たスポットを抽出した。
【0019】
図1は、腺がんの培養細胞2株に対して共通した結果を得たスポットに搭載されたオリゴヌクレオチドの配列番号を、その評価および由来遺伝子(Symbol)とともにまとめて示す。以下同様に、扁平上皮がんについては図2に、大細胞がんについては図3に、小細胞がんについては図4にそれぞれ示す。なお、図1〜4においては、対比のために他の病態の培養細胞2株についての結果を紙面右側に併せて示す。
【0020】
図1に示されるように、本実施例のDNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイにおいて、配列番号3(BENE)、配列番号7(DUSP4)、配列番号9(S100P)、配列番号29(CSTA)、配列番号13(PLAU)、配列番号50(IGSF3)、配列番号56(CDH1)、配列番号74(INADL)で表されるオリゴヌクレオチドが搭載された8つのスポットのそれぞれが、腺がんの培養細胞2株(A549,ABC-1)について同じ結果を示す一方、上記8つのスポットは、他の3病態の培養細胞株群については、一貫性のない結果を示すことがわかった。ここで同じ結果を示すとは、各病態の2つの培養細胞について、両方とも(1)Ratio(肺がん細胞/正常細胞)が3以上である、両方とも(2)Ratio(肺がん細胞/正常細胞)が1/3以下である、両方とも(3)両細胞において差異がない、両方とも(4)蛍光値が低い、のいずれか1つの結果を示すことをいう(以下、図2〜4についても同様)。
【0021】
同じく、図2に示されるように、配列番号36(RAB38)、配列番号53(RAB25)、配列番号56(CDH1)、配列番号69(BEX1)、配列番号74(INADL)で表されるオリゴヌクレオチドが搭載された5つのスポットのそれぞれが、扁平上皮がんの培養細胞2株(EBC-1, LK-2)ついて同じ結果を示す一方、上記5つのスポットは、他の3病態の培養細胞株群については、一貫性のない結果を示すことがわかった。
【0022】
同じく、図3に示されるように、配列番号19(SLCO4A1)、配列番号30(S100A2)、配列番号41(HMGA1)、配列番号42(FOSL1)、配列番号46(AMY2A)、配列番号53(RAB25)、配列番号56(CDH1)で表されるオリゴヌクレオチドが搭載された7つのスポットのそれぞれが、大細胞がんの培養細胞2株(LU65, LU99)ついて同じ結果を示す一方、他の3病態の培養細胞株については、一貫性のない結果を示すことがわかった。
【0023】
また、図4に示されるように、配列番号64(APLP1)、配列番号66(ISL1)、配列番号67(FOXG1B)、配列番号71(INA)、配列番号80(STMN1)、配列番号17(TGM2)で表されるオリゴヌクレオチドが搭載された6つスポットのそれぞれは、図1〜3について上述したように、小細胞がんの培養細胞2株(STC-1, RERF-LC-MA)ついて同じ結果を示すものではないが、上記6つのスポットは、他の3病態の培養細胞株については、3以上のRatio(肺がん細胞/正常細胞)を一切示さないため、小細胞がんの結果と他の病態の結果は容易に判別しうることが示された。
【0024】
上述した本実施例のDNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイに対して、蛍光標識したサンプルを競合ハイブリダイズさせ、その蛍光データを元に解析する際、図1〜4にそれぞれ示した配列番号に表されるDNAプローブ群の結果に着目することによって4病態を容易に識別しうることは容易に理解されるところである。すなわち、図1〜4に示した配列番号のDNAプローブ群が搭載されたスポットの結果について、図1〜4に表示した結果との合致率を割り出すことによって4病態を絞り込むことが可能となる。例えば、図1に示した配列番号3(BENE)、配列番号7(DUSP4)、配列番号9(S100P)、配列番号29(CSTA)、配列番号13(PLAU)、配列番号50(IGSF3)、配列番号56(CDH1)、配列番号74(INADL)の8つのオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの結果に着目し、その内の5つ以上のスポットで図1に表示された結果と同じの結果を得た場合、すなわち5/8の合致率を得た場合に、当該サンプルを「腺がん」と判定することは十分な妥当性をもつ。なお、上述した合致率は、その診断に求められる精度に鑑みて適宜設定しうることはいうまでもない。以上、説明してきた本実施例によって、本発明のDNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイによって、ヒト肺がん培養細胞の4病態を正確に識別してこれを特定することができることが示された。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】
【表7】

【0031】
(DNAマイクロアレイの妥当性の検証)
図5は、本実施例のDNAプローブ・セットを搭載して独自に作製したDNAマイクロアレイの、ヒト肺腺がん培養細胞とヒト正常培養細胞によるscattering pattern を示す。図5において「×」はプローブが搭載された各スポットを示し、線分aはRatio(肺がん細胞/正常細胞)が「1」を示している。また、線分bと線分cの2本の線によって画定される範囲は、Ratio(肺がん細胞/正常細胞)が「0.5< <2.0」であり、両細胞において有意な差異が認められない範囲を示している。一方、線分bの上側にある「×」はヒト肺腺がんで2.0倍以上に発現が増加している遺伝子を示しており、線分cの下側にある「×」はヒト肺腺がんで0.5倍以下に発現が減少している遺伝子を示している。
【0032】
図5に示されるように、「×」で示される各スポットは、蛍光強度101〜105の範囲にほぼ納まっている。一方、蛍光強度101〜102の範囲は、すでに説明したように、本発明の解析方法においては「蛍光値が低い」と評価される範囲であって、その定量化を必要としない。すなわち、本発明の解析方法においては、蛍光強度101〜102の範囲に定量性は要求されず、蛍光強度102〜105の範囲についてのみ定量性をもって測定できれば必要十分なのであり、図5は、蛍光強度102〜105の3桁の範囲についてのみ直線的測定レンジを備える測定装置であっても妥当性をもった診断結果が得られることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上、説明したように、本発明によれば、ヒト肺がんの4病態について共通して用いることができ、当該4病態を識別してこれを特定することができるDNAプローブ・セットおよび当該DNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイが提供される。本発明のDNAプローブ・セットは、従来以上に小型化されたDNAマイクロアレイの作製を可能にすることによって、安価で高性能なヒト肺がんの分子診断システムの構築に資することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】腺がんの培養細胞2株に対して共通した結果を得たスポットに搭載されたオリゴヌクレオチドの配列番号を、その評価および由来遺伝子とともに示した図。
【図2】扁平上皮がんの培養細胞2株に対して共通した結果を得たスポットに搭載されたオリゴヌクレオチドの配列番号を、その評価および由来遺伝子とともに示した図。
【図3】大細胞がんの培養細胞2株に対して共通した結果を得たスポットに搭載されたオリゴヌクレオチドの配列番号を、その評価および由来遺伝子とともに示した図。
【図4】小細胞がんの培養細胞2株に対して共通した結果を得たスポットに搭載されたオリゴヌクレオチドの配列番号を、その評価および由来遺伝子とともに示した図。
【図5】本実施例のDNAプローブ・セットを搭載して作製したDNAマイクロアレイの、ヒト肺腺がん培養細胞とヒト正常培養細胞によるscattering pattern を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜80で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドを含む、DNAプローブ・セット。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAプローブ・セットが搭載されたDNAマイクロアレイ。
【請求項3】
前記DNAプローブ・セットが2×2mm〜4×4mmのエリアに搭載された、請求項2に記載のDNAマイクロアレイ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のDNAマイクロアレイを含み、蛍光強度の直線的測定レンジが3桁であることを特徴とする、ヒト肺がん用分子診断システム。
【請求項5】
請求項2に記載のDNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、
配列番号3、配列番号7、配列番号9、配列番号29、配列番号13、配列番号50、配列番号56、および配列番号74で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が腺がんであるか否かを判断する方法。
【請求項6】
請求項2に記載のDNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、
配列番号36、配列番号53、配列番号56、配列番号69、および配列番号74で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が扁平上皮がんであるか否かを判断する方法。
【請求項7】
請求項2に記載のDNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、
配列番号19、配列番号30、配列番号41、配列番号42、配列番号46、配列番号53、および配列番号56で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が大細胞がんであるか否かを判断する方法。
【請求項8】
請求項2に記載のDNAマイクロアレイを用いてヒトから採取した細胞を分析しヒト肺がんの病態を特定する方法であって、
配列番号17、配列番号64、配列番号66、配列番号67、配列番号71、および配列番号80で表されるDNA配列からなるオリゴヌクレオチドが搭載されたスポットの蛍光値を解析することによって、前記細胞が小細胞がんであるか否かを判断する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−268171(P2008−268171A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234363(P2007−234363)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】