ヒトDLL4に対する中和モノクローナル抗体
本発明は、DLL4に結合可能な結合蛋白質ならびに治療、診断またはイメージングにおけるその方法および使用を提供する。また、融合蛋白質ならびに蛋白質接合体、結合蛋白質をコードする核酸分子およびDLL4に結合可能な結合蛋白質を調製する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血管新生の結合蛋白質およびその使用すべてに関する。特に、本発明はデルタ様リガンド4(delta-like ligand 4)(DLL4)に特異的な抗体または抗体断片およびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生 、すなわち既に存在する血管からの新規の血管形成は、胚発生、創傷治癒および生殖機能の間において、基本的な役割を有する複雑な工程である。健常な対象においては、血管新生は、高度に制御されており、必要ある場合に短時間活性化し、その後、完全に阻害される。血管新生の制御における破綻は、アテローム性動脈硬化、関節炎、眼性血管新生などの有害な結果および多くの疾病を招来し得、癌は典型的には継続的な血管新生を特徴とする。
【0003】
充実性腫瘍の場合、栄養物および酸素を腫瘍細胞に輸送するための十分な血管系の構築が非常に重要である。充実性腫瘍細胞は、正常細胞に比べて、増殖のためにより血管新生に依存するものであり、この腫瘍は、血管新生できる場合に限り、進行的に増殖できる。
【0004】
Notch経路は、細胞の運命決定、細胞分化、増殖、生存、アポトーシスを含めた様々な生物学的工程に関与する、進化的に保存された細胞内シグナリング経路である。Notch受容体は、血管新生において重要な役割を有するものと考えられている。4つの異なる哺乳類Notch受容体ならびに、デルタ様−1、デルタ様−4(DLL4)、Jagged1およびJagged2を含めたいくつかの異なるNotchリガンドがある。
【0005】
DLL4は、約685アミノ酸の膜貫通型蛋白質であり、Notchリガンドに特徴的な、8つのEGF様リピートおよびDSLドメインを含有する細胞外領域を含む。DLL4は、膜貫通ドメインおよびどのような触媒モチーフもなさそうな 細胞質側末端も有する。ヒトDLL4は、マウスDLL4と87%の同一性を有している。また、DLL4は、本技術分野では、「Dll4」とも称され、本明細書において「DLL4」と「Dll4」とは同じ意味で使用される。
【0006】
マウスDLL4をコードする遺伝子は配列決定されており、アクセッション番号NM_019454にて寄託されている。この配列は、本明細書において、配列番号19との名称を有する。相当する蛋白質の配列は、同一のアクセッション番号において見られ、本明細書においては配列番号20との名称を有する。 ヒトDLL4をコードする遺伝子は配列決定されており、アクセッション番号NM_019074にて寄託されている。この配列は、本明細書において、配列番号21との名称を有する。相当する蛋白質の配列は、同一のアクセッション番号において見られ、本明細書において、配列番号22との名称を有する。
【0007】
DLL4は、とりわけ、Notch1、Notch2、Notch3およびNotch4との名称を有する受容体と相互作用する。マウスにおいては、デルタ様リガンドのハプロ不全は、動脈発生および血管発生においての深刻な欠陥のために、胚性致死に至る。それゆえ、DLL4は、血管新生において重要な役割を有するようである。
【0008】
DLL4の活性は、主に、遺伝子発現の水準(レベル)で制御されている。主な制御因子は、ホスホファチジルイノシトール3−キナーゼ/Akt経路を介した血管上皮増殖因子(VEGF)である。
【0009】
初期の上皮細胞におけるDLL4の生物学的機能および腎臓癌におけるDLL4の発現は、Patelらによって調査されている(Cancer Research 2005; 65:19, 8690-8697頁)。この調査者らは、ヒト腫瘍内でのDLL4発現の選択的な調節が、抗血管新生治療に十分な可能性があること示唆している。
【0010】
おそらく、抗血管新生治療について、最も研究され、かつ最も発展した方法は、VEGF阻害である。ヒト型化されたモノクローナル抗体(mAb)であるベバシズマブ(アバスチン)は、我々が知る限りでは、癌治療のための、唯一の抗血管新生の抗体の手法である(Presta L. G. “Humanization of an anti-vascular endothelial growth factor monoclonal antibody for the therapy of solid tumour and other disorder”. Cancer Res., 57: 4593-4599, 1997 および Ferrara N. “VEGF as a therapeutic target in cancer.” Oncology, 69: 11-16, 2005)。ベバシズマブは、マウスmAbからヒトVEGFにも展開されており、抗血管新生活性および抗腫瘍活性を示す臨床前所見に基づいて、臨床上での発展のために選択されている(Borgstrom P. “Complete inhibition of angiogenesis and growth of microtumours by anti-vascular endothelial growth factor neutralizing antibody: Novel concepts of angiostatic therapy from intravital videomicroscopy.” Cancer Res., 56: 4032-4039, 1996)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
血管新生を、特に、癌治療の関係における血管新生を調節できるさらなる薬剤に対する要求が依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、BALB/cマウスを、実施例の項において説明されるように、可溶性のある組換え型ヒトDLL4(ネイティブヒトDLL4の細胞外ドメインのセリン27からプロリン524まで。R&D Systems, Inc. 614 McKinley Place NE, Minneapolis, MN 55413,米国、から入手。)で免疫することによって、ヒトDLL4に対する中和モノクローナル抗体(mAbs)3種類を作成した。
【0013】
本発明者らは、前記抗体をクローン化し、配列決定の操作をして、さらに、上記抗体の軽鎖および重鎖における可変領域(VHおよびVL)、ならびに相補性決定領域(CDR)1,2および3の配列を決定した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明を、以下の図面に照らしながら、後述するような、限定するものではない実施例において、より詳細に説明する。
【図1】図1は、フローサイトメトリーによる、本発明にかかる新規抗DLL4抗体の特性を示す。このフローサイトメトリーを用いて、マウスDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(図1a)、偽トランスフェクトされた(mock-transfected)CHO細胞(ヌルコントロール、図1b)、またはヒトDLL4でトランスフェクトされたCHO細胞(図1c)に対する新規抗体の結合性を分析した。
【0015】
上記細胞を、ビオチン化された新規抗DLL4抗体およびオチン化されたマウスIgG1とともにインキュベートしたが、このマウスIgG1はコントロールとして供されたものである。次いで、この細胞をPEラベル化されたストレプトアビジンとともにインキュベートした。太線のヒストグラムは抗DLL4抗体でラベル化された細胞を示し、細線のヒストグラムはマウスIgG1でラベル化された細胞を示す。
【図2】図2は、フローサイトメトリーによる、本発明に係る新規抗DLL4抗体の特性を示す。ヒトDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、コントロールマウスIgG1(細線のヒストグラム)または本発明の抗DLL4抗体(太線のヒストグラム)とともに前培養し、Notch1−Fcで染色し、次いで抗ヒトIgG1mABおよびPEでラベル化されたストレプトアビジンで染色した。点線のヒストグラムは、ビオチン化された抗ヒトIgG1mABおよびPEでラベル化されたストレプトアビジンによるバックグラウンド染色を示す。
【図3】図3は、本発明者らによって調製された抗DLL4抗体の、腫瘍体積に対する効果を示すグラフである(実施例4参照)。y軸は腫瘍体積をmm3で示し、x軸は時間を日数で示す。
【図4】図4は、実施例6のNotchシグナリング分析の結果を要約したグラフである。y軸はルミノメーターで測定された光単位を指す。当該光単位は、Notch依存的な遺伝子転写の間接的な測定値である。x軸は、左から右にかけて、a)添加Dll4または添加抗DLL4抗体の不存在下における、光(ルシフェラーゼ転写)の基底水準b)添加DLL4の不存在下における、STL4抗体の添加効果c)添加Dll4の存在下における(抗体なし)、光(ルシフェラーゼ転写)の水準d)添加Dll4の存在下における、STL4抗体の添加効果である。
【図5】図5は、実施例7のHUVEC遊走アッセイ の結果を要約したグラフである。遊走した細胞の個数はY軸に示され、X軸は左から右にかけてa)5%仔牛血清(FCS)b)FCSなしc)およびd)FCSおよびSTL4e)およびf)STL4との前培養 、次いでFCSである。
【0016】
すべての分析を通常酸素条件下での細胞(灰色バー)および低酸素条件下での細胞(黒色バー)を用いて実施した。
【図6】図6は、プラスミドベクターpCAccの概略地図である。
【図7】図7は、VLおよびCκ軽鎖が挿入されている プラスミドベクターpCAcc(本明細書にてpCAccLとの名称を有する。)の概略地図である。
【図8】図8は、VHおよびCH1−H−CH2−CH2重鎖が挿入されているプラスミドベクターpCAcc(本明細書にてpCAccHとの名称を有する。)の概略地図である。
【図9】図9は、ヒトDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(図9a)または偽トランスフェクトされたCHO細胞(ヌルコントロール、図9b)を用いたフローサイトメトリーによるcSTL4の特性を示す。
【図10】図10は、固定化Dll4へのキメラ化抗DLL4抗体の結合親和性を評価するために使用されたBiacore分析(実施例9)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ヒトDLL4に特異的に結合可能な抗体分子のアミノ酸および/またはDNA配列と、それらのVHドメインおよびVLドメインならびにCDR、または、これらをコードするヌクレオチド配列とを、本明細書にて列挙された種々の配列番号において説明する。
【0018】
一態様においては、本発明は、ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質を提供し、該結合蛋白質は、
アミノ酸配列RASSSVSFMH(配列番号6)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる軽鎖CDR2を含む;および/または
アミノ酸配列ATSNLTS(配列番号7)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる軽鎖CDR2を含む;および/または
アミノ酸配列QQWSSNPFT(配列番号8)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる軽鎖CDR3を含む;および/または
アミノ酸配列SYVMH(配列番号3)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる重鎖CDR1を含む;および/または
アミノ酸配列YIIPYNDGTKYNEKFKG(配列番号4)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる重鎖CDR2を含む;および/または
アミノ酸配列SEDYDHFDY(配列番号5)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる重鎖CDR3を含む。
【0019】
「軽鎖CDR」および「重鎖CDR」との用語は、本明細書においては、学術用語としての目的で使用されているのであって、結合蛋白質が、限定的な軽鎖および/または重鎖を有する旨や、あるいは重鎖または軽鎖において、これらの識別可能な部分が存在している場合、特定のCDRが見られる旨を意味するものではない。
【0020】
好適な結合蛋白質は、2つまたはそれよりも多い、本発明の軽鎖CDR、または上述したようなこの配列と実質的に相同な配列を含む。特に好適な結合分子は、3つの、本発明の軽鎖CDR、または上述したようなこの配列と実質的に相同な配列(すなわち、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3のそれぞれの1つの配列)を含む。
【0021】
その他の好適な結合蛋白質は、2つまたはそれよりも多い、本発明の重鎖CDR、または上述したようなこの配列と実質的に相同な配列を含む。特に好適な結合分子は、3つの、本発明の軽鎖CDR、または上述したような(すなわち、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の何れかの1つ)、この配列と実質的に相同な配列を含む。
【0022】
好ましくは、結合蛋白質は、本発明の少なくとも1つの重鎖CDRおよび少なくとも1つの軽鎖CDR、またはこれらの配列と実質的に相同な配列を含む。より好ましくは、結合蛋白質は、本発明の少なくとも2つの重鎖CDRおよび少なくとも2つの軽鎖CDR、またはこれらの配列と実質的に相同な配列を含む。
【0023】
特に好適な結合分子は、配列番号3の重鎖CDR1ドメイン、配列番号4の重鎖CDR2ドメインおよび配列番号5の重鎖CDR3ドメイン、またはこれらの配列と実質的に相同な配列と、配列番号6の軽鎖CDR1ドメイン、配列番号7のCDR2ドメインおよび配列番号8のCDR3ドメインまたはこれらの配列と実質的に相同な配列とを含む。
【0024】
更なる好適な実施態様は、上述したような本発明の重鎖CDRまたはこの配列と実質的に相同な配列を、1またはそれよりも多く有するVH(可変重鎖ドメイン)、および/または上述したような本発明の軽鎖CDRまたはこの配列と実質的に相同な配列を、1またはそれよりも多く有するVL(可変軽鎖ドメイン)を含む、ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質を提供する。
【0025】
軽鎖における好適な可変領域(VLドメイン)は、上述したような本発明の軽鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を、2つまたはそれよりも多く含む。特に好適なVLドメインは、上述したような(すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3の何れか1つ)、本発明の軽鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を3つ含む。重鎖における好適な可変領域(VHドメイン)は、上述したような本発明の重鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を、2つまたはそれよりも多く含む。特に好適なVHドメインは、上述したような(すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3の何れか1つ)本発明の重鎖CDRまたはこの配列と実質的相同な配列を3つ含む。最も好適な結合蛋白質は、上述したような本発明の軽鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を3つと、上述したような本発明の重鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列3つとを含む。
【0026】
上記にて議論したようなVLドメインおよびVHドメインのいかなる組み合わせでも本発明の結合蛋白質に存在し得る。このように、本発明の好適な結合蛋白質は、CDR1(配列番号6)および/またはCDR2(配列番号7)および/またはCDR3(配列番号8)もしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を有するVLドメインと、CDR1(配列番号3)および/またはCDR2(配列番号4)および/またはCDR3(配列番号5)もしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を有するVHドメインとを含む。
【0027】
また、更なる本発明の実施態様では、配列番号1のアミノ酸配列またはこの配列に実質的に相同な配列を有するVHドメインと、配列番号2のアミノ酸配列またはこの配列に実質的に相同な配列を有するVLドメインとを含む結合蛋白質が提供される。
【0028】
配列番号1のアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列番号2のアミノ酸配列を有するVLドメインとを有する抗体は、本明細書では、「STL4」との名称を有する。
本明細書で使用される「結合蛋白質」との用語は、他の物質へ特異的に結合する蛋白質を指す。好適な実施態様において、結合蛋白質は、キメラ化されているか、ヒト型化されている。好適なキメラ化蛋白質は、キメラ化抗体であり、好ましくは、この抗体は、ヒト重鎖定常ドメインおよびヒト軽鎖定常ドメインを含む。好ましくは、結合蛋白質は、抗体または抗体断片であるか、あるいは、抗体または抗体断片を含むものである。ヒト型化抗体または抗体断片は、特に好適である。
【0029】
本発明者らは、ヒト重鎖定常ドメインCH1−H−CH2−CH2およびヒト軽鎖定常ドメインκ(カッパ)の他に、配列番号3の重鎖CDR1ドメイン、配列番号4の重鎖CDR2ドメインおよび配列番号5の重鎖CDR3ドメイン、ならびに配列番号6の軽鎖CDR1ドメイン、配列番号7の軽鎖CDR2ドメインおよび配列番号8の軽鎖CDR3ドメインを含むキメラ化抗体を調製した。本明細書にてcSTL4と称されるこの抗体に関する詳細は、実施例8にて見られる。
【0030】
別の好適な実施態様において、結合蛋白質は、アフィボディである。アフィボディは、本技術分野においては周知であり、典型的には、3重ヘリックスバンドルから構成される、たとえば約6kDaの小さな蛋白質であり、元々はブドウ球菌プロテインAに由来する。
【0031】
本発明の結合蛋白質は、ヒトDLL4もしくはヒトDLL4断片、またはヒトDLL4もしくはその断片を含む実体(entities)に特異的に結合できる。「特異的に結合する」とは、DLL4に対しては有意な結合であるが、その他の(コントロールの)抗原に対しては、より小さいもしくは弱い結合であるかまたは結合が皆無であること、好ましくは有意に小さいもしくは弱い結合であるかまたは結合が皆無であることを意味する。適当なコントロール抗原は、たとえば、DLL1、Jagged1およびJagged2から選択されてもよい。好ましくは、DLL4を除いては、典型的にヒトの体内に存在する、いかなる抗原に対しても有意な結合がない。その他の抗原に対する結合性がある場合、その結合性は、有意なものではなく、診断、イメージングまたは治療の用途を禁止するものではないことが好ましい。
【0032】
ここで、「有意な結合」とは、標準的な技術によって測定され、かつ少なくとも統計学的に有意である結合を意味する。
「有意でない結合」とは、測定不可能な結合または、標準的な技術を用いて測定可能であるものの、統計学的におよび/または生理学的に有意または関連性がない結合を意味する。
【0033】
結合蛋白質の結合特異性を評価する適当な技術は、当業者にとっては公知なものである。当業者ならば、結合性が分析される際に、結合蛋白質および標的抗原の適切な濃度を使用すべきことが理解されるであろう。非常に高い濃度では、一般的には、部分的にまたは一様に有意な非特異的な結合があるだろうから、当業者であれば、結合特異性を分析するために使用されるべき適切な濃度が認識される。この適切な技術の例は、フローサイトメトリーを含む。たとえば、DLL4でトランスフェクトされたCHO細胞のへの結合性を、トランスフェクトされていないCHO細胞および/または異なる抗原で、たとえば、DLL1、Jagged1またはJagged2でトランフェクトされたCHO細胞とで、比較してもよい。その他の適切な技術は、ELISA、ウェスタンブロット、放射性免疫分析を含む。
【0034】
好ましくは、結合蛋白質は、5、4、3、2または1μM未満のKdに,より好ましくは500、400または300nM未満のKdに、さらに好ましくは200、190、180、170、160、150、140、130、120、110または100nM未満のKdに、最も好ましくは90、80、70、60、50、40、30、20、10、5または1nM未満のKdに相当するDLL4への結合親和性を有する。最も好ましくは、Kdが10x10−10M未満であり、より好ましくは5x10−10M未満、たとえば約4x10−10M未満である。ここで、Kdを決定する、いかなる適当な方法が使用されてもよい。しかしながら、好ましくは、Kdは、in vitroにおいて、DLL4(または、DLL4がトランスフェクトされた細胞)の特定量に対して、様々な濃度での結合蛋白質を評価して、たとえば、ラインウェーバー・バーク法または好ましくは、BIAcoreTMソフトウェアのような市販されている結合モデルソフトウェアを使用して、飽和曲線を確立して、決定される。適切な分析方法は、実施例9において記載されている。「Kd」は、算出された解離定数を意味し、本技術分野においては、「KD」とも称される。
【0035】
比較可能な条件下、特に、それぞれの分析において、結合蛋白質および抗原(またはDLL4もしくはコントロール抗原でトランスフェクトされた細胞)の同一の添加量を用いて、結合親和性を分析した場合、結合蛋白質は、好ましくはその他の抗原よりも、たとえばヒトDLL1、ヒトJagged1またはヒトJagged2に対するKdよりも、少なくとも0.5または1桁分、より好ましくは、少なくとも2、3、4または5桁分小さい、DLL4に対するKdを有する。
【0036】
好ましくは、結合蛋白質は、DLL4の機能を阻害もしくは有意に低減できるか、1またはそれより多くの天然リガンド/受容体、特にNotchとのDLL4の相互作用を阻止できる。結合蛋白質は、好ましくはDLL4のアンタゴニストとして作用する。リガンドまたは受容体への結合性、たとえばNotchへの結合性は、当業者にとっては公知の標準的な技術を用いて分析される。特定のリガンドまたは受容体への遊離DLL4の結合性は、本発明の結合蛋白質と接触したDLL4の結合性と比較され得る。適切な分析方法は、フローサイトメトリーおよびELISAを含む。たとえば、フローサイトメトリーは、NotchでトランスフェクトされたCHO細胞へのDLL4の結合性を、NotchでトランスフェクトされたCHO細胞への、本発明の結合蛋白質と接触したDLL4の結合性と比較するために使用されてもよい。
【0037】
また別の、Notchシグナリングにおける抗DLL4抗体の作用を分析するための適切な方法は、実施例6にて記載される。簡潔にいえば、Notch/CSL受容体のようなNotch介在シグナリングによって活性化されるレポーターシステムが使用されてもよく、レポーターシステムの出力における抗DLL4抗体の作用を分析できる。Notch/CSLレポーターシステムの場合、ルシフェラーゼ活性の減少は、Notch介在シグナリングにおける減少の指標であり、Notch介在シグナリングにおいて、抗体が阻害効果を有することを示している。
【0038】
特に別段の定めをした場合を除き、本明細書における「DLL4」との呼称は、DLL4のヒト型を意味することを意図する。
本明細書における「Notch」との呼称は、Notch1、Notch2、Notch3および/またはNotch4を含む。好ましくは、「Notch」は、Notch1である。
【0039】
抗体分子および結合蛋白質に関して、本明細書で使用される「キメラ化」との用語は、ある種(spicies)において見られる配列に由来するまたはそれに相当する抗体定常領域と、別種に由来する抗体可変領域(たとえば、VH、VL、CDRまたはFR領域)とを有する結合蛋白質を指す。好ましくは、抗体定常領域は、ヒトに、たとえば、ヒト生殖細胞系列もしくは体細胞において見られる配列に由来するまたはそれに相当するものであって、さらに、抗体可変領域(たとえば、VH、VL、CDRまたはEF領域)は、非ヒト系動物、たとえば、マウス、ラット、ウサギまたはハムスターにおいて見られる配列に由来するものである。
【0040】
抗体分子および結合蛋白質に関して、本明細書で使用される「ヒト型化された」との用語は、1またはそれより多くの可変領域(たとえば、VH、VL、CDRまたはFR領域)および/またはヒト、たとえば、ヒトにおける生殖細胞系列もしくは体細胞において見られる配列に由来するまたはそれに相当する抗体定常領域を有する結合蛋白質を指す。本明細書で使用される「ヒト型化された」結合蛋白質との用語は、改変して、ヒトにおける免疫原性を低減させた、いかなる結合蛋白質も含む。
【0041】
抗体をヒト型化させるための様々な技術は、本技術分野において公知である。一例としては、Roguska et al. “Humanization of murine monoclonal antibodies through variable domain resurfacing.” Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-73に記載された再表面化法(resurfaceing method)が含まれる。かかる再表面化は、マウス抗体のFv(可変断片)領域において、表面に接近し得る残基のパターンを変更して、ヒト抗体配列のFv領域において見られるパターンと類似化させるために使用される。別の技術は、CDRグラフト化に関し、この技術において、マウス抗体のCDR領域は、ヒトフレームワーク領域(FRs)と結合される。ヒトFRは、たとえば、ヒトのコンセンサス配列からの選択または個々のヒト抗体からの選択によって、選ばれてもよい。
【0042】
本発明の「ヒト型化された」結合蛋白質は、ヒトの配列をコードしないアミノ酸残基を含んでいてもよく、たとえば、in vitroでのランダムまたは部位特異的な変異(特に、保存的置換が関わっている変異、または結合蛋白質の少数の残基、たとえば結合蛋白質の1またはそれより多くのCDRを構成する残基の1、2、3、4または5つの変異)を含んでいてもよい。さらに、本発明のヒト結合蛋白質は、ヒトの配列から特定されたヒトコンセンサス配列を有する蛋白質を含む。
【0043】
本発明のヒト型化された結合蛋白質は、それら自体はヒト抗体分子において組み合わせで見られる、VH、VL、CDRまたはFR領域の組み合わせに限定されるものではない。このように、本発明のヒト型化された結合蛋白質は、ヒトにおいては、天然に必ずしも存在しない領域の組み合わせを含むもの、またはそれに相当するものであってもよい。
【0044】
本明細書で使用される「抗体」または「抗体分子」との用語は、免疫グロブリン分子を指す。
本明細書で使用される「抗体」または「抗体分子」との用語は、したがって、すべての抗体(たとえば、IgG、IgA、IgE、IgM、またはIgD)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト型化およびキメラ化抗体およびFc領域を改変した抗体を含むことを意図している。また、抗原結合ドメインを含む抗体断片も包含される。
【0045】
本明細書で使用される「抗体断片」との用語は抗原結合機能を示す適当な抗体断片、たとえばFab、Fab´、F(ab´)2、scFv、Fv、dsFv、ds−scFv、Fd、dAbs、ラクダ化抗体、TandAbsダイマー、ミニボディ、二量体ならびにそれらの多量体および二重特異性抗体断片を含むことを意図する。抗体は、一般的な方法を用いて断片化され得る。たとえば、F(ab´)2断片は、当該抗体をペプシンで処理することによって、生成され得る。また、得られたF(ab´)2断片は、ジスルフィド架橋を低減する処理がなされて、Fab´断片を生成する。さらに、パパイン消化は、Fab断片の形成に至らしめることができる。Fab、Fab´ならびにF(ab´)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、dAbs、TandAbs、ds−scFv、ダイマー、ミニボディ、二量体、二重特異性抗体断片およびその他の断片も、組み換え技術で合成され得るし、あるいは化学的に合成され得る。抗体断片を産生する技術は、本技術分野において周知であり、記載されているものである。
【0046】
抗体または抗体断片は、天然に産生され得、または全体もしくは部分的に合成的に産生され得る。このように、上記抗体は、適当な供給源、たとえば、組換え型の供給源に由来するものおよび/またはトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物から産生されるものであってもよい。このように、抗体分子を、in vitroまたはin vivoにおいて産生できる。
【0047】
好ましくは、抗体または抗体断片は、一般的に抗原結合部位を含む抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含む。ある実施態様においては、抗体および抗体断片は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgE、IgMまたはIgDの定常領域のような、重鎖定常領域の一部またはすべてを含む。好ましくは、重鎖定常領域は、IgG1重鎖定常領域である。Fc領域をいくつかの方法によって、たとえば、Fc受容体または補体のC1成分のような免疫エフェクター機能と相互作用するように改変して、機能を変化させてもよい。さらには、抗体および抗体断片は、κ軽鎖定常領域またはλ軽鎖定常領域のすべてまたは一部を含むことができる。好ましくは、軽鎖定常領域はκ軽鎖定常領域である。定常領域のすべてまたは一部は、天然に産生されたものであっても、そのすべてまたは一部において合成されたものであってもよい。定常領域の適当な配列は、本技術分野においては周知であり、文書化されている。
【0048】
本明細書で使用される「断片」との用語は、生物学的関連性(biological relevance)、たとえば、抗原結合に寄与できる断片、抗原結合部位の一部を形成している断片、抗原の機能の阻害もしくは低減に寄与できる断片、または、抗原の天然受容体との相互作用の阻止に寄与する断片を指す。好適な断片は、本発明の抗体における重鎖可変領域(VH)ドメインおよび/または軽鎖可変領域(VL)ドメインである。その他の好適な断片は、本明細書にて開示された、1またはそれより多くの重鎖相補性決定領域(CDR)および/または、本明細書にて開示された、1またはそれより多くの軽鎖相補性決定領域(CDR)を含む。
【0049】
本発明の結合蛋白質が、規定された配列の何れかを含む(たとえば、配列番号1または2の断片を含む)、たとえば、本発明のVHおよび/またはVLドメインを含む結合蛋白質である、または本発明の1またはそれより多くのCDRを含む結合蛋白質である本発明の実施態様においては、これらの領域/ドメインは、各領域/ドメインが生物学的機能を発揮でき、かつ抗原結合への貢献が保持されるように、一般的に結合蛋白質の内部においては分離されている。VHおよびVLドメインは、適当なスキャホールド配列/リンカー配列によって分離されてもよく、CDRは、天然に存在する抗体において見られるフレームワーク領域などの、適当なフレームワーク領域で分離されていてもよい。本願発明の、VH、VLおよび個々のCDR配列は、適当なフレームワークまたはスキャホールド内部に供されて、すなわち組込まれて、抗原の結合を可能にする。このようなフレームワークまたは領域は、天然に存在するフレームワーク領域、FR1、FR2、FR3および/またはFR4に一致し、必要に応じて、適当なスキャホールドを形成するものか、あるいは、たとえばappropriate、種々の天然に存在するフレームワーク領域を対比することで特定されるコンセンサスフレームワーク領域に一致するものである。さもなくば、非抗体のスキャホールドまたはフレームワークが、たとえば、T細胞受容体フレームワークが使用され得る。スキャホールドは、通常抗原に結合しない蛋白質、たとえば細胞毒性Tリンパ球関連蛋白質4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)(CTLA4)から、使用されてもよい。
【0050】
フレームワーク領域に使用されることができる適当な配列は、本技術分野においては周知であり、文書化されており、これらの何れが使用されてもよい。フレームイワーク領域の好適な配列は、1またはそれより多くの、本発明のVHおよび/またはVLドメインを構成するフレームワーク領域、すなわち、1またはそれより多くの、配列番号9、10、11,12、13、14、15もしくは16にて開示されたフレームワーク領域またはこれらの配列と実質的に相同なフレームワーク領域、特に、抗原特異性の維持を可能にするフレームワーク領域、たとえば、結果として結合蛋白質の3次元構造と実質的に同一になるフレームワーク領域である。好適な実施態様においては、配列番号9、10、11および12の4つすべてのFR領域またはこれらの配列と実質的に相同なFR領域、および/または配列番号13、14、15および16の4つすべてのFR領域は、本発明の結合蛋白質において見られる。
【0051】
さらに、本発明の好適な結合蛋白質は、本発明のVH、VLまたはCDRから構成されているが、DLL4へ結合する特性が依然として存在する場合に限り、本発明の結合蛋白質は、1またはそれより多くの、本発明ではないその他のVH、VLまたはCDRとの組み合わせを伴った、1またはそれより多くの本発明のVH、VLまたはCDRも包含することも注意されたい。ここで、好ましくは、抗原DLL4に対する結合特異性が依然として存在する。最も好ましくは、DLL4がNotchと相互作用することを阻止する特性も存在する。
【0052】
本明細書で使用される「重鎖相補性決定領域」との用語は、抗体分子における重鎖可変領域(VHドメイン)内部における超可変性領域を指す。重鎖可変領域は、アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、重鎖相補性決定領域1、重鎖相補性決定領域2および重鎖相補性決定領域3と呼ばれる3つの相補性決定領域を有する。重鎖可変領域は、4つのフレームワーク領域(アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、FR1、FR2、FR3およびFR4)も有する。これらの領域は、各CDRを分離している。
【0053】
本明細書で使用される「重鎖可変領域」(VHドメイン)との用語は、抗体分子の重鎖における可変領域を指す。
本明細書で使用される「軽鎖相補性決定領域」との用語は、抗体分子の軽鎖可変領域(VLドメイン)内における超可変領域を指す。軽鎖可変領域は、アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、軽鎖相補性決定領域1、軽鎖相補性決定領域2および軽鎖相補性決定領域3と称される3つの相補性決定領域を有する。軽鎖可変領域は、4つのフレームワーク領域(アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、FR1、FR2、FR3およびFR4)も有する。これらの領域は、各CDRを分離している。
【0054】
本明細書で使用される「軽鎖可変領域」(VLドメイン)との用語は、抗体分子の軽鎖における可変領域を指す。
上記にて規定したような本発明の結合蛋白質をコードする配列またはこの配列と実質的に相同な配列を含む核酸分子は、本発明のさらに別の態様を形成するものである。好適な核酸分子は、配列番号17もしくは18にて規定された配列、またはこれらの配列と実質的に相同な核酸分子である。
【0055】
本発明の核酸分子は、抗体産生に使用されてもよく、発現宿主における好ましいコドン使用頻度(codon usage)に適合させるために、一層、配列を最適化してもよい。このような最適化は、頻繁に使用されないコドンからより頻繁に使用されるコドンへの置換、そのため、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列に影響がない核酸配列への変更に関する。発現宿主における好適なコドン使用頻度に関する情報は、広く入手可能であり、核酸配列を変更する標準的な方法を使用して、最適化された配列へ到達してもよい。コドンが最適化された配列番号17または18に基づく配列は、本発明のさらなる好適な実施態様を含む。
【0056】
上記にて規定したような本発明の結合蛋白質の断片またはこれらの配列と実質的に相同な配列は、本発明のさらに別の態様を形成するものである。
したがって、本発明は、上記にて規定された本発明のVLドメインもしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を含むまたはそれらからなるポリペプチド、あるいは上記にて規定された本発明のVHドメインもしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を含むまたはそれらからなるポリペプチドであって、DLL4に結合可能なポリペプチドを提供する。
【0057】
本発明は、さらに、上記にて規定されたような本発明の、1もしくはそれより多くのCDR領域またはこれらの配列と実質的に相同な配列を含み、DLL4に結合可能であるポリペプチドを提供する。
【0058】
本発明に係る結合蛋白質の断片をコードする配列を含む核酸分子またはこれらの配列と実質的に相同な核酸分子は、本発明のまた別の態様を形成する。このような断片(たとえば、VHドメイン、VLドメインおよび各CDR)をコードする好適な核酸配列は、配列番号17または18において見られる。
【0059】
アミノ酸または核酸配列に関して、本明細書で使用される「実質的に相同な」との用語は、開示されたアミノ酸配列または核酸配列に対して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは、90%、95%、96%、97%、98%または99%を有する配列を含む。本発明の実質的に相同な配列は、本発明の配列に対する、単数のまたは複数の塩基またはアミノ酸の変異(付加、置換、挿入、または欠失)を含む。アミノ酸レベルおいては、好適な実質的に相同な配列は、本発明の配列を構成する、1もしくはそれより多くのフレームワーク領域および/または、1もしくはそれより多くのCDRにおいて、5、4、3、2または1未満、好ましくは1または2だけの、変異したアミノ酸を含む。好ましくは、当該変異は、保存的アミノ酸置換である。
【0060】
そのため、軽鎖CDR1と実質的に相同な配列は、好ましくは、KASSSVSFMH(配列番号23)、RASSTVSFMH(配列番号24)、RASSSVTFMH(配列番号25)、RATSSVSFMH(配列番号26)、RASTSVSFMH(配列番号27)、RASSSASFMH(配列番号28)、RVSSSVSFMH(配列番号29)、RVSSSASFMH(配列番号30)、KASSSASFMH(配列番号31)、RVSSTVSFMH(配列番号32)、RASSSLSFMH(配列番号33)またはRASSSVSWMH(配列番号34)から選択され;
軽鎖CDR2と実質的に相同な配列は、好ましくは、VTSNLTS(配列番号35)、ATTNLTS(配列番号36)、ATSNLTT(配列番号37)、ATSQLTS(配列番号38)、ATSNITS(配列番号39)、ASSNLTS(配列番号40)、ATSNLSS(配列番号41)またはVTSNITS(配列番号42)から選択され;
軽鎖CDR3と実質的に相同な配列は、好ましくは、NQWSSNPFT(配列番号43)、QNWSSNPFT(配列番号44)、QQFSSNPFT(配列番号45)、QQWTSNPFT(配列番号46)、QQWSTNPFT(配列番号47)、QQWSSQPFT(配列番号48)、QQWSSNPWT(配列番号49)、QQWSSNPFS(配列番号50)、NQWSTNPFT(配列番号51)、NNWSSNPFT(配列番号52)またはQQWTTNPFT(配列番号53)から選択され;
重鎖CDR1と実質的に相同な配列は、好ましくは、TYVMH(配列番号54)、STVMH(配列番号55)、SYAMH(配列番号56)、SYVML(配列番号57)またはTYAMH(配列番号58)から選択され;
重鎖CDR2と実質的に相同な配列は、好ましくは、YLIPYNDGTKYNEKFKG(配列番号59)、YILPYNDGTKYNEKFKG(配列番号60)、YIIPYQDGTKYNEKFKG(配列番号61)、YIIPYNEGTKYNEKFKG(配列番号62)、YIIPYNDGSKYNEKFKG(配列番号63)、YIIPYNDGTRYNEKFKG(配列番号64)、YIIPYNDGTKYQEKFKG(配列番号65)、YIIPYNDGTKYNDKFKG(配列番号66)、YIIPYNDGTKYNEKWKG(配列番号67)、YIIPYNDGTKYNEKFRG(配列番号68)、YLLPYNDGTKYNEKFKG(配列番号69)、YILPYQDGTKYNEKFKG(配列番号70)またはYILPYNEGTKYQEKFKG(配列番号71)から選択され;
重鎖CDR3と実質的に相同な配列は、好ましくは、TEDYDHFDY(配列番号72)、SDDYDHFDY(配列番号73)、SEEYDHFDY(配列番号74)、SEDTDHFDY(配列番号75)、SEDYEHFDY(配列番号76)、SEDYDKFDY(配列番号77)、SEDYDHWDY(配列番号78)、SEDYDHFEY(配列番号79)、SEDYDHFDT(配列番号80)、SDEYDHFDY(配列番号81)、SDEYDHFEY(配列番号82)、TEDYEHFDY(配列番号83)またはTDEYEHFDY(配列番号84)から選択される。
【0061】
実質的に相同な核酸配列は、開示された核酸配列(または、その相補配列)にハイブリダイズするヌクレオチド配列、たとえば、1またはそれより多くの、本発明の軽鎖CDRもしくは重鎖CDR、本発明の軽鎖可変領域もしくは重鎖可変領域、または本発明の結合蛋白質をコードするヌクレオチド配列と、少なくとも、適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件、好ましくは非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下において、ハイブリダイズする(または、これらの相補配列とハイブリダイズする)配列を含む。
【0062】
「実質的に相同」との用語は、本発明の蛋白質または核酸分子と、実質的に同様の方法において、実質的に同様に機能する、本発明のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列における改変または化学的等価物を包含するものである。たとえば、実質的に相同な結合蛋白質は、DLL4に対して、好ましくは、着目されている結合蛋白質によって認識されるものと同一のエピトープ、たとえば、本明細書にて記載された本発明のCDRドメインまたは本発明のVHドメインやVLドメインによって認識される同一のエピトープまたは抗原に対して、特異的に結合する能力を保持していなければならない。同一のエピトープ/抗原への結合は、本技術分野において周知であり、開示されている方法、たとえば、競合アッセイによって、容易に評価され得る。遺伝的なアミノ酸に対する、非遺伝的にコードされた適切な等価物は、本技術分野において公知である。
【0063】
本発明における蛋白質の実質的に相同な配列は、限定されるものではないが、保存的アミノ酸置換、または、たとえば、結合蛋白質のVH、VLもしくはCDRドメインに影響しない変異を含み、例として、抗原の結合に寄与しないタグ配列またはその他の構成因子、あるいは抗体分子または断片の型またはフォーマットを他の型またはフォーマットに変換する変異(たとえば、FabからscFvへの交換、またはその逆)が加えられた結合蛋白質を含む。
【0064】
本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、同様な側鎖を有する別のアミノ酸残基で置換されることである。同様な側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、本技術分野においては、塩基性側鎖(たとえば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえば、アスバラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖(たとえば、グリシン、アルパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含めて、規定されている。
【0065】
相同性は、任意の簡便な方法によって評価されてもよい。しかしながら、配列間の相同性の程度を決定するためには、配列のマルチプルアラインメントができるコンピュータープログラム、たとえば、Clustal W(Thompson, J. D., D.G. Higginset al. (1994). “CLUSTAL W: Improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice.” Nucleic Acids Res 22: 4673-4680)が便利である。要望によっては、Clustal Wのアルゴリズムは、BLOSUM 62 scoring matrix(Henikoff S.and Henikoff J.G., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)ならびに10のギャップ開始ペナルティおよび0.1のギャップ伸長ペナルティとともに使用することができ、これによって、1つの配列の全長の少なくとも50%がアラインメントに関与した2配列間において、最も高いオーダーマッチが得られる。一般的には、上記コンピュータープログラムは、このような計算のために採用されるであろう。ペアの配列を比較したり、アラインメントを採ったりするプログラムは、ALIGN(E. Myers and W. Miller, “Optical Alignments in Linear Space”, CABIOS (1988) 4: 11-17)、FASTA(W.R. Pearson and D.J. Lipman (1988), “Improved tools for biological sequence analysis”, PNAS 85:2444-2448, および W.R. Pearson (1990) “Rapid and sensitive sequence comparison with FASTP and FASTA” Methods in Enzymology 183:63-98)およびギャップド(gapped)BLAST(Altschul, S.F., T.L. Madden, et al. (1997). “Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs”. Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402)、BLASTP、BLASTNまたはGCG(Devereux et al., Nucleic Acids Res., 1984, 12: 387)も本目的のためには有用である。さらには、欧州生命情報学研究所(European Bioinformatics institute)におけるDali serverは、蛋白質配列の構造に基づいたアラインメントを提供している(Holm, J. of Mol. Biology, 1993, Vol. 233: 123-38; Holm, Trends in Biochemical Sciences, 1995, Vol 20: 478-480; Holm, Nucleic Acid Research, 1998, Vol. 26: 316-9)。
【0066】
「少なくとも適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、溶液中において2つの相補的な核酸分子の間における選択的なハイブリダイゼーションを促進する選択条件を意味する。ハイブリダイゼーションは、核酸配列分子のすべてまたは一部分にて生じ得る。ハイブリダイズした部分は、典型的には、少なくとも15(たとえば、20、25、30、40または50)のヌクレオチドの長さである。当業者にとっては、核酸2重鎖の安定性すなわちハイブリッドの安定性は、Tmによって決定され、かかるTmは、ナトリウムを含む緩衝液においては、ナトリウムイオン濃度と温度との関数であることが認識されよう。したがって、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件におけるパラメーターは、ナトリウムイオン濃度および温度である。既知の核酸分子に対して類似しているが同一でない分子を認識するために、1%のミスマッチはTmが約1℃減少する結果になると推定される。たとえば、95%を超える同一性を有する核酸分子が要求される場合、最終的な洗浄温度は約5℃低減される。これらを考慮して、当業者ならば、容易に適当なハイブリダイゼーション条件を選択することができる。好適な実施態様においては、非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が選択される。例としては、以下の条件を採用して、非常にストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成してもよい:5x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5xデンハルト溶液/1.0%SDS、上記方程式に基づいたTm−5℃でのハイブリダイゼーション、次いで、60℃での0.2xSSC/0.1%SDSの洗浄。適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、42℃での3xSSCの3回の洗浄工程を含む。
【0067】
さらなる例として、「ハイブリダイズする」配列は、非ストリンジェントな条件(たとえば、室温における6xSC、50%ホルムアミド)の下で結合(ハイブリダイズ)し、低いストリンジェンンシー(たとえば、2xSSC、室温、より好ましくは2xSSC、42℃)または高いストリンジェンンシー(たとえば、2xSSC、65℃)(ここで、SSC=0.15MNaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.2)の条件の下、洗浄される配列である。
【0068】
しかしながら、等価であるストリンジェンシーは、別の緩衝液、塩および温度を用いて達成されてもよい。ハイブリダイゼーション条件に関する追加的な指針としては、たとえば、Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Vol.3.において見られる。
【0069】
本発明におけるポリペプチド、結合蛋白質および核酸分子は、ヒトもしくは動物の身体内にてin situにて、またはヒトもしくは動物の身体に由来する組織試料にて、存在しない場合においては、好ましくは「単離された(isolated)」分子である。しかしながら、該配列は、ヒトもしくは動物の身体において見られるような配列に一致してもよく、または実質的に相同であってもよい。このように、核酸分子、蛋白質またはポリペプチドに関して、本明細書で使用される「単離された」との用語は、天然の環境から単離されたまたは実質的に離れた上記の分子、たとえば、ヒトもしくは動物の身体から単離された上記の分子(実際、上記分子が天然にある場合)を指し、あるいは、技術的方法により生産された上記の分子を指す、つまり組換え的または合成的に生産された分子を含む。
【0070】
このように、「単離された」との用語は,その他の核酸やポリペプチドのような天然に付随する材料が実質的になく、および/または組換えDNA技術によって産生される際における細胞材料もしくは培養液が実質的にないか、または化学的に合成された際における化学的前駆体もしくはその他の化学物質が実質的にない核酸やポリペプチドを指す。単離された核酸は、当該核酸が由来する核酸に元々隣接する配列(つまり、当該核酸において、5´位および3´位の末端に位置する配列)、または、たとえば遺伝子工学によって、当該核酸に隣接させられた配列(たとえば、タグ配列または治療的価値を有さないその他の配列)を実質的に有していなくてもよい。
【0071】
単離された蛋白質は、単離された核酸分子に対して、上述のような隣接する配列を有さないものであってもよい。
本明細書で使用される「核酸配列」または「核酸分子」との用語は、天然に存在する塩基、糖および糖間(骨格)結合からなるヌクレオシドはまたはヌクレオチドモノマーの配列を指す。この用語は、非天然のモノマーや部分を含む改変配列または置換配列も包含する。本発明の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)またはリボ核酸配列(RNA)であってもよいし、たとえばアデニン、グアニン、シトシン、チミンおよびウラシルを含む天然の塩基を含んでいてもよい。当該配列は、改変された塩基を含んでいてもよい。改変された塩基の例は、アザ型およびデアザ型である、アデニン、グアニン、シトシン、チミンおよびウラシル、ならびにキサンチンならびにヒポキサンチンを含む。核酸分子は、二重鎖または単鎖であってもよい。上記核酸分子は、全部または一部にて合成されたものまたは組み換えられたものであってもよい。
【0072】
当業者であれば、軽鎖および重鎖の相補性決定領域、軽鎖および重鎖の可変領域、結合蛋白質、抗体および抗体断片、ならびに免疫接合体のような本発明における蛋白質およびポリペプチドは、本技術分野において周知であり記載されている幾つかの方法の何れによって調製されてもよいが、最も好ましくは組換え方法を用いて調製される。
【0073】
したがって、本発明の核酸分子を、任意の適当な方法によってクローニングしてもよいし、合成してもよく、さらには、本発明の蛋白質の良好な発現を確実にする適当な発現ベクターに公知手段にて組込んでもよい。可能な発現ベクターは、使用された宿主細胞と適合可能である限り、限定されるものではないが、コスミド、プラスミドまたは改変ウイルス(たとえば、複製欠損型レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)を含む。発現ベクターは、「宿主細胞の形質転換に適し」ているものであって、このことは、発現ベクターが、本発明の核酸分子と、当該核酸分子に動作可能に結合している、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択される制御配列とを含むことを意味している。動作可能に結合していることとは、核酸の発現が可能なように、核酸が制御配列に結合していることを意図する。
【0074】
それゆえ、本発明は、本発明の核酸分子またはその断片、および本発明の核酸分子によりコードされた蛋白質配列の転写および翻訳に必要な制御配列を含む組換え型発現ベクターを意図する。
【0075】
適切な制御配列は、バクテリア遺伝子、菌類遺伝子、ウイルス遺伝子、哺乳類遺伝子または昆虫遺伝子を含めた、様々な供給源に由来するものであってもよい(たとえば、Coeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載された制御配列を参照)。適当な制御配列の選択は、以下に議論されるように、選択された宿主細胞に依存し、当業者によって容易に達成される。このような制御配列の例は、転写プロモーターおよびエンハンサー、または翻訳開始シグナルを含むRNAポリメラーゼ結合配列、リボソーム結合配列を包含する。さらには、選択された宿主細胞および採用されたベクターに応じて、複製起点、追加的なDNA制限部位、エンハンサー、および転写誘導性を付与する配列のような、その他の配列が発現ベクターに組込まれてもよい。
【0076】
本発明の組換え型発現ベクターは、形質転換した宿主または本発明の組換え型分子でトランスフェクトされた宿主の選択を容易にする選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子遺伝子の例は、特定の薬剤に対する耐性を付与するネオマイシンおよびハイグロマイシンや、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼまたはホタルルシフェラーゼなどの蛋白質をコードする遺伝子である。選択マーカー遺伝子の転写は、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、またはホタルルシフェラーゼのような選択マーカー蛋白質の濃度変化によって観察される。選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性のような抗生物質耐性を付与する蛋白質をコードする場合、形質転換細胞はG418で選択することができる。ここで、選択マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は生存するものの、その他の細胞は死滅する。このことは、本発明の組換え型発現ベクターの発現を可視化および分析することができ、そして、特に、発現および表現型における変異の効果を究明することができる。選択マーカーは、目的の核酸から別個のベクターに導入され得ることが理解されよう。
【0077】
組換え型発現ベクターは、組換え蛋白質の発現上昇や、組換え蛋白質の可溶性の向上を賦与する、および/またはアフィニティー精製おいてリガンドとしての役割を有することによって、目的の組換え蛋白質の精製を補助する、融合部分をコードする遺伝子を含んでいてもよい。たとえば、タンパク質開裂部位が目的の組換え蛋白質に付加されて、融合蛋白質の精製後に、かかる融合部分(fusion moiety)から組換え型蛋白質を分離できるようになっていてもよい。一般的な融合型の発現ベクターは公知であり、pGEX(Amrad Corp.、Melbourne、Australia)を包含する。このpGEXは、組換え蛋白質へグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)を融合させる。
【0078】
一つの実施態様において、組換え型発現ベクターは、膜アンカーを与える融合部分をコードする核酸配列と、細胞表面移行シグナルを与える融合部分をコードする核酸配列とを含んでいてもよい。本発明の結合蛋白質は、発現宿主細胞の細胞膜に移行して、該細胞膜に留まる融合蛋白質として、発現されてもよい。適切な膜アンカー部分は、本技術分野において公知であるものだが、例としては、枯草菌(Bacillus subtilis)に由来するPgsAアンカー蛋白質が、本明細書では挙げられる。適切な細胞表面移行シグナル(分泌シグナル)も本技術分野において公知である。このような発現ベクターが使用されて、本発明の結合蛋白質が、発現宿主細胞の表面にて発現されてもよく、この細胞の表面において、結合蛋白質がDLL4と、好ましくは該宿主細胞によって発現されたDLL4と相互作用することができる。
【0079】
また別の実施態様としては、組換え型発現ベクターは、融合蛋白質が発現宿主細胞の細胞内区画、たとえば小胞体において、融合蛋白質を係留せしめるシグナル配列を与える融合部分をコードする核酸配列を含んでいてもよい。適切なシグナル配列は、本技術分野において公知であるが、カルボキシ末端配列HDEFが、例として、本明細書では挙げられる。本発明の結合蛋白質を細胞内区画において発現させて、そこで結合蛋白質が該宿主細胞によって発現されたDLL4と相互作用することができるようにするために、このような発現ベクターが使用されてもよい
したがって、さらなる態様において、本発明は遺伝子治療の方法を提供するものであって、ここで本明細書中に記載の組換え型発現ベクターは、対象とする細胞を形質転換するために使用され、上記融合蛋白質の発現は、DLL4がその天然受容体および/または天然リガンド、好ましくはNotchに結合することを阻止する。
【0080】
形質転換された宿主細胞を産生するために、組換え型発現ベクターを宿主細胞に導入することができる。「〜を用いて形質転換された」,「〜を用いてトランスフェクトされた」,「形質転換」および「トランスフェクト」という用語は、当該分野において公知の 実施できる多くの技術のうち一つを用いて、核酸(例えば、ベクター)を細胞に導入することを包含する。核酸を用いて、例えば、電気穿孔法または塩化カルシウムを媒介した形質転換によって、原核細胞を形質転換することができる。リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈殿,DEAE−デキストランを媒介したトランスフェクト,リポフェクチン,電気穿孔法または微量注入法などの従来技術によって哺乳動物細胞に核酸を導入することができる。宿主細胞を形質転換およびトランスフェクトする好適な方法は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990))および他の実験室用教科書から見出すことができる。
【0081】
好適な宿主細胞として、多種多様の真核宿主細胞および原核細胞が挙げられる。本発明の蛋白質は、例えば、酵母細胞または哺乳類動物細胞に発現させてもよい。他の好適な宿主細胞は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1991)から見出せる。さらに、本発明の蛋白質は、Escherichia coli(Zhang et al., Science 303(5656): 371-3 (2004))などの原核細胞に発現させることもできる。
【0082】
本発明を実施するのに好適な酵母および真菌の宿主細胞として、これらの限定されるものではないが、Saccharomyces cerevisiaeおよびピキア(Picha)属が挙げられる。酵母および真菌ならびに好適な発現ベクターによる形質転換のプロトコールは、当業者に周知である。
【0083】
本発明を実施するのに好適な哺乳類動物細胞としては、とりわけHeLa細胞(例えば、ATCC No.CCL2)が挙げられる。
本明細書中に提供された教示を鑑みれば、プロモーター,ターミネーター,ならびに,適切なタイプの発現ベクターを植物細胞,トリ細胞および昆虫細胞に導入する方法も容易に成し遂げることができる。
【0084】
代わりに、本発明の蛋白質は、ラット,ウサギ,ヒツジおよびブタなどのヒト以外のトランスジェニック動物に発現させてもよい。一態様として、本発明の蛋白質は、ヒトに発現させる。
【0085】
本発明の蛋白質は、固相合成などの、蛋白質の化学において周知の技術を用いた化学合成によって調製することもできる。
蛋白質などの他の分子に接合された本発明の蛋白質を含む、N末端またはC末端の融合蛋白質は、組換え技術を介して、融合によって調製してもよい。その結果得られた融合蛋白質は、選択した蛋白質またはマーカー蛋白質と融合された本発明の蛋白質を含む。
【0086】
また、本発明の蛋白質は、公知技術によって他の蛋白質と接合してもよい。例えば、国際公開第90/10457号パンフレットに記載されているようなヘテロ二官能性のチオール基含有リンカーであるN−サクシニミジル−3−(ピリジルジチオプロプリオネート)またはN−サクシニミジル−5チオアセテートを用いて該蛋白質と連結させてもよい。融合蛋白質または接合体を調製するために用いてもよい蛋白質の例として、細胞毒性ポリペプチド,放射性ヌクレオチド,サイトカイン,抗体分子,免疫グロブリンなどの細胞結合蛋白質,ホルモン,増殖因子,レクチン,インシュリン,低密度リポ蛋白質,グルカゴン,エンドルフィン,トランスフェリン,ボンベシン,アシアロ糖蛋白質,グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST),赤血球凝集素(HA),切断型mycおよびあらゆる種類の酵素が挙げられる。好ましい態様において、本発明の蛋白質は、T細胞受容体情報伝達系の成分と接合または融合される。これによって、該融合蛋白質を発現するエフェクター細胞に新しい特異性が与えられる。
【0087】
したがって、本発明の1以上の 核酸配列、または本発明の蛋白質(軽鎖および重鎖の相補性決定領域,軽鎖および重鎖の可変領域,もしくは抗体および抗体断片等の上記結合蛋白質など)をコードする1以上の核酸配列を含む組換え型発現ベクターを、本発明は提供する。
【0088】
本発明の、1以上の組換え型発現ベクターもしくは1以上の核酸配列を含む宿主細胞、または本発明の1以上の蛋白質(軽鎖および重鎖の相補性決定領域,軽鎖および重鎖の可変領域,もしくは抗体および抗体断片等の上記結合蛋白質など)を発現している宿主細胞を、さらに本発明は提供する。
【0089】
本発明のさらなる態様は、本発明の宿主細胞を培養する段階を含む本発明の蛋白質を製造する方法を提供する。好ましい方法は、該蛋白質の発現に好適な条件下で、本発明の、1以上の組換え型発現ベクターまたは1以上の核酸配列を含む宿主細胞を培養する段階(i)を含み;該宿主細胞または成長培地/上清から該蛋白質を分離する段階(ii)を任意で含む。このような製造方法は、該蛋白質産物を精製する段階および/または少なくとも1つの追加成分(薬学的に許容し得る担体もしくは賦形剤など)を含む組成物に該産物を処方する段階も含んでもよい。
【0090】
本発明の蛋白質が1以上のポリペプチド鎖(例えば、Fab断片などの特定の断片)から構成されている態様において、完全蛋白質、例えば本発明の結合蛋白質、が上記宿主細胞中で会合して該細胞から分離できるように、同じかまたは異なる発現ベクターからすべてのポリペプチドが該宿主細胞中で発現されることが好ましい。
【0091】
本発明の結合蛋白質は、上記細胞の表面に発現しているDLL4に対して特異性を有する。したがって、本発明の結合蛋白質は、in vivoまたはin vitro において、DLL4を発現している細胞またはDLL4が異常発現している部位を検出するために使用することができる。このようにして、本発明の結合タンパク質は、DLL4を発現している細胞が存在する身体部位を標的にし、すぐに該結合蛋白質が標的部位(例えば、標的組織,器官または細胞)に作用するようにすることができる。
【0092】
さらに、本発明の結合蛋白質は、他の実体に接合することができ、そしてDLL4を発現している細胞が存在する身体部位に対して、これら他の実体を標的にするために使用することもできる。(該結合蛋白質が抗体分子の場合、このような接合体は免疫接合体とも呼ばれる。)
このような他の実体は、標識または他の検出可能成分であってもよく、この場合、これら接合分子は、身体部位、特に異常血管新生で悪化した身体部位、例えば癌 、のin vivoまたはin vitroでの診断またはイメージングに有用である。適切な標識および検出可能成分は当該分野において公知であるが、ここでは例として、放射性ヌクレオチドまたは常磁性粒子を挙げる。検出は、公知技術を用いて実施することができ、例えば、該検出可能成分が常磁性粒子である場合、磁気共鳴映像法(MRI)を用いて該粒子を検出することができる。該検出可能成分が放射性物質である場合、PET画像法またはPETスキャンとも呼ばれる陽電子放出断層撮影法をイメージングのために用いてもよい。超音波画像診断または光学的画像も、適切なら用いることができる。
【0093】
代わりに、本発明の結合蛋白質は、毒素,酵素,薬物,プレドラッグ、プロドラッグもしくは他の低分子量成分などの生物学的に活性な分子あるいは医療関連の薬剤、組織因子,サイトカインなどの凝固を制御する分子、または核酸分子、例えば、アンチセンス分子もしくはウイルスと接合できるかもしれず 、その場合、DLL4を発現している細胞(好ましくは上皮性悪性腫瘍細胞)が存在する身体部位または細胞に対して、例えば、上記の薬物,毒素または酵素などを標的にすることにより、これら接合分子は標的治療に有用であろう。このような生物学的に活性な分子または医療関連の薬剤は、例えば、身体の中において、活性型であっても活性化される予定の型であってもよい。特に、このような分子はDLL4を発現している細胞、例えば癌細胞を標的にするために使用できる。当業者は、好適な分子、例えば好適な細胞毒性分子の例について熟知している。上記結合蛋白質と接合してもよい好適な分子として、例えば、サポリン,リシン,ゲムシタビン 、およびサマリウム(Quadramet(商標 )の名称で入手可能)などの放射性ヌクレオチド,緑膿菌外毒素,ジフテリア毒素,炭疽,破傷風毒素,アブリン,カプサイシン ならびにクロモリンが挙げられる。
【0094】
結合蛋白質の接合体は、よって本発明の好ましい結合蛋白質である。接合体に用いられるべき結合蛋白質は、完全長(全部)抗体,F(ab’)2,FabまたはscFvが好ましい。
【0095】
本発明の結合蛋白質とこのような他の実体とを接合させる方法は、当該分野において周知であり記載もされており、そして適切な方法は、接合される該結合蛋白質と該他の実体との性質に応じて容易に選択することができる。よって、該他の実体は、直接または媒介物、例えば適切なリンカーを介して本発明の結合蛋白質と接合することができる。該接合体は、例えば、共有結合性であっても非共有結合性であってもよい(例えば、該結合蛋白質と、より好都合なことには化学基やペプチドタグなどの中間を繋ぐ実体と複合体を形成することによって、該他の実体は該結合蛋白質と接合することができる)。複合体のような結合は、例えば、多くの放射性同位元素にとって適切である。 このような態様において、上記結合蛋白質(例えば、上記の抗体または抗体断片)は、上記接合された実体とともに、例えば、ミセル,リポソーム,気泡またはナノ粒子などの人工粒子を形成している人工膜に含まれるか、または取り込まれることができるかもしれない。これら粒子は、該結合蛋白質により標的身体部位に導かれ、その後、該標的部位で上記細胞と融合するか、またはエンドソーム経路を介して内在化することができ、その結果、該人工粒子から該標的細胞(例えば、腫瘍細胞)へ上記接合実体(例えば、上記の生物学的に活性な分子または医薬関連の薬剤)が放出される。さらに、このような人工膜内に分子を取り込む方法は、当該分野において周知であり記載もある。本発明者らは、ヒト膵癌および正常な膵臓組織内でのDLL4の発現を詳細に調べた。本実施例の項目に記載されているように、10個の膵癌のケースからなる臨床材料中でのDLL4の発現を研究するために、市販の抗ヒトDLL4 mAb(R&D System社)を用いた免疫染色を実施した。リンパ節転移を含む主な腫瘍病変の切片を、「正常な」膵臓組織と同等であると考えられる、腫瘍がない病変の切片と比較した。 すべてのケースにおいて、DLL4の発現は、正常なランゲルハンス島および癌細胞の相当の部分でもっとも高く、続いて排出微細管,脂肪組織,小血管,および動脈であった。主膵管および成熟静脈では、陽性の染色細胞は、たとえあるとしてもほとんど、認められなかった。血管系内においては、DLL4の発現は比較的、動脈および毛細血管に限定されていた。動脈では、DLL4発現の優勢な部位は、周皮またはその周辺であり、内皮ではなかった。 商業的供給源から組換え型可溶性の形態のDLL4を容易に入手できたことから、当業者はそれを使用したことを充分理解している。本発明の結合蛋白質は未変性DLL4に結合することができるため、本発明は、組換え型可溶性DLL4に対する結合蛋白質に決して限定されるものではない。 図1に示すように、このようにして得られた新規抗DLL4 mAbは、ヒトDLL4をトランスフェクトしたCHO細胞と反応したが、モックをトランスフェクトしたCHO細胞(ネガティブコントロール)には反応せず、組換え型可溶性マウスDLL4をトランスフェクトしたCHO細胞にも反応しなかった。図1は、該mAbがヒトDLL4に対して高い特異性を有することを示している。 さらに、ヒトJagged1 ,Jagged2,またはDLL1をトランスフェクトしたCHO細胞に対して、3種類の抗DLL4 mAbはいずれも交差反応を示さなかった(データを示さず)。これによって、該mAbのヒトDLL4に対する特異性がさらに裏付けられた。 該抗体は、DLL4をトランスフェクトしたCHO細胞に対するヒトNotch1 −Fcの結合阻害能によってもスクリーニングされた。図2に示すように、該抗DLL4 mAbは、ヒトDLL4をトランスフェクトしたCHO細胞に対してNotch1−Fcの結合を阻害した。 上記STL4抗体も、Notchを媒介したシグナリングの阻害能によって、Notch/CSLレポーターを用いてスクリーニングされた。Notchを媒介したシグナリングにおけるSTL4の阻害効果を図4に示す。 本発明者らは、STL4抗体がHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の遊走に対して阻害効果を有することも実証した(実施例7を参照)。したがって、上記結合蛋白質は、内皮細胞、好ましくはヒト内皮細胞,もっとも好ましくはHUVEC細胞の走化性を調節する、例えば阻害する)か有意に低減させることが好ましい。 したがって、本発明のさらなる側面は、治療,診断またはイメージングにおける使用のための、本明細書に定義する本発明の結合蛋白質を提供する。好ましくは、上記結合蛋白質は、異常なDLL4シグナリングシグナリングおよび/または異常血管新生によって特徴付けられる疾患または症状 の処置あるいは診断において使用される。別の見方によると、該結合蛋白質は、DLL4のレベルおよび/または機能を調節するために使用される。一態様において、該結合蛋白質は、血管新生を調節するために使用される。
【0096】
「異常なDLL4シグナリングシグナリング」とは、同じ発育段階にある健康な個体の同じ組織と比較して、DLL4および/またはそのリガンドもしくは受容体のいずれかの発現および/または活性の増加または低下を意味する。好ましくは、異常なDLL4シグナリングは、DLL4の発現および/または活性の増加または低下を意味する。DLL4の発現および/または活性が増加することが好ましい。
【0097】
発現レベルを測定する方法は当該分野において公知であり、その方法として、定性的なウェスタンブロット解析,免疫沈降,放射性学的アッセイ,ポリペプチド精製,分光光度的解析,アクリルアミドゲルのクーマシー染色,ELISA,rt−PCR,二次元ゲル電気泳動,マイクロアレイ解析,インシチュー・ハイブリダイゼーション,化学発光,銀染色,酵素試験,ポンソーS染色,免疫組織化学的アッセイ,放射免疫アッセイ,比色分析,免疫放射定量測定法,陽電子放出断層撮影,ノーザンブロッティング,蛍光分析およびSAGEが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Ausubel et al, eds. (2002) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley-Interscience, New York,を参照される。
【0098】
「血管新生」とは、血管、特に毛細血管の成長を含む組織の血管新生反応のプロセスを意味する。血管新生は、内皮細胞の増殖および/または分化を含んでもよい。よって、血管新生は、血管の発生,成長,伸長,または持続を包含する。
【0099】
「異常血管新生」とは、毛細血管(ただし、これに限定されない)などの血管の、不規則な発生,成長,伸長,もしくは持続を含む、任意の疾患,疾病,または発育上の症状を意図する。
【0100】
「DLL4レベルの調節」とは、標的領域または組織に存在するDLL4のレベルが、少なくとも1%,5%、好ましくは少なくとも10%,20%、より好ましくは少なくとも30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,99%変化することを意図する。
【0101】
「血管新生の調節」とは、標的領域または組織に存在するその容積もしくは血管内皮細胞の数および/または血管密度が、少なくとも1%,5%、好ましくは少なくとも10%,20%、より好ましくは少なくとも30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,99%変化することを意図する。
【0102】
結合蛋白質の血管新生調節能は、当該分野で周知の技術を用いてアッセイすることができる。例えば、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)フィブリンゲルビーズ(fibrin gel bead)アッセイは、はっきりとわかる管腔様構造を有する出芽の形成および増殖を詳細に調べるために用いることができる。
血管密度は、好適な抗体、例えば内皮細胞特異的抗体を用いた免疫組織化学染色によって定量化できる。簡潔に言えば、組織試料をまず好適な一次抗体に接触させ、次に適切な標識二次抗体に接触させる。該二次抗体が視覚化され、得られるシグナルの位置および強度が記録される。in vivoで血管新生を観測するために皮下チャンバーモデル(skinfold chamber model)を用いることができる。
【0103】
上記の疾患および症状は、アテローム性動脈硬化,関節炎,眼性血管新生,子宮内膜症,子宮筋腫,妊娠中毒症および癌から選択されることが好ましく、特に癌が好ましい。癌が処置される態様において、該癌は、子宮頚癌,子宮癌,卵巣癌,膵癌,腎癌,胆嚢癌,肝癌,頭頚部癌,扁平上皮癌,胃腸癌,乳癌(例えば、乳管の,小葉の,および乳頭の癌腫),前立腺癌,精巣癌,肺癌,非小細胞肺癌,非ホジキンリンパ腫,多発性骨髄腫,白血病(例えば、急性リンパ性白血病,慢性リンパ性白血病,急性骨髄性白血病,および慢性骨髄性白血病),脳癌(例えば、星細胞腫,神経膠芽腫,髄芽腫),神経芽細胞腫,肉腫,結腸癌,直腸癌,胃癌,肛門癌,腎癌,膀胱癌,膵癌,子宮内膜癌,形質細胞腫,リンパ腫,網膜芽細胞腫,カポジ肉腫,ウィルムス腫瘍,ユーイング肉腫,黒色腫および他の皮膚癌から好ましく選択される。これら癌のうち前立腺癌または膵癌が好ましい。充実性腫瘍が治療される態様が特に好ましい。転移が阻止される態様も好ましい。
【0104】
本発明のさらなる側面は、避妊法における使用のための、本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質を提供する。黄体(CL)は血管新生が著しい部位であり、密集した毛細血管網が形成されることによって、ホルモン産生細胞は、妊娠早期の成立および維持に必要な大量のプロゲステロンの合成および放出に必須の酸素,栄養素およびホルモン前駆体を得易くなる。これによって、本発明の結合蛋白質を避妊薬として使用する可能性が広がる。
【0105】
本発明のさらなる態様は、移植手術後の異常血管新生を低減または阻止することにおける使用のための、本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質の使用を提供する。移植手術部位での高レベルの血管新生が問題とされることがあり、そのため血管新生のレベルを調節することが望ましく、ある場合には、例えば、角膜またはその一部が移植されるときには、その移植手術部位の血管新生を最小限に抑えることが望ましいとされる。したがって、本発明は、移植治療の結果 を改善する方法を提供し、該方法は、前記の結合蛋白質または発現ベクターの好適量を、移植手術を実施する前,途中および/または後に、患者に投与することを含む。移植手術後の血管新生を低減させるために、移植手術前に好適量の本発明の結合蛋白質を用いて、移植のin vitroでの処置方法も提供される。
【0106】
さらに、本発明は、抗体および抗体断片などの本発明の結合蛋白質,および/または本発明の発現ベクターを、1以上の薬学的に許容し得る賦形剤,担体,希釈剤,緩衝液もしくは安定剤とともに含む組成物を提供する。
【0107】
このような組成物は、結合蛋白質または発現ベクターを使用する、本明細書中に記載されている本発明の任意の側面において用いることができ、例えば、本明細書中に記載されている任意の該方法,使用またはキットに用いることができる。 本発明のさらなる側面は、本明細書中に記載の任意の治療または診断の技術における使用のための組成物または医薬の製造における、本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質および/または発現ベクターの使用を提供する。
【0108】
本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質の有効量を、対象に投与する、または対象から採取した試料(例えば、血液試料)に投与し、その後当該試料を前記対象に戻すことを含む対象の処置方法は、本発明のさらなる態様を提供する。
【0109】
本明細書中に記載のin vivoの方法は、一般的に哺乳動物に対して実施される。任意の哺乳動物を処置することができ、例えば、ヒトおよび任意の家畜類(livestock),家畜動物(domestic animal)または実験動物である。具体例として、マウス,ラット,ブタ,ネコ,イヌ,ヒツジ,ウサギ,ウシ,およびサルが挙げられる。しかしながら、該哺乳動物として、好ましくはヒトである。
【0110】
本明細書中で用いられる「治療」または「処置」という用語は、予防的治療を包含し、それによって疾病が阻止されることがある。「治療」および「処置」という用語は、疾病に対抗し治す以外に、疾病または該疾病に関連する1以上の症候の抑制,軽減または緩和も包含する。
【0111】
本明細書中に用いられる「有効量」は、処置の性質に応じて治療効果のある量もしくは予防効果のある量、または避妊,診断もしくはイメージングに有効な量に言及することができる。治療効果のある量は、望ましい治療結果を達成するために(適切な量および投薬計画で)必要な量であると考えることができる。予防効果のある量は、望ましい予防結果を達成するために(適切な量および投薬計画で)必要な量であると考えることができる。以下に示すように、該当量は、該患者の体重,年齢および性別、該疾病の重症度ならびに個人における望ましい反応を引き出す上記結合蛋白質の能力に応じて変化するだろう。
【0112】
本発明の組成物は、当該分野において公知であり、かつ広く文献に記載されている任意の従来法に従って処方することができる。よって、組成物の特定の使用に適切な1以上の従来薬学的に許容し得る担体,希釈剤および/または賦形剤などと、任意で他の活性物質(それらの例は後述する)とともに、投与に好適なまたは投与に好適にさせることができる従来の調製品を製造するために、上記活性成分(すなわち、上記結合蛋白質)を含むことができる。該組成物は、例えば、溶液,分散液,懸濁液,錠剤,丸薬,粉末,小袋,カプセル,エリキシル剤,乳液,シロップ,軟膏,リポソーム,座薬などのように、液体として,半固体としてまたは固体として処方してもよい。好ましい形態は、投与および治療に適応した所望する様式によって決まる。本発明の結合蛋白質を含む組成物は、注射剤または点滴剤の形態で調製されることが好ましい。
【0113】
他の適切な任意の様式、例えば経口投与を用いてもよいが、投与の好ましい様式は、例えば、腹腔内,静脈内,皮下,筋肉内,腔内または経皮などの非経口的なものである。静脈内注射または点滴は特に好ましい。適切な任意の部位への投与を用いてもよい。例えば、上記組成物を、措置が必要な部位に局所的に直接投与してもよく、または身体の適切な位置に対して狙い易くする実体と付着、でなければ結合、例えば接合させてもよい。
【0114】
生理的に適合する任意の担体,賦形剤,希釈剤,緩衝剤または安定剤を、本発明の組成物に使用することができる。適切な担体,賦形剤,希釈剤,緩衝剤および安定剤の例として、1以上の水,生理食塩水,リン酸緩衝生理食塩水,D形グルコース(dextrose),グリセロール,エタノールなど,およびそれらの組み合わせが挙げられる。場合によっては、例えば、糖類,多価アルコール(マンニトール,ソルビトール等)のような等張剤,または塩化ナトリウムを含んでもよい。該組成物は、平滑剤,湿潤剤,乳化剤,懸濁化剤,保存剤,甘味剤,香味剤などをさらに含むことができる。本発明の組成物は、当該分野において周知の手段を採用することによって、対象に投与した後、上記活性成分の迅速な,持続した,または遅発性の放出を提供するために処方することができる。上述したように、該組成物は注射するのに好適な形態であることが好ましく、好適な担体は、適切な任意の濃度で存在してもよいが、典型的な濃度は1%から20%まで、好ましくは5%から10%までである。
【0115】
治療組成物は、製造および保管の条件下で、典型的には、無菌かつ安定でなくてはならない。このような無菌かつ安定な状態を獲得する適切な方法は、当該分野において周知であり記載もある。
【0116】
本発明の結合蛋白質に加えて、該組成物は、異常なDLL4シグナリングに関連した疾病またはDLL4活性が有害である疾病、例えば、癌,アテローム性動脈硬化症,関節炎または眼性血管新生を処置するために有効な薬剤のような、1以上の他の活性成分をさらに含むことができる。哺乳動物の処置において使用されるべき組成物に含まれる適切な追加活性薬剤は、当業者に公知であり、該組成物を用いて処置されるべき疾病の性質に応じて選択することができる。癌処置に好適な追加薬剤として、他の標的物質に結合する抗体,サイトカイン,および化学薬品、例えば、副作用を抑制する標準的な化学療法剤(小分子量薬物)または薬物が挙げられる。
【0117】
本発明の結合蛋白質および他の活性成分(含まれている場合)の好適な投与量は患者によって異なるものであり、特定の疾患の性質によっても決まることとなる。好ましくは、該投与量は、関連する処置の性質にもよるが、治療上有効な量または予防上有効な量からなる。好適な投与量は、該患者の体重,年齢および性別ならびに該疾病の重篤度に従って当業者または医師によって決定することができる。該結合蛋白質の、個人から望ましい反応を引き出す能力も要因となる。典型的な1日の用量は:0.1〜250mg/kg、好ましくは0.1〜200または100mg/kg、より好ましくは1〜50または1〜10mg/kg、例として、該活性成分を約5mg/kgで用いる。単独の単位用量として、または1日に1度以上投与される複数の単位用量として、これを投与することができる。適切な投与量を患者次第で変えることができるが、任意の特定の対象において、特定の投与計画は、患者個々の必要量に従い時間とともに調整されるべきであることを注意すべきである。よって、本明細書で説明した該投与量の範囲は、典型的なものであるとみなされるべきであり、クレームした組成物の範囲または実施を限定する意図はない。
【0118】
本発明は、本発明の1以上の結合蛋白質もしくは組成物、および/または本発明の結合蛋白質をコードする1以上の核酸分子、および/または本発明の核酸配列を含む1以上の組換え型発現ベクター、および/または本発明の組換え型発現ベクターもしくは核酸配列を含む1以上の宿主細胞を含むキットをさらに包含する。該キットは、本明細書中に記載したような方法および使用において用いられることが好ましい。該キットは、キットを構成する部品を使用するための取扱説明書を含むことが好ましい。
【0119】
本明細書中で定義された結合蛋白質は、in vitroまたはin vivoでの利用およびアッセイのための分子ツールとしても使用することができる。該結合蛋白質は抗原結合部位を有することから特異的な結合対のメンバーとして機能することができ、これらの分子は特定の結合対メンバーを必要とする任意のアッセイに用いることができる。例えば、結合蛋白質がDLL4のような特定の抗原に結合できる抗体または抗体断片である態様において、これらの分子は、特定の抗原に特異的な抗体を必要とする任意のアッセイにおいて用いることができる。例えば、DLL4の検出が必要とされるか、または望ましいとされる任意のアッセイにおいて該結合蛋白質が用いられる。本明細書中に開示した該結合蛋白質を含む診断方法および使用は、本発明のさらなる側面を含む。
【0120】
したがって、本発明のさらなる側面は、本明細書中で定義した本発明の結合蛋白質(例えば、結合蛋白質接合体)の適切量を対象に投与すること,ならびに本発明の結合蛋白質もしくは結合蛋白質接合体の、対象中における存在および/または量および/または位置を検出することを含む、対象に対する診断またはイメージングの方法である。
【0121】
さらなる側面において、本発明の結合蛋白質は、血管新生を調節するためにin vitroで使用することができる。
したがって、本発明は、DLL4および/またはNotchの活性を調節するための、本発明の結合蛋白質のin vitroでの使用を含む。例えば、本発明の結合蛋白質は、DLL4および/またはNotchの活性を阻害または抑制するために使用することができる。
【0122】
本発明の結合蛋白質は、DLL4に特異的なさらなる結合蛋白質を製造するためにも使用することができる。このような使用は、例えば、原型結合蛋白質のアミノ酸配列において、、1以上のアミノ酸を付加,欠失,置換または挿入して、新規の結合タンパク質を形成すること、ここで該原型結合蛋白質は本明細書中の他の個所で定義した本発明の結合蛋白質の一つである、および得られた新規の結合蛋白質がDLL4特異的結合蛋白質であることを確認するための試験をすることを伴う。このような方法は、DLL4結合能を有することがすべてについて試験される、複数の新しい結合蛋白質を形成するために用いられる。上記の1以上のアミノ酸の付加,欠失,置換または挿入が、1以上の上記CDRドメインに対して起こることが好ましい。
【0123】
原型結合蛋白質に対するこのような変更または突然変異は、当該分野において周知であり記載もされている技術を用いて適切な任意の方法において実施でき、例えば、ランダム変異誘発または部位特異的変異誘発の方法を実施できる。部位特異的変異誘発を用いる場合、適切な残基が突然変異したことを確認する一つの戦略とは、抗原結合に関与する重要な残基を特定するために該結合蛋白質−抗原複合体の結晶構造の分解能を利用することである(Davies D.R., Cohen G.H. 1996. Interactions of protein antigens with antibodies. Proc Natl. Acad. Sci. U.S A. 93, 7-12)。続いて、この相互作用を促進させるために、これら残基を突然変異させることができる。もう一つの方法として、1以上のアミノ酸残基を、単に定方向突然変異の標的とすることもでき、そしてDLL4に対する結合への作用を評価する。
【0124】
ランダム変異誘発は、適切な任意の方法、例えば、変異性(error-prone)PCR,チェイン・シャフリング(chain shuffling)または突然変異誘発大腸菌株(mutator E.coli strain)によって実施できる。
【0125】
よって、本発明の1以上のVHドメインは、適切な任意の供給源から得られた単独のVLドメインまたはVLドメインのレパートリーと組み合わせることができ、その結果得られた新しい結合蛋白質をDLL4特異的結合蛋白質であると確認するために試験する。逆に、本発明の1以上のVLドメインは、適切な任意の供給源から得られた単独のVHドメインまたはVHドメインのレパートリーと組み合わせることができ、その結果得られた新しい結合蛋白質をDLL4特異的結合蛋白質であると確認するために試験する。
【0126】
同様に、本発明のVHおよび/またはVLドメインのうち1以上のCDRが、あるいは好ましくは3つすべてのCDRが、VHおよび/またはVLドメイン単独、あるいはVHおよび/またはVLドメインのレパートリーと適切になるように接合することができ、その結果得られた新しい結合蛋白質をDLL4特異的結合蛋白質であると確認するために試験する。
【0127】
上記CDRの標的突然変異は、抗体との親和性を上げるための特に有効な技術であり、好ましいものである。該CDR3の3〜4アミノ酸のブロックを突然変異誘発の標的とすることが好ましい。
【0128】
突然変異のための好ましい標的部位は、露出したアミノ酸をコードする部位、好ましくは上記抗原との結合部位の一部を形成するアミノ酸をコードする部位である。突然変異のための他の好ましい標的部位は、非保存的アミノ酸をコードする部位である。
【0129】
アミノ酸および蛋白質ドメインの上述した操作を実施する方法は、当業者に周知である。例えば、該操作は、核酸レベルでの遺伝子工学によって実施されることが好都合だろう。該遺伝子工学において、適切な結合蛋白質およびそのドメインをコードする核酸分子は、その結果得られた発現蛋白質のアミノ酸配列が続いて適切な方法で修飾されるように、修飾される。
【0130】
1以上の新しい結合蛋白質をDLL4に特異的に結合できるか試験することは、当該分野において周知であり記載もある適切な任意の方法で実施することができる。組換え型可溶性ヒトDLL4は市販されており(本実施例を参照)、例えば、ELISA,親和性クロマトグラフィーなどのような従来法によって結合をアッセイするために、該組換え型可溶性ヒトDLL4を容易に用いることができる。
【0131】
これら方法によって製造された新しい結合蛋白質は、DLL4に対して、少なくとも上記原型結合蛋白質と同等の親和性を有することが好ましく、本明細書中の他の個所で記載したような本発明の結合蛋白質と同じ方法で処理 され使用される(例えば、治療のため、組成物中に含有など)。ある態様においては、新しい結合蛋白質は原型結合蛋白質よりDLL4に対する親和性が低い。
【0132】
これら方法によって製造された,得られたまたは得られる新しい結合蛋白質は、本発明のさらなる側面を形成する。
本発明の他の特徴および利点は上述の詳細な記載から明確である。しかしながら、本発明の趣旨と範囲内における様々な変化および変更がこの詳細な記載から当業者にとって明確であるから、上述の詳細な記載および以下の具体例は、本発明の好ましい態様を示すものであるが、例としてのみ示されていることを理解されるべきである。
【実施例】
【0133】
材料および方法
細胞および培養条件
PK−1ヒト膵臓腺癌細胞株を、既に記載されたようにして確立し(Kobari M. Establishment of a human pancreatic cancer cell line and detection of pancreatic cancer associated antigen. Tohoku J. Exp. Med., 143: 33-46, 1984)、その他の膵癌 細胞株を、37℃、加湿された5%CO2雰囲気下で、10%仔牛血清(FCS)、100単位/mlペニシリンおよび0.1mg/mlストレプトマイシンが添加されたRPMI1640にて、維持した。不死化正常ヒト膵臓管細胞株(immortalized normal human pancreatic suct cell)はフルカワ博士(東北大学医学部病理学科、日本、仙台)の好意により提供され、HEK293細胞株、繊維芽細胞株および上皮細胞内皮細胞株を10%FCSを含む低グルコースDMEMにて培養し、上記癌細胞株と同様の条件にて維持した。これらの細胞は、6継代を超えては使用しなかった。
【0134】
CHO細胞を、マウスDll4かヒトDll4かをコードするプラスミドで、またはコントロール(空)プラスミドでトランスフェクトした。また、安定細胞株(stable cell line)を選択し、クローン化した。
【0135】
動物
オスSCIDマウス(6週齢または8週齢)を、ニッポンクレア株式会社(Nippon Clea Co)(日本、東京)またはチャールス・リバー株式会社(Charles River Co.)(日本、東京)より購入し、特定病原体除去環境において飼育し、餌および水は自由に摂取可能にした。動物の世話および処置に関するNIHガイドラインを遵守した。
【0136】
統計学的分析
本実験はすべて、2反復または3反復で実施した。各実験からの代表的なデータを表示した(平均値±SDまたはSE)。両側スチューデント法によるt検定を統計学的分析に使用した。0.05以下のP値を有意とみなした。
【0137】
実施例1
臨床材料および免疫組織化学染色
10個のヒト膵癌の試料を外科的手術により得た。すべての患者は、自己の組織が科学的調査に使用される旨の署名付きのインフォームドコンセントを提供した。それらの正常領域および腫瘍領域を特定した。ヒト組織試料を、4℃の10%ホルマリン中に固定し、パラフィンで包埋し、4℃で保存した。切片(5μm)を免疫組織化学染色用に個々に切除した。パラフィン切片をキシレン中で5分間、脱パラフィン操作を行い、段階的に一連のアルコール(100%、95%、および80%エタノール/二重蒸留水(v/v))で処理し、各回5分間で3回、PBS中で再水和した。
【0138】
30%メタノールにおける0.3%のH2O2溶液中で、15分間スライドをインキュベートすることで、内在性ペルオキシターゼ活性をブロッキングした後、抗原回復剤(Pharmingen,Retrivagen A)で、電子レンジにて10分間89℃で処理することによって、抗原活性を得た。該切片を、加湿チャンバー中で、一昼夜4℃にて適当な一次抗体(1%FBSを含むPBSで希釈されているもの)とともにインキュベートし、各回5分間で3回、PBSでリンスした。次いで、該切片を室温で適当な二次抗体とともに、60分間インキュベートした。
【0139】
ヒトDLL4の発現を、一次AbとしてのラットmAb(R&D Systems)および、二次Abとしてのビオチン化抗ラットIgG抗体(R&D Systems)を用いて検出した。さらに、室温30分間におけるペルオキシターゼでラベル化されたストレプトアビジンとのインキュベーションの後、陽性反応を、3,3´−ジアミノベンジダインとともにスライドを5〜15分間インキュベートすることで、可視化した。本反応を、蒸留水でスライドをリンスすることで終了させた。該スライドをヘマトキシリンで対比染色し、ユニバーサルマウント(Universal Mount)でマウントして、室温で乾燥させた。
【0140】
結果−膵癌におけるDLL4の発現
リンパ節転移を含む主な腫瘍病巣の切片および、腫瘍がない病変箇所(「正常」膵臓組織)の切片を、上述のように染色した。すべての場合において、DLL4の発現は、正常なランゲルハンス島および癌細胞の相当な部分 (substantial part of cancer cells)で最も高く、続いて、排出微細管(small excretory duct)、脂肪組織、小血管、動脈であった。主膵管および成熟静脈では、陽性の染色細胞は、たとえあるとしてもほとんど、認められなかった。血管系内においては、DLL4の発現は比較的、動脈および毛細血管に限定されていた。動脈では、DLL4発現の優性な部位は、外縁部側であり、内皮ではなかった。
【0141】
実施例2
ヒトDLL4に対する中和mAbの作成
ヒトDLL4に対する中和mAbを、組換え型可溶性ヒトDLL4(R&D Systems)でBALB/cマウスを免疫することで、産生した。その免疫脾臓細胞をP3U1メラノーマと融合し、フローサイトリーによって、マウスDLL4またはヒトDLL4でトランスフェクトされたCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞に対する抗体の活性を分析した。プリスタンで刺激されたヌードマウス(pristan primed nude mice)において産生された腹水からカプリル酸/硫酸アンモニウム沈降法によって、ヒトDLL4について陽性の結果を示したがマウスDLLについては示さなかった抗体を精製した。
【0142】
実施例3
ヒトDLL4に対する中和mAbの特性決定
3種類の、ヒトDLL4に対する新規の中和mAbを、実施例2に記載のように、産生した。すべての3種類の抗ヒトDLL4mAbは、ヒトDLL4がトランスフェクトされたCHO細胞には反応したが、偽トランスフェクトされたCHO細胞またはマウスDLL4がトランスフェクトされたCHO細胞には反応しなかった(図1における一つの抗体にて例示される。)。さらに、当該3種類の抗DLL4mAbはいずれも、ヒトJagged1、Jagged2またはDLL1がトランスフェクトされたCHO細胞とは交差反応しなかった(データを示さず。)。すべての3種類の抗DLL4mAbは、DLL4でトランスフェクトされたCHO細胞へのNotch1−Fcの結合を阻害した(図2における一つの抗体にて例示される。)。これらのデータは、新規抗体が、Dll4におけるNotch結合部位に近接した、または重なり合ったエピトープと反応することを示している。
【0143】
一連の培養上清希釈液中における、DLL4とのより強力な反応性に基づいて、これらの抗体の1つであるSTL4と称される抗体を、さらなる特性決定のために選択した。
実施例4
腫瘍増殖における抗DLL4抗体の効果
PK−1細胞(1x107/100μl RPMI)を、マウスの背側側腹領域内に皮下注射して導入した。この操作は、マウス内において、ヒト細胞からなる腫瘍を増殖させる。接種の1週間後に、これらのマウスを、それぞれ10匹のマウス群に無作為に分けた。次いで、ある一群は、ヒトDLL4に対するモノクローナル抗体での処置を受けた。一方の一群は、ネガティブコントロールとして供され、コントロールのハムスターIgG(ジャックソンイムノリサーチ(Jackson ImmunoResearch))を受けた。
【0144】
当該処置は、5週間にわたる、週2回の腹膜内部の注射からなる。また、腫瘍の直径を、キャリパーを用いて、1週間につき2回測定し、腫瘍体積を、式:V=D×d2×0.4(ここで、V=腫瘍体積、D=最大直径およびd=最小直径)によって決定した。
【0145】
上記結果を図3にて示す。この結果から、抗ヒトDLL4抗体が腫瘍増殖の阻害を引き起こしたことが分かる。
本実験はマウスモデルにおいて実施されたものだから、血管新生が主としてマウスDLL4によって調節されており、抗ヒトDLL4は明らかにマウスDLL4を阻害しない(上記実施例にて示される。)。ヒトの対象においては、すべてのDLL4はヒトのものだらか、抗DLL4抗体はさらに良好な結果をもたらすことが予想される。
【0146】
これらのデータは、腫瘍の血管新生の制御における、血管由来のDll4の重要性を強調するものである。
この動物モデルにおいて、抗Dll4抗体(STL4)が効果を発揮する服用量には、まったく毒性作用がない旨が示された。
【0147】
実施例5
ヒトの細胞および組織におけるDLL4の発現
DLL4は、様々なヒトの腫瘍細胞において発現されていることが、以前より示されている。STL4の反応性を、乳癌に由来する様々なヒト細胞株におけるフローサイトメトリー分析、および膵臓腫瘍サンプル、前立腺腫瘍サンプルまたはヒト膀胱癌サンプルにおける免疫組織化学分析を用いて評価した。また、これらすべてのサンプルにて、STL4の反応性を実証した。
【0148】
実施例6
Notchシグナリング分析
本分析を実施して、STL4が、DLL4を介在するNotchシグナリングに干渉するかを究明した。
【0149】
プレートを、組換え型DLL4リガンドを1μg/mlで添加したか、あるいは添加していない、フィルター滅菌済みの0.2%ゼラチン溶液で(一昼夜)コーティングした。HEK293a細胞(Notchを発現している)を、これらのプレート上に播種した。翌日、該細胞を、Notch/CSLレポーターでトランスフェクトした。該Notch/CSLレポーターは、内在性CBF−1が結合して遺伝子転写を抑制することとなる、複数のCBF−1DNA結合部位を有するプロモーターを含む。Notch受容体へのNotchリガンド(たとえば、DLL4)の結合の後に、Notch受容体の切断が生じ、Notch細胞内ドメインの放出に至る。このNotch細胞内ドメインはCBF−1に結合して、転写リプレッサーから転写アクチベーターにCBF−1を変化させて、ルシフェラーゼレポーター分子を駆動させる。1時間経過後、適当なウェルに、STL4を125μ/mLで添加した。翌日、全プレートを、ONE GLO試薬を用いて読み取って、ルシフェラーゼ活性を測定し、当該プレートをルミノメーターにて読み取った。
【0150】
本結果を図4に示す。この図からわかるように、HEK293細胞は、DLL4でコーティングされたウェルにおいて、Notchシグナリングカスケードの活性化が示されたが、コントロールのウェルにおいては示されなかった。このシグナリングは、STL4によって阻止された。アイソタイプのコントロール抗体は、DLL4を介在としたNotchの活性化において、全く効果を発揮しなかった(図示せず)。これらのデータは、STL4が、NotchとのDLL4の相互作用を阻止し、そのためNotch介在シグナリングに干渉することができることを示している。
【0151】
実施例7
HUVEC遊走アッセイ
HUVEC(TCSセルワークス(TCS CellWorks)、英国、クライドン(Claydon)、より購入)を、大血管上皮細胞用増殖培液にて培養した。セルトラッカーグリーンダイCMFDA(CellTracker Green dye CMFDA)(Molecular Probesより購入)を、細胞培養用フラスコ培液に添加し、当該ダイが5μMの最終濃度になるようにし、1時間インキュベーターに放置した。次いで、細胞をトリプシン処理して、細胞数を計測した。
【0152】
トランスウェルインサート(transwell insert)(3mm細孔、BDバイオサイエンスズ(BD Biosciences)から購入したBDフルオロブロック(BD FluoroBlok))に、300μl中に3×104の希釈率で細胞を加えた。当該ウェルの底部に、化学誘引物質(5%FCS)を含む800μlの無血清培養液を添加した。当該細胞を放置して、4時間遊走させた。遊走した細胞を、UV照射の下、リアルタイムで視察した。遊走データを、イメージプロプラスソフトウェア(Image Pro Plus Software)(メディアサイバーネティクス(MediaCybernetics)英国)を用いて、処理した。
【0153】
結果
ヒト内皮細胞の培養液へのSTL4の添加は、これらの細胞の増殖においては、有意な効果を有していなかった(データを示さず。)。しかしながら、遊走アッセイにおいて使用された場合、正常酸素圧条件および低酸素条件のどちらにおいても、STL4はFCSに対するHUVECの遊走を阻止することができた(図5)。これらのデータは、STL4が血管新生を阻害できることを示している。
【0154】
実施例8
キメラ化抗体の調製
本実施例でcSTL4と称されるキメラ化抗体は、配列番号1のVHドメインおよび配列番号2のVLドメインを含むものであり、この抗体は標準的な手順で調製された。簡潔に言えば、VHおよびVLドメインをコードする核酸配列をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって増幅した。pCAccプラスミドベクターにクローニングすることによって、VHドメインを、ヒトIgG重鎖定常領域であるCH1−H−CH2−CH3に融合させ、VLドメインをヒト軽鎖定常領域であるκに融合させた。
【0155】
pCAccは、CMV−エンハンサーおよびβアクチン−プロモーターによって駆動される強力な哺乳類細胞用の発現ベクターである。当該ベクターは、一過性発現(transient expression)に適したものである。pCAccのマップを図6に示す。
【0156】
図7および8は、軽鎖および重鎖が各pCAccベクターのどこにクローニングされたかを示す。
DLL4に対するcSTL4の特異的な結合は、ヒトDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはトランスフェクトされていないCHO細胞を使用したフローサイトメトリーによって確認された(図9)。
【0157】
実施例9
親和性の測定
BiacoreA100分析器を使用して、キメラ化抗DLL4抗体であるcSTL4の結合親和性を評価した。組換え型Dll4純品への結合を、20、10、5、2.5および1.2mg/mlの抗体濃度を用いて評価した。結合曲線を図10に示す。KDは、4.08x10−10Mと算出された。Kaは2.45x1091/Mであり、Kdは8.79x10−51/Sであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血管新生の結合蛋白質およびその使用すべてに関する。特に、本発明はデルタ様リガンド4(delta-like ligand 4)(DLL4)に特異的な抗体または抗体断片およびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生 、すなわち既に存在する血管からの新規の血管形成は、胚発生、創傷治癒および生殖機能の間において、基本的な役割を有する複雑な工程である。健常な対象においては、血管新生は、高度に制御されており、必要ある場合に短時間活性化し、その後、完全に阻害される。血管新生の制御における破綻は、アテローム性動脈硬化、関節炎、眼性血管新生などの有害な結果および多くの疾病を招来し得、癌は典型的には継続的な血管新生を特徴とする。
【0003】
充実性腫瘍の場合、栄養物および酸素を腫瘍細胞に輸送するための十分な血管系の構築が非常に重要である。充実性腫瘍細胞は、正常細胞に比べて、増殖のためにより血管新生に依存するものであり、この腫瘍は、血管新生できる場合に限り、進行的に増殖できる。
【0004】
Notch経路は、細胞の運命決定、細胞分化、増殖、生存、アポトーシスを含めた様々な生物学的工程に関与する、進化的に保存された細胞内シグナリング経路である。Notch受容体は、血管新生において重要な役割を有するものと考えられている。4つの異なる哺乳類Notch受容体ならびに、デルタ様−1、デルタ様−4(DLL4)、Jagged1およびJagged2を含めたいくつかの異なるNotchリガンドがある。
【0005】
DLL4は、約685アミノ酸の膜貫通型蛋白質であり、Notchリガンドに特徴的な、8つのEGF様リピートおよびDSLドメインを含有する細胞外領域を含む。DLL4は、膜貫通ドメインおよびどのような触媒モチーフもなさそうな 細胞質側末端も有する。ヒトDLL4は、マウスDLL4と87%の同一性を有している。また、DLL4は、本技術分野では、「Dll4」とも称され、本明細書において「DLL4」と「Dll4」とは同じ意味で使用される。
【0006】
マウスDLL4をコードする遺伝子は配列決定されており、アクセッション番号NM_019454にて寄託されている。この配列は、本明細書において、配列番号19との名称を有する。相当する蛋白質の配列は、同一のアクセッション番号において見られ、本明細書においては配列番号20との名称を有する。 ヒトDLL4をコードする遺伝子は配列決定されており、アクセッション番号NM_019074にて寄託されている。この配列は、本明細書において、配列番号21との名称を有する。相当する蛋白質の配列は、同一のアクセッション番号において見られ、本明細書において、配列番号22との名称を有する。
【0007】
DLL4は、とりわけ、Notch1、Notch2、Notch3およびNotch4との名称を有する受容体と相互作用する。マウスにおいては、デルタ様リガンドのハプロ不全は、動脈発生および血管発生においての深刻な欠陥のために、胚性致死に至る。それゆえ、DLL4は、血管新生において重要な役割を有するようである。
【0008】
DLL4の活性は、主に、遺伝子発現の水準(レベル)で制御されている。主な制御因子は、ホスホファチジルイノシトール3−キナーゼ/Akt経路を介した血管上皮増殖因子(VEGF)である。
【0009】
初期の上皮細胞におけるDLL4の生物学的機能および腎臓癌におけるDLL4の発現は、Patelらによって調査されている(Cancer Research 2005; 65:19, 8690-8697頁)。この調査者らは、ヒト腫瘍内でのDLL4発現の選択的な調節が、抗血管新生治療に十分な可能性があること示唆している。
【0010】
おそらく、抗血管新生治療について、最も研究され、かつ最も発展した方法は、VEGF阻害である。ヒト型化されたモノクローナル抗体(mAb)であるベバシズマブ(アバスチン)は、我々が知る限りでは、癌治療のための、唯一の抗血管新生の抗体の手法である(Presta L. G. “Humanization of an anti-vascular endothelial growth factor monoclonal antibody for the therapy of solid tumour and other disorder”. Cancer Res., 57: 4593-4599, 1997 および Ferrara N. “VEGF as a therapeutic target in cancer.” Oncology, 69: 11-16, 2005)。ベバシズマブは、マウスmAbからヒトVEGFにも展開されており、抗血管新生活性および抗腫瘍活性を示す臨床前所見に基づいて、臨床上での発展のために選択されている(Borgstrom P. “Complete inhibition of angiogenesis and growth of microtumours by anti-vascular endothelial growth factor neutralizing antibody: Novel concepts of angiostatic therapy from intravital videomicroscopy.” Cancer Res., 56: 4032-4039, 1996)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
血管新生を、特に、癌治療の関係における血管新生を調節できるさらなる薬剤に対する要求が依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、BALB/cマウスを、実施例の項において説明されるように、可溶性のある組換え型ヒトDLL4(ネイティブヒトDLL4の細胞外ドメインのセリン27からプロリン524まで。R&D Systems, Inc. 614 McKinley Place NE, Minneapolis, MN 55413,米国、から入手。)で免疫することによって、ヒトDLL4に対する中和モノクローナル抗体(mAbs)3種類を作成した。
【0013】
本発明者らは、前記抗体をクローン化し、配列決定の操作をして、さらに、上記抗体の軽鎖および重鎖における可変領域(VHおよびVL)、ならびに相補性決定領域(CDR)1,2および3の配列を決定した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明を、以下の図面に照らしながら、後述するような、限定するものではない実施例において、より詳細に説明する。
【図1】図1は、フローサイトメトリーによる、本発明にかかる新規抗DLL4抗体の特性を示す。このフローサイトメトリーを用いて、マウスDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(図1a)、偽トランスフェクトされた(mock-transfected)CHO細胞(ヌルコントロール、図1b)、またはヒトDLL4でトランスフェクトされたCHO細胞(図1c)に対する新規抗体の結合性を分析した。
【0015】
上記細胞を、ビオチン化された新規抗DLL4抗体およびオチン化されたマウスIgG1とともにインキュベートしたが、このマウスIgG1はコントロールとして供されたものである。次いで、この細胞をPEラベル化されたストレプトアビジンとともにインキュベートした。太線のヒストグラムは抗DLL4抗体でラベル化された細胞を示し、細線のヒストグラムはマウスIgG1でラベル化された細胞を示す。
【図2】図2は、フローサイトメトリーによる、本発明に係る新規抗DLL4抗体の特性を示す。ヒトDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、コントロールマウスIgG1(細線のヒストグラム)または本発明の抗DLL4抗体(太線のヒストグラム)とともに前培養し、Notch1−Fcで染色し、次いで抗ヒトIgG1mABおよびPEでラベル化されたストレプトアビジンで染色した。点線のヒストグラムは、ビオチン化された抗ヒトIgG1mABおよびPEでラベル化されたストレプトアビジンによるバックグラウンド染色を示す。
【図3】図3は、本発明者らによって調製された抗DLL4抗体の、腫瘍体積に対する効果を示すグラフである(実施例4参照)。y軸は腫瘍体積をmm3で示し、x軸は時間を日数で示す。
【図4】図4は、実施例6のNotchシグナリング分析の結果を要約したグラフである。y軸はルミノメーターで測定された光単位を指す。当該光単位は、Notch依存的な遺伝子転写の間接的な測定値である。x軸は、左から右にかけて、a)添加Dll4または添加抗DLL4抗体の不存在下における、光(ルシフェラーゼ転写)の基底水準b)添加DLL4の不存在下における、STL4抗体の添加効果c)添加Dll4の存在下における(抗体なし)、光(ルシフェラーゼ転写)の水準d)添加Dll4の存在下における、STL4抗体の添加効果である。
【図5】図5は、実施例7のHUVEC遊走アッセイ の結果を要約したグラフである。遊走した細胞の個数はY軸に示され、X軸は左から右にかけてa)5%仔牛血清(FCS)b)FCSなしc)およびd)FCSおよびSTL4e)およびf)STL4との前培養 、次いでFCSである。
【0016】
すべての分析を通常酸素条件下での細胞(灰色バー)および低酸素条件下での細胞(黒色バー)を用いて実施した。
【図6】図6は、プラスミドベクターpCAccの概略地図である。
【図7】図7は、VLおよびCκ軽鎖が挿入されている プラスミドベクターpCAcc(本明細書にてpCAccLとの名称を有する。)の概略地図である。
【図8】図8は、VHおよびCH1−H−CH2−CH2重鎖が挿入されているプラスミドベクターpCAcc(本明細書にてpCAccHとの名称を有する。)の概略地図である。
【図9】図9は、ヒトDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(図9a)または偽トランスフェクトされたCHO細胞(ヌルコントロール、図9b)を用いたフローサイトメトリーによるcSTL4の特性を示す。
【図10】図10は、固定化Dll4へのキメラ化抗DLL4抗体の結合親和性を評価するために使用されたBiacore分析(実施例9)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ヒトDLL4に特異的に結合可能な抗体分子のアミノ酸および/またはDNA配列と、それらのVHドメインおよびVLドメインならびにCDR、または、これらをコードするヌクレオチド配列とを、本明細書にて列挙された種々の配列番号において説明する。
【0018】
一態様においては、本発明は、ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質を提供し、該結合蛋白質は、
アミノ酸配列RASSSVSFMH(配列番号6)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる軽鎖CDR2を含む;および/または
アミノ酸配列ATSNLTS(配列番号7)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる軽鎖CDR2を含む;および/または
アミノ酸配列QQWSSNPFT(配列番号8)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる軽鎖CDR3を含む;および/または
アミノ酸配列SYVMH(配列番号3)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる重鎖CDR1を含む;および/または
アミノ酸配列YIIPYNDGTKYNEKFKG(配列番号4)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる重鎖CDR2を含む;および/または
アミノ酸配列SEDYDHFDY(配列番号5)もしくはこの配列と実質的に相同な配列を含む、またはこれらの配列からなる重鎖CDR3を含む。
【0019】
「軽鎖CDR」および「重鎖CDR」との用語は、本明細書においては、学術用語としての目的で使用されているのであって、結合蛋白質が、限定的な軽鎖および/または重鎖を有する旨や、あるいは重鎖または軽鎖において、これらの識別可能な部分が存在している場合、特定のCDRが見られる旨を意味するものではない。
【0020】
好適な結合蛋白質は、2つまたはそれよりも多い、本発明の軽鎖CDR、または上述したようなこの配列と実質的に相同な配列を含む。特に好適な結合分子は、3つの、本発明の軽鎖CDR、または上述したようなこの配列と実質的に相同な配列(すなわち、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3のそれぞれの1つの配列)を含む。
【0021】
その他の好適な結合蛋白質は、2つまたはそれよりも多い、本発明の重鎖CDR、または上述したようなこの配列と実質的に相同な配列を含む。特に好適な結合分子は、3つの、本発明の軽鎖CDR、または上述したような(すなわち、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の何れかの1つ)、この配列と実質的に相同な配列を含む。
【0022】
好ましくは、結合蛋白質は、本発明の少なくとも1つの重鎖CDRおよび少なくとも1つの軽鎖CDR、またはこれらの配列と実質的に相同な配列を含む。より好ましくは、結合蛋白質は、本発明の少なくとも2つの重鎖CDRおよび少なくとも2つの軽鎖CDR、またはこれらの配列と実質的に相同な配列を含む。
【0023】
特に好適な結合分子は、配列番号3の重鎖CDR1ドメイン、配列番号4の重鎖CDR2ドメインおよび配列番号5の重鎖CDR3ドメイン、またはこれらの配列と実質的に相同な配列と、配列番号6の軽鎖CDR1ドメイン、配列番号7のCDR2ドメインおよび配列番号8のCDR3ドメインまたはこれらの配列と実質的に相同な配列とを含む。
【0024】
更なる好適な実施態様は、上述したような本発明の重鎖CDRまたはこの配列と実質的に相同な配列を、1またはそれよりも多く有するVH(可変重鎖ドメイン)、および/または上述したような本発明の軽鎖CDRまたはこの配列と実質的に相同な配列を、1またはそれよりも多く有するVL(可変軽鎖ドメイン)を含む、ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質を提供する。
【0025】
軽鎖における好適な可変領域(VLドメイン)は、上述したような本発明の軽鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を、2つまたはそれよりも多く含む。特に好適なVLドメインは、上述したような(すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3の何れか1つ)、本発明の軽鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を3つ含む。重鎖における好適な可変領域(VHドメイン)は、上述したような本発明の重鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を、2つまたはそれよりも多く含む。特に好適なVHドメインは、上述したような(すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3の何れか1つ)本発明の重鎖CDRまたはこの配列と実質的相同な配列を3つ含む。最も好適な結合蛋白質は、上述したような本発明の軽鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列を3つと、上述したような本発明の重鎖CDRまたはこの配列に実質的に相同な配列3つとを含む。
【0026】
上記にて議論したようなVLドメインおよびVHドメインのいかなる組み合わせでも本発明の結合蛋白質に存在し得る。このように、本発明の好適な結合蛋白質は、CDR1(配列番号6)および/またはCDR2(配列番号7)および/またはCDR3(配列番号8)もしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を有するVLドメインと、CDR1(配列番号3)および/またはCDR2(配列番号4)および/またはCDR3(配列番号5)もしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を有するVHドメインとを含む。
【0027】
また、更なる本発明の実施態様では、配列番号1のアミノ酸配列またはこの配列に実質的に相同な配列を有するVHドメインと、配列番号2のアミノ酸配列またはこの配列に実質的に相同な配列を有するVLドメインとを含む結合蛋白質が提供される。
【0028】
配列番号1のアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列番号2のアミノ酸配列を有するVLドメインとを有する抗体は、本明細書では、「STL4」との名称を有する。
本明細書で使用される「結合蛋白質」との用語は、他の物質へ特異的に結合する蛋白質を指す。好適な実施態様において、結合蛋白質は、キメラ化されているか、ヒト型化されている。好適なキメラ化蛋白質は、キメラ化抗体であり、好ましくは、この抗体は、ヒト重鎖定常ドメインおよびヒト軽鎖定常ドメインを含む。好ましくは、結合蛋白質は、抗体または抗体断片であるか、あるいは、抗体または抗体断片を含むものである。ヒト型化抗体または抗体断片は、特に好適である。
【0029】
本発明者らは、ヒト重鎖定常ドメインCH1−H−CH2−CH2およびヒト軽鎖定常ドメインκ(カッパ)の他に、配列番号3の重鎖CDR1ドメイン、配列番号4の重鎖CDR2ドメインおよび配列番号5の重鎖CDR3ドメイン、ならびに配列番号6の軽鎖CDR1ドメイン、配列番号7の軽鎖CDR2ドメインおよび配列番号8の軽鎖CDR3ドメインを含むキメラ化抗体を調製した。本明細書にてcSTL4と称されるこの抗体に関する詳細は、実施例8にて見られる。
【0030】
別の好適な実施態様において、結合蛋白質は、アフィボディである。アフィボディは、本技術分野においては周知であり、典型的には、3重ヘリックスバンドルから構成される、たとえば約6kDaの小さな蛋白質であり、元々はブドウ球菌プロテインAに由来する。
【0031】
本発明の結合蛋白質は、ヒトDLL4もしくはヒトDLL4断片、またはヒトDLL4もしくはその断片を含む実体(entities)に特異的に結合できる。「特異的に結合する」とは、DLL4に対しては有意な結合であるが、その他の(コントロールの)抗原に対しては、より小さいもしくは弱い結合であるかまたは結合が皆無であること、好ましくは有意に小さいもしくは弱い結合であるかまたは結合が皆無であることを意味する。適当なコントロール抗原は、たとえば、DLL1、Jagged1およびJagged2から選択されてもよい。好ましくは、DLL4を除いては、典型的にヒトの体内に存在する、いかなる抗原に対しても有意な結合がない。その他の抗原に対する結合性がある場合、その結合性は、有意なものではなく、診断、イメージングまたは治療の用途を禁止するものではないことが好ましい。
【0032】
ここで、「有意な結合」とは、標準的な技術によって測定され、かつ少なくとも統計学的に有意である結合を意味する。
「有意でない結合」とは、測定不可能な結合または、標準的な技術を用いて測定可能であるものの、統計学的におよび/または生理学的に有意または関連性がない結合を意味する。
【0033】
結合蛋白質の結合特異性を評価する適当な技術は、当業者にとっては公知なものである。当業者ならば、結合性が分析される際に、結合蛋白質および標的抗原の適切な濃度を使用すべきことが理解されるであろう。非常に高い濃度では、一般的には、部分的にまたは一様に有意な非特異的な結合があるだろうから、当業者であれば、結合特異性を分析するために使用されるべき適切な濃度が認識される。この適切な技術の例は、フローサイトメトリーを含む。たとえば、DLL4でトランスフェクトされたCHO細胞のへの結合性を、トランスフェクトされていないCHO細胞および/または異なる抗原で、たとえば、DLL1、Jagged1またはJagged2でトランフェクトされたCHO細胞とで、比較してもよい。その他の適切な技術は、ELISA、ウェスタンブロット、放射性免疫分析を含む。
【0034】
好ましくは、結合蛋白質は、5、4、3、2または1μM未満のKdに,より好ましくは500、400または300nM未満のKdに、さらに好ましくは200、190、180、170、160、150、140、130、120、110または100nM未満のKdに、最も好ましくは90、80、70、60、50、40、30、20、10、5または1nM未満のKdに相当するDLL4への結合親和性を有する。最も好ましくは、Kdが10x10−10M未満であり、より好ましくは5x10−10M未満、たとえば約4x10−10M未満である。ここで、Kdを決定する、いかなる適当な方法が使用されてもよい。しかしながら、好ましくは、Kdは、in vitroにおいて、DLL4(または、DLL4がトランスフェクトされた細胞)の特定量に対して、様々な濃度での結合蛋白質を評価して、たとえば、ラインウェーバー・バーク法または好ましくは、BIAcoreTMソフトウェアのような市販されている結合モデルソフトウェアを使用して、飽和曲線を確立して、決定される。適切な分析方法は、実施例9において記載されている。「Kd」は、算出された解離定数を意味し、本技術分野においては、「KD」とも称される。
【0035】
比較可能な条件下、特に、それぞれの分析において、結合蛋白質および抗原(またはDLL4もしくはコントロール抗原でトランスフェクトされた細胞)の同一の添加量を用いて、結合親和性を分析した場合、結合蛋白質は、好ましくはその他の抗原よりも、たとえばヒトDLL1、ヒトJagged1またはヒトJagged2に対するKdよりも、少なくとも0.5または1桁分、より好ましくは、少なくとも2、3、4または5桁分小さい、DLL4に対するKdを有する。
【0036】
好ましくは、結合蛋白質は、DLL4の機能を阻害もしくは有意に低減できるか、1またはそれより多くの天然リガンド/受容体、特にNotchとのDLL4の相互作用を阻止できる。結合蛋白質は、好ましくはDLL4のアンタゴニストとして作用する。リガンドまたは受容体への結合性、たとえばNotchへの結合性は、当業者にとっては公知の標準的な技術を用いて分析される。特定のリガンドまたは受容体への遊離DLL4の結合性は、本発明の結合蛋白質と接触したDLL4の結合性と比較され得る。適切な分析方法は、フローサイトメトリーおよびELISAを含む。たとえば、フローサイトメトリーは、NotchでトランスフェクトされたCHO細胞へのDLL4の結合性を、NotchでトランスフェクトされたCHO細胞への、本発明の結合蛋白質と接触したDLL4の結合性と比較するために使用されてもよい。
【0037】
また別の、Notchシグナリングにおける抗DLL4抗体の作用を分析するための適切な方法は、実施例6にて記載される。簡潔にいえば、Notch/CSL受容体のようなNotch介在シグナリングによって活性化されるレポーターシステムが使用されてもよく、レポーターシステムの出力における抗DLL4抗体の作用を分析できる。Notch/CSLレポーターシステムの場合、ルシフェラーゼ活性の減少は、Notch介在シグナリングにおける減少の指標であり、Notch介在シグナリングにおいて、抗体が阻害効果を有することを示している。
【0038】
特に別段の定めをした場合を除き、本明細書における「DLL4」との呼称は、DLL4のヒト型を意味することを意図する。
本明細書における「Notch」との呼称は、Notch1、Notch2、Notch3および/またはNotch4を含む。好ましくは、「Notch」は、Notch1である。
【0039】
抗体分子および結合蛋白質に関して、本明細書で使用される「キメラ化」との用語は、ある種(spicies)において見られる配列に由来するまたはそれに相当する抗体定常領域と、別種に由来する抗体可変領域(たとえば、VH、VL、CDRまたはFR領域)とを有する結合蛋白質を指す。好ましくは、抗体定常領域は、ヒトに、たとえば、ヒト生殖細胞系列もしくは体細胞において見られる配列に由来するまたはそれに相当するものであって、さらに、抗体可変領域(たとえば、VH、VL、CDRまたはEF領域)は、非ヒト系動物、たとえば、マウス、ラット、ウサギまたはハムスターにおいて見られる配列に由来するものである。
【0040】
抗体分子および結合蛋白質に関して、本明細書で使用される「ヒト型化された」との用語は、1またはそれより多くの可変領域(たとえば、VH、VL、CDRまたはFR領域)および/またはヒト、たとえば、ヒトにおける生殖細胞系列もしくは体細胞において見られる配列に由来するまたはそれに相当する抗体定常領域を有する結合蛋白質を指す。本明細書で使用される「ヒト型化された」結合蛋白質との用語は、改変して、ヒトにおける免疫原性を低減させた、いかなる結合蛋白質も含む。
【0041】
抗体をヒト型化させるための様々な技術は、本技術分野において公知である。一例としては、Roguska et al. “Humanization of murine monoclonal antibodies through variable domain resurfacing.” Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-73に記載された再表面化法(resurfaceing method)が含まれる。かかる再表面化は、マウス抗体のFv(可変断片)領域において、表面に接近し得る残基のパターンを変更して、ヒト抗体配列のFv領域において見られるパターンと類似化させるために使用される。別の技術は、CDRグラフト化に関し、この技術において、マウス抗体のCDR領域は、ヒトフレームワーク領域(FRs)と結合される。ヒトFRは、たとえば、ヒトのコンセンサス配列からの選択または個々のヒト抗体からの選択によって、選ばれてもよい。
【0042】
本発明の「ヒト型化された」結合蛋白質は、ヒトの配列をコードしないアミノ酸残基を含んでいてもよく、たとえば、in vitroでのランダムまたは部位特異的な変異(特に、保存的置換が関わっている変異、または結合蛋白質の少数の残基、たとえば結合蛋白質の1またはそれより多くのCDRを構成する残基の1、2、3、4または5つの変異)を含んでいてもよい。さらに、本発明のヒト結合蛋白質は、ヒトの配列から特定されたヒトコンセンサス配列を有する蛋白質を含む。
【0043】
本発明のヒト型化された結合蛋白質は、それら自体はヒト抗体分子において組み合わせで見られる、VH、VL、CDRまたはFR領域の組み合わせに限定されるものではない。このように、本発明のヒト型化された結合蛋白質は、ヒトにおいては、天然に必ずしも存在しない領域の組み合わせを含むもの、またはそれに相当するものであってもよい。
【0044】
本明細書で使用される「抗体」または「抗体分子」との用語は、免疫グロブリン分子を指す。
本明細書で使用される「抗体」または「抗体分子」との用語は、したがって、すべての抗体(たとえば、IgG、IgA、IgE、IgM、またはIgD)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト型化およびキメラ化抗体およびFc領域を改変した抗体を含むことを意図している。また、抗原結合ドメインを含む抗体断片も包含される。
【0045】
本明細書で使用される「抗体断片」との用語は抗原結合機能を示す適当な抗体断片、たとえばFab、Fab´、F(ab´)2、scFv、Fv、dsFv、ds−scFv、Fd、dAbs、ラクダ化抗体、TandAbsダイマー、ミニボディ、二量体ならびにそれらの多量体および二重特異性抗体断片を含むことを意図する。抗体は、一般的な方法を用いて断片化され得る。たとえば、F(ab´)2断片は、当該抗体をペプシンで処理することによって、生成され得る。また、得られたF(ab´)2断片は、ジスルフィド架橋を低減する処理がなされて、Fab´断片を生成する。さらに、パパイン消化は、Fab断片の形成に至らしめることができる。Fab、Fab´ならびにF(ab´)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、dAbs、TandAbs、ds−scFv、ダイマー、ミニボディ、二量体、二重特異性抗体断片およびその他の断片も、組み換え技術で合成され得るし、あるいは化学的に合成され得る。抗体断片を産生する技術は、本技術分野において周知であり、記載されているものである。
【0046】
抗体または抗体断片は、天然に産生され得、または全体もしくは部分的に合成的に産生され得る。このように、上記抗体は、適当な供給源、たとえば、組換え型の供給源に由来するものおよび/またはトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物から産生されるものであってもよい。このように、抗体分子を、in vitroまたはin vivoにおいて産生できる。
【0047】
好ましくは、抗体または抗体断片は、一般的に抗原結合部位を含む抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含む。ある実施態様においては、抗体および抗体断片は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgE、IgMまたはIgDの定常領域のような、重鎖定常領域の一部またはすべてを含む。好ましくは、重鎖定常領域は、IgG1重鎖定常領域である。Fc領域をいくつかの方法によって、たとえば、Fc受容体または補体のC1成分のような免疫エフェクター機能と相互作用するように改変して、機能を変化させてもよい。さらには、抗体および抗体断片は、κ軽鎖定常領域またはλ軽鎖定常領域のすべてまたは一部を含むことができる。好ましくは、軽鎖定常領域はκ軽鎖定常領域である。定常領域のすべてまたは一部は、天然に産生されたものであっても、そのすべてまたは一部において合成されたものであってもよい。定常領域の適当な配列は、本技術分野においては周知であり、文書化されている。
【0048】
本明細書で使用される「断片」との用語は、生物学的関連性(biological relevance)、たとえば、抗原結合に寄与できる断片、抗原結合部位の一部を形成している断片、抗原の機能の阻害もしくは低減に寄与できる断片、または、抗原の天然受容体との相互作用の阻止に寄与する断片を指す。好適な断片は、本発明の抗体における重鎖可変領域(VH)ドメインおよび/または軽鎖可変領域(VL)ドメインである。その他の好適な断片は、本明細書にて開示された、1またはそれより多くの重鎖相補性決定領域(CDR)および/または、本明細書にて開示された、1またはそれより多くの軽鎖相補性決定領域(CDR)を含む。
【0049】
本発明の結合蛋白質が、規定された配列の何れかを含む(たとえば、配列番号1または2の断片を含む)、たとえば、本発明のVHおよび/またはVLドメインを含む結合蛋白質である、または本発明の1またはそれより多くのCDRを含む結合蛋白質である本発明の実施態様においては、これらの領域/ドメインは、各領域/ドメインが生物学的機能を発揮でき、かつ抗原結合への貢献が保持されるように、一般的に結合蛋白質の内部においては分離されている。VHおよびVLドメインは、適当なスキャホールド配列/リンカー配列によって分離されてもよく、CDRは、天然に存在する抗体において見られるフレームワーク領域などの、適当なフレームワーク領域で分離されていてもよい。本願発明の、VH、VLおよび個々のCDR配列は、適当なフレームワークまたはスキャホールド内部に供されて、すなわち組込まれて、抗原の結合を可能にする。このようなフレームワークまたは領域は、天然に存在するフレームワーク領域、FR1、FR2、FR3および/またはFR4に一致し、必要に応じて、適当なスキャホールドを形成するものか、あるいは、たとえばappropriate、種々の天然に存在するフレームワーク領域を対比することで特定されるコンセンサスフレームワーク領域に一致するものである。さもなくば、非抗体のスキャホールドまたはフレームワークが、たとえば、T細胞受容体フレームワークが使用され得る。スキャホールドは、通常抗原に結合しない蛋白質、たとえば細胞毒性Tリンパ球関連蛋白質4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)(CTLA4)から、使用されてもよい。
【0050】
フレームワーク領域に使用されることができる適当な配列は、本技術分野においては周知であり、文書化されており、これらの何れが使用されてもよい。フレームイワーク領域の好適な配列は、1またはそれより多くの、本発明のVHおよび/またはVLドメインを構成するフレームワーク領域、すなわち、1またはそれより多くの、配列番号9、10、11,12、13、14、15もしくは16にて開示されたフレームワーク領域またはこれらの配列と実質的に相同なフレームワーク領域、特に、抗原特異性の維持を可能にするフレームワーク領域、たとえば、結果として結合蛋白質の3次元構造と実質的に同一になるフレームワーク領域である。好適な実施態様においては、配列番号9、10、11および12の4つすべてのFR領域またはこれらの配列と実質的に相同なFR領域、および/または配列番号13、14、15および16の4つすべてのFR領域は、本発明の結合蛋白質において見られる。
【0051】
さらに、本発明の好適な結合蛋白質は、本発明のVH、VLまたはCDRから構成されているが、DLL4へ結合する特性が依然として存在する場合に限り、本発明の結合蛋白質は、1またはそれより多くの、本発明ではないその他のVH、VLまたはCDRとの組み合わせを伴った、1またはそれより多くの本発明のVH、VLまたはCDRも包含することも注意されたい。ここで、好ましくは、抗原DLL4に対する結合特異性が依然として存在する。最も好ましくは、DLL4がNotchと相互作用することを阻止する特性も存在する。
【0052】
本明細書で使用される「重鎖相補性決定領域」との用語は、抗体分子における重鎖可変領域(VHドメイン)内部における超可変性領域を指す。重鎖可変領域は、アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、重鎖相補性決定領域1、重鎖相補性決定領域2および重鎖相補性決定領域3と呼ばれる3つの相補性決定領域を有する。重鎖可変領域は、4つのフレームワーク領域(アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、FR1、FR2、FR3およびFR4)も有する。これらの領域は、各CDRを分離している。
【0053】
本明細書で使用される「重鎖可変領域」(VHドメイン)との用語は、抗体分子の重鎖における可変領域を指す。
本明細書で使用される「軽鎖相補性決定領域」との用語は、抗体分子の軽鎖可変領域(VLドメイン)内における超可変領域を指す。軽鎖可変領域は、アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、軽鎖相補性決定領域1、軽鎖相補性決定領域2および軽鎖相補性決定領域3と称される3つの相補性決定領域を有する。軽鎖可変領域は、4つのフレームワーク領域(アミノ末端からカルボキシ末端にかけて、FR1、FR2、FR3およびFR4)も有する。これらの領域は、各CDRを分離している。
【0054】
本明細書で使用される「軽鎖可変領域」(VLドメイン)との用語は、抗体分子の軽鎖における可変領域を指す。
上記にて規定したような本発明の結合蛋白質をコードする配列またはこの配列と実質的に相同な配列を含む核酸分子は、本発明のさらに別の態様を形成するものである。好適な核酸分子は、配列番号17もしくは18にて規定された配列、またはこれらの配列と実質的に相同な核酸分子である。
【0055】
本発明の核酸分子は、抗体産生に使用されてもよく、発現宿主における好ましいコドン使用頻度(codon usage)に適合させるために、一層、配列を最適化してもよい。このような最適化は、頻繁に使用されないコドンからより頻繁に使用されるコドンへの置換、そのため、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列に影響がない核酸配列への変更に関する。発現宿主における好適なコドン使用頻度に関する情報は、広く入手可能であり、核酸配列を変更する標準的な方法を使用して、最適化された配列へ到達してもよい。コドンが最適化された配列番号17または18に基づく配列は、本発明のさらなる好適な実施態様を含む。
【0056】
上記にて規定したような本発明の結合蛋白質の断片またはこれらの配列と実質的に相同な配列は、本発明のさらに別の態様を形成するものである。
したがって、本発明は、上記にて規定された本発明のVLドメインもしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を含むまたはそれらからなるポリペプチド、あるいは上記にて規定された本発明のVHドメインもしくはこれらの配列と実質的に相同な配列を含むまたはそれらからなるポリペプチドであって、DLL4に結合可能なポリペプチドを提供する。
【0057】
本発明は、さらに、上記にて規定されたような本発明の、1もしくはそれより多くのCDR領域またはこれらの配列と実質的に相同な配列を含み、DLL4に結合可能であるポリペプチドを提供する。
【0058】
本発明に係る結合蛋白質の断片をコードする配列を含む核酸分子またはこれらの配列と実質的に相同な核酸分子は、本発明のまた別の態様を形成する。このような断片(たとえば、VHドメイン、VLドメインおよび各CDR)をコードする好適な核酸配列は、配列番号17または18において見られる。
【0059】
アミノ酸または核酸配列に関して、本明細書で使用される「実質的に相同な」との用語は、開示されたアミノ酸配列または核酸配列に対して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは、90%、95%、96%、97%、98%または99%を有する配列を含む。本発明の実質的に相同な配列は、本発明の配列に対する、単数のまたは複数の塩基またはアミノ酸の変異(付加、置換、挿入、または欠失)を含む。アミノ酸レベルおいては、好適な実質的に相同な配列は、本発明の配列を構成する、1もしくはそれより多くのフレームワーク領域および/または、1もしくはそれより多くのCDRにおいて、5、4、3、2または1未満、好ましくは1または2だけの、変異したアミノ酸を含む。好ましくは、当該変異は、保存的アミノ酸置換である。
【0060】
そのため、軽鎖CDR1と実質的に相同な配列は、好ましくは、KASSSVSFMH(配列番号23)、RASSTVSFMH(配列番号24)、RASSSVTFMH(配列番号25)、RATSSVSFMH(配列番号26)、RASTSVSFMH(配列番号27)、RASSSASFMH(配列番号28)、RVSSSVSFMH(配列番号29)、RVSSSASFMH(配列番号30)、KASSSASFMH(配列番号31)、RVSSTVSFMH(配列番号32)、RASSSLSFMH(配列番号33)またはRASSSVSWMH(配列番号34)から選択され;
軽鎖CDR2と実質的に相同な配列は、好ましくは、VTSNLTS(配列番号35)、ATTNLTS(配列番号36)、ATSNLTT(配列番号37)、ATSQLTS(配列番号38)、ATSNITS(配列番号39)、ASSNLTS(配列番号40)、ATSNLSS(配列番号41)またはVTSNITS(配列番号42)から選択され;
軽鎖CDR3と実質的に相同な配列は、好ましくは、NQWSSNPFT(配列番号43)、QNWSSNPFT(配列番号44)、QQFSSNPFT(配列番号45)、QQWTSNPFT(配列番号46)、QQWSTNPFT(配列番号47)、QQWSSQPFT(配列番号48)、QQWSSNPWT(配列番号49)、QQWSSNPFS(配列番号50)、NQWSTNPFT(配列番号51)、NNWSSNPFT(配列番号52)またはQQWTTNPFT(配列番号53)から選択され;
重鎖CDR1と実質的に相同な配列は、好ましくは、TYVMH(配列番号54)、STVMH(配列番号55)、SYAMH(配列番号56)、SYVML(配列番号57)またはTYAMH(配列番号58)から選択され;
重鎖CDR2と実質的に相同な配列は、好ましくは、YLIPYNDGTKYNEKFKG(配列番号59)、YILPYNDGTKYNEKFKG(配列番号60)、YIIPYQDGTKYNEKFKG(配列番号61)、YIIPYNEGTKYNEKFKG(配列番号62)、YIIPYNDGSKYNEKFKG(配列番号63)、YIIPYNDGTRYNEKFKG(配列番号64)、YIIPYNDGTKYQEKFKG(配列番号65)、YIIPYNDGTKYNDKFKG(配列番号66)、YIIPYNDGTKYNEKWKG(配列番号67)、YIIPYNDGTKYNEKFRG(配列番号68)、YLLPYNDGTKYNEKFKG(配列番号69)、YILPYQDGTKYNEKFKG(配列番号70)またはYILPYNEGTKYQEKFKG(配列番号71)から選択され;
重鎖CDR3と実質的に相同な配列は、好ましくは、TEDYDHFDY(配列番号72)、SDDYDHFDY(配列番号73)、SEEYDHFDY(配列番号74)、SEDTDHFDY(配列番号75)、SEDYEHFDY(配列番号76)、SEDYDKFDY(配列番号77)、SEDYDHWDY(配列番号78)、SEDYDHFEY(配列番号79)、SEDYDHFDT(配列番号80)、SDEYDHFDY(配列番号81)、SDEYDHFEY(配列番号82)、TEDYEHFDY(配列番号83)またはTDEYEHFDY(配列番号84)から選択される。
【0061】
実質的に相同な核酸配列は、開示された核酸配列(または、その相補配列)にハイブリダイズするヌクレオチド配列、たとえば、1またはそれより多くの、本発明の軽鎖CDRもしくは重鎖CDR、本発明の軽鎖可変領域もしくは重鎖可変領域、または本発明の結合蛋白質をコードするヌクレオチド配列と、少なくとも、適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件、好ましくは非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下において、ハイブリダイズする(または、これらの相補配列とハイブリダイズする)配列を含む。
【0062】
「実質的に相同」との用語は、本発明の蛋白質または核酸分子と、実質的に同様の方法において、実質的に同様に機能する、本発明のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列における改変または化学的等価物を包含するものである。たとえば、実質的に相同な結合蛋白質は、DLL4に対して、好ましくは、着目されている結合蛋白質によって認識されるものと同一のエピトープ、たとえば、本明細書にて記載された本発明のCDRドメインまたは本発明のVHドメインやVLドメインによって認識される同一のエピトープまたは抗原に対して、特異的に結合する能力を保持していなければならない。同一のエピトープ/抗原への結合は、本技術分野において周知であり、開示されている方法、たとえば、競合アッセイによって、容易に評価され得る。遺伝的なアミノ酸に対する、非遺伝的にコードされた適切な等価物は、本技術分野において公知である。
【0063】
本発明における蛋白質の実質的に相同な配列は、限定されるものではないが、保存的アミノ酸置換、または、たとえば、結合蛋白質のVH、VLもしくはCDRドメインに影響しない変異を含み、例として、抗原の結合に寄与しないタグ配列またはその他の構成因子、あるいは抗体分子または断片の型またはフォーマットを他の型またはフォーマットに変換する変異(たとえば、FabからscFvへの交換、またはその逆)が加えられた結合蛋白質を含む。
【0064】
本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、同様な側鎖を有する別のアミノ酸残基で置換されることである。同様な側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、本技術分野においては、塩基性側鎖(たとえば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえば、アスバラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖(たとえば、グリシン、アルパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含めて、規定されている。
【0065】
相同性は、任意の簡便な方法によって評価されてもよい。しかしながら、配列間の相同性の程度を決定するためには、配列のマルチプルアラインメントができるコンピュータープログラム、たとえば、Clustal W(Thompson, J. D., D.G. Higginset al. (1994). “CLUSTAL W: Improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice.” Nucleic Acids Res 22: 4673-4680)が便利である。要望によっては、Clustal Wのアルゴリズムは、BLOSUM 62 scoring matrix(Henikoff S.and Henikoff J.G., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)ならびに10のギャップ開始ペナルティおよび0.1のギャップ伸長ペナルティとともに使用することができ、これによって、1つの配列の全長の少なくとも50%がアラインメントに関与した2配列間において、最も高いオーダーマッチが得られる。一般的には、上記コンピュータープログラムは、このような計算のために採用されるであろう。ペアの配列を比較したり、アラインメントを採ったりするプログラムは、ALIGN(E. Myers and W. Miller, “Optical Alignments in Linear Space”, CABIOS (1988) 4: 11-17)、FASTA(W.R. Pearson and D.J. Lipman (1988), “Improved tools for biological sequence analysis”, PNAS 85:2444-2448, および W.R. Pearson (1990) “Rapid and sensitive sequence comparison with FASTP and FASTA” Methods in Enzymology 183:63-98)およびギャップド(gapped)BLAST(Altschul, S.F., T.L. Madden, et al. (1997). “Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs”. Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402)、BLASTP、BLASTNまたはGCG(Devereux et al., Nucleic Acids Res., 1984, 12: 387)も本目的のためには有用である。さらには、欧州生命情報学研究所(European Bioinformatics institute)におけるDali serverは、蛋白質配列の構造に基づいたアラインメントを提供している(Holm, J. of Mol. Biology, 1993, Vol. 233: 123-38; Holm, Trends in Biochemical Sciences, 1995, Vol 20: 478-480; Holm, Nucleic Acid Research, 1998, Vol. 26: 316-9)。
【0066】
「少なくとも適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、溶液中において2つの相補的な核酸分子の間における選択的なハイブリダイゼーションを促進する選択条件を意味する。ハイブリダイゼーションは、核酸配列分子のすべてまたは一部分にて生じ得る。ハイブリダイズした部分は、典型的には、少なくとも15(たとえば、20、25、30、40または50)のヌクレオチドの長さである。当業者にとっては、核酸2重鎖の安定性すなわちハイブリッドの安定性は、Tmによって決定され、かかるTmは、ナトリウムを含む緩衝液においては、ナトリウムイオン濃度と温度との関数であることが認識されよう。したがって、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件におけるパラメーターは、ナトリウムイオン濃度および温度である。既知の核酸分子に対して類似しているが同一でない分子を認識するために、1%のミスマッチはTmが約1℃減少する結果になると推定される。たとえば、95%を超える同一性を有する核酸分子が要求される場合、最終的な洗浄温度は約5℃低減される。これらを考慮して、当業者ならば、容易に適当なハイブリダイゼーション条件を選択することができる。好適な実施態様においては、非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が選択される。例としては、以下の条件を採用して、非常にストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成してもよい:5x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5xデンハルト溶液/1.0%SDS、上記方程式に基づいたTm−5℃でのハイブリダイゼーション、次いで、60℃での0.2xSSC/0.1%SDSの洗浄。適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、42℃での3xSSCの3回の洗浄工程を含む。
【0067】
さらなる例として、「ハイブリダイズする」配列は、非ストリンジェントな条件(たとえば、室温における6xSC、50%ホルムアミド)の下で結合(ハイブリダイズ)し、低いストリンジェンンシー(たとえば、2xSSC、室温、より好ましくは2xSSC、42℃)または高いストリンジェンンシー(たとえば、2xSSC、65℃)(ここで、SSC=0.15MNaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.2)の条件の下、洗浄される配列である。
【0068】
しかしながら、等価であるストリンジェンシーは、別の緩衝液、塩および温度を用いて達成されてもよい。ハイブリダイゼーション条件に関する追加的な指針としては、たとえば、Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Vol.3.において見られる。
【0069】
本発明におけるポリペプチド、結合蛋白質および核酸分子は、ヒトもしくは動物の身体内にてin situにて、またはヒトもしくは動物の身体に由来する組織試料にて、存在しない場合においては、好ましくは「単離された(isolated)」分子である。しかしながら、該配列は、ヒトもしくは動物の身体において見られるような配列に一致してもよく、または実質的に相同であってもよい。このように、核酸分子、蛋白質またはポリペプチドに関して、本明細書で使用される「単離された」との用語は、天然の環境から単離されたまたは実質的に離れた上記の分子、たとえば、ヒトもしくは動物の身体から単離された上記の分子(実際、上記分子が天然にある場合)を指し、あるいは、技術的方法により生産された上記の分子を指す、つまり組換え的または合成的に生産された分子を含む。
【0070】
このように、「単離された」との用語は,その他の核酸やポリペプチドのような天然に付随する材料が実質的になく、および/または組換えDNA技術によって産生される際における細胞材料もしくは培養液が実質的にないか、または化学的に合成された際における化学的前駆体もしくはその他の化学物質が実質的にない核酸やポリペプチドを指す。単離された核酸は、当該核酸が由来する核酸に元々隣接する配列(つまり、当該核酸において、5´位および3´位の末端に位置する配列)、または、たとえば遺伝子工学によって、当該核酸に隣接させられた配列(たとえば、タグ配列または治療的価値を有さないその他の配列)を実質的に有していなくてもよい。
【0071】
単離された蛋白質は、単離された核酸分子に対して、上述のような隣接する配列を有さないものであってもよい。
本明細書で使用される「核酸配列」または「核酸分子」との用語は、天然に存在する塩基、糖および糖間(骨格)結合からなるヌクレオシドはまたはヌクレオチドモノマーの配列を指す。この用語は、非天然のモノマーや部分を含む改変配列または置換配列も包含する。本発明の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)またはリボ核酸配列(RNA)であってもよいし、たとえばアデニン、グアニン、シトシン、チミンおよびウラシルを含む天然の塩基を含んでいてもよい。当該配列は、改変された塩基を含んでいてもよい。改変された塩基の例は、アザ型およびデアザ型である、アデニン、グアニン、シトシン、チミンおよびウラシル、ならびにキサンチンならびにヒポキサンチンを含む。核酸分子は、二重鎖または単鎖であってもよい。上記核酸分子は、全部または一部にて合成されたものまたは組み換えられたものであってもよい。
【0072】
当業者であれば、軽鎖および重鎖の相補性決定領域、軽鎖および重鎖の可変領域、結合蛋白質、抗体および抗体断片、ならびに免疫接合体のような本発明における蛋白質およびポリペプチドは、本技術分野において周知であり記載されている幾つかの方法の何れによって調製されてもよいが、最も好ましくは組換え方法を用いて調製される。
【0073】
したがって、本発明の核酸分子を、任意の適当な方法によってクローニングしてもよいし、合成してもよく、さらには、本発明の蛋白質の良好な発現を確実にする適当な発現ベクターに公知手段にて組込んでもよい。可能な発現ベクターは、使用された宿主細胞と適合可能である限り、限定されるものではないが、コスミド、プラスミドまたは改変ウイルス(たとえば、複製欠損型レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)を含む。発現ベクターは、「宿主細胞の形質転換に適し」ているものであって、このことは、発現ベクターが、本発明の核酸分子と、当該核酸分子に動作可能に結合している、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択される制御配列とを含むことを意味している。動作可能に結合していることとは、核酸の発現が可能なように、核酸が制御配列に結合していることを意図する。
【0074】
それゆえ、本発明は、本発明の核酸分子またはその断片、および本発明の核酸分子によりコードされた蛋白質配列の転写および翻訳に必要な制御配列を含む組換え型発現ベクターを意図する。
【0075】
適切な制御配列は、バクテリア遺伝子、菌類遺伝子、ウイルス遺伝子、哺乳類遺伝子または昆虫遺伝子を含めた、様々な供給源に由来するものであってもよい(たとえば、Coeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載された制御配列を参照)。適当な制御配列の選択は、以下に議論されるように、選択された宿主細胞に依存し、当業者によって容易に達成される。このような制御配列の例は、転写プロモーターおよびエンハンサー、または翻訳開始シグナルを含むRNAポリメラーゼ結合配列、リボソーム結合配列を包含する。さらには、選択された宿主細胞および採用されたベクターに応じて、複製起点、追加的なDNA制限部位、エンハンサー、および転写誘導性を付与する配列のような、その他の配列が発現ベクターに組込まれてもよい。
【0076】
本発明の組換え型発現ベクターは、形質転換した宿主または本発明の組換え型分子でトランスフェクトされた宿主の選択を容易にする選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子遺伝子の例は、特定の薬剤に対する耐性を付与するネオマイシンおよびハイグロマイシンや、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼまたはホタルルシフェラーゼなどの蛋白質をコードする遺伝子である。選択マーカー遺伝子の転写は、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、またはホタルルシフェラーゼのような選択マーカー蛋白質の濃度変化によって観察される。選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性のような抗生物質耐性を付与する蛋白質をコードする場合、形質転換細胞はG418で選択することができる。ここで、選択マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は生存するものの、その他の細胞は死滅する。このことは、本発明の組換え型発現ベクターの発現を可視化および分析することができ、そして、特に、発現および表現型における変異の効果を究明することができる。選択マーカーは、目的の核酸から別個のベクターに導入され得ることが理解されよう。
【0077】
組換え型発現ベクターは、組換え蛋白質の発現上昇や、組換え蛋白質の可溶性の向上を賦与する、および/またはアフィニティー精製おいてリガンドとしての役割を有することによって、目的の組換え蛋白質の精製を補助する、融合部分をコードする遺伝子を含んでいてもよい。たとえば、タンパク質開裂部位が目的の組換え蛋白質に付加されて、融合蛋白質の精製後に、かかる融合部分(fusion moiety)から組換え型蛋白質を分離できるようになっていてもよい。一般的な融合型の発現ベクターは公知であり、pGEX(Amrad Corp.、Melbourne、Australia)を包含する。このpGEXは、組換え蛋白質へグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)を融合させる。
【0078】
一つの実施態様において、組換え型発現ベクターは、膜アンカーを与える融合部分をコードする核酸配列と、細胞表面移行シグナルを与える融合部分をコードする核酸配列とを含んでいてもよい。本発明の結合蛋白質は、発現宿主細胞の細胞膜に移行して、該細胞膜に留まる融合蛋白質として、発現されてもよい。適切な膜アンカー部分は、本技術分野において公知であるものだが、例としては、枯草菌(Bacillus subtilis)に由来するPgsAアンカー蛋白質が、本明細書では挙げられる。適切な細胞表面移行シグナル(分泌シグナル)も本技術分野において公知である。このような発現ベクターが使用されて、本発明の結合蛋白質が、発現宿主細胞の表面にて発現されてもよく、この細胞の表面において、結合蛋白質がDLL4と、好ましくは該宿主細胞によって発現されたDLL4と相互作用することができる。
【0079】
また別の実施態様としては、組換え型発現ベクターは、融合蛋白質が発現宿主細胞の細胞内区画、たとえば小胞体において、融合蛋白質を係留せしめるシグナル配列を与える融合部分をコードする核酸配列を含んでいてもよい。適切なシグナル配列は、本技術分野において公知であるが、カルボキシ末端配列HDEFが、例として、本明細書では挙げられる。本発明の結合蛋白質を細胞内区画において発現させて、そこで結合蛋白質が該宿主細胞によって発現されたDLL4と相互作用することができるようにするために、このような発現ベクターが使用されてもよい
したがって、さらなる態様において、本発明は遺伝子治療の方法を提供するものであって、ここで本明細書中に記載の組換え型発現ベクターは、対象とする細胞を形質転換するために使用され、上記融合蛋白質の発現は、DLL4がその天然受容体および/または天然リガンド、好ましくはNotchに結合することを阻止する。
【0080】
形質転換された宿主細胞を産生するために、組換え型発現ベクターを宿主細胞に導入することができる。「〜を用いて形質転換された」,「〜を用いてトランスフェクトされた」,「形質転換」および「トランスフェクト」という用語は、当該分野において公知の 実施できる多くの技術のうち一つを用いて、核酸(例えば、ベクター)を細胞に導入することを包含する。核酸を用いて、例えば、電気穿孔法または塩化カルシウムを媒介した形質転換によって、原核細胞を形質転換することができる。リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈殿,DEAE−デキストランを媒介したトランスフェクト,リポフェクチン,電気穿孔法または微量注入法などの従来技術によって哺乳動物細胞に核酸を導入することができる。宿主細胞を形質転換およびトランスフェクトする好適な方法は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990))および他の実験室用教科書から見出すことができる。
【0081】
好適な宿主細胞として、多種多様の真核宿主細胞および原核細胞が挙げられる。本発明の蛋白質は、例えば、酵母細胞または哺乳類動物細胞に発現させてもよい。他の好適な宿主細胞は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1991)から見出せる。さらに、本発明の蛋白質は、Escherichia coli(Zhang et al., Science 303(5656): 371-3 (2004))などの原核細胞に発現させることもできる。
【0082】
本発明を実施するのに好適な酵母および真菌の宿主細胞として、これらの限定されるものではないが、Saccharomyces cerevisiaeおよびピキア(Picha)属が挙げられる。酵母および真菌ならびに好適な発現ベクターによる形質転換のプロトコールは、当業者に周知である。
【0083】
本発明を実施するのに好適な哺乳類動物細胞としては、とりわけHeLa細胞(例えば、ATCC No.CCL2)が挙げられる。
本明細書中に提供された教示を鑑みれば、プロモーター,ターミネーター,ならびに,適切なタイプの発現ベクターを植物細胞,トリ細胞および昆虫細胞に導入する方法も容易に成し遂げることができる。
【0084】
代わりに、本発明の蛋白質は、ラット,ウサギ,ヒツジおよびブタなどのヒト以外のトランスジェニック動物に発現させてもよい。一態様として、本発明の蛋白質は、ヒトに発現させる。
【0085】
本発明の蛋白質は、固相合成などの、蛋白質の化学において周知の技術を用いた化学合成によって調製することもできる。
蛋白質などの他の分子に接合された本発明の蛋白質を含む、N末端またはC末端の融合蛋白質は、組換え技術を介して、融合によって調製してもよい。その結果得られた融合蛋白質は、選択した蛋白質またはマーカー蛋白質と融合された本発明の蛋白質を含む。
【0086】
また、本発明の蛋白質は、公知技術によって他の蛋白質と接合してもよい。例えば、国際公開第90/10457号パンフレットに記載されているようなヘテロ二官能性のチオール基含有リンカーであるN−サクシニミジル−3−(ピリジルジチオプロプリオネート)またはN−サクシニミジル−5チオアセテートを用いて該蛋白質と連結させてもよい。融合蛋白質または接合体を調製するために用いてもよい蛋白質の例として、細胞毒性ポリペプチド,放射性ヌクレオチド,サイトカイン,抗体分子,免疫グロブリンなどの細胞結合蛋白質,ホルモン,増殖因子,レクチン,インシュリン,低密度リポ蛋白質,グルカゴン,エンドルフィン,トランスフェリン,ボンベシン,アシアロ糖蛋白質,グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST),赤血球凝集素(HA),切断型mycおよびあらゆる種類の酵素が挙げられる。好ましい態様において、本発明の蛋白質は、T細胞受容体情報伝達系の成分と接合または融合される。これによって、該融合蛋白質を発現するエフェクター細胞に新しい特異性が与えられる。
【0087】
したがって、本発明の1以上の 核酸配列、または本発明の蛋白質(軽鎖および重鎖の相補性決定領域,軽鎖および重鎖の可変領域,もしくは抗体および抗体断片等の上記結合蛋白質など)をコードする1以上の核酸配列を含む組換え型発現ベクターを、本発明は提供する。
【0088】
本発明の、1以上の組換え型発現ベクターもしくは1以上の核酸配列を含む宿主細胞、または本発明の1以上の蛋白質(軽鎖および重鎖の相補性決定領域,軽鎖および重鎖の可変領域,もしくは抗体および抗体断片等の上記結合蛋白質など)を発現している宿主細胞を、さらに本発明は提供する。
【0089】
本発明のさらなる態様は、本発明の宿主細胞を培養する段階を含む本発明の蛋白質を製造する方法を提供する。好ましい方法は、該蛋白質の発現に好適な条件下で、本発明の、1以上の組換え型発現ベクターまたは1以上の核酸配列を含む宿主細胞を培養する段階(i)を含み;該宿主細胞または成長培地/上清から該蛋白質を分離する段階(ii)を任意で含む。このような製造方法は、該蛋白質産物を精製する段階および/または少なくとも1つの追加成分(薬学的に許容し得る担体もしくは賦形剤など)を含む組成物に該産物を処方する段階も含んでもよい。
【0090】
本発明の蛋白質が1以上のポリペプチド鎖(例えば、Fab断片などの特定の断片)から構成されている態様において、完全蛋白質、例えば本発明の結合蛋白質、が上記宿主細胞中で会合して該細胞から分離できるように、同じかまたは異なる発現ベクターからすべてのポリペプチドが該宿主細胞中で発現されることが好ましい。
【0091】
本発明の結合蛋白質は、上記細胞の表面に発現しているDLL4に対して特異性を有する。したがって、本発明の結合蛋白質は、in vivoまたはin vitro において、DLL4を発現している細胞またはDLL4が異常発現している部位を検出するために使用することができる。このようにして、本発明の結合タンパク質は、DLL4を発現している細胞が存在する身体部位を標的にし、すぐに該結合蛋白質が標的部位(例えば、標的組織,器官または細胞)に作用するようにすることができる。
【0092】
さらに、本発明の結合蛋白質は、他の実体に接合することができ、そしてDLL4を発現している細胞が存在する身体部位に対して、これら他の実体を標的にするために使用することもできる。(該結合蛋白質が抗体分子の場合、このような接合体は免疫接合体とも呼ばれる。)
このような他の実体は、標識または他の検出可能成分であってもよく、この場合、これら接合分子は、身体部位、特に異常血管新生で悪化した身体部位、例えば癌 、のin vivoまたはin vitroでの診断またはイメージングに有用である。適切な標識および検出可能成分は当該分野において公知であるが、ここでは例として、放射性ヌクレオチドまたは常磁性粒子を挙げる。検出は、公知技術を用いて実施することができ、例えば、該検出可能成分が常磁性粒子である場合、磁気共鳴映像法(MRI)を用いて該粒子を検出することができる。該検出可能成分が放射性物質である場合、PET画像法またはPETスキャンとも呼ばれる陽電子放出断層撮影法をイメージングのために用いてもよい。超音波画像診断または光学的画像も、適切なら用いることができる。
【0093】
代わりに、本発明の結合蛋白質は、毒素,酵素,薬物,プレドラッグ、プロドラッグもしくは他の低分子量成分などの生物学的に活性な分子あるいは医療関連の薬剤、組織因子,サイトカインなどの凝固を制御する分子、または核酸分子、例えば、アンチセンス分子もしくはウイルスと接合できるかもしれず 、その場合、DLL4を発現している細胞(好ましくは上皮性悪性腫瘍細胞)が存在する身体部位または細胞に対して、例えば、上記の薬物,毒素または酵素などを標的にすることにより、これら接合分子は標的治療に有用であろう。このような生物学的に活性な分子または医療関連の薬剤は、例えば、身体の中において、活性型であっても活性化される予定の型であってもよい。特に、このような分子はDLL4を発現している細胞、例えば癌細胞を標的にするために使用できる。当業者は、好適な分子、例えば好適な細胞毒性分子の例について熟知している。上記結合蛋白質と接合してもよい好適な分子として、例えば、サポリン,リシン,ゲムシタビン 、およびサマリウム(Quadramet(商標 )の名称で入手可能)などの放射性ヌクレオチド,緑膿菌外毒素,ジフテリア毒素,炭疽,破傷風毒素,アブリン,カプサイシン ならびにクロモリンが挙げられる。
【0094】
結合蛋白質の接合体は、よって本発明の好ましい結合蛋白質である。接合体に用いられるべき結合蛋白質は、完全長(全部)抗体,F(ab’)2,FabまたはscFvが好ましい。
【0095】
本発明の結合蛋白質とこのような他の実体とを接合させる方法は、当該分野において周知であり記載もされており、そして適切な方法は、接合される該結合蛋白質と該他の実体との性質に応じて容易に選択することができる。よって、該他の実体は、直接または媒介物、例えば適切なリンカーを介して本発明の結合蛋白質と接合することができる。該接合体は、例えば、共有結合性であっても非共有結合性であってもよい(例えば、該結合蛋白質と、より好都合なことには化学基やペプチドタグなどの中間を繋ぐ実体と複合体を形成することによって、該他の実体は該結合蛋白質と接合することができる)。複合体のような結合は、例えば、多くの放射性同位元素にとって適切である。 このような態様において、上記結合蛋白質(例えば、上記の抗体または抗体断片)は、上記接合された実体とともに、例えば、ミセル,リポソーム,気泡またはナノ粒子などの人工粒子を形成している人工膜に含まれるか、または取り込まれることができるかもしれない。これら粒子は、該結合蛋白質により標的身体部位に導かれ、その後、該標的部位で上記細胞と融合するか、またはエンドソーム経路を介して内在化することができ、その結果、該人工粒子から該標的細胞(例えば、腫瘍細胞)へ上記接合実体(例えば、上記の生物学的に活性な分子または医薬関連の薬剤)が放出される。さらに、このような人工膜内に分子を取り込む方法は、当該分野において周知であり記載もある。本発明者らは、ヒト膵癌および正常な膵臓組織内でのDLL4の発現を詳細に調べた。本実施例の項目に記載されているように、10個の膵癌のケースからなる臨床材料中でのDLL4の発現を研究するために、市販の抗ヒトDLL4 mAb(R&D System社)を用いた免疫染色を実施した。リンパ節転移を含む主な腫瘍病変の切片を、「正常な」膵臓組織と同等であると考えられる、腫瘍がない病変の切片と比較した。 すべてのケースにおいて、DLL4の発現は、正常なランゲルハンス島および癌細胞の相当の部分でもっとも高く、続いて排出微細管,脂肪組織,小血管,および動脈であった。主膵管および成熟静脈では、陽性の染色細胞は、たとえあるとしてもほとんど、認められなかった。血管系内においては、DLL4の発現は比較的、動脈および毛細血管に限定されていた。動脈では、DLL4発現の優勢な部位は、周皮またはその周辺であり、内皮ではなかった。 商業的供給源から組換え型可溶性の形態のDLL4を容易に入手できたことから、当業者はそれを使用したことを充分理解している。本発明の結合蛋白質は未変性DLL4に結合することができるため、本発明は、組換え型可溶性DLL4に対する結合蛋白質に決して限定されるものではない。 図1に示すように、このようにして得られた新規抗DLL4 mAbは、ヒトDLL4をトランスフェクトしたCHO細胞と反応したが、モックをトランスフェクトしたCHO細胞(ネガティブコントロール)には反応せず、組換え型可溶性マウスDLL4をトランスフェクトしたCHO細胞にも反応しなかった。図1は、該mAbがヒトDLL4に対して高い特異性を有することを示している。 さらに、ヒトJagged1 ,Jagged2,またはDLL1をトランスフェクトしたCHO細胞に対して、3種類の抗DLL4 mAbはいずれも交差反応を示さなかった(データを示さず)。これによって、該mAbのヒトDLL4に対する特異性がさらに裏付けられた。 該抗体は、DLL4をトランスフェクトしたCHO細胞に対するヒトNotch1 −Fcの結合阻害能によってもスクリーニングされた。図2に示すように、該抗DLL4 mAbは、ヒトDLL4をトランスフェクトしたCHO細胞に対してNotch1−Fcの結合を阻害した。 上記STL4抗体も、Notchを媒介したシグナリングの阻害能によって、Notch/CSLレポーターを用いてスクリーニングされた。Notchを媒介したシグナリングにおけるSTL4の阻害効果を図4に示す。 本発明者らは、STL4抗体がHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の遊走に対して阻害効果を有することも実証した(実施例7を参照)。したがって、上記結合蛋白質は、内皮細胞、好ましくはヒト内皮細胞,もっとも好ましくはHUVEC細胞の走化性を調節する、例えば阻害する)か有意に低減させることが好ましい。 したがって、本発明のさらなる側面は、治療,診断またはイメージングにおける使用のための、本明細書に定義する本発明の結合蛋白質を提供する。好ましくは、上記結合蛋白質は、異常なDLL4シグナリングシグナリングおよび/または異常血管新生によって特徴付けられる疾患または症状 の処置あるいは診断において使用される。別の見方によると、該結合蛋白質は、DLL4のレベルおよび/または機能を調節するために使用される。一態様において、該結合蛋白質は、血管新生を調節するために使用される。
【0096】
「異常なDLL4シグナリングシグナリング」とは、同じ発育段階にある健康な個体の同じ組織と比較して、DLL4および/またはそのリガンドもしくは受容体のいずれかの発現および/または活性の増加または低下を意味する。好ましくは、異常なDLL4シグナリングは、DLL4の発現および/または活性の増加または低下を意味する。DLL4の発現および/または活性が増加することが好ましい。
【0097】
発現レベルを測定する方法は当該分野において公知であり、その方法として、定性的なウェスタンブロット解析,免疫沈降,放射性学的アッセイ,ポリペプチド精製,分光光度的解析,アクリルアミドゲルのクーマシー染色,ELISA,rt−PCR,二次元ゲル電気泳動,マイクロアレイ解析,インシチュー・ハイブリダイゼーション,化学発光,銀染色,酵素試験,ポンソーS染色,免疫組織化学的アッセイ,放射免疫アッセイ,比色分析,免疫放射定量測定法,陽電子放出断層撮影,ノーザンブロッティング,蛍光分析およびSAGEが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Ausubel et al, eds. (2002) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley-Interscience, New York,を参照される。
【0098】
「血管新生」とは、血管、特に毛細血管の成長を含む組織の血管新生反応のプロセスを意味する。血管新生は、内皮細胞の増殖および/または分化を含んでもよい。よって、血管新生は、血管の発生,成長,伸長,または持続を包含する。
【0099】
「異常血管新生」とは、毛細血管(ただし、これに限定されない)などの血管の、不規則な発生,成長,伸長,もしくは持続を含む、任意の疾患,疾病,または発育上の症状を意図する。
【0100】
「DLL4レベルの調節」とは、標的領域または組織に存在するDLL4のレベルが、少なくとも1%,5%、好ましくは少なくとも10%,20%、より好ましくは少なくとも30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,99%変化することを意図する。
【0101】
「血管新生の調節」とは、標的領域または組織に存在するその容積もしくは血管内皮細胞の数および/または血管密度が、少なくとも1%,5%、好ましくは少なくとも10%,20%、より好ましくは少なくとも30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,99%変化することを意図する。
【0102】
結合蛋白質の血管新生調節能は、当該分野で周知の技術を用いてアッセイすることができる。例えば、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)フィブリンゲルビーズ(fibrin gel bead)アッセイは、はっきりとわかる管腔様構造を有する出芽の形成および増殖を詳細に調べるために用いることができる。
血管密度は、好適な抗体、例えば内皮細胞特異的抗体を用いた免疫組織化学染色によって定量化できる。簡潔に言えば、組織試料をまず好適な一次抗体に接触させ、次に適切な標識二次抗体に接触させる。該二次抗体が視覚化され、得られるシグナルの位置および強度が記録される。in vivoで血管新生を観測するために皮下チャンバーモデル(skinfold chamber model)を用いることができる。
【0103】
上記の疾患および症状は、アテローム性動脈硬化,関節炎,眼性血管新生,子宮内膜症,子宮筋腫,妊娠中毒症および癌から選択されることが好ましく、特に癌が好ましい。癌が処置される態様において、該癌は、子宮頚癌,子宮癌,卵巣癌,膵癌,腎癌,胆嚢癌,肝癌,頭頚部癌,扁平上皮癌,胃腸癌,乳癌(例えば、乳管の,小葉の,および乳頭の癌腫),前立腺癌,精巣癌,肺癌,非小細胞肺癌,非ホジキンリンパ腫,多発性骨髄腫,白血病(例えば、急性リンパ性白血病,慢性リンパ性白血病,急性骨髄性白血病,および慢性骨髄性白血病),脳癌(例えば、星細胞腫,神経膠芽腫,髄芽腫),神経芽細胞腫,肉腫,結腸癌,直腸癌,胃癌,肛門癌,腎癌,膀胱癌,膵癌,子宮内膜癌,形質細胞腫,リンパ腫,網膜芽細胞腫,カポジ肉腫,ウィルムス腫瘍,ユーイング肉腫,黒色腫および他の皮膚癌から好ましく選択される。これら癌のうち前立腺癌または膵癌が好ましい。充実性腫瘍が治療される態様が特に好ましい。転移が阻止される態様も好ましい。
【0104】
本発明のさらなる側面は、避妊法における使用のための、本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質を提供する。黄体(CL)は血管新生が著しい部位であり、密集した毛細血管網が形成されることによって、ホルモン産生細胞は、妊娠早期の成立および維持に必要な大量のプロゲステロンの合成および放出に必須の酸素,栄養素およびホルモン前駆体を得易くなる。これによって、本発明の結合蛋白質を避妊薬として使用する可能性が広がる。
【0105】
本発明のさらなる態様は、移植手術後の異常血管新生を低減または阻止することにおける使用のための、本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質の使用を提供する。移植手術部位での高レベルの血管新生が問題とされることがあり、そのため血管新生のレベルを調節することが望ましく、ある場合には、例えば、角膜またはその一部が移植されるときには、その移植手術部位の血管新生を最小限に抑えることが望ましいとされる。したがって、本発明は、移植治療の結果 を改善する方法を提供し、該方法は、前記の結合蛋白質または発現ベクターの好適量を、移植手術を実施する前,途中および/または後に、患者に投与することを含む。移植手術後の血管新生を低減させるために、移植手術前に好適量の本発明の結合蛋白質を用いて、移植のin vitroでの処置方法も提供される。
【0106】
さらに、本発明は、抗体および抗体断片などの本発明の結合蛋白質,および/または本発明の発現ベクターを、1以上の薬学的に許容し得る賦形剤,担体,希釈剤,緩衝液もしくは安定剤とともに含む組成物を提供する。
【0107】
このような組成物は、結合蛋白質または発現ベクターを使用する、本明細書中に記載されている本発明の任意の側面において用いることができ、例えば、本明細書中に記載されている任意の該方法,使用またはキットに用いることができる。 本発明のさらなる側面は、本明細書中に記載の任意の治療または診断の技術における使用のための組成物または医薬の製造における、本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質および/または発現ベクターの使用を提供する。
【0108】
本明細書中に定義する本発明の結合蛋白質の有効量を、対象に投与する、または対象から採取した試料(例えば、血液試料)に投与し、その後当該試料を前記対象に戻すことを含む対象の処置方法は、本発明のさらなる態様を提供する。
【0109】
本明細書中に記載のin vivoの方法は、一般的に哺乳動物に対して実施される。任意の哺乳動物を処置することができ、例えば、ヒトおよび任意の家畜類(livestock),家畜動物(domestic animal)または実験動物である。具体例として、マウス,ラット,ブタ,ネコ,イヌ,ヒツジ,ウサギ,ウシ,およびサルが挙げられる。しかしながら、該哺乳動物として、好ましくはヒトである。
【0110】
本明細書中で用いられる「治療」または「処置」という用語は、予防的治療を包含し、それによって疾病が阻止されることがある。「治療」および「処置」という用語は、疾病に対抗し治す以外に、疾病または該疾病に関連する1以上の症候の抑制,軽減または緩和も包含する。
【0111】
本明細書中に用いられる「有効量」は、処置の性質に応じて治療効果のある量もしくは予防効果のある量、または避妊,診断もしくはイメージングに有効な量に言及することができる。治療効果のある量は、望ましい治療結果を達成するために(適切な量および投薬計画で)必要な量であると考えることができる。予防効果のある量は、望ましい予防結果を達成するために(適切な量および投薬計画で)必要な量であると考えることができる。以下に示すように、該当量は、該患者の体重,年齢および性別、該疾病の重症度ならびに個人における望ましい反応を引き出す上記結合蛋白質の能力に応じて変化するだろう。
【0112】
本発明の組成物は、当該分野において公知であり、かつ広く文献に記載されている任意の従来法に従って処方することができる。よって、組成物の特定の使用に適切な1以上の従来薬学的に許容し得る担体,希釈剤および/または賦形剤などと、任意で他の活性物質(それらの例は後述する)とともに、投与に好適なまたは投与に好適にさせることができる従来の調製品を製造するために、上記活性成分(すなわち、上記結合蛋白質)を含むことができる。該組成物は、例えば、溶液,分散液,懸濁液,錠剤,丸薬,粉末,小袋,カプセル,エリキシル剤,乳液,シロップ,軟膏,リポソーム,座薬などのように、液体として,半固体としてまたは固体として処方してもよい。好ましい形態は、投与および治療に適応した所望する様式によって決まる。本発明の結合蛋白質を含む組成物は、注射剤または点滴剤の形態で調製されることが好ましい。
【0113】
他の適切な任意の様式、例えば経口投与を用いてもよいが、投与の好ましい様式は、例えば、腹腔内,静脈内,皮下,筋肉内,腔内または経皮などの非経口的なものである。静脈内注射または点滴は特に好ましい。適切な任意の部位への投与を用いてもよい。例えば、上記組成物を、措置が必要な部位に局所的に直接投与してもよく、または身体の適切な位置に対して狙い易くする実体と付着、でなければ結合、例えば接合させてもよい。
【0114】
生理的に適合する任意の担体,賦形剤,希釈剤,緩衝剤または安定剤を、本発明の組成物に使用することができる。適切な担体,賦形剤,希釈剤,緩衝剤および安定剤の例として、1以上の水,生理食塩水,リン酸緩衝生理食塩水,D形グルコース(dextrose),グリセロール,エタノールなど,およびそれらの組み合わせが挙げられる。場合によっては、例えば、糖類,多価アルコール(マンニトール,ソルビトール等)のような等張剤,または塩化ナトリウムを含んでもよい。該組成物は、平滑剤,湿潤剤,乳化剤,懸濁化剤,保存剤,甘味剤,香味剤などをさらに含むことができる。本発明の組成物は、当該分野において周知の手段を採用することによって、対象に投与した後、上記活性成分の迅速な,持続した,または遅発性の放出を提供するために処方することができる。上述したように、該組成物は注射するのに好適な形態であることが好ましく、好適な担体は、適切な任意の濃度で存在してもよいが、典型的な濃度は1%から20%まで、好ましくは5%から10%までである。
【0115】
治療組成物は、製造および保管の条件下で、典型的には、無菌かつ安定でなくてはならない。このような無菌かつ安定な状態を獲得する適切な方法は、当該分野において周知であり記載もある。
【0116】
本発明の結合蛋白質に加えて、該組成物は、異常なDLL4シグナリングに関連した疾病またはDLL4活性が有害である疾病、例えば、癌,アテローム性動脈硬化症,関節炎または眼性血管新生を処置するために有効な薬剤のような、1以上の他の活性成分をさらに含むことができる。哺乳動物の処置において使用されるべき組成物に含まれる適切な追加活性薬剤は、当業者に公知であり、該組成物を用いて処置されるべき疾病の性質に応じて選択することができる。癌処置に好適な追加薬剤として、他の標的物質に結合する抗体,サイトカイン,および化学薬品、例えば、副作用を抑制する標準的な化学療法剤(小分子量薬物)または薬物が挙げられる。
【0117】
本発明の結合蛋白質および他の活性成分(含まれている場合)の好適な投与量は患者によって異なるものであり、特定の疾患の性質によっても決まることとなる。好ましくは、該投与量は、関連する処置の性質にもよるが、治療上有効な量または予防上有効な量からなる。好適な投与量は、該患者の体重,年齢および性別ならびに該疾病の重篤度に従って当業者または医師によって決定することができる。該結合蛋白質の、個人から望ましい反応を引き出す能力も要因となる。典型的な1日の用量は:0.1〜250mg/kg、好ましくは0.1〜200または100mg/kg、より好ましくは1〜50または1〜10mg/kg、例として、該活性成分を約5mg/kgで用いる。単独の単位用量として、または1日に1度以上投与される複数の単位用量として、これを投与することができる。適切な投与量を患者次第で変えることができるが、任意の特定の対象において、特定の投与計画は、患者個々の必要量に従い時間とともに調整されるべきであることを注意すべきである。よって、本明細書で説明した該投与量の範囲は、典型的なものであるとみなされるべきであり、クレームした組成物の範囲または実施を限定する意図はない。
【0118】
本発明は、本発明の1以上の結合蛋白質もしくは組成物、および/または本発明の結合蛋白質をコードする1以上の核酸分子、および/または本発明の核酸配列を含む1以上の組換え型発現ベクター、および/または本発明の組換え型発現ベクターもしくは核酸配列を含む1以上の宿主細胞を含むキットをさらに包含する。該キットは、本明細書中に記載したような方法および使用において用いられることが好ましい。該キットは、キットを構成する部品を使用するための取扱説明書を含むことが好ましい。
【0119】
本明細書中で定義された結合蛋白質は、in vitroまたはin vivoでの利用およびアッセイのための分子ツールとしても使用することができる。該結合蛋白質は抗原結合部位を有することから特異的な結合対のメンバーとして機能することができ、これらの分子は特定の結合対メンバーを必要とする任意のアッセイに用いることができる。例えば、結合蛋白質がDLL4のような特定の抗原に結合できる抗体または抗体断片である態様において、これらの分子は、特定の抗原に特異的な抗体を必要とする任意のアッセイにおいて用いることができる。例えば、DLL4の検出が必要とされるか、または望ましいとされる任意のアッセイにおいて該結合蛋白質が用いられる。本明細書中に開示した該結合蛋白質を含む診断方法および使用は、本発明のさらなる側面を含む。
【0120】
したがって、本発明のさらなる側面は、本明細書中で定義した本発明の結合蛋白質(例えば、結合蛋白質接合体)の適切量を対象に投与すること,ならびに本発明の結合蛋白質もしくは結合蛋白質接合体の、対象中における存在および/または量および/または位置を検出することを含む、対象に対する診断またはイメージングの方法である。
【0121】
さらなる側面において、本発明の結合蛋白質は、血管新生を調節するためにin vitroで使用することができる。
したがって、本発明は、DLL4および/またはNotchの活性を調節するための、本発明の結合蛋白質のin vitroでの使用を含む。例えば、本発明の結合蛋白質は、DLL4および/またはNotchの活性を阻害または抑制するために使用することができる。
【0122】
本発明の結合蛋白質は、DLL4に特異的なさらなる結合蛋白質を製造するためにも使用することができる。このような使用は、例えば、原型結合蛋白質のアミノ酸配列において、、1以上のアミノ酸を付加,欠失,置換または挿入して、新規の結合タンパク質を形成すること、ここで該原型結合蛋白質は本明細書中の他の個所で定義した本発明の結合蛋白質の一つである、および得られた新規の結合蛋白質がDLL4特異的結合蛋白質であることを確認するための試験をすることを伴う。このような方法は、DLL4結合能を有することがすべてについて試験される、複数の新しい結合蛋白質を形成するために用いられる。上記の1以上のアミノ酸の付加,欠失,置換または挿入が、1以上の上記CDRドメインに対して起こることが好ましい。
【0123】
原型結合蛋白質に対するこのような変更または突然変異は、当該分野において周知であり記載もされている技術を用いて適切な任意の方法において実施でき、例えば、ランダム変異誘発または部位特異的変異誘発の方法を実施できる。部位特異的変異誘発を用いる場合、適切な残基が突然変異したことを確認する一つの戦略とは、抗原結合に関与する重要な残基を特定するために該結合蛋白質−抗原複合体の結晶構造の分解能を利用することである(Davies D.R., Cohen G.H. 1996. Interactions of protein antigens with antibodies. Proc Natl. Acad. Sci. U.S A. 93, 7-12)。続いて、この相互作用を促進させるために、これら残基を突然変異させることができる。もう一つの方法として、1以上のアミノ酸残基を、単に定方向突然変異の標的とすることもでき、そしてDLL4に対する結合への作用を評価する。
【0124】
ランダム変異誘発は、適切な任意の方法、例えば、変異性(error-prone)PCR,チェイン・シャフリング(chain shuffling)または突然変異誘発大腸菌株(mutator E.coli strain)によって実施できる。
【0125】
よって、本発明の1以上のVHドメインは、適切な任意の供給源から得られた単独のVLドメインまたはVLドメインのレパートリーと組み合わせることができ、その結果得られた新しい結合蛋白質をDLL4特異的結合蛋白質であると確認するために試験する。逆に、本発明の1以上のVLドメインは、適切な任意の供給源から得られた単独のVHドメインまたはVHドメインのレパートリーと組み合わせることができ、その結果得られた新しい結合蛋白質をDLL4特異的結合蛋白質であると確認するために試験する。
【0126】
同様に、本発明のVHおよび/またはVLドメインのうち1以上のCDRが、あるいは好ましくは3つすべてのCDRが、VHおよび/またはVLドメイン単独、あるいはVHおよび/またはVLドメインのレパートリーと適切になるように接合することができ、その結果得られた新しい結合蛋白質をDLL4特異的結合蛋白質であると確認するために試験する。
【0127】
上記CDRの標的突然変異は、抗体との親和性を上げるための特に有効な技術であり、好ましいものである。該CDR3の3〜4アミノ酸のブロックを突然変異誘発の標的とすることが好ましい。
【0128】
突然変異のための好ましい標的部位は、露出したアミノ酸をコードする部位、好ましくは上記抗原との結合部位の一部を形成するアミノ酸をコードする部位である。突然変異のための他の好ましい標的部位は、非保存的アミノ酸をコードする部位である。
【0129】
アミノ酸および蛋白質ドメインの上述した操作を実施する方法は、当業者に周知である。例えば、該操作は、核酸レベルでの遺伝子工学によって実施されることが好都合だろう。該遺伝子工学において、適切な結合蛋白質およびそのドメインをコードする核酸分子は、その結果得られた発現蛋白質のアミノ酸配列が続いて適切な方法で修飾されるように、修飾される。
【0130】
1以上の新しい結合蛋白質をDLL4に特異的に結合できるか試験することは、当該分野において周知であり記載もある適切な任意の方法で実施することができる。組換え型可溶性ヒトDLL4は市販されており(本実施例を参照)、例えば、ELISA,親和性クロマトグラフィーなどのような従来法によって結合をアッセイするために、該組換え型可溶性ヒトDLL4を容易に用いることができる。
【0131】
これら方法によって製造された新しい結合蛋白質は、DLL4に対して、少なくとも上記原型結合蛋白質と同等の親和性を有することが好ましく、本明細書中の他の個所で記載したような本発明の結合蛋白質と同じ方法で処理 され使用される(例えば、治療のため、組成物中に含有など)。ある態様においては、新しい結合蛋白質は原型結合蛋白質よりDLL4に対する親和性が低い。
【0132】
これら方法によって製造された,得られたまたは得られる新しい結合蛋白質は、本発明のさらなる側面を形成する。
本発明の他の特徴および利点は上述の詳細な記載から明確である。しかしながら、本発明の趣旨と範囲内における様々な変化および変更がこの詳細な記載から当業者にとって明確であるから、上述の詳細な記載および以下の具体例は、本発明の好ましい態様を示すものであるが、例としてのみ示されていることを理解されるべきである。
【実施例】
【0133】
材料および方法
細胞および培養条件
PK−1ヒト膵臓腺癌細胞株を、既に記載されたようにして確立し(Kobari M. Establishment of a human pancreatic cancer cell line and detection of pancreatic cancer associated antigen. Tohoku J. Exp. Med., 143: 33-46, 1984)、その他の膵癌 細胞株を、37℃、加湿された5%CO2雰囲気下で、10%仔牛血清(FCS)、100単位/mlペニシリンおよび0.1mg/mlストレプトマイシンが添加されたRPMI1640にて、維持した。不死化正常ヒト膵臓管細胞株(immortalized normal human pancreatic suct cell)はフルカワ博士(東北大学医学部病理学科、日本、仙台)の好意により提供され、HEK293細胞株、繊維芽細胞株および上皮細胞内皮細胞株を10%FCSを含む低グルコースDMEMにて培養し、上記癌細胞株と同様の条件にて維持した。これらの細胞は、6継代を超えては使用しなかった。
【0134】
CHO細胞を、マウスDll4かヒトDll4かをコードするプラスミドで、またはコントロール(空)プラスミドでトランスフェクトした。また、安定細胞株(stable cell line)を選択し、クローン化した。
【0135】
動物
オスSCIDマウス(6週齢または8週齢)を、ニッポンクレア株式会社(Nippon Clea Co)(日本、東京)またはチャールス・リバー株式会社(Charles River Co.)(日本、東京)より購入し、特定病原体除去環境において飼育し、餌および水は自由に摂取可能にした。動物の世話および処置に関するNIHガイドラインを遵守した。
【0136】
統計学的分析
本実験はすべて、2反復または3反復で実施した。各実験からの代表的なデータを表示した(平均値±SDまたはSE)。両側スチューデント法によるt検定を統計学的分析に使用した。0.05以下のP値を有意とみなした。
【0137】
実施例1
臨床材料および免疫組織化学染色
10個のヒト膵癌の試料を外科的手術により得た。すべての患者は、自己の組織が科学的調査に使用される旨の署名付きのインフォームドコンセントを提供した。それらの正常領域および腫瘍領域を特定した。ヒト組織試料を、4℃の10%ホルマリン中に固定し、パラフィンで包埋し、4℃で保存した。切片(5μm)を免疫組織化学染色用に個々に切除した。パラフィン切片をキシレン中で5分間、脱パラフィン操作を行い、段階的に一連のアルコール(100%、95%、および80%エタノール/二重蒸留水(v/v))で処理し、各回5分間で3回、PBS中で再水和した。
【0138】
30%メタノールにおける0.3%のH2O2溶液中で、15分間スライドをインキュベートすることで、内在性ペルオキシターゼ活性をブロッキングした後、抗原回復剤(Pharmingen,Retrivagen A)で、電子レンジにて10分間89℃で処理することによって、抗原活性を得た。該切片を、加湿チャンバー中で、一昼夜4℃にて適当な一次抗体(1%FBSを含むPBSで希釈されているもの)とともにインキュベートし、各回5分間で3回、PBSでリンスした。次いで、該切片を室温で適当な二次抗体とともに、60分間インキュベートした。
【0139】
ヒトDLL4の発現を、一次AbとしてのラットmAb(R&D Systems)および、二次Abとしてのビオチン化抗ラットIgG抗体(R&D Systems)を用いて検出した。さらに、室温30分間におけるペルオキシターゼでラベル化されたストレプトアビジンとのインキュベーションの後、陽性反応を、3,3´−ジアミノベンジダインとともにスライドを5〜15分間インキュベートすることで、可視化した。本反応を、蒸留水でスライドをリンスすることで終了させた。該スライドをヘマトキシリンで対比染色し、ユニバーサルマウント(Universal Mount)でマウントして、室温で乾燥させた。
【0140】
結果−膵癌におけるDLL4の発現
リンパ節転移を含む主な腫瘍病巣の切片および、腫瘍がない病変箇所(「正常」膵臓組織)の切片を、上述のように染色した。すべての場合において、DLL4の発現は、正常なランゲルハンス島および癌細胞の相当な部分 (substantial part of cancer cells)で最も高く、続いて、排出微細管(small excretory duct)、脂肪組織、小血管、動脈であった。主膵管および成熟静脈では、陽性の染色細胞は、たとえあるとしてもほとんど、認められなかった。血管系内においては、DLL4の発現は比較的、動脈および毛細血管に限定されていた。動脈では、DLL4発現の優性な部位は、外縁部側であり、内皮ではなかった。
【0141】
実施例2
ヒトDLL4に対する中和mAbの作成
ヒトDLL4に対する中和mAbを、組換え型可溶性ヒトDLL4(R&D Systems)でBALB/cマウスを免疫することで、産生した。その免疫脾臓細胞をP3U1メラノーマと融合し、フローサイトリーによって、マウスDLL4またはヒトDLL4でトランスフェクトされたCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞に対する抗体の活性を分析した。プリスタンで刺激されたヌードマウス(pristan primed nude mice)において産生された腹水からカプリル酸/硫酸アンモニウム沈降法によって、ヒトDLL4について陽性の結果を示したがマウスDLLについては示さなかった抗体を精製した。
【0142】
実施例3
ヒトDLL4に対する中和mAbの特性決定
3種類の、ヒトDLL4に対する新規の中和mAbを、実施例2に記載のように、産生した。すべての3種類の抗ヒトDLL4mAbは、ヒトDLL4がトランスフェクトされたCHO細胞には反応したが、偽トランスフェクトされたCHO細胞またはマウスDLL4がトランスフェクトされたCHO細胞には反応しなかった(図1における一つの抗体にて例示される。)。さらに、当該3種類の抗DLL4mAbはいずれも、ヒトJagged1、Jagged2またはDLL1がトランスフェクトされたCHO細胞とは交差反応しなかった(データを示さず。)。すべての3種類の抗DLL4mAbは、DLL4でトランスフェクトされたCHO細胞へのNotch1−Fcの結合を阻害した(図2における一つの抗体にて例示される。)。これらのデータは、新規抗体が、Dll4におけるNotch結合部位に近接した、または重なり合ったエピトープと反応することを示している。
【0143】
一連の培養上清希釈液中における、DLL4とのより強力な反応性に基づいて、これらの抗体の1つであるSTL4と称される抗体を、さらなる特性決定のために選択した。
実施例4
腫瘍増殖における抗DLL4抗体の効果
PK−1細胞(1x107/100μl RPMI)を、マウスの背側側腹領域内に皮下注射して導入した。この操作は、マウス内において、ヒト細胞からなる腫瘍を増殖させる。接種の1週間後に、これらのマウスを、それぞれ10匹のマウス群に無作為に分けた。次いで、ある一群は、ヒトDLL4に対するモノクローナル抗体での処置を受けた。一方の一群は、ネガティブコントロールとして供され、コントロールのハムスターIgG(ジャックソンイムノリサーチ(Jackson ImmunoResearch))を受けた。
【0144】
当該処置は、5週間にわたる、週2回の腹膜内部の注射からなる。また、腫瘍の直径を、キャリパーを用いて、1週間につき2回測定し、腫瘍体積を、式:V=D×d2×0.4(ここで、V=腫瘍体積、D=最大直径およびd=最小直径)によって決定した。
【0145】
上記結果を図3にて示す。この結果から、抗ヒトDLL4抗体が腫瘍増殖の阻害を引き起こしたことが分かる。
本実験はマウスモデルにおいて実施されたものだから、血管新生が主としてマウスDLL4によって調節されており、抗ヒトDLL4は明らかにマウスDLL4を阻害しない(上記実施例にて示される。)。ヒトの対象においては、すべてのDLL4はヒトのものだらか、抗DLL4抗体はさらに良好な結果をもたらすことが予想される。
【0146】
これらのデータは、腫瘍の血管新生の制御における、血管由来のDll4の重要性を強調するものである。
この動物モデルにおいて、抗Dll4抗体(STL4)が効果を発揮する服用量には、まったく毒性作用がない旨が示された。
【0147】
実施例5
ヒトの細胞および組織におけるDLL4の発現
DLL4は、様々なヒトの腫瘍細胞において発現されていることが、以前より示されている。STL4の反応性を、乳癌に由来する様々なヒト細胞株におけるフローサイトメトリー分析、および膵臓腫瘍サンプル、前立腺腫瘍サンプルまたはヒト膀胱癌サンプルにおける免疫組織化学分析を用いて評価した。また、これらすべてのサンプルにて、STL4の反応性を実証した。
【0148】
実施例6
Notchシグナリング分析
本分析を実施して、STL4が、DLL4を介在するNotchシグナリングに干渉するかを究明した。
【0149】
プレートを、組換え型DLL4リガンドを1μg/mlで添加したか、あるいは添加していない、フィルター滅菌済みの0.2%ゼラチン溶液で(一昼夜)コーティングした。HEK293a細胞(Notchを発現している)を、これらのプレート上に播種した。翌日、該細胞を、Notch/CSLレポーターでトランスフェクトした。該Notch/CSLレポーターは、内在性CBF−1が結合して遺伝子転写を抑制することとなる、複数のCBF−1DNA結合部位を有するプロモーターを含む。Notch受容体へのNotchリガンド(たとえば、DLL4)の結合の後に、Notch受容体の切断が生じ、Notch細胞内ドメインの放出に至る。このNotch細胞内ドメインはCBF−1に結合して、転写リプレッサーから転写アクチベーターにCBF−1を変化させて、ルシフェラーゼレポーター分子を駆動させる。1時間経過後、適当なウェルに、STL4を125μ/mLで添加した。翌日、全プレートを、ONE GLO試薬を用いて読み取って、ルシフェラーゼ活性を測定し、当該プレートをルミノメーターにて読み取った。
【0150】
本結果を図4に示す。この図からわかるように、HEK293細胞は、DLL4でコーティングされたウェルにおいて、Notchシグナリングカスケードの活性化が示されたが、コントロールのウェルにおいては示されなかった。このシグナリングは、STL4によって阻止された。アイソタイプのコントロール抗体は、DLL4を介在としたNotchの活性化において、全く効果を発揮しなかった(図示せず)。これらのデータは、STL4が、NotchとのDLL4の相互作用を阻止し、そのためNotch介在シグナリングに干渉することができることを示している。
【0151】
実施例7
HUVEC遊走アッセイ
HUVEC(TCSセルワークス(TCS CellWorks)、英国、クライドン(Claydon)、より購入)を、大血管上皮細胞用増殖培液にて培養した。セルトラッカーグリーンダイCMFDA(CellTracker Green dye CMFDA)(Molecular Probesより購入)を、細胞培養用フラスコ培液に添加し、当該ダイが5μMの最終濃度になるようにし、1時間インキュベーターに放置した。次いで、細胞をトリプシン処理して、細胞数を計測した。
【0152】
トランスウェルインサート(transwell insert)(3mm細孔、BDバイオサイエンスズ(BD Biosciences)から購入したBDフルオロブロック(BD FluoroBlok))に、300μl中に3×104の希釈率で細胞を加えた。当該ウェルの底部に、化学誘引物質(5%FCS)を含む800μlの無血清培養液を添加した。当該細胞を放置して、4時間遊走させた。遊走した細胞を、UV照射の下、リアルタイムで視察した。遊走データを、イメージプロプラスソフトウェア(Image Pro Plus Software)(メディアサイバーネティクス(MediaCybernetics)英国)を用いて、処理した。
【0153】
結果
ヒト内皮細胞の培養液へのSTL4の添加は、これらの細胞の増殖においては、有意な効果を有していなかった(データを示さず。)。しかしながら、遊走アッセイにおいて使用された場合、正常酸素圧条件および低酸素条件のどちらにおいても、STL4はFCSに対するHUVECの遊走を阻止することができた(図5)。これらのデータは、STL4が血管新生を阻害できることを示している。
【0154】
実施例8
キメラ化抗体の調製
本実施例でcSTL4と称されるキメラ化抗体は、配列番号1のVHドメインおよび配列番号2のVLドメインを含むものであり、この抗体は標準的な手順で調製された。簡潔に言えば、VHおよびVLドメインをコードする核酸配列をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって増幅した。pCAccプラスミドベクターにクローニングすることによって、VHドメインを、ヒトIgG重鎖定常領域であるCH1−H−CH2−CH3に融合させ、VLドメインをヒト軽鎖定常領域であるκに融合させた。
【0155】
pCAccは、CMV−エンハンサーおよびβアクチン−プロモーターによって駆動される強力な哺乳類細胞用の発現ベクターである。当該ベクターは、一過性発現(transient expression)に適したものである。pCAccのマップを図6に示す。
【0156】
図7および8は、軽鎖および重鎖が各pCAccベクターのどこにクローニングされたかを示す。
DLL4に対するcSTL4の特異的な結合は、ヒトDLL4でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはトランスフェクトされていないCHO細胞を使用したフローサイトメトリーによって確認された(図9)。
【0157】
実施例9
親和性の測定
BiacoreA100分析器を使用して、キメラ化抗DLL4抗体であるcSTL4の結合親和性を評価した。組換え型Dll4純品への結合を、20、10、5、2.5および1.2mg/mlの抗体濃度を用いて評価した。結合曲線を図10に示す。KDは、4.08x10−10Mと算出された。Kaは2.45x1091/Mであり、Kdは8.79x10−51/Sであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質であって、
(a)アミノ酸配列RASSSVSFMH(配列番号6)または当該配列と実質的に相同な配列を含む軽鎖CDR1;
(b)アミノ酸配列ATSNLTS(配列番号7)または当該配列と実質的に相同な配列を含む軽鎖CDR2;
(c)アミノ酸配列QQWSSNPFT(配列番号8)または当該配列と実質的に相同な配列を含む軽鎖CDR3;
(d)アミノ酸配列SYVMH(配列番号3)または当該配列と実質的に相同な配列を含む重鎖CDR1;
(e)アミノ酸配列YIIPYNDGTKYNEKFKG(配列番号4)または当該配列と実質的に相同な配列を含む重鎖CDR2;
(f)アミノ酸配列SEDYDHFDY(配列番号5)または当該配列と実質的に相同な配列を含む重鎖CDR3;
から選択される、少なくとも1つのCDRドメインを含む結合蛋白質。
【請求項2】
前記結合蛋白質が、請求項1にて規定された(a)〜(f)から選択される少なくとも2つのCDRドメインを含む請求項1に記載の結合蛋白質。
【請求項3】
前記結合蛋白質が、請求項1にて規定された(a)〜(c)から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRドメインと、請求項1にて規定された(d)〜(f)から選択される少なくとも1つの重鎖CDRドメインとを含む請求項2に記載の結合蛋白質。
【請求項4】
前記結合蛋白質が、請求項1にて(a)〜(c)で規定された3つの軽鎖CDRドメインおよび/または請求項1にて(d)〜(f)で規定された3つの重鎖CDRドメインを含む請求項1または2に記載の結合蛋白質。
【請求項5】
前記結合蛋白質が、配列番号1のアミノ酸配列または当該配列に実質的に相同な配列を有するVHドメイン、および/または配列番号2のアミノ酸配列または当該配列に実質的に相同な配列を有するVLドメインを含む請求項1または2に記載の結合蛋白質。
【請求項6】
前記結合蛋白質が、1つまたはそれ以上 の、配列番号9、10、11、12、13、14、15もしくは16にて開示されたフレームワーク領域またはそれらに実質的に相同なフレームワーク領域を含む請求項1〜5の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項7】
前記結合蛋白質が、抗体または抗体断片である請求項1〜6の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項8】
前記結合蛋白質が、キメラ化されているか、ヒト型化されている請求項1〜7の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項9】
前記結合蛋白質が、ヒトCH1重鎖定常ドメインおよびヒトκ軽鎖定常ドメインを含むキメラ化抗体である請求項8に記載の結合蛋白質。
【請求項10】
前記結合蛋白質が、10×10−10未満または5×10−10未満のKDを有する請求項1〜9の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項11】
前記結合蛋白質が、DLL4の機能を阻害するもしくは有意に低減する、または1つ以上のDLL4の天然リガンドおよび/または受容体とDLL4が相互作用することを阻止する、請求項1〜10の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項の結合蛋白質をコードする配列、または当該結合蛋白質をコードする配列の相補配列を含む核酸分子。
【請求項13】
前記核酸分子が、配列番号17もしくは配列番号18またはこれらの相補配列にて規定された核酸分子、あるいはこれらの配列と実質的に相同な核酸分子を含む請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
1またはそれ以上の、請求項12または13に記載の核酸分子と、当該核酸分子にてコードされる蛋白質配列の転写および翻訳のための制御配列とを含む組換え型発現ベクター。
【請求項15】
請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載の組換え型発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質を産生する方法。
【請求項17】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質と、さらにポリペプチド配列とを含む融合蛋白質。
【請求項18】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質と、生物学的に活性な分子または医療関連の薬剤との接合体。
【請求項19】
前記融合蛋白質または接合体が、細胞毒性ポリペプチド、放射性ヌクレオチド、サイトカイン、抗体分子、免疫グロブリン、ホルモン、成長因子、レクチン、インスリン、低密度リポ蛋白質、グルカゴン、エンドルフィン、トランスフェリン、ボンベシン、アシアロ糖蛋白質、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、赤血球凝集素(HA)、切断型myc、酵素、またはT細胞受容体 シグナル系における構成因子を含む、請求項17に記載の融合蛋白質または請求項18に記載の接合体。
【請求項20】
治療、診断またはイメージングのために使用する 、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクター。
【請求項21】
DLL4の異常なシグナリングおよび/または異常血管新生を特徴とする疾患または症状の治療または診断のための医薬 の製造における、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項1、2もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項22】
DLL4の異常なシグナリングおよび/または異常血管新生を特徴とする疾患または症状の治療方法であって、
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量が、対象に投与されるか、または、対象から分離された試料に投与され、その後 当該試料が前記対象に戻される治療方法。
【請求項23】
DLL4の異常なシグナリングおよび/または異常血管新生を特徴とする疾患または症状の診断またはイメージングの方法であって、
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量が、対象に投与されるか、または、対象から分離された試料に投与され、その後当該試料が前記対象に戻されて、当該対象における前記結合蛋白質または結合蛋白質の接合体の存在および/または量および/または位置を検出する診断またはイメージングの方法。
【請求項24】
前記疾患または症状が、アテローム性動脈硬化、関節炎、眼性血管新生、子宮内膜症、子宮筋腫、妊娠中毒症および癌から選択される請求項21に記載の使用または請求項22もしくは23に記載の方法。
【請求項25】
前記疾患または症状が、前立腺癌および膵癌から選択される請求項21に記載の使用または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量が、対象に投与されるか、または、対象から分離された試料に投与され、その後当該試料が前記対象に戻される避妊方法。
【請求項27】
DLL4の水準および/または機能を調節するin vitroの方法であって、
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターが、組織試料、細胞培養液または細胞に投与されるin vitroの方法。
【請求項28】
移植手術後における異常血管新生を低減または阻止するために使用する、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクター。
【請求項29】
移植手術後における異常血管新生を低減または阻止するための医薬の製造における、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項30】
移植治療の結果を改善する方法であって、
移植手術の実施前、実施中および/または実施後において、患者または移植物に、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量の投与を含む方法。
【請求項31】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターと、薬理学的に許容できる、賦形剤、担体、希釈剤、緩衝剤または安定剤とを含む組成物。
【請求項32】
新規の結合蛋白質を形成するために、原型結合蛋白質のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の付加、欠失、置換および/または挿入して、新規の結合蛋白質を形成すること、および得られた新規の結合蛋白質のヒトDLL4への結合性を試験することを含む、ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質を産生する方法であって、
当該原型結合蛋白質は、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質である方法。
【請求項1】
ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質であって、
(a)アミノ酸配列RASSSVSFMH(配列番号6)または当該配列と実質的に相同な配列を含む軽鎖CDR1;
(b)アミノ酸配列ATSNLTS(配列番号7)または当該配列と実質的に相同な配列を含む軽鎖CDR2;
(c)アミノ酸配列QQWSSNPFT(配列番号8)または当該配列と実質的に相同な配列を含む軽鎖CDR3;
(d)アミノ酸配列SYVMH(配列番号3)または当該配列と実質的に相同な配列を含む重鎖CDR1;
(e)アミノ酸配列YIIPYNDGTKYNEKFKG(配列番号4)または当該配列と実質的に相同な配列を含む重鎖CDR2;
(f)アミノ酸配列SEDYDHFDY(配列番号5)または当該配列と実質的に相同な配列を含む重鎖CDR3;
から選択される、少なくとも1つのCDRドメインを含む結合蛋白質。
【請求項2】
前記結合蛋白質が、請求項1にて規定された(a)〜(f)から選択される少なくとも2つのCDRドメインを含む請求項1に記載の結合蛋白質。
【請求項3】
前記結合蛋白質が、請求項1にて規定された(a)〜(c)から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRドメインと、請求項1にて規定された(d)〜(f)から選択される少なくとも1つの重鎖CDRドメインとを含む請求項2に記載の結合蛋白質。
【請求項4】
前記結合蛋白質が、請求項1にて(a)〜(c)で規定された3つの軽鎖CDRドメインおよび/または請求項1にて(d)〜(f)で規定された3つの重鎖CDRドメインを含む請求項1または2に記載の結合蛋白質。
【請求項5】
前記結合蛋白質が、配列番号1のアミノ酸配列または当該配列に実質的に相同な配列を有するVHドメイン、および/または配列番号2のアミノ酸配列または当該配列に実質的に相同な配列を有するVLドメインを含む請求項1または2に記載の結合蛋白質。
【請求項6】
前記結合蛋白質が、1つまたはそれ以上 の、配列番号9、10、11、12、13、14、15もしくは16にて開示されたフレームワーク領域またはそれらに実質的に相同なフレームワーク領域を含む請求項1〜5の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項7】
前記結合蛋白質が、抗体または抗体断片である請求項1〜6の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項8】
前記結合蛋白質が、キメラ化されているか、ヒト型化されている請求項1〜7の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項9】
前記結合蛋白質が、ヒトCH1重鎖定常ドメインおよびヒトκ軽鎖定常ドメインを含むキメラ化抗体である請求項8に記載の結合蛋白質。
【請求項10】
前記結合蛋白質が、10×10−10未満または5×10−10未満のKDを有する請求項1〜9の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項11】
前記結合蛋白質が、DLL4の機能を阻害するもしくは有意に低減する、または1つ以上のDLL4の天然リガンドおよび/または受容体とDLL4が相互作用することを阻止する、請求項1〜10の何れか一項に記載の結合蛋白質。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項の結合蛋白質をコードする配列、または当該結合蛋白質をコードする配列の相補配列を含む核酸分子。
【請求項13】
前記核酸分子が、配列番号17もしくは配列番号18またはこれらの相補配列にて規定された核酸分子、あるいはこれらの配列と実質的に相同な核酸分子を含む請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
1またはそれ以上の、請求項12または13に記載の核酸分子と、当該核酸分子にてコードされる蛋白質配列の転写および翻訳のための制御配列とを含む組換え型発現ベクター。
【請求項15】
請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載の組換え型発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質を産生する方法。
【請求項17】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質と、さらにポリペプチド配列とを含む融合蛋白質。
【請求項18】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質と、生物学的に活性な分子または医療関連の薬剤との接合体。
【請求項19】
前記融合蛋白質または接合体が、細胞毒性ポリペプチド、放射性ヌクレオチド、サイトカイン、抗体分子、免疫グロブリン、ホルモン、成長因子、レクチン、インスリン、低密度リポ蛋白質、グルカゴン、エンドルフィン、トランスフェリン、ボンベシン、アシアロ糖蛋白質、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、赤血球凝集素(HA)、切断型myc、酵素、またはT細胞受容体 シグナル系における構成因子を含む、請求項17に記載の融合蛋白質または請求項18に記載の接合体。
【請求項20】
治療、診断またはイメージングのために使用する 、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクター。
【請求項21】
DLL4の異常なシグナリングおよび/または異常血管新生を特徴とする疾患または症状の治療または診断のための医薬 の製造における、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項1、2もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項22】
DLL4の異常なシグナリングおよび/または異常血管新生を特徴とする疾患または症状の治療方法であって、
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量が、対象に投与されるか、または、対象から分離された試料に投与され、その後 当該試料が前記対象に戻される治療方法。
【請求項23】
DLL4の異常なシグナリングおよび/または異常血管新生を特徴とする疾患または症状の診断またはイメージングの方法であって、
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量が、対象に投与されるか、または、対象から分離された試料に投与され、その後当該試料が前記対象に戻されて、当該対象における前記結合蛋白質または結合蛋白質の接合体の存在および/または量および/または位置を検出する診断またはイメージングの方法。
【請求項24】
前記疾患または症状が、アテローム性動脈硬化、関節炎、眼性血管新生、子宮内膜症、子宮筋腫、妊娠中毒症および癌から選択される請求項21に記載の使用または請求項22もしくは23に記載の方法。
【請求項25】
前記疾患または症状が、前立腺癌および膵癌から選択される請求項21に記載の使用または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量が、対象に投与されるか、または、対象から分離された試料に投与され、その後当該試料が前記対象に戻される避妊方法。
【請求項27】
DLL4の水準および/または機能を調節するin vitroの方法であって、
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターが、組織試料、細胞培養液または細胞に投与されるin vitroの方法。
【請求項28】
移植手術後における異常血管新生を低減または阻止するために使用する、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクター。
【請求項29】
移植手術後における異常血管新生を低減または阻止するための医薬の製造における、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項30】
移植治療の結果を改善する方法であって、
移植手術の実施前、実施中および/または実施後において、患者または移植物に、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターの有効量の投与を含む方法。
【請求項31】
請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質、請求項17に記載の融合蛋白質、請求項18に記載の接合体、請求項12もしくは13に記載の核酸分子、または請求項14に記載のベクターと、薬理学的に許容できる、賦形剤、担体、希釈剤、緩衝剤または安定剤とを含む組成物。
【請求項32】
新規の結合蛋白質を形成するために、原型結合蛋白質のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の付加、欠失、置換および/または挿入して、新規の結合蛋白質を形成すること、および得られた新規の結合蛋白質のヒトDLL4への結合性を試験することを含む、ヒトDLL4に結合可能な結合蛋白質を産生する方法であって、
当該原型結合蛋白質は、請求項1〜11の何れか一項に記載の結合蛋白質である方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2010−526551(P2010−526551A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507976(P2010−507976)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001678
【国際公開番号】WO2008/139202
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509316464)スマート ターゲティング リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001678
【国際公開番号】WO2008/139202
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509316464)スマート ターゲティング リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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