説明

ヒトIgGFcレセプターIIb(FcγRIIb)に結合する物質

本発明は、コンフォメーションにより識別するエピトープ(CDEs)を有する新規の免疫原、及び極めて密接に関連したホモログを有するタンパク質を特異的に認識する抗体の産生のための免疫化方法に関する。特に、本発明はFcγRIIb又はFcγRIIaのいずれかに特異的な抗体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、コンフォメーションにより識別するエピトープ(CDEs)を有する新規の免疫原、及び極めて密接に関連したホモログを有するタンパク質を特異的に認識する抗体の産生のための免疫化方法に関する。特に、本発明はFcγRIIb又はFcγRIIaのいずれかに特異的な抗体に関し、かつこれらは自己免疫疾患、感染症、腫瘍及びその他の免疫系が関連する症状の診断及び治療のために有利である。
【0002】
Fcレセプター(FcRs)は、感染症に対する人体の防御において重要な役割を果たす。病原体が血液循環に到達すると、これらは抗体(免疫グロブリン、Igs)によってオプソニン化される。これにより免疫複合体の形成を生じる。前記抗体のFc部はFcレセプターに結合でき、前記レセプターは免疫系の実質的に全ての細胞上に存在する。特異的なFcRsは、全てのIgクラスに対して存在する。ギリシャ文字は、前記レセプターが結合するIgクラスを示し、例えばFcγレセプターはIgGを認識するなどである。
【0003】
何年もの間、IgGに対する前記Fcレセプター(FcγR)はエフェクター応答を引き起こすことにおいて重要な役割を果たすことが知られている(Metzger, 1992A)。これらは、発現したFcγR及び細胞の種類に依存して、病原体の中和及び抗原の提示を生じるエンドサイトーシス及び食作用、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)、好中球活性化、前記抗体産生の調節、又は炎症性の媒介体の分泌を含む(Fridman et al., 1992 ; van de Winkel及びCapel,1993 ; Ravetch及びBolland, 2001)。
【0004】
健康な個人におけるFcRsが果たす利点のある役割とは対照的に、FcRsはまたこの免疫系の刺激を、アレルギー(例えば、FcεRIaにより媒介される)又は自己免疫疾患へと伝達する。更に、いくつかのウィルスはFcγRsを使用して、細胞に到達するか、例えばHIV(Homsy et al., 1989)及びデング(Littaua et al., 1990)等、又はエボラ(Yang et al., 1998)及び麻疹(Ravanel et al., 1997)の場合のようにFcγRsを遮断することで免疫応答を減速させる。
【0005】
IgGのためのFcレセプター(FcγR)はFcレセプターファミリーのうちで最も普及したものであり、かつ定義されたパターンで全ての免疫学的に活性のある細胞上に発現する。FcγRIは単球及びマクロファージ上に構成的に発現し、好中球及び好酸球上に誘導されてよい。FcγRIの生理学的な役割は未だ未知であり、というのは単球上での発現は不可欠ではないからである(Ceuppens et al., 1988)。FcγRIII(FcγRIIIb)のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によりアンカーした形態は顆粒球にのみに発現する。この細胞質部が欠損しているために、細胞中へのこのシグナル伝達はその他の膜貫通タンパク質、例えば3型補体レセプター(CR3)を介してのみ生じ、前記レセプターは少なくともFcγRIIbと結合できる(Zhou et al., 1993; Poo et al., 1995)。FcγRIIaは単球及びマクロファージ上に主に発現するが、γ−鎖と呼ばれる関連したタンパク質と組み合わせてのみ発現する。FcγRIIaは、免疫性の能力のある細胞に対して最も広い分布を有するレセプターであり、主に免疫複合体のエンドサイトーシスに関連する。FcRIIbは、FcRIIbが唯一のIgGレセプターであるB細胞上に、及びエフェクター細胞、例えばマクロファージ、好中球、及びマスト細胞上に発現し、しかしNK細胞及びT細胞には発現しない。
【0006】
構造的には、前記FcγRsの細胞外部は、3つ(FcγRI、CD64)又は2つ(FcεRI、FcγRII、CD32及びFcγRIII、CD16)のIg様のドメイン(約10kDa/ドメイン)からなり、従って免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。これらの細胞外ドメインに加えて、FcRsは膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを有する(GPIにアンカーしたFcγRIIbを除く)。これらのレセプターは相互に相同性があり、かつFcγRs及びFcεRIaのうちでのアミノ酸配列におけるこの全体的な同一性は、これらの細胞外領域において40%を超える。FcγRIIa及びFcγRIIbはその細胞外領域において、このアミノ酸残基の6%のみが相違する。それにも関わらず、両者の形態は、ヒト及びマウスのIgGサブクラスに対するその結合特性(van de Winkel及びCapel, 1993)、及びヒトIgGsに対するこれらの異なる親和性により区別されることが可能である(Sondermann et al ., 1999A)。
【0007】
FcRsは高度にグリコシル化されている。多数のFcレセプターのcDNA配列は既知であり、幾つかの可溶性の組み換えFcRが産生されている。可溶性の組み換えFcレセプターは、膜貫通領域の非存在により特徴付けられていて、シグナルペプチド及びグルコシル化がWO00/32767に開示されている。
【0008】
FcγRsは、様々なアイソフォーム(FcγRIa、b1、b2、c;FcγRIIa1−2、b1−3、c)及び対立遺伝子(FcγRIIa1−HR、FcγRIIa1−LR;FcγRIIIb−NA1、FcγRIIIb−NA2)(van de Winkel及びCapel, 1993)で生じる。前記の全体的に相同性のある細胞外部と比べて、この膜にまたがる及び細胞質のドメインは8kDaの大きさまで相違する。
【0009】
前記FcγRsは、活性性又は抑制性であるその機能に従って、2つの一般的なクラスに区分することができる。この活性性レセプターは、細胞質の16つのアミノ酸免疫系レセプターチロシンベース活性化モチーフ(ITAM)に関連し、前記モチーフは、コンセンサス配列Y−X−L/I−X−Y−X−L/Iを有する(Isakov, 1997)。前記モチーフは、例えばFcγRIIa中で見出される。FcRsのその他のクラスは抑制性レセプターであり、これらは細胞質の6つのアミノ酸の抑制性のモチーフ(ITM)を有し、これはコンセンサス配列、V/I−X−Y−X−V/Lを有する(Isakov, 1997)。かかる抑制性のFcRの例はFcRIIbである。
【0010】
ITAM及びITIMのモチーフを介した活性化及び抑制化はチロシンのリン酸化により作用される。その特定の細胞の種類(前記Fcレセプターにより活性化される)に依存して、異なるチロシンキナーゼがこれらのシグナル伝達経路に関与する(Amigorena et al., 1992)。活性性の及び抑制性のFcγRsの両者は、同じ細胞上に発現されてよく、これにより免疫応答の良好な調整のために協調した、活性化及び抑制性のレセプターの機能化が可能になる。
【0011】
FcγRIIbは2つの抑制性の活性を有する。これらのうちの1つはITIMモチーフに依存性であり、FcγRIIbがITAMを有するレセプター(例えばFcγRIIa)に連結する場合に生じ、これによりITAMにより誘発されたカルシウム動員及び細胞の増殖の抑制を導く。この意味するものは、カルシウム依存性の経過、例えば脱顆粒、食作用、ADCC、サイトカイン放出及び炎症誘発性の活性化、及びまたB細胞の増殖がFcγRIIbにより遮断されることである。FcγRIIbの第2の抑制性の活性は、レセプターの同族凝集(FcγRIIbクラスター化)を伴い、これはアポトーシス促進性のシグナルを細胞質へと配送する。前記のアポトーシス促進性のシグナルはB細胞においてのみ報告されていて、かつ、FcγRIIbのB細胞レセプター(BCR)への連結によって遮断されることが可能である。in vivo研究では、FcγRIIbは末梢性寛容で役割を果たすことを示し、というのはFcγRIIbノックアウトマウスは、自然発生的な自己免疫疾患を発達させるからである。その一方で、FcγRIIbは腫瘍に対する細胞毒性を下方調節することも報告されている(Clynes etal., 2000)。FcγRIIb欠失であってかつ抗腫瘍性の抗体で処置したマウスは促進したADCCを示し、腫瘍転移の減少を生じる一方で、Fcレセプターの活性化を欠失したマウスは、同じ抗体で処置した場合に腫瘍成長を停止させることができなかった。
【0012】
免疫原としてタンパク質又はペプチドで動物を免疫化させることによる抗体の産生は、この分野で既知である。従来の免疫化プロトコルは、免疫原として線形のペプチドを使用し、前記ペプチドは関心のある抗原に由来する。かかる方法の不利な点は、このエピトープの三次元的な構造がしばしば完全に失われるために、この生じる抗体が高度には特異的ではないこと、又は前記抗体が関心のあるエピトープ以外のエピトープに指向する大きい割合の抗体を含んでいることである。
【0013】
過去十年の間に、Fcレセプターを発現する細胞又は変性したFcレセプターを使用する免疫化プロトコルは、単に変性したFcレセプターを特異的に検出することが可能である(ウェスタンブロット)か、又は細胞系(例えばU−937、ラジ)又は血液細胞上のこの関連したFcγRIIaとFcγRIIbとを識別できない抗体を生じたに過ぎない。遡ると、選択的にかつ特異的にFcγRIIbに、その天然のコンフォメーション及び/又はその天然の環境において結合する抗体又はその他の結合物質は存在しない。
【0014】
ペプチド又は組み換えタンパク質を抗原として伴う従来の免疫化プロトコルは、極めて高い配列同一性を有するホモログが存在するタンパク質に特異的な抗体を産生するためには良好に適するものでない。一般的に、抗体は小さい線形のペプチドを免疫原として用いて産生される。かかるペプチドは、タンパク質(エピトープが由来するタンパク質)上のエピトープの天然のコンフォメーションを代表するものでない。加えて、この免疫化した動物により産生される抗体の大多数は、この抗原がコンジュゲートする担体タンパク質のエピトープに対して、又はホモログに共通する組み換え抗原上のエピトープに対して指向する。結果として、この産生された抗体は、特異的でないか、かつ/又はこの天然のコンフォメーションにある抗原を検出することが可能でない。更に、グルコシル化部位は、関心のあるエピトープ内に局所し、これらの部位を遮閉する可能性がある。これらのエピトープをこの標的分子に見出されるそれぞれの天然のグリコシル化なしに使用する従来の免疫化プロトコルは、その天然のコンフォメーションにある抗原を認識することができない抗体を生じる。
【0015】
本発明の1つの目的は、免疫原として使用できる組み換えペプチド又はポリペプチドを、関心のある抗原と緊密に関連した抗原とを識別することができる抗体を産生するために提供すること、及びかかるポリペプチド及び相応する抗体及び免疫学的な特異性を有するその他の物質を製造する方法を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、Fcレセプターサブタイプに選択的に結合でき、かつこれらを識別することができる物質であって、従って免疫疾患、特に自己免疫疾患の治療及び診断に利用できるFcレセプター結合物質として、及び腫瘍細胞に対してADCCを促進する療法の効率を促進する抗腫瘍剤として作用する物質を提供することである。
【0017】
本発明の更なる目的は、かかるFcγRIIb結合物質、特に抗体、特に上述の特異性を有するモノクローナル抗体の産生を可能にする免疫化プロトコルを提供することである。
【0018】
本発明の発明者は、極めて緊密に関連したタンパク質及び/又はタンパク質と高い相同性を有する抗原とを識別することが可能である物質、特に抗体を開発するための新規でありかつ発明性のあるアプローチを見出した。
【0019】
意外にもいわゆるコンフォメーションにより識別するエピトープ(CDEs)を、抗体を産生する抗原として使用する場合に、関心のあるタンパク質に対して特異的な抗体を産生することが可能であることが見出された。
【0020】
本発明は従って、天然のコンフォメーションにおいてコンフォメーションにより識別するエピトープ(CDE)を有する人工ペプチド又はポリペプチドに関し、その際前記CDEは環化により構造的に安定化されている。
【0021】
本発明の目的のために、人工ペプチド又はポリペプチドは、任意の技術的な方法、例えば組み換え技術、又は有利にはペプチド合成により製造された人工ペプチド又はポリペプチドである。
【0022】
CDEはタンパク質中のエピトープであって、前記タンパク質において特異的なコンフォメーションを有するエピトープである。かかるエピトープに特異的な抗体は、タンパク質と極めて緊密に関連したホモログとを識別できる。前記CDEは、前記CDEが存在するタンパク質と、このタンパク質のホモログとで相違する少なくとも1つのアミノ酸を有する(特有残基)。前記特有残基は、この同じエピトープの一部であるべく前記タンパク質の線形の配列において緊密に近接するには及ばない。本発明の利点は、本発明のペプチドがこれらエピトープの線形の配列を有するのみでなく、しかしこれら構造をも模倣することである。前記CDEは少なくとも1つの、有利には少なくとも2つのかかる特有残基を、より有利にはかかる特有残基2つ以上を含む。CDEは抗体のための結合部位を提示する。
【0023】
本発明のペプチドは有利には、5つ〜、より有利には約8つ〜、より一層有利には約10つ〜、約30つまでの、より有利には20つまでの、より一層有利には約18つまでの、極めて有利には約15つまでのアミノ酸の長さを有する。
【0024】
本文脈における構造的安定化は、前記ペプチドが安定化されているので、このCDEは可能な限りこの本来のタンパク質におけるほぼ天然の三次元コンフォメーションで存在することを意味する。構造的安定化は、種々の手段によって達成されてよい。特に、前記ペプチドは安定な三次元構造、例えばループを形成するように環化されている。前記ペプチドの安定化は、N−末端のC−末端へのカップリング、システイン架橋の形成により、又はアミノ酸側鎖の架橋により達成されてよい。擬ペプチドが形成される。
【0025】
有利には、本発明のペプチド又はポリペプチドは、グリコシル化部分をも有する。前記ペプチドは有利には、グリコシル化したアミノ酸が、このCDEが由来する天然のタンパク質においてグリコシル化される同じ部位で組み込まれるように産生される。有利には、このグルコシル化したアミノ酸は、N−アセチル−グルコサミン、フコース、キシロース、マンノース、及びガラクトースのコンジュゲートから選択されるが、このリストは網羅するものでない。この識別するエピトープがN−グリコシル化部位を有する場合には、この天然のグルコシル化した基質が、成功した免疫化ののちに生じる抗体により認識される可能性を促進するために、N−アセチル−グルコサミンを有するアスパラギン残基の人工コンジュゲートを前記ペプチド中に組み込んでよい。従って、O−グリコシル化部位に関しては、セリン又はトレオニン残基は、マンノース、フコース、キシロース、ガラクトース、又はN−アセチル−ガラクトサミン残基とそれぞれコンジュゲートされていてよい。
【0026】
本発明のペプチド及びポリペプチドは更に、担体分子にカップリングされていてよい。かかる担体分子は有利には、ハプテン、ペプチド、ポリペプチド及びその他の免疫原から選択される。本発明のペプチドは、その他のペプチド及びタンパク質、更にはこのCDEが由来する同じタンパク質又はその一部に接合されていてよい。
【0027】
本発明の有利な実施態様は、FcレセプターからのCDEを有するペプチドである。本発明の発明者は意外にも、FcγRIIbの細胞外部上に特異的なエピトープが存在することを見出し、これによりFcγRIIbに特異的に結合する抗体の産生を可能にする。これは特に有利であり、というのはFcレセプターのファミリーは、従来の抗体を用いて識別することが困難な、尋常でなく緊密に関連したホモログを有するからである。特に、本発明は、FcγRIIbに結合するがFcγRIIaに結合しない物質及びこの逆も同様である物質を製造することを可能にする。同様に、このエピトープは、FcγRIIaが特異的に認識されるように選択されてよい。
【0028】
特に、本発明によるペプチド又はポリペプチドは、少なくとも1つの、有利には少なくとも2つの、更に有利には少なくとも3つの、図1及び配列番号2に従ったヒトFcγRIIbのアミノ酸配列の以下のアミノ酸:Gln12、Arg27、Thr29、His30、Val104、Lys127、Ser132、Asn135、Tyr160及びAla171、又は配列番号1に従ったFcγRIIaのこの相応するアミノ酸を有するエピトープを有する。より有利には、本発明の目的のために有利なエピトープは、FcγRIIb(図1、配列番号2)のアミノ酸配列のアミノ酸27〜30、及び/又は127〜135、及び/又は160〜171又はFcγRIIaのこの相応するアミノ酸(図1)を有する。これらのペプチドは、適当な方法で、例えば図2において例示したように、環化により構造的に安定化している場合には、FcγRIIbに特異的なコンフォメーションにより識別するエピトープ(CDEs)を表してよい。また、FcγRIIaの相応するエピトープはFcRIIaのみに特異的に結合する抗体を産生するために使用されてよい。
【0029】
とりわけ、アミノ酸配列127−KKFSRSDPN−135及び隣接アミノ酸を有するペプチドが有利であり、というのはこれらのペプチドは、Fc断片に対するFcレセプターの結合領域内においてFcγRIIbに特異的なコンフォメーションのエピトープを表すからである(WO00/32767, Sondermann et al., 2000; Sondermann et al., 2001)。更に、アミノ酸配列28−RGTH−31及び隣接残基を有するペプチドは有利であり、というのはこれらがFc断片に対する結合領域を別にした結合エピトープを表すからである。また更に、このエピトープは更に、環化及び135位のグリコシル化したアスパラギン残基の組み込みにより天然の構造に適合されてよい。
【0030】
従って、本発明の有利な実施態様は、配列番号3に従ったCDEを有するペプチド又はポリペプチドである。有利には、135位のアスパラギン(配列番号2番に従って)は、N−アセチル−グルコサミンによってグリコシル化されている。有利には、図7に示したようにペプチドは、図7に示したような配列のこの最初の及び最後のアミノ酸を連結することで環化されている。
【0031】
これらの人工ペプチドは次いで、動物の免疫化のための直接的に使用できるか、又は担体タンパク質、例えばハプテン、又はペプチド又はポリペプチドに、又は理想的にはその標的タンパク質自体にカップリングしていてよい。有利な実施態様において、FcγRIIb又はFcγRIIaからのCDE、又はかかるCDEを有するペプチドは、FcγRIIb又はFcγRIIaにコンジュゲートされている。
【0032】
本発明のペプチド及びポリペプチドは有利には、動物を免疫化するための免疫原として、特異的な抗体、及びこれらの特異的な抗体の配列の助けにより、更に免疫学的に特異的な物質を産生するために使用される。CDEs及びこれらを有するペプチドは、前記CDEを特異的に認識する、免疫学的に調節性の物質の産生のために使用されてよい。これは特に、FcレセプターのCDEsが選択される場合に有利であり、というのはこれらはホモログのファミリーの個々のメンバーに特異的な抗体の産生を可能にするからである。特に、FcγRIIb又はFcγRIIaのいずれかを認識するが、しかし両者を同時には認識しない抗体及びその他の免疫学的に調節性の物質が産生されることが可能である。本発明は、FcγRIIb又はFcγRIIaを特異的に認識し、かつ、これら2つのFcレセプターを識別することが可能であるだけでなく、このFcレセプターがその天然の環境中に、例えば細胞培地中に又はin vivo、例えば血液流中に存在する場合にも同様にすることが可能である抗体の産生を可能にする。
【0033】
CDEを、これが由来するタンパク質にカップリングさせることで、この担体タンパク質に対する背景の免疫反応は減少する。共有結合によりカップリングしたCDEによる人工的な修飾は、増加した免疫応答を生じる。これは特に、この免疫化した動物が、この免疫系により寛容されうる同様のタンパク質を発現する場合に重要である。 従って、本発明のペプチドがFcγRIIb又はFcγRIIaのCDEを有する場合には、前記CDEは有利にはこのそれぞれのFcレセプター自体にカップリングしている。これにより抗原性を上昇させる。このカップリングは、化学的な結合又はその他の適した手段により生じてよい。
【0034】
この方法は有利には高密度のCDEsを有する免疫原を産生し、これによりこれらを異なる、即ち免疫原性の環境において提示する。この最初の免疫応答はこの標的領域(CDE)に対して指向していて、前記領域は、これらがカップリングされたこの天然の構造と交差反応する抗体を産生する。これらの交差反応する抗体は、この天然の環境においてCDEをも認識する、より高度な親和性へと成熟する。
【0035】
本発明のペプチド及びCDEsは、結合する分子のための分子ライブラリー(例えば、ペプチド、有機分子、ペプチドメティックス(peptidometics)その他)、又は遺伝子によりコードされたライブラリー(例えば、抗体可変ドメインのファージディスプレー又はその他のフレームワーク、例えばリポカリン)のスクリーニングにおいても、FcγRIIb(又はFcγRIIa)に特異的に結合する物質を見出すために使用されてよい。前記ペプチドは、ヒト細胞上のFcγRIIa又はFcγRIIbのいずれかに特異的に結合する分子のライブラリーをスクリーニングするために使用されてよい。
【0036】
本発明による同様のペプチドは、その他のタンパク質の、例えばレセプターの構造から抽出されてよく、前記タンパク質は相互に関連があるが、異なる機能を有するか(例えばヒトのFcγRIIaに特異的な抗体は、FcγRIIbを認識しないように開発されることができ、前記抗体はDiabody又はTriabody中に、FcγRIIbよりむしろFcγRIIaにより媒介されるADCCを促進するために組み込まれてよい)、又は異なる対立遺伝子において生じる(例えば131位のFcγRIIa Arg/His−多形性、又は155位のFcγRIIa Phe/Val多形性)。
【0037】
本発明の新規ペプチドのその他の使用は、免疫学的な機能のプロモーターの抑制剤としての直接的な使用である。本発明によるペプチドは、免疫療法のために直接的に使用されてよい。
【0038】
本発明の上述したペプチドは、新規の方法により製造されてもよく、その際この方法は以下を含む:
(a)関心のあるタンパク質を提供、
(b)前記タンパク質上のCDEを同定、
(c)前記CDEの配列を有するペプチドを産生、
(d)前記CDEがその天然のコンフォメーションにあるように前記ペプチドを構造的に安定化。
【0039】
前記ペプチドは環化、有利にはN末端のC末端へのカップリング、システイン架橋の形成、及び/又はアミノ酸側鎖の架橋により構造的に安定化され、擬ペプチドを形成する。上述したように、前記ペプチドは有利には、関心のあるタンパク質に存在するグリコシル化部分を有するアミノ酸を使用して産生される。前記方法は有利には、付加的な工程、前記ペプチドの担体分子へのコンジュゲートを含み、前記分子は任意の上述した分子から選択される。本発明のその他の観点は、本発明の方法により得られるCDEを有するペプチド又はポリペプチドである。
【0040】
特異的に結合する抗体の画分を著しく上昇させるために、本発明は、関心のある抗原と緊密に関連した抗原とを識別することができる特異的に結合する物質を産生するための方法であって、その際前記方法が、動物を本発明によるペプチド又はポリペプチドで、及び/又は、関心のある抗原の正確に折りたたまれた一部で、特にFcレセプター、例えばFcγRIIb又はFcγRIIaに由来するペプチドで免疫化し、かつこの生じる抗原を単離し、かつ場合により前記抗体を組み換えの免疫学的に調節性の物質を産生するために使用することを含む以下の方法を提供する。
【0041】
抗原Aと、Aとの高い配列同一性を有する抗原Bとを識別する抗体を産生するために、この相違するアミノ酸はAの構造又はAのそれぞれの構造モデルにマッピングされる。この最初の配列において複数のアミノ酸により隔てられている相違するアミノ酸は、空間的に近接していてよい。これらの相違するアミノ酸が、この天然の構造において溶媒から易到達性である場合には、これらの表面領域はコンフォメーションにより識別するエピトープ(CDE)であると見なされてよい。かかるエピトープは、環式ペプチド又はペプチドアナログにより人工的に構築されてよく、かつ極めて関連した抗原を識別する抗体の産生のためにとりわけ有利である。
【0042】
この方法の変形において、トランスジェニック動物を免疫化のために使用し、前記動物は緊密なホモログを発現すべく操作されていて、かつ後にこの標的抗原で免疫化される。ヒトFcγRIIbを発現する動物は、ヒトFcγRIIaで免疫化されているか、又はその逆も同様である。
【0043】
特に有利な観点において、本発明は、Fcレセプターの天然の環境においてFcγRIIbに又はFcγRIIaに特異的に結合することが可能である、FcγRIIbに結合する抗体又はその断片又は誘導体を提供する。かかる抗体断片又は誘導体は、FcγRIIb及びFcγRIIaの緊密に関連したホモログを天然の環境で、例えば細胞培地中で、又はin vivoで識別できる。
【0044】
有利な実施態様において、前記FcγRIIb結合抗体又はその断片又は誘導体(又はFcγRIIa結合抗体又はその断片又は誘導体)は、FcγRIIb(又はFcγRIIa)に特異的に結合するのみでなく、FcγRIIb(FcγRIIa)の天然の結合パートナー、例えばIgG抗体が結合することをも妨げる。
【0045】
本発明のその他の有利な実施態様において、この特異的な抗FcγRIIb(又は抗FcγRIIa)抗体は、非遮断性であり、かつFcレセプター/Fc断片相互作用部位から遠位のエピトープ(例えば、アミノ酸28〜31の付近のN末端ドメインのエピトープ)を認識する。遮断性の抗体とは対照的にこれらの抗体は、レセプターの免疫複合体へのレセプターの結合が損なわれないという利点を有する。これにより、免疫複合体による前記レセプターの活性化が完全なままであり、かつ付加的なレセプターはこの活性化を促進するために動員されることが可能である。
【0046】
従って、IgG結合に依存せずにこれらのFcレセプターの天然の機能を調節することが可能である。例えば、前記抗体又はその断片又は誘導体は、前記Fcレセプターに架橋することが可能であるように選択されてよい。かかる方法により、前記レセプターは活性化される。有利には、本発明の前記抗体又はその断片又は誘導体は、免疫複合体がFcγRIIb又はFcγRIIaに結合することに干渉しない。
【0047】
その一方で、前記抗体又はその断片又は誘導体は、これがヒトFcγRIIa又はFcγRIIbの生理学的な機能を抑制するように選択されてよい。
【0048】
本発明の抗体又はその誘導体又は断片は有利には、FcRIIaに対するよりもFcRIIbに対してより高い親和性で結合する。前記抗体又はその断片又は誘導体は、FcγRIIbに、少なくとも5倍、有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも100倍、更により有利には少なくとも1000倍、一層有利には少なくとも10000倍、最も有利には少なくとも100000倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも1010倍、より有利には少なくとも1011倍、より有利には少なくとも1012倍、FcγRIIaに対するよりもより高い親和性で結合する。又は、前記抗体又はその断片又は誘導体は、FcγRIIaに、少なくとも5倍、有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも100倍、更により有利には少なくとも1000倍、一層有利には少なくとも10000倍、最も有利には少なくとも100000倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも1010倍、より有利には少なくとも1011倍、より有利には少なくとも1012倍、FcγRIIbに対するよりもより高い親和性で結合する。特異的なFcレセプターに対する5、10、100、100又は更には1000000倍より密な結合が、FcγRIIbを超えて血小板上でのFcγRIIaの十分により高い発現レベルを克服するために必要である。
【0049】
前記抗体又はその断片又は誘導体は、単量体又は多量体の状態で生じてよい。
【0050】
前記抗体又はその断片又は誘導体は、Fcレセプター分子に、この細胞表面上でのこれらに対する架橋あり又はなしで結合することが可能であってよい。有利には、前記抗体又はその断片又は誘導体は、FcγRIIa又はFcγRIIbに架橋できるように多量体である。又は、前記抗体又はその断片又は誘導体は単量体であり、ヒトFcγRIIbに対するIgGの結合を遮断できるか、しかし有利にはFcγRIIbに架橋することが可能ではない。
【0051】
本発明の前記抗体又はその断片又は誘導体は、このFc断片において、グリコシル化の修飾及び/又は突然変異により、前記Fcレセプターのサブセットに対する結合を促進すべく改変されていてもよい。
【0052】
本発明の前記抗体又はその断片又は誘導体は、有利には、上述のCDE及び/又はペプチド、特に図1及び配列番号2に従ったヒトFcγRIIbのアミノ酸であって、以下から選択されたアミノ酸:Gln12、Arg27、Thr29、His30、Val104、Lys127、Ser132、Asn135、Tyr160及びAla171、又は配列番号1に従ったFcγRIIaのこの相応するアミノ酸の1つ又はそれ以上を有するCDE及び/又はペプチドに結合することができる。より有利には、前記物質は、FcγRIIbのアミノ酸配列(図1、配列番号2)のアミノ酸27〜30及び/又は127〜135及び/又は160〜171を含むエピトープ又はFcγRIIaの相応するエピトープに結合する。
【0053】
同様に、FcγRIIbを認識しないヒトのFcγRIIaに特異的な抗体が開発されることができ、これはDiabody又はTriabody中に、FcγRIIbよりむしろFcγRIIaにより媒介されるADCCを促進するために組み込まれてよい。
【0054】
前記抗体又はその断片又は誘導体は、任意の天然の、人工の、又は組み換えにより産生された、FcγRIIbの上述のエピトープに結合できる領域を有する物質であってよい。有利には、この領域は特異的にFcγRIIbに結合する抗体の相補性決定領域(CDRs)有する。より有利には、前記CDRは図5及び6に描写した配列を有する。
【0055】
この記載したCDRsは、その他の選択されたFcレセプター又はレセプター群のためのこれらの特異性又は新規の特異的な又は汎抗体(pan antibody)(又は結合分子)の設計を更に改善するための変形のベースであってよい。無作為の又は部位特異的突然変異、関連した配列のスクリーニング、及び知識又は構造に基づいた設計を含む方法が既知である。
【0056】
有利には、前記抗体又はその断片又は誘導体は、1つの又は両方の、配列番号5及び配列番号7に従った可変軽鎖領域及び可変重鎖領域、及び/又は配列番号9及び11に従った可変軽鎖領域及び可変重鎖領域を含む。最も有利には、前記抗体はCE5、又はGB3である。
【0057】
モノクローナル抗体が有利である。有利には、これは、IgG、IgE、IgM又はIgAのアイソタイプを有する抗体又はその断片又は誘導体である。有利には、前記抗体はヒトの又はヒト化しているか、しかしその他の起源、例えば動物起源、特にマウス又はラクダ起源であってもよい。前記抗体は様々な形態、例えば単鎖抗体、二官能性、又は三官能性、又は多官能性の抗体、Fab断片又はFab断片、又は抗体全体として存在してよく、前記抗体においてこのFc断片はFcレセプター又は補体に対して改変した親和性を有する。これはFab断片、F(ab)断片、又はFv断片、又はscv断片であってもよい。
【0058】
前記抗体又はその断片又は誘導体は、CDRsの配列、又はこの提供された配列に対して50%より高く、有利には70%より高く、より有利には90%より高く、更に有利には95%より高く関連している、同様の配列を含む特異的な結合領域を有する、組み換えにより産生されたポリペプチド又はポリペプチドアナログであってよい。これらの配列は、Fcレセプターの抑制剤の設計のための開始点であってもよい。従って、ペプチド模倣体もまた、この提供されたCDRsの配列モチーフを使用するか又は模倣する本発明の一部である。
【0059】
その他の有利な実施態様において、前記抗体又はその断片又は誘導体は、アンチカリン(anticaline)又はリポカリン変異体又はその他の抗体の代理物である。
【0060】
この得られた抗体又はその断片又は誘導体は、エフェクター分子、例えば関心のある抗原、抗体、抗体断片、マーカー分子、細胞毒性物質、立体的にかさばっている遮断物質及び連結分子及び連結物質にカップリングされていてよい。
【0061】
本発明のその他の観点は、核酸、上述した本発明のペプチド及び/又は抗体又はその断片又は誘導体をコードする核酸を含有するベクター及び宿主細胞である。
【0062】
本発明による抗体又はその断片又は誘導体から、このタンパク質をコードする核酸配列が得られる。有利には、前記配列は可変領域、有利には上述の、FcγRIIbのエピトープに結合するCDRsをコードする。最も有利には、前記核酸配列は、図5及び6に従った配列の1つ又はそれ以上に従ったCDRsをコードする。有利には、前記核酸は、モノクローナル抗体、CE5又はGB3の配列をコードする。
【0063】
前記核酸配列は、図5及び6に従ったタンパク質の発現のためのベクター中に挿入されていてよく、このベクターも本発明の観点の1つである。前記ベクターは、上述の核酸配列が配置されたベクターの制御下にあるプロモーターを有する。前記ベクターは、原核生物又は真核生物の発現ベクターであってよく、その際前記組み換え核酸は単独で、又はその他のペプチド又はタンパク質又はDNA−ワクチン接種に適したベクターに融合して発現される。
【0064】
本発明は上述したベクターでトランスフェクションされた宿主細胞をも提供する。前記宿主細胞は任意の細胞、原核細胞又は真核細胞であってよい。
【0065】
本発明は更に、Fcレセプターが媒介したシグナル伝達に関連した疾病の治療のために利用できる医薬組成物であって、本発明による抗体又はその断片又は誘導体の有効量及び医薬的に許容可能なキャリアー物質を含む医薬組成物を提供する。
【0066】
本発明は更に、自己免疫疾患及び/又は癌の検出のための診断キットであって、本発明による抗体又はその断片又は誘導体及び/又は、本発明において説明されたエピトープの1つを含むか又は示す本発明による組み換えペプチド又はポリペプチド、及び場合によりマーカー試薬、キャリアー試薬及び/又は適した容器を含む診断キットを提供する。
【0067】
グリコシル化されていない正確に折りたたまれたFc−レセプター、例えば大腸菌に由来しかつ説明したエピトープで修飾されたFcレセプターでの免疫化は意外にも、血液細胞上及び細胞培地中で発現した、天然のFcレセプターを特異的に認識する抗体を生じる(図3及び図4)。
【0068】
本発明のその他の観点は、FcγRIIbに特異的に結合する能力により特徴付けられた抗体の産生方法であって、その際前記方法は:
(a)正確に折りたたまれたFcγRIIb分子又はその一部を、少なくとも一部の細胞外ドメイン(コンフォメーションエピトープ)、そのコンジュゲート体、又はその他の担体分子(例えばKLH、BSA)とのコンジュゲート体を含む免疫原として提供し、
(b)哺乳類を(a)の免疫原で免疫化し、公知の方法により抗体を産生し、
(c)この生じる抗体又はこの抗体を産生する細胞を単離する
ことを含む抗体の産生方法である。
【0069】
前記抗体は有利にはモノクローナル抗体である。
【0070】
CDRsはその他の免疫グロブリンクラス(例えば、IgM、IgE、IgG1〜IgG4)又はその他の足場(例えばリポカリン変異体、ラクダ抗体)、又は突然変異したか又は誘導体化された分子(例えば、改変されたFc断片を有する操作された抗体)に接合されていてよい。
【0071】
上述の方法は、動物の免疫化のためのビヒクルを製造するために使用されてよく、FcγRIIbに対する増加した特異性の抗血清を生じ、前記抗血清は、単離したB細胞と骨髄腫細胞との融合後、FcγRIIbに特異的な抗体を産生する増加した割合を有するハイブリドーマ細胞を生じる。
【0072】
本発明による抗体又はその断片又は誘導体は、免疫系に関連する症状の治療及び/又は診断のための医薬品の製造のために利用できる。有利には、これらの症状は自己免疫疾患又は癌である。
【0073】
本発明の薬物により治療されてよい疾患は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、Rieter’s症候群、乾癬、多発性硬化症、エリテマトーデスを含むがこれらに限定されない。
【0074】
本発明の物質を使用して診断されるか又は治療されることが可能な自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、特発性血小板減少性紫斑病及び宿主対移植片疾患を含むがこれらに限定されない。
【0075】
意外にも、本発明者らにより、ある特定の免疫学的な経過をFcγRIIbに結合する物質を使用することでin vivoで促進することが可能であることが見出された。特に、本発明のかかる物質を、細胞に対するFcγRIIBのシグナル伝達の特異的に遮断するために使用することが可能でありそしてこれにより個人の免疫応答を増加させる。これは使用細胞に対するADCCの増加のために使用されてよい。実施においては、前記のFcγRIIb結合物質を、治療性の抗体と共にアジュバントとして与える。前記の治療性の抗体によりオプソニン化された抗原(例えば腫瘍細胞)により活性化したマクロファージ又はB細胞へと伝達される抑制性シグナルは遮断され、この宿主の免疫系は標的の抗原の戦いにおいてより有効である。これは、直接的に、FcγRIIbを発現する腫瘍細胞(例えばB細胞リンパ腫)をラベル化することによる、又はこのFcγRIIbに結合する物質をアジュバントとして用いることによる、既知の治療性の抗体を使用する全てのアプローチにおいてであってよく、従って宿主のADCCに依存する。
【0076】
この既知の治療性の抗体は、ハーセプチン(R)、リツキサン(R)、IC14、PANOREXTM,IMC−225、VITAXINTM、Campath 1H/LDP−03、LYMPHOCIDETM、及びZEVLINTMを含むがこれらに限定されない。これらはまた、以下の癌の抗原:MAGE−1、MAGE−3、BAGE、GAGE−1、GAGE−2、N−アセチルグルコサミン転移酵素、p15、β−カテニン、MUM−1、CDK−4、HER−2/neu、ヒトパピローマウィルスE6、ヒトパピローマウィルスE7及びMUC−1に結合する抗体をも含む。
【0077】
特定のリンパ腫においてB細胞又はマスト細胞は変換される。前記抗体又はその断片又はその誘導体はこれら細胞の表面上でFcγRIIbに架橋することが可能であり、これらは排除のために前記細胞をラベル化するが、しかし付加的に抑制性の及びアポトーシス促進性のシグナルをこれら細胞に伝達する。この効果はこれまでの治療性の抗体のアプローチの改良であり、前記アプローチはこの宿主のADCCに完全に依存する(例えばリツキサン)。
【0078】
Fcレセプターに架橋するか又は遮断する同じ抗体は、宿主対移植片疾病又はアミロイドに関連した疾病の治療のために使用されてよい。
【0079】
同じFcγRIIbを遮断及び/又は架橋する構築体は、アレルギー治療のためマスト細胞を抑制するために使用してよい。
【0080】
前記抗体又はその断片又は誘導体は、IgEにカップリングされていてよい(例えば、IgE分子に図5又は6に示したCDRsを移すことにより)。この場合には前記IgEはマスト細胞が発現したFcεRにより結合し、そしてFcγRIIbに特異的なCDRsはFcεRIのITAMに、FcγRIIbのITIMで架橋する。再度、抑制性の及び/又はアポトーシス性のシグナルがマスト細胞に伝達され、これはアレルギーの治療において利用できる。
【0081】
前記抗体又はその断片又は誘導体(例えば、図5及び6に示された配列の誘導体)は、自己免疫疾患の治療のために使用されてよい。
【0082】
かかる物質はB細胞、樹状細胞及び活性化した顆粒球(例えばマクロファージ)を抑制し、これにより免疫刺激性の媒介体の減少した産生、及び抗体産生と同様に抗原提示の減少を生じる(例えば樹状細胞及びマクロファージに対して、T細胞動員の減少を生じる)。まとめると、抗体産生及び前記免疫系の再刺激のフィードバックループは抑制される。
【0083】
有利には、この抗FcγRIIb又はFcγRIIaは、前記レセプターのFc断片の結合に干渉しない。このようにして、Fcレセプターの通常の機能は、抗体の遮断とは対照的に維持され、かつ更なるレセプターの付加的な動員による細胞の活性化を促進する。
【0084】
その一方で、特異的な抗FcγRIIa抗体又はその断片は、抗原をこのレセプターに向けて指向させるためにdiabodyにおいて使用されてよいか、又はこれらの抗体の断片は免疫複合体の取り込みを抑制するために、例えばITPの治療のために使用されてよい。
【0085】
前記CDRsは単独で又は組み合わせて、FcγRIIa/IgG相互作用又はFcγRIIb/IgG相互作用の特異的な抑制剤の産生のために使用されてよい。かかる抑制剤の産生のために、誘導体又はペプチド模倣体と同様に非天然アミノ酸を使用してよい。
【0086】
前記抑制剤は次いで、結晶構造の産生のために、又は構造に基づいた設計のために、又は進化的手法のための対象のために使用されてよい。更なる使用は、進化的手法による図5又は6に示された配列からの改変した配列の産生である(例えば無作為の又は部位特異的突然変異又は構造に基づいた設計)。
【0087】
特に、Fcレセプターの抑制剤は、この選択したFcレセプターに関する上述の特異性を減少させるか又は促進させるために使用してよい。この終わりに、前記の特異的な抗体、特にGB3及びCE5のCDRsにおいてFcγRIIbに対するこれらの特異性を促進するか低めるために改変を実施してよい。
【0088】
本発明のペプチド及びポリペプチド及び物質、特に抗体又はその断片又は誘導体は、免疫系に関わる症状、特に自己免疫疾患、有利には、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、免疫性の血小板減少性紫斑病又は多発性硬化症から選択された症状の治療及び/又は診断のための医薬品の製造のために利用できる。更に、本発明のペプチド及び抗体又はその断片又は誘導体は、癌及び/又はアレルギーの診断及び/又は治療において利用できる。mAbs CE5又はGB3又はその誘導体又は断片は特に、自己免疫疾患、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、特発性血小板減少性紫斑病、関節リウマチ、及び癌、特にリンパ腫又は白血病の治療のために利用できる。
【0089】
mAbs CE5又はGB3又はその誘導体又は断片は、癌の治療のために、その他の治療薬、有利には生物学的治療薬(例えば、抗体)との組み合わせにおいて使用されてもよい。
【0090】
本発明により産生された抗体又はその誘導体又は断片は、癌の治療及び/又は診断のために、有利にはその他の治療薬、有利には生物学的治療薬(例えば、更なる抗体)との組み合わせにおいて使用できる。前記抗体又はその断片又は誘導体は次いで有利にはアジュバントとして使用される。
【0091】
本発明の抗体又はその断片又は誘導体の更なる使用は、宿主対移植片疾病の治療のための、アミロイドに関連した疾病の治療のための、又はワクチン接種の効果を増加させるため、又は活性化した樹状細胞及び/又はマクロファージに関連した疾病の治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための使用を含む。
【0092】
二重特異性の抗体中の特異的な抗FcγRIIa断片を含む抗体又はその断片又は誘導体を、抗原を血小板による輸送及び/又は肝臓及び脾臓の食作用系による取り込みに向けて指向させるために使用することも可能である。有利には、前記抗体又はその断片又は誘導体は、ITPの治療のための特異的な抗FcγRIIa抗体又はその断片である。
【0093】
図及び配列表の説明
図1:
ヒトFcγRIIb及びFcγRIIaの細胞外ドメインの配列アラインメント。相違するアミノ酸を囲った。
【0094】
図2:
リボン表示におけるFcγRIIbの構造。特有残基を、ボール及び棒で示し、可能性のあるグリコシル化部位をより大きな球として示した。矢印は可能性のある抽出可能な副次構造(エピトープ1及び2)を指し示し、特異的なFcRIIb−抗血清に向けた免疫化プロトコルの改善のために及び引き続きアイソフォームに特異的なモノクローナル抗体の産生のためにハットは人工的に産生されていてよい。
【0095】
図3:
左図:ラジ細胞(FcγRIIb陽性及びFcγRIIa陰性)の、マウスの免疫前血清(マイナス)、免疫化工程後に得られた抗血清(抗血清)及び汎性のFcγRII−mAb AT10(Greenman et al., 1991)を用いたFACS測定の図。右図:U−937細胞(FcγRIIa陽性及びFcγRIIb陰性)に対する蛍光ラベル。この抗血清は、特異的な抗体の存在を示す細胞とわずかに反応するだけである。
【0096】
図4:
通常の血清(ネガティブコントロール)、FcγRIIb−CDE(126〜137)で免疫化したマウスの抗血清、mAb AT10、又は本発明を用いて産生した特異的なモノクローナル抗体GB3のいずれかで、インキュベーションしたヒトの血液のFACS分析。a):細胞の大きさ(FSC−H)及び細分性(SSC−H)の観点における血液試料のドットブロット分析。観察した領域、R1、R2、R3はそれぞれリンパ球(B細胞及びT細胞)、単球及び顆粒球を含む。b)前記細胞の蛍光強度は、リンパ球を代表する領域R1において見出された。汎性のFcγRIIb mAb At10、mAb GB3及び抗血清は、前記FcγRIIb陽性のB細胞を染色したが、FcγRII陰性のT細胞は認識されなかった。c)前記細胞の蛍光強度は、単球/マクロファージを代表する領域R2において見出された。ポジティブコントロールとは対照的にm Ab AT10及び抗血清mAb GB3はFcγRIIa陽性の単球を認識しなかった。d)前記細胞の蛍光強度は、顆粒球を代表する領域R3において見出された。ポジティブコントロールとは対照的にmAb AT10及び抗血清mAb GB3はFcγRIIa陽性の顆粒球を認識しなかった。
【0097】
図5:
クローニングされた抗体GB3の可変領域。囲み枠の領域はCDRsを示す一方で、下線を引いた末端部はプライマーによって導入されるクローニング人為産物のために異なるかもしれない。a)軽鎖の可変領域;b)重鎖の可変領域。
【0098】
図6:
クローニングされた抗体CE5の可変領域。囲み枠の領域はCDRsを示す一方で、下線を引いた末端部はプライマーによって導入されるクローニング人為産物のために異なるかもしれない。a)軽鎖の可変領域;b)重鎖の可変領域。
【0099】
図7:
免疫化及びFcγRIIbに特異的な抗体の産生のために使用したグリコペプチドCDE(126〜137)。
【0100】
図8:
特異的な抗マウスFcγRIIb抗体でのSJLマウスの免疫化。SJLjを200μgのMOGで、0日目に免疫化した。抗FcγRII抗体での処置(50μg/週の用量)を5日目に開始した。この臨床スコアを毎日観察し、一群につき8匹のマウスの平均として示す。
【0101】
配列番号1 FcγRIIaのアミノ酸配列(図1に示したとおり)。
【0102】
配列番号2 FcγRIIbのアミノ酸配列(図1に示したとおり)。
【0103】
配列番号3 グリコペプチドCDE(126−137)の配列。
【0104】
配列番号4 mAb GB3の可変軽鎖領域の核酸配列。
【0105】
配列番号5 mAb GB3の可変軽鎖領域の相応するアミノ酸配列。
【0106】
配列番号6 mAb GB3の可変重鎖領域の核酸配列。
【0107】
配列番号7 mAb GB3の可変重鎖領域の相応するアミノ酸配列。
【0108】
配列番号8 mAb CE5の可変軽鎖領域の核酸配列。
【0109】
配列番号9 mAb CE5の可変軽鎖領域の相応するアミノ酸配列。
【0110】
配列番号10 mAb CE5の可変重鎖領域の核酸配列。
【0111】
配列番号11 mAb CE5の可変重鎖領域の相応するアミノ酸配列。
【0112】
実施例
実施例1
シクロ−[N−β−(2−アセチルアミノ−デオキシ−2−β−グルコピラノシル)−Asn138,Gly141]−(129−141)−FcγRIIb2,CDE(126−137)の合成。
標準的なアミノ酸誘導体はAlexis(Laeufelfingen, Switzerland)から、Asn(N−β−3,4,6,−トリ−O−アセチル−2−アセチルアミノ−デオキシ−2−β−グルコピラノシル)−OHのフルオレニルメトキシカルボニル誘導体(Fmoc)はMerck-Novabiochem(Darmstadt, Germany)から、及び予備負荷したクロロトリチル樹脂はPepchem(Tuebingen, Germany)からである。試薬及び溶媒は市販で入手可能な最高品質のものであり、更なる精製なしに使用した。分析逆相HPLCを、対称C18カラム(5μM、3.9×150mm、Waters)を用いてWaters装置(Eschborn, Germany)において直線勾配溶出により実施した:(1)0〜100%のA15分間、又は(2)0〜30%のA20分間、50%までのA5分間、及び100%のA更に5分間、(1.5ml/分の流速及び210nmでのUV検出)。この一対の溶出系は(A)アセトニトリル/2%HPO(90:10)及び(B)アセトニトリル/2%HPO(5:95)。分取逆相HPLCを、Abimed装置(Langenfeld, Germany)で、Nucleosil C18 PPN (5μm, 100Å,10x250mm, Macherey-Nagel, Dueren, Germany)及びアセトニトリロ中の0.08%のトリフルオロ酢酸(TFA)(A)及び水中の0.1%のTFAの勾配を使用して、10ml/分の流量で実施した。2%のAに7分間、40%までのA50分間、及び70%までのA更に5分間。ESI−MSスペクトルをPerkin-Elmer SCIEX API 165 三重四重極スペクトロメーターで記録した。LC−MSを、Nucleosil C18 column (5μm,100Å,1x250mm, Macherey-Nagel)で、水中の0.1%TFA及びアセトニトリル中の0.08%のTFAの線形勾配を用いて(流量:30μl/分;210nmでの検出)実施した。
【0113】
a)固相ペプチド合成
線形ペプチド前駆体を、手法によりFmoc−Gly−クロロトリチル樹脂(232mg、0.13mmol)で、Fmoc/tert−ブチル(tBu)化学の標準的な方法に従い合成した。前記Fmoc基を、各工程で2回の連続した処理(3及び20分間)により、N−メチルピロリドン(NMP)中の20%のピペリジンで開裂した。Fmoc−Ser(tBu)−OH及びFmoc−Phe−PHに関しては二重カップリング(2×1h)を、NMP中のFmoc−アミノ酸/2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)/N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)/N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(4:4:4:8eq)で適用し、この際前記グリコシル化Asn誘導体を、NMP中のFmoc−アミノ酸(1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(PyBOP)/HOBt/DIEA(2:2:2:5eq)を用いて一重カップリングにより導入した。この反応は、カイザー試験により確認して5時間後に完了した。無水酢酸/DIEA(1:1.3eq)でのキャッピング工程を、鎖伸長の前に10分間実施した。残りのアミノ酸誘導体(Argを、Arg−2,2,4,6,7−ペンタメチル−ジヒドロベンゾフラン−5−スルホニル[Pbf]誘導体として導入した)でのアシル化のために、再度二重カップリング(2×1.5h)を、NMP中のFmoc−アミノ酸/HBTU/HOBt/DIEA(6:6:6:12eq)で使用した。
【0114】
b)側鎖保護ペプチドの開裂
側鎖保護した線形ペプチドを樹脂から、前記ペプチド樹脂を5mlのジクロロメタン(DCM)中の1%TFAで3分間処理することで開裂した。この濾過物を、薄層クロマトグラフィー(TLC)(CHCl/MeOH/HO,8:3:1)により、1mlのメタノール中の10%ピリジンの添加の前に分析した。このTFA処理を、前記濾過物に対するTLCコントロールがネガティブになるまで繰り返した(全体で4つの処理)。最後に、前記樹脂をDCM及びトリフルオロエタノールで洗浄し、ペプチド回収を向上させた。このペプチド含有濾過物及び最後の洗浄物を一緒にして、低体積に濃縮した。この残留物をMeOHで希釈し、この生成物を氷冷水で沈殿させた。この粗生成物を濾過により回収し(270mg、80%収率)、分析HPLC(勾配1)及びESI−MSにより特性決定した。75:20の比にある主ピーク(t 9.5分間;ESI−MS:m/z=2520[M+H];Mr 2519.0 C1201882036Sに対し計算)及び副ピーク(t 9.3分間;ESI−MS:m/z=2478[M−42+H])はそれぞれ、期待した生成物及び副生成物に相応することが見出された。この質量差は、1つのアセチル保護基の、Asn(Ac3AcNH−β−Gln)からの欠失のためであった。
【0115】
c)環化
骨格環化を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中の0.9mMのペプチド濃度で、PyBOP/HOBt/DIEA(1.5:1.5;3.5eq)の存在下で達成した。この塩基を、1時間にわたり一部ずつ添加した。この線形ペプチドから環形への変換は、分析HPLCにより観察され、2.5h後に完了した。この反応混合物を乾燥させ、この残留物を破砕し、氷冷したジエチルエーテルで洗浄して、DMFの痕跡量をTFA開裂の前に除去した。
【0116】
d)前記側鎖保護基の開裂
酸不安定性の側鎖保護基を、前記環式ペプチドを氷冷した10mlのTFA/トリイソプロピルシラン(TISH)/H0(90:5:5)中に溶解することで除去した。2hの振盪後、前記TFAを減圧下で除去し、この油性残留物を、少量のMeOHで希釈し、この粗生成物を氷冷したジエチルエーテルで沈殿させた。この沈殿物を遠心分離により回収し、複数回氷冷したエーテルで洗浄し、最後に水を除いて凍結乾燥させた。前記粗グリコペプチドは、このトリアセチル化の形態に加えLC−MSによればジアセチル誘導体及びモノアセチル誘導体により汚染されているが、これをMeOH中に懸濁し、NaOMeを有する部分量で見かけpH>10に達するまで30分間処理した。前記反応をHPLCにより観察し、3.5時間後に、氷酢酸の添加によりpH<5になるまで急冷した。この混合物を乾燥させ、この固形物をMeOH中に懸濁し、氷冷したジエチルエーテルで再沈殿させた。この沈殿物を濾過により回収し、かつ水を除いて凍結乾燥させた。この粗生成物を分取HPLCにより精製し、この環式グリコペプチドを凍結乾燥物として単離した;収率:20%収率(0.13mmolの開始樹脂負荷に基づいて);HPLC:>95%(t 勾配2で7.37分間);ESI−MS:m/z=1642.8[M+H];M=1641.8Da(C711082025に対して計算して)。
【0117】
FcγRIIb−CDE(126〜137)を産出するためのCDE(126〜137)の、FcγRIIbに対するカップリング
100μlのヒトの可溶性FcγRIIb(10.6mg/ml)を1490μlの50mMのホウ酸(pH10)及び410μlの前記グリコペプチドCDE(126〜137)(2mg/ml)に添加し、室温で緩やかに撹拌した。100μlの0.3%グルタルアルデヒド溶液をゆっくりと添加し、100μlの1Mグリシンを添加する前にこの全体の混合物をまた2時間RTで撹拌した。この生じるFcγRIIb−CDE(126〜137)をまた30分間攪拌し、次いでPBSで透析し濃縮した。
【0118】
実施例2
FcγRIIb−CDE(126〜137)での免疫化
メスの六週齢のC57B1/6マウスを腹腔内で、2週間毎に、100μlの完全フロイントアジュバント(CFA、Sigma/Deisenhofen, Germany)中の50μgのFcγRIIb−CDE(126〜137)のエマルションで3回免疫化した。この最後の免疫化後3週間マウスは、50μgのFcγRIIb−CDE(126〜137)でブーストさせた:3日後、脾臓をこの動物から除去し、この抽出した細胞と骨髄腫細胞との融合を、Bazin, 及びLemieux, 1989に従って実施した。
【0119】
実施例3
前記ハイブリドーマのFcγRIIb−CDE(126〜137)特異性に関するスクリーニング
ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンの存在下で成長できるクローンを単離し、この上清をELISAアッセイにおいて試験し、その際FcγRIIb−CDE(126〜137)を、マイクロタイタープレート上で1ウェルにつき120ngのsFcγRIIa/bでプレコートした(100μlのPBS中で、20℃、12時間)。このプレートを洗浄し、PBS/T(PBS/0.2%のTween20、30分間)でインキュベートした。100μlのそれぞれのハイブリドーマを、前記ウェルに添加した(100μl、90分間)。このプレートをブロッキングバッファーで、PBS/T中で希釈した100μlのペルオキシダーゼラベル化ヤギ抗マウスIgG+IgM抗体(Dianova, Hamburg/Germany)を添加する前に3回洗浄した。90分間のインキュベーション及びPBS/Tでの引き続く洗浄後、100μlの基質バッファー(0.2Mクエン酸/リン酸バッファー、pH5.2、4mg/mlのo−フェニレンジアミン、0.024%(v/v)の過酸化水素)を前記ウェルに添加した。この反応を50μkの8N硫酸の添加により停止させ、490nmでの吸光度をELISAリーダーで測定した。
【0120】
このアッセイにおいて陽性であったクローンをフローサイトメトリー(FACS)で、1試料当たり10のラジ細胞(ATCC CCL−86)を用いて試験し、前記細胞はヒトFcγRIIbを強力に発現する。100μlのハイブリドーマ上清での30分間の氷上でのインキュベーション後、前記細胞を1mlのRPMI/10%FCSで洗浄し、遠心分離(400×g、4℃、5分間)により沈殿させた。100μlのFITCラベル化したヤギ抗ヒト抗体(Dianova, Hamburg/Germany)を添加した。30分間の氷上でのインキュベーション後前記細胞を洗浄し(RPMI/10%FCS)、フローサイトメトリー(FACSort, Becton Dickinson, Heidelberg/Germany)にかけた。この蛍光の中央値を、5000個のカウントした細胞に対して、各試料に対して決定した。前記アッセイにおいて陽性であったハイブリドーマ上清を同様のアッセイに、FcγRIIaを強力に発現するU−937細胞(ATCC CRL−1593.2)を用いて受けさせ、前記ハイブリドーマのFcγRIIb特異性を決定する。この両方の細胞系に対するポジティブコントロールとして、汎性のFcγRII−mAb AT10(Greenman et al., 1991)を使用した。
【0121】
実施例4
特異的な抗マウスFcγRII抗体を用いたSJLマウスの免疫化
SJLマウスを、200μgのMOGで免疫化し、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)、多発性硬化症の樹立した動物モデルを誘発させた。特異的な抗マウスFcγRII抗体(50μg/週)を用いた一群につき8匹のマウスの予防性の、また同様に治療性の(データ示さず)処置は、この疾病の症状(臨床スコア)を著しく減少させた(0=健康、1=軽い麻痺、2=中間的な麻痺、3=強力に麻痺、4=完全に麻痺、5=死)。この結果は図8に示した。
【0122】
参考文献
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1はヒトFcγRIIb及びFcγRIIaの細胞外ドメインの配列アラインメントを示す図である。
【図2】図2はリボン表示におけるFcγRIIbの構造を示す図である。
【図3】図3はラジ細胞(FcγRIIb陽性及びFcγRIIa陰性)(左図)又はU−937細胞(FcγRIIa陽性及びFcγRIIb陰性)(右図)のFACS測定を示す図である。
【図4】図4は通常の血清(ネガティブコントロール)、FcγRIIb−CDE(126〜137)で免疫化したマウスの抗血清、mAb AT10、又は特異的なモノクローナル抗体GB3のいずれかで、インキュベーションしたヒトの血液のFACS分析を示す図である。
【図5】図5はクローニングされた抗体GB3の可変領域を示す図である。
【図6】図6はクローニングされた抗体CE5の可変領域を示す図である。
【図7】図7は免疫化及びFcγRIIbに特異的な抗体の産生のために使用したグリコペプチドCDE(126〜137)を示す図である。
【図8】図8は特異的な抗マウスFcγRIIb抗体でのSJLマウスの免疫化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然のコンフォメーションにおいてコンフォメーションにより識別するエピトープ(CDE)を有する人工ペプチド又はポリペプチドであって、その際前記CDEが環化により構造的に安定化されている人工ペプチド又はポリペプチド。
【請求項2】
人工の及び/又はグルコシル化したアミノ酸を有する、請求項1記載のペプチド又はポリペプチド。
【請求項3】
担体分子にコンジュゲートされている、請求項1又は2記載のペプチド又はポリペプチド。
【請求項4】
FcレセプターのCDEを有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチド。
【請求項5】
FcγRIIb又はFcγRIIaのCDEを有し、前記CDEがFcγRIIb又はFcγRIIaのいずれかに特有である少なくとも1つの残基を有する、請求項4記載のペプチド又はポリペプチド。
【請求項6】
前記CDEが配列番号2に従ったFcγRIIbのアミノ酸27〜30、及び/又はアミノ酸127〜135、及び/又は160〜171、又は配列番号1に従ったFcγRIIaのこの相応するアミノ酸、又は配列番号3に従ったアミノ酸を有する、請求項5記載のペプチド又はポリペプチド。
【請求項7】
FcγRIIb又はFcγRIIaにコンジュゲートされている、請求項4から6までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチド。
【請求項8】
コンフォメーションにより識別するエピトープ(CDE)を有するペプチドを、かかるエピトープを有する関心のあるタンパク質を特異的に認識する抗体の産生のために製造するための方法であって、その際この方法が:
(a)関心のあるタンパク質を提供、
(b)前記タンパク質上のCDEを同定、
(c)前記CDEの配列を有するペプチドを産生、
(d)前記CDEがその天然のコンフォメーションにあるように前記ペプチドを構造的に安定化
を含む方法。
【請求項9】
前記ペプチドの環化が、擬ペプチドを形成する、システイン架橋の産生、アミノ酸側鎖の架橋により達成される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ペプチドが、関心のあるタンパク質に存在するグリコシル化部分を有するアミノ酸を使用して産生される、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
工程:
(e)前記ペプチドの、ハプテン、ポリペプチド、ペプチド及び関心のあるタンパク質から選択された担体分子へのコンジュゲート
を含む、請求項8から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項8から11までのいずれか1項記載の方法により得られた、CDEを有するペプチド又はポリペプチド。
【請求項13】
請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチドの、CDEをその天然の環境において特異的に認識する、免疫学的に調節性の物質の産生のための免疫原としての使用。
【請求項14】
ヒトのFcγRIIa又はFcγRIIbを発現する動物又はトランスジェニック動物の免疫化のための請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチドの使用。
【請求項15】
131位のFcγRIIa Arg/His多形性又は155位のFcγRIIa Val/Phe多形性の対立遺伝子を特異的に認識できる抗体の産生のための、請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチドの使用。
【請求項16】
関心のある抗原と緊密に関連した抗原とを識別することができる物質の産生方法であって、その際前記方法が、動物を請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチドで、及び/又はFcγRIIb又はFcγRIIaに由来する正確に折りたたまれたペプチドで免疫化し、かつこの生じる抗体を単離し、かつ場合により前記抗体を組み換えの免疫学的に調節性の物質を産生するために使用することを含む方法。
【請求項17】
請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチド又はポリペプチドに特異的に結合する能力により特徴付けられる物質。
【請求項18】
Fcレセプターの天然の環境においてヒトのFcγRIIb又はFcγRIIaに特異的に結合する、抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項19】
FcγRIIaに対するよりもFcγRIIbにより高い親和性で、有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも100倍、更により有利には少なくとも1000倍、一層有利には少なくとも10000倍、より有利には少なくとも100000倍、より有利には少なくとも1000000倍、FcγRIIaに対するよりもFcγRIIbにより高い親和性で結合する、請求項18記載の抗体。
【請求項20】
FcγRIIbに対するよりもFcγRIIaにより高い親和性で、有利には少なくとも10倍、より有利には少なくとも100倍、更により有利には少なくとも1000倍、一層有利には少なくとも10000倍、より有利には少なくとも100000倍、より有利には少なくとも1000000倍、FcγRIIbに対するよりもFcγRIIaにより高い親和性で結合する、請求項18記載の抗体。
【請求項21】
ヒトのFcγRIIb又はFcγRIIaに対するIgGの結合を特異的に遮断することが可能である、請求項18、19、又は20のいずれか1項記載の請求項の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項22】
免疫複合体がFcγRIIb又はFcγRIIaに結合することに干渉しない、請求項18から21までのいずれか1項記載の請求項の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項23】
ヒトのFcγRIIb又はFcγRIIaの生理学的な機能を抑制することができる、請求項18、19、20、又は21記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項24】
ヒトのFcγRIIb又はFcγRIIaの生理学的な機能を活性化することができる、請求項18、19、20、又は22記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項25】
ヒトのFcγRIIb又はFcγRIIaに特異的に架橋することができる、請求項18、19、20、22、又は24記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項26】
単量体又は多量体の状態で生じる、請求項18から25までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項27】
FcγRIIb又はFcγRIIaのCDEに結合することができる、請求項18から26までのいずれか1項記載の抗体又その断片又は誘導体。
【請求項28】
配列番号1又は配列番号2に従ったFcγRIIb又はFcγRIIaのアミノ酸配列のアミノ酸、12、27、29、30、104、127、132、135、160及び171の少なくとも1つを有する、ヒトのFcγRIIb又はFcγRIIaのエピトープに結合することができる、請求項27記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項29】
配列番号1又は配列番号2に従ったFcγRIIb又はFcγRIIaのアミノ酸配列のアミノ酸27〜30、及び/又は127〜135、及び/又は160〜171を有する、FcγRIIb又はFcγRIIaのエピトープに結合することができる、請求項28記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項30】
FcγRIIbに特異的な相補性決定領域(CDR)を有するポリペプチドである、請求項18から29までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項31】
配列番号5、7、9及び11に従ったCDR配列を1つ以上有するポリペプチドである、請求項30記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項32】
IgG、IgE、IgM又はIgAのクラスである、請求項18から31までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項33】
単鎖抗体、二官能性、及び三官能性、又は多官能性の抗体、Fab断片、F(ab)断片、Fv断片及びscv断片から選択される、請求項18から32までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項34】
配列番号5及び7に従った抗体GB3の可変軽鎖領域及び/又は可変重鎖領域、又は特異性を有するその一部;又は配列番号9及び11に従った抗体CE5の可変軽鎖領域及び/又は可変重鎖領域、又は特異性を有するその一部を有することを特徴とする、請求項18から33までのいずれか1項記載の抗体又はその一部。
【請求項35】
請求項1から7までのいずれか1項記載のペプチドをコードする核酸配列、又は請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体。
【請求項36】
配列番号4、6、8及び10に従ったモノクローナル抗体CE5又はGB3の配列又はその一部をコードする請求項35記載の核酸。
【請求項37】
請求項35又は36記載の核酸配列を有する核酸ベクター。
【請求項38】
請求項37記載のベクターでトランスフェクションした宿主細胞。
【請求項39】
Fcレセプターが媒介したシグナル伝達に関連した疾病、特に関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、Rieter’s症候群、乾癬、又はエリテマトーデスの治療及び/又は診断のために利用できる医薬組成物及び/又は診断組成物であって、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の有効量及び医薬的に許容可能なキャリアー物質を含む医薬組成物及び/又は診断組成物。
【請求項40】
自己免疫疾患及び/又は癌の検出のための診断キットであって、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体及び/又は、請求項1から7までのいずれか1項記載の組み換えペプチド又はポリペプチドを含む診断キット。
【請求項41】
FcγRIIa/IgG相互作用又はFcγRIIb/IgG相互作用の抑制剤又は活性化剤の製造のための請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項42】
自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、免疫性の血小板減少性紫斑病又は多発性硬化症の診断及び/又は治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項43】
癌、特にリンパ腫又は白血病の診断及び/又は治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項44】
癌の治療及び/又は診断のための、その他の生物学的治療薬と共にアジュバントとしての、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項45】
抗体、ハーセプチン(R)、リツキサン(R)、IC14、PANOREXTM,IMC−225、VITAXINTM、Campath 1H/LDP−03、LYMPHOCIDETM、及びZEVLINTM、及び以下の癌の抗原:MAGE−1、MAGE−3、BAGE、GAGE−1、GAGE−2、N−アセチルグルコサミン転移酵素、p15、β−カテニン、MUM−1、CDK−4、HER−2/neu、ヒトパピローマウィルスE6、ヒトパピローマウィルスE7及びMUC−1に結合する抗体を含む群からその他の治療薬が選択される、請求項44記載の使用。
【請求項46】
アレルギーの診断及び/又は治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項47】
活性化した樹状細胞及び/又はマクロファージに関連した疾病の治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項48】
宿主対移植片疾病の治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項49】
アミロイドに関連した疾病の治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のための、請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項50】
請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用であって、その際前記抗体又はその断片又は誘導体が、抗原を血小板による輸送及び/又は肝臓及び脾臓の食作用系による取り込みに向けて指向するための、二重特異性の抗体中の特異的な抗FcγRIIa断片を含む、抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項51】
請求項18から34までのいずれか1項の抗体又はその断片又は誘導体の使用であって、その際ITPの診断及び/又は治療のための医薬組成物及び/又は診断組成物の製造のために、前記抗体又はその断片又は誘導体は特異的な抗FcγRIIa抗体又はその断片である、使用。
【請求項52】
ワクチン接種の効果を増加させるための医薬組成物の製造のための請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体の使用。
【請求項53】
請求項18から34までのいずれか1項記載の抗体又はその断片又は誘導体であって、その際これらはこのFc断片において、グリコシル化の修飾及び/又は突然変異により、前記Fcレセプターのサブセットに対する結合を促進すべく改変されている、抗体又はその断片又は誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−502312(P2008−502312A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540399(P2006−540399)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013450
【国際公開番号】WO2005/051999
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
【Fターム(参考)】