説明

ヒトT細胞白血病ウイルス感染あるいは成人T細胞白血病発症の検出法、その診断薬、ならびにその予防および治療の為の薬剤

【課題】ATL発症を早期に簡便に判定する方法、ATL発症の診断薬、およびその治療または予防薬を提供すること。
【解決手段】被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルとコントロール細胞中のNDRG2の発現レベルとを比較し、被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルが、低下していることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する。あるいは、被験者由来の細胞中のNDRG2プロモーターのメチル化を測定し、メチル化が多くなされていることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する。その他、NDRG2タンパク質に対する抗体をATL診断薬とすること、およびNDRG2遺伝子あるいはNDRG2タンパク質を有効成分として含有するATLの予防および/または治療のための薬剤を調製することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus type 1 ; 以下、HTLV−1と称する)感染および/または成人T細胞白血病(以下、ATLと称する)の発症を検出する方法、HTLV−1感染またはATLの診断薬、ならびにATLの予防および治療の為の薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白血病は、通常のがんと異なり、固形の腫瘍を形成しないため、外科手術が適用できず、以前は治療が困難であった。ところが近年、有効な抗がん剤や治療技術の研究開発が進み、白血病の種類によっては治療することも可能になって来ている。しかし、未だ有効な予防法・治療法もなく、極めて予後が悪い白血病としてATLが知られている。ATLは、HTLV−1がT細胞に感染することにより引き起こされるウイルス性白血病である。乳幼児期の授乳などを通じて、生体内のTリンパ球にHTLV−1が感染することでウイルスキャリアとなる。その後、数十年の長い歳月をかけて、ウイルスや宿主細胞の遺伝子に変異が蓄積し、最終的に感染細胞の中のごく一部が異常増殖能を獲得した結果、ATLを発症すると考えられている。
【0003】
従って、発症までの数十年の間に日々の食餌によりHTLV−1感染細胞の増殖を抑制すること、また、たとえATLを発症したとしても抗がん剤などでATL細胞の増殖を抑制することがATLを予防および治療する上で重要となる。しかし、既存の抗がん剤では、ATL細胞は速やかに耐性を獲得することから、ATLの治療は困難を極めているのが現状である。
【0004】
これまで、ATL細胞において、CCR4が発現していることや、CCR4のリガンドであるthymus and activation-regulated chemokine(TARC)やmacrophage derived chemokine(MDC)が多く発現している皮膚に高率にATL細胞が浸潤することなどが解明され(非特許文献1)、抗体を用いた分子標的治療、新たな分子の発見による発症予防やATLの進展予防などの可能性も見出されている。しかしながら、HTLV−1の感染からATL発症に至る機構の詳細はいまだ不明であり、それ故に、その早期診断法や治療方法も決定的な決め手がないままである。
【非特許文献1】Ishida T, Utsunomiya A, et al. Clin. Cancer Res. 9: 3625-3634, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ATL発症の機構に関する詳細は未だに明らかではなく、HTLV−1感染やATL発症を簡便に且つ短時間に判断する正確な検出法確立が待望されている。また、ATLの診断、予防および治療の為の薬剤が待望されている。
【0006】
本発明の目的は、HTLV−1感染あるいはATL発症を簡便に且つ短時間に判断することを可能にする正確な検出法を提供することにある。
【0007】
本発明の目的はまた、HTLV−1感染あるいはATLの診断、ATLの予防および治療の為の薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を行い、HTLV−1感染やATL発症に、NDRG2の発現レベルの変化が関与すること、およびNDRG2のプロモーター領域のメチル化が関与することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、被験者のHTLV−1の感染および/またはATL発症の有無の検出方法であって、
被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルを測定し、コントロール細胞中のNDRG2の発現レベルと比較する工程;および
該比較において、被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルが、コントロール細胞中のNDRG2の発現レベルより低下していることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する工程
を含む、検出方法、を提供する。
【0010】
上記検出方法において、NDRG2の発現レベルは、タンパク質の発現レベルであるか、mRNAの発現レベルであり得る。
【0011】
上記検出方法において、上記被験者由来の細胞およびコントロール細胞は、血清T細胞であり得る。
【0012】
上記ATLは、急性ATLであり得る。
【0013】
本発明はまた、被験者のHTLV−1の感染および/またはATL発症の有無の検出方法であって、
被験者由来の細胞中のNDRG2プロモーターのメチル化を測定する工程;およびメチル化がされていることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する工程、を含む検出方法を提供する。
【0014】
上記被験者由来の細胞は、末梢血リンパ球であり得る。
【0015】
上記ATLは、急性ATLであり得る。
【0016】
本発明はまた、NDRG2タンパク質またはそのペプチド断片に対する抗体を含むHTLV−1の感染および/またはATL診断薬を提供する。
【0017】
本発明はまた、NDRG2をコードするポリヌクレオチドが細胞内に導入され得る形態で含まれる、ATLの予防および/または治療のための薬剤を提供する。
【0018】
本発明はまた、NDRG2タンパク質を有効成分として含有するATLの予防および/または治療のための薬剤を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、HTLV−1感染および/またはATL発症の有無を、被験者の細胞を用いて、早期に簡便に検出することができるようになる。さらに、これまで明確な発症機構が不明で、治療に決め手がなかったATLに対し、その早期診断、予防または治療を可能にする薬剤が提供され、ATLに関する医療に大いに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の方法により検出されるのは、HTLV−1感染および/またはATL発症の有無である。ATLは、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV−1)がT細胞に感染することにより引き起こされるウイルス性白血病をいい、HTLV−1感染T細胞が腫瘍化した疾患である。50歳から60歳代に発症のピークがあり、亜急性から慢性に経過し末期に急激に進行し予後は不良であり、腫瘍細胞の起源はT細胞で、末梢血中に切れ込みや分葉核を有する白血病細胞(花弁状細胞;flower like cell)が出現し、リンパ節腫大、肝腫大、脾腫大を認める頻度が高く、しばしば皮膚病変を有す、という特徴的な臨床所見を持つ。
【0021】
ここで、HTLV−1は、ヒトレトロウィルスで、宿主であるヒトのT細胞内では核内に移行し、RNAからcDNAを逆転写により生成し、cDNAは宿主ゲノムDNAへインテグレーションする。
【0022】
本発明においては、被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルを測定し、コントロール細胞中のNDRG2の発現レベルと比較し、比較において、被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルが、コントロール細胞中のNDRG2の発現レベルより低下していることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する。
【0023】
ここで、本発明の上記方法に供される細胞は、容易に採取することができる体液由来であることが好ましく、特に疾患との関連が明らかな血液由来であることが好ましい。最も好ましくは、血清T細胞あるいは末梢血リンパ球である。
【0024】
本発明の方法においては、NDRG2の発現レベルを測定する。ここで、「NDRG2」とは、N-myc downstream regulated gene 2(以下、NDRG2)のことで、アクセッション番号として、NP_057334.1、NP_963293.1、 NP_963294.1、NP_963831.1、NP_963832.1、NP_963833.1、NP_963834.1、またはNP_963835.1で示されるいずれのタンパク質でもよい。また、本明細書においては、「NDRG2」をコードする遺伝子もしくはmRNA(GenBank登録番号 NM_016250.2、NM_201535.1、NM_201536.1、NM_201537.1、NM_201538.1、NM_201539.1、NM_201540.1、またはNM_201541.1)を表す記号も、NDRG2と表示する場合もあり、タンパク質、遺伝子、mRNAのいずれに対しても互換可能に使用することとする。さらに、本発明者らにより、NDRG2ゲノム領域の塩基置換を解析した結果で、ATL38症例中2例(MT2、ATL185でエキソン1上流-89塩基(C>T)、同様に38症例中2例(SO4、ATL202)、イントロン4中に147塩基目(T>C)を認めた。さらに38例中1例(HUT102)にエキソン5内 NDRG2 a型 第77塩基(A>G)、第26アミノ酸残基(グルタミン>グリシン)置換が認められ、これらも本発明においては、NDRG2であることが明確である。さらに、これらの遺伝子およびタンパク質、その他に見いだされ得る数個の塩基あるいは数個のアミノ酸の変異を含む遺伝子、タンパク質もNDRG2の定義に入る。
【0025】
NDRG2は、脳細胞、筋細胞、腎臓細胞など、様々な種類の組織細胞において発現している(Qu, et al., Mol. Cell. Biochem., 229: 35-44, 2002、Kokame, et al., J. Biol. Chem., 271: 29659-29665, 1996、およびUlrix, et al., FEBS Lett., 455: 23-26, 1999など)。NDRG遺伝子は4種類に分類される可能性があると報告されている。NDRG遺伝子群は相同性が高いが、個人の発達と成長によって発現が異なる。それぞれのNDRG遺伝子が異なる役割を果たすと推測されており、このうちのNDRG2は、遺伝子の細胞の分化、増殖、アポトーシスなどに関与し、固形の特定の癌に関与する癌抑制遺伝子である可能性があるとの研究結果が報告されている。例えば、浸潤性の髄膜腫などでNDRG2の遺伝子発現の低下がゲノム解析によって認められている(Lusis, E. A. et al., Cancer Res., 65: 7121-6, 2005)。NDRG2のmRNA量について、肝臓癌と膵臓癌で著しく低下しているとの報告もある(Hu, X. L. et al., World J. Gastroenterol., 10: 3518-21, 2004)。しかしながら、その機能の詳細は未だ明かでない点が多く、また、ATL細胞との関係については、これまで一切言及された知見はない。
【0026】
本発明において、コントロール細胞とは、HTLV−1非感染細胞であり、ヒトあるいは動物の正常細胞から樹立され、かつ正常であることが明らかな細胞;HTLV−1のキャリアではない健常者由来の血液由来細胞;または、HTLV−1非感染T細胞リンパ性白血病細胞株を指す。
【0027】
NDRG2の発現レベルは、細胞中のタンパク質自体を定量することによって測定することができる。測定方法は、特に限定されず、当業者に公知の様々なタンパク質定量方法を用いることができる。例えば、二次元電気泳動を含むゲル電気泳動を組み込んだプロテオーム解析、LC−MSを利用したショットガン法、NDRG2に対する抗体を使用してのウェスタンブロッティング法、免疫測定法などである。
【0028】
これらのNDRG2の発現レベルは、細胞中のタンパク質をコードする遺伝子のmRNA転写物を定量することによって測定することも可能である。mRNA転写物を定量する方法は、特に限定されず、当業者に公知の様々な定量方法の1つまたは組合せを用いることができる。これらの方法には、例えば、ハイブリダイゼーション、ノーザンブロッティング法、ポリメラーゼ連鎖反応、およびDNAアレイを用いる方法などやそれらの組合せである。このうち、ポリメラーゼ連鎖反応には、リアルタイムPCRやマルチプレックスリアルタイムPCRなどが含まれる。
【0029】
さらに、連続的遺伝子発現解析法(SAGE)やその改良法、超並列的な遺伝子ビーズクローン解析法(MPSS)、EST法なども挙げられ、定性的かつ定量的にNDRG2のmRNA転写物の発現レベルを調べることが可能である。SAGEでは、各転写物についての個々のハイブリダイゼーションプローブを提供する必要なく、多数の遺伝子転写物の同時定量分析が可能である。まず、NDRG2をコードする遺伝子の転写物を固有に同定するのに十分な情報を含む短配列タグ(約10〜14塩基対)が、このタグが各転写物中の固有の位置から得られるという条件で生成される。次いで、多数の転写物を連結させて、配列決定され得る長い連続分子を形成し、同時に多重タグの同一性を明らかにする。転写物の任意の集団の発現パターンが、個々のタグの存在量を決定し、そして各タグに対応する遺伝子を同定することによって定量的に評価され得る。
【0030】
超並列的な遺伝子ビーズクローン解析法(MPSS)は、Brenner et al.,Nature Biotechnology 18:630〜634(2000)によって記載され、非ゲルベースのシグニチャー配列決定と個々の直径5μmのマイクロビーズ上の何百万ものテンプレートのインビトロクローニングを組み合わせる配列決定アプローチである。まず、DNAテンプレートのマイクロビーズライブラリーが、インビトロクローニングによって構築される。続いて、高密度で(代表的には、3×10個のマイクロビーズ/cmよりも高い密度で)フローセル中のテンプレート含有マイクロビーズの平面アレイを組み立てる。各マイクロビーズ上のクローン化テンプレートの自由端は、DNAフラグメント分離を必要としない蛍光ベースのシグニチャー配列決定法を用いて同時に分析される。この方法により、単一の操作で、酵母cDNAライブラリーから数十万の遺伝子シグニチャー配列が同時にかつ正確にもたらされ得る。
【0031】
遺伝子同定のための発現配列タグ(Expressed sequence tag: EST)法では、任意に断片を選択し、高速塩基配列決定を行うことによって、cDNAライブラリーの特徴を明らかにすることが可能で、これにより、NDRG2遺伝子の発現の有無や量を確認することもできる。
【0032】
本発明においては、被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルとコントロール細胞中のNDRG2の発現レベルとを測定した結果、見出されるNDRG2の発現レベルの差異がある場合を、被験者のATL発症の指標にするが、「発現レベルの差異」は、当業者に公知のいずれかの測定手段において、具体的な基準は適宜設定することができる。特に限定はされないが、例えば、被験者から採取した細胞中において、少なくともタンパク質かmRNAのどちらかの発現レベルが、コントロール細胞中の発現レベルと比較して、1/2程度以下であれば、明らかに差異があるということができる。
【0033】
本発明ではまた、被験者由来の細胞中のNDRG2プロモーターのメチル化を測定する工程;およびメチル化がされていることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する。
【0034】
ここで、本発明の上記方法に供される細胞は、特に限定はされないが、容易に採取することができる体液由来であることが好ましく、特に血液由来であることが好ましい。最も好ましくは、血清T細胞あるいは末梢血リンパ球である。
【0035】
NDRG2遺伝子プロモーターのメチル化は、プロモーター領域のCpGが存在する領域を重点的に調べることで検出できる。その手法は特に限定されないが、例えば、バイサルファイト処理後のゲノムDNAを鋳型にし、シトシンからウラシルへの変化の有無を見る目的で、プロモーター配列に特異的な領域をPCR法で増幅させ、その後塩基配列を同定する方法;メチル化特異的認識プライマーセットと低(非)メチル化特異的認識プライマーセットを適宜設定して行うPCR法後、増幅産物の可視化により比較する方法;DNAのメチル化部位の検出を、メチル化感受性制限酵素で行う解析手法;および予想されるメチル化DNAのサイトにプローブを設計して解析する、マルチプレックスライゲーションプローブ増幅法(Multiplex Ligation Probe Amplification法)などが例示される。
【0036】
メチル化は、正常細胞でも起こりうる。従って、ここで「メチル化がされていることを指標として」とは、プロモーターのCpGの領域の塩基に一つでもメチル化があれば、それを直ちにHTLV−1感染あるいはATL発症と判断するのではなく、コントロール細胞中におけるメチル化の頻度と比較して、頻度が多い場合を指標とすることも含む。例えば、NDRG2のエキソン1の上流−112bpから−432bpにおけるCpGの存在で図6aにおいて模式的に示した16個のCpGのうち、メチル化頻度が、7/16以上、好ましくは、9/16以上であればメチル化を指標としてHTLV−1感染またはATL発症を確認することが可能である。このような頻度の測定は、限定はされないが、例えば、NDRG2のエキソン1の上流−112bpから−432bpの領域を、この領域を挟むように適宜設定されるプライマーセットを用いたPCR手法により増幅させ、その塩基配列を決定することにより行うことができる。
【0037】
あるいは、メチル化を指標とする場合には、本発明のメチル化特異的認識プライマーセットを用いて行うPCRの結果を元に判断することも可能である。このようなメチル化特異的認識プライマーセットは、低(非)メチル化特異的認識プライマーセットと共に用いられることが好ましい。メチル化特異的認識プライマーセットは、NDRG2遺伝子のプロモーター領域のうち、限定はされないが、例えば、CpGの多い、エキソン1の上流−124から−298の領域を挟むように適宜設定することで、作成できる。低(非)メチル化特異的認識プライマーセットは、メチル化特異的認識プライマーセットと同じ配列のプライマーを、例えばフォワードプライマーのすべてのCをTに変更し、リバースプライマーのすべてのGをAに変更することで作成することができる。このようなプライマーセットを用いて、例えばバイサルファイト処理した鋳型をPCRで増幅し、例えば検出バンドの有無でメチル化の有無を判断することができる。
【0038】
本明細書においてはまた、NDRG2タンパク質に対する抗体を含むHTLV−1の感染および/またはATL発症の診断薬、NDRG2を細胞中で強制発現させる為のNDRG2遺伝子を含む、ATLの予防および/または治療のための薬剤、NDRG2を含む、ATLの予防および/または治療のための薬剤が提供される。
【0039】
本発明で使用する、抗体産生の為に使用する、あるいは予防、治療の為の薬剤に使用するNDRG2は、公知のもの、例えば、ヒトtall由来の細胞株(MOLT4)、ヒト末梢血の単球あるいは臍帯血幹細胞から分化した樹状細胞に由来するNDRG2(PCT/KR2004/000634)等を使用することが出来るが、これに限定されない。また、NDRG2のタンパク質や断片ペプチドは、既知の情報を元に、化学的または遺伝子工学的に合成してもよい。
【0040】
NDRG2タンパク質に対する抗体は、免疫反応において、NDRG2の抗原の刺激により生体内に作られ、NDRG2タンパク質と特異的に結合するタンパク質またはその改変体をいう。ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でもどちらでも使用し得るが、特にモノクローナル抗体を好都合に使用し得る。さらに、ヒト抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)2およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体を含むがそれらに限定されない。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。
【0041】
抗体は、通常、NDRG2タンパク質あるいは抗原を含むそのペプチド断片を、適切な動物に投与して免疫することによって生成される。
【0042】
モノクローナル 抗体には、全免疫グロブリン分子ならびにFab分子、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、およびもとのモノクローナル 抗体分子の免疫学的結合特性を示す他の分子を含む。ポリクローナル抗体およびモノクローナル 抗体を作製する方法は当該分野で周知である。
【0043】
抗体の作製は、当該分野において周知である。例えば、ポリクローナル抗体の作製は、NDRG2タンパク質を構成するポリペプチドの全長または部分断片精製標品、タンパク質の一部のアミノ酸配列を有するペプチドなどを抗原として用い、動物に投与することにより行うことができる。
【0044】
抗体を生産する場合、投与する動物として、ウサギ、ヤギ、ラット、マウス、ハムスター等を用いることができる。NDRG2タンパク質の断片であるペプチドを用いる場合には、スカシガイヘモシアニンまたはウシチログロブリン等のキャリアタンパク質に共有結合させたものを抗原とすることもできる。その抗原の投与は、1回目の投与の後1〜2週間おきに2〜10回行う。各投与後、3〜7日目に採血し、その血清が免疫に用いた抗原と反応することを酵素免疫測定法等で確認する。
【0045】
血清が充分な抗体価を示した非ヒト哺乳動物より血清を取得し、その血清より、周知技術を用いてポリクローナル抗体を分離、精製することができる。
【0046】
モノクローナル抗体の作製もまた当該分野において周知の方法によって得ることができる。例えば、NDRG2タンパク質またはその断片ポリペプチドに対し、その血清が十分な抗体価を示したラットを抗体産生細胞の供給源として使用し、骨髄腫細胞との融合により、ハイブリドーマの作製を行う。その後、酵素免疫測定法になどによって、NDRG2タンパク質またはその断片ポリペプチドに特異的に反応するハイブリドーマを選択する。得られたハイブリドーマから、所望の性質のモノクローナル抗体を得て、本発明の診断薬に使用することができる。
【0047】
診断薬とするには、抗体をそのままあるいはキットの形で緩衝液、使用説明書と共に供することが可能である。
【0048】
次に、NDRG2をコードするポリヌクレオチドが細胞内に導入され得る形態で含まれているATLの予防および/または治療のための薬剤は、好ましくは、NDRG2をコードするポリヌクレオチドが細胞内に導入され得る形態でかつmRNAやタンパク質を強制発現させることができるものである。
【0049】
より具体的には、このようなNDRG2をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入可能な状態とするためには、当業者に公知のいずれの方法をも取ることができる。例えば、ポリヌクレオチドを直接導入したり(例えば、米国特許第5,580,859号参照)、あるいは組換えウイルスベクターの形態で製剤化して導入したりすることができる。あるいは非ウイルスの導入法も知られており、本発明で好ましく使用可能である。
【0050】
細胞に導入するのにウイルスを使用する場合の好ましいウイルスベクターとしては、バキュロウイルス科、パルボウイルス科、ピコルノウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、アデノウイルス科、パラミクソウイルス科またはピコルナウイルス科から選ばれるウイルスのゲノムに由来するものを使用できる。各々の親ベクターの都合のよい長所を利用したキメラベクターもまた用いることができる。このようなウイルスゲノムは、複製欠損性か、条件により複製するか、または複製コンピテントへと改変され得る。より具体的には、ベクターがアデノウイルスの場合は、例えば、ヒトアデノウイルスゲノムに由来する複製非コンピテントベクター(米国特許第6,096,718号;6,110,458号;6,113,913号;5,631,236号参照);アデノ随伴ウイルスなどが使用できる。レトロウイルスゲノムに由来するベクターである場合、レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびそれらの組合せを主成分とするものが含まれる(例えば、米国特許第6,117,681号;6,107,478号; 5,658,775号; 5,449,614号;Buchscher(1992)J. Virol. 66:2731-2739; Johann(1992)J. Virol. 66:1635-1640参照)。パラミクソウイルス科に含まれるセンダイウイルス(HVJ)なども好都合に用いられる。
【0051】
生体より取り出した組織あるいは細胞にポリヌクレオチド発現ベクターを導入した後に生体に戻すex vivo法を用いることもできる。この場合は、ポリヌクレオチドを組込んだ発現ベクターを、例えばマイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の公知のトランスフェクション法により細胞内に導入する方法を採用することができる。
【0052】
ウイルスベクターや発現ベクターにおいて、ポリヌクレオチドは、それが全身性または血液細胞特異的に発現するような任意のプロモーター支配下に連結されるようにすることができる。
【0053】
その他、エマルションDDS法、リポソーム法などの公知の薬剤送達法を用いることで、本発明のNDRG2遺伝子を所望の細胞に送達させ、NDRG2を効率よく発現させることが可能である。
【0054】
NDRG2タンパク質を有効成分として含有するATLの予防および/または治療のための薬剤の調製には、NDRG2タンパク質を抽出するか作成することが必要である。大量に安価に入手するには、NDRG2タンパク質(ポリペプチド)を、NDRG2をコードするポリヌクレオチドを用いた遺伝子工学的方法により作成することが好ましい。またポリヌクレオチドを公知の方法により適当な発現ベクターに組換えれば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞の発現産物としてNDRG2ポリペプチドを得ることができる。
【0055】
NDRG2ポリペプチドはまた、周知の化学合成法(例えば、Merrifield, R.B. J. Solid phase peptide synthesis I. The synthesis of tetrapeptide. J. Amer. Chem. Soc. 85, 2149-2154, 1963; Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis. A Practical Approach. Chan, W.C. and White, P.D., Oxford University Press, 2000)等に準じて合成することもできる。
【0056】
NDRG2を含む薬剤として、ペプチド誘導体が含まれる。この誘導体は、体内に導入された場合の物理的化学的安定化を促進するための修飾や生体内の代謝に対する安定性と不安定性、条件付けの等の活性化修飾等を含む。
【0057】
ペプチド誘導体とするための修飾には、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、交差架橋、環化、ジスルフィド結合、脱メチル化、交差架橋共有結合形成、シスチン形成、ピログルタメート形成、ホルミル化、ガンマーカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、水酸化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質加水分解プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、脂質結合、硫酸化、セレノイル化等が含まれる。NDRG2ポリペプチドの活性を保持したまま、含有する組成物に毒性を与えない範囲において、アミノ酸残基の側鎖またはN末端基もしくはC末端基として生じる機能性基として調製することができる。例えば、血液あるいは細胞中でポリペプチドの残存を延長するポリエチレングリコール側鎖を含む誘導体、あるいはカルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアとまたは第1級もしくは第2級アミンと反応することによるカルボキシル基のアミド、アシル部分と形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体またはアシル部分と形成される遊離の水酸基(たとえば、セリルまたはスレオニル残基の水酸基)のO−アシル誘導体等である。
【0058】
NDRG2を含む薬剤のさらに別の形態は、薬理学的に許容し得る塩であり得る。この塩は、ポリペプチドのカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩の両者を意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野における公知の方法によって形成することができ、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄または亜鉛などの無機塩、およびトリエタノールアミン、アルギニンまたはリジン、ピペリジン、プロカインなどのようなアミンを用いて形成されたような有機塩基との塩が含まれる。酸付加塩としては、たとえば塩酸または硫酸などの鉱酸との塩およびたとえば酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩を含む。このようなあらゆる塩は、NDRG2活性を保持した形で提供され得る。
【0059】
このようなNDRG2ポリペプチドを細胞内に導入可能な形態に製剤化するためには、公知の様々な手段を採用することができる。例えば、ポリペプチドのN末端側に細胞膜通過ペプチドを連結させた融合ポリペプチドの使用である。融合ポリペプチドは、融合ポリヌクレオチドを用いて、遺伝子工学的に作製することができる。
【0060】
また、ex vivo法によるNDRG2ポリペプチドの細胞内導入の場合には、脂質(BioPORTER:Gene Therapy Systems社、米国、Chariot:Active Motif社、米国等)による導入法を採用することもできる。
【0061】
本明細書で、「治療」とは、完全治癒のほか、症状を改善させること、一定程度の進展防止、進展遅延も含む広い概念である。
【0062】
本発明ではさらにまた、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者の検出をより簡易に実施する為に、以下のようなキットを作成することも可能である。
【0063】
すなわち、NDRG2に由来する塩基配列に含まれる連続する少なくとも10ヌクレオチド、又はそれらと相補的な塩基配列の少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの少なくとも1つ、好ましくは2つ以上を含んでなる、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者を検出する為のキットが提供される。
【0064】
このようなキットに含まれるオリゴヌクレオチドをプローブとして、例えば、ノーザンブロッティング手法を用い、細胞におけるmRNAの解析を行うことで、細胞中に含まれるNDRG2コード遺伝子に対応するRNA量の変化を簡便に調べることが可能である。キットに含まれる他の成分は、緩衝液、発現レベルの比較などを示す指示書などである。
【0065】
さらに、これらのオリゴヌクレオチドを複数固体支持体上に固定化したDNAアレイを作成することによって、効率的に検出を行うことも可能である。
【0066】
また、他の態様では、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者を検出する為のキットであって、NDRG2の塩基配列に含まれる連続する少なくとも10ヌクレオチド、又はそれらと相補的な塩基配列の少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプライマー、およびこれと同じ配列で、別の領域に含まれる連続する少なくとも10ヌクレオチド、又はそれらと相補的な塩基配列の少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプライマーとの対からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーの対を含んでなる、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者を検出する為のキットが提供される。すなわち、上記各塩基配列から適宜選択し得るプライマーの対を含んでなる、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者を検出する為のキットが提供される。このようなキットに含まれる1つのそれぞれの対、あるいは2つ以上のそれぞれの対を、RT−PCR用のプライマー対として用い、細胞中に含まれるmRNA量の発現レベルあるいはcDNA量を測定し、比較することが可能である。
【0067】
さらに、他の態様では、NDRG2のプロモーター領域のメチル化部位を検出できるようなプライマーセットを含む、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者を検出する為のキットが提供される。このようなプライマーセットは、限定はされないが、フォワード 5’-TTTTCGAGGGGTATAAGGAGAGTTTATTTT-3’(配列表の配列番号1)およびリバース5’-CCAAAAACTCTAACTCCTAAATAAACA-3’(配列表の配列番号2)が代表例として示される。
【0068】
別のメチル化検出の態様では、メチル化特異的プライマーセットを含む、HTLV−1の感染者および/またはATL発症者を検出する為のキットが提供される。このキットには、限定はされないが、比較対照用として、低(非)メチル化特異的プライマーセットが含まれることが好ましい。
【0069】
ここで、メチル化特異的プライマーセットとしては、フォワード5’-TTTTTCGGGTATTGCATTTAGC-3’ (配列表の配列番号3)及び、リバース5’-TAAATAAACAAACGCAAAAACGAA-3’ (配列表の配列番号4)が代表例として示される。低(非)メチル化特異的認識プライマーセットとしては、フォワード5’-TTTTTTGGGTATTGTATTTAGT-3’ (配列表の配列番号5)およびリバース5’-TAAATAAACAAACACAAAAACAAA-3’(配列表の配列番号6)が代表例として示される。
【0070】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。しかしながら、本実施例は、本発明の具体例を示すのみで、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0071】
なお、実施例において使用した細胞は、次のように調製した。
(健常人由来CD4陽性細胞及び患者検体)
HTLV−1に感染していない健常人、もしくは、ATL患者ヘパリン加末梢血をHistopaque (シグマアルドリッチ)による比重遠心法を用いて単核球を遠心分離した。急性型ATL患者では、末梢血ATL分画が90%異常の検体を解析に用いた。また健常人のCD4陽性細胞はCD4+ T細胞 アイソレーションキットII (Miltenyi Biotec)によりCD4+T細胞以外の細胞をCD8、CD14、CD 16、CD19、CD36、CD56、CD123、TCRγ/σ、Glycophorin Aに対するビオチン標識抗体カクテルによりAuto MACS (Miltenyi Biotec)を用いて分離した。
【0072】
(細胞株及び培養法)
実験に用いた細胞株は次の通りである。HTLV−1非感染T細胞リンパ性白血病(T−ALL)細胞株としてJurkat、MOLT4、MKB-1、KAWAI、HTLV−1感染細胞株としてHUT102、MT2、IL2非依存性ATL細胞株ED-40515(-)、Su9T-01、S1T、IL2依存性ATL細胞株KOB、KK1、SO4を、それぞれIL−2 (50 U/ml)添加もしくは無添加のfetal bovine serum (FBS)を10%添加したRPMI1640培養液で37 度、5%二酸化炭素下で培養した。
【実施例1】
【0073】
(NDRG2をコードするmRNA量測定によるHTLV−1感染またはATL発症の検出)
染色体14q11領域のNDRG2遺伝子近傍の遺伝子9個について、T−ALL(Tリンパ性急性白血病)細胞株2株(Jurkat、MOLT4)とHTLV−1感染細胞株3株(HUT102、MT2、OMT)及びATL細胞株6株(ED-40515(-)、Su9T-01、S1T、KOB、KK1、SO4)を用いて半定量的RT−PCR法を用いて遺伝子発現を検討した。
【0074】
まず、細胞1 x 107個からトリアゾール溶解液 (インビトロジェン)を用いてtotal RNAを抽出し、total RNA 1 μgを用いてRNA PCR Kit ver3.1 AMV-RT (タカラバイオ)により逆転写反応を行い、cDNAを作製した。
【0075】
次に、それぞれの細胞株、健常人由来CD4陽性リンパ球、患者由来ATL細胞より作製したcDNAを用いて遺伝子発現の検討を行った。遺伝子発現の検討に用いた遺伝子群に対してそれぞれに特異的なプライマーを作製し、1から10 ngのcDNAを鋳型としてそれぞれのPCR反応条件により遺伝子増幅を行なった。内部標準として β−アクチン遺伝子発現量を用いた。NDRG2遺伝子特異的プライマーとしては、フォワード5’-CTGGAACAGCTACAACAACC-3’(配列表の配列番号7) 、リバース 5’-TCAACAGGAGACCTCCATGG-3’ (配列表の配列番号8)を用い、アニーリング温度58℃、サイクル数37回で行った。β-アクチン遺伝子特異的プライマーは、フォワード 5’-GACAGGATGCAGAAGGAGATTACT-3’(配列表の配列番号9)、リバース 5’-TGATCCACATCTGCTGGAAGGT-3’(配列表の配列番号10)を用い、アニーリング温度55℃、サイクル数25回で行った。
【0076】
その結果、NDRG2遺伝子は、T−ALL細胞株2株において発現が認められ、一方、HTLV−1感染細胞株及びATL細胞株全例において特異的な発現低下が認められた(図1)。
【0077】
さらにNDRG2遺伝子発現の低下を定量的リアルタイムPCR法により、T−ALL細胞株4株(Jurkat、MOLT4、MKB-1、KAWAI)、HTLV−1感染細胞株2株(HUT102、MT2)及びATL細胞株6株(ED-40515(-)、Su9T-01、S1T、KOB、KK1、SO4)を用いて定量した。
【0078】
合成したcDNA 10 ngを鋳型としてNDRG2遺伝子特異的プライマーとして、フォワード5’-CTGGAACAGCTACAACAACC-3’(配列表の配列番号7) 、リバース 5’-TCAACAGGAGACCTCCATGG-3’ (配列表の配列番号8)もしくはβ-アクチン遺伝子特異的プライマー(フォワード 5’-GACAGGATGCAGAAGGAGATTACT-3’(配列表の配列番号9)、リバース 5’-TGATCCACATCTGCTGGAAGGT-3’( 配列表の配列番号10)とSYBR GREEN(R) PCR Master Mix (Applied biosystems) を混合し、ABI PRISM(R) 7000 Sequence Detection SystemでPCR反応40 サイクル (95 度 10 秒、60 度 1 分)を行なった。データは増幅曲線と閾値の交点からCt(Threshold Cycle)値を求めるCrossing Point法を用いて解析した。得られたCt値と標準サンプル(Juraket細胞由来のcDNA)の段階希釈液を用いて作成した検量腺に基づいてNDRG2遺伝子とβ-アクチン遺伝子の発現量を算出し、それぞれの検体で、NDRG2遺伝子の発現量/β−アクチン遺伝子の発現量を算出し、基準となる検体の値で割る事で補正した。
【0079】
その結果T−ALL細胞株4株と比較してHTLV−1感染細胞株及びATL細胞株8株では発現量が約10分の1以下に減少していた(図2)。さらに健常人由来CD4陽性T細胞9例と患者由来急性型ATL細胞13例を用いて定量的リアルタイムPCR法による遺伝子発現解析を行なったところ急性型ATL細胞全例において有意に発現低下が認められた(T検定; p<0.001)(図3)。以上の結果から、NDRG2遺伝子は、ATL細胞および急性型ATL細胞において、転写抑制されていることがわかった。
【実施例2】
【0080】
(NDRG2のタンパク質発現量測定によるHTLV−1感染またはATL発症の検出)
(1)抗体
NDRG2タンパク質発現を同定する目的で、ウサギ抗ヒトNDRG2抗体を調製した。NDRG2ペプチド(NDRG2 B型 (NP_057334 ) 17−31 アミノ酸残基 PGQTPEAAKTHSVET(配列表の配列番号11)を合成し、家兎に免疫、さらに免疫後血清よりIgG分画を精製し、ペプチド固層カラムを用いた精製を行ない作製した。その他の抗体としてマウス抗β-アクチン(AC-15) モノクローナル抗体(A5441)、ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体 (F7425)、マウス抗FLAG (M2)モノクローナル抗体 (F1804) (シグマアルドリッチ)を使用した。また二次抗体としてワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウス IgG 抗体(NA931V) (GE Healthcare) ワサビペルオキシダーゼ標識抗ウサギ IgG 抗体(P0399) (Dako Cytomation)、及びAlexaFluor 546標識抗ヤギ抗マウスIgG (重鎖、軽鎖)抗体 、フルオロセン標識ヤギ抗ウサギIgG (重鎖、軽鎖)抗体(Molecular Probe)を使用した。
【0081】
(2)NDRG2タンパク質発現の検出
各種白血病細胞並びに健常人CD4陽性Tリンパ球、急性型ATL白血病細胞を用いてNDRG2タンパク質発現をβ−アクチンタンパク質発現を標準コントロールとしてウエスタン法により検討した。
【0082】
ウエスタンブロット法は、細胞1 x 106 個を回収後PBSで洗浄し、1x SDS 緩衝液(62.5 mM Tris-HCl (pH 6.8), 2% w/v SDS, 10% glycerol, 50 mM DTT, 0.01% w/v bromophenol blue)を150 μl加えて、95 度で5 分間煮沸後、遠心し8 x 104 細胞/レーンを 10%アクリルアミドゲル(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=36.5:1)を作製し、ミニプロテアン3セル (Bio-Rad, Hercules, CA, USA)により定電圧100 V・2 時間時間泳動した。ゲルはミニトランスブロットセル(Bio-Rad, Hercules, CA, USA) (400 mA・3 時間)を用いてPVDF 膜(Millipore, Bedford, MA) に転写し、転写膜は1%w/v Bovine Serum albumin (BSA)添加TBS/T緩衝液(150 mM NaCl,、100 mM Tris-HCl pH 7.4、0.1% w/v Tween20)によりで室温、2 時間ブロッキング反応を行なった。 Can Get signal(R) Solution1(TOYOBO)で2000倍希釈後の一次抗体液を用いて4度で一晩反応させ、TBS/T 緩衝液にて5分×3回洗浄した。さらに Can Get signal(R) Solution2(TOYOBO)にて3000倍希釈後の二次抗体液にて室温で1時間反応させ、その後TBS/T緩衝液にて5分×3回洗浄した。洗浄後Lumi lightPLUS Western Blotting kit(Roche Applied Science)にて化学発光させ、ルミノイメージアナライザーLAS-3000 (富士フイルム(株))で画像解析を行った。
【0083】
その結果、T−ALL由来4細胞株(Jurkat、MOLT4、MKB-1、KAWAI )においては、43 kDaのNDRG2と考えられる単一バンドが見られた。ATL細胞株の多くはバンドを検出できなかったが、ED−40515(-)(図ではEDとのみ表記)及びSu9T-01(図ではSu9Tとのみ表記)細胞株において薄いバンドが検出され、mRNA発現低下に相関した結果が得られた(図4a)。さらに健常人由来CD4陽性Tリンパ球では、同様に43 kDaの単一バンドが見られたが、患者由来ATL細胞において5例中3例に弱いバンドが検出されたが、全体にNDRG2タンパク質発現レベルの低下が見られた(図4b)。従って、ATL細胞においてNDRG2はmRNA発現に相関したタンパク質発現が低下していた。
【実施例3】
【0084】
(NDRG2のプロモータ領域のメチル化測定によるATL発症の検出)
NDRG2遺伝子の発現抑制機構の解析
まずDNAメチル化阻害剤である5-aza-dC (5-aza-2’-deoxycytidine)もしくはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるTSA (Trichostatin A)をATL細胞株に作用させ遺伝子発現の変化を検討した。コントロールとしてT−ALL (Tリンパ性急性白血病)細胞株4株(Jurkat、MOLT4、MKB-1、KAWAI )、HTLV−1感染細胞株2株(HUT102、MT2)、ATL細胞株6株(ED-40515(-)、Su9T-01、S1T, KOB、KK1、SO4 )を用いた。その結果T−ALL細胞株では発現の変化が見られなかったがHTLV−1感染細胞株及びATL細胞株全8株中、5-aza-dc処理により7株(HUT102、ED-40515(-)、Su9T-01、S1T, KOB、KK1、SO4)、TSA処理により7株(MT2、ED-40515(-)、Su9T-01、S1T, KOB、KK1、SO4)において発現の回復が認められた(図5)。従ってNDRG2遺伝子発現低下の原因の一つとしてエピジェネティックなゲノム異常が関係している可能性が示唆した。
【0085】
次に、NDRG2遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化の証明を行なう目的でバイサルファイトシークエンス法を用いて検討した。NDRG2 エキソン1の上流−112bpから−432bpにはCpGが16箇所存在する(図6a)。バイサルファイト処理することによりDNA中のシトシンがウラシルに変化するが、DNAメチル化されているシトシンは変化しない為、処理後の塩基配列を調べることでメチル化の状態を調べることができる。バイサルファイト・シークエンス(BSS)法を用いたDNAメチル化解析において、ゲノムDNAに対するバイサルファイト処理は幸田らの方法に準拠した(幸田 尚 実験医学 24,1793-1797(2006))。200ngのゲノムDNAは10μlの200 mM NaOH溶液にて15 分間・室温でアルカリ変性を行ない、その後バイサルファイト溶液(2.5 M Sodium bisulfite、10 mM Hydroquinone、240 mM NaOH)を200 ・l加え、遮光下55 度で4 時間反応させた。さらにエタノール沈殿後90μlの蒸留水に溶解し10 μlの2 M NaOHを加え37 度で15 分反応させ再度エタノール沈殿を行ない10 μlのTE緩衝液(1 mM EDTA, 10 mM Tris-HCl, pH 7.6)に溶解させた。バイサルファイト処理したゲノム DNAを鋳型としNDRG2プロモーター領域 (エキソン1上流領域-112から-432 bp)を増幅した。このゲノム断片(Genbank NC_000014、20,564,110bp-20,563,790bp)にはCpGが16箇所存在する。バイサルファイト修飾後DNA断片はプライマーフォワード 5’-TTTTCGAGGGGTATAAGGAGAGTTTATTTT-3’(配列表の配列番号1)およびリバース 5’-CCAAAAACTCTAACTCCTAAATAAACA-3’(配列表の配列番号2)により、PCR反応40サイクル (98度 10秒、60度 30秒、72度 30秒)で増幅した。さらにPCR産物はpTA2ベクター (TOYOBO)に挿入し、各10クローンの塩基配列を同定しDNAメチル化の頻度を評価した。
【0086】
その結果健常人リンパ球5症例(#1-#5)ではそれぞれ10クローンの検討により全16 CpG中、0個から5個の範囲で、CpG領域がメチル化されていた(図6b)。それに対して急性型ATL細胞5例(ATL144、ATL147、ATL148、ATL160、ATL162)では全10クローンを解析し、それぞれ11から16すべてのCpG領域で高頻度にメチル化を受けていた(図6c)。この健常人リンパ球5症例と急性型ATL5症例におけるNDRG2遺伝子発現は、有意に遺伝子発現に差を認めている。従ってATL細胞における高頻度DNAメチル化が見られ、診断の指標になることが示された。
【0087】
次に、この結果を受けてメチル化特異的PCR法(Methyl Specific PCR法)を開発した。NDRG2遺伝子発現量を反映して高メチル化状態と低(非)メチル化状態を区別できるメチル化特異的プライマーを作製し、PCRにより多数のDNAを用いてメチル化状態の検討を行った。NDRG2遺伝子プロモーター領域(エキソン1上流-124から-298 bp、Genbank NC_000014の20,564,128bp-20,563,929bp) にはCpGが10箇所存在するため、この領域に対するメチル化特異的PCRプライマーを設計した。メチル化特異的認識プライマーセットとして、フォワード 5’-TTTTTCGGGTATTGCATTTAGC-3’(配列表の配列番号3)およびリバース5’-TAAATAAACAAACGCAAAAACGAA-3’ (配列表の配列番号4)を、低(非)メチル化特異的認識プライマーセットとして、フォワード5’-TTTTTTGGGTATTGTATTTAGT-3’ (配列表の配列番号5)及び、リバース 5’-TAAATAAACAAACACAAAAACAAA-3’(配列表の配列番号6)を作製し、バイサルファイト処理後のゲノムDNAを鋳型としてPCR反応40サイクル(98度 10秒、メチル化反応 64度もしくは低(非)メチル化反応 60度 5秒、72度 30秒)を行なった。それぞれのプライマーにより増幅されたDNA断片をアガロース電気泳動により確認し、DNA完全メチル化(メチル化プライマー反応(+)、低(非)メチル化プライマー反応(-))、部分メチル化(メチル化プライマー反応(+)、低(非)メチル化プライマー反応(+))、低(非)メチル化(メチル化プライマー反応(-)、低(非)メチル化プライマー反応(-))により判別した。
【0088】
その結果、健常人末梢血リンパ球6検体(#1-#6)において、すべて低(非)メチル化プライマー(UM)のみでDNAの増幅が見られ、メチル化プライマー(M)によるDNAの増幅は見られなかった。また急性型ATL細胞6症例(ATL66、ATL144、ATL147、ATL148、ATL160、ATL162)低(非)メチル化プライマー(UM)ではDNAの増幅が見られなかったが、メチル化プライマー(M)によりDNAの増幅が見られ、プロモーター領域のメチル化が証明された。 (図6d)。さらに健常人末梢血リンパ球5検体、急性型ATL 33症例を追加検討したところ健常人11例ですべて低(非)メチル化、急性型ATL39例で部分メチル化4例及び完全メチル化35例の結果となった(表1)。
【表1】

またT-ALL細胞株4株(Jurkat、MOLT4、MKB-1、KAWAI )においては低(非)メチル化であり、HTLV−1感染細胞株2株(HUT102、MT2、)、及びATL細胞株6株(ED-40515(-)、Su9T-01、S1T, KOB、KK1、SO4 )の計8株においては部分メチル化が1株(MT2)、完全メチル化が残りの7株であった。この部分メチル化を示すMT2細胞株は、NDRG2遺伝子発現が低下している。この結果から、NDRG2プロモーター領域のDNAメチル化の検出が、ATLの診断の指標になることが明確に示され、また、HTLV−1感染の指標にもなりうること、しかし、ATLとの区別も可能であり得ることが示された。
【実施例4】
【0089】
(NDRG2強制発現によるATL細胞の回復)
ヒトNDRG2遺伝子は、MOLT4細胞株より抽出したtotal RNAを鋳型としてAMV-RT RNA PCR Kit ver3.1 (タカラバイオ) 中のオリゴdT プライマーを用いてcDNAを作成した。このcDNAを鋳型として、NDRG2-5’-HindIIIプライマー 5’-CCCAAGCTTATGGCGGAGCTGCAGGAGGTGC-3’(配列表の配列番号12)及びNDRG2-3’-EcoRI プライマー 5’-GCGAATTCTCAACAGGAGACCTCCATG-3’(配列表の配列番号13)を用いてNDRG2 B型 (NM_016250)として PCR 30サイクル(98 度 10 秒、55 度 30 秒、72 度 1 分15 秒) で増幅した。PCR産物をTArget Clone (TOYOBO)中のpTA2ベクターに導入した (NDRG2/pTA2)。NDRG2 cDNA産物は塩基配列を確認した後、pCMV26ベクター(シグマアルドリッチ)のCMVプロモーター下流Hind III/EcoRI領域に3×FLAG tag融合タンパク質として導入した(pCMV26/NDRG2)。
【0090】
NDRG2安定発現ATL細胞株の作成
ATL細胞株KOB、KK1、Su9T-01細胞1 x 107 個に20 μgのpCMV26/NDRG2もしくはpCMV26/mockをGENE PLUSER II (Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて220 V、950 ・Fの条件で遺伝子導入を行なった。導入2 日後、培養液中にG418を800 μg/ml添加し、その1週間後限界希釈法によって細胞の株化を行なった。安定発現株樹立後はそれぞれの培地にG418を200μg/mlを添加し継代した。作製した細胞株はpCMV26/Mock発現ベクターを導入したKK1細胞株(KK1/pCMV26-#7、KK1/pCMV26-#11)、NDRG2/pCMV26発現ベクターを導入したKK1細胞株(KK1/NDRG2-#5、KK1/NDRG2-#6)、pCMV26/Mock発現ベクターを導入したSu9T-01細胞株(Su9T-01/pCMV26-#2、Su9T-01/pCMV26-#4)、pCMV26/NDRG2発現ベクターを導入したSu9T-01細胞株(Su9T-01/NDRG2-#5、Su9T-01/NDRG2-#6)である。
【0091】
樹立後NDRG2のタンパク質発現をウエスタン法により検討した。KK1親細胞、Mockベクター導入細胞2株(pCMV26-#7、pCMV26-#11)においてはNDRG2タンパク質のバンドが見られないが、NDRG2発現ベクター導入細胞2株(NDRG2-#5、NDRG2-#6)においては、2細胞株共に43 kDaのNDRG2バンドが検出された。Su9T-01においても同様の結果が得られた(図7)。
【0092】
NDRG2遺伝子導入による細胞内タンパク質の局在と核形の変化
ATL細胞はFlower様核を有する特異的な性質を持っている。上記のようにして得られたNDRG2安定発現ATL細胞を、まず細胞内局在の検討に供した。核はDAPI染色(青)をNDRG2はNDRG2をウサギ抗ヒトNDRG2抗体と二次抗体としてフルオロセン蛍光標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を用いて染色(緑)した。
【0093】
免疫染色は、細胞を5 x 105個回収後PBSで3回洗浄を行なった。4%パラホルムアルデヒド溶液500 μlで細胞を室温で10分固定した後、遠心し上清を取り除き、5%スキムミルク添加TBS/T緩衝液 500μlを加え室温1時間浸透させ、ブロッキング反応を行なった。その後TBS/Tで3回洗浄後ウサギ抗ヒトNDRG2ポリクローナル抗体 (1%BSA添加TBS/Tで400倍希釈)を50 μl加えて室温で2 時間反応させた。その後TBS/T緩衝液で3回洗浄後、フルオロセン蛍光標識ヤギ抗ウサギIgG(1000倍希釈)とDAPI (SIGMA ALDORICH) (0.2μg/mlを50μl加え遮光して室温で1時間反応させた。その後TBS/T緩衝液で3回洗浄後、蛍光封入剤(ダコ・ジャパン(株))を用いて封入し、倒立型落射型蛍光顕微鏡(HAL100)(Carl Zeiss)、もしくは倒立型共焦点レーザー顕微鏡(DMIRE2)(Leica)で観察した。
【0094】
NDRG2遺伝子導入前には少量のNDRG2タンパク質が細胞質に見られるのに対して、NDRG2遺伝子導入により多くのNDRG2タンパク質は核内に見られ、小顆粒状の染色様式を示した。この細胞の核は、遺伝子導入前が空豆様にくびれや変形を有する細胞が多かったが、NDRG2導入によりやや丸い細胞が増加する傾向が見られた(図8)。
【0095】
そこでさらに詳しく核の形について検討を行った。各変形の度合いを4種類にわけ(図9a)、遺伝子導入前後において、DAPI染色後、各々の細胞を蛍光顕微鏡下で100個ずつ2回、分類分けを行なった。ATL細胞株であるKK1、Su9T-01細胞株は、KK1細胞の78%、Su9T-01細胞の68%に何らかの核の変形が見られた。それに対してNDRG2安定発現細胞株において、正常に近い円形の核がKK1において22%から93%、Su9T-01において32%から53%と大幅に増加する傾向を示した(図9b)。従ってNDRG2を発現させることで、NDRG2タンパク質そのものの核への移行とATL細胞の核形の正常化が証明された。
【実施例5】
【0096】
細胞増殖解析
樹立したATL細胞株を用いて、各細胞株(1 x 105 個/ml)をそれぞれの継代に使用する培養液中で培養し、24 時間間隔でトリパンブルー染色法により生細胞数を算出した。また2 日間隔で10分の1倍希釈継代にすることで2週間培養した。細胞は37 度、5% 二酸化炭素下で静置培養した。
【0097】
インビボ腫瘍形成能の検討
生体内での白血病細胞の増殖能を検討するために、Su9T-01/pCMV26-#4細胞株 (1 x 107 個)及び Su9T-01/NDRG2-#6細胞株 (1 x 107 個)を免疫不全マウス(NOD/Shi-scid, IL-2Rγnull (NOG)) 17)の経静脈及び腹腔投与を行なった。マウスが死亡後病理解剖し、病理学的、組織免疫染色、生化学的解析を行なった。
【0098】
ATL細胞におけるNDRG2遺伝子発現によるインビトロ細胞増殖能及びインビボ腫瘍形成能の検討
NDRG2とATL細胞の増殖や悪性化との関連性をさらに検証し、その治療効果を確認するために、NDRG2導入細胞株を用いて、インビトロ細胞増殖能とインビボマウス移植による腫瘍死による生存機関の比較を行なった。KK1-NDRG2安定発現株(KK1/NDRG2-#5、KK1/NDRG2-#6)はコントロール細胞(KK1、KK1/pCMV26-#7、KK1/pCMV26-#11)と比較しインビトロ増殖能が有意に低下していた。Su9T-01細胞株において同様にSu9T-01-NDRG2安定発現株(Su9T-01/NDRG2-#5、Su9T-01/NDRG2-#6)はコントロール細胞(SuT-01、Su9T-01/pCMV26-#2、Su9T-01/pCMV26-#4)と比較し同様に増殖能が低下している事が分かった(図10a)。そこで、さらに、Su9T-01-NDRG2安定発現株(Su9T-01/NDRG2-#6)及び、コントロール細胞(Su9T-01/pCMV26-#4)をNOD/Shi-scid, IL-2Rγnull (NOG) マウスそれぞれ6匹に移植し、経過観察を行なった。その結果、コントロールマウス群では、平均50%生存期間が53日日に対して、NDRG2安定発現株を移植したマウス群で、平均50%生存期間が84日と有意に延長しており(p<0.02)、さらに3匹は200日以上の長期生存を果たしている(図10b)。以上の結果から、NDRG2安定発現ATL細胞は、インビトロにおける細胞増殖能が低下し、さらにインビボにおいて白血病進展が遅延することがわかり、NDRG2の治療への応用可能性が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】NDRG2近傍2Mb領域9遺伝子における遺伝子発現を示す図である。
【図2】定量PCR法によるNDRG2遺伝子発現の比較を示す図である。
【図3】健常人と急性型ATL細胞におけるNDRG2遺伝子発現の比較を示す図である。
【図4】ウエスタンブロッティング法によるNDRG2タンパク質発現の比較を示す図である。
【図5】ATL細胞株に対するDNA脱メチル化反応およびヒストン脱アセチル化阻害剤によるNDRG2遺伝子発現の回復を示す図である。
【図6a】NDRG2プロモーター領域のCpG集積を示す図である。
【図6b】健常人由来末梢血リンパ球のNDRG2プロモーター領域のDNAメチル化を示す図である。
【図6c】急性型ATL細胞のNDRG2NDRG2プロモーター領域のプロモーター領域のDNAメチル化を示す図である。
【図6d】MSP法によるNDRG2プロモーター領域のDNAメチル化網羅解析の結果を示す図である。
【図7】NDRG2安定発現ATL細胞の樹立に伴うNDRG2タンパク質発現を示す図である。
【図8】ATL細胞およびNDRG2安定発現ATL細胞におけるNDRG2の局在を示す図である。
【図9a】ATL細胞の核の変形とNDRG2タンパク質発現との関連性をクラス分けした図である。
【図9b】ATL細胞の核の変形とNDRG2タンパク質発現との関連性を示すグラフである。
【図10a】NDRG2発現によるATL細胞のインビトロ細胞増殖能を示すグラフである。
【図10b】インビボ白血病細胞移植後のマウスの生存曲線の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のHTLV−1感染および/またはATL発症の有無の検出方法であって、
被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルを測定し、コントロール細胞中のNDRG2の発現レベルと比較する工程;および
該比較において、被験者由来の細胞中のNDRG2の発現レベルが、コントロール細胞中のNDRG2の発現レベルより低下していることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する工程
を含む、検出方法。
【請求項2】
被験者のHTLV−1感染および/またはATL発症の有無の検出方法であって、
被験者由来の細胞中のNDRG2プロモーターのメチル化を測定する工程;およびメチル化がされていることを指標として、被験者がHTLV−1の感染者および/またはATL発症者であると決定する工程
を含む検出方法。
【請求項3】
NDRG2タンパク質またはそのペプチド断片に対する抗体を含むHTLV−1感染および/またはATL診断薬。
【請求項4】
NDRG2をコードするポリヌクレオチドが細胞内に導入され得る形態で含まれる、ATLの予防および/または治療のための薬剤。
【請求項5】
NDRG2タンパク質を有効成分として含有するATLの予防および/または治療のための薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【公開番号】特開2009−189271(P2009−189271A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31855(P2008−31855)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【Fターム(参考)】