説明

ヒドロキシポリカルボン酸誘導体に基づく無灰の磨耗防止剤およびモリブデン化合物を含有する潤滑組成物

本発明は、潤滑粘性の油、油溶性モリブデン化合物、および無灰の磨耗防止剤を含有する潤滑組成物を提供する。本発明は、さらに新規な酸化防止剤を提供する。上記潤滑組成物は、内燃機関を潤滑させるのに適している。一実施形態において、前記潤滑組成物は、(i)0.8重量%以下の硫黄含量、(ii)0.2重量%以下のリン含量、または(iii)2重量%以下の硫酸塩灰分の少なくとも1つを有することを特徴とする。一実施形態において、本発明は、本明細書に開示されている潤滑組成物の用途を、(i)リン排出物類を減少または阻止すること、(ii)硫黄排出物類を減少または阻止すること、(ii)潤滑油中のZDDPを完全にまたは部分的に置き換えること、(iii)燃料経済性を改善すること、(iv)燃料経済性保持/効率、の少なくとも1つをもたらすために提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑粘性の油、油溶性モリブデン化合物、および無灰の磨耗防止剤を含有する潤滑組成物を提供する。本発明は、新規な酸化防止剤をさらに提供する。該潤滑組成物は、内燃機関を潤滑させるのに適している。
【背景技術】
【0002】
エンジン製造業者らは、燃料経済性および効率性を改善するためにエンジン設計を改善することに集中してきた(一般的には連邦政府企業平均燃料節約(CAFE)規格(Federal Corporate Average Fuel Economy (CAFE) standards)に基づく)。エンジン設計および操作における改善が貢献した一方で、エンジンオイル潤滑剤の改良された配合物も燃料経済性および効率性を改善することができる。潤滑剤はエンジンが作動するときにたまるエンジン堆積物を減少させ、分散させるように機能する。それらはまた、接触していて、滑って動く部品(一般的には金属またはセラミック)の間の摩擦を減少させる。
【0003】
潤滑油に関しては、内燃機関などの機械装置を、磨耗、酸化、すすの堆積および酸性度の増加から保護するために使用される多数の添加剤(磨耗防止剤類、酸化防止剤類、分散剤類、洗浄剤類などが挙げられる)を含有していることがよく知られている。エンジン潤滑油のための通常の耐磨耗添加剤は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)である。ZDDP耐磨耗添加剤は、金属表面に保護膜を形成することによってエンジンを保護すると考えられる。ZDDPは、また、燃料経済性および効率性に対して不利な影響を有することも考えられる。その結果、エンジン潤滑剤は、燃料経済性および効率性に対するZDDPのその不利な影響を取り除くために摩擦調整剤も含有する。ZDDPおよび摩擦調整剤の両方は、滑る表面に吸着されることによって機能し、それぞれが互いのそれぞれの機能を妨げる可能性がある。
【0004】
さらに、リン化合物および硫黄を含有するエンジン潤滑剤類は微粒子排出およびその他の汚染物質の排出をある程度助長することが示されている。その上、硫黄およびリンは、触媒コンバーターで使用される触媒を汚染し、前記触媒の性能の低下をもたらす傾向がある。
【0005】
排出(NO形成、SO形成、硫酸塩灰分の形成の一因となることおよび後処理触媒コンバーターの効率を低下させることと多くの場合関連する)の制御を増大させながら、エンジンオイル中の硫黄、リンおよび硫酸塩灰分の量の減少に対する要望が存在する。しかしながら、ZDDPなどの耐磨耗添加剤の濃度を減少させることは磨耗を増加させ、エンジンのその他の不利な性能をもたらすことになり得る。
【0006】
その上、技術が発展するに連れて、エンジンのコンポーネントは、より厳しい作動条件にさらされる。作動条件としては、より高い出力密度のエンジン類、ターボチャージャー類の使用、代替燃料類の使用などを挙げることができる。多くの厳しい作動条件下では、潤滑剤およびコンポーネント類の酸化がより起こりやすい。したがって、酸化を減少させることの必要性が存在し、これにより装置の寿命または信頼性を増すこともできる。
【0007】
特許文献1は、少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸エステルまたはヒドロキシポリカルボン酸を含有する潤滑剤組成物を開示している。開示されているその潤滑剤組成物は、また、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート類、またはその他のリン含有添加剤類、例えばトリラウリルホスフェートまたはトリフェニルホスホロチオネートなども含有することができる。その潤滑剤組成物は、耐磨耗または耐疲労特性を有する。
【0008】
特許文献2は、エステルまたはアミド基当たり1〜150個の炭素原子を有するタルトレートエステル、またはアミドを含有する内燃機関を潤滑させるのに適する低硫黄、低リン、低灰の潤滑剤組成物を開示している。
【0009】
特許文献3は、クエン酸とアルキルアルコールまたはアミンとの反応生成物として得られたアルキル化クエン酸誘導体類を開示している。そのアルキル化クエン酸誘導体は、磨耗防止剤および摩擦調整剤として有効である。
【0010】
特許文献4は、スキールおよび摩擦の効果的な減少ならびに燃料経済性の改善のための潤滑剤および燃料中の添加剤として有用な酒石酸イミドを開示している。
【0011】
特許文献5は、(A)潤滑粘性の油、(B)コハク酸アシル化剤を特定のアミン類と反応させることによって製造されたカルボキシル基を持つ誘導体、および(C)スルホン酸またはカルボン酸の塩基性アルカリ金属塩を含む内燃機関用の潤滑油組成物類を開示している。
【0012】
特許文献6は、内燃機関類の燃料経済性を改善するための潤滑剤組成物類を開示している。その組成物としては、特定の硫化組成物(カルボン酸のエステルに基づく)および塩基性アルカリ金属スルホン酸塩が挙げられる。
【0013】
米国特許出願第60/867534号は、磨耗防止剤として適するマロネートエステル類を開示している。
【0014】
特許文献7は、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8個であるアルキルエステルタルトレート類を含有するガソリンエンジン用の潤滑剤を開示している。
【0015】
したがって、(i)リン排出物類を減少または阻止すること、(ii)硫黄排出物類を減少または阻止すること、(ii)潤滑油中のZDDPを完全にまたは部分的に置き換えること、(iii)燃料経済性を改善すること、(iv)燃料経済性保持/効率、および(v)酸化の制御の少なくとも1つを提供することができる潤滑組成物を提供することが望まれる。本発明は、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、および(v)の少なくとも1つを達成することができる磨耗防止剤を提供する。加えて、その磨耗防止剤は、機械装置のその他のコンポーネントに有害な影響を有さないことも望まれ得る。その磨耗防止剤が、酸化防止性能を有することも望まれ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2005/087904号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/044411号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,338,470号明細書
【特許文献4】米国特許第4,237,022号明細書
【特許文献5】米国特許第4,952,328号明細書
【特許文献6】米国特許第4,326,972号明細書
【特許文献7】カナダ国特許第1 183 125号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
一実施形態において、本発明は、潤滑組成物であって、潤滑粘性の油、油溶性モリブデン化合物、および式(1):
【0018】
【化1】

[式中、
YおよびY’は、独立して、−O−、>NH、>NRであるか、またはYおよびY’基の両方を一緒にし、2つの>C=O基の間にR−N<基を形成することによって形成されたイミド基であり、
Xは、独立して、−Z−O−Z’−、>CH、>CHR、>CR、>C(OH)(CO)、>C(CO、>CCHCOまたは>CHORであり、
ZおよびZ’は、独立して、>CH、>CHR、>CR、>C(OH)(CO)、または>CHORであり、
nは、0〜10、または1〜8、または1〜6、または2〜6、または2〜4であり、ただし、n=1のとき、Xは>CHではなく、n=2のとき、両方のXが同時に>CHではなく、
mは、0または1であり、
は、独立して、水素または一般的に1〜150個、4〜30個、または6〜20個、または10〜20個、または11〜18個、または8〜10個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、ただし、Rが水素であるとき、mは0であり、nは1以上であり、
は、一般的に1〜150個、4〜30個、または6〜20個、または10〜20個、または11〜18個、または8〜10個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、
、RおよびRは、独立して、ヒドロカルビル基またはヒドロキシ含有ヒドロカルビル基またはカルボキシル含有ヒドロカルビル基であり、
は、水素または一般的に1〜150個、または4〜30個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である]
によって表される無灰摩擦防止剤を含む潤滑組成物を提供する。
【0019】
一実施形態において、前記潤滑組成物は、(i)0.8重量%以下の硫黄含量、(ii)0.2重量%以下のリン含量、または(iii)2重量%以下の硫酸塩灰分の少なくとも1つを有することを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態において、該潤滑組成物は、(i)0.5重量%以下の硫黄含量、(ii)0.1重量%以下のリン含量、および(iii)1.5重量%以下の硫酸塩灰分を有することを特徴とする。
【0021】
一実施形態において、本発明は、内燃機関を潤滑する方法であって、本明細書に記載の潤滑組成物を前記内燃機関に供給するステップを含む方法を提供する。
【0022】
一実施形態において、本発明は、本明細書に開示されている潤滑組成物の用途を、(i)リン排出物類を減少または阻止すること、(ii)硫黄排出物類を減少または阻止すること、(ii)潤滑油中のZDDPを完全にまたは部分的に置き換えること、(iii)燃料経済性を改善すること、(iv)燃料経済性保持/効率、の少なくとも1つをもたらすために提供する。
【0023】
一実施形態において、本発明は、潤滑剤中の酸化防止剤としての式(1)の化合物の用途を提供し、式(1)の該化合物は:
【0024】
【化2】

によって表すことができ、式中、
YおよびY’は、独立して、−O−、>NH、>NRであるか、またはYおよびY’基の両方を一緒にし、2つの>C=O基の間にR−N<基を形成することによって形成されたイミド基であり、
Xは、独立して、−Z−O−Z’−、>CH、>CHR、>CR、>C(OH)(CO)、>C(CO、または>CHORであり、
ZおよびZ’は、独立して、>CH、>CHR、>CR、>C(OH)(CO)、または>CHORであり、
nは、0〜10、または1〜8、または1〜6、または2〜6、または2〜4であり、ただし、n=1のとき、Xは>CHではなく、n=2のとき、両方のXが>CHではなく、
mは、0または1であり、
は、独立して、水素または一般的に1〜150個、4〜30個、または6〜20個、または10〜20個、または11〜18個、または8〜10個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、ただし、Rが水素であるとき、mは0であり、nは1以上であり、
は、一般的に1〜150個、4〜30個、または6〜20個、または10〜20個、または11〜18個、または8〜10個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、
、RおよびRは、独立して、ヒドロカルビル基であり、
は、水素または一般的に1〜150個、または4〜30個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である。
【0025】
一実施形態において、本発明は、潤滑剤中の酸化防止剤としての式(1)の化合物の用途を提供し、前記式(1)の化合物はエステル(例えばモノエステル、ジエステルまたはトリエステルなど)である。
【0026】
一実施形態において、本発明は、潤滑剤中の酸化防止剤としての式(1)の化合物の用途を提供し、前記式(1)の化合物はクエン酸エステルではない。
【0027】
一実施形態において、本発明は、潤滑剤中の酸化防止剤としての酒石酸誘導体(一般的にはタルトレートエステル)の用途を提供する。
【0028】
一実施形態において、本発明は、内燃機関潤滑剤中の酸化防止剤としての式(1)の化合物(一般的には酒石酸誘導体)の用途を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、潤滑組成物および上で開示したエンジンを潤滑させるための方法を提供する。
【0030】
油溶性モリブデン化合物
油溶性モリブデン化合物は、磨耗防止剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはそれらの混合物に機能的性能を持たせることができる。一般的に、その油溶性モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカルバメート類、モリブデンジアルキルジチオホスフェート類、モリブデン化合物のアミン塩類、モリブデンキサンテート類、モリブデン硫化物類、モリブデンカルボキシレート類、モリブデンアルコキシド類、またはそれらの混合物が挙げられる。該モリブデン硫化物類としてはモリブデンジスルフィドが挙げられる。そのモリブデンジスルフィドは、安定な分散体の形をしていることができる。一実施形態において、該油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート類、モリブデンジアルキルジチオホスフェート類、モリブデン化合物のアミン塩類、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。一実施形態において、該油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。
【0031】
酸化防止剤として使用することができるモリブデンジチオカルバメート類の適当な例としては、R.T.Vanderbilt Co.,Ltd.からMolyvan822(商標)およびMolyvan(商標)Aならびに旭電化工業株式会社からアデカサクラルーブ(商標)S−100、S−165、S−515、およびS−600などの商標名のもとで販売されている市販材料、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0032】
該油溶性モリブデン化合物は、0.5ppm〜2000ppm、1ppm〜700ppm、1ppm〜550ppm、5ppm〜300ppm、または20ppm〜250ppmのモリブデンを提供する十分な量で存在させることができる。
【0033】
無灰の磨耗防止剤
一実施形態において、式(1)の化合物は、無灰の磨耗防止剤であり、それは酸化防止剤としても作用する。
【0034】
一実施形態において、式(1)の化合物は、イミド基を含有する。そのイミド基は、YおよびY’基を一緒にし、2つの>C=O基の間にR−N<基を形成することによって一般的には形成される。
【0035】
一実施形態において、式(1)の化合物は、以下のように定義されるm、n、X、ならびにR、RおよびRを有する。すなわち、mは0または1であり、nは1〜2であり、Xは>CHORであり、R、RおよびRは、独立して、4〜30個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である。
【0036】
一実施形態において、YおよびY’は両方とも−O−である。
【0037】
一実施形態において、式(1)の化合物は、以下のように定義されるm、n、X、Y、Y’ならびにR、RおよびRを有する。すなわち、mは0または1であり、nは1〜2であり、Xは>CHORであり、YおよびY’は両方とも−O−であり、R、RおよびRは、独立して、水素または4〜30個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である。
【0038】
一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤としては、イミド類、ジエステル類、ジアミド類、ジイミド類、エステルアミド類、エステルイミド類、またはイミドアミド類が挙げられる。一実施形態において、該磨耗防止剤としてはイミド類、ジエステル類、ジアミド類、またはエステルアミド類が挙げられる。
【0039】
式(1)の該ジエステル類、ジアミド類、エステルアミド、エステルイミド化合物は、ジカルボン酸(例えば酒石酸など)をアミンまたはアルコールと、場合によって既知のエステル化触媒の存在下で反応させることによって調製することができる。エステルイミド化合物類の場合、少なくとも3つのカルボン酸基を有することが必要である(例えばクエン酸)。ジイミドの場合、少なくとも4つのカルボン酸基を有することが必要である。アミンおよびアルコールは、式(1)で定義したRおよび/またはRの要求を満たす十分な炭素原子を一般的には有する。
【0040】
一実施形態において、RおよびRは、独立して、直鎖状または分枝したヒドロカルビル基である。一実施形態において、そのヒドロカルビル基は、分枝している。一実施形態においてそのヒドロカルビル基は直鎖状である。該RおよびRは式(1)中にアミンまたはアルコールのいずれかによって組み込むことができる。そのアルコールとしては、一価アルコールおよび多価アルコールの両方が挙げられる。そのアルコールの複数の炭素原子は、直鎖、分枝鎖、またはそれらの混合物であり得る。
【0041】
適当な分枝アルコールの例としては、2−エチルヘキサノール、イソトリデカノール、ゲルベアルコール類、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0042】
一価アルコールの例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、またはそれらの混合物が挙げられる。一実施形態において該一価アルコールは5〜20個の炭素原子を含有する。
【0043】
該アルコールとしては、一価アルコールまたは多価アルコールのいずれかが挙げられる。適当な多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、デンプン、グルコース、スクロース、メチルグルコシド、またはそれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、該多価アルコールは一価アルコールとの混合物で使用される。一般的にはかかる組み合わせにおいて該一価アルコールはその混合物の少なくとも60モルパーセント、または少なくとも90モルパーセントを構成する。
【0044】
一実施形態において、無灰の磨耗防止剤は、酒石酸から誘導される。本発明の酒石酸エステルを調製するために使用される酒石酸は、商業的に入手することができ、多くの場合、発生源(天然)または合成(マレイン酸からの)の方法によって、1つまたは複数の異性体の形、例えばd−酒石酸、l−酒石酸またはメソ酒石酸などの形で存在するようである。例えば、d−酒石酸およびl−酒石酸のラセミ混合物は、マレイン酸の過酸化水素との接触酸化(タングステン酸触媒による)から得られる。これらの誘導体類は、当業者には見てすぐ分かる二酸の機能的同等物、例えばエステル類、酸塩化物類、または酸無水物類から調製することもできる。
【0045】
式(1)の化合物が酒石酸から誘導される場合、得られる酒石酸エステル類は、その酒石酸エステルを調製するのに使用した特定のアルコールによって固体、半固体、または油であり得る。潤滑組成物中の添加剤として使用するためにはその酒石酸エステルは、かかる油性の組成物中に溶解および/または安定に分散することが有利である。例えば、油中で使用するように意図された組成物は、それらが使用されることになっている油中に一般的には油溶性でありかつ/または安定に分散する。この明細書および添付の特許請求の範囲の中で使用されている用語「油溶性」は、問題になっている組成物全体が油全体の中にあらゆる割合で混和できるまたは溶解できることを必ずしも意味しない。それよりむしろ、該組成物が油(ミネラル、合成など)中に溶解し、その溶液が1つまたは複数の所望される特性を発揮することを可能にする程度まで機能するようにさせたいことを意味しようとするものである。同様に、かかる「溶液類」は、厳密な物理的または化学的意味での真の溶液であることは必要でない。それらは、代わりに、マイクロエマルジョンまたはコロイド分散体であり得、それらは本発明の目的では、実用目的として、本発明の状況の中でそれらと置き換え可能である真の溶液のものに十分に近い特性を発揮する。
【0046】
一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤は、ヒドロキシカルボン酸から誘導された化合物を含む。一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤は、ヒドロキシポリカルボン酸ジエステル、ヒドロキシポリカルボン酸ジアミド、ヒドロキシポリカルボン酸ジイミド、ヒドロキシポリカルボン酸エステルアミド、ヒドロキシポリカルボン酸エステルイミド、およびヒドロキシポリカルボン酸イミドアミドの少なくとも1つから誘導される。一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤は、ヒドロキシポリカルボン酸ジエステル、ヒドロキシポリカルボン酸ジアミド、およびヒドロキシポリカルボン酸エステルアミドからなる群の少なくとも1つから誘導される。
【0047】
適当なヒドロキシカルボン酸の例としては、クエン酸、酒石酸、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシグルタル酸、またはそれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、無灰の磨耗防止剤は、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシ一酸類、モノヒドロキシ二酸類、またはそれらの混合物から誘導される。一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤は、酒石酸またはクエン酸から誘導された化合物を含む。一実施形態において該無灰の磨耗防止剤は、酒石酸から誘導された化合物を含む。一実施形態において式(1)の化合物はクエン酸エステルではない。
【0048】
米国特許出願第2005/198894号は、適当なヒドロキシカルボン酸化合物類、およびその同じものを調製する方法を開示している。
【0049】
カナダ特許第1183125号、米国特許出願公開第2006/0183647号および同第2006/0079413号、米国特許出願第60/867402号、および英国特許出願第2105743号は、すべて適当な酒石酸誘導体類の例を開示している。
【0050】
一実施形態において、ジエステル類、ジアミド類、ジイミド類、エステルアミド、エステルイミド、イミドアミド化合物類は、式(1)の化合物から誘導される。一実施形態において、ジエステル類、ジアミド類、エステルアミド、化合物類は、式(1)の化合物から誘導される。
【0051】
適当な酒石酸イミド類を調製するための(酒石酸を第一級アミンと反応させることによる)方法の詳細な説明が米国特許第4,237,022号に開示されている。
【0052】
一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤は、酒石酸のイミド、ジエステル類、ジアミド類、エステルアミド誘導体類を含む。
【0053】
適当なクエン酸誘導体の例としては、クエン酸トリアルキル類またはホウ酸化クエン酸トリアルキル類が挙げられる。適当な例としては、クエン酸トリエチル、クエン酸エチルジペンチルと一緒のクエン酸トリペンチル、ホウ酸化クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、1,2−プロパンジオールとエステル交換したクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリエチル、クエン酸トリエチル、コハク酸オクタデシル、またはそれらの混合物が挙げられる。適当なクエン酸エステル類のより詳細な説明は、WO2005/087904および米国特許第5,338,470号に開示されている。その他の適当なクエン酸エステル類としては、クエン酸2−エチルヘキシル、クエン酸ドデシル、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0054】
一般的には酒石酸エステルである本発明の無灰の磨耗防止剤は、さびおよび腐食防止剤、摩擦調整剤、磨耗防止剤および解乳化剤としても機能することができる。
【0055】
一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤はホウ酸化されていない。
【0056】
該無灰の磨耗防止剤は、該潤滑組成物の0.01重量%〜20重量%、または0.05重量%〜10重量%、または0.1重量%〜5重量%で存在させることができる。
【0057】
潤滑粘性の油
該潤滑組成物は、潤滑粘性の油を含む。かかる油類としては、天然および合成油、水素化分解、水素化、および水素化精製から生じた油、未精製、精製および再生成油およびそれらの混合物が挙げられる。
【0058】
未精製油類は、天然または合成供給源から一般にさらなる精製処理無しで(または殆ど無しで)直接得られたものである。
【0059】
精製油類は、それらが1つまたは複数の特性を改善するために1つまたは複数の精製段階においてさらに処理されていることを除けば未精製油類と類似している。精製技術は当技術分野で知られており、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、パーコレーションなどが挙げられる。
【0060】
再精製油類は、また、再生油または再加工油として知られ、精製油を得るために用いられるものと類似のプロセスによって得られ、多くの場合、使用済みの添加剤および油分解産物の除去を対象とする技術によってさらに処理される。
【0061】
本発明の潤滑剤の製造で有用な天然油類としては、動物油、植物油(例えばヒマシ油)、鉱油系潤滑油類、例えば流動石油およびパラフィンタイプ、ナフテンタイプまたは混合パラフィン−ナフテンタイプの溶媒処理または酸処理鉱油系潤滑油ならびに石炭または頁岩から生じた油類あるいはそれらの混合物が挙げられる。
【0062】
合成潤滑油は有用であり、炭化水素油類、例えば、重合した、オリゴマー化した、または共重合したオレフィン類(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー)、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、1−デセンのトリマーまたはオリゴマー、例えば、ポリ(1−デセン)、ポリα−オレフィン類としばしば呼ばれる材料、およびそれらの混合物;アルキルベンゼン類(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル類(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニル類);ジフェニルアルカン類、アルキル化ジフェニルアルカン類、アルキル化ジフェニルエーテル類およびアルキル化ジフェニルスルフィド類ならびにそれらの誘導体、類似体および同族体またはそれらの混合物が挙げられる。
【0063】
その他の合成潤滑油類としては、ポリオールエステル類(例えば、Prolube(登録商標)3970)、ジエステル類、リン含有酸類の液体エステル類(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、およびデカンホスホン酸のジエチルエステル)、または重合体テトラヒドロフランが挙げられる。合成油類は、フィッシャートロプシュ反応によって製造することができ、一般的には、水素異性化されたフィッシャートロプシュ炭化水素またはワックスであり得る。一実施形態において、油類は、フィッシャートロプシュのGTL(ガストゥリキッド:gas to liquid)合成手順ならびにその他のGTL油によって調製することができる。
【0064】
潤滑粘性の油類は、また、米国石油協会(API)基油互換性指針(the American Petroleum Institute (API) Base Oil Interchangeability Guidelines)に明記されているように定義され得る。5つの基油グループは、次のものである:グループI(硫黄含量>0.03重量%、および/または<90重量%の飽和物、粘度指数80〜120)、グループII(硫黄含量≦0.03重量%、および≧90重量%の飽和物、粘度指数80〜120)、グループIII(硫黄含量≦0.03重量%、および≧90重量%の飽和物、粘度指数≧120)、グループIV(すべてポリ−α−オレフィン(PAO))、およびグループV(グループI、II、III、またはIVに含まれない他のすべて)。その潤滑粘性の油は、APIのグループI、グループII、グループIII、グループIV、グループVの油またはそれらの混合物を含む。しばしば該潤滑粘性の油は、APIのグループI、グループII、グループIII、グループIVの油またはそれらの混合物を含む。別法では、その潤滑粘性の油は、しばしば、APIのグループII、グループIII、もしくはグループIVの油またはそれらの混合物である。
【0065】
存在する該潤滑粘性の油の量は、一般的には、該無灰の磨耗防止剤、該油溶性モリブデン化合物およびその他の性能添加剤類の合計を100重量%から差し引いた後に残る差の量である。
【0066】
該潤滑組成物は、濃縮物および/または完全に配合された潤滑剤の形をしていることができる。本発明の潤滑組成物((i)該無灰の磨耗防止剤および(ii)該油溶性モリブデン化合物を含む)が濃縮物(さらなる油と組み合わせて、完全にまたは部分的に仕上がった潤滑剤を形成することができる)の形をしている場合、本発明の組成物の該潤滑粘性の油および/または希釈油に対する比率としては、重量で1:99〜99:1、または重量で80:20〜10:90の範囲が含まれる。
【0067】
その他の性能添加剤
該組成物は、場合によって、その他の性能添加剤類を含む。そのその他の性能添加剤類は、金属不活性化剤、粘度調整剤、洗浄剤、摩擦調整剤(油溶性モリブデン化合物または式(1)の化合物以外のもの)、磨耗防止剤(本発明の無灰の磨耗防止剤以外のもの)、腐食防止剤、分散剤、分散剤粘度調整剤、極圧剤、酸化防止剤(本発明の油溶性モリブデン化合物以外のもの)、発泡防止剤、解乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤およびそれらの混合物の少なくとも1つを含む。一般的には完全に配合した潤滑油は、これらの性能添加剤の1つまたは複数を含有する。
【0068】
一実施形態において、該潤滑組成物は、該無灰の磨耗防止剤を含み、粘度調整剤、酸化防止剤、過塩基性洗浄剤、スクシンイミド分散剤、またはそれらの混合物の少なくとも1つをさらに含む。
【0069】
一実施形態において、該無灰の磨耗防止剤を含む該潤滑組成物は、リン含有磨耗防止剤をさらに含む。
【0070】
洗浄剤
該潤滑組成物は、場合によって、その他の既知の中性または過塩基性洗浄剤をさらに含む。適当な洗浄剤基質としては、フェナート類、硫黄含有フェナート類、スルホネート類、サリキサレート類、サリチレート類、カルボン酸、リン酸、モノおよび/またはジチオリン酸、アルキルフェノール、硫黄結合アルキルフェノール化合物類、またはサリゲニン類が挙げられる。さまざまな過塩基性洗浄剤およびそれらの調製の方法が、WO2004/096957を含めた多数の特許出版物およびそこに引用されている参考文献中により詳細に記載されている。該洗浄剤基質は、一般的には金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、またはそれらの混合物などによる塩となっている。一実施形態において、該潤滑組成物は、過塩基性洗浄剤をさらに含む。一般的には、その過塩基性洗浄剤は、フェナート類、硫黄含有フェナート類、スルホネート類、サリキサレート類、サリチレート類、またはそれらの混合物を含む。
【0071】
該洗浄剤は、0重量%〜10重量%、または0.1重量%〜8重量%、または1重量%〜4重量%、または4重量%超〜8重量%で存在させることができる。
【0072】
分散剤類
分散剤類は、しばしば無灰タイプの分散剤として知られ、なぜなら、潤滑油組成物に混合する前から、それらは、灰形成性金属類を含有せず、それらは潤滑剤およびポリマー分散剤類に加えるとき灰を形成する金属類を通常は何ら提供しないためである。無灰タイプの分散剤類は、比較的高分子量の炭化水素鎖に極性基が結合していることを特徴とする。代表的な無灰分散剤類としては、N−置換長鎖アルケニルスクシンイミド類が挙げられる。N−置換長鎖アルケニルスクシンイミド類の例としては、そのポリイソブチレン置換基の数平均分子量が350〜5000、または500〜3000の範囲であるポリイソブチレンスクシンイミドが挙げられる。スクシンイミド分散剤類およびそれらの製法は、例えば、米国特許第3,172,892号または米国特許第4,234,435号または欧州特許第0355895号に開示されている。スクシンイミド分散剤類は、一般的にはポリ(エチレンアミン)であるポリアミンから形成される一般的にはイミドである。
【0073】
一実施形態において、本発明は、数平均分子量が350〜5000、または500〜3000の範囲のポリイソブチレンから誘導された少なくとも1つのポリイソブチレンスクシンイミド分散剤をさらに含む。そのポリイソブチレンスクシンイミドは、単独またはその他の分散剤類との組み合わせで使用することができる。
【0074】
一実施形態において、本発明は、ポリイソブチレンスクシンイミドの亜鉛との錯体を形成するためにポリイソブチレン無水コハク酸、アミンおよび酸化亜鉛から誘導された少なくとも1つの分散剤をさらに含む。そのポリイソブチレンスクシンイミドの亜鉛との錯体は単独または組み合わせで使用することができる。
【0075】
無灰分散剤の別の種類はマンニッヒ塩基である。マンニッヒ分散剤類は、アルキルフェノール類のアルデヒド類(特にホルムアルデヒド)およびアミン類(特にポリアルキレンポリアミン類)との反応生成物である。そのアルキル基は、一般的には少なくとも30個の炭素原子を含有する。
【0076】
その分散剤類は、また、さまざまな任意の作用物質との反応による通常の方法によって後処理することもできる。この中のものは、ホウ素、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール類、二硫化炭素、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、炭化水素置換無水コハク酸類、無水マレイン酸、ニトリル類、エポキシド類、リン化合物類などである。
【0077】
該分散剤は、該潤滑組成物の0重量%〜20重量%、または0.1重量%〜15重量%、または0.1重量%〜10重量%、または1重量%〜6重量%、または7重量%〜12重量%で存在させることができる。
【0078】
酸化防止剤類
酸化防止剤化合物類は既知であり、例えば、硫化オレフィン類(一般的には、硫化4−カルボブトキシシクロヘキセン、またはそれらのトリフェニルホスファイト相当物類、またはオレフィンスルフィド)、アルキル化ジフェニルアミン類(例えば、ノニルジフェニルアミン、一般的にはジノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン)、ヒンダードフェノール類、またはそれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤化合物類は、単独または組み合わせで使用することができる。その酸化防止剤は、該潤滑組成物の0重量%〜20重量%、または0.1重量%〜10重量%、または1重量%〜5重量%の範囲で存在させることができる。
【0079】
該ヒンダードフェノール酸化防止剤は、しばしば、立体的に束縛する基としての第二および/または第三ブチル基を含有する。そのフェノール基は、しばしば、ヒドロカルビル基および/または2番目の芳香族基に結合している架橋基によりさらに置換されている。適当なヒンダードフェノール酸化防止剤類の例としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−エチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−プロピル−2,6−ジ−t−ブチルフェノールまたは4−ブチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、あるいは4−ドデシル−2,6−ジ−t−ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態において、該ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであり、例えば、Ciba社によるIrganox(商標)L−135または2,6−ジ−t−ブチルフェノールおよびアルキル基が1〜18個、または2〜12個、または2〜8個、または2〜6個、または4個の炭素原子を含有することができるアクリル酸アルキルから誘導された付加生成物を挙げることができる。適当なエステル含有ヒンダードフェノール酸化防止剤化学についてのより詳細な記述は米国特許第6,559,105号の中で見出される。
【0080】
一実施形態において、該潤滑剤は、式(1)の化合物を採用するとき、フェノール系酸化防止剤を含有しない(または削減した量を含有する)。この実施形体は、式(1)の化合物が、フェノール系酸化防止剤類の部分的または完全な代替品として使用することができるために有益であり得る。第三ブチルフェノールの調製の間に、痕跡量の不純物トリス−t−ブチルフェノールが形成され、最終生成物中に保持されるものと考えられる。トリス−t−ブチルフェノールは、生物蓄積し、堆積物が積み重なって高く集中することが知られている。したがって、式(1)の化合物を酸化防止剤として採用することは、生物蓄積物を減少させる効果があり得る。
【0081】
粘度調整剤類
粘度調整剤類としては、スチレン−ブタジエンの水素化コポリマー類、エチレン−プロピレンコポリマー類、ポリイソブテン類、水素化スチレン−イソプレンポリマー類、水素化イソプレンポリマー類、ポリメタクリレート類、ポリアクリレート類、ポリアルキルスチレン類、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー類、ポリオレフィン類、無水マレイン酸−スチレンコポリマーのエステル類、または(α−オレフィン無水マレイン酸)コポリマーのエステル類、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0082】
分散剤粘性調整液類
分散剤粘性調整液類(しばしば、DVMと呼ばれる)としては、官能化ポリオレフィン類、例えば、アシル化剤(例えば無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物により官能化されているエチレン−プロピレンコポリマー類;アミン、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸−スチレンコポリマー類により官能化されたポリメタクリレート類が挙げられる。
【0083】
粘度調整剤および/または分散剤粘性調整液の合計量は、該潤滑剤組成物の0重量%〜20重量%、0.1重量%〜15重量%、または0.1重量%〜10重量%であり得る。
【0084】
磨耗防止剤
該潤滑組成物は、場合によって、本発明の無灰の磨耗防止剤以外の少なくとも1つのその他の磨耗防止剤をさらに含む。適当な磨耗防止剤類の例としては、リン酸エステル類、硫化オレフィン類、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート類(例えば、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート類など)を含めた硫黄含有耐磨耗添加剤類、チオカルバメートエステル類、アルキレン結合チオカルバメート類、およびビス(S−アルキルジチオカルバミル)ジスルフィド類を含めたチオカルバメート含有化合物類が挙げられる。
【0085】
該ジチオカルバメート含有化合物類は、ジチオカルバミン酸または塩を不飽和化合物と反応させることによって調製することができる。該ジチオカルバメート含有化合物類は、また、アミン、二硫化炭素および不飽和化合物を同時に反応させることによっても調製することができる。一般に、その反応は、25℃〜125℃の温度で起こる。米国特許第4,758,362号および同第4,997,969号は、ジチオカルバメート化合物類およびそれらを製造する方法について記載している。
【0086】
硫化して硫化オレフィンを形成することができる適当なオレフィン類の例としては、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、ヘキサン、ヘプテン、オクタン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、ウンデシル、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタダセン、オクタデセネン(octadecenene)、ノノデセン(nonodecene)、エイコセンまたはそれらの混合物が挙げられる。1実施態様において、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、オクタデセネン、ノノデセン、エイコセンまたはそれらの混合物、およびそれらのダイマー、トリマーおよびテトラマーは、特に有用なオレフィン類である。あるいは、そのオレフィンは、ジエン、例えば、1,3−ブタジエンなど、と不飽和エステル、例えば、アクリル酸ブチルなど、とのディールス−アルダー付加物であり得る。
【0087】
別の種類の硫化オレフィンとしては、脂肪酸類およびそれらのエステル類が挙げられる。これらの脂肪酸は、多くの場合、植物油または動物油から得られ、一般的には4個〜22個の炭素原子を含有する。適当な脂肪酸類およびそれらのエステル類の例としては、トリグリセリド類、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸またはそれらの混合物が挙げられる。しばしば、これらの脂肪酸は、ラード油、トール油、落花生油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種油またはそれらの混合物から得られる。一実施形態において、脂肪酸および/またはエステルは、オレフィン類、例えばαーオレフィン類と混合される。
【0088】
代替実施形態においては、該無灰の磨耗防止剤(これは摩擦調整剤と記載することもできる)は、ポリオールと、多くの場合12〜24個の炭素原子を含有する脂肪族カルボン酸とのモノエステルであり得る。多くの場合、ポリオールと脂肪族カルボン酸とのモノエステルは、ヒマワリ油などとの混合物の形をしており、それは、この無灰摩擦防止剤混合物中に、該混合物の5〜95、または他の実施形態では、10〜90、または20〜85、または、20〜80重量パーセントで存在させることができる。該エステル類を形成する脂肪族カルボン酸類(特に、モノカルボン酸)は、一般的には12〜24個または14〜20個の炭素原子を含有するような酸類である。カルボン酸類の例としては、ドデカン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸およびオレイン酸が挙げられる。
【0089】
ポリオール類としては、ジオール類、トリオール類、およびそれより多い数のアルコール性OH基を有するアルコール類が挙げられる。多価アルコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールを含めたエチレングリコール類;ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールおよびテトラプロピレングリコールを含めたプロピレングリコール類;グリセロール;ブタンジオール;ヘキサンジオール;ソルビトール;アラビトール;マンニトール;スクロース;フルクトース;グルコース;シクロヘキサンジオール;エリスリトール;およびジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールを含めたペンタエリスリトール類が挙げられる。多くの場合、該ポリオールは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールである。グリセロールモノオレエートとして知られている市販の材料は、35±5パーセントのグリセロールジオレオエート、および約5パーセント未満のトリオレエートおよびオレイン酸と共に、約60±5重量パーセントの「グリセロールモノオレエート」化学種を含むと考えられている。以下に記載されている該モノエステル類の量は、商用銘柄材料の量である。
【0090】
該磨耗防止剤は、該潤滑組成物の0重量%〜15重量%、または0重量%〜10重量%、または0.05重量%〜5重量%、または0.1重量%〜3重量%を含めた範囲で存在させることができる。
【0091】
一実施形態において、該潤滑組成物は、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートを含まない。一実施形態において、該潤滑組成物は、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートをさらに含む。
【0092】
極圧剤類
該オイルに溶解する極圧(EP)剤としては、硫黄およびクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素EP剤およびリンEP剤が挙げられる。このようなEP剤の例としては、塩素化ワックス;有機スルフィド類およびポリスルフィド類、例えば、ジベンジルジスルフィド、ビス−(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジテルペン、硫化テルペン、硫化ディールス−アルダー付加物類など;リン硫化炭化水素類例えば、リンスルフィドとテレビン油またはオレイン酸メチルとの反応生成物など;リンエステル類、例えば、亜リン酸ジ炭化水素およびトリ炭化水素、例えば、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸ジシクロヘキシル、亜リン酸ペンチルフェニル、亜リン酸ジペンチルフェニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸ジステアリルおよび亜リン酸ポリプロピレン置換フェノールなど;チオカルバミン酸金属類、例えば、ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛およびバリウムヘプチルフェノール二酸など;例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応生成物のアミン塩を含めたアルキルおよびジアルキルリン酸類のアミン塩類;およびそれらの混合物が挙げられる。
【0093】
摩擦調整剤類
一実施形態においては、摩擦調整剤またはそれらの混合物をさらに含む。一般的に、該摩擦調整剤は、0重量%〜10重量%、または0.05重量%〜8重量%、または0.1重量%〜4重量%の範囲で存在させることができる。
【0094】
適当な摩擦調整剤類の例としては、アミン類、エステル類、またはエポキシド類、脂肪イミダゾリン類の長鎖脂肪酸誘導体類(すなわち、長鎖脂肪酸アミド類、長鎖脂肪酸エステル類、長鎖脂肪酸エポキシド誘導体類、および長鎖脂肪酸イミダゾリン類)、およびアルキルリン酸類のアミン塩類が挙げられる。
【0095】
摩擦防止剤類は、また、硫化脂肪化合物類および硫化オレフィン類、トリグリセリド類(例えばヒマワリ油)またはポリオールと脂肪族カルボン酸とのモノエステル等の材料も包含することができる(すべてのこれら摩擦調整剤類は酸化防止剤類または磨耗防止剤類として記載されている)。
【0096】
一実施形態において、該摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪酸エポキシド誘導体類、または長鎖脂肪酸イミダゾリンである。
【0097】
一実施形態において、該摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸エステル(上で無灰の磨耗防止剤として既に記載した)である。別の実施形態において、その長鎖脂肪酸エステルはモノエステルであり、別の実施形態においてその長鎖脂肪酸エステルは(トリ)グリセリドである。
【0098】
その他の添加剤類
その他の性能添加剤類、例えば腐食防止剤など、としては、米国特許出願US05/038319(2004年10月25日出願、発明者名McAteeおよびBoyer)の段落5〜8に記載されているもの、オクチルアミンオクタノエート、およびドデセニルコハク酸または無水物および脂肪酸、例えばオレイン酸など、のポリアミンとの縮合生成物が挙げられる。一実施形態において該腐食防止剤としてはSynalox(登録商標)腐食防止剤が挙げられる。そのSynalox(登録商標)腐食防止剤は、一般的には、酸化プロピレンのホモポリマーまたはコポリマーである。そのSynalox(登録商標)腐食防止剤は、The Dow Chemical Companyにより出版された、Form No.118−01453−0702 AMSの製品パンフレットにより詳細に記載されている。その製品パンフレットは、「SYNALOX Lubricants, High−Performance Polyglycols for Demanding Applications.」の表題がついている。
【0099】
ベンゾトリアゾール類(一般的にはトリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体類、1,2,4−トリアゾール類、ベンズイミダゾール類、2−アルキルジチオベンズイミダゾール類、または2−アルキルジチオベンゾチアゾール類の誘導体類を含む金属不活性化剤;アクリル酸エチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルならびに場合によって酢酸ビニルのコポリマー類を含む発泡防止剤;トリアルキルホスフェート類、ポリエチレングリコール類、ポリエチレンオキシド類、ポリプロピレンオキシド類および(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ポリマー類を含む解乳化剤;無水マレイン酸−スチレンのエステル類、ポリメタクリレート類、ポリアクリレート類またはポリアクリルアミド類を含む流動点降下剤。
【0100】
工業用途
該潤滑組成物は、アルミニウム合金表面を含む機械装置類において一般的に見られるさまざまな表面で利用することができる。その機械装置類としては、内燃機関、ギアボックス、自動変速装置、油圧装置またはタービンが挙げられる。一般的に該潤滑組成物は、エンジンオイル、ギアオイル、自動変速装置オイル、油圧油、タービン油、金属加工流体または循環油であり得る。一実施形態において、該機械装置は内燃機関である。
【0101】
一実施形態において、該内燃機関は、ディーゼル燃料機関、ガソリン燃料機関、天然ガス燃料機関または混合ガソリン/アルコール燃料機関であり得る。一実施形態において、該内燃機関は、ディーゼル燃料機関であり、別の実施形態においてはガソリン燃料機関であり得る。
【0102】
該内燃機関は、2−ストロークまたは4−ストロークエンジンであり得る。適当な内燃機関としては、船舶ディーゼルエンジン類、航空機ピストンエンジン類、低負荷ディーゼルエンジン類、および自動車およびトラックエンジン類が挙げられる。
【0103】
一実施形態において、該内燃機関は、アルミニウム合金の成分を含有する。そのアルミニウム合金としては、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、またはその他のセラミック材料が挙げられる。一実施形態においてそのアルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム表面である。本明細書で使用される場合、用語「アルミニウム合金」とは、「アルミニウム複合体」と同義であること、およびそれらの細かい構造には関係なく、顕微鏡的にまたは顕微鏡に近いレベルで混ざっているかまたは反応しているアルミニウムおよび別の成分を含む構成材または表面を表現することを目的としている。これにはアルミニウム以外の金属との任意の通常の合金ならびに複合材料または非金属元素類または化合物類例えばセラミック様の材料との合金に似た構造物が含まれる。
【0104】
該内燃機関のための潤滑組成物は、硫黄、リンまたは硫酸塩灰分(ASTM D−874)含量に関係なくいずれのエンジン潤滑油に対しても適合し得る。エンジンオイル潤滑剤の硫黄含量は、1重量%以下、または0.8重量%以下、または0.5重量%以下、または0.3重量%以下であり得る。一実施形態において、該硫黄含量は、0.001重量%〜0.5重量%、または0.01重量%〜0.3重量%の範囲内であり得る。該リン含量は、0.2重量%以下、または0.1重量%以下、または0.085重量%以下、またはさらに0.06重量%以下、または0.055重量%以下、または0.05重量%以下であり得る。一実施形態において、該リン含量は、100ppm〜1000ppm、または325ppm〜700ppmであり得る。全体の硫酸塩灰分含量は、2重量%以下、または1.5重量%以下、または1.1重量%以下、または1重量%以下、または0.8重量%以下、または0.5重量%以下であり得る。一実施形態において、該硫酸塩灰分含量は、0.05重量%〜0.9重量%、あるいは0.1重量%または0.2重量%〜0.45重量%であり得る。別の実施形態において、該硫黄含量は、0.4重量%以下であり、該リン含量は0.08重量%以下であり、該硫酸塩灰分は1重量%以下である。さらに別の実施形態において、該硫黄含量は、0.3重量%以下であり、該リン含量は0.05重量%以下であり、該硫酸塩灰分は0.8重量%以下である。
【0105】
一実施形態において、該潤滑組成物はエンジンオイルであり、該潤滑組成物は、(i)0.5重量%以下の硫黄含量、(ii)0.1重量%以下のリン含量、および(iii)1.5重量%以下の硫酸塩灰分含量を有することを特徴とする。
【0106】
一実施形態において該潤滑組成物は2−ストロークまたは4−ストロークの船舶ディーゼル内燃機関に適している。一実施形態において、該船舶ディーゼル内燃機関は2−ストロークエンジンである。本発明の該無灰の磨耗防止剤は、船舶ディーゼル潤滑組成物に、0.01〜20重量%、または0.05〜10重量%、または0.01〜5重量%で添加することができる。
【0107】
以下の実施例は、本発明の説明を提供する。これらの実施例は、限定的ではなく、本発明の範囲を限定することを意味しない。
【実施例】
【0108】
この中で用いられる場合、分散剤類、洗浄剤類および粘度調整剤に対する以下に示されている量のすべては希釈油の標準的な量を含む。一般的に、その希釈油は各成分の20重量%〜90重量%を構成する。磨耗防止剤類、腐食防止剤類、酸化防止剤類について示されている量は、それらの成分は一般的には希釈油中に保持されないため、活性基準であり、すなわち希釈油は除かれている。
【0109】
(実施例1(EX1))
潤滑組成物を、1重量%のジ−2−エチルヘキシルタルトレート、0.6重量%のその他の磨耗防止剤類、7.9重量%の分散剤類、1.5重量%の洗浄剤類、有効量のモリブデンジチオカルバメートを含む3.6重量%の酸化防止剤類、6.1重量%の粘度調整剤、0.1重量%の腐食防止剤、および0.1重量%の摩擦調整剤を含有させて調製する。その潤滑組成物は、0.6重量%の硫酸塩灰分含量、約570ppmのリン含量、および0.17重量%の硫黄含量を有する。
【0110】
(実施例2(EX2))
1重量%のC12〜14−アルキルタルトレート、4.1重量%の分散剤類、1.4重量%の洗浄剤類、0.7重量%のモリブデンジチオカルバメート(旭電化製のサクラルーブ(商標)515として市販されている)を含む2.5重量%の酸化防止剤類、0.56重量%の磨耗防止剤類、0.1重量%の腐食防止剤、および0.1重量%の摩擦調整剤を含有させて調製する。その潤滑組成物は、約560ppmのリン含量を有する。
【0111】
(比較例1(CE1))
該組成物が、0.7重量%のモリブデンジチオカルバメート、および1重量%のC12〜14−アルキルタルトレートを含有しないことを除いて実施例2と同じである。
【0112】
(比較例2(CE2))
該組成物が、0.7重量%のモリブデンジチオカルバメートを含有しないことを除いて実施例2と同じである。
【0113】
(比較例3(CE3))
該組成物が、1重量%のC12〜14−アルキルタルトレートを含有しないことを除いて実施例2と同じである。
【0114】
上の実施例の10gの試料を、1容積パーセントのクメンヒドロペルオキシドによりそれぞれ処理する。それらの試料(2ml分量)を次にPCS Instrumentsから入手できる等温温度高速往復運動リグ(high frequency reciprocating rig)(HFRR)における磨耗性能について評価する。その評価に対するHFRR条件は、500gの負荷、75分の持続時間、1000マイクロメートルのストローク、20ヘルツの周波数、および105℃の温度である。マイクロメートルでの磨耗傷および膜厚パーセントとしての膜形成を次に測定し、それによって、より低い磨耗傷およびより高い膜形成の値は改良された磨耗性能を示す。得られたその結果が次表である:
【0115】
【表1】

全体的に見て、該結果は、本発明の該潤滑組成物が、(i)リン排出物類を減少または阻止すること、(ii)硫黄排出物類を減少または阻止すること、(ii)潤滑油中のZDDPを完全にまたは部分的に置き換えること、(iii)燃料経済性を改善すること、(iv)燃料経済性保持/効率、の少なくとも1つを提供することができることを示している。
【0116】
(実施例3(EX3))
潤滑組成物を、Euro4およびEuro5排出基準に適合し、1重量%のC8〜10アルキルタルトレートを含有するように設計する。その潤滑組成物は、900ppm以下のリン含量、0.3重量%以下の硫黄、および0.9重量%以下の硫酸塩灰分を有する。
【0117】
(実施例4(EX4))
潤滑組成物を、Euro4およびEuro5排出基準に適合し、1重量%のC8〜10アルキルタルトレートを含有するように設計する。その潤滑組成物は、500ppm以下のリン含量、0.2重量%以下の硫黄、および0.5重量%以下の硫酸塩灰分を有する。
【0118】
(比較例4(CE4)および5(CE5))
8〜10アルキルタルトレートを含まないこと以外は、それぞれEX3およびEX4と同じ潤滑組成物である。
【0119】
鉄触媒バルク酸化試験を、EX3、EX4、CE4およびCE5について実施する。その試験は、1時間当たり10リットルの空気流量、および360ppmの鉄触媒の存在する中、170℃で行う。酸化は、FT−IRのCO伸縮のピーク面積増加をモニターすることにより測定される。EX4およびCE5について得られた結果は、その相対的ピーク面積が、EX4については383単位増すことを示している。対照的にその相対的ピーク面積が、CE5については428単位増すことを示している。したがって、本発明の式(1)の定義の範囲内の化合物を使用することによって潤滑油の酸化が減少する(特に内燃機関)。
【0120】
上記の材料のあるものは最終配合物中で相互作用することがあり得、その結果その最終配合物の成分が最初に加えたものと異なり得ることが知られている。それによって形成された製品は、本発明の潤滑組成物を採用して形成された意図した用途の製品を含めて安易な記述を許さない可能性がある。それでもなお、すべての上記の修正品および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれ、本発明は、上記の成分を混ぜることによって調製される潤滑組成物を包含する。
【0121】
上で引用したそれぞれの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。実施例中または別に明確に示されている場合を除いて、材料の量、反応条件、分子量、炭素原子数などを特定する本記述中のすべての数量は、「約」の語によって修飾されるものと理解すべきである。別段の断りのない限り、本明細書に言及されているそれぞれの化学物質または組成物は、通常商用銘柄中には存在するのが当たり前とされている異性体、副生成物、誘導体、およびその他のそのような物質を含有してもよい商用銘柄の材料であるものと理解すべきである。しかしながら、各化学成分の量は、他に指示がなければ、市販材料に通例存在し得る溶媒または希釈油を除いて示されている。本明細書に示されている量、範囲、および比率の上限および下限は、独立して組み合わせることができることを理解すべきである。同様に、本発明の各要素に対する範囲および量は、任意の他の要素に対する範囲または量と共に使用することができる。
【0122】
本明細書中で使用する「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、その通常の意味で使用され、これは、当業者に周知である。具体的には、それは、分子の残部に直接結合した炭素原子を有しており、主として炭化水素の性質を有する基を意味する。ヒドロカルビル基の例としては、以下が挙げられる:
(i)炭化水素置換基類、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環族(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基類、および芳香族、脂肪族および脂環族置換された芳香族置換基類、ならびに、環が分子の他の部分により完成されている(例えば、2個の置換基が一緒になって環を形成している)環状置換基類;
(ii)置換された炭化水素置換基類、すなわち、非炭化水素基が、本発明との関連で、置換基の主要な炭化水素の性質を変化させない非炭化水素基類(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)を含有する置換基類;
(iii)ヘテロ置換基類、すなわち、主として炭化水素の性質を有しながら、本発明との関連で、さもなければ炭素原子で構成されている環または鎖の中に炭素以外を含有している置換基類。
【0123】
ヘテロ原子類としては、硫黄、酸素、窒素が挙げられ、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基類を包含する。一般に、2個を超えない、好ましくは1個を越えない非炭化水素置換基が、このヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に存在し、一般的には、このヒドロカルビル基中には、非炭化水素置換基類は存在しない。
【0124】
本発明をその好ましい実施形態に関して説明してきたが、当然のことながら、当業者には本明細書を読むと同時にさまざまなそれらの修正点が明らかとなろう。それ故、本明細書に開示された発明は添付の特許請求の範囲に含まれるかかる修正に及ぶものであることを理解すべきである。
【0125】
本明細書に記載の該磨耗防止剤は、第1のカルボキシル基および前記第1のカルボキシル基の炭素から2個または3個の原子の鎖によって隔てられた少なくとも1つのさらなる−OH、−NHR、または=O部分(ただし、Rは、水素またはアルキル、例えばC1〜6アルキルである)を含有する分子の油溶性誘導体であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑粘性の油、油溶性モリブデン化合物、および式(1)によって表される無灰摩擦防止剤を含む潤滑組成物
【化3】

[式中、
YおよびY’は、−O−、>NH、>NRであるか、または独立して、YおよびY’基の両方を一緒にし、2つの>C=O基の間にR−N<基を形成することによって形成されたイミド基であり、
Xは、独立して、−Z−O−Z’−、>CH、>CHR、>CR、>C(OH)(CO)、>C(CO、>CCHCOまたは>CHORであり、
ZおよびZ’は、独立して、>CH、>CHR、>CR、>C(OH)(CO)、または>CHORであり、
nは、0〜10であり、ただし、n=1のとき、Xは>CHではなく、n=2のとき、両方のXが同時に>CHではなく、
mは、0または1であり、
は、独立して、水素または一般的に1〜150個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、ただし、Rが水素であるとき、mは0であり、nは1以上であり、
は、一般的に1〜150個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、
、RおよびRは、独立して、ヒドロカルビル基またはヒドロキシ含有ヒドロカルビル基またはカルボキシル含有ヒドロカルビル基であり、
は、水素または一般的に1〜150個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である]。
【請求項2】
前記式(1)の無灰の磨耗防止剤が、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸から誘導される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記無灰の磨耗防止剤が、ヒドロキシポリカルボン酸ジエステル、ヒドロキシポリカルボン酸ジアミド、ヒドロキシポリカルボン酸イミド、ヒドロキシポリカルボン酸ジイミド、ヒドロキシポリカルボン酸エステルアミド、ヒドロキシポリカルボン酸エステルイミド、およびヒドロキシポリカルボン酸イミドアミドを含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記式(1)によって表される無灰の磨耗防止剤が、イミド、ジエステル、またはジアミドである、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
式(1)のYおよびY’が両方とも−O−である、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
式(1)において、mが0または1、nが1〜2と定義され、Xが>CHORであり、R、RおよびRが、独立して、水素または4〜30個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
前記無灰の磨耗防止剤が酒石酸またはクエン酸から誘導される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
前記無灰の磨耗防止剤が前記潤滑組成物の0.05〜10重量%、または0.1〜5重量%で存在する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
前記油溶性モリブデン化合物が、モリブデンジチオカルバメート類、モリブデンジアルキルジチオホスフェート類、モリブデン化合物のアミン塩類、モリブデンキサンテート類、モリブデン硫化物類、モリブデンカルボキシレート類、およびモリブデンアルコキシド類からなる群の少なくとも1員から選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
前記油溶性モリブデン化合物が、モリブデンジチオカルバメート類、モリブデンジアルキルジチオホスフェート類、およびモリブデン化合物のアミン塩類からなる群の少なくとも1員から選択される、請求項9に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
前記油溶性モリブデン化合物が、モリブデンジチオカルバメートである、請求項10に記載の潤滑組成物。
【請求項12】
前記油溶性モリブデン化合物が、0.5ppm〜2000ppm、1ppm〜700ppm、または20ppm〜250ppmのモリブデンを提供する量で存在する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項13】
前記潤滑組成物が、(i)0.8重量%以下の硫黄含量、(ii)0.2重量%以下のリン含量、または(iii)2重量%以下の硫酸塩灰分の少なくとも1つを有することをさらに特徴とする、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項14】
前記潤滑組成物が、(i)0.5重量%以下の硫黄含量、(ii)0.1重量%以下のリン含量、および(iii)1.5重量%以下の硫酸塩灰分を有することを特徴とする、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項15】
摩擦調整剤(油溶性モリブデン化合物または式(1)の化合物以外のもの)、粘度調節剤、酸化防止剤(油溶性モリブデン化合物以外のもの)、過塩基性洗浄剤、スクシンイミド分散剤、またはそれらの混合物の少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項16】
前記摩擦調整剤が、長鎖脂肪酸アミド類、長鎖脂肪酸エステル類、長鎖脂肪酸エポキシド誘導体類、長鎖脂肪酸イミダゾリン類、およびアルキルリン酸類のアミン塩類からなる群から選択される、請求項15に記載の潤滑組成物。
【請求項17】
リン含有磨耗防止剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項18】
過塩基性洗浄剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項19】
前記過塩基性洗浄剤が、非硫黄含有フェナート類、硫黄含有フェナート類、スルホネート類、サリキサレート類、サリチレート類、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項18に記載の潤滑組成物。
【請求項20】
内燃機関を潤滑する方法であって、請求項1に記載の前記潤滑組成物を前記内燃機関に供給するステップを含む方法。
【請求項21】
潤滑剤中の酸化防止剤としての酒石酸誘導体の使用。
【請求項22】
前記酒石酸誘導体がタルトレートエステルである、請求項21に記載の使用。

【公表番号】特表2010−528156(P2010−528156A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509454(P2010−509454)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063671
【国際公開番号】WO2008/147704
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】